社会貢献活動がもたらす企業の信頼の向上 薗部 靖史 (一橋大学大学院商学研究科) Jul 2007 No.53 1 「社会貢献活動がもたらす企業の信頼の向上」 一橋大学大学院商学研究科 1. ジュニアフェロー 薗部靖史 本論文の背景と目的 企業は顧客との関係を構築することにより長期的に存続するためには、信頼される必要が ある。企業の信頼(corporate credibility)とは、「消費者のニーズやウォンツを満たす製品を 企業が提供し、企業の活動が正当に偽りなく行われていると消費者が信じる程度である」(薗 部[2006])。企業が信頼されるためには、製品の品質の高さだけではなく、社会的責任を果 たす必要がある。 近年、このような企業の社会的責任(corporate social responsibility,以下では CSR と表 記)への注目が高まりつつある。その要因は主に 2 つある。第 1 に、企業が不祥事を起こし たことがメディアで大きく取り上げられることにより、企業の信頼が失墜する事態が後を絶 たないことがある。第 2 に、欧米からの投資家からの投資を受ける際に CSR という括りで 監査を受けるため、日本企業が 2001 年から CSR に関する部署を設置するようになったこ とが挙げられる。 CSR は現在、不祥事への対応や倫理的側面への配慮が中心に置かれている。しかし、CSR は積極的に社会に働きかける側面を有する。丹下[2004]によると、CSR の非経済的側面、 すなわち、企業市民としての責任は 3 つに分けられる。それは、法的規制を遵守する遵法 的責任、社会に悪影響を与えない倫理的責任、社会貢献活動によって社会を良くするための 貢献的責任であるという。このうち、貢献的責任は、前 2 社に比べて義務的側面が弱い。 しかし、それゆえに単なる寄付や協賛によるものではなく、本業を通じた専門技術を活用す るならば、企業の特色を効果的に出すことが可能である(丹下[2004])。 したがって、 本論文の目的は、企業の社会貢献活動と信頼に関する先行研究をサーベイし、 両者の関係を捉えるためには事業領域との適合性に注目することが重要であることを指摘 することにある。より具体的に述べると、本論文では先行研究をサーベイすることにより次 の 4 つの問いを明らかにする。第 1 に、企業の社会貢献活動が企業の信頼の向上との関係 を見た研究がほとんどない。第 2 に、企業の信頼の効果を見た研究は多いが、企業の信頼 への影響要因を検討した研究自体が少ない。第 3 に、企業の信頼を考察する場合に、人徳 的責任である信用だけではなく、製品提供能力である能力も重要である。第 4 に、企業の 信頼の能力の向上効果を生み出す社会貢献活動を考察する際には事業領域との適合性を考 察することが重要である。 以上の 4 点を明らかにすることを目的とした本研究の以下の構成は次のとおりである。2 節において、企業の社会貢献活動と企業の信頼の関係に関する先行研究のサーベイを行う (問い 1)。3 節では、信頼に関する研究の流れにおける、企業の信頼に関する研究の位置付 けと問題点を見ていく(問い 2)。4 節では、企業の信頼の向上を見るための企業の社会貢献 活動の属性として、利他性だけではなく、事業領域との適合性にも注目する必要性を指摘し たうえで、適合性研究のサーベイを行う(問い 3,4)。最後に第 5 節では、本論文の結論を 述べる。 2.社会貢献活動による企業の信頼の向上 2.1. 2 つの研究 社会貢献活動による企業の信頼を直接見ている研究はあまりない。そのような研究は Goldberg and Hartwick[1990]と Keller and Aaker[1997]によって行われている。以下では、 2 この 2 つの研究を検討することにより、社会貢献活動と信頼の関係について明らかにされ たことを示す。 まず、Goldberg and Hartwick[1990]の研究では、企業の信頼と製品評価および広告の関 係を実験により測定している。具体的に述べると、次のように実験が行われた。企業の信頼 が高い場合と低い場合とを比較した際に、製品ランキングにどのような差が生じるのかを測 定した。実験結果は次のとおりであった。企業の信頼が低い場合にも、ある程度までは広告 表現の誇張度合いの高い方が、広告する製品ランキングが上昇する。だが、広告表現が非常 に極端な場合、すなわち、「この製品が最も良い」というメッセージを掲載した場合には、 推奨製品のランキングを低めることが分かった。これに対して、広告内容の信頼が高い場合 は、ある程度まで製品のランキングを高め、その後、逓減することが明らかとなった。その 際に企業の信頼の高低を被験者に提示し、信頼の高い企業を示す項目として社会貢献活動の 実施の有無が含まれている。 他方、企業の信頼を生み出す要因として社会貢献活動を採り入れた研究を Keller and Aaker[1997]が実施している。Keller and Aaker は、企業のマーケティング活動が企業の信 頼に与える影響を測定した。より具体的に述べると、企業の信頼に関して次の 3 つの仮説 が検証された。その3つとは、 (1) 製品の革新性が能力、信用、好感度に影響する、(2)環 境への配慮が好感度、信用、能力に影響する、(3)地域への関与が信用と好感度に影響する というものである。 調査手法は次のとおりである。大学の学生に対して市販薬、焼き菓子、パーソナルケア製 品、乳製品おける上記のマーケティング活動に関する広告を作成して、被験者に提示した。 それらのマーケティング活動を行った企業イメージと企業の信頼を測定した。企業イメージ の項目には、製品の革新性、環境への配慮、地域への関与があり、企業の信頼には、能力、 信用、好感度があった。調査の結果、3 つの仮説とも支持された。 2.2. 評価と限界 以上、企業の社会貢献活動と信頼に関する研究を考察した。これら 2 つの研究の評価す べき点は、次のとおりである。まず、Goldberg and Hartwick[1990]の研究の意義は 2 つあ る。第 1 に、企業の信頼の効果として広告効果や製品ランキングの向上に繋がることを示 したことである。第 2 に、社会貢献活動と企業の信頼という観点で捉えたならば、企業の 社会貢献活動が信頼に繋がるということを間接的に取り入れている点で意義がある。 また、Keller and Aaker[1997]の研究を、社会貢献活動と企業の信頼という観点で捉えた とき、次の点で意義があると言える。第 1 に、企業の信頼が生み出す効果に着目した点で ある。第 2 に、企業の社会貢献活動の信頼への影響、すなわち、地元の動物園への寄付と いう地域交流活動が信用の向上に影響することを測定したことにある。 また、両研究に共通する意義は、社会貢献活動と企業の信頼との関係性を見出している点 である。近年、CSR と企業の信頼に類似する企業ブランドやコーポレートレピュテーショ ンとの関係に注目した研究が見られる。しかし、CSR には、社会貢献活動以外にも法令順 守や環境保全、倫理対策、人権問題などが含まれる。さらに、評価する被験者も株主、従業 員、地域住民、消費者と幅広く存在する。これに対して、Goldberg and Hartwick[1990] と Keller and Aaker[1997]の両研究は CSR の中での社会貢献活動に限定しているため、そ の効果を直接見ようとしている。特に、Keller and Aaker[1997]は、企業の社会貢献活動の 信頼への影響を直接測定している。そのため、企業の社会貢献活動が信頼に影響することが 実証された。また、社会貢献活動だけでなく、企業の製品の革新性が企業の信頼に影響する ことも明らかにしている。 しかしながら、両研究には限界がある。まず、Goldberg and Hartwick[1990]は、信頼の 高い企業は社会貢献活動を実施しているということを被験者に提示しているだけで、被験者 に企業の信頼を評価させていない。そのことにより、社会貢献活動が企業の信頼に影響する 3 ことを直接測定していない。また、Keller and Aaker[1997]の研究の限界は 2 つある。第 1 に、社会貢献活動を地域交流活動に限定していることである。それにより、企業は社会貢献 活動間の差を測定していない。第 2 に、企業の社会貢献活動のうち、利他性だけしか考慮 していない。なぜならば、動物園の寄付というのは利他的ではあっても、事業領域とは関係 がないため、 企業の信頼に固有の要素だと考えられる事業領域との適合性が考慮されていな いからである。 以上 2 節では、企業の社会貢献活動と信頼の関係を捉えた研究のサーベイと評価を行っ た。3 節では企業の信頼について検討する。企業の信頼は、信頼に関する研究の流れから派 生した概念である。そこで、まずは企業の信頼研究を回顧し、信頼の要素として信用と能力 とがあることを指摘する。信頼研究は、情報源の信頼、有名人の推奨、身体の魅力、企業の 信頼に分けることができる。以下では信頼研究の流れを踏まえ、それらの研究の意義を指摘 する。そのうえで、企業の信頼を向上させるための社会貢献活動には、利他性のみならず、 事業領域との適合性に注目する意義があることを述べる。 3.企業の信頼 3.1. 信頼研究の流れ 3.1.1. 情報源の信頼 信頼に関する研究は情報源(媒体)の信頼に関する研究(source credibility)に端を発する。 情報源の信頼とは、情報の受け手によるメッセージの受容に影響を与える、情報の送り手の 肯定的性質のことであり(Ohanian[1990])、社会心理学においてスリーパー効果を検証した Hovland and Weiss[1951]の研究を起点とする i 。 その後、信頼の対象は主に人に限定された後に、企業の信頼に派生する。以下では、企業 の信頼研究の流れを有名人の推奨(celebrity endorser)研究および、身体の魅力(physically attractiveness)による効果に関する研究を見たうえで、企業の信頼の研究を見る。 3.1.2 有名人の推奨 有名人の推奨に関する研究には、Freeidman et al.[1976]、Dholakia and Sternthal[1977]、 Sternthal et al.[1978]、Atkin and Block[1983]、Freiden[1984]、Wiener and Mowen[1986] などがある。以下ではそれぞれの研究を見ていく。 Freeidman et al.[1976]の研究では、推奨広告において 4 タイプの推奨者、すなわち、有 名人、代表的な消費者、専門家、企業経営者によるサングリアワインの推奨効果を調査した。 その結果、希望小売価格と信頼における平均値に有意な差が見られなかったものの、予想さ れる味や購買意図に関して推奨者を用いることが有効であることが示唆された。 Dholakia and Sternthal[1977]の研究では、情報源となる有名人の信頼の高さだけではな く、自己知覚理論(self-perception theory)を基に別のテストを行わせるタイミングに注目し た。すなわち、情報源の信頼は、情報を提示された後で、無関係のテストを行わせる場合に は、信頼が高い情報ほど態度への影響が高いが、先に無関係のテストを行わせた後で情報を 提示された場合には、信頼の低い情報を信じる傾向にあることを実験により明らかにした。 また、Sternthal et al.[1978]は、情報を提示した後で情報源の信頼を提示した場合と、情 報源の信頼を提示した後で情報を提示する場合とでは、信頼の高さによってメッセージへの 態度が異なることを明らかにした。情報源となる有名人の信頼の高さを提示し、メッセージ を提示すると、メッセージに対する態度の好意度は信頼の低い情報源の場合の方が高くなり、 順序が反対だと逆の結果となった。以上 2 つの研究からは、有名人を用いる場合には、そ の信頼の高さを述べるタイミングに考慮するべきであるということが明らかにされた。 Atkin and Block[1983]の研究では、推奨者を有名人か非有名人で被験者に提示して、広 4 告の好感度、広告への信頼、推奨者の性格、製品イメージ、購買意図に関して、尋ねている。 その結果、若い被験者の場合、有名人推奨者の方が、広告の好感度と製品イメージを高め、 年齢に関わらず有名人の方が、その性格が良いと回答している。 Freiden[1984]の研究では、推奨者のタイプを有名人、CEO、専門家、典型的消費者に分 け、その広告の関心、説得力、情報の有益性、信頼、客観性などを尋ねている。その結果、 推奨者のタイプがそれぞれの変数に与える影響に差を生み出すことが明らかにされた。しか しながら、推奨者のタイプや被験者の年齢や性別がどのような傾向を持っているのかという ことまでは明らかにされえなかった。また、Wiener and Mowen[1986]は、推奨者の専門性 の高さにより、車の機械的品質や価値を被験者に評価させた。その結果、推奨者の専門性が 高いほど、製品評価が高まることが明らかにされた。 また、有名人の推奨タイプとしてその身体的魅力に限定した研究がある。推奨者の身体的 魅力の研究には、Baker and Churchill[1977]、Peterson and Kerin[1977]、Caballero and Pride[1984]、Petty et al.[1985]、Kahle and Homer[1985]などがある。これらの研究で は、広告モデルの外見的魅力と製品広告のタイプ(Baker and Churchill[1977])、ボディオ イルと歯車セット(Peterson and Kerin[1977])、宗教関連の本(Caballero and Pride[1984])、 剃刀(Petty et al.[1985],Kahle and Homer[1985])などさまざまな製品があるが、いずれ も販売員や推奨者の性別や身体的魅力が広告アピール度や購買態度を高める結果をもたら している。 以上が有名人の推奨研究である。これらの研究は、有名人の身体的魅力の研究も含めて、 有名人の信頼の高さが購買態度や製品評価に繋がることを示した点で意義がある。その反面、 信頼を一元尺度で捉えているため、 なぜそうした因果関係があるのかについて十分に検証し ているとは言えない。次に、有名人の信頼研究とは別に測定され、その後、有名人の信頼の 派生研究として行われた企業の信頼研究について見ていく。 3.1.3. 企業の信頼 本論文における主要概念の1つである企業の信頼に関する研究は、情報源の信頼に関する 研究の流れとは別に、Lababera[1982]やLutz[1985]、MacKenzie and Lutz[1989]によって 研究されていた ii 。その後、企業の信頼に関する研究は、情報源の信頼研究が派生した企業 の信頼研究、企業の信頼の広告態度・購買態度への影響、企業の信頼と当該企業の製品の推 奨者の信頼との双方の影響を見る研究へと発展していく。以下では、企業の信頼に関する研 究を上記の括りごとに捉えて整理していく。 ①広告の信頼 企業の信頼が企業への態度、広告認知、広告の信頼を向上させることを明らかにしたのは、 Lutz[1985]と MacKenzie and Lutz[1989]である。Lutz[1985]は、企業(広告主)の信頼が広 告の信頼に影響し、広告の信頼が広告態度を高めるというルートと、企業の信頼が企業への 態度に影響し、企業への態度が広告態度を高めるというルートがあるという仮説を導出した。 この Lutz[1985]の提起した仮説を検証するために、Mackenzie and Lutz[1989]は実験調査 を行った。測定対象には MBA や学部生 120 人を選定した。製品カテゴリーには、被験者 の中で比較的所有者が多く、関心の高い腕時計を選択した。実験方法は、架空の腕時計に関 して広告会社が作成した広告を被験者に提示し、その後、被験者の反応を見るというもので ある。その結果、企業の信頼が、広告態度や広告認知、広告の信頼へ影響していることが明 らかになった。 ②企業の信頼 他 方 、 企 業 の 信 頼 を 情 報 源 の 信 頼 の 研 究 か ら 派 生 さ せ た の は 、 Goldberg and Hartwick[1990]である。Goldberg and Hartwick[1990]は、「情報源の信頼には、スポーク スパーソンの信頼と製品を提供する企業の評判という 2 つがあり、スポークスパーソンの 5 信頼と同様、肯定的な評判のある企業なら、消費者がその企業の広告における主張をより強 く信じるようになる」(Goldberg and Hartwick[1990], p.173)と述べた。Goldberg and Hartwick[1990]は Fishbein and Ajzen[1975]による情報源の信頼に関する研究を発展させ ている。 Fishbein and Ajzen[1975]は、信頼の高い情報源と低い情報源とで、悪い評判が生じた場 合の、態度変容の変化と情報の誇張度合い(極端さ)の受容度合いの変化を測定した。その結 果、次のことが明らかにされた。まず、信頼が低い情報源は、はじめは情報の誇張度合いが 高くても受容が許容されるものの、 さらに誇張度合いが高まるとその許容度が著しく低下し た。一方、信頼が高い情報源は、はじめは誇張された情報の許容度が高くなるのは信頼の低 い場合と同じだが、さらに情報の誇張度合いを高めても、逓減はするものの許容度が大幅に 低下することはないということが明らかにされた。 Goldberg and Hartwick[1990]は、上述の Fishbein and Ajzen の研究を企業の信頼に援 用した。つまり、企業の信頼が高い場合と低い場合とを比較した際に、製品ランキングにど のような差が生じるのかを測定した。Goldberg and Hartwick[1990]の実験結果は次のとお りである。企業の信頼が低い場合にも、ある程度までは広告表現の誇張度合いの高い方が、 広告する製品ランキングが上昇する。だが、広告表現が非常に極端な場合、すなわち、「こ の製品が最も良い」というメッセージを掲載した場合には、推奨製品のランキングを低める ことが分かった。これに対して、広告の信頼が高い場合は、ある程度まで製品のランキング を高め、その後、逓減することが明らかとなった。したがって、企業の信頼に関しても、情 報源の信頼と同様の結果であることが明らかにされた。 ③企業の信頼と推奨者の信頼との双方の影響 その後、企業の信頼に関する研究は、Lafferty and Goldsmith[1999]や Goldsmith et al.[2000]によって行われた。Lafferty and Goldsmith[1999]は、次のような実験を行った。 それは、有名人の信頼と企業の信頼をそれぞれ高低で分け、それぞれを組み合わせて4つの 雑誌広告として提示することにより、製品広告がブランドや購買意図にどのように影響する のかというものである。その結果、有名人の信頼も企業の信頼も共に広告態度やブランド態 度に影響するが、購買態度に影響するのは企業ブランドだけだということが明らかにされた。 しかし、被験者が女子学生 100 名であるという限界があった。 そこで、Goldsmith et al.[2000]はLafferty and Goldsmith[1999]モデルを修正し、152 人の成人消費者を対象に石油会社の架空の広告を提示し、有名人による推奨(celebrity endorser)と企業の信頼が消費者の広告態度、ブランド態度、購買意図にどのような影響を 与えるかどうかを測定した。単回帰分析を行った結果、有名人推奨者は広告態度に最も強く 影響していた。これに対して、企業の信頼は、ブランド態度に最も強く影響していた。また、 有名人ほどではないにせよ、企業の信頼は広告態度にも影響していた。さらに、企業の信頼 は僅かではあるが、購買意図にも影響していることが明らかにされた iii 。 3.1.4. 信頼研究の評価と限界 以上、情報源の信頼、有名人推奨者や身体的魅力に関するもの、企業の信頼という括りで、 信頼研究を整理した。これらの研究の評価として次の 2 つが指摘できる。第 1 に、信頼の 対象には媒体、推奨者、企業という 3 つの立場があることが明らかにされたということで ある。このうち人に関しては身体的魅力も関係することが明らかにされた。第 2 に、信頼 の高さが、製品に対する評価を高めるということが明らかにされたことである。また、有名 人の推奨研究から企業の信頼という研究ジャンルが派生したことにより、人だけではなく、 企業もエンドーサーとなることが認識されるようになったことは評価できる。 これらの研究の限界として、有名人の推奨者研究と企業の信頼研究においてそれぞれ挙げ ることができる。まず、有名人の推奨者に関しては、被験者の性別、年齢、製品と人の組み 6 合わせが、信頼の高さにどのような影響を与えるのかが明確ではないという点である。また、 推奨側が有名でない場合には、信頼の高さを提示するタイミングによってはマイナスの影響 が出ることも示唆されている(Dholakia and Sternthal[1977], Sternthal et al.[1978])。 他方、企業の信頼に関する研究の限界として、企業の信頼を向上する要因を検討した研究 自体がほとんどないということが挙げられる。確かに、企業の信頼の効果として広告態度、 広告認知、媒体としての広告の信頼、情報の誇張表現の許容度、製品への態度の向上に影響 することが明らかにされた。しかし、そうした効果のある信頼できる企業になるよう因果が 何であるのかについて検討した研究は、上述の Keller and Aaker[1997]しかない。 これは、おそらく広告研究における推奨者の信頼では、信頼されている人を起用すること が前提となっているため、どうすれば信頼されるかということが問題にならなかったと考え られる。しかしながら、企業を信頼される対象として捉えるときに、どのようにすれば信頼 が高まるのかということは重要になってくる。そこで、以下では企業の信頼の向上効果を見 る際にどのような要素に注目するべきなのかについて検討していく。 3.2. 信頼の要素 信頼の要素は、2 つの研究モデルから構成されている。1 つは Hovland and Weiss[1951] が中心となって主張している情報源の信頼モデルである。同モデルには信用 (trustworthiness)と 能 力 (expertise)が 内 包 さ れて い る 。 これ ら に つ いて Sternthal et al.[1978]は、次のように定義している。信用とは、情報の送り手が正確な主張をすること ができると情報の受け手によって知覚されている程度を示す。一方、能力とは、情報の送り 手が自分たちは正当であると主張していることを情報の受け手が受容する程度のことであ る。 もう 1 つは、情報源の魅力モデルである。社会心理学の McGuire[1985]の「情報源のバ ランス」モデルに端を発する。情報の魅力モデルは、情報の受け手に対する情報源の「親近 感」、 「好感」 、 「類似性」 、 「魅力」を指す(McGuire[1985])。情報源の信頼における研究領域 において、目下この 2 つのモデルが情報源の仮定的次元として扱われている。 その後、Sternthal and Craig[1982]、McRacken[1989]、Ohanian[1990]は情報源の信頼 モデルと魅力モデルとを融合させた。例えば、Ohanian[1990]は情報源の信頼モデルの 2 つの変数に魅力モデルの一部である「魅力」(attractiveness)を加えた。これにより、信頼 研究における信頼の要素が、信用、能力、魅力の 3 つにまとめられた。これを受けて Keller and Aaker[1997]は、企業の信頼を 3 つの下位概念に分けている。その 3 つとは信用と能力 と好感(likeability)である。以下では Keller and Aaker[1997]によって定義された 3 つの下 位概念を見た上で、本研究では信用と能力のみに注目する理由を明示する。 企業の信頼の第 1 の下位概念である信用(corporate trustworthiness)とは、企業が誠実で 頼りになり顧客のニーズに敏感であることを動機付けられていると見なされる程度のこと である。第 2 の能力(corporate expertise)とは、企業が十分に製品を作ったり売ったりサー ビスを遂行したりすることが可能であると見なされる程度のことである。第 3 の好感 (corporate likeability)とは、企業に好感、名声、興味が持てる程度である。しかしながら、 この好感という要素に関しては問題がある。 Keller and Aaker[1997]は、情報源の信頼モデルに内包される二つの区分である信用と企 業の能力だけでなく、情報源の魅力モデルのうちの好感を企業の信頼に加えている。企業の 信頼を定義する際に好感を加えた理由については Keller and Aaker[1997]によって明らか にされていない。だが、Keller and Aaker[1997]が企業の信頼の下位概念を定義する際に Sternthal and Craig[1982]の情報源の信頼に関する議論を参考にしているという記述があ る 。 Sternthal and Craig[1982] は 、 信 頼 の 下 位 概 念 と し て 信 用 と 能 力 以 外 に 魅 力 (attractiveness)を挙げている。したがって、おそらく Keller and Aaker[1997]は、人にお ける魅力に該当するものが企業にも存在すると考えて好感という下位概念を加えたのでは 7 ないかということが考えられる。 しかしながら、情報源の信頼を企業の信頼に援用した際に、好感を加えることには問題が ある。その理由は3つある。まず、Goldsmith et al.[2000]は 2 つの理由を挙げている。第 1 の理由は、魅力と好感という異なる概念を混同して用いていることである。すなわち、 Keller and Aaker[1997]は、本来は情報の送り手自体が持っている性質であるはずの魅力と いう概念を、情報の送り手である企業に対する消費者の態度である概念、すなわち、好感と 混同しているというのである。第 2 の理由は、たとえ、好感を魅力という用語に置き換え たとしても、 人について表す魅力という概念を組織において見出だすことには無理があると いうことである。 Goldsmith et al.[2000]の第 1 の指摘は妥当なものである。確かに、本来情報の送り手が 有する性質であるはずの信頼の区分に、情報の受け手の態度である好感を加えるのは適当で はない。だが、第 2 の指摘には問題がある。確かに、情報源の信頼の議論での魅力とは外 見のことを指しており、企業という組織自体を視覚化することができない。しかし、企業の 外見を視覚化させる、あるいは、擬似的に視覚化させることはできる。つまり、広告活動や 対面販売などのコンタクトポイントにおいて、 可視化される従業員や企業の製品、 あるいは、 企業ブランドロゴなどの魅力を企業の魅力と見なすことは可能である。 しかしながら、企業の信頼に好感あるいは魅力を加えるという Keller and Aaker[1997] の主張には、第3の問題点がある。それは、魅力が信用や能力と同レベルの概念ではないと いうことである。Peter and Olson[1996]によると、Sternthal and Craig[1985]の魅力とい う概念は「包括的な企業評価」としての企業への態度と混同されているという。つまり、魅 力を信用や能力と同等の概念であるとするよりも、むしろ、魅力は信用や能力の両変数が高 められた結果生じる帰結的変数であると考えるべきである。そのため、以下で検討する信頼 の要素は信用と能力に限定する。 以上、信頼に関する研究とその流れを汲んだ企業の信頼に関する研究をサーベイし、企業 の信頼の要素について検討した。それにより、企業の信頼は信用と能力とが重要な要素であ ることを指摘した。このことを踏まえたうえで、以下では 2 節で述べた企業の社会貢献活 動との関係で捉えた場合に、企業の信頼の要素である信用と能力に対応する社会貢献活動の 属性について考察する。 3.3. 社会貢献活動の属性との対応 一般的に、企業の社会貢献活動には利他性が存在すると考えられている。この利他性は、 企業の人徳的側面に対する信頼、すなわち、信用に影響すると考えられる。しかしながら、 企業の信頼には、製品提供面に関する信頼、すなわち、能力も存在する。企業の社会貢献活 動における能力への影響を考慮する場合、事業領域との適合性に注目する必要がある。そこ で、企業の社会貢献活動においては、利他性のみならず事業領域との適合性も考慮する必要 がある。その理由は 3 つある。 第 1 に、事業領域との適合性を考慮する企業が増加してきたことである。企業の社会貢 献活動の形式が利益還元型だった頃は、多くの企業は、本業とはあまり関係のない分野での 社会貢献活動を行っていた。しかしながら、社会貢献活動が経営戦略型に移行するにつれて、 本業と関係のある分野での社会貢献活動を展開する企業が増えてきた(梅田[2006])。 第 2 に、事業領域との適合性の高さによって社会貢献活動に対する企業の積極性に差が 生じるということである。本業との適合性の低い社会貢献活動に関しては、企業は本業ほど のノウハウを持ち合わせていないため、金銭的援助のみになるか、その活動が独善的になる おそれがある。また、金銭的な協賛のみでは、企業の積極性が感じられないであろう。その ため、社会からの評価が得にくい。これに対して、本業との適合性の高い社会貢献活動であ れば、企業は事業リソースを有効に活用できるため、積極的な支援ができる。そのため、社 会からの評価が高まる可能性は大きい。 8 第3に、企業の信頼の要素である能力への影響に差が生じる可能性があるということであ る。企業は自己利益を追求する組織であるため、企業の行うあらゆる活動には自己利益に繋 がる意義が存在しなければならない。そのため、企業が自己利益を考慮せずに社会貢献活動 を行うことには問題がある。この自己利益とは、金銭的利益や技術や情報の蓄積以外に、企 業への評価というものが存在する。その 1 つとして、企業の信頼を挙げることができる。 本業との適合性の高い社会貢献活動と適合性の低い社会貢献活動では、企業の信頼の評価、 とりわけ能力に対する評価に差が生じ得ると考えられる。なぜならば、企業の能力は、企業 が消費者に対して製品を提供することができると見なされる程度だからである。つまり、本 業との適合性の高い社会貢献活動を実施することで、企業は自社の製品提供能力を消費者に 認知させることができるのである。したがって、企業が本業での利潤に直接繋がらない社会 貢献活動においても、事業領域との適合性を考慮する必要があると考えられる。 以上、本節では信頼研究を概括し、企業の信頼に対応する社会貢献活動の属性として、利 他性と事業領域との適合性を見ることの意義を示した。次節では、事業領域との適合性を検 討するにあたり、適合性研究をサーベイする。そのうえで、適合の基準を挙げる研究を見て、 企業の信頼を向上させる社会貢献活動の属性としての適合性の条件を考察する。 4.事業領域との適合性 4.1. 適合性に関する研究 適合性とは、ある外部参照基準における複数の対象同士の評価のことである(Osgood and Tannenbaum [1955])。他方、事業領域は、顧客層、顧客ニーズ、技術の3次元に分けられ る(Abell[1980])。したがって、本論文では企業の社会貢献活動の事業領域との適合性を次の ように定義する。事業領域との適合性とは、ある参照基準に関する、企業の社会貢献活動と 事業領域との組み合わせの評価のことである。 むろん、ニーズを有し、かつ個人個人によってもニーズが異なる消費者と、顧客層や顧客 ニーズに配慮しながらも技術に注目している企業とでは、 企業の事業領域に対して異なった 認識をする可能性がある。だが、消費者と企業との間には「ドメイン・コンセンサス」(榊 原[1992])が存在する iv 。そのため、企業が経営資源を利用した社会貢献活動を実施すること で、消費者がそうした社会貢献活動と事業領域との適合性を見出すことは可能である。 適合性に関する研究は Osgood and Tannenbaum[1955]の研究に端を発する。それ以後、 信頼に関する研究において、有名人推奨者と製品やブランドとの関係が注目されるようにな った。例えば、DeSarbo and Harshman[1985]は、多次元尺度法を用いて有名人と車との 組み合わせの効果を測定している。その後適合性の研究は、ターゲット・オーディエンスを 考慮したマッチアップ仮説研究に繋がる。 4.2. マッチアップ仮説 マッチアップ仮説とは、もとは広告研究において有名人(celebrity)と製品との一致(マッチ アップ)が問題になると指摘した Forkan[1980]の議論に端を発する。その後、Kahle and Homer[1985]によって「効果的な広告において、有名人のイメージと製品イメージによっ てもたらされたメッセージとが収束する」という明確な定義づけが行われた。これらの研究 では有名人と製品の一致のみを問題としている。 適合性研究全体の中でのマッチアップ仮説の指摘で最も重視すべき点は、製品と推奨者の みならず、その両者に適合性を見出すターゲット・オーディエンスに注目したことである。 Hawkins et al.[1986]によれば、単に有名人を用いて企業の製品を推奨すれば広告効果が保 証されるわけではなく、有名人のパーソナリティが製品のパーソナリティ、あるいはオーデ ィエンスの性格とうまく合致するときに、広告効果が大幅に改善されるのだという。ただし、 Forkan[1980]や Hawkins et al.[1986]による、マッチアップ仮説の議論は、具体的な実験 結果が提示されていない。 9 マッチアップ仮説に関して、ターゲット・オーディエンスにも注目すべきだと明言してい る研究は少ない。しかしながら、被験者を学生などに統一したり、被験者を年齢や性別で分 けたり(Freiden[1984])、親近性(Familiarity)の高低で信頼に差が生じるかどうか(Simonin and Ruth[1992], Lafferty[2004])を見たりするなど、二者間の適合性を見る多くの実験研究 では、ターゲット・オーディエンスを何らかの形で考慮している。 その後、マーケティングにおける適合性に関する研究は大きく 2 つに分かれた。第 1 に、 ブランド拡張 (brand extensions)に関する研究である v 。第 2 に、マーケティング提携 (co-marketing alliances)とブランド提携(brand alliances)であり、それらの流れを汲んだコ ーズ・ブランド提携(cause-brand alliances)である。本研究では、企業と社会貢献活動の組 み合わせを見ていくため、ブランド拡張については見ない。 4.3. マーケティング提携研究 マーケティング提携研究は、Varadarajan and Rajaratnam[1986]による共生マーケティ ング(symbiotic marketing)と適合性に関する研究の影響を受けている。共生マーケティン グ研究では、企業が製品多角化をする際に、類似性や補完性のある製品の組み合わせを考慮 すべきだと述べている vi 。マーケティング提携研究では、提携対象を製品同士から企業同士 へと発展させた。Bucklin and Sengupta[1993]によると、企業が提携する際には、事業領 域との類似性や目標の適合性が組織間の補完効果を高めるといったように、提携相手の経営 スタイルと文化における類似性が重要であると述べている実験の結果、パワー関係や経営の アンバランスが、マーケティング提携効果に悪影響を及ぼすことや、企業間コンフリクトの 少なさや組織的適合性の高さが関係性を強めることが明らかにされた vii 。 さらに、ブランド提携を発展させた研究として、コーズ・ブランド提携(cause-brand alliances)がある。Lafferty and Goldsmith[2003]は、被験者を慈善事業に対する親近性の 高さで分け、コーズ・ブランド提携の、慈善事業への態度やブランド態度に対する影響を、 被験者の平均値によって測定した。その結果、慈善事業への親近性の高低にかかわらず、コ ーズ・ブランド提携がブランド態度に対して効果があるということが明らかにされた。また、 慈善事業への親近性の高い者はブランド提携による慈善事業への態度を高めることはなく、 親近性の低い者は、慈善事業への態度を高めることが明らかにされた。また、Lafferty et al.[2004]は Simonin and Ruth[1998]のモデルを援用して、コーズ・ブランド提携への態度 が慈善事業やブランド態度にどのように影響するのかを測定した。その結果、提携への態度 が慈善事業への態度とブランド態度に強い影響を与えていることが明らかにされた。 4.4. 適合性研究の意義 以上、適合性研究を回顧してきた。その意義は次のとおりである。第 1 に、2 つの対象の 組み合わせが影響することを明示した点である。第 2 に、マッチアップ仮説の箇所で指摘 したとおり、対象の組み合わせを見る際には、同時にそれらを見る対象、すなわち、ターゲ ット・オーディエンスに注目する必要があるということである。第 3 に、適合性は、人と製 品だけでなく、共生マーケティングのように事業同士、拡張研究のようなブランド同士の組 み合わせ、あるいは、慈善事業とブランドの組み合わせなどに援用することが可能であると いう点である。 以上の 3 点を踏まえると、企業の社会貢献活動において事業領域との適合性を考慮し、 企業の信頼への影響を考慮する意義があると考えられる。すなわち、企業の信頼には、信用 だけではなく、能力も存在する。そのため、信用に対応する社会貢献活動の属性が利他性で あるとするならば、能力に対応する属性は事業領域との適合性であると言えよう。このよう な枠組みを構築することにより、企業の社会貢献活動の測定において、利他性のみならず事 業領域との適合性を考慮する意義が生じてくる。 企業は本業、すなわち、自社の事業領域における技術や情報という経営資源として重視し 10 ている。また、消費者の知覚を考慮するならば、事業領域を拡散させるよりも集中すること のほうが、消費者の知覚における能力面での信頼の向上に寄与し得る。現に、Keller and Aaker[1997]によって、製品の革新性が能力に影響することが示されている。このことは、 社会貢献活動においても同様であると考えられる。つまり、社会貢献活動を企業が行う場合 には、利他性だけではなく、事業領域との適合性も存在し、その効果として、企業の信頼の 要素のうちの能力に影響すると考えられる。 5.おわりに 以上において、企業の社会貢献活動と信頼についての研究をレビューし、考察してきた。 これらの議論をまとめると次の 4 つが明らかにされた。 第 1 に、企業の社会貢献活動が信頼の向上に繋がっていることを示した研究がほとんど ないことである。Goldberg and Hartwick[1990]は企業の社会貢献活動が信頼の向上に繋が っていることを直接測定しておらず、Keller and Aaker[1997]は企業の社会貢献活動が信頼 に繋がっていることを示しているものの、社会貢献活動の属性として利他性のみしか考慮し ていないという限界があった。このことは 2 節において明らかにされた。 第 2 に、企業の信頼に関する先行研究をサーベイした結果、企業の信頼を向上する要因 を検討した研究自体がほとんどないことである。企業の信頼の効果として広告態度、広告認 知、媒体としての広告の信頼、情報の誇張表現の許容度、製品への態度の向上に影響するこ とが明らかにされた。しかし、そうした効果のある信頼できる企業になるよう因果が何であ るのかについて検討した研究は、上述の Keller and Aaker[1997]しかない。 第 3 に、企業の信頼の要素として、信用のみならず能力も存在することが明らかにされ た。企業の信頼はその企業の対応が誠実であるというような人徳的な側面、すなわち信用が 重要であるのは当然である。しかしながら、企業の信頼というとその専門的な製品やサービ スの提供能力、すなわち、能力も重視されてしかるべきである。第 2、第 3 の結論は、3 節 において明らかにされた。 第 4 に、企業の信頼の信用の向上に影響しうる社会貢献活動の属性が利他性であり、能 力の向上に影響しうる社会貢献活動の属性が事業領域との適合性であるということである。 旧来企業の社会貢献活動は利他的な活動であり、本業で利潤をあげた企業が社会に利益を還 元していくという、いわば利益還元型の活動であった。そうした意味合いだけしか考慮され ていなかった頃には、本業との関係がそれほど強固ではなかった。 しかしながら、社会貢献活動が経営戦略型に移行するにつれて、本業と関係のある分野で の社会貢献活動を展開する企業が増えてきているという(梅田,2006)。そうした事業領域との 適合性の高い社会貢献活動は、製品提供能力の強さを示す可能性が高いと考えられる。この ように、企業の社会貢献活動が企業の信頼の能力を向上させる関係を見るためには、社会貢 献活動を利他性だけではなく、事業領域との適合性という属性で捉えることが有効であると 考えられる。このことは 4 節で明らかにされた。 以上が本論文で明らかにされたことである。それにより、次のことが示唆された。すなわ ち、企業の信頼は信用と能力の両側面で捉えることが重要であり、それぞれを向上させる企 業の社会貢献活動の属性を考慮するには、信用を高めうる利他性だけではなく、能力を高め うる事業領域との適合性にも注目するべきである。企業の社会貢献活動に関して自社リソー スを活用している例は多い。だが、その効果を検証した研究はない。したがって、今後は、 企業の社会貢献活動をコミュニケーション戦略で捉える際には、事業領域との適合性で捉え るべきであることが示唆される。 参考文献 Abell, D. 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