PDFを見る - 富山県農林水産総合技術センター

平成28年3月号
発行 富山県農林水産総合技術センター
畜産研究所
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技 術 情 報
母豚の生産性向上技術への取り組み(続報)
~簡易測定器を利用した交配適期および妊娠診断技術について~
1.はじめに
昨年 3 月号の本紙において、母豚の分娩回転率
向上に向けた取り組みとして、離乳母豚の発情再
帰における深部膣内粘液電気抵抗測定器(写真
下)を利用した数値による交配適期の見極めに関
する調査について報告しました。
この報告で、深部膣内粘液電気抵抗値(以下、
VER 値)は、離乳当日に平均 300 程度であったも
のが発情兆候とともに経日的に急激に低下し、離
乳後 4 日目に最低値(平均 220 前後)となり、翌
5 日目からは急激な上昇に転じると同時に、雄豚
の許容状態を呈し初回発情が確認され、数値によ
る発情状態の見極めが可能であることをお伝えし
ました。
今回はその後の継続調査結果から、本測定器の
妊娠診断技術への利用性について紹介します。
2.超音波画像診断装置による妊娠診断
交配した母豚の妊娠診断
においては、交配後の翌性
周期(21 日目)において発
情兆候の有無を目視観察に
より判断するノンリターン
法が一般的ですが、発情兆
候が微弱で不明瞭な個体の
場合、見逃してしまう恐れがあります。そこで現
在、妊娠診断機として市販されているのが、画像
により確実に妊娠診断できる超音波画像診断装置
(本多電子株式会社 HS-101V、写真 左欄下)で
す。この装置は、受胎豚の子宮内に発生する胎嚢
を画像により確認することで、確実な受胎判断が
できるものです。
VER 値測定を実施して初回発情時に交配した
母豚について、その後、超音波画像診断装置で妊
娠診断を実施しました。その結果、早い個体では
交配後 20 日目頃から胎嚢と思われるもの(黒色の
空隙)が見られる場合がありましたが、この時点
の胎嚢はまだ極小さく不明瞭であり、妊娠判定す
るには不十分なものがほとんどでした。その後、
胎嚢が成長し、画像で明確に確認できたのは交配
後 22 日目以降で、超音波画像診断装置での妊娠診
断は、交配後の翌性周期以降に判定可能でした(図
1)。
交配後 19 日目
交配後 22 日目
図1. 超音波画像診断装置による受胎豚の交配後経過日数別胎嚢画像
(図中の白矢印が確認できた胎嚢,画像はすべて異なる個体のもの)
3.受胎豚と空胎豚における VER 測定値の違い
離乳母豚の VER 測定値について、超音波画像診
断装置で受胎確認した受胎豚と、不受胎および分
娩調整のため初回発情での交配を見送った空胎豚
とに振り分け、経日的な推移を図2に示しました。
受胎豚、空胎豚ともに、初回発情後 16 日目まで
は、平均 300 前後で横這いとなり、同様の推移を
400
空胎豚
受胎豚
前日VER測定値との差
示していましたが、17 日目以降は、受胎豚が引き
続きほぼ横這いであったのに対し、空胎豚では 20
日目に最低値(平均 204)を示すまで急激に低下
しており、再発情は初回発情から 21 日目を中心に
18~26 日目の間に確認されました。この間、受胎
豚では VER 値が最低でも 255 以上を示しました
が 、 空 胎 豚 で は 平 均 200 ~ 230 程 度 で 、 有 意
(p<0.05)に低下が認められました。
空胎豚
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
-2
0
2
4
6
受胎豚
8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30
離乳後 初回発情日からの経過日数
図3. 初回発情日を起点とした受胎豚・空胎豚別 VER 値の前日測定値との差の経日推移
VER値
350
これらの結果から、交配後 16 日目以降に VER
値が 250 以下で、前日に対し-30 以上の急激な低
下が続く場合には、不受胎と判断できることが示
唆されました。
300
250
200
150
-2
0
2
4
6
8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34
離乳後初回発情日からの経過日数
図2. 受胎豚・空胎豚別 VER 値の初回発情日を起点とした経日推移
(各日のn…受胎豚:3~22 頭,空胎豚:5~14 頭)
また、測定した VER 値と前日の測定値の増減に
ついて図3に示しました。受胎豚では初回発情後
17~23 日目にかけては緩やかな増減を繰り返し
ていたのに対し、空胎豚では 17~20 日目にかけ
て平均-26~-42 の急激な低下が連続し、再発情
を示した 21~24 日目にかけては平均 12~31 の急
激な増加を示したことから、この間の VER 値につ
いても両区の間に有意(p<0.05)な増減が認めら
れました。
4.おわりに
本調査で得られた結果から、深部膣内粘液電気
抵抗測定器を利用することで、離乳後の発情再帰
における交配適期を数値により明確に見極めると
ともに、交配後、翌性周期以前の早い段階におけ
る妊娠診断が可能となり、不受胎豚を早期に発見
し再発情を見落とさず確実な対応をとることで、
母豚の長期空胎を回避し、分娩回転率の向上が期
待できることが明らかとなりました。
(養豚課 前坪副主幹研究員)