複雑システム数理2007

講義内容
自己組織化と社会的インタラクション
„ 序 複雑システム数理2007オリエンテーション
1 イントロダクション
1.イントロダクション
複雑システム数理2007
複雑システム数理
2007
Y hihi
Yoshihiro
Mi
Miyake
k
Tokyo Institute of Technology
E-mail: [email protected]
URL: http://www.myk.dis.titech.ac.jp
第7回
„ 第1部 非線形システムと自己組織化の基礎
自己組織化システム
2.自己組織化とシナジェティックス
3.スレービング原理とオーダーパラメタ方程式
時間的 空間的 タ ン形成(小テ
)
4.時間的・空間的パターン形成(小テスト1)
リズムとエントレインメント
5.ホップ分岐とリミットサイクル・カオス
6.リズムの位相記述
7.エントレインメントの数理(小テスト2)
ⒸDominik Mentzos
講義の目標
自己組織化と社会的インタラクション
複雑システムの特徴である相互作用(インタラクション)に注目
してその解析及び合成に関する数理的な方法論について講義す
る。このようなシステムの特徴である非線形性と開放性に着目し
て、秩序(パターン)形成機構としてのシナジェティクスやエントレ
インメントなど自己組織化についての基礎を解説する。さらに、こ
イ
な 自 組織化
基礎を解説する。さ
、
れらを踏まえて、人間の身体的インタラクションや心理的インタラ
クションのモデル化を進め、最終的には社会的コミュニケーション
との関連を踏まえ、その支援技術について紹介する。
講義内容
„ 第2部 人間のインタラクションのモデル化
身体的インタラクション
8.身体的インタラクションの基盤
9.脳・身体系としての協調運動のモデル化(小テスト3)
心理的インタラクション
10.認知的インタラクションの基盤
11.心理的タイミング協調としてのモデル化(小テスト4)
„ 第3部 社会的コミュニケーションへの展開
コミュニケーション支援
12.インタフェースとメディア技術の現状
13.共創コミュニケーションへの展開(レポート1)
1
講義内容と評価
„ 第3部 社会的コミュニケーションへの展開(つづき)
事例紹介
14.事例紹介1
15.事例紹介2 (レポート2)
上記はあくまでも予定ですので細部は変更する可能性があります。
講義内容(第7回)
第1部
第
部
非線形システムと自己組織化の基礎
リズムとエントレインメント
リミットサイクルの例
Belousov-Zhabotinsky反応
1951年、ロシアの科学者、B.
1951年
ロシアの科学者 B P.
P Belousovが
B l
が
生物の代謝経路(クエン酸回路/TCA回路)
を模倣した化学反応系を考案し、実験を行っ
たところ、溶液の色が時間的に振動すること
を発見した。ところが、この現象は当時の常
識では考えられないことで、認められなかっ
た。1964年になって、同じくロシアのA. M.
Zhabotinskyが追試を行い、この現象が正し
いことを確認、さらに、1970年頃には、この
化学反応溶液を静かに置いておくと、同心
円状のパターン(ダーツ等の的のように見え
ることからtarget patternと呼ばれる)が発見
された。二人の名前をとってこの反応は
Belousov-Zhabotinsky反応と呼ばれる。
リミットサイクルの例
Belousov-Zhabotinsky反応
BrO3− + Br − + 2 H + → HBrO2 + HOBr
HBrO2 + Br − + H + → 2 HOBr
7.ホップ分岐とリミットサイクル
BrO3− + HBrO2 + H + → 2 BrO2 + H 2O
7-1) リミットサイクルの例
Ce3+ + BrO2 + H + → Ce 4+ + HBrO2
7 2) 線形安定性解析とホップ分岐
7-2)
2 HBrO2 → BrO3− + HOBr + H +
7-3) シミュレーション
nCe 4+ + BrCH (COOH ) 2 → nCe 3+ + Br −
+ Finalproducts
自己触媒反応(非線形性)
京都大学・吉川研究室
スターラーで攪拌しながら観察すると、
赤い状態(還元状態:Ce3+)と青い状態
(酸化状態:Ce4+)を交互にとる。
2
リミットサイクルの例
リミットサイクルの例
Belousov-Zhabotinsky反応
ブリュッセレーターモデル
BZ反応の溶液をメンブランフィルター(目の細かいろ紙のようなもの)に染み
込ませ静かにおいておくと、左図のようなパターン(target pattern)が見られ
る。酸化状態の部分がだんだんと伝播していくように見える。次にこのパター
ンの一部を撹乱する。この反応溶液に銀線を当てると酸化状態になり、鉄線
を当てると酸化状態になりにくくなる。これらの現象を利用して、連続している
波の面を壊すことにより、パターンは螺旋型に変化する(spiral pattern)。
Y
X
Y
12
dX
= A − ( B + 1) X + X 2Y
dt
dY
= BX − X 2Y
dt
( A = 1 B = 5)
12
10
10
8
8
6
6
4
4
2
2
X
0
リミットサイクルの例
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
0
0
2
4
6
8
10
12
リミットサイクルの例
ブリュッセレーターモデル
A,Bを初期物質、Eを最終物質とし、
A
Bを初期物質 Eを最終物質とし
AとBから最終物質Eに変換される途
中の中間生成物をXとYとする。AとB
は常に外部から補われEは外部に取
り除かれるとする。このときBZ反応
の、色の異なる状態がそれぞれX
( Ce3+ )とY( Ce4+ )に対応する。
0
神経系における振動現象:反響回路
A→ X
X + B →Y
2 X + Y → 3X
X →E
小脳核と橋核などの小脳前核の間での興奮性結合においては、インパ
小脳核と橋核などの小脳前核の間での興奮性結合においては
インパ
ルスの循環が観察されている Tsukahara, Bando & Kiyohara, 1973, Brain Res.,
40, 67-71
dX
自己触媒反応
= A − ( B + 1) X + X 2Y
dt
dY
= BX − X 2Y
非線形性
dt
3
リミットサイクルの例
神経系における振動現象:第1次視覚野
Gray, Charles M.,
Gray
M Peter Konig,
Konig Andrease K.
K Engel,
Engel and Wolf Singer; "Oscillatory
Oscillatory
Responses in Cat Visual Cortex Exhibit Inter-Columnar Synchronization which
Reflects Global Stimulus Properties;" Nature, vol. 338, pp. 334-337; 1989
リミットサイクルの例
神経振動子モデル
定常
定常入力
du1
= −u1 + w12 x(u2 ) + w11 x(u1 ) + u01
dt
du2
= −u2 + w21 x(u1 ) + u02
dt
x(u ) =
興奮性結合
抑制性結合
1⎧
⎛u⎞ ⎫
⎨tanh⎜ ⎟ + 1⎬
2⎩
⎝λ⎠ ⎭
自己回帰結合
リミットサイクルの例
母子コミュニケーション
における音声リズムと
身体運動の引き込み
Condon WS, Sander LW, Neonate
movement is synchronized with
adult speech; Interactional
participation and language
acquisition, Science 183, 99-101
(1974)
リミットサイクルの例
神経振動子モデル
u2
Ⅱ
Ⅰ(w12+
w11 + u01, w21+u02)
w21+u02
Ⅰ
Ⅳ(w11+u01, w21+u02)
u1
0
u02
Ⅱ(w12+u01, u02)
Ⅲ
Ⅲ(u01, u02)
Ⅳ
4
講義内容(第7回)
線形安定性解析
まず、式[7-1]の平衡解を求める。
第1部
第
部
非線形システムと自己組織化の基礎
リズムとエントレインメント
dX/dt=dY/dt=0
dX/dt
dY/dt 0 を満たす平衡点を(X0, Y0)とすると、それは下記の
)とすると それは下記の
条件を満たす。
F ( X 0 , Y0 ) = G ( X 0 , Y0 ) = 0
7.ホップ分岐とリミットサイクル
[7-2]
このとき平衡点近傍での安定性を調べるために、(X0, Y0)のまわり
での微小変位を (x, y)とすると、次のようになる。
7-1) リミットサイクルの例
7 2) 線形安定性解析とホップ分岐
7-2)
7-3) シミュレーション
X = X0 + x
Y = Y0 + y
[7-3]
この式[7-3]を式[7-1]に代入し、x と y に関して展開し平衡解のま
わりで線形化することで、安定性を調べる。
線形安定性解析
線形安定性解析
線形安定性解析
リミットサイクルの生成機構を調べるためには、分岐パラメ
リミットサイクルの生成機構を調べるためには
分岐パラメータの変化
タの変化
に伴って、安定平衡点が不安定化しリミットサイクルに分岐する過程を
解析する必要がある。ここでは線形安定性解析の手法を用いることで、
それを行う。
2自由度の自律系を一般的に扱うために、以下のような表記を用いる。
特に、 F と G は、X と Y に関する非線形関数である。これは、BZ反応
のブリュッセレーターモデル、神経振動子モデル、van der Pol 方程式な
どを含む一般的な形式でもある。
dX
= F ( X ,Y )
dt
dY
= G( X , Y )
dt
[7-1]
平衡点(X0, Y0)のまわりでx と yに関して展開すると、以下の
ようになる。
d ( X 0 + x)
= F ( X 0 + x, Y0 + y )
dt
∂F
∂F
x+
= F ( X 0 , Y0 ) +
[7-2]式より0
∂Y
∂X X = X 0
[7-4]
y + h.o.
Y =Y0
d (Y0 + y )
= G ( X 0 + x, Y0 + y )
[7-5] 高次項
dt
∂G
∂G
y + h.o.
x+
= G ( X 0 , Y0 ) +
∂Y Y =Y0
∂X X = X 0
5
線形安定性解析
線形安定性解析
ここで 平衡点(X0, Y0)からのずれ x と y は充分小さいので、2次以
上の項を無視することができ、下記のような線形化された関係が
上の項を無視する
とができ、下記のような線形化された関係が
得られる。
dx
= ax + by
dt
dy
= cx + dy
dt
[7-6]
∂F
∂X
,b =
X =X0
∂F
∂Y
,c =
Y =Y0
a−λ
c
b
d −λ
=0
∂G
∂X
,d =
X =X0
∂G
∂Y Y =Y0
[7-7]
λ2 + pλ + q = 0
[7-12]
線形安定性解析
したがって、平衡点(X0, Y0)の安定性の問題は、線形化された方程
式[7-6]の解の安定性の問題に帰着する。そこで解を下記のように
式[7
6]の解の安定性の問題に帰着する。そ で解を下記のように
おくと、
[7-8]
固有値λが実数の場合は、以下のようになる。
p2>4q のとき固有値は実数となる。このとき以下の3つの場合
に分類できる。
(1) p>0, q>0 のとき
λ1<0, λ2<0
方程式[7-6]は以下のように表すことができる。なお、λは特性方
程式の解(固有値)に対応する
程式の解(固有値)に対応する。
⎛ x ⎞ ⎛ a b ⎞⎛ x0 ⎞
⎟⎟⎜⎜ ⎟⎟
λ ⎜⎜ 0 ⎟⎟ = ⎜⎜
⎝ y0 ⎠ ⎝ c d ⎠⎝ y0 ⎠
[7-11]
表記を簡単にするために、p=-(a+d), q=ad-bc とおき、下記の式
にもとづいて固有値を分類する。
線形安定性解析
⎛ x ⎞ ⎛ x0 ⎞
⎜⎜ ⎟⎟ = ⎜⎜ ⎟⎟ exp λt
⎝ y ⎠ ⎝ y0 ⎠
[7-10]
このλの値は次の特性方程式の解として与えられる。
f (λ ) = λ2 − (a + d )λ + ad − bc = 0
ただし、a, b, c, d は以下のとおりである。
a=
このとき固有値λは以下の計算によって与えられる。
[7-9]
安定結節点(stable node)
(2) p<0, q>0 のとき
λ1>0, λ2>0
不安定結節点(unstable node)
(3) q<0 のとき
λ1<0, λ2>0
鞍点(saddle)
6
線形安定性解析
ホップ分岐
リミットサイクルを生じる最も簡単な例
固有値λが複素数の場合は、以下のようになる。
p2<4q
のとき固有値は複素数となる。このとき以下の3つの
場合に分類できる。
(1) p>0 のとき
Re(λ) <0
安定焦点(stable focus)
dX
=Y
dt
dY
= −ω 02 X + ( μ − X 2 )Y
dt
(2) p<0 のとき
Re(λ) >0
不安定焦点(unstable focus)
(3) p=0 のとき
Re(λ) =0
渦心点(center)
μ が分岐パラメータになる
線形安定性解析の例
Van der Pol 方程式の場合であれば、下記のようになる。
方程式の場合であれば 下記のようになる
q
stable focus
F ( X ,Y ) = Y
4q=p2
G ( X , Y ) = −ω 02 X + ( μ − X 2 )Y
[7-13]
このとき平衡点(X0, Y0)は、式[7-2]に基づいて計算される。
center
stable node
p
0
saddle
μ < X 2 :正抵抗
ホップ分岐
平衡点近傍での安定性と不安定性(まとめ)
unstable node
μ > X 2 :負抵抗
この項がないときには単振動になる
線形安定性解析
unstable focus
van der Pol 方程式は RC回路にトンネルダイオードが加わった場合
を記述する。トンネルダイオードによって、変位 X が小さいときは負
抵抗となり変位は増加するが、変位 X が大きい時は正抵抗になり
変位は減少する。これによってリミットサイクルとしての非線形振動
が自己組織される。
saddle
F ( X 0 , Y0 ) = G ( X 0 , Y0 ) = 0
[7-2]
したがって、平衡点(X0, Y0)は、
( X 0 , Y0 ) = (0,0)
[7-14]
7
ホップ分岐
ホップ分岐
平衡点(X0, Y0)の近傍における線形化方程式の係数は以下
のようになる。
a=
c=
∂F
∂X
= 0, b =
X =X0
∂G
∂X
∂F
∂Y
= −ω 02 , d =
X =X0
Hopf 分岐
=1
Y =Y0
∂G
=μ
∂Y Y =Y0
ホップ分岐を経てリミットサイクルへ
Im
[7-15]
λ=
(
1
μ + μ 2 − 4ω 02
2
)
μ =0
stable focus
unstable focus
μ <0
μ >0
0
したがって、線形化された方程式は下記のように得られる。
dx
=y
dt
dy
= −ω 02 x + μy
dt
λ∗ =
[7-16]
ホップ分岐
(
1
μ − μ 2 − 4ω 02
2
)
Re
μ =0
講義内容(第7回)
このとき固有値は下記の特性方程式から求められる。
第1部
第
部
λ2 − μλ
λ + ω 02 = 0
これを解いて
λ=
(
1
μ ± μ 2 − 4ω 02
2
[7-17]
)
[7-18]
非線形システムと自己組織化の基礎
リズムとエントレインメント
7.ホップ分岐とリミットサイクル
ここでμを分岐パラメータとすると、
7-1) リミットサイクルの例
(1) μ< 0 のとき
μ~ 0 ならば Re(λ)< 0 かつ μ2-4ω02< 0 Æ 安定焦点
(2) μ= 0 のとき
Re(λ)= 0 かつ μ2-4ω02< 0 Æ 渦心点
(3) μ> 0 のとき
μ~ 0 ならば Re(λ)> 0 かつ μ2-4ω02< 0 Æ 不安定焦点
7 2) 線形安定性解析とホップ分岐
7-2)
7-3) シミュレーション
8
シミュレーション
シミュレーション
安定平衡点のまわりでの状態の時間発展( μ = -3.0)
van der Pol
5
20
3
15
15
10
2
10
1
5
1
5
0
0
0
Y
X
収束が速い
Y
20
平衡点
0
-1
-5
-1
-5
-22
-10
10
-2
2
-10
10
-3
-15
-3
-15
-4
-20
-4
0
5
10
15
20
25
Time
30
35
40
45
-25
-5
50
-5
-4
-3
-2
-1
0
X
1
2
3
4
5
シミュレーション
-20
0
5
10
15
20
25
Time
30
35
40
45
-25
-5
50
van der Pol
van der Pol
25
20
3
15
15
収束が遅い
5
0
0
Y
10
5
Y
10
1
-5
-5
-22
-10
10
-10
10
-3
-15
-15
-4
-20
5
10
15
20
25
Time
30
35
40
45
-1
0
X
1
2
3
4
5
50
-25
-5
van der Pol
(3.5, 18)
(-4, 15)
(1, 1)
0
-1
0
-2
25
20
-5
-3
リミットサイクルと初期条件の関係( μ = 3.0)
4
2
-4
シミュレーション
分岐点の近傍における状態の時間発展( μ = 0.02)
5
リミットサイクル
van der Pol
25
収束が速い
3
-5
X
van der Pol
5
4
2
X
van der Pol
25
4
リミットサイクルにおける状態の時間発展( μ = 3.0)
-20
-4
-3
-2
-1
0
X
1
2
3
4
5
-25
-5
-4
-3
-2
-1
0
X
1
2
3
4
5
9
シミュレーション
シミュレーション
線形振動と初期条件の関係
線形振動と外乱の関係
Harmonic
25
(1.0, 0)
3
15
2
10
5
1
5
0
0
(2.0, 0)
X
-5
(3.0, 0)
-10
10
Y
20
10
0
-1
-5
-2
-10
-15
-3
-15
-20
-4
-25
-5
-4
-3
-2
-1
0
X
1
2
3
4
5
-5
Harmonic
25
4
15
Y
Harmonic
5
20
-20
0
5
10
15
20
25
Time
30
35
40
45
50
-25
-5
-4
-3
-2
-1
0
X
1
2
3
4
5
シミュレーション
リミットサイクルと外乱の関係( μ = 3.0)
van der Pol
20
3
15
2
10
1
5
0
-5
-22
-10
-3
-15
-4
Thank you!
0
-1
-5
van der Pol
25
4
Y
X
5
-20
0
5
10
15
20
25
Time
30
35
40
45
50
-25
-5
-4
-3
-2
-1
0
X
1
2
3
4
5
10
小テスト(第2回)
ブリュッセレーターモデルに関する下記の問いに答えよ。
1)平衡点を求めよ。ただし
)平衡点を求めよ ただ A>0 とする。
とする
2)平衡点近傍での線形化方程式に変換せよ。
3)特性方程式と固有値を求めよ。
4)分岐パラメータ B に依存した平衡点の局所安定性を分類せよ。
5)それぞれの場合における平衡点近傍での解軌道を図示せよ。
6)ホップ分岐となる分岐点 Bc を求めよ。
dX
= A − ( B + 1) X + X 2Y
dt
dY
= BX − X 2Y
dt
11