機械脱水処理土を用いた浚渫土砂処分場の嵩上げ築堤に関する検討 1

沿岸技術研究センター論文集
No.13(2013)
機械脱水処理土を用いた浚渫土砂処分場の嵩上げ築堤に関する検討
澁谷 浩平*・岸良 安治**・右田 宏文***・清山 貴俊****・片桐 雅明*****
* 前(一財)沿岸技術研究センター 調査部 主任研究員
** (一財)沿岸技術研究センター 調査役
*** 前 国土交通省 九州地方整備局 北九州港湾・空港整備事務所 新門司出張所 沿岸防災調査官
**** 国土交通省 九州地方整備局 北九州港湾・空港整備事務所 第二工務課 第一工務係長
***** (株)日建設計シビル 地盤調査設計部門 設計主管
新門司沖土砂処分場(3工区)はこれまでに,受け入れ容量の拡大を目的に護岸の
嵩上げが計画され,その築堤材には浚渫土砂の減容化を目的に製作された機械脱水処
理土が有効利用されてきた.本稿では,堆積した浚渫土砂層を地盤改良し,造成され
た嵩上げ築堤の,動態観測結果や地盤調査を踏まえた安定性及び将来予測の検討結果
を報告する.
キーワード:浚渫土砂, 機械脱水処理土,嵩上げ築堤,浚渫土砂処分場
機械脱水処理土母材体積-機械脱水処理土体積
1. はじめに
現在,関門航路及び北九州港新門司地区の新門司航路
において,物流の効率化及び通航船舶の安全性向上のた
め,航路・泊地の浚渫工事が進められている.関門橋よ
り東側の浚渫土砂は,主に新門司沖土砂処分場(3工区)
に埋立処分を行っているが(図-1)
,現在の土砂処分場の
受け入れ可能容量も年々少なくなってきている.このた
め九州地方整備局では,既存の新門司沖土砂処分場(3
工区)の受け入れ容量の拡大を目的に,築堤による護岸
の嵩上げが計画され,現在実施されている.
(3 工区)
図-1 新門司沖土砂処分場位置図
一般的に築堤材には,山土などの新材が用いられるが.
当該処分場では図-2 に示すように,浚渫工事で発生した
大量の浚渫土砂の減容化を目的に製作された機械脱水処
理土を嵩上げ築堤に活用することで,土砂処分場の受け
入れ容量拡大及び浚渫土砂の減容化を実現してきた.減
容化した機械脱水処理土を構造体として活用している事
業としては,我が国初の事例となる.
嵩上げ築堤
(機械脱水処理土)
容積増
浚渫土砂減容化
浚渫土砂
腹付
既設護岸
図-2 土砂処分場の受け入れ容量拡大方策
一方で,浚渫土砂処分場の既設護岸の嵩上げを行う場
合,図-2 に示すように嵩上げ築堤を構築するために既設
護岸に対して腹付けが必要となるが,粘性土を含む軟弱
な浚渫土砂が既設護岸周辺に堆積している場合には腹付
の施工が困難となるため,嵩上げ築堤下の地盤強度を増
加させるために,地盤改良を行う必要が生じる.
今回検討した新門司沖土砂処分場(3工区)の西護岸
周辺に埋め立てられた浚渫土砂層は,地盤改良前に実施
した地盤調査の結果より粘性土と砂質土の互層であるこ
とが判明したことから,本現場における地盤改良工法は,
プラスチックボードドレーン工法が採用された.本稿で
は,
「平成 24 年度 新門司沖土砂処分場(3工区)技術
検討調査」の中で検討された,西護岸嵩上げ築堤の,予
測解析結果と実測値の比較,修正予測,最終盛土時の予
測など,圧密沈下に関わる課題,ならびに築堤時の課題
を取り上げ,その対応策を紹介する.
2. 機械脱水処理土の特性
機械脱水処理土とは,浚渫粘土を「高圧フィルタープ
レス工法」により製造した土塊で,浚渫脱水処理土リサ
イクル築堤工法(DRE 工法)の 手引き 1)によると,土塊
群の単位体積重量 16.5 kN/m3,破壊基準はcCD=5 kPa,φ
CD= 30°で設定されている.主な特性として軽量であるこ
とから,すべりの滑動力を低減できるため,嵩上げ築堤
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No.13(2013)
に伴い新たに既設護岸の外側に設けるカウンター盛土の
厚さ及び幅の軽減若しくは,カウンター盛土が不要とな
る等のメリットがある.
4. 動態観測結果
図-4 はサンドマット敷設からプラスチックボードドレ
ーンの打設,その後の1次盛土までの沈下量の動態観測
3. 西護岸嵩上げ築堤の概要
結果である.図中には,経過日数 500 日において,沈下
図-3 に新門司沖土砂処分場(3工区)の平面図及び,
量の大きさで3つに分類したグループを示す.
西護岸の標準断面を示す.西護岸側に埋め立てられた浚
砂分を多く含む低沈下量レベルの挙動は,ほとんど圧
渫土砂は,グラブ式浚渫船により浚渫された土砂をリク
密が終了しているとみなせる.砂分をやや含む中沈下量
レーマ船により揚土されたこともあり,砂分がやや多い
レベルの挙動は,沈下挙動に違いがあるものの,収束に
浚渫土砂となっている.地盤改良前に実施した地盤調査
近づきつつあるとみなせる.砂分がほとんどない高沈下
結果から,築堤の基礎地盤の地盤改良はプラスチックボ
量レベルの挙動は,収束に近づきつつあるが,中レベル
ードドレーン工法が採用された.現地の施工は,平成 23
のものよりも傾きが高い.
年度から表層処理及びドレーンの打設を行い,平成 24 年
以上より,安定計算では,高沈下量レベルのエリアに
度は段階的に嵩上げ築堤の1次盛土が行われた(写真-1)
. ついて検討することにした.
100
100
0
サンドマット敷設,
バーチカルドレーン打設
0
1次盛土
-100
-100
-200
-200
-300
-300
仮護岸
沈下量
-400
中仕切
No.14
-500
-600
-600
-700
No.0
No.37
No.50
No.100
No.150
土取場
低沈下量
-500
mm
北護岸
-400
中沈下量
-700
-800
-800
高沈下量
-900
-900
西護岸
-1000
-1,000
900
950
900
800
850
800
700
750
700
600
650
600
500
550
500
400
450
400
300
350
300
200
250
200
0
100
150
100
50
0
図-3(a) 新門司沖土砂処分場(3工区)平面図
経過日数
図-4 動態観測結果(沈下量)
5. 地盤調査結果
14.35
4.50
仮設道路
ネット状シート①
+2.9
4.50
22.00
+8.0
+5.9
+3.7
脱水処理土
防水シート
3.00
[+9.9~11.1]
+7.4
鉛直排水管・沈下板
基礎捨石 (雑石5~100kg/個)
-6.3(-6.6)
置 換 砂
±0.0
プラスチックボードドレーン
□0.9m
腹付砂
1:3
-11.3
2次盛土の安定性を評価するために,1次盛土による
圧密が進行した時期に実施された地盤調査結果をとりま
とめる.
図-5 に,圧密降伏応力,せん断強さの分布を示す.表
層付近でも,圧密降伏応力はかなり高く,ベーン試験と
一軸試験の結果はほぼ対応している(図-5(a))
.また,
圧密降伏応力とせん断強さから求めた強度増加率 su/p は,
0.3 程度とみなせる(図-5(b))
.
図-3(b) 西護岸標準断面図
せん断強さ,圧密降伏応力 kPa
0.0
50.0
100.0
150.0
200.0
0.0
サンドマット(1.1m)
2.0
4.0
深度 m
1:2
14.80
ベーン試験報告書
c≒qu/2(kPa)
圧密降伏応力
全応力(サンドマット)
6.0
8.0
10.0
12.0
写真-1 施工状況写真(2012/11/22 撮影)
図-5(a) せん断強さ,圧密降伏応力の分布(のり尻付近)
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沿岸技術研究センター論文集
・2m(D.L.+5m~+3m)までの上部粘土の初期含水比は,
100 %とした(最大値を外挿)
.
140.0
c≒qu/2(kPa)
ベーン試験報告書
120.0
7.0
80.0
設定した地盤モデル
水位; 粘土表面 0 m
4.0
su/p=0.3
60.0
標高 D.L.+m
せん断強さ kPa
圧密降伏応力
5.0
40.0
20.0
3.0
2.0
1.0
0.0
-1.0
0.0
0.0
50.0
100.0
150.0
200.0
-2.0
250.0
-3.0
圧密降伏応力 kPa
-4.0
図-5(b) せん断強さと圧密降伏応力の関係
図-6 に,物理特性を示す.粘土層上部では,含水比と
液性限界が高く,深度が深くなるにつれて,それらは低
下していることから圧密が進行していることが分かる.
0.0
0.0
20.0
40.0
60.0
80.0
100.0
50.0
100.0
150.0
圧密降伏応力 kPa
7.0
▽D.L.+6.3m サンドマット下面
6.0
120.0
設定した地盤モデル
水位; 粘土表面 0 m
c≒qu/2(kPa)
ベーンせん断強さ
5.0
0.0
▽-1.1m サンドマット下面
4.0
su/p=0.3
標高 D.L.+m
Fc
液性限界
含水比
200.0
図-7(a) 圧密降伏応力と有効上載圧
含水比(%),液性限界(%),Fc(%)
4.0
深度 m
▽D.L.+6.3m サンドマット下面
6.0
100.0
2.0
No.13(2013)
3.0
2.0
1.0
0.0
6.0
-1.0
8.0
-2.0
-3.0
10.0
-4.0
0.0
12.0
図-6 含水比,液性限界,粘土分含有量
20.0
40.0
60.0
せん断強さ kPa
80.0
100.0
図-7(b) 非排水せん断強さ
含水比 (%)
6. 安定検討結果及び将来沈下予測
0
50
100
150
6
6.1 地盤モデルの設定
4
2
0
標高 D.L.+m
地盤モデルは,地盤調査結果を反映できる解析モデル
とした.図-7 に,地盤調査結果と設定した地盤モデルを
示す.水位がサンドマット下端(粘土表面)にあるとし
たモデル(図-7 青線)は,実測した圧密降伏応力ならび
にせん断強さよりも過小評価している.そこで,圧密降
伏応力分布の下限となるような地盤モデルを設定し(図
-7 緑線)
,それに対応するせん断強さ(有効応力に強度増
加率を乗じたもの)と地盤調査結果としての非排水せん
断強さの関係を求めた.設定した地盤モデルは,せん断
強さ分布の下限に近い安全側の設定となっていることが
わかる.
また,2010 年8月に実施した築堤工事前の地盤調査結
果(図-8)から,表層処理前の解析用地盤モデルの初期
含水比を,圧密沈下を考慮して次のように設定した.
・表層から2m(D.L.+3m)以深の下部粘土の初期含水比
は 80 %とした.
北護岸
西護岸
中仕切り
-2
-4
-6
-8
砂分:80%以上
-10
図-8 築堤工事前(201008)の地盤調査結果
6.2 沈下事後解析と評価
図-9 は,地盤調査結果から設定した地盤モデルに対す
る当初予測,修正予測ならびに,盛土中心の沈下板の動
態観測結果を示したものである.
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沿岸技術研究センター論文集
No.13(2013)
修正予測は当初予測(図-9 青線)に対して,動態観測
結果(図-9 赤線)を再現できるように,圧密定数を修正
した(図-9 緑線)
.
沈下量 (cm)
0
10
沈下予測曲線(当初)
20
動態観測結果:沈下板No.37
30
修正予測
40
50
60
70
6.4 将来沈下予測
これまでの動態観測結果から同定した圧密定数を用い
て,西護岸嵩上げ築堤部の,将来沈下予測を行い,余盛
量を設定した.地盤モデルは,沈下量が大きい No.37 付
近を対象に設定した.図-12 に,沈下挙動の予測を示す.
今後3m の盛土を行うと,40 ㎝程度の沈下が生じる.
4m の場合には,45cm 程度の沈下が生じる.これより,
余盛厚は 50cm で設定した.
3次盛土; 3m,4m
80
90
沈下:0.9 9.9
100
0
100
200
300
400
500
600
サンドマット敷設からの経過日数 (day)
水位低下モデル Cc =0.7,0.48
0.4
沈下量 (cm)
修正予測
0.8
1.0
4m厚盛土 (115cm)
80
40cm
91 cm
100
200
300
400
500
600
700
サンドマット敷設からの経過日数 (day)
800
900
図-12 No.37 を対象とした事後解析結果
No.37の沈下挙動から
同定した圧縮指数
7. まとめ
・沈下の事後解析により,圧密定数を設定した.その値
は地盤調査結果から求めた圧密定数の位置・深度での
値のばらつきの範囲内にあることから,設定した地盤
モデルの妥当性が確認された.
・地盤調査結果,放置期間を踏まえて設定した地盤モデ
ルは,所定の安全率を満たした.この検討結果を受け,
2 次盛土が安全に行われたことを確認した.
・動態観測結果から設定した圧密定数ならびに地盤モデ
ルを用いて,応力分散を考慮した3次盛土の予測解析
から余盛量を設定した.
6.0
8.0
10.0
45cm
120
1.2
4.0
深度 m
3m厚盛土 (110cm)
60
100
0.0
2.0
40
0
0.6
沈下予測曲線(当初)
動態観測結果:沈下板No.37
20
Cc
0.2
1,2次覆土 総計 3m
サンドマット 1.1m
0
図-9 No.37 を対象とした事後解析結果
図-10 に No.37 地点の圧縮指数の地盤調査結果を示す.
修正予測の圧縮指数は,0.70(上部粘土)と 0.48(下部
粘土)であり,地盤調査結果のばらつきの中央付近に位
置している.これより,修正予測の圧密定数は,地盤調
査結果の範囲内にあり,妥当と評価できる.
0.0
9
6.9
5.8
Cc
12.0
図-10 地盤調査結果(圧縮指数)
6.3 安定解析結果
8. 謝辞
図-11 に,図-7 に示した地盤モデルに対して行った安
定解析結果を示す.安全率は 1.15 となり,所定の安
全率を満足した.
本稿は,国土交通省九州地方整備局北九州港湾・空港
整備事務所発注による「平成 24 年度 新門司沖土砂処分
場(3工区)技術検討調査」での検討の一部を取りまと
めたものである.検討に際し,新門司沖土砂処分場(3
工区)技術検討委員会(委員長:善功企九州大学大学院
特任教授)から有意義な助言をいただいた.ここに記し
て厚く御礼申し上げます.
参考文献
1) 国土交通省九州地方整備局関門航路整備事務所: 浚渫脱水
処理土リサイクル築堤工法(DRE 工法)の 手引き(平成 21
年3月).
2) 国土交通省九州地方整備局北九州港湾・空港整備事務所:
平成 23 年度 新門司沖土砂処分場(3工区)圧密沈下管理検
図-11 安定解析結果
討調査 報告書(平成 24 年3月).
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