日本機械学会[No.157-1]北陸信越支部 第52期総会・講演会 講演論文集 [2015.3.7 新潟県柏崎市] 1020 原子間力顕微鏡による凝着力の測定と van der Waals 力を考慮した数値解析との 比較 Measurement of adhesion force by atomic force microscope and numerical analysis for van ○正 林 高雄(長岡技科大) 正 古口 日出男(長岡技科大) Takao HAYASHI, Nagaoka University of Technology, 1603-1 Kamitomioka, Nagaoka, Niigata Hideo KOGUHI, Nagaoka University of Technology, 1603-1 Kamitomioka, Nagaoka, Niigata Key Words: atomic force microscope, surface energy, adhesion force, JKR theory 1. はじめに 近年,ナノ領域の材料特性や表面の力学的特性を調べる ことは,MEMS や NEMS などのナノサイズの構造体作製の ために重要である.微小スケールの材料特性を調べる方法 として,ナノインデンテーション試験がよく利用されてい るが,原子スケールでの材料特性を調べることは難しい. 表面の力学的特性である表面エネルギを調べる方法として 表面力測定装置(SFA)があるが,こちらもナノサイズの領 域での表面力を調べることは難しい.原子間力顕微鏡は, 先端の曲率が数 nm の探針と試料表面間に作用する原子間 力を測定し,凝着力や表面形状を測定する装置である.そ のため,ナノサイズの領域での材料特性を調べることが可 能である.筆者らはこれまでに,表面の力学的特性を考慮 した異方性表面グリーン関数を導出し,ナノスケールでの 接触・凝着解析を行ってきた.原子間力顕微鏡による凝着 力測定結果と,凝着解析の結果を比較することで,材料の ナノスケールでの材料特性を同定できると考えている.そ こで,本研究では原子間力顕微鏡により凝着力を測定し, 同じ条件で数値解析を行い両者の結果が合っていることを 確認する. チング前後の表面形状測定結果を示す.エッチング前には 高さ十数 nm の突起が表面上にいくつかあるが,エッチン グ後にはこれらの突起は取り除かれていることがわかる. エッチング前後の二種類に表面に対して凝着力の測定試験 を 10 回ずつ行う. 図 3 に凝着力の測定試験結果を示す.図 3 において縦軸 は測定された凝着力を示し,負の値が二面間に作用する付 着力を示し,正の値が押し込み力を示している.なお,こ の後の章で計算した凝着解析の結果と比較するため,縦軸 の正と負の向きを入れ替えている.また,図 3 の横軸は試 料台の移動量であり,負の方向が探針に近づく方向を示し ている.試料表面が探針先端と十分に離れていると,二面 間に作用する凝着力は 0 nN であり,探針に近づけていくと ある地点で試料表面に接触し,押しつけ力が大きくなって いく.また,試料表面から探針を引き離すときには,近づ けたときにジャンプが発生したときよりも凝着力は大きく なり,ある地点で急激に引き剥がれて凝着力がジャンプす る.最大の凝着力は引き剥がれる直前で発生し,これを最 2. 凝着力測定試験 はじめに,原子間力顕微鏡による凝着力測定試験につい て説明する.図 1 に原子間力顕微鏡の概要を示す.試料 (Sample)表面上にカンチレバー先端に探針がついたプロー ブ(Probe)を近づけ,二面間の原子間力によるカンチレバー のたわみ量をレーザー光により検出する.このたわみ量と プローブのばね定数から,二面間に作用する原子間力を求 める.本研究では,SII ナノテクノロジー製プローブ顕微鏡 SPI400 を用い,探針に先端に金を蒸着した SN-AF01-A を 用いる(ばね定数:0.08 N/m,先端曲率半径:≦30 nm). また,測定試料表面として SN-AF01-A の金が蒸着された平 らな面とする.測定試料表面の清浄ため,メイワフォーシ ス株式会社製ソフトプラズマエッチング装置でエッチング を行った.エッチングの条件は真空度 15 Pa,照射時間 3 分でこのときの電流値が約 6 mA 程度である.図 2 にエッ Fig. 1 Outline of atomic force microscope (a) before plasma etching (b) after plasma etching Fig. 2 Surface topography using atomic force microscope Fig. 3 Adhesion force for AFM after plasma etching 大凝着力と呼ぶ.エッチング前後での最大凝着力の平均値 を表 1 にのせる.エッチング後の最大凝着力の平均値はエ ッチング前の約 3.3 倍になった.これはエッチングにより 表面の突起や付着していた異物などが取り除かれたためと 考えられる. 3. 数値解析との比較 3・1 JKR 理論との比較 ここでは,実験結果をもとに数値凝着解析を行う.はじ めに,古典的凝着理論である JKR 理論による最大凝着力を 求める.JKR 理論による最大凝着力は以下の式である(1). (1) PJKR = 1.5 !" R ここで, ω は凝着仕事で,凝着する二面の材料が同一の場 合,凝着仕事は表面エネルギの 2 倍となる.また,R は探 針先端の曲率半径である.ここでは,金の表面エネルギは 分子 動 力学 法に よ り計 算 し た Au(100)面 の表 面 エネ ル ギ 0.8N/m,圧子の曲率を実験に用いた探針の仕様より 30nm とする.これらの値により算出した JKR 理論での最大凝着 力は 226nN となる.これは,実験値の 10 倍以上となる. この違いを小さくするために van der Waals 力による数値解 析を行う. 3・2 van der Waals 力を考慮した数値凝着解析 二面間の原子間力として van der Waals 力を考慮した数値 凝着解析を行う.数値凝着解析の詳細については文献(2) を 参照されたい.本研究では解析領域を等間隔の格子点に分 割し,その間隔を Δ x および Δ y とする. 二面間に作用する van der Waals 力は Lennard-Jonse 型ポテンシャルにより求 める.van der Waals 力は以下の式である 3 9 8! *# " & # " & , p= % ( ) % ( / 0x 0y 3" ,+$ g ' $ g ' /. (2) ここで,ε は平衡原子間距離である.これまでの研究によ り,van der Waals 力を考慮した平らな面と球の数値凝着解 析の結果は JKR 理論に近いことがわかった.そのため,解 析結果を実験結果に近づけるために,以下の改良を加えた. Table 1 Maximum adhesion force for AFM Before plasma etching After plasma etching Average 4.06 13.43 Maxmum 4.29 16.90 Minimum 3.65 10.78 Fig. 4 Surface topography of atomic surface (1)表面エネルギの値の見直し.JKR 理論で用いた表面エ ネルギは分子動力学法で求めものである.分子動力学法の 解析条件は温度が数 K で理想的な結晶構造を有する面であ る.しかしながら,本研究での凝着力測定試験は室温で行 われており,図 2 の表面形状のように粗さを有している. そのため実験時の表面エネルギは分子動力学法によって得 られた値と異なる可能性が大きい.ここでは,Larson (3) ら が実験により求めた金の表面エネルギ 0.38 N/m の値を用 いて解析することとした.この値は分子動力学法と比べて 約 0.475 倍である. (2)原子の結晶構造による表面粗さの追加.劈開されたマ イカ(雲母)の表面を AFM で測定すると,結晶構造によ るパターンが見られる.これは,結晶構造そのものという よりも,結晶構造による原子間力の分布と考えられている. このため表面を平らな面ではなく,結晶構造による粗さを 有する面にして解析を行う.結晶構造による表面の高さ分 布については以下の式より求める. h = a cos ( 2 ! x / ax ) cos ( 2 ! y / by ) (3) ここで,a は原子半径 0.14 nm で,ax と ay はそれぞれ x,y 軸方向の原子間隔で a x = 0.3 nm,a y = 0.45 nm とした. 以上の改良を加えた条件で凝着解析を行い,結果を図 5 に示す.このグラフにおいて,凝着力の正が二面間の付着 力,負が押し込み力を示している.また横軸は圧子先端か ら試料表面までの距離を示している.解析結果より最大の 凝着力は 19.3 nN となり,改良前の凝着力と比べて 0.085 倍で実験結果に近くなった.そのため,数値解析により実 験値に近い最大凝着力を得るためには,実験により得られ た表面エネルギを用い,結晶構造による表面粗さを考慮す る必要があることがわかった. 4. 結論 本研究では,AFM により金の凝着力を測定した.その結 果を解析結果と比較したところ,(1)測定された表面エネル ギの値を用いる,(2)結晶構造による表面形状を考慮するこ とで実験結果に近い凝着力を得ることが出来た.これによ り凝着力の測定試験結果より,材料特性を推定することが 予測される. 参考文献 (1) Johnson, K. L. et al.,Proc. R. Soc. Lond. A, 324(1971), 301. (2) Hayashi, T. et al., Int. J. Solids Struct., 53(2015), 138. (3) Larson, I. et al., Langmuir, 13(1997), 2429. Fig. 5 Adhesion force for numerical analysis
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