一過性の血圧低下、 心窩部不快感で紹介搬送された女性

Docters Net09-37 09.5.29 0:51 PM ページ44
救急症例のPitfall
No.1
一過性の血圧低下、
心窩部不快感で紹介搬送された女性
頚静脈怒張なし
症例
ADL自立、認知症のない78歳女性 心雑音なし 呼吸音清
平坦軟 圧痛なし 腫瘤なし
主訴
心窩部不快感 Bed side 腹部エコー:腹部大動脈瘤なし 腹水なし
心嚢水なし
茶色便 腫瘤なし 便潜血陰性
現病歴
関節リウマチ・腰椎圧迫骨折後・腰痛にてA整形外科医
ECG
洞調律 虚血性変化認めず
院通院中
メルケル細胞癌にてB大学病院通院・肺転移の可能性
を指摘されている。
来院前日就寝時まで特に問題なかった。来院日AM4
経過
心窩部の不快感が持続していたため、トロポニンT
含めて採血、ECGも施行したが、ACSを示唆する所
時トイレに起きた際に、胸と背中に重い感じがあり30分
見は得られなかった。ポータブル胸部レントゲンでは、
ほど安静にして軽快、その後布団で休んでいたが、食欲
左下肺野の透過性低下、胸水貯留を認めた。上部消
なく、朝食は摂取できない状態であり、たまたまその日
化管出血の可能性を考え直腸診も行ったが、血便・
はT整形外科定期受診日であったため、娘さん付き添
黒色便は認めず、便潜血も陰性であった。
いのもと、独歩で受診。待合室で心窩部不快感・顔色不
良となり、看護師が血圧測定したところ、血圧60台であ
り当院救急搬送となった。
既往歴
関節リウマチ、腰椎圧迫骨折、メルケル細胞癌、高血圧、
不眠症
内服薬
ブロプレス、ノルバスク、プレドニン6mg、アシノン、ムコ
スタ、セルベックス、ユベラ、リーゼ、ベンザリン、デパス、
ソレトン、ユーロジン
来院時身体所見
臥位BP138/67
SpO2
HR 78(reg)
96%(reserver6L) BT 36.5℃
JCS0
眼瞼結膜貧血なし
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来院時ポータブル胸部レントゲン
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ERで経過観察するも、血圧は130前後、HR80前後で
肺への穿破による喀血・血痰など、隣接する周辺臓器の
安定していたが、SpO2、動脈血液ガスにて急性呼吸不
障害で来院することもあり、常に大動脈破裂の可能性を
全を認め、一過性に低血圧に陥った原因として、肺塞栓
疑う必要がある。
を疑い胸部造影CTを行ったところ、下行大動脈内腔の
不整、周囲の血腫あり。また左下葉の無気肺、両側胸
採血結果
水を認め胸部大動脈瘤破裂と判断し、心臓血管外科へ
WBC17700(好中球79.3%)
コンサルトした。メルケル細胞癌があり高齢であることな
Hb11.1
どより、家族が手術を希望しなかったため経過観察入院
CRP0.08
CK12
となった。
AST14
ALT16
BUN18.2
Plt
14.2
TroponinT陰性
T-Bil 0.5
Cr0.63
Na140
LDH240
K4.1
Amy82
Cl107
診断
胸部大動脈瘤の80%に高血圧、10%に炎症性疾患
(梅毒性大動脈炎など)
を認めるとされる。60∼70歳台
血液ガス
(経鼻4L )
pH 7.42 PO2 74.3 PCO2 34.3 HCO3- 21.8 BE -1.7
の男性に多く、高血圧、動脈硬化
(喫煙、高齢、高脂血
症、糖尿病)がリスクとされる。20∼25%
に腹部大動脈瘤の合併があるため
(multiple aneurysm)注意が必要である。
胸部大動脈瘤破裂は多くは突然死する
が、まれに生還し非特異的症状で、時に
は独歩で来院する。腹部大動脈瘤破裂は
エコーで比較的容易に診断できるが、胸
部大動脈瘤は診断に苦慮することがある。
突然発症の胸腹部症状は注意が必要で、
「○○をしている時に痛くなりました」など
発症時期が明確なものは、大動脈緊急の
否定が必要である。
特記すべきは、大動脈瘤破裂・切迫破
裂は必ずしも低血圧にはならないという
ことである。腹部大動脈瘤破裂の75%は
正常血圧ともいわれるため、低血圧でな
いからといって、全く否定はできない。
また、痛みを訴えず、食道・十二指腸へ
の瘻孔形成による吐下血、気管気管支・
胸部造影CT
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