サメ肉の特性評価およびその加工利用

サメ肉の特性評価およびその加工利用
〔平成 20~22 年度〕
野田誠司・佐藤 健・三枝弘育
(食品技術センター)
-------------------------------------------------------------------------------【要 約】サメ肉は低温保存により異臭を抑制でき,水晒しにより更に効果はあるが,冷
凍保存によりたんぱく質が変性して硬くなる。しかし,糖の添加かつpH 調整により,サ
メ肉の冷凍保存かつ柔らかくてしなやかなサメ肉加工品の製造が可能となる。
-------------------------------------------------------------------------------【目 的】
島しょではサメ類は混獲後,廃棄されている場合が多く,食材としての利用は少ない。
その理由としてサメ類が保存中に生臭さやアンモニア(NH3)が生成し易いこと,および原
料特性など利用に関する知見が少ないことが挙げられる。本研究では,サメ肉の貯蔵中の
品質変化および加工性などの特性を明らかにし,その加工技術の開発および利用の推進を
図る。
【成果の概要】
1.水晒しによるサメ肉中の成分変化:サメ肉中にはトリメチルアミンオキシド(TMAO)
および尿素がそれぞれ約1%含まれている(表1)
。図1に示した製造方法によって異な
る形状のサメ肉を水晒し後これらの含有量を測定したところ,ミンチ状で水晒ししたも
のが最も低かった(図2)
。表1に示したサメ種はいずれも同様な傾向であった。
2.TMA,NH3 生成の抑制条件の検討:ネズミザメの無晒し肉では(図3)
,5℃保存で7日
間は NH3 が緩やかに増加したが,TMA は生成せずに異臭は抑えられていた。一方水晒し肉
は(図4)
,5℃で 14 日間は異臭が抑えられた。しかし,20℃では2日以内にいずれも
異臭が発生した。また-25℃では6ヵ月間経過してもいずれのサメ肉も TMA,NH3 は増加
せず異臭は抑えられていた(図未記載)
。すなわち,TMA および NH3 生成の抑制には,冷
凍保存あるいは冷蔵保存など低温で保存することが有効であり,水晒しは TMAO や尿素を
減量させるため,異臭の抑制効果には更に有効な方法であった。
3.無晒し肉および水晒し肉の加熱ゲルの物性:2ヵ月間冷凍保存したネズミザメの無晒
しおよび水晒し肉を原料として加熱ゲルを作製した(図5)。作製した加熱ゲルの物性を
測定したところ,冷凍前の加熱ゲルよりも破断強度が増加して硬くなり,破断凹みが減
少してしなやかさが損なわれる傾向がみられた。更に無晒し肉よりも水晒し肉の方が著
しく硬くなり,しなやかさも損なわれた(図6,図7)
。
4.Ca-ATPase 活性と加熱ゲル物性との関係:ネズミザメの無晒し肉から抽出した筋原繊
維たんぱく質(Mf)の Ca-ATPase 活性とその加熱ゲル物性との関係を図8に示した。冷
凍保存期間が長くなる程 Ca-ATPase 活性は減少し,ゲル物性も硬く,しなやかさを損な
うことが明らかになった。
5.サメの種類によるたんぱく質変性:サメの種類による冷凍保存中の Ca-ATPase 活性の
変化を図9に示した。冷凍前の初期値はサメの種類によって異なるが,冷凍保存により
Ca-ATPase 活性値は減少した。これらの中ではヨシキリザメが著しく速くたんぱく質変
性し,その他のネズミザメ,アオザメ,フトツノザメは比較的緩やかにたんぱく質が変
性することを明らかにした。
6.冷凍保存によるたんぱく質変性の抑制の検討:ネズミザメの無晒し肉および水晒し肉
それぞれにソルビトール(Sor)の添加または炭酸水素ナトリウム(重曹)によりpH6.8
±0.2 に調整して2ヵ月間冷凍保存し,
それらの Mf の Ca-ATPase 活性を測定したところ,
Sor 添加のみおよび Sor の添加・pH 調整を併用したサメ肉は無晒しおよび水晒しともに
活性値の低下が抑制された(図 10,図 11)。
7.糖の添加およびpH 調整による加熱ゲル物性:ネズミザメの無晒し肉および水晒し肉
に Sor の添加および Sor 添加・pH 調整を併用して2ヵ月間冷凍保存後,その加熱ゲル
物性を測定した。冷凍保存によって破断強度はほとんど変化なく,柔らかさが保持され
た。一方,破断凹みは Sor・pH 調整を併用した方が値の低下が抑制され,サメ特有のし
なやかさが保たれた。また無晒し肉および水晒し肉のいずれも同様に品質の低下を抑制
できることが明らかになった(図 12,図 13)
。
【成果の活用・留意点】
1.水晒しの煩雑な作業しなくても,サメ肉の落し身に糖や重曹を直接に混合することに
よって冷凍食材が容易に製造可能となる。
2.島しょの漁協などの関連機関に島しょ農林水産総合センターと連携して,また東京都
蒲鉾水産加工業協同組合などの製造者への研究会などを通じて,サメ肉の保存および加
工技術の普及を推進していく。
【具体的データ】
表1 サメ肉中の主な成分
たんぱく質 脂 質
炭水化物 灰 分
TMAO
尿 素
フトツノザメ
74.6
23.4
0.2
0.2
1.6
840
1300
ネズミザメ
70.4
23.9
4.1
0.2
1.4
760
1100
イタチザメ
77.2
20.9
0.6
0.2
1.2
940
1800
クロトガリザメ 78.2
20.3
0.4
0.2
1.0
1300
130
1800
76.5
23.0
<0.1
<0.1
0.5
870
1200
TMAO・尿素の単位は mg/100g
サメ肉
ミンチ、ブロック
(
3
回
)
水晒し
脱
30 分間)
(氷水,
水(脱水機)
水晒し肉
図1 水晒し肉の製造工程
1200
1200
1000
1000
800
800
600
600
400
400
200
200
0
0
無晒し肉
無晒し肉
ブロック
ブロック
ミンチ
ミンチ
(5×5cm)
図2 水晒しによる TMAO,尿素量の変化
尿素 (mg/100g)■
*一般成分の単位は g/100g
TMAO(㎎/100g)
TMAO (mg/100g)□
ハチワレ
尿素(㎎/100g)
水 分
100
無晒し
80
3(mg / 100g)
NHNH
3(㎎/100g)
NH
NH
3(㎎/100g)
3(mg / 100g)
100
20℃
60
5℃
40
20
水晒し
80
60
20℃
40
5℃
20
0
0
0
5
10
0
15
5
15
保 存 期 間 (日)
保 存 期 間 (日)
50
50
無晒し
40
水晒し
TMA(㎎/100g)
TMA(mg / 100g)
TMA(㎎/100g)
TMA(mg / 100g)
10
20℃
30
20
5℃
10
40
30
20
20℃
10
5℃
0
0
0
5
10
0
15
5
保 存 期 間 (日)
図4 保存中の水晒し肉の TMA,NH3
冷 凍
水晒し
(無晒し肉)(ミンチ)
方法は図1に
15
保 存 期 間 (日)
図3 保存中の無晒し肉の TMA,NH3
サメ肉
10
-25℃
解
凍
すり身
5℃24 時間
0~2ヵ月間
従う
塩 2.5%
水適量
攪拌・充填
加熱ゲル
加 熱
(85℃20 分間)
図5 加熱ゲル作製フローシート
10
1000
-25℃
水晒し
破破断凹み(mm)
断 凹 み (mm)
破断強度(g)
破断
強 度 (g)
-25℃
800
600
400
無晒し
200
8
無晒し
6
4
水晒し
2
0
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
冷 凍 保 存 期 間(月)
図6 冷凍肉の破断強度変化
0
0.5
1
1.5
2
冷 凍 保 存 期 間(月)
図7 冷凍肉の破断凹み変化
2.5
Ca-ATPase 活性(μM/min/mg)
Ca-ATPase活性(μ
M / min / mg)
Ca-ATPase 活性(μM/min/mg)
Ca-ATPase活性(μ
M / min / mg)
0.2
-25℃
冷凍前
0.15
12 日
0.1
1ヵ月
0.05
3ヵ月
0
0
500
1000
0.7
-25℃
0.6
ヨシキリザメ
0.5
0.4
0.3
ネズミザメ
0.2
フトツノザメ
0.1
アオザメ
0
1500
1
10
破断強度 / 破断凹み (g/cm)
Sor 添加
0.15
Sor+pH
0.1
pH 調整
0.05
無処理
-25℃
Ca-ATPase 活性(μM/min/mg)
0.2
図9 各サメ肉の酵素活性変化
Ca-ATPase活性(μ M / min / mg)
Ca-ATPase活性(μ M / min / mg)
Ca-ATPase 活性(μM/min/mg)
図8 冷凍による酵素活性と物性変化
無晒し
0
0
0.5
1
1.5
2
0.2
水晒し
Sor+pH
0.15
Sor 添加
0.1
0.05
無処理
0
0
2.5
0.5
1
1.5
2
2.5
冷 凍 保 存 期 間(月)
図 10 各処理による酵素活性変化
図 11
Sor:ソルビトール
各処理による酵素活性変化
Sor:ソルビトール
Sor:ソルビトール
500
10
400
Sor+pH
Sor 添加
300
Sor+pH
200
100
破破断凹み(mm)
断 凹 み (mm)
破断強度(g)
pH 調整
-25℃
冷 凍 保 存 期 間(月)
破 断 強 度 (g)
100
冷 凍 保 存 期 間(日)
-25℃
0
8
Sor+pH
Sor+pH
6
Sor 添加
Sor 添加
4
2
-25℃
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
冷 凍 保 存 期 間(月)
図 12 各処理による破断強度変化
●■:無晒し
○□:水晒し
0
0.5
記号は図 12 と同様
1.平成 22 年度東京都立食品技術センター成果発表会要旨集
3.東京都立食品技術センターだより No.12 号
1.5
2
2.5
図 13 各処理による破断凹み変化
【発表資料】
2.東蒲新聞 平成 22 年 11 月 30 日「第 358 号」
1
冷 凍 保 存 期 間(月)