次世代を担う創薬・医療薬理シンポジウム 2012 日時:2012 年 9 月 1 日(土)午前 9 時 00 分より 会場:神戸学院大学ポートアイランドキャンパス 主催:日本薬学会薬理系薬学部会 ホームページ URL:http://jisedai.oups.ac.jp/ 実行委員長 大喜多 守 大阪薬科大学 実行委員 徳山尚吾 神戸学院大学 薬理系薬学部会若手世話人(五十音順) 天ヶ瀬 紀久子 京都薬科大学 安東 嗣修 富山大学 池谷 裕二 東京大学 石澤 啓介 徳島大学 井手 聡一郎 北海道大学 伊藤 由彦 静岡県立大学 大澤 匡弘 名古屋市立大学 小原 祐太郎 山形大学 金子 雅幸 岐阜薬科大学 亀井 大輔 昭和大学 久米 利明 京都大学 坂本 謙司 北里大学 佐藤 薫 国立医薬品食品衛生研究所 座間味 義人 岡山大学 清水 万紀子 昭和薬科大学 新谷 紀人 大阪大学 田中 直子 九州保健福祉大学 町田 拓自 北海道医療大学 中川 公恵 神戸薬科大学 中川 貴之 京都大学 中川西 修 東北薬科大学 中島 美紀 金沢大学 中道 範隆 金沢大学 行方 衣由紀 東邦大学 西奥 剛 福岡大学 西田 基宏 九州大学 久恒 昭哲 熊本大学 檜井 栄一 金沢大学 水川 裕美子 同志社女子大学 森岡 徳光 広島大学 山村 寿男 名古屋市立大学 事務局 〒569-1094 大阪府高槻市奈佐原 4-20-1 大阪薬科大学 病態分子薬理学研究室 TEL:072-690-1050(直通) FAX:072-690-1051 1 次世代を担う創薬・医療薬理シンポジウム 2012 プログラム・要旨集 目次 交通案内 3 会場案内 4 日程表 5 お知らせとお願い 6 プログラム 9 要旨集 特別講演 23 一般演題口頭発表 A 会場 25 B 会場 45 一般演題ポスター発表 65 2 交通案内 3 会場案内 B号館2F B216 B217 WC EV B212 B211 B210 情報処理 自習室 B213 P会場 B215 B会場 A会場 B214 B207 B208B209 WC B201 学生ラウンジ WC B202 EVホール B206 B205 B204 4 WC B203 日程表 発表時間 9:00 9:15 9:30 9:45 10:00 10:15 10:30 10:45 11:00 11:15 11:30 11:45 12:00 13:00 13:00 13:50 14:00 14:30 14:35 14:50 15:05 15:20 15:35 15:50 16:05 16:20 17:00 18:30 発表時間 13:00 13:07 13:14 13:21 13:28 13:35 13:00 13:07 13:14 13:21 13:28 13:00 13:07 13:14 13:21 13:28 13:00 13:07 13:14 13:21 13:28 演題分野 A会場(20演題) 中枢1 中枢2 中枢3 演題番号 A1-1 A1-2 A1-3 A1-4 A2-1 A2-2 A2-3 A2-4 A3-1 A3-2 A3-3 A3-4 座長 演題分野 B会場(20演題) 久米(京都大) 細胞内・細 中本(神戸学院大) 達 井手(北海道大) 原田(神戸学院大) 大澤(名古屋市大) 坂本(北里大) 胞間情報伝 感覚器・ 骨・呼吸器 血液・血管 演題番号 B1-1 B1-2 B1-3 B1-4 B2-1 B2-2 B2-3 B2-4 B3-1 B3-2 B3-3 B3-4 座長 小原(山形大) 新谷(大阪大) 檜井(金沢大) 山村(名古屋市大) 亀井(昭和大) 中川(神戸薬大) 昼食・世話人会 ポスター発表(P会場) 特別講演Ⅰ(久米利明) 中枢4 中枢5 A4-1 A4-2 A4-3 A4-4 A5-1 A5-2 A5-3 A5-4 檜井(金沢大) 井手(北海道大) 森岡(広島大) 特別講演Ⅱ(石澤啓介) 大喜多(大阪薬大) 心血管・腎 天ヶ瀬(京都薬大) 西奥(福岡大) 懇親会 P会場(21演題) 演題分野 腎臓・ 薬効評価 中枢1 中枢2 皮膚・感覚 器・消化器 演題番号 P1-1 P1-2 P1-3 P1-4 P1-5 P1-6 P2-1 P2-2 P2-3 P2-4 P2-5 P3-1 P3-2 P3-3 P3-4 P3-5 P4-1 P4-2 P4-3 P4-4 P4-5 座長 大喜多(大阪薬大) 中道(金沢大) 新谷(大阪大) 水川 (同志社女子大) 5 中枢6 B4-1 B4-2 B4-3 B4-4 B5-1 B5-2 B5-3 B5-4 石澤(徳島大) 行方(東邦大) 金子(岐阜薬大) 久恒(熊本大) お知らせとお願い ■参加される方へ 1.受付場所 B 号館 2 階 2.受付時間 午前 8:20~ 3.当日参加費 日本薬学会会員 3,000 円 日本薬学会非会員 4,000 円 大学院生 1,000 円 学部生 無料 4.ご昼食 大学近隣に飲食店がございませんので、B 号館 1 階カフェテリア 「ブレス」をご利用ください。 ■懇親会(原則事前申込み) 17 時より B 号館 1 階カフェテリア「ブレス」にて開催いたします。 ■若手世話人会のご案内 12 時~13 時に B207 講義室にて開催いたします。 ■優秀発表賞 演題登録時に応募された口演演題及びポスター発表の中から、それぞれ優秀発表賞を選考い たします。選考委員会による厳正な審査を行い、選考結果は懇親会にてお知らせするととも に、日本薬学会ホームページとファルマシア誌にて発表いたします。 ■優秀発表賞審査員へのお願い 当日受付の際に審査用紙をお渡しいたします。審査終了後は速やかに受付係までご提出くだ さい。 ■一般口演座長へのお願い ご担当されるセッション開始前に、次座長席にご着席ください。 1演題につき、発表 10 分・討論 5 分でお願いいたします(時間厳守) 。 ■一般口演演者へのお願い 1.発表時間は 10 分、討論時間は 5 分です。発表終了時間 1 分前にベルを 1 回、終了時間に ベルを 2 回鳴らします。時間厳守にご協力ください。また、進行は座長の指示に従ってく ださい。 2.発表データは USB メモリに入れて(USB メモリは予め各自ウィルスチェックをお願いい たします) 、発表の 30 分前までにデータ受付にご提出ください。USB メモリをお預かり 6 いたします。ご発表終了時に USB メモリをデータ受付にてお返しいたしますので、忘れ ずにお持ち帰りください。なお、データはご発表終了時に責任を持って消去いたします。 発表データは以下の形式で御作成ください。 ●windows:Microsoft Powerpoint 2010 で読み込み可能な形式で、フォントは windows 標準のもの(MS ゴシック、arial 等)のみをご使用ください。 ファイル名は必ず「演題番号-演者名.拡張子」 (例:B4-1-Koyama.pptx)として頂きま すようお願いいたします。 ●Macintosh 及び特殊な動画を使用される場合には、ご自身のノート PC をご持参ください (AC アダプタを必ずお持ちください) 。音声ファイルの使用はできません。また、D-Sub15 ピンに接続するためのアダプタが必要な場合には忘れずにご持参ください。ノート PC の場 合もデータと同様、発表の 30 分前までにデータ受付までお持ちください。 ■ポスター発表座長へのお願い ポスター発表演題の座長の先生は、ご担当されるセッション開始 5 分前までに P 会場にお越 しください。1演題につき、発表 3 分・討論 4 分でお願いいたします(時間厳守)。 ■ポスター発表演者へのお願い 1.発表時間は 3 分、討論時間は 4 分です。時間厳守にご協力ください。また、進行は座長 の指示に従ってください。 2.ポスターは A0 サイズ(ヨコ 841 x タテ 1189 mm)で作成し、演題番号をご確認のう え、所定の場所に掲示してください。演者用リボンは各ボードに用意してあります。見や すさを考え、なるべくボード上部に収まるようにご留意ください。 ポスター掲示時の注意事項 ポスター掲示用ボードは右図の通り、幅 180 cm、 高さ 180 cm (ボード板の高さは 90 cm) です。左側上部には、幅 20 cm、高さ 10 cm の演題番号 (事務局が準備)を張り付けます。 1枚のボードには2演題分 (両面で計 4 演題) のポスターを貼り付けますので、A0 サイズ 以上の掲示はお控えください。ポスターを複 数枚の用紙(A4 用紙 10 枚等)で構成される 場合、貼付可能なボード板のスペース(90 cm x 90 cm)にご注意下さい。 7 3.ポスターは 10 時までにご掲示ください。また、16 時 45 分までに撤去くださいますよう お願いいたします。17 時を過ぎても撤去されないポスターは事務局にて撤去し、廃棄い たします。 ■演者及び参加者へのお願い 本シンポジウムは、自由でリラックスした雰囲気での討論を主眼としていますので、演者を 含めた参加者の方は軽装でお越しください。なお、残暑厳しい季節でもありますので、上下 スーツやネクタイの着用はお控えいただきますようお願いいたします。 ■本シンポジウムのプログラム・要旨集の表紙写真は、作者(Photo by (c)Tomo.Yun, URL: http://www.yunphoto.net/)から許諾を得て使用しております。 8 プ ロ グ ラ ム 9 一般口演プログラム A 会場(B215 講義室) 中枢神経1 A会場 9:00~10:00 座長:久米利明(京都大・薬・薬品作用解析) 、中本賀寿夫(神戸学院大・薬・臨床薬学) A1-1 パーキンソン病モデルマウスにおける酸化型 DJ-1 結合化合物の神経保護作用の解析 ○舟山理沙 1、北村佳久 1、高田和幸 1、有賀寛芳 2、芦原英司 1 1 A1-2 京都薬大・病態生理、2 北海道大・院薬・分子生物 脳 虚 血 誘 導 性 高 血 糖 状 態 に お け る 神 経 障 害 の 発 現 と 脳 内 sodium-glucose transporter の関与 ○山﨑由衣、原田慎一、徳山尚吾 神戸学院大・薬・臨床薬学 A1-3 ATP による NMDA 誘発性ミトコンドリア膜電位破綻の阻止 ○藤川晃一、福森 良、宝田剛志、米田幸雄 金沢大院・薬・薬物学 A1-4 NMDA 神経毒性における mitochondrial uncoupling protein-2 の役割 ○福森 良、宝田剛志、米田幸雄 金沢大院・薬・薬物学 中枢神経2 A会場 10:00~11:00 座長:井手聡一郎(北海道大・薬・薬理) 、原田慎一(神戸学院大・薬・臨床薬学) A2-1 慢性炎症性疼痛モデルマウスにおける脂肪酸受容体 GPR40 の発現変化 ○西中 崇 1、松本健吾 1、里 尚也 1、中本賀寿夫 1、万倉三正 2、小山 豊 3、 徳山尚吾 1 1 神戸学院大・薬・臨床薬学、2 備前化成株式会社、3 大阪大谷大・薬・薬理 10 A2-2 ホルマリン後肢足蹠投与による脳・線条体 substance P 神経活動は疼痛反応抑制効 果を示す ○中村庸輝 1、泉 弘樹 1、清水拓海 2、中島 (久岡) 一恵 1、森岡徳光 1、仲田義啓 1 1 A2-3 広島大院・医歯薬保・薬効解析、2 広島大・薬・薬効解析 エ ト ポ シ ド の 反 復 経 口 投 与 に よ る RhoA/ERM の 活 性 化 が 腸 管 に お け る P-glycoprotein の発現および機能に及ぼす影響 ○小堀宅郎、小林真菜、原田慎一、中本賀寿夫、徳山尚吾 神戸学院大・薬・臨床薬学 A2-4 末梢神経障害モデルマウスにおける N および L 型カルシウムチャネル阻害薬シルニジ ピンの機械痛覚過敏に対する作用 ○鈴木悠馬、山本昇平、大澤匡弘、小野秀樹 名市大院・薬・中枢神経機能薬理学 中枢神経 3 A会場 11:00~12:00 座長:大澤匡宏(名市大・薬・中枢神経機能薬理学) 、坂本謙司(北里大・薬・分子薬理) A3-1 脳微小循環の機能的マッピング ○岡田沙織、高原雄史、松木則夫、池谷裕二 東京大院・薬・薬品作用学 A3-2 統合失調症モデル、新生仔期腹側海馬損傷ラットの認知機能障害のメカニズム ○矢吹 悌 1、森口茂樹 1、塩田倫史 1、中川西修 2、 小野木弘志 2、丹野孝一 2、 只野 武 3、 福永浩司 1 ¹東北大・院薬・薬理、²東北薬科大・薬理、3 金沢大・医薬保健・環境健康科学 A3-3 記憶の維持における遅発性 Arc 発現の必要性 ○中山大輔、山﨑良子、岩田浩一、松木則夫、野村 洋 東京大・院薬・薬品作用学 11 A3-4 海馬リップル波のムスカリン受容体による調節 ○乘本裕明、水沼未雅、石川大介、松木則夫、池谷裕二 東京大・薬・薬品作用学 特別講演Ⅰ A会場 14:00~14:30 座長:檜井栄一(金沢大・薬・薬物学) 天然物由来低分子量神経保護活性物質の探索研究 久米利明 京都大・院薬・薬品作用解析 中枢神経 4 A会場 14:35~15:35 座長:井手聡一郎(北海道大・薬・薬理) 、森岡徳光(広島大・医歯薬保・薬効解析) A4-1 ガランタミンによるミクログリアの Aβ貪食促進および脳内 Aβ除去 ○雨宮孝英 1、高田和幸 1、北村佳久 1、下濱 俊 2、芦原英司 1 1 京都薬大・病態生理、2 札幌医大・神経内科 A4-2 Aβ42“毒性コンホマー”の形成は細胞内酸化ストレスを誘導する ○泉尾直孝 1、久米利明 1、佐藤瑞穂 2、村上一馬 2、入江一浩 2、泉 安彦 1、 赤池昭紀 1, 3 1 京都大院・薬・薬品作用解析,2 京都大院・農・生命有機化学, 3 名古屋大院・創薬 A4-3 細胞外 HMGB1 によるミクログリアのアミロイドβ1-40 の貪食阻害作用 ○髙田哲也 1、高田和幸 1、北村佳久 1、下濱 俊 2、芦原英司 1 1 京都薬大・病態生理、2 札幌医大・神経内科 A4-4 ミクログリア細胞における骨芽細胞分化制御因子 Runx2 の発現解析 ○中里亮太、宝田剛志、米田幸雄 金沢大院・薬・薬物学 12 中枢神経 5 A会場 15:35~16:35 座長:天ヶ瀬紀久子(京都薬大・薬物治療) 、西奥 剛(福岡大・薬・薬学疾患管理学) A5-1 全般性強直間代発作発現における扁桃核アストロサイト内向き整流性カリウムチャ ネル Kir4.1 の関与 ○長尾侑紀 1、原田悠耶 1、向井崇浩 1、奥田 葵 1、藤本 恵 1、清水佐紀 1、 芹川忠夫 2、笹 征史 3、大野行弘 1 1 A5-2 大阪薬大・薬・薬品作用解析、2 京都大院・医・動物実験施設、3 渚クリニック Insulin の中枢性血糖値低下作用におけるアストロサイトの役割 ○長岡優也、大澤匡弘、山本昇平、小野秀樹 名市大・薬・中枢神経機能薬理学 A5-3 アストロサイトの機能阻害が及ぼす脊髄概日リズムへの影響 ○杉本達彦、森岡徳光、中村庸輝、中島(久岡)一恵、仲田義啓 広島大院・医歯薬保・薬効解析 A5-4 ミクログリア細胞に発現する IL-6 の時計遺伝子による発現制御 ○宝田剛志1、堀田彰悟1、榛葉繁紀2、米田幸雄1 1 金沢大院・薬・薬物学、2 日大・薬・衛生化学 13 B 会場(B216 講義室) 細胞内・細胞間情報伝達 B会場 9:00~10:00 座長:小原祐太朗(山形大・医・薬理) 、新谷紀人(大阪大・薬・神経薬理) B1-1 セラミド代謝酵素の活性制御機構の解明 ○豊村香織 1、佐々木弘恒 1、中村浩之 1、岡本 彩 2、山口直人 2、村山俊彦 1 1 B1-2 千葉大院・薬・薬効薬理、2 千葉大院・薬・分子細胞生物 HPGB のミトコンドリア融合阻害に関するアミノ酸残基の同定 ○開 菜摘 1、張 寧 1、東 信太朗 1、新谷紀人 1、片木和彦 1、井上直紀 1、 早田敦子 1,2、馬場明道 3、橋本 均 1,2 B1-3 1 大阪大院・薬・神経薬理、2 大阪大院・連合小児発達・子どものこころセ、 3 兵庫医療薬科大・薬・薬理 ERK5 依存的に誘導される p36 遺伝子は、PC12 細胞のチロシンヒドロキシラーゼタ ンパク質発現とカテコールアミン生合成に関与する ○長澤隆介1、根本 亙1、小原祐太郎1,2、守屋孝洋1、西田基宏3、石井邦明2、 中畑則道1 1 B1-4 東北大院・薬・細胞情報薬学、2 山形大・医・薬理、3九大院・薬・創薬育薬 Ifrd1 による脂肪細胞分化制御機構 ○中村由香里、檜井栄一、米田幸雄 金沢大院・薬・薬物学 感覚器・骨・呼吸器 B会場 10:00~11:00 座長:檜井栄一(金沢大・薬・薬物学) 、山村寿男(名市大・院薬・細胞分子薬効解析) B2-1 マウス気道上皮繊毛運動の細胞内 Ca2+濃度及び膜電位への依存性と K+チャネル開口 薬の作用 ○大羽輝弥1、澤田英士1、鈴木良明1、山村寿男1、大矢 進2、今泉祐治1 1 名古屋市立大・院薬・細胞分子薬効解析、2京都薬科大・薬理 14 B2-2 軟骨細胞の小胞体 Ca2+枯渇による Orai1/STIM1 の共局在と機能解析 ○伊奈山宗典1、鈴木良明1、山村寿男1、大矢 進 2、今泉祐治1 1 名古屋市立大・院薬・細胞分子薬効解析、2 京都薬科大・薬理 B2-3 破骨細胞における Ifrd1 の役割 ○家﨑高志、檜井栄一、米田幸雄 金沢大院・薬・薬物学 B2-4 酸化ストレスによる蝸牛らせん靭帯のギャップ結合機能の破綻メカニズムの解明 -難聴治療戦略の開発を目指して- ○山口太郎、荻田喜代一 摂南大・薬・薬理 血液・血管 B会場 11:00~12:00 座長:亀井大輔(昭和大・薬・医薬品評価薬学) 、中川公恵(神戸薬大・衛生化学) B3-1 甘草成分リコカルコンのウサギ血小板凝集抑制作用 ○奥田亜沙 1、岩下真也 1、小原祐太郎 1,3、菅原大貴 2、田代 匠 2、三枝大輔 2、 富岡佳久 2、守屋孝洋 1、石井邦明 3、中畑則道 1 1 東北大・薬・細胞情報薬学、2 東北大・薬・がん化学療法薬学、3 山形大・医・薬理 B3-2 Apelin シグナル抑制による MCP-1 発現誘導を介した血管成熟化の促進 ○石丸侑希 1、東野功典 1、小林浩平 1、住野彰英 1、川崎裕貴 1、笠井淳司 2,3、 吉岡靖啓 1、山室晶子 1、前田定秋 1 1 摂南大・薬・薬物治療、2 大阪大・未来戦略機構、3 大阪大・院薬・神経薬理 B3-3 レーザー誘発脈絡膜血管新生における apelin-APJ system の役割 ○笠井淳司 1, 2、上野千佳子 3、五味 文 3、中井 慶 3、里岡達也 4、吉岡靖啓 4、 山室晶子 4、前田定秋 4、西田幸二 3 1 大阪大・未来戦略機構、2 大阪大・薬・神経薬理、3 大阪大・医・眼科、 4 摂南大・薬・薬物治療 15 B3-4 ゲノムワイド解析を用いた TNF による癌悪性化メカニズムの研究 ○尾上健太郎 1、根岸英雄 2、谷口維紹 2、山口 類 1、井元清哉 1、宮野 悟 1 1 東京大・医科研・ヒトゲノム解析センター 2 東京大・生産技術研・分子免疫学分野 特別講演Ⅱ B 会場 14:00~14:30 座長:大喜多 守(大阪薬大・薬・病態分子薬理) 循環器疾患における酸化ストレス制御を基盤とする創薬研究 石澤啓介 徳島大院・ヘルスバイオサイエンス研・医薬品機能生化学 心血管・腎 B会場 14:35~15:35 座長:石澤啓介(徳島大・HBS 研・医薬品機能生化学) 、行方衣由紀(東邦大・薬・薬物学) B4-1 心虚血再灌流後の機能障害とノルエピネフリン過剰放出におけるスーパーオキシド の役割 ○小山武志 1、田和正志2、山岸紀子 1、竹越靖晃 1、 澤野達哉 1、大喜多 守 1、 松村靖夫 1 1 大阪薬大・薬・病態分子薬理、2 滋賀医大・医・薬理 B4-2 1 型糖尿病腎における炎症・近位尿細管細胞老化には高血糖および p21 が必須である ○北田研人、中野大介、西山 成 香川大・医・薬理 B4-3 Angiotensin II 誘発血管リモデリングにおける血管平滑筋細胞内 HIF シグナルの解析 ○今西正樹 1、石澤啓介 2、木平孝高 1、池田康将 1、山野範子 1、石澤有紀 1、 土屋浩一郎 2、玉置俊晃 1、冨田修平 1, 3 1 徳島大院・ヘルスバイオサイエンス研・薬理学、2 徳島大院・ヘルスバイオサイエン ス研・医薬品機能生化学、3 鳥取大・医・分子薬理学 16 B4-4 新生仔期マウス心室筋におけるアドレナリンα受容体刺激応答に関与する細胞内機序 および情報伝達経路の検討 ○濵口正悟、本多頼子、行方衣由紀、田中 光 東邦大・薬・薬物学 中枢神経 6 B会場 15:35~16:35 座長:金子雅幸(岐阜薬大・薬物治療学) 、久恒昭哲(熊本大・院生命・薬物活性学) B5-1 痛みによる不快情動生成における背外側分界条床核内コルチコトロピン放出因子の 役割 ○小関加奈 1、原 大樹 1 、井手聡一郎 1 、大野篤志 1 、玉野竜太 1 、圓山智嘉史 1 、 中 誠則 1 、出山諭司 1、金田勝幸 1 、吉岡充弘 2 、南 雅文 1 1 B5-2 北海道大院・薬・薬理、2北海道大院・医・神経薬理 不安様行動および疼痛感受性における分界条床核内ノルアドレナリン神経伝達の役 割 ○眞嶋悠幾、中 誠則、里吉寛、井手聡一郎、南 雅文 北海道大院・薬・薬理 B5-3 前脳 Fos 発現を指標とした注意欠陥/多動性障害モデル SHR の病態解析:側坐核ドパ ミン D1 および D2 受容体の機能失調 ○増井 淳、岡野元紀、水口裕登、清水佐紀、南本翔子、吉原千香子、江川美加、 多田羅絢加、大野行弘 大阪薬大・薬・薬品作用解析 B5-4 長期隔離飼育マウスの神経科学的コミュニケーション異常 ○荒木良太 1、吾郷由希夫 1、笹賀あすか 1、西山早紀 1、田熊一敞 1、松田敏夫 1, 2 1 大阪大院・薬・薬物治療、2 大阪大院・5 大学連合小児発達 17 ポスター発表プログラム 腎臓・薬効評価 P 会場 13:00~13:42 座長:大喜多 守(大阪薬大・薬・病態分子薬理) P1-1 糖尿病性腎症進展に対するニトロソニフェジピンの抑制作用 ○布 あさ美 1、石澤啓介 1、藤井聖子 1、櫻田 巧 2、山野範子 2、石澤有紀 2、 今西正樹 2、鈴木雄太 1、木平孝高 2、池田康将 2、土屋浩一郎 1、玉置俊晃 2 徳島大院・ヘルスバイオサイエンス研・1 医薬品機能生化学・2 薬理学 P1-2 虚血性急性腎障害における NADPH oxidase の役割と腎交感神経系の関与 ○中林伸介 1, 矢沢麻貴 1, 田中亮輔 1, 筒居秀伸 1,2, 大喜多 守 1, 雪村時人 2, 松村靖夫 1 1 P1-3 大阪薬大・薬・病態分子薬理、2 大阪大谷大・薬・臨床薬理 腎虚血再灌流障害における 17β‐エストラジオールの腎交感神経系を介した保護効果 について ○矢沢麻貴 1、田中亮輔 1、筒居秀伸 1,2、丹波貴雄 2、中林伸介 1、大喜多 守 1、 雪村時人 2、松村靖夫 1 1 大阪薬大・薬・病態分子薬理、2 大阪大谷大・薬・臨床薬理 P1-4 シスプラチン誘発性腎障害に対するα2 受容体拮抗薬の腎保護効果について ○森 有希絵 1、久樹奈津美 1、筒居秀伸 1,2、丹波貴雄 1、東條歩美 1、田中亮輔 2、 大喜多 守 2、松村靖夫 2、山形雅代 1、雪村時人 1 1 大阪大谷大・薬・臨床薬理、2 大阪薬大・薬・病態分子薬理 P1-5 虚血性急性腎障害に対するα2 受容体遮断薬の腎保護効果について ○丹波貴雄 1、東條歩美 1、筒居秀伸 1,2、久樹奈津美 1、森 有希絵 1、田中亮輔 2、 大喜多 守 2、松村靖夫 2、山形雅代 1、雪村時人 1 1 P1-6 大阪大谷大・薬・臨床薬理、2 大阪薬大・薬・病態分子薬理 分岐鎖グリセロールオリゴマー修飾によるフェノフィブラートの物性および薬物動 態の改善に与える影響 ○渡邊勝志1、宮本理人12、冨田洋輔1、河野 舞1、田岡千明1、松下剛史2、 神谷昌樹2、服部初彦2、石澤啓介1、根本尚夫2、土屋浩一郎1 1 徳島大大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 医薬品機能生化学分野、 2 徳島大大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 機能分子合成薬学分野 18 中枢神経 1 P 会場 13:00~13:35 座長:中道範隆(金沢大・薬・分子薬物治療学) P2-1 クプリゾン誘発脱髄モデル動物の大脳白質における CD147 の発現変動 ○津曲康輔、西奥 剛、寺澤真理子、片岡泰文 福岡大・薬・薬学疾患管理学 P2-2 担ガン動物の行動異常発現におけるプロスタノイド受容体 CRTH2 の役割 ○武永理佐 1、尾中勇祐 1、叶 拓也 1、新谷紀人 1、羽場亮太 1、平井博之 2、 永田欽也 2、中村正孝 3、早田敦子 1,4、馬場明道 5、橋本 均 1,4 1 大阪大院・薬・神経薬理学、2 株式会社 BML、3 東京医科歯科大・疾患遺伝子実験セ、 4 大阪大院・連合小児発達・子どものこころセ、5 兵庫医療大・薬・薬理 P2-3 Pentylenetetrazol キンドリングによるアストロサイト内向き整流性カリウムチャネ ル Kir4.1 の発現変化 ○向井崇浩、長尾侑紀、小野朝香、阪上嘉久、奥田 葵、藤本 恵、清水佐紀、 大野行弘 大阪薬大・薬・薬品作用解析 P2-4 内向き整流性カリウムチャネル Kir4.1 発現に及ぼす各種抗てんかん薬の影響 ○阪上嘉久、長尾侑紀、向井崇浩、小野朝香、奥田 葵、藤本 恵、清水佐紀、 大野行弘 大阪薬大・薬・薬品作用解析 P2-5 欠神発作モデル Groggy ラットにおけるシナプス小胞タンパク SV2A の病態変化 ○徳留健太郎¹、奥村貴裕¹、清水佐紀¹、寺田 亮¹、北宅良祐¹、冨田知里¹ 田中智也¹、芹川忠夫²、笹 征史³、大野行弘¹ ¹大阪薬大・薬・薬品作用解析、²京都大院・医・動物実験施設、³渚クリニック 19 中枢神経 2 P 会場 13:00~13:35 座長:新谷紀人(大阪大・薬・神経薬理) P3-1 M-CSF を処置した骨髄由来細胞のアミロイドβ貪食機能の解析 ○河西翔平、高田和幸、北村佳久、芦原英司 京都薬大・病態生理 P3-2 Blonanserin 代謝体 AD-6048 の抗精神病薬としての薬理特性評価 ○南本翔子、増井 淳、水口裕登、落合 緑、溝辺雄輔、田村深雪、多田羅絢加、 清水佐紀、大野行弘 大阪薬大・薬・薬品作用解析 P3-3 パーキンソン病モデルラットにおけるアルツハイマー病治療薬ガランタミンのドパ ミン神経保護作用 ○橋本千春、北村佳久、高田和幸、芦原英司 京都薬大・病態生理 P3-4 抗精神病薬による錐体外路系障害に対する抗認知症薬の併用効果 ○水口裕登、清水佐紀、南本翔子、祖父江 顕、藤原麻衣、森本朋樹、増井 淳、 徳留健太郎、國澤直史、多田羅絢加、大野行弘 大阪薬大・薬・薬品作用解析 P3-5 社会的過密環境は発育期依存的な抗不安・抗うつ様作用をもたらす ○田中辰典 1、吾郷由希夫 1、井本絵実奈 1、北本真理 1、田熊一敞 1、松田敏夫 1, 2 1 大阪大院・薬・薬物治療、2 大阪大院・5 大学連合小児発達 皮膚・感覚器・消化器 P 会場 13:00~13:35 座長:水川裕美子(同志社女子大・薬・病態生理) P4-1 マウスにおける特殊飼料誘発アトピー性皮膚炎様症状の発症における系統差および Hr 遺伝子変異の関与 ○岩井安寿香 1、藤井正徳 1、遠藤史子 1,土井恵介 1、大矢 進 1、稲垣直樹 2、 奈邉 健 1 1 京都薬大・薬・薬理、2 岐阜薬大・薬・薬理 20 P4-2 Tunicamycin 誘発視細胞障害に対する deferiprone の保護効果 ○白井遥祐、倉内祐樹、森 麻美、中原 努、坂本謙司、石井邦雄 北里大・薬・分子薬理 P4-3 Pde6a に変異を持つ網膜色素変性症モデルマウスで観察される錐体細胞機能障害に 対する deferiprone の保護効果 ○加藤夢来 1、大澤妃子 1、倉内祐樹 1、森 麻美 1、中原 努 1、坂本謙司 1、 Jürgen K. Naggert2、Patsy M. Nishina2、石井邦雄 1 1 P4-4 北里大学・薬・分子薬理、2The Jackson Laboratory デキストラン硫酸ナトリウム誘起大腸炎の病態における内因性セロトニンおよび 5-HT3 受容体の関与 ○横田 遙、中村真樹、小城正大、高橋愛未、山下迪子、天ヶ瀬紀久子、加藤伸一、 竹内孝治 京都薬大・病態薬科・薬物治療 P4-5 ビスフォスフォネート系薬剤の胃粘膜傷害作用と潰瘍治癒におよぼす影響 ○中矢有華、石川佑香、木村有希、村上季子、天ヶ瀬紀久子、加藤伸一、竹内孝治 京都薬大・病態薬科・薬物治療 21 要 旨 集 22 特別講演Ⅰ 天然物由来低分子量神経保護活性物質の探索研究 久米 利明 (京都大・院薬・薬品作用解析) アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患および脳虚血による高次脳機能障害 は、特定の脳部位のニューロン群が細胞死を起こし、ニューロン数が著明に減少することに特 徴がある。近年、ニューロンは細胞分裂を行わないという説は崩壊してきているが、海馬歯状 回などの特殊な部位を除けば、多くの脳部位において、減少したニューロンが増殖によって十 分に補われることはないと考えられている。したがって、ニューロン脱落時の機能の代償は主 に残存ニューロンによる突起伸展、シナプス形成によって行われ、このような代償能を上回る 規模のニューロンの脱落により脳機能の低下・破綻が生じると考えられる。このような背景か ら、難治性神経疾患を対象とする薬物には、対症療法的に症状を改善する作用を示すものだけ ではなく、疾患の進行を遅延あるいは阻止する薬理作用をもつ薬物の開発が望まれている。 我々はこれまでにニューロン死を制御する内在性物質に関する研究の過程で、神経伝達物質 や神経栄養因子など種々の内在性因子による制御を受けることを見出してきた。さらに、培養 細胞を維持する培地に添加されるウシ胎仔血清に含まれる非タンパク性成分が神経保護作用を 示すことを見出し、その有効成分の一つとしてセロフェンド酸という新規化合物を発見した。 その薬理作用について検討したところ、培養大脳皮質ニューロンにおいて、高濃度グルタミン 酸によるニューロン死に対して、セロフェンド酸は保護作用を発現した。電子スピン共鳴を用 いた検討により、セロフェンド酸は活性酸素種であるヒドロキシラジカルの生成を抑制するこ とが明らかとなり、セロフェンド酸が抗ラジカル作用を有することが明らかとなった。また、 低濃度のグルタミン酸誘発アポトーシス性ニューロン死に対してもセロフェンド酸は著明な保 護作用を発現した。そのメカニズムについて検討したところ、セロフェンド酸はグルタミン酸 により誘発されるミトコンドリアの脱分極を抑制することで、その後のカスパーゼ-3 の活性化 を抑制し、グルタミン酸神経毒性を抑制することが示唆された。さらに、ラット中大脳動脈閉 塞による一過性脳虚血モデルにおいてセロフェンド酸を脳室内投与したところ虚血により生じ る梗塞巣体積が減少した。これらの結果は、セロフェンド酸が in vitro、in vivo の両者において 神経保護作用を発現することを示すものであり、そのメカニズムに抗ラジカル作用および抗ア ポトーシス作用が関与することを明らかにした。セロフェンド酸は胎仔期特異的に存在する低 分子量の神経保護活性物質であり、胎仔期のニューロン生存を促進する因子の一つとして働く ことが示唆されるとともに、新たな神経変性疾患治療薬としての応用にむけた展開が期待され る。 23 特別講演Ⅱ 循環器疾患における酸化ストレス制御を基盤とする創薬研究 石澤啓介 (徳島大院・ヘルスバイオサイエンス研・医薬品機能生化学) 慢性腎臓病 (CKD) は心血管疾患 (CVD) の重要な危険因子であることが明らかとなってき おり、心腎連関という概念が確立し注目されている。腎・心血管障害の発症・進展には酸化ス トレスが重要な役割を果たしており、酸化ストレスを制御することは治療法を開発する上で大 きな課題である。活性酸素種 (ROS) の過剰産生は、血管機能障害を惹起し、糖尿病性腎症、動 脈硬化および虚血性心疾患等の種々の循環器疾患に関与することが示唆されている。 レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系 (RAAS) は、腎・心血管障害において重要な役 割を果たすことは良く知られている。我々は、アルドステロンが非ゲノム作用および酸化スト レスを介して mitogen-activated protein (MAP) kinase を活性化し、血管平滑筋細胞 (VSMC) の 増殖を惹起することを明らかにした (Hypertension 2005)。また腎メサンギウム細胞において、ア ンジオテンシン受容体 (AT1) 拮抗薬が、AT1 受容体非依存的に抗酸化作用を介して腎障害を抑 制することを報告した (Nephrol Dial Transplant 2010)。 循環器疾患克服には RAAS 阻害薬等の薬物療法が重要であるとともに、食事療法を含めた生 活習慣改善が必須となる。Quercetin は多くの野菜に含まれる抗酸化フラボノイドであり、血中 ではグルクロン酸抱合体である quercetin 3-O-β-D-glucuronide (Q3GA) で存在する。我々は Q3GA が抗酸化活性を示し、VSMC の遊走・増殖を抑制することを明らかにした (J Pharmacol Sci 2009, 2011) 。また、メタボリックシンドロームに対するアディポネクチン (APN) の有益な生 理作用を詳細に解明することも、注目すべき課題の一つである。APN は血管に対する IGF-1 の 作用を調節することで、動脈硬化の発症・増悪を抑制する可能性が示唆された (Hypertens Res 2009)。加えて APN は腎臓に対しても保護的に働く知見が得られた (J Endocrinol 2009)。 近年我々は、酸化ストレスを制御する腎・心血管障害の治療・予防薬としてニトロソニフェ ジピン (NO-NIF) を創出し研究を行っている。NO-NIF は Ca チャネル拮抗薬であるニフェジピ ンの光分解産物であり、細胞膜を構成する不飽和脂肪酸と反応してラジカル消去活性を示すこ と、血管内皮細胞において酸化ストレスによる細胞障害を抑制することが明らかとなっている (J Pharmacol Sci 2009, Chem Pharm Bull 2011, J Med Invest 2011)。現在、各種モデル動物を用いて、 血管リモデリングおよび糖尿病性腎症に対する NO-NIF の治療・予防効果について解析中である 本発表では、腎・心血管障害に対する多面的なアプローチ法として、薬物および食事療法等 に関する我々の報告を紹介するとともに、酸化ストレス制御を基盤とする創薬に関する最近の 研究結果を発表したい。 24 A1-1 パーキンソン病モデルマウスにおける酸化型 DJ-1 結合化合物の神経保護作用の 解析 舟山理沙 1、北村佳久 1、高田和幸 1、有賀寛芳 2、芦原英司 1 (1 京都薬大・病態生理、2 北海道大・院薬・分子生物) 【背景・目的】家族性パーキンソン病 の原因遺伝子 PARK7 として同定された DJ-1 は、転写因 子、分子シャペロン、プロテアーゼ作用など、様々な機能を有することが報告されており、DJ-1 の機能不全が PD の発症に関与していることや、DJ-1 が酸化ストレス負荷時の細胞防御機構に重 要な役割を担っていることが明らかにされつつある。これまでに、文部科学省の大学化合物ラ イブラリーに登録されている約 3 万個の化合物の中から、in silico バーチャルスクリーニング により、106 番システインの二酸化型 DJ-1 との結合スコアが最も高い UCP0054278 (酸化型 DJ-1 結合化合物) を同定している(J. Neurochem., 2008, 105:2418-2434)。また、私たちは、 UCP0054278 が in vitro 培養細胞系において神経細胞死を抑制し、中大脳動脈閉塞-再灌流によ る脳梗塞モデルラットにおいて神経保護作用を示すことを見出している(J. Pharmacol. Sci., 。 2009, 109:463-468) PD は病理学的には、主に中脳黒質のドパミン (DA) 神経細胞の選択的な変性・脱落が認めら れ、残存神経細胞内にα-シヌクレインを主要構成成分とするレビー小体とよばれる封入体が出 現する。私たちは、C57BL/6 マウスにミトコンドリア複合体 I 阻害薬のロテノンを長期間経口投 与することにより新しい PD マウスモデルの作製を試み、黒質線条体 DA 神経細胞死およびα-シ ヌクレインの過剰発現を見出している。本研究では、より臨床的な PD 様病態を反映したロテノ ン長期経口投与マウスを用いて、酸化型 DJ-1 結合化合物の末梢投与による酸化ストレスに対す る神経保護作用の解析を行った。 【方法】動物は雄性 C57BL/6 マウスを使用した。薬物は用時調製し、1 日 1 回 56 日間、ロテノ ン 30 mg/kg を経口投与した。また、酸化型 DJ-1 結合化合物併用投与群においては、ロテノン 投与 30 分前に UCP0054278 を腹腔内投与した。1 週間に 1 度 rota-rod テストを行い、運動機能 障害について調べ、56 日後にマウスの脳を摘出し、免疫組織化学的解析を行った。 【結果・考察】運動機能の指標である rota-rod テストを行った結果、ロテノン単独投与群では 対照群と比較して有意な運動障害が認められたが、UCP0054278 併用投与群では、運動障害が有 意に改善された。また、黒質緻密部において、DA 神経細胞の指標であるチロシン水酸化酵素 (TH) 陽性神経細胞数を解析した結果、ロテノン単独投与群では対照群と比較して有意に減少し DA 神 経細胞死が認められたが、UCP0054278 併用投与群においては TH 陽性細胞数の減少が抑制された。 さらに、神経細胞の指標である neuronal nuclei (NeuN) 陽性神経細胞数の解析を行った結果、 UCP0054278 の併用投与により NeuN 陽性神経細胞数の減少が抑制された。また、 線条体において、 UCP0054278 併用投与群では、ロテノンによる TH 陽性神経線維密度の低下が有意に抑制された。 免疫二重染色により黒質緻密部におけるα-シヌクレイン陽性細胞数を解析した結果、対照群で は、残存する TH 陽性細胞のうちα-シヌクレインを過剰発現した TH 陽性 (TH+/α-syn+) 神経細 胞数はほとんど認められなかったのに対し、ロテノン単独投与群では TH+/α-syn+神経細胞数が 有意に増加した。一方で、UCP0054278 併用投与群では、TH+/α-syn+神経細胞数の増加は有意に 抑制された。 以上の結果、酸化型 DJ-1 結合化合物である UCP0054278 はロテノン長期経口投与した PD モデ ルマウスにおいて神経保護作用を示した。この時、末梢投与からでも DA 神経細胞死を抑制する ことが認められた。このように DJ-1 をターゲットとした創薬は様々な神経変性疾患の治療薬と して応用できる可能性があり、UCP0054278 は新規神経変性疾患治療薬のシード化合物として期 待できる。 25 A1-2 脳 虚 血 誘 導 性 高 血 糖 状 態 に お け る 神 経 障 害 の 発 現 と 脳 内 sodium-glucose transporter の関与 ○山﨑由衣、原田慎一、徳山尚吾 (神戸学院大・薬・臨床薬学) 【背景・目的】我々は、これまでに脳虚血ストレス負荷が、全身性の血糖値制御 機能の破綻(高血糖状態)を誘導し、その後の神経障害を悪化させる可能性を 示唆してきた。しかしながら、上昇した血糖がどのようにして神経障害発現を 増悪させるのかは未だ不明である。従来から、血中のグルコースはある種のト ランスポーターを介して輸送され、その代謝過程において種々の細胞応答を誘 導すると考えられてきた。そこで今回、糖の作用点として、Na/グルコース輸送 体である sodium-glucose transporter (SGLT) に着目し、脳虚血ストレス負荷後の 血糖値変化と神経障害への関与について検討を行った。 【方法】5 週齢の ddY 系雄性マウスを用い、中大脳動脈閉塞 (MCAO, 2 hr) に より一過性脳虚血モデルを作成した。SGLT ファミリーの広範な阻害薬である phlorizin は虚血再灌流直後に単回腹腔内投与 (40、120 or 200 mg/kg)、または、 虚血再灌流直後および 6 時間後に脳室内投与 (10 or 40 μg/mouse) した。MCAO 1 日後の血糖値変化として空腹時血糖値を測定した。MCAO 3 日後の神経障害 の発現は、梗塞巣形成ならびに行動障害学習を評価した。 【結果・考察】MCAO 1 日後における空腹時血糖値の有意な上昇に対し、phlorizin 腹腔内投与は有意な抑制作用を示したが、phlorizin 脳室内投与は、何ら影響を 及ぼさなかった。一方、MCAO 3 日後における梗塞巣形成、および行動障害発 現は、phlorizin 腹腔内投与及び脳室内投与により有意に抑制された。全身投与 の phlorizin では、腎臓における SGLT の阻害を介した糖再吸収抑制などによ る虚血後高血糖抑制作用が神経障害抑制に関与した一方で、脳内における SGLT 阻害の影響も考えられる。実際、脳内 SGLT の局所阻害では虚血後高血糖に影 響を示さずに神経障害発現を抑制したことから、脳虚血ストレス負荷後に増加 した糖が脳内 SGLT を活性化し、Na+ やグルコースの細胞内流入によって脳虚 血性神経障害発現の増悪に関与していた可能性が示唆される。 26 A1-3 ATP による NMDA 誘発性ミトコンドリア膜電位破綻の阻止 藤川晃一、福森良、宝田剛志、米田幸雄 (金沢大院・薬・薬物学) 【背景・目的】NMDA 受容体(NMDAR)の過剰な活性化は、細胞内遊離 Ca2+濃度の過度上 昇を介して、遅発性神経細胞死を招来すると考えられているが、その細胞死発症メカニ ズムについては下流シグナルが十分に解明されていないのが現状である。我々は、細胞 内遊離 Ca2+濃度上昇に伴うミトコンドリア膜電位の脱分極が、NMDAR 誘発性神経細胞死 出現に関与する可能性を提唱した。一方、細胞外 ATP は細胞膜 P2 受容体を介して種々 の機能変動を神経細胞やグリア細胞に招来するが、その他に NMDAR の内在性アンタゴニ ストとしての活性を有することが近年明らかとなっている。したがって、本研究では NMDAR 活性化に伴う神経細胞死、およびミトコンドリア膜電位脱分極に対する ATP の影 響について検討を行った。 【方法】 ラ ッ ト 海 馬 由 来 初 代 培 養 神 経 細 胞 を 用 い て 、 細 胞 生 存 率 を MTT 還 元 能 お よ び Hoechst33342 染色により評価した。 細胞内遊離 Ca2+濃度は Fluo-3 蛍光イメージング法、 およびミトコンドリア膜電位は Rhodamine-123 蛍光イメージング法によりそれぞれ測 定した。 【結果・考察】 初代培養海馬神経細胞にグルタミン酸(Glu)あるいは NMDA を 1 時間曝露後、24 時間目 および 48 時間目に細胞生存率を測定すると、濃度依存的な MTT 還元能低下が観察され たが、この時同時に 1 mM ATP を添加すると MTT 還元能低下が有意に阻止された。しか しながら、Glu 曝露の事前あるいは事後に同濃度 ATP を添加しても、Glu による MTT 還 元能低下には著明な影響は認められなかった。さらに、過酸化水素、2,4-ジニトロフェ ノール、ツニカマイシンおよび A23187 の曝露は、それぞれ有意な MTT 還元能低下を誘 発したが、これらの低下はいずれも ATP 同時添加による影響を受けなかった。Glu およ び NMDA による細胞内 Ca2+濃度上昇に対して、ATP の同時添加は有意な減弱作用を示した のに対して、同濃度の adenosine 添加は有意な影響を与えなかった。また、Glu や NMDA は著明なミトコンドリア膜電位脱分極を誘発したが、これらの脱分極はいずれも ATP 同 時添加により有意に遅延された。以上の結果より、ATP は内因性アンタゴニストとして NMDAR 過剰活性化に伴う海馬神経細胞死を保護すると推察される。周辺の死滅細胞から 漏出される Glu と ATP が、NMDAR を介して神経細胞生存に関する相反的効果を発揮する 可能性は極めて興味深い。 27 A1-4 NMDA 神経毒性における mitochondrial uncoupling protein-2 の役割 ○福森 良、宝田 剛志、米田 幸雄 (金沢大院・薬・薬物学) 【背景・目的】近年、NMDA 受容体(NMDAR)を介した細胞死にミトコンドリアへの Ca²⁺の流入 が深く関与する可能性が報告されている。そこで本研究では、ミトコンドリアへの Ca²⁺ユニポ ーターとして働く可能性が報告されている mitochondrial uncoupling protein-2(UCP2)が NMDAR を介したミトコンドリアへの Ca²⁺流入及び神経毒性へ与える影響について解析を行っ た。 【方法】HEK293 細胞に各 GluNR サブユニット及び UCP2 発現ベクターを導入したのち、細胞 内 Ca²⁺感受性蛍光指示薬である Fluo-3 もしくはミトコンドリアへ局在する Ca²⁺感受性蛍光指示 薬である Rhod-2 を用いて Ca²⁺濃度の測定を行った。 【結果・考察】HEK293 細胞に機能的チャネル構築に必須の GluNR1 サブユニットに加え、 GluNR2A サブユニットを導入すると、NMDA 曝露に伴い細胞内 Ca²⁺濃度は急速に上昇した。そ の後 MK-801 を添加すると蛍光強度上昇は速やかに減弱された。また、UCP2 を過剰発現させた 細胞において、抗 UCP2 抗体を用いて免疫染色を行ったところ、UCP2 による染色はミトコン ドリアを特異的に染色する MitoTracker による染色とほぼ一致した。続いて、NMDAR と UCP2 を共発現させ検討を行ったところ、Empty vector 導入群に比べ UCP2 vector 導入群において、 ミトコンドリアへの Ca²⁺流入量の増加が認められた。また、細胞質内への Ca²⁺流入に関しては 両群の間に著明な差は認められなかった。そしてさらに、PI 及び Hoechst33342 で染色を行い、 UCP2 が NMDAR を介した細胞死に与える影響について検討を行ったところ、UCP2 を過剰発 現させた細胞では、NMDAR を介した細胞死が有意に増大していた。また、免疫沈降分析を行っ たところ、UCP2 が GluN1 サブユニットとの間に相互作用を持つ可能性が明らかとなった。以 上の結果から、UCP2 はミトコンドリアへの Ca²⁺流入を促進することによって、NMDAR によ って誘導される神経毒性の決定因子としての働く可能性が示唆された。 28 A2-1 慢性炎症性疼痛モデルマウスにおける脂肪酸受容体 GPR40 の発現変化 西中崇 1、松本健吾 1、里尚也 1、中本賀寿夫 1、万倉三正 2、小山豊 3 徳山尚吾 1 (1 神戸学院大・薬・臨床薬学、2 備前化成株式会社、3 大阪大谷大・薬・薬理) 【背景・目的】慢性疼痛は、原因となる病態が改善してもなお、痛みが遷延する状態である。慢 性疼痛に対して、既存の医薬品では、十分な治療効果が得られない場合や、長期間の服用によ る副作用の発現によって、その使用を制限されてしまう場合があり、適切な治療を行うことが できない場合がある。そのため、慢性疼痛に対する新たな鎮痛薬やその疼痛制御機構の解明に 関する研究が社会的な課題である。 近年、n-3 系脂肪酸が関節リウマチ、関節炎および神経障害性疼痛などにおける痛みを抑制す るとの報告がなされ、脂肪酸が疼痛制御に関与している可能性が提唱されている。我々はこれ までに、ドコサヘキサエン酸 (DHA) が抗侵害作用を示すこと、さらに、DHA などの長鎖脂肪 酸が作用する受容体 GPR40 を介して β- エンドルフィンを遊離させ、疼痛制御に関与してい ることを報告している。これらの結果から、脂肪酸受容体が生体内の疼痛制御機構において重 要な役割をしている可能性が考えられている。しかしながら、慢性疼痛下におけるこれら脂肪 酸受容体の関与については全く不明である。そこで本研究においては、慢性炎症性疼痛モデル マウスを用いて、中枢神経系における GPR40 のタンパク質発現変化について検討を行った。 【方法】 4 週齢の ddY 系雄性マウスを使用した。慢性炎症性疼痛モデルは、マウスの右後肢足 蹠内へ 0.5 mg/kg の complete Freund's aduvant (CFA) を投与し作製した。Vehicle 群には生 理食塩水を投与した。疼痛評価には、von Frey test (機械的刺激)および Plantar test (熱的 刺激)を用いた。中枢神経系における GPR40 の局在解析、ならびに蛋白質発現は二重免疫染 色法およびウエスタンブロット法を用いて行った。 【結果・考察】 CFA 投与 1 日目から、足の腫脹、機械的および熱的刺激に対する疼痛過敏反応 が認められた。この条件下における脳内 GPR40 の蛋白質発現を測定したところ、CFA 投与 7 日目において Vehicle 群と比較して、延髄および視床下部領域では有意に増加し、中脳におい ても増加傾向を示した。一方、大脳皮質ではその発現変化は認められなかった。GPR40 発現が 増加したこれらの領域において、二重免疫染色を行ったところ、GPR40 は神経細胞のマーカー である NeuN と共局在を示したが、アストロサイトのマーカーである GFAP とは共局在を示 さなかった。以上の結果から、慢性疼痛時には脳内の疼痛制御に関与している領域において神 経細胞上の GPR40 が発現変動し、疼痛の制御を行っている可能性が示された。 29 A2-2 ホルマリン後肢足蹠投与による脳・線条体 substance P 神経活動は疼痛反応抑制 効果を示す 中村庸輝 1、泉弘樹 1、清水拓海 2、中島 (久岡) 一恵 1、森岡徳光 1、仲田義啓 1 (1 広島大院・医歯薬保・薬効解析、2 広島大・薬・薬効解析) 【背景・目的】線条体は大脳基底核の主要な脳部位であり、運動制御に重要な役割を担っ ている。近年、97% の線条体神経細胞は熱及び機械的な侵害刺激によって反応すること、 大脳基底核を主要な病変部位とするパーキンソン病患者の約 80% において疼痛症状を示 すことが報告され、線条体の疼痛制御機構への関与が推察される。 Substance P (SP) は preprotachykinin-A (PPT-A) mRNA から翻訳され、Neurokinin 1 (NK1) 受容体に作用する。脊髄後角において痛覚伝達物質として作用することが知られてい る一方、脳においては線条体、黒質、扁桃体などに発現が認められるが、未だにその機能 の詳細は明らかにされていない。また 2010 年度本会においてホルマリン誘発性仮性疼痛 反応によって線条体から SP が遊離し、疼痛反応行動を抑制することを報告した。そこで、 本研究ではホルマリン誘発性仮性疼痛反応の線条体 SP 生合成系への影響、また免疫染色法 により NK1 受容体活性化の指標である細胞内移行を検討した。 【方法】実験動物は Wistar 系雄性成熟ラット (6~7 週令) を用いた。0.4% ホルマリン溶液 (200 μL) を後肢足蹠へ投与することにより、二相性疼痛反応 (第一相: 投与直後~15 分後; 第二相: 投与 16~90 分後) が観察されることから、投与 5 及び 60 分後における線条体か ら mRNA を抽出し、Real-time PCR により各種 mRNA 量を測定した。また、免疫染色はホ ルマリン投与 5, 60 及び 120 分後の線条体 (Bregma ; A : 0 mm, L : 4 mm, V : 7 mm) を用い た。コントロール群は生理食塩水投与群とした。 【結果・考察】ラット後肢足蹠へのホルマリン投与 60 分後において、投与足反対側線条 体における PPT-A 及び 神経活性化マーカーである cFOS mRNA の発現が有意に増加した。 一方、線条体において発現が報告されている他の生理活性ペプチドである enkephalin の前 駆体 pre-pro-enkephalin mRNA では有意な変化は認められなかった。また、生理食塩水投与 群、ホルマリン投与 5 分後における線条体ではこれらの mRNA 発現の増加は観察されな かった。さらに生理食塩水投与群において観察された線条体神経細胞表面における NK1 受 容体発現が、ホルマリン投与 120 分後においては減少していたことから NK1 受容体の細 胞内移行が推察された。さらにこの NK1 受容体細胞内移行は NK1 受容体阻害剤の線条体 灌流投与によって抑制された。また、NK1 受容体の細胞内移行はホルマリン投与 5 及び 60 分後では認められなかった。以上の結果から、ホルマリン投与による持続的な疼痛は線条 体における PPT-A mRNA 発現を増加させ、それに伴う SP 遊離による NK1 受容体の活性化 により疼痛反応を抑制する可能性が示唆された。線条体における SP 及び NK1 受容体が新 規鎮痛薬の創薬ターゲットとなる可能性が考えられる。 30 A2-3 エ ト ポ シ ド の 反 復 経 口 投 与 に よ る RhoA/ERM の 活 性 化 が 腸 管 に お け る P-glycoprotein の発現および機能に及ぼす影響 小堀宅郎、小林真菜、原田慎一、中本賀寿夫、徳山尚吾 (神戸学院大・薬・臨床薬学) 【目的】これまでに我々は、エトポシド (ETP) の反復経口投与によって、腸管におい て低分子量 G タンパク質である RhoA の活性化を介して P-glycoprotein (P-gp) の 発現量および薬物排出活性が上昇し、経口投与したモルヒネの鎮痛効果が減弱すること を明らかにしている。しかしながら、ETP によって活性化された RhoA が腸管 P-gp の発現および機能を変動させる機序については未だ明らかとなっていない。 近年、ezrin/radixin/moesin からなる ERM が P-gp の足場タンパク質として機能 し、P-gp の細胞膜上での安定発現および機能調節において重要な役割を担うことが報 告されている。さらに興味深いことに、ERM の活性化機構は RhoA による制御を受 けることも知られている。そこで本研究では、ETP の反復経口投与による腸管 P-gp の細胞膜上での発現および機能の調節機構における ERM の関与と、これらの変化が 経口モルヒネの鎮痛効果へ及ぼす影響について検討を行った。 【方法】4 週齢の ddY 系雄性マウスを用い、ETP (10 mg/kg, p.o.) は 1 日 1 回 7 日 間反復投与した。また、RhoA 活性化の指標となる細胞膜移行を阻害するロスバスタチ ン (5 mg/kg, p.o.) は ETP と同時に反復投与した。また、腸管 P-gp、RhoA ならび に ERM のタンパク質発現量を western blot 法により解析した。モルヒネ (50 mg/kg p.o.) の鎮痛効果は tail flick 法により測定した。 【結果・考察】ETP の反復投与終了 24 時間後、腸管の細胞膜画分における P-gp、 RhoA および ERM の発現量は、対照群と比較して有意に増加した。さらに同条件下 において、モルヒネの鎮痛効果は有意に減弱した。一方、これらの作用はロスバスタチ ンの併用処置によって有意に抑制された。以上の結果から、ETP の反復経口投与によ る腸管の細胞膜における P-gp の発現増加および機能の亢進機構に RhoA を介した ERM の活性化が関与し、これらの変化が経口モルヒネの鎮痛効果を減弱させることが 示唆された。 31 A2-4 末梢神経障害モデルマウスにおける N および L 型カルシウムチャネル阻害薬 シルニジピンの機械痛覚過敏に対する作用 鈴木 悠馬、山本 昇平、大澤 匡弘、小野 秀樹 (名市大院・薬・中枢神経機能薬理学) 【背景・目的】シルニジピンはジヒドロピリジン誘導体であるが、L 型だけでなく N 型電位依存 性カルシウムチャネル (VDCCs) も阻害する特徴を有する薬物である。N 型 VDCC は一次求心 性神経終末からの神経伝達物質の放出を制御することから、脊髄における侵害受容伝達におい て重要な役割を果たしていると考えられている。一方 L 型 VDCC は神経細胞体や樹状突起に多 く存在し、持続的なカルシウム流入を引き起こすことが知られているが、侵害受容伝達におけ る役割については不明な点が多い。今回我々は、神経因性疼痛モデルの一種である spared nerve injury (SNI) モデルにおける機械アロディニアならびに機械痛覚過敏に対するシルニジピンの作 用を検証した。 【方法】4~5 週齢の ddY 系雄性マウスをペントバルビタールで麻酔し、坐骨神経の 3 枝 (脛骨神 経、総腓骨神経、腓腹神経) のうち脛骨神経および総腓骨神経を結紮・切除することにより SNI モデルを作製した。機械アロディニアの評価として von Frey test を行い、von Frey フィラメン トでマウス右後肢足底を刺激した際に逃避反応を示す強度 (50%閾値) を算出した。また機械痛 覚過敏の評価として pin prick test を行い、マウス右後肢足底に安全ピンにより侵害刺激を加え、 その逃避反応の持続時間を測定した。行動試験は SNI 手術前および手術 1、3、7 日後に行った。 薬物の効果は手術から 7~9 日後に機械アロディニアおよび機械痛覚過敏を発症したマウスを用 いて、薬物投与 30 分前、投与直前、投与から 15、30、60、90、120 分後に行動試験を行うこ とにより観察した。薬物は全て無麻酔下で脊髄くも膜下腔内へ投与した。 【結果・考察】SNI 手術を受けたマウスは手術 1 日後より機械アロディニア、3 日後より機械痛覚 過敏を発症し、それらの変化は 7 日後でも持続していた。シルニジピンの低用量 (30 ng) を脊 髄くも膜下腔内へ投与することにより機械痛覚過敏が緩解し、高用量 (100 ng) では機械アロデ ィニアも緩解した。N 型 VDCC 選択的阻害薬であるω-conotoxin GVIA は低用量 (0.3 ng) から機 械アロディニア、機械痛覚過敏ともに緩解させた。また L 型 VDCC 選択的阻害薬ニカルジピン (100 ng) は機械痛覚過敏をわずかに緩解させたが、機械アロディニアに対しては効果を示さな かった。これらの結果から、シルニジピンは N 型および L 型 VDCC を阻害することにより、様々 な過敏症に対して有効である可能性が示唆された。 32 A3-1 脳微小循環の機能的マッピング 岡田沙織、高原雄史、松木則夫、池谷裕二 (東大院・薬・薬品作用学) 【背景・目的】脳血流の増加は、神経活動が生じた部位で観察されることから、間接的に神経活 動部位を特定する手段として fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)等の脳機能画像化法に応用され てきた。しかしながら、神経活動時に個々の微小血管でいかなる血流動態が生じているのかに ついて、技術的な限界から詳細な検討がなされていないため、神経活動-血流増加の調節機構 は不明なままである。本研究は、個々の微小血管から同時記録が可能な新規の脳血流イメージ ング法を用いて、感覚入力(視覚情報)に対応して生じる血流増加がどれだけ精密に制御され ているのかを解明し、神経活動-血流増加メカニズムに迫ることを目的としている。 【方法】生後 4 週齢の雄性マウス(C57BL6)を、当研究室で確立した頭部固定法で保定し、蛍 光性の血管造影剤 0.3% FITC-デキストランを投与することで、視覚皮質第一層より血流イメー ジングをおこなった。画像取得機器に落射型蛍光顕微鏡ユニットと EM-CCD カメラを組み合わ せることによって、毎秒 500 フレームのスピードで、250×250 μm の広領域からの撮影が可能 となった。視覚刺激は、一定間隔の白黒の縞模様が特定方向(45 度刻みで計 8 方向)に流れる 映像(漂流格子)を、マウス目前 15 cm に設置したディスプレイから提示した。薬理学的検討 では、薬物を観察部位に局所投与もしくは静脈内投与した。 【結果・考察】視覚皮質第一層の細動脈・毛細血管から記録をおこなった結果、視覚刺激依存的 な血流速度の上昇を観察できた。個々の血管は、8 方向の刺激全てに応答するわけではなく、8 方向のうち、特定の方向にのみ血流速度を増加させる‘方向選択性’を示した。方向選択性の 程度を示す指標である OSI(orientation selectivity index)を、実測値とランダム化により算出し た値で比較したところ、血流の方向選択性は偶然の結果ではないことが確認された。この視覚 刺激による血流速度の増加は、神経活動の阻害剤であるテトロドトキシンの局所投与(2 μM) に加え、神経細胞由来の血管拡張因子プロスタグランジン合成酵素であるシクロオキシゲナー ゼの阻害剤インドメタシンの投与(1.0 mg/kg)によって抑制された。 本研究では、新しい脳血流イメージング法を用いることにより、視覚刺激を提示した際に生 じる血流上昇が、単一血管レベルで制御されていることを初めて明らかとした。また、この血 流上昇には、神経細胞の活動およびそれに伴って放出されるプロスタグランジンが必要である ことが薬理学的検討から示唆された。 33 A3-2 統合失調症モデル、新生仔期腹側海馬損傷ラットの認知機能障害のメカニズム 矢吹悌 1、森口茂樹 1、塩田倫史 1、中川西修 2、 小野木弘志 2、丹野孝一 2、只野 武 3、 福永浩司 1 (¹東北大学大学院薬学研究科・薬理学、²東北薬科大学・薬理学、3 金沢大学医 薬保健学総合研究科・環境健康科学) 【目的・背景】統合失調症は主に思春期から青年期に発症し、陽性症状、陰性症状及び認知機 能障害を伴う精神疾患である。統合失調症の発症初期における認知機能改善治療は統合失調症 の予後を改善する。本研究では、統合失調症の認知機能障害改善の創製を行うため、評価系と して有用なモデル動物の作製とその認知障害のメカニズムについて追究した。 【実験方法】新生仔期腹側海馬 (NVH) 損傷ラットは、生後 7 日目に両側腹側海馬を神経毒であ るイボテン酸により破壊し、作製した。思春期前と思春期後に統合失調症患者に特有の感覚運 動障害の試験である prepulse inhibition (PPI) 測定をおこなった。思春期以降に行動薬理学 的手法により統合失調症様行動と認知機能を測定した。リスペリドン (0.30 mg/kg i.p.) の投 与実験では行動薬理試験の 30 分前に投与した。脳神経活動をモニターするために、神経活動 依存的に活性化される Ca2+/calmodulin-dependent protein kinase II (CaMKII) の活性を自己 リン酸化反応として検出するための脳イメージング法を開発した。 【結果・考察】NVH 損傷ラットでは、思春期後に、感覚運動障害(PPI 障害)と認知機能障害が 観察された。リスペリドン急性投与 (0.30 mg/kg i.p.) により PPI 障害は改善されたが認知 機能障害は改善されなかった。次に、げっ歯類の記憶形成に必須の酵素である CaMKII の活性 について検討した (1)。脳イメージング法では、前頭前皮質、線条体及び海馬領域で CaMKII 活 性が著しく低下した。さらに、記憶形成に重要な NMDA 受容体の活性化に関わるプロテインキナ ーゼ C(PKCα)の自己リン酸化反応も低下した。ドパミン受容体シグナルの下流にある Dopamine and cAMP-regulated phosphoprotein-32 (DARPP-32) (Thr 34) のリン酸化反応は前頭前皮質で は低下し、線条体及び海馬 CA1 領域では逆に亢進していた。リスペリドン投与により、DARPP-32 のこれらの部位でのリン酸化反応異常は改善されたが、 CaMKII と PKCα の自己リン酸化反応 の低下は改善されなかった。以上の結果から、NVH 損傷ラットにおける感覚運動障害にはドパ ミン神経系の異常、一方、認知機能障害には CaMKII と PKCα の活性低下が関与することが示 された。今後は、新規認知機能改善薬 ST101 の認知機能改善効果と PPI 障害改善効果につい て検討する予定である (2)。 (1)Moriguchi S, Yabuki Y et al., J. Neurochem. 2012;120:541-551 (2)Moriguchi S et al., J. Neurochem. 2012;121:44-53 34 A3-3 記憶の維持における遅発性 Arc 発現の必要性 中山大輔、山﨑良子、岩田浩一、松木則夫、野村洋 (東京大・院薬・薬品作用学) 【背景・目的】恐怖記憶は想起によって不安定な状態となり、新規タンパク質合成依存的な 過程を経て、安定化される。この安定化機構に関する従来の研究は、想起直後の時間枠だ けを解析してきたため、想起直後の過程だけで記憶は安定化すると信じられてきた。しか し私たちは、それ以降の時間枠でも、記憶の安定化が行われるのではないかと考えた。Arc (activity-regulated cytoskeleton protein)は想起直後の安定化に重要なタンパク質の 1 つで ある。そこで本研究では、想起の直後以降の時間枠における Arc の発現様式と役割につい て調べた。 【方法】 恐怖学習のモデルとして文脈的恐怖条件づけを用いた。この課題において、マウスは実験 環境と電気ショックを関連付けて学習し、その環境を恐怖の対象として認識する。そのた め実験環境に再暴露すると、電気ショックがない状態でも四肢をすくませる恐怖反応を示 すようになる。BLA は文脈的恐怖条件づけに必須の脳領域である。BLA における Arc タン パク質の発現は、ウェスタンブロッティングにより定量した。BLA への Arc アンチセンス ODN の投与は、1 週間以上前にガイドカニューレを埋め込んだマウスに対して行った。 【結果・考察】 条件づけを行ったマウスを条件づけ環境に再暴露することで、恐怖記憶を想起させた。想 起の 2 時間後から 24 時間後の BLA における Arc 発現を定量した。Arc の発現量は想起の 2 時間後に一過的に上昇した後、想起 12 時間後に再び上昇した。電気ショックは与えるが実 験環境との関係を学習させなかった場合、遅発的な Arc 発現は生じなかった。遅発的な Arc 発現は連合記憶依存的であると考えられる。遅発的な Arc 発現の役割を調べるため、Arc ア ンチセンス ODN を BLA に局所投与し、遅発的な Arc タンパク質の発現を特異的に阻害し た。その結果、Arc アンチセンス ODN 投与の 7 日後、条件づけ環境での恐怖反応が低下し た。弱い電気ショックを与えても恐怖反応は復元しなかったことから、Arc アンチセンス ODN 投与による恐怖反応の低下は、恐怖記憶の消失に起因すると考えられる。以上のこと から、恐怖記憶の想起後に生じる遅発的な Arc タンパク質発現が、恐怖記憶の安定化に必 要であると考えられる。 35 A3-4 海馬リップル波のムスカリン受容体による調節 乘本裕明、水沼未雅、石川大介、松木則夫、池谷裕二 (東京大・薬・薬品作用学) 【背景・目的】海馬では様々な脳波が観察される。中でも鋭波リップル(以下リップル波) は、記憶の固定化との関与が示唆されており、海馬に一時的に保持された情報を大脳皮質 へと移行させる役割を担っていると考えられている。しかし、その発生・調節機構はほと んど明らかになっていない。リップル波は主に徐波睡眠時や静的覚醒時に観察されるため、 我々は覚醒・睡眠状態によって変化する神経調節因子の1つであるアセチルコリンがリッ プル波の調節に関与しているという仮説を立て、薬理学的検討を行った。 【方法】生後 3 週齢の覚醒マウスと、リップル波を自発的に発生するマウス海馬急性スライ ス標本に細胞外記録法を適用し、ムスカリン受容体選択的作動薬ピロカルピンがリップル 波を生み出す神経回路に与える影響を検証した。さらに、多数のニューロンの発火活動を 同時に画像化する多ニューロンカルシウム画像法(functional Multineuron Calcium Imaging, fMCI)を適用することで、ピロカルピン処置に伴う細胞集団の活動の変化をとらえた。 【結果・考察】in vivo 実験、in vitro 実験ともに、ピロカルピン処置によるムスカリン受容体 の活性化によりリップル波が抑制された。この効果は全体の発火率の変化によるものでは なく、異なるニューロンの動員が関与していることが示唆された。以上の結果から我々は、 アセチルコリンが細胞集団レベルの活動変化を引き起こすことにより、リップル波を生み 出す神経回路の状態スイッチングを行っていると考えた。加えて、fMCI は電気生理学的記 録報とは異なり活動していない神経細胞も記録できるため、リップル波をはじめとする脳 波の発生・調節メカニズムの検討に適していることも示された。 36 A4-1 ガランタミンによるミクログリアの Aβ貪食促進および脳内 Aβ除去 雨宮孝英 1、高田和幸 1、北村佳久 1、下濱 俊 2、芦原英司 1 (1 京都薬大・病態生理、2 札幌医大・神経内科) 【背景・目的】アルツハイマー病(AD)の代表的な病理学的所見である老人斑はアミロイド β タンパク質(Aβ)が脳内に異常に蓄積することで形成される。現在、脳内の Aβ の増加・蓄積 が神経細胞障害を引き起こし、AD 発症の原因であるとするアミロイド仮説が提唱されており この仮説に根ざした AD 治療法の開発が世界中で進められている。一方 AD において、以前より コリン作動性神経系の機能障害が知られており、神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)を 補充する目的で ACh エステラーゼ(AChE)阻害薬が AD 治療薬として臨床応用されている。ガラ ンタミンは中枢移行性の AChE 阻害作用を有し、AD 治療薬として臨床使用されているが、その他 にも神経保護作用やニコチン性 ACh 受容体(nAChR)の allosterically potentiating ligand (APL)など、複数の異なる作用が存在していることが報告されている。 ミクログリアは貪食機能を有する脳内の免疫担当細胞であり、AD 脳においては老人斑に活性 化して集積している。当研究室ではこれまでに、ラット初代培養ミクログリアが Aβ 貪食機能 を有することを見出している(J. Pharmacol. Sci., 2003, 92:115-123)。また、ミクログリア にも nAChR が発現していることが知られており、このことから、ミクログリアの Aβ 貪食機能 においてガランタミンがなんらかの作用を及ぼす可能性が考えられる。そこで本研究では、 ガランタミンによるミクログリアの Aβ 貪食機能への作用ならびに in vivo での長期投与によ る脳内 Aβ 蓄積や学習・記憶に対する作用について解析した。 【方法】In vitro における解析では Wistar ラット新生仔から初代培養ミクログリアを調製して Aβ 貪食機能を解析した。In vivo の解析では Wistar ラットの海馬に Aβ1-42(Aβ42)を投与 後、ガランタミン(1 mg/kg または 5 mg/kg)を 14 日間腹腔内投与し、脳内 Aβ42 量を ELISA により測定した。また、遺伝改変 AD モデルマウス(PS/APP)にガランタミン(1 mg/kg または 5 mg/kg)を 56 日間経口投与した後、モーリス水迷路を用いて PS/APP マウスの空間学習・記憶 能力を解析後、脳内 Aβ 量の変動を ELISA により測定した。 【結果・考察】ラット培養ミクログリアにガランタミンを処置したところ Aβ 貪食量が増加し、 APL 結合部位の阻害抗体の存在下では貪食量は増加しなかった。また、海馬内 Aβ 投与ラットに ガランタミンを腹腔内投与したところ、コントロール群と比較して脳内 Aβ42 量が有意に減少 した。PS/APP マウスにガランタミンを経口投与したしたところ、トレーニングおよびプローブ 試験における空間学習・記憶能力が野生型マウスと同程度まで回復しており、脳内の不溶性の Aβ が有意に減少していた。さらに PS/APP マウス脳を免疫組織化学的に解析したところ、Aβ 蓄 積部位に APL 結合部位の免疫反応性を示す活性化したミクログリアが集積していた。 以上の結果から、ガランタミンは APL としてミクログリアの nAChR に作用し、Aβ 貪食機能 を促進することが明らかとなった。さらに in vivo においてはガランタミン の長期間投与によ り、ミクログリアの Aβ 貪食機能が促進され、脳内 Aβ が減少する結果、学習・記憶能力の改 善につながることが示唆された。このように今回の解析では、ガランタミンの APL としての新 規作用機序が明らかとなり、ガランタミンの臨床使用におけるさらなる有用性が示された。 さらに、ミクログリアの nAChR が新規 AD 治療薬の開発標的となり得る可能性が示唆された。 37 A4-2 Aβ42“毒性コンホマー”の形成は細胞内酸化ストレスを誘導する 泉尾直孝 1,久米利明 1,佐藤瑞穂 2,村上一馬 2,入江一浩 2,泉安彦 1, 赤池昭紀 1, 3 (1 京都大院・薬・薬品作用解析,2 京都大院・農・生命有機化学, 3 名古屋大院・ 創薬) 【背景・目的】我々は、アミロイドβ1-42 (Aβ42) の毒 性に、Glu22-Asp23 のアミノ酸残基においてターン 構造をもつ“毒性コンホマー”が重要であることを 示してきた。また、アルツハイマー病 (AD) 患者脳 内に毒性コンホマーが存在することを見いだしてき た。本研究では、酸化ストレスの AD 病態への関与に 着目し、初代培養神経細胞を用いて、毒性コンホマー形成と酸化ストレスの関係につい て検討した。 【方法】初代培養大脳皮質神経細胞は、胎生 17-19 日齢の Wistar 系ラット胎仔の大脳皮 質から摘出・単離し、播種後 Neurobasal medium により維持した。細胞内ラジカルレ ベル、神経毒性は、それぞれ DCF assay、MTT assay により評価した。毒性コンホマ ーは、立体構造特異抗体 11A1 (ACS Chem. Neurosci. 2010, 1, 747) を用いてドットブ ロットにより検出した。 【結果・考察】ターン構造を取りやすい変異型 Aβ42 (E22P-Aβ42) は、野生型 Aβ42 (Wt-Aβ42) と比較して、細胞内ラジカルレベルの有意な上昇を示した。一方、ターン構 造を取りにくい変異型 Aβ42 (E22V-Aβ42) は、ほとんど細胞内ラジカルを誘発しなかっ た。Wt-Aβ42 は毒性コンホマーを経時的に形成し、本コンホマー形成は毒性発現およ び細胞内ラジカルの誘導より先行していた。ラジカル除去薬である trolox の処置によっ て、Wt-Aβ42 ならびに E22P-Aβ42 誘発神経毒性は抑制された。遺伝性疾患の原因とし て考えられる Italian 型および Arctic 型の変異 Aβ42 (E22K-Aβ42、E22G-Aβ42) は、と もに毒性コンホマーを形成し、顕著な神経毒性を誘発した。以上により、Aβ42 の毒性 コンホマーは細胞内酸化ストレスを誘導し、神経毒性の誘発に関与することが示唆され た (ACS Chem. Neurosci., in press)。 38 A4-3 細胞外 HMGB1 によるミクログリアのアミロイドβ1-40 の貪食阻害作用 髙田哲也 1、高田和幸 1、北村佳久 1、下濱 俊 2、芦原英司 1 (1 京都薬大・病態生理、2 札幌医大・神経内科) 【背景・目的】アルツハイマー病(AD)の代表的な病理学的所見は、細胞外アミロイド β タン パク質(Aβ)の蓄積により形成される老人斑の出現であり、この脳内での Aβ の異常蓄積が、 AD 発症の原因となることが推定されている。また、Aβ には Aβ1-40(Aβ40)や Aβ1-42(Aβ42) といった分子種が存在し、これら Aβ の脳内除去が AD における根本的治療戦略として期待され ている。これまでに私達は、ミクログリアが Aβ42 を貪食して脳内 Aβ の除去に働くことを見 出している(J. Pharmacol. Sci., 2012, 118:331-337)。さらに、老人斑には核内タンパク質 として知られる high mobility group box protein-1(HMGB1)が沈着しており、この細胞外 HMGB1 はミクログリアの Aβ42 の取り込みを阻害して、脳内 Aβ 除去に対して抑制的に働くことを報 告している(Biochem. Biophys. Res. Commun., 2003, 301:699-703; J. Neurosci. Res., 2004, 78:880-891)。しかし、Aβ40 に対するミクログリアの貪食機能や HMGB1 の作用は不明であり、 本研究ではラットミクログリアを用いて Aβ40 の貪食や HMGB1 の作用について解析した。 【方法】HMGB1 の Aβ40 に対する結合能力について、免疫沈降法を用いて解析した。また、HMGB1 の存在または非存在下において、ラットミクログリアに Aβ40 または Aβ42 を処置し、その貪 食機能や HMGB1 の作用について Western blotting や共焦点レーザー顕微鏡を用いて解析した。 さらに、ミクログリアの Aβ 分解に対する HMGB1 の作用を解析するために、ミクログリアから 調製した細胞質画分を Aβ や HMGB1 と混合し、残存する Aβ 量を Western blotting により半定 量化した。ヒト AD 剖検脳における Aβ40、Aβ42 および HMGB1 の蓄積やミクログリアの集積に ついては、免疫組織化学的手法や共焦点レーザー顕微鏡を用いて解析した。 【結果・考察】Aβ40 の重合状態について精製タンパク質を用いて解析した結果、時間とともに Aβ40 の低分子量重合体が形成されたが、HMGB1 が存在すると Aβ40 と HMGB1 との複合体と考え られる高分子量重合体が検出された。そこで、免疫沈降法により Aβ40 と HMGB1 の結合性を解 析した結果、これらのタンパク質は結合性を有することがわかった。次に、ラットミクログリ に Aβ40 を処置したところ、細胞内には少量の Aβ40 が検出されたが、HMGB1 を同時に処置する と多くの Aβ40 が細胞内で検出された。この結果より、 (1)HMGB1 がミクログリアの Aβ40 の取 り込みを促進する可能性、または(2)HMGB1 が細胞内での Aβ40 の分解を抑制する可能性が考 えられる。そこで、培養上清中の Aβ40 を測定したところ、HMGB1 処置により上清中に残存する Aβ40 量が有意に増加することがわかった。さらに、ミクログリアの細胞質画分を用いて Aβ の 分解を解析したところ、HMGB1 が存在すると Aβ40 の分解が抑制されることが明らかとなった。 このことから、HMGB1 が細胞内での Aβ40 分解を抑制する結果、より多くの Aβ40 が細胞内で検 出されることが示唆された。また、HMGB1 は Aβ40 の取り込みも抑制することが示唆された。 さらに、ヒト AD 剖検脳を用いた解析では、Aβ42 の免疫反応性を示す老人斑が多数検出され、 その一部の老人斑には Aβ40 の免疫反応性も確認された。また、Aβ40 の免疫反応性を示す老人 斑には HMGB1 の免疫反応性も検出され、活性化型ミクログリアが多数集積していた。以上の結 果より、AD 脳において Aβ40 とともに沈着する HMGB1 は、Aβ40 と複合体を形成してミクログ リアへの Aβ40 の取り込みや細胞内での分解を抑制することで、AD 病態形成における増悪因子 として作用することが示唆された。今後さらなる解析が進み、細胞外における HMGB1 蓄積機序 やその抑制手段の解明が新規 AD 治療法の開発に繋がる可能性が期待できる。 39 A4-4 ミクログリア細胞における骨芽細胞分化制御因子 Runx2 の発現解析 中里亮太、宝田剛志、米田幸雄 (金沢大院・薬・薬物学) 【背景・目的】ミクログリア細胞は脳内マクロファージとも呼ばれ、中枢神経における免疫担当 細胞としての役割が良く知られているが、近年では様々な分子病態への関与が数多くの研究機 関から報告されている。一方、我々はこれまで脳組織と骨関節組織間にシグナル共通性が存在 する可能性を提唱しているが、この仮説は両組織における未知機能や疾患治療に対する新たな 知見をもたらすと期待される。そこで本研究では、骨関節系組織の細胞分化マスターレギュレ ーターである Runt related transcription factor-2 (Runx2)に焦点を当てて、脳内ミクログリア細胞 における機能的発現の可能性を検討した。 【方法】新生仔マウス大脳皮質由来初代培養ミクログリア細胞、およびミクログリア細胞株 BV-2 細胞を用いて、各種 mRNA の発現およびシグナル応答性を RT-PCR 法により検討した。また、 タンパク質の発現は Western blotting 法により解析した。 【結果・考察】RT-PCR 解析の結果、初代培養ミクログリア細胞および BV-2 細胞株において、 それぞれ Runx2 およびそのパートナータンパク質である Cbfb の mRNA 発現が認められた。次 いで、BV-2 細胞株を用いてシグナル応答性を検索したところ、1 mM ATP 添加後 3 時間目に Runx2 mRNA 発現の強い一過性上昇が観察されたが、この上昇は 6 時間以降 24 時間目までは 認められなかった。これに対して、ミクログリア刺激効果のある PACAP(0.1 mM)、LPS(0.1 mM)、 あるいは tunicamycin(0.01 mM)では、いずれの場合も添加後 24 時間以内には有意な Runx2 mRNA 発現変化は観察されなかった。また、Cbfb の mRNA 発現は、いずれの薬物添加や曝露 時間によっても有意な変動を示さなかった。BV-2 細胞株に 1 mM ATP を曝露すると、6 および 12 時間後に Runx2 タンパク質発現が著明に上昇したが、 初代培養ミクログリア細胞の場合でも、 1 mM ATP 添加後 6 時間目に有意な Runx2 の mRNA 発現量上昇が確認された。よって本研究結 果より、Runx2 は骨関節系細胞だけでなく、脳内ミクログリア細胞にも発現して、ATP 刺激に 対する応答性を示すものと推察される。 40 A5-1 全般性強直間代発作発現における扁桃核アストロサイト内向き整流性カリウム チャネル Kir4.1 の関与 長尾侑紀 1、原田悠耶 1、向井崇浩 1、奥田 葵 1、藤本 恵 1、清水佐紀 1、 芹川忠夫 2、笹 征史 3、大野行弘 1 (1 大阪薬大・薬・薬品作用解析、2 京都大院・医・動物実験施設、3 渚クリニック) 【背景・目的】脳アストロサイトに局在する内向き整流性カリウムチャネル Kir4.1 は、シナプス 周囲の細胞外 K+濃度を調節する空間的 K+緩衝機構を仲介する。近年、ヒトにおいて Kir4.1 をコ ードする KCNJ10 遺伝子の変異により、全般性強直間代発作(Generalized tonic clonic seizure, 以 下 GTCS)や運動失調などを主症状とする EAST/SeSAME 症候群が誘発されることが示され、 Kir4.1 チャネルとけいれん性疾患との関連が注目されている。しかし、Kir4.1 チャネルのてんか ん病態における機能意義、GTCS 誘発メカニズムなど、依然不明である。そこで今回、GTCS を 自然発症する Noda epileptic rat (NER) を用い、GTCS(てんかん大発作)病態における Kir4.1 チ ャネルの脳内発現変化を Western blot 法ならびに免疫組織化学的手法を用いて解析した。 【方法】自発的な GTCS 発現を確認した 15~20 週齢の NER および対照動物である Crj:Wistar ラ ットを使用した。発作間欠期の NER から脳を摘出後、10 部位(大脳皮質、線条体、海馬、視床、 視床下部、中脳、橋・延髄、小脳など)に分離し、各脳部位の Kir4.1 発現量を Western blot 法に より解析した。またパラフイン包埋した脳より 4 μm の冠状薄切片を作成し、ABC-DAB 法によ る Kir4.1 チャネルの免疫染色を行い、Kir4.1 陽性細胞数を計測した。一部の実験では、Kir4.1 発 現細胞を同定する目的で、Kir4.1 とアストロサイトマーカーである GFAP あるいは神経細胞マー カーである NeuN との蛍光二重染色を行った。さらに神経興奮部位を探索する目的で、神経活動 性のマーカーである Fos 蛋白の免疫組織染色を行い、Fos 陽性細胞数を計測した。 【結果・考察】NER の脳 10 部位における発現量を Western blot 法により対象動物と比較した結果、 Kir4.1 の四量体レベルが後頭-側頭葉および視床において有意に低下していた。この変化は部位 特異的であり、大脳辺縁系、大脳基底核などその他の脳領域では有意な変化は認められなかっ た。一方、後頭-側頭葉切片を用いた免疫組織染色によって、Kir4.1 チャネルが主としてアスト ロサイトの細胞体と終足 (foot processes) に発現していることが確認された。このうち、NER で は扁桃核におけるアストロサイト終足の Kir4.1 発現が特異的かつ有意に低下していた。さらに Fos 発現を指標として神経興奮部位を探索した結果、NER の扁桃核において Fos 発現の顕著な上 昇が確認され、Kir4.1 の発現低下領域と一致した。以上の結果から、NER では扁桃核のアスト ロサイト終足に分布する Kir4.1 チャネルの発現が特異的に低下しており、これに伴うアストロ サイト K+緩衝能の低下が GTCS 発現に関与していることが示唆された。 41 A5-2 Insulin の中枢性血糖値低下作用におけるアストロサイトの役割 長岡 優也、大澤 匡弘、山本 昇平、小野 秀樹 名市大・薬・中枢神経機能薬理学 【背景・目的】Insulin は骨格筋や脂肪組織、肝臓などへ作用し血糖値を低下させる。さらに、 脳にも作用して、血糖値を低下させることも明らかにされている。しかし、この insulin の中 枢性血糖値低下作用の詳細なメカニズムは不明である。これまでに中枢神経系を介した血糖値 の調節はグルコース感受性の神経細胞に加えてアストロサイトによって行われていることが示 唆されていることから、本研究では insulin の中枢性血糖値低下作用におけるアストロサイト の役割について検討を行った。 【方法】 実験には ddY 系雄性マウス (6~9 週齢) を用いた。血液は尾静脈より採取した。血液 を遠心分離後、得られた血漿中のグルコース量をムタロターゼ・グルコースオキシダーゼ法に より測定した。また、脳内の insulin シグナルの活性化は Akt および GSK3βタンパク質のリン酸 化を、神経細胞の活性化は Fos タンパク質の発現を指標として免疫組織化学的に評価した。 【結果・考察】Insulin (30 mU) を脳室内へ投与すると、投与後 30 分をピークとする血糖値の 低下作用が認められた。この insulin 脳室内投与による血糖値低下は、アストロサイトの阻害 薬である propentofylline の脳室内前処置により抑制された。さらに、ピルビン酸や乳酸など モノカルボン酸類の放出や取り込みに関与するモノカルボン酸トランスポーターの阻害薬であ るα-cyano-4-hydroxycinnamic acid を脳室内へ前処置しても insulin による血糖値低下が抑制 された。また、グルコースの類似体である 2-deoxy-D-glucose は insulin による血糖値低下を抑 制したが、グリコーゲンのリン酸化を抑制する 1,4-dideoxy-1,4-imino-D-arabinitol によって は有意な影響が認められなかった。これらのことから、insulin 脳室内投与による血糖値低下に アストロサイトの活性化が一部関与し、アストロサイトへ新たに取り込まれるグルコースに由 来するモノカルボン酸の放出が関与することが示唆された。次に、insulin が脳内でその情報伝 達を活性化するかについて検討を行ったところ、insulin 投与により視床下部弓状核 (ARC) に おいて Akt および GSK3βのリン酸化が認められた。この Akt のリン酸化は GFAP 陽性細胞でも認 められたことから、アストロサイトにおいて見られることを確認した。また、insulin 投与によ り ARC において Fos の発現は認められなかったが、視床下部室傍核 (PVN) および背内側核 (DMH) においてその発現が認められた。以上のことから、insulin は ARC の神経細胞だけではな くアストロサイトにも作用し神経細胞の興奮を引き起こし、その神経活動の活性化により PVN、 DMH の神経細胞活動が亢進して、結果として血糖値低下が起きたことが考えられる。 42 A5-3 アストロサイトの機能阻害が及ぼす脊髄概日リズムへの影響 杉本達彦、森岡徳光、中村庸輝、中島(久岡)一恵、仲田義啓 (広島大院・医歯薬保・薬効解析) 【背景・目的】我々の生体内には約 24 時間を周期とする概日リズムが存在しており、様々な生 体機能に時間依存性をもたらしている。概日リズムの分子実態は時計遺伝子群(Per、Cry、Bmal1、 Clock など)であり、これら遺伝子群の転写翻訳調節により形成されている。視交叉上核(SCN) は概日リズムの中枢として機能しており、各組織、細胞レベルで存在する末梢リズムを統括し ている。一方、SCN の支配とは別に末梢組織に存在する独自のリズムが生体機能リズムを形成 する上で重要な役割を担っている可能性も示唆されている。しかし、その詳細には不明な点も 多い。そこで本研究では運動、感覚伝達において重要な役割を果たしている脊髄の概日リズム に着目した。中枢神経系の恒常性を担うアストロサイトが脊髄のリズム形成に関与している可 能性についても検討した。 【方法】実験動物は ICR 系雄性マウス 6 週齢を用いた。マウスは 12h/12h の明暗サイクル、恒常 的な環境下で飼育し、環境に十分慣れさせた後に実験に用いた。各種時計遺伝子及び生体内物 質の mRNA 発現は real-time PCR 法により、タンパク質の発現は、Western blotting 法によりそ れぞれ解析を行った。 【結果・考察】マウス脊髄を 4 時間毎に抽出し、各種時計遺伝子の発現に対する日内変動を解析 したところ、Per1、Per2、Bmal1、Cry1 mRNA 発現に有意な日内変動が存在していた。また、 脊 髄 内 の 機 能 に 関 与 す る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る neurokinin-1 (NK-1) receptor 、 n-methyl-d-aspartate (NMDA) receptor、glutamate transporter (GLAST、GLT-1)、cyclooxygenase (COX)、glutamine synthase (GS) の発現を検討したところ、COX-1、GS の mRNA、タンパク 質発現においてのみ有意な日内変動が観察された。さらにアストロサイトの脊髄概日リズム及 ぼす影響を観察するため、アストロサイト代謝阻害剤である fluorocitrate (100 pmol) を組織抽 出前日 (20:00) に脊髄腔内に投与した。その結果、脊髄における時計遺伝子 (Per1、Per2、Cry1、 Cry2)、COX-1、GS の発現リズムは、saline 投与群に比べて減弱、消失した。 以上の結果より、脊髄において概日リズムが存在している可能性が示唆された。また、脊髄概 日リズムの形成にはアストロサイトが重要な役割を果たしていることが示唆された。以上の知 見は、脊髄における時計遺伝子の発現制御に対するアストロサイトの新たな役割を示すもので ある。 43 A5-4 ミクログリア細胞に発現する IL-6 の時計遺伝子による発現制御 宝田剛志1、堀田彰悟1、榛葉繁紀2、米田幸雄1 (1 金沢大院・薬・薬物学、2 日大・薬・衛生化学) 【背景】近年我々は、中枢神経系での免疫機能に関与するミクログリア細胞につ いて、生物時計の分子実体である各種時計遺伝子の機能的発現の可能性を報告 した。今回、そのミクログリア細胞に発現する時計遺伝子による転写制御標的 遺伝子の探索を行い、変動が認められた遺伝子についてその発現制御メカニズ ムの解析を行った。【方法】ミクログリア細胞株である BV-2 細胞に時計遺伝子 を過剰発現させたのち、RT-PCR 法を用いて各種ミクログリア関連遺伝子の発現 を検討した。発現変動が見られた遺伝子については、BV-2 細胞とともに Bmal1 欠損マウス由来初代培養ミクログリア細胞を用いて、LPS 曝露後に経時的な mRNA 発現量変化を解析した。また、同遺伝子のプロモーター領域をクローニ ング後、deletion construct を作製し、HEK293 細胞を用いたルシフェラーゼアッ セイにより転写活性を解析した。【結果】BV-2 細胞に Bmal1 と Npas2 を同時に 過剰発現させたところ、各種ミクログリア関連遺伝子群の中で、IL-6 のみに有 意な mRNA 発現上昇が認められたが、この上昇は Per1 導入により有意に抑制さ れた。ミクログリア細胞の活性化能を有する LPS を BV-2 細胞に曝露すると、3 時間目と 6 時間目で IL-6 の発現上昇が認められたのに対して、予め Bmal1 発現 を siRNA 導入によりノックダウンさせた細胞では、LPS 曝露に伴う IL-6 の mRNA 発現が 1 時間目において有意に抑制された。一方、Bmal1 欠損マウス由 来初代培養ミクログリア細胞に LPS を曝露すると、野生型動物のミクログリア 細胞に比べて、6 時間目と 12 時間目において IL-6 の mRNA 発現が有意に抑制 された。HEK293 細胞に Bmal1/Clock 群あるいは Bmal1/Npas2 群を導入したとこ ろ、それぞれ IL-6 のプロモーター活性を有意に上昇させたが、E-box 配列を含 まない deletion construct をレポーターとして用いると、その活性化能が有意に抑 制された。 【考察】以上の結果より、ミクログリアにおける IL-6 遺伝子の発現は、 プロモーター領域上流に存在する E-box 配列を介して、時計遺伝子により制御 される可能性が示唆される。 44 B1-1 セラミド代謝酵素の活性制御機構の解明 ○豊村香織 1、佐々木弘恒 1、中村浩之 1、岡本彩 2、山口直人 2、村山俊彦 1 (1 千葉大院・薬・薬効薬理、2 千葉大院・薬・分子細胞生物) 【背景・目的】生体膜構成成分であるスフィンゴ脂質は、細胞内シグナル伝達分子としても機能 することが示されている。しかし、スフィンゴ脂質代謝酵素の制御機構は未だ多くが明らかとな っておらず、詳細の解明が待たれている。スフィンゴ脂質代謝酵素群のうち、セラミドキナーゼ (CerK)はセラミドをセラミド-1-リン酸(C1P)に変換する酵素である。C1P は炎症反応への関与や 抗アポトーシス作用などが報告されている。また、セラミダーゼ(CDase)はセラミドをスフィン ゴシンと脂肪酸に分解する酵素である。スフィンゴシンは 1 位の水酸基がリン酸化されスフィ ンゴシン-1-リン酸に代謝される。スフィンゴシン-1-リン酸は細胞増殖促進作用を示し、セラミ ドによって誘導されるアポトーシスを抑制することが知られている。このように細胞の増殖、分 化、細胞死などの調節において細胞内のセラミドとその代謝産物であるスフィンゴシン、スフィ ンゴシン-1-リン酸などのバランスが非常に重要であると考えられているが CDase、CerK の活 性制御機構の詳細は不明な点が多いことから、本研究に着手した。 【方法】細胞におけるスフィンゴ脂質代謝活性測定は、スフィンゴ脂質代謝経路の中心となるセ ラミドに蛍光基を付加させたもの(NBD-Cer)を用いた。NBD-Cer を取り込ませた後に細胞内で 生成した NBD-スフィンゴ脂質の量を検出し、各脂質に対応するスフィンゴ脂質代謝経路の活性 とした。 【結果・考察】ヒト肺癌細胞株 A549 細胞を用い、細胞レベルでの CDase、CerK 活性の変化を もたらす試薬を探索した。その結果、Src family kinases (SFKs) の阻害剤である SU6656 を処 理することで NBD-脂肪酸、NBD-C1P の産生が減少することを見出した。従って、CDase、CerK 活性の上流に SFKs が存在する可能性が示唆された。次に、SFKs のうちの一つである c-Src を shRNA によりノックダウンすることにより、NBD-脂肪酸、NBD-C1P の産生は減少した。また、 c-Src の過剰発現により NBD-脂肪酸、NBD-C1P の産生が増加した。一方、c-Src と同様に SFKs に属している Lyn を過剰発現した際には、NBD-脂肪酸、NBD-C1P の産生量に変化は見られな かった。これらの事から、細胞レベルでの CDase、CerK 活性の上流に c-Src が存在することが 示された。CDase には一次構造の異なるサブタイプが存在し、酵素活性の至適 pH がそれぞれ 異なることが知られている。SFKs の下流に存在する CDase のサブタイプを同定するため、in vitro において CDase 酵素活性測定を行った。その結果、SU6656 処置を行った細胞にて作成し たホモジネートでは、アルカリ性において CDase の活性が有意に減少した。一方、酸生、中性 においては変化が見られなかった。 従って、SFKs の下流に存在する CDase はアルカリ性 CDase であることが示唆された。以上のことから、CerK およびアルカリ性 CDase の活性制御上流に SFKs、特に c-Src が存在することが示された。 45 B1-2 HPGB のミトコンドリア融合阻害に関するアミノ酸残基の同定 開 菜摘 1、張 寧 1、東 信太朗 1、新谷 紀人 1、片木 和彦 1、井上 直紀 1、早田 敦子 1,2、馬場 明道 3、橋本 均 1,2 (1 大阪大院・薬・神経薬理、2 大阪大院・連合小児発達・子どものこころセ、3 兵 庫医療薬科大・薬・薬理) 【背景・目的】 ミトコンドリアは細胞内で絶えず分裂と融合を繰り返して形態を変化させる細 胞内小器官であり、近年、これら形態制御の異常が神経変性疾患や糖尿病など、種々の疾患の 分子病態に関与する可能性が示されている。これまで我々は、当研究室で同定・命名された hyperplasia-associated gene of beta cell (HPGB) が、ミトコンドリアの形態を粒子状に断片化 させること、またこの断片化には HPGB によるミトコンドリア同士の融合阻害作用が関与する ことを見出し、本分子がミトコンドリアの動態や機能制御を担う新しい因子であることを示し た。しかし HPGB には、他のミトコンドリア形態制御因子と類似したドメイン構造やシグナル 配列が存在しないことから、具体的にどのような機能ドメインを介してこれらの機能を発現し ているのかは明らかになっていない。そこで本研究では、HPGB の部分欠失体およびアラニン 置換変異体を作製し、これらがミトコンドリア形態に及ぼす影響を解析することで、HPGB の ミトコンドリア融合阻害活性を担うアミノ酸残基の同定を行った。 【方法】 C 末端に FLAG エピトープを付加した HPGB の部分欠失変異体あるいはアラニン置換 変異体を作製した。これら変異体と、ミトコンドリア局在性の蛍光蛋白質 mtAcGFP を、COS-7 細胞にそれぞれ独立に発現させた後、ポリエチレングリコールを用いてこれら細胞を融合させ た。タンパク合成阻害剤存在下で 16 時間培養を行った後、抗 FLAG 陽性シグナルと mtAcGFP 蛍光との共局在の有無を指標として、各変異体のミトコンドリア融合に及ぼす作用を評価した。 【結果・考察】 N 末端から順に部分的に欠失させた 7 種類の HPGB 部分欠失変異体を用いた検 討から、20~49 番目のアミノ酸を欠失させた変異体(Δ20-40)でのみ融合阻害能が大きく減弱 することを見出した。さらにこの領域を3分割した部分欠失変異体の検討から、Δ29-40 と Δ41-49 で共に融合阻害能が部分的に減弱することを見出した。また、この 29~49 番目のアミ ノ酸領域についてアラニンスキャンを行った結果、48 番目のスレオニン、あるいは 49 番目のセ リンをアラニンに置換した変異体において融合阻害能が大きく減弱することが明らかになった 以上の結果から、HPGB のミトコンドリア融合阻害活性には、これら 2 つのアミノ酸が特に重 要であることが示された。これらはいずれもリン酸化を受ける可能性のあるスレオニン、セリ ン残基であることから、HPGB の機能はリン酸化によって制御される可能性が考えられる。 46 B1-3 ERK5 依存的に誘導される p36 遺伝子は、PC12 細胞のチロシンヒドロキシラーゼ タンパク質発現とカテコールアミン生合成に関与する。 長澤隆介1、根本亙1、小原祐太郎1,2、守屋孝洋1、西田基宏3、石井邦明2、 中畑則道1 (1 東北大院・薬・細胞情報薬学、2 山形大・医・薬理、3九大院・薬・創薬育薬) 【背景・目的】以前の本研究室の研究により、神経細胞のモデル細胞である PC12 細胞を神経成 長因子(NGF)で刺激すると、extracellular signal-regulated kinase (ERK)1/2 や ERK5 が活 性 化 さ れ て 形 態 的 ・ 機 能 的 な 分 化 が 誘 導 さ れ る こ と が 明 ら か に な っ た (J.Biol. Chem,284,23564-73,2009)。さらにマイクロアレイ法を用いて、NGF による PC12 細胞の分化誘導 時に ERK5 依存的に発現される遺伝子群を数多く同定し、その中でも特に ERK5 選択性の高い p36 遺伝子が見出された。p36 は主に心筋で高発現するタンパク質であり、様々な遺伝子の発現を制 御しているが、それ自身は酵素活性を持たずアダプタータンパク質として機能することが知ら れている。また、神経細胞の分化時における p36 が果たす役割についてはほとんど報告されて いないため、本研究では p36 が PC12 細胞の分化に果たす役割を解明することを目的とした。 【方法】PC12 細胞の形態的な分化の指標として伸長した神経突起の長さを定量した。また、機能 的な分化の指標としてチロシンヒドロキシラーゼ(TH)の発現量をウエスタンブロット法によ り、カテコールアミン生合成量をエチレンジアミン縮合法により定量した。p36 の遺伝子発現と タンパク質発現の定量はそれぞれ RT-PCR 法やウエスタンブロット法を用いて検討した。 【結果・考察】p36 siRNA を用いて p36 をノックダウンしても、NGF 刺激による PC12 細胞の神経 突起伸展に影響は見られなかった。また、TH タンパク質の発現量は p36 ノックダウンにより減 少したが、TH mRNA 発現量は減少しなかった。これらの結果から、p36 は PC12 の形態的な分化 には関与せず、TH タンパク質の安定化(分解経路の抑制)に関与している可能性が示唆された。 次に、TH タンパク質の主な分解経路がユビキチンープロテアソーム系であることから、TH タン パク質のユビキチン化に着目した。TH を免疫沈降し、抗ユビキチン抗体を用いたウエスタンブ ロットを行ったところ、p36 ノックダウンにより TH タンパク質のユビキチン化が亢進した。さ らに、p36 による TH タンパク質の安定化が PC12 細胞の機能に与える影響について検討するため、 カテコールアミン生合成量を定量した。その結果、p36 ノックダウンによりカテコールアミン生 合成量が有意に減少した。以上の結果から、p36 は TH タンパク質のユビキチン化を抑制して安 定化することで、PC12 細胞の機能的な分化に促進的に働くことが明らかとなった。 47 B1-4 Ifrd1 による脂肪細胞分化制御機構 中村 由香里、檜井 栄一、米田 幸雄 (金沢大院・薬・薬物学) 【目的】先進社会においては、エネルギーの過剰摂取と運動不足が常態化しており、肥満やメタ ボリックシンドローム患者およびその予備軍は、近年世界的にその数が急増している。脂肪細 胞はエネルギーを貯蔵するだけでなく、生理状況に応じてアディポサイトカインと呼ばれる 様々な内分泌因子を産生・分泌して、糖・脂質代謝異常や動脈硬化の発症・進展に深く関与し ている。一方、Interferon-related development regulator 1(Ifrd1)は、ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC)複合体の一種である SIN3 複合体と結合することにより、コリプレッサーとして機能す る転写因子として知られ、上皮細胞、筋芽細胞、造血細胞および神経細胞など様々な細胞の分 化過程において重要な働きを担うことが報告されている。我々は脳虚血等により脳内が低酸素 状態に陥ると Ifrd1 発現が上昇することを見出したが、脂肪細胞の肥大化が観察される肥満状態 では、脂肪細胞は低酸素環境下にあることが知られている。したがって本研究では、脂肪細胞 における Ifrd1 の機能について、特に低酸素負荷に焦点を当てて追究した。 【方法】前駆脂肪細胞株 3T3-L1 細胞に低酸素ストレスを負荷し、Ifrd1 発現変動を mRNA および タンパク質レベルで検討した。また、Luciferase assay により Ifrd1 発現制御の上流シグナルの特 定を試みた。さらに、3T3-L1 細胞に Ifrd1 安定的発現細胞株を作製して、細胞内中性脂肪を染色 する Oil red O 染色および脂肪細胞特異的遺伝子の発現変動を測定した。また、肥満モデルマウ ス(ob/ob マウスおよび高脂肪食負荷マウス)を用いた解析も行った。 【結果】未分化 3T3-L1 細胞に低酸素ストレスを負荷すると、通常酸素条件下で培養した細胞の 場合と比較して、Ifrd1 mRNA およびタンパク質発現の有意な上昇が認められた。肥満モデルマ ウスの脂肪組織においても、Ifrd1 の発現が上昇することを確認した。Ifrd1 遺伝子上流 4442 bp をレポーターとする Luciferase assay の結果、ATF6 が Ifrd1 発現に対する正の制御活性を有する 事実が明らかとなった。さらに、Ifrd1 安定発現 3T3-L1 細胞では、分化誘導に伴う Oil red O 染 色性および脂肪細胞特異的遺伝子発現の有意な低下が観察された。また、Luciferase assay により Ifrd1 が Wnt/β-catenin シグナルを増強することが判明した。免疫沈降法では、低酸素ストレス負 荷後の 3T3-L1 細胞および ob/ob マウス内臓脂肪組織の細胞核画分で、Ifrd1 と β-catenin が相互作 用することも明らかとなった。 【考察】以上の結果から、肥満等により低酸素状態に陥った脂肪細胞では、ATF6 を介して Ifrd1 の発現が上昇し、その結果 Wnt/β-catenin シグナルが増強されることにより脂肪細胞分化が負に 制御される可能性が示唆される。 48 B2-1 マウス気道上皮繊毛運動の細胞内 Ca2+濃度及び膜電位への依存性と K+チャネル 開口薬の作用 大羽輝弥1、澤田英士1、鈴木良明1、山村寿男1、大矢進2、今泉祐治1 (1 名古屋市立大・院・薬・細胞分子薬効解析学、2京都薬科大・薬理) 【背景・目的】 気道上皮は様々な種類の細胞から構成されている。気道に侵入した異物は 粘液によって捕捉され、繊毛細胞の繊毛運動によって咽頭側へ運搬され、喀痰として排泄 される。従って、繊毛運動は呼吸器系器官における生体防御機構として重要な役割を担っ ている。繊毛運動の増大には、細胞内 Ca2+濃度([Ca2+]i)上昇が必要なことが明らかになって いる。しかし、[Ca2+]i 上昇に関わる細胞外からの Ca2+流入経路を担う Ca2+透過性チャネル や細胞膜電位を制御する K+チャネルの繊毛運動への寄与に関する報告は極めて少ない。そ こで、繊毛運動と[Ca2+]i 及び膜電位の関係を解析し、さらに K+チャネル特に ATP 感受性 K+(KATP)チャネル機能及び繊毛運動における開口薬の作用について検討した。 【方法】マウス(C57/BL6)の気道を摘出し、酵素処理により単一のマウス気道上皮繊毛細胞 を得た。膜電流測定のための電気生理学的手法として、ホールセルパッチクランプ法を適 用した。また顕微鏡下、繊毛細胞を選別し、微小ピペットにより 30 個ほど採取し、multi-cell PCR 法を用いて KATP チャネルなどの mRNA 発現を解析した。[Ca2+]i 測定法は Ca2+蛍光指 示薬(fura-2, fluo-4)を細胞内に負荷して測定した。膜電位測定は膜電位感受性色素である DiBAC4(3)を用いて測定した。繊毛運動の頻度は高速 CCD カメラによる取得画像から解析 した。 【結果・考察】単一マウス気道上皮繊毛細胞において、電位固定下、膜電位を-20 mV から-60 mV に過分極刺激すると、 有意に[Ca2+]i が上昇した。 過分極によって惹起した[Ca2+]i 上昇は、 外液の Ca2+を除去することで有意に抑制された。次に、繊毛細胞に-120 mV から+40 mV にランプ波を適用したところ、内向き整流性を有する電流が観察された。また、KATP チャ ネル開口薬である 10 μM Diazoxide により内向き電流成分が有意に増大した。その活性化 した内向き電流は KATP チャネル阻害薬である 5 μM Glibenclamide により抑制されたため、 Glibenclamide 感受性電流を KATP チャネル電流成分とした。また、mRNA 発現解析により、 Kir6.2 と SUR2 が発現していていることを見出した。Diazoxide により細胞膜は過分極し、 [Ca2+]i は上昇した。Diazoxide による[Ca2+]i 上昇は Glibenclamide によって抑制された。さ らに、繊毛運動の頻度は Diazoxide により上昇した。以上より、気道上皮繊毛細胞では KATP チャネル活性化などによる過分極が、Ca2+流入電気化学駆動力増大を介して [Ca2+]i を上昇 させ、繊毛運動を増大させることが示され、去痰効果を示す可能性が明らかとなった。 49 B2-2 軟骨細胞の小胞体 Ca2+枯渇による Orai1/STIM1 の共局在と機能解析 伊奈山宗典1、鈴木良明1、山村寿男1、大矢進 2、今泉祐治1 (1 名古屋市大・院薬・細胞分子薬効解析、2 京都薬科大・薬理) 【背景・目的】炎症時に関節内のマスト細胞から分泌されるヒスタミンは軟骨細胞を刺激するこ 2+ とで、細胞内 Ca シグナルを介した細胞増殖や軟骨基質の合成に関与する。本研究室では、軟 2+ 2+ + 骨細胞に Ca 活性化 K (KCa) チャネルが発現しており、Ca 濃度上昇によるその活性化は、過 2+ 2+ 分極を介して細胞外からの Ca 流入を増加させる正帰還 Ca 制御機構を担っている可能性を報 2+ 告している (Funabashi et al, Am J Physiol Cell Physiol, 2010)。ヒスタミンによる[Ca ]i 上昇は、 2+ 一過性の phasic 相とそれに続く tonic 相から成る。phasic 相は小胞体からの Ca 放出に起因す 2+ る。tonic 相を担う分子実体は明らかでないが、免疫細胞などと同様に、小胞体の Ca 放出によ 2+ り活性化されるストア作動性 Ca 流入 (SOCE) が機能している可能性が高い。本研究では、軟 2+ 骨細胞における SOCE の寄与について解析し、その分子同定を行うことで、軟骨細胞での Ca 流入機構解明を目指した。 【方法】実験には軟骨細胞モデルとして汎用されているヒト軟骨肉腫由来細胞 (OUMS-27) を使 2+ 用した。mRNA の発現解析は real-time PCR 法を用いた。[Ca ]i 上昇経路を明らかにするため、 2+ 2+ 2+ 2+ Ca 蛍光指示薬 (fura-2/AM) による[Ca ]i 測定を行った。外液 Ca 除去後、細胞内 Ca ストア 枯渇薬である 10 µM thapsigargin (TG) で処置し、その後、 外液に Ca を加えることにより SOCE 2+ を誘発させた。また STIM1 と Orai1 の蛍光標識体を作製し、HEK293 及び OUMS-27 に発現さ せ、全反射蛍光顕微鏡 (TIRFM) によるイオンチャネル動態の 1 分子可視化を行った。 【結果・考察】OUMS-27 において Orai1, Orai2, STIM1 が mRNA レベルで高発現していること が明らかとなった。TG によって誘発した SOCE は、非選択性陽イオンチャネル阻害薬 (10 µM 3+ Gd ) によって有意に抑制された。また、SOC チャネル制御薬 2-aminoethoxydiphenyl borate (2-APB) の効果を検討した結果、低濃度 (5 µM) 投与により SOCE が増加し、 高濃度 (30 µM) 投 与により抑制されたことから、OUMS-27 の SOCE に Orai1 が主に関与していることが示唆され た。さらに、Orai1 のドミナントネガティブ体 (E106Q) を発現させることにより、SOCE は顕 著に抑制された。TIRFM による 1 分子可視化解析では、TG (5 µM) 刺激により STIM1 と Orai1 の共局在化が見られた。また、炎症に関わる生体活性物質であるヒスタミン (100 µM) の刺激 により、STIM1 が凝集し、Orai1 との共局在化が見られた。以上から、ヒスタミン刺激などによ 2+ る軟骨細胞の主な Ca 流入経路の一つとして、Orai1 と STIM1 を介した SOCE が寄与している ことが明らかとなった。 50 B2-3 破骨細胞における Ifrd1 の役割 家﨑高志、檜井栄一、米田幸雄 (金沢大院・薬・薬物学) 【目的】 Interferon-related developmental regulator 1(Ifrd1)は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)複合体 の一種である SIN3 複合体と結合して、コリプレッサーとして機能する転写調節因子である。我々 はこれまでに、脳内における神経幹細胞の分化に Ifrd1 が深く関与する可能性について報告する とともに、脳以外の組織では骨関節系組織に Ifrd1 が高発現して、その細胞分化過程を制御する 可能性を見出した。そこで今回は、骨リモデリング機構の中で骨吸収機能を担う破骨細胞にお ける Ifrd1 の機能について解析を行った。 【方法】 マウスマクロファージ細胞株 RAW264.7 細胞およびマウス骨髄由来マクロファージに、破骨細 胞分化誘導因子 RANKL を曝露し、Ifrd1 発現変動を mRNA およびタンパク質レベルで検討した。 また、Luciferase assay および ChIP assay を行って、Ifrd1 発現制御の上流シグナル特定を試み た。さらに、RAW264.7 細胞および骨髄由来マクロファージに Ifrd1 を過剰発現させて、RANKL 誘導性の破骨細胞分化過程に対する影響を検討した。Ifrd1 による破骨細胞分化制御機構を明ら かにするために、免疫沈降法により Ifrd1 と相互作用するタンパク質の解析を行った。 【結果】 未分化 RAW264.7 細胞および骨髄由来マクロファージに RANKL を曝露すると、Ifrd1 mRNA お よびタンパク質それぞれの発現上昇が認められた。Ifrd1-Luc(-4442 to +160)による Luciferase assay の結果、転写因子 AP-1 が Ifrd1 発現に対する正の制御活性を有する事実が明らかとなっ た。さらに、ChIP assay により AP-1 構成タンパク質である c-Fos が Ifrd1 プロモーターに結合 することが確認された。Ifrd1 を過剰発現させたマクロファージでは、TRAP 染色陽性多核細胞 数の増加が観察されただけでなく、構成タンパク質である RelA に対する抗体を用いた ChIP assay では、転写因子 NF-κB 結合配列への結合能上昇が認められた。さらに、免疫沈降法によ る解析を行ったところ、抗 Ifrd1 抗体免疫沈降物中に NF-κB 構成タンパク質の RelA および RelB がそれぞれ検出された。 【考察】 以上の結果より、RANKL 刺激に伴う破骨細胞の分化過程においては、AP-1 を介する転写調節 により発現上昇した Ifrd1 が、NF-κB 構成タンパク質との相互作用を通じて、その転写調節能を 促進させて細胞分化が活性化される可能性が示唆される。 51 B2-4 酸化ストレスによる蝸牛らせん靭帯のギャップ結合機能の破綻メカニズムの解 明-難聴治療戦略の開発を目指して- 山口太郎、荻田喜代一 (摂南大・薬・薬理) 【背景・目的】蝸牛外側壁においてギャップ結合は細胞間イオン輸送に関与する。ヒトにおける ギャップ結合構成蛋白質コネキシン(Cx)遺伝子の変異は、先天性難聴を高頻度に誘発するこ とが知られる。演者らは、強大音響曝露が蝸牛外側壁で酸化ストレス産物の 4-hydroxy-2-nonenal(4-HNE)付加蛋白質を増加させること及び 4-HNE が Cx43 の減少に伴った ギャップ結合の機能破綻を引き起こすことを見出した。しかしながら、これらの関連性につい ては不明な点が多い。本研究では、蝸牛外側壁由来線維細胞培養系における 4-HNE による Cx43 減少メカニズムの詳細について解析した。 【方法】5-6 週齢の Std-ddY 系雄性マウスより蝸牛を摘出し、らせん靭帯を単離後に 10 日間器官 培養を行った。得られた細胞を回収し、分散後さらに 12 日間培養した細胞に 4-HNE(10 µM)を 1 時間曝露した。ギャップ結合機能は細胞間色素輸送法により評価した。すなわち、ギャップ結 合透過性色素(緑色、Calcein-AM: 10 µM)及び非透過性色素(赤色、DiI: 10 µM)で標識した 細胞を非標識細胞上に播種し、4.5 時間後の Calcein-AM の細胞間移動を観察した。さらに、曝 露後の一定時間での Cx43 及びα-fodrin 量をウエスタンブロット法により解析した。 【結果・考察】4-HNE 曝露後 4.5 時間後では、Calcein-AM の細胞間輸送率の著明な減少が観察 された。本結果は、4-HNE によりギャップ結合機能の低下を示すものである。また、4-HNE 曝露 後 10、30 分では Cx4 量の有意な減少が観察された。さらに、4-HNE 曝露後 10 分ではカルパイン 由来のα-fodrin 断片(145 kDa)の有意な増加がみられた。次いで、4-HNE 曝露前にカルパイン 阻害剤 PD150606 を処置すると、4-HNE による Cx43 の減少が著明に抑制されることが判明した。 さらに、 PD150606 前処置は 4-HNE 曝露後 4.5 時間の細胞間色素輸送率の著明な減少も抑制した。 したがって、4-HNE 曝露による Cx 減少とギャップ結合機能の破綻にカルパインが関与すること が示唆される。また、音響外傷性難聴をはじめとする難聴に酸化ストレスの関与が示されてい ることから、カルパイン阻害薬が難聴治療薬として有効である可能性が推察される。 52 B3-1 甘草成分リコカルコンのウサギ血小板凝集抑制作用 奥田亜沙 1、岩下真也 1、小原祐太郎 1,3、菅原大貴 2、田代匠 2、三枝大輔 2、富 岡佳久 2、守屋孝洋 1、石井邦明 3、中畑則道 1 (1 東北大・薬・細胞情報薬学、2 東北大・薬・がん化学療法薬学、3 山形大・医・ 薬理学) 【背景・目的】現代において虚血性疾患は死因の多数を占めており、その治療に用いられている 既存薬については、長期投与に伴って生じる出血傾向や胃腸障害といった副作用が患者の QOL を低下させていることから、改善が求められている。そこで当研究室では一般的に副作用が少 ないとされている漢方薬に着目し、これまでに、多数の漢方薬に汎用されている甘草の含有成 分リコカルコンが、ウサギ血小板の凝集反応を抑制することを明らかにした。本研究では、よ り有効な虚血性疾患治療薬の開発を期待し、リコカルコンの血小板凝集抑制作用メカニズムを 解明することを目的とした。 【方法】ACD 液を用いてウサギ耳介動脈から採血し、遠心法によって洗浄血小板を得た。洗浄血 小板の凝集反応はアグリゴメーターを用いて光の透過率変化を指標として測定した。また、 COX1 活性及び TXB2 産生量は EIA を用いて測定し、 血小板の形態観察は走査型顕微鏡を用いた。 リコカルコンが結合する COX1 タンパク質中のアミノ酸残基の同定にあたって、HPLC 及びマ ススペクトロメトリーを用いて解析中である。 【結果・考察】リコカルコンは複数の分子種を有しており、中でもリコカルコン A は、コラーゲ ン誘発性及び TXA2 (U46619) 誘発性の血小板凝集を抑制した。特にコラーゲン誘発性の血小板 凝集を低濃度で抑制し、その作用には濃度依存性が見られた。また、アラキドン酸誘発性の血 小板凝集も低濃度で抑制したため、リコカルコン A はアラキドン酸から TXA2 が生成する過程に 作用していることが示唆された。そこで、in vitro において PGF2αの生成量を指標として COX1 活性を測定したところ、リコカルコン A は COX1 活性の抑制作用を示した。また、リコカルコ ンを前処理した血小板をコラーゲンで刺激すると、形態変化が抑制される様子が観察され、そ の際に生成される TXB2 量も濃度依存的に減少した。リコカルコンを含めたカルコン類はアミノ 酸のシステイン残基とマイケル付加反応を起こしやすいと推測されることから、我々は COX1 タンパク質中のジスルフィド結合に関与しないフリーのシステイン残基とリコカルコンが結合 することで COX1 活性を抑制しているのではないかと考えた。これまでに、リコカルコンとシ ステイン単独の結合を確認しており、今後はリコカルコンと COX1 タンパク質中の標的システ インの結合を解析していく予定である。以上のことから、甘草に含まれるリコカルコンは、血 小板凝集抑制作用により新たな虚血性疾患治療薬に応用できる可能性があると考えている。 53 B3-2 Apelin シグナル抑制による MCP-1 発現誘導を介した血管成熟化の促進 石丸 侑希 1, 東野 功典 1, 小林 浩平 1, 住野 彰英 1, 川崎 裕貴 1, 笠井 淳司 2,3, 吉岡 靖啓 1, 山室 晶子 1, 前田 定秋 1 (1 摂南大・薬・薬物治療、2 大阪大・未来戦略機構、3 大阪大・院薬・神経薬理) 【背景・目的】血管新生の過程おいて、血管は、血管内皮細胞の増殖停止に続く血管壁細胞の動 員・接着により成熟化する。しかし、虚血性網膜症で生じる新生血管は、壁細胞を伴わない脆 弱な血管であることが知られており、これらが破綻することで失明をもたらす。そのため、脆 弱な血管に壁細胞を動員し、機能的な血管に誘導する機構を解明することは、虚血性網膜症の 治療に貢献するものと考えられる。これまでに我々は、虚血性網膜症モデルマウスを用いた検 討から、apelin が血管内皮細胞の過増殖を引き起こすことで、脆弱な血管の形成に関与すること 1) を明らかにしてきた 。これらのことから、apelin シグナルを抑制することにより、血管成熟化 が促進する可能性が考えられる。そこで、血管内皮細胞および虚血性網膜症モデルマウスの網 膜の apelin シグナルを抑制したときの血管成熟化に対する影響について検討した。 【方法】血管内皮細胞株 bEnd.3 細胞および血管壁細胞株 p53LMAC01 細胞を用いた。Apelin シ グナルの抑制には、apelin siRNA を、対照群には control siRNA を処置した。各種因子の発現解 析にはリアルタイム RT-PCR 法、Western blot 法および免疫染色法を用いた。壁細胞の遊走能 の解析には、スクラッチ遊走法を用いた。また、虚血性網膜症モデルには Oxygen-Induced Retinopathy(OIR)モデルを用いた。 【結果・考察】1) Apelin siRNA を導入した bEnd.3 細胞では、apelin の発現がほぼ完全に抑制さ れ、血管壁細胞の遊走を促進する因子である MCP-1 2), 3) の発現上昇がみられた。また、apelin siRNA を導入した bEnd.3 細胞において、MCP-1 を発現誘導する転写因子である smad3 の活性 4) 化がみられ、smad3 の活性化を抑制する因子である Akt の活性低下がみられた。さらに、apelin siRNA を導入した bEnd.3 細胞の培養上清には、p53LMAC01 細胞の遊走促進作用がみられ、そ の効果は MCP-1 アンタゴニストである RS102895 により抑制された。2) OIR モデルマウスの 眼内に apelin siRNA を投与し、網膜の新生血管の血管内皮細胞に対する壁細胞の被覆度を解析 した結果、control siRNA を投与した網膜と比較して被覆度の増加がみられ、また MCP-1 の発現 上昇がみられた。以上の結果より、apelin シグナルを抑制することにより MCP-1 発現誘導を介 した血管成熟化を促進できる可能性が示唆され、apelin は脆弱な血管が生じる増殖性糖尿病網膜 症などの虚血性網膜症の新たな治療標的となる可能性が示唆された。 1) 2) 【参考文献】 Kasai A. et al. Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 2010, Ma J. et al. Blood 2007, 3) 4) Arderiu G. et al. Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 2011, Remy I et al. Nat. Cell Biol. 2004 54 B3-3 レーザー誘発脈絡膜血管新生における apelin-APJ system の役割 笠井淳司 1, 2、上野千佳子 3、五味文 3、中井慶 3、里岡達也 4、吉岡靖啓 4、山室 晶子 4、前田定秋 4、西田幸二 3 (1 大阪大・未来戦略機構、2 大阪大・薬・神経薬理、3 大阪大・医・眼科、4 摂南 大・薬・薬物治療) 【背景・目的】加齢黄斑変性は、脈絡膜血管新生を伴い急速に視力低下をきたす疾患であ る。高齢化に伴い急速に患者数が増加し、欧米では中途失明原因の 1 位を占めている。本 疾患の治療には、抗 VEGF 中和抗体が効果的な治療効果を上げる一方で、全ての血管新生 病態が抗 VEGF 中和抗体に反応するわけではないことが分かってきた。こうした血管に対 する症例への対処として、新たな分子標的の同定が必要となっている。一方で、我々は、 これまでに apelin-APJ system が、VEGF とは独立して網膜血管形成や低酸素網膜症モデル での病的新生血管の発生を誘導していることを見出してきた。そこで、今回、apelin-APJ system が加齢黄斑変性における脈絡膜血管新生に関与するのか否かを明らかにすることを 目的にマウスモデルを用いた検討を行った。 【方法】加齢黄斑変性のマウスモデルとして汎用されているレーザー誘発脈絡膜新生血管 (CNV)モデルを C57BL/6 マウスを用いて作製し、レーザー照射後 2、4、7 日目における 脈絡膜の apelin とその受容体 APJ、炎症性サイトカイン(TNFα、MAP1、F4/80)と血管 新生因子(VEGF、VEGFR2)の遺伝子発現を Real time RT-PCR により検討した。また、 野生型マウスの眼球切片および脈絡膜フラットマウントを用いて、血管内皮細胞マーカー である PECAM1 および APJ の発現について免疫染色法により検討した。さらに、apelin 遺 伝子欠損(KO)マウスを用いて CNV モデルを作製し、CNV 病変の面積、および網膜脈絡 膜におけるマクロファージの集積をフローサイトメトリーにより解析した。 【結果・考察】野生型マウスを用いた CNV モデルでは、apelin の mRNA 発現は 2 日目で 一過性に、APJ の mRNA 発現は 4 日目以降で有意な上昇を認めた。また、炎症性サイトカ インの発現はすべて上昇したが、血管新生因子は変化を認めなかった。さらに、免疫染色 法により、CNV 病変に PECAM1 の発現と一致した APJ の染色を認めた。KO マウスを用 いた CNV モデルでは、CNV 病変の面積が野生型と比較し有意に縮小していた。また、フ ローサイトメトリーによる炎症性細胞の集積は、両遺伝子型間で有意な差は認められなか った。以上のことから、レーザー誘発性 CNV モデルでは、apelin-APJ system は、炎症性 細胞の病変部位への集積には関与せず、新生血管の伸展にのみ促進作用を示し、加齢黄斑 変性の病態形成に関与する可能性が示唆された。 55 B3-4 ゲノムワイド解析を用いた TNF による癌悪性化メカニズムの研究 尾上健太郎 1,根岸英雄 2,谷口維紹 2, 山口類 1,井元清哉 1,宮野悟 1 (1 東京大学・医科学研究所・ヒトゲノム解析センター、2 東京大学・生産技術研 究所・分子免疫学分野 3) 【背景・目的】癌が出す低酸素シグナルにより集まる免疫細胞(マクロファージ)が産出する TNF(腫瘍壊子因子)は、NF-kB 活性化による慢性炎症を作り出すことで、癌の増殖・浸潤・転移・ 血管新生を強力に促す。しかしながら、その具体的な作用機構は未だ判明していない。本研究 では、TNF 刺激した血管内皮細胞のマイクロアレイデータから、TNF が癌血管新生を促す具体 的なモデルを数理学的解析により初めて提唱した。すなわち、恒常的な TNF 刺激(慢性炎症)に より、NF-kB 活性化を介してアポトーシス抑制因子が多量に発現し、血管内皮細胞の無限増殖 が促されることで、がんの新生血管が形成されるというモデルである。このモデルが、癌細胞 培養実験及び癌マウスモデル実験で再現できるかを検証した結果、NF-kB 阻害剤投与により強 力に皮膚癌細胞株(B16 メラノーマ)増殖が抑制され、マウス個体レベルでも、皮膚癌の増殖が強 力に抑制されていた。従って、TNF による NF-kB 活性化が強力な癌の血管新生を促すことで、 癌の無限増殖を誘導するという数理学的解析結果(システム生物学論)が実際的な生命現象でも 適用可能であるという意味で本研究は大変意義があると考えられる。 【方法】TNF 刺激した血管内皮細胞株(HUVEC)の時系列マイクロアレイデータ(0~6 時間刺激の 合計 8 点)をクラスタリング解析及び GENE ONTOLOGY 解析により、各々の刺激時間で発現す る遺伝子群を集め、それらの機能を全て調べた。その結果、長時間の TNF 刺激(慢性炎症を模倣) で NF-kB の mRNA 自体が誘導され、その誘導に比例して、アポトーシス抑制遺伝子群及び癌血 管新生遺伝子群が経時的に発現誘導していた。従って、TNF が癌増殖に必要な癌血管新生を NF-kB を介して促すモデルが提唱された。そこで、NF-kB 阻害剤を B16 メラノーマ細胞株に投 与し B16 メラノーマ細胞増殖を細胞数カウントにより調べた。また、B16 メラノーマ細胞を皮 下注射した免疫不全マウスにおける肺を観察し、B16 メラノーマ細胞の肺における増殖・転移 を調べた。 【結果・考察】TNF が NF-kB を介して癌の新生血管を促すという数理解析のモデル通り、NF-kB 阻害剤投与した B16 メラノーマ細胞は強力に増殖抑制され、また、B16 メラノーマ細胞を皮下 注射した免疫不全マウスにおける B16 メラノーマ細胞の肺増殖・転移も強力に抑制されていた。 従って、TNF は NF-kB 活性化を通じて、癌の新生血管形成(新生血管=癌増殖時の栄養供給を促 す)を促すモデルが考えられ、新たな創薬 target としてこの研究成果が役立つことが強く示唆さ れる。 56 B4-1 心虚血再灌流後の機能障害とノルエピネフリン過剰放出におけるスーパーオキ シドの役割 小山武志 1, 田和正志 2 , 山岸紀子 1, 竹越靖晃 1, 澤野達哉 1, 大喜多 守 1, 松村靖夫 1 (1 大阪薬大・薬・病態分子薬理、2 滋賀医科大・医・薬理) - 【背景・目的】ノルエピネフリン (NE) や スーパーオキシド (O2 ) などの生体内物質は心臓の 虚血再灌流障害に関与することが知られている。長時間の虚血は、細胞内アシドーシスを引き + + + 起こし、細胞内 H レベルを上昇させる。その代償機構として神経終末の Na /H 交換体(NHE) + 活性化に伴う Na 過負荷が亢進することで、ノルエピネフリントランスポーター (NET) の逆 - 輸送を介して NE が過剰に放出される。これまでの報告から、虚血時に O2 が産生されること、 - さらに O2 が NE 放出に寄与する可能性については示唆されているが、その詳細な機序は不明 - である。本研究では、心虚血時の交感神経系と O2 との関係についてさらに詳しく調べる目的 で、ラジカルを消去する薬 [Tempol または Tiron (ともにスーパーオキシドジスムターゼ類似 薬)] あるいは増加させる薬 [Diethyldithio carbamate (DDC; スーパーオキシドジスムターゼ阻 - 害薬) または Pyrogallol (O2 発生薬)] を用いて検討を行った。 【方法】雄性 Sprague-Dawley 系ラットから心臓を摘出し、心灌流標本を Langendorff 法に準 じて作成した。虚血処置として灌流を 40 分間停止し、再灌流を 30 分間施した群を対照群と し、虚血開始 15 分前から再灌流 30 分後まで各薬物を灌流した群を薬物投与群とした。 - 【結果】対照群では、心組織中 O2 レベルの増大が虚血時より認められ、そのレベルは再灌流後 も高値を維持した。また、心虚血再灌流後の灌流液中 NE 量は著しく増大し、最大左心室圧、 左心室圧一次微分最大値および最小値の低下、並びに左心室拡張末期圧の上昇といった心機能 の悪化が観察された。Tempol または Tiron を投与することにより、対照群でみられた虚血再灌 - 流による心組織中 O2 レベルの増大は有意に抑制され、NE 過剰放出並びに心機能低下もそれぞ - れ抑制、改善された。一方、DDC または Pyrogallol の投与では、対照群と比較して、O2 レベ ルおよび NE 放出量の顕著な増大、心機能の更なる悪化が観察された。DDC または Pyrogallol による NE 放出増強作用は、NHE の阻害薬である EIPA を併用することにより消失し、心機 能についても併用により改善が認められた。 - 【考察】心虚血中に産生される O2 は NHE の活性化を亢進し、その結果 NET を介した NE 放 - 出を増大させることが明らかとなった。また、O2 はこの機序を介して再灌流後の心機能低下を 引き起こすことが示唆される。 57 B4-2 1 型糖尿病腎における炎症・近位尿細管細胞老化には高血糖および p21 が必須 である 北田研人、中野大介、西山 成 (香川大・医・薬理) 【背景・目的】 糖尿病患者において、腎症の早期から腎細胞老化が認められることが報告されているが、その 機序や病態予後、治療への応答性は不明である。 【方法】 2 型糖尿病ラットである OLETF ラットを用いて、腎細胞老化の経時的な変化を検討した。ま た、p21-KO マウスおよび wild-type マウスに対して、ストレプトゾトシン(STZ)投与(10 mg/kg/ 日、7 日間、i.p.)により 1 型糖尿病マウスを作製した。さらに、培養ヒト近位尿細管細胞を用 いて、尿細管老化メカニズムの解明も行った。 【結果・考察】 2 型糖尿病 OLETF ラットの腎細胞老化および老化関連因子の発現を経時的に評価したところ、 明らかな腎障害や腎機能の低下が観られない早期から、細胞周期調節因子である p21 発現の増 大および細胞老化の指標である老化関連 β-ガラクトシダーゼ活性(SAβ-Gal)の増大が認められ た。一方、p53、p16 など他の老化関連因子の発現に変化は観られなかった。さらに、1 型糖尿 病マウスにおける検討において、wild-type マウスでは、STZ 投与 4 週間後から、p21 発現の増 大および SAβ-Gal の増加が観られ、これらの変化はインスリン投与によって血糖値を是正する ことで抑制された。一方、vehicle マウスに対するインスリン投与は腎細胞の老化に影響を与え なかった。STZ 投与により引き起こされる腎細胞の老化は、p21-KO マウスでは観られなかった。 また、STZ 投与 4 週間後の wild-type マウスの腎臓で認められた TNF-α mRNA 発現の増加およ びマクロファージ浸潤数の増大は、p21-KO マウスでは認められなかった。さらに、培養ヒト近 位尿細管細胞に高グルコース処置を行うと細胞老化が生じ、これらの変化は p21 および sodium glucose cotransporter (SGLT) 2 に対する RNA 干渉によって消失した。 【結論】 糖尿腎において、SGLT2 を介するグルコースの過剰な再吸収が p21 発現を増大させ、近位尿細 管細胞の老化を引き起こすことが示唆された。また、この老化細胞は、炎症性サイトカインの 増加やマクロファージの浸潤など、腎局所の炎症に寄与している可能性が考えられた。以上よ り、細胞老化が糖尿病性腎症の新しい治療ターゲットとなる可能性が示唆された。 58 B4-3 Angiotensin II 誘発血管リモデリングにおける血管平滑筋細胞内 HIF シグナルの 解析 今西正樹 1、石澤啓介 2、木平孝高 1、池田康将 1、山野範子 1、石澤有紀 1、 土屋浩一郎 2、玉置俊晃 1、冨田修平 1, 3 (1 徳島大院・ヘルスバイオサイエンス研・薬理学、2 徳島大院・ヘルスバイオサ イエンス研・医薬品機能生化学、3 鳥取大・医・分子薬理学) 【背景・目的】転写制御因子 hypoxia-inducible factor-1α (HIF-1α)は低酸素下だけでなく通常酸 素下でも、angiotensin II (Ang II) やサイトカインによって誘導されることが知られている。 HIF-1α 発現上昇は血管平滑筋細胞増殖やアポトーシス抵抗性に関与することが in vitro の検討に より報告されている。我々は最近、Cre-loxP システムにより平滑筋特異的 HIF-1α 遺伝子欠損マ ウス (SMKO) を作製し、control マウス(CONT)に比べて Ang II (1.7 μg/kg/min, 4 weeks) 誘発血 管リモデリングが抑制されるという知見を得た。今回はそのメカニズムの解析を行って得た、 HIF シグナルの役割に関する新たな知見について報告する。 【方法】Ang II 皮下持続投与による大動脈血管壁中膜肥厚及び繊維化は Masson's trichrome 染 色により評価し、血管壁における細胞増殖は Ki67 免疫染色により評価した。血管組織内活性酸 素種(ROS)産生及び NADPH oxidase (Nox) 活性は、dihydroethidium 染色及び lucigenin 化学発 光法により評価した。各種遺伝子 mRNA 発現解析は Real Time-PCR 法により行い、タンパク発 現解析は Western blotting 法により行った。細胞は、CONT 又は SMKO の大動脈より単離した 平滑筋細胞 (CONT SMC 又は SMKO SMC) 及びヒト大動脈平滑筋細胞 (HASMC) を用いた。 【結果・考察】CONT では Ang II 投与により大動脈血管壁中膜肥厚及び中膜周囲の繊維化を認 め、血管壁における Ki67 陽性細胞数の増加を認め、血管組織内 ROS 産生増加及び Nox 活性上 昇を認めたが、SMKO では認めなかった。CONT では Ang II 投与により大動脈の PAI-1、collagen I、MCP-1、CD68、F4/80、IL-1β、IL-6、TNF-α の mRNA 発現上昇を認め、SMKO では認めな かった。AT1 受容体 mRNA 及びタンパク発現も検討したところ、CONT では Ang II 投与により 上昇を認めたが、SMKO では認めなかった。Ang II 処置により CONT SMC の細胞遊走及び増殖 活性は上昇を認め、SMKO SMC では認めなかった。HASMC では、Ang II 処置により細胞遊走 活性は上昇し、これは HIF-1α ノックダウンにより抑制された。Prolyl hydroxylase 阻害剤である dimethyloxallyl glycine 及び TNF-α 処置後 4 時間で HIF-1α タンパク発現は上昇し、その後 AT1 受容体 mRNA 発現は上昇したが、これは HIF-1α ノックダウンにより抑制された。以上より血 管平滑筋細胞の HIF-1α は、Ang II 誘発血管リモデリング形成において重要な役割を果たすこと が示唆され、さらに AT1 受容体発現を制御している可能性があるという新たな知見が得られた。 59 B4-4 新生仔期マウス心室筋におけるアドレナリンα受容体刺激応答に関与する細胞 内機序および情報伝達経路の検討 濵口正悟、本多頼子、行方衣由紀、田中光 (東邦大・薬・薬物学) 【背景・目的】 我々は、マウス心室筋がアドレナリンα受容体刺激に対して、成体期では陰性変力反応(心 収縮力減少)を示し、一方新生仔期では陽性変力反応(心収縮力増大)を示すことを発見した。 さらに成体期で見られる陰性変力反応については Na+/Ca2+交換機構活性化による細胞内 Ca2+濃 度低下が関与していることを明らかにした。しかし、新生仔期で見られる陽性変力反応に関す る機序は未だ明らかにされていない。そこで本研究では、アドレナリンα受容体刺激により陽 性変力反応が示される細胞内機序および情報伝達経路の検討、および新生仔期マウスと成体期 マウスの比較を行った。 【方法】 実験動物に新生仔期(生後 0~2 日齢)、成体期(4~5 週齢)の ddy 系マウスを用いて摘出心 室筋組織標本および単離心室筋細胞を作製し、収縮力測定、活動電位測定、細胞内 Ca2+濃度測 定 、 イ オ ン チ ャ ネ ル の 電 流 測 定 を 行 っ た 。 α 受 容 体 刺 激 は 、 propranolol 1µM 存 在 下 phenylephrine 10µM により行った。 【結果・考察】 新生仔期マウス心室筋では、α受容体刺激により Ca2+transient の amplitude が増大し、活 動電位持続時間が延長した。またα受容体刺激により L 型 Ca2+電流は増大したが、一過性外向 き電流は影響を受けなかった。 さらに L 型 Ca2+電流は、プロテインキナーゼ C 活性化薬(Phorbol 12-myristate 13-acetate:PMA)により増大した。以上の結果より、新生仔期マウス心室筋が 示す陽性変力反応は、プロテインキナーゼ C を介した L 型 Ca2+チャネル活性化による、活動電 位持続時間延長および細胞内 Ca2+濃度増大により引き起こされていることが示唆された。 成体期マウス心室筋では、新生仔期と同様にα受容体刺激により L 型 Ca2+電流が増大し、一 過性外向き電流は影響を受けなかった。しかし、 α受容体刺激により Ca2+transient の amplitude は減少し、活動電位持続時間はほとんど延長しなかった。成体期マウス心室筋では新生仔期に 比べ、活動電位持続時間が短く、一過性外向き電流が大きいことが観察された。以上の結果よ り、成体期マウス心室筋では、持続の短い活動電位のため、α受容体刺激による L 型 Ca2+チャ ネル活性化の影響が活動電位および Ca2+transient に反映されにくく、α受容体刺激により陽性 変力反応が引き起こされないことが示唆された。 60 B5-1 痛みによる不快情動生成における背外側分界条床核内コルチコトロピン放出因 子の役割 小関加奈 1、原大樹 1 、井手聡一郎 1 、大野篤志 1 、玉野竜太 1 、圓山智嘉史 1 、 中誠則 1 、出山諭司 1、金田勝幸 1 、吉岡充弘 2 、南雅文 1 (1北海道大院・薬・薬理、2北海道大院・医・神経薬理) 【背景・目的】 「痛み」は、侵害刺激の加わった場所とその強さの認知に関わる感覚的側面と、 侵害刺激の受容に伴う不安、抑うつ、嫌悪などの不快情動の生起に関わる情動的側面といった2 つの側面を有する複雑な体験である。痛みの感覚的側面に関しては、これまでに多くの研究がな されているのに対し、情動的側面に関する研究は十分に進んでいないのが現状である。一方、脳 内の分界条床核(BNST)はストレス応答や、不安・恐怖などの不快情動反応に関与することが知 られており、特に背外側 BNST(dlBNST)におけるコルチコトロピン放出因子(CRF)の神経情報伝達 が不快情動の惹起に関与することが報告されている。そこで本研究では、痛みによる不快情動生 成における dlBNST 内 CRF 神経情報伝達の役割について検討した。 【方法】実験は雄性 SD 系ラットを使用した。まず in vivo マイクロダイアリシス法を用いて、 痛み刺激(2%ホルマリン後肢足底内投与)を与えた際の dlBNST での CRF 遊離量変化を検討した。 痛みによる不快情動生成は、条件付け場所嫌悪性試験(CPA test)における場所嫌悪反応を指標と して評価した。CPAtest では、両側 dlBNST 内に CRF 受容体アンタゴニストを局所投与し、痛み 刺激による不快情動反応に及ぼす影響を検討した。また、痛みを与えず CRF を両側 dlBNST 内に 投与することによって不快情動が惹起されるか否かを検討した。さらに、CRF の作用機序をより 詳細に解析するため、dlBNST 内神経細胞の膜電位および発火頻度に対する CRF の効果を whole-cell patch clamp 法を用いて検討した。 【結果・考察】痛み刺激(2%ホルマリン後肢足底内投与)により、ラット dlBNST での細胞外 CRF 濃度は有意に増加した。また、dlBNST への CRF 受容体アンタゴニスト投与によって、痛み刺激 による場所嫌悪反応が抑制された。また CRF の dlBNST 内投与によって、場所嫌悪反応が濃度依 存的に惹起された。Whole-cell patch clamp 法を用いた検討において、過分極性および脱分極 性電流を細胞に注入することによって誘導される膜電位応答から、dlBNST 神経細胞は I-III 型 に分類された。これらの神経細胞に対し CRF を処置したところ、II 型神経細胞のみが有意な脱 分極応答を示した。さらに、CRF 処置によって II 型神経細胞の発火頻度が有意に増加すること を見出した。以上の結果から、痛み刺激によって dlBNST において放出された CRF が、II 型 dlBNST 神経細胞を興奮させることが、痛みによる不快情動生成に重要であることが示唆された。 61 B5-2 不安様行動および疼痛感受性における分界条床核内ノルアドレナリン神経伝達 の役割 ○眞嶋悠幾、中誠則、里吉寛、井手聡一郎、南雅文 (北海道大院・薬・薬理) 【背景・目的】 痛みによって不安や嫌悪などの負情動が生成し、その生成した負情動が痛みの増悪を引き起こ す可能性が示唆されているがその詳細な神経メカニズムについての検討はほとんど行われてい ない。一方、分界条床核(bed nucleus of the stria terminalis; BNST)は負情動生成に 重要であることが知られており、当研究室でも痛みによる腹側 BNST(vBNST)内ノルアドレ ナリン(NA)神経情報伝達亢進が痛みによる嫌悪情動生成に関与することを報告している。 本研究では、vBNST 内 NA 神経情報伝達亢進が不安様行動に与える影響を検討するとともに、 疼痛感受性に与える影響も併せて検討した。 【方法】 実験には雄性 SD 系ラットを使用した。β受容体作動薬 isoproterenol を両側 vBNST 内に投与 することによって不安様行動が惹起されるか否かを検討した。不安様行動の評価は高架式十字 迷路(elevated plus-maze ; EPM)試験を用いて行った。次に、isoproterenol の両側 vBNST 内への投与が疼痛感受性に与える影響を、疼痛関連行動の変化を指標として検討した。疼痛関 連行動の測定はホルマリンテスト、酢酸ライジングテストおよびバロスタット法(結腸直腸拡 張(colorectal distension; CRD)刺激)を用いて行った。 【結果・考察】 vBNST に isoproterenol を投与することにより、用量依存的に不安様行動が惹起された。こ の不安様行動の惹起はβ受容体拮抗薬 timolol の同時投与により拮抗された。また、ホル マリンテスト、酢酸ライジングテストにおいて vBNST に isoproterenol を投与することに よって疼痛関連行動の増加傾向がみられ、CRD 刺激において有意な疼痛関連行動の増加がみ られた。これらの結果は、vBNST 内 NA 神経情報伝達が不安様行動と疼痛感受性の両者の調 節に重要な役割を担っていることを示しており、不安・嫌悪などの負情動による「痛みの 増悪」の神経メカニズムの一端が明らかにされた。 62 B5-3 前脳 Fos 発現を指標とした注意欠陥/多動性障害モデル SHR の病態解析:側坐 核ドパミン D1 および D2 受容体の機能失調 増井 淳、岡野元紀、水口裕登、清水佐紀、南本翔子、吉原千香子、江川美加、 多田羅絢加、大野行弘 大阪薬大・薬・薬品作用解析 【背景・目的】SHR (Spontaneously hypertensive rat) は、若齢期において、多動性、衝動性お よび認知機能障害など注意欠陥/多動性障害 (Attention Deficit / Hyperactivity Disorder, AD/HD) に類似する症状を呈することから、AD/HD モデル動物として広く用いられている。今回、AD/HD の脳内病態変化を探る目的で、 神経活動性のマーカーである Fos 蛋白の発現分布を指標として、 SHR の前頭部を免疫組織化学的に解析した。さらに、ADHD 病態との関連が示唆されているド パミン神経系の関与を探る目的で、SHR の Fos 発現分布に対するドパミン受容体遮断薬の作用 についても検討した。 【方法】実験動物として 5 週齢の雄性 SHR/izm および対照動物として Wistar Kyoto/izm ラット (WKY) を使用した。多動性の評価では Open-field 装置を用いて、動物の自発運動量および立ち 上がり回数を計測した。Fos 発現解析では、各動物より 30 μm 冠状切片を作成し、ABC-DAB 法により Fos 蛋白の免疫染色を行い、前脳 45 部位における Fos 免疫陽性細胞数を網羅的に解 析した。また、ドパミン遮断薬を用いた検討では、選択的 D1 遮断薬 SCH-23390 および D2 遮 断薬 raclopride を投与し、上記と同様に、自発運動および前脳 Fos 発現の評価を行った。 【結果・考察】Open-field 装置を用いた行動評価において、SHR は WKY に比べ有意に高い自発 運動量および立ち上がり回数を示し、SHR の多動性が確認された。一方、脳内 Fos 発現解析で は、側坐核コア領域および大脳皮質の一部(頭頂連合皮質)において、SHR で有意に高い Fos 蛋白の発現上昇が認められた。これらは部位特異的であり、他の大脳辺縁系(海場、扁桃核な ど)、大脳基底核(線条体、淡蒼球など)、間脳(視床、視床下部)では、いずれも有意な差は 認められなかった。一般に、側坐核における Fos 発現は D1 受容体の刺激および D2 受容体の遮 断により促進することが知られていることから、次に、D1 および D2 受容体遮断薬の作用を検討 した。その結果、SCH-23390 の投与により SHR の多動性および側坐核コア領域での Fos 発現 の亢進は共に抑制され、SHR における D1 受容体機能の亢進が示唆された。一方、D2 遮断薬の raclopride は、線条体では Fos 発現が上昇したものの、側坐核においては Fos 発現を上昇せず、 側坐核 D2 受容体の機能低下が起こっていることが示唆された。以上の結果から、AD/HD モデル の SHR では、側坐核においてドパミン D1受容体の機能亢進と D2 受容体の機能低下が起こって おり、このドパミン神経の機能失調が AD/HD 様症状の発現に関与している可能性が考えられた。 63 B5-4 長期隔離飼育マウスの神経科学的コミュニケーション異常 荒木良太 1、吾郷由希夫 1、笹賀あすか 1、西山早紀 1、田熊一敞 1、松田敏夫 1, 2 (1 大阪大院・薬・薬物治療、2 大阪大院・5 大学連合小児発達) 【背景・目的】 雄性のマウスを離乳後から長期間隔離飼育することで、攻撃行動、不安様行動、社会的認知 機能障害といった異常行動が認められる。これら異常行動のうち、攻撃行動はマウス間相互作 用の異常により誘発されると考えられるが、その機構は全く不明である。本研究では、長期隔 離飼育マウスのマウス間相互作用、すなわちコミュニケーションの脳内神経活動に対する作用 を解析した。なお、マウス間相互作用は、物理的接触による二次的変化を避ける目的で、金網 越しに intruder マウスと遭遇させることにより行った。 【方法】 3 週齢の ddY 系雄性マウスを、群飼育群では透明なケージにおいて 5 匹で、隔離飼育群では同 じ大きさの壁が灰色のケージにおいて 1 匹で、6 週間以上にわたって飼育し実験に用いた。社会 的ストレスとして、測定ケージ内の金網越しに intruder マウスを 20 分間導入し、ビデオ解析 により行動変化を、免疫組織化学的手法により神経活動マーカーc-Fos 蛋白質の発現変化を、脳 微小透析法によりモノアミン遊離変化を評価した。 【結果・考察】 Intruder マウスとの遭遇時において、群飼育マウスは金網越しに接近し、相手マウスに対し て臭い嗅ぎ行動などの探索行動を示した。長期隔離飼育マウスにおいても同様の行動が観察さ れたが、群飼育マウスに比べ、測定ケージ内を激しく動き回り、多動反応を示した。長期隔離 飼育マウスの行動変化は、新奇物体や睡眠下マウスの曝露では認められなかったことから、マ ウス間相互作用による異常行動を反映していると考えられた。本条件下、intruder マウスとの 遭遇により、長期隔離飼育マウス前頭前野の c-Fos 発現、ドパミン、セロトニン(5-HT)遊離は 増加したが、郡飼育マウスではこのような変化は見られなかった。側坐核においては、c-Fos 発 現、ならびに 5-HT 遊離の増加が見られたが、両飼育群で差は認められなかった。ベンゾジアゼ ピン受容体アゴニスト diazepam、5-HT1A 受容体アゴニスト osemozotan、代謝型グルタミン酸 2/3 受容体アゴニスト LY379268 は、いずれも intruder 刺激による長期隔離飼育マウスの多動、前 頭前野の c-Fos 発現、5-HT 遊離増加を抑制した。一方、これら薬物は側坐核の c-Fos 発現、5-HT 遊離増加には影響を与えなかった。以上の成績は、長期隔離飼育マウスが異常なマウス間相互 作用を示すこと、その基盤に前頭前野 5-HT シグナル系の活性化が関与していることを示してい る。 64 P1-1 糖尿病性腎症進展に対するニトロソニフェジピンの抑制作用 布あさ美 1、石澤啓介 1、藤井聖子 1、櫻田巧 2、山野範子 2、石澤有紀 2、今西正 樹 2、鈴木雄太 1、木平孝高 2、池田康将 2、土屋浩一郎 1、玉置俊晃 2 (1 徳島大院・ヘルスバイオサイエンス研・医薬品機能生化学、2 徳島大院・ヘル スバイオサイエンス研・薬理学) 【背景・目的】ニフェジピンは光分解によりカルシウムチャネル遮断作用の減弱したニトロソニ フェジピン(NO-NIF)に変換されることが報告されている。我々は既に NO-NIF が細胞膜にお ける不飽和脂肪酸と反応して、強いラジカル消去能を示すことを報告した。さらに我々は NO-NIF が TNF-αによる腎糸球体血管内皮細胞障害を抑制することも明らかとした。一方、こ れまでの多くの研究成績から、糖尿病性腎症の発症及び進展には酸化ストレス亢進による内皮 障害が関与している可能性が示唆されている。そこで本研究では糖尿病性腎症に対する NO-NIF の効果を検討した。 【方法】2 型糖尿病モデルとして KKAy マウス (12 週齢) を用い、NO-NIF は 30 mg/kg/day の用 量で連日腹腔内投与した。尿中アルブミン排泄量および尿中 8-OHdG 量は ELISA 法にて測定し た。腎糸球体直径の伸長および糸球体係蹄面積の拡大は PAS 染色、活性酸素種(ROS)産生は DHE 染色にて評価した。血圧は tail cuff 法にて測定した。血管内皮障害モデルとして L-NAME 慢性投与ラットを作製し解析を行った。 【結果・考察】KKAy マウスは C57BL/6 マウスと比較して、尿中タンパク排泄量および尿中アル ブミン排泄量が増加し、NO-NIF は KKAy マウスにおけるそれらを抑制した。KKAy マウスは腎 糸球体直径の伸長および糸球体係蹄面積の拡大が観察され、NO-NIF はそれらを抑制した。KKAy マウスにおいて腎臓の TNF-α mRNA 発現増加および尿中 8-OHdG 排泄量増加は NO-NIF により 抑制された。一方、NO-NIF は KKAy マウスにおける耐糖能異常、インスリン抵抗性、血圧上昇 に対して何ら影響を示さなかった。一方、NO-NIF は KKAy マウスにおける耐糖能異常および血 圧上昇に対して影響を示さなかった。加えて NO-NIF は、L-NAME 慢性投与ラットにおける尿中 タンパク排泄量の増加を抑制した。以上の結果から、NO-NIF は血糖降下作用および降圧作用非 依存的に糖尿病性腎症の進展を抑制する可能性が示唆された。 65 P1-2 虚血性急性腎障害における NADPH oxidase の役割と腎交感神経系の関与 中林伸介 1, 矢沢麻貴 1, 田中亮輔 1, 筒居秀伸 1,2, 大喜多守 1, 雪村時人 2, 松村靖夫 1 1 大阪薬大・薬・病態分子薬理、2 大阪大谷大・薬・臨床薬理 【背景・目的】虚血性急性腎障害(AKI)の病態発症および進展には、種々の活性酸素種(ROS) が増悪因子として関与していることが知られている。ROS の中でも、主に組織に浸潤した 好中球の細胞膜由来 NADPH oxidase から産生されるスーパーオキシド(O2⁻)が AKI に関 与していることが数多く報告されている。また当研究室では以前より、AKI の病態発症に腎 交感神経系の過剰な亢進と、それに続くノルアドレナリン(NAd)の過剰放出が寄与するこ とを明らかにしている。そこで、NADPH oxidase の触媒サブユニットである gp91phox のノ ックアウト(gp91phox KO)マウスを用いて、AKI における NADPH oxidase 由来の O2⁻ の 関与を調べるとともに、腎交感神経系に対する影響についても検討を行った。 【方法】実験動物として 8 週齢の雄性 gp91phox KO マウス、野生型(WT)マウスとして C57BL/6j マウスを用いた。右腎摘出 2 週間後に、麻酔下において左腎動静脈の血流を 40 分遮断し、その後再灌流を行うことで、AKI モデルを作製した。また、右腎摘出のみを施し たものを sham 群とした。再灌流 24 時間後から 24 時間にわたって採尿を行い、採尿終了 後、採血およびおよび腎臓の摘出を行った。得られた血液および尿から腎機能パラメータ ーを測定し、腎静脈血からは NAd 濃度を測定した。また得られた腎臓はルシゲニン化学発 光法による腎組織中 O2⁻産生量の測定と腎病理組織標本の作製に用いた。 【結果】WT マウスでは虚血処置によって再灌流後の腎組織中 O2⁻ 産生量の増加がみられ、 再灌流 48 時間後において顕著な腎機能障害および腎組織障害が認められた。一方 gp91phox KO マウスにおいて、再灌流後の腎組織中 O2⁻ 産生量の増加はみられなかったが、WT マウ スと同程度の腎障害が確認された。腎静脈内 NAd 濃度は WT マウス、gp91phox KO マウス 共に虚血再灌流処置により有意に上昇し、その上昇は WT マウスと比較して gp91phox KO マウスの方がより大きなものであった。 【考察】今回の結果より、AKI の発症や進展において NADPH oxidase 由来の O2⁻の寄与は 小さく、腎交感神経系の亢進が深く関わっていることが考えられる。 66 P1-3 腎虚血再灌流障害における 17β‐エストラジオールの腎交感神経系を介した保 護効果について 矢沢麻貴 1, 田中亮輔 1, 筒居秀伸 1,2 , 丹波貴雄 2, 中林伸介 1, 大喜多守 1, 雪村 時人 2, 松村靖夫 1 1 大阪薬大・薬・病態分子薬理、2 大阪大谷大・薬・臨床薬理 【背景・目的】これまでに我々は、腎虚血再灌流障害の病態発症に腎交感神経系の亢進が関与し ていることを報告してきた。また当研究室では、雄性ラットにおける腎虚血再灌流障害に対し て、17β-estradiol(E2-β)が顕著な保護効果を示すことや、本病態モデルにおける腎障害の程度 が雌では雄に比べて極めて軽度であることを明らかにした。そこで本研究では、腎虚血再灌流 障害に対する外因性及び内因性 E2-β の効果に交感神経系が関与しているか検討を行った。 【方法】内因性 E2-β の効果を調べる実験では、実験動物として 8 週齢の雄性及び雌性 SD 系ラッ トを用いて検討を行った。右腎摘除 2 週間後、左腎動静脈を虚血、45 分後に再灌流を行うこと で腎虚血再灌流障害モデルを作製した。一部の実験では、雌性ラットを用い、卵巣摘除処置 (OVX)、あるいはエストロゲン受容体(ER)拮抗薬である tamoxifen(10 mg/kg/day)の 3 日 間腹腔内投与を施した。また、外因性 E2-βの効果を調べる実験では、8 週齢の雄性 SD 系ラット を用いた。虚血処置を施す 5 分前に E2-β(100 µg/kg)を頸静脈より投与した。 【結果・考察】虚血再灌流処置を施すことにより雄雌ともに腎障害がみられたが、その腎障害の 程度は雌ラットに比べ、雄ラットにおいてより顕著であった。また再灌流後の腎静脈血漿中ノ ルアドレナリン(NAd)を測定したところ、雄性ラットにおいて腎静脈血漿中 NAd 濃度の顕著 な上昇がみられた。雌性ラットにおいては NAd 濃度の上昇がみられたものの、雄性ラットに比 べて低値を示した。一方、OVX 処置あるいは tamoxifen の投与を施した雌性ラットでは、雄性 ラットと同程度の腎障害および腎静脈血漿中 NAd 濃度の上昇がみられた。これら腎障害および 腎静脈血漿中 NAd 濃度の上昇は hexamethonium(25 mg/kg)の前処置によって抑制された。し たがって、本病態における性差発現には E2-β とともに腎交感神経系が密接に関与するものと考 えられた。そこで、雄ラットを用いて外因的に E2-β 処置を行ったところ、虚血再灌流処置によ る腎障害及び、再灌流後の腎静脈血漿中 NAd 濃度の上昇が抑制された。この外因性 E2-β による 効果はエストロゲン受容体拮抗薬 tamoxifen(5 mg/kg)の前処置によって消失した。 以上の結果より、腎虚血再灌流障害に対する E2-β の腎保護効果には、ER を介した腎交感神 経系の抑制作用が関与すると考えられる。 67 P1-4 シスプラチン誘発性腎障害に対するα2 受容体拮抗薬の腎保護効果について 森有希絵 1, 久樹奈津美 1, 筒居秀伸 , 丹波貴雄 1, 東條歩美 1, 田中亮輔 2, 大 1,2 喜多守 2,松村靖夫 2, 山形雅代 1, 雪村時人 1 1 大阪大谷大・薬・臨床薬理、2 大阪薬大・薬・病態分子薬理 【背景・目的】抗悪性腫瘍薬であるシスプラチンは、優れた抗腫瘍作用を示すが、腎障害、悪心・ 嘔吐、骨髄抑制等の副作用を高頻度に発現することが知られている。特に腎障害は重篤で、そ の利用が制限される場合があり用量制限因子となっている。シスプラチン誘発性腎障害の発症 メカニズムには、アポトーシスや活性酸素種、DNA 障害などが関わっていることが報告されて いるが、現在、輸液以外に有用な予防法は確立していない。一方、我々はこれまでに腎虚血再 灌流障害においてα2 受容体拮抗薬が顕著な腎保護効果を示すことを明らかにしている。そこで 本研究では、腎虚血再灌流障害に対する保護効果と同様、α2 受容体拮抗薬がシスプラチン誘発 性腎障害に対して保護効果を示すのではないかと考え検討を行った。 【方法】実験動物として 9 週齢の SD 系雄性ラットを用いた。シスプラチンは 7.5 mg/kg の用量 で静脈内投与した。α2 受容体拮抗薬ヨヒンビンはシスプラチン投与直後から、0.1mg/kg/day の 用量で 4 日間投与した。なお、生理食塩水を投与したものを無処置群とした。シスプラチン投 与 3 日後から 24 時間の採尿を行い、 採尿終了後、大動脈からの採血および腎臓の摘出を行った。 得られた大動脈血および尿から腎機能パラメーターとして血中尿素窒素(BUN)、血漿中クレア チニン(Pcr) 、クレアチニンクリアランス(Ccr)を測定し、得られた臓器は腎病理組織標本の 作製と炎症性サイトカイン遺伝子発現量の測定に用いた。 【結果】シスプラチン投与4日後において、無処置群と比較して有意な BUN、Pcr の上昇、Ccr の減少が認められ、その腎機能障害はα2 受容体拮抗薬ヨヒンビン(0.1mg/kg/day)によって有 意に抑制された。また、ヨヒンビンは MCP-1、TNF-α 遺伝子発現量においても同様に、シスプ ラチン投与によってみられた有意な上昇を抑制した。 【考察】以上の結果より、シスプラチン誘発性腎障害に対してα2 受容体拮抗薬ヨヒンビンは腎保 護効果を示し、その保護効果には MCP-1、TNF-α などのサイトカイン生成を阻害する作用が寄 与していると考えられる。 68 P1-5 虚血性急性腎障害に対するα2 受容体遮断薬の腎保護効果について 丹波貴雄 1, 東條歩美 1, 筒居秀伸 1,2 , 久樹奈津美 1, 森有希絵 1, 田中亮輔 2, 大 喜多守 2, 松村靖夫 2, 山形雅代 1, 雪村時人 1 1 大阪大谷大・薬・臨床薬理、2 大阪薬大・薬・病態分子薬理 【背景・目的】腎虚血再灌流処置において腎交感神経活動(RSNA)の亢進と腎静脈血漿中へのノル アドレナリン(NAd)の過剰放出が虚血性急性腎障害(AKI)の病態発症に関与していることが知ら れている。これまでに当研究室では、α2 刺激薬であるモキソニジンが交感神経系を抑制するこ とにより、AKI に対して腎保護効果を示すことを明らかにしている。一方、炎症細胞の細胞膜上 にα2 受容体が存在し、その受容体を介して炎症細胞から産生された NAd が臓器障害を悪化させ るということが報告されている。そこで本研究では、虚血性急性腎障害に対するα2 遮断薬ヨヒ ンビンの AKI に対する改善効果を検討した。 【方法】実験動物は 8 週齢、雄の SD 系ラットを用いた。右腎摘除 2 週間後、麻酔下で左腎動静 脈の血流を 45 分間遮断し、その後再灌流を行うことで、AKI モデルラットを作製した。虚血の 5 分前にヨヒンビンを投与したものをヨヒンビン処置群とし、虚血再灌流処置群には生理食塩水 を虚血の 5 分前に投与した。なお、虚血処置を施さないものを無処置群とし、全ての群におい て再灌流 24 時間後から 5 時間採尿、その後、各種採血を行い、臓器を摘出した。得られた動脈 血及び尿から腎機能パラメーターとして血中尿素窒素(BUN)、血漿中クレアチニン(Pcr)、ク レアチニンクリアランス(Ccr)を測定し、腎静脈血からは HPLC を用いて腎静脈血漿中 NAd 濃度の測定を行った。また、得られた左腎は病理組織標本を作製し、組織評価に用いた。 【結果】虚血再灌流処置群において、無処置群と比較して BUN および Pcr の顕著な増加、Ccr の有意な減少がみられた。虚血再灌流処置群でみられた腎機能障害はヨヒンビン処置により有 意に抑制された。再灌流後の腎静脈血漿中 NAd 濃度は虚血再灌流処置により有意に上昇した。 この NAd 濃度の上昇はヨヒンビン処置により、再灌流直後では差は見られなかったものの、再 灌流 1 日後では有意に抑制された。また、虚血再灌流処置群では顕著な組織障害が認められ、 ヨヒンビン処置によってその障害は軽減された。 【考察】以上の結果より、α 2 遮断薬ヨヒンビン処置は AKI に対して腎保護効果を示し、その保護 効果には NAd 放出抑制作用が寄与していると考えられる。 69 P1-6 分岐鎖グリセロールオリゴマー修飾によるフェノフィブラートの物性および薬 物動態の改善に与える影響 渡邊勝志1、宮本理人12、冨田洋輔1、河野舞1、田岡千明1、松下剛史2、神谷 昌樹2、服部初彦2、石澤啓介1、根本尚夫2、土屋浩一郎1 (1 徳島大大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 医薬品機能生化学分野、2 徳 島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 機能分子合成薬学分野) 【目的】水溶性‐脂溶性のバランスは薬物動態に大きな影響を与えることが知ら れている。既存の薬剤の多くは疎水性であるが、著しい疎水性の薬剤は腸管吸 収性が低いため、生理活性を損なわずに水溶性を向上する手法があればバイオ アベイラビリティの改善が期待できる。我々は薬剤の親水性を高める手段とし て、分岐鎖グリセロールオリゴマー(branched triglycerol:BGL)基の共有結合に よる化学修飾法を開発してきた。BGL 基は低分子量にもかかわらず多数の水酸 基を有し、pH に依存せず極めて高い親水性を有している。脂質異常症治療薬の フェノフィブラート(fenofibrate:FF)は著しい疎水性のため、バイオアベイラビ リティが低い薬剤として知られている。本研究では FF の BGL 誘導体である FF-BGL を合成し、その物性、薬効、および薬物動態を FF と比較・評価した。 【方法】HPLC を用いて FF と FF-BGL のオクタノール‐水分配係数を算出した。 SD ラット(雄性、7 週齢)を用いて FF-BGL を 7 日間反復経口投与し薬効を評価 した。また、FF および FF-BGL 単回経口投与後の活性代謝物であるフェノフィ ブリン酸 (fenofibric acid:FA )の血中濃度を経時的に測定した。 【結果】BGL の結合により FF のオクタノール‐水分配係数(LogPo/w)は 2.24 低 下し、水溶性が 100 倍以上向上した。FF-BGL の血中脂質降下作用は FF 群と同 程度であった。FF-BGL を単回経口投与した後の血中 FA 濃度は FF 群と比較し て高く推移し、その曲線下面積は 4 倍程度増加した。また、絶食の有無による 血中 FA 濃度への影響を検討したところ、FF 群では絶食により血中 FA 濃度の 低下が観察されたが、FF-BGL 群では食事摂取の有無による血中 FA 濃度の差は 観察されなかった。 【考察】FF に BGL 基を導入することで薬効を維持したまま水溶性の向上が図れ、 バイオアベイラビリティの向上及び食事の影響も軽減できた。以上の結果より BGL 基の付加は疎水性薬物の物性、薬効、薬物動態の改善に有用な手段である と考えられる。 70 P2-1 クプリゾン誘発脱髄モデル動物の大脳白質における CD147 の発現変動 津曲康輔、西奥剛、寺澤真理子、片岡泰文 (福岡大・薬・薬学疾患管理学) 【背景・目的】脳・脊髄には、神経細胞の細胞体が多く存在する灰白質と、有髄神経線 維が多く存在する白質がある。白質脳症は、主に大脳白質が障害される病態を指す。白 質脳症は、生物学的製剤、免疫抑制薬や抗がん剤などの医薬品によって惹き起こされる ことがあるが、その発症機構は不明である、そこで、医薬品による白質脳症の発症予測・ 回避対策の構築を目指し、本研究を企てた。シクロフィリン A(CypA)は、イムノフィ リンファミリーのひとつで、シクロスポリン A の結合タンパク質である。CypA は、細 胞質に存在するタンパク質であるが、関節リウマチや動脈硬化症などの病態時には細胞 外へ遊離される。この細胞外 CypA の受容体として同定された分子が CD147 であり、細 胞外マトリックスメタロプロテアーゼ誘導因子としても知られ、がん細胞の浸潤転移の 大役を担っている。これまでの研究により、CypA と CD147 は、マトリックスメタロプ ロテアーゼの誘導だけでなく、血管新生、細胞の接着や遊走などを制御する多面的機能 を有することが示唆されている。しかし、白質脳症における細胞外 CypA ならびに CD147 の役割については不明である。そこで本研究では、クプリゾン(CPZ)誘発脱髄および 続いての再ミエリン化相における CypA と CD147 の発現の変動について検討を行った。 【方法】0.2%クプリゾン含有飼料を C57BL/6N 雄性マウスに 5 週間投与し、脳脱髄を誘 導させた。その後、標準飼料を与え自発的に再ミエリン化させた。白質における CypA ならびに CD147 の発現はウエスタンブロット法により検討した。 【結果・考察】CD147 の発現は、対照群と比較して CPZ 処理群において減少していた。 さらに、CPZ 処理により減少した CD147 の発現は、再ミエリン化により対照群と同程度 まで回復した。一方、CypA の発現は、CPZ 処理や再ミエリン化により変化しなかった。 以上、CD147 の発現は白質脳症時に減少しており、CD147 が大脳白質の機能維持に関与 している可能性が示唆された。 71 P2-2 担ガン動物の行動異常発現におけるプロスタノイド受容体 CRTH2 の役割 武永 理佐 1、尾中 勇祐 1、叶 拓也 1、新谷 紀人 1、羽場 亮太 1、平井 博之 2、 永田 欽也 2、中村 正孝 3、早田 敦子 1,4、馬場 明道 5、橋本 均 1,4 (1 大阪大院・薬・神経薬理学、2 株式会社 BML、3 東京医科歯科大・疾患遺伝子 実験セ、4 大阪大院・連合小児発達・子どものこころセ、5 兵庫医療大・薬・薬 理) 【背景・目的】 感染症やガンなどの炎症病態時に認められる、食欲低下や疲労、気分の落ち込みなど の生理的・精神的変化 (sickness behavior) の発現機構を解析するモデルとして、マウス等では lipopolysaccharide (LPS)の腹腔内投与モデルが用いられる。当研究室ではこれまで、プロスタグラン ジン (PG) D2 受容体のひとつである CRTH2 の遺伝子欠損マウスや CRTH2 拮抗性の薬物 (ラマト ロバン) を投与したマウスにおいて、LPS で誘発される種々の sickness behavior のうち、強制水泳試 験における無動時間の増加や、新奇物体等に対する探索行動の減少など、意欲低下 (抑うつ様行動) と関連した表現型の発現が選択的に消失することを見出している。そこで今回、CRTH2 の病態的意義 の解明および sickness behavior の治療薬としてのラマトロバンの有用性を検証することを目的として ガン細胞を接種したマウス(担ガン動物モデル)を用いた行動薬理学的解析を行った。 6 【方法】 8-9 週齢の Balb/c 系雄性マウスと CRTH2 欠損マウスに colon 26 細胞を 1x10 cells/0.1 mL の量で皮内接種し、1, 3, 7, 10 日後に行動解析を行った。ラマトロバンは、0.5% carboxymethyl cellulose sodium 溶液に懸濁し、行動試験の 30 分前に腹腔内投与した。行動解析としては、自発運 動量測定、新奇物体探索行動試験、社会性行動試験、強制水泳試験を実施した。 【結果・考察】 野生型マウスに colon 26 細胞を接種すると、3 日後以降、腫瘍の生着と日数依存的な 増大が認められた。また、強制水泳試験における無動時間の有意な増加、新奇物体探索行動の有意 な減少が認められたが、自発運動量や摂餌量には変化は認められなかった。一方 CRTH2 欠損マウ スでは、腫瘍の生着、増大は野生型マウスと同程度に認められたが、無動時間の増加、新奇物体探 索行動の減少がほぼ完全に抑制され、その抑制効果は接種 10 日目まで持続的に認められた。さらに 接種 7 日後においてラマトロバンを腹腔内に単回投与すると、担ガン動物において認められる強制 水泳試験における無動時間の増加、社会性行動の減少、新奇物体探索行動の減少のすべてが対照 群と同程度にまで有意に抑制された。以上の結果から、情動機能制御における CRTH2 の病態的意 義が明確に示されるとともに、CRTH2 の即時的拮抗が、ガン病態時の情動機能障害に対する新しい 治療薬となる可能性が示された。 72 P2-3 Pentylenetetrazol キンドリングによるアストロサイト内向き整流性カリウムチャ ネル Kir4.1 の発現変化 向井崇浩、長尾侑紀、小野朝香、阪上嘉久、奥田 大野行弘 (大阪薬大・薬・薬品作用解析) 葵、藤本 恵、清水佐紀、 【背景・目的】内向き整流性カリウムチャネル Kir4.1 は脳内アストロサイトに局在しており、 アストロサイトの空間的カリウム緩衝機能を担っている。この空間的カリウム緩衝機能は、神経 活動に伴いシナプス周囲で上昇する細胞外カリウムイオンを、毛細血管腔などの細胞外カリウム イオン濃度の低い遠位部位へ運搬するカリウムクリアランス機構のひとつで、正常な神経活動の 維持に重要な役割を果たしている。さらに近年、Kir4.1 をコードする KCNJ10 遺伝子の変異が ヒトでけいれん発作を誘発することが報告され、Kir4.1 とけいれん発現との関連が注目されてい る。そこで今回、てんかん病態における Kir4.1 チャネルの役割を探る目的で、pentylenetetrazol (PTZ)キンドリング動物における Kir4.1 の脳内発現変化を免疫組織化学的に検討した。 【方法】実験には 7 週齢の ddY 系雄性マウスを用い、低用量の PTZ(40 mg/kg, i.p.)を 1、5 あ るいは 11 日間反復投与を行った。PTZ の投与後 15 分間行動観察を行い、5段階評価尺度スコア (0:変化なし、1:断続的な head twitch、スコア 2:myoclonic jerk あるいは前肢のみの間代性け いれん、3:全身性間代性けいれん、4:強直間代発作)を用いてけいれん強度を評価し、スコア 2 以上を発作ありと判定した。また、PTZ の最終投与の 24 時間後に脳を摘出し、パラフィン包 埋した後、後頭-側頭部の冠状脳切片を作成した。次いで、得られた切片を抗 Kir4.1 抗体あるい は抗 GFAP(アストロサイトのマーカー蛋白)抗体にて免疫染色した。 【結果・考察】PTZ の反復投与により、けいれんの発現率およびスコアは投与日数に応じて増 加した。投与最終日では約 90%の動物にけいれん発作が認められ、けいれんスコアも約 2.5 に達 し、キンドリングの形成が確認された。次に、後頭-側頭葉部における Kir4.1 および GFAP の免 疫組織染色を行った結果、PTZ キンドリング動物において、大脳皮質の梨状葉における Kir4.1 陽性細胞数が有意に上昇した。一方、海馬、扁桃核、その他の大脳皮質など、検索した他の脳部 位では明かな変化が観察されなかった。また、GFAP 陽性のアストロサイト細胞数についても検 討したが、PTZ キンドリング動物における変化は認められなかった。さらに、PTZ キンドリン グによる Kir4.1 チャネル発現の経時的変化を調べる目的で、PTZ を単回あるいは 5 日間投与し た動物について検討したが、これら動物の大脳皮質梨状葉における Kir4.1 チャネルの発現変化 は認められなかった。このことから Kir4.1 チャネル発現はキンドリングの形成に伴って経時的 に上昇すると考えられた。以上の結果より、PTZ キンドリング動物では、大脳皮質の梨状葉に おいて Kir4.1 チャネルが特異的に発現上昇しており、キンドリング形成に伴う神経の過剰興奮 に対して、アストロサイトによる空間的カリウム緩衝能を代償的に促進している可能性が示唆さ れた。 73 P2-4 内向き整流性カリウムチャネル Kir4.1 発現に及ぼす各種抗てんかん薬の影響 阪上嘉久、長尾侑紀、向井崇浩、小野朝香、奥田 葵、藤本 恵、清水佐紀、 大野行弘 (大阪薬大・薬・薬品作用解析) 【背景・目的】脳アストロサイトによる空間的 K+緩衝機構はシナプス周囲に蓄積する細胞外 K+ を除去するクリアランス機構であり、アストロサイトに局在する内向き整流性カリウムチャネ ル Kir4.1 により仲介されている。近年、Kir4.1 をコードする KCNJ10 遺伝子の変異がヒトでけい れん発作を誘発することが示され、てんかん病態と Kir4.1 チャネル機能との関連が注目されて いる。本研究では、各種抗てんかん薬の作用発現における Kir4.1 チャネルの寄与を探る目的で、 強直間代発作に有効な valproic acid (VPA) 、phenobarbital (PHB) 、phenytoin (PHT)および欠神発 作治療薬である ethosuximide (ESM) を反復投与した動物を用い、脳内 Kir4.1 チャネル発現の変 動を解析した。 【方法】7 週齢の SD 系雄性ラットに VPA (300 mg/kg, i.p.) 、PHB (30 mg/kg, i.p.) 、PHT (30 mg/kg, i.p.) 、ESM (100 mg/kg, i.p.) を 10 日間投与し、最終投与の 24 時間後に脳を摘出した。次いで、 後頭-側頭部の冠状切片を作成し、大脳皮質領域、扁桃核、海馬など全 10 部位における Kir4.1 および GFAP(アストログリア標識マーカー)の発現細胞数を免疫組織化学的に解析した。また、 Kir4.1 の発現様式を調べる目的で、共焦点レーザー顕微鏡を用い、Kir4.1 と GFAP との蛍光二重 染色を行った。VPA (300 mg/kg, i.p.) については、経時的に単回投与、5 日間投与を行い、同様 に免疫組織染色により解析した。 【結果・考察】大脳皮質領域、扁桃核、海馬など検討した脳部位において、Kir4.1 チャネルは GFAP と共染色され、Kir4.1 のアストロサイトにおける局在性が確認された。強直間代発作に有 効な抗てんかん薬である VPA 、PHB、PHT の 10 日間投与は、いずれもアストロサイト発現量 に影響することなく、VPA では大脳皮質領域、扁桃核、海馬、PHB では扁桃核、PHT では大脳 皮質領域、扁桃核における Kir4.1 チャネル発現を有意に上昇した。VPA 投与による変化は、単 回あるいは 5 日間投与に比べ、10 日間投与でより顕著であった。一方、特異的な欠神発作治療 薬である ESM は、アストロサイトにおける Kir4.1 発現に何ら作用を示さなかった。以上の結果 から、強直間代発作に対する VPA、PHB、PHT の治療効果に Kir4.1 チャネルの発現上昇が一部 関与していることが示唆された。特に、3 薬物で共通する作用として扁桃核における Kir4.1 発現 の上昇があげられ、扁桃核における空間的 K+緩衝機構の促進が強直間代発作の抑制に寄与して いる可能性が考えられた。 74 P2-5 欠神発作モデル Groggy ラットにおけるシナプス小胞タンパク SV2A の病態変化 徳留健太郎¹、奥村貴裕¹、清水佐紀¹、寺田 亮¹、北宅良祐¹、冨 田知里¹、 田中智也¹、芹川忠夫²、笹 征史³、大野行弘¹ ( ¹大 阪 薬 大 ・ 薬 ・ 薬 品 作 用 解²京 析、 動物実験施設、 都大院・医・ ³渚クリニック) 【背景・目的】SV2A は神経終末のシナプス小胞膜に局在し、神経伝達物質の開口分泌を調節し ている。我々は以前、欠神発作モデルである Groggy(GRY)ラットにおいて、SV2A の発現が海馬で 部位特異的に上昇していることを報告した。本研究では、欠神発作病態における SV2A の機能意 義をさらに明らかにするため、GRY ラットにおける SV2A 発現変動の海馬内局在性と神経伝達物 質のシナプス分泌における SV2A の機能変化について検討を加えた。 【方法】実験には GRY ラットおよび slc:Wistar ラット(対照群)を使用した。まず、GRY ラット の海馬における SV2A 発現変動を組織レベルで検討するために、海馬切片を用いた SV2A 免疫染色 を行った。次に、GRY ラットにおける神経伝達物質のシナプス遊離の変化を検討するために、海 馬における GABA およびグルタミン酸の遊離を in vivo microdialysis 法を用いて評価した。 【結果・考察】海馬切片を用いた SV2A 免疫染色の結果、GRY ラットおよび対照動物ともに、SV2A は主に歯状回門部、CA3 領域の透明層および錐体細胞層の細胞体周囲、CA1 領域の錐体細胞周囲 で高い分布を示した。このうち、GRY ラットでは、歯状回門部における SV2A 発現が対照群に比 べ約 60%上昇していた。一方、CA3 領域透明層領域でも SV2A 発現は軽度(約 20%)上昇してい た が 、 錐 体 細 胞 周 囲 に お け る SV2A 発 現 に は 変 化 は 認 め ら れ な か っ た 。 次 に 、 in vivo microdialysis 法により、SV2A 発現量上昇に伴う GABA およびグルタミン酸のシナプス遊離機能 の変化を検討した。定常状態の細胞外 GABA およびグルタミン酸レベルを比較した結果、両群間 で有意な差は認められなかった。一方、高カリウム液の透析灌流による脱分極刺激時の GABA お よびグルタミン酸遊離を検討した結果、GRY ラットでは対照群と比較して、脱分極刺激による GABA 遊離が著しく亢進していた。これに対し、GRY ラットにおけるグルタミン酸遊離も軽度上昇 したが、有意な変化ではなかった。また、海馬より調整したサンプル抽出試料を用いて HPLC に よるアミノ酸レベルを定量した結果、両群間での GABA およびグルタミン酸含量に変化は認めら れなかった。以上の結果から、欠神発作モデル GRY ラットにおいて、SV2A が海馬歯状回門部で 部位特異的に発現上昇していること、さらに神経興奮に伴う GABA のシナプス遊離機能を亢進し ていることが明らかとなった。これら結果より、SV2A が欠神発作病態においては発現上昇し、 抑制性伝達物質 GABA の遊離促進を介して、海馬内の異常興奮に対する代償的な機能を担ってい る可能性が示唆された。 75 P3-1 M-CSF を処置した骨髄由来細胞のアミロイドβ貪食機能の解析 河西翔平、高田和幸、北村佳久、芦原英司 (京都薬大・病態生理) 【背景・目的】アルツハイマー病(AD)における最大の危険因子は老化であり、超高齢化が進 む日本において、より効果的な治療法の開発は急務の課題である。しかし、現在実施されてい る AD に対する薬物治療は対症療法だけであり、発症機序に基づく根本的治療法の早急な開発が 熱望されている。その中で最も期待されている根本的治療戦略の一つが、AD の発症原因と考え られているアミロイドβ(Aβ)の脳内からの除去である。私達はこれまでに、脳構成細胞の一 つで Aβ 貪食機能を有するミクログリアの移植が脳内 Aβ 除去に大変有効であることを動物実 験において明らかにしている(FEBS. Lett., 2007, 581:475-478)。しかしながら、この移植療 法の臨床応用を想定した場合、ヒト由来ミクログリアの調製が必須であるが、その調製・調達 は困難である。一方、造血幹細胞はいろいろな細胞に分化・誘導できる細胞で、自己の造血幹 細胞の採取も可能である。つまり、移植後の拒絶反応の回避という観点からも理想的な移植細 胞と考えられている。本研究では、ヒト AD 患者への細胞移植療法開発を最終目標とし、骨髄細 胞中に含まれる造血幹細胞からミクログリア様 Aβ 貪食細胞への分化・誘導について解析した。 【方法】C57BL/6 マウスおよび Sprague-Dawley ラットの大腿骨や脛骨から採取した骨髄細胞、 ならびに市販のヒト骨髄 CD34 陽性細胞をヒト macrophage-colony stimulating factor (M-CSF) を含有する培地を用いてディッシュに播種した。その後、経時的な骨髄細胞の性質変化を調べ、 細胞数はダイレクトカウント法、分化状態については指標となるタンパク質の発現をフローサ イトメトリーや免疫細胞化学的手法を用いて解析した。さらにカルボキシデキストランで被覆 された酸化鉄や Aβ を処置し、貪食機能を共焦点レーザー顕微鏡で解析した。 【結果・考察】マウス、ラットおよびヒトの骨髄細胞の培養において、付着細胞数が徐々に増 加し、M-CSF 処置によりその増殖が促進された。このマウスおよびラットの付着細胞について、 ミクログリアのマーカーである CD11b, CD68 ならびに ionized calcium-binding adapter molecule 1 を発現する細胞数をフローサイトメトリーで解析した結果、培養日数に依存して陽 性細胞数が増加した。また、M-CSF の処置によりミクログリアマーカーを発現する細胞数はさら に増加した。この時、ラットに比べマウス由来の付着細胞の方がミクログリアマーカーを発現 する細胞が多く存在した。 マウスとラット M-CSF のアミノ酸配列はヒト M-CSF とそれぞれ 70.3% および 61.8%の相同性を有することから、この相同性の違いが細胞の分化に影響した可能性が 考えられた。次に、貪食機能についてマウス骨髄細胞およびヒト骨髄 CD34 陽性細胞を用いて解 析した。その結果、付着細胞の一部が酸化鉄や Aβの貪食機能を有することが明らかとなった。 さらに、M-CSF の処置により貪食細胞の数が有意に増加した。以上の結果より、骨髄細胞から得 られた造血幹細胞由来の付着細胞は Aβの貪食機能を有しており、さらに、その貪食細胞の増殖 はヒト M-CSF により有意に促進されることがわかった。本研究の結果から、AD の根治を目指し た細胞移植療法の開発における造血幹細胞の有用性が示唆された。 76 P3-2 Blonanserin 代謝体 AD-6048 の抗精神病薬としての薬理特性評価 南本翔子、増井 淳、水口裕登、落合 緑、溝辺雄輔、田村深雪、多田羅絢加、 清水佐紀、大野行弘 (大阪薬大・薬・薬品作用解析) 【目的】近年、統合失調症の治療には、SDA (serotonin-2 dopamine-2antagonist) 系抗精神病薬 をはじめとする非定型薬が第一選択薬として使用されるようになってきた。一般に、SDA 系抗 精神病薬は D2 受容体に比べ、より強力な 5-HT2 受容体拮抗作用を有しており、この作用が錐体 外路系の副作用軽減に寄与していると考えられている。一方、blonanserin (BNS)は新たに開 発された非定型抗精神病薬であり、強い 5-HT2 拮抗作用を有するものの、その親和性はドパミン D2 に比べ低く、5-HT2 拮抗作用とは異なる副作用の軽減メカニズムを有しているものと推察され ている。そこで本研究では、BNS の主要代謝体である AD-6048 に着目し、AD-6048 の抗精神病 薬としての薬理学的特性を明らかにするため、マウスにおける抗ドパミン作用、カタレプシー誘 発作用ならびに前脳における Fos 蛋白発現作用を評価し、さらに、定型抗精神病薬 haloperidol の作用と比較検討した。 【方法】実験には 5~6 週齢 ddY 系雄性マウスを使用した。主作用である抗ドパミン作用の評価 では、apomorphine (APO, 1 mg/kg, s.c.) 投与の 15 分前に AD-6048 (0.1-10 mg/kg)ある いは haloperidol (0.03-3 mg/kg)を皮下投与し、APO 誘発クライミング行動に対する各薬物の 抑制作用を評価した。副作用の評価では、AD-6048 あるいは haloperidol の投与 30 分後にカタ レプシーテストあるいはポールテストを実施し、錐体外路系運動障害を評価した。さらに、各薬 物投与 2 時間後に脳を摘出し、ABC-DAB 法を用いて、前脳における Fos 蛋白の発現を免疫組織 化学的に解析した。 【考察・結果】APO 誘発クライミング行動に対しては、AD-6048 は 0.3 mg/kg 以上の用量で、 haloperidol は 0.1 mg/kg 以上の用量で有意な抑制作用を示した。一方、haloperidol は 0.1 mg/kg から用量依存的にカタレプシーを誘発したが、AD-6048 は 10 mg/kg の用量でのみ軽度カタレプ シー時間を延長し、明らかな非定型抗精神病薬としての薬理特徴を示した。さらに、前脳 Fos 蛋白の発現解析において、両薬物は線条体および側坐核における Fos 蛋白の発現を用量依存的 に上昇した、AD-6048 の線条体における Fos 発現作用は haloperidol に比べ明らかに弱かった。 以上、今回の結果より、AD-6048 が明らかな非定型抗精神病薬としての薬理学的特性を有する ことが示され、これら AD-6048 の作用が、BNS の非定型性に部分的に寄与している可能性が示 唆された。 77 P3-3 パーキンソン病モデルラットにおけるアルツハイマー病治療薬ガランタミンの ドパミン神経保護作用 橋本千春、北村佳久、高田和幸、芦原英司 (京都薬大・病態生理) 【背景・目的】パーキンソン病(PD)は難治性神経変性疾患の一つであり、中脳黒質のドパミ ン(DA) 神経細胞の選択的な変性脱落と残存神経細胞内でのレビー小体の出現を主たる病理学 的変化とし、特徴的な錐体外路症状(安静時振戦、無動、筋固縮、姿勢・歩行障害)を呈する 進行性の神経変性疾患である。 近年の研究により、喫煙によるニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の刺激がPD発症の リスクを低下させると報告されている。ガランタミン(Gal)は中枢移行性のアセチルコリンエ ステラーゼ(AChE)抑制薬である。GalはAChE 阻害作用の他にも、nAChR のACh 結合部位とは 異なる部位に結合するallosteric potentiating ligand(APL)としての働きがあることが知ら れている。しかしGal、ニコチン(Nic)のDAに対する詳細な作用はいまだ分かっていない。そこ で、本研究ではPDラットモデルとして広く用いられている6-ヒドロキシドパミン(6-OHDA)投 与ラットを用いて、GalとNic のDA神経に対する作用を免疫組織学的、行動薬理学的手法を用い て解析した。 【方法】麻酔下に脳固定器に固定されたラットに、滅菌生理食塩水を対照群とし、Gal、Nic、 メカミラミン(Mec)、6-OHDA 単独投与群、6-OHDA+Gal 同時投与群、6-OHDA+Nic 同時投与群、 6-OHDA+Nic+Gal 同時投与群、6-OHDA+Nic+Gal+Mec 同時投与群を、黒質へ総量 4 µL の薬液 として投与した。投与 7 日後にメタンフェタミンによる回運動を計測し、その後マウス脳を摘 出し、免疫組織化学的に解析した。 【結果・考察】6-OHDA 単独投与群ではコントロール群に比べ著しい回転運動の増加が認められ たが、Nic 単独投与ではやや改善が認められた。その状態で Gal を併用すると神経細胞死に対 して容量依存的に有意な抑制が認められ、この回転運動の増加に対する有意な抑制は Mec を併 用することによりほぼ完全に消失した。 蛍光二重染色においてラット中脳黒質領域におけるnAChR α7 サブユニットの免疫活性がチ ロシン水酸化酵素(TH)陽性および TH陰性の神経にも発現していることが分かった。投与21日 後の免疫組織学的検討では、黒質におけるDA神経細胞の指標である抗TH抗体、nAChR α7 サブ ユニットの指標である抗α7 nAChR抗体の免疫反応性がコントロール群の緻密部では細胞体に認 められた。それに対し、6-OHDA 単独投与群においてはTH陽性細胞体数、α7陽性細胞体数の著 しい減少が認められた。一方、Gal単独投与では改善が認められず、Nic単独投与においてはや や改善が認められた。その状態でGal を併用すると神経細胞死に対して容量依存的に有意な抑 制が認められた。また、この神経細胞死に対する有意な抑制はMec を併用することによりほぼ 完全に消失した。 以上の結果よりGalはnAChRのアゴニストと併用することによりアルツハイマー病のみならず PDにおいても神経保護療法として効果があると期待される。 78 P3-4 抗精神病薬による錐体外路系障害に対する抗認知症薬の併用効果 水口裕登、清水佐紀、南本翔子、祖父江顕、藤原麻衣、森本朋樹、増井 淳、 徳留健太郎、國澤直史、多田羅絢加、大野行弘 (大阪薬大・薬・薬品作用解析) 【背景・目的】神経変性疾患であるアルツハイマー病は、中核症状である認知機能障害ととも に、随伴症状として BPSD (Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)を呈し、特に、そ の精神運動興奮の治療には抗精神病薬が使用される。このため、アルツハイマー病治療におい ては抗認知症薬と抗精神病薬が臨床併用されるが、これら薬物間の相互作用に関する報告は少 ない。そこで今回、抗精神病薬の主要な副作用である錐体外路系障害に着目し、ブラジキネジ ア(動作緩慢)発現における抗精神病薬と抗認知症薬との相互作用について検討した。 【方法】実験には ddY 系雄性マウスを用い、被験薬投与 30 分後のブラジキネジア発現を pole test 法により評価した。被験薬としてはコリンエステラーゼ (ChE) 阻害薬である galantamine (GAL) および donepezil (DON)、NMDA 受容体拮抗薬である memantine (MEM) を用い、これら薬物を 単独あるいは HAL と同時に腹腔内投与した。また一部の実験では、ムスカリン受容体拮抗薬の trihexyphenidyl (THP) あるいはニコチン受容体拮抗薬の mecamylamine (MEC) を用い、GAL と HAL 併用投与の 15 分前に投与した。 【結果・考察】抗認知症薬の単独投与では、GAL は 1 mg/kg まで何ら影響を示さず、3 mg/kg に おいて軽度のブラジキネジア誘発作用を示した。DON (0.3-3 mg/kg)はブラジキネジアを発現しな かった。次に、単独ではブラジキネジア誘発作用が見られない HAL (0.5 mg/kg) と抗認知症薬を 併用したが、GAL および DON は HAL のブラジキネジア誘発作用を用量依存的に増強した。特 に、単独投与で作用のみられなかった GAL(1 mg/kg)および DON(3 mg/kg)が顕著なブラジ キネジア誘発作用を示したことから、その作用様式は相乗的であった。さらに、GAL と HAL の 併用によるブラジキネジア増強はムスカリン受容体拮抗薬 THP により有意に抑制されたが、ニ コチン受容体拮抗薬 MEC では抑制されなかった。一方、NMDA 拮抗薬の MEM (1-10 mg/kg) は 単独投与でブラジキネジア誘発作用を示さず、ChE 阻害薬と異なり、HAL(1 mg/kg)のブラジ キネジア誘発作用を抑制した。以上の結果より、抗精神病薬による錐体外路障害発現に対して ChE 阻害作用を有する GAL および DON はムスカリン受容体を介して増強作用を示し、NMDA 拮抗薬である MEM はこれを抑制することが明らかとなった。臨床においては、単独投与で副作 用のみられない用量においても、ChE 阻害薬と抗精神病薬との併用には注意を要すると考えら れた。 79 P3-5 社会的過密環境は発育期依存的な抗不安・抗うつ様作用をもたらす 田中辰典 1、吾郷由希夫 1、井本絵実奈 1、北本真理 1、田熊一敞 1、松田敏夫 1, 2 (1大阪大院・薬・薬物治療、2大阪大院・5大学連合小児発達) 【背景・目的】 精神疾患の発症には、遺伝因子に加え環境因子が重要な役割を担うことが明らかとなってい る。我々はこれまでに、マウス幼若期における長期隔離飼育環境が、成熟後に多動や攻撃行動、 不安・うつ様行動を引き起こすことを見出してきた。一方、隔離飼育とは逆の環境因子と考え られる過密飼育は、飼育動物に対し、多くの社会的刺激(他個体との接触やコミュニケーション の増加)を与えるという特徴を持つ環境負荷である。しかし、社会的過密環境のマウス精神機能 に対する作用については不明である。本研究では環境因子がマウス精神機能に与える影響の一 環として、社会的過密飼育環境の作用を、特に発育時期、日内リズムの観点から検討を行った。 【方法】 実験には ICR 系雄性マウスを用いた。幼若期のマウスとして 4 週齢を、成熟期のマウスとし て 8 週齢を用い、1 ケージあたり 4 匹で飼育した。過密飼育環境負荷は、12 時間の明暗サイク ルの中で、昼間あるいは夜間に 20 匹で飼育することで行った。2 週間の過密飼育負荷終了後、 自発運動、不安・うつ様行動、社会性行動、学習記憶機能に関する行動学的解析を行った。 【結果・考察】 幼若期である 4 週齢から 2 週間、マウスの活動期である夜間に過密飼育環境負荷を行うと、 軽度の体重増加の抑制がみられた。この条件は、自発運動量、恐怖条件付け試験における学習 記憶機能には影響を与えなかったが、高架式十字迷路試験における不安様行動の減少、強制水 泳試験におけるうつ様行動の減少、そして社会性行動の増加を引き起こした。一方、幼若期マ ウスの昼間における過密飼育環境や、成熟期マウスにおける夜間の過密飼育環境負荷は、体重 増加、不安・うつ様行動、社会性行動に影響を与えなかった。さらに、飼育数を減少させマウ ス間相互作用が少ない環境で、ケージサイズを縮小して過密飼育環境にし、幼若期マウスを飼 育したところ、体重増加の減少は認められたものの、不安・うつ様行動、社会性行動に影響は みられなかった。 以上の成績は、活動期に多くの社会的刺激を受ける環境が、抗不安様作用、抗うつ様作用を もたらすことを示すと同時に、発育期におけるコミュニケーションの重要性を一部示唆してい ると考えられる。今後、本作用の分子機序を明らかにすることで、環境因子が与える影響の神 経科学的基盤の解明に貢献することが期待される。 80 P4-1 マウスにおける特殊飼料誘発アトピー性皮膚炎様症状の発症における系統差お よび Hr 遺伝子変異の関与 岩井安寿香 1,藤井正徳 1,遠藤史子 1,土井恵介 1,大矢 進 1,稲垣直樹 2, 奈邉 健 1 (1 京都薬大・薬・薬理,2 岐阜薬大・薬・薬理) 【背景・目的】アトピー性皮膚炎 (atopic dermatitis,AD) は,痒みを特徴とする慢性・炎症性 のアレルギー疾患であり,その発症には免疫反応および皮膚生理反応に関わる複数の遺伝子異 常が関与するとされる。また,アレルギー性気管支喘息や食物アレルギーなどのマウスモデル において,系統により発症の程度に相違があることが知られている。これまで本研究室では, HR-1 系ヘアレスマウス (HR-1) に特殊飼料 (HR-AD) を長期間 (8 週以上) 摂食させると AD 様 症状が発現することを明らかにしてきた。しかし,他の系統において同様の症状がみられるか は不明である。本研究では, 1) HR-1, BALB/c 系 マウス (BALB/c) , C57BL/6 系 マウス (C57BL/6) ,ddY 系マウス (ddY) および ICR 系マウス (ICR) の 5 系統のマウスを用いて特殊 飼料誘発 AD 様症状の発症の程度を比較するとともに,2) HR-1 と ICR を交配した仔マウス同士 を交配して得られたヘアレスマウスを ICR に 10 代戻し交配することにより確立した ICR 背景 ヘアレスマウス (hr-ICR) のドライスキン症状および掻痒様行動の程度を HR-1 および ICR のそ れらと比較した。 【方法】検討 1) では 4 週齢より上記 5 系統のマウスに,検討 2) では 3 週齢より HR-1,ICR および hr-ICR に, 通常飼料 (F-2) もしくは特殊飼料を摂食させた。ドライスキン症状の評価は, 皮膚水分含有量および経皮水分蒸散量を測定することにより行った。掻痒様行動の解析は,後 肢による一連掻爬時間を計測することにより行った。皮膚組織に各種染色を施し,表皮の厚み, 好酸球数および肥満細胞数を計測した。血清中 IgE 量は ELISA 法により測定した。Hr 遺伝子変 異アレルは,マウス尾部より抽出した DNA から PCR 法により検出した。 【結果】特殊飼料を摂食させると,いずれの系統においてもドライスキン症状が認められたが, HR-1 が最も早期かつ重度に発症した。掻痒様行動は,HR-1 のみで顕著に認められた。表皮の 肥厚の程度は HR-1=BALB/c=ddY>C57BL/6=ICR の順であった。皮膚への好酸球浸潤は ddY お よび ICR において有意に認められた。真皮中肥満細胞数は,HR-1 が他の系統と比較して顕著に 多かった。血清中 IgE 値の上昇は BALB/c において顕著に認められた。また,無毛である HR-1 および hr-ICR は Hr 遺伝子変異アレル (hr) を保有しており, 特殊飼料摂食により hr-ICR は HR-1 と同程度にドライスキン症状および掻痒様行動を発症した。 【結語】マウスにおける特殊飼料誘発 AD 様症状の発症には系統差があり,なかでもドライスキ ン症状および掻痒様行動の発症において HR-1 で最も顕著な発症がみられた。また,その発症に おいて Hr 遺伝子変異が促進的に働いていることが示唆された。 81 P4-2 Tunicamycin 誘発視細胞障害に対する deferiprone の保護効果 ○白井遥祐,倉内祐樹,森 麻美,中原 努,坂本謙司,石井邦雄 (北里大・薬・分子薬理) 【目的】網膜色素変性症(RP)は遺伝性の網膜疾患であり,本邦における中途失明原因 の第 3 位を占めている.現在のところ,RP による視細胞死を明らかに遅延あるいは停 止させる有効な治療法は全く確立されていない.その理由として,原因遺伝子の変異が 極めて多岐にわたり,視細胞死のメカニズムも多種多様であることが挙げられる.小胞 体ストレスは,種々の RP の原因となることが報告されている.そこで,小胞体ストレ スを誘発することが知られている tunicamycin を硝子体内投与し,本モデルが実験的 RP モデル動物となり得るか否かを検討した.また,活性酸素種は RP における錐体細胞 の脱落に影響しているという報告がある.そこで tunicamycin により 誘発される 視細 胞障害に対して,活性酸素の発生過程に関与する鉄イオンをキレートする化合物である deferiprone が保護効果を示すか否かを併せて検討した. 【方法】全ての実験には SD 系雄性ラット( 7-8 週齢)を用いた.Ketamine/Xylazine 麻 酔下,ラットの硝子体内に tunicamycin(0.3 あるいは 1.0 µg/eye)を投与した.片 眼に薬液を,その反対眼には溶媒を投与した.一週間後に網膜電図を測定して視機能を 評価した.その後眼球を摘出して,網膜組織標本を作製し,組織学的評価を行った.加 えて,tunicamycin により誘発される視細胞死に対する deferiprone の影響を検討する ため, tunicamycin(0.3 µg/eye)と同時に,deferiprone (0.5 , 5 nmol/eye)を硝子 体内投与し,視細胞の機能的および組織学的評価を行った. 【結果】組織学的評価において,tunicamycin 0.3 µg/eye 投与群では,視細胞特異的 な脱落が認められたが,1.0 µg/eye 投与群では網膜神経層が全体的に傷害されていた. また,どちらの用量でも暗順応下網膜電図は平坦であり,a 波および b 波は観察されな かった.Deferiprone(5 nmol/eye)は,tunicamycin(0.3 µg/eye)により誘発された 視細胞内節および外節の菲薄化を有意に抑制し,また,暗順応下網膜電図の a 波の振 幅の減少を有意に抑制した. 【考察】本研究により,tunicamycin(0.3 µg/eye)の硝子体内投与は,視細胞特異的 な傷害を引き起こすことが示された.このモデルは簡便に視細胞保護薬をスクリーニン グできる,新たな実験的 RP モデルとして利用できるかもしれない.また, deferiprone は,視細胞死に小胞体ストレスが関与している RP に対する神経保護薬となる可能性が 示唆された. 82 P4-3 Pde6a に変異を持つ網膜色素変性症モデルマウスで観察される錐体細胞機能障 害に対する deferiprone の保護効果 ○加藤夢来 1,大澤妃子 1,倉内祐樹 1,森 麻美 1,中原 努 1, 坂本謙司 1, Jürgen K. Naggert2,Patsy M. Nishina2,石井邦雄 1 (1 北里大学・薬・分子薬理,2The Jackson Laboratory) 【目的】網膜色素変性症(RP)は,遺伝子疾患の 1 つで,本邦における失明原因の第三位であ り,4,000 人に 1 人が罹患していると推定されている.その特徴は進行性の視細胞脱落により引 き起こされる夜盲と視野狭窄で,最悪の場合失明に至る.現在,遺伝子治療,再生医療などの 研究が動物レベルでなされているが,有効な治療法は存在しない.一説では活性酸素が RP にお いて観察される錐体細胞の脱落に関与しているとの報告がある.本研究の目的は,活性酸素の 発生過程に関与する 2 価の鉄イオンをキレートする化合物である deferiprone が,Pde6a にミス センス変異を有する RP モデル動物の1つである nmf363 において認められる錐体細胞機能障害 に,どのような影響を及ぼすかを明らかにすることである. 【方法】 nmf363 マウスを交配して得た児を生後 18 日齢(P18)で離乳し,deferiprone(100 mg/kg/day)を混和した水道水を,飲水として 20 日間与えた.対照群には水道水を与えた.投 与終了後,以下の実験を行った. (1)網膜電図(ERG) :マウスを 2 時間以上暗順応させ,ketamine/xylazine 麻酔下,atropine で 散瞳後,明順応下 ERG を測定した.(2) 網膜ホールマウント標本の作製:眼球摘出後,上方に 目印をつけ網膜を単離した.単離した網膜は 4% PFA により固定し,20%ヤギ血清でブロッキン グした後,錐体細胞を特異的に染色する Alexa Fluor 488 標識 peanut agglutinin (PNA) を用 いて蛍光染色した.標本は共焦点レーザー顕微鏡で観察し,錐体細胞数を計測した. (3) 網膜組織標本の作製:眼球摘出後,Davidson 液で固定し,パラフィン包埋をした.ミクロ トームを用い, 網膜の外顆粒層 (ONL) 作成した厚さ 4 µm の薄切切片を hematoxylin-eosin 染色し, 内の視細胞数と網膜各層の厚さを測定した. 【結果】P38 の nmf363 マウスにおいては,明順応下の ERG の b 波の大きさが,正常マウスに比 べて減少していたが,deferiprone を投与した nmf363 マウスにおいては,この減少の有意な抑 制が認められた.また,P38 の nmf363 マウスにおいては,外顆粒層に存在する視細胞核の数が 減少していたが,deferiprone を投与した nmf363 マウスにおいては,この減少の抑制傾向が認 められた.さらに,P38 の nmf363 マウス網膜においては,PNA で標識された錐体細胞数が減少 していたが,deferiprone を投与することにより,網膜の上側および耳側において,PNA で標識 された錐体細胞数の減少が有意に抑制された. 【考察】Deferiprone をはじめとする鉄キレート薬は,PDE6A に変異を持つ RP 患者において観察 される錐体細胞死に対する神経保護薬となる可能性がある. 83 P4-4 デキストラン硫酸ナトリウム誘起大腸炎の病態における内因性セロトニンおよ び 5-HT3 受容体の関与 ○横田 遙、中村真樹、小城正大、高橋愛未、山下迪子、天ヶ瀬紀久子、加藤 伸一、竹内孝治 (京都薬大・病態薬科・薬物治療) 【背景・目的】クローン病や潰瘍性大腸炎に代表される炎症性腸疾患(IBD)は、近年我が国で も増加の一途を辿っているものの、その病態については未だ不明な部分が多く、治療法の確立 も十分とは言えない。最近、我々は非ステロイド性抗炎症薬により誘起される小腸傷害の病態 に内因性セロトニンおよび 5-HT3 受容体が関与していることを報告した。本研究では、代表的 な IBD のモデルであるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘起大腸炎を用いて、内因性セロ トニンおよび 5-HT3 受容体の関与について検討した。 【方法】実験には雄性 C57BL/6 マウスを用いた。大腸炎は 2.5%DSS 溶液を 10 日間自由飲水さ せることにより惹起した。5-HT3 受容体拮抗薬であるラモセトロンおよびオンダンセトロンは 1 日 2 回 10 日間経口投与した。 【結果・考察】2.5%DSS 溶液の自由飲水投与は、著明な体重減少と下痢および下血を誘起し、 10 日目には大腸の短縮を伴う重篤な大腸炎を惹起した。ラモセトロンおよびオンダンセトロン の経口投与は、体重減少、下痢および下血をいずれも有意に改善し、さらに DSS 投与開始 10 日目における大腸の短縮および大腸炎を有意に抑制した。DSS 投与開始 7 日目には大腸粘膜ミ エロペルオキシダーゼ(MPO)活性の顕著な増大が観察されたが、この増大もまたラモセトロ ンおよびオンダンセトロンの投与により有意に抑制された。同様に、DSS 投与開始 7 日目には 大腸粘膜 TNF-α、iNOS、INF-γ、IL-17 mRNA 発現の著明な増大が観察されたが、これらの増大 はラモセトロンの投与により有意に抑制された。DSS 投与により大腸粘膜におけるセロトニン 含有細胞(腸クロム親和性細胞)は有意に増加した。 以上の結果より、DSS 誘起大腸炎の病態に内因性セロトニンおよび 5-HT3 受容体が関与して いることが判明した。5-HT3 受容体の活性化は、炎症性サイトカインや iNOS 発現の増大、およ び好中球の活性化に寄与しているものと推察される。したがって、5-HT3 受容体拮抗薬は抗が ん剤による嘔吐や過敏性腸症候群に加えて、IBD に対しても有効である可能性が期待される。 84 P4-5 ビスフォスフォネート系薬剤の胃粘膜傷害作用と潰瘍治癒におよぼす影響 ○中矢有華、石川佑香、木村有希、村上季子、天ヶ瀬紀久子、加藤伸一、竹内 孝治 (京都薬大・病態薬科・薬物治療) 【背景・目的】ビスフォスフォネート(BP)系薬剤は、骨に選択的に移行し、骨吸収の抑制を介し て骨粗鬆症をはじめとした種々の骨疾患の治療に奏功することが知られている反面、副作用と して上部消化管における出血・炎症・壊死・潰瘍形成などの消化器症状を引き起こすことが報 告されている。本研究では、リセドロネートのラット胃粘膜に対する傷害性ならびに既存の胃 潰瘍治癒に及ぼす影響を、第 2 世代の BP 系薬剤であるアレンドロネートおよび、新規 BP 系薬 剤のミノドロネートと比較検討した。 【方法】24 時間絶食した雄性 SD 系ラットに BPP 系薬剤を投与後、直ちに正常飼育に戻し 3 日 後に胃幽門部粘膜における傷害面積、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性、SOD 活性および TBA 反応物質量を測定した。慢性胃潰瘍は焼灼法(70°C, 30sec)により作製し、潰瘍発生日 より BPP 系薬剤を 1 日 1 回 7 日間投与し潰瘍面積を測定した。また潰瘍部における増殖因子の 発現量を、各 BP 系薬剤処置群間で比較検討した。 【結果・考察】BP 系薬剤投与 3 日後において、幽門部に傷害が観察され、その傷害はアレンド ロネート(30mg/kg 以上)およびミノドロネート(10mg/kg 以上)の投与により顕著であった が、リセドロネート投与群では、300mg/kg を投与した動物においてのみ明瞭であり、10、30 および 100mg/kg を投与した動物ではほとんど傷害が認められなかった。同時に、BP 系薬剤の 投与により幽門部における MPO 活性の増大、SOD 活性の減少、TBA 反応性物質量の増大が観 察された。焼灼潰瘍の治癒は、BPP 系薬剤の投与により遅延が認められ、その遅延はアレンド ロネートおよびミノドロネート投与群において顕著であり、リセドロネート投与による治癒遅 延の程度は弱かった。潰瘍部における増殖因子の発現はアレンドロネートおよびミノドロネー ト投与群では低かった。 以上より、BP 系薬剤が、胃粘膜に対して傷害性を示すのみならず、既存の胃潰瘍に対しても 治癒遅延作用を示すことが判明した。このような消化管に対する副作用は薬剤間で異なり、リ セドロネートが他の BP 系薬剤と比較して弱いことが判明した。 85
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