生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ] - 公益財団法人 内藤記念科学振興

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内藤コンファレンス・研究テーマ趣意書
生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ]
Membrane Dynamics and Lipid Biology[Ⅰ]
近年のゲノム情報、タンパク質解析技術の飛
的にそうした研究が現在、新しいステージとし
躍的進展に伴い、タンパク質の構造、発現変化
て取り組まれているところである。
の網羅的解析ができる状況が成熟し、明らかに
そこで、こうした状況、時機を考えて、今回
なってきたのは、現在の解析法で構造情報の得
2回にわたって「生体膜ダイナミクスと脂質生
られにくい、脂質疎水環境に存在する膜結合性
物学」というテーマが内藤コンファレンスで取
のタンパク質にどう対処するかであり、新しい
りあげられることになった。第1回コンファレ
解析法の開発が急務となる。具体的には種々の
ンスでは主に、脂質ダイナミックス研究のため
チャネル蛋白、トランスポーター、生理活性リ
の新技術や脂質輸送、脂質トランスポーター、
ガンドの受容体など、細胞膜に存在し機能する
膜極性形成、シグナリングと病態等のテーマで、
分子の機能を、脂質膜中での構造ダイナミクス
また第2回コンファレンスでは脂質ドメイン、
の解析を踏まえて解析することが不可欠とな
脂肪滴とそれらと関連した疾患等が取りあげら
る。更にこれらの膜タンパク質はそれを取り巻
れる。本シンポジウムでは、新しい方法論や概
く脂質2重層の不均一性(ラフト、マイクロド
念を導入して、脂質ダイナミクスの先端研究を
メインの形成)、細胞膜表裏の非対称性などと
国際的に展開している、国内外の異分野の研究
密接に関わって機能していると考えられ、こう
者を一同に集め、密着した討論を通してこの分
した課題にどうアプローチしていくかも次世代
野の現状を知り、将来の方向性を打ち出すこと
のポストゲノム課題として問われている。細胞
をめざして出席者の交流を図る。又次世代の研
膜なしに、細胞も個体も存在できず、膜を典型
究発展を背負う若手の研究者にも講演や討論に
とする超分子複合体に対する新しい研究領域の
積極的に参加してもらい、日本がこの分野での
開拓、発展なしには生命現象のなぞは解けず、
イノベーションの中核になれるようにする。
現在世界的な規模で新たなコンセプトのもとに
2010年6月
様々な研究が同時進行的に展開され始めてお
り、この分野の飛躍的発展をはかる時機は実り
つつある。
脂質研究の発展の歩みとしてこのことを振り
返ってみたい。脂質研究イノベーションの第一
組織委員
段は、この20年間の膜脂質由来の様々な生理
五十嵐靖之
活性脂質の同定とそのシグナリングメカニズム
北海道大学大学院先端生命科学研究院 特任教授
(組織委員長)
の解明が進められ、その第2段としては、それ
に加えて新しく登場した質量分析などを駆逐し
平林義雄
理化学研究所脳科学総合研究センター チームリーダー
たリピドミクス解析の飛躍的発展という形で、
山口明人
大阪大学産業科学研究所 教授
脂質分析の定量化、可視化、新規活性脂質の発
梅田真郷
京都大学大学院工学研究科 教授
木原章雄
北海道大学大学院薬学研究院 教授
見などとして展開している。脂質研究のもう一
顧 問
つ忘れてならない側面は、その生体膜における
永井克孝
脂質ダイナミクスの解明があり、世界中で精力
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東京大学 名誉教授(財団理事)
第1日
2010 年6月 29 日(火)
北海道大学大学院 先端生命科学研究院 五十嵐靖之
開会挨拶
基 調 講 演 “The world of lipid biology-what has been achieved, what should we expect”
University of Graz, Austria
(17:30∼18:30)
第2日
Friedrich Spener
2010 年6月 30 日(水)
セッションA
Lipid Dynamics and New Technologies
(9:00∼12:00)
座長:平林 義雄, Alfred Merrill
1
“Unexpected findings about roles of sphingolipids revealed by knockout animals”
理化学研究所 脳科学総合研究センター 平林 義雄 2
“Synchrotron radiation structural biology of proteins functioning at biological membrane”
理化学研究所 放射光科学総合研究センター 吾郷日出夫
3
“Imaging of lipid dynamics with mass spectrometry”
浜松医科大学 分子解剖学研究部門 瀬藤 光利
4
“Navigating the lipid map: new technologies and surprising findings about sphingolipid
Georgia Institute of Technology, USA Alfred Merrill
biology and disease”
5
“Methylation of the sterol nucleus, a novel mechanism of the hormonal regulation of dauer larva formation in
Caenorhabditis elegans” Max Planck Institute for Molecular Cell Biology and Genetics, Germany Teymuras Kurzchalia
Friedrich Spener
平林 義雄
吾郷日出夫
瀬藤 光利
セッションB
Intracellular Lipid Transfer and Metabolism
(14:00∼17:00)
1
2
3
Alfred Merrill
Teymuras Kurzchalia
座長:木原 章雄, Howard Riezman
“CERT-dependent trafficking of ceramide”
国立感染症研究所 細胞化学部 花田賢太郎
“Novel roles of sphingolipids revealed by metabolic engineering”
University of Geneva, Switzerland
Howard Riezman
“Mammalian ceramide synthases”
Weizmann Institute of Science, Israel
Anthony Futerman
4
“Specificity of elongation of saturated, very long-chain fatty acids provides a link to C24
北海道大学大学院 薬学研究院 木原 章雄
sphingolipid synthesis”
5
“Metabolomic analysis of polyunsaturated fatty acid-derived mediators in inflammation”
東京大学大学院 薬学系研究科 有田 誠
〈ポスター・セッション[Ⅰ]〉19:00∼21:00
花田賢太郎
Howard Riezman Anthony Futerman
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木原 章雄
有田 誠
第3日
2010 年7月1日(木)
セッション C
Lipid Transporter
(9:00∼12:00)
座長:山口 明人, Gerd Schmitz
“The role of ABCA1, ABCA7 and other ABC transporters in megkaryopoiesis and platelet senescence”
1
University Medical Center, Regensburg, Germany Gerd Schmitz
2
3
4
5
“Mechanism and regulation of ABCA1, a cholesterol efflux pump”
京都大学物質 ― 細胞統合システム拠点 植田 和光
“Keratinocyte lipid transporter ABCA12 plays a key role in epidermal keratinization and
北海道大学大学院 医学研究科 秋山 真志
barrier function”
“Lipids in germ cell biology”
NYU School of Medicine, USA Ruth Lehmann
“Sphingosine 1-phosphate efflux transporter”
大阪大学 産業科学研究所 山口 明人
Gerd Schmitz
セッション D
植田 和光
秋山 真志
Ruth Lehmann
Membrane Morphogenesis and Polarity Formation
(14:00∼17:00)
1
2
3
4
5
山口 明人
座長:梅田 真郷, Bruno Antonny
“Sensing membrane curvature through ALPS motifs”
Université de Nice, France
Bruno Antonny
“Membrane dynamic during autophagy in yeast”
東京工業大学 統合研究院 大隅 良典
“Role of type I γ phosphatidylinositol-phosphate kinase in epithelial morphogenesis”
University of Wisconsin Medical School, Madison, USA Richard Anderson
“Regulation and functional significance of phospholipids asymmetry”
北海道大学 遺伝子病制御研究所 田中 一馬
“Phospholipid dynamics and membrane polarity formation”
京都大学大学院 工学研究科 梅田 真郷
〈ポスター・セッション[Ⅱ]〉19:00∼21:00
Bruno Antonny
大隅 良典
Richard Anderson
60
田中 一馬
梅田 真郷
第4日
2010 年7月2日(金)
セッション E
Lipid Signaling and Pathology
座長:五十嵐 靖之, Gabor Tigyi
(9:00∼12:00)
1
“Phospholipase A2 and acyltransferase (Lands cycle) in membraneremodeling and
東京大学 医学部 清水 孝雄
production of lipid mediators”
2
“The crosstalk between lysophosphatidic acid and sphingosine-1-phosphate signaling
東北大学大学院 薬学研究科 青木 淳賢
in zebrafish heart morphogenesis”
3
4
“Lysophosphatidic acid in health and disease”
University of Tennessee Health Science Center, USA
Gabor Tigyi
“S1P signaling at the vascular-immune nexus”
Cornell University, USA
Timothy Hla
“Through lipid signaling to lipid dynamics: a new challenge in sphingolipid biology”
5
北海道大学大学院 先端生命科学研究院 五十嵐靖之
清水 孝雄
閉会挨拶
青木 淳賢
Gabor Tigyi
Timothy Hla
五十嵐靖之
理化学研究所 脳科学総合研究センター 平林 義雄
第 27 回 内藤コンファレンス参加者(2010 年6月、シャトレーゼ ガトーキングダム サッポロ)
61
第 27 回内藤コンファレンス
「生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ]
」を終えて
「生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ]
」を終えて
北海道大学先端生命科学研究院 特任教授
次世代ポストゲノム研究センター センター長
組織委員長
第 27 回内藤コンファレンスは、2010 年6月 29 ・
・
・
日から7月2日までの4日間にわたり、夏を迎 ・
・
・
え急に暑さを増した札幌郊外のホテルシャト ・
・
・
レーゼ・ガトーキングダムサッポロにて開催さ ・
・
・
れた。このホテルはかってテルモと呼ばれた温泉 ・
・
・
施設で、のちに立派に改装再建され現在の名前 ・
・
・
になった温泉付きホテルで、内藤コンファレンス ・
・
・
を含め、最近は頻繁に国内外のシンポジウムや ・
・
・
会議がもたれるようになってきた保養も兼ねた ・
・
・
格好の会場である。今回のコンファレンスは「生 ・
・
・
・
体膜ダイナミクスと脂質生物学」シリーズの第 ・
・
・
1回目として企画され、脂質や生体膜脂質を ・
・
・
テーマにしたものとしては1996 年に永井克孝先 ・
・
・
生が主催されゴードンとの合同会議でもあった ・
・
・
「第7回内藤コンファレンス、糖脂質、スフィン ・
・
・
ゴ脂質の構造と機能」に続いて 15 年ぶりとなる ・
・
・
ものであった。筆者、北海道大学先端生命科学 ・
・
・
研究院次世代ポストゲノム研究センターの五十 ・
・
・
嵐靖之を組織委員長として、組織委員に理化学 ・
・
・
研究所脳科学総合研究センターの平林義雄先 ・
・
・
生、大阪大学産業科学研究所の山口明人先生、 ・
・
・
京都大学工学研究科の梅田真郷先生、それに北 ・
・
・
海道大学薬学研究院の木原章雄先生の5名から ・
・
・
・
なる組織委員会で企画し、コンファレンスの開 ・
・
・
・
催にこぎつけた。
・
・
この2回シリーズは、テーマ趣意書にも述べら ・
・
・
れているように、近年発展の著しい脂質シグナリ ・
・
・
ングと並んで、生体膜ダイナミクスにおける脂質 ・
・
・
動態の役割にむしろ焦点をあてて、細胞内脂質 ・
・
・
輸送や脂質トランスポーター、膜極性の形成、脂 ・
・
・
質シグナル伝達と病態、それに、こうした脂質ダ ・
・
・
イナミクス研究の基盤となる新しい技術などの ・
・
・
課題を第1回で取り上げ、理化学研究所の平林 ・
・
62
五十嵐靖之
義雄先生が主宰される第2回では生体膜マイク
ロドメインや脂肪滴とメタボリックシンドロー
ム病態などを扱うことにした。本領域の文字通り
最先端である海外からの招待講演者 11 名、国内
招待講演者 15 名に加えて、公募で選ばれた59 名
のポスター発表者を加えて総勢 90 名近くの盛大
な会となった。珍しく暑かった札幌でしかもワ−
ルドカップサッカーとも重なった熱い雰囲気の
なかで、なによりも海外で活躍しているそれぞれ
の領域の文字通りトップサイエンティストと膝
を交え濃密な4日間を過ごせたことが、とくにこ
の領域の将来の発展を担う若い研究者にとって
は貴重な経験となり、それが最大の収穫であった
といっても過言ではなかろう。
コンファレンスに先立つ歓迎レセプションで
は本コンファレンスの開催を発案起草された永
井克孝先生は残念ながらご都合でご出席願えな
かったが、内藤記念科学振興財団の評議員をさ
れている九州大学名誉教授の岩永貞昭先生か
ら、先生の人柄を匂わすユーモアを交えた話術
で、会への期待と若い参加者に対して「貪欲にこ
の機会を活かせ」
という温かい挨拶をいただいた。
それを受けたかたちで筆者は、組織委員会を代表
してコンファレンスの主旨、課題を一通り説明し
第 27 回内藤コンファレンス
「生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ]
」を終えて
たあと次の言葉で開会の挨拶を締めくくった。 ・
・
・
「We have two hotness in Sapporo right now. ・
・
・
One is a exceptionally hot temperature for ・
・
・
these several days. Second hotness is Soccer ・
・
・
World Cup. Fortunately the time difference ・
・
・
between here and South Africa, the confer- ・
・
・
ence does not compete it at all. But be careful, ・
・
・
don't oversleep after watching midnight TV. ・
・
・
So all of you will enjoy the talk and poster ・
・
・
・
presentation during couple of days.」
・
・
・
・
・
・
・
コンファレンス内容の要約
・
・
コンファレンス冒頭の Plenary Lecture は、 ・
・
・
オーストリア・ グラーツ大 学 の F r i e d r i c h ・
・
・
Spener 教授にお願いした。Spener 先生は長い期 ・
・
・
間、国際脂質生化学会(ICBL)の会長として、又 ・
・
・
近年分野の最も権威を持つ国際ジャーナルとし ・
・
・
て成長著しい BBA: Molecular and Cellular ・
・
・
Biology of Lipids のチーフエディターを務めら ・
・
・
れ、世界の脂質研究を支え育ててこられた先生 ・
・
・
であるだけにこのコンファレンスのPlenary にふ ・
・
・
さわしいと考 えたからである。 先 生 は「 The ・
・
・
world of lipid biology - what has been ・
・
・
・
achieved, what should we expect」という演題 ・
・
・
でvan Deenen, Bloch, Brown & Goldstein など ・
・
・
の巨人の業績を振り返りながら脂質研究の現在 ・
・
・
までの発展を概観、今、脂質研究がシグナリング ・
・
・
やリピドミクス解析をふまえて新たな飛躍に ・
・
・
向っていることを強調された。又先生は、ご自身 ・
・
・
の長年の課題である脂肪酸結合蛋白(FABP)の ・
・
・
たくさんの実験データを示しながら、今回の脂質 ・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
63
動態を主題としたコンファレンスへのご自身の
繋がりと期待を述べられた。Spener 先生は、これ
まで札幌、京都、仙台など日本各地を訪れていて
自他ともに認める大の親日家でもあり、そのユー
モアとも相俟って、参加者、特に若い研究者を励
まし、研究意欲を刺激するすばらしいスピーチを
いただけた。
Session A
(Chair: Y. Hirabayashi, Al. Merrill)
Lipid dynamics and new technologies
このセッションでは、脂質ダイナミクスの新し
い研究の基盤となった技術的進歩、将来さらに
発展の期待される新たな解析技術をその開発に
あたっている内外の第一線の研究者の講演をい
ただいた。口火を切ったのはこのコンファレンス
の組織委員でもある平林義雄(理化学研究所 脳
科学センタ−)で、脂質生理機能の解明に欠かせ
ない手段としての遺伝子改変動物作成への自身
のこれまでの取り組みとそこから得られたいく
つかの思わぬ発見を紹介した。平林は、グルコシ
ルセラミド合成酵素を初めてクローニングし、セ
リンパルミトイル CoA 転移酵素のノックアウト
マウスを初めて作成するなどスフィンゴ脂質研
究のパイオニアの一人であり、
「ノックアウト動
物の仕事は論文になるのは時間がかかり、論文に
できない危険性も強いが、それなしには解明でき
ない新たな展開がしばしばおこる」とモデル動物
作成の研究における重要性を指摘した。また平
林は、最近の Boss と呼ばれる生体膜マイクロド
メインに局在するグルコース代謝に関わる遺伝
子産物の役割を同じくノックアウト動物を駆使
した系で示した。
吾郷日出夫(理化学研究所 放射光科学総合研
究センター)は、日本が世界に誇る播磨のスプリ
ング−8で行っている LTC4 ロイコトリエン合
成 酵 素 の X 線 構 造 解 析 の見 事 な解 析 結 果
(Nature 2007 など)を示し、さらにX 線解析技術
の GPCR など7回膜貫通型タンパクなどへの拡
大応用の現状や問題点も討論された。最近7回
第 27 回内藤コンファレンス
「生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ]
」を終えて
膜貫通のβ-Adrenergic 受容体の結晶化とその
構造がいくつかのグループによって明らかにさ
れたが、特殊要因もあり GPCR 一般に直ちに応
用可能という訳でないらしい。3人目の演者の瀬
藤光利(浜松医科大学)は、新しい可視化技術と
して最近注目を集めている分子顕微鏡(IMS:
Imaging Mass Spectrometry)技術の実際を、企
業との共同研究で自身のラボで開発製作した最
新設備を披露し、それを使って行った膜リン脂質
PC, PE のPUFA など脂肪酸組成を異にした分子
種の脳組織におけるイメージングの詳細なデー
タを発表した。例えば、PI(diacyl 16:0/20:4)とPI
(diacyl 18:0/20:4)では全くその組織分布が異な
ること等、IMS で初めて明らかにされた分布の局
在が示されたりした。瀬藤はリン脂質だけでなく
糖脂質等にもその対象を広げており将来の発展
が期待される。このイメージング技術を使って、
組織から細胞、さらには細胞内小器官、細胞膜と
どこまで対象を広げられるか議論となったが、原
理的には可能であるがまだまだ克服すべき障害
も多く、まだしばらく先のことであるらしい。
Al Merrill(Georgia Institute of Technology)
は、アメリカで NIH ファンドで展開されている
LIPID MAPS の代表的研究者の一人でスフィン
ゴ脂質・糖脂質班のリーダーとして、このグルー
プの RAW264.7 という一つの細胞株のスフィン
ゴリピドミクスの全容を紹介した。マス解析によ
るリピドミクスの進展は、脂質代謝の定量性をも
たらし、何よりもこれ迄未知であった多数の新規
生体化合物の存在を明らかにし、さらにはこうし
た化合物のなかに新しい生理機能を持ったもの
・
・
・
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・
・
64
も見つかるなど、脂質基礎研究や創薬応用研究
に新しい可能性をもたらしつつある現状が紹介
された。この技術も IMS と同様どこ迄分析対象
を下降できるかは、国際的な連携の強化とともに
今後の問題である。このセッションの最後は、
Timo Kurzchalia(Max Planck Institute)がC,
elegance をモデル動物にして、異常環境下での
dauer 形成のメカニズムに迫る研究を発表した。
Timo は、今回は発表しなかったが、このdauer 形
成を決定つけている新規トレハローズ含有脂質
を発見するなど、脂質研究のユニークな新局面を
開きつつあるように思われる。
Session B
(Chair: A. Kihara, H. Riezman)
Intracellular lipid transfer and
metabolism
セラミドはER で合成されそこからゴルジ体に
運ばれそこでスフィンゴミエリンやグルコシルセ
ラミドに変換され、さらに細胞膜に輸送される。
ところがどのようにER からゴルジに運ばれるの
か、その分子機構は長い間推測の域を出なかっ
た。花田賢太郎(国立感染症研究所)は、この輸
送が膜輸送ではなく輸送蛋白質を介した脂質輸
送 で あ る こ と 、そ れ を 担 う C E R T 蛋 白 質
(Ceramide transfer protein)を自ら作成した遺
伝子変異細胞株を駆使して発見、同定に成功し
た(Nature, 2003)
。花田はそれ以後もこのCERT
の制御機構を、構造生物学やノックアウトマウス
などを使って研究し続けてきた。このコンファレ
ンスではそうした発見の歴史や最近の CERT の
持つドメインの機能解析も含めて総括し聴衆に
感銘を与えた。
CERT は細胞内脂質の
“引き抜き”
輸送に携わる輸送タンパクとして最初に同定さ
れたという事実をもっても、引き抜き過程の分子
機構はまだ仮説の域を出ていないとはいえ、この
研究の意義は大きく脂質研究全体に大きなイン
パクトを与えている。
さて、このセラミドの合成酵素は、Howard
Riezman(University of Geneva)によってまず
第 27 回内藤コンファレンス
「生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ]
」を終えて
酵母細胞でクローニング、LAG1, LAC1 として同 ・
・
・
定 さ れ た 。こ の 酵 母 遺 伝 子 か ら 後 に T o n y ・
・
・
Futerman(Weizmann Institute)や筆者(CerS ・
・
・
3、CerS 6)の研究室で6つのセラミド合成酵 ・
・
・
素 CerS1 ∼ CerS6 が同定された。Howard と ・
・
・
Tony の講演はこのCerS に関するものである。6 ・
・
・
つのCerS はそれぞれに基質特異性や組織分布を ・
・
・
異にしているが、Tony はそのうち極長鎖(C22- ・
・
・
24)セラミドを合成するCerS2 のノックアウトマ ・
・
・
ウスの作成に成功、このマウスは肝臓に多くの異 ・
・
・
・
常を示すが腎臓には全くフェノタイプを示さな ・
・
・
い等、組織によって脂肪酸鎖の長さの役割が異 ・
・
・
なることを示唆する知見を得ている。ドイツの ・
・
・
Roger Sandhof や筆者の研究で皮膚や精巣に多 ・
・
・
く発現のみられるCerS 3はC26 以上のごく長鎖 ・
・
・
脂肪酸に特異性を持つことが示されているが、こ ・
・
・
うした研究はセラミドの脂肪酸鎖長がセラミド ・
・
・
の生理機能と密接に関わっていることを暗示し ・
・
・
ており、今後のトータルな解析が待たれる。また、 ・
・
・
Howard は酵母細胞にこれらの遺伝子を導入、鎖 ・
・
・
長の違いが細胞への毒性に違った影響を及ぼす ・
・
・
・
ことも観察している。
・
・
木原章雄(北海道大学薬学研究院)は最近、脂 ・
・
・
・
肪酸伸長酵素(ELOVL1 ∼ ELOVL 7)の基質特 ・
・
・
異性をIn vitro のアッセイ系により、統一した方 ・
・
・
法でそれぞれ同定することに成功した(PNAS, ・
・
・
2010)
。木原によれば、このうちELOVL 3, 7 は主 ・
・
・
に C18 の伸長反応にかかわり、ELOVL2, 5 はア ・
・
・
ラキドン酸、リノレン酸等高度不飽和脂肪酸の ・
・
・
伸 長 に 、E L O V L 1 は C 2 0 、C 2 2 の 伸 長 に 、 ・
・
・
ELOVL4 はC24、C26 の伸長に関わることを明ら ・
・
・
かにした。木原は更に、CerS2 と ELVL1 が分子 ・
・
・
コンプレックスを作ることを見いだし、このこと ・
・
・
がセラミドに特徴的な C24 を持つ分子種の効率 ・
・
・
的 な合 成 を可 能 にしていると推 測 している。 ・
・
・
CerS3 とELOVL4 にも同様な調節機構がみられ ・
・
・
・
るか今後の課題である。前述したようにリピドミ ・
・
・
クスの進展のもたらした一つの大きな果実はこ ・
・
・
れまで未知であった微量の生理活性脂質が新た ・
・
・
に多数見いだされたことである。このうち有田誠 ・
・
65
(東京大学薬学系研究科)は、高度不飽和脂肪酸
である EPA や DHA から作られる新規の生理活
性脂質(レゾルビン、プロテクチン)の生成機構
の研究を進めているが、今回は omega-3 desaturase(fat-1)のトランスジェニックマウス等を用
いて、そのリピドミクス解析からこれら活性脂質
の合成と動物の炎症作用との因果性を引き出す
ことに成功した。C. Serhan、有田らによって始め
られたこれらの研究の未来には、新規創薬の可能
性を広げるという意味でも明るい展望が開けた
といえよう。
Session C
(Chair: A. Yamaguchi, G. Schmitz)
Lipid Transporter
このセッションでは、脂質をターゲットにし
た種々の ABC トランスポーター、それとは別
に Germ Cell の運動性を制御する Wunen レセ
プターや S1P トランスポーターとして新たに発
見、同定された Spns2 などに関する最新の研究
が発表された。血中 HDL 減少が引き起こす動
脈硬化等で知られるタンジール病の原因遺伝子
が ABCA1 で あ る こ と を 発 見 し た Gerd
Schmitz(Regenburg Univeristy)は、今回は
脂質トランスポートにかかわる ABC トランス
ポーターの全体像を総括するとともに、最近彼
のラボで進められている巨核球からの血小板産
生やそれに伴って変化する細胞膜脂質非対称の
形成に関わる ABA1, A3, A7 トランスポーター
それぞれの役割分担に関してリピドミクス解析
をふまえて追求している。特に ABCA7 は血小
板に局在する ABC トランスポーターで、筆者
らも山口らとの共同研究を通してこれが S1P ト
ランスポーターではないかと真剣に追いかけた
ことがあったが残念ながら違っていた。
Schmitz の主張する ABCA7 の標的脂質の同定
が正しいかどうかを含め、今後更なる証明が必
要なように感じられた。
植田和光
(京都大学物質細胞統合システム)
は、
日本におけるABC トランスポーター研究の第一
第 27 回内藤コンファレンス
「生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ]
」を終えて
人者として、ABCA1 によるコレステロール分泌
の調 節 機 構 の解 明 を目 指 しているが、今 回 、
ABCA1 が核受容体内 LXR βとのタンパクータ
ンパク相互作用を介して、細胞内コレステロール
の量をフィードバック調節していることをかな
りはっきりと示す結果で印象的だった。今後、臨
床的な応用も考えマクロファージ等生体系での
研究の進展を期待したい。一方、秋山真志(北海
道大学医学部皮膚科)は道化師様魚鱗癬の原因
遺伝子の一つとしてABCA12 があることを数年
前発見し広く注目を集めた(JCI, 2007)。このな
かでABCA12 が顆粒層のグルコシルセラミドの
プロセスに関わるトランスポーターであるという
ことをつよく示唆するデータを示したが、今回、
ABCA12 ノックアウトマウスを作成し、このマウ
スでのセラミドの減少、顆粒球異常、またケラチ
ノサイト分化のマーカーとなる profilaggrinn/
filaggrinn 変換の抑制等、道化師様魚鱗癬にみら
れるのと同様な異常を再現した。しかもこの異常
は皮膚だけでなく、肺胞細胞でのサーファクタン
ト生成低下、肺胞ラメラボディの形態異常等を
伴うことも明らかにした。ABCA12 の基質に関
してはまだ最終的な証明はなされていないと思
われるが、この研究がABC トランスポーターと
血液血管系とは別な新たな病態とのつながりを
示唆しており重要なきっかけとなりそうだ。
Ruth Lehmann
(NYU School of Medicine)
は、
ドロソフィラ Germ cell の走化性運動の役者で
ある Wunen(LPP)、Tre1(GPCR)、HMGCR な
どの関与を次々と明らかにしてきた(Nat Rev
Mol Cell Biol, 2010 など)。今回そうした研究の
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66
集大成を発表し我々に強い感銘を与えた。Ruth
のこうしたパイオニア的な研究が、S1P による免
疫細胞の走化性に関する研究にも絶えず強い刺
激をもたらしたと思われる。このセッションの最
後に講演した山口明人(大阪大学産業科学研究
所)は、筆者も含めて世界中のスフィンゴ脂質研
究者が追い求めていた細胞 S1P トランスポー
ターをついに同定した(Science. 2009)
。これまで
たびたび S1P トランスポーターを示唆する候補
タンパクが発表されてきたが、その証明となると
ほとんど危ないものばかりと筆者はみてきた。今
回、山口の心筋運動異常の原因遺伝子としてク
ローニングされたSpns2 は、初めて確かなものと
して同定されたと思う。山口はこの会で未発表
データとしてSpns2 のノックアウトマウスの作成
の成功と、このマウスの血漿中のS1P の半減を示
したが、このことは血小板や赤血球からのS1P の
放出にもこの Spns2 がかかわっていることを強
く示唆する。ヒトにもそのホモログが存在すると
いう(hSpns2)。ヒト病態とのかかわりや膜タン
パクの X 線結晶解析を得意とする山口の更に進
んだ今後の分子レベルの研究を期待したい。
Session D
(Chair: M. Umeda, B. Antony)
Membrane morphogenesis and polarity formation
細胞膜のカーブチュア(曲率)は膜融合や顆
粒放出など細胞膜の動態と絡んでこの部位に必
要な因子を集める目印となる“活性部署”でもあ
る。一体こうした細胞膜の曲率を認識する仕組
みはどうなっているのかという我々の抱く素朴
で深い疑問に答えようとする研究が現れ始めた。
ALPS や BAR モチーフの研究がそれである。
Bruno Antony(Université de Nice)は、このう
ち膜曲率を認識する ALPS モチーフを大小リポ
ソ−ム結合アッセイを導入して明らかにしてき
たが、今回 ALPS を持つ細胞膜 budding に関わ
るArfGAP1 とtethering に関わるGMAP-210 を
中心にそれらが関わる曲率認識と膜動態のメカ
第 27 回内藤コンファレンス
「生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ]
」を終えて
ニズムを見事な動画として聴衆に示し感動を呼
んだ。筆者は、実は1年前フランスで開かれたあ
る学会でこの動画を見る機会があって、日本で若
い研究者に是非これを見てもらいたいとこの時
強く感じたのが今回の招聘のきっかけとなった。
その期待に違わず細胞膜生物学の新しい方向を
暗示するすばらしい講演であった。大隅良典(東
京工業大学統合研究院)は、自身が文字通り立ち
上げ作り上げてきたオートファジー体系の全容
を概説し、酵母で同定された 18 の Atg 遺伝子の
絡む複雑なステップのうち今回は特に細胞膜新
生と強く関わるリン脂質 PE と共有結合を造る
Atg8-PE の膜新生における役割を中心にして新
しいデータも含めて示した。オートファジー現象
の中で膜脂質を構成するPE との接点となるポイ
ントで、
まだまだ秘密のベールに隠されているが、
Atg-8 の構想生物学も稲垣(北海道大学)との共
同研究として進んでいると聞いており、近い将来
大きなブレークスルーを期待したい。もし研究の
オリジナリティが「誰も顧みないことを取り上げ
皆を振り返らせる」ことにあるとすれば、筆者の
個人的感想ではあるが、大隅のオートファジーの
研究こそが、日本におけるその代表例であるとか
ねがね思っている。細胞膜動態を考える上でイノ
シトールリン脂質(PI)の役割がきわめて大きい
し、たくさんの優れた研究が内外で活発に展開さ
れている。今回のコンファレンスではあえてPI は
大きく取り上げなかった。それは PI に関しては
実に多くの国際会議が毎年のようにもたれてい
ることもあり、今回は省いた経緯がある。そうし
たなかでPI kinase 研究の大御所であるRichard
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67
Anderson (University of Wisconsin)は、
PIPK1 γとE-カドヘリン相互作用に焦点を当て
て話をいただき、バランスを幾分でも保てたこと
になるかもしれない。確かに PI4,5P2 などの役者
を除いては膜動態は語れない、それを改めて思い
起こさせる講演であった。
細胞膜動態のもう一つ重要な要素は膜脂質分
布の非対称性とフリップフロップの機構である。
田中一馬(北海道大学遺伝子病制御研究所)は、
この膜脂質フリップフロップの分子機構を酵母
遺伝学の手法で解明しようとしている第一人者
であるが、今回のコンファレンスでは、アポトー
シスにおける役割の鮮明な PS 反転の分子機構
に働くと思われる GFP-Lact-C-2 と PS 合成酵素
に焦点を当てた研究を紹介した。PS 反転のフ
リッパーゼの実体は何か、いろいろ議論は続いて
いるが、解析の比較的用意な酵母での田中らの
仕事がそのブレークスル−に最も近いのではと
いう期待を抱かしてくれる。このセッションの最
後の梅田真郷(京都大学工学研究科)は、筆者ら
がシグナル、シグナルと騒いでいる時から「いや
面白いのは動態だ!」といい続けてきた。梅田は
時に奇抜とも思える発想で、細胞質分裂にかか
わるPE 反転の意義や、ROS タンパクによるその
制御、さらにはドロソフィア遺伝子改変を用いて
寒いところの好きな「アツガリ」など興味深い
ミュータントを作成し解析するなど、楽しくユ
ニークな研究を続けており、そのオリジナリティ
の高さにおいては大隅に匹敵するのではないか。
今回の講演も PE 反転の新しい分子機構に関す
るもので、ROS 以外の新しい因子が同定され解
析が進んでいることを伺わせた。このセッション
全体を通して膜脂質動態と生命現象との幅広い
関わりが明らかにされ今後の研究の方向性を探
る上で多くのヒントが与えられたと感じる。
Session E(Chair: Y Igarashi, G Tigyi)
Lipid signaling and pathlogy
最後のセッションでは、脂質動態と表裏一体
に繋がっている脂質シグナリングとそれと病態
第 27 回内藤コンファレンス
「生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ]
」を終えて
との関わりに焦点を当てた。日本の、いや日本ば ・
・
・
かりでなく世界のリン脂質研究をこれまで先頭 ・
・
・
に立って引っ張ってきた清水孝雄(東京大学医 ・
・
・
学研究科)は、エイコサノイド、PAF やその受容 ・
・
・
体などに関する自身のこれまでの研究を概観し ・
・
・
た後、今回、最近清水のラボなどで急速に進みつ ・
・
・
つあるいわゆる Land Cycle に関わるホスホリ ・
・
・
パーゼA2 とリモデリングにかかわるLPAT など ・
・
・
(MBOAT、AGPAT、DGAT の3つのファミ ・
・
・
リーAT)の多彩な酵素ファミリーの全容を解明 ・
・
・
・
し、これらと種々の病態との関連を解き明かし、 ・
・
・
そこから新しい創薬をも展望しようとするス ・
・
・
ケールの大きな仕事である。清水の研究は、医学 ・
・
・
部で行われている研究として、基礎的研究にも常 ・
・
・
に病気、病態との関連が意識されている点がすば ・
・
・
らしく思われる。
青木淳賢
(東北大学薬学研究科) ・
・
・
はLPA 研究の若手の旗手の一人である。酵素学 ・
・
・
をベースにしながらLPA の多彩な機能を明らか ・
・
・
にしようとして FASEB 会議等をベースに国際 ・
・
・
的 に活 躍 している。今 回 の発 表 では、ゼブラ ・
・
・
フィッシュをモデル動物にしてLPA 産生のauto- ・
・
・
taxin(AXT)の過剰発現が心臓形成異常をもた ・
・
・
らし、この異常がS1P 受容体 S1P2、Spns2 をつぶ ・
・
・
・
したフィッシュでもみられること、つまりLPA と ・
・
・
S1P のゼブラフィッシュ心臓形成におけるシグ ・
・
・
ナリングにクロストークの存在することを初め ・
・
・
て明らかにした。Gabor Tigyi( University of ・
・
・
Tennessee)は、早くから LPA および LPA の血 ・
・
・
管系やがん細胞の浸潤における役割に注目し、 ・
・
・
研究を積み重ねてきた。今回は、LPA2 下流シグ ・
・
・
ナルを検討し、この脂質性のアンタゴニスト、あ ・
・
・
るいは非脂質性化合物等のLPA シグナリング阻 ・
・
・
害 を通 しての抗 がん作 用 等 を広 く検 討 した。 ・
・
・
Gabor は、90 年代はじめにリゾリン脂質シグナリ ・
・
・
ングの重 要 性 をいち早 く見 抜 き、この分 野 の ・
・
・
FASEB 会議を設立した一人であり、彼とはこの ・
・
・
・
時からの長い付き合いである。日本や北海道の自 ・
・
・
然を愛し、毎年のように来日、北海道ならすべて ・
・
・
の地を車で訪れるほどの愛日家である。
ちなみに、 ・
・
・
有珠山が噴火したときその日のうちに最初に駆 ・
・
68
けつけた外国人がいてそれは Gabor だとの評判
がたったが、これは彼が筆者のラボにサバティカ
ルで来ていた間の出来事であった。
S1P 受容体の仕事は 1998 年に Timothy Hla
(Cornell University)が、血管分化に関わる遺伝
子としてEDG(Endotherial cell differentiation
gene)を発見し、そのリガンドがS1P であること
を同定した仕事が始まりである(Sience,1999)。
その後、この仕事に基づいて Edg 受容体ファミ
リーがクローニングされ(のちS1P、LPA 受容体
と改名)またEdg1(S1P 1)欠損マウスのしめす
血管形成不全などのフェノタイプ、更にS1P が免
疫細胞の走化性運動を制御することが明らかに
されてきた。今回のTim の発表は、血管新生にか
かわる S1P1 / S1P2 の役割と、新規免疫抑制剤
FTY720(2010 年秋 FDA 認可)の開発につな
がった免疫制御に関する S1P 研究を概括した。
FTY720 は現在のところ多発性硬化症に対する
薬として認可されたが、その応用を広げようとす
る様々の試みもあり、スフィンゴ脂質研究の成果
としての最初の薬であることが特筆に値しよう。
コンファレンスの最後は筆者が担当、これまで
の S1P の血小板からの産生機構や S1P による細
胞運動制御機構の発見から始まってこの20 年間
取り組んできた S1P シグナリング研究を振り返
り、またこの研究から派生してきた S1P 代謝酵
素や受容体の膜動態に関する研究、マイクロド
メイン形成制御等の研究などを紹介し、最後に
現在ラボで進んでいるセラミド合成酵素と皮膚
機能、SM 合成酵素(SMS 2)と肥満、脂肪肝と
の関連等の新しいデータを示させて頂いた。筆者
は「Through lipid signaling to lipid dynamics:
a new challenge in sphingolipid biology」とい
うタイトルのもと、このコンファレンスの位置付
けも兼ねて十分とはいえないが、とにかく言いた
いことは言えたのではないかと思っている。
ポスター発表と熱い討論
こうした招待講演のセッションとは別に、毎晩
夜遅くまで参加者のポスターを囲んでの討論会
第 27 回内藤コンファレンス
「生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ]
」を終えて
がとても活発で充実していたことも合わせて報 ・
・
・
告したい。海外からの講演者も疲れもあったろう ・
・
・
が、まさに深夜までたくさんの先生につき合って ・
・
・
いただいた。これら海外の先生方から、日本のこ ・
・
・
の分野の若い研究者にレベルが非常に高いとい ・
・
・
う驚きの感想をたくさん聞かされた。この 60 題 ・
・
・
のポスターの中から 20 題が内藤コンファレンス ・
・
・
優秀ポスターとして最終日に選ばれた。折しも ・
・
・
サッカーワ−ルドカップの開催中で、時には討論 ・
・
・
室にテレビを持ち込み、国が入り乱れてわいわい ・
・
・
・
がやがやとそれぞれの国を応援したこともあっ ・
・
・
たが、それも含めての国際交流の楽しい1ページ ・
・
・
となったのかもしれない。会が終えてからも学会 ・
・
・
などいろんな機会で会う若い人たちから、しばし ・
・
・
ば、
「この会のディスカッションがとても楽しく ・
・
・
刺激になった」と聞くたびに、やはりこのコン ・
・
・
ファレンスの最大の意義は、一流の研究者と若 ・
・
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い人が膝を交えた討論し、交流できたことあるの
ではないかとの思いを強くしている
最後になるが、 コンファレンスを終えて帰宅
した夜に詠んだいくつかの歌がその日の日記に
残っていた。下手の横好きで数年前から始めた短
歌作りだが、恥を忍んでこれを敢えて載せ感想の
締めくくりとしたい。コンファレンスをなんとか
無事終えられホッとため息をついているのを感
じ取っていただけるのではないかと思う。
真夏日の灼熱のなか人々集ひ内藤始まる温泉ホテル
札幌に“二つの熱気”挨拶はジョークで崩さん開会の緊張
会場にテレビ持ち込み泡飛ばし観戦すれど PK 惜敗
すべて終へ温泉ゆけば一人残る山口君も湯に浸かり居り
ちらほらと高き評価も聞へ来て会の成功素直に喜べり
寝不足の目擦りつつ帰宅かな久しぶりなる我家の夕食
3日空け戻りし庭は様変はり暑気続きでバラ花咲き満つ
第 27 回内藤コンファレンス参加印象記 目次
内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小原 圭介 ・・・ 71
第 27 回内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・ 河野 望 ・・・ 72
人との繋がり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 田島 陽子 ・・・ 73
内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 堀端 康博 ・・・ 74
コンファレンスをめぐる熱さ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 村手 源英 ・・・ 75
第 27 回内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・ 三間 穣治 ・・・ 76
第 27 回内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・ 岡 沙織 ・・・ 77
第 27 回内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・ 井上 飛鳥 ・・・ 78
第 27 回内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・ 川本 純 ・・・ 79
燃えるような暑さであった札幌 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 金 然正 ・・・ 80
内藤コンファレンス参加記 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 工藤 紀雄 ・・・ 81
内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 谷 元洋 ・・・ 82
第 27 回内藤コンファレンスに参加して ・・・・・・・・・・・・・ 中戸川 仁 ・・・ 83
露天風呂でサイエンスが飛び交う ・・・・・・・・・・・・・・・・ 光武 進 ・・・ 84
70
第 27 回内藤コンファレンス印象記
内藤コンファレンスに参加して
北海道大学大学院薬学研究院
助教
小原 圭介
期待を大きく上回り、とても満足感のあるコン
ファレンスだった、という一言に尽きます。第 27
回内藤コンファレンス「Membrane Dynamics
and Lipid Biology[Ⅰ]」が札幌で開催され、
ポスター発表者として参加致しました。
札幌にしては異常に暑かった6月 29 日の午
後、会場のガトーキングダム・サッポロに入り
ました。Chairperson の五十嵐先生のウィット
に富んだ開会宣言に続き、Spener 博士の
Plenary Lecture がありました。博士は脂質研
究の歴史や関わってこられた雑誌の歴史なども
交えて話されました。研究分野の歴史や体系的
な話は、お酒の場などでベテランの先生からこ
ぼれ聞く事はあるのですが、恥ずかしながら酒
に飲まれてほとんど覚えていない事が多いです。
今回の様に、じっくりとしかもしらふで聞く機
会というのは、若い私達には意外に少ないので
大変貴重でした。続いての Welcome Reception
では、海外や北海道外からの参加者に堪能して
貰おうという心意気を感じる「ザ・北海道」と
いった感じの料理が溢れんばかりに盛りつけら
れ、その美味しさと豪華さに、にわか北海道民
の小生も大いに驚きつつ、ここぞとばかりに堪
能しました。会期中、常に食事は素晴らしく、
そこまで負担して頂いて良いのかと恐縮するく
らいでした。会期中に 2 キロ太りました。
さて、肝心のサイエンス部門ですが、質の高さ
に驚きました。最新の結果を交えた講演の内容
の濃さ、ポスター発表のレベルの高さに感動し
ました。大きな学会では、無数にある講演やポス
ターから興味のあるものを予めチェックして、当
日は探し出すべく歩き回りますが、今回は興味
のある講演とポスターばかりがはじめから集合
している感じを受けました。紙面の都合上、一つ
一つ紹介出来ないのが残念ですが、Riezman 博
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71
士の講演で、スフィンゴ脂質の鎖長を人為的に
改変した酵母を作製・解析し、鎖長の違いによ
るスフィンゴ脂質の機能の違いに迫ろうとする
話は、私の興味に非常に近い話でした。
今回のコンファレンスの特長として、分野を
ずっとリードしてこられた先生方に加えて、新
進気鋭の研究者や私の様な駆け出しまでが、化
学反応を起こすべく一箇所にコンパクトに濃縮
されていたという事が挙げられます。著名な先
生方とお話しする機会があったことは嬉しい事
でした。また、かつての同僚に会って、この世
界でまだ生き残っている事を確認し合ったり、
初めてお会いする同世代の研究者が厳しいこの
世界で大いに奮闘していることを知り、大きな
刺激を受けました。
収穫の多いコンファレンスであり、無理矢理
に残念だった事を思い出しても、ホテルのラー
メンをギリギリで食べ損なった事と、多くの参
加者とテレビ越しに見守った日本代表がパラグ
アイ代表に PK 戦で惜しくも敗れた事くらいし
か思い浮かびません。
サイエンスの面でも、交流の場としても、宿
泊や食事の面でも、これほど充実した会は滅多
にないのではないでしょうか。五十嵐先生を始
めとするオーガナイザーの先生方のご尽力と、
それを支える内藤記念科学振興財団の援助に篤
く御礼を申し上げます。
第 27 回内藤コンファレンス印象記
・
第 27 回内藤コンファレンスに参加して ・
・
東京大学大学院薬学系研究科
助教
河野 望
2010 年6月 29 日から7月2日の4日間、札
幌にて開催された第 27 回内藤コンファレンス
に参加しました。本コンファレンスに参加した
ことのある研究室の先輩から、その素晴らしさ
を聞いていましたので、かねてから本コンファ
レンスへの参加を非常に楽しみにしておりまし
たが、とても充実した4日間を過ごすことがで
きました。
第 27 回内藤コンファレンスのテーマは
「Membrane Dynamics and Lipid Biology」で
あり、膜ドメインや膜の状態の感知機構に興味
のある私にとって、非常に魅力的な講演者・発
表内容でありました。コンファレンス初日に行
われた Spener 博士による Plenary Lecture で
は、脂質生物学の現状とこれからの展望につい
て包括的な発表を聞き、現在の研究の潮流を把
握することができました。また所々に話された
トピックの中で、SARS ウィルスによって
Cubic membrane が誘導されるという話には、
「生体膜がこんな特異な構造をとることがある
のか」と深い感銘を受けました。2 日目からの
セッションでは各分野の Leading Scientist によ
る発表がなされました。あまりなじみのない領
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72
域もあり、話についていくのがやっとというもの
もありましたが、各発表は非常に刺激的で、研
究の視野が一段と広がったように感じました。
また質疑応答では英語で活発な議論がなされ、
研究者として英語の必要性を改めて痛感致しま
した。
ポスター発表の内容もシンポジウムと同様に
非常に興味深いものが多く、コーヒーブレイク
にはシンポジウム会場の隣のポスター会場へと
足を運び、バラエティに富んだポスターを楽し
むことができました。夜に行われたポスターセッ
ションでは、国内外の高名な研究者の方々と若
い研究者が交わり、非常に活発な議論がなされ、
発表者の方との議論の時間を作るのが大変なほ
どでした。私自身のポスター発表においても、
たくさんの方々から貴重なご意見を頂き、今後
の研究を進める上でとても参考になりました。
また朝から晩までのセッションに加え、寝食
も共にすることで、他の研究者との交流の機会
を多く持てたのも非常に良かったと思います。
初日の Welcome reception では同年代の研究者
の方と知り合い、親交を深め合うことができま
した。またポスターセッション後に設けられた
ホスピタリティールームでは、ビールを片手に
著名な先生とざっくばらんに会話することがで
き、非常に楽しい時間でした。
このような非常に有意義な会に参加する機会
を与えて下さった組織委員の先生方、ならびに
内藤記念科学振興財団の皆様に深く感謝し、御
礼申し上げます。
第 27 回内藤コンファレンス印象記
人との繋がり
国立医薬品食品衛生研究所
研究員
田島 陽子
この度は、第 27 回内藤コンファレンスに参加
する機会を与えて頂き、心より感謝いたします。
本コンファレンスのような合宿形式の学会への
参加は初めてのため、最初は不安と緊張もあり
ましたが、とても有意義な時間を過ごさせて頂
きました。
今回、私は「質量分析によるマウス脳におけ
るPE-plasmalogen の局在解析」というテーマで
ポスター発表を行いました。本研究では、脂質
メタボロミクスの観点から病態モデルマウスの
解析を通して、PE-plasmalogen の機能を明らか
にすることを目的としています。私が取り組ん
でいるメタボロミクス研究は、比較的新しい学
問で、これまでの主流であるトップダウン研究
と観点が異なり、課題発見型の研究分野です。
ポスター発表は十分な時間が取られていたた
め、自分の研究について先生方からご意見、ご
教授を頂き、今後の研究の進め方についてゆっ
くり考えることが出来た貴重な時間となりまし
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と思います。宿泊で同室だった先生や、食事の
際にご一緒させて頂いた先生方とは今まで交流
をもつ機会がありませんでしたが、同じ時間を
共有する中で色々なお話ができ、親睦を深める
ことができました。さらには、大学院でご指導
頂いた先生や共同研究でお世話になった先生と
の再会にも恵まれ、研究のご発展に感銘と刺激
を受けるなど、とても有意義な時間を過ごすこ
とが出来ました。また、今回はレセプションや
ポスター発表で国外の先生方とお話する機会も
ありましたが、自分の語学力の未熟さに思うよ
うに伝えられない悔しい場面も多々ありまし
た。今後、自由にコミュニケーションをとり、
繋がりを更に広げることができるように、より
語学力を磨いていきたいと思いました。
脂質の分野の先生方は、縦の繋がり、横の繋
がりがとても密であると感じます。そうした繋が
りが、研究を更に発展させる要因の一つだと思
いました。本コンファレンスは、学術的のみなら
ずこのような研究者同士の繋がりを形成するう
えでも非常に重要な意義があると思います。最
後になりましたが、今回のコンファレンスを主
催されたオーガナイザーの先生方、内藤記念科
学振興財団および関係者の皆様方にこの場を借
りて感謝申し上げます。
た。何よりも、今回の発表に
際して多くの先生方からこれ
からの発展を期待して頂ける
声を聞けたことが嬉しく、モ
チベーション向上に繋がりま
した。また、他の発表者の
方々のお話を聞き、自分が携
わっている分野以外の研究に
関しても勉強することが出来
ました。どなたも、初歩的な
質問にも分かりやすく説明し
てくださり非常に勉強になり
ました。
本コンファレンスへの参加
でとても貴重だったのは、人
との繋がりが広がったことだ
前列左から2人目が筆者
73
第 27 回内藤コンファレンス印象記
内藤コンファレンスに参加して
獨協医科大学医学部
助教
堀端 康博
今回、平成 22 年6月 29 日から7月2日までの
4日間にわたって行われた第 27 回内藤コンファ
レンス「生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ]
」
に参加させていただきました。梅雨でじめじめ
した栃木を発ち、札幌に到着しましたが、梅雨
のない北海道はカラッとしていて極めて快適で
した。会場は街の喧噪から遠く離れたリゾート
ホテルのようなすばらしい施設で驚きました。
Welcome Reception では北海道の食材を使った
豪華な晩餐を楽しめて感動いたしました。
さて、翌日は9時から内容の濃い充実したプ
ログラムが始まります。オーラル発表では、国内
外の著名な先生方が英語で発表されます。あま
り英語が得意ではないので、うまく聞き取れな
いことも多々ありましたが、そこはスライドを見
ながら理解しようと努力しました。また、論文
でしか存じ上げていなかった著名な先生のお姿
を拝見し、感じ入ったりもしました。12 時から
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のランチタイムはたっぷりと2時間あり、一息
することができます。さて、事前に配布された
General Information を丁寧に読んでいた私は、
「Relaxation Facilities」として「Swimming
pools」を利用できることを予習していましたの
で、しっかり水着を持参していきました。しかし、
食後にポスターを眺めたりしていると休憩時間
があっという間に過ぎ、結局水着は最終日まで
一回も出番がなかったのでした。
午後もオーラル発表があり、夕食後はお楽し
みのポスター発表が始まります。実は、6年ぶ
りのポスター発表で、かなり緊張していました。
ちょうど冷えたワインが用意されていましたの
で、数杯飲んで乾いた喉を潤わせて、ポスター
の前に立ちます。実はこのところ思うような実
験結果が得られず、少し心が折れかかっていた
のですが、ポスター発表の会場では、特に自分
と同じ世代の若手研究者の研究に対する情熱に
あふれた雰囲気を肌で感じ、大変良い刺激を受
けました。さて自分のポスター発表ですが、何
人かの先生方に「面白い研究ですね」と言われ、
モチベーションがあがってきました。最終日、
助成金の内定を知らされて、ますます元気が出
てきました。あれから1ヶ月経過した現在もこ
の熱い気持ちを忘れずに研究生活を過ごしてお
ります。また、今後の研究生活にとっても大き
な糧になる4日間だったと思います。
最後になりましたが、このような有意義な機
会を与えてくださった組織委員の先生方と内藤
記念科学振興財団の関係者の皆様に心より感謝
申し上げます。
第 27 回内藤コンファレンス印象記
コンファレンスをめぐる熱さ
理化学研究所小林脂質生物学研究室
協力研究員
村手 源英
6月末から7月初めのうっとうしい梅雨真っ
只中にある本州を離れ、さわやかな天候を期待
して、北海道の札幌で開催された第 27 回内藤
コンファレンス「生体膜ダイナミクスと脂質生
物学[Ⅰ]」に参加しました。ところが、chairman である五十嵐靖之先生の開会の挨拶にもあ
りましたように、札幌の街は3つの意味で熱い
ものでした。1つは、6月の終わりの北海道で
あるにも関わらず最高気温が連日 30 度に達し
ていたこと、2つは、遠く南アフリカ共和国で
開催中のサッカーワールドカップに出場した日
本代表への熱い応援が続いていたこと、そして
この内藤コンファレンスの議論の熱さでした。
基調講演とそれに続く5つのセッションでは、
国内外の先生方によって、methodology から始
まり、合成、代謝、輸送と細胞内でのストー
リーから、発生、病態との関わりに至るまで、
脂質生物学の分野が非常に幅広く、かつ重なら
ないようにカバーされていました。英語力と勉
強の二重の不足で内容を十分フォローできない
場合もありましたが、それぞれが 30 分間と十分
な講演時間だったこともあって、みるみる引き
込 ま れ て い き ま し た 。個 人 的 に は 、B r u n o
A n t o n n y 先 生 の膜 の曲 率 を認 識 する A L P S
motif というタンパク質のドメインについての講
演に大変興味を持ちました。質疑応答の時間に
入るや否や、会場内に設置された複数のマイク
の前に人が並び、用意された時間内にディス
カッションが終わらないこともありました。
ポスターセッションでは、ボードの大きさが
幅 135cm、高さ 160cm もあり、これまで僕が
参加した国内外のどの学会で用意されているも
のよりも大きかったため、ポスターを作製する
に当たって、認識違いではないかと何度も確認
したほどでした。中には、この大きなボード
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いっぱいにデータを示しているポスターがいく
つもあり、自分のデータが貧相に感じて不安に
なりました。もちろんデータの量にとどまらず、
ポスターの質も非常に高く、それが証拠に規定
の1日では足りずに2日にわたってディスカッ
ションが続いているものまでありました。
そんな中で、細胞膜における種々の脂質の分
布を脂質二重層の内外層を区別して電子顕微鏡
で解析するという我々の研究に対して、内藤記
念特定研究助成金の内定を頂きましたことは、
僕にとって非常に励みとなりました。organizing committee の1人である平林義雄先生の閉
会の挨拶で、来年また同じ札幌の地で「生体膜
ダイナミクスと脂質生物学」の2回目のコン
ファレンスが開催されることが発表され、再び
参加することができるよう一層の勉励を誓いま
した。それと同時に、経済的に厳しい状況下で
あっても、1つの研究分野をコンファレンスと
助成金の形で複数回に渡って継続してサポート
していく内藤記念科学振興財団の方針に、基礎
研究に対する熱い姿勢を感じました。本コン
ファレンスは scientific な面だけでなく、hospitality に関しても非常に充実したものであった
ことを申し添えておきます。
最後になりましたが、助成金の内定をいただ
いたことを感謝しますとともに、貴財団のます
ますのご発展を心からお祈り申し上げます。
第 27 回内藤コンファレンス印象記
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第 27 回内藤コンファレンスに参加して ・
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大阪大学蛋白質研究所
特任准教授
三間 穣治
サッカー W 杯も佳境の 2010 年6月 29 日∼
7月 2 日、北海道札幌シャトレーゼガトーキン
グダムで開催された第 27 回内藤コンファレン
ス「生体膜ダイナミクスと脂質生物学[I]」
に参加する機会をいただきました。
実は正直なところ、今回参加を申し込むまで、
恥ずかしながら「内藤コンファレンス」につい
て、ほとんど何も知りませんでした。私自身、
昨年は、3年間の海外ポスドク生活を経て阪大
蛋白研で独立グループを立ち上げ始め、これか
ら学会・シンポジウムに顔を出し存在もアピー
ルせねば、と思い出していました。ちょうどそ
の時期が、本コンファレンスの一般ポスター募
集が開始された頃だったと思います。偶然にも、
蛋白研玄関ホールをトボトボと歩いていると、
自分の研究テーマそのものと言っていい
「Membrane Dynamics ・生体膜ダイナミクス」
の大きな文字が踊るポスターが目に飛び込んで
きました。見ると、自分と研究トピックが一致
するだけでなく、国内外からの豪華な招待講演
者リスト、さらには「参加費、宿泊費、食事代
不要」、「優秀ポスター発表者に研究助成」の魅
力的なフレーズの連続。そのままの勢いで、す
ぐに要旨をまとめて参加申し込みをしたと思い
ます。
実際に、札幌に着いて会議が始まってからの
4日間は、予想を上回る非常に濃厚で実りの多
いものとなりました。「脂質代謝、脂質シグナ
ルと病態、脂質トランスポーター」といった
セッションでは、多々勉強不足も思い知らされ
ましたが、膜タンパク質・脂質のダイナミクス
を探る方法論の最新の動向を知る、非常に良い
機会となりました。一方、「膜形態制御と極性
形成」のセッションでは、Bruno Antonny 博
士(CNRS, France)による「オルガネラ膜変
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76
形を感知・制御するタンパク質モチーフ」につ
いての総論をはじめ、より自分の研究プロジェ
クトに近い最先端の研究動向を肌で感じるとと
もに、自分自身の研究を今一度、分野全体から
見つめ直す良い機会となりました。そして、自
分自身のポスター発表では、幸運にも多くの
方々と議論ができ、「膜融合研究が、SNARE
仮説から大きな概念的な転換期を迎えているこ
と」、「試験管内完全再構成系が、膜ダイナミク
ス研究において有用であること」をアピールし、
逆に自分では気付かなかった多くの貴重な助
言・アイデアも頂くことができました。加えて
今回は、2人相部屋の宿泊スタイルという内藤
コンファレンスならではの幸運もありました。
ルームメイトとして樺山一哉博士(東海大・糖
鎖科学研究所)と知り合う機会を得、彼からは
同じ若手研究者として様々な刺激を受けたこと
はもちろん、彼の類い稀なキャラクターのおか
げで、非常にアクティブかつ快適な4日間の内
藤コンファレンスを過ごせたのかな、と思って
います。
最後になりましたが、五十嵐靖之先生をはじ
め組織委員の先生方、関係者の皆様、内藤記念
科学振興財団の皆様に、この素晴らしい機会を
下さり重ねて感謝申し上げます。来年の「生体
膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅱ]」にも是非
とも参加し、本研究領域のさらなる発展の一端
を、少しでも担うことが出来れば、と思ってお
ります。
第 27 回内藤コンファレンス印象記
・
第 27 回内藤コンファレンスに参加して ・
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帝京大学薬学部
助教
岡 沙織
この度、初夏の札幌で4日間開催された、第
27 回内藤コンファレンス「生体膜ダイナミクス
と脂質生物学[Ⅰ]」に参加させていただきまし
た。東京は梅雨の真っただ中なのに申し訳ない
と思いつつも、せっかく演題が採択されたので、
楽しんで参加することにしました。今回会場と
なった「シャトレーゼ
ガトーキングダム札幌」
は、学生時代に友人と遊びに来たこともあり、
懐かしい気持ちになりましたが、このような会
議が出来る設備があったとは知りませんでした。
さて、コンファレンスですが、一日目夕方の
プレナリーレクチャーから始まり、4日目の午
前中まで英語でシンポジウムがあり、ポスター
セッションは2日目と3日目の夕食後(夜9時
まで!)となかなか忙しいスケジュールでした
が、シンポジストの先生方は第一線の研究者ば
かりで、このような機会は滅多にないため、大
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77
変勉強になりました。テーマも、脂質ダイナミ
クスや細胞内輸送、トランスポーター、膜形
態・極性の形成、脂質シグナリングと幅広く、
普段の学会ではあまり接点がない分野の発表を
聴いて、視野が広がったり、自分の研究のヒン
トになったりと、有意義な時間を過ごすことが
出来ました。一方で、自分自身の知識の少なさ
や英語力の未熟さも痛感しました。もっと幅広
いバックグラウンドの習得と英語力の向上が必
要であると感じました。ポスターセッションで
は、会場も広く時間も十分に取られており、活
発な論議が至る所でなされていました。自分と
同年代の研究者が優れた研究内容を報告してい
るのを見て、自分ももっと頑張らなければと研
究に対するモチベーションが上がるのを感じま
した。また、一日の終わりには部屋でくつろい
だり温泉に入ったりして、快適に過ごしていま
したが、中にはプールで泳いだり、真剣に卓球
をしていた先生もいらっしゃったようです。研
究者にはバイタリティーが必要であることを改
めて認識しました。このコンファレンスの組織
委員長である北海道大学の五十嵐靖之先生が開
会の挨拶でおっしゃっていたように、会議の前
日まで 6 月としては珍しく夏日であった札幌の
天気や、日本がベスト 16 入りしたサッカー
ワールドカップに負けない位、ホットな会議
だったと思います。
最後に、このような有意義な学会に参加する
機会を与えて下さった組織委員の方々と内藤記
念科学振興財団の皆様に御礼申し上げます。自
分にとって大変貴重な経験となりました。有り
難うございました。
第 27 回内藤コンファレンス印象記
・
第 27 回内藤コンファレンスに参加して ・
・
東北大学大学院薬学研究科
助手
井上 飛鳥
内藤コンファレンスでは、私たち若手が分野
のトップランナーと缶詰状態でサイエンスを議
論できるという、すばらしい体験を得ることが
できました。サイエンス以外にも、ホスピタリ
ティルームでのざっくばらんな会話、温泉での
「裸の付き合い」、ワールドカップの応援(パラ
グアイに惜敗でしたが)と、親睦を深める機会
が多数ありました。
コンファレンスのテーマは「生体膜ダイナミ
クスと脂質生物学[Ⅰ]」でして、細胞膜構成
因子からメディエーターとしての脂質の機能ま
で広い分野をカバーしていました。分野だけで
なく研究手法も様々で、酵母や線虫、ハエと
いったモデル生物を用いた網羅的な研究から、
ヒトの病態から原因遺伝子を同定してそのメカ
ニズムに迫るというアプローチまであり、非常
に勉強になりました。
クローズドのコンファレンスということで、私
のような若手も国内外の招待講演者に話しやす
い雰囲気がありました。その中で、特に感銘深
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かった2 人 をあげさせていただきます。D r .
Lehmann はハエを使った遺伝学・逆遺伝学的手
法で生殖細胞の遊走を研究するという発表をさ
れていました。私はモデル生物を使ったエレガン
トさに感動して、発表直後に Discussion をしま
せんかとお願いしたら快く受けてくださりまし
た。その中で、重要な問題の1つが、生殖細胞遊
走を制御するゲラニルゲラニル化因子 X とその
受容体 X’の同定だということでしたので、私の
研究室で開発した受容体アッセイ系を説明した
ところ、非常に興味を持ってくださり、応用範囲
を広げるためのヒントをいただきました。もう一
人はDr. Hla で、スフィンゴシン1 リン酸と呼ば
れる重要な脂質メディエーターの受容体を初め
て同定した方です。Dr. Hla との話の中で私がど
のように研究テーマを選んでいけばよいかとい
う内容になったときに、自身の研究生活を振り
返ってくださりました。その中で、血管内皮の研
究から COX-2 を同定したことをブレークスルー
にして、新たな分子を発見しつつも、血管という
キーワードを大事にしていることをお聞きしま
した。これらの先生方のお話から、始めはある現
象に絞って研究を行い、その中で見つけた事象
をライフワークとしていくことがいかに大切かを
あらためて認識いたしました。
今回、脂質メディエーターのリゾホスファチ
ジン酸と体毛形成についての研究内容で、内藤
記念特定研究助成金に採択していただきまし
た。本助成金を励みに研究を発展させていきた
いと思います。今後とも多数の若手の方が内藤
コンファレンスに参加し、貴重な経験を得られ
ることを期待しています。
第 27 回内藤コンファレンス印象記
・ ず議論を楽しむことができました。日頃、交流
第 27 回内藤コンファレンスに参加して ・
・
京都大学化学研究所
助教
川本 純
2010 年6月末、京都が盆地特有の蒸し暑さに
包まれるころ、いそいそと逃げるように札幌へ。
第 27 回内藤コンフェレンス「生体膜ダイナミク
スと脂質生物学[Ⅰ]」に参加させていただきま
した。生体膜上の生体分子の機能やダイナミク
スが、アルツハイマー病や血管性疾患など多様
な疾患に関わっていることが示唆されており、
生体膜や脂質に関する研究は近年めまぐるしい
発展を遂げた分野であります。しかし、未だ多
面的な理解は十分でありません。例えば、動脈
硬化症の予防や記憶に関わる生理活性物質とし
て、青背の魚に多く含まれるドコサヘキサエン
酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の
高度不飽和脂肪酸が知られており、
「頭のサプリ」
として近年注目されていますが、このような高
度不飽和脂肪酸の生体膜中での挙動や役割を分
子レベルで理解されている訳ではありません。
今回採択された我々の研究テーマは、生体膜
中においてEPA がどのような役割を担っている
のか?を明らかにすること目的とし、EPA を生
産する南極由来の特殊環境微生物(Shewanella
livingstonensis Ac10)の低温環境適応機構にお
ける EPA の役割を解析しています。高等生物に
比べて非常にシンプルな生体膜を構成し、遺伝
子の改変技術が確立している微生物を用いて、
高度不飽和脂肪酸の生理機能を解析すること
が、本研究の最大の特徴であります。今回の参加
者の多くが医学薬学関連分野の研究者であり、
微生物・生化学分野に携わる自分は、これまで
交流する機会が無かった研究背景の方々とのお
会いすることができる良い機会となりました。
当初は不安混じりの参加ではありましたが、運
営スタッフの皆様が、深夜に至るまで他の研究
者と交流しやすい環境・雰囲気作りにご尽力く
ださり、同年代の研究グループと時間を気にせ
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79
する機会が無かった方々と、このような時間を
共用できたことは、自分の研究人生の中でも非
常に有意義な時間でありました。
ポスター発表では、多くの方々に興味を持っ
て頂き、じっくり我々の研究内容や今後の展開
についてお話させて頂けたことが非常に印象的
でありました。我々の研究は、EPA 含有リン脂
質を低温環境適応に要求する特殊環境微生物の
生体膜において、EPA 含有リン脂質がある種の
ポーリンタンパク質の立体構造形成を促進する
機能を有することを示しました。また、蛍光ラ
ベルした EPA アナログ含有リン脂質が細胞分
裂サイトに局在することを報告させていただき
ました。高度不飽和脂肪酸の生理機能の解明を
目指してはおりますが、今シンポジウムでは高
等生物における高度不和飽和脂肪酸の生理的役
割について、近々の知見を直に伺うことができ、
これまでに増して我々の研究を発展させなけれ
ばならない、また今回知り合えた方々と切磋琢
磨し、互いに発展していこうと、新たな気持ち
で自らの研究を顧みることができました。
最後に、今シンポジウムを企画・運営された
組織委員、内藤記念科学振興財団スタッフの皆
様に厚く御礼申し上げさせていただくとともに、
皆様と再会できる機会を楽しみに、日々を過ご
して参りたいと思います。
左が筆者
第 27 回内藤コンファレンス印象記
燃えるような暑さであった札幌
理化学研究所脳科学総合研究センター
研究員
金 然正
8月の日本列島は連日猛暑日が続いています
が、第 27 回内藤コンファレンス「生体膜ダイナ
ミックスと脂質生物学[Ⅰ]」が開催されました
6月末の札幌も例外なく暑い天候でした。来日
12 年目となり、湿度が高い日本の夏を12 回も経
験しましたが、今年の夏は特に暑い夏でした。
本大会組織委員長であります、五十嵐靖之先生
の opening remark でのお話のように、今年の
北海道の夏はまさに異常とも言える暑さであり
ましたが、コンファレンスの熱気はこの暑さを
はるかに上回るものでした。
来日後、私はこれまで分子生物学的手法を土
台に生命現象をめぐる分子メカニズムの解明に
励んできました。研究対象は、分子病態の解明
がほとんどであり、多くは細胞の情報伝達系の
解析とそれに伴う遺伝子発現の変動が主な内容
でした。分子生物学的接近方法は生命現象のメ
カニズムを数多く解明してきました。DNARNA-タンパク質に至る central dogma はその
言葉通り分子生物学の中心概念であり、今まで
私の中では、ここに脂質分子が入る余地はあり
ませんでしたし、脂質研究は古い生化学の一分
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80
野として考えてきました。しかし、今回の内藤
コンファレンスは脂質分子の新鮮な一面に、私
は出会えました。Session A では分子生物学的
手法を用いた脂質分子の機能解析、脂質分子・
膜構造の物理化学的解析、質量分析技術を応用
したイメージングなど、挑戦的でかつ革新的な
技術から、脂質分子の謎がひとつずつ解明され
ます。脂質生物学は全然古くなく、むしろ新し
く進歩している学問であると思いました。特に、
最終日の清水孝雄先生の講演に、私は深い感銘
を受けました。リン脂質分子種の非対称性と多
様性のメカニズムを語る清水先生の言葉は、
1950 年代にリン脂質の生合成を発見した
Eugene Kennedy 先生とリン脂質多様性につな
がる Lands cycle を提唱した William E. M.
Lands 先生との会話のように聞こえました。ま
さに古き言葉との交信でした。また、poster
session の白熱した議論は札幌の会場をさらに
暑くした感じでした。
今回、内藤記念特定研究助成金に採択してい
ただいた研究は、脂質ラフトの構成とエネル
ギー代謝の相関に関するものであります。果た
して、どの程度脂質生物学に近付けることが出
来るのか、危惧であり期待でもあります。特に
暑かった今年の夏もあと残り少ないですが、情
熱をもち邁進し、兎も角、論文を書きたいと思
います。最後に本コンファレンス及び研究助成
金に厚いご支援下さいました、内藤記念科学振
興財団に深く感謝するとともに、さらなるご発
展をお祈り申し上げます。
第 27 回内藤コンファレンス印象記
内藤コンファレンス参加記
高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所
研究員
工藤 紀雄
第 27 回内藤コンファレンス「生体膜ダイナミ
クスと脂質生物学[Ⅰ]」に参加させて頂きあり
がとうございました。札幌郊外のリゾートホテル
で、4 日間にわたって国内外の研究者の方々の講
演が朝から晩まであり、大変勉強になりました。
また、ポスター発表も厳選された内容で、参加
者の方々が真剣に研究に取り組んでいることが
感じられ、刺激を受けてまいりました。
私は、脂質セラミド選別輸送タンパク質
CERT の脂質輸送ドメイン(START ドメイン)
の立体構造を決定し、CERT の脂質選択機構や、
脂質膜との相互作用機構について研究を行って
きました。今回は、この研究内容でポスター発
表させていただきました。長年セラミド輸送の
研究を続けてこられた感染研・花田先生と共同
研究させていただいた成果です。
私は、構造生物学を専門としており、タンパ
ク質を結晶化し、X線結晶解析法によって立体
構造を決定する実験を続けています。解析で得
られた立体構造をもとに、タンパク質の構造と
機能について研究するのが仕事です。この分野
では、タンパク質の1アミノ酸の違いで活性が
変わることや、タンパク質の部分構造(ループ
部分やαヘリックスなど)が変化することなど、
非常に細かな変化を観察し、解析していきます。
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そのため、生物の全体像、つまり脂質の合成経
路とか、輸送経路などといった大きな流れでは
なく、タンパク質個々の反応の詳細を考えてい
ることが多く、脂質生物学をご専門とされる
方々とは少し異なる分野の人間です。また、タ
ンパク質の結晶化は難しく、結晶化のための試
行錯誤に時間がかかるため、普段は、タンパク
質の結晶化をどう進めるかばかりを考え、実験
を続けています。そのため、どうしても脂質生
物学分野の勉強がおろそかになりがちです。今
回、コンファレンスに参加し、一線の脂質研究
者の方々の講演を聞くことで、脂質生物学の現
状について理解を深めることができました。
また、今回のコンファレンスでは、構造生物
学の分野からは、播磨理研の吾郷日出夫先生や、
フランスの Bruno Antonny 先生の講演があり
ました。吾郷先生は、構造生物学の概説から最
新の研究成果までをお話しされ、Antonny 先
生は、membrane curvature の研究について紹
介されていました。同じ構造生物学を専門とさ
れている先生方であることから、すでに論文を
読んで研究内容を知っているとはいえ、一線の
研究を続けていらっしゃる方々の講演を聞き、
直接お話させていただくことができ、大変感銘
を受けました。
最後になりましたが、立派な賞を頂きありがと
うございました。内藤記念特定研究助成金に採
択されたことを励みとし、今後も努力を怠らず、
日々実験・研究を進めていきたいと思います。
どうもありがとうございました。
第 27 回内藤コンファレンス印象記
内藤コンファレンスに参加して
九州大学大学院理学研究院
特別准教授
谷 元洋
この度、第 27 回内藤コンファレンスに参加す
る機会を与えていただき、大変嬉しく思います。
今回のテーマは、「生体膜ダイナミクスと脂質
生物学」で、現代脂質生物学の最先端の情報に
触れることができた大変濃密で素晴らしい会議
であったと思います。また、日本で最も爽やか
且つ美しい場所の一つである6月の札幌とい
う、非常に快適な環境で行われた会議となりま
した。
私は、これまでにスフィンゴ脂質の脂質生化
学を基盤として、スフィンゴ脂質代謝酵素の精
製、細胞内局在制御機構やスフィンゴ脂質の生
物機能を、動物細胞及び出芽酵母を用いて研究
を行ってきました。その中で、哺乳動物の中性
セラミダーゼの遺伝子クローニングを行ったこ
とを皮切りとして、「スフィンゴ脂質シグナリ
ング分子が細胞のどこでどのようにして産生さ
れるのか?」というスフィンゴ脂質代謝マシー
ナリーに関する研究を行ってきました。また、
酵母遺伝学を応用したスフィンゴ脂質の生物機
能の研究を、この何年かで集中して取り組んで
きました。本コンファレンスで発表させていた
だいた内容は、酵母のスフィンゴ脂質の構造と
機能の相関に関する研究でした。酵母を実験モ
デルとしてスフィンゴ脂質を扱うことに関して
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は、まだまだ不慣れな点がたくさんありました
ので、今回のコンファレンスではたくさんの有
益なアドバイスをいただけたと感じています。
特に、酵母のスフィンゴ脂質研究において最前
線を歩んでおられるジュネーブ大学の Howard
Riezman 先生とのディスカッションは、私に
とって大変意義深いものとなりました。
今回のコンファレンスは、新しい脂質研究の
最前線の潮流を肌で感じることができた貴重な
機会になったと思います。脂質研究は、その材
料の扱いにくさから、派手な研究展開というの
が、なかなか難しい分野であるという印象を受
けます。しかしながら、本コンファレンスに出
席して、「細胞における脂質のダイナミズムを
ダイレクトに捉える事ができるようになってき
たこと」や「グリセロリン脂質、スフィンゴ脂
質において脂肪酸の鎖長等のわずかな構造の違
いが、これらの生理機能を規定する重要なファ
クターであることがわかってきた」等、脂質研
究は着実に新しい局面に差し掛かっていること
を強く実感しました。このような展開は、多様
で複雑な構造を持つ生体膜の構成メカニズムと
生物機能という非常に根幹的な問題に対する新
たなブレークスルーを予感させます。その意味
でも来年また同テーマで開催される内藤コン
ファレンスにも大きな期待をもっています。
最後となりましたが、このような貴重な機会
を与えて下さった組織委員の先生方、ならびに
内藤記念科学振興財団の皆様に深く感謝し、御
礼申し上げます。
第 27 回内藤コンファレンス印象記
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第 27 回内藤コンファレンスに参加して ・
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東京工業大学フロンティア研究機構
特任助教
中戸川 仁
6月 29 日∼7月2日、この時期の北海道と
は思えない例外的な暑さの中、札幌郊外にて開
催された第 27 回内藤コンファレンス「生体膜
ダイナミクスと脂質生物学[I]」に参加させ
ていただきました。本コンファレンスは、
“脂質”というキーワードで括られた様々な生
命現象や新たな技術開発に関する多彩かつハイ
レベルな講演で構成されており、非常に濃密な
時間を過ごすことができました。
私は、出芽酵母を用いてオートファジーと呼
ばれるダイナミックな膜動態を伴う細胞内成分
の大規模な分解系の研究をしています。特に、
分解すべきものを隔離して、リソソームあるい
は液胞に輸送するオートファゴソームという二
重膜胞の形成機構の解明に取り組んでいますが、
そのメカニズムは、膜形成のモードや膜の材料
となる脂質分子の由来など、根本的な問題を含
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めて未だ謎に満ちており、様々な知識や情報を
取り込み、様々な視点からの解析を要する段階
にあるテーマです。当然、脂質分子の性質や動
態に関しても、最新の知見や解析技術、新たな
概念を含む講演を聴くことは自身の研究を進め
る上でも大変重要です。しかしながら、定例的
に参加する学会ではどうしてもオルガネラバイ
オロジー、メンブレントラフィック、タンパク質
分解等の内容に偏りがちで、脂質分子そのもの
に着目した研究などに関する講演を聴く機会は
なかなか持つことができずにいました。こういっ
たこともあり、脂質生物学に特化しつつ、ト
ピックが多岐にわたる本コンファレンスは、私
にとってとても意義深い機会となりました。ま
た、ポスター発表も素晴らしい内容が多く、と
ても勉強になり、良い刺激にもなりました。自
身の研究についても、多くの他分野の先生方に
聞いていただくことができ、また今後の研究の
進展に有益な助言も賜ることができました。
本コンファレンスのような、財団が主催する
会には初めて参加させていただいたのですが、
熟練した司会者によるスムーズな会の進行、美
味しい食事、また深夜まで議論ができる(その
後はワールドカップの観戦も!?)ホスピタリ
ティールームを設置して下さったりと、とても
快適に過ごすことができ、講演にも集中でき、
また多くの方々と新たに親交を深めることがで
きました。
このように本コンファレンスは、私にとって
とても貴重な経験となりました。最後になりま
すが、このような機会を与えて下さった組織委
員会の先生方、内藤記念科学振興財団の皆様に、
深謝し御礼申し上げます。
第 27 回内藤コンファレンス印象記
露天風呂でサイエンスが飛び交う
北海道大学大学院先端生命科学研究院
特任准教授
光武 進
今年の札幌は6月終わりから気温が高く、第
27 回内藤コンファレンスが開かれた6月下旬は、
札幌にしては「夏らしい」気候だった様に感じ
ます。本コンファレンスは、シャトレーゼガトー
キングダムで行われ、私の家から比較的近い為
に、
「自転車で行こうか」などとはじめは気軽な
気分で参加しました。妻は近所で開催される学
会に「通えるんじゃないの」
(≒帰って子供をお
風呂に入れなさい)と言ってましたが、私は「こ
の学会は泊まる事に意味があるんだよ」と説得
して本コンファレンスに参加したのでした。この
ときは、正直「泊まる事」にこれほどの大きな意
味があるとは思っていませんでしたが……。学
会初日は、Spener 先生のPlenary Lecture を聞
き、脂質研究の世界が広がりつつあり、疾患研
究との接点がより一層増えて来ている事を感じ
ました。Welcome Reception では、少人数の学
会の良さで、様々な先生とお話をする事ができ
大変楽しい時間を過ごす事ができました。この
学会の最大のユニークな点は、Hospitality room
の存在が挙げられると思います。飲み物が揃っ
た2次会会場を準備して頂き、久しぶりに会っ
た仲間と飲み、今日知り合った先生と飲み、論
文の中で憧れていた先生と話し、大変有意義な
夜を過ごす事が出来ました。いつもなら、
「終電
が……」となるのが常ですが、エレベーターで登
ればすぐ寝床ですから、心ゆくまで話をする事
が出来ました。また、初日は、ワールドカップ
サッカー決勝リーグ日本 vs パラグアイ戦でした。
午前1時過ぎまで、みんなで観戦出来たのも楽
しい思い出になりました。この学会のもう一つ
の特徴は、温泉大浴場がある事だと思います。
露天風呂に行けば、そこにも招待講演の先生が
いらして、色々お話を伺う事が出来ました。露
天風呂で、サイエンスが飛び交っている様子は、
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世界を探してもこのコンファレンスしか見られ
ないんじゃないでしょうか? ここまで書くと
夜の話が多くなっているのですが、もちろん昼
間も大変充実しておりました。招待講演のどれ
もが素晴らしい講演で、素晴らしい事に未発表
の最新 data を持って来ている講演者の方が非常
に多く印象的でした。連日夜更かしをしている
にも関わらず、眠気など全く感じさせない素晴
らしい講演ばかりでした。脂質研究と言っても
分野が広い為に、自分の研究分野と少し距離の
ある話もありましたが、一流の研究は、分野を
超えて人に感動を与えるものだと言う事を痛感
しました。また、本コンファレンスで刺激的だっ
たのは、ポスター発表の質の高さでした。自分
と同世代の研究者が、とても良い仕事をしてい
る様子や、大変根気のいる仕事を成し遂げてい
る様子は、非常に励みになりました。最終日に
は、特定研究助成金候補者に選んで頂き、これ
も今後の大きな励みになります。終わってしま
えば大変短く感じましたが、サイエンスにどっ
ぷり浸かった、密度の濃い思い出深い経験にな
りました。最後になりましたが、内藤記念科学
振興財団の皆様のHospitality 溢れる、コンファ
レンス運営に感謝申し上げたいと思います。