1 2 3 4

118―479
日耳鼻
1
細菌の代謝による中耳陰圧の形成
○北岡杏子、高橋晴雄
長崎大学病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
真珠腫性中耳炎や癒着性中耳炎などの鼓膜の陥凹を伴う難治性中耳炎の病因の一つである中耳陰圧形成の原因にはこれま
で耳管や中耳粘膜での換気障害があげられてきた。しかし、これ以外の要因、たとえば細菌感染の生物学的現象の関与につ
いてはこれまであまり考慮されてこなかった。今回、細菌による代謝が陰圧形成に関与するかを in vitro で調べた。細管
(エッペンドルフチューブ)に肺炎球菌培養液を入れて密閉し、37℃に保ちながら容器内の空気圧を経時的に測定した。ま
た、その培養液中の酸素分圧、二酸化炭素分圧を数時間おきに測定した。培養液のみをコントロール群とし、この結果を統
計学的に比較した。容器内の空気圧は徐々に低下し、酸素分圧も同様に低下した。二酸化炭素分圧は徐々に増加した。これ
らはそれぞれ統計学的にも有意差を認めた(それぞれ P<0.
01、P<0.0001、P<0.0001)。これらの結果から中耳炎での細
菌の代謝が中耳陰圧形成の一つの要因である可能性が示唆された。
2
中耳手術における移植用細胞シートの新規作製法の検討
○森野常太郎1)、山本和央1)2)、濱
孝憲1)、谷口雄一郎3)、鴻
1)
東京慈恵会医科大学
耳鼻咽喉科 、東京女子医科大学
信義1)、小島博己1)
先端生命医科学研究所2)、
聖マリアンナ医科大学
3)
耳鼻咽喉科
中耳真珠腫や癒着性中耳炎術後の露出した骨面上に早期に粘膜が再生されれば、術後鼓膜の再癒着や再形成性真珠腫の予
防が可能と考えられ、中耳粘膜の再生を目的とし研究を行ってきた。これまでにわれわれは、中耳真珠腫の患者に対して自
己培養鼻粘膜上皮細胞シート移植を併用した鼓室形成術をヒト臨床研究として開始している。さらには臨床研究での治療に
とどまらないグローバルな普及と産業化を見据え、全自動化に向けた移植用細胞シートの作製法として、従来の explant
culture を介さず直接温度応答性培養皿に播種する方法を検討している。この作製法の上皮細胞を単離する作業に関しては、
通常手作業で行われている。今回われわれは全自動化に向け作製法をより簡便化するために、組織の分散を自動で行うこと
が可能である組織分散破砕装置 gentle MACS を用い、シートの回収率を向上できるかどうか検討した。
3
ヒト鼻腔粘膜上皮細胞シート移植を併用した中耳手術
○山本和央1)2)、森野常太郎1)2)、小森
学1)、濱
孝憲1)、谷口雄一郎3)、鴻
1)
東京慈恵会医科大学
耳鼻咽喉科学教室 、東京女子医科大学
聖マリアンナ医科大学
信義1)、小島博己1)
先端生命医科学研究所2)、
3)
耳鼻咽喉科学教室
中耳真珠腫や癒着性中耳炎術後の露出した骨面上に早期に粘膜が再生されれば、術後鼓膜の再癒着や再形成性真珠腫の予
防が可能と考え、これまでにわれわれは中耳粘膜の再生を目的に研究を行ってきた。現在、温度応答性培養皿を用いて自己
の鼻腔粘膜上皮細胞シートを作製し、中耳の粘膜欠損部へ移植し術後の中耳粘膜を再生させる治療法を開発し、厚生労働省
からの承認を得た後、ヒト臨床研究を開始している。現在までに、弛緩部型中耳真珠腫の患者1人と緊張部型中耳真珠腫の
患者1人に対して細胞シート移植を施行した。それぞれ移植後経過は非常に良好である。本研究は、本邦の耳鼻咽喉科初の
ヒト幹細胞臨床研究であり、さらには培養細胞をヒトの耳へ移植する世界初の医療(First―in―human study)である。中耳
手術におけるこの新規治療について移植後の経過を含め報告する。
4
当科におけるサーファーズイヤーに対する短期滞在型治療について
○中西
悠、東野哲也、松田圭二、中村
宮崎大学
医学部
雄
耳鼻咽喉・頭頸部外科
【はじめに】サーファーズイヤーは、外耳道の高度狭窄に至り外耳道炎を反復するような場合、手術適応となる。当科で
行っている短期滞在型手術の取り組みについて報告する。
【対象と方法】2009年6月から2014年11月に手術を行った26例52耳。外耳道狭窄の程度は Grade 0∼3 の4段階に分類し
た。手術は全例耳内切開で行った。
2歳)
。サーフィン経験年数は11∼47年(平均27.
7年)
。両側 Grade 3 が19例、残り7
【結果】年齢は23歳∼70歳(平均45.
例は Grade 3 と Grade 2、あるいは Grade 1 の組み合わせであった。
5日(1∼22日)
。上皮化に要した期間は、平均4.
0週であった。
平均入院期間は5.
【考察】多くの症例で、早期のサーフィン再開を希望する。当科では、感音難聴の予防のために、バーの使用は最小限に
とどめ、ノミと鋭匙による骨削除を主体としている。両耳手術の場合でも、片耳はパッキングなしで退院できるように配慮
している。外耳道の皮膚欠損を最小限にとどめることができれば、術後3∼4日目には、外耳道のパッキングを無しにでき
る。
118―480
5
2015
術後症耳への手術的対応
○大島英敏1)、小林俊光1)、宮崎浩充1)、川瀬哲明2)
耳科手術センター1)、東北大学
仙塩利府病院
聴覚再建医工学分野2)
術後乳突腔障害による耳漏、難聴を認める術後耳に対する再手術については、さまざまな工夫が報告されている。当科で
は術後症耳に対して、軟組織法を用いて積極的に手術を行っている。乳突腔を郭清し、不良な上皮様組織は切除する。後壁
の骨削除が不十分の場合には Canal Down を追加する。鼓膜やアブミ骨の状況を確認し可能であれば伝音再建を行う。外耳
道皮膚の欠損部を筋膜等の軟組織で裏打ちし、側頭筋骨膜弁で補強する。後壁の硬性再建は行わない。2013年4月∼2014年
9月まで、鼓室形成術90例中10例(4例は後期高齢者)に上記手術を行っているが、10例すべてで乾燥治癒が得られた。ま
た、一般に根治術後の症例は中耳腔の状態が不良と考えられるが、骨導閾値上昇が高度であった3例を除く7例に連鎖再建
を企図し、6例で聴力改善成功を果たし、予想以上に良好な成績が得られた。よって、本術式は長期の耳漏あるいは痂皮除
去のための通院が苦痛の術後症患者の QOL 向上に有用であり、後期高齢者に対しても積極的に行ってよい方法といえる。
6
鼓室形成術における自家耳介軟骨の利用
○田村芳寛、廣芝新也、荻野枝里子、岩永迪孝
ひろしば耳鼻咽喉科
京都みみはな手術センター
鼓室形成術では病変の除去のみならず鼓膜穿孔や骨破壊など病変により変化した構造物の再建や聴力改善という機能的再
建も行われる。このような再建を行う際にさまざまな素材が利用されるが、Jancen ら(1963)の報告以来利用されている
軟骨もその一つである。軟骨は比較的容易に形状を加工でき吸収されることも少なく生体への生着も良いことが利点と考え
られる。かつては同種保存軟骨も使われていたが、現在は同一術野から採取できる自家耳介軟骨が利用されることが多い。
当院でも自家耳介軟骨の利用は有用であると考え、主に 1.真珠腫による上鼓室側壁や外耳道後壁の欠損部の再建 2.緊張
部型真珠腫や癒着性中耳炎あるいは鼓膜穿孔閉鎖時の鼓膜の陥凹予防 3.伝音連鎖再建時にコルメラあるいは人工骨の支持
などに用いている。今回、当院で鼓室形成術の際にこれらの用途で自家耳介軟骨を用いた症例を供覧する。
7
癒着性中耳炎に対する subannular tube insertion
○佐々木
亮、武田育子、松原
弘前大学大学院医学研究科
篤
耳鼻咽喉科学講座
癒着性中耳炎や atelectatic ear に対する治療についてはさまざまに議論されているが、鼓膜チューブを挿入し鼓室内の換
気を促すことは治療法の一つに上げられている。しかし、しばしば鼓膜の菲薄化のためチューブ留置後の穿孔残存・拡大が
問題となることも少なくない。そこでわれわれは、Daudia A らや Saliba I らにより報告された subannular tube insertion を
試みた。本治療法は、鼓膜近傍の外耳道に皮切を置き、線維性鼓膜輪と鼓膜を挙上し、そのスペースを通じて T―tube を挿
入するものである。当科において、2013年3月から2014年12月までに7例に対し subannular tube insertion を試みた。今回
はその手技および術後経過につき報告する。
8
SAT 法による癒着性中耳炎の治療法の検討
○山本英永、陶
陽、新川樹一郎、大石真綾、矢野さゆり、宮本ゆう子、新川真那実、新川
敦
新川クリニック
当院では2013年10月より癒着性中耳炎に対して、鼓室内に換気をつけ術後の鼓膜の再癒着を予防する目的で経外耳道的に
Tチューブの留置を行う SAT 法を行っている。経外耳道的Tチューブは鼓膜チューブと比べると、穿孔・感染等の合併症
が少なく長期留置が可能であると報告されている。また鼓膜が菲薄化した症例に有効であることや、音の振動を受容する鼓
膜の部分に干渉しないことより聴力改善に有効であると予想される。具体的な術式については、外耳道後壁にTチューブ留
置用の溝を掘り、アブミ骨やコルメラに干渉しないよう正円窓部に留置する。チューブは外耳道へ開窓する。現在までに19
例施行し94%に鼓室内シリコンシート留置を併用している。症例の平均年齢は62.
6歳。平均経過観察期間は8.
6カ月であっ
2%、聴力改善率は52.
6%であった。当院にて行われた鼓膜チューブ留置による従来法では
た。術後結果は換気改善率が63.
換気改善率38%、聴力改善率52%であった。SAT 法による癒着性中耳炎の治療はTチューブの形状・留置位置等の要因か
らも有用であると予想された。
118―481
日耳鼻
9
3D ハイビジョンビデオカメラシステムの顕微鏡下耳科手術における有用性ついて
○堤内亮博1)、奥野妙子1)、松本
三井記念病院
有2)、畑
1)
耳鼻咽喉科 、東京大学
裕子1)、崎谷恵理1)、吉田亜由1)、栗田宣彦1)
医学部
耳鼻咽喉科2)
(背景)耳科手術は双視顕微鏡を用いて行われることが一般的である。術者が両眼視し、助手は側視鏡を覗くか側視カメ
ラによる 2D 映像をみることになるが、術者以外は立体視できないという欠点があった。そこでわれわれは、2013年1月よ
り 3D ハイビジョンビデオカメラシステムを用いた耳科手術を開始し、その有用性を検討したので報告する。
(方法)2台
のハイビジョンカメラを顕微鏡に装着し、助手やコメディカルスタッフ、見学者が術中にリアルタイムで術野の 3D 映像を
みられるようにした。また、外来の 3D モニタでも術野の 3D 映像をリアルタイムでみられるようにした。録画も 3D で行
った。臨床症例に対してこのシステムを用いて耳科手術を行い、その有用性について検討した。
(結果および考察)術者は
従来と変わりなく手術を行うことができた。偏光眼鏡の装着により、助手や見学者が術者とほぼ同一の視野を共有できた。
立体的な解剖学的構造の理解が重要な耳科手術において、術者以外の理解や学習効果を増す効果が期待される。
10
外耳道再建型鼓室形成術における鼓索神経の温存手技と味覚検査結果
○矢部多加夫1)、小山京子2)、黒川友哉3)、平井良治2)、戸井輝夫2)、三橋敏夫3)
やべ耳鼻咽喉科表参道1)、東京都立広尾病院
耳鼻咽喉科2)、東京都立駒込病院
耳鼻咽喉科3)
乳突洞をいったん削開した後、外耳道後壁を再建する外耳道再建型鼓室形成術は良好な術野と余裕のあるワーキングスペ
ース下に安全確実に病変処理を実施でき、後壁を再建するため上皮化が良好で、cavity problem を生じない、耳内が広くな
っているので術後の各種トラブルへの対処が容易であるなどの利点がある一方、closed method に共通した点であるが、耳
管機能不全に基因する鼓膜再陥凹・新生真珠形成のリスクがあり、また取り上げられることが少ないが外耳道後壁削開・鼓
室内操作時の鼓索神経損傷が欠点としてある。鼓索神経の走行にはかなり個体差があり、注意深く愛護的に取り扱わなけれ
ばならないが、われわれは耳小骨連鎖上の scutum に近づいた時点でダイヤモンドバーを使用しつつ鼓索神経の走行を確認
し、2mm のノミを用いて鼓索神経を温存しつつ後壁削開を行っている。しばしば鼓索神経を含んだリング状の状態で骨組
織が遊離することがあるが、そのような事態も避けることができる。術前術後の味覚検査結果を合わせて報告する。
11
鼓室形成術Ⅳ型インターポジション(Ⅳi―Ⅰ)を行った症例の検討
○松井和夫、大田隆之、呉
聖隷横浜病院
晃一、久保田
亘、水吉朋美
耳鼻咽喉科
日本耳科学会では伝音再建法の分類と名称について(2010)で、Ⅳ型はアブミ骨底板上に連鎖の再建を行う。たとえアブ
ミ骨脚が部分的に残存している例でも底板上に再建すればⅣ型となる。形成の仕方により、以下のように分類される。Ⅳc
【Ⅳ型コルメラ】: アブミ骨底板の上にコルメラを立てた例。Ⅳi【Ⅳ型インターポジション ; type IV with interposition】:
アブミ底板とツチ骨あるいはアブミ底板とキヌタ骨との間に挿入 interposition した例。両者を区別する場合には以下のよう
な亜分類を用いる。Ⅳi―M(iアブミ骨底板―ツチ骨間、Ⅳi―Ⅰアブミ骨底板―キヌタ骨間。われわれは2004年1月から
2013年12月の10年間に鼓室形成術を1,
851件施行Ⅳ型を行う場合は耳介軟骨を採取してⅣcとすることが多い。そのうち
Ⅳiは6例施行、Ⅳi―Ⅰを4例に施行した。Ⅳi―Ⅰを施行した症例を提示する。これら4例はアブミ骨上部構造が消失し
ているが、キヌタ骨が可動し、アブミ骨底板が可動した場合でコルメラはY字型に軟骨で作成。4例とも著明に聴力が改善
した。
12
外傷後に鼓室形成術を行った症例の検討
○大西恵子1)、太田有美1)、森鼻哲生1)、今井貴夫1)、川島貴之2)、宇野敦彦3)、長谷川太郎4)、近藤千雅4)、北原
6)
7)
糺5)、
1)
三代康雄 、土井勝美 、猪原秀典
大阪大学大学院医学系研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、八尾市立病院2)、
大阪府立急性期・総合医療センター3)、大阪市4)、奈良県立医科大学
兵庫医科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科6)、近畿大学
耳鼻咽喉・頭頸部外科5)、
耳鼻咽喉科7)
外傷によって伝音難聴を来した場合、保存的治療で改善する例もあるが、鼓室形成術を要する例もある。外傷による伝音
難聴に対して鼓室形成術を行った症例についての統計報告は少ないため、今回われわれは、2000年3月から2014年11月まで
に外傷による伝音難聴に対して鼓室形成術を行った症例20耳の検討を行った。受傷原因と中耳所見、術式との関連、術前後
の聴力について検討した。年齢分布は7∼66歳(中央値22歳)と比較的若い年代に多かった。受傷から手術までの期間は、
外リンパ瘻が疑われて手術した2例を除き、待機的に手術が行われているため中央値10カ月であった。外傷の原因は耳かき
が最多で9耳、圧外傷が3耳、交通事故が4耳、転落事故が2耳、その他2耳であった。連鎖離断があった症例13耳のう
ち、キヌタ―アブミ関節、ツチ―キヌタ関節両方の離断がみられた例が7耳、キヌタ―アブミ関節のみ離断が3耳、ツチ―
キヌタ関節のみ離断が2耳であった。手術術式は、3型が13耳、1型が8耳、4型が1耳、stapedectomy―M が1耳であっ
た。
118―482
13
2015
術前に耳漏が続いた小児慢性中耳炎症例
○長谷川雅世、白倉真之、民井
智、増田麻里亜、松澤真吾、新鍋晶浩、吉田尚弘、飯野ゆき子
自治医科大学附属さいたま医療センター
耳鼻咽喉科
当科にて鼓室形成術を行った小児慢性中耳炎症例のうち、術前に耳漏が続いた症例の臨床的特徴について検討した。2009
年から2014年の間に、耳漏が続く中で鼓室形成術を行った慢性中耳炎症例13症例18耳(癒着耳3耳および接着法後の症例2
8%)
耳を含む)を対象とした。年齢は5∼17歳(平均11歳)で男児9症例、女児4症例であり、両側罹患例は7症例(53.
であった。基礎疾患としてダウン症が3症例、口蓋裂が1症例存在し、鼓膜換気チューブ留置術の既往を有する症例は9耳
、MSSA が5耳(27.
8%)
、緑 膿 菌 が4耳
(50%)で あ っ た。術 前 の 耳 漏 か ら の 細 菌 培 養 結 果 は、MRSA が9耳(50%)
2%)であり、この3菌種のいずれかが検出された症例は18耳中16耳(88.
9%)と非常に多かった。炎症の強い症例に
(22.
おいては感染に非常に強い骨膜グラフトが有用である。術後は上皮化に時間のかかる症例や鼓膜炎をくりかえした症例も存
在したが、最終的に全例穿孔なく乾燥耳が得られている。
14
当院における MRSA 感染耳に対する鼓室形成術の検討
○有木雅彦、福島典之、平位知久、宮原伸之、三好綾子
県立広島病院
耳鼻咽喉科
頭頸部外科
日常診療において、MRSA 感染耳への対応に苦慮することは少なくない。治療法としては、まず鼓室処置、抗菌薬の投
与などの保存的治療があげられる。近年ではブロー氏液やムピシロン軟膏を治療の効果が報告されているが、内耳障害など
の副作用に注意が必要である。しかし、上記のような保存的治療での耳漏停止は一時的な現象にすぎず、永続的な耳漏停止
には手術療法が必要となる。また、MRSA 感染耳の手術目的の一つは聴力改善である。MRSA 感染例では反復する炎症の
ため鼓室内の高度な炎症性病変を認めることが多く、聴力改善に不利な状況である。このことからも MRSA 感染耳に年余
にわたる保存的治療を続けることは聴力改善の機会を失わせることにもつながり、可及的早期の手術が望ましいと考えてい
る。当科では有効抗菌薬がある限りは積極的に手術を行っている。今回われわれは平成21年4月から平成26年3月までの6
年間に手術加療を行った MRSA 感染慢性中耳炎29例31耳の症状、術後聴力、術後耳漏の有無、平均入院日数について検討
したので文献的考察を加えて報告する。
15
真珠腫手術で錐体型前骨板症例での前鼓室開放術
保1)、定永正之2)
○森満
宮崎大学
耳鼻咽喉科1)、定永耳鼻咽喉科2)
医学部
中耳真珠腫における前鼓室開放術(森満)は、平成3年度日耳鼻総会での宿第報告「中耳真珠腫の発症―特に前鼓室の意
義―」で発表したが、四半世紀を経て、ようやく国際的にも受容されてきたと思われる。
しかしながら、前鼓室開放術後にも真珠腫再発例がみられ、その多くは、錐体型前骨板のための前鼓室開放術の不十分
例、ならびに耳管軟骨部の通気性不全例と思われる。今回、耳漏を主訴に来院した66歳女性の上鼓室型真珠す例で、典型的
な錐体型前骨板症例を経験したので、その手術を動画で供覧する。
緊張部鼓膜はほぼ正常で中鼓室含気も良好であった。置換部は広く深く、上鼓室腔全体に内陥し、ツチ・キヌタ骨は消失
していた。上鼓室内の真珠腫は破膜を除去すると、前方に平坦な硬い骨壁が露出された。そこで鼓膜張筋腱を指標に耳管腔
を開放し、まずブジーで耳管通気性を確認した後、錐体型前骨板をバーを用いて、慎重に十分に削除し、耳管腔へ開放し
た。
16
軟素材による外耳道後壁再建を行った後天性真珠腫症例の検討
○柴田智久1)、藤田
神戸大学
大学院
岳1)、小嶋康隆2)、井之口
西神戸医療センター
医学研究科
外科系講座
豪1)、山下大介1)、長谷川信吾1)、丹生健一1)
耳鼻咽喉科頭頸部外科学分野1)、
耳鼻いんこう科2)
真珠腫性中耳炎に対する術式の一つである軟素材による外耳道後壁再建を行った症例での再発の多くは遺残性再発の形を
とるが、ポケット状陥凹を間口とした再形成性再発を来した症例が少数ながら報告されている。2006年7月から2013年6月
までの7年間に当科で手術を行った後天性真珠腫のうち、外耳道後壁削除型鼓室形成術を行い同時に軟素材による外耳道後
壁再建を行った26例を対象に進展度、聴力成績、外耳道形態の変化、再発様式について検討した。進展度、聴力成績は2010
年案に基づいて後ろ向きに集計を行った。外耳道形態は全症例で後壁の後退がなく筒状の形態を保つか、風船状に大きく陥
凹するかのいずれかで安定し、ポケット状陥凹の形成はみられなかった。再発3例はすべて弛緩部型真珠腫で生じ、全例が
遺残性再発であった。再手術では再建した伝音連鎖を離断することなく真珠腫を摘出でき、現在まで再々発はみられていな
い。当科での症例をもとに外耳道形態の変化、
ならびに再形成性再発を防止する対策を若干の文献的考察を加えて報告する。
118―483
日耳鼻
17
鼓膜チューブ留置を併用した軟素材後壁再建型鼓室形成術の術後後壁陥凹
○志津木
健、洲崎真吾
苫小牧市立病院
耳鼻咽喉科
軟素材再建法を用いた鼓室形成では、さまざまな程度の術後後壁陥凹を経験する。この陥凹程度は中耳換気能で決定され
ると考えられているが、手術時に鼓膜チューブ留置を行い陰圧解除することで後壁陥凹を防げるか検討した。対象は軟素材
再建法を用いた真珠腫手術症例のうち、手術時にチューブ留置を行った18例、チューブ留置を行わなかった42例、合計60例
である。その術後含気範囲を鼓膜所見または CT を用いて比較検討した。術後6カ月∼1年時点で、乳突洞天蓋に届く良好
9%、チューブ非留置群25.
0%だった。顔面神経水平部を超える含気が得ら
な含気が得られた症例数は、チューブ留置群38.
7%、チューブ非留置群50.
0%だった。このように鼓膜チューブで中耳陰圧を解除しても
れた症例数は、チューブ留置群66.
多くの術後陥凹は救済できない。この結果から、軟素材後壁を牽引する機序として、中耳陰圧よりも術後に増生する線維組
織の収縮が重要で、上鼓室乳突洞粘膜の温存程度に左右されることが考えられた。
18
弛緩部型真珠腫に対する薄切軟骨を用いた scutum 再建術の術後聴力の検討
○玉江昭裕、岡
正倫、中野貴文、白土秀樹
国家公務員共済組合連合会
浜の町病院
耳鼻咽喉科
近年薄切軟骨を用いた scutum 再建術の有用性がおおく報告されている。当科においても弛緩部型真珠腫新鮮例に対する
鼓室形成術のほとんどで薄切軟骨を用いた scutum 再建を行っている。scutum 再建にもちいる軟骨は耳介軟骨より採取し
ており、full thickness で採取したのちに軟骨スライサーをもちいて薄切している。軟骨は、ツチ骨短突起よりも内側にま
で置くようにしており、scutum 再建の範囲としては、基本的に鼓索神経よりも頭側の範囲がすべて覆えるようにしてお
り、場合によっては複数の薄切軟骨をもちいている。術後の再形成予防には非常に有用であるが、再発や弛緩部の陥凹はな
くとも上鼓室や鼓室峡部が含気しないことはしばしば認められた。CT で認める軟部組織陰影がコルメラに接してしまう症
例もしばしばあり、聴力への影響が危惧される。今回、弛緩部型真珠腫に対する薄切軟骨を用いた scutum 再建術を行った
症例の聴力について検討し、中耳の含気との関連について検討した。
19
内視鏡下後鼻神経切断術∼下鼻道経由による∼
○金谷毅夫、川野健二、永藤
裕、原
亜希子、黄川田
徹
鼻のクリニック東京
内視鏡下後鼻神経切断術は、重症な慢性鼻炎に有効な手術治療として、本邦で広く行われている。蝶口蓋孔へ到達する方
法としては、中鼻道や下鼻甲介を経由する方法が多くの施設で用いられているようである。近年当院では、下鼻道を切開
し、蝶口蓋孔へアプローチする方法を主に用いている。その理由として、1.下鼻道粘膜には、太い動脈がないため、他部
位の切開では時折認められる切開創部からの出血が皆無であり、術後のパッキングを必要としないこと、2.中鼻道や下鼻
甲介経由での術式では、切断が不十分になる可能性のある後鼻神経後下鼻枝や、口蓋骨小孔から鼻粘膜へ分布する穿通枝の
処理が確実、広範囲に行えること、3.鼻中隔彎曲が高度な例に対して、術後癒着のリスクなく後鼻神経切断術を単独で行
えることなどがある。今回われわれの行っている下鼻道からの内視鏡下後鼻神経切断術を供覧する。
20
後鼻神経切断術の効果と安全性に関する検討
○荻野枝里子、田村芳寛、廣芝新也、岩永廸孝
ひろしば耳鼻咽喉科・京都みみはな手術センター
後鼻神経切断術の効果と安全性について検討を行った。
【対象と方法】2010年から2014年に当院にて後鼻神経切断術を施
行した症例を対象とし、自覚症状が改善した症例数の割合を術前後のアンケート調査(項目 : くしゃみ・鼻漏・鼻閉・日常
生活への支障)を用いて調べた。合併症に関しては遅発性出血の発生率を調べた。また、サブグループ解析として、蝶口蓋
動脈両側温存例と両側切断例の2群間において、自覚症状改善例割合と合併症発生率に違いを認めるかについて調べた。
0%)で認めた。6例は蝶口蓋動脈両側切断例からの出血(2.
9%)
、2例は両側温
【結果】391例中、遅発性出血を8例(2.
2%)であった。アンケートの回答を得られた191例中、改善例の割合はくしゃみ56%、鼻漏64.
4%、鼻
存例からの出血(1.
4%、日常生活87%であった。また、蝶口蓋動脈切断/温存例の間で自覚症状改善例割合に有意差は認めなかった。
閉87.
【結論】遅発性出血は蝶口蓋動脈温存例にて発生率が減少する傾向を示した。また、蝶口蓋動脈切断の有無が自覚症状改善
度へ及ぼす影響は無いと考える。
118―484
21
2015
後鼻神経切断術の通年症状およびスギ花粉症に対する長期成績の検討
○原
亜希子、永藤
裕、川野健二、金谷毅夫、黄川田
徹
鼻のクリニック東京
(緒言)後鼻神経切断術は、1997年に黄川田によって最初に報告され重度アレルギー性鼻炎患者に対して施行されている
が、後鼻神経切断術単独での通年症状やスギ花粉症に対する効果に関しては報告がない。今回われわれは後鼻神経切断術単
独での通年症状とスギ花粉症状に対する手術成績の評価を行った。
(方法)2009年10月から2012年9月に当院で後鼻神経切
断術単独施行かつ RAST 検査でスギ陽性であった患者に、手術前後の通年症状の変化とスギ花粉症状の変化について VAS
(結果)通年症状およびスギ花粉症症状共に、鼻
スケールを用いた質問紙を送付し、返信のあった60名を対象に検討した。
閉・鼻水・くしゃみのいずれの症状においても手術前後で統計学上有意差をもって改善を認めた。また花粉飛散時期におけ
る薬剤使用量の変化では過半数で内服、点鼻共に「ほとんど使用しなくなった」
「かなり減った」との回答が得られた。
(結
語)後鼻神経切断術は通年性の鼻アレルギー症状のみならず、スギ花粉症に対しても有効な治療であると考えられた。
22
演題取り下げ
23
後鼻神経切断術がアレルギー性鼻炎モデルラットの症状に及ぼす影響
○西嶌大宣、近藤健二、平野真希子、菊田
東京大学
医学部
周、上羽瑠美、籠谷領二、岩村
均、安原一夫、山岨達也
耳鼻咽喉科
【はじめに】ラットにおいて後鼻神経切断術モデルを確立した。このラットモデルでは鼻腔粘膜呼吸上皮における脱神経
や腺組織の変化が確認されている。今回、この後鼻神経切断術がアレルギー性鼻炎モデルに及ぼす影響を検討した。
【方法】Ovalbumin
(OVA)を感作しアレルギー性鼻炎モデルラットを作成した。これに対して経眼窩的に翼口蓋神経節へ
到達し、後鼻神経を切断した。後鼻神経切断術後における、くしゃみ・鼻掻きの行動実験、鼻汁量、鼻粘膜組織や各種のサ
イトカインの変化を計測した。
【結果】OVA 感作単独群と OVA 感作+後鼻神経切断術群の比較において、行動実験では差は認めなかった。鼻汁量は
OVA 感作+後鼻神経切断群では有意に減少していた。OVA 感作単独群で認められた粘膜下組織の肥厚所見や、好酸球・肥
満細胞の浸潤所見、Th2 系サイトカインの mRNA の発現亢進所見は、OVA 感作+後鼻神経切断術群との間に有意な差は認
められなかった。
【結論】後鼻神経切断術は、アレルギー性鼻炎モデルラットにおいて鼻汁量の減少のみに効果を認める。
24
術中 CT を用いた精密な非観血的鼻骨骨折整復術
○田中美穂1)、池上
聰1)、濱口清海1)、石川正昭2)、河合良隆2)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、京都大学
静岡市立静岡病院
大学院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
【はじめに】当院では2013年3月より手術室で低被爆な術中 CT 撮影が可能になったため、非観血的鼻骨骨折整復術にて
可能な限り使用している。その整復法は鉗子で整復したのち CT 撮影し必要に応じて追加整復や鼻内タンポンでの調整を行
うものである。今回その有用性につき検討した。
【対象、方法】2013年3月から2014年10月までに非観血的鼻骨骨折整復術を行い術後の彎曲の有無を確認できた術中 CT
例10例と術中 CT なし例7例について術後彎曲の有無と再整復の有無を比較した。術中 CT 例の撮影回数と整復回数を調べ
術中 CT の意義についても考察した。
【結果】術中 CT 例では軽度彎曲が2例(20%)認められ1例を再整復した。それに対し CT なし例では軽度彎曲が3例
(43%)認められたが再整復した例はなかった。術中 CT の撮影回数は平均2.
8回であり、術中整復を平均2回行っていた。
【考察】術中 CT 例の方が術後彎曲は少なかったことより精密に整復できることが示唆された。しかし彎曲例5例中再整
復を施行したのは1例のみであり精密な整復の必要性には疑問も残された。
25
鼻中隔尾側端の修正術
○宮脇剛司1)、大櫛哲史3)、浅香大也2)、飯村慈朗2)、鴻
東京慈恵会医科大学
1)
信義2)
形成外科学講座 、東京慈恵会医科大学
耳鼻咽喉科学講座2)、大櫛耳鼻咽喉科3)
外鼻前方部の変形の原因となる鼻中隔尾側端の手術術式を報告する。症例 : 前鼻棘からの鼻中隔軟骨の脱臼整復と固定、
鼻中隔前弯を治療した20例を検討した。治療方針 : 1)鼻中隔尾側端の固定 : 鼻中隔最深部をトリミングし前鼻棘に整復し
縫合固定する。2)鼻中隔前弯を scoring で解除する。3)鼻中隔軟骨で batten graft する。4)鼻中隔尾側端が前鼻棘に固定
されている場合は、鼻中隔の尾側部と背側部を切断し軟骨の歪みを開放する。切断部の軟骨をトリミングし、陥凹側に
batten graft する。結果 : 鼻中隔尾側端基部の前鼻棘への固定を13例に行った。14例に鼻中隔尾側部へ batten graft を施行し
た。鼻中隔尾側部と背側部の境界をいったん離断したのは10例であった(重複あり)
。考察 : 鼻中隔前方部の変形は鼻柱や
鼻孔、鼻尖、鼻気道に影響を与える。鼻中隔が前鼻棘から側方に脱臼すると鼻翼軟骨内側脚が鼻腔に突出し、外鼻弁狭窄と
鼻孔非対称を生じる。また鼻中隔前弯は内鼻弁狭窄による鼻閉の原因となるため同部の正確な修正が重要である。
118―485
日耳鼻
26
鼻中隔彎曲症における前彎に対する手術
○飯村慈朗1)、高石慎也1)、久保木章仁1)、大櫛哲史1)、浅香大也1)、松脇由典1)、宮脇剛司2)、小島博己1)、
鴻 信義1)
東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科1)、東京慈恵会医科大学形成外科2)
鼻中隔彎曲症は鼻閉などの鼻機能障害に関係し、従来より Killian approach もしくは modified Killian approach を用いた
鼻中隔矯正術により機能の改善が図られてきた。しかしこの手術方法では前彎の矯正が困難であるという問題がある。その
ため近年において当院では、鼻中隔彎曲症における前彎に対し hemitransfixision approach による前彎矯正を行っている。
Hemitransfixision approach は外鼻の変形を伴わない症例もしくは変形を伴っても治療を希望しない症例に対して行われ
る。鼻翼軟骨内側脚と鼻中隔前端の間で皮膚切開を行うことで鼻中隔軟骨前端の観察・処置を行うことが可能となる。前鼻
棘より鼻中隔軟骨が脱臼している症例に対しては、軟骨下端が前鼻棘に密着するように軟骨をトリミングしたのち、脱臼を
整復して前鼻棘に縫合固定する。そして補強を必要とする場合には、術中に採取した鼻中隔軟骨を batten graft として前彎
矯正部に当てて縫合固定する。今回われわれが施行した前彎に対する手術手技について供覧し、その長所・短所について報
告する。
27
新しい涙嚢鼻腔吻合術 eFS―DCR
(endonasal flap suture―DCR)の開発
○藤坂実千郎、舘野宏彦、坪田雅仁、高倉大匡、石田正幸、將積日出夫
富山大学
医学部
耳鼻咽喉科
涙嚢鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy : DCR)は慢性涙嚢炎や鼻涙管閉塞に対し、広く行われている手術である。手
術法は大別して鼻外法と鼻内法に分けられる。鼻内法の歴史は鼻外法より古いが、狭くてみえにくい鼻腔内での手術操作が
困難であり、視野が確実にとれる鼻外法が眼科医によって主に行われてきた。しかし、近年の画像診断の進歩や手術支援機
器の発達による内視鏡下鼻副鼻腔手術の適応拡大により、内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術が耳鼻咽喉科医によって行われるように
なってきた。
鼻内法は顔面に皮膚切開を加えず、かつ必要最低限の組織しか切除しないという低侵襲の利点がある。しかし、鼻外法の
ように涙嚢弁と鼻粘膜弁を縫合しないため、手術成績はやや劣っているといわれてきた。そこで今回われわれは、内視鏡下
(endonasal flap suture―DCR)を開発したので、従来法との比較検討結果をここに
での涙嚢弁と鼻粘膜縫合を行う eFS―DCR
報告する。
28
術後性上顎嚢胞に対する Endoscopic modified medial maxillectomy
○浅香大也、久保木章仁、高石慎也、飯村慈朗、小島博己、鴻
信義
東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教室
術後性上顎嚢胞に対する内視鏡下鼻内手術の適応は近年ナビゲーションシステムなどさまざまな手術支援機器の進歩によ
り拡大されている。一方鼻涙管外側に存在する嚢胞や、眼窩下神経溝より外側に存在する嚢胞は今まで内視鏡下鼻内手術に
よる開放は難しく鼻外切開が必要になることも多かった。しかし近年 Endoscopic modified medial maxillectomy(EMMM)
の普及により鼻涙管を同定温存しながら今まで開放が難しかった症例を安全に開放することが可能になってきた。さらに嚢
胞の骨壁が厚く、骨面露出による再閉塞が懸念される症例に対しては副鼻腔粘膜のみならず、鼻涙管粘膜を粘膜弁として骨
壁露出部に覆うことにより骨壁露出部を可能な限り少なくして手術することも可能になってきた。今回われわれは術後性上
顎嚢胞に対する EMMM のアプローチと粘膜弁の有用性を報告する。
29
ナビゲーションの使用が有用であった副鼻腔嚢胞症例
○秋山貢佐、福村
崇、印藤加奈子、森
香川大学
附属病院
医学部
望
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
副鼻腔嚢胞は手術手技、手術支援機器の発達により現在では鼻内手術が第一選択となっている。一方で嚢胞が小さい、多
房性である、骨壁が厚い、鼻腔から距離があるなどの問題点があり、症例によっては開放困難であったり、十分な開放が得
られずに開放部位の再閉塞を来すことが術前に予想されるケースもある。このような症例においてはナビゲーション支援下
での手術の有用性が報告されている。ナビゲーションを用いることで危険部位を避け、嚢胞を最大限開放でき遺残を防ぐこ
とができ、安全かつ確実に手術が施行可能となる。香川大学病院においてナビゲーションシステムを併用して手術を施行し
た、前頭洞嚢胞、上顎洞嚢胞症例を検討し報告する。
118―486
30
2015
当科における顎骨嚢胞の臨床的検討
武史1)、庄司育央1)、渡邊
○林
荘2)、許
1)
昭和大学藤が丘病院
芳行2)、比野平恭之3)、小林一女2)、小林
耳鼻咽喉科 、昭和大学
昭和大学江東豊洲病院
医学部
斉1)
2)
耳鼻咽喉科学講座 、
耳鼻咽喉科3)
顎骨には種々の嚢胞性疾患が発生する。それらは歯の形成に関与する組織に由来する歯原性嚢胞および歯に由来しない非
歯原性嚢胞に大別される。多くの症例において歯科口腔外科領域で診療されるが、鼻腔内や上顎洞内へ進展した場合には耳
鼻咽喉科で加療を行う症例も少なくない。
治療は基本的には手術が第一選択である。従来は歯齦部切開による Caldwell―Luc 法が広く行われてきた。しかしながら、
近年内視鏡下鼻内副鼻腔手術(ESS)の技術が進歩し、手術支援機器も発展したことから、ESS の適応が拡大され、顎骨嚢
胞に対しても ESS が適応される症例が増えている。当科でも、適応を考慮したうえで ESS を積極的に施行し、良好な結果
を得ている。
当科で加療を行った顎骨嚢胞の症例について、その概要を、若干の文献的考察を加えて報告する。
31
扁平上皮癌を合併した鼻副鼻腔乳頭腫症例
研1)、菊地俊晶1)、宮崎真紀子1)、野村和弘2)、沖津尚弘2)、香取幸夫2)
○橋本
耳鼻咽喉科1)、東北大学
石巻赤十字病院
医学部
耳鼻咽喉・頭頸部外科2)
鼻副鼻腔内反性乳頭腫 Inverted Papilloma : IP は、良性腫瘍にもかかわらず悪性腫瘍を合併することで知られる。当院で
2011年11月からの3年間に手術を行った IP 22例中2例(9.
1%)に扁平上皮癌の合併を認めた。症例1は59歳男性。鼻閉
を自覚してから8カ月後に当科を受診し、左鼻腔内に充満する腫瘍を認めた。外来で左鼻腔腫瘍の生検と MRI を行い、左
IP の診断で初診日より13日目に左 ESS を行ったが、術中出血多量のため腫瘍は可及的切除にとどまった。手術標本による
病理組織検査で扁平上皮癌合併 IP と判明した。症例2は66歳女性。鼻閉を自覚してから3カ月後に当科を受診し、左鼻腔
内に充満する腫瘤性病変を認めたが、肉眼では鼻ポリープと思われた。CT で上顎洞底への歯根露出を疑う所見があり、左
歯性上顎洞炎の診断で生検と MRI は未施行のまま初診日より49日目に左 ESS を行った。こちらも手術標本による病理組織
診断で扁平上皮癌合併 IP と判明した。いずれも術前には扁平上皮癌合併を想定せず、初回手術では腫瘍が残存した。術前
診断・治療方針の反省点を含めて考察し、報告する。
32
扁平上皮癌を合併した鼻腔副鼻腔乳頭腫の検討
○宮崎拓也、佐藤進一、吉田充裕、椛
公益財団法人
慎治、児島圭介、白
大原記念倉敷中央医療機構
倉敷中央病院
康晴
耳鼻咽喉科
頭頸部外科
副鼻腔乳頭腫は副鼻腔良性腫瘍の中で最も頻度の高い疾患の一つである。しかし良性腫瘍ではあるが悪性化あるいは悪性
腫瘍の合併の可能性がある。よって悪性腫瘍を合併する乳頭腫の臨床像を知ることができれば、術式や術後の方針を決定す
るうえで臨床的意義は大きいと考えられる。しかし本邦からの癌の合併に関して検討した報告は少ない。そこで今回われわ
れは2005年1月から2014年9月までに当科にて手術を行った鼻腔・副鼻腔乳頭腫51例を対象に、扁平上皮癌の合併症症例と
非合併症例について年齢、性別、自覚症状、進展範囲などの臨床的特徴を比較することで予測する因子がないか検討を行
い、若干の文献的考察を加えて報告する。51例のうち扁平上皮癌を合併したのは4例(8%)であった。内訳に関しては年
、男性36例、女性15例、自覚症状は鼻閉が33例と最も多く、鼻違和感、鼻出血が続いてみ
齢は15歳から81歳(中央値53歳)
られた。
33
ESS を行った前頭洞内反性乳頭腫症例の検討
荘1)、許
○渡邊
昭和大学
医学部
芳行1)、小林一女1)、比野平恭之2)
耳鼻咽喉科学講座1)、昭和大学江東豊洲病院
耳鼻咽喉科2)
はじめに : 鼻副鼻腔に発生する内反性乳頭腫は鼻腔と上顎洞が多く、前頭洞や蝶形骨洞に進展するものはまれである。わ
れわれはこれまでに内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)を行った前頭洞内反性乳頭腫について ESS の有用性などについて検討を
行った。
症例 : 過去に経験した内反性乳頭腫初回手術例は45例で、このうち前頭洞に進展していた5例を検討対象とした。5例と
も ESS による摘出術を行っている。1例は腫瘍基部が前頭洞前壁に及んでおり、もう1例は眼窩上壁に浸潤していたため
Modified Lothrop Procedure
(MLP)を併用した。2例は一側の前頭洞下壁への進展で、患側の拡大前頭洞手術(Draf IIa)
を併用した。
考察 : 術後5例とも再発はみられていない。ESS では腫瘍の基部を確認した上で乳頭腫の摘出が行えるという利点があ
る。近年では前頭洞進展例においても従来の外切開手術と比べ有意に再発率が低いとの報告が多く、前頭洞進展内反性乳頭
腫に対する ESS の適用は有用であると考えられた。
118―487
日耳鼻
34
当科における鼻副鼻腔乳頭腫の検討
○森川大樹、宮下美恵、村本大輔、寺尾恭一、土井勝美
近畿大学医学部耳鼻咽喉科学講座
鼻副鼻腔乳頭腫は従来では悪性腫瘍に準じて一塊で切除するのが原則であったが、近年、内視鏡下での鼻副鼻腔乳頭腫手
術の報告が多数認められる。当科でも鼻副鼻腔乳頭腫に対して内視鏡下手術を施行しており、これらについて報告する。対
6
象は2011年4月から2014年3月にかけて当科で手術を行った鼻副鼻腔乳頭腫16例で後ろ向きに検討を行った。平均年齢57.
±10.
5歳で男女比は11: 5で男性に多かった。発生部位は上顎洞内側壁が最も多かった。術前 Krouse の分類では T1 が3
例、T2 が6例、T3 が7例であった。手術法は ESS のみが3例、ESS+C―L が5例、EMM が5例、EM3 が2例で、T2 以
上の症例では C―L や EMM、EM3 の追加が必要であった。再発例は4例に認め、すべて T3 症例で、再発部位は上顎洞・
篩骨洞がそれぞれ2例ずつだった。当科での再発率は25%程度であるが、諸家の報告では再発率は0∼33%程度であり、症
例数などによりばらつきを認める。また、当科では観察期間・症例数ともに少なく今後も経過観察やさらなる症例の蓄積を
行う。
35
鼻副鼻腔内反性乳頭腫と血中扁平上皮癌関連抗原の検討
○山下
懐、長谷川昌宏、上原貴行、比嘉朋代、親川仁貴、杉田早知子、鈴木幹男
琉球大学大学院医学研究科
耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座
われわれは鼻副鼻腔内反性乳頭腫(IP)で扁平上皮癌関連抗原(SCCA)の遺伝子発現が亢進し、血中 SCCA 値が上昇す
ることを報告した。症例を追加し、IP の診断、経過観察に血中 SCCA 値が有用であるかを検討した。
。術前に血中
対象は手術、経過観察(2006∼2014年)をした IP 30例(当院初回治療例22例、他院治療後再発例8例)
4(1.7∼5.8)
SCCA 値を測定した鼻副鼻腔疾患49例を対照群とした。IP 群の術前血中 SCCA 値は中央値(四分位範囲)で 2.
ng/ml。対照群は 0.
(0.
8
6∼1.
2)
ng/ml であり、IP 群は有意に高値であった。IP 群の術後血中 SCCA 値は 1.
0(0.8∼1.4)
ng/ml であり、術前と比較し有意に低下した。他院治療後再発例8例でも術前血中 SCCA 値は 2.
0(1.6∼3.0)
ng/ml、術後
血中 SCCA 値は 0.
(0.
9
7∼1.
2)
ng/ml と術後は有意に低下した。IP の腫瘍容量と血中 SCCA 値にはかなり相関があり(r=
6ng/ml 以上を異常値とすると感度89.
3%、特異度90.
2%、陽性的中度83.
3%、陰性的
0.
543、p=0.
002)
、血中 SCCA 値 1.
9%の高い精度で IP を診断できる。血中 SCCA 値は IP の腫瘍マーカーとして有用といえる。
中度93.
36
顎下部腫脹を主訴とした舌下腺ヘルニア症例
○崎谷恵理1)、栗田宣彦2)、吉田亜由2)、堤内亮博2)、畑
東京女子医科大学
1)
耳鼻咽喉科 、三井記念病院
裕子2)、奥野妙子2)
耳鼻咽喉科2)
顎下部の腫脹を主訴に受診する患者は日常の診療でよく遭遇する。原因としては腫瘍やリンパ節腫脹、顎下腺炎、ガマ腫
などがあげられるが、舌下腺ヘルニアが原因の症例はわれわれが渉猟した限り本邦での報告はほとんど見当たらなかった。
今回われわれは、一側性の無痛性顎下部腫脹を主訴に来院し精査の結果、舌下腺ヘルニアであった症例を経験したので報告
する。症例は39歳女性で2カ月前に食事をしているときに家人により左顎下部の腫脹を指摘され受診。平常時には腫脹はみ
られないが、Valsalva 法をとると左側顎下部に無痛性の腫脹を認めた。MRI では腫瘍やリンパ節の腫脹は認めなかったた
め、Functional MRI を追加し平常時と Valsalva 法をしたときの MRI を比較したところ、顎舌骨筋から突出している舌下腺
を認め、舌下腺ヘルニアと診断した。顎下部腫脹の症例において、画像検査で明らかな腫瘤病変がない場合は、Functional
MRI が有用であると思われる。
37
側頸嚢胞内容液のアミラーゼ測定
○鈴木政美、江口紘太郎、川田倫之
群馬県立がんセンター
頭頸科
【はじめに】側頸部に発症する側頸嚢胞と嚢胞状扁平上皮癌頸部リンパ節転移・甲状腺乳頭癌頸部リンパ節転移は、術前
検査で鑑別ができず、術後病理診断ではじめてリンパ節転移と判明する場合がある。側頸嚢胞内容液のアミラーゼが高値で
あることは1980年藤林が報告して以来、主に口腔外科領域での報告が散見されるが、耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域での報告
は検索した範囲ではない。今回、側頸嚢胞内容液のアミラーゼ測定結果と、その診断応用について考察を加えて報告する。
【対象】2010年4月から2014年6月の期間に、病理学的に側頸嚢胞と診断された4例について、内容液のアミラーゼ測定を
行った。【結果】4例の測定値は635、1,
616、2,
165、264,
556(U/L)で、血清基準値 : 49∼136(U/L)と比較して高値で
あった。【考察】側頸嚢胞、嚢胞状扁平上皮癌頸部リンパ節転移・甲状腺乳頭癌頸部リンパ節転移の内容液アミラーゼとサ
イログロブリンを測定することで、鑑別診断に応用できる可能性が示唆された。
118―488
38
2015
当院における正中頸嚢胞症例の統計学的検討
○原
聡、春山琢男、加賀暁人、矢部鮎美、横井尚子、肥後隆三郎、芳川
順天堂大学
医学部付属
浦安病院
洋
耳鼻咽喉科
正中頸嚢胞は甲状舌管嚢胞とも呼ばれ、頸部正中にみられる腫瘤としては最も頻度が高い。甲状腺の発生過程において、
甲状腺原器が前頸部正中を下降する際、甲状舌管と呼ばれる索状構造で舌盲孔と連絡する。甲状舌管が退縮せずに遺残し、
管状構造と上皮組織が残存している場合には感染等を契機として正中頸嚢胞は発生する。今回、われわれは当科で手術を行
った正中頸嚢胞症例の統計学的検討を行ったので若干の文献的考察を交えて報告する。2004年から2014年までに当科におい
て手術を施行した症例は33例で、男性17例、女性16例であった。年齢は5∼69歳で平均35歳であった。悪性腫瘍を合併した
症例は1例(3%)で、病理は乳頭腺癌であった。過去の報告では1∼2%に悪性腫瘍を合併するとされ、われわれの施設
ではやや多い結果となった。正中頸嚢胞の治療は手術が第一選択であり、ほとんどは良性腫瘍であるものの、全体の1∼
2%程度に悪性腫瘍の合併を認めるため、術前の詳細な精査が重要であると考えられた。
39
超音波検査による頸部リンパ節の硬さ診断―Virtual touch IQ
(VTIQ)の試み―
○古川まどか1)、木谷洋輔1)、堀
神奈川県立がんセンター
由希子1)、久保田
彰1)、古川政樹2)
1)
頭頸部外科 、横浜市立大学附属市民総合医療センター
医療情報部2)
(目的)組織弾性評価は超音波検査で組織の硬さを診断するもので。組織の歪みを利用するもののほか、プッシュパルス
により発生する剪断弾性波(シアウェーブ)の伝搬速度を利用する方法がある。Virtual Touch IQ
(VTIQ)(Siemens ACUSON S3000)はシアウェーブ伝搬速度を瞬時にカラーコード化して画像表示するとともにシアウェーブ速度もその場で得ら
れる。この VTIQ を用いて頸部リンパ節の硬さ診断を行った。
(対象)24症例、32個の頸部リンパ節を対象とし、VTIQ を
用いて硬さ診断を行った。リンパ節の臨床診断は、頭頸部扁平上皮癌の転移リンパ節が13例で16個、正常リンパ節8例、10
個、悪性リンパ腫3例、6個であった。
(結果)頭頸部扁平上皮癌の転移リンパ節では VTIQ は 2.73m/s から 7.
53m/s(平
均 4.14m/s)
、正 常 リ ン パ 節 の VTIQ は 1.04m/s か ら 2.596m/s(平 均 1.6m/s)、悪 性 リ ン パ 腫 は 2.
7m/s か ら 4.75m/s
(平均 3.62m/s)であった。
(結論)VTIQ は頸部リンパ節の鑑別診断において有用である可能性が示唆された。
40
当院における頸部リンパ節生検症例の検討
○齊藤史明、小池修治、古瀬秀和、杉山元康
山形県県立中央病院
耳鼻咽喉科
頸部リンパ節生検は、各種検査で原因不明であったり、悪性腫瘍が疑われる場合や、確定診断のために組織診断が必要な
場合に施行される。今回、平成22年1月から平成26年6月までに当院において頸部リンパ節生検を施行された96症例、男性
49例(7∼89歳 平均47.
7歳)
、女性47例(14∼87歳
平均50.
2歳)について、後ろ向きに検討を行った。最終診断は悪性
リンパ腫が最も多く、次いで壊死性リンパ節炎が多く、反応性変化、転移性、結核などがみられた。また高齢であるほど悪
性疾患の割合が高かった。当科受診経路は院内の血液内科からの紹介が最も多く、ついで他院耳鼻咽喉科、内科などが多く
みられた。頸部リンパ節生検における当院の傾向について、文献的考察を加えながら検討する。
41
頸部郭清を行った頸部リンパ節結核の 2 症例
○中屋宗雄、伊東明子、小村さやか、吉原晋太郎、木田
東京都立多摩総合医療センター
渉、渕上輝彦、渡辺健太
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】一般的に、頸部リンパ節結核は抗結核剤にて保存的に治療される。当科において2010年から5年間に頸部リ
ンパ節結核と診断した症例は23例で、いずれも呼吸器内科にて保存的に加療した。しかし、保存的治療で効果のなかった2
症例に対して頸部郭清術を行ったので報告する。
【症例1】78歳
女性。肺結核で内服加療中に、腰椎カリエスとなり、腰椎手術後より左頸部皮膚に発赤および皮膚浸潤
を伴う頸部リンパ節腫脹を認め、頸部リンパ節結核を疑い数回にわたり培養および組織検査を行ったが、結核菌は検出され
ないものの経過から頸部リンパ節結核を強く疑った。保存的治療での改善は困難と判断し、皮膚合併切除を伴う左頸部郭清
を行い、経過良好となった。
【症例2】44歳
男性。20歳の時に肺結核の治療歴あり、43歳から右頸部リンパ節腫脹認め、精査により頸部リンパ節結
核の診断となる。起因菌は INH・RFP に耐性であり、ほかの薬剤で保存的に治療するも、頸部リンパ節腫脹残存するため
右頸部郭清を行い、経過良好となった。
118―489
日耳鼻
42
頸部リンパ節転移に対する術前 PET/CT の意義についての検討
○金村
亮、藤井
隆、喜井正士、鈴木基之、音在信治、貴田紘太、須川敏光、北村公二、小池良典
大阪府立成人病センター
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
FDG―PET は頭頸部癌治療前の原発巣・遠隔転移の検索に有用とされる報告は多いが、頸部リンパ節転移における診断意
義は不明である。FDG―PET の指標として SUVmax が多用されるが、頸部リンパ節転移を診断する明確な基準はない。今
回、頸部リンパ節転移の診断における FDG―PET の有用性を検討した。対象は2005∼2013年に当科で一次根治手術を行った
舌癌のうち、術前 PET/CT を施行した cN0 かつ頸部郭清術を併施した91例とした。術前造影 CT で各郭清領域内の短径が
最大のリンパ節を1個抽出し、そのリンパ節の SUVmax 値を測定した。病理学的に転移を認めた場合、その領域から抽出
したリンパ節を転移陽性と定義し、SUVmax 値と転移陽性リンパ節との相関を retrospective に検討した。SUVmax のカッ
9とした場合、頸部リンパ節転移の陽性的中率は80%となった。また、cN1∼3 の症例に関しても同様に検討
トオフ値を3.
し、cN0 症例との比較も加えて報告する。
43
石灰化および骨化を伴った頸部原発平滑筋腫症例
○山西貴大、坂本
要、渡辺浩介、代永孝明、増山敬祐
山梨大学
耳鼻咽喉科頭頸部外科
医学部
平滑筋腫は平滑筋を構成成分とする子宮、食道、皮膚に好発する非上皮性良性腫瘍である。頭頸部領域原発は全体の約
10%で、また頭頸部腫瘍全体に占める平滑筋腫の割合は非常に少なく、さらに石灰化、骨化を伴うことは極めてまれであ
る。石灰化、骨化が良性を強く示唆する所見であるかは明らかではなく、鑑別診断が困難な症例が存在する。特に平滑筋腫
と平滑筋肉腫の鑑別は治療方針や予後が大きく異なるため重要である。今回われわれは石灰化、骨化を伴った頸部原発平滑
筋腫症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。
症例は68歳男性。徐々に増大する左顎下部の硬結腫脹を主訴に当科受診され、頸胸部 CT にて複数の石灰化を伴った結節
性病変を認めた(左顎下部・縦隔)
。顎下部腫瘍摘出と診断確定を目的に手術を施行した。腫瘍本体は充実性で、内部は石
灰化および骨化が高度であった。組織学的には好酸性細胞質を有する紡錘形細胞の錯綜増殖が認められた。免疫染色でその
紡錘形細胞は α―SMA、h―caldesmon ともに陽性の平滑筋細胞に合致し、平滑筋腫と診断確定した。
44
耳下腺腫瘍を疑わせた咬筋内神経鞘腫の 1 例
○中村真浩1)、横山純吉2)、大峡慎一1)、藤巻充寿1)、小島雅貴1)、池田勝久1)、原
順天堂大学
順天堂大学
医学部
1)
耳鼻咽喉科学講座 、森山記念病院
貴恵子3)、福村由紀3)
耳鼻咽喉・頭頸部外科2)、
医学部
3)
人体病理病態学講座
症例は17歳女性で、11歳の頃からの左耳前部の腫脹を主訴に13歳で当科紹介受診となった。左耳前部に長径 4cm、可動
性良好な弾性硬の腫瘤を触知した。MRI にて左咬筋内に 44×2mm の T1 強調で骨格筋よりわずかに高信号、T2 強調で不均
一な高信号を示す造影効果のある腫瘤を認めた。画像上では、腫瘤と耳下腺との連続性は不明瞭であった。いったん経過観
察となり、その後4年間で腫瘍は 70×3mm まで増大したため、手術での腫瘤摘出の方針となった。耳前部にS字皮膚切開
を置き、耳下腺浅葉前縁に至り、咬筋を切開して腫瘍表面を露出、耳下腺を後方に圧排する白色充実性の腫瘍を認めた。周
囲組織への浸潤はなく顔面神経を損傷することなく腫瘍のみを剥離し摘出した。摘出検体は 48×67×4mm、50g で線維性
の被膜に覆われていた。術中迅速病理組織診断で神経鞘腫の診断となった。術後顔面神経麻痺はなく、咀嚼力の低下もなか
った。女児の比較的大きな耳前部腫瘤に対し、咬筋の一部と耳下腺浅葉を用いた皮弁を充填することで、術後合併症なく整
容面で良好な結果を得ることができた。
45
術後の機能温存が可能であった頸部交感神経鞘腫の 1 例
○佐藤
大、茂呂順久、阿部千草、甲能直幸
杏林大学
医学部
耳鼻咽喉科学教室
頸部神経鞘腫は比較的まれな疾患であるが、特徴的な臨床症状に乏しいことが多いため、神経脱落症状を伴わない症例で
は術前に診断を確定することは困難である。しかし、術後の神経脱落症状が起こると患者の QOL は低下することが多く、
術前に可能な限りの組織型や由来神経を予想し、術中の機能温存を考慮した術式の決定が必要と考えられる。今回われわれ
は術前に迷走神経鞘腫と予想された症例で、術中に神経モニタリングを行い交感神経鞘腫と診断し被膜間摘出を行うこと
で、術後の機能温存が可能であった症例を経験した。術中の動画を供覧し、若干の考察を加え報告する。症例は52歳男性。
右頸部腫瘤を主訴に近医を受診し当科に紹介受診となった。MRI にて胸鎖乳突筋内側に長径 60mm 大、境界明瞭な紡錘形
腫瘤を認めた。穿刺吸引細胞診は CLASS 3 であった。画像所見、細胞診結果から右迷走神経鞘腫を疑い全身麻酔下に手術
を施行した。術中に起源神経が交感神経と判明したため被膜間にて摘出した。病理は神経鞘腫の診断であった。現在まで腫
瘍再発を認めていない。
118―490
46
2015
当科における頸部迷走神経鞘腫手術症例の検討
○嶋根俊和1)2)、池田賢一郎1)2)、江川峻哉1)2)、金井英倫1)2)、櫛橋幸民1)2)、池谷洋一1)2)、勝田秀行1)、八十篤聡1)
昭和大学
頭頸部腫瘍センター1)、昭和大学
医学部
耳鼻咽喉科学教室2)
頸部に発生する腫瘍の中で神経鞘腫は比較的まれな腫瘍である。しかし、その中でも迷走神経由来の腫瘍は比較的多く存
在する。特に迷走神経由来の神経鞘腫は、摘出により嗄声、嚥下障害、咳嗽発作などを来す可能性があり、術後患者の
QOL に重大な影響を及ぼすことがある。今回われわれは2005年4月から2014年3月までの間に当科で頸部神経鞘腫に対し、
被膜間摘出術を施行した31例のうち迷走神経由来であった10例を対象とし検討を行った。術後に神経脱落症状を認めた症例
は3例であった。2例で喉頭麻痺が認められ、1例で喉頭麻痺と咳嗽発作が認められた。喉頭麻痺だけを生じた2例は術前
に神経症状を認めておらず、1例は永続性麻痺、1例は3カ月で改善した。喉頭麻痺と咳嗽発作を生じた症例は、術前から
咳嗽発作のみが認められていた。迷走神経由来の神経鞘腫は、摘出により嗄声、嚥下障害、咳嗽発作などを来す可能性があ
り、術後患者の QOL に重大な影響を及ぼすため、手術には十分なインフォームドコンセントと手術経験が必要と考えられ
た。
47
副咽頭間隙腫瘍手術症例の検討
○堀
由希子1)、木谷洋輔1)、古川まどか1)、久保田
彰1)、折舘伸彦2)
神奈川県立がんセンター
1
頭頸部外科 、横浜市立大学附属病院
耳鼻咽喉科2
1997年2月から2014年5月まで当科で副咽頭間隙腫瘍の手術治療を行った16症例(男性4例、女性12例、年齢中央値59
歳)について検討した。1例は再発症例であった。病理組織学的内訳は、多型腺腫7例、基底細胞腺腫1例、神経鞘腫6
例、神経線維腫1例、腺房細胞癌1例であった。術式の内訳は、経頸部耳下腺法11例、経頸部法3例、経耳下腺法2例であ
った。経頸部耳下腺法施行症例のうち4例は下顎離断法を、1例は経口法を、5例は気管切開術を併用した。神経原性腫瘍
では6例で被膜下摘出術を施行した。術後観察期間4∼120カ月(中央値48カ月)で、13例で術後合併症を認め、4例で永
続的な合併症を認めた。術後合併症として顔面神経麻痺8例(ほとんどが下顎縁枝のみ)
、開口障害5例、神経脱落症状5
例が多かった。永続的な合併症として神経脱落症状3例(不全麻痺)
、First bite syndrome1例、舌のしびれ1例を認めた。
当科では重篤な合併症を極力避ける目的で視野を確保しやすい経頸部耳下腺法を基本的に行っているが、ほかの術式と有用
性を比較検討する。
48
当院における頸動脈小体腫瘍手術症例の検討
○伊藤文展、冨田俊樹、小澤宏之、関水真理子、渡部佳弘、小川
慶應義塾大学
医学部
郁
耳鼻咽喉科学教室
頸動脈小体腫瘍は、頸動脈分枝部に発生する傍神経節腫である。根治療法としては手術になるが、腫瘍の進展具合によっ
ては頸動脈や下位脳神経の合併切除が必要となる。Shamblin らは手術所見に応じて腫瘍を3つに分類した。特に頸動脈の
合併切除が必要なものを group 3 としている。術前計画を立てる上で脳梗塞などのリスクを考えると、group 3 を鑑別する
ことが理想的である。しかしながら、現状では完全に予測することは困難である。当院では2005年から2014年の間に、頸動
脈小体腫瘍の手術を10症例11側に実施した。男性5例、女性5例、平均年齢は43.
2歳であり、両側の症例が1症例であっ
た。Shamblin 分類は group 1 が4例、2が3例、3が4例であった。術前画像所見で設定した種々の計測項目と、実際の
Shamblin 分類や術後の下位脳神経障害・後遺症との比較を行うことで、術前の難易度・リスク予測が可能か検討した結果
を報告する。
49
頸動脈小体腫瘍(頸部傍神経節腫)の手術と画像診断を基にした分類の検討
○志賀清人、片桐克則、齋藤大輔、及川伸一
岩手医科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
頸動脈小体腫瘍を初めとする傍神経節腫は最近の研究で SDH 遺伝子群を初め16種類の遺伝子変異が見出され、家族例が
これまでの予想をはるかに上回っていることが明らかとなった。教科書の書き換えが必要な疾患である。
演者はこれまで15年間に16例の頸部傍神経節腫を経験し、14例の執刀を行って来た(頸動脈小体腫瘍12例、迷走神経傍神
6歳(23∼60歳)
、男性5例、女性9例。腫瘍の長径の平均は 32.
7mm(55∼15mm)であっ
経節種2例)。年齢は平均41.
た。この中で頸動脈小体腫瘍2例が内頸動脈から剥離中に動脈壁を損傷し、内頸動脈再建を行ったが、これらの腫瘍の長径
は夫々 28mm と 33mm であり、必ずしも大きな腫瘍が剥離困難という訳ではなかった。剥離困難な理由は腫瘍の外膜が動
脈壁に強固に癒着しているためであり、またこれらの症例はいずれも23歳の女性であった。これらの経験からこれまでの頸
動脈小体腫瘍のいわゆる Shamblin 分類とは異なる、外科的切除が可能かどうかについての画像診断を基にした新たな分類
法を検討する。
118―491
日耳鼻
50
遠隔転移を来した唾液腺多型腺腫の 3 例
○嵯峨井
東北大学
俊1)、小川武則1)、中目亜矢子1)、東
1)
病院
耳鼻咽喉科 、東北大学
賢二郎1)、石井
病院
亮1)、臼渕
肇2)、渡邊健一1)、香取幸夫1)
2)
病理部
唾液腺多型腺腫(PMA)は、唾液腺良性腫瘍で最多であるが、しばしば悪性転化を来すことが知られている。しかし、
非常にまれであるものの、病理学的に良性腫瘍の形態のまま、遠隔転移を起こす metasitasizing pleomorphic adonoma の報
告もある。今回われわれは、肺転移を来した PMA の3症例を経験したため、その病理像、臨床経過を文献的考察を含め報
告する。
51
術後再発のために紹介来院した頭頸部原発多形腺腫11症例の症例背景と治療後経過
○今野昭義、植木雄司、間多祐輔、三田恭義
一般財団法人
脳神経疾患研究所
附属
総合南東北病院
耳鼻咽喉科
術後再発多形腺腫11例を対象として、症例背景、癌化の有無、治療後経過を検討した。
原発部位は耳下腺9例、顎下腺1例、軟口蓋1例、癌化は5例(多形腺腫内癌3例、転移性多形腺腫1例、唾液腺導管癌
1例、耳下腺3例、顎下腺1例、軟口蓋1例)であった。画像所見は原発部位、癌化の有無に関係なく、広範囲に大小さま
ざまな多数の腫瘍の分布を認め、9歳で初回手術を受け、60年間に6回の再発を反覆した耳下腺原発の1例では細胞学的異
形を示さないまま同側の側頭骨に転移を認めた。初回手術年齢は癌化例(1群)では9∼57歳、平均31歳、非癌化例(2
11∼65歳、平均37歳であり、1群5例のうち3例は10代で初回手術を受けていた。再発回数は1群で1∼6回、平均2.
2
群)
回、2群1∼3回、平均1.
5回であり、初回手術から当科受診までの期間は1群で7∼60年、平均24.
4年、2群2∼36年、
7年であった。当科における治療内容と治療後経過について報告する。
平均12.
若年者唾液腺腫瘍の手術に際しては、再発多形腺腫のみじめな臨床経過を念頭において対応する必要がある。
52
Retroauricular hairline incision を用いた耳下腺良性腫瘍手術の検討
○富山要一郎、西池季隆、大島一男、中村
大阪労災病院
恵、田中秀憲、岸川敏博
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【対象と目的】2012年2月から6月までに市立堺病院および2012年7月から2014年6月までに大阪労災病院耳鼻咽喉科・
頭頸部外科で Retoroauricular hairline incision(以下 RAHI と表記)を用いて手術を行った耳下腺腫瘍31例を対象に手術時
5分(110分から261分)
、出血量の平均値は 60.1ml
間、出血量、合併症について検討した。
【結果】手術時間の平均値は162.
(5ml から 261ml)、一過性顔面神経麻痺は9例(29%)に認めた。RAHI による特有の合併症は認めず、永久顔面神経麻痺
も認めなかった。唾液漏を1例に認めたが保存的に1カ月で治癒した。中間評価時点で、S字状皮膚切開と比べると難易度
が高く顔面神経麻痺の頻度も高いことより、後期の症例は専門医以上の資格を持つ医師が行ったところ、手術時間の平均値
8分(113分から214分)
、出血量の平均値 41.2ml(5ml から 129ml)、一過性顔面神経麻痺は2例(13%)と改善を示
は147.
した。【結論】適応をよく見極めたうえで、標準的な皮膚切開法で十分経験を積んだ術者であれば RAHI を用いた耳下腺腫
瘍手術は有用であると思われた。
53
良性耳下腺腫瘍の適切な臨床的分類
○櫟原崇宏、河田
大阪医科大学
了、櫟原崇宏、東野正明、寺田哲也、萩森伸一
耳鼻咽喉科
頭頸部外科
≪目的≫良性耳下腺腫瘍は、浅葉腫瘍と深葉腫瘍に分けられる場合が多い。しかし耳下腺腫瘍は下極に発生することも多
い。良性耳下腺腫瘍症例を検討し、どのように分類するのが臨床的に妥当であるかを検討した。≪対象≫良性耳下腺腫瘍は
425例を対象とし、腫瘍部位によって、浅葉腫瘍、深葉腫瘍、下極腫瘍に分類した。さらに下極腫瘍を下極浅部腫瘍、下極
深部腫瘍とした。≪方法≫浅葉腫瘍、深葉腫瘍、下極腫瘍について、それぞれの腫瘍の特徴、手術の侵襲、難易度について
検討した。下極腫瘍を細分類すべきかどうか同様の検討を行った。≪結果≫年齢は下極腫瘍が高く、性別は浅葉腫瘍および
深葉腫瘍が女性に多く、下極腫瘍は男性に多かった。腫瘍最大径の平均は、差を認めなかった。術後一時的顔面神経麻痺は
深葉腫瘍で高かった。手術時間は深葉腫瘍が長かった。出血量では深葉腫瘍が多かった。下極浅部腫瘍と下極深部腫瘍に有
意差を認めなかった。≪結論≫良性耳下腺腫瘍の局在部位は、臨床的に浅葉腫瘍、深葉腫瘍、下極腫瘍の3群に分類するの
が妥当である。
118―492
54
2015
一側性高度感音難聴に対して人工内耳埋込術を施行した 1 症例
聡1)、岩佐陽一郎1)、吉村豪兼2)、高橋優宏3)、鬼頭良輔2)、宇佐美真一2)、加我君孝1)
○岩崎
国際医療福祉大学
三田病院1)、信州大学
医学部
耳鼻咽喉科2)、横浜市立大学
医学部
耳鼻咽喉科3)
一側高度難聴患者は音源定位、雑音下の聴取困難が指摘され、人工内耳により改善される報告が欧州ではみられている。
現在信州大学、慶応大学、済生会宇都宮病院、国際医療福祉大学三田病院で共同臨床研究を開始しており、当科で経験した
1症例を報告する。症例は58歳、女性。平成19年に突然左難聴、耳鳴り、めまいを自覚し、耳鼻科を受診。左突発性難聴と
して加療受けるも難聴と耳鳴りは改善しなかった。クロス補聴器を試すも効果はみられなかった。平均聴力レベルは左
97.5dB、右 10dB。最高語音明瞭度は左0%(100dB)
、右90%(30dB)。平成26年4月22日左人工内耳手術を実施した。術
前、装用開始1カ月、3カ月、6カ月後に耳鳴検査(VAS、THI、ピッチマッチ、ラウドネスバランス)
、雑音下の語音検
査(単音 S/N 比 0dB、10dB・単語、文章 S/N 比 10dB、SRT)
、方向感検査、聞こえの質問紙を実施した。耳鳴、聞こえ、
方向感は時間とともに改善がみられ、有効性が確認された。
55
人工内耳埋め込み術を行った脳表ヘモジデリン沈着症症例
○川口友里加、棚橋重聡、青木光広、水田啓介、伊藤八次
岐阜大学
医学部
耳鼻咽喉科
脳表ヘモジデリン沈着症は慢性的に持続するくも膜下腔の出血により、脳表にヘモジデリンが沈着し、感音難聴や小脳失
調、錘体路徴候などを生じる慢性進行性疾患である。今回われわれは両側高度難聴を伴う脳表ヘモジデリン沈着症患者に人
工内耳埋め込み術を行い、言語聴取が可能になった一例を経験したので報告する。症例は57歳女性、200X∼7年に聴力低下
を自覚し近医耳鼻科を受診したところ、右耳は聾、左耳は感音難聴を指摘され急性難聴として治療をされたが改善しなかっ
た。以後徐々に左聴力も悪化し200X∼4年には左耳も聾となりふらつきも出現するようになった。200X年両側難聴と歩行障
害精査目的で当科紹介受診し、内耳 MRI にて小脳、脳幹、大脳、頸髄の表面に T2 強調像で著明な低信号を認めたことか
ら本症と診断した。左人工内耳埋め込み術を施行し言語聴取が可能となった。脳表ヘモジデリン沈着症に対する人工内耳埋
め込み術は早期に行えば短期的な予後は期待できる。長期的予後は不明であるため今後の経過観察が必要である。
56
高齢盲聾二重障害の 1 例に対する両側人工内耳手術による QOL の変化
○加我君孝1)、南
修司郎1)2)、新正由紀子1)
国立病院機構東京医療センター・臨床研究センター1)、国立病院機構東京医療センター
耳鼻咽喉科2)
患者は11歳頃より視覚障害が始まり、成人になってマッサージ師として50年間生活してきた。37歳頃から難聴が始まり、
約30年間補聴器を装用した。現在一人暮らしで昼間はヘルパーの助けがある。しかし難聴進行のため人工内耳手術を希望し
て受診。純音聴力検査で左右ともスケールアウト、CT、MRI で内耳に問題がなく、72歳の時に左人工内耳手術(コクレア
社、CI422)を行った。術後間もなく聴覚を再獲得し、日常会話、ラジオを聞くことが可能になった。本人の希望で73歳の
時に右人工内耳手術(コクレア社、CI422)を行った。現在両耳聴を獲得しつつある。QOL の変化、両耳聴の効果について
報告する。視覚障害者にとって両耳聴の実現はコミュニケーション、身の安全など重要である。共同研究者 : 榎本千江子
57
福山型先天性筋ジストロフィー患児に対する人工内耳埋め込み術
○假谷
伸、片岡祐子、前田幸英、菅谷明子、大道亮太郎、西
岡山大学
医歯薬学総合研究科
和則
耳鼻咽喉・頭頸部外科
福山型先天性筋ジストロフィーは、フクチンをコードする遺伝子の変異によって起こる常染色体劣性遺伝の疾患である。
精神遅滞を合併することが多く、嚥下障害に伴う呼吸器感染症や心不全などによって若年期に死亡することが多い。また、
先天性筋ジストロフィーは全身麻酔時に悪性高熱を発症するリスクが高い。今回、われわれは、福山型先天性筋ジストロフ
ィー患児に対して人工内耳埋め込み術を行い、良好な経過を得たので報告する。症例は2歳5カ月の女児。筋力低下を認
め、遺伝子検査にて福山型先天性筋ジストロフィーと確定診断されていた。新生児聴覚スクリーニングにて両側難聴が疑わ
れた。ABR、ASSR にて高度難聴と診断され、補聴器の装用効果が乏しいことから人工内耳埋め込み術目的で当院を紹介受
診した。実父が両側の先天性高度感音難聴であった。そのほか、難聴の家族歴は確認されなかった。厳重な周術期管理のも
とに全身麻酔手術を行い、現在、環境音に対する良好な反応が認められている。周術期管理の留意点も含めて報告する。
118―493
日耳鼻
58
Wolfram 症候群による視覚障害合併小児症例の両側人工内耳埋込術後の QOL の改善について
○新正由紀子1)、南
東京医療センター
国際医療福祉大学
修司郎2)、加我君孝1)3)4)
感覚器センター1)、東京医療センター
臨床研究センター
3)
耳鼻咽喉科2)、
4)
耳鼻咽喉科 、川崎市立北部地域療育センター
三田病院
われわれは2012年の日耳鼻総会で、Wolfram 症候群により後天性の視覚障害と聴覚障害を伴った小児に片側の人工内耳手
術を行って聴覚を再獲得し QOL が改善した症例について報告した。その後、対側に人工内耳手術を実施し両耳人工内耳装
用となり、QOL のさらなる向上がみられたので今回報告する。症例.14歳男児、中学2年生。Wolfram 症候群と診断され、
進行性の視覚障害と難聴があり、普通小学校に通学していた。
10歳で左耳に MED―EL PULSAR の人工内耳埋込術を行った。
中学校は本人の希望により市立聾学校に進学。その後さらに視覚障害が進行し、良聴耳であった右耳の難聴の進行も認めら
れた。人工内耳を良好に活用する一方で学校生活では補聴器のみでの会話の聴取が困難となってきたため、本人の希望によ
り、2014年8月右耳にコクレア社 CI422 の人工内耳埋込術を行った。術後3カ月で両側人工内耳装用で文章の聴取98%。
聴覚活用が改善し、QOL の回復がみられた。視覚障害児にとって両耳聴は生活上および教育上重要である。共同研究者 :
榎本千江子2)、伊原素子4)
59
20年後に電極入れ替え手術を行った成人人工内耳症例とその術後成績
○三澤
建、小林万里菜、久田真弓、大多和優里、加藤
虎の門病院
耳鼻咽喉科
央、武田英彦、熊川孝三
聴覚センター
【症例】52歳女性 進行性感音難聴にて1993年1月、30歳で右人工内耳埋め込み術施行。コクレア CI22M(ストレート)
が31電極挿入された。本症例は当院における24例目であった。その後の聴取成績は良好であったが、2013年5月複数電極が
機能しなくなり、また、固定に用いられたダクロン帯が感染の原因となったため、電極入れ替えおよび後壁再建術を行うこ
ととした。2013年12月、右人工内耳入れ替え+右外耳道後壁再建右人工内耳手術。この際、引き抜こうとした電極が抜け
ず、蝸牛内で断裂してしまい、結果的に鼓室階内に遺残した。これを難渋して取り出し、CI24RE(ST)へ入れ替えた。術
後6カ月後の聴取能は N5 使用にて CI―2004、子音46%、単音節58%、単語84%、文83%と以前の電極よりも改善が認めら
れた。
【結論】語音聴取が改善したことは、20年後にも蝸牛内ラセン神経節や神経終末の機能が残っていることを意味し、今後
増えるであろう長期装用者の入れ替え手術に希望を見出すものである。合併症としての蝸牛内電極断裂と、その対応策を報
告する。
60
Incomplete partition type III 奇形の臨床遺伝学的検討
○貫野彩子1)2)3、森田訓子4)、仲野敦子5)、有本友季子5)、小河原
昇6)、杉内智子7)、岡本康秀1)2)3)、小川
郁3)、
2)
8)
松永達雄
稲城市立病院
耳鼻咽喉科1)、国立病院機構東京医療センター
慶應義塾大学病院
3)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 、小張総合病院
6)
感覚器センター2)、
耳鼻咽喉科4)、千葉県こども病院
神奈川県立こども医療センター
耳鼻いんこう科 、関東労災病院
国立病院機構東京医療センター
臨床遺伝センター8)
耳鼻咽喉科5)、
7)
感覚器センター 、
Incomplete partion type III(IP―III)奇形は2006年に Sennaroglu により提案された、蝸牛内耳道間の隔壁の欠損、蝸牛軸
の欠損、前庭水管の拡大、蝸牛の回転間の隔壁は保たれていることを特徴とした内耳奇形である。本内耳奇形はX連鎖遺伝
の非症候群性難聴 DFN3 の特徴としても知られている。われわれの施設で10歳までに両側性難聴を発症し、側頭骨 CT 検査
が行われた938家系のうち、内耳奇形を認めたのは170家系であった。この中で IP―III 奇形が認められたのは5家系であり、
IP―III と IP―II の中間と思われる奇形を1家系で認めた。遺伝子解析により IP―III 奇形を呈した5家系では POU3F4 変異が
認められ、IP―III と IP―II の中間の奇形を呈した1家系では既知の遺伝子変異は認められなかった。本内耳奇形の臨床的特
徴についても検討したので報告する。
61
遺伝学的検査により早期診断された非症候群性難聴児に混在する Usher 症候群
○吉村豪兼1)、茂木英明1)、神田幸彦2)、西尾信哉1)、岩崎
信州大学
医学部
聡1)3)、宇佐美真一1)
耳鼻咽喉科 、神田E・N・T医院、長崎ベルヒアリングセンター2)、
国際医療福祉大学三田病院
1)
耳鼻咽喉科3)
Usher 症候群は「感音難聴に網膜色素変性症を伴う疾患」の代表であり、難聴と前庭機能障害の発症時期や程度により、
臨床的に3つのタイプに分類されている。いずれのタイプも常染色体劣性遺伝形式をとり、現在までに10つの原因遺伝子が
報告されている。これまでわれわれは、本邦における Usher 症候群の原因遺伝子結果、およびその頻度について本学会で
報告してきた。Usher 症候群の中でもタイプ1、タイプ2は先天性難聴が認められるものの、網膜色素変性症は遅発性にみ
られるため、小児期には非症候群性難聴の表現型を呈する。近年、次世代シーケンサーによる網羅的な遺伝子解析が可能と
なり、非症候群性難聴児において Usher 症候群原因遺伝子が同定される例が増加している。本報告では実際の症例を呈示
し、早期診断の有用性につき考察する。
118―494
62
2015
進行性難聴を呈した Axenfeld―Riger 症候群の一症例
○小林有美子1)2)、佐藤宏昭2)、山本佳世乃1)、福島明宗1)
岩手医科大学
臨床遺伝学科1)、岩手医科大学
医学部
耳鼻咽喉科2)
医学部
Axenfeld―Rieger 症候群は前眼部形成不全と、歯牙、頬骨などの奇形や難聴を伴う、まれな常染色体優性遺伝疾患である。
今回われわれは進行性難聴を合併した症例を経験したので報告する。
【症例】18歳女性。生下時より先天性緑内障があり、他院眼科で Axenfeld―Rieger 症候群疑いとされた。3歳頃に有意語
がないため近医耳鼻咽喉科を受診し、難聴疑いで当科へ紹介初診となった。ABR で中等度難聴を認め、4歳より補聴器装
用を開始した。聴力検査所見では両側混合性難聴を呈し、難聴は進行性であった。側頭骨 CT では両側内耳奇形を認めた。
母親は乳児期の診断名のみで詳細な説明を受けていなかった。本例は歯牙形態異常、脳血管走行異常を認め、頬骨形成不全
とそれに伴う特徴的な顔貌により Axenfeld―Rieger 症候群と診断された。先天性難聴の遺伝子検査は陰性であり、難聴は症
候群性と考えられた。家系内に同様の症状を持つ患者はなく de novo と考えられた。
63
難聴原因遺伝子の同定と共に別の遺伝子変異保因者であることが診断された 2 家系
○石川浩太郎1)、西尾信哉2)、宇佐美真一2)
国立障害者リハビリテーションセンター
病院
耳鼻咽喉科1)、信州大学
医学部
耳鼻咽喉科2)
難聴遺伝子検査は保険収載と共に全国で広く臨床活用されるようになった。現在は保険適応となるインベーダ法と、信州
大学を中心とした共同研究で行われる Taqman 法による二次検査および次世代シークエンサーによる三次検査という構成に
なっている。これまでの研究で数多くの難聴原因遺伝子が同定されてきたが、網羅的な解析方法が進む中で、複数の難聴遺
伝子変異が同定された家系の報告が増えている。当センターで検査を行った2家系において、難聴原因遺伝子が同定される
と共に、別の難聴遺伝子の保因者であることが診断された。1家系目は前庭水管拡大を有する10歳女児の孤発例から SLC26
A4 遺伝子 p.T410M 変異、p.H723R 変異の複合ヘテロ接合と OTOF 遺伝子 p.R1939Q 変異ヘテロ接合が同定された。2家系
目は先天性重度難聴の1歳男児の孤発例から GJB2 遺伝子 c.235delC 変異、p.R143W 変異の複合ヘテロ接合と MYO15A 遺
伝子 p.L3160F 変異ヘテロ接合が同定された。どちらの家系も両親がそれぞれ難聴原因遺伝子の保因者であると共に、父親
がもう一つの難聴遺伝子の保因者であった。
64
KCNQ4 変異に伴う遺伝性難聴10家系の検討∼劣性遺伝を示した家系も含めて∼
○和佐野浩一郎1)2)3)、務台英樹2)、増田佐和子4)、小川
静岡赤十字病院
慶應義塾大学
郁3)、松永達雄2)5)
1)
耳鼻咽喉科 、国立病院機構東京医療センター
3)
耳鼻咽喉科 、国立病院機構三重病院
医学部
国立病院機構東京医療センター
感覚器センター2)、
耳鼻咽喉科4)、
5)
臨床遺伝センター
1番染色体短腕(1p34)に座位が同定されている常染色体優性遺伝性難聴 DFNA2 は、外有毛細胞に発現するカリウムチ
ャネル Kv7.
4 をコードする KCNQ4 の変異により起こることが解明され(Kubisch ら、Cell. 1999)
、その後さまざまな変異
が報告されている。
われわれが難聴の遺伝的原因を調べた症例において、日本人10家系で原因と思われる KCNQ4 変異を同定した。変異はす
でに報告のある frameshift 変異が1種類4家系、渡部らが報告した3塩基欠失変異が1家系、新規変異が5種類5家系であ
った。中でもC末端細胞質内領域に frameshift 変異を認めた家系は、先天性あるいは小児期早期からの高度難聴を示した発
端者にホモ変異を認め、ヘテロ保因者は難聴を発症しない劣性遺伝の形質を示した。
これまで優性遺伝の遺伝性難聴の原因遺伝子として知られていた KCNQ4 が、劣性遺伝の遺伝性難聴の原因となる可能性
が示唆され、KCNQ family で KCNQ4 とほぼ同様の構造をもつ KCNQ1(KV7.
1)の変異により発症する先天性 QT 延長症
候群における病態と比較しながら、KCNQ4 変異に伴う難聴発症の機序を考察したい。
65
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーにおける難聴の長期経過
○増田佐和子、臼井智子
国立病院機構
三重病院
耳鼻咽喉科
【目的】顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(facioscapulohumeral muscular dystrophy : FSHD)は常染色体優性遺伝疾患
で、顔面筋、肩甲骨周囲筋、上腕筋の筋萎縮と筋力低下を特徴とし、約半数に難聴を合併する。10年以上にわたって聴力の
経過を観察しえた本疾患症例について報告する。
【方法】対象は FSHD と診断された4症例(すべて男性、2名は同胞)である。診療録から難聴の状況と経過、筋症状の
経過を検討した。
7歳(1∼6歳)
、
【結果】医療機関受診のきっかけは2例が難聴、2例がことばの遅れであった。難聴の診断年齢は平均2.
平均聴力レベルは 50∼70dB 台で、高音漸傾型の感音難聴であり、全例で耳音響放射は検出されず、内耳性難聴と考えられ
5歳(8∼19歳)であった。
た。観察期間中3例でごくわずかに難聴の進行を認めた。FSHD の診断年齢は平均12.
【結論】FSHD における難聴は、幼児期から存在し緩やかに進行する両側性内耳性難聴で、初発症状となり得る。難聴児
が特有の顔貌や筋力低下の症状を呈した場合、本症にも留意すべきであると考えられた。
118―495
日耳鼻
66
遺伝子解析をした Auditory Neuropathy Spectrum Disorder(ANSD)の DPOAE の経過
○北尾恭子1)2)、守本倫子3)、仲野敦子4)、有本友季子4)、杉内智子5)、増田佐和子6)、岡本康秀7)、森田訓子8)、
加我君孝1)、松永達雄1)9)
国立病院機構
東京医療センター
感覚器センター1)、
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)、国立成育医療研究センター
北海道大学医学部大学院医学研究科
千葉県こども病院
4)
耳鼻咽喉科 、関東労災病院
7)
稲城市立病院
耳鼻咽喉科 、小張総合病院
国立病院機構
東京医療センター
5)
耳鼻咽喉科3)、
耳鼻咽喉科6)、
耳鼻咽喉科 、国立病院機構三重病院
8)
耳鼻咽喉科 、
臨床遺伝センター9)
【はじめに】以前われわれは ANSD において DPOAE が経過中に約7割で低下すると報告 し た。今 回 は 周 波 数 別 の
DPOAE 経過を検討したので報告する。
【対象】当研究室で2003年7月から2014年7月までに遺伝子解析を行った ANSD45
症例。男性25例、女性20例。年齢2歳1カ月∼77歳6カ月。DPOAE の初回検査日が10歳未満の症例32例、18歳以上の症例
15例と分れたため、前者を小児群、後者を成人群とした。
【方法】DPOAE の測定結果を後ろ向き研究で解析し、周波数別
の DPOAE の経過を追った。各測定周波数の DP レベルがノイズレベルを上回っている場合を反応あり、ノイズレベル以下
を反応なしとした。
【結果】小児群では 500Hz の大部分において経過中一度も反応を認めなかった。成人群では 1k 未満の
周波数測定はしていなかった。そのほかの周波数では、小児群・成人群ともにそれぞれの周波数ごとに一定の割合で反応低
下がみられた。以上より、小児 ANSD において低音域の方が DPOAE の反応低下が起こりやすい傾向がみられた。
67
低音障害型感音難聴症例のオージオグラムの詳細な特徴と難聴遺伝子変異の検討
○笠倉奈津子1)2)、増田正次1)2)、増田佐和子3)、阪本浩一4)、小河原
杏林大学
医学部
国立病院機構
付属病院
三重病院
神奈川県立
昇5)、三澤逸人6)、甲能直幸1)、松永達雄2)7)
耳鼻咽喉科・頭頸科 、国立病院機構
3)
耳鼻咽喉科 、兵庫県立
こども医療センター
国立病院機構
1)
東京医療センター
こども病院
耳鼻咽喉科5)、国立病院機構
感覚器センター2)、
東京医療センター
4)
耳鼻咽喉科 、
名古屋医療センター
耳鼻咽喉科6)、
7)
臨床遺伝センター
【目的】Hereditary Hearing Loss Homepage
(HHLH)の定義で低音障害型感音難聴(LFSHL)でも聴力図は谷型の場合が
ある。今回、低音障害型の典型例と、谷型も併せて示す症例を対象とし、難聴遺伝子変異の頻度と遺伝形式を検討した。
【対象と方法】対象は2002年10月∼2013年8月に東京医療センターで遺伝子解析をした原因不明非症候群性両側性感音難
130例。HHLH の定義で LFSHL 150例を抽出後、聴力像を目視し、低音障害/谷型例(LFSHL/
聴(NSSNHL)の発端者1,
U)と低音障害/典型例(LFSHL/L)の57例で、WSF1、GJB2、ミトコンドリア DNA 変異(A1555G、A3243B)を解析し
た。
【結果】57例中、WSF1 変異4例、WSF1 と GJB2 変異合併例1例、GJB2 変異2例を認めた。WSF1 変異は聴力像別で
LFSHL/L の34例中4例、LFSHL/U の23例中1例、遺伝形式別で孤発例3例、常染色体優性遺伝2例に認めた。LFSHL/U1
例は新生突然変異の孤発例で、新規変異と考えられた。
【結論】WSF1 変異の NSSNHL は優性遺伝形式の LFSHL が知られているが、本研究により低音障害/谷型例、孤発例で
の WFS1 変異の可能性も示された。
68
遺伝子コピー数変化(Copy Number Variation)による先天性感音難聴症例
○茂木英明、宇佐美真一
信州大学
医学部
耳鼻咽喉科
先天性難聴のうち、約50%は遺伝的な原因が関与している。現在、原因として89遺伝子が同定されており、これら遺伝子
上の1塩基ないし数塩基の変異による先天性難聴が数多く報告されている。一方、このような小さな遺伝子変異と異なり、
コピー数変化(Copy Number Variation)と呼ばれる、数十ないし数万塩基にわたる大きなゲノムの構造変化が、遺伝性疾
患の原因として注目されている。われわれは次世代シーケンサーの解析データから、コピー数変化による先天性難聴症例を
見出し、2014年度の日本人類遺伝学会でその解析方法について報告した。今回それらの症例のうち STRC 遺伝子のコピー
数変化による難聴の聴力像など、耳科学的な特徴を含めて報告する。今回見出されたコピー数変化による難聴は、軽度から
中等度の進行性の感音難聴を呈することが示唆された。コピー数変化を解析する遺伝学的検査が、評価が難しい幼小児期の
聴力の程度を推定するために重要である。
(本報告は米国 The University of Iowa, Dr. Richard Smith との共同研究の成果の一部である。
)
118―496
69
2015
次世代シーケンサーによる人工内耳装用患者の原因遺伝子解析
○宮川麻衣子1)2)、茂木英明1)2)、宇佐美真一1)2)
信州大学
耳鼻咽喉科1)、信州大学
医学部
医学部
人工聴覚器学講座2)
近年、次世代シーケンサー(Next―Generation DNA Sequencing)が登場し、高速に巨大なターゲット遺伝子をシーケン
スすることが可能となった。これが難聴の遺伝子解析でも強力なツールとなると期待されている。当科にて人工内耳もしく
は残存聴力活用型人工内耳埋込術を行った難聴患者148名について、従来の健康保険によるインベーダー法に加え、既知の
難聴原因遺伝子63遺伝子の全エクソン領域をターゲットに設計した AmpliSeq Custom primer pool を用いて DNA 増幅を行
い、次世代シーケンサー IonTorrent(Ion PGMTM Sequencer)を用いて網羅的解析を行った。この結果、従来から高頻度
に認められた GJB2、SLC26A4、CDH23、ミトコンドリア遺伝子以外にも、OTOF 、TMPRSS3、ACTG1、MYO7A、MYO
15A、DFNB31 等のたくさんの遺伝子変異を検出した。このようにまれな原因遺伝子についても従来法より効率的に同定す
ることが可能となり、新たな診断ツールとして期待できると思われた。
70
原因不明の高音部障害を認める先天性難聴における CDH23 遺伝子変異の頻度
○水足邦雄1)2)、務台英樹2)、仲野敦子3)、有本友季子3)、増田佐和子4)、守本倫子5)6)、阪本浩一6)、加我君孝2)、
松永達雄2)7)
耳鼻咽喉科学講座1)、国立病院機構東京医療センター
防衛医科大学校
千葉県こども病院
耳鼻咽喉科3)、国立病院機構三重病院
国立成育医療研究センター
耳鼻咽喉科4)、
耳鼻咽喉科5)、兵庫県立こども病院
国立病院機構東京医療センター
感覚器センター2)、
耳鼻咽喉科6)、
臨床遺伝センター7)
CDH23 遺伝子は Usher 症候群(USD1D)および DFNB12 の原因遺伝子として知られる。本遺伝子変異による難聴は日
本人の症例に関しても既に複数の報告があり、特徴的な臨床像を呈することが知られている。そこで今回われわれは CDH23
遺伝子変異による難聴に特徴的な、1.劣性もしくは孤発例、2.両側先天性難聴、3.蝸牛奇形を認めない、4.高音域の聴
力閾値が低音域より悪い、5.高音域の高度もしくは重度難聴、の5つの臨床所見を満たす症例における CDH23 遺伝子変
異の頻度を検討した。その結果、上記の臨床所見を有する難聴患者において高い CDH23 遺伝子変異が同定できた。一方
で、これらの臨床所見を呈する難聴遺伝子は数多く知られている。以上より、これらの臨床所見を呈する先天性難聴症例に
おいては、次世代シークエンスを含む難聴遺伝子解析の良い適応になると考えられた。
71
頭頸部扁平上皮癌に対する S―1 とネダプラチンを用いた NAC1 コースの有用性の検討
○原田博之1)、菊地正弘1)、篠原尚吾1)、藤原敬三1)、十名理紗2)、岸本逸平1)、桑田文彦1)、末廣
1)
篤1)、内藤
泰1)
2)
神戸市立医療センター中央市民病院 、先端医療センター
【目的】頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)に対する S―1/nedaplatin(NDP)を用いた導入化学療法(NAC)1コースの有用性
につき検討した。
【方法】対象は2006年∼2013年に当科を受診した Stage 3 以上の HNSCC のうち、NAC(S―1/CDGP)1コース後に根治
治療を行った101例(年齢35∼85、M : F=81 : 20、口腔 : 中咽頭 : 下咽喉 : 喉頭=22: 32: 35: 12、経過観察中央値28カ
月)
。全例 MRI と PET を NAC 直前と終了後3週目に撮像のうえ効果判定を行い、有効・無効二群間で局所制御(LC)
、無
病生存率(DFS)、疾患特異的生存率(DSS)を比較検討した。PET 判定基準はわれわれの過去の報告に従った(Kikuchi,
Mol Imaging Biol, 2011)
。
【成績】有効・無効は MRI 判定では20例・81例、PET 判定では45例・56例であった。多変量解析では PET 判定による有
効群は無効群に比べ有意に LC、DFS、DSS(ハザード比=0.
25、0.
38、0.
31; P=0.
019、0.
007、0.
016)が良好であった。
一方 MRI 判定では2群間に有意差はなかった。
【結論】NAC(S―1/NDP)1コースによる判定を PET で行うことで、早期の効果判定から予後予測が可能と思われた。
72
下咽頭癌症例における導入化学療法の有用性の検討
○上原貴行、山下
懐、長谷川昌宏、又吉
琉球大学
耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座
医学部
宣、安慶名信也、喜友名朝則、真栄田裕行、鈴木幹男
2006年∼2013年に当科を受診され根治治療を行った下咽頭癌 T1・T2 症例52例および T3・T4 根治治療例55例を検討し
た。全体の5年粗生存率は72.
9%、ステージ別では1期100%、2期80%、3期94.
1%、4A 期67.
7%、4B 期37.
5%であり、
T1・T2 症例での5年粗生存率(OS)および無再発生存率(RFS)は各80.
8%、65.
4%で喉頭温存率は79.
1%であった。
T3・T4 症例では5年 OS および RFS は各64.
8%、61.
8%であり、そのうち導入化学療法(NAC)により原発巣の50%以上
の縮小が得られ、同時放射線化学療法(CCRT)に移行した群の5年粗生存率は70.
6%、喉頭温存率は70.
6%であり、NAC
後に PR に至らず手術を施行した群の、5年粗生存率は62.
5%、喉頭温存率は6.
3%であった。局所進行癌症例では、chemoselection によって CCRT 施行群は手術群と比較して同等の予後と高い喉頭温存率が得られ、NAC の有用性を示唆する結果
と考えられた。
118―497
日耳鼻
73
上咽頭癌症例の臨床的検討
○加藤明子1)、安松隆治1)、古後龍之介1)、瓜生英興1)、中島寅彦1)、中村和正2)、小宗静男1)
九州大学
大学院
医学研究院
耳鼻咽喉科学1)、九州大学
大学院
医学研究院
放射線医学2)
上咽頭癌は、外科的切除が困難である一方で放射線感受性が高いことが知られている。当科では初回治療として主に S―1
併用の化学放射線療法を行い、その後症例に応じて維持化学療法を行ってきた。今回われわれはその治療の妥当性を検証す
る目的に、治療効果、転帰および再発形式について検討を行った。2004年4月から2014年3月までの10年間に当科で一次治
療を行った上咽頭癌38例を対象とした。TNM、stage 分類は頭頸部癌取扱い規約第5版(2012年)に基づき、組織型は
WHO 分類に従って検討した。治療は全症例において化学放射線治療を行った。また、化学放射線治療終了後に頸部リンパ
節転移巣残存症例に対しては頸部郭清術を行った。照射野は原発巣とともに頸部リンパ節転移のない場合も予防的に全頸部
を含めて照射を行った。全体の疾患特異的累積3年生存率は85.
3%であった。4例において再発が認められ、内訳としてT
再発2例、N再発1例、M再発1例であった。他施設の報告も踏まえて当科での治療成績について考察したい。
74
喉頭癌 T2N0 症例に対する weekly ドセタキセル併用放射線治療症例の検討
○片桐克則、及川伸一、齋藤大輔、志賀清人、佐藤宏昭
岩手医科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
当科では頭頸部扁平上皮癌 T2N0M0 症例に対して、ドセタキセル(DOC)10mg/m2 毎週1回投与を併用した放射線治療
を行っている。本治療を行った喉頭癌症例につき検討し報告する。対象は2004年以降当科で初回治療を行った喉頭扁平上皮
癌 T2N0M0 症例17例である。内訳は男性15例、女性2例年齢は43歳から83歳、中央値68歳。亜部位別では声門癌11例、声
門上癌5例、声門下癌1例であった。照射線量は途中で治療効果なく手術を行った1例を除き 64Gy から 70Gy、DOC の投
与量は、週1回 10mg/m2 を照射期間にあわせて5回から8回投与した。治療効果は17例中16例で CR、1例のみ 52Gy の時
点で NC のため CRT を終了し手術を施行している。認められた有害事象は主に G1 から G3 の粘膜炎、皮膚炎であり、早期
に改善している。また観察期間は4カ月から119カ月まで、他病死が3例あるものの、全例で再発は認められていない。少
量 weekly DOC を用いた化学放射線治療は比較的有害事象も少なく、喉頭癌 T2N0 症例有効な治療と考えられる。
75
T2N0 声門癌に対する docetaxel 同時併用過分割照射の治療成績
○高野澤美奈子1)、西野
1)
宏1)、川田克己2)、長友孝文1)、金澤丈治1)、島田茉莉1)、坂口
1)
濱野有美子 、塚本裕司 、伊藤
自治医科大学
自治医科大学
医学部
優1)、高橋さとか1)、
3)
真人
耳鼻咽喉科学講座1)、新小山市民病院
とちぎ子ども医療センター
耳鼻咽喉科2)、
3)
耳鼻咽喉科
【背景】進行喉頭癌における機能温存目的で、抗癌薬同時併用化学放射線治療が行われている。その有効性は検討の最中
である。その一方で非進行喉頭癌の治療成績の向上もはかることが大切であると考える。
【目的】docetaxel 同時併用過分割
照射(DOCHFRT)を施行した声門癌 T2N0 症例の治療成績を報告する。
【対象】自治医科大学で一次治療を行った症例。
2001年1月から2013年12月の期間に DOCHFRT を行った声門癌 T2N0 症例55例。
【方法】過分割照射 : 1.3∼1.5Gy/f、2f/
day、60∼65Gy/28∼35days。Day 1、8、15 に docetaxel 20mg/m2 静脈内投与。
【症例】全例男性、年齢中央値63歳(50歳か
ら77歳)。
【結果】全生存率 : 5年 ; 98%、10年 ; 84%。局所制御率 : 5年 ; 93%、10年 ; 85%。喉頭温存率 : 5年 ; 95%、
10年 ; 95%。有害事象では、粘膜炎 G3 症例を認めたものの、血液毒性、肝腎毒性、消化器毒性は G0 で推移したものが大
部分であった。【考察】声門癌 T2N0 症例に対する DOCHFRT は、許容される有害事象の範囲内で、喉頭温存をはかられる
治療方法になり得ると考えられる。
76
頭頸部癌セカンドレジメンとしての TXT―CPT 療法
○硲田猛真1)、野村直孝1)、宝上竜也1)、中原
りんくう総合医療センター
鳥取大学
医学部
啓1)、榎本雅夫1)、北野博也2)
耳鼻咽喉科1)、
感覚運動医学講座
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野2)
頭頸部癌の標準的化学療法は、プラチナ製剤と 5FU の併用またはその変法(以下 CF 療法)であるが、CF 療法が無効や
使用不能の場合に有効な化学療法は確立していない。われわれは、CF 療法が使用不能または無効の症例に対しイリノテカ
(以下 TXT―CPT)を使用しており、その効果を報告しているが、今回当施設での TXT―
ン(CPT―11)、ドセタキセル(TXT)
CPT 療法の効果をまとめたので報告する。
TXT―CPT 療法の対象は、CF 療法を受けた既往がある再発頭頸部癌としている。投与法は原則 TXT 50mg/m2 を day 1
に、CPT―11 80mg/m2 を day 1、8、15 に投与し、4週毎の投与間隔とした。
平成20年4月から平成26年3月までに当院で TXT―CPT 療法を開始した患者は男性12例、女性2例の計14例、46∼76歳平
4歳であった。
均64.
5%であった。前施設までの分を合
最大効果は、CR 1例、PR 4例、SD 7例、PD 1例、判定不能1例で奏功率は38.
3%であった。
わせた全体での奏功率は43.
TXT―CPT 療法はセカンドレジメンとして有用な療法と考えた。
118―498
77
2015
サイバーナイフが著効した若年性鼻咽腔血管線維腫の一例
○石岡
薫、田路正夫、伊藤まり、宮崎紳一郎
新百合ヶ丘総合病院
耳鼻咽喉科
頭蓋内へ進展した若年性鼻咽腔線維腫は通常外科的治療を施行するが、治療後の機能的、審美的障害が患者の肉体的、精
神的負担になることがある。われわれはサイバーナイフの治療を施行し、6年間の経過観察で経過良好な1例を経験した。
症例は23歳男性。腫瘍の進展から開頭手術を検討していたが、ご希望にてサイバーナイフを選択され、サイバーナイフによ
る治療を施行した。腫瘍はほぼ CR に至っているが、鼻垢と滲出性中耳炎を繰り返し、定期的耳鼻科で治療を受けている。
サイバーナイフの治療で外科手術と同様な抗腫瘍効果を得られるだけでなく、頭頸部の機能的、審美的障害を最小限にとど
めることができたので、本症例のような問題を有する患者に適した治療法であると思われる。
78
陽子線治療が奏功した頭頸部腺様嚢胞癌の 2 例
○成田憲彦、菅野真史、鈴木
福井大学
医学部
弟、岡本昌之、高林哲司、藤枝重治
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
腺様嚢胞癌は、頭頸部腫瘍の中では比較的頻度の高い癌腫の一つである。一般的に、その臨床経過は緩徐であり短期的な
予後は良好である。一方で局所再発や転移がしばしば認められ、長期予後は悪いとされている。治療としては、基本的に手
術が第一選択であるが、神経や血管に沿って浸潤することから、腫瘍の進展範囲の確認が難しく、広範な切除が必要にな
る。放射線療法に関しては、腺様嚢胞癌は頭頸部癌の中で最も放射線感受性が低い組織型の1つであり、切除断端陽性例な
どに対して有効とされる報告もあるが、いまだ一定の見解はない。今回われわれは陽子線治療が有効であった頭頸部腺様嚢
胞癌症例を2例経験したので報告する。症例1は軟口蓋原発 stage IVA 症例である。顎動脈動注化学療法を併用し CR とな
り1年11カ月再発転移なく経過している。症例2は蝶形洞原発 stage IVB 症例である。陽子線治療により腫瘍は著明縮小し
PR となっている。これらの症例経験に今回は若干の文献的考察を加え報告する。
79
群馬大学における頭頸部悪性腫瘍に対する重粒子線治療の短期成績
○高安幸弘1)、紫野正人1)、豊田
2)
3)
実1)、新国
摂1)、高橋克昌1)、近松一朗1)、斎藤淳一2)3)、白井克幸2)3)、
2)
3)
大野達也 、中野隆史
群馬大学大学院
医学系研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、群馬大学大学院
医学系研究科
腫瘍放射線学2)、
3)
群馬大学重粒子線医学研究センター
群馬大学耳鼻咽喉科では2014年11月までに頭頸部悪性腫瘍に対する重粒子線治療として104症例を経験した。今回、全症
例を対象とした短期治療成績を報告する。104症例の平均経過観察期間は13カ月で、初回治療は89例、再発治療は15例であ
った。癌腫91例、肉腫9例、嗅神経芽細胞腫4例の内訳で、組織型は、癌腫では腺様嚢胞癌36例、悪性黒色腫35例、粘表皮
癌6例、腺癌3例、その他11例、肉腫では悪性線維性組織球腫3例、脂肪肉腫2例、そのほか、軟骨肉腫や骨肉腫などであ
った。原発部位は頻度順に、鼻副鼻腔60%、大唾液腺15%、中咽頭10%、病期はステージⅢ以上の進行がんが全体の87%と
大部分を占めた。原発巣における治療効果は、完全奏効と部分奏効を合わせた奏効率で、癌腫においては87%と良好であっ
たが、肉腫では42%に留まった。一方、癌腫91例中21例で重粒子線治療後の後発遠隔転移を認め、このうち悪性黒色腫が15
例を占めた。肉腫に対する局所効果の改善と悪性黒色腫の遠隔転移に対する制御が今後の課題と考えられた。
80
筑波大学における頭頸部 BNCT 臨床研究経過報告
○粟飯原輝人1)、石川
2)
仁1)、和田哲郎2)、福光延吉1)、大西かよ子1)、中井
2)
1)
中山雅博 、田淵経司 、奥村敏之 、鈴木
筑波大学
実 、原
2)
啓3)、長谷川正午4)、硲田猛真5)、
1)
晃 、櫻井英幸
陽子線医学利用研究センター1)、筑波大学附属病院
附属病院
筑波大学附属病院
6)
3)
脳神経外科 、筑波大学附属病院
地方独立行政法人りんくう総合医療センター
耳鼻咽喉科2)、
4)
口腔外科 、
耳鼻咽喉科5)、京都大学
原子炉
実験所6)
[はじめに]硼素中性子捕捉療法(BNCT)は、主に癌組織に集積した硼素(10B)と熱中性子との核反応で生じる高 LET
放射線(α 粒子)により癌細胞を選択的に破壊させる治療法である。
[対象]2014年4月から5月に当院で BNCT を行った
⑴ 舌癌 ⑵ 篩骨洞癌 ⑶ 右鼻腔横紋筋肉腫 ⑷ 涙嚢癌の局所再発4症例。
[方法]本プロトコルでは、⑴ PS2 以下の再発
5以上を満たすものを対象とした。照射4週∼8
頭頸部がん症例、⑵ 腫瘍最深部が皮膚表面から 7cm 以内 ⑶ T/N 比が2.
週後に化学療法を基本とした補助療法を行った。
[考察とまとめ]BNCT の従来の報告は、その高い局所治療効果に比し、
生命予後の延長は認めていない。その原因の一つとして、照射4週間以後の局所再発・遠隔転移であることから、本プロト
コルでは、照射4週以後の補助療法を追加した。照射後の Grade 3 以上の急性期有害事象は認めず、照射6カ月を経過し、
局所再発・遠隔転移を認めず全例腫瘍は制御されている。
118―499
日耳鼻
81
側頭部がんに対するホウ素中性子捕捉療法
○太田一郎、成尾一彦、山下哲範、三上慎司、桝井貴史、岡本英之、山中敏彰、北原
奈良県立医科大学
糺
耳鼻咽喉・頭頸部外科
外耳道がんをはじめとする側頭部がんは、早期例であれば手術治療により良好な予後を見込めるが、進行例の場合、拡大
手術や化学放射線治療を中心とした集学的治療を行うものの、その制御に難渋することをしばしば経験する。つまり、再
発・転移を如何に制御するかが重要な課題のひとつである。また、外科的治療以外の方法で正常臓器を損なうことなく治療
できれば患者の手術時の大きな負荷の軽減は勿論のこと、治療後の高い QOL が期待できる。近年、再発進行頭頸部癌症例
に対する臨床研究として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の有効性が報告され、今後の発展・確立が期待されている。現
在、われわれは、京都大学原子炉実験所と共同で、このような進行側頭部がんを含め再発進行頭頸部癌症例に対して BNCT
の臨床試験を進行中である。現在のところ、再発進行側頭部がん3症例に対して BNCT を施行した。これらの症例に対す
る照射前後の経過とともに、その効果と問題点について報告する。
82
喉頭癌に対して Cetuximab 併用放射線治療を行った透析症例
○平井崇士、赤埴詩朗、福嶋宗久、伊藤理恵、宮口真一
関西労災病院
耳鼻咽喉科頭頸部外科
Cetuximab は細胞膜に発現する EGFR と結合することで抗腫瘍効果を発揮する分子標的治療薬であり、Bonner らにより
放射線治療に併用することで上乗せ効果が得られることが立証されている。また Cetuximab は腎代謝の影響を受けないた
め、血液透析患者でも使用が可能である。今回われわれは血液透析患者の喉頭癌に対して Cetuximab 併用放射線治療を行
ったので報告する。
症例は59歳の男性で慢性腎不全により週3回の血液透析を施行中。2カ月前からの嗄声を主訴に前医を受診し、声帯腫瘍
を指摘され当院を紹介受診。右仮声帯から声門下腔に広がる腫瘍を認め、生検や CT の結果喉頭癌(右声帯原発、cT4aN0
M0、高分化型扁平上皮癌)と診断した。併存する認知症のため手術治療は不可能と考え、Cetuximab 併用放射線治療を選
択した。副作用は Grade1 の皮膚障害、Grade1 の放射線性皮膚炎が出現したが、休止することなく治療を完遂できた。
83
セツキシマブを併用した化学放射線治療中に肺炎を生じた 2 症例
○塩野
理、小林茉莉子、須藤七生、矢吹健一郎、佐野大佑、小松正規、西村剛志、高橋優宏、田口享秀、
折舘信彦
横浜市立大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
進行期頭頸部扁平上皮癌に対する化学放射線治療は広く普及した治療方法である。近年、分子標的薬であるセツキシマブ
を併用した化学放射線治療が各施設から報告されている。骨髄抑制や粘膜炎の有害事象がより軽症であることが使用されて
いる一因であろう。一方で、皮膚障害や薬剤性間質性肺炎も重要な有害事象として認識されるようになった。今回、セツキ
シマブを用いた化学放射線治療中に肺炎を生じた症例を経験したので報告する。症例1は83歳男性、中咽頭癌 T2N2cM0 に
対して、一次治療としてセツキシマブを併用した放射線治療を行った。症例2は83歳男性、下咽頭癌 T2N2aM0 に対して、
一次治療として下咽頭部分切除、喉頭全摘術、右頸部郭清術を施行、病理検査でリンパ節被膜外浸潤を認め、術後放射線治
療の方針となった。途中からセツキシマブとドセタキセルを用いた化学療法を併用した。これらの症例について、肺炎の生
じた経過、治療内容、さらに注意点や反省点、文献的考察を加えて報告する。
84
頭頸部扁平上皮癌に合併した食道癌の Cetuximab による治療前後の変化
○池田賢一郎1)2)、嶋根俊和1)2)3)、金井英倫1)2)、八十篤聡1)3)、勝田秀行1)3)、相馬裕太2)、北野
小林
昭和大学
2)
4)
学2)、今村友美2)、
2)
斉 、久保田祐太郎 、小林一女
頭頸部腫瘍センター1)、昭和大学医学部
昭和大学歯学部
口腔外科学講座
耳鼻咽喉科学講座2)、
口腔腫瘍外科3)、昭和大学医学部
内科学講座
腫瘍内科学4)
Cetuximab(アービタックスⓇ)は、2012年12月に本邦初の頭頸部扁平上皮癌治療に対する分子標的薬として承認された、
抗 EGFR モノクローナル抗体である。従来頭頸部癌に使用されてきたプラチナ系、フルオロウラシル系などの殺細胞性抗
癌剤は食道癌、胃癌、肺癌等他領域癌腫へも治療効果が認められているが、Cetuximab の食道癌への治療効果は不明瞭であ
り、適応は今日まで認められていない。一方で Field cancerization の観点から、頭頸部扁平上皮癌と食道癌との合併が効率
に認められ、しばしば治療方針の決定に難渋することがあり、Cetuximab の食道癌への治療効果を把握することは臨床上重
要である。今回われわれは、早期食道癌を合併した頭頸部扁平上皮癌に対し BRT
(Bio―Radiation therapy)を施行し、治療
前後での食道癌上部消化管内視鏡所見を渉猟しえた3例を経験したので、その治療後の変化について報告する。
118―500
85
2015
当科の頭頸部癌患者における α―gal 特異的 IgE の検討
○伊藤和行、竹内
薫、武田真紀子、小田直治
松江赤十字病院
耳鼻咽喉・頭頸部外科
2013年2月よりセツキシマブを用いた治療を開始し、grade 4 のアナフィラキシーショックが初回投与13例中4例
7%)と高頻度に出現した。そこで α―gal に対する特異的 IgE の関連を検討し、投与前のスクリーニング検査が有用で
(30.
あることを報告してきた。アナフィラキシー発症には地域性がある可能性があり、当地域における実態把握のため、当科を
受診した頭頸部癌患者における牛肉、セツキシマブ、α―gal に対する特異的 IgE について検討した。2013年8月から2014年
10月に当科を受診した頭頸部癌患者71例(男性55例、女性16例)
(年齢中央値66(40∼93)歳)を対象とした。牛肉特異的
0%)で検出、セツキシマブ特異的 IgE は7例(9.
9%)で検出、α―gal 特異的 IgE は7例(9.
9%)で検出さ
IgE は5例(7.
006例中29例(1.
5%)であり、当科で
れた。国内における結腸・直腸癌での使用成績調査では重篤な infusion reaction は2,
9%よりはるかに少ない。このことから当地域ではアナフィラキシー発症の頻度が高いことが
の α―gal 特異的 IgE 検出率9.
示唆された。
86
セツキシマブ投与における α―gal 特異的 IgE 測定によるスクリーニングの検討
○武田真紀子、伊藤和行、竹内
松江赤十字病院
薫、小田直治
耳鼻咽喉・頭頸部外科
2012年12月セツキシマブが頭頸部癌において適応追加承認取得された。当科でも2013年2月よりセツキシマブを用いた治
7%)で grade 4 のアナフィラキシーショックが出現した。ショック
療を開始した。ところが、初回投与の13例中4例(30.
の出現率が非常に高率であったため、当科ではセツキシマブの投与を一時中断した。この4例について検討したところ、
galactose―α―1、3―galactose(α―gal)特異的 IgE の関連が示唆され、地域によってこの陽性率が違うことが分かった。アナフ
ィラキシーショックを回避するため、投与前に CAP―FEIA 法での α―gal 特異的 IgE の測定によるスクリーニングを開始し、
2013年11月より、α―gal 特異的 IgE 陰性例においてセツキシマブの投与を再開した。再開後の経過について報告する。
87
セツキシマブ放射線併用療法を行った16例における効果と有害事象の検討
○永野広海、宮本祐美、地村友宏、井内寛之、馬越瑞夫、牧瀬高穂、川畠雅樹、宮下圭一、原田みずえ、
黒野祐一
鹿児島大学
耳鼻咽喉科頭頸部外科
はじめに : 2012年12月よりセツキシマブ(以降 Cmab)が頭頸部悪性腫瘍治療において保険収載され、2013年2月より当
科でも使用を開始した。今回は Cmab 放射線併用療法症例(以降 BRT)の効果と有害事象に関して報告する。対象と方法 :
2013年2月から2014年12月まで当科で加療した BRT 施行症例を検討した。結果 : 当科にて BRT を施行した症例は16例であ
5歳(40∼82歳)であった。根治的に BRT を施行したのは11例で、術後に BRT を
った。男性12例、女性4例、平均年齢65.
施行したのは5例であった。効果判定は、CR9例、PR3例、SD2例、PD2例であった。考察 : 局所 MRSA 感染例と筋強
直性ジストロフィー進行例の2例以外では治療完遂が可能であった。根治的に BRT 施行した11例に限れば、CR7例、PR2
例、SD1例、PD1例で良好な結果であった。適応症例の検討と有害事象に対する対応をすることで BRT を安全かつ有効
に施行できるものと考えた。
88
当科における再発転移性頭頸部扁平上皮癌に対する Cetuximab の治療成績
○打田義則、大森裕文、末吉慎太郎、若崎高裕、力丸文秀、藤
九州がんセンター
賢史、檜垣雄一郎、益田宗幸
頭頸科
頭頸部癌に対する初の分子標的薬となる Cetuximab が承認された。当科では再発転移性頭頸部扁平上皮癌症例に対して、
EXTREME 試験、056試験を若干アレンジした方法で Cetuximab+FP 療法を施行している。今回当科の治療成績と今後の課
題に関して報告する。対象は2013年1月から2014年9月まで、当科で Cetuximab+FP 療法併用療法を行った再発転移性頭
、性別は男性/女性 : 19/2名、再発性 : 5例、転移性 :
頸部扁平上皮癌21例を対象とした。年齢は48∼78歳(中央値65歳)
16例であった。全生存期間中央値 : 7カ月、Cetuximab 投与中央値 : 8週(4∼28)
、化学療法クール数中央値 : 2クール
(1∼7)、Grade 3 以上の有害事象 : 8例、有害事象による治療中止 : 2例であった。当科の治療成績は重篤な有害事象は
少ないものの、EXTREME 試験、056試験より全生存期間は短い結果となった。治療評価間隔、レジメンの差、Cetuximab
および化学療法施行数が少ないことが考えられ、今後さらなる検討が必要と思われる。
118―501
日耳鼻
89
小児の嚥下造影による嚥下機能評価とその工夫
○井口貴史1)、安達一雄1)、梅崎俊郎2)3)、小宗静男1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、国際医療福祉大学2)、福岡山王病院
九州大学大学院医学研究院
音声嚥下センター3)
小児例において嚥下障害は、成人例と同様に生命に直結する問題である。原因として、中枢疾患や頭頸部癌術後が多数を
占める成人例とは異なり、児の未熟や先天的形態異常、神経・筋疾患、食道閉鎖等の奇形、精神心理的問題等多岐にわたっ
ているのが特徴的である。当科では嚥下の専門外来を設け、小児例についても多数の嚥下造影検査による評価を行ってき
た。以前に、小児例の嚥下動態の特異性および嚥下障害例の長期経過について研究発表を行った。小児例においては、
LEDT(喉頭挙上遅延時間)は成人に比して短縮傾向がみられ、解剖学的に咽頭管が短い小児例での新たな基準作りが必要
であることが認識された。また、原疾患および嚥下障害が重篤であるにもかかわらず、成人ではありえない経時的な嚥下機
能の改善傾向が多いことも判明した。今後は小児における嚥下機能評価標準化や小児嚥下障害例に対する訓練やケアのあり
方について検討する必要があると考える。今回、当科での検査の方法や工夫につき、実際の検査時の画像および過去の評価
のレビューを含めて発表する。
90
嚥下内視鏡・圧検査は嚥下造影検査の代替検査となり得るか?
○唐帆健浩1)、川原敬祐1)2)、佐藤哲也1)、甲能直幸1)
杏林大学
医学部
耳鼻咽喉科学教室1)、杏林大学医学部付属病院
摂食嚥下センター2)
嚥下造影検査は嚥下機能検査の gold standard とされるが、X線被曝を伴うため、頻回な検査は望ましくない。一方嚥下
内視鏡検査は、侵襲性は低いものの、咽頭駆出力を客観的に評価できない点、食道入口部の開大(弛緩)を観察できない点
等が欠点である。これを補うためにわれわれは、嚥下内視鏡検査に引き続いて、喉頭内視鏡観察下に径鼻的に嚥下圧センサ
ーを挿入し、咽頭および食道入口部の嚥下圧を測定し、嚥下機能評価の一助としている。咽頭収縮と食道入口部弛緩の評価
に関して、この嚥下内視鏡・圧検査が嚥下造影検査の代替検査となり得るかを検証するために、嚥下障害患者52例を対象と
した後ろ向き研究を行った。嚥下造影検査所見から、咽頭収縮良好群と不良群にわけ、関連する嚥下圧波形の指標との相関
を調べ、さらに ROC 解析を行った。同様に食道入口部開大所見についても解析した。嚥下内視鏡・圧検査にて、咽頭収縮
と食道入口部弛緩については、嚥下圧所見から嚥下造影検査所見を予想可能であり、嚥下造影検査の代替検査となり得る。
91
嚥下内視鏡検査の有用性についての検討
○安達一雄1)、梅崎俊郎1)2)、井口貴史1)、菊池良和1)、小宗静男1)
九州大学
医学部
耳鼻咽喉科1)、福岡山王病院
耳鼻咽喉科2)
(はじめに)嚥下内視鏡検査は簡便かつ有効な評価方法の一つとして、また、その機動性の点からも非常に多用される評
価方法である。過去の報告では嚥下造影検査と同様の評価が可能であるかのような報告もみられるが、ホワイトアウトなど
の欠点を抱えた検査方法であると思われる。
今回われわれは、嚥下造影検査をもとに、嚥下内視鏡検査の信頼性や意義について検討を行ったので報告する。
(方法)嚥下内視鏡検査および嚥下透視検査を行った同一患者について、誤嚥の有無、嚥下の惹起性、咽頭クリアランス、
誤嚥のタイプについての診断能力を検討した、また、一部の症例では内視鏡挿入下および非挿入下に嚥下造影検査を行うこ
とで、それぞれの比較を行い、その違いについて検討した。
(結果)嚥下内視鏡検査は嚥下機能が正常である場合の評価には有用であるが、嚥下機能が低下している場合は透視との
乖離がみられる場合があることが推測された。
92
岡山県内胃瘻造設術施行施設へのアンケートからみる嚥下機能評価における
耳鼻咽喉科医の役割
○西
和則、春名威範、牧野琢丸、三木健太郎、野田洋平、檜垣貴哉、菅谷明子、小野田友男
岡山大学
医歯薬総合研究科
耳鼻咽喉・頭頸部外科
高齢者への医療の場が病院から在宅へ移行する中、胃瘻造設数が増加している。このような状況下で平成26年診療報酬改
070点から6,
070点に減点され、さらに施設基準適合の未届け出では100分の80になる。減点を補
定において胃瘻造設術は10,
500点が新設された。胃瘻造設術施行施
うものとして、主に胃瘻造設術の必要性を判断する胃瘻造設時嚥下機能評価加算2,
設の嚥下機能評価における耳鼻咽喉科医の役割を調査するために、岡山 PEG・栄養研究会に参加している施設へ嚥下機能
評価の状況について2014年5月にアンケートを実施した。56施設から回答があり、胃瘻造設術を行っている施設は50、嚥下
機能評価が自院で可能な施設は46、この中で耳鼻咽喉科への紹介は10施設であった。また、日耳鼻岡山県地方部会会員の日
耳鼻嚥下講習会参加者に嚥下機能評価に取り組みに関してアンケートを行い、嚥下機能評価加算を実施可とした8施設を地
方部会のホームページに2014年4月から開示している。岡山県での胃瘻造設時嚥下機能評価における耳鼻咽喉科医の関与の
実態について報告する。
118―502
93
2015
嚥下障害医療における耳鼻咽喉科と多職種連携
○西山耕一郎1)、大田隆之2)、大上研二3)、折舘伸彦4)、飯田政弘3)、廣瀬
1)
2)
肇4)
3)
西山耳鼻咽喉科医院 、聖隷横浜病院耳鼻咽喉科 、東海大学耳鼻咽喉科 、横浜市立大学耳鼻咽喉科4)
【はじめに】日本は超高齢社会を迎え、嚥下障害例が増加している。当診療所では VF と VE を行い、嚥下機能評価と病
態診断を行っている。
【症例】60歳、男性。主訴 : 飲み込めない。経過 : 3年前脳出血。気管切開&胃瘻造設。1年前より
ゼリーを経口摂取するが、気管切開孔より喀出されていた。訪問 ST が精査を希望し、耳鼻咽喉科依頼となった。VF と VE
を ST 同席で行い、気管カニューレとリハビリテーション内容と食事内容を変更した。
【結果】過去8年間で ST との連携は
22症例、栄養士との連携は15例であった。
【考察】耳鼻咽喉科医師は、病態診断と嚥下機能評価を行えても、嚥下訓練や食
事栄養指導は不得手である。有効な対応を行うためには、多職種連携は必須である。そこで2011年より横浜嚥下障害症例検
討会を年2回開催し、症例を通して正しい知識に普及と忌憚なく意見が言える関係を構築している。
【まとめ】自然発生的
に、多職種との連携が形成された。多職種連携のためには、症例検討会が正しい知識の普及と共有に有効であった。
94
音声自己訓練法による肺炎の予防効果の検証 : Randomized Controlled Trial
○藤巻葉子1)3)、角田晃一1)、田中藤信1)、黒田浩之1)、沼田
1)
臼井智子 、橋本
3)
1)
1)
3)
3)
1)
省 、三澤逸人 、新藤彰人 、徳丸
勉2)、石井豊太1)、黒田令子1)、増田佐和子1)、
裕1)、上羽瑠美3)、菊田
周3)、二藤隆春3)、
近藤健二 、坂本幸士 、山岨達也
国立病院機構 「音声自己訓練法による肺炎の予防効果の検証」 研究班1)、三浦耳鼻咽喉科2)、
東京大学
医学部
耳鼻咽喉科学教室3)
背景 : 高齢化時代を迎えたわが国では、加齢により声門閉鎖不全を来す患者は増加傾向にある。声門閉鎖不全は誤嚥や誤
嚥性肺炎の原因となり得る。われわれは、高齢者の肺炎による入院率に対する音声自己訓練(self―controlled vocal exercise : SCVE)の効果を検証するため、ランダム化比較試験を計画した。方法 : 国立病院機構10施設において、嗄声や誤嚥
を主訴に来院した60歳以上の初診患者で、内視鏡下に声帯萎縮による声門閉鎖不全を認めた543人が研究に参加した。無作
為に介入群と非介入群に割り付けを行い、介入群には音声自己訓練(SCVE)を指導し、SCVE の DVD を渡した。訓練開始
から6カ月間に肺炎で入院した患者数を2群間で比較した。結果 : 2群間で患者の肺炎による入院数には有意な差が認めら
れた。結論 : 声門閉鎖不全のある高齢者において、SCVE 導入群は肺炎発症率が有意に低く、誤嚥性肺炎に対して経済的で
有効な予防法と考えられる。この研究は国立病院機構ネットワーク共同研究費で行われた。
95
多職種のチームアプローチにより経口栄養となったサルコペニアの 1 例
○大久保啓介、猪狩雄一、三橋正継
佐野厚生総合病院
耳鼻咽喉科
近年、治療による安静、絶食が原因で全身のサルコペニアが進行するケースが少なくない。われわれは腹膜炎の術後に進
行したサルコペニア性嚥下障害の患者が、チームアプローチにより約3カ月で3食経口摂取を獲得した症例を経験したので
報告する。91歳男性。入院前 ADL は自立。消化管穿孔、腹膜炎に対して当院外科にて手術。術後5日目に流動開始するも
むせあり。腹痛のため喀痰喀出困難となり術後8日目に流動食中止、耳鼻咽喉科依頼。著明な声帯萎縮による気息性嗄声あ
り。VE にて著明な誤嚥あり。声門閉鎖不全に対して局麻下経皮的声帯内 BIOPEX 注入術施行。その後も嚥下障害が続き直
接訓練は不可。病棟での起立着座練習、口腔ケアの徹底、アロマオイル、黒こしょう投与、NST 介入、歯科による義歯作
成を経て、術後71日目に VF 施行したところ、完全側臥位でゼリーおよび濃いトロミであれば摂食可能と判断し、同日昼よ
りゼリーによる摂食を開始した。その後段階的摂食訓練を行い、術後108日目に3食嚥下食経口摂取となり、点滴終了。
96
嚥下訓練開始時の状態と嚥下ケア効果の関連性について
―当院の嚥下訓練開始条件の意義の検証―
○丸山裕美子1)、塚田弥生1)、笠原善弥1)2)、南部亮太1)2)、吉崎智一2)
黒部市民病院
耳鼻いんこう科1)、金沢大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
【はじめに】当院嚥下ケアチームでは嚥下訓練開始の条件として ⑴ 本人に「食べたい」という意欲があること ⑵ 著し
い意識障害がないこと ⑶ 半座位の姿勢が可能であることの3点を掲げている。しかし実際には条件を満たさないまま嚥下
訓練を開始する症例も認められる。当院における嚥下訓練施行症例を振り返るとともに、嚥下訓練開始時の状態と訓練効果
との関連性を検討したのでここに報告する。
【対象と方法】2006年度から2013年度の期間に嚥下訓練を施行した884例を対象
とした。統計学的検索は Wilcoxon 検定を用い p<0.
05 を有意と判断した。
【結果】884例中男性63%、女性37%、平均年齢
5歳であり、紹介元科は上位から内科、脳外科、神経内科の順であった。当院嚥下ケアチームで設定した3つの条件の
は78.
達成レベルと嚥下リハ後の経口摂取の達成率との関連について検討したところ、各条件を満たしている群において有意差を
もって経口摂取達成率が高いことが確認された。
118―503
日耳鼻
97
延髄梗塞後の嚥下障害に対する食道入口部バルーン拡張療法は是か非か?
○三枝英人1)、門園
東京女子医科大学
修1)、武藤博之2)、伊藤裕之3)
耳鼻咽喉科1)、千葉山王病院耳鼻咽喉科2)、
八千代医療センター
3)
日本医科大学大学院感覚器・頭頸部外科学
延髄梗塞による嚥下障害の病態は、嚥下運動が全く起こらない、異常な咽頭蠕動波が出現し早期に輪状咽頭筋の再収縮が
起こる、輪状咽頭筋が弛緩するべき時に異常収縮するなどの嚥下運動パターンの異常、咽喉頭挙上運動の左右差により咽頭
腔に対して喉頭枠組みが斜めに傾いた位置関係になるなどにより食道入口部の開大が障害されることによる。従って、食道
入口部は“機能的に”開大しないだけであって、器質的に開大しない訳では決してない。最近、嚥下障害の治療として、食
道入口部バルーン拡張療法が提唱され、その有効例も報告されている。しかし、上記の病態生理を考えると延髄梗塞による
嚥下障害例についての効果には疑問を持たざるを得ない。今回、私達は延髄梗塞後に発症した嚥下障害に対して他院でバル
ーン拡張療法を行うも改善しなかった症例につき、病理学的に輪状咽頭筋∼頸部食道上部輪状筋の断裂・線維化による瘢痕
形成が原因であったことが明らかになった症例を経験したので報告する。
98
喉頭蓋基部を牽引し下顎骨に固定する低侵襲な喉頭挙上術の検討
愛1)、本藏陽平1)、高梨芳崇1)、渡邊健一1)、小倉正樹2)、香取幸夫1)
○河本
耳鼻咽喉頭頸部外科1)、仙台市立病院
東北大学病院
耳鼻いんこう科2)
喉頭挙上術は本邦において最もよく行われている嚥下機能改善手術の一つであり、喉頭を前上方に牽引することで誤嚥し
にくい形状を形成すると共に食道入口部の開大の効果を得る術式である。術後の気道狭窄が危惧されるため、気管切開が併
施されることが多い。喉頭の牽引材料には糸、ワイヤー、テープなどが用いられるが、異物を頸部に留置することによる死
腔の形成、術後感染が問題となる。われわれは、より低侵襲な方法として甲状軟骨の上端から糸を喉頭蓋基部に穿刺して牽
引、上顎骨に固定する方法で、3症例に対して喉頭挙上術を行った。いずれも術前の認知機能は正常で中等度の咽頭期障害
を有する症例であった。2症例には輪状咽頭筋切断術を追加した。3症例とも術後に喉頭浮腫は認められず、気管切開の実
施は不要であった。術後のリハビリテーションを経て、術前よりも咽頭クリアランスの改善が得られた。本術式は気管切開
を要さず低侵襲であり、術後感染、死腔形成の予防に関しても有効な術式であると考えられた。
99
当科における誤嚥防止術の検討―臨床的検討と患者家族へのアンケート評価について―
○河本勝之、藤原和典、横山裕子、北野博也
鳥取大学
医学部
感覚運動医学講座
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野
誤嚥防止術は解剖学的に誤嚥がなくなるように気道と食道とを分離する手術である。基本的には経口摂取をするための手
術ではないが、気道が確保されているために嚥下機能が残存している場合には経口摂取ができる場合もあるが、原疾患の予
後に左右されることが多く、その長期経過としては不明な点も多い。
われわれが過去10年間で行った誤嚥防止術は82例。最年少で生後5カ月、最高齢で95歳である。術式は主に声門下喉頭閉
鎖術、喉頭気管分離術、喉頭全摘出術であり、患者の全身状態と希望に応じて局所麻酔、全身麻酔を選択している。県外
等、遠方の病院からの手術依頼で、患者の移動が困難な場合は往診での手術を行っている。
われわれが行った誤嚥防止術例において、術後の呼吸や摂食状況などについて検討した。また実際に手術を受けた患者や
家族にアンケートを行い、本手術を受けるにあたりどう思われたか、また術後の生活状況等について調査したので報告す
る。
100
重症誤嚥に対して声門閉鎖術を施行した 6 例
○江川峻哉1)、石橋
小田原市立病院
淳1)、高橋
1)
郷1)、寺崎雅子1)、櫛橋幸民2)、嶋根俊和3)
耳鼻咽喉科 、山梨赤十字病院
耳鼻咽喉科2)、昭和大学
頭頸部腫瘍センター3)
近年、嚥下障害に対する外科的治療には、障害された嚥下機能を補い、誤嚥を消失あるいは軽減させ、経口摂取を可能に
することを目的とした嚥下機能改善手術と、高度嚥下障害における嚥下性肺炎を回避することを目的とした誤嚥防止手術と
して広く認知されるようになってきた。難治性誤嚥に対する外科的治療の中で、気管と食道を分離し誤嚥を防止する手術を
総称して誤嚥防止手術と呼び、その適応は重症誤嚥患者に限られる。誤嚥防止手術の術式は1975年に Montgomery によっ
て報告されて以来、喉頭全摘出術のほかに、仮声帯閉鎖術、声門閉鎖術、喉頭気管分離術、気管食道吻合術などさまざまな
方法が試みられてきた。今回われわれは平成25年11月から平成26年11月までの12カ月で鹿野らが報告した輪状軟骨鉗除を併
用する声門閉鎖術を重症誤嚥患者6症例に対して施行し良好な結果を得られたので報告する。
118―504
101
2015
神経筋疾患における簡易的喉頭気管分離術の施行経験について
○内藤理恵、渡辺由季、内藤
東京都立神経病院
玲
神経耳科
【はじめに】従来の喉頭気管分離・気管食道吻合術は、誤嚥防止効果が確実で、可逆的な術式であり、術後声帯発声が可
能となる場合があるものの、気管食道吻合時の術野確保の制約や、術後気管食道吻合部の鎮静の必要性、などの問題点もあ
った。近年当院では、適応範囲が広く、低侵襲の簡易的喉頭気管分離術を施行したので報告する。
【対象と方法】対象は、2011年1月から2014年11月までに、当科にて簡易的な喉頭気管分離術を施行した23例で、年齢は、
2∼76歳である。初回手術例は17例、気管切開後症例は6例であった。初回手術例では、輪状軟骨下縁レベルで気管開窓を
行うと同時に、声門下喉頭粘膜を全周性に切開剥離し、声門下レベルで縫合閉鎖した後、皮膚筋弁で被覆・圧迫固定して、
喉頭と気管とを分離した。
【結果】術後、唾液漏を認めた症例は認めなかった。術後創傷処置を要した日数は短縮された。
【結論】本法は、適応症例が広い上に、低侵襲で、術後合併症が非常に少なく、チーム医療をより円滑に行う上でも有用
と思われた。
102
喉頭癌 T1 症例の臨床的検討
○水町貴諭、中薗
北海道大学
彬、溝口兼司、坂下智博、加納里志、畠山博充、本間明宏、福田
大学院
医学研究科
諭
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野
【はじめに】喉頭癌は早期の段階で診断されれば喉頭温存が可能で予後も良好であるが、局所再発した際には喉頭全摘が
必要となる場合もある。
【対象】2001年1月から2012年12月までの12年間に当院にて根治治療を施行した喉頭癌 T1 症例108
例。男性99例、女性9例、年齢は22∼86(中央値67)歳、全例 N0M0 であった。観察期間の中央値は60.
7カ月であった。
【結果】初回治療として放射線療法を行ったのが88例、喉頭直達鏡下手術を行ったのが20例であった。全症例の5年粗生存
5%で、原病死したのは2例であった。放射線療法を行った88例のうち10例が局所再発し、4例に喉頭全摘術を施行
率は95.
【結論】喉頭癌 T1 症
した。喉頭直達鏡下手術を施行した20例のうち4例が局所再発し、3例は放射線療法にて救済した。
例は局所制御、生存率ともに良好であった。放射線療法は喉頭直達鏡下手術に比べ再発率は低かったが、再発が発覚した時
点において喉頭全摘が必要となる場合もあった。喉頭直達鏡下手術は放射線療法に比べ局所再発率は高かったが、放射線療
法での救済が可能であった。
103
当科における早期声門癌の検討
○南部亮太1)2)、中西庸介1)、辻
金沢大学
医薬保健学域
亮1)、遠藤一平1)、近藤
医学類
耳鼻咽喉科
悟1)、脇坂尚宏1)、室野重之1)、吉崎智一1)
頭頸部外科1)、黒部市民病院
耳鼻いんこう科2)
喉頭癌は頭頸部癌で最も頻度が高く、特に声門癌は早期発見と治療が可能なことから生命予後が比較的良好とされてい
る。しかし、局所再発は、患者の QOL の低下を招くために、初回治療がより重要となる。当科において初回治療を施行し
、性
た早期声門癌の81症例を retrospective に検討した。期間は2004年2月から2014年6月、年齢は35∼88歳(中央値68歳)
別は男性78例、女性3例、T因子は Tis : 7例、T1a : 47例、T1b : 13例、T2 : 14例、平均観察期間は37カ月、組織型は全例
扁平上皮癌であった。局所制御率、喉頭温存率、全期間生存率をカプランマイヤー法によって算出した。局所制御率は Tis
/T1a/T1b/T2=100/77/75/75%、喉頭温存率は Tis/T1a/T1b/T2=100/95/91/86%、全期間生存率は Tis/T1a/T1b/T2=100
/93/100/92% であった。また、T1a 症例に関しては、経口的レーザー切除術と放射線療法の治療成績は同等であった。こ
れらの結果を踏まえ、文献的考察を加えて報告する。
104
局所進行喉頭癌における喉頭温存治療方針の変遷に伴う治療成績の変化
○松居秀敏、岩江信法、平山裕次、米澤宏一郎、林
兵庫県立がんセンター
拓二、蓼原
瞬
頭頸部外科
はじめに : 局所進行喉頭癌に対して近年喉頭温存の要望は高まっている。しかし、喉頭温存治療により長期生存率が低下
する可能性も指摘されている。目的 : T3―T4 喉頭癌に対して、原則的に喉頭全摘を行ったA期(2000年から2005年)と、喉
頭温存を志向した治療を積極的に組み入れたB期(2005年から2012年)の治療成績について検討する。対象 : 2000年から
2012年の間に当科で初回治療を施行した喉頭扁平上皮癌 T3―4症例 63例。A期は T3 8例
29例
T4 9例
計17例で、B期は T3
T4 17例 計46例で、観察期間中央値はA期/B期が60カ月/42カ月であった。A期の初回治療は全摘/CRT/RT が14
例/2例/1例、B期は全摘/亜全摘/部分切除/CRT が25例/10例/1例/10例であった。結果 : 5年全生存率はA期/B期が
70%/63%、5年喉頭温存率はA期 T3/A期 T4/B期 T3/B期 T4 が0%/0%/41%/21%、5年喉頭機能温存(生存・無再
発・外食可能・気管孔なし)率はA期 T3/A期 T4/B期 T3/B期 T4 が0%/0%/20%/18%であった。考察 : 喉頭温存治療
を志向しても、生存率の低下なく喉頭温存率の向上が可能であった。
118―505
日耳鼻
105
当科における喉頭癌の臨床検討
○舘田
勝、池田怜吉、森田真吉、大越
明、橋本
省
仙台医療センター耳鼻咽喉科頭頸部外科
2000年から2012年までに当科で治療した喉頭癌134例について検討した。男性120例、女性14例、年齢は平均68歳(28∼92
歳)、部位は声門94例、声門上31例、声門下9例であった。ステージ分類は0 : 9例、Ⅰ : 55例、Ⅱ : 40例、Ⅲ ; 8例、Ⅳ :
22例であった。観察期間は中央値36.
1(0.
5∼174.
6)カ月で全体の粗5年生存率は70.
7%であった。部位別の粗5年生存率
2%、声門上46.
5%、声門下16.
9%であった。ステージ別の粗5年生存率は0: 83.
3%、Ⅰ : 87.
6%、Ⅱ : 62.
1%、
は声門83.
3%、Ⅳ : 30.
2%であった。当科では Tis、T1 症例には、放射線治療とレーザー切除を施行している。当科の今後の
Ⅲ : 83.
問題点につき検討し報告する。
106
当科における喉頭癌に対する喉頭温存治療戦略
○藤井
隆、喜井正士、鈴木基之、音在信治、貴田紘太、須川敏光、北村公二、金村
大阪府立成人病センター
亮、小池良典
耳鼻咽喉科
T1 症例では根治照射(RT)で約90%の局所制御が得られ、予後と QOL の両立が可能となっている。一方、明らかな T4
症例では生命予後が優先され、多くの場合喉頭全摘が第一選択となる。喉頭癌の約半数を占め良好な予後が見込める T2/
T3 症例における喉頭機能温存は今なお重要なポイントである。2005年以前の RT の局所制御率は、T2 68%、T3 49%と満
足できるものではなかったため初回治療として喉頭温存手術も行っていたが、2008年以降の化学放射線療法(CRT)の局所
制御率向上により治療戦略を修正してきた。2008∼2012年に CRT(3週毎の CDDP80mg/m2 同時併用)を施行した T2/T3
症例44例のうち局所再発は4例のみで、3年喉頭温存生存率は91%であった。また、同時期の喉頭温存手術25例はいずれも
RT/CRT 後の救済手術であったが、再発は声門癌 rT2 の気管周囲リンパ節1例のみであった。CRT の過度の適応拡大が生
命予後低下を来すことは危惧されることであるが、RT/CRT と喉頭温存手術の両方をうまく組み合わせることで、さらに高
い喉頭機能温存が可能になると思われる。
107
低用量のナローバンド UVB はヒスタミン H1 受容体遺伝子発現を
波長特異的、用量依存的、可逆的に抑制する
○藤井達也1)、北村嘉章1)、水口博之2)、福井裕行3)、武田憲昭1)
徳島大学
医学部
耳鼻咽喉科1)、徳島大学
徳島大学
大学院
ヘルスバイオサイエンス研究部
薬学部
分子情報薬理学2)、
分子難治性疾患学3)
ナローバンド UVB 光線療法は、皮膚の免疫アレルギー疾患である乾癬やアトピー性皮膚炎などの治療に有効である。こ
の光線療法をアレルギー性鼻炎の治療に応用する目的で HeLa 細胞を用いて 310nm のナローバンド UVB の PMA 刺激によ
る H1R遺伝子発現亢進の抑制効果を検討した。200mJ/cm2 以下の用量では 310nm のナローバンド UVB はアポトーシスを
誘導せず、用量依存性に H1R遺伝子発現亢進を抑制した。さらに、310nm のナローバンド UVB を 100mJ/cm2 の用量で
HeLa 細胞に照射した後3時間までは H1R遺伝子発現亢進が抑制されたが、6時間で効果が消失していた。以上の結果か
ら、310nm のナローバンド UVB は、200mJ/cm2 以下の低用量において H1R遺伝子発現シグナル伝達経路に、波長特異性
および用量依存性、可逆性に影響を与えたと考えられた。低用量の 310nm のナローバンド UVB を鼻粘膜に照射することに
より、アレルギー性鼻炎の治療に応用できる可能性が示唆された。
108
マウス線維芽細胞における IL―33 遺伝子発現亢進機構
○北村嘉章1)、藤井達也1)3)、水口博之2)、福井裕行3)、武田憲昭1)
徳島大学大学院
ヘルスバイオサイエンス研究部
耳鼻咽喉科学分野1)、
徳島大学大学院
ヘルスバイオサイエンス研究部
分子情報薬理学分野2)、
徳島大学大学院
ヘルスバイオサイエンス研究部
分子難治性疾患学分野3)
スギ花粉症患者の血清 IL―33 値は健常人に比べて優位に高値を示し、IL―33 の遺伝子多型はスギ花粉症の発症と関連する
ことが報告されている。IL―33 は核内に蓄えられ、細胞障害により放出されるとされてきたが、近年、樹状細胞や肥満細胞
において誘導型 IL―33 の存在が報告された。われわれの以前の研究から、スギ花粉症患者の末梢血好酸球数と鼻粘膜 IL―33
遺伝子発現レベルが強く相関してした。そこで、IL―33 遺伝子の発現調節機構を解明し、その発現を抑制することがアレル
ギー性炎症の治療に重要であると考え、IL―33 発現機構について検討した。マウスの線維芽細胞株の Swiss3T3 細胞に対し
て、プロテインキナーゼC活性化剤である PMA で刺激すると IL―33mRNA 発現が優位に亢進した。この PMA 刺激による
IL―33mRNA 発現の亢進は PKCδ 阻害薬と HSP90 阻害薬にて抑制された。以上より、IL―33 遺伝子発現亢進機構には PKCδ
および HSP90 が関与していることが明らかとなった。
118―506
109
2015
外来環境因子による IL―18 放出のメカニズム
○神前英明、戸嶋一郎、清水志乃、清水猛史
滋賀医科大学
医学部
耳鼻咽喉科
(はじめに)IL―18 は自然型アレルギーの誘導因子である。好酸球性副鼻腔炎での関与が示唆されている。しかし、抗原
(対象と方法)正常気道上皮細胞(NHBE)
刺激による上皮細胞からの IL―18 産生のメカニズムは十分に分かっていない。
を培養し、モデルプロテアーゼ、各種抗原、TLR リガンドで刺激し、IL―18 の産生を測定した。さらに、黄色ブドウ球菌由
来のプロテアーゼの刺激にかかわる受容体について、生化学的手法や siRNA を用いて検討した。また、マウスに抗原点鼻
(結果)NHBE へのモデルプロテアーゼや各種抗原刺激により、IL―18 が放出され
を行い IL―18 放出についても検討した。
た。黄色ブドウ球菌由来のプロテアーゼによる IL―18 産生は特異的 P2X7 受容体遮断薬では抑制されなかったが、P2Y2 受
容体拮抗薬や siRNA による P2Y2 受容体のノックダウンで抑制された。In vivo では、刺激後10分で BAL 中に IL―18 が確認
(考察)気道上皮細胞の抗原刺激による IL―18 誘導は、P2Y2 受
され、広域 P2 受容体抑制剤にて、IL―18 放出は低下した。
容体依存的に放出されることが示唆された。
110
IL―35 によるアレルギー性鼻炎の制御
○横田
誠、鈴木元彦、中村善久、尾崎慎哉、村上信五
名古屋市立大学
医学部
耳鼻咽喉科
【はじめに】アレルギー性鼻炎は、制御性細胞T(Treg)、IL―4・IL―5・IL―13・IFN―gamma、IL―10 をはじめとするサイ
トカイン等のバランスが障害され発症する。また、近年注目されている IL―35 は、Treg から産生され、Treg が免疫抑制活
性を発揮するのに重要な役割を果たしている。今回、われわれはアレルギー性鼻炎モデルマウスの脾臓細胞に対して IL―35
を投与し関連するサイトカインへの影響を検討したので報告する。
【方法】卵白アルブミン(OVA)による感作と点鼻を施
行したアレルギー性鼻炎モデルマウスから採取した脾臓細胞に IL―35 を添加して、IL―4・IL―5・IL―10・IL―13・IFN―γ 産生
【結果】IL―35 は有意に OVA 抗原特
の変化を測定した。また、IL―35 による OVA 抗原特異的T細胞反応への影響も調べた。
異的T細胞反応を抑制した。また、IL―35 は有意に Th2 サイトカイン(IL―4、IL―5、IL―13)の産生を抑制した。しかし、
IFN―gamma の産生において有意な変化は認められなかった。さらに、IL―35 は有意に IL―10 の産生を増強した。
111
アレルギー性鼻炎モデルマウスにおける IL―35 と IL―12 ファミリーサイトカイン
○鈴木元彦、中村善久、尾崎慎哉、横田
名古屋市立大学大学院
医学研究科
誠、村上信五
耳鼻咽喉・頭頸部外科
はじめに : IL―12、IL―23、IL―27 は IL―12 ファミリーに属するサイトカインであるが、近年 IL―35 という新しい IL―12 フ
ァミリーサイトカインが発見された。IL―35 は、制御性T細胞(Treg)より産生され、Treg の免疫制御機能に関与するこ
とで大変注目されている。今回、私たちはアレルギー性鼻炎モデルマウスを用いて IL―35 によるほかの IL―12 ファミリーサ
イトカインへの影響を調べたので報告する。方法 : 卵白アルブミン(OVA)による感作と点鼻を施行したアレルギー性鼻
炎モデルマウスから採取した脾臓細胞に IL―35 を添加して、IL―12、IL―23、IL―27 産生の変化を測定した。結果および考察 :
IL―35 による IL―12 産生の有意な変化はみられなかったが、IL―23 産生は IL―35 により有意に抑制された。また、IL―35 は有
意に IL―27 産生を増強した。本実験結果より IL―35 が IL23 の抑制と IL―27 の増強を介してアレルギー性鼻炎を制御してい
る可能性が示された。
112
アレルギー性鼻炎モデルマウスに対するボツリヌス毒素 A 型の有効性について
○青石邦秀1)、羽藤直人2)、高橋宏尚3)、暁
市立宇和島病院
1)
清文3)
耳鼻いんこう科 、愛媛大学
医学部
耳鼻咽喉科頭頸部外科2)、鷹の子病院
耳鼻咽喉科3)
花粉症を含めアレルギー性鼻炎の治療法は、抗原除去、回避を基本とし、薬物療法(第2世代抗ヒスタミン薬や点鼻ステ
ロイド)
、手術療法、免疫療法などが行われている。一方で、日常診療においては、個々の患者の病態、重症度、生活様
式、年齢によって最適な治療法を選択することが求められ、薬物療法以外のこれまでにない新しい治療法の確立が検討され
ている。近年臨床において、アレルギー性鼻炎患者に対しボツリヌス毒素を鼻内に投与し、その有効性を検討した報告が散
見されるようになった。ボツリヌス毒素は顔面痙攣や斜頸などにおいては、その有用性が臨床上確立されている。われわれ
はアレルギー性鼻炎モデルマウスを使用し、ボツリヌス毒素A型を投与し、その有効性について検討し、生理学的および組
織学的検討を行い若干の知見を得たので報告する。
118―507
日耳鼻
113
花粉症治療米を用いた経粘膜的免疫療法の開発―マウススギ花粉症モデルでの実験的検討―
○川内秀之1)、屈
島根大学
医学部
銀斐1)、高岩文雄2)、山田高也3)、青井典明1)、森倉一朗1)、淵脇貴史1)、堀田優希江1)
耳鼻咽喉科1)、農林水産省生物資源研究所2)、島根大学総合科学実験センター実験動物部門3)
われわれは、過去10年にわたり、スギ花粉症治療米を用いて、経口免疫療法あるいは舌下免疫療法のマウススギ花粉症モ
デルにおける鼻症状の抑制効果について検討してきた。本発表では、T細胞エピトープのみを用いた研究の優位性と共に、
これまで行ってきた研究成果を包括的に報告する。方法 : Balb/c マウスを用いて、スギ花粉抽出物で全身感作を行う前に、
2種類(3C7C と 99―3C)の治療米を経口投与もしくは舌下投与する実験系を組み、誘導相における経口免疫療法と舌下免
疫療法の有効性を検討した。さらに、免疫療法に用いる花粉症治療米の有効投与量を減らすべく、T細胞エピトープが蓄積
した PB 分画のみを経口投与して、通常の治療米との間で比較検討し、その優位性を確認した。結果 : CTB を結合するこ
とにより、経口あるいは舌下で使用する治療米の濃度を少なくすることができることが証明された。鼻粘膜の組織学的検討
においても、免疫療法を施行し鼻症状の抑制ができたたマウスでは、好酸球の浸潤が減少し、上皮の障害が少ないことが示
された。
114
マウスにおける local―allergic―rhinitis の検討
○加藤幸宣、藤枝重治
福井大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
従来のアレルギー性鼻炎モデルマウスを用いた研究では、抗原の腹腔内投与による全身感作後、同抗原を経鼻投与すると
いった方法が用いられてきた。このモデルは元来アトピー体質を持つ個人におけるアレルギー性鼻炎の発症を主な対象とし
ている。今回われわれは、従来のモデルとは異なる方法を確立した。抗原の腹腔内投与による前感作を行わずに、直接、ナ
イーブマウスにブタクサ花粉の経鼻投与を3週間行った。感作のない状態における連続的な経鼻投与は、マウスのくしゃみ
回数上昇、鼻局所での IgE 陽性、血清 IgE 陰性といった、近年新たに提唱された local allergic rhinitis とよく似た病態を誘
導した。そして、さらなる抗原の曝露により血清 IgE の上昇を認め、アレルギー性鼻炎を誘導した。つまり、元来全身感
作のない状態においても抗原の曝露によりアレルギー性鼻炎を発症し得ると考えられた。われわれはこの新規アレルギー性
鼻炎モデルマウスを用いて、非アトピー患者における、抗原の経鼻感作によるアレルギー性鼻炎の発症に関する病態を検討
したので報告する。
115
アレルギー性鼻炎の診断と下鼻甲介粘膜局所での抗原特異的 IgE 抗体産生
○石田麻里子1)、若山
望1)、関根久遠1)、山口
日本医科大学武蔵小杉病院
1)
智1)、松根彰志1)、大久保公裕2)
耳鼻咽喉科 、日本医科大学付属病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
(緒言)日常診療で、アレルギー性鼻炎様の症状を有するもアトピー性の証明ができない症例がある。この中に、下鼻甲
介粘膜局所で抗原特異的 IgE 抗体産生を認める症例が存在するとの報告があり Local Allergic rhinitis(LAR)という概念が
提唱されている。わが国での実態は未詳の点が多いため、今回、鼻閉・鼻汁等の症状があり、下鼻甲介粘膜切除術を施行し
た手術症例を対象に以下の検討を行った。
(方法)術前に問診票記入、鼻汁好酸球数、RIST 値、RAST 値(14項目)を測
定。手術時に下鼻甲介粘膜を採取。PBS 内ですり潰して上清を採取し、特異的 IgE 値(HD、ダニ、スギ、ヒノキ)をイム
ノキャップ法で測定した。組織学的に好酸球浸潤、免疫組織染色で IgE 産生細胞の局在、肥満細胞・樹状細胞・マクロフ
ァージの有無や局在を観察した。
(結果・考察)ヒト下鼻甲介粘膜は特異的抗体産生を認める場であると同時に、アレルギ
ー性炎症と関連して樹状細胞やマクロファージ等の抗原処理能を有する細胞の分布など、大変興味深い知見が得られたの
で、文献的考察を加えて報告する。
116
ヒト鼻粘膜におけるアドレナリン α 受容体サブタイプの局在
○白崎英明、才川悦子、菊池めぐみ、氷見徹夫
札幌医科大学
医学部
耳鼻咽喉科
【目的】アドレナリン α 受容体作動薬は、鼻局所の血管収縮薬として古くから耳鼻咽喉科診療に重要な薬剤である。点鼻
薬のみならず、近年は経口アドレナリン α 受容体作動薬を含有している薬剤(ディレグラ)が日常臨床に用いられている。
ディレグラは鼻閉を改善するが、他剤無効の難治性鼻汁分泌過多症例に著効することをしばしば経験する。そこで、鼻線や
上皮の杯細胞などの腺分泌細胞自体にアドレナリン α 受容体が発現しているかを調べる目的で、今回免疫染色にて検討し
た。【方法】手術時に得られた下鼻甲介粘膜に対し、各種アドレナリン α 受容体サブタイプに対する抗体を用いて免疫染色
にて受容体発現の局在について解析した。
【結果】α1D 受容体は、上皮と粘膜下腺細胞と血管内皮に発現を認めた。α2C 受
容体は容積血管の血管平滑筋に発現を認めた。
【結論】アドレナリン α 受容体は鼻粘膜の血管のみならず腺分泌細胞に発現
し、腺分泌機能の調節に関与している可能性が示唆された。ほかの α 受容体サブタイプと β2 受容体については現在検討中
である。
118―508
117
2015
miRNA―146a はヒト鼻粘膜バリアを調節する
○宮田
遼、角木拓也、野村一顕、小笠原徳子、大國
札幌医科大学
医学部
毅、高野賢一、氷見徹夫
耳鼻咽喉科
近年、microRNA
(miRNA)によるさまざまな病態への関与が報告されている。しかし、鼻粘膜において、バリア機能を
担うタイト結合および刺激により産生する炎症性サイトカインにおける miRNA の役割はいまだ不明である。今回われわれ
は、手術で得られた下鼻甲介粘膜から分離培養したヒト鼻粘膜上皮細胞を用いて miRNA の役割を検討した。TLR3 リガン
ドの poly(I : C)を処置して miRNA アレーを行った結果、数十種の miRNA の発現変化がみられた。特に上昇のみられた
miR―146a は、TLR3 のシグナル伝達経路により調節されていた。miR―146a の mimic 処置により、タイト結合蛋白の発現誘
導およびバリア機能の亢進がみられた。さらに、miR―146a の mimic は、poly(I : C)処置によるタイト結合蛋白、炎症性
サイトカインの変化および TRAF6 の発現を抑制した。以上より、miR―146a を調節することは、鼻粘膜バリアを介した防御
機構に重要である。本研究は本学フ研細胞科学部門、小島隆教授との共同研究である。
118
鼻粘膜上皮細胞のタイト結合分子 claudin をターゲットとした drug delivery system の構築
宗1)2)、角木拓也2)、宮田
○計良
帯広協会病院
遼2)、野村一顕2)、小幡和史2)、氷見徹夫2)
1)
耳鼻咽喉科 、札幌医科大学
耳鼻咽喉科2)
タイト結合の構造上必要不可欠な claudin(CLDN)は、食中毒の起因菌の一つであるウェルシュ菌の毒素である Clostridium perfringens enterotoxin
(CPE)の受容体となっている。最近、CPE のC末断片 C―CPE が、細胞障害を伴わずにラット
000の FD―4 の透過性を亢進させることが分かり、CLDN―4 との結合性においてN末端10アミノ酸を欠損さ
空腸で分子量4,
せた変異体 C―CPE―194 が最も優れていることが報告された。さらに近年、CLDN binder スクリーニング系を用いて
CLDN―1 に結合性を有する C―CPE 変異体 C―CPE―194―m19 が発見された。今回われわれは、鼻粘膜の CLDN をターゲット
とした drug delivery system の構築の基礎研究として、C―CPE―194 と C―CPE―194―m19 を用いてヒト鼻粘膜上皮細胞のバ
リア機能およびタイト結合分子への影響を詳細に調べた。その結果、C―CPE によるヒト鼻粘膜上皮バリア機能の低下は
CLDN の発現および局在の変化を伴わず、主に MAPK 経路を介して調節されていることが分かった。本研究は本学フロン
ティア研究所細胞科学部門、小島隆教授との共同研究である。
119
ヒト口蓋扁桃に存在する濾胞ヘルパー T 細胞の機能制御機構の解明
○山下恵司1)2)3)、川田耕司3)、實川純人1)3)、長屋朋典1)3)、松宮
1)
札幌医科大学
医学部
耳鼻咽喉科 、函館五稜郭病院
札幌医科大学
フロンティア医学研究所
弘1)、亀倉隆太1)3)、一宮慎吾3)、氷見徹夫1)
耳鼻咽喉科2)、
免疫制御医学部門3)
口腔咽頭領域は、絶えず外来抗原がアクセスするため、リンパ組織が非常によく発達し、特に口蓋扁桃は免疫監視や生体
防御の初動的役割を果たすため、さまざまな免疫細胞が集積し機能している。われわれは口蓋扁桃組織に、抗原特異的な液
性免疫の成立に深くかかわるエフェクターヘルパーT細胞である濾胞ヘルパーT細胞(Follicular helper T cells : Tfh)が豊
富に存在することを報告した。SLE や Sjogren 症候群などの自己免疫性疾患が、Tfh 細胞の異常に関係するとの報告がされ
てきているが、ヒト Tfh 細胞の機能制御機構に関してはいまだ不明な点が多く残されている。われわれは口蓋扁桃や胸腺組
織を用いてトランスクリプトーム解析を行い、転写制御因子である POU2AF1 が扁桃 Tfh 細胞に高発現していることを認め
た。さらに外来抗原で免疫した POU2AF1 遺伝子欠損マウスと野生型マウスを用い、POU2AF1 により制御されている因子
について検討した。Tfh 細胞の機能制御機構をさらに検討することによって、自己免疫疾患や免疫アレルギー疾患の病態解
明が期待される。
120
C 型レクチン Dectin―1 を介するマスト細胞の活性化機構
○木村幸弘、藤枝重治
福井大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
真菌細胞壁成分を認識する Dectin―1 は、樹状細胞などにおいて Syk を活性化しサイトカイン産生を促進する。近年マス
ト細胞において Dectin―1 の発現が確認されたが、機能は不明である。われわれは真菌感染防御におけるマスト細胞の役割
を理解するため、マスト細胞における Dectin―1 シグナル伝達を解析した。ラットマスト細胞株 RBL―2H3 を Dectin―1 の特
異的アゴニスト Curdlan で刺激すると、細胞内蛋白質のチロシンリン酸化が認められた。Curdlan 刺激による細胞内蛋白質
のチロシンリン酸化や Dectin―1 と Syk との会合は、Dectin―1 の HemITAM に依存していた。Curdlan 刺激による遺伝子発
現の変化をマイクロアレイ、リアルタイム PCR により解析すると、TNF―α、IL―4、IL―13、MCP―1、Nfkbiz 等の遺伝子発
現増強が認められ、これらはすべて Syk 阻害薬 R406 により抑制された。Dectin―1 を介するマスト細胞の活性化には Syk が
中心的役割を担うと考えられた。また Curdlan 刺激により発現誘導される遺伝子群は樹状細胞などと異なっており、新たな
観点からの真菌感染防御機構の解明が期待される。
118―509
日耳鼻
121
Pneumococcal surface protein A
(PspA)の舌下投与による
マウス鼻腔内の肺炎球菌コロニー定着抑制の検討
○池田頼彦1)、宮前吉宏1)、河野
1)
洋1)、湯浅
1)
純1)、土橋重貴1)、武田早織1)、玉川俊次1)、平岡政信1)、山内一真1)、
2)
戸川彰久 、保富宗城 、藤橋浩太郎 、山中
和歌山県立医科大学
昇1)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、アラバマ大学バーミングハム校小児歯科2)
医学部
【はじめに】従来、肺炎球菌ワクチンの研究は経鼻免疫による検討が行われてきたが中枢神経系への副作用(顔面神経麻
[Poly
痺)が報告されて以来、近年、安全面から舌下免疫が注目されている。今回われわれは Polyinosinic―polycytidylic acid
(I : C)]をアジュバントに肺炎球菌の表面蛋白抗原 Pneumococcal surface protein A
(PspA)をマウスに舌下投与し鼻腔内
に定着する肺炎球菌数の検討を行った。
【方法】C57BL/6 マウスに PspA 1μg と Poly(I : C)10μg(コントロール : PBS)
を1週毎に4回舌下投与した。最終免疫1週間後、血清、鼻腔洗浄液を採取し PspA 特異的 IgG・IgA 抗体を ELISA 法で測
定した。さらに最終免疫3週間後に肺炎球菌 EF3030 を鼻腔内に投与し、1週間後の鼻腔洗浄液と鼻粘膜中の肺炎球菌のコ
ロニー数を検討した。
【結果】血清、鼻腔洗浄液の PspA 特異的 IgG・IgA 抗体価の有意な上昇を認め、さらに鼻腔洗浄液お
よび鼻粘膜中の肺炎球菌数は有意に減少した。
【考察】舌下免疫は肺炎球菌の鼻腔内への定着を制御できる効果的な方法で
あることが示された。
122
肺炎球菌の鼻咽腔定着における表面病原因子の役割
○湯浅
純、平岡政信、山内一真、戸川彰久、保富宗城、山中
和歌山県立医科大学
医学部
昇
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】肺炎球菌の感染が成立する初段階においては、鼻腔への肺炎球菌の定着が必須であり、鼻咽腔における肺炎
球菌定着の抑制は、急性中耳炎をはじめとする上気道感染の抑制に極めて重要な課題である。本研究では、肺炎球菌の重要
な病原因子である PspA、pneumolysin が肺炎球菌の鼻腔への定着にどのように関与するかその役割について検討・考察し
た。【方法】CBA/N マウスに肺炎球菌 PspA および PLN の野生株と欠損株をそれぞれ経鼻接種した後、1∼21日目にマウ
スを屠殺し、鼻腔洗浄液および洗浄後鼻腔粘膜における肺炎球菌コロニー数を検討した。
【結果】Pneumolysin は経鼻接種
後早期での鼻咽腔への定着に関与することが判明した。一方、PspA は、鼻咽腔への肺炎球菌定着に必要であり、補体系に
よる肺炎球菌の排除から逃れマウス鼻院腔に定着することが認められた。
【考察】本研究から、肺炎球菌の表面病原因子
PspA あるいは pneumolysin は、肺炎球菌の鼻腔への定着において重要であることが示唆された。
123
両側耳下腺膿瘍を初発症状とした HIV 感染症の 1 例
○松崎佐栄子、羽生
昇、仙波可奈、佐藤靖夫
国家公務員共済組合連合会
立川病院
耳鼻咽喉科
000人を超える新規感染者を認めている。HIV 感染症は無
本邦における HIV 感染者数は累計で2万1千人を超え、毎年1,
症候期の長い慢性感染症であるため、HIV 感染後 AIDS 発症まで一般には5年以上を要するにもかかわらず AIDS 発症によ
り初めて HIV 感染が判明する例が毎年500件(新規感染者の約3分の1)近く報告されており、臨床の場で遭遇する機会も
まれではなくなってきている。今回、両側耳下腺膿瘍を契機に HIV 感染症を疑い、診断に至った症例を経験したので、若
干の考察を加え報告する。症例は32歳男性、両側耳下腺部腫脹を認め、当院当科を受診した。CT にて両側耳下腺膿瘍を疑
う所見であり、切開したところ多量の排膿を認めた。糖尿病などの基礎疾患がなく、若年者での膿瘍形成であることから、
易感染性の原因として HIV 感染症を疑い、PCR 法にて HIV 感染の診断に至った。AIDS の症状の一つとして耳下腺炎や耳
下腺嚢胞の報告はあるが、耳下腺膿瘍の際にも HIV 感染症を疑うことが必要と考えられた。
124
嚥下障害を初発症状とした破傷風の一例
○岡野博之
第二岡本総合病院
耳鼻咽喉科
症例は73歳女性、X月2日頃より急激に経口摂取困難となり、X月5日当科初診。嚥下内視鏡検査(以下 VE)では、咽
喉頭全面に泡沫状唾液の貯留、喉頭挙上障害を認めた。感覚は正常であった。有意な神経学的所見は認めず、神経内科対診
するも原因は不明、画像検査にても異常所見は認めなかった。徐々に嚥下障害が重篤となったため、入院下に経鼻胃管によ
る全身管理とした。X月12日より開口障害、胸鎖乳突筋、僧帽筋の筋緊張出現、臨床症状より破傷風と診断した。直ちに高
度治療室にて厳重な管理のもと PCG、抗破傷風人免疫グロブリンを投与した。X月18日頃より徐々に開口障害、筋緊張改
善し、X月27日の VE にて喉頭蓋谷に若干の唾液貯留や早期咽頭流入を認めるも改善傾向にあり、経鼻胃管を抜去し経口摂
取を開始した。X+1月14日退院、以降外来にて経過観察中である。破傷風患者の嚥下動態について、経過中の VE 所見を
中心に供覧する。
118―510
125
2015
髄膜脳炎・SIADH を発症した咽喉頭帯状疱疹の 1 例
○吉田聰子、瀧口洋一郎
永寿総合病院
耳鼻咽喉科
症例は74歳女性。卵巣癌 Stage 4 に対し外来通院にて化学療法施行中に咽頭痛・摂食困難を訴え当科受診した。初診時、
喉頭に飛石状の白色病変を認め、また炎症反応高値であったため、当初は抗癌剤による粘膜炎に細菌感染を生じたものと考
え、入院の上、抗生剤および補液点滴を施行。再診時、咽頭から喉頭蓋右側に白苔付着および右声帯の運動制限を認めたた
め、水痘帯状疱疹ヘルペス(以下 VZV)による咽喉頭炎の可能性を考えアシクロビル点滴開始した。その翌日より意識障
害・項部硬直が出現。髄液検査にて細胞増多、蛋白上昇あり、ウイルス性髄膜炎と診断された。また血清 Na 低下を認め、
尿中 Na 排泄正常等の検査結果より、SIADH を合併しそれによる意識障害が生じたものと考えられた。水制限と Na 投与に
より SIADH は改善し、ウイルス性髄膜脳炎に対しアシクロビル点滴増量し意識レベルは徐々に軽快した。本症例につき文
献的考察を加え報告する。
126
水痘帯状疱疹ウイルスによると考えられた多発脳神経麻痺の 2 例
○岸野毅日人1)、寒川
泰1)、後藤理恵子1)、秋山貢佐2)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、香川大学医学部附属病院
三豊総合病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による脳神経障害としては、第Ⅶ、Ⅷ脳神経障害である Ramsay Hunt 症候群がよく知ら
れているが、VZV はまれにそのほかの脳神経障害を来すとされている。今回われわれは、VZV の再活性化によると考えら
れた多発脳神経麻痺の2例を経験したので報告する。症例1は75歳男性。X年10月30日より右耳痛、11月2日より嚥下障
害、嗄声が出現し、11月3日当科受診。右耳介、外耳道に水疱を認め、軟口蓋裏面に粘膜疹を認めた。右Ⅷ、Ⅸ、Ⅹ脳神経
障害に対しヒドロコルチゾン、アシクロビルなどにて加療した。治療後、聴力障害が残存した。嚥下障害、嗄声はかなり回
復した。症例2は44歳男性。Y年7月3日より咳、全身倦怠感、7月4日より嚥下困難、嗄声が出現し、7月10日当科受
診。明らかな水疱や粘膜疹は認めなかった。右Ⅷ、Ⅸ、Ⅹ脳神経障害に対しヒドロコルチゾン、バラシクロビルなどにて加
療した。治療後3カ月の時点で軟口蓋挙上や声帯運動に若干の左右差があるが、嚥下障害、嗄声とも著明に改善した。
127
成人喉頭軟弱症を伴った喉頭結核の 1 例
○小桜謙一、福本
晶、土井
高知医療センター
耳鼻咽喉科
彰、田村耕三
日本は結核の「中蔓延国」とされており、日常診療において常に鑑別すべき感染症のひとつである。特に排菌患者は隔
離、早期治療が必要で、医療者を含めた集団感染予防にも努めなければならない。今回われわれは喉頭痛を主訴に来院し、
初診時は喉頭軟弱症に伴った喉頭炎と診断し治療を開始したが症状の改善がみられず、喀痰塗抹グラム染色検査を契機に喉
頭結核が判明した67歳男性症例を経験したので報告する。初診時、声帯に薄い白苔を認めるのみで喉頭には肉芽腫などの病
変はなかった。胸部には明らかな結核感染所見はなかった。喀痰グラム染色で染色性が不良のグラム陽性桿菌が認められた
ため、即座にチール・ニールゼン染色を追加したところ抗酸菌とわかった。液体培地培養で結核菌を同定した。院内 ICT
に報告し保健所へ届け出た。喉頭生検では多核巨細胞を認めた。抗結核薬治療を開始後、速やかに排菌は消失し、喉頭痛と
夜間の呼吸苦も改善したが、喉頭軟弱所見は残っている。
128
4 例の中耳結核から得られた診断のポイント
○喜多村
健1)、石田克紀1)、峯川
茅ヶ崎中央病院
1)
明1)、坂井
真1)、角田篤信2)、川島慶之2)、水島豪太3)、伊藤
耳鼻咽喉科 、東京医科歯科大学
医学部
2)
耳鼻咽喉科 、土浦協同病院
卓3)
耳鼻咽喉科3)
結核は、年間約2万人の発症者が登録される医療上大きな課題である感染症である。その病変の多くは肺結核であるが、
耳鼻咽喉科領域では多様な病変を呈することを念頭において、常に鑑別診断する必要のある疾患でもある。中耳結核は全結
1%の発症率で、年間の新登録患者数は20数名と比較的まれな疾患である。しかし、耳鼻咽喉科医が診断する疾患で
核の0.
あり、肺外結核として発症することもあるので、耳鼻咽喉科医の役割は重要である。ところが、中耳結核は、さまざまな局
所所見、臨床徴候を呈し、診断は必ずしも容易でない。今回、われわれの施設で経験した4例の中耳結核症例の臨床所見を
まとめ、中耳結核を適切に診断するポイントをまとめた。4例は、鼓膜穿孔と白色の肉芽性病変、外耳道の骨の露出を生じ
る壊死性変化、急速に進行する鼓膜穿孔、顔面神経麻痺、上咽頭の白苔病変等のさまざまな耳鼻咽喉科的臨床所見を示し、
持続性で高度の組織障害性を呈するも、軽微な全身所見が特徴であった。
118―511
日耳鼻
129
当初咽後膿瘍が疑われた石灰沈着性頸長筋腱炎の 6 例
○福島久毅、森田倫正、與田茂利、兵
川崎医科大学
行義、田中浩喜、原田
保
耳鼻咽喉科
石灰沈着性頸長筋腱炎は頸長筋の冠椎前結節の付着部位にハイドロキシアパタイトが沈着することに起因する炎症性疾患
である。頸部痛、頸部の運動制限、嚥下痛を来し、症状や特に画像所見から咽後膿瘍と鑑別を要する。当科では2005年以降
の約10年間で6症例を経験した。年齢は28から68歳。全例、激しい頸部痛、頸部可動制限、嚥下痛を主訴に来院。咽頭の視
診では1例に軽度の腫脹、発赤を認めたのみで、ほか5例は異常を認めなかった。CRP は 15mg/dl と高値のものから陰性
の症例まであった。MRI では椎体前面に T2 強調画像で高信号を呈した。診断には CT が有効であり、咽頭後壁に低吸収領
域を認めるが、造影 CT では咽後膿瘍でみられる ring enhance は認めなかった。さらに、頸長筋腱の冠椎前結節への付着
部に石灰化病変を認めた。本疾患が当科で周知された2013年以降の2例は当初から本疾患と診断できたが、それ以前の4例
は咽後膿瘍と診断されていた。全例に外科処置は行っていない。外科的切開など過度の加療を回避するためにも、特徴的な
画像所見を知っておくべきと考える。
130
Staphylococcus intermedius
(S. intermedius)による多発膿瘍の症例
○加賀曉人、肥後隆三郎、春山琢男、矢部鮎美、原
順天堂大学
医学部
浦安病院
聡、芳川
洋
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
S. intrmedius は動物の皮膚や粘膜の細菌叢に定着する菌として知られており、ヒトにおける感染はまれであるが近年
S. intermedius による膿瘍形成の報告が増加している。今回われわれは S. intermedius による副鼻腔炎、乳突蜂巣炎、硬膜
外膿瘍、肺膿瘍を来した症例を経験したので報告する。症例は38歳男性。近医にて滲出性中耳炎、慢性副鼻腔炎と診断され
たが改善せず当院紹介となる。来院時採血にて炎症反応の高度上昇を認め、CT にて汎副鼻腔炎、左乳突蜂巣炎、肺膿瘍を
認めたため呼吸器内科と併診の上抗菌薬による治療を開始した。第10病日に頭部 CT 上硬膜外膿瘍を認め、乳突蜂巣炎から
の波及を疑い脳神経外科と協同して乳突蜂巣削開術を施行したが硬膜外膿瘍の改善は認められなかったため穿頭ドレナージ
を追加した。S. intermedius による多発膿瘍形成はまれであり文献的考察を加えた上報告する。
131
続発性食道粘膜剥離症を合併した縦隔膿瘍の一例
○小島雅貴1)、春山琢男2)、飯塚
順天堂大学
医学部
崇2)、永屋恵子2)、佐々木大輔2)、芳川
1)
耳鼻咽喉科学講座 、順天堂大学
洋2)、池田勝久1)
医学部附属浦安病院
耳鼻咽喉科2)
【背景】降下性壊死性縦隔炎は近年、致死率は改善傾向だが、いまだに死亡率の高い疾患である。今回、咽後膿瘍から縦
隔膿瘍に進展し、ドレナージ後に続発性食道粘膜剥離症を合併した一例を報告する。
【症例】61歳男性、咽頭痛、頸部腫脹、経口摂取不良で近医より紹介受診。咽後膿瘍と深頸部膿瘍、それに連続する食道
周囲を首座とする後縦隔膿瘍を認め、膿瘍ドレナージ+気管切開+胸腔鏡下縦隔胸膜切開ドレナージ術を施行。術後経過良
好であったが、GIF で食道粘膜に多数の瘻孔と食道造影で double barreled esophagus を認め、続発性食道粘膜剥離症の診
断となった。保存的加療で術後43日目瘻孔閉鎖、47日目経口摂取再開、62日目自宅退院となった。
【考察】咽後膿瘍から咽頭後間隙を経て縦隔膿瘍に至ったと考えられ、起炎菌は好気性菌、嫌気性菌の混合感染であった。
頸部アプローチで上縦隔の排膿、胃管挿入により後縦隔下方の排膿が得られたため、発症早期に十分なドレナージができ、
救命し得た要因と考える。続発性食道粘膜剥離症を合併したが、保存的に治癒した。
132
縦隔炎を合併した深頸部膿瘍
○金児真美佳、上田航毅、杉山智宣、福喜多晃平、福家智仁、山田弘之
伊勢赤十字病院
頭頸部・耳鼻咽喉科
【はじめに】深頸部膿瘍は、扁桃炎・齲歯などの感染が頸部間隙に波及して膿瘍腔を形成することにより発生する。さら
に頸部の炎症が縦隔に進展すると、死亡率が高くなるため速やかな対応と全身管理が求められる。今回、縦隔炎を合併した
深頸部膿瘍症例について検討したため報告する。
【対象】2009年4月から2014年12月までの間に当科で深頸部膿瘍に対して
切開排膿術を施行した症例は全部で25例であった。そのうち、炎症が縦隔に波及し縦隔炎を合併した症例は5例であった。
6歳、症状の出現から当科受診までの平均日数は5日。全例で受診当日に頸部と縦隔の排膿を
【結果】5例の平均年齢は62.
6日を要した。基礎疾患として糖尿病の既往があるものは2例のみで
施行し、5例全例とも救命できた。平均入院期間は37.
あった。【まとめ】抗菌薬が進歩した現在でも、縦隔に進展した深頸部膿瘍は致死率が高いといわれる。救命のポイントと
しては、迅速な切開排膿と抗菌薬の選択、DIC に陥った症例については厳格な全身管理にあったと思われる。
118―512
133
2015
小児深頸部膿瘍の臨床的特徴
○竹田貴策1)、水島豪太1)、小出暢章1)、畑中章生2)、川島慶之3)、伊藤
土浦協同病院
1)
茅ヶ崎中央病院
耳鼻咽喉科 、埼玉県立がんセンター
卓1)、喜多村
2)
健4)
頭頸部外科 、東京医科歯科大学
耳鼻咽喉科3)、
4)
耳鼻咽喉科
小児に深頸部膿瘍が発症することはまれであり、全体の約4.
3%と報告されている。小児深頸部膿瘍は上気道の炎症から
リンパ節炎として発症し、その後深頸部間隙に波及することが多く、感染巣から直接、周囲組織へと炎症が波及する成人例
とは臨床像が大きく異なる。今回われわれは過去5年間に頸部造影 CT で膿瘍形成を認めた15歳未満の小児20例を対象にそ
の臨床像を検討した。検討項目は、性別、年齢、初診時の医療機関、発症から入院までの日数、頸部造影 CT による膿瘍存
在部位、治療法、起炎菌と予後とした。男児14例、女児6例であり、好発年齢には一定の傾向を認めなかった。初診時の医
4±4.
3日で
療機関は小児科が13例、内科が4例、耳鼻咽喉科が2例、その他が1例であった。発症から入院までの日数は7.
あった。膿瘍の存在部位は咽頭後間隙が9例と最も多く、うち7例が保存的加療のみで軽快した。起炎菌は Staphylococcus
aureus が4例、α―Streptococcus が3例であり、耐性菌による感染はなく、全例が治癒した。
134
深頸部膿瘍の検討
○八木正夫1)、宇都宮敏生2)、阪上智史3)、清水皆貴1)、鈴木健介1)、藤澤琢郎1)、横山彩佳1)、高田真紗美1)、
添田岳宏1)、友田幸一1)
耳鼻咽喉科頭頸部外科1)、関西医科大学附属滝井病院
関西医科大学附属枚方病院
医仁会武田総合病院
耳鼻咽喉科頭頸部外科2)、
3)
耳鼻咽喉科
深頸部膿瘍は、頸部に存在する筋膜で構成される間隙に膿瘍を形成したものである。口腔、口蓋扁桃などを主たる感染源
とし、その炎症が波及することにより生じる。診断は、問診、視診、触診、血液学的検査、CT や超音波などの画像検査に
よってなされるが、抗菌薬のみでの治癒は困難であることも多く、迅速かつ正確な診断が必要である。2006年1月から2014
年10月までに関西医科大学附属枚方病院にて入院加療を行った深頸部膿瘍のうち、扁桃周囲膿瘍単独のもの、頸部リンパ節
膿瘍、蜂窩織炎、梨状窩瘻は除外した36例について後ろ向きに検討した。基礎疾患では糖尿病が最も多く、約3割の症例に
みられたが、約半数に基礎疾患がなかった。原因疾患としては約半数が扁桃周囲膿瘍からの進展例であり、続いて歯性感染
症が約3割を占めた。膿瘍腔が舌骨上にとどまっている症例には気管切開を施行していない例が多く、治療期間も短い傾向
がみられた。降下性壊死性縦隔洞炎を併発した症例が8例存在し、うち6例が下極の扁桃周囲膿瘍からの進展例であった。
135
甲状腺吸引細胞診後の頸部腫脹例と千葉県内でのアンケート調査
○大塚雄一郎、根本俊光、黒崎元良、木村健太郎
成田赤十字病院
耳鼻咽喉科
甲状腺の吸引細胞診を行った後に頸部腫脹を来した2症例を経験した。1例はバイアスピリンを休薬せずに穿刺を行った
ところ2日後に頸部腫脹と発熱を訴えて受診した。もう1例は穿刺直後に甲状腺が瀰漫性に腫大し強い痛みを訴えた。2例
とも気道閉塞はみとめず入院の上で安静として経過観察とした。千葉県内で甲状腺腫瘍を扱う病院、クリニック30施設に対
して甲状腺吸引細胞診に関するアンケート調査を行った。1人の医師が1カ月に行う甲状腺吸引細胞診の平均件数は5.
11回
であった。93名の医師全員が過去に遭遇した甲状腺吸引細胞診の合併症の件数は178件であった。出血腫脹のため入院を必
要としたケースが9件あり、そのなかには気管偏移と嗄声を合併した1件と甲状腺の感染腫脹に声帯麻痺を来した1件があ
った。甲状腺吸引細胞診にあたり同意書をとっている施設は6施設、ほかに導入を検討している施設が7施設あった。甲状
腺吸引細胞診の合併症の頻度は非常に低いことが伺われる一方で同意書の導入が進む傾向がうかがわれた。
136
当院における甲状腺細胞診の検討
○佐藤伸也、森
福甲会
祐輔
やましたクリニック
当院では2013年より同一医師(筆頭演者)が細胞診のスクリーニング診断を行い、診断困難例については甲状腺病理専門
医にコンサルトしている。今回、そのスクリーニング診断の正診率を、病理所見をもとに検討した。対象は2013年6月∼
2014年9月の間に当院で FNAC を施行し、かつ当院で手術を施行した甲状腺結節初回手術例296例320結節である。細胞診
、悪性疑(乳頭癌疑い)では89.
5%(17例/19例)
、鑑別
で悪性(乳頭癌)と診断した症例の正診率は100%(140例/140例)
困難B(乳頭癌疑い)では100%(9例/9例)と乳頭癌症例では高い正診率が得られた。一方で、濾胞性病変(腺腫様結
節、濾胞腺腫、濾胞癌)を細胞診所見をもとに5段階にリスク分類してその悪性率を評価すると、低リスク側からおのおの
5.
4%(3例/56例)
、10.
7%(3例/28例)
、20.
0%(3例/15例)
、33.
3%(3例/9例)
、45.
5%(5例/11例)で あ っ た。
当日はそのほかの組織型の成績についても報告する。
118―513
日耳鼻
137
診療所における甲状腺腫瘍診療の実態と役割
○湯田厚司、小川由起子
ゆたクリニック
一般診療所での実態と役割を検討する目的で、当院開院後3年間の甲状腺腫瘍診療の実態を検討した。該当期間に725
(男118 女607)例が受診し、前勤務病院からの継続診療104例、近隣病院耳鼻科診療縮小での依頼81例を除く540例が新鮮
7%、総合病院33.
3%)
、患者主訴での受診155例、他疾患診察時の発見241例であった。咽喉頭
例で、紹介138例(診療所66.
症状等でのスクリーニングエコーは行わず、触診で疑った例のみをエコーしている。紹介例には高脂血症などでの頸動脈エ
7%あり、今後の増加が予想される。悪性が61(継続32、経過観察依頼9、新鮮20)例で、FNA は総
コーで偶然発見が29.
計405穿刺であった。診療実日数12%に対し総収益の20%以上を占め、花粉症の繁忙期を避ける診療が可能な医療経済面の
利点がある。手術不要例の総合病院への直接受診も軽減できる。近隣総合病院や内科診療所からの依頼も多く、耳鼻科領域
拡大に教育機関での甲状腺腫瘍診療の教育充実も望まれる。
138
当科における甲状腺腫瘍手術症例の細胞診と組織診の検討
○小出暢章、水島豪太、竹田貴策、伊藤
総合病院土浦協同病院
卓
耳鼻咽喉科
当科において過去5年間に手術を施行し、診療録から病歴および細胞診と組織診の結果を収集しえた甲状腺腫瘍143症例
について検討した。細胞診のクラス分類については Papanicolaou 分類を用いた。手術適応は class III 以上、超音波検査に
て悪性を疑う所見を認めた場合、もしくは長径 4cm 以上のものとした。細胞診は class I/II が51例、class III が62例、class
IV/V が26例であった。組織診では83例が良性の診断であり、その内訳は腺腫様甲状腺腫が40例、濾胞腺腫が38例、嚢胞が
4例、いずれにも分類されない腺腫が1例であった。残りの60例が悪性の診断であり、乳頭癌が45例、濾胞癌が11例、低分
化癌が2例、未分化癌と悪性リンパ腫がそれぞれ1例であった。これら60例の細胞診は class I/II が5例、class III が27例、
class IV/V が26例、検体不良が2例であった。class III 症例を除いた細胞診の感度は84%、特異度は100%、正診率は94%
であった。また、class III 症例については44%で悪性所見を認めた。これらの結果を、諸家らの報告と比較検討し、文献的
考察を含めて報告する。
139
亜急性甲状腺における超音波像の推移
○上田航毅、杉山智宣、金児真美佳、福喜多晃平、福家智仁、山田弘之
伊勢赤十字病院
頭頸部・耳鼻咽喉科
【はじめに】亜急性甲状腺炎が非腫瘍性病変であることから、耳鼻咽喉科医が治療に当たる機会はそれほど多くはない。
今回亜急性甲状腺炎を発症初期から、臨床症状・甲状腺ホルモン値に加えて、超音波像の推移を追跡することができた1例
【現病歴】2014年9
を提示し、まれながら遭遇する本疾患の特徴を考察した。
【症例】40歳、男性。特記すべき既往歴なし。
月中旬から微熱・倦怠感を自覚し、近医内科を受診した。甲状腺エコーで左葉に低エコー域を認めたため当科へ紹介され
た。
【初診時所見】前頸部下方に圧痛を伴う軽度の腫脹を触知し、超音波像で、甲状腺左葉に境界不明瞭な低エコー域を認
めた。赤沈亢進・甲状腺機能亢進を認め、さらに細胞診で腫瘍性病変が否定されたため、亜急性甲状腺炎と診断した。
【経
過】その後赤沈亢進と機能亢進は持続したが、超音波像で、左葉の低エコー域拡大を、10月下旬には、左葉の低エコー域の
縮小に加えてクリーピングを示唆する右葉の低エコー域を認めるに至った。
【考察】口演では、超音波像の推移に関する考
察を行う。
140
甲状腺癌を疑った甲状腺アミロイドーシス例
○片岡通子1)、垣田真以子2)、辻村隆司1)、本多啓吾3)、嘉田真平1)、安里
京都医療センター
1)
耳鼻咽喉科 、京都医療センター
2)
亮3)、辻
純1)
内分泌代謝内科 、京都医療センター
頭頸部外科3)
【はじめに】甲状腺に認めるアミロイドーシスはアミロイド甲状腺腫と呼ばれ、硬く腫大することから悪性腫瘍との鑑別
を要することがある。今回、術前に甲状腺癌を疑ったアミロイド甲状腺腫を経験したので報告する。
【症例】26歳女性。健
診で甲状腺腫瘍を指摘され当科紹介受診。触診で硬く、エコーにて甲状腺左葉に砂粒状石灰化を伴う 30mm 大の腫瘍を認
め、悪性を疑う所見であった。細胞診では核異形の乏しい小濾胞細胞の所見であった。甲状腺癌を鑑別に上げ、甲状腺左葉
峡部切除・D1 郭清術を施行した。病理では、腫瘍間質にアミロイド沈着を伴った Adenomatous goiter の所見で、アミロイ
ド甲状腺腫の診断であった。全身検索を行ったが現時点では全身性アミロイドーシスの所見はなく、甲状腺に限局した原発
性アミロイドーシスとして経過をみている。
【考察】原発性の甲状腺アミロイドーシスは比較的まれである。画像など特徴
的所見に乏しいが、本症例のように術前に悪性腫瘍を疑った報告があり、甲状腺腫瘍の鑑別の一つとして注意する必要があ
る。
118―514
141
2015
内視鏡耳科手術のための新たな外耳道測定法
○窪田俊憲、伊藤
吏、渡辺知緒、二井一則、古川孝俊、欠畑誠治
山形大学
耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座
医学部
経外耳道的内視鏡下耳科手術(Transcanal Endoscopic Ear Surgery : TEES)は、内視鏡と手術器具を外耳道より挿入し
て行う Keyhole surgery であるため、外耳道が狭いほど手術操作が困難であることが懸念される。そのため、術前に外耳道
の形態を把握することは手術プランを考えるうえで重要な要素である。従来、外耳道の形態は CT 画像の軸位断と冠状断を
用いて任意の箇所の前後径や上下径を測定していたが、測定位置に統一したものがなく、また、測定者によるばらつきが大
きく正確ではないという問題点があった。今回、画像解析ソフトを用いて、TEES を施行した症例の CT 矢状断画像の骨部
外耳道形態を連続的に測定した。本法により骨部外耳道の断面積、長軸径、短軸径、長軸の傾きを連続的に解析し、さらに
骨部外耳道の屈曲の評価も行った。TEES が施行しえた症例につき、本法と従来法との比較を行った。本法は、簡便で正
確・客観的に外耳道測定が可能な方法である。
142
東北大学における有蹄類の頭部標本を用いた内視鏡下耳科手術トレーニング
○山内大輔、奥村友理、荒川一弥、宮崎浩充、日高浩史、川瀬哲明、香取幸夫
東北大学
医学部
耳鼻咽喉・頭頸部外科
近年、内視鏡下耳科手術(以下 EES)が注目されているが、その習熟には時間を要するとの報告もある。顕微鏡下耳科
手術に慣れている術者は中耳解剖に習熟しているが片手操作に不慣れであり、内視鏡副鼻腔手術に熟練した術者は片手操作
に長けているが狭い外耳道や中耳の操作には不慣れである。両方の経験のある術者は EES の習得は比較的容易かもしれな
いが、それでも側頭骨模型や Cadaver でのトレーニングを行うことが望ましい。一方、中型動物であるヒツジの頭部標本
が耳科手術のトレーニングや研究に有用であると報告されている。われわれは、帯広畜産大学基礎獣医学研究部門の協力に
より、同じウシ科ヤギ亜科の山羊の頭部標本を用いた EES トレーニングを、東北大学病院先端医療技術トレーニングセン
ターにて行う機会を得た。山羊の中耳はヒツジと同様にヒトのおよそ2/3程度の大きさで、外耳道は広く内視鏡下の操作
が可能であった。アブミ骨手術や人工内耳模擬電極の挿入のほか、最近当科で施行している水中内視鏡下での操作も行うこ
とができた。
143
浅在化鼓膜に対する内視鏡下耳科手術
○中島小百合、渡辺知緒、伊藤
山形大学
医学部
吏、二井一則、窪田俊憲、欠畑誠治
耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座
浅在化鼓膜とは、鼓膜が本来あるべき鼓膜輪のレベルよりも浅い位置に変位する病態であり、鼓膜の肥厚や鼓膜と耳小骨
との連続性の消失などにより伝音障害を生じる。浅在化鼓膜は、鼓膜の固有層と上皮層との間に線維組織が介在していない
ものと介在しているものとに大別される。前者を狭義の浅在化鼓膜といい、後者は一般に medial meatal fibrosis(MMF)と
呼ばれる。これまでの浅在化鼓膜に対する手術は、耳後部切開での顕微鏡下手術が一般的であったが、われわれは、内視鏡
下に経外耳道的アプローチ(Transcanal Endoscopic Ear Surgery : TEES)にて手術を施行している。TEES による本術式
は、顕微鏡下手術と異なり、耳後部切開をおくことなく、前方を明視下におくことができる。このため、浅在化鼓膜に対す
る手術で最も重要とされる、鼓膜輪周辺および固有層の操作に適している。TEES を施行した浅在化鼓膜症例について、実
際の手術手技を供覧すると共に、若干の文献的考察を加えて報告する。
144
慢性中耳炎に対する経外耳道的内視鏡下耳科手術の手術成績
○大木雅文、北野佑果、中村祐子、田原
埼玉医科大学
総合医療センター
篤、大畑
敦、菊地
茂
耳鼻咽喉科
慢性中耳炎に対する耳科手術は通常、顕微鏡下で施行されることが多いが、近年、内視鏡下耳科手術が広まってきてい
る。顕微鏡と比較して内視鏡ではより広角の視野が得られるため、顕微鏡下では死角となっていた部位も視野に入れること
ができる利点がある。耳科手術では細い内視鏡を使用することが多く、鼻内や腹腔内などの他領域より画像解像度が悪い欠
点があった。近年の内視鏡画像技術の向上に伴い、内視鏡下耳科手術が実用的になった。現時点での慢性中耳炎に対して施
行された経外耳道的内視鏡下耳科手術の有用性を検討する。当科において経外耳道的内視鏡下耳科手術を施行した慢性中耳
炎症例を対象とし、聴力成績を調べた。経外耳道的内視鏡下耳科手術による聴力成績は顕微鏡下耳科手術と同等であった。
慢性中耳炎に対する経外耳道的内視鏡下耳科手術は手術成績が良好でかつ低侵襲な有用な術式である。
118―515
日耳鼻
145
経外耳道的内視鏡下耳科手術を施行した小児症例の検討
○伊藤
吏、渡辺知緒、窪田俊憲、二井一則、古川孝俊、欠畑誠治
山形大学
医学部
耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座
近年、高精細度 3CCD カメラの進歩に伴い、ほとんどすべての行程を内視鏡で行う経外耳道的内視鏡下耳科手術(transcanal endoscopic ear surgery : TEES)が開発された。内視鏡下手術では広角な視野により一つの視野で中鼓室の全体像を
把握することが可能であり、さらに内視鏡を接近させることで、必要最小限の骨削開で顕微鏡の死角部位の明視化が可能と
7mm の内視鏡に full HD 3CCD カメラを組み合わせて TEES を施行
なる。われわれは2011年より中耳疾患に対し、直径 2.
しており、成人例に比較して外耳道の狭い小児例にも TEES を応用している。今回は TEES にて手術治療が可能であった小
児症例の年齢、原疾患、術式などの臨床データに加え、術前 CT における骨部外耳道の前後径および上下径について検討
し、小児症例に対する TEES の適応や問題点について報告する。
146
当科における耳科手術への内視鏡の応用
○杉本寿史、波多野
金沢大学附属病院
都、上野春菜、平井信行、吉田
博、吉崎智一
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
近年、内視鏡画像技術の向上や手術機器の開発に伴って耳科手術に内視鏡が取り入れられるようになってきている。耳科
手術への内視鏡の使用法については、従来の顕微鏡下手術に内視鏡を補助的に利用する endoscopy―assisted surgery、手術
の最初から最後までを内視鏡を用いて行う TEES
(Transcanal Endscopic Ear surgery)などが提唱されている。当科では耳
疾患に対して従来の顕微鏡下耳科手術にて治療を行うことを基本方針としているが、疾患と病態によって積極的に内視鏡を
導入し、その有用性を確認している。最近、錐体部真珠腫 complex case に対して endoccopy―assisted surgery を行った症
例、鼓室に限局した先天性真珠腫に対して TEES を行った症例をそれぞれ経験したため、手術ビデオを供覧し、耳科手術に
おける内視鏡の有用性について検討する。
147
真珠腫再発症例に対する内視鏡下 dual approach technique
○渡辺知緒、伊藤
吏、窪田俊憲、二井一則、古川孝俊、欠畑誠治
山形大学
耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座
医学部
真珠腫再発を来した際、一般的に初回手術と同様の耳後部切開を施行し、顕微鏡下に経乳突法で真珠腫を摘出するため、
患者は初回手術と同様の侵襲を余儀なく強いられてきた。当科では真珠腫の治療において、真珠腫が上鼓室から乳突洞まで
に限局した例では、経外耳道的内視鏡下耳科手術(Transcanal endoscopic ear surgery : TEES)で摘出を行うが、真珠腫が
外側半規管の高さを超えて末梢の乳突蜂巣まで進展した例では、基本的に canal wall up とし、中鼓室と上鼓室の一部は死
角の少ない TEES で、上鼓室から乳突洞、乳突蜂巣にかけては耳後部切開で顕微鏡下に経乳突法による乳突削開を行って真
珠腫を摘出する、いわゆる内視鏡と顕微鏡による dual approach で施行する方針としている。当科では最近、この dual approach 施行後に再発を来した症例に対し、耳後部に約 1cm の乳突洞に交通する小切開を作成し、ここから内視鏡を挿入し
て経乳突法による内視鏡下手術を施行し、これと TEES とを併用して初回手術よりも低侵襲に真珠腫を摘出し得たので手術
動画と共に報告する。
148
当科における中耳真珠腫の治療方針―内視鏡下耳科手術と内視鏡補助下耳科手術―
○小林泰輔、松本宗一、小森正博、兵頭政光
高知大学
医学部
耳鼻咽喉科
真珠腫性中耳炎に対して、当科では可能な限り外耳道後壁保存(CWU)を行っているが、当然、症例により外耳道後壁
削除(CWD)も行っている。また、中耳内視鏡手術が普及してきたことにより、経外耳道的内視鏡下耳科手術(TEES)や
内視鏡補助下耳科手術(EAES)という手術方法が行えるようになった。当科では、stage Ib 症例は TEES で手術を行って
いる。Stage II は CWU による手術を行っているが、多くの場合 EAES としている。最近では、最初に内視鏡下に経外耳道
的に鼓室内の操作を行い、その後耳後切開で乳突削開術と後鼓室開放を行っている。Stage III は LF の場合を除いて CWD
となることが多い。しかし、癒着型真珠腫で stage III となった場合は、TEES を行う場合もある。また、再発例は多くは
CWD となるが、先天性真珠腫の多くは TEES が可能である。症例を呈示しながら、当科における真珠腫性中耳炎の治療方
針について報告する。
118―516
149
2015
真珠腫性中耳炎に対する経外耳道内視鏡下耳科手術
○西池季隆、岸川敏博、田中秀憲、中村
大阪労災病院
恵、大島一男、富山要一郎
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
経外耳道内視鏡下耳科手術(Transcanal endoscopic ear surgery : TEES)は耳疾患に対する低侵襲な手術であり、今後さ
らに普及が進むと考えられる。TEES の良い適応としては慢性中耳炎、耳小骨離断、中耳奇形、耳硬化症、外リンパ漏等の
耳疾患が考えられる。真珠腫性中耳炎も良い適応になると考えられるが、どの stage まで TEES の適用になるのか、まだコ
ンセンサスは得られていない。最近当科では、Kakehata et al.(2014)の報告にあるように、乳突洞まで進展した stage II
の真珠腫症例に対しても TEES を行っている。乳突洞進展例の真珠腫の場合に、TEES の乳突削開は transcanal atticotomy
を少し拡大するほどの外耳道後壁削除にて遂行できる。その削開量は顕微鏡下耳科手術に比較して少ない。当科で経験した
症例を呈示し、真珠腫に対する TEES の手術コンセプトとその期待される効果を発表する予定である。
150
上鼓室内側に進展した弛緩部型真珠腫に対する経外耳道的内視鏡下鼓室形成術Ⅰ型の治療
○欠畑誠治、渡辺知緒、伊藤
山形大学
医学部
吏、窪田俊憲、二井一則、古川孝俊
耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座
弛緩部型真珠腫が上鼓室外側から正中を越えて耳小骨の内側に達している場合、通常はキヌタ骨を摘出しⅢ型として耳小
骨連鎖再建を行う場合が多い。近年、経外耳道的内視鏡下耳科手術(Transcanal Endoscopic Ear Surgery : TEES)が、死
角の少ない低侵襲で機能的な手術法として注目を集めている。TEES では内視鏡を用いることにより、広角で対象に接近し
て拡大視が可能である。そのため、弛緩部型真珠腫の進展ルートを確認し、生理学的な靱帯やヒダを確認しながら真珠腫を
剥離でき、真珠腫が上鼓室内側に達していてもその進展程度によっては明視下に摘出し得る。上鼓室内側に進展した弛緩部
型真珠腫に対して内視鏡下鼓室形成術Ⅰ型を施行できた症例の手術を供覧し、その治療成績について報告する。
151
甲状腺がんにおける近接臓器浸潤と遠隔転移についての検討
○門田伸也、橋本香里、花川浩之、三浦直一、松本淳也
四国がんセンター
頭頸科
甲状腺がんに対する術式選択に当たっては原発巣の大きさ、局在部位、組織型に加え、遠隔転移のリスクも勘案する必要
がある。今回われわれは近接臓器浸潤を中心に原発巣の性状と遠隔転移リスクとの関係について検討を行った。過去10年間
に当科で加療を受けた遠隔転移を伴う甲状腺がん症例(未分化がん、髄様がんを除く)は25例であった。そのうち他院で原
発巣手術を受けた後に当科紹介となった5例を除く20例について検討した。初診時病期は T1 : 3例、T2 : 2例、T3 : 8
例、T4 : 6例、N0 : 8例、N1a : 4例、N1b : 7例であった。腫瘍の組織型は乳頭癌が15例、低分化癌が5例であった。腺
内多発病変が13例(65%)にみられ、気管・喉頭・食道などへの腫瘍浸潤症例が12例(60%)あった。一方で同時期に甲状
腺がん手術を施行した433例の中で近接臓器合併切除を行った症例は46例、その内訳は反回神経合併切除16例、気管層状切
、5例(25%)
、7例
除20例、気 管・喉 頭・食 道 合 併 切 除10例 で、各 群 に お け る 遠 隔 転 移 発 生 頻 度 は 各 々2例(13%)
(70%)であった。
152
甲状腺分化癌におけるヨウ素制限時血清サイログロブリン値と予後の関連
隆1)、岡崎慎一1)、岡崎
○那須
山形大学
医学部
雅1)、欠畑邦明1)、根本建二2)
耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座1)、山形大学
医学部
放射線腫瘍学講座2)
甲状腺分化癌は、その多くは非常に良好な予後が見込まれる。しかし、一部には再発、遠隔転移を来す高リスク症例も存
在し、補助治療として放射性ヨウ素内用療法も行われることも多い。ところが、この効果も限定的で甲状腺分化癌に適応拡
大となったソラフェニブ服用や、放射線外照射を考慮すべき症例も存在する。このような症例を早期に判断できることが臨
床的に重要と考えるが、現在のところ有効な方法はない。今回、ヨウ素制限時血清サイログロブリン値と予後の関連を検討
し、血清サイログロブリン値のバイオマーカーとしての役割の可能性を検討した。対象は、2003年から2014年までに当科で
一次治療、再発治療を行った甲状腺分化癌症例で、補助治療として放射性ヨウ素内用療法を行った49例。ヨウ素制限前後の
血清サイログロブリン変化を検討したところ、数値がプラス群、マイナス群の2群では、有意にマイナス群で、原病死、担
癌生存症例の割合が低くなった。ヨウ素制限時血清サイログロブリン値は、細胞生物学的悪性度などを予測できる可能性が
示唆された。
118―517
日耳鼻
153
手術可能であった甲状腺未分化癌 3 症例の検討
○長井美樹1)、榎本圭佑2)、伏見博彰3)、島津宏樹3)、武田和也4)、原田祥太郎4)、坂田義治5)、佐野
奨1)、
1)
李 杏菜
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、大阪府立急性期・総合医療センター
市立堺病院
大阪府立急性期・総合医療センター
兵庫県立西宮病院
3)
病理科 、大阪大学
耳鼻咽喉・頭頸部外科2)、
耳鼻咽喉科・頭頸部外科4)、
5)
耳鼻咽喉科
甲状腺未分化癌(Anaplastic thyroid carcinoma : 以下 ATC と略)はまれで極めて高悪性度で予後不良の癌である。初診
時に頸部腫瘤や嗄声を主訴に耳鼻咽喉科を受診しかかわることがある。手術は気道確保や生検に限られることが多かった
が、2009年以降本邦の甲状腺未分化癌コンソーシアムにより、ATC の手術療法の意義が明らかになってきた。手術可能で
あった ATC3症例を呈示し、手術療法の意義を考察する。症例1 : 58歳女性 Stage 4A PI=0 全摘
射 60Gy 施行。現在無再発生存中。症例2 : 83歳女性
Stage 4B PI=1 左葉峡部切除
左 D2 郭清
右 D2 郭清
術後外照
術後外照射 60Gy 施
行、4カ月目肺転移出現も、抗がん剤治療は希望せず、6カ月目肺転移で死亡。終末期も局所コントロールは良好であっ
た。症例3 : 77歳男性 Stage 4B PI=3 全摘 D3・上縦隔郭清
2カ月目肺転移、3カ月目局所再発、4カ月目死亡され
た。結果 : ATC の手術意義は根治切除と局所コントロールである。診断時の Stage と予後不良因子(PI)による予後を含
めたインフォームドコンセントが重要である。
154
甲状腺未分化癌症例の臨床的検討
○淵脇貴史、森倉一朗、清水保彦、清水香奈子、堀田優希江、青井典明、川内秀之
島根大学
医学部
耳鼻咽喉科
甲状腺未分化癌は甲状腺癌全体の1∼2%と発生頻度は少ないが、1年生存率は5∼20%と極めて予後不良な疾患であ
、被
る。当科では2004年から2014年の間に7例経験している。性別は男性3例、女性4例、平均年齢は69歳(60歳∼82歳)
膜外に浸潤する STAGEIVB が4例、遠隔転移を認める STAGEIVC が3例で、1年以上生存している症例は3症例である。
(G―CSF)の上昇を認めた。進行した
7例中5例に白血球増多を認め、5例中4例に granulocyte―colony stimulating factor
甲状腺未分化癌は高率に G―CSF を産生し白血球増多を示すため、炎症性疾患として治療を受け、悪性腫瘍としての適切な
診断や治療が遅れる可能性が示唆された。また、免疫組織学的検討においてほとんどの症例の甲状腺未分化癌の細胞は
epidermal growth factor receptor(EGFR)陽性を示した。そこで、当院での倫理委員会により承認を得て weekly Cetuximab
and Paclitaxel を肺転移症例に施行したところ CR となり、1年生存した症例を経験したので報告する。
155
甲状腺未分化癌手術治療症例14例の臨床的検討
○三宅成智1)、森谷季吉1)、森崎剛史1)、北野博也2)
草津総合病院
頭頸部外科センター1)、鳥取大学
医学部
感覚運動医学講座
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野2)
甲状腺未分化癌は平均生存期間約6カ月といわれる予後不良疾患である。侵襲的な治療の奏功しない例も多く、治療方針
は意見が分かれるところである。当院では、根治、生命予後延長、QOL 維持を目的に、積極的な手術治療を行ってきた。
2006年から2013年に当院で手術治療を行い、病理組織検査で明確に甲状腺未分化癌と診断された14例について臨床的検討を
行った。6例がM関連死、3例が紹介後転帰不明(再発担癌状態でM関連死が予想される)だった。2014年12月時点で無再
発生存例が4例(観察期間 : 3年4カ月、2年5カ月、2年、1年2カ月)
、再発担癌状態生存例が1例(観察期間 : 1年
9カ月)であった。再発や、短期に死亡している症例でも局所制御は良好でT関連死はなかった。無再発生存4例の観察期
間は短いが、手術治療により生命予後・QOL に寄与できる可能性が示唆される。今後も、個々の症例で手術療法の目的や
適応理由を明確にしつつ症例集積と客観的評価を行いたい。
156
甲状腺全摘術を施行したバセドウ病合併妊娠の 2 症例
○伊東明子、中屋宗雄、小村さやか、吉原晋太郎、木田
東京都立多摩総合医療センター
渉、渕上輝彦、渡辺健太
耳鼻咽喉科頭頸部外科
バセドウ病合併妊娠の2例に対し甲状腺全摘術を施行した。症例1は30歳女性、14歳時にバセドウ病発症、妊娠24週で当
院紹介、初診時チアマゾールと無機ヨード内服でコントロール不良。当院内分泌代謝内科で加療を行ったが TRAb 高値持続
のため、妊娠32週に当科で甲状腺全摘術を施行、妊娠39週に正常分娩に至った。症例2は32歳女性、妊娠27週で甲状腺機能
亢進症を指摘され当院紹介受診。内分泌代謝内科でバセドウ病の診断。チアマゾール内服開始したが無顆粒球症を発症し内
服中止、妊娠35週に当科で甲状腺全摘術を施行した。術後経過良好で待機分娩の方針となった。バセドウ病合併妊娠では抗
甲状腺薬で重篤な副作用がある場合、大量の抗甲状腺薬が必要な場合、甲状腺機能亢進症をコントロールできない場合に手
術療法の適応となる。症例1ではチアマゾール内服で甲状腺機能亢進症のコントロール不良であり、症例2では重篤な無顆
粒球症が生じたため手術適応として甲状腺全摘術を施行し、良好な経過を得ることができた。これらの2例の経過に文献的
考察を加えて報告する。
118―518
157
2015
非反回下喉頭神経の 3 例
○中原奈々、大塚邦憲
済生会
横浜市東部病院
耳鼻咽喉科
甲状腺の手術は、頭頸部外科領域においてはよく行われる手術の一つであるが、癌の浸潤やむを得ない場合を除いて反回
神経の走行を確認しながら温存することが術後の QOL を損なわないために重要となる。反回神経は、迷走神経が右側では
鎖骨下動脈を、左側では大動脈弓を下から後ろに反回した神経である。しかし、鎖骨下動脈の起始異常がある場合は反回神
経の走行にも異常が認められることがあり、迷走神経より直接分岐する非反回下喉頭神経(以下 NRILN)として喉頭へ侵
入することがあるので注意する必要がある。NRILN は術後の反回神経麻痺発生率が高まるともいわれている。内臓逆位な
2%から1.
2%程度の頻度であるとされて
どの特殊な状態でない限り、NRILN ほとんどが右側に起こり、過去の報告では0.
いる。われわれの施設では平成24年4月から平成26年10月の間に74件の甲状腺手術を行っており、そのうち3例(4%)に
NRILN の症例を経験したので、報告する。
158
甲状腺手術における術中神経モニタリングの検討
○植木雄志、森
香織、佐藤雄一郎
新潟県立がんセンター新潟病院
頭頸部外科
甲状腺手術において反回神経の損傷による声帯麻痺は最も危惧される術後合併症の一つである。当科では反回神経の確実
な同定、温存を目的に術中神経モニタリング(Intra―Operative Nerve Monitoring、IONM)を2011年より導入した。本報告
では、甲状腺手術における IONM の有用性について検討を行った。対象は2007年から2013年に当科で甲状腺葉切除または
全摘術を行った429例473側で、そのうち術前麻痺12例と、術中腫瘍浸潤を認め切断せざるを得なかった11例を除く450例に
ついて、患者背景、術式、IONM の使用の有無、術後麻痺の有無、麻痺の改善の有無につき検討した。IONM 未使用が272
側、使用が178側であり、術後麻痺発症率は IONM 未使用群が6.
99%、使用群が11.
80%であった。そのうち永久麻痺は
47%、使用群で3.
93%であった。IONM 使用により反回神経麻痺の発症リスクは変わらないが、全摘
IONM 未使用群で1.
症例や再発症例における気道確保の判断には有用であると思われた。ただし、コスト面の問題もあり適応症例を選択するな
どの対応が必要と思われた。
159
甲状腺疾患手術後出血例の臨床的検討
○友田智哲1)、中川正行1)2)
伊藤病院1)、相武台病院耳鼻咽喉科2)
【目的】甲状腺手術における術後出血は、回避すべき合併症のひとつである。2014年には日本医療安全調査機構より“甲
状腺術後の気道閉塞のリスク管理”が報告され、術後出血後気道閉塞により死亡した症例が呈示された。今回われわれは、
甲状腺術後再手術を必要とした術後出血例において、その特徴と対処方法について検討した。
【対象】2013年1月より2014
年6月までに甲状腺手術施行した2,
505名。
【結果】再手術を必要とした術後出血症例は43名(1.
7%)
。原因疾患は、バセド
ウ病4名、良性甲状腺腫瘍17名、悪性甲状腺腫瘍19名等であった。手術終了から再手術までの時間は、6時間以内が30名
(70%)12時間以内が39名(90%)
。血腫除去および止血手術は、局所麻酔下に28名(4名は病棟で創開創)
、全身麻酔下に
15名施行した。再手術時の出血、除去血腫量は平均 199±111ml で、輸血や気管切開を必要とした症例はなかった。出血部
位は前頸筋の動脈枝11例、上甲状腺動脈の末梢枝7名、反回神経周囲8名等であった。
160
内視鏡補助下甲状腺手術 VANS 法(Video―Assisted Neck Surgery)165例の検討
○野村研一郎1)、片山昭公2)、高原
幹1)、長門利純1)、上田征吾1)、岸部
幹1)、片田彰博1)、林
達哉1)、
1)
原渕保明
旭川医科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、札幌徳洲会病院
耳鼻咽喉科2)
前胸部の皮膚切開から内視鏡補助下に行う甲状腺手術(Video―assisted neck surgery、VANS 法)は美容面に優れている
術式であり、当科では2009年より本術式を導入している。適応は良性の結節性甲状腺腫、微小乳頭癌、CT で容量 60ml 以
下のバセドウ病としている。今回われわれは2014年11月までに当科で手術を行った165例についての検討を行った。手術は
前胸部外側鎖骨下 2.
5cm の皮膚切開より皮弁を作成し、リトラクターで挙上、下頸部に 5mm 0°の内視鏡を挿入した。超
音波メスを用いて行い、乳頭癌に対しては患側の D1 郭清を追加し、バセドウ病に対しては右側からのアプローチで全摘術
を行った。症例は女性148例、男性17例の合計165例で、年齢の中央値は45歳であった。術前診断は良性141例、悪性13例、
バセドウ病11例であった。主な合併症として永久的な反回神経麻痺を一例に認めた。VANS 法は合併症等は従来の手術と変
わらず、かつ美容面の観点から非常に有用な術式であると思われた。
118―519
日耳鼻
161
「スポーツ医学における耳鼻咽喉科学」と「耳鼻咽喉科学におけるスポーツ医学」の現状
○大谷真喜子、野々田岳夫、浦山勝裕、細田泰男
細田耳鼻科 EAR CLINIC
スポーツ医学における耳鼻咽喉科学の位置は決して高いものではない。
近年開催されたオリンピックの帯同医に耳鼻咽喉科医は含まれず、日本体育協会公認スポーツドクター養成講習では眼
科・歯科講義はあるが耳鼻咽喉科は無い。また鼻呼吸はスポーツ医学において呼吸機能ほど重要視されていない。そこで今
回はまず耳鼻咽喉科学におけるスポーツ医学の日本の現状について調べた。
方法はインターネットを用いて耳鼻科咽喉科医による過去のスポーツ関連の研究報告(論文・口演)とホームページ
(HP)発表を検索した。研究報告は、競技種目では剣道・水泳・ダイビング、分野では聴覚・平衡・鼻、疾患では難聴・ア
レルギー性鼻炎・外傷の順に多かった。HP 発表では水泳関連が多かった。耳鼻咽喉科医スポーツドクターの活動は主に大
会救護や帯同で研究報告は少なかったが水泳についての報告は多かった。
競技者が耳鼻咽喉科医に求めるものは、競技特性や遠征・競技環境を十分に考慮した上での専門知識に基づいた研究・助
言・治療ではないだろうか。例を用いて考察する。
162
スキューバダイビング後に生じる圧変動性めまい(alternobaric vertigo)について
○北島尚治1)2)、北島明美1)3)、北島清治1)
北島耳鼻咽喉科医院1)、東京医科大学耳鼻咽喉科学分野2)、聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科3)
近年、海洋スポーツの流行に伴いダイビング後のトラブルが増加傾向にある。圧変動性めまい(AV)は中耳腔の相対的
陽圧化によって生じ数分で症状消失する一過性のめまいで耳管機能障害との関連性が高いとされる。症例はダイビング後に
AV を診断もしくは疑われた15例である。正常ダイバー20例および、めまいのないダイバー患者29例をコントロールとし
た。治療には抗アレルギー剤および抗めまい薬を用いた。正常ダイバー群と比して耳管機能は有意にトラブルダイバー群が
低かった。AV 群のほぼ全例で耳管狭窄症を認めた。検査を施行した全例で蝸牛症状および瘻孔現象は認めなかった。初診
時8例が持続するめまい感を自覚しており、うち3例が軽度ながらも眼振を生じていた。今回われわれは発症後数週間持続
する AV を経験した。これらの症例では耳管機能障害によって内外リンパ圧差の改善が遅延していることや Toynbee 現象
による影響、および出血など内耳障害の可能性を考え、AV の再発防止には耳管機能障害の改善が重要と考えた。
(Otol Neurotol. 35
(5): 850―6 ; 2014)
163
体操トップアスリートの頭部傾斜感覚の特性
○和田佳郎1)2)、山中敏彰1)、村井孝行1)、北原
奈良県立医科大学
糺1)
1)
耳鼻咽喉科 、和田耳鼻咽喉科医院2)
体操トップアスリート(1名)の頭部傾斜感覚の特性を一般健常人と比較検討した。頭部傾斜感覚は、A)座位にて身体
全体を roll 傾斜させた場合、B)座位にて横方向に遠心加速度を与えて身体を疑似 roll 傾斜させた場合、C)座位にて頭部
のみを roll 傾斜させた場合の3条件にて頭部傾斜感覚ゲイン(Gain of head tilt perception、 HTPG)を計測した。頭部傾斜
感覚は HTPG=1 であれば正確、<1であれば過小、>1であれば過大と評価できる。条件Aでは、体操トップアスリート
06(0.
88)、間違った視覚情報を与えると1.
04(0.
73)となった。条件Bでは、体
(一般健常人15名)の HTPG は暗所で1.
93(0.
76)
、間違った視覚情報を与えると0.
92(0.
54)とな
操トップアスリート(一般健常人10名)の HTPG は暗所では0.
00(1.
12)であった。結果から、
った。条件Cでは、暗所における体操トップアスリート(一般健常人41名)の HTPG は1.
体操トップアスリートは一般健常人に比べて視覚情報よりも耳石器や体性感覚の情報を基にして頭部傾斜感覚を形成してい
ると考えられる。
164
聖マリアンナ医科大学カヌー部における下船後症候群に関するアンケート調査
○岡田智幸1)、田中泰彦1)、齊藤善光1)、深澤雅彦2)、中村
井戸光次郎2)、肥塚
学2)、宮本康裕2)、春日井
滋2)、阿久津征利2)、
泉2)
聖マリアンナ医科大学
横浜市西部病院
耳鼻咽喉科1)、聖マリアンナ医科大学
耳鼻咽喉科2)
【はじめに】下船後症候群、その実態は、健康者の生理反応か否か、明らかではなかった。今回、本学カヌー部員におけ
る下船後症候群の有無を調査する機会を得たので報告する。
【目的】下船後症候群の発症頻度と持続時間、時期および場所
等をアンケート調査する。
【方法】部員17名(男13名、女4名 ; 平均年齢男24.
4歳、女23.
3歳)に、1)カヌー経験 2)動揺
病等の既往 3)下船後、フワフワ感等の感覚はあるか 4)あれば、その持続時間 5)練習場所によって異なるか 6)シーズ
【結果と考察】全部員カヌー経験はなく、下船後の
ンを通じて起こるか否か 7)その他についてアンケート調査を行った。
フワフワ感を自覚したのは8名、動揺病が幼少期にあった5名のうち残存している2例に自覚症状があった。1名を除き、
hang over はなかった。自覚した8名一致して、練習開始の4月頃が自覚最も強く、その後軽快、翌年4月になって、再び、
同様に繰り返す。練習場所では、比較的穏やかな流れの方が、自覚するようである。文献的考察を加え報告したい。
118―520
165
2015
めまい症例報告の経年変化に関する検討
○黒川友哉1)、矢部多加夫2)、岡田和也3)、小山京子3)、三橋敏雄1)
都立駒込病院1)、やべ耳鼻咽喉科
表参道2)、都立広尾病院3)
めまい症例報告の経年変化を、日本めまい平衡医学会総会の演題を基に検討した。
【方法】日本めまい平衡医学会総会第28回(1971年)から第73回(2014年)までの抄録集に掲載されたすべての一般演題
を“1987年めまいの診断基準化のための資料”に記載された16疾患などに分類し、報告疾患の増減傾向などについて分析し
た。
【結果】過去から一貫して「メニエール病」に関する演題は多く取り上げられていた。一方で心因性めまい、良性発作性
頭位めまい症に関する発表は平成以前に比べ、徐々に増加傾向にあった。また、全体として「疾患特異的な演題」の増加傾
向と「基礎演題」の減少傾向を認めた。
【考察】めまい症例報告はこの40数年でかなりの変化がみられるが、メニエール病のように常に注目されている疾患があ
る一方、ここ十数年の疾患概念・診断技術の変遷により、良性発作性頭位めまい症、心因性めまい、中枢性めまいの報告が
増えている。また従来の診断基準には記載されていない片頭痛めまい、特発性両側前庭機能低下症、老人性平衡障害など報
告も増えつつある。
166
BPPV 症例における聴覚障害の影響の検討
○稲垣太郎、小川恭生、大塚康司、萩原
東京医科大学
晃、永井賀子、井谷茂人、鈴木
衞
耳鼻咽喉科学分野
【はじめに】BPPV は蝸牛症状を伴わないとされているが、高齢者に好発する疾患でもあり、高音閾値の上昇がみられる
ことが多い。【目的】BPPV 症例において聴覚障害の影響を検討する。
【方法】対象は東京医科大学病院耳鼻咽喉科めまい外
「高音障害」群と「その他」群とに分け検討した。また、
「内
来を受診した内耳障害を伴わない特発性 BPPV 症例は258人。
【結果】
「高音障害」群は平均年齢71.
9歳、平均聴力(5分法)32.5dB、平均治癒日数15.
9
耳性難聴」群35症例とも比較した。
日であった。
「その他」群は平均年齢53.
2歳、平均聴力 30.
8dB、平均治癒日数12.
7日であった。
「内耳性難聴」群は平均年
4歳、平均聴力 42.
7dB、平均治癒日数51.
6日であった。
【結語】特発性 BPPV で、聴覚高音閾値の上昇はその発症や
齢62.
病態に明らかな影響はなかった。内耳性難聴後に発症した BPPV は、特発性 BPPV よりも治癒日数が長かった。
167
外側半規管型 BPPV に対する Gufoni 頭位治療の有用性ついて
○伏木宏彰
目白大学耳科学研究所クリニック
耳鼻咽喉科
【目的および方法】Gufoni 頭位治療は、外側半規管型 BPPV のクプラ結石症、半規管結石症のいずれの症例にも有効な治
療法として報告されている。しかしながら、本邦においてはほとんど普及していない。今回、外側半規管型 BPPV、特に方
向交代性上向性頭位眼振を示す症例に対する Gufoni 頭位治療の治療経験と問題点について報告する。対象はめまいを主訴
として当科あるいは連携施設を受診し、頭位眼振検査で方向交代性頭位眼振を示し、神経耳科学的検査にてほかの診断にう
まく当てはまらない症例とした。治療として、先ずは座位から頭位眼振が小となる側臥位に素早く頭位変化をもたらし、そ
れを1分維持した。続いて地面に向かうように頸部を捻転し、2分維持し座位に戻した。これを2回施行した。
【結果】大
多数の症例においてめまいの自覚症状は1週間以内に消失していた。多くの症例で方向交代性頭位眼振の消失が確認され
た。【結論】Gufoni 頭位治療は、方向交代性上向性頭位眼振を示す BPPV においても簡便に行える有用な治療と結論した。
168
メニエール病の減塩治療による治療効果
―ナトリウム摂取量、各種ホルモン濃度変化と聴力・めまいの改善―
○宮下武憲、稲本隆平、福田信二郎、星川広史、森
香川大学
医学部
望
耳鼻咽喉科
メニエール病の減塩治療の効果を確認し、そのメカニズムを明らかにする目的で、メニエール病患者において、管理栄養
士による減塩指導(塩化ナトリウム 4g/日)を実施し、減塩治療前後(治療前、2週後、4週後、8週後、半年後、1年
後、1年半後、2年後)の臨床所見、アルドステロンなどの各種ホルモン、1日の塩化ナトリウム摂取量を反映する1日の
ナトリウム排泄量、尿中および血清電解質濃度等を測定した。
減塩できていた群では、減塩が不十分であった群と比較し、2年後の聴力は有意に改善していた。また、減塩できていた
群のほうが、めまい発作が少なくなる傾向を認めた。減塩治療により、血漿アルドステロン濃度は有意に上昇し、減塩でき
ていた群では、血漿アルドステロン濃度が高値である傾向を認めた。メニエール病治療のひとつとして減塩治療は効果があ
り、効果発現の機序のひとつにアルドステロン濃度上昇を介する内リンパ調節機構が関与している可能性が示唆された。
118―521
日耳鼻
169
ストレス対策・有酸素運動によるメニエール病の治癒・改善条件
○高橋正紘
横浜中央クリニック
めまいメニエール病センター
【目的】ストレス対策・有酸素運動・無投薬はメ病の現行治療に遥かに勝る。治療成績の集計から治癒・聴力改善の条件
008名中、初診時低音障害で3カ月以上、高・全音域障害で6カ
を求めた。【対象および方法】8年6カ月間のメ病確実例1,
月以上観察した319名の治療成績を分析した。319名の初診時と最新観察時の聴力分布(正常、低音障害、高音障害、全音域
障害)を、(観察期間を補正した)罹病期間別に χ 二乗検定した。
【結果】罹病6月∼1年、1∼2年、2∼4年、4∼8
年、全罹病期間集計で治療後、危険率1%で有意に改善し、罹病期間が短い群ほど改善率が高かった。めまいは罹病期間と
無関係に早期に消失・改善した。
【考察と結論】メ病は発症後、全音域障害の割合が罹病期間の対数に比例して増加する
975)規則がある。現行内服治療は難聴の進行予防に無効である。罹病早期ほどストレス対策・有酸素運動の治
(相関係数0.
療効果の高いことから、有酸素運動が内耳環境を改善させ自然治癒を促すが、メ病治癒には早期のストレス対策が不可欠、
最重要といえる。
170
片頭痛関連めまいとメニエール病の鑑別における前庭機能検査の有用性についての検討
○井上亜希1)2)、岩崎真一2)、江上直也2)、藤本千里2)、木下
NTT 東日本関東病院
淳2)、鴨頭
1)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 、東京大学
輝2)、菅澤恵子2)、山岨達也2)
医学部附属病院
耳鼻咽喉科2)
片頭痛関連めまい(Vestibular migraine : VM)とメニエール病(MD)は、共通した臨床症状を呈することから、鑑別に
苦慮することが多い。今回われわれは VM の臨床像を検討するとともに、前庭機能検査結果について MD、Control 群と比
較検討したので報告する。対象 : 2009年から2014年10月に東大病院めまい外来を受診し、カロリック検査と cVEMP、
oVEMP を施行した VM 患者28人を対象とした。方法 : めまいの性状について詳細に問診するとともに、神経耳科学検査と
して眼振所見、体平衡機能検査、純音聴力検査、カロリック検査、VEMP を施行した。結果 : VM におけるめまいの性状は
さまざまであり、約半数でなんらかの蝸牛症状を伴っていた。AC―cVEMP では control 群に比べ VM と MD で asymmetry
ratio
(AR)が有意に大きかった。AC―oVEMP では VM と Control 群に対し MD 患側耳で振幅が有意に小さく、AR は MD
で VM とコントロール群に対し有意に大きかった。
171
当院に来院した難聴患者統計(第一報)
○新川樹一郎、新川真那実、山本英永、陶
陽、大石真綾、矢野さゆり、宮本ゆう子、新川
敦
新川クリニック
<はじめに>当院では2008年に当院 CEO である新川敦が民放テレビで紹介され、その後多くの難聴患者が当院に来院し
診察を受けている。今回、2008年から2013年までの5年間に難聴を主訴に来院した患者を対象に統計的観察を行ったので報
426人を
告する。<対象と方法>対象は2008年10月から2013年10月までの5年間に当院に難聴を主訴として来院した患者18,
対象に、年間の患者数、男女別統計、年齢別統計、聴力による分類統計(40dB 以下・60dB 以下・61dB 以上)
、疾患別統計
(感音性難聴・中耳炎・耳硬化症・中耳奇形、内耳奇形・その他)について検討を行った。<結果>対象は2008年10月から
2013年10月までの5年間に当院に難聴を主訴として来院した患者18,
426人を対象に検討を行った。感音難聴51%、中耳炎
27%、その他17%、耳硬化症3%、中耳奇形1%、内耳奇形1%の順に患者数が多かった。
172
高齢者の水頭症シャント術前後における聴力の変動
○杉浦彩子1)、安江
穂2)、内田育恵1)3)、中島
国立長寿医療研究センター
1)
務1)
耳鼻咽喉科 、総合上飯田第一病院2)、愛知医科大学
耳鼻咽喉科3)
脳脊髄液減少や脳脊髄圧の変動に伴い聴力が変動することがある。相対的な内リンパ水腫になるためと推測されており、
水頭症に伴う聴力変動の報告も散見される。高齢者ではすでに加齢性難聴などがあり、わずかな聴力の変動でも聞きにくさ
に直結することがある。国立長寿医療研究センターには正常圧水頭症外来という専門外来があり、水頭症シャント術を行っ
ているが、2010年に正常圧水頭症外来が開始になってから、水頭症シャント術37件中、術後聴力低下の訴えは3例あった。
そのため、2012年よりシャント術症例では可能な限り術前後の聴力検査を行うようにしている。11例(男性3例、女性8
8歳)で術後聴力低下の訴えがあったのは1例だけだったが、125、250、500Hz の低音3周波数の平均聴力
例、平均年齢78.
では9例で左右どちらかの閾値上昇を認め、聴力低下の訴えがあった患者よりも閾値差が大きい例もあった。高齢者で脳脊
髄圧の変動を伴う処置を行う場合には十分な術前の説明と処置前後での聴力評価が望ましいと考えられた。
118―522
173
2015
騒音性難聴担当医と産業保健総合支援センターの連携について
○和田哲郎1)2)、吉村知倫1)、林
1)
健太郎1)、中山雅博1)、中馬越真理子1)、廣瀬由紀1)、田中秀峰1)、西村文吾1)、
田渕経司 、大久保英樹 、鈴鹿有子2)、杉原三郎2)、佐藤宏昭2)、原
筑波大学
1)
1)
耳鼻咽喉科 、日耳鼻
晃1)2)
2)
産業・環境保健委員会
【目的】騒音性難聴は予防が重要である。予防のためには事業所や労働者への働きかけが必要となる。2014年4月に産業
保健活動総合支援事業が実施となり、独立行政法人労働者健康福祉機構が産業保健総合支援センターならびに地域産業保健
センターを一元的に運営することとなった。これをきっかけに騒音性難聴防止のための活動を行う。
【対象と方法】茨城県
産業保健総合支援センターに申請し、日耳鼻学会認定騒音性難聴担当医の立場で登録、センターの産業保健相談員になっ
た。騒音・難聴分野の専門家として事業に関与することとした。
【結果および考察】支援事業には、産業保健関係者に対す
る啓発活動や相談対応が盛り込まれ、産業保健相談員が専門家として対応することと記載されている。しかし、これまで耳
鼻咽喉科医の関与は少なく、センター側も対応に苦慮していたという。騒音性難聴を診る医師には耳鼻咽喉科的知識に加え
産業医学的な見識も必要となる。その条件を満たす騒音性難聴担当医が現在全国に870名登録されており、今後、各地で積
極的な関与が望まれる。
174
聴覚の身体障害者に関する補聴器交付後調査
○内田育恵1)2)、岸本真由子1)、杉浦彩子2)、中島
愛知医科大学
務2)3)、植田広海1)
1)
耳鼻咽喉科 、国立長寿医療研究センター
名古屋大学大学院医学研究科
頭頸部・感覚器外科学
耳鼻咽喉科2)、
耳鼻咽喉科3)
成人の公費による交付補聴器使用者を3年後に再評価するプログラムが UK で試験的に施行されたところ、対象者95名全
員に補聴器の調整不良、耳栓不適正を含む介入が必要で、急性聴力低下への治療などのメジャー介入を要する例も39%あ
。今回愛知医科大学で、聴覚障害にて身
り、補聴器の適切な継続使用には定期評価が必要と指摘された(Goggins ら2009)
体障害者手帳の交付申請をした者を追跡して、補聴器の使用状況を調査した。2012年1年間に、愛知医科大学病院耳鼻咽喉
科で、聴覚の身体障害者手帳交付申請を行ったのは5歳から99歳の30名であった。そのうち4名は人工内耳対象者、1名は
死亡、1名は遠方へ転居されていた。新規手帳取得から1年以上経過した対象者について、補聴器使用状況や適合状態を、
International Outcome Inventory for Hearing Aids
(IOI―HA)日本語版、きこえの評価―補聴前・補聴後―質問紙等を用いて
評価し、課題や問題点を検討して報告する。
175
当院における補聴器外来の現状について
○猪狩雄一、大久保啓介、三橋正継
佐野厚生総合病院
耳鼻咽喉科
【はじめに】高齢化社会の進行とともに補聴器のニーズが高まっている。しかし補聴器の購入に際して耳鼻咽喉科を受診
せず補聴器専門店等で購入するケースが見受けられ、補聴器外来の普及が求められている。当院では県内補聴器講習会の受
講をきっかけに平成22年4月より医師、認定補聴器技能者、言語聴覚士による補聴器外来を開設した。補聴器外来の概要と
結果を報告する。
【対象・方法】対象は平成22年4月から平成26年10月までに当院補聴器外来を受診した171名。補聴器外来
の内訳、補聴器の購入数、外来通院月数と回数等について検討した。
【結果】補聴器外来の受診者の年齢は28∼97歳、補聴
、補聴器装
器装用目的は150名、調整目的は21名であった。受診者の補聴器購入は自費と総合支援を合わせて133名(78%)
6カ月、平均来院回数は6回であっ
用目的で受診したが装用を中止した患者は27名であった。購入までの平均通院月数は3.
た。
【結語】県内補聴器講習会の指導に準拠した補聴器調整を行うことが比較的高い補聴器の購入率につながっていると考
えられた。
176
当科における小児機能性難聴例の検討
○高梨芳崇1)、川瀬哲明1)2)、八幡
東北大学
医学系研究科
湖1)、奥村有理1)、香取幸夫1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、東北大学
医工学研究科
聴覚再建医工学分野2)
2011年3月11日に東日本大震災が発生した。2014年10月10日時点で、震災による死者・行方不明者は18,
487人、建築物の
306戸が公式に確認されている。復興庁によると、2014年9月11日時点の避難者等の数は24万
全壊・半壊は合わせて40万1,
3,
040人となっており、避難が長期化していることが特徴的である。また、宮城県を含む被災地での震災関連の精神疾患の
増加が報告されている。2005年10月から2014年9月までに当科外来を受診した18歳以下の小児例のうち標準純音聴力検査、
耳音響放射、聴性脳幹反応検査を用い機能性難聴と診断された症例について患者背景、症状が起こったきっかけを含め、東
日本大震災との関連についても検討を行い、文献的考察を加え報告する。
118―523
日耳鼻
177
ADHD を伴った小児心因性難聴の 3 例
○阪本浩一、大津雅秀
兵庫県立こども病院
耳鼻咽喉科
はじめに : 発達障害の概念には、注意欠陥多動性障害(ADHD)
、自閉症スペクトラム、学習障害(LD)が包括され相互
に合併し得るとされている。今回 ADHD を伴った小児心因性難聴児について報告する。症例1 : 10歳女児、学校検診で両
側難聴指摘、心因性難聴の診断にて当科紹介。視野狭窄も指摘されていた。当院精神科紹介、広汎性発達障害、ADHD 伴
うアスペルガー障害と診断され、メチルフェニデート塩酸塩の処方が開始された。症例2 : 7歳男児。1年前に当院精神科
にて AHDH と診断。本年の学校検診にて左難聴指摘。精査にて心因性難聴と診断。精神科による薬物療法が開始され、聴
力閾値は改善した。症例3 : 9歳女児。学校検診にて難聴指摘、谷型の軽度難聴を示し補聴器装用。当院精神科受診し、
ADHA の診断にて薬物療法が開始。13歳時に心因性難聴による閾値上昇を認めた。問診より内服が中断していることが判
明した。まとめ : 小児心因性難聴を診断した場合には、発達障害の合併を念頭に、専門家との連携を持って診断にあたるこ
とが重要である。
178
シスプラチン投与後に聴力障害を認めた小児例 5 例の検討
○有本友季子1)、仲野敦子1)、工藤典代2)
千葉県こども病院
耳鼻咽喉科1)、千葉県立保健医療大学
健康科学部2)
シスプラチン(CDDP)は代表的な抗腫瘍薬であるが、副作用に聴力障害や腎毒性等があり問題となる。CDDP による聴
力障害の好発周波数は可聴音域では 4KHz、8KHz であり、特に 8KHz に障害が強いとされる。高周波数域の聴力障害では
子音の聞き誤りを生じやすく、小児では特に学習面への影響が懸念される。当初は本人に自覚がない場合でも、特に英語学
習開始に伴い子音が聞き取れず自覚が顕著となりやすい。当科症例の一つは、4歳8カ月で神経芽腫と診断され、CDDP
投与1年7カ月後に 8KHz、投与3年2カ月年後に 4KHz と 8KHz の高周波数域に聴力障害を認めた。7歳10カ月時に、子
音の聞き誤りがあり本人、保護者の強い希望で補聴器装用を開始し有用であった。4KHz、8KHz に限局した聴力障害でも
補聴器の進歩もあり、有効に補聴器を装用できる例が存在する。しかし一方で、同じ CDDP 投与後の聴力障害例でも、補
聴器装用困難例もある。当科5症例の検討から、CDDP 投与後の聴力障害を認める小児例で、どのような条件であれば補
聴器装用を有効に行えるのか考察したい。
179
粘膜下口蓋裂症例における滲出性中耳炎の検討
○仲野敦子1)、有本友季子1)、工藤典代2)
千葉県こども病院
耳鼻咽喉科1)、千葉県立保健医療大学
健康科学部2)
粘膜下口蓋裂は、軟口蓋正中の筋層の離開と硬口蓋後端の骨欠損を認めるが視診上明らかな裂を認めない比較的頻度の低
いタイプの口蓋裂である。二分口蓋垂を伴うことが多いが、一般的な口蓋裂と比較すると診断や治療が遅れることが多い。
また、本疾患は染色体異常やほかの合併疾患、発達障害を伴う例が多いとの報告もある。難治性の滲出性中耳炎や鼻咽腔閉
鎖機能不全のための構音障害で受診した症例の中から、本疾患が発見されることもある。2004年から2014年に当院を受診し
た粘膜下口蓋裂38症例について検討した。受診の契機は構音障害が多かったが、中には滲出性中耳炎だけ治療されて粘膜下
口蓋裂の診断が遅れていた症例もあった、滲出性中耳炎合併例のうち、チューブ留置術が必要となっていた症例は15例であ
った。合併疾患としては、22q11.
2 欠失症候群が9症例、両側メビウス症候群が1例含まれていた。これらの症例について、
診断時年齢、診断の経緯、滲出性中耳炎との関係、発達障害の合併について等を検討して報告する。
180
一側性滲出性中耳炎の検討
○小林一女1)、兼井彩子1)、時田江里香1)、鈴木吾登武2)
昭和大学
医学部
耳鼻咽喉科1)、鈴木耳鼻咽喉科クリニック2)
滲出性中耳炎は鼓膜に穿孔がなく、中耳腔に貯留液が認められる疾患である。主な症状は難聴で、ほかの耳疾患を合併し
なければ、高度の聴覚障害を生じることはない。一側性滲出性中耳炎では難聴に気づかれず、診断が困難なことがある。多
くは自然治癒するため、一側性滲出性中耳炎の治療適応が問題となることもある。今回一側性滲出性中耳炎症例について検
討したので報告する。
症例1 17歳男性。
9歳時、右難聴を主訴に近医耳鼻咽喉科を受診する。右耳に滲出性中耳炎が認められた。保存的加療、鼓膜切開が行われ
たが、鼓膜所見が悪化し、10歳時当院を受診する。右鼓膜の高度内陥を認め、鼓膜換気チューブを留置した。9カ月後、画
像で乳突蜂巣の含気を確認しチューブを抜去した。2カ月後に鼓膜所見が悪化し、チューブ再留置となった。現在まで7年
間に計7回のチューブ留置を行い、現在も留置中である。
一側性滲出性中耳炎症例は初診年齢が高く、チューブ留置術に抵抗する難治例が多い。鼻すすり癖があり、長期のチュー
ブ留置が必要と考えられた。
118―524
181
2015
耳下腺がん側頭骨進展例に対する外耳道温存耳下腺全摘手術
○伊地知
圭、川北大介、別府慎太郎、高野
名古屋市立大学
医学部
学、村上信五
耳鼻咽喉科
局所進行耳下腺がんに対する治療の第一選択は、周囲組織を合併切除する拡大耳下腺全摘術である。腫瘍が外耳道底から
乳突洞に進展している症例では、安全域として合併切除する必要があり、側頭骨外側切除術が選択されることが多い。当科
では外耳道粘膜皮膚への浸潤が無い症例で、かつ腫瘍が頸静脈孔に近接していない症例に対して、外耳道温存手術を選択し
ている。前方では、腫瘍が近接している部位の外耳道骨、軟骨と皮膚を剥離し、耳珠軟骨から顎関節包、顎関節を進展範囲
に応じて切除する。後方では乳突削開をしてS状静脈洞を透見させて頸静脈球付近まで削開し、顔面神経管を同定する。外
耳道骨と皮膚を剥離し、腫瘍の近傍の部分の外耳道骨を切除側とする。顔面神経麻痺がある症例は側頭骨内で顔面神経管を
解放し、神経を切断して断端を術中迅速診で確認する。外耳道―茎乳突孔―乳様突起の骨切り線を決定して切除する。側頭
骨進展部位の異なる耳下腺がん症例について術中の所見を動画と共に報告する。
182
ステノン管原発悪性腫瘍の臨床的検討
○松下直樹、井口広義、和田匡史、大石賢弥、寺西裕一
大阪市立大学
大学院医学研究科
耳鼻咽喉病態学
われわれは過去にステノン管原発悪性腫瘍についての症例報告を行った。ステノン管原発悪性腫瘍は極めてまれな腫瘍で
あり、一施設での検討では症例数に限りがあり、十分な臨床的検討は困難である。そこで今回、われわれが近年経験した1
例を含め、過去に英文で報告された25例と和文で報告された14例を合わせて臨床的検討を行った。この40例において、性別
および年齢分布、左右別、主訴、腫瘍径、病理組織、治療方法、再発の有無につき臨床的検討を行った。ステノン管原発悪
性腫瘍では扁平上皮癌が多い傾向にあった。治療の第一選択は手術であるが、腫瘍に十分な安全域をつけることはもちろ
ん、parotidectomy を併用する方が再発を防ぐためによいと考えられた。今後の治療方法や予後改善につながれば幸いであ
る。
183
耳下腺癌における術後追加治療の検討
○上田哲平1)、鵜久森
愛媛大学
医学部
徹1)、富所雄一2)、山田啓之1)、脇坂浩之1)3)、羽藤直人1)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、愛媛県立中央病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)、
3)
愛媛県立医療技術大学
1987年1月から2011年11月の間に当科で初回根治手術を施行した耳下腺癌42例を対象に治療成績の結果をもとに術後追加
治療の方針について検討した。術後追加治療は23例に施行され、その内訳は放射線療法20例、化学放射線療法1例、化学療
法2例であった。術後追加治療の適応を検討するため、予後因子解析を行った。単変量解析による予後不良因子は T4、N
(+)、stage 4、組織学的高悪性であった。これらの因子に一般的に予後不良とされる切除断端陽性例を加えて、いずれか
(+)例)は
を満たす症例を予後不良群として検討した。予後不良群は32例であり、その内術後放射線治療完遂例(以下 RT
20例、非施行・非完遂例(以下 RT
(−)例)は12例であった。それぞれの5年粗生存率は RT
(+)例で79.
9%、RT
(−)例
で38.
9%であり、両群間に有意差を認めた。5年局所頸部制御率は RT
(+)例で89.
2%、RT
(−)例で40.
4%であり、両群
間に有意差を認めた。耳下腺癌において、上記の予後不良因子を有する症例では術後放射線治療が局所頸部制御率と生存率
を有意に改善すると考えられた。
184
耳下腺癌手術症例の一次例と二次例の比較検討
○白倉
聡、別府
武、畑中章生、岡野
埼玉県立がんセンター
渉、得丸貴夫、藤川太郎、山田雅人
頭頸部外科
大唾液腺癌において術前診断を組織型まで正確に確定させるのは非常に困難である。なぜなら穿刺細胞診では良悪性につ
いては正診率が比較的高いが、組織型については確定困難であるからである。このように専門病院でも術前の確定診断が難
しいため、一般的な耳鼻咽喉科や耳鼻咽喉科以外の科が手術を行う際に、術後に悪性腫瘍であることが判明して2次例とし
て紹介となることも多い。今回われわれは当院の耳下腺癌手術症例1次例に対して、その病理型、細胞診の正診率や生存率
などについて検討し、他院で手術施行(全摘したが断端陽性だったもしくは生検目的の wedge 切除で耳下腺癌と判明した
など)された2次例の治療後の結果について、1次例との比較検討を行ったのでここに報告する。対象は2000年3月から
2013年12月までに当科で根治手術を行った耳下腺癌68例である。1次例は52例であり、2次例は16例であった。これらの対
象に対して術前の病理組織型診断、予後、疾患特異的累積生存率、再発例の転帰など臨床像について検討し報告する。
118―525
日耳鼻
185
当科における耳下腺癌の治療成績
○四宮
瞳、大月直樹、山下大介、丹生健一
神戸大学附属病院
耳鼻咽喉・頭頸部外科
耳下腺癌は比較的まれな疾患であり、組織型も多彩なため施設ごとに診断手順や治療方針は異なっている。今回われわれ
は過去20年間に当科で初回手術を行った耳下腺癌72症例を対象に、TNM 分類、組織型、治療法、予後についてレトロスペ
クティブに調査し、術前診断率および予後因子についての検討を行った。対象症例の性別は、男性42例、女性30例、平均年
齢は56歳(5∼84歳)であった。TNM 分類はT別では T1、T2、T3、T4 が10例、25例、13例、24例であり、N別では N0、
N1、N2b が58例、3例、11例、Stage 別では Stage I、II、III、IV が10例、24例、9例、29例であった。組織型は粘表皮癌
が23例(高悪性度4例)と最も多く、次いで多形腺腫由来癌11例、腺様嚢胞癌9例、唾液腺導管癌9例、腺房細胞癌8例、
扁平上皮癌5例、腺癌 NOS4例、上皮筋上皮癌2例、基底細胞癌1例であった。全症例の5年、10年疾患特異的生存率
(DSS)はそれぞれ82%、64%であった。組織学的悪性度別、Stage 別、T別、N別、疼痛の有無、顔面神経麻痺の有無での
5年 DSS を検討し報告する。
186
頬粘膜原発と考えられた salivary duct carcinoma の 1 例
演題取り下げ
○古賀あかり、井口広義、寺西裕一、山根英雄
大阪市立大学大学院医学研究科
耳鼻咽喉病態学
症例は66歳男性。2014年2月頃より左頬部腫脹を自覚、徐々に増大を認めていた。4月中旬近医受診。精査を勧められた
が、仕事の都合を理由に6月下旬に当科紹介受診となった。頸部造影 CT・MRI にて、左頬部に 40mm 大の不整な腫瘤を認
めた。左頸部リンパ節に転移を疑うリンパ節を1つ認めた。頬粘膜側より腫瘍生検を行い poorly differentiated carcinoma、
唾液腺型の腫瘍の疑いと診断した。8月下旬に入院し、腫瘍切除(頬部皮膚∼頬粘膜貫通合併切除)
+左耳下腺亜全摘+左
頸部郭清術+再建術(外側大腿皮弁、顔面神経再建なし(下顎縁枝、側頭枝温存)
)施行。術後1カ月より術後化学放射線
治療を施行した。腫瘍の病理組織検査の結果、salivary duct carcinoma と診断した。耳下腺、ステノン管には腫瘍を認め
ず、腫瘍の存在部位も考慮し、頬粘膜小唾液腺発生と考えた。Her―2 陽性、Ki―67>50%であった。
187
当科における耳下腺唾液腺導管癌の臨床的検討
○松本宗一、青井二郎、弘瀬かほり、小林泰輔、兵頭政光
高知大学
医学部
耳鼻咽喉科
耳下腺唾液線導管癌は悪性度が高く遠隔転移を来しやすい臨床的特徴を有する。組織型が乳腺の乳管癌に類似しており、
ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER―2)蛋白の過剰発現を認める症例に対して、分子標的治療の報告も散見される。今回、
2009年10月から2014年9月までの5年間に当科で治療を行った耳下腺唾液腺導管癌13症例につき臨床的検討を行ったので、
文献的考察を含め報告する。年齢は30∼85歳(中央値66歳)
、性別は男性9例、女性4例であった。顔面神経麻痺を伴って
いた症例が2例あった。6例に手術を施行し、うち3例では拡大耳下腺全摘を行った。術後放射線治療を5例に施行した。
初診時に遠隔転移を認めた1例に対しては、全身化学療法、放射線治療に加え、HER―2 が強陽性であったため分子標的治
療も行った。残る1例に対しては巨大な腫瘍であったため放射線治療を行った。観察期間は短いものの5例が非担癌生存
し、1例が肺転移により死亡、4例は担癌生存中である。若干の文献的考察を加えて報告する。
188
唾液腺導管癌症例の臨床的検討
○橋本香里、門田伸也、花川浩之、三浦直一
四国がんセンター
頭頸科
唾液腺導管癌は、唾液腺悪性腫瘍の中ではまれで、早期に局所再発や遠隔転移を来す予後不良な癌とされている。2006年
11月から2014年11月までの8年間に、当院にて5例の唾液腺導管癌を経験した。全例男性で、年齢は41∼81歳(平均58.
6
歳)であった。術前に組織型の推定ができたのは2例のみであり、顔面神経麻痺は全例みとめられなかった。TNM 分類
は、T別 で は T2 : 3例、T3 : 1例、T4a : 1例、N別 で は N0 : 2例、N2b : 3例、M別 で は M0 : 4例、M1 : 1例 で、
Stage II 2例、Stage IVA 2例、Stage IVC 1例であった。全例に拡大耳下腺全摘術および頸部郭清術を施行し、4例に顔
面神経再建術を、2例に副神経再建術を、3例に前外側大腿皮弁再建術を施行した。全例に後治療として放射線療法または
化学放射線療法を施行した。手術時にすでに遠隔転移を認めていた1例は12カ月後に原病死したが、ほか4例は現在非担癌
生存している。唾液腺導管癌に対する耳下腺拡大全摘術と後治療による集学的治療に関して、文献的考察も含め報告する。
118―526
189
2015
唾液腺導管癌の臨床病理学的検討
○金澤丈治1)、福島啓文2)、三澤
清3)、佐藤由紀子4)、西野
宏1)、峯田周幸3)、川端一嘉2)
医学部
耳鼻咽喉科 、癌研究会
がん研有明病院
頭頸科2)、
医学部
3)
がん研有明病院
臨床病理センター4)
自治医科大学
1)
浜松医科大学
耳鼻咽喉科 、癌研究会
唾液腺導管癌(SDC)は予後不良であるが標準治療が確立されていない。最近、上皮成長因子受容体やホルモン受容体高
発現が報告され症例の蓄積が求められている。今回、私達は、3施設の SDC につき検討した。症例は、男性19例、女性8
2歳で、TN 分類では T4a が14例、N2 が11例と最も多かった。全例で手術が行われ14
例の合計27例である。平均年齢は63.
例で術後照射が追加された。3年生存率は、全生存率が66.
8%、無病生存率が22.
8%であり、病期およびT因子が予後因子
であった。摘出標本の HER2、EGFR、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体、KIT、サバイビン、マスピン、p27、
1%、93.
8%、52%、100%、
p57、サ イ ク リ ン D1 の 発 現 を 組 織 学 的 に 検 討 す る と 陽 性 率 は そ れ ぞ れ96%、72%、11.
68.
4%、57.
1%、78.
6%であった。これらは予後因子とはならなかったが、正常耳下腺および粘表皮癌と比較すると
HER2、アンドロゲン受容体、KIT、サバイビンの発現が有意に高かった。この結果は、抗 HER―2 療法や抗アンドロゲン療
法の有用性とサバイビンなど新たな治療標的の存在を示唆する。
190
多施設共同による唾液腺導管癌の後方視的観察研究―生存率および予後因子に関する検討―
○大塚邦憲1)、多田雄一郎2)、川北大介3)、花澤豊行4)、加納里志5)、清水
7)
8)
9)
10)
塚原清彰 、大上研二 、佐藤雄一郎 、長尾俊孝 、小川
慶應義塾大学
名古屋市立大学
千葉大学
大学院
大学院
北海道大学
大学院
東京医科大学
東海大学
耳鼻咽喉科1)、国際医療福祉大学
医学部
東京医科大学
郁
三田病院
頭頸部腫瘍センター2)、
3)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 、
医学研究院
耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学4)、
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学5)、東京医科大学
医学研究科
八王子医療センター
医学部
顕6)、今西順久1)、小澤宏之1)、
1)
耳鼻咽喉科学分野6)、
7)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 、
耳鼻咽喉科頭頸部腫瘍センター8)、新潟県立がんセンター
新潟病院
耳鼻咽喉科9)、
10)
人体病理学分野
唾液腺導管癌(SDC)は悪性度がきわめて高く、また頻度も比較的まれであることからまとまった症例数による臨床的検
討は少ない。そのため予後の検討が十分でなく、標準的な治療法はいまだ確立されていない。われわれは1992年2月から
2014年10月までの22年間(観察期間中央値966日)に8施設で治療を行った唾液腺 SDC 186症例(男性155例、女性31例、
26∼87歳・中央値64歳)を検討した。原発巣の内訳は耳下腺144例、顎下腺37例、舌下腺1例、小唾液腺4例であり、病期
分類では Stage I : 10例 II : 28例 III : 22例 IVa : 106例
IVb : 4例
IVc : 16例であった。全体の3年疾患特異的生存率
0%であった。各臨床病理学的因子について多変量解析を行った結果、顔面麻痺、リンパ節転移、遠隔転移が
(CSS)は69.
SDC の CSS における独立予後因子であった。一方で、従来予後良好である可能性が指摘されてきた多形腺腫由来である
SDC ex pleo.は、SDC de novo と比較して予後に有意差は認めなかった。これらの結果を踏まえ、本疾患の治療や予後など
につき文献的考察を加え検討する。
191
上気道と下気道で温度変化に過敏な体質について
○中尾善亮
なかお耳鼻咽喉科
【目的】セキの出やすい患者に共通した体質的な特徴を検討することで、気道が過敏になりやすい要因を明らかにできな
いか試みた。【方法】過去10年間にセキを訴えて当院を受診した患者で、咽喉頭の違和感のあった症例に対して、以下の4
項目についての質問調査を行った。1)足の冷え、2)口の乾き、3)肩甲骨の間の肩こり、4)温度変化による鼻水やくしゃ
410名と女性の方が多く、その年齢のピークは30歳台であった。足の冷え、口喝、肩
みの有無。【結果】男性615名、女性1,
こりが女性で高率にみられ、温度変化による鼻炎症状は男女共に高頻度であった。
【考察】足の冷えなど、全身的には交感
神経優位であり、鼻腔に関しては副交感神経優位といえる自律神経のアンバランスな体質と考えられ、女性でより顕著であ
った。セキの出やすい患者では、上気道と下気道で温度変化に対する過敏性がみられ、気道での副交感神経優位な状態を生
じやすい要因として、自律神経のアンバランスな体質の関与があるように思われた。
118―527
日耳鼻
192
FSSG 陽性の咽喉頭異常感症患者における PPI の治療効果について
○高橋奈央、相澤直孝、馬場洋徳、山本
新潟大学
はじめに
医学部
裕、髙橋
姿
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
当科では咽喉頭異常感症例に FSSG を行い陽性例に PPI 投与を行っている。今回異常感の改善度と FSSG の推
移につき検討を行った。
対象と方法 2011年6月∼2014年7月に咽喉頭異常感症で受診した221例中 FSSG 陽性例は60例で、PPI を8週間投与し
異常感と FSSG の推移を検討し得た46例を対象とした。
結果 46例中60歳未満は男性10例、女性11例、60歳以上は男性8例、女性17例となり、高齢の女性に多い傾向があった。
0%)であった。改善率は60歳未満で男性90.
0%、女性45.
4%、60歳以上で
PPI 投与により異常感が改善したのは29例(63.
0%、女性64.
7%となり、60歳未満の男性で改善率が高かった。また治療前の FSSG を比較すると改善群は13.
1±
男性50.
4.
71、非改善群は19.
9±9.
86と有意差を認めた。
考察 60歳以上の女性が多い理由として閉経に伴う GERD の増加の関与が考えられた。60歳未満の男性以外で PPI 投与
による改善率が低かったが、難治性 GERD や精神科疾患の関与などが考えられた。治療前の FSSG が非常に高い場合は PPI
投与でも改善率が低く、治療に難渋する可能性が示唆された。
193
後弯症患者における咽喉頭逆流症の併発に関する検討
○松崎洋海1)、牧山
耳鼻咽喉科1)、日本大学
日本大学病院
緒言
清1)、石井崇平1)、鈴木啓誉1)、大内俊孝1)、木村優介1)、森田優登1)、大島猛史2)
医学部
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野2)
過去の報告により、後弯症患者にしばしば逆流性食道炎が合併することが指摘されている。一方、後弯症患者にお
ける咽喉頭逆流症の合併に関する検討はまだほとんどなされていない。本研究の目的は、後弯症患者に咽喉頭逆流症が併発
しやすいか否かについて検討することである。対象と方法 19例の後弯症患者群と29例の対照群との比較検討を行った。咽
喉頭逆流症と逆流性食道炎の存在を Reflux Symptom Index(RSI)と Frequency Scale for the symptoms of GERD
(FSSG)と
6%で、対
で各々評価し、両群で比較した。結果 RSI の結果から咽喉頭逆流症の存在を疑われたのは、後弯症患者群の31.
5%であった。FSSG の結果から逆流性食道炎の存在を疑われたのは、後弯症患者群の36.
8%で、対照群では
照群では3.
10.
3%であった。両アンケートともに両群間に統計的に有意差があった。結論
後弯症患者では、対照群と比較して咽喉頭
逆流症が併発しやすいことが明らかになった。
194
当科における喉頭肉芽腫症例の臨床的検討
○橘
智靖1)、折田頼尚2)、小河原悠哉1)、松山祐子1)、清水藍子1)、牧原靖一郎3)、丸中秀格4)、西
姫路赤十字病院
1)
香川労災病院
耳鼻咽喉科 、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
和則2)
2)
耳鼻咽喉・頭頸部外科 、
耳鼻咽喉科3)、岡山医療センター4)
喉頭肉芽腫は声帯後方の声帯突起部から軟骨部にかけて好発する非特異的炎症による隆起性疾患である。主に気管内挿
管、逆流性食道炎、声の酷使などが要因とされている。症状としては咽頭痛・咽喉頭違和感、治療として PPI やステロイ
ドの吸入が一般的である。治療効果が乏しい場合には腫瘍性疾患との鑑別を目的に外科的治療も選択肢とされる。喉頭肉芽
腫は術後高率に再発することが知られているが、今回われわれは2006年1月から2014年11月までに当科で加療を行った喉頭
肉芽腫症例73例を対象に、臨床学的諸因子・症状・治療法・経過に関して検討を行ったので報告する。
195
声門下肉芽に対して肉芽除去とステロイド局所注射が有効であった一例
○関根麻美子、栗田昭宏
さいたま赤十字病院
耳鼻咽喉科
気管挿管に伴う声門下狭窄の原因には、挿管手技、チューブによる機械的損傷、低酸素血症、感染等がある。いったん肉
芽を形成すると確立された治療法はなく、抜管困難のため気管切開を要することもある。今回われわれはくも膜下出血術後
に抜管困難を来した声門下肉芽に対して、直達喉頭鏡下に肉芽除去とステロイド局注を行い、症状改善がみられた一例を経
験したので報告する。
[症例]45歳女性。くも膜下出血発症後、神経原性肺水腫のため挿管され、5日後に開頭クリッピング術を施行し、術中
問題なく抜管されたが、帰室直後に呼吸状態が悪化し、再挿管および人工呼吸器管理となった。以後も挿管と抜管を繰り返
し、術後13日目に耳鼻科受診となった。声門下肉芽の形成があり、ステロイド吸入で経過観察するも、呼吸苦の増悪をみと
めた。再挿管し、全身麻酔および直達喉頭鏡下に肉芽をデブリッターと鉗子で除去した。炎症所見が強く、ほぼ全周性の肉
芽形成を認め、予防的にケナコルトを局注し翌日抜管した。術後4カ月の現在、呼吸苦は改善し、肉芽の再発はない。
118―528
196
2015
塩化ジデシルジメチルアンモニウムを主成分とする動物用消毒剤(アストップⓇ)誤飲の 1 例
○寒川
泰、岸野毅日人、後藤理恵子
三豊総合病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
塩化ジデシルジメチルアンモニウムを主成分とする消毒剤の一つであるアストップⓇ は畜産領域での畜体や畜舎の消毒ま
たは家畜診療領域での診療器具の消毒を目的として使用される薬剤の一つである。人体に対する使用目的はなく、誤飲に対
する注意が明記されている。今回われわれは、アストップⓇ を誤飲した症例を経験したので報告する。
症例は76歳男性、自宅でアストップⓇ を誤飲し夜間に当院救急外来を受診し、経過観察のため入院となった。翌朝に咽頭
違和感の増強を訴え、水分の嚥下が不可能となり、呼吸苦が出現したため当科紹介となった。喉頭浮腫を認め緊急気管切開
を施行し、その後の精査の結果、咽喉頭食道粘膜炎、食道潰瘍、縦隔炎と診断した。絶飲食、抗生剤投与、ステロイド投与
などで治療し咽喉頭食道粘膜病変、縦隔炎は改善しは徐々に改善した。その後、気管切開孔を閉鎖し、経口摂取も可能とな
り食道狭窄なく第23病日に退院となった。初診から4カ月後も問題なく経過している。
197
気道狭窄を来した血管奇形に対する治療の試み
○間多祐輔、植木雄司、今野昭義
総合南東北病院
耳鼻咽喉科
頭頸部領域の血管腫・血管奇形はしばしば「血管腫」と総称され、The International Society for the Study of Vascular
Anomalies 分類では細胞増殖の有無により血管系腫瘍と血管奇形に大別される。その中で、咽喉頭に発生し、気道狭窄を来
すものは比較的まれであり、その治療は外科的切除、レーザー治療、血管内治療などの報告がみられるが、確立していない
のが現状である。今回われわれは気道狭窄を来した血管奇形を4例治療する経験を得たので報告する。症例の内訳は女性3
例、男性1例、年齢は33∼53歳、血管奇形の発生部位は中咽頭後壁が2例、下咽頭(右披裂喉頭蓋襞)が1例、中咽頭前
壁・側壁・下咽頭が1例であった。主訴は全例が仰臥位での呼吸困難感であった。治療は気管切開を施行した後に、全身麻
酔下で肉眼あるいはビデオ直達喉頭鏡下で病変を明視下において直接穿刺による硬化療法を行った。薬剤は症例に応じて無
水エタノールとポリドカスクレロールを使い分けた。治療に伴う重篤な有害事象はみられなかった。
198
当科における小児気管切開症例の検討
○宮本
真、友田幸一
関西医科大学枚方病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】周産期医療の発達とともに小児の気管切開症例は増加しており、多施設より臨床的統計の報告がされている。
今回われわれは、過去4年間に当科で施行した小児の気管切開症例について臨床学的検討を行ったので、若干の文献的考察
を加え報告する。【症例】気管切開を行った症例は25例あり、乳児(1歳未満)14例、幼児(6歳未満)6例、学童・青年
【結果】男児9名、女児11名。乳児の気管切開施行時の平均年齢
が4例であった。今回は乳幼児の20例について検討した。
5カ月、幼児の気管切開時の年齢は3.
7歳であった。乳児のほとんどが出生直後から挿管による呼吸管理が行われていた
は4.
が、幼児は術後の声帯麻痺による気管切開が半数を占めていた。
【考察】気管切開が気道確保の手段であるのは、小児にお
いても成人と同様である。乳幼児の気管切開は成人と異なり、その主な適応は気道狭窄と呼吸管理目的とされている。過去
の報告同様に0歳児が半数以上を占め、気道管理目的が主であった。
199
過去10年間に実施した 0 歳児の気管切開64例について
○金村信明、中野友明、愛場庸雅、天津久郎、古下尚美、木下彩子、植村
大阪市立総合医療センター
剛
耳鼻咽喉科
当院は新生児診療の基幹病院として、新生児集中治療室(NICU)が12床、後方病室32床を有し、小児医療センターとし
て199床を有するなど、小児医療が充実している。耳鼻咽喉科としては気道管理に携わることが多く、今回は0歳児の気管
切開症例について報告するとともに、術後管理で難渋した症例を提示する。対象は2005年から2014年までの10年間に気管切
開を実施した0歳児で、男児34例、女児30例の計64例である。7割以上が生後半年までに施行されていた。最少体重は
1,860g で、3,
000g 以下の症例が15例あったが、いずれも手術自体は問題なく施行されている。気管切開の目的を気道管理
と呼吸管理にわけると、当然、呼吸管理目的の症例では経過中の死亡例が多かったが、原疾患のコントロールにより、気管
孔閉鎖に至る症例もみられた。気管切開が施行された同日夜間に気道狭窄を来し、心停止に陥った1例を経験したので合わ
せて報告する。
118―529
日耳鼻
200
親子で異なる発症様式を呈した遺伝性血管性浮腫
○鈴木大士、松井隆道、松塚
福島県立医科大学
崇、大森孝一
医学部
耳鼻咽喉科学講座
遺伝性血管性浮腫(HAE)は C1 インヒビターの欠損により精神的・肉体的ストレスを誘因とする局在性の浮腫を来す。
HAE 発作による致命的な咽喉頭浮腫を来すにもかかわらず、われわれ耳鼻咽喉科の HAE への認識は高くはない。今回われ
われは、親子で異なる浮腫の発症様式を呈した HAE2症例を経験したので報告する。
症例1は59歳女性。顔面外傷を契機とした咽喉頭浮腫の加療目的に入院し、その後の精査にて HAE が疑われた。当初本
症例は孤発例と考えられ、遺伝子解析にて確定診断を得ることができた。症例2は症例1の子である30歳女性であり、咽喉
頭浮腫の発作歴はなかったものの、原因不明の急性腹症により入院加療歴があることが判明し、遺伝子解析含む精査により
HAE の確定診断が得られた。その後2例とも HAE 発作による腸管浮腫を発症したが、C1 インヒビター製剤の投与により
迅速な寛解が得られた。
201
エストロゲン依存性に発症したと考えられた頸部血管性浮腫の一例
○多田紘恵、松山敏之、工藤
伊勢崎市民病院
毅
耳鼻咽喉科
遺伝性血管性浮腫は、C1―インヒビターの機能低下によりブラジキニン生成が増加し、血管透過性が亢進し浮腫を来す病
態である。精神的ストレス、外傷や抜歯、妊娠、月経などで誘発され、その治療薬はヒト C1―インアクチベータである。エ
ストロゲンは C1―インヒビター活性を低下させ、血管性浮腫を誘発することが知られている。今回、不妊治療中の女性が、
月経に伴って頸部血管性浮腫を来した症例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。症例は32歳女性。排卵誘発剤ク
ロミフェンクエン酸塩を服用していた。月経初日より頸部腫脹が出現し、2日目に当科初診となった。頸部腫脹と咽喉頭浮
腫による気道狭窄を認め、入院のうえ抗生剤や副腎皮質ステロイド剤を投薬するも改善しなかった。遺伝性血管性浮腫を疑
い、ヒト C1―インアクチベータを投与したところ著効し、第7病日で退院となった。本症例は、血管性浮腫の家族歴はな
く、採血結果も正常であった。既知の遺伝性血管性浮腫には分類できないものの、エストロゲンの関与による血管性浮腫が
考えられた。
202
当科で経験したチアマゾールによる無顆粒球症の 1 例
○浜崎泰佑、野垣岳稔、竹内美緒、粟倉秀幸、志村智隆、伊藤彩子、山田良宣、門倉義幸
昭和大学横浜市北部病院
耳鼻咽喉科
無顆粒球症は末梢血液中の好中球数が 500/μL 以下であり、適切に治療しなければ致死率の高い疾患である。今回われわ
れはチアマゾール(MMI)による無顆粒球症の1症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。
症例は67歳女性で主訴は咽頭痛。近医耳鼻咽喉科を経て、扁桃炎、喉頭蓋炎の診断で当科に紹介受診となった。初診時の
採血で好中球数 0/μL であり、既往歴で Basedow 病に対し約7週前から MMI の内服を開始していたことから、MMI の無
顆粒球症と診断した。同日より緊急入院とし、MMI の内服を中止し、広域スペクトラムの抗菌薬の投与を開始し、個室管
理とした。G―CSF 投与も考慮したが、投与は行わず経過観察とした。徐々に解熱し、炎症値は低下し、入院第7病日に急
性炎症は改善した。白血球数や好中球数は上昇し、入院第12病日に好中球数が 500/μL 以上となった。
無顆粒球症は原因薬剤の投与開始から3カ月以内の発症がほとんどで、認めた場合は3カ月以内に開始された内服薬の再
確認が重要と考えられた。
203
アレルゲンコンポーネント測定を用いた口腔アレルギー症候群の診断
○大澤陽子1)、木戸口正典1)、森川太洋2)、伊藤有未2)、冨田かおり3)、小嶋章弘4)、高橋
7)
河野陽子 、森
福井赤十字病院
8)
繁人 、須長
1)
寛 、藤枝重治
耳鼻咽喉科1)、福井大学
レイクヒルズ美方病院
7)
昇5)、杉本千鶴6)、
2)
4)
医学部
耳鼻咽喉科 、福井総合病院
耳鼻咽喉科学教室2)、公立丹南病院
5)
耳鼻咽喉科 、福井社会保険病院
耳鼻咽喉科3)、
耳鼻咽喉科6)、
8)
こうの内科耳鼻咽喉科 、もり耳鼻咽喉科・アレルギー科クリニック
【背景】口腔アレルギー症候群(OAS)は、多くが PFAS であり、本邦ではシラカバ花粉 Betv1 による PR―10 蛋白感作が
報告されている。今回は、本邦の OAS 様症状を有する患者に、どのような花粉抗原や相同蛋白抗原の感作が関与している
かを調査した。
【方法】コントロール群151名・OAS 群249名の血清を用いて、花粉感作率を粗抗原に対する IgE およびコン
ポーネントに対する IgE を測定し比較検討した。花粉抗原と相同性抗原を有する食物コンポーネント IgE を測定し、OAS
症状との関係を検討した。
【成績】粗抗原およびコンポーネントともにシラカバ・ハンノキ・オオアワガエリの血清中 IgE
が、OAS 群で陽性率が高かった。相同性抗原は、PR―10 蛋白 IgE が OAS 群で高率に陽性であり、LTP 蛋白 IgE は両群間で
差がなかった。OAS 患者の各食物コンポーネント IgE は Bet v1 とほぼ同等に陽性となった。
【結論】OAS の原因として、
PR―10 の交差反応(感作)による PFAS の存在が確認された。OAS において、食物コンポーネント IgE 測定が診断補助に
なる可能性が示された。
118―530
204
2015
耳鼻咽喉科的症状を初期症状とした膠原病症例の検討
○木村
寛1)、將積日出夫2)、坪田雅仁2)、成瀬
陽3)
1)
耳鼻咽喉科 、富山大学耳鼻咽喉科2)、済生会高岡病院耳鼻咽喉科3)
済生会富山病院
耳鼻咽喉科領域の初期症状により耳鼻咽喉科を受診し、その後、膠原病と診断された33症例を検討したので報告する。疾
患と症例数は、シェーグレン症候群が最も多く22例で、そのうち、1次性シェーグレン症候群が19例、2次性は3例(関節
リウマチ合併例2例、全身性硬化症合併例1例)であった。再発性多発性軟骨炎が2例、側頭動脈炎、非定型 Cogan 症候
群、成人スチル病、ウェゲナー肉芽腫症、ベーチェット病、全身性硬化症、SLE、サルコイドーシス、混合性結合組織病が
各1例であった。症状は、口腔乾燥が17例と最も多く、耳下腺腫脹と発熱が各4例、咽頭痛、難聴と再発性アフタが各2
例、前頭部痛、浮動性めまい、耳介腫脹、歯肉出血、顔面麻痺、味覚障害が各1例であった。年間4例(年間初診患者数に
3%)の患者が診断前に耳鼻咽喉科を受診していた。膠原病は早期診断が重要なので、頻度は高くないが、
占める割合は0.
耳鼻咽喉科医も口腔乾燥についての積極的な対応を中心に膠原病を見逃さないように診療すべきであると考えられた。
205
鼻腔および中耳病変を呈した MPO―ANCA 陽性 IgG4 関連疾患の 1 例
○大野慶子、本庄
需、木村百合香
東京都健康長寿医療センター
耳鼻咽喉科
【はじめに】IgG4 関連疾患と ANCA 関連血管炎は互いに鑑別すべき類似疾患として挙げられることが多い。今回われわ
れは、鼻腔と中耳に病変を有し、病理組織学的診断上 IgG4 関連疾患と診断された1例を報告する。
【症例】73歳男性。約
3年前より鼻閉と両難聴の自覚があった。当科初診時、鼻内に粘膜びらんと痂皮充満、滲出性中耳炎による両高度混合難聴
を認めた。副鼻腔 CT では汎副鼻腔炎と鼻中隔の骨破壊を認めた。血液検査では MPO―ANCA 陽性、IgG4 高値であった。
鼻粘膜の病理組織学的所見で著明な形質細胞・リンパ球浸潤と花筵状線維化、静脈炎を認め、IgG4 陽性形質細胞の浸潤を
伴っていた。臨床所見と MPO―ANCA 陽性であることから ANCA 関連血管炎が疑われたが、病理組織学的所見と血清 IgG4
高値であることから IgG4 関連疾患(疑診群)と診断し治療を行っている。
【考察】鼻中隔穿孔や骨導閾値の上昇を伴う中
耳炎を呈した IgG4 関連疾患の報告はいまだない。両者の病態の合併の可能性も示唆される症例である。
206
難治性の鼻閉を呈した IgG4 関連疾患例
○鈴木康士、大谷
福島労災病院
巌
耳鼻咽喉科
IgG4 関連疾患は、高 IgG4 血症と組織学的に IgG4 陽性形質細胞浸潤を病態基盤とする全身性、慢性炎症疾患であり、本
邦から提唱された比較的新しい疾患概念である。高度の鼻閉を呈し、治療に抵抗した鼻副鼻腔炎で IgG4 関連疾患と判明し
た症例を経験した。症例は47歳男性。主訴 : 鼻閉。慢性副鼻腔炎、肥厚性鼻炎の診断で保存的治療を行ったが、症状改善せ
ず夜間不眠症状が強いため、両 ESS を施行。同時期に眼瞼腫脹も出現し、副鼻腔粘膜の病理組織にて多数の IgG4 陽性形質
細胞を認め、採血にて IgG4 411(正常値<108)mg/dl と高値を示し、IgG4 関連鼻副鼻腔炎と診断した。治療はステロイ
ド投与の結果、鼻閉は改善し、副鼻腔炎以外の涙腺炎、顎下腺炎、前立腺炎などの症状も改善し、いずれも IgG4 関連疾患
由来の症状であったと考えられた。近年 IgG4 関連疾患の報告は耳鼻科領域でも増加している。IgG4 関連疾患は全身的に多
彩な症状を示すため、難治性の副鼻腔炎においても、同疾患を念頭に置くことが必要と考えられた。
207
血中 IgG4 高値症例における IgG4 に対する抗原の検討
○太田
康1)、池宮城慶寛1)、佐藤俊哉2)、船越達郎3)、鈴木光也1)
東邦大学医学部
1)
耳鼻咽喉科学講座(佐倉)
、東邦大学医療センター
佐倉病院
臨床検査科2)、
3)
シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社
当科において、2013年7月から2014年6月までに測定した範囲で血中 IgG4 が 200mg/dl 以上の高値を示したのは7症例
であった。内訳は涙腺・顎下腺腫脹の IgG4 関連疾患が2例、頸部リンパ節腫脹の IgG4 関連疾患が1例、潰瘍性大腸炎が
1例、咽喉頭潰瘍症例が1例、慢性副鼻腔炎が2例である。そのうち化学発光酵素免疫測定法(CLEIA 法)を用いて、血
液中の IgG4 抗原の定量を行ったのは5例であった。計測した抗原は、ダニ、HD、スギ、イネ、ネコ、アスペルギルス、
カンジダ、アルテルナリア、エンテロトキシンA、B、イネ科である。結果は5症例とも測定した特異的抗原に対する
IgG4 の合計は低値で、血中の総 IgG4 値の平均が 825mg/dL に対して平均 5.
64mg/dL であった。IgG4 関連疾患を含め、
IgG4 高値を示す症例において、IgG4 は特異的抗原に対する抗体ではなく、非特異的な IgG4 であることが考えられた。
118―531
日耳鼻
208
ミクリッツ病と慢性硬化性顎下腺炎における IgG4 産生誘導因子の検討
○草間
薫、野中
東京女子医科大学
学、野島知人、吉原俊雄
耳鼻咽喉科
IgG4 関連疾患はリンパ球と IgG4 陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化により、同時性あるいは異時性に全身諸臓器の腫大
や結節・肥厚性病変などを認める原因不明の疾患である。最近、ミクリッツ病とキュットナー腫瘍(慢性硬化性顎下腺炎)
は IgG4 関連疾患であることが分り、顎下腺に IgG4 陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化を認めるが、IgG4 産生が亢進する
機序は現時点で未解明である。今回、ミクリッツ病と慢性硬化性顎下腺炎における IgG4 クラススイッチ亢進の機序を明ら
かにするため、ミクリッツ病の顎下腺、慢性硬化性顎下腺炎の顎下腺における種々の IgG4 誘導因子を免疫組織化学で検討
した。コントロールとして顎下腺唾石症で摘出した顎下腺を用いた。ミクリッツ病の顎下腺には IL―4 の陽性細胞が、慢性
硬化性顎下腺炎には AID の陽性細胞が、コントロールと比較して有意に多くみられた。これらの因子が各疾患における
IgG4 へのクラススイッチと関連している可能性が示唆された。
209
IgG4 関連疾患における嗅覚障害の検討
○兼田美紗子、中西清香、尾崎ふみ、近藤
金沢大学
医学部
悟、吉崎智一
耳鼻咽喉科頭頸部外科
IgG4 関連疾患は耳鼻咽喉科領域では特に唾液腺疾患との密接な関連が注目されている全身疾患である。その病因や発症
メカニズムは未解明の状態であるが、病変局所における Th2 優位の免疫応答や、制御性T細胞浸潤が報告され、一般化し
はじめている。近年鼻副鼻腔領域においては、IgG4 関連疾患と副鼻腔病変の症例報告や、副鼻腔炎との関連、ミクリッツ
病における嗅覚障害の報告などが散見されている。われわれは IgG4 関連疾患患者の中に嗅覚障害を訴える患者を経験する
ことが多いことを発見し、嗅覚検査などを施行したところ IgG4 関連疾患患者の約半数に嗅覚障害を認めることが分かっ
た。そこでわれわれは IgG4 関連疾患における嗅覚障害の原因を解明するため、IgG4 関連疾患モデルマウスと野生型マウス
において嗅刺激性行動実験を行い、モデルマウスで嗅覚障害を認める結果を得た。同時に嗅上皮を組織学的に検討し厚さの
比較や、また OMP、GAP43 などの免疫染色を行った。これらの結果をふまえて IgG4 関連疾患における嗅覚障害の病態に
ついて、若干の文献的考察を加え報告する。
210
高次脳中枢による嗅覚系神経回路の調節経路 : アセチルコリンニューロン
○浜本真一1)、清蔭恵美2)、樋田一徳2)、原田
川崎医科大学
1)
耳鼻咽喉科 、川崎医科大学
保1)
解剖学2)
嗅神経からの匂い情報は、嗅覚一次中枢の嗅球で介在ニューロンやほかの脳領域からの遠心性入力により調節される。対
角帯水平部(HDB)を起始核とするアセチルコリン(ACh)ニューロンはその一つであるが、匂い識別能への関与など調
節経路や作用動態は不明な点も多い。
本研究は、嗅球へ投射する ACh ニューロンの起始核での局在、単一 ACh ニューロンの形態的特徴、また嗅球内のシナプ
ス形成の解析を目的とする。
嗅球に逆行性トレーサーを注入し起始核を標識、各種マーカーによる免疫染色で細胞分布を解析した。次に、起始核にウ
イルスベクターを注入、単一可視化ニューロンが ACh ニューロンであることを免疫染色で確認し、ニューロルシダでトレ
ースを行った。嗅球ニューロンとの近接・接触を多重免疫染色法で、シナプス結合の有無は電子顕微鏡トモグラフィー法で
解析した。
ACh ニューロンは HDB でほかのニューロンと空間的に異なる分布傾向を認めた。嗅球各層ではほかのニューロンと近
接・接触を認め、形態的に post synaptic density が多様な非対称性シナプスを形成していた。
211
タバコ煙が嗅粘膜障害に及ぼす影響と障害の回復に関するモデルマウスを用いた検証
○上羽瑠美1)、近藤健二1)、坂本幸士1)、菊田
東京大学
医学部
周1)、藤巻葉子1)、金谷佳織1)2)、西嶌大宣1)、山岨達也1)
耳鼻咽喉科1)、東京逓信病院
耳鼻咽喉科2)
目的 : 嗅覚障害の原因の一つに喫煙があるが、メカニズムや喫煙性嗅覚障害の禁煙による改善に関して、あまり解明され
ていない。われわれはタバコ煙溶液を用いて喫煙モデル動物を作製し、嗅上皮傷害・回復過程を検証した。方法 : C57BL/6
マウス(8週齡)にタバコ煙溶液を約1カ月点鼻吸入させ、喫煙モデルを作製した。その後点鼻吸入中止し、中止1日目、
7日目、14日目、28日目の成熟嗅細胞(OMP+)や Ki67+細胞、SOX2+基底細胞、Cas3+細胞の細胞数を計測し、行動
実験と合わせて対照群と比較した。結果 : タバコ煙溶液点鼻により OMP+、SOX2+、Ki67+細胞が減少した。中止7日目
に SOX2+と Ki67+細胞が著増し、その後減少した。Cas3+細胞は中止14日目まで増加しその後減少した。OMP+細胞は
禁煙7日目まで減少し、その後増加した。行動実験では中止7日目の反応が一番低く、28日目には対照群と同程度となっ
た。結論 : 喫煙性嗅覚障害は成熟嗅細胞の減少により生じ、禁煙により障害が回復することが示唆された。
118―532
212
2015
嗅上皮の恒常性維持におけるインスリンシグナルの関与
○久保木章仁1)、菊田
周2)、坂本幸士2)、松本
有2)、浅香大也1)、飯村慈朗1)、小島博己1)、鴻
信義1)、
2)
山岨達也
耳鼻咽喉科1)、東京大学
東京慈恵会医科大学
医学部
耳鼻咽喉科2)
嗅上皮の組織恒常性はさまざまな因子によって制御され、終生にわたり巧妙に維持される。インスリンは糖代謝のみなら
ず神経成長因子として神経の生理機能維持に重要な役割を果たすが、このシグナルが嗅上皮細胞動態にどのような影響を与
えるのかについては不明である。今回、インスリン分泌が低下した糖尿病マウスを用いてインスリンシグナルが嗅上皮の組
織恒常性維持にどのようにかかわるのかについて検討した。数カ月間のインスリン低下は、成熟した嗅細胞で占められた嗅
上皮に対しては組織学的な変化を引き起こさなかった。しかし、嗅上皮が障害を受け、新生した未熟な嗅細胞による再生過
程においては、嗅上皮の再生が著しく遅延するのが観察された。この結果は、インスリンシグナルは生理的な嗅上皮の恒常
性維持ではなく、障害後の恒常的再生過程において極めて重要な役割を果たすことを示唆する。インスリンシグナルは、未
熟嗅細胞が成熟する上でキーシグナルとして作用し、このシグナルが不足すると嗅覚機能の再生も不完全に終わると予想す
る。
213
当科における嗅覚障害症例の MRI 画像の評価
○黒木俊介、中山正子、藤尾久美、井之口
神戸大学
医学部付属病院
豪、長谷川信吾、丹生健一
耳鼻咽喉・頭頸部外科
(背景)Haehner らにより、嗅球の大きさと嗅覚検査の結果には相関があることが報告されており、嗅球の評価は診療上
有用と考えられる。
(対象)当科外来を2011年10月∼2014年9月に嗅覚障害を主訴に受診した患者のうち、MRI を撮影しデ
(方法)基準嗅力検査結果で正常範囲例と低下例に分け、初診時に撮影した頭部 MRI 冠状
ータが入手可能であった27症例。
断データを画像処理ソフト Osirix に取り込み嗅球体積等を評価した。
(結果)性別は男性8名、女性19名で、年齢は23∼82
歳、中央値は64歳であった。基準嗅力検査結果の平均は全体・正常群・低下群でそれぞれ検知域値0.
41、−1.
64、2.
63、認
0、−0.
07、4.
23であった。嗅球体積平均は正常群で 17.
8mm3、低下群で 22.9mm3 であった。嗅球が確認できた
知域値2.
12枚、5mm スライスで平均1.
17スライスであった。
(結語)嗅球体積は重要な指標
スライス数は、2mm スライスで平均4.
とされているが、嗅球が小さいのでスライスが厚いと誤差が出やすく、事前に MRI の撮影条件や測定方法を取り決めてお
く必要があると考えられる。
214
パーキンソン病症例と感冒後嗅覚障害症例における嗅覚障害の検討
○藤尾久美、井之口
神戸大学
医学部
豪、福田有里子、黒木俊介、中山正子、長谷川信吾、丹生健一
耳鼻咽喉・頭頸部外科
(はじめに)嗅覚障害を伴うパーキンソン病(PD)症例と感冒後嗅覚障害症例に対し、嗅覚検査での比較検討を行ったの
で報告する。
(方法)2013年4月から2014年11月の間に当科を受診した嗅覚障害を伴う PD 症例39例と感冒後嗅覚障害例31
例に対し、visual analogue scale(VAS)、基準嗅力検査、オープンエッセンス(OE)を施行し、結果を比較検討した。
(結
果)VAS は PD 症例の方が良かったが、基準嗅覚力検査平均検知域値、認知域値共に感冒後で上昇していた。OE では感冒
後の方が正解数が多く、嗅素別の正答率では、墨汁、メントールで有意に感冒後の方が正答率が高かった。感冒後では正答
率の低い嗅素では「無臭」を選んだ症例が比較的多いのに対し、PD 症例では「無臭」の選択率は低く、何らかの嗅素、も
しくは「分からない」の選択率が高かった。
(結語)PD と感冒後嗅覚障害の嗅覚検査の結果の違いは、高齢者の原因不明
の嗅覚障害において、鑑別の一助と考えられる。
215
嗅覚障害の予後と末梢嗅神経障害の評価
○志賀英明1)、瀧
金沢医科大学
淳一2)、絹谷清剛2)、古川
医学部
仭3)、三輪高喜1)
耳鼻咽喉科学1)、金沢大学
医薬保健研究域
バイオトレーサ診療学2)、小池病院3)
末梢嗅神経障害と嗅覚障害の予後との関連は十分には明らかではない。本研究では末梢嗅神経障害の評価法として有用な
タリウム−201(201Tl)経鼻投与による SMT オルファクトシンチで嗅覚障害の予後を予測可能か明らかとする。対象は金沢
医大病院嗅覚外来において治療した嗅覚障害患者のうち SMT オルファクトシンチを施行しその後経過観察が可能であった
。原因は鼻副鼻腔炎が7例、感冒が4例、外傷が6例および原
成人男女27例である(男性14例 ; 女性13例 ; 平均年齢53歳)
因不明が10例である。嗅覚障害治療効果判定基準に従い治癒と軽快は改善群、そのほかは非改善群とした。201Tl 嗅神経移行
度のほか、臨床的因子と治療効果判定との関連を Log―rank テストにより検討した。比例ハザードモデルより多変量解析も
施行した。201Tl 嗅神経移行度の高値群では低値群と比較し有意に予後良好であった。末梢嗅神経障害の評価が予後診断に有
用であることが示唆された。
118―533
日耳鼻
216
慢性副鼻腔炎における嗅覚障害の治療成績―続報―
○寺口奏子、張田雅之、能田拓也、山田健太郎、山本純平、志賀英明、三輪高喜
金沢医科大学
医学部
耳鼻咽喉科
【はじめに】昨年の本学会で、好酸球性・非好酸球性副鼻腔炎の嗅覚障害改善度について、手術例に加え、非手術例も含
めた治療成績を報告した。今回対象症例数と観察期間を拡大延長し、JESREC stady の重症度も加味し、嗅覚治療成績を検
討した。【対象と方法】対象は2009年6月から2014年9月までに保存的加療を行った症例と、保存的治療に抵抗し当科で内
視鏡手術を施行した慢性副鼻腔炎症例のうち、治療前後に嗅覚検査等の評価を行い得た症例である。好酸球性副鼻腔診断基
準に基づき、好酸球性と非好酸球性に分類した。
【結果】重症例では上気道炎に伴い増悪寛解を繰り返した。また嗅覚改善
率も悪い傾向にあった。また多変量解析により嗅覚改善率に影響を与える因子として、罹病期間とアリナミンテスト陽性が
挙げられた。【考察】今回の検討において、好酸球性副鼻腔炎による嗅覚障害の予後は、重症度により差異はないが、再発
には影響があった。
217
浸潤型副鼻腔真菌症の 1 例
○植木雄司、今野昭義、間多祐輔
総合南東北病院
今回われわれは比較的まれな浸潤型副鼻腔真菌症の1例を経験したので報告する。症例は72歳女性で、肺非定型抗酸菌症
治療継続中であった。2012年12月に ESS を施行し左篩骨洞、上顎洞病変を清掃した。手術所見ではアスペルギルス真菌塊
が上顎洞内にみられ、寄生型副鼻腔真菌症と診断した。しかし、2013年7月下旬に左眼の視力低下があり再来、CT、MRI
では広範な骨破壊とともに、翼口蓋窩、眼窩先端部への病変の進展が認められた。浸潤型副鼻腔真菌症と診断し、手術と抗
真菌薬の投与を行い、視力の回復は得られなかったが治癒することができた。初回手術の診断を再検討するため、初回手術
前の CT、MRI を再評価したところ、微細な変化ではあるが副鼻腔外組織に炎症所見を認め、初回手術時にすでに浸潤型副
鼻腔真菌症であったと考えられた。副鼻腔真菌症のほとんどが寄生型であるが、骨破壊を伴わない初期の浸潤型病変が潜ん
でいることを念頭におくべきであると今回の経験から反省させられた。
218
Maxillary sinus atelectasis の病期進行を経時的に観察できた 1 症例
○堀切教平、菊田
周、坂本幸士、籠谷領二、安原一夫、西嶌大宣、齊藤祐毅、平野真希子、近藤健二、
山岨達也
東京大学
医学部
耳鼻咽喉科
Maxillary sinus atelectasis
(MSA)は持続する上顎洞内の陰圧によって、次第に上顎洞の壁構築が破壊され、さまざまな
臨床症状を呈するまれな疾患である。MSA の進展に陰圧以外のどのような因子がかかわるのか、あるいは骨変形から自覚
症状出現までにどのくらいの期間を要するかなど、病態生理を解明する上で未知の部分も多い。今回、病期進行の経時変化
を画像で観察できた MSA 症例を経験した。症例は東欧出身の39歳女性で、2年前の頭部 MRI で偶然に上顎洞内側壁の外
側変位を認め、その頃から度重なる副鼻腔炎症状を自覚していた。その後、突然発症の複視と右頬部痛を自覚し当院を受診
した。右上眼瞼部の陥凹、右上方視で複視を認め、画像上、右中鼻道の拡大、右上顎洞内の狭小化と軟部組織陰影、右眼球
低位を認めた。MSA の診断で陰圧解除目的に上顎洞開放術を施行し、自覚症状と骨変形は改善した。MSA の経時変化を同
一症例で今回初めて観察できた。MSA の進行は数年とこれまで想定されたより早く、病期進行には上顎洞内の持続炎症が
関与している可能性が示唆された。
219
鼻中隔 lipomatous hamartoma の 1 例
○積山幸祐1)、黒野祐一2)
鹿児島生協病院
耳鼻咽喉科1)、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
耳鼻咽喉科頭頸部外科2)
過誤腫(hamartoma)は、ある組織に固有の組織成分が過剰に発育した腫瘍様の病変である。脂肪組織、血管、粘液腺、
平滑筋などで構成されており、組織成分によって lipomatous hamartoma、myoepithelial hamartoma、leiomyomatous hamartoma などの組織学的診断がつけられている。肝、脾、腎、肺などの実質臓器にはしばしばみられるが、鼻腔発生の lipomatous hamartoma は極めてまれである。症例は11歳の女児で鼻閉、鼻痛を主訴に当院を受診した。右鼻腔に発赤した腫瘤を
認め、CT、MRI では鼻中隔前方に広基性基部を持ち、脂肪成分と同程度の吸収値を示す 3cm 弱の腫瘤を認めた。生検した
が確定診断には至らなかった。そこで全身麻酔にて鼻腔腫瘍摘出術を施行した。摘出病変の大部分は成熟脂肪細胞からな
り、一部では脂肪組織内に鼻腺が介在しており病理組織学的に lipomatous hamartoma と診断された。若干の文献的考察を
加え報告する。
118―534
220
2015
手術加療を要した外耳道真珠腫症例の検討
○三浦
誠、池田浩己、竹林慎治、大野
日本赤十字社
和歌山医療センター
覚、暁
久美子、薮内
咲、康本明吉、林
泰之
耳鼻咽喉科
外耳道真珠腫は外耳道に角化物が異常堆積し、上皮の炎症から骨膜炎さらには骨破壊を生じる疾患で、原発性のほか、さ
まざまな病態に続発する二次性が知られている。保存的加療でコントロールできる場合も多いが、耳漏・耳痛持続例や、乳
突洞を含む中耳進展例では、手術加療を要する場合がある。今回、最近当科で手術を施行した外耳道真珠腫症例の検討を行
った。対象は2008年11月から2014年5月までに当科で手術加療した16例で、年齢は2歳から81歳である。原因は原発性9例
のほか、過去の耳科手術に起因する医原性4例、外耳道狭窄による閉塞性3例で、外耳道癌との鑑別を要する例もあった。
術前耳漏を11例、耳痛は10例に認めた。乳突洞を含む中耳進展例は11例あり、顔面神経や頸静脈球露出例もあった。各症例
の原因と進展度によって術式は個別に検討する必要があり、外耳道狭窄に続発する例では再狭窄に伴う再発に注意を要する
と思われる。
221
先天性真珠腫―前方型と後方型の考察―
○奥野妙子、堤内亮博、畑
三井記念病院
裕子、栗田宣彦、崎谷恵理、吉田亜由
耳鼻咽喉科
耳鼻咽喉科開業医レベルでの顕微鏡、内視鏡での鼓膜観察の普及に伴い、非常に早期の先天性真珠腫が診断されるように
なった。これにより疾患予後も大きく改善した。
就学時あるいは学校検診での聴力検査も疾患の発見に大きく貢献している。
先天性真珠腫の好発部位は匙状突起周囲といわれており、人種によりこの前方型と後方型の分布が議論されてもいる。
その臨床症状には差がある。鼓膜から透見度合い、進展部位、それによるアブミ骨の侵襲されやすさなどである。後天性
真珠種と異なり先天性真珠腫ではアブミ骨の侵襲頻度は高い。これが難聴の原因となる。
両者の臨床症状を検討した。
222
当科における小児中耳真珠腫手術症例の検討
○佐藤輝幸、近江永豪、山崎一春、石川和夫
秋田大学
大学院
医学系研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座
中耳真珠腫に対する術式選択については、各施設にて意見が分かれるところである。当科での基本術式は、耳後切開、外
耳道後壁削除・再建型鼓室形成術、一期的伝音再建であり、コルメラは原則自家材料を使用している。今回、比較的再発例
の多い小児中耳真珠腫症例について検討した。
対象は2004年1月∼2013年12月までの10年間に手術を施行した小児中耳真珠腫症例28名29耳。先天性真珠腫が10耳、後天
9歳であった。先天性に関しては、Potsic の分類に沿って、後天性に関しては、日本耳
性真珠腫が19耳であり、平均年齢8.
科学会中耳真珠腫進展度分類2010改訂案に沿って検討した。聴力に関しては術後半年以上経過観察できた症例を検討した。
先天性真珠腫は Stage I が1耳、Stage II が1耳、Stage III が8耳であった。再発に関しては1耳(10%)を認めた。後天
8%)に認めた。
性真珠腫に関しては Stage Ib が1耳、Stage II が18耳。再発は7耳(36.
以上の患者について術式選択の内訳、再発期間および再発部位、術後聴力成績について検討を行い、文献的考察を加え報
告する。
223
当科における緊張部型真珠腫の検討
○和田忠彦、岩永迪孝、羽田史子、堀中昭良、井上雄太、藤田明彦
関西電力病院
耳鼻咽喉科
真珠腫に対する治療方針は各施設でさまざまである。当院での治療方針は、
【1】できるだけ生理的な形態を維持するこ
と、【2】真珠腫母膜にそった剥離除去の徹底である。治療術式として、主に外耳道後壁保存型術鼓室形成術を採用してい
るが、真珠腫侵入部(陥凹鼓膜)を自家耳介軟骨で形成することで、再陥凹を予防している。また、手術時の真珠腫母膜の
破綻例や鼓室内含気不良例などは段階手術として遺残再発の確認および鼓室内含気を図るようにしている。さらに、以前に
も報告しているが緊張部型真珠腫は、弛緩部型真珠腫とは違い早期にキヌタ・アブミ骨関節を破壊し、アブミ骨周囲にまで
病変が及ぶケースが多く、できるだけ早期に手術する必要があると考える。
当院において、2011年1月から2013年12月の3年間で、緊張部型真珠腫新鮮例に対して鼓室形成術術を施行し、術後1年
以上経過観察できた例は44耳であった。うち数例の手術ビデオを供覧しながら、緊張部型真珠腫の手術加療時期や遺残性再
発・再形成再発例を中心に検討し、考察を加えて報告する予定である。
118―535
日耳鼻
224
中耳真珠腫進展度と耳小骨破壊程度、術後成績の検討
○山田悠祐、松田圭二、東野哲也
宮崎大学
医学部
耳鼻咽喉・頭頸部外科
【目的】中耳真珠腫の進展度と耳小骨破壊程度の関係を整理し術後成績にどのように反映されるかを検討する。
【対象と方
法】2009、2010年に初回手術をした中耳真珠腫62例(弛緩部型44例、緊張部型15例、分類不能3例)を対象とした。各症例
の進展度、アブミ骨破壊程度(S分類)と聴力成績を検討した。また、耳小骨破壊程度にツチ骨柄も加味して評価(Austin
分類)するとどのようになるかも検討した。
【結果】弛緩部型、緊張部型ともに、進展が大きくなるとアブミ骨上部構造が
消失する S2 や S3 の比率が上昇し聴力成績も悪くなった。Austin 分類でも同じ傾向であった。
【考察】真珠腫進展度と耳小
骨破壊程度の間には正の相関が認められ、聴力予後とも関連していた。進展度と耳小骨破壊程度を表す的確な方法について
文献的な考察を加え報告する。
225
当科における真珠腫初回手術例の検討
○池畑美樹、桂
兵庫医科大学
弘和、三代康雄、阪上雅史
耳鼻咽喉科頭頸部外科
【対象】2009年1月から2014年11月の5年10カ月間に当科で初回手術を行った真珠腫症例407耳。
【結果】対象耳の内訳は弛緩部型が224耳、緊張部型75耳、先天性51耳、二次性32耳、分類不能型が25耳であった。弛緩部
5%、stage 2 : 68.
3%、stage 3 : 15.
2%、緊張部型ではそれぞれ37.
3%、32.
0%、30.
7%であった。術
型では stage 1 : 16.
後2年以上経過観察が可能であった弛緩部型132耳、緊張部型50耳を対象に遺残・再陥凹について検討した。遺残率は、弛
9%、stage 3 : 31.
6%であった。緊張部型ではそれぞれ21.
1%、29.
4%、42.
3%で
緩部型では stage 1 : 0%、stage 2 : 20.
5%、stage 2 : 6.
6%、stage 3 : 15.
8%であった。緊張部型ではそれぞれ
あった。再陥凹率は弛緩部型では stage 1 : 4.
9%、28.
6%であった。
0%、5.
【結語】遺残・再陥凹率は stage が上がるほど高くなる傾向にあった。
226
当科における真珠腫性中耳炎再発症例の臨床統計
○藤岡正人、大石直樹、神崎
慶應義塾大学
医学部
晶、平賀良彦、若林聡子、小島敬史、渡部高久、細谷
誠、小川
郁
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
真珠腫性中耳炎の手術において術後再発の予防は最重要課題のひとつである。再発には遺残性再発のほか、主に弛緩部型
真珠腫での術後再陥凹による再形成性再発が含まれる。本検討では、当院での再発例にみた臨床像について再発予防の観点
を念頭に置いて抽出した。検討対象は2012年1月∼2014年11月に当科で耳科手術を施行した全症例のうち、術中所見ないし
摘出病理所見から真珠腫再発の確定診断がついた症例とし、その術中所見をレトロスペクティブに解析した。遺残性再発に
おいては再発までの期間に加えて遺残部位を、再形成例については再陥凹部位に加えて換気ルートの術中評価を検討事項と
した。遺残性再発は術中の死角部位や合併症懸念部位に多く、再形成症例の多くは換気路の確保が不十分で、初回手術時に
もこれらを留意した手術操作が重要と思われた。
227
当科における中耳真珠腫 Second look operation の検討
○鴫原俊太郎1)、野村泰之1)、浅川剛志1)、増田
1)
2)
原田英誉 、平井良治 、池田
日本大学
医学部
1)
毅1)、友松裕貴1)、三浦正稔1)、木村優介1)、岸野明洋1)、
1)
稔 、大島猛史
耳鼻咽喉・頭頸部外科分野1)、都立広尾病院
耳鼻咽喉科2)
【はじめに】中耳真珠腫の手術的治療ではしばしば Second look operation が必要となるが、真珠腫の再発がみられない例
もみられる。今回われわれは当科において行われた Second look operation の内容について検討した。
【対象】2000年から2014年までに日本大学医学部板橋病院で行われた、先天性真珠腫を含む113例の Second look operation
4歳、性別は男性65例、女性は43
について検討した。両側例2例、複数回行われた例が3例存在した。施行時平均年齢は31.
例であった。
7%は遺残がなかったが、38.
8%に遺残性再発がみ
【結果】初回手術と二期手術の間隔は中央値392日であり、手術例の50.
4%では再形成性再発がみられていた。
られ、10.
【考察】Second look operation の必要性は術者の熟練度にも依存すると考えられるが、今回の検討では半数に再発はみら
れず、より正確な術前予測が必要と考えられた。
118―536
228
2015
第二段階手術時の中耳含気度に即した真珠腫の段階的鼓室形成術とその長期成績
○小森正博1)2)、柳原尚明2)、兵頭
高知大学
昭和大学
医学部
純2)、蓑田涼生3)、比野平恭之4)
1)
耳鼻咽喉科 、鷹の子病院
江東豊洲病院
耳鼻咽喉科2)、熊本大学
医学部
耳鼻咽喉科3)、
4)
耳鼻咽喉科
【目的】鷹の子病院では、第2段階手術時の中耳含気度を優・良・不良・なしの4段階に評価し、乳突削開腔の形成法と
して含気(優・良)例には皮質骨形成術を、含気(良∼なし)例には硬組織による乳突充填術を行ってきた。第1段階・第
2段階術前・術後3年以上経過時の含気度を CT で検討し、第2段階手術時の含気度が長期予後と関連が深いことを報告
し、手術の妥当性と改善点を考察した。
【方法】1995∼2007年に初回手術を行った後天性真珠腫285耳中、本術式を行い、
【成績】皮質骨形成例では18耳(86%)に良好な含
CT の評価が行えた皮質骨形成例21耳、乳突充填例24耳を対象とした。
気が維持され、真珠腫の再発はなかった。乳突充填例では含気(良)12耳中9耳(75%)に良好な含気が維持され、真珠腫
の再発はなかった。一方、含気(不良)10耳中4耳で含気が改善したが、6耳で同等あるいは悪化した。含気(なし)2耳
の含気は十分改善しなかった。含気(不良)2耳と含気(なし)1耳において再発した。
【結論】段階的手術は術式の決定
に有用で、形成法を変えることで良好な結果が得られた。
229
半規管瘻孔を伴う中耳真珠腫症例の検討
○我那覇
章、比嘉輝之、赤澤幸則、與那覇綾乃、鈴木幹男
琉球大学
耳鼻咽喉・頭頸部外科
2006年1月から2013年12月までに当科で手術を行った中耳真珠腫407例のうち、半規管瘻孔を認めた17例(13歳から72歳
で平均52歳、平均観察期間は34カ月)について検討した。真珠腫型は弛緩部型が10例、先天性が3例、緊張部型が2例、分
類不能型が2例であった。Milewski & Dornhoffer の半規管瘻孔の深達度分類はⅠが6例、Ⅱaが5例、Ⅱbが4例、Ⅲ度
が2例であった。半規管瘻孔の部位は外側半規管が15例、上半規管が1例、外側半規管と後半規管が1例であった。半規管
瘻孔以外の術前合併症として3例に高度内耳障害、2例に顔面神経麻痺を認めた。一期的に手術を行った例は8例、段階手
術例は7例で、伝音再建を行った13例における術後の聴力改善成績は8/13(62%)であった。術後に内耳炎を起こした1
例において術後骨導閾値の悪化をみとめたが、その他症例においては術後骨導閾値の悪化を認めなかった。以上、半規管瘻
孔を伴う真珠腫症例について手術ビデオと共に提示する。
230
当科で経験した蝸牛瘻孔症例の検討
○齋藤和也、白石
功、小林孝光、小泉敏三、磯野道夫、瀬尾
近畿大学
耳鼻咽喉科
医学部
徹、土井勝美
真珠腫性中耳炎による内耳瘻孔は全真珠腫のうち5∼15%程度であり、外側半規管瘻孔が85%以上と大多数をしめ、蝸牛
瘻孔を来すことはまれである。特に岬角へ進展しやすい広範型、緊張部型真珠腫に多いが、真珠腫以外にも、コレステリン
肉芽腫や癒着性中耳炎でも蝸牛瘻孔を来したという報告も散見される。聴力はすでにスケールアウトとなっている場合も多
いが、聴力が温存されている場合の手術方法として、上皮は摘出せずに open 法とする、あるいは、closed 法として2期的
に摘出するなど術者の経験と技量によって選択されることが多い。いずれにしても、手術によって聴力損失のリスクが高い
病態だけに、術前に十分なインフォームドコンセントが必要であることはいうまでもない。当科においても過去に数例の蝸
牛瘻孔症例を経験し手術加療を行った。多くの例が何らかの理由で中耳炎があるにもかかわらず、未治療のまま放置されて
いたことが蝸牛瘻孔にまで至った理由と考えられた。これらの症例を提示し、文献的考察を加えて報告したいと思う。
231
真珠腫手術における半規管瘻孔の検討
○白馬伸洋、羽藤直人
愛媛大学
医学部
耳鼻咽喉科
半規管瘻孔は真珠腫合併症の一つであり、その操作は慎重に行わなければならない。半規管瘻孔の処置に関しては以前よ
り議論されてきたが、演者は聴力の保存と瘻孔症状の改善を目的に、第2期の状態であっても内骨膜を保存した状態で、瘻
孔上の真珠腫母膜の剥離清掃を積極的に行い、主に軟骨を用いて瘻孔を閉鎖している。今回、2009年10月より2014年9月ま
でに演者が真珠腫性中耳炎の診断で鼓室形成術を施行した351例(弛緩部型128例、緊張部型104例、二次性57例、術後性62
例)中、術中に半規管瘻孔を確認できた13例につき、臨床症状、手術前後のめまいと聴力の推移を検討するとともに、代表
例における手術所見について報告する。なお、今回の検討では瘻孔部が blue line の状態の症例は除外した。
118―537
日耳鼻
232
鼓膜・外耳道正常な耳小骨奇形症例の検討
○木谷芳晴、高木
明、梅田裕生、堀
静岡県立総合病院
頭頸部・耳鼻いんこう科
真也、松原
彩、大八木誠児、関川奈穂、喜夛淳哉
対象と方法 : 耳小骨奇形は手術により聴力改善が期待される病態であるが、奇形の様式は多彩であり、それに合わせた術
式の選択が必要である。今回、平成16年∼25年の10年間に当科にて手術を行った鼓膜が正常で外耳道狭窄を伴わない耳小骨
奇形症例50例56耳を対象とし、患者背景、奇形部位、術式、術後聴力成績について検討した。
6歳(4∼69歳)であった。アブミ骨に何らかの奇形(固着、前庭窓欠
結果 : 症例は男性23耳、女性33耳、平均年齢は34.
損、上部構造の異常など)を伴う症例は42耳であり、アブミ骨は正常でそのほかの部位に奇形を認める例(ツチ骨、キヌタ
骨の固着など)は14耳であった。術式は、Ⅰ 4耳、Ⅱ 1耳、Ⅲi―M 5耳、Ⅲi―I 5耳、Ⅲc 13耳、Ⅳi―M 4耳、
Ⅳc 2耳、アブミ骨手術22耳であった。術後1年以上経過観察できた50耳の聴力成績は46耳92%で成功であった。
まとめ : 鼓膜・外耳道正常な耳小骨奇形症例の75%(42/56耳)にアブミ骨に何らかの奇形を認め、その過半数にアブミ
骨手術が必要であった。
233
先天性アブミ骨固着症に対する CO2 laser―assisted stapedotomy
○古川正幸、岡田弘子、笠井美里、池田勝久
順天堂大学
医学部
耳鼻咽喉科
2009年11月より2014年5月の4年6カ月に順天堂大学医学部耳鼻咽喉学講座において先天性アブミ骨固着症に対して17耳
の stapedotomy が施行され、1年以上経過を追えた12耳を検討した。内訳は20歳未満が6耳、20歳代が6耳であった。術後
3%)
、20dB 以内が5耳(41.
7%)であった。手術手技をビデオで供覧する。
気骨導差 10dB 以内が7耳(58.
234
異なったアプローチ法で手術を行ったアブミ骨筋腱骨性固着症の 2 症例
○蓑田涼生、増田聖子、熊井良彦、湯本英二
熊本大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
中耳奇形の中でアブミ骨筋腱骨性固着症例は比較的まれである。過去3年間にわれわれが経験したアブミ骨筋腱骨性固着
症例は2症例であった。それぞれ異なったアプローチ法により手術を行ったのでその詳細について報告を行う。症例1は50
歳男性、10年以上前から自覚する右難聴を主訴に当科を受診した。純音聴力検査にて右耳 81.
3dB の混合性難聴、左耳
37.5dB の感音性難聴を認めた。症例2は17歳男性、右耳を知人に殴られた後から同側難聴とめまいを自覚し当科を受診し
た。純音聴力検査にて右耳 38.
8dB の混合性難聴、左耳 11.5dB であった。自発眼振眼振検査にて非注視時に右向き水平性
眼振を認めた。症例1は顕微鏡下に手術を行った。固着部位の削除にはスキータードリルを用いた、症例2は内視鏡下にす
べての手術操作を行った。固着部位の除去にはノミを用いた。2症例とも術前に存在した気骨導差は術後ほぼ消失した。発
表においては、2症例の手術手技、術後経過を中心に述べる予定である。
235
リニアックでの通常分割照射を行った聴神経腫瘍症例の検討
○小川日出夫、高木大樹、岡田昌浩、山田啓之、羽藤直人
愛媛大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
聴神経腫瘍は治療方針として、1)MRI と聴力検査による経過観察(wait and scan)
、2)手術治療、3)放射線治療の3
つの選択肢がある。そのうち、放射線治療は手術適応例のうち、手術を希望しなかった場合、または腫瘍増大傾向を認める
が、高齢者や合併症などにより手術を避けたい場合に良い適応となる。近年、放射線治療の分野では定位放射線治療、強度
、三次元原体照射治療(3dimensional―conformal radiother変調放射線治療(intensity―modulated radiation therapy : IMRT)
apy : 3D―CRT)などの高精度放射線治療が発展してきた。聴神経腫瘍に対する放射線治療はガンマナイフやサイバーナイ
フを含めた定位放射線治療が一般的に行われているが、今回われわれは増大傾向を示す聴神経腫瘍の5症例に対して、リニ
アックの 3D―CRT にて4症例、IMRT にて1症例を加療し、定位放射線治療に遜色ない治療効果を得たので、文献的考察も
加えて報告する。
118―538
236
2015
突発難聴で発生した聴神経腫瘍症例の検討
○高橋真理子、蒲谷嘉代子、稲垣
名古屋市立大学
彰、田中史子、横田
誠、村上信五
耳鼻咽喉・頭頸部外科
聴神経腫瘍は第8脳神経に発生する良性の神経鞘腫で、めまい、難聴、耳鳴が主な症状である。難聴の程度はさまざまで
あるが、難聴のパターンも高音障害型、山形、谷型、dip 型、水平型、低音障害型など多彩である。難聴が進行性の場合は
高音漸傾型あるいは高音急墜型の聴力を呈することが比較的多く、突発難聴で発症する症例では 500∼2,000Hz で谷型ある
いは dip 型の聴力像を呈するのが特徴である。また、突発難聴は1回のみのことが多いが、中には2回以上繰り返すことも
ある。
今回、名古屋市立大学を受診した聴神経腫瘍患者577例の中で、経過中に突発難聴を認めた164例について検討したため報
告する。
237
小脳橋角部腫瘍における聴覚検査・内耳機能検査の検討
○永井賀子1)、小川恭生1)、萩原
河野
1)
淳 、鈴木
東京医科大学
晃1)、大塚康司1)、稲垣太郎1)、清水重敬1)、井谷茂人1)2)、田村理恵1)、
1)
衞
耳鼻咽喉科学分野1)、戸田中央総合病院
耳鼻咽喉科2)
小脳橋角部に発生する腫瘍は聴神経腫瘍が多く、聴神経腫瘍に対する聴覚検査や内耳機能検査の検討は多いが、それ以外
の小脳橋角部腫瘍の報告は少ない。今回われわれは、小脳橋角部腫瘍の術前後の聴覚検査、および ENG、温度刺激検査を
検討した。聴神経腫瘍50例、髄膜腫19例、三叉神経鞘腫7例、顔面神経鞘腫3例、類上皮腫1例、グロームス腫瘍1例、舌
7歳、男性30例、女性52例で、患側は右43例、左39例であった。術前の純音聴
咽神経鞘腫1例を対象とした。平均年齢は43.
5%)
、感音難聴は48例(58.
5%)であった。耳音響放射(OAE)は正常が42例(51.
2%)
、異常
力検査は正常が34例(41.
6%)
、未施行が1例であった。術後の聴力検査は77例、OAE は36例に施行した。
聴力は正常11例(14.
3%)
、感
が39例(47.
7%)であった。OAE は正常が12例(33.
3%)
、異常が24例(66.
7%)であった。術前聴力は腫瘍の大き
音難聴が66例(85.
さと相関していた。
238
内視鏡下に摘出し得た腎細胞癌蝶形骨洞転移の一例
○渡邊
毅、中尾信裕、高野
長崎大学病院
篤、高橋晴雄
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
腎細胞癌は全身多発性転移を起こすことがあるが、副鼻腔への転移はまれといわれている。今回われわれは蝶形骨洞のみ
に腎細胞癌の転移を認め、内視鏡下に摘出が可能であった症例を経験したので報告する。症例は76歳男性。15年前に腎細胞
癌で右腎摘出術後。その後は明らかな再発・転移の所見はなし。複視を主訴に当科受診し、鼻腔内に拍動性の粘膜下腫瘤を
認めた。生検で明細胞癌(Clear cell carcinoma)の診断で、腎細胞癌の転移が疑われた。CT・MRI で蝶形骨洞に硬膜に接
する腫瘤を認め、全身精査の結果、蝶形骨洞への腎細胞癌単発転移と判明した。単発であれば手術的切除が第一選択のため
に、手術療法を選択した。術前に左右の蝶口蓋動脈の血管塞栓を行い、鼻中隔および中甲介を切除、左右副鼻腔を単洞化す
ることで視野を十分確保し、4Hands―surgery の要領で硬性内視鏡のみで鼻内より腫瘍を摘出した。複視は改善し術後経過
は良好である。顔面切開を伴わず低侵襲の手術が施行できた。症例によっては内視鏡下での摘出も有用であると考える。
239
当院における小児経鼻内視鏡手術症例の検討
○天津久郎1)、愛場庸雅1)、中野友明1)、古下尚美1)、木下彩子1)、植村
大阪市立総合医療センター
1)
剛1)、金村信明1)、岩井謙育2)
耳鼻咽喉科 、大阪市立総合医療センター
脳神経外科2)
内視鏡やナビゲーションシステムなどの周辺機器の発達に伴い、さまざまな疾患で経鼻内視鏡手術の適応が拡大され、そ
の低侵襲性と良好な術後成績が示されている。小児症例においてもその低侵襲性から経鼻内視鏡手術の適応拡大が期待され
る。われわれの施設では2011年7月より2014年11月まで小児8例に経鼻内視鏡手術を行った。疾患・術式の内訳は髄膜瘤切
除術が2例、上咽頭異物摘出術が1例、下垂体腫瘍手術(ランゲルハンス細胞組織球症生検1例、機能性下垂体腺腫摘出1
例、ラトケ嚢胞手術2例)
が4例、副咽頭間隙腫瘍生検術が1例であった。年齢は2歳から13歳で平均年齢は6歳であった。
小児症例に対する経鼻内視鏡手術の留意点、有用性について若干の文献的考察を加えて報告する。
118―539
日耳鼻
240
内視鏡頭蓋底手術における鼻中隔粘膜弁作成の工夫
○佐藤陽一郎1)、冨田俊樹2)、戸田正博3)、植田
良4)、三浦康士郎1)、猪野絢子1)、岩井貴洋4)、冨岡拓矢1)、
1)
相馬啓子
川崎市立川崎病院
川崎市立川崎病院
耳鼻咽喉科1)、慶應義塾大学
医学部
耳鼻咽喉科2)、慶應義塾大学
医学部
脳神経外科3)、
4)
脳神経外科
内視鏡頭蓋底手術の合併症である術後髄液漏や頭蓋内感染を防ぐ工夫として、中隔後鼻動脈を栄養血管とした鼻中隔粘膜
弁(flap)による頭蓋底再建法が知られている。当院ではまず flap を作成し、蝶形洞内に到達後、内視鏡操作を耳鼻咽喉科、
腫瘍摘出を脳神経外科が担当する team surgery を行い良好な経過を得ている。腫瘍が硬膜下で摘出終了し、髄液漏を認め
なかった症例は flap による頭蓋底再建を行わず元の鼻中隔軟骨に戻しているが、完全拳上した flap は後方に収縮するため、
鼻中隔前端までの痂疲付着が目立ち、粘膜修復するまでに時間がかかる。そこでわれわれは硬膜下手術と予想された症例は
flap 作成の際、鼻腔底側から前方の切開を行わず蝶形洞の視野を確保し、手術が硬膜外に及んだ際は腫瘍摘出後、省略して
いた切開を加え頭蓋底再建を行う方針としている。抄録提出時、硬膜下手術2症例に施行したが腫瘍摘出に支障なく、術後
の痂疲付着は少量で良好な経過を得ている。本法は内視鏡頭蓋底手術のコンセプトである低侵襲をより具体化した有用な方
法であると考えられた。
241
翼口蓋窩病変に対する経鼻内視鏡手術の適応と限界
○能美
希、児玉
大分大学
医学部
悟、立山香織、鈴木正志
耳鼻咽喉科
翼口蓋窩病変に対してはこれまでさまざまなアプローチ法が議論されてきたが、近年では内視鏡下鼻内手術の適応が拡大
している。2008年∼2014年に当科で手術加療を行った翼口蓋窩を首座とする病変7例について検討した。嗅神経芽細胞腫1
例、腺様嚢胞癌2例、若年性血管線維腫1例、悪性リンパ腫1例、浸潤型副鼻腔真菌症1例、鼻出血1例であった。いずれ
も術前プランニングにて内視鏡下鼻内手術の適応と判断をした症例であり、open approach へのコンバージョンを必要とし
た症例はなく、生検から全摘に至るまですべての症例において手術目的を遂行し得た。正円孔から頭蓋内、Meckel’s cave、
眼窩尖端から海綿状静脈洞付近の操作に関しては、現時点では限界もあったが、さらなる適応拡大は可能と思われた。翼口
蓋窩病変に対しては、解剖の理解と十分な術前プランニングが必要であるが、多くの翼口蓋窩病変に対して内視鏡下鼻内手
術が第一選択と考えている。
242
翼口蓋窩、側頭下窩病変に対する経鼻的アプローチ
○比野平恭之1)、許
昭和大学
芳行2)、渡邊
江東豊洲病院
荘2)、鈴木貴裕1)、森
1)
耳鼻咽喉科 、昭和大学
智昭1)、平野康次郎1)
医学部
耳鼻咽喉科2)
近年の硬性内視鏡やハイビジョンカメラシステム、ナビゲーションに代表される手術支援器機の発達により、従来困難で
あった翼口蓋窩、側頭下窩病変に対する経鼻的アプローチが積極的に試みられるようになってきた。しかし鼻甲介など正常
の鼻腔構造を保ったままで良好な視野と操作性を確保することは困難である。当科におけるこれら病変に対する経鼻的アプ
ローチの工夫を解説し、実際の手術手技を供覧する。
従来からわれわれが上顎洞高度病変例に対して行っていた「粘膜下下鼻甲介骨切除を併用した経中鼻道、経下鼻道アプロ
ーチ」を応用した。粘膜下下鼻甲介骨切除から涙骨を除去し鼻涙管を同定した後、鼻涙管の前方あるいは後方から上顎洞前
壁骨を必要に応じて除去する。以上の操作により鼻腔構造を保ったまま上顎洞外方、下方、上方への視野と操作性が向上す
る。この後、上顎洞後壁を広く開放すれば翼口蓋窩、側頭下窩病変へのアプローチが容易となる。
243
“Outside―in” frontal drill out technique
○児玉
悟、馬渕英彰、能美
大分大学
医学部
希、鈴木正志
耳鼻咽喉科
手術支援機器の発達により内視鏡下副鼻腔手術(ESS)は進歩し、近年では手術トレーニングコースの充実により、難関
の手技とされていた前頭洞単洞化手術(Draf III 型/EMLP)も国内でも普及し、ESS 新分類ではⅤ型に分類されている。通
常、EMLP では中鼻道から上方へ、鼻堤の骨削除を行い、前頭洞底を削除し、さらに鼻中隔を開窓し、前頭洞中隔を削除
することで左右の前頭洞を単洞化する。Outside―in approach は Harvey らによって報告された方法であるが(Laryngoscope
2012)、Castelnuovo は内視鏡下経鼻頭蓋底手術の際には、以前よりこのアプローチ法を用いている。特徴は手術前半に鼻
中隔を開窓し、第1嗅糸をメルクマールとしてその前方の前頭洞底の骨削除を行い、上から下へ鼻堤を削開していく。手術
前半から良好な視野とワーキングスペースが得られるため、われわれは最近、この方法を好んで行っている。実際の手技と
AP 径の短い日本人における工夫について報告する。
118―540
244
2015
鼻内内視鏡下での悪性腫瘍摘出術― 一塊摘出の工夫―
○小林正佳、森下裕之、北野雅子、竹内万彦
三重大学
大学院医学系研究科
耳鼻咽喉・頭頸部外科
悪性腫瘍に対する鼻内内視鏡手術の適用について賛否両論がある。今回鼻副鼻腔悪性腫瘍に対して一塊摘出の工夫をした
例を報告する。
72歳女性、左鼻腔癌(T4bN0M0)の症例。生検上は低悪性度癌。腫瘍は左鼻腔に充満し、画像上最大径 5cm。鼻内内視
鏡下で腫瘍周囲の正常病理組織検査をして切除マージンを確認し、前頭蓋底も合併切除し、腫瘍を一塊切除した。腫瘍は鼻
内でビニール袋に封じて外鼻孔から摘出した。前頭蓋底は多重閉鎖再建した。術後診断は左鼻腔腺扁平上皮癌(pT4bN0M0)
で腫瘍切除断端陰性であった。
64歳男性、左鼻腔癌(T1N0N0)の症例。生検上は腺癌。腫瘍は左鼻腔下2/3に充満し、画像上最大径 6cm。内視鏡下
で腫瘍隣接組織と翼口蓋窩内側組織を一塊切除し、これもビニール袋で摘出した。術後診断は左鼻腔低分化型扁平上皮癌
(pT1N0M0)で腫瘍切除断端陰性であった。
内視鏡下の悪性腫瘍手術は分割切除の可否など検討課題が多いが、正常組織マージン確認と一塊摘出という外切開手術と
同じ必要条件を満たせる例は内視鏡手術の適用、術後追跡評価が可能と考える。
245
当科における内視鏡下経鼻頭蓋底手術の現況
○石川正昭、中川隆之、坂本達則
京都大学
大学院医学研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
近年、機器・手技の進歩により頭蓋底への内視鏡下経鼻的アプローチが可能となり、さらに鼻中隔粘膜弁を使用する頭蓋
底再建を行うことで、多施設から良好な術後成績が報告されている。一方で、内頸動脈から外側へ進展する病変は、経鼻的
アプローチが困難とされている。今回、当科で内視鏡下経鼻頭蓋底手術を行った32症例を対象として、内視鏡下経鼻頭蓋底
手術における有用性について検討した。原因疾患で最も多かったのは嗅神経芽細胞腫の4例で、再発は全症例で認めていな
い。再発にて複数回手術を要した症例は4例あり、そのうちの3例は脊索腫であった。15例に粘膜弁を使用した頭蓋底再建
を行い、術後髄液漏を認めたため再手術を要した症例は2例であった。これら2例では、再建時の硬膜に対してのインレイ
が不適切であったと考えられた。内視鏡下経鼻頭蓋底手術は前頭蓋底病変において有用であるが、外側進展した病変では経
頭蓋アプローチの併用も考慮すべきと考えられた。また、粘膜弁を用いた頭蓋底再建は術後髄液漏防止に有用である。
246
非都市部におけるアレルギー性疾患の実態
―北海道上士幌町民を対象としたアンケートによる疫学調査―
○本間あや1)、中丸裕爾1)、高木
大1)、鈴木正宣1)、今野
哲2)、福田
諭1)
1)
北海道大学大学院医学研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科分野 、
北海道大学大学院医学研究科
呼吸器内科学分野2)
【目的】北海道の典型的な非都市部である上士幌町において、当院呼吸器内科主導のもと2006年および2011年にアレルギ
ー性疾患に関する疫学調査が施行された。今回われわれは2011年の調査をもとに、アレルギー性鼻炎(AR)の有病率およ
び、喘息、口腔アレルギー症候群(OAS)との関連について解析した。
5%)を対象に、訪問調査員の聞き取りによ
【方法】20歳以上の町民よりランダム抽出した1500名(当該年齢全町民の38.
るアンケート調査を行った。
8%であった。AR の有病率は22.
9%で、若年層の有病率が高く、2006年に比べ2.
6%増加していた。
【結果】回収率は97.
7%であったが、AR 有病者に限ると
また、都市部と比較すると上士幌町の AR 有病率は低かった。喘息の有病率は全体で7.
14.
6%となり、AR が存在すると2.
9倍喘息を起こしやすいという結果となった。また、AR が存在すると8.
6倍 OAS を起こ
しやすいという結果となった。
【まとめ】上士幌町では都市部と比較し AR の有病率が低いが、都市部と同様に有病率が増加傾向を認めた。AR は喘息お
よび OAS のリスク因子であった。
118―541
日耳鼻
247
スギ花粉症患者を対象とした綿花浸漬法によるボツリヌス治療の有効性
篤1)2)、坂本
○上條
1)
圭1)、荒木隆一郎3)、井上智恵1)2)、杉崎一樹1)、松田
帆1)、中島正己1)、永田
真4)、
1)
2)
池園哲郎 、加瀬康弘
埼玉医科大学
埼玉医科大学
耳鼻咽喉科1)、埼玉医科大学
アレルギーセンター2)、埼玉医科大学
地域医学医療センター3)、
4)
呼吸器内科
【目的】スギ花粉症に対するボツリヌスA型毒素点鼻法の有効性が報告されている。しかし、分子量の大きなボツリヌス
毒素が粘膜に吸収されるか疑問も残る。今回、綿花にボツリヌス毒素溶液を浸漬して鼻内に留置する方法によるスギ花粉症
に対する有効性を検討した。
【方法】2014年スギ花粉飛散期に、実薬群(10名)にはボツリヌスA型毒素 40U を、プラセボ
群(10名)には生理食塩液を、それぞれ両側鼻内に留置した綿花に浸漬、20分後に綿花を抜去した。レスキュー薬の薬剤の
使用は可とした。
【結果】プラセボ群では観察期間内において有意に総鼻症状の変動(悪化)を認めたが、実薬群では観察
期間内の症状の変化は認められなかった。両群間には統計学的に有意差を認めなかったが、実薬群ではプラセボ群に比べ総
鼻症状および薬剤使用量が抑制されている傾向にあった。
【結論】ボツリヌス毒素は神経終末からの神経伝達物質放出を抑
制することで有効性を発揮すると考えられる。投与法、投与時期、投与量など、さらなる検討が必要である。
248
通年性アレルギー性鼻炎患者における fexofenadine / pseudoephedrine 配合錠の
nasal cycle、鼻閉に及ぼす影響
慶1)、竹内裕美1)、森實理恵1)、中村陽祐1)、榎本雅夫1)2)、北野博也1)
○福島
鳥取大学
医学部
感覚運動医学講座
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野1)、NPO 日本健康増進支援機構2)、
3)
松江赤十字病院
【はじめに】抗ヒスタミン薬は、アレルギー性鼻炎の症状のうちクシャミと水様性鼻漏に対しては高い有効性を示すが、
鼻閉に対する有効性は低い。この弱点を補うために、血管収縮作用を持つ pseudoefedrine を加えた fexofenadine/pseudoephedrine 配合錠(以下、F/Pと略す)が臨床で使用されている。今回われわれは、通年性アレルギー性鼻炎患者の鼻
閉、nasal cycle に対するF/Pの作用を検討する。
【方法】通年性アレルギー性鼻炎患者5人を対象とする。先ず、30分毎に
鼻腔通気度検査を行い、基本的な nasal cycle を測定する。次いで、F/Pの通常使用量である2錠(1錠に fexofenadine
【結果】F/Pの効果の持続性、
30mg、pseudoephedrine 60mg を含有)を服薬し、同じく30分毎に鼻腔通気度検査を行う。
nasal cycle に対する作用、また、自覚的な鼻閉感の経時的な変化についても比較検討する。
249
アレルギー性鼻炎に対するフェキソフェナジン塩酸塩/
塩酸プソイドエフェドリン配合錠の投与法に関する検討
○古閑紀雄1)、原
聡2)、寛島ゆり恵1)、阪本浩一1)
兵庫県立加古川医療センター
耳鼻咽喉科1)、はら耳鼻咽喉科2)
点鼻ステロイドは効果発現に時間を要するため、効果の発現が速やかなフェキソフェナジン塩酸塩/塩酸プソイドエフェ
ドリン配合錠を使用することにより、点鼻薬単独治療への導入が円滑に行える可能性について検討した。鼻閉を主訴とする
アレルギー性鼻炎患者8名を対象とした。配合錠を最初2週間投与した。投与1週間後からは、点鼻薬単独治療も視野に入
れて、導入目的でモメタゾンフランカルボン酸点鼻薬の併用を開始した。投与2週間後からは点鼻薬単独使用に切り替え、
投与4週間後に治療効果を評価した。治療効果は、下鼻甲介粘膜の腫脹程度、VAS を用いて評価した。下鼻甲介粘膜の腫
4から投与1週間後0.
8、2週間後0.
8、4週間後0.
8へ有意に低下した。VAS は、治療前5.
7から投与1
脹程度は、治療前2.
0、2週間後1.
9、4週間後2.
1へ有意に低下した。鼻閉型のアレルギー性鼻炎に対して、即効性のある配合錠は、
週間後3.
点鼻薬単独治療の効果発現までの導入薬として、治療に組み込める可能性が示唆された。
250
アレルゲン舌下免疫療法に関する医師の意識調査の検討
○宮之原郁代1)2)、宮下圭一1)、原田みずえ1)、黒野祐一1)、岡本美孝3)
鹿児島大学大学院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学1)、国立療養所星塚敬愛園2)、
千葉大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学3)
背景)アレルゲン免疫療法の適切な普及を図るためには、患者の本治療に対する認知度だけでなく、医師の認知度を適切
に把握することが重要である。
対象・方法)2013年11月∼2014年2月にかけて、鹿児島県内のスギ花粉症患者を治療している耳鼻科医、小児科医を対象
にアレルゲン舌下免疫療法に関するアンケート調査を行った。
(耳鼻科93.
1%、小児科48.
8%)と
結果)耳鼻科医72名、小児科医84名より回答を得た。舌下免疫に関心がある医師は、
耳鼻科医の関心度が高かったが、小児科医の半数が関心を寄せていることがわかった。舌下免疫療法に関心がある医師のう
6%、小児科63.
4%)と、関心を寄せている医師は、診療科を問わ
ち、自分で実施したいと考えているものは、
(耳鼻科80.
ず自分で実施したいと考えていることが分かった。
結論)今後ほかのアレルゲン免疫療法薬の発売や対象疾患の拡大によって、医師の意識動向も変化すると思われ、モニタ
リングの必要があると考えられた。
118―542
251
2015
スギ花粉症に対する舌下免疫療法の副反応の検討
○小川由起子、湯田厚司
ゆたクリニック
スギ花粉症の新治療舌下免疫(SLIT)が保険適応となり、副反応を心配する医師も多い。SLIT に重篤な副反応は極めて
少ないが、些細な副反応が多い。当院ではシダトレンの発売前より同成分製剤による SLIT を行っており、2014年シーズン
374回、増量期1,
330回、維持期1,
044回)の副反応は
に些細なものを含む副反応の検討を行った。治療58例(総舌下投与2,
5%(口腔底浮腫3、のど痒み1、舌下痒み1、鼻症状3、目痒み1)で、シダトレン臨床試験の副反応(13.
5%)
9例15.
と類似していた。投与を中止すべき副反応はなく、全例維持可能であった。当院では、2014年10月のシダトレン発売後160
例に SLIT を開始し(2015年11月末抄録作成時点)
、今期に約200例の治療を見込む。増量期、維持期、花粉飛散期の副反応
とその対応について検討し、発表時に追加報告する。
252
当科のスギ花粉症舌下免疫療法に対する検討
○濱田聡子1)、朝子幹也2)、小林良樹2)、河内理咲2)、桑原敏彰1)、神田
晃2)、後藤
穣3)、大久保公裕3)、
2)
友田幸一
関西医科大学香里病院
日本医科大学
耳鼻咽喉科1)、関西医科大学附属枚方病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)、
3)
耳鼻咽喉科
アレルギー性鼻炎の唯一の根治治療である抗原特異的免疫療法は、本邦では主に皮下注射法で施行されてきた。代替法で
ある舌下免疫療法は、国内外の多くのメタ解析でその有効性、安全性が報告されており、2014年10月に本邦でスギ花粉症の
舌下免疫療法が保険収載の治療となった。私共は2011年から2014年にスギ花粉症二重盲検試験の治験を行い報告してきた
が、さらに今回2015年スギ花粉飛散シーズン前に受診し、舌下免疫療法を行った患者約50名に対して治療の有効性、安全性
などについて検討した。効果判定は、アレルギー日記より鼻症状を評価し、
「鼻アレルギー診療ガイドライン2013年度版」
に基づき症状スコア、重症度スコア使用薬剤は点数化した。また、治療前後に血清総 IgE、IgG4、スギ特異的 IgE、および
気管支喘息やアトピー性皮膚炎といった Th2 型アレルギー疾患におけるバイオマーカーとして注目されている血清ペリオ
スチン値を測定し変動を検討し、考察を加えて報告する。
253
スギ、ヒノキ花粉症としてのスギ抗原特異的皮下免疫療法の有効性の検討
○川島佳代子1)、松本達始2)、玉城晶子3)、岩田伸子3)、丹生真理子3)、有本啓恵3)、菊守
3)
4)
入船盛弘 、松代直樹 、荻野
寛3)、馬場謙治3)、
5)
敏
国家公務員共済組合連合会大手前病院耳鼻咽喉科1)、松本耳鼻咽喉科2)、NPO 大阪アレルギー健康支援機構3)、
大阪警察病院4)、大阪大学5)
【目的】スギ花粉症患者はヒノキ花粉飛散期にも症状を呈することが多く、大阪のようにスギ花粉よりヒノキ花粉飛散量
が多い地域では、ヒノキ花粉飛散期に症状が増悪する患者がみられる。2014年のスギ、ヒノキ飛散期におけるスギ抗原特異
的皮下免疫療法の有効性について検討した。
【方法】スギ花粉飛散前、スギ花粉飛散期、ヒノキ花粉飛散期にスギ抗原特異
的免疫療法患者と抗ヒスタミン薬初期療法患者にアンケート調査を行った。
【結果・考察】免疫療法患者はヒノキ花粉飛散
期の増悪は軽度であったが、薬物初期療法患者ではヒノキ花粉飛散期に症状の悪化、薬物使用量の増加がみられた。スギ抗
原特異的皮下免疫療法はスギ、ヒノキ飛散期ともに有効であると考えられた。
254
スギ花粉症治療、スギ抗原―ガラクトマンナン複合体を用いた経口免疫療法の検討 :
2 重盲検ランダム化比較試験
○村上大輔1)2)、澤津橋基広1)、大森裕文1)5)、齊藤
九州大学
章3)、加藤昭夫4)、小宗静男1)
1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科 、済生会福岡総合病院
3)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)、
4)
和興フィルタテクノロジー株式会社 、山口大学農学部 、九州がんセンター
頭頸科5)
経口免疫療法の利点は、皮下、舌下免疫療法と比較し抗原を一度に大量に摂取でき早期に腸管を介した免疫寛容が誘導で
きること、抗原入りのカプセルを服用するのみで侵襲がなく簡便であることが挙げられる。さらに本研究に用いた経口免疫
寛容剤は、スギ抗原の IgE エピトープがガラクトマンナンでマスクされておりアナフィラキシーを予防し、かつ抗原性の
向上が計られている。
2014年、スギ花粉症患者54名に対して2重盲検ランダム化比較試験を行った。経口免疫寛容剤であるスギ抗原(Cryj1 :
187.
5μg)
―ガラクトマンナンカプセルをスギ花粉飛散時期前より約1カ月前(2014年1月中旬)より18日間かけて漸増内
服し、その後、維持量として 4Cap(Cryj1 : total 750μg)2×/日を51日間連続し内服投与を行い、primary outcome として
花粉飛散期中の symptom―medication score、secondary outcome として花粉飛散期中の symptom score、medication score、
経口免疫療法中の有害事象をプラセボ群と比較検討したので報告する。
118―543
日耳鼻
255
哺乳類内耳発生における癌抑制遺伝子 PTEN の役割の多様性について
○村田潤子1)、藤岡正人2)、神崎
晶2)、小川
順天堂大学
1)
医学部
郁2)、池田勝久1)
耳鼻咽喉科 、慶応義塾大学
医学部
耳鼻咽喉科2)
われわれは PTEN―flox マウスと Foxg1―Cre マウスを用いて内耳特異的に PTEN を欠失させた PTEN cko マウスを作製し
解析してきた。CKO マウス(PTENflox/flox ; Foxg1Cre/+)はコントロールマウスに比して内耳全体がやや巨大化し、外有毛細
胞では40%程度に4列構造がみられた。
今回われわれは E13.
5 での Sox1 陽性領域における PHH 陽性細胞率および E16.
5 での感覚上皮予定領域外での BrdU 陽
性細胞率等を検討し、PTEN の感覚上皮前駆細胞増殖制御への寄与は小さく、むしろ領域外において増殖を制御しているこ
とを確認した。PTEN CKO マウスではコントロールに比して蝸牛管の長さは短く、われわれは上記の表現型は細胞増殖促
進よりも蝸牛管収斂伸長の阻害が原因であると考えた。
PTEN 欠失によって感覚上皮予定領域決定には影響がみられず、一方でその後に有毛細胞分化促進が観察され、細胞増殖
制御における結果とあわせて内耳発生において PTEN が p27Kip1 と時空間的に相補的な機能を有している可能性が示唆さ
れた。 (この研究は大阪大学仲野徹教授、北里大学木村透教授の指導の下で行われた。
)
256
deletion 解析を用いた Pou4f3 の有毛細胞における発現調節機構の分析
○増田正次1)2)3)、小川
杏林大学
郁2)、甲能直幸1)、Allen Ryan3)4)
耳鼻咽喉科学教室1)、慶應義塾大学
医学部
医学部
耳鼻咽喉科学教室2)、
カリフォルニア大学サンディエゴ校
医学部
外科学/耳鼻咽喉科学教室3)、
カリフォルニア大学サンディエゴ校
医学部
ニューロサイエンス4)
有毛細胞(HC)特異的な遺伝子の発現調節機構の詳細は分かっていない。過去にわれわれは Pou4f3 転写開始点上流
8.
5kb DNA 制御下に eGFP を発現するトランスジーン(8.
5kb―eGFP)を持つマウスを用いて、HC における遺伝子発現調
節機構を分析してきた。そして、転写開始点の直近上流の領域がプロモーターであり、8.
2―8.5kb 上流の領域がエンハンサ
ーとして機能し、複数の転写因子の組合わせコードにより Pou4f3 の発現調節がなされている可能性を示してきた。今回
は、8.5kb―eGFP に deletion 解析を導入し、HC 特異的遺伝子の発現調節についてさらなる分析を加えた。8.
5kb―eGFP を
任意の長さに切断したトランスジーン(Tg)のほかに、プロモーター領域を Elastase1 ミニマルプロモーターと交換した Tg
を作成した。各 Tg を有するマウスの内耳における eGFP の発現を観察した。その結果、6.
4―8.5kb の領域に遺伝子を内、
外 HC に発現させるのに必要なエンハンサーが含まれていることが確認できた。また Pou4f3 において、プロモーター領域
が転写活性を調整することに寄与していることが分かった。
257
蝸牛感覚上皮予定領域における Atoh1 の動的発現パターン
○楯谷智子1)2)、坂本
進1)3)、影山龍一郎1)4)
ウイルス研究所1)、京都大学
京都大学
京都大学大学院
医学研究科
白眉センター2)、
耳鼻咽喉科・頭頸部外科3)、京都大学
物質―細胞統合システム拠点4)
内耳感覚上皮の発生においては、Activator―type の塩基性 helix―loop―helix(bHLH)因子である Atoh1 が有毛細胞分化を
促進するのに対して、repressor―type の bHLH 因子である HES ファミリー(Hes1、Hes5 など)は、Notch シグナルのエフ
ェクターとして働き、Atoh1 の転写および機能を抑制することにより有毛分化を抑制して支持細胞への分化を促進すること
がよく知られている。しかしながら、胎生期の蝸牛感覚上皮予定領域においては、Atoh1 は細胞の運命決定前の前駆細胞に
も発現し、そのような Atoh1 陽性前駆細胞の細胞系譜には支持細胞が含まれているという報告もある。蝸牛感覚上皮予定
領域の前駆細胞においては、Atoh1 の発現レベルがさまざまであり、また時間と共にただ強くなるというだけでなく変動し
ている可能性がある。本研究では Atoh1 の動的発現パターンを捉えるため、培養蝸牛を用いリアルタイムで観察する実験
系を確立した。その結果を報告し、蝸牛感覚上皮予定領域における Atoh1 の役割につき議論する。
258
蝸牛感覚上皮発生における Inhibitors of differentiation and DNA binding
(Id)の機能の解析
○坂本
進1)2)、楯谷智子2)、影山龍一郎2)、伊藤壽一1)
京都大学大学院
医学研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、京都大学
ウイルス研究所2)
Inhibitor of differentiation and DNA―binding
(Id)はヘリックスループへリックス(HLH)タンパクであり、Id1 から Id4
までサブタイプが存在する。Id は主にEタンパク質などほかの塩基性ヘリックスループヘリックス(bHLH)タンパク質と
2量体を形成する。しかし Id には DNA 結合能がなく、bHLH タンパク質とEタンパク質が結合し DNA に結合し機能する
のを阻害する。Id は発生段階で主に脳神経系の発生、リンパ球生成、血管系の形成に関与している。内耳発生においては、
Id は有毛細胞の発生に重要な転写因子である Atoh1 の機能を抑制することが知られているが、Id が内耳の発生にどのよう
に機能しているかは十分には解明されていない。今回、Id の内耳発生における機能を解明するにあたり、Id1 から Id4 まで
の時間的空間的発現様式を in situ hybridization を用い調べた。また、エレクトロポレーション、蝸牛培養をもちい Id 遺伝
子の強制発現の実験を行った。その結果を示し、蝸牛感覚上皮発生における Id の役割について議論する。
118―544
259
2015
動物用マイクロ CT スキャナー SKYSCAN1176 のモルモット聴器観察の有用性
○山野貴史1)、樋口仁美2)、上野哲子2)、中川尚志2)、森園哲夫3)
福岡歯科大学
耳鼻咽喉科分野1)、福岡大学
総合医学講座
耳鼻咽喉科2)、西福岡病院3)
医学部
(はじめに)われわれは、以前、動物用マイクロ CT スキャナー SKYSCAN1178 について、イソジンやブロー液などの点
耳薬剤を中耳腔内に投与して、投与後の3方向からの断面の画像を構築し、中耳の骨新生評価に関しては有用性があること
を報告した。今回は、SKYSCAN1178 と比較して、撮影時間はかかるものの、空間分解能、階調分解能ともに優れた SKYSCAN
1176 での検討を行った。
(対象と方法)対象はハートレー系モルモット(体重 250∼300g)とした。麻酔はイソフルランを
吸入させ、さらに CT 撮影中は体動を抑えるために持続投与した。
(結果と考察)前回使用した SKYSCAN1178 は最小スラ
イスが80マイクロミリであるのに対して、SKYSCAN1176 は9マイクロミリであり、前回の実験では中耳の骨新生評価には
有用であったが、蝸牛内の描出は困難であった。今回使用した SKYSCAN1176 は中耳骨胞が clear となり蝸牛外側および蝸
牛軸の描出までは可能であった。しかしながら軟部組織の描出は困難であった。
マウス側頭骨の透明化の試み
260
演題取り下げ
○牧嶋知子1)、清水直樹1)2)、田村敦史1)3)
テキサス大学
メディカルブランチ
耳鼻科1)、奈良県立医科大学
耳鼻咽喉科2)、防衛医科大学
耳鼻咽喉科3)
【目的】マウス側頭骨の透明化法を確立する。
【方法】生後1日から数カ月齢のマウス側頭骨を摘出し4%PFA で固定し
た。骨化した側頭骨は脱灰した。卵円窓、正円窓、蝸牛頂回転部に穴をあけ、蛍光免疫染色、または、Xgal 染色した。そ
の後、既存のプロトコールに準じて側頭骨を透明化した。透明化した側頭骨は、解剖顕微鏡、蛍光顕微鏡、共焦点レーザー
顕微鏡などを用いて観察した。
【結果】幼若マウスの未骨化側頭骨も成体マウスの側頭骨も透明化できた。透明化に要する
時間は、SeeDB 法を改良することで2日に短縮できた。ラベリング法のうち、抗体を用いた免疫染色はバックグラウンド
が高かった。
【結論】マウス側頭骨には SeeDB 法が、コスト、試薬の安全性、簡便性、処理時間、透明度等総合すると最も
適した方法と考える。蛍光染色などのラベリング法と組み合わせることで側頭骨の 3D 構築が解析できる。今後の課題は、
内耳のさまざまな細胞に適したラベリング法と側頭骨全体の観察に適した顕微鏡レンズや 3D ソフトウエアの改善などであ
る。
261
PENDRED 症候群疾患特異的 iPS 細胞由来内耳細胞を用いた薬剤スクリーニング
誠1)2)、藤岡正人1)、松永達雄3)4)、小川
○細谷
慶應義塾大学
医学部
郁1)
1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科 、日本学術振興会
国立病院機構東京医療センター
特別研究員2)、
3)
感覚器センター 、国立病院機構東京医療センター
臨床遺伝センター4)
[はじめに]疾患特異的 iPS 細胞研究は、細胞レベルで疾患を再現する「病態解明」から、異常な表現形を正常化する薬
剤の「創薬スクリーニング」の段階へと移りつつある。PENDRED 症候群特異的 iPS 細胞の樹立、そこから誘導された疾患
内耳細胞を用いて病態モデルの樹立に加え、今回、疾患治療を目指して薬剤スクリーニングを行ったので報告する。
[症
例]進行性難聴を呈する PENDRED 症候群患者3例。
[方法]患者採血検体から iPS 細胞を樹立し、PENDRIN 陽性内耳細
胞の誘導を行った。健聴者 iPS 細胞由来内耳細胞と疾患特異的 iPS 細胞由来内耳細胞の細胞生物学的特性を比較し、患者由
来細胞のみにみられる異常表現形を確認した。さらに異常表現形を正常化する薬剤のスクリーニングを行った。
[結果]患
者由来細胞は細胞レベルで脆弱性を示し、一部の薬剤で細胞死を抑制することに成功した。iPS 細胞を用いた薬剤スクリー
ニングが内耳疾患にも応用し得ることが示された。
262
iPS 細胞への遺伝子導入
○田浦晶子、中川隆之、伊藤壽一
京都大学
医学部
耳鼻咽喉科
【はじめに】哺乳類では内耳有毛細胞は一度障害されると再生は困難とされている。それ故、内耳障害治療として有毛細
胞の再生が必要である。近年、内耳再生への新規治療法を確立するために、iPS
(induced pluripotent stem cell)細胞から内
耳有毛細胞の誘導が報告されているがその分化誘導効率は十分ではない。そのため、より効率的に分化誘導させるために iPS
細胞への遺伝子導入方法について検討した。
【方法】ヒト iPS 細胞および iPS 細胞から誘導した神経幹細胞(hNSC)を用い
て、リポフェクション法およびイオノフォレーシス法にて遺伝子導入を行った。
【結果】イオノフォレーシス法により、
hNSC への GFP 発現ベクターの導入が可能であった。今回の検討から iPS 細胞への機能遺伝子導入により有毛細胞へのよ
り効率的な分化誘導の可能性があると考えられた。(共同研究者 : 大西弘恵特定研究員)
118―545
日耳鼻
263
骨格筋間質由来多能性幹細胞シート・ペレットによる顔面神経ネットワークの再生
○齋藤弘亮1)、酒井昭博1)、大上研二1)、飯田政弘1)、玉木哲朗2)
東海大学
耳鼻咽喉科1)、東海大学
医学部
医学部
再生医療科学2)
目的 : 顔面神経の損傷に対しては、再建術や人工神経などさまざまな試みがなされているが、複雑な神経ネットワークの
再構築は現状困難である。本研究では、骨格筋由来多能性幹細胞群を細胞間の接着性を維持したシート・ペレットとして移
植し、顔面神経ネットワークの再生を試みた。方法 : 正常マウス顔面神経損傷モデルを作成し、GFP マウス骨格筋から得
た幹細胞シート・ペレットを損傷部位に移植し、対照群には培地のみを移植した。回復期の機能評価は Most 法に準じた麻
痺スコアの測定と電気生理学的評価を行った。さらに免疫組織学的評価を行い、比較検討した。結果・考察 : 移植群は対照
群に比して機能的に優位に回復を示した。移植細胞は、シュワン細胞、神経周膜細胞に分化し、軸索を保護する形で神経ネ
ットワークを再構築し、神経筋接合部に至る神経の再生に関与していた。さらに、血管内皮細胞、血管平滑筋にも分化し、
大小の血管構築も行っていた。よって骨格筋由来幹細胞シート・ペレットが顔面神経の再生と機能回復に貢献していること
が示唆された。
264
オートファジーを中心とした内耳感覚細胞死・細胞老化に関する基礎的検討
○林
賢1)、五島史行2)、土橋奈々2)、野村泰之3)、神尾友信1)、藤岡正人2)、神崎
神尾記念病院
1)
耳鼻咽喉科 、慶應義塾大学
医学部
2)
耳鼻咽喉科 、日本大学
晶2)、小川
医学部
郁2)
耳鼻咽喉科3)
(目的)酸化ストレス下での細胞死と細胞老化制御には、オートファジーが中心的な役割を果たすことが報告されている
が、内耳感覚細胞における細胞死と細胞老化シグナルの相違については明らかではない。われわれは内耳培養細胞(HEI―
OC1)を用いて、酸化ストレス下での細胞死・細胞老化とオートファジーの分子メカニズムについて検討したので報告す
る。(結果)HEI―OC1 を H2O2 処理し、細胞生存率と細胞増殖率の条件から内耳細胞死・老化モデルを作製した。オートフ
ァゴソーム形成における key gene である Atg7 を siRNA により knock down した Atg7 KD 細胞では、酸化ストレス処理後
もオートファジーは誘導されず、細胞生存率は Atg7 正常細胞と比較して著しく低下した。細胞老化マーカーである SA―β―
gal 陽性細胞は著しく増加し、細胞老化促進も認めた。オートファジー制御分子 p62 の発現は増加した。
(結語)内耳感覚
細胞においてオートファジーは細胞死・老化制御に深く関与し、酸化ストレス下でのオートファジー機能不全は細胞死・細
胞老化を促進することを確認した。
265
老化内耳における細胞内凝集体の形成について
○菅原一真、津田潤子、広瀬敬信、橋本
山口大学大学院
医学系研究科
誠、岡崎吉紘、竹本洋介、下郡博明、山下裕司
耳鼻咽喉科学分野
アルツハイマー病やパーキンソン病に代表される神経変性疾患では、神経細胞内に不良な蛋白質が凝集体を形成すること
で、細胞死が生じ、疾患発症にかかわるとされている。細胞内に生成された不良な蛋白質はユビキチンの結合によりプロテ
アソームで処理されるが、この過程に問題が起こると凝集体が生成される。以前、われわれは音響障害などのストレス負荷
後に、蝸牛のラセン神経節の神経細胞内に凝集体が形成され、徐々に消失することを報告した。今回、われわれは老化が内
耳の細胞内凝集体形成に影響するか検討した。難聴を起こしにくいとされる CBA マウス、老化とともに難聴を生じる DBA
マウス、C57BL マウス、HSF1 欠損マウスを実験に用いた。免疫組織化学染色にて、内耳の細胞内凝集体を検討した。難聴
を生じる動物では、老化とともにらせん神経節細胞内に凝集体が形成され、加齢とともに増加することが明らかになった。
若干の文献的考察を加え報告する。
266
加齢性難聴モデルマウスにおける小胞体ストレスの関与
○大石直樹、渡部高久、小川
慶應義塾大学
医学部
郁
耳鼻咽喉科
小胞体ストレスは、異常たんぱくが小胞体に蓄積することで細胞死を引き起こす、生体にとって致死的ストレスの一種で
ある。他領域においては、小胞体ストレスによる異常たんぱく質の細胞内蓄積が、生体内の加齢性変化を加速させることが
示唆されているが、加齢性難聴と小胞体ストレスとの関連はいままで明らかにされてきていない。本研究では、より生理的
な加齢性難聴を来すと考えられる CBA/J マウスを用い、小胞体ストレスを軽減させることにより加齢性難聴の進行を予防
できるかどうかを検討した。小胞体ストレスを軽減させる薬剤として汎用されている内因性胆汁酸 tauroursodeoxycholic
acid
(TUDCA)の定期的な腹腔内投与を行った。生後3カ月齢から投与を開始し、3日に1回の投与を14カ月間継続したと
ころ、TUDCA 投与群はコントロール群に比べ、統計学的に有意に難聴進行が軽減されていた。そのメカニズムにつき内耳
生化学的に検討し、報告する。
118―546
267
2015
マウス内有毛細胞リボンシナプスにおける Otoferlin による神経伝達物質放出の制御
○鷹合秀輝
国立障害者リハビリテーションセンター研究所
感覚機能系障害研究部
感覚認知障害研究室
オーディトリーニューロパチーにおける障害部位として内有毛細胞―蝸牛神経間のシナプス、もしくは蝸牛神経そのもの
が想定されているが、病態について不明な点が多いため、動物モデルを使って病態を解明していくことが必須である。本研
究においては野生型マウス、Otoferlin―KO マウス、Otoferlin 点変異マウスを対象とし、パッチクランプ法により蝸牛神経
から興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録した。野生型マウスの内有毛細胞に脱分極刺激を行うと蝸牛神経の EPSC の
Frequency が大幅に上昇したのに対して、Otoferlin―KO マウスでは Frequency の変化が全く認められなかった。これによ
り、Otoferlin が内有毛細胞リボンシナプスのカルシウムセンサーであることが示唆された。また、個々の EPSC を観察す
ると、Otoferlin―KO マウスにおいて大きな振幅を持つものも記録された。この結果は内有毛細胞リボンシナプスにおいて
単一シナプス小胞によりシナプス伝達が行われるという新しい仮説(Chapochnikov, Takago et al.(2014)Neuron 83 : 1389―
1403)を支持する。
268
強大音に対するテプレノンの内耳有毛細胞下シナプスへの保護効果
○岡崎吉紘、菅原一真、広瀬敬信、山下裕司
山口大学大学院医学系研究科
耳鼻咽喉科学分野
熱ショック蛋白質を誘導する薬剤としてテプレノン(geranylgeranylaceton : GGA)があり、当教室ではこの GGA に着
目し、音響障害に対してこの薬剤が強力に内耳保護作用を示すことを証明した。ただ、音響障害後の有毛細胞数と ABR の
閾値に解離があることは知られており、当教室での結果でも解離がみられた。原因として音響障害によるシナプス数の減少
や形状変化が考えられた。Karunanithi らはショウジョウバエに対する熱ショックにおいて、熱ショック蛋白質の発現とシ
ナプスの保護が相関することを電気生理学的に報告している。そこで、音響障害に対し GGA が内耳有毛細胞下シナプスリ
ボンを保護するかどうか検討した。ハートレイ系白色モルモット(雄、体重 400∼900g)を用いて実験を行った。GGA
0.
5%含有の特殊飼料を摂食させ、音響障害後3日目、1週間目に経心灌流固定を行った。後固定の後、内耳有毛細胞下シ
ナプスリボンの免疫組織化学染色を行い、組織学的に検討した。また、ABR 閾値、および振幅に関しても検討を行った。
若干の文献的考察を加えて報告する。
269
シスプラチンによる蝸牛有毛細胞障害に対するセラミド― 1 ―リン酸の保護効果
○田渕経司、Le Quang、原
筑波大学
晃
耳鼻咽喉科
【はじめに】セラミド―1―リン酸は生理活性を有するスフィンゴ脂質の一つであり、近年さまざまなシグナル伝達にかか
わり、細胞の増殖、生存や炎症応答等を調節していることが報告されている。われわれは、以前にゲンタマイシン負荷によ
る蝸牛有毛細胞障害に対し、セラミドが障害を促進することを報告した。今回われわれは、セラミド―1―リン酸のシスプラ
チンによる蝸牛有毛細胞障害に対する効果を検討した。
【対象・方法】3∼5日齢の B6J マウスを用いた。基底回転コルチ
器を採取し、シスプラチン濃度を 10μM とした培養溶液中で48時間培養した。培養後、組織固定、Phalloidin 染色を施行
1μM 投与ではシスプラチン単独投与群に比べ影響を与え
し、外有毛細胞数を計測した。
【結果】セラミド―1―リン酸は 0.
なかったが、10∼100μM での投与により有意にシスプラチンによる外有毛細胞障害を軽減した。
【考察・まとめ】器官培養
実験から、セラミド―1―リン酸が内耳有毛細胞に対し保護作用を有するスフィンゴ脂質であることが判明した。
270
コネキシン26変異型難聴マウスへの BDNF 遺伝子治療によるらせん神経節細胞変性の抑制
○高田
洋平1)2)、高田
関西医科大学
智子1)2)、友田
幸一1)、Raphael Yehoash2)
1)
耳鼻咽喉科頭頸部外科 、クレスギ聴覚研究所2)
Cx26(Gjb2)遺伝子異常の難聴は遺伝性難聴において最も頻度が高く、非症候性両側性感音難聴を引き起こす。われわ
れは cre sox10 プロモーターを用いて重度難聴を持つ Cx26 変異型難聴(Gjb2―CKO)マウスを作成し、生後1、3、6カ
月でのコルチ器・ラセン神経節の組織構造を明確にした。コルチ器・ラセン神経節細胞の蝸牛基底部では初期の段階から変
性が始まり、基底部から頂部にかけて急速に変性をもたらした。また、神経栄養因子である BDNF をアデノウイルスベク
ターを用いて中央階と鼓室階に導入し、Gjb2―CKO マウスのラセン神経節細胞への遺伝子治療の影響を検討した。BDNF
導入後1カ月の時点で蝸牛の中間部・頂部の細胞変性を抑制することはできなかったが、基底部の細胞変性を著明に抑制す
ることができた。これらのデータは GJB2 遺伝子変異や GJB2 関連遺伝子変異の先天性難聴患者においてラセン神経節細胞
の変性抑制の新しい治療デザインとなり、GJB2 遺伝子変異の先天性難聴患者の根本的治療に将来結びつく可能性がある。
118―547
日耳鼻
271
耳小骨の振動軸に関する検討
○國本泰臣1)、久家純子1)、有井士郎2)、長谷川賢作3)、矢間敬章1)、北野博也1)
鳥取大学
医学部
鳥取大学大学院
感覚運動医学講座
工学研究科
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野1)、
情報エレクトロニクス専攻2)、日本医科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科3)
これまで当科では非接触型レーザードップラー速度計を用いてヒト生体における鼓膜および耳小骨の振動測定を行ってき
た。耳小骨の振動測定では、ツチ骨・キヌタ骨に対してアブミ骨が逆位相で振動しているという結果を得た。そこで、ツチ
骨・キヌタ骨・アブミ骨を1つの剛体として耳小骨モデルを作成し、振動軸を変化させた場合に各耳小骨の位相がどの向き
へ動くかについて検討を行ったところ、鼓膜張筋腱と後キヌタ骨靭帯を軸として耳小骨モデルを振動させた場合、生体で得
られた結果と同様にツチ骨・キヌタ骨に対してアブミ骨が逆位相で振動するという結果が得られ、2014年の日本耳科学会総
会で発表した。今回われわれは、各耳小骨間に関節を作成したり耳小骨に付着する靱帯を追加したりすることで、より生体
に近い状態での実験を行ったので報告する。
272
真珠腫上皮における透過性の検討
○小泉弘樹、橋田光一、池嵜祥司、鈴木秀明
産業医科大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
中耳真珠腫は組織学的に内部にケラチン落屑物が貯留した半閉鎖腔を形成する表皮嚢胞である。この骨吸収の機序につい
ては過去半世紀以上にわたり研究がなされているが、いまだ十分に解明されるに至っていない。今回、酸による化学的骨吸
収機序に基づいたわれわれの研究成果を発表する。われわれは真珠腫上皮の透過性について、電気的インピーダンス測定法
と、表皮バリア機能に関与しているタイト結合蛋白の claudin―1、claudin―3、tricellulin の免疫組織学的染色法、定量的 RT―
PCR 法を用いて検討した。耳後部皮膚、外耳道皮膚に比べ真珠腫上皮はインピーダンスの上昇を認めた。また claudin―1、
claudin―3、tricellulin のいずれのタイト結合蛋白も耳後部皮膚に比べて真珠腫上皮では発現が低下していた。以上の結果を
考え合わせると、真珠腫上皮の透過性は亢進しており、表層の酸性度が基底側に浸透し、隣接する骨組織を脱灰・吸収する
という可能性が示唆される。骨吸収機序が詳細に解明されれば中耳真珠腫に対する保存的治療への展望が開けるものと期待
される。
273
空間コード化法三次元計測装置を用いた顔面神経麻痺の客観的評価法の開発
○勝見さち代1)、江崎伸一1)、服部公央亮2)、山野耕嗣3)、梅崎太造4)、村上信五1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、中部大学
名古屋市立大学
3)
やまの耳鼻咽喉科クリニック 、名古屋工業大学
工学部
情報工学科
電子情報工学科2)、
産業戦略工学4)
麻痺の予後は重症度により、治療方針の決定、経過の観察、予後予測において重要な役割を果たす。国内では10表情を領
域毎に評価する柳原法が、海外では5表情で表情全体を評価する House―Brackmann 法が広く普及している。これらは、特
別な器具・検査環境が不要でコストがかからないメリットがあるが、主観性に影響され易く、検者間・内差異が生じ、客観
性・再現性に乏しい点が指摘されてきた。この問題を解決すべく、三次元データを用いて定量的・客観的な新しい評価法を
開発したので報告する。空間コード化法三次元計測装置を用い、表情運動の三次元形状を計測し、顔面各器官の特徴点を検
出し、特徴点のX、Y、Z座標より安静時と運動時の移動距離を健側と患側で比較し、麻痺の程度を評価した。安静時、額
の皴寄せ、弱閉眼、イーと歯をみせる、口笛運動の5つの表情を領域毎に評価し、既存の評価法との相関関係および二次元
データ、と三次元データの比較検討を行った。また、5つの表情運動を総和して全体の表情運動も同様に解析した。
274
積分筋電図を用いた顔面神経麻痺後遺障害評価
○小田桐恭子、浜田昌史、塚原桃子、飯田政弘
東海大学
医学部
専門診療学系
耳鼻咽喉科
顔面神経麻痺評価法として主に使用されている40点法は、発症初期の重症度評価や経時的変化の観察には有用であるが、
後遺障害評価には不十分な面を持つ。われわれはこの後遺障害評価の方法を種々検討してきたが、評点法による評価は評価
者による差異が解消できず、定量可能な評価法の必要性を強く感じた。そこでその手法として日常診療で常用されている積
分筋電図に改めて着目した。
今回、麻痺後遺症患者10例に対して筋電図評価を行い、安静時の顔面拘縮、強閉眼時・口笛運動時・歯を見せる運動時の
病的共同運動の4項目を眼輪筋と口輪筋上の皿電極で記録し、得られた原波形を積分処理し数値化することで定量化を図っ
た。うち2例ではボツリヌストキシンとリハビリ併用による後遺障害治療を行い、治療前後の積分筋電図を比較した。結
果、積分筋電図による評価は、数値化により後遺障害重症度の定量的評価が可能であり、治療効果の検証にも有用であっ
た。また、原波形や数値を実際に患者へ提示することで治療評価のフィードバックも可能であった。
118―548
275
2015
末梢性顔面神経麻痺発症 6 カ月以降の病的共同運動の変化
○藤原圭志1)、古田
北海道大学大学院
康1)2)、福田
医学研究科
諭1)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科分野1)、手稲渓仁会病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
日本顔面神経学会の申し合わせ事項に従うと、顔面神経麻痺発症6カ月の時点で治癒・非治癒の判定が行われるが、6カ
月以降に後遺症が増悪する症例を経験することがある。今回われわれは、発症後6カ月以降の表情筋病的共同運動の変化に
ついて調査し、治癒判定基準の問題点を検討した。対象は発症後6カ月の時点で表情筋病的共同運動を認めた Bell 麻痺8
例、Hunt 症候群11例の計19例である。Sunnybrook 法の病的共同運動スコア1∼5点を軽度、6∼10点を中等症、11∼15点
を重度の病的共同運動と分類した。発症6カ月の時点で軽度と判定された14例のうち6例(43%)で、発症12カ月後には中
等症以上に病的共同運動が悪化していた。また、柳原スコアが36点以上かつ軽度の病的共同運動のみで、発症6カ月の時点
で治癒と判定されていた3例のうち1例が発症12カ月後には非治癒の判定となった。発症6カ月にて軽度病的共同運動を伴
う症例は12カ月まで経過を追い治癒判定を行うことが推奨される。
276
同側の多発脳神経障害と小脳炎を合併した Ramsay―Hunt 症候群例
○西山崇経、毛部川真理、重冨征爾
横浜市立市民病院
耳鼻咽喉科
69歳女性、3日前からの左耳介発疹と左顔面神経麻痺を主訴に近医受診。近医でバラシクロビル等処方されるも改善な
く、発症4日後に当科紹介受診。左外耳および口腔内に発疹、左末梢性顔面神経麻痺(柳原スコア4点)
、左軽度感音難聴
を認め、Ramsay∽Hunt 症候群の診断となった。同日よりステロイド点滴加療とバラシクロビルの継続を行った。治療開始
3日後に嚥下障害、嗄声、ふらつきが出現し、左 Curtain 徴候、体幹失調、左声帯麻痺の出現を認めた。左第Ⅶ∼Ⅹ脳神経
障害を認め、血液検査で VZV IgG と IgM 共に異常高値、頭部 MRI では明らかな異常所見を認めず、腰椎穿刺では水様透
明な脳脊髄液が採取され、細胞数(単核球優位)と蛋白共に異常高値を示したため、多発脳神経障害と小脳炎を合併した
Ramsay∽Hunt 症候群の診断となった。発症10日後に筋電図検査を行い、NET は左 scale out、右
4.
8mA、ENoG は2%
であった。顔面神経減荷術は、患者が希望せず行わなかった。リハビリも含めた治療を継続するも嚥下障害は遷延し、経腸
栄養の併用を要した。
277
当科における外傷性顔面神経麻痺の治療方針
○本多伸光、富所雄一、高木太郎、西原江里子、中村光士郎
愛媛県立中央病院
耳鼻咽喉科
頭頸部外科
外傷性顔面神経麻痺の多くは側頭骨骨折により側頭骨内顔面神経に損傷が生じて発症する。側頭骨骨折の原因は交通事故
や転落事故などが多く、同時に外傷性耳小骨離断や外リンパ漏、髄液漏、鼓膜損傷などを合併していることがあり、耳鼻咽
喉科領域における注意すべき救急疾患のひとつである。また、頭部外傷により脳損傷や脳出血などの生命にかかわる重篤な
頭蓋内病変を伴っていることもあり、重症例ほど耳鼻咽喉科受診が遅れる傾向がある。2009年11月∼2014年11月までの5年
間に当科で治療を行った外傷性顔面神経麻痺は13症例であった。明らかな遅発性麻痺が8例、即発性麻痺もしくは麻痺発現
時期が不明の症例が5例であった。麻痺スコア、側頭骨 CT 検査、電気生理学的検査などから総合的に判断し、即発性麻痺
もしくは完全麻痺で高度神経障害の症例に対しては顔面神経減荷術を施行した。今回、症例の詳細を報告し、当科における
外傷性顔面神経麻痺にたいする治療方針について発表する。
278
糖尿病を合併したベル麻痺の予後
○江崎伸一、勝見さち代、川北大介、山野耕嗣、高橋真理子、村上信五
名古屋市立大学大学院
医学部
耳鼻咽喉・頭頸部外科
ベル麻痺にはステロイドを中心とした治療が有効であるが、糖尿病患者にステロイドを投与すると血糖値が上昇し糖毒性
を招く可能性がある。今回、名古屋市立大学病院等を受診したベル麻痺患者865名を対象として糖尿病が予後に与える影響
を調べた。ステロイド治療を行った群においての治癒率は糖尿病群で94%、非糖尿病群で96%と統計学的有意差を認めなか
ったが、糖尿病患者にステロイドを用いなかった場合は73%と優位に低下した。ステロイド治療後の治癒率に影響を与える
因子を回帰分析で検討したが、糖尿病は有意な影響を与える因子と認められなかった。次に、完治した患者が治癒に要した
期間を検討したところ、糖尿病群は非糖尿病群に比べて治癒が有意に遷延した。罹病期間に影響を与える因子を回帰分析で
検討したところ、糖尿病は有意に延長する因子と認められた。以上の検討により、糖尿病を伴うベル麻痺に対するステロイ
ド療法は、非糖尿病患者と比べて罹病期間は延長するものの同等の治癒率が得られることが示され、積極的なステロイド療
法の有用性が示唆された。
118―549
日耳鼻
279
重症度に応じた Bell 麻痺の実践的治療
○川北大介、勝見さち代、江崎伸一、山野耕嗣、村上信五
名古屋市立大学大学院
耳鼻咽喉・頭頸部外科
Bell 麻痺は末梢性顔面神経麻痺の約60%を占める最も頻度が高い疾患である。多くは単純ヘルペス(HSV)の再活性化が
原因と考えられているが、臨床的 Bell 麻痺の中には血清学的に水痘―帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化と診断される、
無疱疹性ハント症候群(ZSH)が8∼20%含まれていると報告されている。ZSH は早期診断が困難であり、HSV よりも重
症で予後不良とされている。われわれは ZSH を考慮した重症度別での実践的治療を行っているので報告する。本法は初診
000mg/日を、24点以上の軽症例には、PSL
時に柳原法22点以下の重症例に対しては、PSL60mg/日とバラシクロビル 3,
30mg/日を3日間投与し、4日目に再度、麻痺の重症度を評価して投与量を再考する方法である。2004∼2013年の間に当院
254症例を対象に行った。全体の治癒率は95.
3%であった。その内血清学的
ならびに関連施設を受診した臨床的 Bell 麻痺1,
9%と良好な結果であった。しかし完全麻痺例の治癒率は84.
4%であ
に ZSH と診断されたのが70症例で、その治癒率は92.
り、手術治療を含めたさらなる検討が必要と考えた。
280
Bell 麻痺・Hunt 症候群重症例の治療成績の再検討
○古川孝俊1)、稲村博雄2)、阿部靖弘1)、渡辺知緒1)、伊藤
山形大学医学部
吏1)、窪田俊憲1)、二井一則1)、欠畑誠治1)
1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座 、いなむら耳鼻咽喉科クリニック2)
われわれは従来から Bell 麻痺・Hunt 症候群完全麻痺例に対して、Stennert らにより提唱された大量ステロイド投与を改
変した、抗ウイルス薬併用ステロイド大量療法で治療を行うことを原則としてきた。1996年から2000年までの264例では、
この治療による Bell 麻痺完全麻痺例の治癒率は94%、Hunt 症候群完全麻痺例の治癒率は61%であった。しかしながら本治
療法にも限界があり、Bell 麻痺ではほぼ良好な治癒率が得られるものの Hunt 症候群では非治癒症例も多く、特に ENoG 値
10%以下を呈する重症例において治癒率が低いのが現状である。また、減荷術の追加も重症例においては効果についていま
だ議論の余地がある。今回この現状を再認識すべく、当科における1995年から2014年までの Bell 麻痺・Hunt 症候群重症例
(ENoG 値20%以下)に対する保存的治療を中心とした治療成績について、重症度ごとに詳細に検討し報告する。
281
末梢性顔面神経麻痺に対する鼓室内ステロイド治療の有用性の検討
○稲垣
彰1)、勝見さち代1)、南方寿哉1)、三矢昭治2)、吉岡真理子1)、佐藤雄二3)、尾崎慎哉4)、欄
6)
原田生功磨 、波多野
7)
克 、植松
名古屋市立大学大学院医学研究科
春日井市民病院
8)
9)
1)
耳鼻咽喉科 、名古屋第2赤十字病院
耳鼻咽喉科6)、
7)
耳鼻咽喉科 、愛知県厚生連尾西病院
名古屋市立西部医療センター
耳鼻咽喉科2)、
4)
耳鼻咽喉科 、
耳鼻咽喉科5)、一宮市立市民病院
愛知県厚生連豊田厚生病院
真一郎5)、
1)
隆 、亀井千晴 、森部桂史 、鳥居淳一 、村上信五
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、愛知県厚生連安城更生病院
3)
愛知県厚生連江南厚生病院
10)
耳鼻咽喉科8)、豊橋市民病院
耳鼻咽喉科9)、
10)
耳鼻咽喉科
中耳鼓室内へのステロイド投与療法は、慢性・急性中耳炎に対する治療として本邦の診療報酬に収録されている治療法で
ある。また、突発性難聴に対する治療として国内外で広く利用され、近年はメタアナリシスでもその有効性が報告されてい
る治療法である。一方で、顔面神経管には70%程度の確率で組織学的な列隙が、10%程度の確率で肉眼的な骨欠損が生じて
いるとされる。鼓室内へ投与されたステロイドはこれらの顔面神経管の骨欠損部から顔面神経管内に浸潤し、神経外膜に存
在する血管系、あるいは単純拡散により顔面神経に対して、局所的な作用が期待できる可能性がある。今回われわれは、顔
面神経麻痺に対して、通常の経口メチルプレドニゾロンによるステロイド治療、バラシクロビルによる抗ウイルス薬治療に
よる標準的治療に加えて、鼓室内デキサメサゾン投与を行い、その治療効果を検討したので報告する。
282
ウイルス性顔面神経麻痺に対する顔面神経減荷術の検討
―術中神経モニタリングによる検討を中心に―
○南方寿哉1)、村嶋明大2)、勝見さち代1)、稲垣
彰1)、村上信五1)
名古屋市立大学大学院医学研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学1)、名古屋市立東部医療センター2)
当科では顔面神経減荷術施行時に NIM を使用した顔面神経の術中モニタリング行っている。ウイルス性顔面神経麻痺患
者で1998年10月以降に当科で顔面神経減荷術を施行した症例で術中モニタリングを行った症例は54例であった。うち術中の
4点)であった。一方で通常刺激では
NIM 刺激で顔面神経の反応を認めた症例は11例で治癒率は80%(平均最終スコア37.
反応を認めないが NIM の反応閾値を下げた際に顔面神経の反応を認める症例もあり、計12例認め、その治癒率は33%(平
3点)であった。一方、術中 NIM 刺激で反応を全く認めなかった症例は31例で治癒率は34.
4%(平均最終
均最終スコア31.
3点)であった。術中 NIM の反応を認めなかった群、閾値低下で反応を認めた群でも早期から麻痺の回復を認め
スコア31.
る症例も認めた。そこで今回われわれは NIM による顔面神経の反応の有無と予後、予後に影響を与える因子等につき検討
を行った。当科で施行した顔面神経減荷術の手術成績と併せて報告を行う。
118―550
283
2015
Bell 麻痺、Hunt 症候群における減荷術所見―顔面神経管の骨欠損と神経浮腫について
○村嶋明大1)2)、南方寿哉1)、稲垣
彰1)、伊地知
圭1)、村上信五1)
1)
名古屋市立大学
耳鼻咽喉・頭頸部外科 、名古屋市立東部医療センター
耳鼻咽喉科2)
Bell 麻痺、Hunt 症候群の主病因はヘルペス科ウイルスの再活性化である。麻痺の病態としてウイルスによる神経炎と顔
面神経管内での浮腫による神経絞扼が考えられている。演者らの施設ではこれまで Bell 麻痺、Hunt 症候群の重症例に対し
て積極的に顔面神経減荷術を施行してきたが、その際、骨性の顔面神経管から神経が膨出している症例や骨欠損を有する症
例があることに気付いた。これらの所見は顔面神経の浮腫に起因することが示唆され、顔面神経管の薄い部位や裂隙から神
経が突出し、時間経過とともに腫脹が消退したあとに骨欠損が残ることが推測された。このように顔面神経管を破壊するよ
うな神経浮腫が生じることは顔面神経減荷術の必要性と有用性を示唆するが、顔面神経減荷術の施行時期を考慮する意味で
も神経浮腫の状態と持続期間を知ることは重要だと考える。今回、顔面神経麻痺の病態を知り、減荷手術の有効な期間を検
討するため、手術記録を retrospective に検討し、手術時期と神経浮腫、骨欠損の頻度と部位について検討を行い、文献的
考察と共に報告する。
284
医師不足、女性医師と医局制度
○鈴鹿有子1)、奥野妙子2)、池田美智子3)
耳鼻咽喉科1)、三井記念病院
金沢医科大学
耳鼻咽喉科2)、メディカルコート池田耳鼻咽喉科3)
日本の耳鼻咽喉科医師数は、ここ6年間は増加傾向にあり平成25年は9,
986人で1万人にもうすぐ手が届く。また女性医
2%になった。新入局員は平成10年頃から減少傾向が始まり、臨床研修医制度で激減しその後も減少傾向は続
師の比率は20.
き、平成25年は前年より男子は5人増加し女子は3人減少し214人であった。医師不足は特に大学病院の医師が不足してい
るのである。それはすべて平成16年の臨床研修医制度から始まった。医局員が激減し、地方病院への派遣がままならず、大
学に引き戻すも担当職務の増加に医局から離れていく医師が数を増し医局制度が崩れていった。そこにおける女性医師の存
在はプラスにもマイナスにもなった。最近は卒業後の進路として選択肢が増し、
「大学で研修」が低下の一途、2014年度の
マッチング結果を参照すると、後期研修で大学病院に戻るというキャリアを選ぶ医師が増加傾向にあることがうかがえる。
専門医資格や大学院制度などを踏まえた場合、大学病院の方が有利であると考えることが一因とみられる。いま一度医局制
度のことを検討してみる。
285
全国私立医科大学病院内保育所の経営の現状と課題
○池田美智子1)2)、佐藤美奈子2)3)、小川
メディカルコート
慶應義塾大学
郁4)
1)
池田耳鼻咽喉科 、慶應義塾大学
医学部
医学部
同窓会2)、佐藤診療所3)、
4)
耳鼻咽喉科
第23回全国私立医科大学同窓会連絡会全国会会頭吉野肇一(慶大医同窓会)
、全国私立医科大学病院内保育所整備 WG
[池田美智子(慶大医同窓会)
・野村恭子(帝京大医同窓会)
・佐藤美奈子(慶大医同窓会)
]が、平成26年2月に全国私立医
科大学同窓会連絡会を通じて施行した全国私立医科大学病院内保育所の経営に関するアンケート調査から、その現状を報告
する。私立医科大学病院内保育所設置率は76%(N=29)。保育所の経営・運営とも大学が15%、経営大学・運営業者が
70%、経営・運営とも業者が15%。保育所の収支は保育所の82%が赤字、赤字額は年間平均約2千万円。国の補助金(人件
費に対する補助)を受給している保育所は79%、対人件費補助金率は10%以下。対経費人件費率は70%。女性医師が増加す
る中、女性医師のキャリア継続と向上、活躍が今後の医療には不可欠であり、それを可能にする環境整備が求められる。そ
の一つが、病院内保育所の設置である。しかし、今回の調査によれば、病院内保育所の経営はきわめて厳しい。今後の課題
についても言及する。
286
女性医師支援のための日本医師会の取り組み
○猪狩和子1)3)、鹿島直子2)3)、保坂シゲリ3)
耳鼻咽喉科
北川医院1)、鹿児島市立病院
耳鼻咽喉科2)、日本医師会女性医師支援センター3)
女性医師数は医師総数の約19%であるが、医師国家試験合格者数では女性が32%を占め、医学部入学者数では40%を超え
る大学があり、今後急速に増加していくと予想される。一方、女性医師の活動率は、35歳では男性の89%に対し76%と低
く、妊娠や出産により離職せざるを得ない状況にある。女性医師が継続して働ける環境を整備するため、平成18年、日本医
師会が厚生労働省より「医師再就業支援事業」を受託し、その後「女性医師支援センター事業」となった。この事業を中心
に女性医師支援のための日本医師会の取り組みについて説明する。また、女性医師支援は勤務医の勤務環境改善と直結して
おり、男女共同参画推進へと進まなければならない。本年度、日本医師会主催「第10回
男女共同参画フォーラム∼医療界
における男女共同参画のさらなる躍進に向けて∼」を機に、当センターが大学医学部、医学会、医師会を対象に行った、男
女共同参画の実情についてのアンケート調査結果についても報告する。
118―551
日耳鼻
287
女性医師支援∼医師会と大学との連携∼
○鹿島直子1)3)、猪狩和子2)3)、保坂シゲリ3)
耳鼻咽喉科1)、耳鼻咽喉科
鹿児島市立病院
北川医院2)、日本医師会女性医師支援センター3)
女性医師問題について日本医師会の取り組みが始まって10年になる。平成26年度、日本医師会主催「第10回 男女共同参
画フォーラム」は主題として“医療界における男女共同参画のさらなる推進に向けて∼10年で医療界における男女共同参画
は進んだか∼”を掲げた。医師会、大学、行政それぞれの立場から意見が述べられたが、報告書のまとめに男女共同参画委
員会小笠原真澄委員長は“確かに女性医師の勤務環境は一歩一歩具現化されてはいるが、さらに意思決定部門に参画してい
くには社会全体の意識改革とともに女性医師の覚悟が求められている”と述べている。具体的には 1、環境整備に関する病
院長、管理者の意識改革 2、院内保育施設の充実 3、女性医師の責任と使命の自覚があげられると考える。これら一つ一つ
の解決と支援に関しては、現在多くの現場で大学と医師会が連携して「キャリアー支援」のプログラムを実施しているが、
今回鹿児島県における活動を報告し、考察を加えたい。
288
日本耳鼻咽喉科学会における男女共同参画への取り組み
○木村百合香1)、小林一女1)3)、伊藤真人1)4)、飯野ゆき子1)5)
男女共同参画委員会1)、東京都健康長寿医療センター
日本耳鼻咽喉科学会
耳鼻咽喉科3)、自治医科大学
昭和大学
自治医科大学
さいたま医療センター
とちぎ子ども医療センター
耳鼻咽喉科2)、
小児耳鼻咽喉科4)、
耳鼻咽喉科5)
日本耳鼻咽喉科学会は、平成26年度より「男女共同参画委員会」を新設し、男女共同参画へ向けての取り組みを本格的に
開始した。政府は成長戦略の「三本の矢」の一つとして、
「人材の活躍強化」を掲げており、中でも女性の活躍強化につい
て、結婚・出産後の女性の復職の推進と、指導的地位にしめる女性の割合を30%程度にまで引き上げるという具体的政策目
標を示している。一方、本邦における耳鼻咽喉科医の状況であるが、入局者数は、2004年の臨床研修義務化以降、導入前の
80%程度で推移し総数は減少傾向にある。一方で、女性の入局者数は導入前の1.
2倍に増加しており、女性医師の占める割
合は今後30%強にまで増加することが予測される。従って、男女共同参画は医療水準の維持・向上のためにも、耳鼻咽喉科
医全体として取り組むべき喫緊の課題であるといえる。そこで、今回は、日本耳鼻咽喉科学会および関連する学会に「男女
共同参画」に関するアンケート調査を行い、その結果報告を行う。さらに、本委員会の今後の活動につき紹介する予定であ
る。
289
声帯・気管・食道線維芽細胞に対するステロイドホルモン作用
○椋代茂之1)2)3)、松田賢一2)、西尾健志1)、杉山庸一郎1)、板東秀樹1)、廣田隆一1)、坂口博史1)、久
育男1)、
2)
河田光博
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室1)、
京都府立医科大学
医学部
京都府立医科大学
大学院医学研究科
解剖学教室
生体構造科学部門2)、
京都第二赤十字病院
3)
耳鼻咽喉科・気管食道外科
線維芽細胞はステロイドホルモンの標的である。また組織や臓器によって線維芽細胞の性格は異なる。われわれはステロ
イドホルモンの標的である声帯の線維芽細胞(VFB)とそれに隣接した気管・食道の線維芽細胞に対するステロイドホルモ
、
ンの作用やその機序を検討した。10週齢雄ラットの声帯・気管・食道の線維芽細胞を培養し、アンドロゲン受容体(AR)
エストロゲン受容体 α、グルココルチコイド受容体の発現を比較したところ VFB は AR を最も強く発現した。3種類の線
維芽細胞にテストステロン(T)
、エストラジオール、コルチコステロンを添加するとすべてで細胞増殖が抑制された。細
胞外マトリックスに関連した mRNA(プロコラーゲンⅠ・Ⅲ・エラスチン・ヒアルロン酸合成酵素Ⅰ)の発現はTを添加
した VFB でのみすべて増加した。以上からステロイドホルモンは各臓器の線維芽細胞に受容体を介して作用し、細胞増殖
や細胞外マトリックスの mRNA 発現に影響を与え、特に VFB は隣接臓器に比べ AR を強く発現しているためにアンドロゲ
ンの強い影響を受けている可能性が示唆された。
290
声帯瘢痕化過程におけるマクロファージの働き
○岸本
曜、平野
京都大学大学院
滋、伊藤壽一
医学研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
単球やマクロファージは創傷治癒過程におけるキープレイヤーの一つであり、初期には種々のサイトカインを放出すると
ともに、死細胞やその断片、異物の消化に働き、後期には組織修復に関与する。さまざまな臓器における線維化病変に関す
るこれまでの研究から、単球やマクロファージが創傷治癒、線維化に関与することが知られているが、声帯においてその働
きに注目した報告は少ない。今回われわれは声帯創傷治癒過程におけるマクロファージの発現の経時的な変化につき検討す
るとともに、CD11b 陽性細胞を選択的に減らすことができる CD11bDTR マウスを用いることにより、声帯創傷治癒過程に
おける単球由来細胞の働きを検討した。CD11b 陽性細胞をディプリーションした後に声帯を傷害すると、マクロファージ
は創部で確認されず、また声帯へのコラーゲンの沈着が軽減することが確認された。創傷治癒過程初期のマクロファージが
声帯の瘢痕化に関与している可能性が示唆された。
118―552
291
2015
ラット内喉頭筋における脱神経後のタンパク転写因子に関する研究
○勢井洋史1)、田口亜紀2)、西田直哉1)、羽藤直人1)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、松山赤十字病院
愛媛大学
耳鼻咽喉科2)
内喉頭筋は甲状披裂筋(以下、内筋)
、後輪状披裂筋(以下、後筋)を含む5つの筋で構成され、輪状喉頭筋以外は反回
神経によって支配されている。一側の反回神経が切断されると、内喉頭筋は萎縮し気息性嗄声や誤嚥を来す。近年、筋萎縮
に関する研究が進み、脱神経後の筋タンパク質の分解経路や筋萎縮に関連した転写因子の存在が明らかとなってきた。筋タ
ンパク質分解はユビキチン―プロテアソーム経路が重要な役割を果たすといわれており、その経路には FOXO3a やリン酸
化 FOXO3a(以下、P―FOXO3a)
、PGC―1α といった転写因子が関与し、中でも FOXO3a が特異的にユビキチンリガーゼの
転写を促進し筋萎縮を促進する。一方、PGC―1α はミトコンドリア新生や糖代謝に関与するが、筋萎縮を抑制する機能も持
つ。このような知見は主に四肢筋を対象とした研究から得られた成果であり、内喉頭筋における転写因子の役割については
分かっていない。そこで本研究では脱神経後の内喉頭筋の萎縮と転写因子の関係を探索し新たな知見を得たので文献的考察
を含め報告する。
292
反回神経切断ラットモデルにおける神経再生チューブ(NerbrigeⓇ)の有用性
○鈴木
洋、荒木幸仁、宇都宮一歩、溝上大輔、冨藤雅之、山下
防衛医科大学校
拓、塩谷彰浩
耳鼻咽喉科学講座
NerbrigeⓇ はポリグルコール酸とブタ真皮由来のコラーゲンより構成される国内初の神経再生誘導チューブとして、末梢
神経再建への薬事承認を受け、主に感覚神経における末梢神経断裂・欠損部に対し臨床応用されている。しかし、運動神経
再生における効果については基礎・臨床ともにほとんど報告がなく、今回われわれはラット反回神経切断モデルにおける有
用性の検討を行った。端々吻合群、および神経再生チューブ架橋群(断端間隔 1mm)を作成し、切断15週間後の、喉頭の
観察、形態学的・病理学的評価および電気生理学的評価を行った。両群とも声帯運動の回復は認めず、電気生理学的評価に
おいても有意な差を認めなかったが、形態学的評価では有髄神経線維数の増加と神経線維径の回復を神経再生チューブ群で
認めた。また喉頭筋萎縮は、神経再生チューブ群の方が軽度であった。神経再生チューブ単独では機能改善までは期待でき
ないものの、喉頭筋の萎縮予防、神経再生促進を認め、今後の運動神経再生治療における足場としても有用性が期待できる
と考えられた。
293
内転型痙攣性発声障害の脳機能異常の検討∼健常人の喉詰め発声との比較も含めて∼
○喜友名朝則、新垣香太、比嘉麻乃、真栄田裕行、又吉
宣、安慶名信也、鈴木幹男
琉球大学大学院医学研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座
【はじめに】これまでわれわれは痙攣性発声障害(SD)における脳機能異常に関して functionalMRI を用いて検討を行い
報告してきた。内転型 SD は喉のつまりや震え、とぎれを主訴とした発声障害であるが、脳機能の異常が考えられている。
今回 SD 症例に関して症例数が増加したことや実験タスクやデザインの変更を行ったので報告する。また健常人の喉詰め発
声との違いを検討したので報告する。
【対象と方法】対象は本研究に同意の得られた SD 患者16例で、健常群16例と比較し
た。
【結果】SD 群では健常群と比較し小脳や大脳基底核、視床、感覚運動皮質に脳機能異常を認めた。以前の報告より大
脳基底核(被殻、淡蒼球)
、一次感覚運動野で強い賦活を認めた。SD 群は健常群の喉詰め発声と比較し小脳で強い賦活を
認めた。【考察】症例数が増えても以前の報告と同様な脳領域(小脳や大脳基底核、視床、感覚運動皮質)に脳機能異常を
認めた。SD 群では健常群の喉詰め発声よりも小脳の活動が強くなっていることから、SD の発症に小脳の機能異常が強く
関与している可能性が示唆された。
294
基本周波数を含めた喉頭動画像の記録に関して(第 2 報)
○加納
滋1)、川崎広時3)、
裕之2)、鈴鹿有子3)、三輪高喜3)
1)
加納耳鼻咽喉科医院 、金沢医科大学頭頸部外科2)、金沢医科大学耳鼻咽喉科3)
【はじめに】2013年の本学会において、専用ハードウェアを追加せずに、喉頭の動画像記録と同時に周波数解析を行い、
その結果を基本周波数等の情報とともにリアルタイムに画面表示できることが技術的に可能になったことを紹介した。結果
は画像の一部として動画像内に保存されるため、ストロボ検査画像の再生時には画像・音声と同時にその時々の周波数等も
同時に表示できるようになった。今回は、画面表示内容に関して再検討し追加変更を行ったので報告する。
【目的】周波数
解析のアルゴリズムについてテストデータを用いて結果を再評価し検討を行う。周波数表示に関しては数値以外の表示を同
時に行えるか検討を行う。
【方法】前回同様に既存の画像ファイリングシステム(EZCap、スリーゼット社)を用いて、リ
アルタイム処理可能な内容の範囲を求める。
【考案】ハード・ソフトの進歩により、喉頭・音声検査に関して誰もがより使
いやすい環境が提供できるようになると考えられる。
118―553
日耳鼻
295
発声時のヒト声帯上部呼気流速分布について
○片岡英幸1)2)、福原隆宏2)、有井士郎3)、長谷川賢作4)、北野博也2)
成人・老人看護学講座1)、
鳥取大学
医学部
保健学科
鳥取大学
医学部
感覚運動医学講座
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野2)、鳥取大学
大学院
工学系研究科3)、
日本医科大学
4)
耳鼻咽喉科学教室
【目的・方法】声帯で発生している呼気流速変動と呼気流に含まれる高周波成分はヒトの発声機構を明らかにするために
は重要な要素であると考えられる。そこで、本研究では、ヒトの発声時の呼気流速を、声門上の仮声帯、喉頭蓋、および喉
頭蓋上の高さで計測し、呼気流速と流速変動の周波数成分を求め、その特徴を検討した。
【結果】⑴ 声門を通過した呼気流
の流速は、声門からの距離が増加するとともに流速が低下し、特に、仮声帯上部から喉頭蓋内では急速に低下する。⑵ 呼
気流に含まれる高周波成分の割合は、声門からの距離が増加するとともに急速に低下し、声門上で25%程度含まれている高
周波成分が、喉頭蓋内で約10%、喉頭蓋上の咽頭中部では約5%に低下する。
296
急性喉頭蓋炎音声の物理シミュレーションによる音響学的特徴の同定
○藤村真太郎、庄司和彦、堀
天理よろづ相談所病院
龍介、児嶋
剛、岡上雄介、奥山英晃、小林徹郎
耳鼻咽喉科
われわれが臨床の現場で急性喉頭蓋炎などの危険な咽喉頭狭窄を疑う症候の一つとして、
「含み声」とよばれる特徴的な
音声がある。聴覚印象上その特異な音声は「くぐもった声」などと表現されるが、実際にどのような音響学的特徴を持つの
か、また客観的指標をもってこれを判別することができないか検討した。含み声の特徴を効率よく推測するため、声道モデ
ルを用いた物理シミュレーションにより咽喉頭狭窄音声を合成するソフトウェアを作成し、聴覚印象と周波数領域での特徴
との関連を調べた。その結果「含み声」と認識される音声では通常の母音とは異なり低次のフォルマントが 1,000Hz 付近
に集中し、高次のフォルマントではピークレベルが低下するなどの傾向がみられた。この結果は実際の急性喉頭蓋炎、喉頭
浮腫などの症例からサンプリングした音声の解析結果とも合致しており、
「含み声」の特徴をよく表すものと考えられた。
297
Visual analog scale を用いた聴覚印象評価の試み
○溝口兼司1)、畠山博充1)、西澤典子2)、福田
北海道大学
医学部
諭1)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、北海道医療大学
心理科学部
言語聴覚療法科2)
Visual Analog Scale(以下 VAS)は本来、患者自身が痛みの程度をマーキングすることで痛みを明視化して表現する手段
として知られているが、その簡便さからさまざまな評価に応用されており、音声評価に VAS を用いる報告も散見される。
聴覚印象による音声評価は日本音声言語医学会により提唱されている GRBAS 尺度が主として使用されてきたが、症例によ
り患者の満足度との相関が得られない場合もある。今回われわれは、複数の検者による VAS スコアのばらつきと、その有
用性および問題点について検討した。評価材料は4疾患群(声帯麻痺、痙攣性発声障害、炎症性疾患、ポリープ・結節など
器質的疾患)およびコントロール群各4症例、合計20症例の音声サンプルとした。検者は音声疾患を専門とする耳鼻咽喉科
専門医、音声領域を専門とする言語聴覚士、後期研修医(医師3年目)
、医学生の4群としている。上記評価によって得ら
れた結果から、今回はそれぞれの VAS スコアの検者間、疾患群間での相同性を順位検定等により解析し、VHI 等との比較
を加え、その結果について報告する。
298
声帯振動様式と体壁振動の関係から考える声区について
“声区概念混乱を解決するボイスマップ”
○斉田晴仁1)2)4)、斉田正子2)3)
さいだ耳鼻咽喉科クリニック1)、ヴォイステック音声研究所2)、日本大学芸術学部音楽科3)、昭和大学耳鼻咽喉科4)
【はじめに】スペイン人の声楽教師の M. Garcia(1805∼1906)は、声区とは同一の喉頭調節によって発声される同じ音
色の音域と定義している。現在もこれに従い声区を考え、地声、裏声など声帯振動様式に基づく分類があるが、この中で胸
声、頭声という言葉が使われることがある。これは、声帯振動様式による分類と体壁振動による分類の判定を一元化したた
めで、それぞれ分けて検討する必要がある。
【方法】声帯振動様式を EGG で調べながら、同時に体壁振動を振動ピックアップ端子を用い前頭部、鼻根部、前胸部等
につけ、喉頭の位置と音声をビデオでモニターしながら種々の発声を行い両者の関係を調べる。
【結果】同じ声帯振動様式でも声道形態により体壁振動に変化が起きる。呼気と喉頭調節の関係はボイスマップ E―L、喉
頭と声道調節の関係はボイスマップ L―V で表し両者ですべての発声状態が表示可能である。前者では、声帯振動様式から
考える声区を、後者では喉頭と声道調節から起こり得る体壁振動分布を推測可能である。これらは発声指導や声区の理解に
役立つ。
118―554
299
2015
反回神経即時再建の手術後に生じた発声障害
○福家智仁、山田弘之、福喜多晃平、金児真美佳、杉山智宣、上田航毅
伊勢赤十字病院
頭頸部・耳鼻咽喉科
甲状腺手術時に反回神経を合併切除した場合、反回神経即時再建することで、麻痺側声帯の萎縮を予防し、術後の音声も
おおむね良好であると報告されている。今回、反回神経即時再建例で、術後非麻痺側の声帯過内転による音声障害が疑われ
た例を経験したので報告する。症例 : 75歳男性。嗄声を訴え近医を受診したところ、右反回神経麻痺を指摘され、精査にて
甲状腺乳頭癌(T4aN1aM0)の反回神経浸潤と判明した。2011年7月に甲状腺右葉切除術、反回神経合併切除術、頸神経ワ
ナによる神経即時再建を施行した。術後 MPT は14秒と改善したが、嗄声の残存を自覚していた。音響分析では PPQ、
APQ、NHR いずれも異常値であり、聴覚心理的評価は G2R2B0A0S0 とやや粗造性成分が大きかった。喉頭ファイバーで観
察したところ、患側声帯の萎縮はみられなかったが、健側声帯が過内転しており、嗄声の一因と考えられた。口演では過内
転の原因について検討したい。
300
当科外来における反回神経麻痺に関する検討
○吉川沙耶花、中島正巳、上條
埼玉医科大学病院
篤、関根達朗、和田伊佐雄、池園哲郎、加瀬康弘
耳鼻咽喉科
嗄声を主訴に耳鼻咽喉科を受診する患者は少なくなく、その原因として反回神経麻痺は重要である。しかし、外来におけ
る喉頭ファイバーで反回神経麻痺を認めた場合、どの程度の緊急性をもってどの程度の精査を進めるべきか苦慮することも
多い。反回神経麻痺を来す疾患は多岐にわたり、咽喉頭疾患はさることながら、反回神経の走行に一致した部位に発生する
甲状腺疾患、食道疾患、肺疾患、心疾患などに起因する場合もある。中には生命予後が不良であるものや緊急性を要するも
のも含まれるため、迅速かつ的確な診断を要する。今回われわれは、当科一般外来にて経験した患者の中で、嗄声を主訴に
受診しその後の精査で重篤な原因疾患が見つかった症例について検討を行った。嗄声患者の診断、精査における注意点や問
題点について、実際の症例を紹介し報告する。
301
一側喉頭麻痺例におけるハイスピードデジタル画像法を用いた
起声から終声までの声帯振動の観察
○金子賢一、渡邊
長崎大学
毅、坂口功一、高橋晴雄
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
ストロボスコピーによる喉頭麻痺例の声帯振動観察時に、ストロボ光に同期しない、または同期しても二重声の出現とと
もに同期しなくなる例に遭遇する。起声から終声までの一連の発声中に、一側喉頭麻痺例における声帯振動がどのように変
化するかを、個々の振動を直接観察できるハイスピードデジタル画像法によって調べた。対象は一側喉頭麻痺11例(傍正中
位9例、中間位2例)で、経口的に硬性鏡を挿入し話声位で「エー」と発声した際の声帯振動をハイスピードデジタルカメ
000または 4,
000fps で記録し、同時に音声も記録した。結果は、5例で振動数の左右差を認め、うち
ラ HiSpec1 を用いて3,
3例では左右差がないときとあるときがみられた。振動数に差があるものでは、一側が他側の2倍である例、数周期毎に位
相が一致する例(たとえば一側が7振動、他側が8振動毎に)のように一定のパターンを繰り返す準周期的なものと、一定
のパターンがない非周期的なものがあった。一側喉頭麻痺例では一連の発声の間にも声帯振動の状態が変化するものがあ
り、評価の際には注意を要する。
302
片側声帯麻痺における健側披裂軟骨の過内転―3DCT における新しい知見
○櫻井恵梨子1)、平松宏之2)、渡嘉敷亮二3)、本橋
東京医科大学
1)
玲1)、許斐氏元1)、豊村文将1)、野本剛輝1)、鈴木
2)
衞1)
3)
耳鼻咽喉科学教室 、平松耳鼻咽喉科医院 、新宿ボイスクリニック
片側声帯麻痺において発声時に健側披裂軟骨が過内転する症例がある。健側披裂軟骨の過内転は喉頭機能を代償するもの
ではなく、生理的な運動であると分かっているが、その頻度については報告が少ない。今回、われわれは健側披裂軟骨の動
きについて検討した。2005年8月より2014年12月までに当院音声外来を受診した片側声帯麻痺(不全麻痺も含める)症例を
対象とした。全例で発声時の 3DCT を行い、健側披裂軟骨の過内転の有無とその頻度を調べた。マルチスライス CT(64
列)で、撮影時間は約1秒。音声外来で診療を行う医師が必ず同伴し、撮影した。喉頭腔、披裂軟骨、輪状軟骨を三次元構
築した。発症早期に 3DCT を行った症例と手術を行った症例において検討した。ほぼ全例で発声時に過内転の所見が得ら
れた。
118―555
日耳鼻
303
一側性反回神経麻痺に対する「腹式呼吸を重点に置いた音声訓練」の治療経験
威志1)、文珠敏郎2)、本間博友1)、矢内
○楠
彩1)、城所淑信1)、日比谷怜美1)、矢部鮎美1)3)、藤巻充寿3)、
3)
池田勝久
順天堂大学
医学部附属
耳鼻咽喉科1)、文珠耳鼻咽喉科医院
静岡病院
音声クリニック2)、
3)
順天堂大学医学部附属順天堂医院耳鼻咽喉科・頭頸科
【目的】一側性反回神経麻痺に対しては、以前に発表した「腹式呼吸を重点に置いた音声訓練」を施行した。今回、その
治療成績および症例を提示する。
【方法】われわれが考案した簡易音声訓練法にて腹式呼吸を会得させ、腹式呼吸に合わせ
て声帯に力をかけないように発声訓練をさせた。その内容を記載した説明書を手渡し、自宅でも音声訓練をさせた。
【結
果】一側性反回神経麻痺に対し、本音声訓練のみを施行した10例中5例に音声の改善を認めた。その症例の中には、本音声
訓練後、患者より噎せ、喀痰の排出の改善したとの報告があった。また、明らか音声改善がみられない症例でも、全例声が
出しやすくなったとの報告があった。当科では、著しい反回神経麻痺を伴う症例に対しては、原則、喉頭枠組み手術を勧め
ている。その症例のうち、術後から本音声訓練を施行した2例に肺機能の改善を認めた。
【まとめ】一側性反回神経麻痺に
対して、「腹式呼吸を重点に置いた音声訓練」により、症例によっては、音声のほか誤嚥防止、肺機能改善まで効果を及ぼ
す可能性が示唆された。
304
喉頭乳頭腫患者の喀痰、喉頭分泌液における HPV 検査
○平井良治1)2)、牧山
清2)、松崎洋海2)、鈴木啓誉2)、石井崇平2)
東京都立
耳鼻咽喉科1)、日本大学病院
広尾病院
耳鼻咽喉科2)
【はじめに】喉頭乳頭腫における喀痰、喉頭分泌液を含めた HPV 感染の有無に関しては不明な点が多い。今回、喉頭乳
頭腫患者の喀痰、喉頭分泌液に対して HPV の検討を行い検討した。
【対象】2006年8月から2014年10月までの期間に、駿
【方法】喉頭乳頭腫の組織における HPV 感
河台日本大学病院耳鼻咽喉科を受診した喉頭乳頭腫症例25症例を対象とした。
染の有無を、液相ハイブリゼーション法(Low Risk 群)もしくは HPV―PCR 法で検討した。喀痰、喉頭分泌液に対しても
液相ハイブリゼーション法(Low Risk 群)で検討した。
【結果】25例中全例で腫瘍組織から検査を行い、HPV 感染陽性例
9%)が
が17例、陰性が8例であった。17例の HPV 陽性患者中9例に対し喉頭分泌液について検査した。9例中8例(88.
5%)が陽性であった。
陽性であった。14例の HPV 陽性中11例に対し喀痰の検査を行った。5例(45.
305
喉頭乳頭腫に対する HPV 予防ワクチン注射―第 1 報 : 注射前後の抗体価―
清1)、平井良治2)、松崎洋海1)、高根智之1)、鈴木啓誉1)、石井崇平1)、大内俊孝1)、木村優介1)、
○牧山
森田優登1)、工藤逸大1)
日本大学病院
耳鼻咽喉科1)、東京都立広尾病院
耳鼻咽喉科2)
【はじめに】喉頭乳頭腫組織中 HPV―DNA 陽性患者は手術後再発を繰り返す。また、周囲正常粘膜からも HPV―DNA が検
出される。手術後に粘膜が再生するまでの時期は易感染性があり、周囲正常粘膜に潜伏感染している HPV が術部に再感染
するという機序が推測される。ガーダシル注射により喉頭粘膜に HPV 抗体が存在すれば術後の再発が抑制できる可能性が
9歳の HPV 陽性喉頭乳頭腫の男性12例にガーダシル注射を3回施行した。注射前と
ある。【方法】32歳から74歳、平均47.
【結果】注
注射開始7カ月後に血清中 HPV―6、11、16、18 の抗体価を cLIA 法で測定した。測定は米国 PPD 社で行った。
070
射 前 の HPV―6 抗 体 価 は13と 21mMU/mL が 各1例、ほ か は す べ て 11mMU/mL 以 下 で あ っ た。注 射 後 は139か ら 2,
mMU/mL に上昇した。HPV―11 抗体価は1例が 9mMU/mL であったがほかはすべて 8mMU/mL 以下であった。注射後は
137から 1,
600mMU/mL に上昇した。HPV―16、18 も同様に上昇した。
【まとめ】国内外を含めて青年期以降の男性にガー
ダシルを注射した報告はない。中高年においても抗体価が上昇することが確認できた。
306
本邦における喉頭乳頭腫治療の傾向∼アンケート調査から∼
○室野重之、吉田
金沢大学
博、中西庸介、
医薬保健研究域医学系
亮、遠藤一平、近藤
悟、脇坂尚宏、吉崎智一
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】喉頭乳頭腫は頻度の低い疾患であるため、
「一般的な治療は手術」とはいえ、その内容は施設により異なると
思われる。
【目的】本邦における喉頭乳頭腫に対する治療の現状を評価することを目的とした。
【対象と方法】2013年12月に日本国内の医育機関病院(本院のみ)80施設にアンケートを郵送し、FAX による返信を依頼
した。
【結果】56施設(70%)より回答を得た。最もよく行う手術法としては、レーザー手術(50施設)が最多で、cold 手術
、マイクロデブリッダー(16施設)と続いた(重複回答可)
。使用するレーザーの内訳は CO2 レーザーが最も多
(20施設)
く、次いで KTP レーザーであった。また、手術法では切除と蒸散の併用が最多で、次いで蒸散、切除の順であった。
【結論】米国の小児耳鼻咽喉科医(ASPO)や英国の小児耳鼻咽喉科医(BAPO)の報告とおおむね同様であったが、本邦
ではマイクロデブリッダーの使用が少ない傾向であり、また補助療法として漢方薬の使用が特徴的であった。
【謝辞】ご協力賜りました皆様に御礼申し上げます。
118―556
307
2015
素材の違いによる抗酸化剤の有毛細胞保護効果の検討
―ゼブラフィッシュ側線器有毛細胞障害モデルを用いて―
○竹本洋介、広瀬敬信、菅原一真、下郡博明、山下裕司
山口大学
大学院医学系研究科
医学部
耳鼻咽喉科学分野
ゼブラフィッシュの体表面には水流を感知側線器があり、有毛細胞等で構成されており、構造的・生理学的にも酷似して
いる。これは、げっ歯類の内耳が魚類の側線器に由来することによる。最大の利点は、側線器有毛細胞が体表面にあるため
観察が容易である。
一方、現在さまざまな抗酸化物質が市販され、また同じ薬物でも異なる素材がある。例えば、コエンザイム Q10 は脂溶
性であるが、水溶性コエンザイム Q10 が市販されている。そのほかにも還元型コエンザイム Q10 が市販されており、素材
による効果の違いが報告されている。今回われわれは、生後5∼7日目の野生型ゼブラフィッシュを用い、アスタキサンチ
ン、コエンザイム Q10 等の抗酸化剤の素材による有毛細胞保護効果に関する検討を行った。薬剤を暴露した後、ネオマイ
シンで有毛細胞を障害・固定後、免疫染色し標本とした。有毛細胞を数え、コントロール群を100%とした有毛細胞残存率
を評価した。今回使用した抗酸化剤の素材の違いによる有毛細胞保護効果を、若干の文献的考察を加え報告する。
308
膜迷路障害モデルにおける前庭各器官の変化と可塑性について
○許斐氏元1)2)、鈴木
厚生中央病院
衞2)、國場寛子3)、吉濱
1)
耳鼻咽喉科 、東京医科大学
勲3)、大塚康司2)、小川恭生2)、稲垣太郎2)、清水重敬2)、矢富政徳2)
耳鼻咽喉科2)、東京医科大学
電子顕微鏡室3)
(目的)膜迷路障害モデルにおける前庭器の変化を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察する。クプラの形態変化と
併せて、内耳障害後の半規管感覚上皮、暗細胞などの障害様式や可塑性について考察する。
(対象と方法)ウシガエルを用
いて膜迷路障害を作成後1∼28日に内耳を摘出した。クプラを実体顕微鏡で観察したのち、TEM 用の固定を行った。TEM
では、膨大部感覚上皮、暗細胞、卵形嚢などを観察し、内耳障害の変化をクプラの変化と対比して考察した。
(結果)障害
後初期から感覚上皮や暗細胞の障害がみられ、その後は徐々に改善する傾向があった。形態的には、上皮は14日でほぼ修復
されたが、暗細胞は28日を要した。クプラは、数日遅れて変化する傾向がみられ、クプラの再生なども示唆された。障害部
位である球形嚢に近い外側半規管の変化は比較的重度で、遠い後半規管では軽度だった。
(考察)内耳障害モデルでは、上
皮障害の程度や半規管の解剖学的特性によりクプラの変化や再生が影響されると考えた。
309
軽度外傷性脳損傷モデルラットにおいて、脳幹における MMP2 発現は
急性期に相対的に増加する
崇樹1)2)、河田
○乾
大阪医科大学
了1)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、ピッツバーグ大学
耳鼻咽喉科2)
外傷性脳損傷は、交通外傷や兵士の受傷など、頭部への物理的な衝撃により生じる。軽度のものは mild traumatic brain
injury
(mild TBI)と区別され、難聴、耳鳴、平衡障害、頭痛といった症状が高頻度にみられる。病態は不明であるが、脳脊
髄液関門の障害の関与が報告されている。
本研究では mild TBI のモデル動物を用い、脳脊髄液関門の再構築を反映するマトリックスメタロプロテアーゼ2
(MMP2)の発現を評価した。ラットに専用のチャンバーで衝撃を与え、脳組織切片における MMP2 の染色点を受傷から72
時間にわたり評価した。
結果、染色点の数は、受傷後24時間の脳幹において有意に脳全体に占める割合が高く、大きさは受傷後24時間のものが有
意に小さかった。以上から mild TBI において、受傷から72時間以内で、脳の部位により急性期の神経血管系の再構築状態
が異なることが示唆された。
(本研究は米国ピッツバーグ大学耳鼻咽喉科にて、Carey D. Balaban 教授の指導のもと行った)
310
ラット海馬の細胞増殖に対するガルバニック前庭刺激の影響
○佐藤
豪、武田憲昭
徳島大学
医学部
耳鼻咽喉科
【背景】ガルバニック前庭刺激(GVS)は直流電流を用いて前庭神経系を活性化する方法である。両側前庭破壊によりラ
ット海馬の細胞増殖が増加することが報告されているが、GVS がどのように影響するかは明らかでない。本研究では、全
身麻酔下 GVS がラット海馬の細胞増殖と神経新生に与える影響を検討した。
【方法】左 GVS 群、右 GVS 群、Sham 群の3
群に分けた。海馬の細胞増殖を検討するため、GVS 刺激72時間後に細胞増殖マーカーである BrdU を腹腔内投与した。
BrdU と細胞周期S期マーカーの Ki67 および未熟ニューロンマーカーの Doublecortin を用いて免疫組織学的検討を行っ
た。
【結果】GVS 両群は、Sham 群に比べ有意に両側海馬の BrdU 陽性細胞数が減少した。BrdU 陽性細胞の約90%が Ki67
と共発現していたことから、BrdU 陽性細胞は細胞周期にあると考えられた。右海馬の Doublecortin 陽性細胞数は、各群に
有意差はなかったが、左海馬では、左 GVS 群が Sham 群に比べ有意に減少していた。
【結論】本研究から GVS により海馬
の細胞増殖と神経新生が抑制されることが示唆された。
118―557
日耳鼻
311
抗うつ薬慢性摂取動物の空間認知
○下郡博明1)、坂本茉理2)、藤井博則1)、橋本
山口大学大学院
医学系研究科
誠1)、菅原一真1)、山下裕司1)
耳鼻咽喉科学分野1)、山口大学医学部2)
抗うつ薬の作用の一つとして、海馬において CREB と呼ばれる細胞の核の中に存在する可塑性の分子の活性化を介して
BDNF を増加させることで神経細胞新生を促すことが報告されている。BDNF は前庭神経系の発生、維持に深く関与して
いる栄養因子であり、障害発生時に投与することで障害軽減、機能回復に有効に作用するという種々の報告がある。われわ
れはモルモットに塩酸セルトラリンを慢性投与することで、前庭神経系においても障害時に CREB―BDNF 系が活性化され
ること、障害慢性期には振子様回転検査で回転後眼振がより早期に認められなくなることを確認した。抗うつ薬は直接前庭
神経系にも作用する可能性が示唆されたが、抗うつ薬の標的臓器としてよく知られている海馬は空間認知に重要な働きを有
しており、この点では前庭神経系ともかかわりが深い。このたびわれわれはモルモットを用いて、抗うつ薬慢性投与の有無
による歩行、空間認知への影響について検討したので報告する。
312
video Head Impulse Test と VEMP を用いた網羅的前庭機能評価の試み
○阿久津征利、北島明美、三上公志、加藤雄仁、中村
聖マリアンナ医科大学
学、大戸弘人、肥塚
泉
耳鼻咽喉科学教室
末梢前庭の感覚器は3つの半規管と2つの耳石器からなり、両側で併せて10個の感覚器からなる。めまい患者毎に異なる
障害部位を詳細に評価することは、その後の治療方法に有用であると考えられる。今回、半規管の機能評価として、video
Head Impulse Test
(vHIT)を施行した。半規管は従来、温度刺激検査にて評価していたが、温度刺激検査は外側半規管のみ
を評価する検査であり、前半規管、後半規管を評価することができなかった。vHIT を用いることで、各半規管を独立して
評価することが可能となった。また、耳石器の機能評価として、球形嚢の機能を cVEMP にて、卵形嚢の機能を oVEMP に
て評価を行った。前庭神経炎、めまいのある突発性難聴、Ramsay Hunt 症候群、聴神経腫瘍を含む小脳橋角部腫瘍を対象
症例とし、vHIT と VEMP を施行した症例を検討した。文献的考察を加え発表する。
313
Video Head Impulse Test のゲイン計算法の検討
○瀧
正勝1)、忠願寺絵理1)、中村高志1)、長谷川達央2)、坂口博史1)、兵庫美砂子1)、久
京都府立医科大学
1)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室 、綾部市立病院
育男1)
2)
耳鼻咽喉科
Head impulse test は高加速度刺激の前庭動眼反射(VOR)を利用した半規管障害を検出する検査である。VOR ゲインの
正確な計測には従来サーチコイル方式が必要であったが、近年高解像度 video―oculography の発達により、容易に head
impulse test の VOR ゲインを計測可能となった。しかし、いまだに VOR ゲインの計算方法について一定したものはない。
今回当科に受診しためまい患者において EyeSeeCam を用いた head impulse test を行い、過去の報告などにみられる VOR
ゲインの計算方法を比較・検討した。対象は2012年9月から2014年11月に video Head Impulse Test を施行しためまい患者
73名である。ゲインの計算は、頭部回転から 60msec の時点の眼球・頭部速度の比、頭部回転開始後 100msec 間の眼球・頭
部速度の線形フィッティングの比、頭部回転開始後 40∼60msec 間の平均眼球速度・平均頭部速度の比、頭部回転開始から
停止までの眼球・頭部速度の累積和(距離)の比の4つを比較した。さらに少量注水カロリックテスト(20度、5mL)の結
果とも比較した。以上について報告する。
314
耳の形態異常を伴う症例における vHIT を用いた前庭機能評価
○井上智恵1)、新藤
埼玉医科大学病院
晋1)2)、杉崎一樹1)2)、沼倉
1)
茜1)、伊藤彰紀2)、柴崎
耳鼻咽喉科 、埼玉医科大学病院
修2)、水野正浩2)、池園哲郎1)
2)
神経耳科
温度刺激検査は迷路刺激検査の中で最も広く行われているが、外耳道閉鎖や鼓膜穿孔、内耳奇形など耳の形態異常を伴う
症例では適切に半規管を刺激できない欠点がある。video Head Impulse Test
(vHIT)は温度刺激検査とは異なる生理的な回
転刺激で前庭機能を評価できることから、近年、世界的に急速に広まっている迷路刺激検査(機器)である。今回われわれ
は、後天性外耳道閉鎖症や真珠種性中耳炎術後翌日、嚢状半規管など、温度刺激検査で適切な評価が困難と考えられる種々
の疾患・病態を対象として、vHIT による前庭機能評価を行った。その結果、従来の前庭機能検査では得られなかった数々
の知見を得ることができたので、若干の文献的考察とともに報告する。
118―558
315
2015
異常眼球運動の診断的意義について
○木村光宏1)、濱村亮次2)、柴田美智子2)、金築修平2)、堀田優希子2)、青井典明2)、川内秀之2)
耳鼻咽喉科1)、島根大学
島根県立中央病院
医学部
耳鼻咽喉科2)
眼振以外の異常眼球運動として知られているものには、square wave jerks
(SWJ)、transitory alternating saccade(TAS)
、
(FLO)などがある。これらの異常眼球運動の診断的意義について検討した。異
opsoclonus
(OPSP)、flutter―like oscillation
常眼球運動として電気眼振図に記録されていた155例の内、眼球運動制限や MLF 症候群などを除いた上記の異常眼球運動
3歳)
。SWJ が最も多く41例、TAS は21例、ほかの異
は91例(重複例を含む)であった(男性43例、女性44例、平均年齢61.
常眼球運動と重複していたものが13例、OPSO は10例、FLO は4例、その他2例であった。異常眼球運動は小脳障害との
関連で出現すると報告されているが、OPSO、FLO は全例中枢性障害を示唆する所見であった。一方で、SWJ 15例、TAS
4例において末梢性障害症例に認められた。また、例外的に、内耳障害により高頻度小振幅の一過性振子様眼球運動が出現
したと考えられた2症例も確認されている。異常眼球運動のみではなくほかの平衡機能検査所見と総合して慎重に判断する
ことが肝要であると考えられた。
316
耳石器および半規管機能を同時に評価できる新しい偏中心回転検査の開発
○今井貴夫1)、滝本泰光1)、奥村朋子1)、武田憲昭2)、太田有美1)、森鼻哲生1)、猪原秀典1)
大阪大学大学院
医学系研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、徳島大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
回転中心から離れた位置に座らせて回転させる偏中心回転中、被験者には回転刺激のみでなく直線加速度刺激も加わり半
規管動眼反射と耳石動眼反射が誘発される。われわれは偏中心回転中の眼球運動を解析することにより耳石器機能検査の開
発を行ってきたが、従来の方法では半規管動眼反射、耳石動眼反射による眼球運動は共に水平性であるので、両者を分離で
きなかった。頭部を90度前屈させ偏中心回転刺激を加えると、半規管動眼反射による眼球運動は回旋性、耳石動眼反射によ
る眼球運動は水平性もしくは垂直性であるため、両者を分離できる。頭部を90度前屈させ、回転半径 90cm、回転周波数
0.
1、0.
3、0.
5、0.
7Hz、最大角速度50度/秒(0.7Hz では30度/秒)の偏中心回転中の健康成人10名の眼球運動を三次元解
析したところ、回転刺激による回旋性の眼球運動に加え、0.5Hz、0.
7Hz では接線方向の直線加速度に反応する水平性、も
しくは垂直性の眼球運動が出現した。この偏中心回転中に誘発される眼球運動の三次元解析により、半規管機能と耳石器機
能が同時に評価できると考えた。
317
Ewald の法則は本当に正しいのか?
○一條宏明
一條耳鼻咽喉科クリニック
Ewald の法則は、なぜか日本では曲解されており正しくは3つの法則からなる(シュークネヒト)
。すなわち、第1法則 :
一側の単一半規管が刺激された場合、その半規管に平行に眼球運動が生じる。第2法則 : 外側半規管の極性。第3法則 :
後・上半規管の極性。これらの法則がヒトで成り立つかどうかは確かめられていない。今回は第1法則に関して、温度眼振
を解析することで実証を試みたので報告する。
【対象】正常人7例。
【方法】右耳を冷水刺激し、左下頭位→腹臥位→右下頭
位→仰臥位とした。眼振の水平成分、垂直成分、回旋成分の最大緩徐相速度を、山口大方式によるビデオ眼振図によって計
測し3つを結んだ三角形(3成分三角形)を描いた。
【結果】もし第一法則が成り立つのであれば、腹臥位の3成分三角形
と仰臥位のそれは相似になるはずであるが、実際には相似になった例は1例もなかった。
【結論】Ewald の第1法則は必ず
しも成り立たない。なお、温度眼振の発現メカニズムについては YouTube の「耳小骨―静止水圧理論」をご覧いただきた
い。
318
乳突部骨導刺激による外眼筋電位
○小川恭生1)、大塚康司2)、稲垣太郎2)、清水重敬2)、永井賀子2)、井谷茂人2)、田村理恵2)、河野
東京医科大学
八王子医療センター
耳鼻咽喉科1)、東京医科大学
耳鼻咽喉科学
淳2)、鈴木
衞2)
分野2)
はじめに : 前庭誘発筋電位(ocular vestibular evoked myogenic potential : oVEMP)は、気導または骨導刺激によって外
眼筋に誘発される対側優位の反応である。骨導刺激は通常、前額部正中(Fz)に振動刺激をえるが、今回われわれは Fz に
加え、両側乳突部に骨導刺激を加え、反応波形の潜時を計測した。対象 : 聴神経腫瘍患者10例を対象とした。いずれの症例
も患側耳の反応はなく、健側耳由来の反応波形を計測した。刺激後最初の陰性波を n1、その後の陽性波を p1 とし潜時を計
測した。結果 : Fz 刺激では n1 の平均潜時は 10.
36ms、p1 潜時は平均 14.
77ms であった。健側乳突部刺激では、n1 平均潜
時は 10.
80ms、p1 潜時は平均 14.
82ms であった。患側乳突部刺激では、n1 平均潜時は 9.
71ms、p1 潜時は平均 14.
20ms で
あった。考察 : 乳突部骨導刺激は、刺激側より対側の内耳をより強く刺激すると考えられた。今後、乳突部刺激を加えるこ
とにより、より詳細な耳石器機能評価が期待される。
118―559
日耳鼻
319
視覚フィードバックを利用した体平衡機能について―その 2 ―
―サークルの大きさを変化させての検討―
○吉田友英、山本昌彦、戸塚華子、田中稔丈、池宮城芙由子、鈴木光也
東邦大学
医学部(佐倉)耳鼻咽喉科
【はじめに】Body Tracking Test
(BTT)の中の視覚フィードバック法を用いてモニター上に示されるサークル内に重心位
置を保持させる機能を、サークルの大きさを変えて評価した。
【対象と方法】対象は、20∼30歳代の健常人29名と60∼75歳の健常人24名である。モニター上に表示されるサークルの中
に被検者の重心位置を維持するように姿勢コントロールすることを指示した。サークルの大きさは直径 1.5、2、2.5、3cm
に設定し比較した。被検者は封筒法で検査順序を選択した。
【結果】総軌跡長・外周面積はサークルの大きさを変えても有意な差はみられなかった。20∼30歳代、60∼75歳の健常人
共にサークル内に入るサンプリング点の保持率は、サークルが大きくなると有意に高くなったが、2.5cm と 3cm には有意
差を示さなかった。
【考察】姿勢保持機能は、サークルが大きくなると安定したサークル内維持は可能であるが、小さい場合のような機能変
化をみることができなくなる。このため、視覚による姿勢制御維持機能評価は 2.5cm のサークルで行うことが適当と考え
た。
320
NIRS―SPM を用いた自己回転感覚に対する大脳皮血流応答領域の検討
○高倉大匡、将積日出夫
富山大学
大学院
医学薬学研究部
耳鼻咽喉科頭頸部外科学
近赤外線分光法(NIRS)は、波長の異なる近赤外線を頭皮上から送光し、大脳皮質表面の酸素化ヘモグロビンと還元ヘ
モグロビンによる吸光度の違いから脳血流量の変化を測定する方法である。従来 NIRS の解析において、被験者毎に頭部の
大きさや測定プローブの位置が異なることから、グループ解析を行う上で制限があった。NIRS―SPM は、MATLAB 上で動
くフリーソフトウエアで、fMRI の統計解析ソフト SPM
(Statistical Parametric Mapping)の NIRS 版である。被験者毎の異
なる脳の大きさと形状を標準脳に変換し、解析結果を標準脳上の共通座標上に表示することで、個人解析に加えグループ解
析が可能となること、一般線形モデルを用いた統計的解析を行うため、刺激に対する反応の大きさに影響されにくい、など
の特徴がある。今回われわれは、全頭型 NIRS 測定装置で記録された視運動性眼振検査および温度刺激検査中の自己回転感
に対する大脳皮質血流応答を、NIRS―SPM を用いて解析したので報告する。
321
足圧中心動揺のマルチフラクタル解析∼めまい臨床への適用∼
○青木光広1)、浅井雅幸3)、久世文也2)、水田啓介2)、伊藤八次2)
岐阜大学医学部附属病院
医療情報部1)、岐阜大学医学部
耳鼻咽喉科2)、岐阜県総合医療センター
耳鼻咽喉科3)
静止立位時の自発性動揺は姿勢制御系の機能的状態であり、内在する姿勢制御システムが存在していることを意味する。
重心動揺検査で通常用いられる平均速度などの要約統計量のみで姿勢制御系機能を評価することは難しい。そこで、足圧中
心動揺のフラクタル性(自己相似性)から姿勢制御系機能を評価する方法として、モノフラクタル解析が行われてきた。し
かし、足圧中心動揺(COP)の時系列信号は異なるフラクタル次元が分布するマルチフラクタルな構造を有することが分
かってきた。そこで、70歳以上の高齢めまい症例50名の COP 時系列信号から、ウェーブレット変換に基づく多重解析によ
り、マルチフラクタルスペクトル曲線を求め、Hurst 指数(規則性の程度を示す)を推定した。Dizziness Handicap Inventory
スコアと左右方向 COP 時系列信号の Hurst 指数との間に有意な正の相関がみられた。COP の外周面積や平均速度と DHI
スコアとの相関はなかった。この結果より、マルチフラクタル解析は難治性めまい症例の客観的指標として臨床適用できる
可能性が示唆された。
322
ラバー負荷重心動揺検査における健常者の周波数特性変化
○堤
剛1)、杉本裕彦2)、杉木 司2)、田中
是2)、菊地
茂2)
東京医科歯科大学1)、埼玉医科大学総合医療センター 耳鼻咽喉科2)
重心動揺検査にフォームラバーによる体性感覚外乱を負荷することで前庭障害の診断能が向上し、藤本らによれば評価の
パラメータとしてはラバーロンベルグ率と閉眼ラバー比が優れ、パワースペクトル上は閉眼・ラバー負荷により 0.
1∼1Hz
でのパワーの増大が大きい。今回健常者のラバー負荷下の特性検討のため外部出力データからの FFT 法および機器内部
MEM 法処理データによりスペクトルデータを得て、時田らの提唱するべき乗モデルによるフィッティングを 1Hz 以下と以
上で分けて行った。その結果、ラバーでの体性感覚外乱負荷により特に0.
1から 2Hz 付近でのパワースペクトルの増大とべ
き乗モデル(y=axˆ−b)からの乖離を認め、定数aの増大とスケーリング指数−b の増大がみられた。ラバー負荷により
体性感覚を用いた動揺の微細さが失われ大きな動揺が増えると解釈できる。この大きな動揺による動揺のコントロールはラ
バー下での体性感覚によるものと前庭覚によるものの寄与を考えた。
118―560
323
2015
中咽頭癌の治療を契機に尿崩症を診断された一例
○佐野
塁、中村紗矢香、佐藤栄祐、安藤
中部労災病院
篤
耳鼻咽喉科
中枢性尿崩症とは口渇、多飲、多尿が出現する疾患でありその原因としては抗利尿ホルモンの視床下部神経核での合成障
害、視床下部から下垂体への軸索輸送障害、下垂体後葉からの分泌障害などがある。今回われわれは中咽頭癌の治療を契機
に尿崩症を診断された症例を経験したので報告する。症例は68歳女性、右頸部腫瘤を主訴に当科受診し検査の結果右扁桃原
発中咽頭癌 Lymphepithelial carcinoma T2N1M0 と診断された。治療として中咽頭切除、右頸部郭清、遊離前腕皮弁再建術
が施行された。術後経過は良好であったが術後5日目に 169mEq/L と高ナトリウム血症を認めた。意識障害やショックは
認めなかった。点滴にて治療した結果高ナトリウム血症は改善された。口渇と多尿、尿浸透圧の低下を認めたため内科にて
精査したところ中枢性尿崩症と診断された。デスモプレッシン点鼻にて治療を開始した後は口渇が改善し、多飲多尿も改善
しその後血清ナトリウム値も安定した。頭部 MRI では器質的異常を認めなかった。術後経過は良好で術後23日目に退院と
なった。
324
シスプラチン使用後に Renal salt wasting による著しい低ナトリウム血症を来した
中咽頭癌症例
○藤川太郎、白倉
聡、畑中章生、岡野
埼玉県立がんセンター
渉、得丸貴夫、山田雅人、別府
武
頭頸部外科
癌治療において低ナトリウム血症はしばしば遭遇する電解質異常であるが、原因は多岐にわたり鑑別と治療に苦慮するこ
とがある。55歳男性の中咽頭側壁癌(cT4aN0M0)症例に対しシスプラチン(CDDP)を用いた化学放射線同時併用療法を
行い、治療中に3回の著しい低ナトリウム血症を経験したので報告する。初回および2回目の低ナトリウム血症は CDDP
が投与されてから約2週間後に出現した。経口摂取不十分であるにも拘らず著明な口渇と多尿を伴い、輸液と塩分の補充に
より約1週間で回復した。一方、3回目の低ナトリウム血症は経過中に合併した大腿骨頸部骨折の術後に出現した。脱水の
所見はなく、輸液で低ナトリウム血症は増悪し、中止とともに改善した。いずれの場合も SIADH の診断基準を満たした
が、前者は脱水とナトリウムの尿中過剰排泄があることから Renal salt wasting
(RSW)と考えられた。CDDP 投与による
RSW の発症頻度は1∼10%とする報告もあり、癌治療における低ナトリウム血症では常に細胞外液量の正確な評価と適切
な輸液治療を行うべきであると考えられた。
325
放射線性骨壊死症例の検討
○寺田友紀1)、宇和伸浩1)、佐川公介1)、毛利武士1)、野口一馬2)、冨士原将之3)、土井啓至4)、阪上雅史1)
兵庫医科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、兵庫医科大学
明和キャンサークリニック
3)
歯科口腔外科2)、
放射線治療科 、兵庫医科大学
放射線科4)
【対象】2000年1月から2012年12月までに当院で放射線治療を行った頭頸部癌症例は672例であった。同期間内に放射線性
骨壊死を来した13例を対象とした。初回の放射線治療は当院で行った症例が10例、他院で炭素線治療を行った症例が3例で
【結果】放射線性骨壊死症例13例の部位は、下顎骨
あった。対象症例の観察期間は13∼95カ月(中央値25カ月)であった。
壊死6例、硬口蓋3例、上顎骨壊死2例、頭蓋底骨壊死2例であった。頭蓋底骨壊死2例はいずれも上咽頭癌再発に対し、
追加照射を行った症例であった。骨壊死の発症時期は、放射線治療後4カ月∼8年で、1年以内が4例、5年以上が2例に
認められた。抜歯や歯周炎など骨壊死発症のきっかけが明らかな症例は4例であった。治療は、局所的な処置による保存的
治療が6例、保存的治療と高気圧酸素療法の併用が5例、手術(下顎骨区域切除、腓骨皮弁再建)が2例であった。骨壊死
後の転帰は、治癒が5例、治療中が7例で、頭蓋底広範囲壊死を生じた1例は、脳膿瘍のため死亡した。
326
頭頸部領域における陰圧閉鎖療法のコツと工夫
○上薗健一1)、吉田
九州大学病院
聖1)、門田英輝2)、中島寅彦1)、小宗静男1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、九州大学病院
形成外科2)
【目的】四肢・体幹の開放創に対する陰圧閉鎖療法の有効性は多く報告されているが、凹凸のある頭頸部では創の密閉が
困難であり、一般化していない。われわれは頭頸部領域にも積極的に陰圧閉鎖療法を行っており、その成績と施行時の工夫
について述べる。
【対象】2014年4月から9月まで頭頸部に陰圧閉鎖療法を行った14回(10例)を対象とした。適応疾患は
術後離開創6回、植皮・PAT
(perifascial areolar tissue graft)の固定5回、植皮・皮弁の部分壊死による皮膚欠損2回、術
後リンパ瘻1回。8例で放射線治療の既往があり、平均線量 57.
6Gy。【結果】リークによる使用中止は認めず、装着期間は
1日。創感染のため使用を中止した2回以外は良好な創傷治癒を認めた。植皮を施行した4回における生着率は平均
平均12.
85.
8%。【考察】頭頸部では創傷被覆材等を利用した凹凸部の平坦化および気管孔などの遊離縁との遮断が重要であった。
放射線照射後の創傷でも良好な創傷治癒を得られており、積極的適応になる可能性が有ると思われた。
118―561
日耳鼻
327
PCPS 使用下に気道確保を行い、腫瘍摘出を行った気管原発の腺様嚢胞癌症例
○吉田季来、前谷俊樹、山下
公益財団法人
田附興風会
勝、北田有史、古田一郎、金井理絵、西田明子、金丸眞一
医学研究所
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
44歳男性。半年間、時々呼吸苦を認めるも放置していたが急に鼻閉と呼吸困難感が増強し、救急部を受診。身体所見、胸
部レントゲン所見共に明らかな異常所見を認めず当科受診。喉頭ファイバー所見では明らかな咽頭喉頭腫瘍や喉頭痙攣など
の上気道狭窄所見を認めなかった。しかし吸気性喘鳴を認め胸部 CT を施行したところ気管分岐部より 8cm 程度頭側、第
2∼4気管輪に気管を90%程度占拠する 15mm 大の腫瘍を認めた。挿管および気管切開が困難な部位と判断し、PCPS 挿入
下にファイバー下挿管を行い、人工呼吸管理のもと気管切開、腫瘍摘出および気管形成術を施行した。術後経過は良好で永
久病理結果は腺様嚢胞癌の診断であった。気管原発の腺様嚢胞癌で、気道確保のために複数科の協力のもと腫瘍摘出を行っ
た症例について報告する。
328
Supraclavicular transverse cervical artery flap を用いた頭頸部再建
○門田英輝1)、田中俊一郎2)、江島正義2)、齋藤雄一2)、佐藤晋彰3)
九州大学病院
形成外科1)、北九州市立医療センター
耳鼻咽喉科2)、山口赤十字病院
耳鼻咽喉科3)
Supraclavicular transverse cervical artery flap を用いた再建例について報告する。症例1は87歳女性、皮膚浸潤を伴う感
染性頸部腫瘤にて摘出術を施行、5×4cm の頸部皮膚欠損が生じた。10×4cm の本皮弁にて皮膚欠損を再建、皮弁は全生着
した。症例2は75歳男性、声門下癌術後局所再発にて再発腫瘍摘出術を施行、咽頭前壁に 6×3cm の粘膜欠損を生じた。
9×4cm の本皮弁で咽頭前壁を再建した。術後透視で瘻孔を認めず、術後8日目より経口摂取可能となった。本皮弁は頸横
動脈を栄養動脈とする鎖骨上窩の皮弁で、特徴は頸部皮膚と color match、texture match が良好なこと、皮弁採取部が目立
ちにくいこと、比較的簡便に挙上可能なこと、頭頸部疾患例において頸部の操作だけで手術が完結できること等が挙げられ
る。一方、頸横動脈の伴走静脈は非常に細く、皮弁の drainage vein として外頸静脈が必要になることが多い。本皮弁は中
等度までの頸部皮膚・粘膜欠損に対応可能であり、大胸筋皮弁や DP 皮弁に替わり得る有用な有茎皮弁と考える。
329
遊離腓骨皮弁による下顎再建の検討
聖1)、上薗健一1)、門田英輝2)、小宗静男1)
○吉田
九州大学
耳鼻咽喉科1)、九州大学
形成外科2)
【目的】腓骨皮弁は長い直線状の骨を採取可能で、血管茎を長く確保でき、インプラントが可能であるため下顎再建の材
料として広く使用されている。しかしながら手技の煩雑さ、手術時間、合併症、予後の問題から再建プレートによる下顎再
建を選ぶ場合もある。今回われわれは当科における遊離腓骨皮弁による下顎再建症例を検討し、若干の考察を加え報告す
る。【方法】2010年10月より2014年10月までの4年間九州大学病院およびその関連施設において腓骨皮弁による下顎再建を
。疾患は口腔癌23症例、放射線性下顎骨壊死7症例、下顎骨腫瘍4症
行った35症例を対象とした。平均年齢60歳(31∼82)
例、顎下腺癌1症例であった。
【結果】術後合併症は11症例(31%)に認められ、その内訳として頸部感染9症例、採取部
治癒遅延5症例、皮弁壊死1症例、嚥下障害1症例、足趾拘縮1症例であった。
【結論】軽度の感染においても抜去を要す
再建プレートに比べ、腓骨皮弁による下顎再建は高齢者においても比較的安全に行うことが可能な有用な再建方法と考えら
れる。
330
75歳以上の頭頸部癌患者に対する遊離組織移植を含む根治手術の成績
○横島一彦、中溝宗永、稲井俊太、酒主敦子、加藤大星、粉川隆行、大久保公裕
日本医科大学
医学部
耳鼻咽喉科
[はじめに]超高齢社会になった本邦では高齢頭頸部癌患者が増加しており、その対応が問題になっている。原発巣や頸
部の制御に優れた手術が重要な治療法であるが、手術侵襲の大きさを危惧する意見もある。今回、われわれが行った高齢者
の頭頸部癌に対する大規模手術の成績を検討し、周術期の注意点を検討した。
[対象]2003年から2013年までの11年間に遊
離組織移植による再建術を含む手術を施行した、75歳以上の頭頸部癌患者25例(下咽頭/口腔/中咽頭=13/9/3)を対象
8歳。男性20例、女性5例であった。
[結果]下咽頭癌症例は全例に下咽頭喉頭全摘出術が行われ、
にした。平均年齢は78.
1例で原因不明の心臓死があったが、ほか12例では大合併症を認めなかった。中咽頭/口腔癌症例では、1例で皮弁全壊死
を生じた。術創治癒直後に経口摂取を開始できたのは1例のみであった。4例で誤嚥性肺炎を生じた。3例は退院時に胃瘻
栄養が主であり、内1例は誤嚥性肺炎で死亡した。
[考察]高齢患者には術後の嚥下障害が深刻であり、術式の決定に際し
て詳細な検討を要すると思われた。
118―562
331
2015
当科で経験した副甲状腺嚢胞 8 例の検討
○岡村
純、石川竜司、野田和洋、大久保亜季、中安一孝、美馬勝人、三澤
浜松医科大学
清、峯田周幸
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【背景】副甲状腺嚢胞は比較的まれな疾患であり、甲状腺嚢胞との鑑別に迷うことがある。副甲状腺機能亢進症を伴う機
能性嚢胞と伴わない非機能性嚢胞に分類することができる。今回当院で経験した副甲状腺嚢胞8例につき報告する。
【対
。【結果】1例が機能性副
象】過去7年で当科が経験した副甲状腺嚢胞8例。男女比3 : 5、平均年齢は55歳(30歳∼78歳)
甲状腺嚢胞、7例が非機能性嚢胞であった。嚢胞の大きさは平均 30mm(12mm∼50mm)。全例で FNA が施行され、非機
能性嚢胞からは全例無色透明な液体が確認された。一方機能性嚢胞からは褐色の液体が得られた。非機能性嚢胞の嚢胞液中
000(pg/mL)と特に高値だった。非機能性嚢胞
の iPTH は平均450(pg/mL)であったのに対して機能性嚢胞の1例は990,
の2例と機能性嚢胞1例に摘出術が行われた。
【考察】穿刺液中の iPTH 測定は鑑別に有用であり、さらには内容液の色調
でも機能性か非機能性かが鑑別可能と思われた。比較的まれな病態だが特発性頸部出血の原因であるとの報告も散見される
ため、取り扱いには慎重を要すると思われた。
332
当科における原発性副甲状腺機能亢進症手術例の検討
○梶本康幸、四宮
神戸大学
瞳、小松弘和、山下大介、大月直樹、丹生健一
医学部附属病院
耳鼻咽喉科頭頸部外科
【はじめに】原発性副甲状腺機能亢進症(以下、PHPT)に対する術式は、局在診断の向上に伴い、病的副甲状腺のみを
摘出する Focused parathyroidectomy が主流となっている。今回、われわれは PHPT 手術症例につき臨床的検討を行った。
【対象と方法】過去8年間の PHPT 手術症例19例を対象に、臨床的特徴、局在診断法、術前後の血清 Ca 値および intact―PTH
(以下、iPTH)値、術式、術後経過を検討した。
【結果】全19例中、散発型16例、遺伝型3例であった。遺伝型の1例は当
初散発型として単腺摘出を行ったが再発し後に遺伝型と判明した。病型は化学型が14例と大半を占めた。散発型における術
式は全摘1例、患側摘出1例、単腺摘出14例で、術後は Ca 値、iPTH 値ともに術前より改善し、再発は認められなかった。
2例に複数腺腫大を認めた。
【考察】当科では散発型 PHPT に対し、Focused Parathyroidectomy を基本としているが、多
腺腫大や過形成の場合があり、今後術中迅速 iPTH 測定の導入により、より確実な手術をめざしたい。また、長期の術後経
過につき引き続き検討を続けたい。
333
術中 intactPTH モニタリングを用いた原発性副甲状腺機能亢進症手術の検討
○下出祐造、
裕之
金沢医科大学頭頸部外科学教室
原発性副甲状腺機能亢進症(以下 PHPT)とは、腫大した副甲状腺より副甲状腺ホルモン(以下 PTH)が過剰分泌する
ことで生じる病態である。PHPT の原因の約80%は腺腫で10∼16%が多発性腺腫や過形成である。まれに過剰腺や異所性副
甲状腺が存在する場合もあるため、術前の病的副甲状腺の特定は手術成績の向上にも寄与され重要である。本邦でも2010年
に 99mTc―MIBI シンチグラフィーが保険適用となり、縦隔内病変の同定等が容易になった。また生 物 活 性 を 有 す る
intactPTH
(iPTH)の半減期は2∼5分で特異的かつ鋭敏に副甲状腺機能を約30分で迅速に判定することが可能となったこ
とで術中に iPTH を迅速測定する方法が行われ、近年では病的副甲状腺に対する摘出成否の重要な指標となっている。当科
でも2002年から2013年まで11年間で25例の PHPT に手術加療を施行、原則全例に術中 iPTH モニタリングを施行しており現
在のところ術後再発は認めていない。今回当院での経験ならびに問題点を検討したので報告する。
334
甲状腺全摘出術後の副甲状腺機能の検討
○竹林慎治、林
日本赤十字社
泰之、康本明吉、籔内
和歌山医療センター
咲、暁
久美子、大野
覚、池田浩己、三浦
誠
耳鼻咽喉科
副甲状腺は、体内のカルシウムコントロールに重要な副甲状腺ホルモンを分泌する臓器であるが、甲状腺に接している場
合やリンパ節との鑑別が困難な場合があり、甲状腺手術の際に同時に摘出されることがしばしばある。副甲状腺をすべて摘
出した場合は、ビタミンD製剤やカルシウム剤などの補充療法が必要になるが、過度の投与は結石を生じやすくなり、長期
にわたると腎不全から透析が必要になることもある。甲状腺乳頭癌は進行が遅く、予後良好なことが多いため、局所郭清が
不十分になっても、副甲状腺を温存する方がよい症例もあると思われる。そこで2009年から2014年の約5年半の間に当科で
甲状腺全摘手術を施行した111例について副甲状腺ホルモン値や局所再発などについて検討した。短期的には、甲状腺全摘
手術の際に副甲状腺を温存しても局所再発は認めず、温存も選択枝の一つであると思われた。また、副甲状腺機能は遅れて
回復することがあり、カルシウム製剤の漫然とした長期投薬は避けるべきと思われた。
118―563
日耳鼻
335
片側蝸牛破壊による聴皮質神経活動の変化
睦1)、越智健太郎1)、木下裕継1)、宮本康裕1)、中村
○釼持
聖マリアンナ医科大学
学1)、大橋
医学部
1)
耳鼻咽喉科 、秦野赤十字病院
徹2)、肥塚
泉1)
2)
耳鼻咽喉科
【目的】音刺激により左右の蝸牛で電気信号が誘発され、聴覚伝導路を経て、最終的に聴皮質へ到達する。その伝導路は
解剖学的には解明されているが、左右の担う役割など詳細な機能についてはいまだ不明な点も少なからず存在する。今回の
報告では、片側の蝸牛を破壊することにより聴皮質神経活動がどのように変化するかを検討した。
【方法】モルモットの右
第一次聴皮質から神経活動を記録した。コントロール(蝸牛未破壊時)の神経活動を記録後、片側の蝸牛破壊を聴皮質記録
側(右)と同側(右)
、もしくは対側(左)に行い、それぞれコントロールと比較検討した。
【成績】コントロールと比較
し、同側、対側の潜時は変化せず、振幅はともに低下。半値幅は対側破壊時に増加、同側破壊時では変化しなかった。
【結
論】コントロールと片側(同側および対側)破壊時との差は両側耳と一側耳との音の知覚の差を示し、同側破壊時と対側破
壊時との差は音の知覚に関する左右の入力の差を示していると考えられた。
336
耳鳴症の音量と苦痛度に関与する脳領域安静時機能的 MRI を用いた解析
昇1)、保富宗城1)、池田頼彦1)、玉川俊次1)、篠崎和弘2)、金桶吉起3)、上山敬司4)
○山中
和歌山県立医科大学
和歌山県立医科大学
医学部
医学部
耳鼻咽喉科学講座1)、和歌山県立医科大学
3)
生理学第一講座 、和歌山県立医科大学
精神神経科学講座2)、
医学部
医学部
解剖学第一講座4)
【はじめに】耳鳴症には高次中枢神経系の関与が考えられている。本研究では、安静時機能的 MRI(rfMRI)を用いて、
耳鳴症の症状と関連する領域を脳全体で検索した。
【対象と方法】対象は耳鳴症24例とした。耳鳴の音量、苦痛度、抑うつ
度と関係する rfMRI による脳領域の解析を行った。
【結果】苦痛度と抑うつ度は正相関し、両側直回で正相関を、両側帯状
回前部・中部で負相関がみられた。音量は、左内側上前頭回・左帯状回後部で負相関を、両側視床・海馬・左被殻で正相関
を示した。【考察】苦痛度やうつ程度は音量には関係なく、それぞれが違う脳領域の機能に関係しており、耳鳴症の病態は
内耳の異常のみでなく情動系などの脳内ネットワークの病態把握が重要と考えられた。
337
機能性難聴症例の検討
○久保和彦、松本
九州大学病院
希、高岩一貴、小宗徳孝、小宗静男
耳鼻咽喉・頭頸部外科
機能性難聴は、聴覚路に明らかな異常がないにもかかわらず自覚的聴力検査で異常を示す難聴で、原因として心因性難
聴、ヒステリー難聴、詐聴が挙げられるが、原因不明な機能性難聴も多い。そもそも機能性難聴の臨床像は多彩である。検
査上難聴であっても本人が困っている症例と困っていない症例が存在するし、純音聴力検査では難聴でも語音聴力検査では
正常な症例が存在したり、また、めまいを合併する例はメニエール病と鑑別が難しくなる。原因が不明なものは精神医学的
アプローチも取りづらいため、本人が難聴で困っている場合は治療に苦慮するし、また一側性であれば突発性難聴と診断さ
れて不要な治療を施してしまうこともある。今回われわれが経験した機能性難聴症例について臨床像を検討したので、文献
的考察を加えて報告する。
338
脳波計ヘッドセットによる中等度難聴者の不快閾値測定の検討
○呉
明美、山田武千代、伊藤有未、藤枝重治
福井大学
医学部
耳鼻咽喉科頭頸部外科
【目的】不快閾値(UCL)は補聴器の最大出力を調整するために重要な聴覚特性であるが、検査時に大きな音を出すため
被検査者への負担が大きい。われわれは 80dB 以下の音に対する聴覚誘発電位(AEP)を用いた UCL 推定手法の検討を行
ってきた。本発表では、簡便に脳波を計測するためにわれわれが開発した脳波計測ヘッドセットを用いた場合の、UCL 推
定の精度について報告する。
【方法】対象は当科補聴器外来を受診した中等度難聴患者33例であった。まず、SPL オージオ
メーターを用いて UCL を実測した。次に、80―75―70dB の3連音に対する AEP を記録した。左右耳・刺激周波数ごとに
AEP をウェーブレット変換し、実測 UCL との対応関係を学習させ、線形判別により UCL を推定した。
【結果】実測 UCL
の平均値は 95.
6±12.
0dB SPL であった。脳波を正しく測定できなかった2名は除外した。UCL 高群に対して UCL 低群で
AEP の P2 成分が減弱した。実測 UCL と推定 UCL の平均誤差は 5.
7dB であった。
118―564
339
2015
視覚情報提示による聴覚誘発磁界の変化―視覚情報提示のタイミングの影響について―
○川瀬哲明1)2)、高田志穂2)、八幡
東北大学
湖2)、高梨芳崇2)、奥村有理2)、菅野彰剛3)、中里信和4)、川島隆太3)、香取幸夫2)
1)
医工学研究科 、東北大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室2)、東北大学加齢医学研究所3)、
東北大学医学系研究科てんかん学分野4)
音声認識においては、音声情報と音声情報に対応する視覚情報が統合的に処理され得ることが知られている。われわれ
は、音声に対する聴性誘発反応を指標に視覚情報提示の影響について検討し、視覚情報の提示により聴覚野に由来する聴性
誘発反応の反応潜時が短縮することを報告してきた。今回は、視覚情報と聴覚情報の提示タイミングの“ずれ”が聴性誘発
反応に与える影響について検討を行った。具体的には、被験者に対し、/be/という単音節音声に、/ge/と発話した際の顔
画像(マガーク効果を誘発する発話画像)をさまざまなタイミングで提示し、発話顔画像提示タイミングの“ずれ”の聴性
誘発反応に対する影響ついて解析を行った。その結果、発話画像に比して刺激音声を早いタイミングで提示した場合、特に
右半球における反応潜時がさらに短縮する所見が多数の例で観察された。結果の詳細を報告するとともに、その意義につい
て考察を行う。
340
口腔癌のセンチネルリンパ節におけるリンパ管新生とリンパ節転移に関する検討
○脇坂尚宏1)、長谷川泰久2)、吉本世一3)、三浦弘規4)、塩谷彰浩5)、横山純吉6)、菅澤
正7)、遠藤一平1)、
1)
吉崎智一
金沢大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、愛知県がんセンター
頭頸部腫瘍科 、国際医療福祉大学三田病院
国立がん研究センター中央病院
防衛医科大学校
5)
耳鼻咽喉科 、順天堂大学医学部
頭頸部腫瘍センター4)、
6)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 、
頭頸部腫瘍科7)
埼玉医科大学国際医療センター
はじめに
頭頸部外科2)、
3)
口腔癌のセンチネルリンパ節(SN)におけるリンパ管新生とリンパ節転移について検討する。対象と方法
対象は、厚労科研
長谷川班「口腔癌に対するセンチネルリンパ節ナビゲーション頸部廓清術の研究―臨床第二相試験―」
に登録された c late T2―3N0 の57例で文書で承諾が得られた46例のうち、原発巣再発を伴う頸部再発症例を除く44例であ
る。全例で SN 生検と Supra―omohyoid 頸部廓清術を行い、SN 陽性例ではその領域の郭清を追加した。全 SN について200
倍の視野でリンパ管が占める面積の割合(LVD)を計測した。結果 19例で頸部に転移を認め、全 SN 166個のうち26個で
転移陽性であった。転移陽性 SN の LVD は、陰性 SN よりも有意に大きかった(p=0.
0459)
。頸部リンパ節転移陽性例の
個々の転移陰性 SN でも、転移陰性例のそれよりも有意に LVD が大きかった(p=0.
0025)
。結論
リンパ管新生はリンパ
節転移が起こる前に既に亢進しており、前転移ニッチの構築に寄与していると考えられた。
341
甲状腺未分化癌細胞株における上皮間葉移行と microRNA
○玉川俊次、矢田和弥、山内一真、戸川彰久、保富宗城、山中
和歌山県立医科大学
医学部
昇
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
甲状腺未分化癌は初診時に急速な隣接臓器への浸潤、頸部リンパ節、遠隔転移を生じることから極めて予後不良な疾患と
いえる。いまだ有効な治療法に乏しく、分子生物学的機序についても十分解明されていない。microRNA は標的メッセンジ
ャー RNA の3’
非翻訳領域に結合し、遺伝子発現をさまざまな形で調整することが分かってきた。microRNA 発現異常が癌
の発現、浸潤、転移と関連し、microRNA を癌の治療・診断へ応用しようとする動きが活発化している。上皮間葉移行は上
皮細胞が E―Cadherin の消失などに代表されるよう、上皮細胞が間葉系細胞の性質を持つことで転移、浸潤能を獲得すると
される現象である。甲状腺未分化癌細胞株3種類、甲状腺正常濾胞上皮細胞株を用いて、それぞれの上皮間葉移行マーカー
、E―Cadhrin の転写抑制因子である Snail、Slug、ZEB1、ZEB2 の発現をリアルタイム PCR 用いて
(E―Cadherin Vimentin)
解析した。また、microRNA200family の発現についても検討を行った。
342
頭頸部非扁平上皮癌における EGFR 発現
○東
賢二郎、小川武則、中目亜矢子、石井
東北大学
亮、香取幸夫
耳鼻咽喉・頭頸部外科学
頭頸部扁平上皮癌において、EGFR が高く発現にあることは広く知られており、EGFR に対するモノクローナル抗体であ
るセツキシマブが、頭頸部癌に対する分子標的薬として使用されるようになってきた。しかし、頭頸部非扁平上皮癌におけ
る EGFR 発現については統一された報告はない。今回われわれは、1991年から2009年に当科で経験した腺様嚢胞癌21例に
ついて、EGFR 発現を検討したので、文献的考察を加え報告する。部位は唾液腺が9例、口腔が5例、外耳が3例、上顎が
2例、鼻腔、中咽頭、涙腺がそれぞれ1例であった。免疫組織学的には21例中18例で EGFR 発現を認めた。
118―565
日耳鼻
343
デグエリンは頭頸部癌に対して EGFR―AKT および IGF1R―AKT を標的とし
アポトーシスを誘導する
○馬場
優
奥羽大学
歯学部
総合臨床医学講座
【目的】デグエリンは African plant Mundulea sericea から抽出された天然物である。今回、頭頸部扁平上皮癌に対するデ
グエリンの抗腫瘍効果につき調査した。
【方法】ヒト舌癌由来細胞株 SCC4 および HSC4。
【成績】⑴ SCC4 において、デグ
エリンを添加すると有意に生細胞数が減少していた。⑵ デグエリンは時間依存性に細胞周期を sub G1 phase に集積させア
ポトーシスを誘導していた。⑶ デグエリン添加によって、燐酸化型 IGF1R 蛋白、Total EGFR 蛋白、燐酸化型 AKT、およ
び燐酸化型 ERK 蛋白発現の低下がみられた。また舌癌由来細胞株 SCC―4 には constitutive には燐酸化型 EGFR 蛋白発現は
認められなかった。⑷ HSC4 において、デグエリンは EGF で刺激された AKT 活性化を阻害することに伴い、アポトーシ
スを誘導した。
【結論】デグエリンは頭頸部癌に対して EGFR―AKT および IGF1R―AKT を標的としアポトーシスを誘導す
る。
344
頭頸部扁平上皮癌における REG―1 の発現と予後
○川嵜洋平1)、モハメド
秋田大学
アボシャニフ2)、本田耕平1)、大森泰文2)、石川和夫1)
耳鼻咽喉科頭頸部外科1)、秋田大学
大学院医学研究科
大学院医学研究科
分子病態学
腫瘍学2)
Regenerating gene(REG)は1988年に膵臓で発見された遺伝子であり、急性反応や抗アポトーシス因子、成長因子と関連
があることが分かってきている。現在まで REG family は1から4まで同定されているが、それぞれの詳細な役割はいまだ
不明な点が多い。一方で、癌の予後因子としても注目されており食道癌、胃癌、肺癌などの予後と密接に関係しているとの
報告がある。今回、われわれは2004年から2011年まで当院で加療を受けた患者の生検検体を抗 REG―1 モノクローナル抗体
で染色し、5年生存率と比較検討した。部位別には下咽頭癌27例、中咽頭癌25例、喉頭癌17例、計69例であった。REG―1
が高発現しているものは発現が低下しているものと比べると、5年生存率は高く有意な差を認めることができた。頭頸部扁
平上皮癌において REG―1 が予後因子として有用であることが示唆される結果となった。
345
頭頸部扁平上皮癌における podoplanin の機能解析と標的治療の検討
○欄
真一郎1)2)、伊地知
圭3)、中西速夫4)、加藤幸成5)、長谷川泰久2)、小川徹也6)、村上信五3)
耳鼻咽喉科1)、愛知県がんセンター
愛知県厚生連江南厚生病院
名古屋市立大学
東北大学大学院
医学部
頭頸部外科2)、
中央病院
3)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 、愛知県がんセンター
医学系研究科
5)
地域イノベーション分野 、愛知医科大学
遺伝子病理診断部4)、
研究所
6)
耳鼻咽喉科
Podoplanin
(PDPN)はリンパ管内皮に発現する膜タンパクであるが、頭頸部扁平上皮癌にも高発現しており、その発現
はリンパ節転移・予後との正の相関があることが明らかとなっている。そこでわれわれは PDPN 高発現の頭頸部扁平上皮
癌細胞株(UMSCC81B)と低発現の株(UMSCC6)を用いて PDPN 発現細胞の転移能・上皮間葉移行(Epitherial―Methentimal transition : EMT)発現・腫瘍形成能などにつき検討した。UMSCC81B は低分化扁平上皮癌であり、EMT 形質を発現
していた。また、高い腫瘍形成能を有し Cancer stem cell 様の性質をもつことを明らかとした。次に PDPN を標的とした
治療開発のため、UMSCC81B 細胞の皮下腫瘍モデルマウスを作成し、抗 PDPN 抗体(NZ―1)の腫瘍増殖抑制効果の検討
を行った。NZ―1 抗体投与群と非投与群とで腫瘍径と重量を比較検討したところ、NZ―1 投与群において有意に腫瘍の増殖
抑制が認められた。今回の検討により PDPN は頭頸部扁平上皮癌において有用な治療標的分子であり、抗 PDPN 抗体は頭
頸部扁平上皮癌の治療に有用である可能性が示唆された。
346
頭頸部扁平上皮癌患者末梢血中の循環癌細胞の同定と臨床的意義
○近松一朗、高橋秀行、坂倉浩一、岡本彩子
群馬大学大学院
医学系研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
癌患者の血液中を循環している循環癌細胞(circulating tumor cells : CTCs)の検出技術の進歩によりその同定が可能に
なってきた。現在、CTCs は再発や治療効果に関係するといわれており、一部の転移性がんにおいて末梢血中の CTCs 計数
は有望な腫瘍マーカーとして臨床的意義が確立しつつある。今回、われわれはマイクロフィルター法によって頭頸部扁平上
皮癌患者の末梢血中 CTCs の同定を試みた。末梢血 7.
5ml を採血した後、7μm pore size のマイクロフィルターを通過さ
せ、フィルター上に捕捉された細胞を DAPI、抗 CK8、18、19 抗体、抗 CD45 抗体にて染色し、DAPI
(+)
CK8、18、19
(+)CD45
(−)を CTCs とした。また同時に EpCAM についても染色を行った。健常人末梢血に頭頸部癌細胞株をスパイク
した検体から DAPI
(+)
CK8、18、19
(+)
EpCAM
(+)
CD45
(−)細胞を同定することができたため、治療前の頭頸部扁平上
皮癌患者末梢血を用いて CTCs の同定を行ったところ、癌患者の末梢血中に CTCs の存在が確認できた。現在、CTCs 数と
病期との関係や治療前後での CTCs 数の変化について検討を行っている。
118―566
347
2015
頭頸部扁平上皮癌の癌幹細胞における microRNA 発現プロフィールに関する研究
○矢田和弥1)、玉川俊次2)、山内一真2)、戸川彰久2)、保富宗城2)、山中
1)
済生会有田病院
耳鼻咽喉科 、和歌山県立医科大学
昇2)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
【目的】頭頸部癌細胞株癌幹細胞を分離し、癌幹細胞の性質を有することを証明し、さらに microRNA microarray を用い
て、癌幹細胞に特異的に発現が上昇する、または発現が低下する microRNA を網羅的に検索した。
【方法】細胞株2種類を
用いて ALDEFUOR assay を行い、ALDH 陽性細胞集団 と ALDH 陰 性 細 胞 集 団 を 分 離 し た。癌 幹 細 胞 の 証 明 に は、1)
Sphereformation assay、2)幹細胞マーカーの発現、3)免疫不全マウスの腫瘍形成能力による方法を用いた。ALDH 陽性細
胞集団と ALDH 陰性細胞集団を microRNAmicroarray にて網羅的に発現を検索した。2倍以上の上昇が認められる、2倍
以上の低下が認められる microRNA に絞り込んだ。絞り込まれた microRNA について再度、realtimePCR を用いて発現を評
価した。【結果】発現が2倍以上上昇している microRNA は3種類、2倍以上低下している microRNA の6種類であった。
その9種類について realtimePCR では、2種類を除く7種類で同様の発現を示した。
【考察】絞り込まれた microRNA は癌
幹細胞に強くかかわりを有する可能性が示唆された。
348
頭頸部癌関連線維芽細胞の解析
○古後龍之介、安松隆治、瓜生英興、中島寅彦、小宗静男
九州大学
耳鼻咽喉科
【背景・目的】癌細胞の増殖、浸潤には癌細胞自身の性質に加え、周囲の間質細胞(主に fibroblast)がその一端を担って
いることが知られている。われわれは CAFs
(Cancer Associated Fibroblasts)と NAFs
(Normal Associated Fibroblasts)が頭
頸部癌細胞に与える分子細胞学的影響を解析した。【方法】頭頸部癌細胞株(SCC4、FaDu)もしくはその conditioned
medium と CAFs もしくは NAFs を in vitro で共培養し、癌細胞の増殖能、浸潤能を解析した。また、抗癌剤投与時の細胞
内活性酸素量、アポトーシス細胞を解析した。
【結果】CAFs、NAFs はともに頭頸部癌細胞の増殖能、浸潤能を増加させ
た。また、抗癌剤投与後のアポトーシス細胞を減少させたが、細胞内活性酸素量は変化しなかった。
【考察】癌微小環境の
線維芽細胞は頭頸部癌の進展に重要な役割を果たしているが、正常組織の線維芽細胞も同様に癌進展を促進することが示唆
された。今後、fibroblast からどのような液性因子が頭頸部癌細胞の進展に寄与しているか同定する必要がある。
349
舌癌発症・進行過程における癌微小環境の研究
○折田頼尚1)、三木健太郎1)、橘
智靖2)、丸中秀格3)、花川浩之4)、西
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
和則1)
1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科 、姫路赤十字病院
耳鼻咽喉科2)、
3)
独立行政法人国立病院機構岡山医療センター
耳鼻咽喉科 、
独立行政法人国立病院機構四国がんセンター
頭頸科4)
癌の発生・進行には所謂 microenvironment(癌微小環境)が重要な役割を果たしているといわれ、制御性 T―cell、マク
ロファージ等が関与していることが明らかになった。癌の発生に伴い制御性 T―cell は activate T―cell の働きを抑制し、マク
ロファージは癌の進行に好都合な炎症のある環境(inflammatory environment)を惹起し、癌の浸潤に不可欠な血管増生を
促し、腫瘍細胞の移動と浸潤の手助けをするといわれている。もちろん発癌・進行の原因はそれだけではないが、それらの
ファクターの解明が予防・治療に役立つ可能性があると考えられる。特に頭頸部癌領域における研究はほとんどなく、本研
究においては、舌癌モデルマウスを用い、癌微小環境の状態を観察し、癌の予防と、癌発生の初期段階でその進行を制御す
る治療法の可能性を検討する。
350
Myosin 1b の高発現は頭頸部扁平上皮癌の細胞運動と頸部リンパ節転移を促進する
○大村
学1)2)、
川敬裕1)、新井啓仁1)、松井雅裕1)、中野
京都府立医科大学
1)
宏1)、高木伸夫2)、久
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室 、京都第一赤十字病院
育男1)
耳鼻咽喉科2)
頸部リンパ節転移は頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)患者の予後不良因子であるが、その制御や機構の解明は不十分である。
今回、われわれは新たな頸部リンパ節転移に対する診断・治療の標的について研究した。最初にマイクロアレーデータベー
スのメタアナリシスで、Myosin 1b
(Myo1b)が正常組織と比較して、HNSCC 特異的に高発現していることを見出した。
HNSCC 細胞株でそのほかの細胞株と比較して Myo1b の mRNA が高発現し、HNSCC 患者の癌組織において同一患者の正
常組織と比較して Myo1b の mRNA が高発現する(n=7、P<0.05)ことを定量的 PCR で確認した。舌癌患者31例の癌組織
に対して免疫組織化学染色を行い、全例で Myo1b の発現を認め、その発現強度と、リンパ管侵襲・頸部リンパ節転移の有
無に相関を認めた(n=31、P<0.
05)。癌細胞株を用いた実験では、Myo1b をノックダウンすると遊走・浸潤が抑制され、
マウスを用いた頸部リンパ節転移モデルでは頸部リンパ節転移が抑制された。以上より、Myo1b は頸部リンパ節転移の新
たな診断マーカーや治療標的となり得ると考えられた。
118―567
日耳鼻
351
頭頸部癌遠隔転移進展における AP―1 遺伝子群の関与についての検討
紘1)、佐野大佑1)、高橋秀聡1)2)、波多野
○百束
孝1)、磯野泰大1)、島田翔子1)、荒井康裕1)、折舘伸彦1)
1)
横浜市立大学医学部
頭頸部腫瘍センター2)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 、国際医療福祉大学三田病院
われわれは頭頸部癌遠隔転移機序の解明のため、その有用性について以前報告した頭頸部癌細胞株の経尾静脈移植による
頭頸部癌肺転移モデルを用いて以下の検討を行った。まず同モデルにおいて100%肺転移形成を認める3種の細胞株と肺転
移無形成の5種の細胞株を選出した上で Whole gene microarray を施行し、同解析結果を元に TRANSFACⓇ データベースを
用いた upstream analysis と同結果を利用したキーノード解析による遺伝子カスケード解析を施行した。その結果、頭頸部
癌の肺転移と強い関連をもつ可能性が高い遺伝子として AP―1 遺伝子群および IRF 遺伝子群を同定した。そこで頭頸部癌転
移能において細胞の分化、増殖、アポトーシスと深く関与していると報告されている AP―1 構成タンパク質の発現抑制の影
響について、肺転移高形成群の細胞株を用いて siRNA による knockdown 頭頸部癌細胞株を作製し、invasion assay ならび
に scratch assay を施行したところ、FOSL1 の発現抑制により浸潤能および遊走能の低下を認めた。同遺伝子群の頭頸部癌
における遠隔転移の進展に果たす役割を考察する。
352
HPV16 陽性中咽頭癌における内因性免疫因子とウイルス遺伝子高頻度変異
およびインテグレーションの関連性
○近藤
悟、中西庸介、石川和也、
金沢大学
医学部
亮、遠藤一平、脇坂尚宏、吉崎智一
感覚運動病態学
ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)は、中咽頭癌の発癌ウイルスとして注目されている。HPV による発癌は、ウイルスゲノム
が宿主ゲノムに組み込まれるインテグレーションが発癌に重要である。近年、内因性免疫因子の一つで抗ウイルス作用を持
つ APOBEC3(A3)が、HPV ゲノムに変異を誘導し、子宮頸癌の発癌に関与することが報告された。本研究では、この A3
とウイルス遺伝子のインテグレーションの関連性を解析し、A3 が HPV による発癌機構に関与するか検討した。中咽頭癌生
検組織を、3D―PCR、シークエンス、リアルタイム PCR の各手法を用い、A3 発現量、HPV16 E2 遺伝子変異量、ウイルス
遺伝子のインテグレーション比の解析した。HPV16 陽性癌組織では、1)E2 領域に A3 で特異的に増加する C―T/G―A 高頻
度変異を認めた。2)また、A3A、A3F、A3H の mRNA 量が上昇していた。3)さらに A3 発現とウイルス遺伝子のインテグ
レーション比を検討すると、A3A 発現がインテグレーション比と有意に相関した。A3A は、ウイルス遺伝子の高頻度変異
とインテグレーションに寄与していることが予想される。
353
頭頸部癌細胞株を用いた iTRAQ 法、マイクロアレイ法による
シスプラチン耐性化因子の網羅的解析
○犬飼大輔1)、西村邦宏1)、岡本啓希1)、土屋吉正1)、伊地知
愛知医科大学病院
1)
耳鼻咽喉科 、名古屋市立大学病院
圭2)、植田広海1)、小川徹也1)
耳鼻いんこう科2)
【はじめに】頭頸部癌治療においていまだシスプラチンは重要である。その耐性化因子を探るため、頭頸部扁平上皮癌細
胞株を用い、タンパク・RNA レベルからの網羅的解析を行った。
【対象および方法】ヒト頭頸部扁平上皮癌細胞株の CDDP
感受性株、獲得耐性株、自然耐性株、5―FU 獲得耐性株を用いた。抽出したタンパクを iTRAQ 法と LC―ESI―MS/MS を使用
して、タンパクレベルから網羅的解析を行った。さらに RNA レベルからの解析として、マイクロアレイによる解析を行っ
た。両者の結果を組み合わせることで、最終的に高精度に耐性に関与しているタンパクの同定を試みた。
【結果】CDDP 特
異的耐性関連タンパクと、抗癌剤多剤耐性関連タンパクをそれぞれ1個ずつ同定できた。
【考察】本研究では新しい技術で
ある iTRAQ 法を使用したプロテオームの観点からだけでなく、マイクロアレイを用いたトランスクリプトームからをも含
んだ網羅的解析を行った。その結果得られた上記因子は、真の耐性化規定因子である可能性が高く、頭頸部癌治療における
バイオマーカーとなる可能性がある。
354
頭頸部癌における neuropeputid FF 受容体遺伝子の発現とプロモーター領域の
メチル化との関連について
○三澤
清1)、今井篤志1)、望月大極1)、遠藤志織1)、近藤玄樹1)、三澤由幾1)、金澤丈治2)、峯田周幸1)
浜松医科大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、自治医科大学
医学部
耳鼻咽喉科2)
われわれは、いままで neuropeputid である、galanin、tachykinin、somatostatin、orexin とそのレセプターのメチル化解
析を行ってきた。今回は、neuropeputid FF
(NPFF)について報告する。NPFF は、疼痛調節、オピオイド耐性、心血管系
制御などの働きを持っている。NPFF ならびに NPFF 受容体のメチル化解析の報告は悪性腫瘍関連ではない。
[方法]細胞
[結果]細胞株において
株と臨床サンプルにおける NPFF1型受容体、NPFF2 型受容体のメチル化度(Q―MSP)を調べた。
高メチル化を認め、mRNA の発現が抑制されていた。正常部と癌部のペアの臨床検体を使って ROC カーブを作成し、
952、cutoff 値0.
0026。NPFF2型受容体は、ROC 値0.
867、cutoff 値0.
0816と決めた。症例全
NPFF1 型受容体は、ROC 値0.
、72/100例(72%)であった。neuropeputid 関連遺伝子のメチル化度との比
体のメチル化度は、それぞれ62/100例(62%)
較も行った。亜部位別のメチル化度、生存率も検討し報告する。NPFF 関連遺伝子のメチル化は頭頸部癌の発生、進展に関
与していると考えられた。
118―568
355
2015
頭頸部扁平上皮癌における免疫細胞サブセットの変化と化学療法の免疫動態への関与
○高橋秀行、井田翔太、御任一光、岡本彩子、坂倉浩一、高橋克昌、近松一朗
群馬大学
大学院
医学系研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
癌に対する免疫応答は、癌細胞の排除のみならず癌の進展を促進する二面性を持つとされる。今回、頭頸部扁平上皮癌
(HNSCC)患者の末梢血中におけるさまざまな免疫細胞サブセットの変化と導入化学療法(TPF 療法)の及ぼす影響につ
いて、フローサイトメトリーを用いて解析した。
CD8+T cell subset 解析では、患者群で naive T cell の減少・effector memory T cell
(TEM)の増加を認めた。CD4+T cell
subset では患者群で regulatory T cell
(Treg)の増加を認めた。Myeloid Derived Suppressor Cells ではその増加とともに抑
(TEFF)の増加、CD38 を高
制機能に関与している CD39 の発現の亢進を認めた。また進行癌では TEM の減少、effector T cell
発現した活性型 Treg の増加を認めた。興味深いことに、化学療法の施行後に central memory T cell の減少、TEM と TEFF の
増加・活性化を認めた。
HNSCC 患者の末梢血中では免疫担当細胞に劇的な変化が生じており、病期との相関を認めた。また化学療法による CD8
+T cell の活性化を認め、免疫賦活作用の可能性が示唆された。
356
唾液腺癌に対するキメラ抗原受容体導入 CD8T 細胞と NKT 細胞併用による
抗腫瘍活性の基礎的検討
○蒔田勇治、國井直樹、花澤豊行、岡本美孝
千葉大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学
【目的】唾液腺癌に対するメソテリン特異的キメラ抗原受容体導入T細胞(MSLN 特異的 CAR T 細胞)の抗腫瘍活性と
NKT 細胞併用による活性増強効果を検討した。
【方法】唾液腺癌細胞株と唾液腺癌手術検体における MSLN 発現を確認し
た。また、癌細胞上に発現する MSLN 認識後の MSLN 特異的 CAR T 細胞の活性化能、増殖能、細胞傷害活性を調べ、NKT
細胞併用による影響を探索した。
【結果】細胞株により MSLN 発現率は種々の程度を示した。手術検体での MSLN 発現は
個々の症例で差異があり、組織型による一定の傾向は認めなかった。MSLN 特異的 CAR T 細胞は標的細胞上の MSLN 発現
率に比例して活性化し、その効果は NKT 細胞併用により増強した。細胞傷害活性の検討では、唾液腺癌細胞株を含め、
MSLN 発現が高い細胞株だけではなく、発現の低い細胞株に対しても、NKT 細胞添加で MSLN 特異的 CAR T 細胞の細胞
傷害活性が増強した。
【結論】MSLN 特異的 CAR T 細胞を用いた養子免疫療法は唾液腺癌に対する有用な治療法となりえ、
さらにアジュバントとしての NKT 細胞の有用性が示された。
357
制御性T細胞の分布と IL―10 産生から検討した顎下部リンパ節の免疫抑制的役割
○内田亮介、櫻井大樹、伊原史英、蒔田勇治、國井直樹、岡本美孝
千葉大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学
背景 : 鼻粘膜と口腔粘膜は気道および消化管の入り口に位置しており、恒常的にさまざまな抗原に曝露されているが、抗
原への曝露に対し異なった免疫応答が引き起こされる。これは抗原を捕捉した抗原提示細胞が粘膜から所属リンパ節へ移動
し、そこで生じる免疫応答が異なる可能性があり、今回、手術より得られた頸部リンパ節を用いて免疫学的差異について検
討を行った。
方法 : 千葉大学医学部附属病院耳鼻咽喉・頭頸部外科で手術療法が施行された頭頸部腫瘍患者のうち、文書による同意の
得られた30例より採取した顎下部リンパ節および上内深頸リンパ節から抽出した細胞を Flow cytometry、ELISA を用いて
解析し、リンパ球分布、IL―10 産生について検討を行った。
結果 : 顎下部リンパ節では上内深頸リンパ節と比較して CD4+CD25+Foxp3+ 細胞、さらに制御性T細胞(Treg)の活性
型サブタイプである CD4+CD45RA−Foxp3high 細胞の割合、また TCR 刺激による IL―10 産生能が有意に高いことが認められ
た。
結論 : 頸部リンパ節領域による潜在的な免疫抑制機能の違いが示唆された。
358
ANCA 陽性であった急性感音難聴の 2 例
○原
稔、中尾信裕、渡邊
長崎大学病院
毅、北岡杏子、畑地憲輔、木原千春、吉田晴郎、高橋晴雄
耳鼻咽喉科頭頸部外科
今回われわれは突発性難聴のような急性感音難聴を初発症状とし ANCA が陽性で、ANCA 関連血管炎が直接内耳に作用
したと思われる2例を経験したので報告する。
【症例1】35歳女性。突然のめまいと両耳難聴で来院。純音聴力は両耳完全聾。MRI で両内耳の高信号所見を認め、
MPO―ANCA・PR3―ANCA が陽性。ステロイド・免疫抑制剤で難聴の改善がなく左人工内耳手術施行。
3dB、左 86.
3dB。語音検査は両耳で10%以
【症例2】80歳女性。起床時に良聴耳の左耳の難聴を自覚。純音聴力は右 76.
下。MPO―ANCA 陽性。MRI で両内耳に高信号、両側大脳半球、小脳、脳幹に多数の微小出血を疑う所見あり。軽度腎炎・
神経障害の所見あり。ステロイド加療で経過フォロー中。
いずれの症例も突発性難聴のような急性感音難聴を呈し、MRI で内耳出血を疑う高信号所見を認めた。ANCA 関連血管
炎による血管障害のひとつとして、内耳出血による急性感音難聴やめまいを来し得るのではないかと推察される。
118―569
日耳鼻
359
多発脳神経麻痺を来した ANCA 関連中耳炎の 2 例
○甲藤麻衣、雲井一夫、小嶋康隆、澤田直樹、堤
西神戸医療センター
奈央
耳鼻いんこう科
近年 ANCA 関連血管炎に合併する難治性中耳炎(ANCA 関連血管炎性中耳炎 : OMAAV)の報告が多くなされている。
OMAAV では、急激に進行する感音難聴や顔面神経麻痺、肥厚性硬膜炎の合併が知られている。今回われわれは OMAAV
の経過中に多発脳神経麻痺を来した2例を経験したのでその経過について報告する。症例1 : 59歳男性、難治性滲出性中耳
炎、鼓膜の肥厚・鼓膜上の血管の拡張を認め、MPO―ANCA の上昇と両側の骨導閾値上昇の存在から OMAAV を疑いプレド
ニゾロンの経口内服を開始、聴力の改善を認めた。2カ月後より複視・嗄声・嚥下障害が出現した。頭部 MRI では肥厚性
硬膜炎の所見は認めなかった。ステロイドパルスを開始し、3・9・10・12脳神経麻痺は改善した。症例2 : 46歳男性、難
治性滲出性中耳炎、MPO―ANCA の上昇と両側の骨導閾値上昇の存在から OMAAV が疑われ、右下鼻甲介粘膜の生検より多
発血管炎性肉芽腫症(GPA)の診断に至った。プレドニゾロン内服経過中に嗄声・嚥下障害が出現したため、ステロイドパ
ルスを行い、現在経過観察中である。
360
ANCA 血管炎関連性中耳炎の聴力予後と内耳造影 MR 画像の検討
○加藤
健、曾根三千彦、寺西正明、吉田忠雄、大竹宏直
名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座耳鼻咽喉科
ANCA 血管炎関連性中耳炎(OMAAV)症例では、抗生剤投与や鼓膜切開、換気チューブ留置など通常の中耳炎治療が奏
功せず、骨導閾値の進行性の上昇や顔面神経麻痺の合併を経験する。肺や腎病変を合併することもあり、免疫抑制剤やステ
ロイド投与などの濃厚な治療が必要である。免疫抑制剤やステロイド投与により MPO―ANCA 関連血管炎は寛解となるこ
とが多いが、感音難聴や顔面神経麻痺が残存する症例を経験している。
今回われわれは、2006年より2013年までに名古屋大学医学部付属病院耳鼻咽喉科を受診した MPO―ANCA 関連血管炎患
4歳)の MR 画像所見と聴力予後につい
者のうち難聴を合併した、9例18耳(男性1名2耳、女性8名16耳、平均年齢61.
て検討を行ったところ、MR 画像所見は現状の病態把握に有用であるが、初診時の画像所見から聴力予後予測は困難であっ
た。また、聴力改善例は聴力不変例に比べ、有意に骨導聴力が良好であった。
361
ANCA 関連血管炎性中耳炎13症例の画像所見の特徴
○立山香織、児玉
悟、鈴木正志
大分大学
耳鼻咽喉科
医学部
ANCA 関連血管炎性中耳炎(OMAAV)は側頭骨病変に関連して骨導閾値上昇を伴う難聴、顔面神経麻痺、肥厚性硬膜炎
を合併することが知られている。側頭骨病変に対して CT および MRI による画像評価が行われ、さまざまな特徴が報告さ
れている。当科で経験した OMAAV 13症例の画像所見について検討した。症例は女性12例、男性1例で、PR3 陽性2例、
MPO 陽性10例、陰性例が1例であった。側頭骨 CT 所見を、側頭骨陰影の程度によって分類し、聴力レベルとの相関につ
いて検討した。外耳道の肥厚や骨破壊の有無についての CT 所見に加え、側頭骨 MRI 所見による肥厚性硬膜炎の有無、蝸
牛や外耳道、耳管周囲から上咽頭の造影効果について評価し、さらに肺病変、副鼻腔病変についても併せて検討した。以上
の画像所見を治療前後で、治療効果も含め検討した。詳細について報告する。
362
耳症状を主訴に当科を受診した ANCA 関連血管炎20例の臨床像―全身型による比較検討
○川島慶之1)、野口佳裕1)、高橋正時1)、伊藤
東京医科歯科大学
1)
卓1)2)、喜多村
耳鼻咽喉科 、土浦協同病院
健1)3)
2)
耳鼻咽喉科 、茅ヶ崎中央病院
耳鼻咽喉科3)
ANCA 関連血管炎は本邦において増加の著しい難治性血管炎であり、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
、好酸球性多発血管
炎性肉芽腫症(EGPA)
、顕微鏡的多発血管炎(MPA)が含まれる。これらに合併する難治性中耳炎には共通点がみられる
ことから日本耳科学会により ANCA 関連血管炎性中耳炎の診断基準が提案されたが、その臨床像は多様である。今回われ
われは、2004年から2014年の期間に耳症状を主訴に当科を受診し、最終的に ANCA 関連血管炎と診断された20例(GPA 8
例、EGPA 5例、MPA 7例)の臨床像を全身型により比較検討した。耳症状を初発症状とするものは、GPA 8例中4
例、EGPA 5例中5例、MPA 7例中4例であった。耳症状として全例で難聴を認めたが、GPA および EGPA では耳痛・
耳漏が多いのに対し、MPA では1耳で耳漏を認めたのみであった。初診時の骨導閾値は MPA で高く、気骨導差は GPA、
EGPA で大きい傾向にあった。初診時から最終時の聴力の改善は EGPA、MPA に比較し GPA で良好であった。
118―570
363
2015
ANCA 関連血管炎性中耳炎の臨床像―全国アンケート調査から―
幹1)、立山香織2)、森田由香3)、吉田尚弘4)、原渕保明1)
○岸部
旭川医科大学
新潟大学
医学部
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、大分大学
医学部
耳鼻咽喉科2)、
3)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 、自治医科大学さいたま医療センター
耳鼻咽喉科4)
今回、われわれは全国の耳鼻咽喉科を対象に ANCA 関連血管炎性中耳炎(OMAAV)に対するアンケート調査を実施し症
例を集積し、OMAAV の臨床像を検討したので報告する。自施設を含む、全国の耳鼻咽喉科、123施設に対し OMAAV につ
いてアンケート調査を行った。その結果、66施設、297症例の詳細が得られた。男性86例、女性211例で、年齢は13歳から89
歳、年齢中央値は67歳であった。初診時に OMAAV 診断基準の確実例が241例(82%)であり、疑い例が22例(7%)
、非
、鼻95例(32%)
、その他上気道24例(6%)
、肺
適合例が31例(11%)であった。初診時の病変部位では、耳294例(97%)
80例(27%)
、腎55例(18%)であった。また、OMAAV の特徴である、顔面神経麻痺、肥厚性硬膜炎を初診時に伴ってい
、44例(15%)であった。ANCA 型では、初診時に ANCA 採血を施行しえた289例中、PR
たものはそれぞれ、54例(18%)
、MPO―ANCA 陽 性 型158例(55%)
、両 ANCA 陽 性 型11例(4%)
、両 ANCA 陰 性 型55例
3―ANCA 陽 性 型65例(22%)
(19%)であった。発表では、詳細につき報告する。
364
スギ花粉飛散予測の検証
○渡辺哲生、鈴木正志
大分大学
医学部
耳鼻咽喉科学講座
【目的】今後のスギ花粉飛散予測に役立てるためこれまでわれわれが行ってきたスギ花粉飛散予測について検証する。
【方法】最近10年間行ってきた総飛散数、飛散開始、日々の飛散数について行った予測と実測値を比較した。総飛散数は
花粉供給地域と考えられる日田地区の前年7月日照時間により、飛散開始は気温変化パターンに基づく方法、日々の飛散数
は数量化理論2類を用いた方法により予測した。
【成績】総飛散数の予測は平成23年から実測値との乖離が大きくなった。原因は不明だが、同時期から日田地区の前年7
月日照時間との相関係数が大きく低下していた。飛散開始日の予測は実測値と予測値の差は最大で8日であった。日々の飛
散数の予測は全体の的中率は70%前後になるが本格飛散期の的中率は50%前後であった。
【結論】飛散予測は定期的に見直す必要がある。日々の飛散予測はより精度の高い方法を検討する必要がある。
365
スギ花粉症における鼻噴霧用ステロイド薬による初期治療の至適開始時期に関する検討
○春名威範1)、岡野光博1)、檜垣貴哉1)、小山貴久2)、野山和廉1)、假谷
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
1)
伸1)、西
耳鼻咽喉・頭頸部外科 、岡山赤十字病院
和則1)
耳鼻咽喉科2)
【はじめに】例年強い症状を示すスギ花粉症患者に対しては花粉飛散前から治療を開始する初期治療が推奨されている。
本邦の鼻アレルギー診療ガイドライン(2013年版)では、鼻噴霧用ステロイド薬(INS)は発症後治療にのみ推奨される一
方で、海外の報告では INS の季節前投与の有用性が明らかにされている。
【目的】スギ花粉症における鼻噴霧用ステロイド
薬による初期治療の至適開始時期について検討する。
【方法】スギ花粉症シーズンにスギ花粉症患者70例を対象として3群
(A群 : すべて INS、B群 : 1∼2週目プラセボ点鼻薬→以後 INS、C群 : 1∼4週目プラセボ点鼻薬→以後 INS)に無作
為割付した(プラセボ対照二重盲検比較試験)
。主要評価項目として、鼻症状合計スコアのベースラインからの平均変化量
ならびに推移における各群を比較する。副次的評価項目としては眼症状スコア、総症状スコア、QOL スコアについて検討
する。【結果】スギ花粉症初期治療における INS は、鼻症状は花粉飛散前早期の開始で抑制され、眼症状は花粉飛散直前の
開始でも抑制されることが示唆された。
366
住民調査によるスギ花粉症発症率、発症年齢の検討
○高畑淳子、三浦智哉、松原
弘前大学
医学部
篤
耳鼻咽喉科
はじめに : アレルギー性鼻炎、特にスギ花粉症は増加傾向にある。弘前大学では社会医学講座が主催して、地域住民を対
象とした健康調査(岩木健康増進プロジェクト健診)を行っている。当科でもこのプロジェクトの一環として、吸入性抗原
感作の状況などについて調査を行い報告してきた。今回は2014年時の調査データを用いて、性別・年齢層別のスギ感作率や
発症率、および発症年齢などについて検討を行ったので報告する。方法 : 2014年岩木健康増進プロジェクト健診を受診し、
採血が行われた者を対象として、スギ特異的 IgE 抗体(CAP 法)測定し、併せて鼻炎に関する問診票調査を行った。結果 :
対象は男性441名、女性717名。対象者全体の鼻炎症状の有症率は39.
7%、ARIA の分類で重症中等症は25.
1%、軽症は74.
9%
7%、女性34.
7%、20代以下から50代まで高い感作率を認めた。CAP 陽性者のうちス
であった。スギ CAP 陽性率は男性44.
1%、女性40.
6%であった。発症年齢は男女ともに30代が最も多く、ついで20代が多か
ギの時期に症状がある症例は男性39.
った。
118―571
日耳鼻
367
花粉症患者における日常活動および睡眠の客観的評価の試み
○大木幹文1)、大橋健太郎1)2)、林
北里大学メディカルセンター
政一1)2)
耳鼻咽喉科1)、北里大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
(目的)鼻アレルギー患者の治療では、日常生活の支障における検討の必要といわれている。事実 ARIA で重症度分類に
ついて、睡眠障害が項目に加えられている。しかしながら睡眠障害の評価は、アンケートによるものが多い。近年、前腕の
動きの加速度解析から活動評価を行うアクチグラフが紹介されその有用性を昨年の日本耳鼻咽喉科学会総会にて報告した。
今回スギ花粉症患者の飛散期における、日常および睡眠の活動状態を観察した。
(方法)免疫療法継続療法施行中のスギ花
粉症患者に検査の安全性・重要性を説明のうえ、レスピロニクス社製アクチグラフ2を前腕に装着。花粉飛散期に日常生活
活動量と睡眠状態を観察し、関東地方の花粉飛散量の影響の有無を検討した。患者には第2世代抗ヒスタミン薬と点眼薬の
噸用のみ認めた。
(考察)スギ花粉症患者においては花粉飛散量の変化により睡眠障害が変動する症例も認められた。アク
チグラフによる睡眠および活動量を測定することは鼻アレルギーの QOL 評価に有益と考えられる。
368
スギ花粉症患者における眼症状の出現率
○兵
行義、濱本真一、藤崎倫也
川崎医科大学
耳鼻咽喉科
スギ花粉症には鼻症状が中心であるが、高頻度に眼症状が合併する。しかし近年スギ花粉症における眼症状についての検
討は少ない。今回われわれは2009年∼2013年の5年間にスギ花粉飛散最大飛散期に当院および関連病院を受診し未治療であ
った545名に対して JRQLQ にてアンケート調査を施行し、耳鼻咽喉科を受診した患者の中の眼症状出現率について検討を
した。その結果、86%が眼症状を有していた。また眼のかゆみの方が、涙目の症状よりも症状出現率は高かった。最も花粉
量が少なかった2010年でも73%もあった。少量飛散年でも眼症状は出現することが示唆された。また鼻症状と眼症状は相関
し、眼症状のある方が有意に鼻症状のスコアが悪いことも認められた。花粉症は耳鼻咽喉科だけの疾患ではなく、プライマ
リケアとして多くの科で治療される場合が多いが、今回の検討で、眼症状の出現している花粉症患者は重症である可能性が
高いと判断できること示唆された。
369
花粉飛散室を用いたアレルギー性鼻炎遅発相の検討
○大熊雄介、米倉修二、櫻井大樹、花澤豊行、岡本美孝
千葉大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【背景・目的】アレルギー性鼻炎の症状は、抗原曝露直後には3主徴(くしゃみ、鼻漏、鼻閉)を示す即時相が、6時間
以降は鼻閉を中心とする遅発相がみられるとされているが、
自然環境下ではその検証が十分に行われていない。
本研究では、
花粉飛散室を用いた曝露試験を行い、誘発された症状と鼻腔局所の反応について詳細な検討を行った。
【対象・方法】成人
000個/m3 の3時間連続曝露を行い、花粉飛散室内、退室後に鼻症状
スギ花粉症患者15例に、花粉飛散室でスギ花粉濃度8,
の記録を行った。また入室前、退室直後、退室6時間後に鼻腔生理機能検査と鼻汁を採取し、鼻汁について免疫学的パラメ
ータおよび浸潤細胞の検討を行った。
【結果・考察】鼻症状はいずれも退室6時間後にも認められた。鼻汁中サイトカイン
も退室6時間後で入室前、退室直後よりも有意に上昇しており、退室後のくしゃみ・鼻かみの回数と相関がみられた。遅発
相においても鼻閉のみならず鼻漏、くしゃみもほぼ全例で出現し、ヒスタミンにより鼻漏、くしゃみが惹起されていること
が想定された。
370
ペーパークラフト模型による側頭骨解剖の理解
○平海晴一1)2)、伊藤壽一2)、佐藤宏昭1)
岩手医科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、京都大学
大学院医学研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
外耳道、中鼓室、上鼓室、乳突洞の位置関係および互いの交通路は、平面的な図で理解することは困難である。側頭骨標
本やモデルの削開実習は有用であるが、これらの実習は通常医師および医学部学生のみが対象となる。今回われわれは、側
頭骨解剖理解に対するペーパークラフト模型作成の効果を検討した。言語聴覚士専門学校に通う学生3クラス110名に対し
て ⑴ 講義のみ、⑵ 講義+ペーパークラフト模型作成、⑶ 講義+ペーパークラフト模型作成+模型解説を行った後、側頭
4点、⑵は平均4.
3点、⑶は平均6.
3点であった。ま
骨解剖に関する簡単な試験を行った。その結果、⑴は8点満点で平均4.
6点であ
た、研修医10名に対して解剖の理解度を1∼7点のスケールで自己評価してもらったところ、模型作成前は平均2.
ったのが、作成後は4.
9点と改善した。なお、今回用いたペーパークラフトは下記でダウンロード可能である。
http ://temporalboneanatomy.blogspot.jp/
118―572
371
2015
側頭骨の類骨骨種(osteoid osteoma)
、ならびに骨芽細胞腫(osteoblastoma)
に関するシステマテックレビュー
○日高浩史、甲斐谷徹彰、山内大輔、野村和弘、渡邊健一、川瀬哲明、香取幸夫
東北大学
医学部
耳鼻咽喉頭頸部外科
類骨骨種は若年者の長管骨に好発する良性腫瘍である。われわれは、摂食開始時の左耳前部痛に対する画像検査で発見さ
れた極めてまれな側頭骨の同腫瘍を経験した。病変の摘出によって早期に症状が改善した。
一方、骨芽細胞腫も良性骨形成性腫瘍であり、脊椎や仙骨、大腿骨と並んで頭蓋骨にも比較的認められ、側頭骨発生例は
29例報告されている。類骨骨種とは病理学的に区別が困難とされ、病変の大きさのみが分類手段とされている。そこで、側
頭骨発生例における両者の特徴の差異を検討するため、文献(1960年∼現在)のシステマテックレビューを行った。
2cm(標準偏差 0.
6cm)
、骨芽細胞腫(29例)のそれは 5.1cm(標準偏差 2.
2cm)
類骨骨種(11例)の最大径の平均は 1.
と両群で有意差がみられた。一方、性別や平均年齢、痛みの有無には有意差はみられなかった。病変の部位を乳突洞、鼓
室、錐体尖、側頭骨鱗部に分類した場合、前者はすべてこの中の1部位に留まるのに対し、後者は2箇所以上の部位に進展
する例が59%を占めた。
372
当院に入院した側頭骨骨折の検討
○戸井輝夫1)、平井良治1)、岡田和也2)、小山京子1)、中村友香1)、足立知司3)、吉田賢作3)
東京都立広尾病院
耳鼻咽喉科1)、日本赤十字社医療センター
耳鼻咽喉科2)、東京都立広尾病院
脳神経外科3)
側頭骨骨折は頭蓋骨骨折の約20%を占める。受傷機転によって骨折様式は異なる。側頭骨には中耳、内耳、顔面神経およ
び耳管などが含まれ、さまざまな臨床症状を示す。高エネルギー外傷によるものは側頭骨以外の骨にも外傷が及んでいるこ
とが多く、初療の多くは救命科や脳神経外科で行い、耳出血、難聴、めまい、髄液耳漏また顔面神経麻痺などを来した場合
に耳鼻咽喉科に依頼される。今回、われわれは平成21年4月から平成26年10月までに当院の救命科および脳神経外科に入院
した、外傷で側頭骨骨折を来した症例のうち、死亡例を除く74例について検討を行った。対象は男性61例、女性13例、年齢
8歳であった。原因としては、交通外傷、転倒・転落が多く、特に飲酒後が多かった。骨折線
は5∼93歳で、平均年齢は45.
のタイプとしては縦骨折のみが93%であった。受傷部位、骨折の状態、症状、合併症などについても検討を行った。
373
infralabyrinthine petrosectomy―下方進展型外耳道癌に対する新しいアプローチ
○濱田昌史、酒井昭博、大上研二、飯田政弘
東海大学
医学部
耳鼻咽喉科
外耳道癌は比較的まれな悪性腫瘍であるが患者は確実に存在する。その治療については手術が第一選択とされており、外
耳道内に留まる場合には lateral petrosectomy が、中耳(鼓室・乳突腔)に進展する場合には subtotal petrosectomy が術式
として選択される。
前者では顔面神経および内耳・内耳神経ともに温存されるが、
後者が選択されればいずれも犠牲となり、
良好な生命予後を得られたとしても患者の術後 QOL は著しく低下する。今回われわれは、下方は耳下腺内、前方は下顎関
節、後方は乳様突起に進展した外耳道癌(T4) 症例に対して蝸牛および三半規管を温存し、迷路下で乳突蜂巣を削開、第
2膝部で顔面神経を切断、subfacial cell から下鼓室を開放、前方は頬骨弓を切断、下方は下顎角で下顎骨を切断、下顎関節
とともに耳下腺も含めて外耳道を全摘した。顔面神経頬骨枝を神経再生誘導チューブ(ナーブリッジⓇ)を用いて再建、腹
直筋皮弁にて閉鎖した。術後経過は良好で、めまい・ふらつきは認めない。
374
外側側頭骨切除における鼓室前壁処理の一工夫∼鼓索神経追跡法∼
○長谷川信吾、山下大介、丹生健一
神戸大学
大学院
医学研究科
外科系講座
耳鼻咽喉科頭頸部外科学分野
外耳道癌に対して行う外側側頭骨切除は鼓膜とツチ骨をつけて外耳道を筒状に摘出する術式であり、鼓室や乳突蜂巣、顎
関節に進展していない早期癌が良い適応となる。外耳道癌症例では乳突蜂巣の発育が良好である場合が多く、術者が耳科手
術に精通していれば、乳突削開や上鼓室開放、後鼓室開放、顔面神経の同定・温存の操作は比較的容易である。一方、顎関
節包の削開や前鼓室の開放による鼓室前壁の処理については、詳細を言及した手術書が少なく、この手術以外で同様の操作
をする機会も少ないことから難渋することがある。これは解剖学的に鼓膜の前方が内側に傾斜しているため後方と比較して
術野が深いことや関節突起と外耳道前壁の空間が狭いことが関係していると考える。今回は、当科での手術経験から得た知
見として、鼓索神経の追跡による鼓室前壁処理の工夫を提示する。
118―573
日耳鼻
375
リン酸カルシウム骨ペースト状骨充填材による側頭骨外科手術使用経験
○山田武千代、齋藤杏子、嶋田理佳子、加藤幸宣、木村幸弘、菅野真史、扇
和弘、伊藤有未、坂下雅文、
藤枝重治
福井大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
平成21年6月から本学会登録締め切りまでリン酸カルシウム骨ペースト状骨充填材「バイオペックス」を用いた側頭骨外
科手術を181例経験した。今回はその代表的な5症例を提示する。⑴ 人工内耳埋め込み術後に顔面痙攣と中耳真珠腫を生じ
た再手術症例。⑵ 正円窓アプローチによる人工内耳埋め込み術症例。⑶ 前庭神経鞘腫に対する中頭蓋窩法症例。⑷ メニ
エールに対する前庭破壊術症例。⑸ Hunt 症候群に対する中頭蓋法および経乳突洞法の症例である。リン酸カルシウム骨ペ
ースト状骨充填材による乳突洞充填の使用時間は、骨片、固形人工骨片に比べ有意に短かった。使用時に粉剤と液剤を混合
して使用し、生体内に充填するまでは流動可能なペースト状で、注入器等を用い骨内への注入が可能である。充填後は早期
に硬化し、必要とする部位に留置できるという特徴を有しており、さまざまな側頭骨外科手術に適していると考えられる。
376
当科における同時併用化学放射線療法後の嚥下機能および体重変化に関する検討
○米澤宏一郎、岩江信法、平山裕次、松居秀敏、林
兵庫県立がんセンター
拓二、蓼原
瞬
頭頸部外科
【はじめに】近年、晩期の嚥下障害の観点から、化学放射線療法時の予防的胃瘻造設に否定的な報告が散見されるように
なった。そこで、化学放射線療法直後、半年後の嚥下機能、体重変化と予防的胃瘻の有無との関連について検討を行った。
【対象】2010年12月から2014年5月の間に初回治療として当科で高用量シスプラチンを用いた化学放射線療法を行った
【結果】10例(50%)で予防的胃瘻が造設された。治療直後
Stage II・III・IV の中・下咽頭扁平上皮癌20例を対象とした。
には19例(95%)で経口摂取不可または代替栄養が必要な状態であったが、治療半年後には19例(95%)で経口摂取可能と
なった。治療直後では胃瘻の有無で体重減少に差は認めなかったが、治療半年後では胃瘻造設した症例で有意にさらなる体
重減少を認めた。
【結論】化学放射線療法時の予防的胃瘻造設が晩期の嚥下障害を来すかどうかは中長期的な観察が必要で
あるが、少なくとも予防的胃瘻がなくても治療半年後の嚥下機能に支障はなく、体重減少も抑えられた。
377
咽喉頭癌に対する化学放射線療法における治療前胃瘻造設の功罪
○下野真理子1)、丸尾貴志2)、平松真理子1)、西尾直樹1)、小出悠介1)、須賀研治1)、飯田達夫1)、森
1)
遥子1)、
1)
箕浦千恵 、藤本保志
耳鼻咽喉科1)、国立がん研究センター東病院2)
名古屋大学医学部附属病院
咽喉頭癌の化学放射線療法では栄養摂取を維持しつつ放射線治療を継続するために治療前の胃瘻造設が標準とされている
が、近年治療後の高い胃瘻依存率などの問題点が指摘されている。そこでわれわれは2010年1月∼2014年9月に当院で咽喉
頭癌に対する化学放射線療法(シスプラチン使用)を行った48症例(胃瘻造設群19例、非造設群29例)について治療前胃瘻
造設群と非造設群との間で比較検討を後方視的に行った。治療前胃瘻造設群では治療後1カ月で経管使用、経口摂取不良例
が多くみられたが、治療後6カ月、1年といった長期経過では経管栄養依存は多くなかった。2群間で体重減少、肺炎発症、
治療完遂率に差はみられず、治療前胃瘻造設は治療途中での経鼻胃管挿入に比べて治療成績・予後の観点で必ずしも優れて
いるとはいえない。
378
頭頸部癌治療における経皮内視鏡的胃瘻増設術(PEG)症例の検討
○佐藤雄一郎、植木雄志、森
香織
新潟県立がんセンター新潟病院
頭頸部外科
【目的】当科で放射線化学療法(CRT)および緩和治療に利用した経皮内視鏡的胃瘻増設術(PEG)症例を検討した。
【対
【結果】男性61、女性12、平均年齢67.
1歳
象】2008年4月から2014年11月の PEG 施行症例73(CRT61、緩和12)
上咽頭6、中咽頭18、下咽頭31、喉頭11、口腔4、唾液腺3
亜部位 :
病理組織 : 扁平上皮癌67、その他6 PEG 使用の有無 : 使
用例57、輸液併用11、未使用5(上咽頭2、中咽頭1、下咽頭1、口腔1)治療後の食形態(CRT 症例): 常食29、経口制
限15、PEG 依存15、不明2 PEG 抜去時期 : 3カ月以内26、4∼6カ月5、7∼12カ月5、未抜去15(腫瘍残存再発10、
3% BMI 低下割合12.
4%
嚥下障害5)体重減少割合 : 10.
PEG 開始時照射量(平均)28.3Gy 治療完遂率95.
1%【まと
め】頭頸部癌 CRT 症例における PEG の利用は、安定した代替栄養ルートおよび治療完遂性を高める点で推奨できる。
118―574
379
2015
咽頭食道重複がん治療における嚥下機能
○小川武則1)、中目亜矢子1)、嵯峨井
俊1)、東
賢二郎1)、石井
亮1)、河本
愛1)、荒川一弥1)、加藤健吾2)、
1)
香取幸夫
東北大学
病院
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、宮城県立がんセンター
頭頸部外科2)
下咽頭癌と食道癌の重複癌発生は、増加しているとの報告があり、ALDH2 欠損型が40%と報告されているアジア人にお
ける、重要な頭頸部発癌機序である。実際、日常診療においても同時性・異時性重複癌にしばしば遭遇する。重複がん治療
においては、発生順序、部位による治療に工夫が必要であること多いが、頭頸部重複癌のうち、最多である咽頭+食道癌治
療は、食道癌が内視鏡切除できない場合には、術後の QOL の維持を含めた治療に難渋することが多い。今回われわれは、
咽頭、食道重複癌に対し、食道抜去、胃管挙上を行った後に外切開による下咽頭部分切除(1例は両側梨状陥凹切除)
、経
口的咽頭部分切除を施行し、放射線治療も施行した、2例の咽頭、食道治療中の嚥下機能評価を行った2症例を報告すると
ともに、当科における咽頭、食道重複癌(内視鏡切除症例を除く)症例における、喉頭温存治療前後の嚥下機能、治療後の
栄養ルートなどにつき、評価を行ったため報告する。
380
頭頸部癌患者における悪液質と終末期管理
○松塚
崇、鈴木政博、西條
聡、池田雅一、今泉光雅、野本幸男、松井隆道、多田靖宏、大森孝一
福島県立医科大学耳鼻咽喉科学講座
癌終末期には悪液質を伴うことが知られており、悪液質の観点から CRP、血清アルブミン値を基に分類する Glasgow
prognostic score(GPS)が提唱され、わが国では三木らが大腸癌患者の ROC 解析から CRP が 0.5mg/dl 以上、血清アルブ
ミン値が 3.
5g/dl のときに悪液質と規定する報告(三木の GPS)がある。
今回われわれは2009年から14年までの期間に当科で死亡退院した頭頸部癌患者31名を対象に三木の GPS を基に悪液質の
状況を追跡した。規定された悪液質群に含まれたのは28例(90%)で、このうち3例(10%)は初診時から悪液質群であっ
た。悪液質の期間は5から515日で中央値51日、平均93日であった。
三木の GPS は頭頸部癌患者の終末期管理の目安となる可能性がある。
381
末期状態となった頭頸部癌患者の予後予測因子の検討
○川崎泰士、和佐野浩一郎、山本さゆり、富里周太
静岡赤十字病院
耳鼻咽喉科
癌末期患者にとって残された時間は非常に大切でありさまざまな予後予測が行われ、確立されつつある。しかし、癌患者
総数の中で頭頸部癌患者が占める割合が大きくないことやさまざまな部位別に腫瘍が詳細に分類されていることから、頭頸
部癌において予後を予測する試みは少なく確立された方法はない。一方、頭頸部癌には嚥下や気道閉塞など生命の根幹に強
く関係する機能や、大血管が近接する解剖学的位置関係といった特徴があり、他領域の癌とは異なる独自の予後予測方法が
存在する可能性が考えられる。予後の長い甲状腺癌を省き、当院で2010年4月から2014年4月までの5年間で、さまざまな
治療の後に末期状態となった頭頸部癌症例で再発から死亡までの日数を後ろ向きに検討し、再発時のさまざまなデータ(年
齢、検血データ、病期など)から末期患者に残された時間を予測できないか統計学的検討を試みたので、文献的考察を踏ま
えて報告する。
382
甲状軟骨、舌骨の形態異常により頸部クリック音を呈した一例
○児嶋
剛、庄司和彦、堀
天理よろづ相談所病院
龍介、岡上雄介、藤村真太郎、奥山英晃、小林徹郎
耳鼻咽喉科
嚥下時に頸部クリック音を呈する症例として舌骨の過長や肥厚があり頸椎と接触していた症例や、甲状軟骨の舌骨への嵌
入例、甲状軟骨と舌骨大角の間の化骨症例などいくつか報告されているが個々の症例は原因が異なりいずれも非常にまれで
ある。今回われわれは甲状軟骨、舌骨が共に形態異常を来しているために頸部クリック音を呈した一例を経験したので報告
する。症例は57歳男性。1年前より嚥下時に音が鳴り徐々に悪化してきたため受診。異常音は左頸部で聞こえるクリック音
であり画像所見では舌骨左側の過形成を認めた。舌骨の過形成が主な原因と考えられたが術前に病因を特定することはでき
ず局所麻酔下に手術を行った。まず肥大する肩甲舌骨筋および胸骨舌骨筋を切断したが症状に変化はなく、頸椎と接触して
いたやや過長であった左側の舌骨大角を切除したところ症状は少し軽快した。さらに頸椎と干渉していた甲状軟骨の上角を
切除し症状が消失した。非常にまれな症例であったが症状を確認しながら局所麻酔下に手術を行うことで適切な治療を行う
ことができた。
118―575
日耳鼻
383
DICOM viewer を用いた喉頭枠組み手術の術前プランニングの有用性に関する検討
○原
浩貴、堀
山口大学大学院
健志、山下裕司
医学系研究科
耳鼻咽喉科学分野
DICOM は CT・MRI・内視鏡・超音波などの医用画像診断装置、医用画像システム、医療情報システムなどの間で医用
デジタル画像データや関連する診療データの通信、保存の国際的な標準規格であり、現在の医療における画像利用・管理に
おいて中心的な役割を果たしている。この DICOM データは、DICOM viewer を用いることで、パソコン上で自由に画像を
閲覧でき、さらに関心領域を指定すれば3次元構築も可能である。当科においては、2008年より高機能 DICOM ビューアの
使用を開始し、耳、鼻副鼻腔、頭頸部腫瘍など各領域において術前プランニングの際にパソコン上での解析を行っている。
今回われわれは、DICOM viewer を用いた喉頭枠組み手術の術前プランニングの有用性を確認するために、DICOM
viewer を用いた喉頭枠組み手術の術前プランニングを行い手術を施行した反回神経麻痺の5症例において、手術時間の短
縮が得られたか、術後音声改善に寄与したか等につき検討を行ったので文献的考察を加えて報告する。
384
ラパヘルクロージャーTM を用いた Ejnell 法
○阿部晃治、島田亜紀、武田憲昭
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部
耳鼻咽喉科学分野
Ejnell 法は両側声帯麻痺が正中位で起こった場合に行われる術式である。この方法は経験を要する上に、糸の結び目を甲
状軟骨から引き出す際に糸が切れることも少なくない。多くの施設でさまざまな工夫が行われ報告されている。
当科では牽引糸を簡単に誘導する目的でラパヘルクロージャーTM を用いている。ラパヘルクロージャーは腹腔鏡下に縫
合糸を誘導する目的で使用されており、約 1.5mm の針の内腔に糸を把持するためのループワイヤー構造が付いている。構
造的には鼻茸絞断器と同じである。甲状軟骨より声帯の上下面にラパヘルクロージャーを刺入し、喉頭内でループワイヤー
を広げる。喉頭直達鏡下に経口腔的に2―0プロリン糸を両ループワイヤー内に通し、ループワイヤーのみを引き抜くこと
により容易に糸を喉頭外へ導くことができる。この方法では、糸を1本しか用いず、簡単にループ内に通すことが可能であ
る。そのため、短時間に行え、糸が切れる心配は少ないと考えている。症例を提示して詳細を報告する。
385
Type I Thyroplasty Implant System の開発
○松島康二1)2)、井上彰子1)、細野祥子1)、鹿島由貴1)、松浦賢太郎1)、佐々木優子1)、枝松秀雄1)
東邦大学医療センター大森病院
耳鼻咽喉科1)、国際医療福祉大学
東京ボイスセンター2)
甲状軟骨形成術I型は声帯を内方に移動する手術であり、声帯麻痺に代表される発声・嚥下時の過剰な声門間隙を改善す
る目的で行われる。この手術が行われるようになった当初、内方に移動した声帯の固定にはシリコンブロックが用いられて
いたが、本邦では Gore―tex に代表される ePTFE シートを折り込んで声帯を移動・固定する方法もその扱いやすさから広く
行われている。
海外には既製のインプラントが複数存在し、シリコン製インプラントとして Montgomery Thyroplasty Implant System
が、ハイドロキシアパタイト製インプラントとして VoCoM が、そしてチタン製インプラントとして TVFMI、ThyroProtip
が使用されている。
われわれも甲状軟骨形成術I型専用チタンプレートを開発し、その効果を第115回日本耳鼻咽喉科学会学術講演会(福岡)
において報告した。今回このチタンプレートを挿入する際の、甲状軟骨の開窓およびチタンプレートによる内方移動の調節
操作を円滑にするための器具を製作したため、その使用経験を報告する。
386
当院における喉頭形成術
○廣芝新也1)、田邉正博1)2)、一色信彦1)2)、荻野枝里子1)、田村芳寛1)、岩永迪孝1)
ひろしば耳鼻咽喉科・一色記念ボイスセンター1)、小松病院2)
当院では2011年10月より、短期入院での喉頭形成術を行っている。内訳は、一側声帯麻痺に対する甲状軟骨形成術1型や
披裂軟骨内転術、痙攣性発声障害に対する2型、変声障害や GID に対する3型、声帯不全麻痺や GID に対する4型であ
る。過去3年間で150症例以上の手術を行っているが、演題発表ではそれぞれの詳細について動画を交えて供覧する。
118―576
387
2015
当科における bFGF を用いた声帯内注入術―注入回数、注入部位による検討―
○鈴木啓誉1)、牧山
清1)、高根智之1)、平井良治2)、松崎洋海1)、古阪
1)
徹3)、大島猛史3)
2)
日本大学病院 、都立広尾病院耳鼻咽喉科 、日本大学医学部付属板橋病院耳鼻咽喉科3)
ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor : bFGF)は創傷部位における良性肉芽の形成および上皮
化を促進することで創傷治癒を促す。声帯内注入術において bFGF の有用性は既に明らかになっている。われわれは2012年
より声門閉鎖不全を呈している患者に対し bFGF の声帯内注入術を開始し、経時的に高速デジタル撮影を行っている。手術
は経口で行い、注入物質は科研製薬製フィブラストスプレー250Ⓡ を希釈し、250μg/ml としたものを用いた。片側におよそ
25μg∼75μg を粘膜固有層浅層あるいは筋層に注入した。2年間で28名の患者に対し声帯内注入術を行い、術後3∼12カ月
間経過観察した。経過中、再手術が必要になった症例は7名のみであった。高速デジタル撮影から得られた、声門間隙、振
幅、位相差などについて画像解析を行った。これによって効果の程度を数値化し注入回数、注入部位による効果発現の差異
について検討する。
388
鼻茸線維芽細胞におけるコリントランスポーターの同定とその機能解析
○一瀬和美1)、野中
学1)、稲津正人2)、瀬尾友佳子1)、吉原俊雄1)
耳鼻咽喉科1)、東京医科大学医学部総合研究所2)
東京女子医科大学
慢性副鼻腔炎や肺線維症では線維芽細胞の異常増殖が観察されており、異常増殖の機序は不明である。コリンは細胞にと
って必須栄養素であり、細胞膜のリン脂質合成に利用されており、近年、コリン代謝と細胞増殖の関連性が注目されている。
今回、慢性副鼻腔炎に伴う鼻茸より単離した線維芽細胞におけるコリントランスポーターの同定とその機能解析を行った。
鼻茸線維芽細胞は、Na+ 非依存性のコリン取り込み作用を示し、高親和性と低親和性の2種類の取り込み機構が存在して
いた。コリン取り込み作用は、細胞外 pH の酸性化で抑制されアルカリ化で増強したことより、H+との交換輸送であると
考えられる。また、choline transporter―like protein 1(CTL1)および CTL2 の mRNA が高発現していた。コリン除去培地で
培養すると、アポトーシスによる細胞死が誘導された。
以上の結果より、鼻茸線維芽細胞には CTL1 および CTL2 が機能発現しており、コリンを積極的に取り込むことで細胞増
殖に利用していることが示唆される。
389
抗菌活性を有しない新規マクロライド誘導体の鼻茸線維芽細胞に対する増殖抑制効果の検討
○坂林美喜子1)、野中
学1)、稲津正人2)、瀬尾友佳子1)、吉原俊雄1)
耳鼻咽喉科1)、東京医科大学
東京女子医科大学
医学総合研究所2)
マクロライド療法が慢性副鼻腔炎に有効であることが知られている。これは14員環マクロライド系抗菌薬の抗炎症作用に
よると考えられているが、耐性菌を誘導するという欠点もある。慢性副鼻腔炎の鼻茸には増殖した多くの線維芽細胞が存在
し、サイトカインなどを産生することで炎症反応に深く関与している。本研究では抗炎症作用を有し抗菌活性の無い新規マ
クロライド誘導体を用い、鼻茸線維芽細胞に対する増殖抑制効果を検討した。
【方法】鼻茸より単離、培養した線維芽細胞の培養上清に各種濃度の薬物を添加し、48時間後の ATP 濃度を ATPlite
Assay で計測し細胞数の変化を評価した。さらにアポトーシスのシグナル伝達を構成する Caspase―3/7 活性を Caspase―
GloTM 3/7 Assay で計測し、増殖抑制が細胞死によるものかを検討した。
【結果】新規マクロライド誘導体は有意差をもって
【結語】抗菌活性の無い新規マクロライド誘導体は鼻茸線維芽細胞の
ATP 濃度を抑制し、Caspase―3/7 活性を増加させた。
増殖を抑制し、さらにアポトーシスを誘導することが確認された。
390
鼻茸分離細胞を用いた好酸球性副鼻腔炎実験モデルにおける TLR2 の役割に関する検討
○檜垣貴哉、岡野光博、春名威範、野山和廉、假谷
岡山大学大学院
医歯薬学総合研究科
伸、西
和則
耳鼻咽喉・頭頸部外科学
【はじめに】Toll―like receptor(TLR)は病原体をパターン認識によって識別し、自然免疫系において中心的な役割を果た
している受容体である。これまで、われわれは鼻茸分離細胞(DNPC)を用いた検討により、好酸球性上気道炎における
TLR4 の役割について報告を行ってきた。一方でほかの TLR についてはその役割について十分には解明されていなかった。
そこで、TLR2 のアゴニストである Pam3 を用いて、好酸球性上気道炎における TLR2 の関与について検討を行った。
【目
的】DNPC 産生の各種サイトカインについて、TLR2 を介した制御について解析する。
【方法】鼻茸に各種酵素処理をして、
DNPC を樹立した。DNPC を TLR2 リガンドの Pam3 で刺激後、SEB で刺激培養し、上清中のサイトカインを ELISA で測
定した。
【結果・考察】TLR2 刺激は本モデルにおいて GM―CSF の産生を誘導した。TLR2 の好酸球性上気道炎における役
割について考察する。
118―577
日耳鼻
391
鼻茸組織抽出液による好酸球遊走能の検討―CC chemokaine receptor―3
(CCR3)の役割―
○齋藤秀和、本田耕平、石川和夫
秋田大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科頭頸部外科学講座
【目的】高度な好酸球集積を伴う鼻茸は易再発性であり難治性である。好酸球に高い遊走活性をもつ Eotaxin、RANTES、
MCP―4 などの共通レセプターである CCR3 が重要な役割をもつと考えられている。われわれは末梢血より分離した好酸球
と副鼻腔炎患者より手術にて摘出した鼻茸を用い、遊走能について検討した。
【方法】慢性副鼻腔炎患者12人の手術時に得
られた鼻茸をサンプルとして用い、組織粉砕機にて粉砕し上清を採取し鼻茸抽出液を作製した。また末梢血より CD16negative selection 法にて分離好酸球を用い TAXIscan(リアルタイム細胞動態解析装)にて好酸球の遊走能を観察した。
【結果】
好酸球遊走能は Eotaxin 濃度依存性に高くなった。また、この遊走は CCR3 アンタゴニストにて抑制された。これに対し、
PGD2 刺激での遊走能は CCR3 アンタゴニストにて抑制されなかった。さらに、抽出液による遊走能は抽出液の Eotaxin 濃
度依存性に高くなり、CCR3 アンタゴニストにより抑制された。
【結論】好酸球性副鼻腔炎において Eotaxin―CCR3 系が好
酸球集積に重要な役割をもつと考えられた。
392
ポリープを伴う慢性副鼻腔炎の組織中 T 細胞分布についての検討
○馬場信太郎1)2)、近藤健二2)、籠谷領二2)、金谷佳織3)、鈴川佳吾4)、牛尾宗貴2)、平野真希子2)、山岨達也2)
耳鼻咽喉科1)、東京大学
東京都立小児総合医療センター
東京逓信病院
3)
耳鼻咽喉科 、都立墨東病院
耳鼻咽喉科聴覚音声外科2)、
4)
耳鼻咽喉科 、東京山手メディカルセンター
耳鼻咽喉科5)
好酸球性副鼻腔炎はポリープ中の Th2 および Th2 系サイトカインの上昇や IgE の増多が報告されている。今回われわれ
は東京大学耳鼻咽喉科で内視鏡下鼻内手術を施行した好酸球性副鼻腔炎ポリープ(10例)と非好酸球性慢性副鼻腔炎ポリー
プ(11例)、コントロールとしての非副鼻腔炎症例の鉤状突起(7例)について、各組織から RNA を抽出し、定量 PCR に
て各T細胞(Th1、Th2、調節性T細胞(Treg)
)の誘導因子(Tbox21、GATA3、Foxp3)の mRNA 発現量を検討した。非
好酸球性副鼻腔炎群ポリープでは好酸球性副鼻腔炎群と比較して Th2 の上昇、および好酸球性副鼻腔炎群では他群と比較
し Th2 の低下をを認めた。また、非好酸球性副鼻腔炎群では、好酸球性副鼻腔炎群、コントロール群と比較し Treg の上昇
を認めた。Th1 は各群で有意差を認めなかった。好酸球性副鼻腔炎群は欧米の報告と同様、Th2 サイトカイン上昇は認める
が、Th2 の低下を認め、非好酸球性副鼻腔炎群は特徴的なT細胞分布を示しており、日本をはじめとするアジア特有の疾患
である可能性が示唆された。
393
慢性副鼻腔炎における 2 型自然免疫リンパ球(ILC2)の関与についての検討
○宇野匡祐1)、松脇由典1)、大村和弘1)、林
東京慈恵会医科大学
医学部
映伽1)、小島博己1)、鴻
信義1)、紀太博仁3)
1)
耳鼻咽喉科学教室 、富士市立中央病院耳鼻咽喉科2)、メイヨークリニック3)
近年、新たなリンパ球集団として自然免疫リンパ球(ILCs)が同定され、中でも ILC2 は強力な好酸球性炎症を誘導する
可能性がある。今回、われわれは副鼻腔内の ILC2 が好酸球性副鼻腔炎(ECRS)における好酸球性炎症を誘導すると仮説
し、鼻茸(鼻粘膜)内の ILC2 の発現と分布、サイトカイン環境に関する検討を行った。対象は当院で手術した ECRS、非
好酸球性副鼻腔炎(NECRS)の患者で、末梢血単核細胞(PBMC)と鼻茸(鼻粘膜)を採取し、フローサイトメトリーを
用いて ILC2 を測定した。また、鼻茸(鼻粘膜)における ILC2 の分布を調べるため、蛍光免疫染色を行った。ILC2 の発現
に関して、PBMC では ECRS 群、NECRS 群で有意差が認められなかったが、鼻茸
(鼻粘膜)
中では ECRS 群において NECRS
群と比較して有意に上昇していた。蛍光免疫染色では ILC2 は ECRS 群でのみ認められ、鎖状に分布していた。ILC2 は好酸
球性炎症を強力に誘導し、ECRS の病態に関与している可能性が示唆された。
394
エタノール硬化療法が極めて有効であったオスラー病による難治性鼻出血の一例
○内田哲郎、永井裕之
松波総合病院
耳鼻咽喉科
オスラー病による難治性鼻出血症例と有効な治療を経験したため報告する。症例は73歳、女性、反復性鼻出血と10年来の
貧血を主訴に近医より紹介。右鼻腔前方より広範囲に出血がみられ電気凝固やガーゼ圧迫で止血されず輸血のうえ局所麻酔
下に右鼻中隔前方への植皮を試みた。他部位はハーモニックスカルベルにて出血がおさまったためガーゼ圧迫とした。植皮
は生着せず脱落するも出血なく、予防のためエストロゲン軟膏を定期的に塗布することとした。しばらく落ち着いていたが
一カ月後より両側鼻出血の頻度と量が増え、貧血も進行し再度、輸血を要した。右鼻腔の内外側へエタノールを 0.
1cc 数カ
所ずつ粘膜下注射を施行、ほぼ直後から同部の止血を確認した。1、2週間後に隣接部、他部位からの出血を認め、代償性
出血と考えられた。適宜、出血部周辺を凝固することにより止血が得られ大きな潰瘍や穿孔を形成することなく患者 QOL
の改善に寄与した。本法は特別な装置を要することなく強力な止血が得られオスラー病以外の難治性鼻出血についても期待
され得ると考えられた。
118―578
395
2015
当科における鼻出血症入院症例の検討
○池本和希、藤尾久美、井之口
神戸大学医学部附属病院
豪、藤原
肇、小林あかね、由井光子、四宮
瞳、長谷川信吾、丹生健一
耳鼻咽喉・頭頸部外科
鼻出血症は日常診療においてしばしば遭遇する疾患だが、時に止血に難渋し、入院や手術加療を要する。当科では外来で
の保存的治療や鼻粘膜焼灼術で出血が制御できない場合、出血を繰り返し重度の貧血が存在する場合に入院加療を行ってい
るが、入院後の治療として、近年では蝶口蓋動脈焼灼術など、比較的早期に止血を目的とした手術を行う症例が増加傾向に
ある。今回われわれは2008年10月から2014年10月までの期間、鼻出血に対して入院加療を行った症例62例を対象として、年
齢、性別、発症から当院受診までの期間、入院期間、基礎疾患、輸血の有無、出血部位などの項目について検討を行った。
なお対象から術後出血や腫瘍による鼻出血症例は除外した。手術を行った症例は7例あり、蝶口蓋動脈焼灼術が5例、顎動
脈クリッピングが1例、鼻粘膜焼灼術が1例であった。これらの症例について、手術適応や時期を中心に文献的考察を加
え、結果について報告する。
396
当院における鼻出血症例の検討∼ガーゼ留置より焼灼処置を優先した取り組み∼
○藤澤嘉郎
芳賀赤十字病院
2013年1月1日∼2014年12月31日までの2年間に当科外来を受診し加療を行った鼻出血症例77例を検討した。通常観察
(肉眼またはファイバースコープ)で出血点を同定できた症例は48例、ガーゼ浸潤麻酔後に硬性鏡観察で出血点を同定でき
た症例は23例であった。出血点の内訳は、キーゼルバッハ部位およびその周辺49例、中鼻甲介と鼻中隔の間(いわゆる嗅
裂)12例、中鼻道2例、下鼻道3例、その他6例、不明5例であった。出血点が同定できた症例のうち63例に高周波ラジオ
波メス(サージトロン)による焼灼処置を施行した。嗅裂や下鼻道・中鼻道が出血点の場合は焼灼処置にも硬性鏡を使用し
た。これらの症例は通常観察では出血部位不明としてガーゼ留置を行われることが多いが、浸潤麻酔を行い硬性鏡で念入り
に観察を行うことにより出血点を同定することができた。ガーゼ留置は簡便な手技ではあるが、確実な止血には熟練を要し
挿入される患者の負担も大きい。硬性鏡処置は麻酔・観察に時間を要するが出血点が同定できれば確実な止血を行うことが
でき患者の負担も軽いと考える。
397
当科における鼻出血症例の臨床的検討
○藤
さやか、平井美紗都、鳥越暁子、中井貴世子
岡山済生会総合病院
耳鼻咽喉科
鼻出血は、日常頻繁に遭遇するが、ときに止血に難渋し、再出血を来すことも少なくない。われわれは過去に、入院加療
を要した鼻出血症例の検討を行ったが、今回、外来診療例も含めて再度検討・解析を行ったので報告する。対象は2006年1
月から2013年12月までの8年間に鼻出血を主訴に当科外来を受診し、外来または入院診療を行ったのべ1094症例である。外
傷性、腫瘍性、術後性、オスラー病は除外した。再出血は、外来診療でのみカウントし、初診より2週間以内の再診は同一
0歳(1
のイベントとみなした(出血部位が異なるものを除く)
。患者数は942人(男性539人、女性403人、年齢中央値65.
歳∼98歳))で、再出血を来した患者は99人、のべ出血イベント数は251回、外来/入院加療例はのべ1,
007/87症例であっ
た。真に入院加療が必要な項目を抽出する目的で、全体を、外来診療単独群(n=1,
007)、入院加療例のうち経過観察のみ
で退院し得た群(n=8)、外来受診後帰宅させたが結果的に入院となった群(n=22)、それ以外(n=57)の4群に分類
し、検討を行った。
398
若年者舌癌と HPV ウイルス発現の関係
○三木健太郎1)、折田頼尚1)、橘
智靖2)、丸中秀格3)、牧原靖一郎4)、平井美紗都5)、小野田友男1)、西
岡山大学大学院医歯薬総合研究科
独立行政法人国立病院機構
1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科 、姫路赤十字病院
耳鼻咽喉科 、
耳鼻咽喉科3)、
岡山医療センター
独立行政法人労働者健康福祉機構
和則1)
2)
香川労災病院
耳鼻咽喉科4)、岡山済生会総合病院
耳鼻咽喉科5)
中咽頭癌はほかの頭頸部癌に比しアルコール過剰摂取や喫煙歴の無い患者に多く、近年、HPV ウイルスとの関連が良く
知られるようになった。われわれは、アルコール過剰摂取や喫煙歴が無いにもかかわらず若年で舌癌を発症する症例には予
後が悪い印象を抱いているが、今回、その原因の一つとして HPV ウイルスの関与を考え、その発現を検討した。40歳以下
の舌癌患者を若年者群、70歳以上の舌癌患者を高齢者群とし、両者を HPV16免疫染色で検討したところ、有意に若年者群
に強く発現を認めた。一般に、中咽頭癌においては HPV 陽性症例の方がより CRT に反応し予後が良いといわれているが、
舌癌においてはどうなのか考察した。
118―579
日耳鼻
399
進行中咽頭癌における化学放射線療法の治療効果予測
○長谷川昌宏1)、山下
懐2)、上原貴行2)、親川仁貴2)、杉田早知子2)、安慶名信也2)、又吉
宣2)、真栄田裕行2)、
2)
鈴木幹男
県立南部医療センター・こども医療センター
耳鼻咽喉科1)、琉球大学
耳鼻咽喉・頭頸部外科2)
進行中咽頭癌に対して、化学放射線療法(以下 CCRT)の反応と計画的頸部郭清術(以下 PND)の適応予測因子として、
。HPV 陽性は16
ヒト乳頭腫ウイルス(以下 HPV)感染を調査した。対象は39例(男性32、女性7、平均61歳、39∼79歳)
例だったが、これは PCR による HPV―DNA 陽性と免疫組織染色による p16INK4 の過剰検出の2因子で決定した。頸部リンパ
節 N2 以上は、CCRT 終了2∼3カ月後に PND を行った。CCRT non―responder と比較して responder は有意にNステージ
、HPV 陽性が多かった。HPV 陽性例は治療成功期間(以下 TTF)が有意に延長していた(p=0.
040)
。
が低く(N0―N2b)
3%、HPV 陰性が47.
8%だった。3年無病生存期間は HPV 陽性が93.
8%、HPV 陰性が
3年 TTF は各々、HPV 陽性が81.
66.
7%で有意差があった。多変量ロジスティック解析では HPV 陽性で TTF イベントの発生が少なかった(p=0.
041)。し
たがって、HPV 検査と頸部リンパ節病期は進行中咽頭癌例の CCRT の効果予測に有用である。PND は重大な手術合併症な
く行えたので、HPV 陰性例においては、頸部病変の制御に有効な方法であった。
400
当科における中咽頭癌症例の臨床統計
○山崎愛語、福原隆宏、藤原和典、片岡英幸、竹内英二、北野博也
鳥取大学
医学部
感覚運動医学講座
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野
2004年から2013年に当科で一次治療を行った中咽頭癌53症例について検討した。男性45例、女性8例であった。年齢は39
歳から81歳で平均64.
8歳、中央値67歳であった。観察期間は3カ月から126カ月で平均44.
6カ月、中央値39カ月であった。
亜部位分類は側壁型29例、前壁型11例、上壁型9例、後壁型4例であった。病期別の症例数は0期0例、Ⅰ期6例、Ⅱ期11
例、Ⅲ期4例、ⅣA期26例、ⅥB期3例、ⅣC期3例でⅣ期が多数を占めた。全症例の疾患特異的5年生存率は82.
4%で、
3%と比較的良好な結果が得られた。当科での治療方針は、0期、Ⅰ期では可能な限り経口切除で完結すること
Ⅳ期でも74.
を目指している。Ⅲ期、Ⅳ期は主にT因子で治療法を検討し、T2 までは経口切除または化学放射線療法を行い必要によっ
て頸部郭清術を追加している。T3 症例は症例ごとに嚥下機能などを検討し化学放射線治療または拡大切除を選択してい
る。T4a 症例は拡大切除術と遊離再建術を基本としている。
401
当科における中咽頭扁平上皮癌83症例の臨床検討
○関水真理子1)、小澤宏之1)、渡部佳弘1)、伊藤文展1)、冨田俊樹1)、今西順久2)、小川
慶応義塾大学
1)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 、杏林大学
医学部
郁1)
2)
耳鼻咽喉科
2005年から2013年までに当科で初回治療を受けた中咽頭扁平上皮癌83症例を対象として検討を行った。性別は男性68例、
3歳であった。症例の内訳は、亜部位は側壁が48例で最も多く、前壁24例、上壁6例、後壁5例
女性15例で平均年齢は63.
で、ステージ別では1 : 9例、2 : 13例、3 : 6例、4a : 51例、4b : 4例であった。初回治療としては、手術48例、化学
0%、5年無病
放射線療法25例、単独放射線療法9例、化学療法1例であった。全体の治療成績は疾患特異的5年生存率76.
生 存 率65.
5%で、ス テ ー ジ 別 で は1 : 100%/88.
9%、2 : 66.
7%/66.
7%、3 : 76.
0%/100%、4a : 76.
0%/62.
6%、4b :
37.
5%/0.
50%であった。中咽頭癌は、HPV 感染の有無が重要な予後因子とされており、今回の検討では p16 蛋白の検出を
HPV 感染の代用マーカとして、組織評価の可能であった症例に対し p16 免疫染色を行いその結果と治療成績についても検
討を行った。HPV 感染を含め、喫煙量、治療方法、導入化学療法の有無、T因子、N因子などについて検討し、若干の文
献的考察を加えて報告する。
402
中咽頭癌における HPV 感染と喫煙が及ぼす影響についての検討
○新橋
福岡
渉、川端一嘉、三谷浩樹、米川博之、福島啓文、佐々木
修、日高竜太、濱
がん研有明病院
孝憲、太田久幸、上里
徹、瀬戸
陽、神山亮介、蛯名
彩、
迅、近藤貴仁、服部雅優、小幡和史
頭頸科
【はじめに】中咽頭癌における HPV 関連癌は非関連癌に比べて予後良好と報告されているが、さらに喫煙の影響を加味
した報告も注目されている。
【方法】中咽頭癌において HPV 検索を実施した114例について検討した。生検プレパラートか
ら DNA を抽出し、LAMP 法(クリニチップ HPV)による型判定を実施した。
【結果】115例中60例(52%)が HPV 陽性で
あり、型別には16型 : 51例、35型 : 5例、18型 : 2例、59型 : 2例、33型 : 1例、51型 : 1例、58型 : 1例(重複あり)で
あった。病期別には、Stage I : 7例、Ⅱ : 16例、Ⅲ : 13例、Ⅳ : 78例であった。疾患特異的5年生存率は HPV 陽性例で
84%、HPV 陰性例では75%であった。HPV 陽性例における Smoking status 別の疾患特異的5年生存率は Never smoker で
100%、Smoker で74%であり統計学的有意差を認めた(p<0.05)
。HPV 陰性例では Never smoker で81%、Smoker で74%
であり統計学的有意差を認めなかった。
【結論】HPV 陽性例において喫煙者は有意に予後不良であったが、HPV 陰性例に
おいては喫煙者、非喫煙者で有意な差を認めなかった。
118―580
403
2015
NBI 内視鏡の経口腔的観察の有用性について
○酒井昭博、大上研二、飯田政弘
東海大学
医学部
耳鼻咽喉科
頭頸部腫瘍センター
通常耳鼻咽喉科内視鏡検査は鼻から挿入して行う。しかしそれでは接線方向となる咽頭後壁や口蓋弓に隠れている扁桃、
舌扁桃溝などは大きな病変でないと視認することが難しい。そこでわれわれは通常の鼻からの観察に加え、上部消化管内視
鏡のように口から観察することを行っている。NBI 内視鏡を用いれば通常では視認できないような病変が発見可能となる。
過去にわれわれは原発不明癌の原発検索に新しい光学機器と頭位の工夫を用い、原発巣の検出率を上げることが可能であっ
たと報告した。それは主に下咽頭をみる工夫を行ったことで下咽頭癌の検出率が上がったためと考えたが、中咽頭癌の検出
率には差がなかった。そこで中咽頭癌の検出率を上げるため、NBI 内視鏡を経口腔的に用いて中咽頭を観察する方法を行
うこととした。その結果、通常視診では視認できなかった微小癌をいくつか検出することが可能であった。今回はその画像
所見の提示、ならびに以前われわれの検出率と比較し検出率を上げることが可能であったかどうか、若干の文献的考察を加
え報告する。
404
Narrow band imaging 拡大内視鏡を併用した経口的ロボット支援手術
○石川征司、楯谷一郎、平野
京都大学大学院医学研究科
滋、北村守正、坂本達則、岸本
曜、伊藤壽一
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
da Vinci での経口的ロボット支援手術は近年、良好な局所制御と術後の嚥下機能が報告されてきており、2009年に FDA
で認可されたのを皮切りに世界的に急速に普及している。当科では早期咽喉頭癌に対して ELPS を行う際、Narrow band
imaging
(NBI)拡大内視鏡を用いて腫瘍の広がりや切除範囲の決定を行っている。da Vinci では 3D 内視鏡での視野で手術
を行うことができることが大きな利点であるが、ELPS で用いる NBI や拡大内視鏡は現在の所、実装されていない。2014年
より当科で開始した咽喉頭癌に対する経口的ロボット支援手術では NBI 拡大内視鏡を併用している。現在まで5例の咽喉
頭癌に対して同術式を行った。経口的ロボット支援手術時に NBI 拡大内視鏡を用いることで微細な表在癌まで明らかにす
ることができ、より確実な切除範囲の決定が可能となる。このことは嚥下機能や発声機能の温存に寄与するのではないかと
考えられる。
405
下咽頭、中咽頭表在癌に対する Endoscopic laryngo―pharyngeal surgery(ELPS)の検討
○久保田
彰、古川まどか、木谷洋輔、堀
神奈川県立がんセンター
由希子
頭頸部外科
中・下咽頭、喉頭癌の経口腔的手術は外切開手術と同等の生存率で合併症が少なく機能温存治療の選択肢の一つとなって
いる。当科では2011年から下咽頭、中咽頭表在癌の cN0 に Endoscopic laryngo―pharyngeal surgery(ELPS)を29例(男性28
例、女性1例)
、34病変に施行した。ELPS の有用性を生存率、合併症から評価した。年齢の中央値は69歳(57∼80)
、下咽
、中咽頭が6例(PW 5例、LW 1例)で、喫煙は25例、飲酒が28例で二次癌
頭が23例(PS 19例、PC 1例、PW 3例)
5分(20∼
は26例であった。pT は CIS/1/2/3 が15/5/7/2例、cN は 0/2b が28/1例であった。手術時間の中央値は75.
260)で気管切開、術後出血、嚥下障害はなかった。切除断端陰性は11例、陽性は13例、不明は10例で、術後照射を生検の
4カ月(0.
7∼45.
7)で再発はないが、3例が他癌あるいは他因死
みの1例を含め2例に施行した。生存期間の中央値は22.
した。2年の生存率は CIS が92%、T1―3 が89%であった。下咽頭、中咽頭表在癌の ELPS は進行癌を予防し、合併症も少
なく放射線治療を回避し良好な生存率をもたらす。
406
咽喉頭癌に対する経口的ロボット支援手術の安全性・有効性に関する多施設臨床試験
○楯谷一郎1)、石川征司1)、清水
1)
坂本達則 、岸本
京都大学
大学院
1)
曜 、鈴木
顕2)、藤原和典3)、伊藤博之2)、福原隆宏3)、平野
2)
3)
滋1)、北村守正1)、
1)
衞 、北野博也 、伊藤壽一
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、東京医科大学
耳鼻咽喉科2)、鳥取大学
耳鼻咽喉・頭頸部外科3)
経口的ロボット支援手術は2009年に FDA で認可されたのを皮切りに、咽喉頭癌に対する次世代の術式として世界的に広
く普及してきているが、本邦では手術支援ロボットダビンチの耳鼻咽喉科領域での使用は薬事未承認の状態である。本研究
は経口的ロボット支援手術への適応拡大(公知申請)を目的とし、厚生労働省科学研究支援事業として京都大学、東京医科
大学、鳥取大学の3大学で平成25∼28年度にかけて ICH―GCP 下に多施設臨床試験を行うものである。現在先進医療申請中
であり、2014年11月の技術審査部会において条件付き適応の評価を得ている。また先進医療に先立って、本試験と同一プロ
トコールで京都大学において先行研究を開始しており、現在までに5例を実施した。なお、京都大学で進めている「咽喉頭
癌に対する経口的ロボット手術支援法」が2014年10月に関西圏における国家戦略特区プロジェクトとして認定されている。
本臨床試験の途中経過ならびに今後のロードマップについて報告する。
118―581
日耳鼻
407
下咽頭癌での喉頭温存下咽頭部分切除術後の再燃
○中溝宗永、横島一彦、稲井俊太、酒主敦子、粉川隆行、加藤大星、大久保公裕
日本医科大学付属病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】外切開による喉頭温存下咽頭部分切除術では、多くの報告で再燃も決して少なくないとされる。そこで原発
巣とリンパ節の再燃様式について、自験例の検討を行った。
【対象】1997年1月から16年間の下咽頭癌17例(原発不明癌で
頸部郭清術を先行し、のちに原発巣が下咽頭と判明した2例を含む)で、すべて男性、年齢は52∼73歳であった。亜部位は
梨状陥凹(PS)/後壁(PW)
=11/6、TN 分類は T1/2/3=5/8/4、N0/1/2/3=8/1/7/1(原発判明例は N0)例で、観察期間
【結果】原発巣の再燃は3例で、PS1 例で患側口蓋
は8∼185(中央値70)カ月、生存例の最短観察期間は30カ月であった。
扁桃に再発し、ほかの2例は下咽頭内重複と考えられる健側 PS 再燃で、経過中に上部消化管の多重癌も認めた。リンパ節
再発は PS が2例、PW が4例の計6例で、そのうち PS の1例と PW の3例は外側咽頭後リンパ節(LRPN)再発であっ
た。【考察】部分切除術後の再燃は、多重癌症例での下咽頭内重複と PW 症例での LRPN 再発が多く、これらを早期に発見
して加療すべきと考えた。
408
下咽頭癌(梨状陥凹)における Metabolic Tumor Volume と予後との相関
○矢吹健一郎、荒井康裕、佐野大佑、小松正規、塩野
横浜市立大学附属病院
理、高橋優宏、西村剛志、田口亨秀、折舘伸彦
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
頭頸部癌患者の一次治療前に施行された FDG―PET および PET/CT を用いて三次元的に計測した病巣の体積は Metabolic
Tumor Volume
(MTV)と呼ばれる。今回われわれは下咽頭癌(梨状陥凹)症例の MTV 値と予後との関連を後ろ向きに検
討した。対象は2004年4月から2012年9月に当院で一次治療として放射線治療を施行した100例(うち99例は化学療法併用)
で、病期は Stage I : 7例、Stage II : 12例、Stage III : 18例、Stage IV : 63例であった。一次治療後の治療効果は CR : 71
例、PR : 29例で、観察期間内での無病無再発生存例は52例で観察期間の中央値は60カ月であった。MTV 計測の根拠となる
5とした場合、ROC 解析により無病無再発に関する MTV の最適閾値は 15.
6ml と算出された。低
SUV 値の cut―off 値を2.
7%、27.
0%であり、2群間に有意差(p<0.
0001)を
MTV 群(50例)と高 MTV 群(50例)の5年無病無再発生存率は67.
認めた。以上から下咽頭癌(梨状陥凹)患者における治療前の原発巣 MTV 値は予後予測因子となり得ると考えられた。
409
過去20年間の下咽頭癌の疾患構成と予後の変化
○鈴木基之、藤井
隆、喜井正士、音在信治、貴田紘太、北村公二、金村
大阪府立成人病センター
亮
耳鼻咽喉科
下咽頭癌は頭頸部癌の中で最も予後不良の疾患の一つであったが、内視鏡診断能の向上により予後良好な表在癌が増加し
ている。これにより下咽頭癌全体の疾患構成と生存率に大きな変化が生じていると思われるがその実態は不明であった。
1993∼2012年に当科で一次治療を行った下咽頭癌722例 を 対 象 と し、5年 間 毎 にA期(n=101)、B期(n=123)、C期
(n=196)、D期(n=302)の4期に分け、臨床病期と粗生存率の推移を検討した。また Stage I―II のうち内視鏡的に表在癌
と診断した T1―2sN0 の病期を Stage I―IIs(superficial)とし、表在癌以外の T1―2N0 の病期 Stage I―IIi(invasive)と区別し
た。期間別の下咽頭癌全体の5年粗生存率は33%、39%、55%、66%でD期において有意に上昇していた。D期では Stage
0∼II の割合や、Stage I―II における Stage I―IIs の割合が有意に増加していた。また、Stage I―IIs は Stage I―IIi に比し有意に
生存率が高く Stage 0 と同様の生存曲線を描いた。下咽頭癌は今後も増加することが予想されるが、早期癌の割合が多くな
り下咽頭癌全体の予後も改善する可能性が示唆された。
410
好酸球性副鼻腔炎に対する吸入ステロイド薬鼻呼出療法の有効性と機序の検討
○朝子幹也、小林良樹、大岡久司、神田
関西医科大学
晃、横山彩佳、高田真紗美、濱田聡子、友田幸一
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
好酸球性副鼻腔炎(ECRS)は難治性で保存療法の代表格はステロイドである。ところが鼻噴霧用ステロイドの効果は限
定的であり、全身ステロイドに頼らざるを得ない場面も多くある。長期的な管理を要する本疾患で、全身ステロイドの長期
使用はなるだけ回避したいが、そのためにも合併する下気道疾患にも留意し、上下気道に渡る包括的治療を意識する必要が
有る。吸入ステロイドは現在の気管支喘息の治療には欠かせない治療ツールである。われわれは細粒子のエアロゾル吸入ス
テロイド製剤である HFA―BDP を口から吸入し、経鼻的に呼出することで、鼻噴霧用ステロイドでは改善しない鼻茸症例、
あるいはほかの吸入ステロイドを使用しても改善しない症例、など多数の難治症例に対して良好な結果を得、関連諸学会で
報告してきた。本演題では治療の実際とその効果発現のメカニズムを考察し、報告する。
118―582
411
2015
好酸球性副鼻腔炎症例における下気道評価についての検討
○寺田哲也、野村文恵、鈴木
大阪医科大学
学、櫟原新平、乾
崇樹、河田
了
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
好酸球性副鼻腔炎は上気道局所の炎症ではなく unified airway disease として上下気道を1つの気道ととらえてその病態
を考える必要がある。喘息においては FeNO が下気道炎症の指標とされ、気管支喘息の診断や治療効果の評価に用いられ
ている。好酸球性副鼻腔炎に対して内視鏡下副鼻腔手術を施行した際の下気道から産生される NO の変動や MostGraph を
用いての安静呼吸で呼吸抵抗値における評価も行い検討した。術前、術後に FeNO を経時的に測定したところ、FeNO は好
酸球性副鼻腔炎では非好酸球性副鼻腔炎に比較し高値であり、術後いったん低下しその後上昇していく一定の傾向を認め、
上気道である副鼻腔に対する内視鏡下手術が下気道から産生される FeNO を抑制することがわかった。また通常の呼吸機
能検査で正常と判断された好酸球性副鼻腔炎症例のほとんどで呼気 NO 値や MostGraph での呼吸抵抗パターンにおいて異
常値を示した。好酸球性副鼻腔炎症例における詳細な下気道評価の必要性が確認された。
412
JESREC study による診断基準からみた当科における好酸球性副鼻腔炎症例の検討
○高田真紗美、朝子幹也、小林良樹、大岡久司、横山彩佳、濱田聡子、神田
関西医科大学
晃、友田幸一
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室
好酸球性副鼻腔炎(ECRS : Eosinophilic chronic rhinosinusitis)は通常の副鼻腔炎と比べて近年増加傾向にあり、治療に
難渋することが多く、また藤枝らの報告によると重症例においては手術加療を行っても6年間での再発率が50%を超えると
されている。最近、厚生労働省研究班(藤枝重治ら)によって好酸球性副鼻腔炎の疫学的調査と診断基準の作成が行われた
(JESREC Study)
。この JESREC Study に基づいた診断基準は鼻副鼻腔所見や末梢血好酸球数などにより点数化され診断が
できる明瞭なシステムである。しかし一方で、この疾患に特徴的な下気道の要素“喘息の合併”という項目が含まれていな
い。喘息合併のない好酸球性副鼻腔炎の中にも未診断あるいは潜在性の喘息(隠れ喘息)が存在するという報告もあり、好
酸球性副鼻腔炎は上・下気道全体の好酸球性炎症として治療介入する必要がある。今回われわれは JESREC Study に基づき
当科の好酸球性副鼻腔炎手術症例について診断基準スコアとの相関や喘息合併の有無、また重症度の評価等の検討を行った
ので報告する。
413
鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎における術後長期予後についての検討
○中山次久1)、浅香大也1)、金谷洋明2)、山川秀致2)、小島博己1)、鴻
東京慈恵会医科大学
1)
耳鼻咽喉科 、獨協医科大学
信義1)、春名眞一2)
耳鼻咽喉・頭頸部外科2)
好酸球性副鼻腔炎は鼻副鼻腔粘膜の著明な好酸球浸潤を特徴とする難治性疾患である。その病態はいまだ不明だが、診断
基準は確立し Phenotype が明らかになってきた。本検討では、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎における長期予後にかかわる病態
を明らかにすることを目的とした。術者の技量による術後経過への影響を避けるために、2008年12月以降に同一術者により
全身麻酔下に内視鏡下鼻内手術を施行し、術後2年以上経過観察し得た症例について検討した。対象は両側に鼻茸を認める
36例(平均年齢54.
5歳、男女比25: 11)であり、JESREC Study による好酸球性副鼻腔炎の診断基準に従うと、好酸球性副
鼻腔炎21例、好酸球性副鼻腔炎15例であった。これらの症例に対して、平均観察期間36.
9カ月における術後経過を検討し
た。その結果、鼻茸の再発は17例で認め、その内5例はステロイドの内服を行ってもポリープを認めるステロイド抵抗性と
考えられた。また、手術時に採取した鼻茸における CCL11、IL―5、IFN―γ の mRNA の発現の検討も行ったので報告する。
414
当科における好酸球性副鼻腔炎の臨床診断に関する検討
○吉浜圭祐、粕谷健人、武井
さいたま市立病院
聡
耳鼻咽喉科
【目的】好酸球性副鼻腔炎の具体的な診断基準を確立するため、2013年の日耳鼻総会にて、多施設疫学調査 JESREC study
の報告がなされた。当科における好酸球性副鼻腔炎の臨床的特徴を調査し、JESREC study による診断スコアリング案の妥
当性を探ることを目的に研究を行った。
【方法】2012年4月∼2014年7月に当科で副鼻腔手術を施行された両側慢性副鼻腔
炎の症例(副鼻腔根本術の既往がある例を除く)49例を対象に臨床データを収集した。さらに全症例の組織標本にて好酸球
1%)
浸潤数を計測し、好酸球性副鼻腔炎の診断を行った。
【結果】病理組織学的に診断した好酸球性副鼻腔炎は29例(59.
であった。血中好酸球分画が今回調査した臨床データで唯一、病理組織診断と単独で有意な関連を認めた。JESREC study
案による診断スコアリングは病理組織診断との有意な関連を認めた。
【結語】JESREC study による診断スコアリング案は当
科の症例において妥当であった。診断スコアリングは術前の評価や患者説明に有用と考えられるが、実際の臨床的予後は症
例毎に判断が求められる。
118―583
日耳鼻
415
好酸球性副鼻腔炎手術症例における術中所見のスコア化の試み
○都築建三1)、都築建三1)、児島雄介1)、雪辰依子1)、斎藤孝博1)、岡
兵庫医科大学
医学部
1)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 、宝塚市立病院
秀樹2)、竹林宏記3)、阪上雅史1)
耳鼻咽喉科2)、
大阪みなと中央病院
3)
耳鼻咽喉科
【方法】対象は2007年7月から2014年7月に当科入院して初回両側 ESS を行った好酸球性副鼻腔炎(ECRS)193例。男性
110例、女性83例。平均年齢52歳(23∼79)
。両側3点、鼻茸2点、篩骨洞優位あるいは汎副鼻腔病変2点、血中好酸球
(2%<4点≦5%、5%<8点≦10%、10%≦10点)の合計が11点以上を ECRS と診断した。手術所見は各副鼻腔および
嗅裂の粘膜が腫脹なし0点、浮腫状腫脹1点、ポリープ2点とし、各副鼻腔内容液が貯留なし0点、吸引容易な粘液1点、
吸引困難なニカワ状粘液2点とした。合計点を手術スコア(満点44点)として、Lund―Mackay system に準じた CT スコア
と相関性、各副鼻腔別のスコア、アスピリン喘息(AIA)合併の有無で比較した。
【結果】平均手術スコアは19.
7±8.
0点
(n=193)で、術前 CT スコアと有意に相関した(rs=0.
6695、p<0.
0001)
。各副鼻腔の平均スコアは前部篩骨洞(4.
4点)
が最も高く、蝶形骨洞(1.
1点)が最も低かった。AIA 群の平均手術スコア(23.
5±5.
9点、n=21)は、非 AIA 群(19.
3±
8.
2点、n=172)よりも有意に高かった(p=0.
01131)。
416
外転神経麻痺を呈したアレルギー性真菌性副鼻腔炎の 1 例
○日尾祥子、神原留美、横井
慶、大崎康宏
市立吹田市民病院
アレルギー性真菌性副鼻腔炎(AFRS)は真菌に対するアレルギーに起因する難治性鼻副鼻腔炎である。副鼻腔に好酸球
性ムチンが蓄積し、蓄積物が膨張することでさまざまな合併症が出現し得る。今回、われわれは外転神経麻痺を呈した
AFRS の1例を経験したため、報告する。症例は39歳の女性、頭痛を主訴に内科を受診、CT にて右副鼻腔炎を疑われ当科
紹介となった。CT では右蝶形骨洞と後部篩骨洞に軟部陰影を認め、抗生剤の点滴加療を開始した。頭痛は完全には消失せ
ず、初診から10日後に複視が出現したため、全身麻酔下で内視鏡下副鼻腔手術を行った。上鼻道の粘膜は浮腫様であり、蝶
形骨洞を開放したところ、乾酪様物質が充満していた。乾酪様物質を HE 染色したところ、著名な好酸球の浸潤を認め、グ
ロコット染色にて真菌の存在が確認できた。粘膜内には真菌は認めず、AFRS の診断で術後ステロイドの内服を開始した。
複視は速やかに改善し、現在のところ再発は認めていない。
417
アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎(AFRS)の臨床統計
○松田恭典1)、小林正佳1)、坂井田
寛1)、松脇由典2)、竹内万彦1)
三重大学
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、東京慈恵会医科大学
大学院
医学系研究科
耳鼻咽喉科2)
【目的】アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎(allergic fungal rhinosinusitis : AFRS)の頻度は、海外からの報告では慢性鼻副
鼻腔炎と診断され手術に至った症例のうち4∼10%程度とされ、地理的因子の影響を受けるとされる。本邦における頻度
は、2つの先行研究において3.
9%、8.
3%と報告されているのみで、全国的な頻度分布は不明である。今回は、都会ではな
い地方の当院において手術治療した慢性副鼻腔炎症例中の AFRS を調査した。
【方法】2010年8月から2014年11月まで4年4カ月間に当科において慢性副鼻腔炎と診断され、内視鏡下鼻内副鼻腔手術
を行った症例を対象とした。AFRS の診断は米国アレルギー喘息免疫学会(AAAAI)等が定めたガイドラインに基づいた。
【結果】対象は238例あり、この中に AFRS を2例認め、頻度は0.
8%であった。
【結論】当科での AFRS の頻度はほかの報告よりも明らかに低かった。頻度のばらつきの一因として地理的な因子、環境
因子の影響が推測されるが、これは証明されていない。今後これを明らかにするための多施設共同研究が望まれる。
418
慢性副鼻腔炎手術施行例における呼吸上皮腺腫様過誤腫(REAH)
―a retrospective study―
○森下裕之1)、小林正佳1)、内田克典2)、坂井田
三重大学
大学院
医学系研究科
寛1)、竹内万彦1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、三重大学
大学院
医学系研究科
腫瘍病理学2)
【目的】呼吸上皮腺腫様過誤腫(respiratory epithelial adenomatoid hamartoma : REAH)は鼻副鼻腔領域に発生する良性
の非腫瘍性奇形で、非常にまれな疾患と考えられてきた。しかし、最近報告された retrospective study で、慢性副鼻腔炎と
診断されていた症例の鼻茸、鼻副鼻腔粘膜中に、実は多くの REAH が存在していたことが報告された。そこで当施設でも
過去に鼻内内視鏡手術を施行した慢性副鼻腔炎症例に REAH が存在するかどうかを確認する目的で本研究を施行した。
【方法】2010年8月から2014年11月の4年4カ月間に手術を施行した鼻副鼻腔炎例を検討対象とした。手術時に採取した
鼻粘膜組織標本を病理診断医とともに再検証した。
【結果】今回検討対象とした例は190例で、このうちの22%に REAH 組織像を認めた。
【結論】通常われわれが手術適応にしている慢性副鼻腔炎例の中には REAH が相当数含まれていると考えられる。今後、
今回の REAH 症例の術後経過を厳重に追跡することでその臨床的意義の有無を明確にし、術前診断法と治療法を確立する
ことが課題であると考えられる。
118―584
419
2015
鼻副鼻腔に発生する呼吸上皮腺腫様過誤腫(REAH)の有病率とその予後について
○松脇由典1)、鷹橋浩幸2)、小松崎貴美3)、森
東京慈恵会医科大学
太田総合病院
恵莉1)、鴻
信義1)、小島博己1)
医学部
1)
耳鼻咽喉科 、東京慈恵会医科大学
医学部
病理学講座2)、
3)
耳鼻咽喉科
[背景]鼻副鼻腔に発生する呼吸上皮腺腫様過誤腫(REAH)は、これまでまれな症例とされていたが、この10年その報
告は増加傾向にある。最近の総説では鼻茸の35∼48%を占めるとの報告もある。しかし本邦における有病率やその予後に関
する知見はほとんどない。
[方法]2012年1月から2014年3月まで鼻副鼻腔炎あるいは良性腫瘍との術前診断で内視鏡下鼻
副鼻腔手術(ESS)を施行した自件例320例を後ろ向きに病理検査を見直し、REAH がどの程度存在するか、その予後はど
9%)であった。その内、骨軟骨の化生を伴う骨軟骨化生 REAH
うか調査した。
[結果]REAH は疑い例も含め70例(21.
、伴わない REAH は48例(男女 : 32/16)であった。REAH では12例(25%)
、COREAH
(COREAH)は22例(男女 : 10/12)
5%)が単独(限局性)病変であった。好酸球浸潤を伴うものは、REAH では18例(37.
5%)
、COREAH では
では12例(54.
6%)あった。再発は REAH で10例(20.
8%)
、COREAH で2例(9.
1%)認めた。[考察]REAH が鼻副鼻腔炎
3例(13.
や良性腫瘍に紛れていることも念頭に置き、治療を進める必要がある。
420
副鼻腔洗浄カテーテル ENT―DIB の使用経験
○池田浩己、林
泰之、康本明吉、暁
日本赤十字社和歌山医療センター
久美子、大野
覚、竹林慎治、三浦
誠
耳鼻咽喉科部
副鼻腔炎の治療は、副鼻腔から鼻腔への換気排泄路の確保と繊毛運動機能の回復を目的とする治療が基本となる。1991年
に紹介された YAMIK カテーテル洗浄療法は、Proetz 置換法を原理とする副鼻腔洗浄療法として画期的な方法であったが、
薬事法改正に伴い2005年以降入手が困難となり、事実上実施できない状況であった。2014年に上梓された ENT―DIB カテー
テルは細かい点で YAMIK カテーテルと差異があるが、同様の治療効果が期待でき、保存的加療の選択肢として有用である
と考えられる。副鼻腔洗浄方法は鼻内ガーゼ麻酔後、鼻腔にカテーテルを挿入し、前後鼻孔のバルーンを膨らませて固定し、
鼻腔副鼻腔を一つの閉鎖腔とし、別のチャンネルから鼻副鼻腔に加減圧を加え、最後に薬液を注入する。
今回、急性副鼻腔炎症例、マクロライド療法に抵抗する慢性副鼻腔炎、術後再発症例等に本カテーテルによる洗浄療法を
実施したので報告する。
421
当科における自己血清点耳療法の検討
唯1)、和氣貴祥2)、櫻井真一2)、大竹祐輔3)
○川合
山形大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、公立
置賜
総合病院
耳鼻咽喉科2)、おおたけ
医院3)
慢性中耳炎や鼓膜換気チューブ抜去後の鼓膜穿孔は日常診療でよく遭遇する疾患である。治療方法として鼓室形成術I型
や従来法の鼓膜形成術、接着法による鼓膜形成術などが普及しているが、心理的抵抗感や仕事などの時間制約のため外科的
治療を敬遠する患者も少なくない。近年、外来で可能でより簡便・非侵襲的な鼓膜閉鎖法として自己血清点耳療法(Autologus Serum Eardrops Therapy : ASET)が提唱されている。今回2011年4月から2014年6月までに当施設で ASET を施
行した19例19耳について、若干の文献的考察を加えて報告する。
422
当科における鼓膜形成術(接着法)とその成績
○岡上雄介、庄司和彦、堀
天理よろづ相談所病院
龍介、児嶋
剛、藤村真太郎、奥山英晃、小林徹郎
耳鼻咽喉科
当科では鼓膜形成術(接着法)において、耳科手術の経験の浅い医師が行っても術後成績が安定するように、1)graft と
なる結合組織のしっかりとした固定、2)創傷治癒のための湿潤環境の維持の2点をコンセプトに置き行っている。まず
1)として結合組織と穿孔縁が接した状態を維持安定させるために外耳道側にテルダーミスⓇ を入れ、皮下組織とテルダー
ミスⓇ をフィブリン糊で接着することで、皮下組織のずれや落ち込みを防止するようにした。さらに、2)としてはスポン
ゼルⓇ を外耳道内に留置し穿孔縁が常に湿潤環境を維持できるようにした。今回2010年4月から2014年11月までにこの方法
で行った鼓膜形成術(接着法)52耳(慢性中耳炎43耳、外傷性鼓膜穿孔6耳、鼓膜換気チューブ脱落後穿孔2耳、鼓膜切開
後穿孔1耳)のうち、術後6カ月以上経過観察できた症例における、鼓膜穿孔閉鎖率や日本耳科学会の聴力成績判定基準に
基づいた聴力成績などについて検討し、若干の文献的考察を加えて報告する。
118―585
日耳鼻
423
結合組織鼓室内詰込みによる鼓膜再生術施行時の注意点
○中嶋正人、加瀬康弘
埼玉医科大学病院
耳鼻咽喉科
縁を新鮮化した鼓膜穿孔から皮下結合組織を鼓室内に詰め込むのみでフィブリン糊を使用しない短期滞在型鼓膜再生法を
平成22年以来本学会も含め繰り返し報告し、平成26年11月現在約350耳の経験と工夫を重ねた。これを基に、実施時の注意
点を示す。1.辺縁性や全穿孔、両側同機会も可 2.外耳道前壁突出で穿孔全周が視認困難例はファイバー併用で施行可
3.結合組織は複数片の組合せで可 4.石灰化鼓膜切除による鼓膜張替えでパッチ効果以上の聴力改善が期待 5.中耳の換
気孔として小穿孔が必要な例もあり穿孔の完全閉鎖を目的とはしない。またピンホール状小穿孔は適応の十分な吟味が必要
7.ある程度の癒着例も施行可 8.術後2週∼1カ月をピークに挿入結合組織の膨化で耳閉感と高音の A―Bgap の一過性増
大あり 9.耳をいじることを禁止し結合組織の脱落や、再生鼓膜の肉芽形成を防止 10.挿入組織の適量は穿孔縁から突出
しない程度 11.術後抗菌薬使用は必須でない 12.術後は耳内操作を可能な限り加えない、など症例提示により時間の許す
限り解説する。
424
外耳道再生療法を応用した外耳道狭窄症例に対する鼓膜再生療法
○金丸眞一1)、金井理絵1)、山本季来1)、山下
医学研究所
勝1)、古田一朗1)、北田有史1)、前谷俊樹1)、西田明子1)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、先端医療振興財団
北野病院
臨床研究情報センター2)
これまでわれわれは、組織工学的アプローチによる鼓膜再生療法を開発し、良好な結果を報告してきた。また、同様の手
法により外耳道軟部組織の欠損に対する治療法も開発してきた。
これらは、いずれも組織幹細胞の活性化を行い、塩基性線維芽細胞増殖因子(b―FGF)を浸潤させたゼラチンスポンジを
再生の足場として欠損部分に留置し、フィブリン糊によって創部を完全に被覆するというものである。
鼓膜穿孔縁の新鮮創化が組織幹細胞の活性化に必要不可欠であるが、外耳道の狭窄や骨壁の突出をともなう鼓膜穿孔症例
では、穿孔縁が直接観察できないため、この操作が困難になり適応外症例とされる。
これに対し、外耳道狭窄部位の骨削開を行い十分な視野を確保したうえで、鼓膜再生を施行し、その後に外耳道の再生を
同時に施行することで、適応範囲を広げることが可能となる。
今回、本治療法をビデオで紹介する。
425
単純性慢性中耳炎における耳管機能
○岩野
正1)、上田
大1)、岸本麻子1)、永井香織2)
岩野耳鼻咽喉科サージセンター1)、ながい耳鼻咽喉科クリニック2)
真珠腫性中耳炎においては、開放耳管や鼻すすりがその成因に関与していることが知られており、術前に耳管機能や鼻す
すり癖を評価することは重要である。一方、単純性慢性中耳炎における術前耳管機能検査の目的は、開放耳管における術後
の自声強聴や能動的開大能障害例での術後の鼓膜内陥、癒着、滲出性中耳炎の発症(鼓膜チューブ留置後の中心性穿孔例で
は鼓膜閉鎖後の再発)を予測、防止することにある。われわれは、耳管の静的状態の評価を目的として、耳管鼓室気流動態
法(TTAG)の鼻深呼吸法により開放耳管の検出を、能動的開大能の評価目的として、音響法により嚥下時の耳管開大能検
査を行っている。今回、当院で手術を行った単純性慢性中耳炎例における耳管機能、術後の鼓膜所見、耳閉感などの出現、
滲出性中耳炎の発症などにつき検討したので報告する。
426
BUTS 症候群の経験を生かした慢性疲労症候群の治療法
○高橋文夫
高橋耳鼻いんこう科医院
〔緒言〕2014年3月理研による文献(慢性疲労症候群と脳内炎症の関連を解明―脳内の神経炎症は慢性疲労の症状と相関
する―)の中で最大の要点は、PET 検査で、[慢性疲労症候群では、脳内炎症が広い領域で生じていることを確認した]
。
扁桃体の炎症と認知機能障害、海馬では抑うつ症状、視床の炎症と頭痛や筋肉痛などすべて正に相関し、炎症が強い程症状
が重い。一方耳鼻咽喉科治療で重要な耳管通気法があり、耳管の通りが悪い状態で、両耳初回の通気直後『目が明るく見え
る。視野が広くなった。目が軽くなった』等々。
『耳は少し軽くなった』のみ。身体全般でも、精神的にも明るく、より動
〔結
けるようになる。耳の治療をしたのに、何故目が楽になるのか?〔方法〕BUTS 症候群(CFS 相当)外来患者839名。
果〕習慣的過冷、自律神経失調、両鼓膜穿孔なし、両耳管狭窄症あり。無自覚性両側耳管狭窄症がある時に改善する。
〔結
論〕脳の炎症の広さ、強さにより身体病態も異なる。上の条件が揃うと、1週1回の通院・加療、6カ月以上で、症状改善
する。
118―586
427
2015
耳管開放症におけるめまいと前庭機能障害の検討
○大田重人、赤澤和之、坂
兵庫医科大学
直樹、阪上雅史
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
耳管開放症にめまいを伴う症例はしばしば経験される。2012年1月∼2014年11月に当科を受診した耳管開放症101例(確
実例58例、疑い例43例 : 日本耳科学会耳管委員会による「耳管開放症診断基準案2012」に準じて診断)のうち、めまいを伴
6%)であった。今回、めまいを伴った耳管開放症確実例17例に対して、温度眼振検査(caloric test)
った症例は43例(42.
と前庭誘発頸筋電位検査(cVEMP)
、前庭誘発眼筋電位検査(oVEMP)にて前庭機能を評価し、起立試験(Schellong test)
9%)
、cVEMP 異常3例
にて起立性調節障害の有無も調査した。その結果、caloric test にて患側 CP を認めたのが1例(5.
6%)、oVEMP 異常5例(29.
4%)であった。また、変動する低音障害型感音難聴と眼振所見から、メニエール病と診
(17.
8%)認めた。検討した17例のうち13例(76.
5%)は浮動性めまいでふらつきや立ちくらみを訴え、
断した症例を2例(11.
3%)は Schellong test 陽性であり起立性調節障害の関与が考えられた。
6例(35.
428
耳管開放症患者の病因・病態
○吉田晴郎、木原千春、畑地憲輔、原
長崎大学
大学院医歯薬学総合研究科
稔、北岡杏子、渡邊
毅、高橋晴雄
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野
耳管開放症の発症には、体重減少、妊娠、オストマン脂肪体の減少などの関与が考えられているが、その病態は完全には
明らかにされていない。今回われわれは、耳管開放症診断基準案2012に基づき耳管開放症と診断された130例について、体
重減少や BMI など病因への関連が考えられる因子、基礎疾患などの背景因子を評価したので報告する。性別は男性45例
8歳、平均 BMI : 20.
5)
、女性85例(平均年齢48.
6歳、平均 BMI : 20.
2)と女性に多く、調査できた症例の
(平均年齢53.
58.
7%に体重減少のエピソードが認められた。体重減少がみられた原因(背景因子)としては、血液疾患を含む悪性腫瘍、
膠原病、心疾患の順に多く、他科からの紹介受診が多い当施設の背景を表していると考えられた。一方で、20歳未満の症例
7%)と多く、体重減少を伴う症例は1/9例(11.
1%)のみであり、鼻すすりを伴う症例
に限ると、男性が6/9例(66.
も多くみられるなど成人症例と異なる結果が得られた。
429
Eustachian tube reconstruction to treat patulous Eustachian tube
○崔
勇1)、小川
郁2)
Department of otolaryngology, Guangdong General Hospital1)、
Department of Otolaryngology, School of Medicine, Keio University2)
Objective : To evaluation the effect of a new modified Eustachian tube reconstruction in the treatment of the patulous
Eustachian tube(PET). Methods : 7 retractory PET cases were performed with ectoluminal cartilage implantation using a
totally endoscopic transcopic approach. The junction of the lateral and medial lamella were split and trimmed septal or tragal
cartilage were implanted in the pocket made laterally to the lateral lamella. Results : 5 cases had complete relief, 2 cases
had significant improvement and satisfied. Conclusions : The patulous ET reconstruction can be performed by the transnasal approach. Our new technique of patulous ET reconstruction, including the split of Eustachian tube cartilage and implant
the cartilage laterally to the lateral wall maybe increase the success rate of the operation.
430
外科的治療を要した難治性耳管開放症症例の検討
○遠藤志織、水田邦博、大和谷
岡村
純、三澤由幾、三澤
浜松医科大学
医学部
崇、高橋吾郎、美馬勝人、中安一孝、大久保亜季、野田和洋、石川竜司、
清、峯田周幸
耳鼻咽喉科頭頸部外科
耳管開放症は生活指導、内服薬投与、生理食塩水点鼻、鼓膜テープ貼付等が一般的治療として行われるが、症状が改善し
ない難治例がある。今回われわれはこの中で、耳管ピンや鼓膜換気チューブ留置といった外科的治療を行った症例を、はな
すすり癖を有する群とそうでない群とに分けて検討した。対象は平成20年2月∼平成26年5月に治療した30症例、43耳。鼻
すすり癖を有する症例は11症例18耳、有しない症例は19症例25耳。鼻すすり癖を有する症例のうち10耳は鼓膜換気チューブ
留置、8耳は耳管ピン挿入を施行。鼻すすり癖を有しない症例は25耳すべてで耳管ピン挿入を行った。耳管ピン挿入例で症
状改善が持続的に得られたものは75%。鼻すすり癖を有する症例で耳管ピン挿入を行った8耳中4耳は症状が再燃した。ま
た、鼻すすり癖を有する症例で鼓膜換気チューブ留置を行った10耳中、症状改善が持続的に得られた症例は9耳であった。
鼻すすり癖を有する難治性の耳管開放症に対しては、まず、鼓膜換気チューブ留置を試みることが望ましいと思われた。
118―587
日耳鼻
431
人工聴覚器の適応と個別化医療について
○工
穣1)2)、森
信州大学
健太郎1)、鈴木宏明1)、塚田景大1)、宮川麻衣子1)、茂木英明1)、岩崎
1)
医学部
耳鼻咽喉科 、信州大学
国際医療福祉大学
医学部
聡2)3)、宇佐美真一1)2)
2)
人工聴覚器学講座 、
耳鼻咽喉科3)
三田病院
近年の人工聴覚器の進歩により、人工内耳、残存聴力活用型人工内耳、人工中耳、骨導インプラントといった人工聴覚器
が急速に進歩し治療の選択肢が増え、従来の手術療法を行っても聴力改善が困難な中耳疾患や外耳道閉鎖症例、十分な補聴
効果が得られない高音急墜型感音難聴症例に対しても、これら新しい人工聴覚器による治療が可能となってきた。しかし症
例に応じて人工聴覚器をどのように使い分けるかに関しては、いまだ整理された治療のワークフローができていないのが現
状である。さらに術後の経過で難聴が進行し、適応聴力から外れて機器の使用が困難となるなどの問題点もみられるため、
従来のような聴力のみで適応を判断するような画一的な治療・介入ではなく、遺伝学的検査や画像診断など科学的エビデン
スに基づいた難聴の原因診断から聴力変化などの予後を推測し、生涯に渡って使用可能な人工聴覚器の選択を可能にする個
別化医療基盤を整える必要がある。現時点での人工聴覚器治療のワークフローと個別化医療の可能性について報告する。
432
補聴器や人工内耳の装用児の進路
○野村直孝1)、間
三千夫1)2)、宝上竜也1)、中原
鳥取大学
医学部
啓1)、硲田猛真1)、河野
耳鼻咽喉科1)、東京医科大学病院
りんくう総合医療センター
感覚運動医学講座
淳2)、北野博也3)、榎本雅夫1)4)5)
聴覚・人工内耳センター2)、
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野3)、NPO 日本健康増進支援機構4)、
鳥取大学5)
幼少児への補聴や人工内耳の目的は、補聴や人工内耳により言語獲得を得て、なるべく健常児に近い発達、生活を目指す
ことであることと考える。健常児に近い生活であるかの評価のひとつに普通学校への進学率が挙げられる。今回、われわれ
の施設で補聴器を処方した(HA 児)り、人工内耳埋込術を行った(CI 児)幼少児の進路とその児の聞き取りの程度につい
て調べた。
症 例 数 は、全35児(CI 児 : 20例、HA 児 : 15例)で あ り、こ の 中 で、今 現 在、普 通 学 校 に 通 っ て い る の は、31児
(88.
6%)であった。普通学校内支援学級に通っている児は、3児(8.
6%)で、聾学校に通っている児は、1児(2.
9%)
であった。普通学校内支援学級、または聾学校に通っている4児の中で3児は、5歳以降に難聴が判明し、医療介入が遅れ
ていた事実が判明した。
医療介入を行い適切な治療を行うことで、十分な聴覚補償が得られ、聞き取りが良くなった児は普通学校に通うことも可
能であり、早期から十分な聴覚補償を行うことが重要であることが確認できた。
433
神経線維腫症第 2 型および聴神経腫瘍症例における人工内耳治療の成績
○熊川孝三1)、加藤
虎の門病院
央1)、小林万里菜1)、三澤
耳鼻咽喉科
建1)、久田真弓1)、大多和優里1)、武田英彦1)、小松崎
篤2)
聴覚センター1)、小松崎耳鼻咽喉科2)
【目的】神経線維腫症第2型(以下 NF2)は両側聴神経腫瘍(AT)を主徴とする常染色体優性遺伝疾患であり、両側の高
度難聴症例では、これまで聴性脳幹インプラント(ABI)を適応としてきたが、術後の語音聴取成績は CI―2004 の文で最高
でも31%であり、決して良好な成績とはいえなかった。
【方法】2009年10月から現在までに NF2 あるいは片側が AT による両側高度難聴の患者5例に対して、人工内耳埋め込み
術を行った。
【成績】術後の語音聴取成績は内耳疾患により失聴した人工内耳装用者における聴取成績80%と同等あるいはそれ以上で
あり、ABI 埋め込み例8例の語音聴取成績を上回った。
【結論】ABI の前段階として、聴神経が解剖学的に保存され、プロモントリーテストが陽性であり、腫瘍の脳幹圧迫症状
が許される程度であるならば、先ずは人工内耳を行い、より良好な聴取成績や QOL を追求するオプションがある。NF2 や
AT に対する治療方針は、聴力の活用の可能性も含めて、初期に脳神経外科と耳鼻咽喉科の連携によって検討されるべきで
ある。
434
当科における成人人工内耳症例の検討―埋め込み時65歳以上の術後成績について―
○前田幸英1)、菅谷明子1)、長安吏江1)、片岡祐子1)、假谷
岡山大学大学院
医歯薬学総合研究科
伸1)、福島邦博2)、西
和則1)
1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科学 、新倉敷耳鼻咽喉科クリニック2)
当科で1992年より2014年の間に人工内耳埋め込み術をうけた、成人の中途失聴者の症例137例(18∼64歳 : 96例、65歳以
上 : 41例)について検討し、埋め込み時65歳以上の症例の成績について考察する。失聴原因は64歳以下、65歳以上共に進行
性の経過をとる病因不明の難聴が60∼70%を占めた。術後の語音明瞭度は64歳以下(65.
9±24.
8%、n=77)と65歳以上
(61.
4±25.
5、n=34)で有意差を認めなかった(P =0.
43、 Mann―Whitney U ―test)
。一般に失語症を評価する Communication ADL test
(CADL)を聴覚的理解に応用し検討したところ(長安ら、日本耳鼻咽喉科学会会報、2014: 117
(8): 1126―31)
では64歳以下(n=12)と65歳以上(n=17)で統計学的有意差を認めなかった(P =0.
21、Mann―Whitney U ―test)が、
CADL 総得点の平均値は65歳以上で悪かった。以上より、埋め込み時年齢が65歳以上でも術後の語音明瞭度は64歳以下と遜
色なかった。高齢者の人工内耳埋め込み術とコミュニケーション能力などの高次機能の関連についてはさらに精密なデータ
が必要と考えられる。
118―588
435
2015
慢性中耳炎症例に対する人工内耳埋め込み術
○金井理絵、金丸眞一、吉田季来、西田明子、古田一郎、北田有史、山下
公益財団法人
田附興風会
医学研究所
北野病院
勝、前谷俊樹
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
慢性中耳炎の長期遷延が内耳にも影響をおよぼすことが知られており、慢性中耳炎またはその術後で高度難聴となってい
る症例が少なからず存在する。特に両側性の場合は日常生活に大きな支障を来す。しかし、人工物挿入による感染悪化や、
open cavity からの電極露出などが懸念されるため慢性中耳炎症例に対しては積極的に人工内耳手術が行われていないのが
7歳)に対し人工内耳埋め込み術
現状である。当院ではこれまでに慢性中耳炎15例15耳(男性9例、女性6例、平均年齢73.
を施行い、現在のところ全例が重篤な合併症なく人工内耳の使用を継続できている。活動性感染耳では鼓室形成術を行い、
感染をコントロールしたのちに人工内耳を埋め込む段階手術を施行している。また Open cavity 症例では乳突蜂巣の表面に
電極コードを埋め込む溝を作成し、骨片や骨パテなどでカバーするなど電極露出防止の工夫を行っている。今回はこれまで
の経験をもとに慢性中耳炎症例の人工内耳埋め込み術における手術手技、治療計画などについて検討し、報告する。
436
残存聴力活用型人工内耳(electric acoustic stimulation : EAS)の適応条件をみたす
難聴症例について
○小泉敏三、齋藤和也、白石
近畿大学
医学部
功、小林孝光、瀬尾
徹、磯野道夫、小濱久美、木下智美、土井勝美
耳鼻咽喉科
2014年7月に残存聴力活用型人工内耳(electric acoustic stimulation : EAS)が保険収載され、低音∼中音域に残存聴力を
有する高度難聴症例への人工内耳手術が可能となった。日耳鼻学会の EAS ガイドライン検討研究会が定める EAS の適応条
件では、純音聴力検査上における両耳の聴力 閾 値 が 125Hz・250Hz・500Hz で 65dB 以 下、2kHz で 80dB 以 上、4kHz・
8kHZ で 85dB 以上である(ただし、上記周波数の1カ所で 10dB 以内の範囲で外れる場合も対象とする)
。
2011年1月から14年10月までに難聴を主訴に当科を受診した患者に対し16,
792件の純音聴力検査を行った。今回、その検
査結果を後方視的に解析し、EAS の適応条件をみたす高度難聴症例の経過、病態、聴取能等について考察を加えた。
437
人工内耳手術における蝸牛内骨化症例の検討
○太田陽子1)、河野
東京医科大学病院
淳2)、池谷
淳3)、萩原
晃1)、西山信宏4)、河口幸江5)、鈴木
1)
耳鼻咽喉科 、東京医大病院
4)
衞1)
2)
聴覚・人工内耳センター 、耳鼻咽喉科麻生病院3)、
5)
茨城医療センター 、厚生中央病院
東京医大
当科で施行した成人の人工内耳手術症例370例のうち、術中に蝸牛内骨化をみとめた7症例に関して検討した。
検討項目は、術年齢・術側・骨化の原因・挿入機器・CT/MRI での画像評価・電極挿入具合・装用閾値・聴取能(単
語)・聴取能(文)など。
3歳。7例中4例は髄膜炎が原因であるが、3例は原因が不明であった。CT で蝸牛の石灰化をみとめ
平均手術年齢は51.
たのは5症例であり、同症例は MRI でも蝸牛の軽度輝度低下がみられた。挿入された電極機器は4例が Clarion―S であり
残り3例はコクレア社の機器であった。また、7例中6例は電極全挿入が可能であった。
1%、聴取能(文)の平均は45.
1%であった。ま
人工内耳装用閾値の平均は 38.3dB であり、聴取能(単語)の平均は37.
た、聴取能が非常に良好であった症例が2症例あった。
以上から、髄膜炎の既往がなくても蝸牛内骨化が存在する症例があり、画像でも骨化を判断できない症例もあった。電極
はほぼ全挿入できているものの、聴取能にはばらつきがあることが分かった。
438
人工内耳植込み術の入院期間を短縮する試み
○松本
希、高岩一貴、小宗徳孝、小宗静男
九州大学
医学部
耳鼻咽喉科
人工内耳手術は既に術式が確立されており予想外の合併症はまれである。このため海外では人工内耳手術目的の入院は
1∼2日である。しかし本邦では術後の入院観察期間が長く、1∼2週の長期入院を標準とする施設もある。日本の健康保
険が長期入院に比較的寛容であることなどが要因として挙げられている。しかしわが国の健康保険は既に財政的に逼迫して
おり、近い将来急性期病棟はさらに削減されると予想される。その際、耳鼻咽喉科の入院期間短縮の圧力は生命にかかわる
合併症が少ない耳科手術後患者に向けられる可能性が高い。当科では2008年から人工内耳手術の入院期間短縮を目標にさま
ざまな変更を行った。変更は術前説明、術式、術後管理、退院時説明、音入れ日の設定など多岐に渡った。この結果、2014
年には人工内耳手術患者の入院日数は最短3日、平均4.
3日、最長8日となった。再入院、再来予定日前の緊急受診はとも
にいなかった。本演題ではわれわれの行った手術や運用の工夫について報告する。
118―589
日耳鼻
439
BAHA 術後の皮膚トラブルによるアバットメント入れ替え例
○北野正之、山本典生、山崎博司、岡野高之、坂本達則、伊藤寿一
京都大学大学院
医学研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
(BAHA)は、チタン製骨導端子周囲皮膚のトラブルが10∼30%で起こるとされる。今回われ
Bone―Anchored Hearing Aid
われは、骨導端子周囲の炎症に対し、8.
5mm のアバットメントへの入れ替えが有用であった一例を経験した。患者は37歳
女性でアトピー性皮膚炎があり、両外耳道皮膚の炎症のため外耳道の皮膚の完全閉塞を来し、伝音難聴を生じたため、
BAHA 埋め込み術を行った。術後11日目に創部感染を起こし、保存的加療で一時寛解したが、その後炎症を繰り返し徐々に
アバットメント周囲の皮下組織の増大をみとめ、サウンドプロセッサーの装着が困難となった。術後16カ月目に長径
8.
5mm のアバットメントに入れ替えた後、炎症はおさまりサウンドプロセッサーの装着も良好に行えている。骨導端子周
囲の皮膚および皮下組織の増生に対しては、切除後植皮を行う、8.
5mm のアバットメントに入れ替えるなどの対処法があ
るが、8.
5mm のアバットメントへの入れ替えは比較的容易で、同様の合併症の有効な対策の一つ考えられた。
440
BAHA 装用者における軟骨伝導補聴器の効果
○西村忠己1)、細井裕司2)、下倉良太3)、北原
奈良県立医科大学
医学部
糺1)、岩倉行志4)、中市真理子4)、綿貫敬介4)
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、奈良県立医科大学2)、
総合理工学研究科3)、リオン株式会社 R & D センター技術開発部4)
島根大学大学院
軟骨伝導補聴器は外耳道閉鎖症であっても使用可能である。骨導補聴器と異なり振動子は小型軽量で固定のためのヘッド
バンドの装着や圧着固定を必要としなく装用感に優れている。このため外耳道閉鎖症のための新しい補聴手段の1つになり
得ると考えられる。臨床導入するに当たってはその効果が重要となってくるがこれまでの検討から多くの症例で骨導補聴器
と同等以上の効果が得られると考えられた。一方近年骨導補聴器に代わる手段として BAHA が注目されている。BAHA は
骨を直接振動させるため音伝導に優れている。しかし大きな欠点としては手術が必要なことが挙げられる。今回の検討では
BAHA 装用者で軟骨伝導補聴器を試聴していただいた症例で、手術を必要としない軟骨伝導補聴器でどの程度の効果が得ら
れるのか BAHA との効果の比較ならびに BAHA 非装用側に装用し両耳聴とした場合の効果について検討した。
441
VSB 人工中耳手術の治療成績―3D―CT 画像解析による FMT 局在との相関―
○土井勝美1)、小林孝光1)、白石
近畿大学
医学部
功1)、佐藤満雄1)、齋藤和也1)、磯野道夫1)、小泉敏三1)2)、松田圭二2)、東野哲也2)
1)
耳鼻咽喉科 、宮崎大学
医学部
耳鼻咽喉科2)
はじめに
VSB 人工中耳臨床治験は終了し、厚生労働省 PMDA において薬事承認・保険収載に向けた審査が進行中である。近畿大
学および宮崎大学では、それぞれ12例、6例の VSB 人工中耳手術を完了し、定期的な VSB フィッテイングと聴取能の評価
を継続している。今回、FMT と正円窓膜との連結状態を 3D―CT 画像により評価し、聴取能との相関を検討したので報告す
る。
方法と対象
VSB 手術を受けた18症例を対象に、手術後の聴取能が安定した時点で 2D―CT 撮影を行い、Zio station を用いて 3D―CT
画像を構築した。FMT の長軸を決定し、正円窓膜との角度を測定することで両者の連結状態を数値化した。VSB 装用時の
Vibrogram 閾値と音場検査における骨導閾値の差を聴取能とし、FMT 角度との相関を検討した。
結果と考察
FMT 長軸と正円窓膜との角度、Vibrogram 閾値と骨導閾値との差、いずれも症例によりばらつきがみられた。FMT 角度
と聴取能との間に有意差は確認できなかったが、負の相関傾向が観察された。FMT を正しく正円窓膜に連結することで優
れた VSB の治療成績が期待できる。
442
混合・伝音難聴に対する VSB 手術の術後長期成績
○松田圭二、中島崇博、平原信哉、梶原
宮崎大学
医学部
啓、山田悠祐、東野哲也
耳鼻咽喉・頭頸部外科
【目的】FMT(振動子)の正円窓留置による VSB(Vibrant Soundbridge)手術の長期安定性を評価する。
【方法】混合・伝音難聴を呈した自験6症例(中耳炎5例、鎖耳1例)において、術後20週での成績(治験)と術後1年
半から2年経過後の成績を比較した。検査項目は、⑴ 音場閾値検査(震音、静寂下)
、⑵ 音場語音明瞭度(静寂下、雑音
下)
、⑶ 音場語音了解閾値(静寂下、雑音下)などである。
【結果】術後20週、VSB は裸耳に比べ各検査項目で有意な改善がみられた。術後1年半から2年経過時点での検査成績
は、全耳で同等を維持した。また全期間を通して骨導閾値の上昇やそのほかの合併症はみられていない。
【結論】術後1年半から2年ほどの観察期間ではあるが、FMT の正円窓留置によって VSB は安定してその効果を発揮す
ることがわかった。長期成績について文献的考察を混じえ報告する。
118―590
443
2015
当科におけるアデノイド切除術∼従来法とデブリッター法の比較∼
○金丸朝子、馬場信太郎、市川朝也
都立小児総合医療センター
耳鼻いんこう科
【目的】従来よりアデノイド切除術はアデノトームを用いて行われるのが一般的であった。当院では内視鏡下にデブリッ
ターを使用し手術を行っているため、アデノトームを使用した場合とのアデノイドの切除範囲について比較を行った。
【対
【方法】アデノトー
象】当院で小児(3歳∼6歳)に対してアデノイド切除術を行った従来法10例とデブリッター法10例。
ムにて2回アデノイドを切除後に口腔内から70度内視鏡を使用し、アデノイドの残存部位を観察した。また出血量を比較し
た。
【結果】アデノトームを使用した場合は後鼻孔周囲や鼻内に侵入するアデノイドの残存を多く認めた。またアデノトー
ムの形状上、咽頭後壁のアデノイドを深く削ることとなり止血に時間を要することが多かった。デブリッター使用例でも咽
頭後壁のアデノイドを切除する場合は、出血量はアデノトームと変わらなかった。
【結論】アデノイド切除術を行う場合、
デブリッターを使用すると、後鼻孔周囲や鼻内に侵入するアデノイドの取り残しが少ないことが示唆された。
444
口蓋扁桃摘出術に投与する鎮痛薬別にみた鎮痛効果と術後出血の頻度 :
ロキソプロフェンとセレコキシブの比較
○平位知久、福島典之、宮原伸之、三好綾子、有木雅彦
県立広島病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
口蓋扁桃摘出後術後の鎮痛薬としては、一般的に非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)が使用されている。既存の
NSAID は COX―1 と COX―2 の両者を非選択的に阻害することから、COX―1 の生理的作用である血小板凝集作用が同時に抑
制されるため、術後出血の要因となる可能性が懸念される。セレコキシブは選択的 COX―2 阻害を有する NSAID であり、
消化性領域では潰瘍、出血等の副作用が少ないとされている。
今回、耳鼻咽喉科経験年数10年未満の医師が、慢性扁桃炎に対して口蓋扁桃摘出を施行した100例以上の症例に対して、
術後の鎮痛薬として、ロキソプロフェンとセレコキシブを無作為に分別して投与し、術後出血の頻度、鎮痛効果の程度等に
ついて比較検討した。その結果、セレコキシブを投与した症例では、鎮痛効果は弱い傾向にあったが、術後出血の頻度は少
ない傾向にあった。術後出血の減少予防を目的とすれば、有用な薬剤であると考えた。
445
口蓋扁桃摘出術が奏功した PFAPA 症候群の 1 例
○石橋
淳、江川峻哉、高橋
小田原市立病院
郷、寺崎雅子
耳鼻咽喉科
Periodic fever with aphthous pharyngitis and adenitis syndrome(以下 PFAPA 症候群)は乳幼児期に発症する自己免疫性
疾患である。耳鼻咽喉科領域では慢性扁桃炎として加療されることが多く鑑別が必要と考えられる。今回われわれは、臨床
経過から PFAPA 症候群を疑い手術加療を施行した症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。症例4歳女
児。既往歴、発達歴に特記すべき事項なし。家族歴にシェーグレン症候群、橋本病、SLE を認めた。2014年X月から1カ
月に1度の発熱、咽頭痛を認めていた。発熱のたびに急性扁桃炎として近医小児科で内服加療を行われていた。発熱は抗菌
薬に抵抗性がありステロイドで速やかに解熱した。また、近医での血液検査で好中球減少は認めなかった。精査加療目的で
2014年X+4月に当科を紹介受診し、X+5月に全身麻酔下で両側口蓋扁桃摘出術を施行した。手術施行後に周期性発熱を
呈することはなかった。
446
顎関節症により両側口蓋扁桃摘出術施行時の術野展開が困難であった 1 症例
○吉福孝介、西元謙吾、松崎
勉
国立病院機構鹿児島医療センター
顎関節症は、顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節音、開口障害、ないし顎関節異常を主症状とする慢性疾患群の総括的診断名で
ある。顎関節症患者では、全身麻酔導入後に開口障害を来したとの報告もあるが、術前に開口障害を把握することは困難と
考える。今回われわれは30歳男性の IgA 腎症患者に対して全身麻酔下に両側口蓋扁桃摘出術を施行に際して、筋弛緩薬を
投与したにもかかわらず、全身麻酔導入後に開口障害を来し、術野を展開することが困難であった症例を経験した。悪性高
熱症などは否定され、顎関節症による開口制限症例の可能性があるものと判断し、徒手整復を施行したところ十分に開口が
可能となり術野の確保が可能となった。口腔咽喉頭手術操作に携わる耳鼻咽喉科医にとって、全身麻酔導入後の開口障害に
遭遇した場合には、顎関節症によるものも原因の一つの可能性があることを考慮し、他疾患が否定的であれば、すみやかに
マニピュレーション法を施行すべきであると考えられた。
118―591
日耳鼻
447
扁桃周囲膿瘍に対する即時膿瘍扁桃摘出術の適応について
○川畠雅樹、井内寛之、馬越瑞夫、大堀純一郎、黒野祐一
鹿児島大学
医歯学総合研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
【目的】扁桃周囲膿瘍に対する外科的排膿処置として、当科では十分な排膿と再発防止を目的として、即時膿瘍扁桃摘出
術(以下、膿瘍扁摘)を積極的に行っている。この手術の適応、有用性を明確にすることを目的とする。
【方法】対象は、
2009年4月から2014年3月までの5年間に当科を受診し、膿瘍扁摘を行った99例。CT 画像による膿瘍の局在部位を上極と
下極に、膿瘍の形態を Oval 型と Cap 型に分類し4つの型に分けた。各型の臨床所見および経過について比較検討を行っ
た。【結果】上極 Oval 型が最も多く52%を占めた。下極型 Cap 型は17%と頻度は高くはないものの、71%(17例中12例)
に喉頭浮腫を認めた。また、53%(17例中9例)において、膿瘍が扁桃周囲間隙外に進展していた。扁桃周囲間隙外への進
展は、舌骨より上方の傍咽頭間隙、咽頭後間隙に留まっていた。いずれの症例においても、十分な排膿を行うことができた。
【結語】下極 Cap 型、さらにそれが舌骨上の傍咽頭間隙・咽頭後間隙に進展する扁桃周囲膿瘍に対しても、膿瘍扁摘はよい
適当と考えられる。
448
当科における扁桃周囲膿瘍の検討
○阪上智史1)、尹
武田総合病院
泰貴1)、大隅泰則1)、八木正夫1)2)、友田幸一2)
耳鼻咽喉科1)、関西医科大学付属枚方病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
扁桃周囲膿瘍は扁桃に生じた炎症によって、傍咽頭間隙や扁桃内に膿瘍を形成する疾患である。下極型扁桃周囲膿瘍は膿
瘍の穿刺や切開などの局所処置が困難なことが多く重症化しやすい傾向がある。2007年4月から2014年3月までの間に扁桃
8歳で、男性43例女性19例であった。
周囲膿瘍の加療に入院を要した62例に関して後ろ向きに検討を行った。年齢は平均40.
4%)
、下極型が10例(17.
6%)
頸部 CT や穿刺などで膿瘍が確認された57例に関して膿瘍の局在部位は上極型が47例(82.
であった。初診時の白血球数は平均 14,
600/μl で、CRP は平均 8.63mg/dl であった。膿瘍に対して、穿刺排膿が28例、切
開排膿が8例、保存的加療が20例であり、自壊して排膿していた症例が4例認められた。2例は降下性縦隔炎を発症してお
り、頸部外切開が施行されていた。降下性縦隔炎を発症した2例は何れも下極型扁桃周囲膿瘍であった。抗菌薬は PIPC お
よび、CLDM の併用が58例で行われており、CTRX 単剤が2例、CTRX および CLDM が1例、TAZ 単剤投与が1例であっ
た。以上の症例に関して、若干の文献的考察を加え報告する。
449
難治性口腔内潰瘍の 1 症例
○梅野悠太1)、山野貴史1)、中川尚志2)
福岡歯科大学
総合医学講座
耳鼻咽喉科学分野1)、福岡大学病院
耳鼻咽喉科2)
(はじめに)口腔咽頭に難治性の潰瘍性病変を来す疾患としてはウイルスをはじめとする感染症によるものが最も多い。
一方、全身疾患に伴う口腔内病変や、皮膚疾患の一部による病変も少なからず存在しており、原因疾患を適切に診断し治療
を進めていく上でしばしば難渋する。
(症例)20歳男性
咽頭痛、経口摂取困難を主訴に受診し、当初、感染症による口腔
内潰瘍と考え抗菌薬投与、口腔ケア、レーザー照射を行ったが改善を認めなかった。入院後に1カ月前から陰部症状があっ
たことが判明し、泌尿器科受診するも性感染症は否定的であった。経過中に急性喉頭蓋炎を生じたためステロイドを使用
し、一時的に解熱、咽頭痛改善を認め、膠原病による症状を疑い内科受診し最終的にベーチェット病不全型と診断した。
(考察とまとめ)経過中に急性喉頭蓋炎を生じたベーチェット病不全型の一例を経験した。当初、感染症を疑い抗生剤によ
る加療を行うも経過不良であったが、診断確定度、ステロイド加療にて症状改善を認めた。
450
長期加療を要した口腔咽頭潰瘍の 4 例
○小河孝夫、中山
滋賀医科大学
潤、清水猛史
耳鼻咽喉科
口腔咽頭潰瘍は日常臨床でもしばしば遭遇するが、まれに難治性再発性の経過をたどり、長期にわたり加療を必要とする
症例もある。今回、咽頭潰瘍の自験例4例について寛解導入から寛解維持までの経過について報告する。1例目は難治性口
腔咽頭潰瘍の85歳男性例。3カ月程度のステロイド内服漸減投与で咽頭潰瘍は寛解し、以降咽頭潰瘍時に同様の加療を行
い、5年間通院した。2例目も難治性咽頭潰瘍の38歳男性例。高用量のステロイド内服治療にも抵抗性で、咽頭潰瘍の再発
を繰り返したが、コルヒチンが著効し、咽頭潰瘍は軽快した。現在5年経過し寛解を維持できている。3例目は粘膜型類天
疱瘡症の52歳女性。リツキサン点滴とステロイド内服を行いいったん寛解した。以降3年経過しているが、少量のステロイ
ド内服で維持できている。4例目はベーチェット病の34歳男性例。下咽頭と回盲部に高度の潰瘍性病変があった。ステロイ
ド内服投与と免疫抑制剤の併用で寛解した。経過中、盲部潰瘍のため腸管切除を行った。以降、免疫抑制療法を継続し4年
間潰瘍の再発はない。
118―592
451
2015
注意するべき咽頭痛
○安齋
崇、飯塚
順天堂大学
崇、中村真弘、永屋恵子、春山琢男、芳川
医学部
洋、池田勝久
耳鼻咽喉科学教室
われわれ耳鼻咽喉科医はクリニック・病院において、咽頭痛を主訴とした患者の診察を最も多く行う診療科である。咽頭
痛を訴え来院する患者の痛みの原因は多くは上気道感染や局所の炎症、もしくは神経痛によるものである。今回われわれは
診断に苦慮する咽頭痛の中でも特に日常の診療から注意するべき咽頭痛を経験したので報告する。症例は72歳女性、5日前
から続く咽頭痛を主訴に当院の一般外来を受診。喫煙歴はなく脂質異常症や高血圧や心疾患の既往はなく生来健康であっ
た。発熱はなく、咽頭痛以外に上気道感染を疑わせるような症状はなく、扁桃や口蓋垂、咽頭、喉頭に腫脹や発赤は認めな
かった。診断がつかないまま16時間が経過したところ、患者は強い背部痛と焼けるような咽頭痛を訴え、心電図・生化学検
査・超音波所見から心筋梗塞の診断に至った。焦燥感のない咽頭痛のみを主訴とした心筋梗塞は比較的まれな症例ではある
が、心疾患による放散痛が頭頸部の痛みとして生じることがあることを念頭に置いて日常の診療にあたることが耳鼻科医と
して必要である。
452
咽頭痛を契機に診断に至った前立腺癌の一例
○森
華、余田敬子、須納瀬
東京女子医科大学
弘
東医療センター
耳鼻咽喉科
今回われわれは、長引く咽頭痛を主訴として来院し精査の結果前立腺癌の発見に至った症例を経験したので報告する。
咽喉頭に異常を認めない咽喉頭異常感の患者に対し、上部消化管内視鏡・頸部エコーを追加施行し、逆流性食道炎や甲状
腺腫瘍などの悪性疾患の鑑別を行っている施設は少なくないと思われる。本症例は長引く咽頭痛を主訴に紹介され、内視鏡
にて披裂部粘膜の浮腫がみられ逆流性食道炎による咽頭痛が疑われたが、念のため行った頸部エコーにて両鎖骨上窩リンパ
節の集簇性腫大を認めた。改めてエコー下穿刺吸引細胞診行い、結果は class V で癌転移の疑いであった。追加で行った
PET―CT にて前立腺と全身の骨・リンパ節に多発する集積を認めたため、当院泌尿器科へ精査依頼、生検の結果前立腺癌と
判明した。
咽頭痛は耳鼻科外来診察において頻繁に遭遇する訴えの一つであり、上気道炎や逆流性食道炎、性感染症などさまざまな
原因で起こり得る。長引く咽頭痛に対し、咽喉頭異常感症と同様に上部消化管内視鏡や頸部エコーによる精査の必要性を示
した症例と考える。
453
茎状突起過長症10例の検討
○熊井良彦、湯本英二
熊本大学耳鼻咽喉科
頭頸部外科
過去の文献より、画像上患側茎状突起の長さが25ミリ以上で咽頭痛を伴う病態を茎状突起過長症と定義した。対象は男性
5名、女性5名。年齢 : 37∼81歳。主訴 : 嚥下時の患側咽頭から耳周囲への電撃放散痛7名、嚥下時咽頭痛1名、嚥下と無
関係に持続する咽頭痛2名。病悩期間は3カ月∼10年。9例の患側扁桃窩にトリガーポイントを認め、7例で同部位に索状
物をふれた。6例に対して口内法で可及的に茎状突起を切断し合併症はなかった。うち5例は1週間以内に症状が消失し、
術前に内服していた鎮痛剤を中止できたが、1例は症状の改善を認めなかった。保存的に外来で経過をみた3例のうち2例
は3カ月間の内服加療で軽快、1例は軽快せず手術希望もない。他1例は、脳外科で画像上、舌咽神経根部に後下小脳動脈
の接触所見が認められ、減圧術にて症状が消失し舌咽神経痛と診断確定した。以上より茎状突起過長症に対する口内法は安
全で有効な術式である。一方保存的に改善する例があること、舌咽神経痛と鑑別が困難な例があることに留意すべきであ
る。
454
「舌圧子一体型口腔咽頭内視鏡」(プロジェクト名 : NTOP2013)
この一年間の進捗状況について
○角田晃一1)、三澤逸人2)、杉山庸一郎3)、近藤健二4)、朝蔭孝宏4)、二藤隆春4)、野村分敬5)、高野澤美奈子6)、
五島史行7)、松永達雄7)、南
西野
6)
修司郎7)、島田貴信4)7)、北村
5)
4)
宏 、角田篤信 、山岨達也 、久
国立病院機構東京医療センター
充7)、大友章子4)7)、永井遼斗7)、藤井正人7)、
3)
育男
人工臓器・機器開発研究部1)、国立病院機構名古屋医療センター耳鼻咽喉科2)、
京都府立医科大学耳鼻咽喉科3)、東京大学医学部耳鼻咽喉科4)、東京医科歯科大学耳鼻咽喉科5)、
自治医科大学耳鼻咽喉科6)、国立病院機構東京医療センター耳鼻咽喉科7)
はじめに)昨年の研究計画に続き、舌圧子一体型口腔咽頭内視鏡とその研究の進捗状況について報告する。目的)使用医
師の評価に基づく試験医療機器の口腔咽頭鏡としての安全性と有用性の確認と患者の満足度の把握家族の満足度の把握供覧
者(医師、医師以外の医療職)の満足度の把握対象および方法)耳鼻咽喉科通院患者で、耳鼻咽喉科全般および口腔、口
蓋、咽頭の観察・処置を必要とするもの、うち文書による同意が得られたものとした。これらの症例に対し、医師・医療従
事者にはA.観察、B.処置、C.記録、D.供覧、E.安全性、F.簡便性、G.今後も使用したいか、患者・家族に対
しては H.検査の不快感、I.検査の不安感、J.記録供覧説明、そのほか、既存の方法(舌圧子と光源やファイバー、
電スコ)に比し劣る点など有害事象を含み自由記載によるアンケート調査を行った。結果および考察)現在データ収集中で
あるが、経過進捗状況について報告する。
118―593
日耳鼻
455
上顎洞腺癌と涙嚢扁平上皮癌を同時重複した 1 例
○嶋崎絵里子、門司幹男、倉富勇一郎
佐賀大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座
副鼻腔悪性腫瘍は90%が扁平上皮癌であり腺癌は少ない。また涙嚢腫瘍は発生頻度が低く、まれな腫瘍である。今回われ
われは、上顎洞腺癌と涙嚢扁平上皮癌を同時重複した症例を経験した。症例は71歳男性。流涙や眼球結膜充血を主訴に近医
眼科を受診。右眼窩下縁腫瘤を指摘され、近医耳鼻咽喉科を受診。右上顎洞腫瘍の眼窩内浸潤が疑われ当科紹介。MRI に
て右上顎洞内に T2 強調像で全体に低信号を呈し、造影後不均一で淡い増強効果のある腫瘍性病変を認めた。右眼窩内には
T2 強調像で低信号を示し内部は全体に強い増強効果を認める腫瘍性病変を認めた。画像検査からは前者は上顎癌、血瘤腫
が、後者は炎症性偽腫瘍、悪性リンパ腫、転移性腫瘍、血管原性腫瘍等が疑われた。上顎洞腫瘍は生検にて腺癌と診断され、
眼窩内腫瘍は眼科で生検を施行し涙嚢扁平上皮癌と診断された。腫瘍減量術と動注併用放射線療法を行い現時点で再発所見
は認めない。ここに若干の文献的考察も加えて報告する。
456
鼻涙管原発腺様嚢胞癌の一例
○都築伸佳、佐々木俊一、富永健裕、松本伸晴、阿部実恵子
足利赤十字病院
耳鼻咽喉・頭頸部外科
涙道に腫瘍が発生することはまれであるが、鼻涙管での発生はさらにまれであり、報告も散見される程度である。今回わ
れわれは非常にまれな鼻涙管原発の腺様嚢胞癌の1例を経験したので報告する。症例は72歳男性。以前より左流涙あり、鼻
涙管閉塞を指摘されるも近医眼科で経過観察。左涙嚢炎を発症し他院眼科にて当科初診5カ月前に左鼻腔涙嚢吻合術施行。
他院術後 CT にて嚢胞の指摘あり、当科紹介。嚢胞は左鼻涙管に一致して存在し、MRI では T1WI で低信号、T2WI で軽度
高信号、Gd 造影で辺縁に強い造影効果が認められ、嚢胞以外に腫瘍である可能性も考えられた。内視鏡下鼻副鼻腔手術を
施行し、病理の結果、唾液腺型悪性腫瘍が疑われた。左 lateral rhinotomy 施行し、腫瘍を摘出。病理結果は腺様嚢胞癌であ
り、解剖学的位置より鼻涙管原発と考えられた。術後、放射線療法を施行し、現在再発・転移は認めていない。以上の症例
について文献的考察を加えて報告する予定である。
457
手術不能鼻副鼻腔未分化癌に対する化学療法
○大野恒久1)、椛
慎治2)、大庭
京都桂病院
1)
晋3)
耳鼻咽喉科 、倉敷中央病院
埼玉医科大学国際医療センター
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)、
頭頸部腫瘍科3)
鼻副鼻腔未分化癌(以下 SNUC)は比較的まれな疾患である。現在いまだ確立された治療はなく、診断された時点で進行
癌の場合が多く予後不良である。今回われわれは、初診時に手術不能であった SNUC に対して、化学療法(+放射線照射)
。導入化学療法として EP(シスプ
を施行した2症例を経験したので報告する。症例1は35歳男性(T4bN0M0、stage IVb)
ラチン+エトポシド)療法施行したところ完全寛解が得られた。2コース EP 療法施行後、重粒子線治療が行われ、現在寛
。導入化学療法として EP 療法2コース施行したが SD であっ
解継続中である。症例2は66歳男性(T4bN0M1、stage IVc)
たため、CBDCA+PAC 併用放射線照射を施行したところ、PR となった。現在、外来にて CBDCA+PAC を継続しながら
経過観察中である。SNUC に対しては、現在確立された治療法は存在しないが、これらの化学療法が治療の選択枝となる可
能性が示唆された。
458
Werner 症候群と鼻副鼻腔悪性黒色腫の関連
○門脇嘉宣、児玉
悟、森山宗仁、鈴木正志
大分大学
耳鼻咽喉科
医学部
Werner 症候群(以下 WS)は常染色体劣性遺伝の遺伝性早期老化症であり、特徴的な鳥様顔貌を呈し、白内障や糖尿病
に加え甲状腺癌や悪性黒色腫などの悪性腫瘍を高率に合併する。今回、われわれは鼻副鼻腔悪性黒色腫を合併した WS 姉妹
を経験したので、臨床上の注意点も含めて報告する。症例は受診当時それぞれ54歳姉と43歳妹だった。姉は皮膚悪性黒色腫
の治療後として耳鼻科での経過観察中に鼻副鼻腔悪性黒色腫を認め、妹は鼻閉を主訴に近医耳鼻科を受診した。先行した妹
は粒子線治療を行い、5年後に発症した姉は内視鏡下切除術を行った。両者とも局所制御は可能であったが、治療後2年以
内に全身転移のため死亡した。同胞である WS の弟は未発症であり、定期的な経過観察を継続している。WS はこれまで世
200症例以上のうち8割が日本人であり、わが国に多い疾患である。日常診療で遭遇する可能性もあり、
界で報告された1,
耳鼻科的診察を依頼されることもある。本邦の耳鼻咽喉科医にとって、WS の疾患の認識と頭頸部悪性腫瘍合併への注意が
必要である。
118―594
459
2015
当科を受診した悪性黒色腫の検討
○廣瀬由紀、和田哲郎、田渕経司、原
筑波大学
医学医療系
晃
耳鼻咽喉科
1990年から2014年までに当科を受診した悪性黒色腫の23症例について検討を行った。原発部位は鼻副鼻腔20例、皮膚1
例、歯肉1例、外耳道1例であった。年齢は20歳から88歳で、性別は女性9例、男性14例であった。治療法は放射線治療単
独が4例(うち陽子線を用いたものは3例)
、化学療法単独が1例、手術単独が2例、化学療法と手術の併用が4例、放射
線と化学療法の併用が4例(陽子線併用3例)
、放射線と手術の併用が2例(陽子線併用1例)放射線・手術・放射線の併
用が4例(陽子線併用2例)
、無治療が2例であった。転帰は原病死が14例、他因死が3例、無病生存が5例、担癌生存が
1例であった。頭頸部悪性黒色腫は根治切除が難しく、化学療法、通常の放射線治療への抵抗性など課題が多い。今回の検
討でも症例は限られているが治療成績は良好とはいいがたかった。今後、新たな治療指針の確立が望まれる。
460
当科で治療を行った鼻腔・篩骨洞悪性腫瘍症例の臨床的検討
○宮丸
悟、村上大造、蓑田涼生、鮫島靖浩、湯本英二
熊本大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
鼻・副鼻腔の悪性腫瘍では、鼻腔と篩骨洞を一つにまとめて扱う病期分類が2005年(改定第4版)に初めて規定された。
規約の中ではまだ日が浅く、鼻腔・篩骨洞に対象を絞って原発悪性腫瘍を検討した報告は少ない。そこで、鼻腔・篩骨洞の
悪性腫瘍の現状を把握することを目的に1999年から2012年までに当科で治療を行った鼻腔・篩骨洞悪性腫瘍症例について検
討を行った。
症例は45例で男性27例、女性18例、年齢は23歳から88歳で中央値は60歳であった。組織型では扁平上皮癌が18例と最も多
く、腺様嚢胞癌8例、悪性黒色腫5例、軟骨肉腫4例、腺癌3例、嗅神経芽細胞腫2例、粘表皮癌2例、移行上皮癌2例、
カルチノイド1例であった。TNM 分類では、T1 : 14例、T2 : 3例、T3 : 8例、T4a : 8例、T4b : 12例であった。2例で
頸部リンパ節転移を認めた。
2%であった。組織別では腺様嚢胞癌で70%と良好であったが、扁平上皮癌で43.
9%、
全体の疾患特異的5年生存率は52.
1%、T2 : 66.
7%、T3 : 75%、T4a : 62.
5%、T4b :
悪 性 黒 色 腫 で20%と 不 良 の 結 果 で あ っ た。T分 類 別 で は、T1 : 74.
18.
2%であった。
461
Facial Dismasking 法にて切除・再建した異時再発性上顎骨形成性線維腫の 1 症例
○鈴木久美子1)、峯崎晃充1)、倉富勇一郎1)、上村哲司2)
佐賀大学医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座1)、佐賀大学医学部
形成外科2)
骨形成線維腫はセメント質と骨を形成する線維性間質からなる良性腫瘍である。膨張性に増大し、また下顎骨に最も多く
発生し、多発することはまれである。今回われわれは、右上顎骨に初発し、10年後に反対側上顎骨に発生し根治切除を行っ
た、まれな骨形成線維腫の1症例を経験したので報告する。
症例は29歳男性。10年前に右上顎骨セメント質骨線維腫を切除され、口腔外科にて経過観察されていた。CT にて左上顎
骨に巨大腫瘤を認め、当科を紹介され初診した。左下鼻道外側壁より突出する腫瘤あり、左硬口蓋全体が膨瘤し、左眼球突
出を認めた。CT では左上顎骨を置換し、膨張性に全方向性に発育し、周囲骨破壊を来す直径約 5cm の腫瘍を認めた。手術
では Facial Dismasking 法を用い、頭部に冠状切開を加え、頭部皮膚骨膜上にて顔面まで皮膚を剥離し、腫瘍とともに左上
顎骨と硬口蓋を摘出し、頭蓋骨外板とチタン製メッシュプレートにて再建した。病理診断は骨形成性線維腫および、セメン
ト質形成性線維腫であった。現在までに腫瘍の再発は認めていない。
462
遠隔転移を来した頭蓋底浸潤エナメル上皮腫の 1 例
○中目亜矢子1)、小川武則1)、臼渕
東北大学
病院
肇2)、石井
亮1)、東
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、東北大学
賢二郎1)、嵯峨井
病院
俊1)、香取幸夫1)
病理部2)
エナメル上皮腫は、良性腫瘍をして知られており、治療法としては掻爬術などの機能温存治療が選択されることがある。
しかし、今回われわれは、歯科口腔外科で掻爬術を中心に複数回手術を行った後に、頭蓋底に再発し、頭蓋底手術を施行。
術後病理標本では、悪性所見のないエナメル上皮腫と診断されたものの、肺転移を来した症例を経験したため、文献的考察
を含めて報告する。
118―595
日耳鼻
463
3D バーチャルシミュレーションはオーダーメイドチタンメッシュ使用時にも有用である
○西尾直樹、藤本保志、平松真理子、小出悠介、須賀研治、下野真理子、森
名古屋大学
医学部
遥子、箕浦千恵
耳鼻咽喉科
(結論)オーダーメイドチタンメッシュ使用においては“予定通りの切除”が肝要であり、3D バーチャルシミュレーショ
ンが有用であった。
(背景)顔面骨再建を伴う頭蓋底腫瘍切除においては硬組織再建が課題である。オーダーメイドチタン
メッシュは切除による欠損が予定と異なると十分な効果が得られない(時には使用できない)危険性があった。
(症例)33
歳女性。主訴は左眼球突出と複視。左篩骨洞から左眼窩内・前頭洞、頭蓋内へ浸潤し、顔面骨を破壊する 40mm 大の腫瘍
を認めた。生検で低悪性度の chondromatous tumor。術前に得られた 3DCT より 3D バーチャルシミュレーションを施行し、
顔面骨の欠損範囲に基づいたオーダーメイドチタンメッシュを準備した。帽状腱膜弁により頭蓋底を被覆し、眼窩壁と顔面
はチタンメッシュを用いて再建した。永久病理で骨肉腫と診断され術後化学療法施行した。術後10カ月、再発所見なく経過
観察中である。
(考察)今回はメッシュの固定位置決定に若干時間を要した。今後は 3D 実体モデルでの事前装着などによ
り、正確性を高めたい。
464
嗅神経芽細胞腫21例の治療成績
○澤津橋基広1)、白土秀樹2)3)、加藤明子1)、中島寅彦1)3)、小宗静男3)
九州大学病院
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、国家公務員共済組合連合会
九州大学大学院医学研究院
浜の町病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)、
3)
耳鼻咽喉科
【目的】嗅神経芽細胞腫21例の治療成績について検討した。
【方法】1993年∼2013年に当科受診し、治療後捕捉し得た男性
10例、女性11例、24∼76歳を対象とし、臨床病期、治療成績等について検討した。
【結果】生存例観察期間は14∼228カ月平
均90カ月であった。臨床病期 Kadish 分類A2例、B7例、C12例であった。Dulguerov 分類では T1 は2例、T2 は7例、
T3 は7例、T4 は5例であった。リンパ節転移例 N1 は6例であった。2001年までは主に開頭鼻前頭蓋底手術が選択され、
以降約10年間は、放射線(RT)および化学療法(CT)が選択されていた。2011年以降は内視鏡下鼻副鼻腔手術を行いその
後 RT または CT が選択されていた。全症例の粗生存率は5年85%、10年で70%で、T1∼T3 でかつ N0 症例の疾患特異的生
存率は5年、10年ともに100%で、N1 または T4 例のそれは5年57%、10年19%であった。
【結論】嗅神経芽細胞腫の臨床
予後因子は初診時のリンパ節転移および局所脳内浸潤である。また、治療後短期間遠隔転移再発例や、再発を繰り返すも担
癌長期生存例もあり、病理生物学的因子も考慮する必要がある。
465
嗅神経芽細胞腫予後不良症例の組織学的検討
○白土秀樹1)、澤津橋基広2)、中野貴史1)、岡
国家公務員共済組合連合会
九州大学
医学部
浜の町病院
正倫1)、玉江昭裕1)、西嶋利光3)、佐藤方宣3)、安松隆治2)、中島寅彦2)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、九州大学
医学部
耳鼻咽喉科2)、
3)
形態機能病理学
嗅神経芽細胞腫は、嗅神経粘膜発生の悪性腫瘍であり頻度は全鼻腔腫瘍の1%にも満たない比較的まれな腫瘍である。そ
のため、単一施設内での症例集積が難しく、外科的治療のほか、放射線治療、化学療法などの治療方法をどのように組み合
わせるかは一定したコンセンサスが得られていない。さらに近年重粒子線治療の普及に伴い治療方法の選択が広がりつつあ
る。嗅神経芽細胞腫の治療における予後因子は初診時のリンパ節転移および、腫瘍の脳内浸潤という報告が多い。今回のわ
れわれの検討でも同様の結果であった(
“嗅神経芽細胞腫21例の治療成績”で発表)
。しかしながら、治療後比較的短期間で
遠隔転移再発する例や、再発を繰り返すも担癌長期生存例もあり、病理生物学的因子の関与も考慮する必要がある。今回わ
れわれは九州大学および浜の町病院で1993年から2014年までの21年間に診断治療された嗅神経芽細胞腫32例の病理標本につ
いて主として病理学的悪性度に注目して予後規定因子を臨床病理学的に検討したので若干の文献的考察を加えて報告する。
466
頸静脈孔神経鞘腫へのアプローチ : 微小外科解剖検討および文献的考察
○小宗徳孝、松本
九州大学病院
希、本郷貴大、高岩一貴、小宗静男
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【背景】これまで多くの頸静脈孔神経鞘腫に対するアプローチが報告されてきた。多くの手術アプローチの報告が、実際
の手術選択に混乱を招いているのも事実である。本研究では、微小外科解剖の見地から報告されている手術アプローチを分
類した。
【方法】死体検体解剖研究
【結果】頸静脈孔へのアプローチは、3つの基本アプローチから成り立っている : retrosigmoid approach、inlarabyrinthine
mastoidectomy、 high cervical exposure。頸静脈孔を開放するには、2つの key step が必要である : infralabyrinthine mastoidectomy と頸静脈突起の削開。頸静脈孔へのアプローチは、これらの3つの基本アプローチと、2つの key step を組み合
わせる必要がある。われわれは、外側から後方へのアプローチを6つのタイプに分類した。
【結論】頸静脈孔へのアプローチとその微小外科解剖を熟知することは、術中のリスクを最小限にしながら、腫瘍摘出を
完遂するのに必須である。当研究は、現在の混迷したアプローチを明確にする一助となるものと考えられる。
118―596
467
2015
最近 2 年間の当科味覚専門外来受診患者の検討
○田中真琴1)、原田英誉1)、浅居僚平1)、森田優登1)、田井道愛1)、池田
日本大学
医学部
1)
稔2)、大島猛史1)
2)
耳鼻咽喉・頭頸部外科 、いけだ耳鼻咽喉科
日本大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野では、1976年に味覚異常の患者を診療する味覚専門外来を開設して以降、多
くの味覚障害に対する診断・治療、臨床研究、基礎研究を行ってきた。現在の味覚専門外来では、週に最大で4名の新患を
7歳、
診察している。平成25年1月から平成26年11月までに味覚専門外来を新たに受診した患者は、男性116名(平均年齢62.
17歳∼94歳)
、女性145名(平均年齢59.
6歳、19∼87歳)で、合計261名であった。これら患者の主訴、味覚定量検査の検査
結果、嗅覚障害合併の有無、血清亜鉛値等の血液検査所見、治療、治療開始3カ月後および6カ月後の治療効果等を検討し、
若干の文献的考察を加えて報告する。
468
4 基本味における認知閾値の季節変動について
―テーストディスクⓇ とソルセイブⓇ を用いて―
○工藤典代、染矢菜美、金澤
千葉県立保健医療大学
匠
健康科学部
栄養学科
味覚閾値に変動を来す要因として、消化管手術前後、妊娠、アルコールの摂取、血清亜鉛値などの研究が散見される。し
かし、季節による閾値変動に関する報告は見当たらなかった。今回、18歳以上の健常者を対象に、冬季と夏季の2回、味覚
検査を実施し、季節による味覚閾値の変化を検討したので報告する。4基本味をテーストディスクⓇ を用い、検知閾値と認
知閾値を測定した。塩味については、さらにソルセイブⓇ を用いて閾値測定を行った。ソルセイブⓇ は市販品の最少濃度は
0.
6mg/cm2 のため、より低濃度の 0.
5mg/cm2 以下の濃度のろ紙を特注し認知閾値を測定した。結果は、甘味は閾値不変が
7%と多く、夏季は塩
多く、酸味、苦味は閾値不変と閾値低下がほぼ同数であったが、塩味は夏季に閾値低下を示す例が72.
味を感じやすくなることがわかった。
469
ピロカルピン顆粒混合飲料服用による安静時唾液量の変化
○山村幸江、草間
薫、一瀬和美、坂林美喜子、吉原俊雄
東京女子医科大学
耳鼻咽喉科
M3 ムスカリン作動薬は効果があっても発汗や消化器症状といった副作用のために服薬を継続できない例が少なくない。
副作用軽減の工夫としてリンス法や分割投与があるが、準備の煩雑さ等がコンプライアンスの低下要因となる。
口腔乾燥症患者は症状を和らげるために飲料を携帯して頻繁に口に含んでいることが多い。2014年12月に発売されたピロ
カルピン顆粒は錠剤と比較して水溶が容易である点に着目して、健常者を対象に、ピロカルピン顆粒を水に溶解させたもの
を飲用させ、通常の服用法と比較した安静時唾液分泌量の変化について検討した。
健常者10名を対象とした。ピロカルピン顆粒 5mg(1回量)を水 30ml に溶解したものを1回に 10ml ずつ、1時間おき
に、計3回飲用させ、内服前および1∼5時間後に安静時唾液量を測定した。対照として、同一人で同顆粒 5mg を1回で
服用した場合と無投薬の場合の安静時唾液量も同様に測定した。
結果、1回 5mg 飲用の場合と1/3量を1時間おきに計3回飲用の場合いずれも安静時唾液は増加し、少量多数回の内服
でも唾液分泌刺激効果が得られた。
470
顎下腺欠損により診断が難渋した唾石症の 1 例
○上原奈津美1)、後藤友佳子1)、井之口
甲南病院
1)
豪2)
耳鼻咽喉科 、神戸大学医学部附属病院
耳鼻咽喉・頭頸部外科2)
今回われわれは、顎下腺唾石症の診断に難渋し、精査の結果一側性の顎下腺欠損を認めた症例を経験したので文献的考察
を加えて報告する。
【症例】80歳
女性【既往歴】C型肝炎、胃癌【現病歴】X年6月24日右耳後部痛があり当科初診とな
った。明らかな所見なく経過観察としたが症状続くため顎関節症の可能性を考え歯科口腔外科へ紹介した。パントモグラフ
ィで唾石を認め精査目的で施行した頸部 CT で右顎下腺を認めず、通常移行部と思われる場所に唾石を認めた。頸部からの
摘出は困難と判断し、歯科口腔外科で口内法による唾石摘出術目的で8月1日入院となった。
【経過】全身麻酔下口内法で
舌神経を同定保存し唾石を摘出した。術後舌のしびれを認めているが経過観察中である。
【考察】顎下腺欠損の報告は海外
文献を含めても非常にまれである。本症例のように、偶然画像精査中に見つかった報告が多い。無形成症か、早期のワルト
ン管の閉塞に伴う萎縮なのか議論が分かれる。今回われわれは顎下腺がなく唾石の診断に難渋したが、症状が持続する場合
は注意深く精査することが必要である。
118―597
日耳鼻
471
唾石の局在診断のための SialoCT の有用性
○濱島有喜1)、村上信五1)、尾崎慎哉2)、小山新一郎2)
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、名古屋第二赤十字病院
名古屋市立大学
耳鼻咽喉科2)
唾石摘出術における唾液腺内視鏡手術は、2014年に保険適応も追加され、今後も増加していくと考えられる。唾石発生部
位には、乳頭開口部付近、導管内、導管移行部、腺内の4箇所があるが、摘出に難渋するのは、移行部から腺内に唾石が存
在す場合である。口腔底から、双手診で唾石を触れることができれば、唾石は腺内であっても、口腔底を追加切開すること
でまず摘出できるが、双手診で触れない場合は、内視鏡手術で摘出できるか、外切開が必要になるか迷うところである。わ
れわれは、術前の唾石局在診断として、SialoCT を施行している。造影剤を唾液腺管内に注入して CT を撮影する。CT は、
2重管球になっており(Dual energy CT)
、一方を低電圧、他方を高電圧で撮影し、唾石と造影剤のコントラストの違いか
ら、両者を判別し、唾石の局在診断に利用している。今学会では名古屋市立大学における、唾石局在診断について報告する。
472
当科における唾液腺内視鏡を用いた顎下腺唾石摘出術の検討
○高原
幹、長門利純、野村研一郎、片田彰博、林
旭川医科大学
達哉、原渕保明
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
当科では2010年から顎下腺唾石症に対し唾液腺内視鏡を用いた唾石摘出術に取り組んでおり、今回その成績について報告
する。対象は当科にて2010年10月から2014年12月までに内視鏡を用いて手術を行った顎下腺唾石症55例(男性24例、女性31
例、10∼88歳
中央値34歳)である。患側は右が33例、左が22例であり、部位別では移行部が49例と最も多かった。唾石の
サイズは3から 25mm(中央値 8mm)であった。22例にて内視鏡的操作のみで摘出、残りの33例は補助下口内法により摘
、舌の
出した。手術時間は17∼195分で中央値は72分であった。術後合併症に関しては、一過性の顎下腺腫脹が23例(42%)
しびれが9例(16%)に認められた。それらの症状は術後数カ月で改善した。また、術後半年程経過したのち、ガマ腫が発
症した2例を経験した。術後出血、顔面神経麻痺は認められず、顎下腺腫脹の再発等にて顎下腺摘出を行った症例は現在経
験していない。これらのことから、唾液腺内視鏡を用いた唾石摘出術は審美性に優れた安全な手術として有用な方法である
と考えられた。
473
唾液腺内視鏡手術の治療成績と learning curve についての検討
○松延
毅1)2)、栗岡隆臣2)、荒木幸仁2)、冨藤雅之2)、山下
拓2)、塩谷彰浩1)
1)
新東京病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 、防衛医科大学校耳鼻咽喉科学講座2)
最近になり唾液腺内視鏡使用による低侵襲な唾石治療が注目され本邦でも普及しつつある。しかし、唾液腺管内視鏡手術
は限られた視野の中で煩雑な操作を必要とされるため、技術の習得、手術の熟達には従来の手術法と比較して多くの症例を
経験する必要があると考えられる。従って、内視鏡手術の経験数と経験年数とともに手術時間の短縮が期待される。そこで
11月∼2014.
5月の間に唾液腺管内視鏡手術を施行した78例治療成績と learning curve を検討
今回われわれは、当科で2007.
した。内視鏡手技のみで摘出可能であった例は10例、内視鏡を併用する combined approach で摘出した例が43例、術中に
9%であった。年次的な術式の内訳と手術時間について検討したとこ
腺摘出に切り換えた症例が11例であり腺温存率は85.
ろ、経時的に術式の低侵襲化と手術時間の短縮に成功している。唾液腺管内視鏡は低侵襲な唾石治療法として有用と考える
が、技術の習得、手技向上には多くの症例を経験する必要があると考えられた。今回の新たな知見に関して文献的考察を加
えて報告する。
474
時系列による耳鼻咽喉科疾患の変遷
○松山浩吉
松山耳鼻咽喉科
【はじめに】耳鼻科診察において、小児では鼻汁・咽頭扁桃炎による上咽頭症状、青年では咽頭・鼻副鼻腔炎といった中
咽頭症状、壮年・老年期には咳・痰といった下咽頭・喉頭症状が現れる。これら疾患の時間的流れは臨床診察には欠かせな
962症例について系時的に疾患の変遷について検討した。
【方法】
いが、これらを系時的に表したものはない。今回、当院2,
ワルダイエル咽頭輪9項目、病名・症状24項目を0点から3点に分類し、年齢を含めた34項目について検討した。各項目に
962症例サンプルを0歳台(平均値)から70歳台(平均値)の8サンプル(年台別平均値)に分類し、主成分分析
ついて2,
を行った。【結果】主成分分析の変量プロット図より、主成分1で上方はリンパ炎症系を、下方は喉頭・唾液系を表し、主
成分2では、中咽頭・副鼻腔系とした。8サンプルプロットより、小児期はリンパ炎症系、青年期は中咽頭・副鼻腔系、壮
年・老年期は喉頭・唾液系を示した。変量プロット図とサンプルプロット図を重ね合わせることにより、年台曲線は病名・
症状の変遷を現した。
118―598
475
2015
新潟県における耳鼻咽喉科健診の実態調査結果
○大滝
一、廣川剛夫、坂爪
日本耳鼻咽喉科学会
誠、鳥居
新潟県地方部会
俊
学校保健委員会
昭和33年に学校保健法が施行され、新潟県においても昭和40年代後半より小・中学校を中心に耳鼻咽喉科健診が本格的に
行われるようになった。その後高等学校、さらに幼稚園と保育園の健診も行われるようになり現在に至っている。しかし、
新潟県全体として耳鼻咽喉科健診の実態についての調査は行われたことがなく、健診に関する実状は十分に把握されてこな
かった。そこで今回われわれは、新潟県全体の耳鼻咽喉科健診の実態を把握することを目的にアンケート方式で調査を行っ
た。対象は、幼稚園152園、保育園710園、小学校499校、中学校231校、高校105校で、各市町村の教育委員会、新潟県保育
園協会、新潟市私立幼稚園協会などに調査を依頼した。調査の内容は、耳鼻咽喉科健診と聴力検査の実施学年などである。
幼稚園と保育園では健診医師についても調査を行った。その結果、幼稚園の約7割では耳鼻咽喉科健診が全く行われていな
いことが分かった。これらの結果を提示し、新潟県の今後の耳鼻咽喉科健診のあり方について検討したので報告する。
476
耳鼻咽喉科疾患のおける赤外線サーモグラフの応用について
○本田
学
本田耳鼻咽喉科医院
【目的】医療用赤外線サーモグラフィは、体表面の温度を画像化し、診断の補助をするものである。非接触検査機器で侵
襲もなく、利用価値の高い機器であるが、高価で使用する機会も少なく、耳鼻咽喉科領域での報告は少ない。さて最近低価
格の赤外線サーモグラフィ(工業用)が市販されるようになり、新型インフルエンザやエボラ出血熱のためもあり集団のス
クリーニングの検査等が行われており、われわれも使用する機会が出てくる可能性がある。
【方法】そこで工業用赤外線サ
ーモグラフィ(フリアーシステムズ社の FLIR i3)を用い耳鼻咽喉科領域の種々の疾患について観察を行った。
【結論】工業
用で簡易検査となるが、容易に体表面の温度分布の表示ができるため、例えば耳介蜂窩織炎における周囲への炎症波等の診
断に、大変有用であった。症例を示し報告する。
477
短期滞在手術後に緊急電話連絡にて問い合わせがあった症例の検討
大1)、岩野
○上田
正1)、岸本麻子1)、永井香織2)
岩野耳鼻咽喉科サージセンター1)、ながい耳鼻咽喉科クリニック2)
当院では、2005年1月から2013年12月までに5,
640症例の手術を行い、そのうち114症例より120件の緊急電話による問い
合わせがあった。耳科手術後の問い合わせは23症例より24件あり、耳内タンポン脱出、出血などであった。鼻科手術後の問
35件は出血であった。
35件中17件は電話のみの対応で、7件は遠方などの理由で他院受診、
い合わせは66症例より70件あり、
11件は当院を当日受診し圧迫止血、焼灼術などの処置を行った。口腔咽頭科手術後の問い合わせは25症例より26件あり、24
件が口蓋扁桃摘出術後であった。そのうち19件が出血に関するものであり、対応としては、19件中2件で局麻下、3件で全
麻下において止血処置を行った。以上より、短期滞在手術後、緊急電話連絡を通じて止血処置などの対応が必要であった症
例は16症例16件であり、退院後の緊急電話連絡システムは、短期滞在手術が安全に行われる上で有用であると考えられる。
478
長期の経過観察中に突然進展をみた高齢者後天性真珠種例
○斉藤真紀、山岸純也、竹久
帝京大学
医学部
誠、安井拓也、伊藤
健
耳鼻咽喉科
【はじめに】高齢者における真珠種は長期間進展の無い症例もあり、保存的に経過をみることも少なくない。長期間経過
観察中に突然進展をみた高齢者後天性真珠腫例を報告する。
【症例】初診時71歳女性。2007年11月左耳痛が出現。近医で抗生剤内服するも改善せず、同年12月当科を紹介初診。左外
耳道に膿瘍を認め排膿により改善したが、無症状の右側の弛緩部に陥凹を認めた。CT にて右弛緩部∼上鼓室∼乳突腔に広
がる軟部組織陰影が存在し、右真珠腫性中耳炎と診断。手術希望なく保存的に経過観察した。少量の耳漏とデブリは存在し
たが増悪はなかった。2014年2月までのフォロー CT では著変無かったが、同年9月、回転性めまい、右聴力・耳鳴悪化が
出現し救急搬送。真珠腫の増大と天蓋・外側半規管の破壊を認めた。消炎して待機的に手術を施行し、聴力改善を得た。
【考察】本例のような症例の報告は少ない。高齢者では経過観察中に手術が困難となる可能性もあり、手術に踏み切る時
期についての判断については検討の余地がある。
118―599
日耳鼻
479
再発を繰り返した巨大錐体尖真珠腫の 1 例
○小西将矢、福井英人、友田幸一
関西医科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
錐体尖真珠腫はまれな病変であるものの、大血管(ICA・Jugular bulb)
、顔面神経、otic capsule といった錐体部内の重要
構造物や中頭蓋窩・後頭蓋窩硬膜に潜在的に進展しているケースも多く、外科手術によるコントロールは必ずしも容易では
ない。錐体尖部に対するアプローチは脳外科的には transpetrosal(上前方アプローチ)
、耳鼻科的には transotic(側方アプ
ローチ)が代表的であるがいずれも ICA 水平部から cavernous sinus にかけては死角になることが多く残存が多いとされ
る。今回われわれは、真珠腫初回手術後24年を経て錐体尖を超えて斜台へ進展し、2度の skullbase surgery(初回 transpetrosal、2回目 translabyrinthine)の後に遺残再発した真珠腫に対して内視鏡下補助下 transotic アプローチによる subtotal
petrosectomy にて腫瘍摘出を試みた症例を経験したので報告する。
480
外耳道に発生した syringocystadenoma の一例
○福井英人、小西将矢、友田幸一
関西医科大学
枚方病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
外耳道に発生する腫瘍性疾患は比較的にまれである。その中でも今回、われわれは外耳道に発生した Syringocystaadenoma
Papilliferum(SCAP)の一例を経験したので、文献的考察を含めて報告する。症例は34歳男性で右難聴を自覚し近医を自覚
した際に左外耳道の腫瘍性病変で指摘され、精査加療目的に紹介となった。当科受診時、左外耳道に広基性の辺縁性な隆起
性病変を認めた。明らかな増大傾向はなかったが本人の希望もあり、顕微鏡下に摘出したところ、組織診にて SCAP と診断
された。現在は術後、経過観察中であり、再発などは認めていない。SCAP は一般的に顔面や頭皮に発生する乳頭腫とも似
たまれな良性腫瘍であり、特に外耳道に発生した報告例は本症例を含めて数例と、極めてまれな腫瘍である。病理学的には
アポクリン汗腺が分化したもので不規則な管腔を多数形成する。悪性化するとの報告もあり、今後、十分な経過観察が必要
であると考える。
481
中耳膿原性肉芽腫の一例
○新鍋晶浩、江洲欣彦、吉田尚弘、飯野ゆき子
自治医科大学附属さいたま医療センター
耳鼻咽喉科
症例は53歳の女性。左難聴を主訴に近医耳鼻咽喉科を受診し、左外耳道に易出血性腫瘤を認め、平成26年6月9日に当科
紹介受診となった。左外耳道に充満する拍動性の赤色腫瘤を認め、側頭骨 CT および MRI にて下鼓室から上鼓室および外
耳道内に造影効果の強い病変を認めた。内頸動脈や頸静脈球との連続性は明らかでなかった。外耳道内腫瘤の深部からの生
検は出血が多く困難で、耳出血のため度々救急受診を繰り返し、血管腫の疑いで同年10月3日に外耳中耳腫瘍切除術を行っ
た。手術は耳後部に横切開をおき、外耳道内の腫瘤を明視下におき、マリスイリゲーションバイポーラにて外耳道から中耳
へと易出血性腫瘍を凝固減量しながら切除を行った。出血が非常に強く特に後鼓室および下鼓室における腫瘍切除や止血に
苦慮した。腫瘍は上鼓室までの進展であり、切除後に外耳道および鼓膜を軟骨板で形成した。術後上皮化良好で顔面神経麻
痺や内耳障害なく経過している。病理組織は膿原性肉芽腫の診断であった。
482
慢性中耳炎と頸部膿瘍から同一起炎菌を認めた一症例
○田畑貴久、高橋
産業医科大学
梓、池嵜祥司、大久保淳一、橋田光一、鈴木秀明
医学部
耳鼻咽喉科頭頸部外科
【初めに】頸部の感染は主に鼻咽頭からのリンパ行性に感染するものが主であり場合によっては重篤に至ることがある。
今回、われわれは中耳炎罹患中に頸部と耳内より同一起炎菌を認めた症例を報告する。
【症例】54歳男性、2014年6月頃か
ら両耳漏と掻痒感を認めたが経過観察していた。8月左頸部、左胸部、左肩関節痛があり当院救急搬送となった。受診後、
保存的加療を行ったが、症状悪化し化膿性胸鎖関節炎の診断で当院内科に緊急入院し抗生剤投与開始したが改善認めなかっ
たため再度造影 CT 施行したところ胸鎖関節に膿瘍腔形成認めたため当科転科し切開排膿術施行した。術後、左胸鎖関節痛
は軽快した。摘出した膿瘍と入院時の耳漏の細菌検査より MSSA
(2+)
、血液培養 : MSSA
(2+)
、Phage Open Reading
Frame Typing 法(POT 法)で同一菌を確認した。
【結語】慢性中耳炎罹患中に下内深頸に限局した頸部膿瘍を発症した症
例を経験した。細菌検査で、同一菌を検出した。中耳炎が頸部膿瘍の原因となり得ることがあると示唆された。
118―600
483
2015
施設入所者の中耳手術 3 症例
○森川敬之、森川
三岳荘
文、小松崎安美
小松崎病院
耳鼻咽喉科
当院は精神神経科を軸とした総合病院であり、入院病棟として精神神経科・神経内科の軽症患者、内科、外科および耳鼻
咽喉科が入院する内科病棟32床、療養病棟50床、そして精神神経科病棟188床を有する。よって精神神経科疾患で当院入院
中または障害者支援施設等他施設に入所中の患者に対する耳鼻咽喉科診察を度々依頼される。耳鼻咽喉科に関しては平成22
年より年間20例前後の中耳手術を全例局所麻酔下にて施行している。
今回われわれは真珠腫性中耳炎2例、慢性中耳炎1例の手術を施行し、現病歴から周術期までの過程において精神神経科
疾患が原因と考えられる諸問題に直面した。その中で ⑴ 疾患発見および診断の遅延と ⑵ 周術期における抗精神病薬の影
響の2点について実際に発生した問題やその対処法、反省点等を検討し、若干の文献的考察を加えて報告する。
484
耳疾患での外来処置、治療の工夫
木村
仁
木村耳鼻咽喉科医院
1)外傷性鼓膜穿孔→FGF 製剤とボルヒール製剤当院で過去6年間に23例の鼓膜穿孔の適応5例に、局所麻酔下で血管新
生増殖作用としての FGF 製剤と組織接着剤のボルヒール製剤の2種類を用いて、鼓膜の穿孔閉鎖術を行った。2)難治性外
耳湿疹→TAR 軟膏外耳粘膜での保湿力の増強と乾燥防止、過敏性の低下を目的として製造した。軟膏成分の基材にアズノ
ール軟膏を用い、リンデロン軟膏、トブラシン注射液を十分に混合して、5g ずつ容器に詰めて使った。TAR 軟膏とステロ
イド軟膏(VG)、タクロリムス外用(プロトピック)との比較をした。3)難治な耳管開放症⇒ベゾルド粉末付き吸収性ゼ
ラチン治癒の難しい耳管開放症4例に、耳管内にベゾルド粉末(付き)の吸収性ゼラチンを挿入装着。装着のポイントと治
療前後の耳管通気度検査を比較報告する。4)耳介膿瘍、血腫→レーザー穿刺メスレーザー穿刺メスを使い耳介膿瘍、血腫
耳の日帰り局麻手術を提示した。先端を穿刺用に加工した穿刺メスを作成し、従来の切開/穿刺とレーザー穿刺メスを比較
検討した。
485
一側性無難聴性耳鳴に対する一般診療に併用した鍼治療の効果機序検討
○鳥海春樹1)2)3)、林
賢1)、五島史行4)、久保田
1)
真1)、代田麻依子1)、石井賢治1)、田中
健1)、工藤伸幸1)、
1)
杉本正弘 、神尾友信
神尾記念病院
耳鼻咽喉科1)、慶應義塾大学大学院理工学研究科2)、鳥海鍼灸院3)、
東京医療センター
耳鼻咽喉科4)
【目的】一側性無難聴性耳鳴は、発生のメカニズムに不明な点が多く、有効な治療法も確立されていない。しかしながら
頭頸部筋緊張の緩和が耳鳴を改善させたと考えられる症例が存在することから、われわれは、無難聴性耳鳴の患者に対する
有効な非薬物療法として鍼(Acupuncture)を想定し、その作用機序を検討した。
【方法】一側性無難聴性耳鳴患者に対し、
一般診療に付加する形で週一回の鍼治療を行い、VAS、THI、HADS、純音聴力検査などで評価した。鍼治療前後の僧房筋
筋硬度の変化を筋硬度計により計測し、耳鳴症状の改善との相関解析を行った。
【結果】3カ月の鍼治療により、耳鳴 VAS
は40%に低下した。僧房筋筋硬度は、軽症例(THI 38点未満)では鍼治療後低下するが、中等症以上(THI 38点以上)症
例では、患測筋硬度は増加した。
【考察】一側性無難聴性耳鳴患者の患側僧房筋筋緊張は、健側に比較して刺鍼による弛緩
反射の程度が異なり、これらの性質が耳鳴症状増悪に関与している可能性が示唆された。
486
耳介に発生し、軟部悪性腫瘍との鑑別を要し形態温存に苦慮した小児結節性筋膜炎の 1 例
○代田桂一、柘植勇人、伊藤潤平、鈴木淳志、鈴木啓介、寺田聡広
名古屋第一赤十字病院
耳鼻咽喉科
結節性筋膜炎(nodular fasciitis)は皮下に発生する反応性増殖性病変である。今回われわれは耳介に発生し、軟部悪性腫
瘍との鑑別を要し、審美的な面からも対応に苦慮した結節性筋膜炎の1例を経験したので報告する。症例は初診時2歳10カ
月、女児。左耳介部の腫脹を主訴に当科受診。耳後部に 15mm×20mm 大の腫瘤を認めた。生検を兼ねた完全摘出予定とし
ていたが、急速な腫瘤の増大のため悪性疾患も否定できないことから、切開生検を先行し行った。病理結果は乳児線維腫症
(infantile fibromatosis)や乳児線維肉腫(infantile fibrosarcoma)が疑われるが、確定には外部コンサルタントが必要となっ
た。確定診断まで時間を要するため、当院小児科と協議し、待機期間の腫瘍増大抑制、腫瘍縮小効果とそれによる切除後の
耳介形態温存を期待し、乳児線維腫症を想定し vinblastine、methotrexate による化学療法を施行しつつ診断の確定を待った
が、コンサルトの結果は結節性筋膜炎であった。腫瘍辺縁切除が許容されると考え、可能な限り耳介形態を温存しつつ腫瘤
摘出術を施行した。
118―601
日耳鼻
487
Malleus ankylosis の 1 症例
○石田克紀、峯川
茅ケ崎中央病院
明、喜多村
健、坂井
真
耳鼻咽喉科
正常な側頭骨でも上鼓室壁から伸びた骨棘とツチ骨が隣接することは珍しいことではないが、実際に骨棘がツチ骨の可動
性を制限しているか、単に隣接しているだけか CT をもとに診断することは困難である。今回われわれは、手術にて確認し
た Malleus ankylosis の1例を経験したので文献的考察を加え、報告する。症例は60代、女性。主訴は右耳鳴。40歳頃より
右難聴を自覚していたが放置。今回、右耳鳴が続くため前医を受診し、通気治療で改善しない伝音難聴が残るため精査治療
目的に初診。鼓膜は全体に陥凹し、ツチ骨短突起の突出あり。聴力検査で 61.
7dB、気骨導差 16.
7dB の混合性難聴を示し
た。手術にて上鼓室壁よりツチ骨骨頭を囲むように骨組織が固着していることを確認。骨組織を削除し、可動性は改善した
が、最終的にキヌタ骨を摘出し、コルメラにて鼓室形成術施行。術後気導聴力は 40.
0dB となり、また骨導聴力も改善。難
聴の程度は病変の程度と位置によるとされ、本症例もそれを裏付ける結果であった。
488
成人後に発症した髄液耳漏の 2 例
○吉田忠雄、大竹宏直、寺西正明、曾根三千彦
名古屋大学大学院医学系研究科
頭頸部・感覚器外科学講座
耳鼻咽喉科
髄液耳漏の多くは頭部外傷や側頭骨の術後、腫瘍、感染、中耳奇形などが原因となって発症する。まれにそれらの原因が
ない、特発性髄液耳漏を認めることがある。今回われわれは原因の異なる成人後に発症した髄液耳漏の2例を経験したので
報告する。症例1は外傷から数十年経過して髄液の漏出が起きた症例である。髄液漏が遅発性に起きた原因としては外傷後
硬膜の欠損部に脳実質や肉芽組織、粘膜などがパッチしていたものが感染、体動、強い鼻かみ等を契機に破綻することが考
えられる。症例2には成人発症の特発性髄液耳漏である。瘻孔の部位として中頭蓋窩の鼓室天蓋が多く、後頭蓋窩の乳突蜂
巣後壁にもみられる。本症例では中頭蓋窩の鼓室天蓋の瘻孔であった。原因としては arachnoid granulations
(AGs)の関与
が考えられる。乳突蜂巣付近にある場合は穿破し髄液漏を引き起こすとの仮説がある。原因は異なるが、それぞれ非常にま
れな症例であった。これらの検査所見、手術所見、経過と文献的考察を含め報告する。
489
耳閉塞感を契機に判明した頸動脈管の骨壁欠損を伴う頭蓋底奇形の一例
○吉田亜由1)、奥野妙子1)、阿部彰子2)、堤内亮博1)、崎谷恵理1)、畑
三井記念病院
1)
耳鼻咽喉科 、三井記念病院
裕子1)、栗田宣彦1)
2)
放射線診断科
今回われわれは頸動脈管の骨壁欠損を伴う頭蓋底部の骨奇形を認めた症例を経験したので報告する。
症例は35歳男性。約1年前より右耳閉塞感を自覚し、近医を受診した。鼓膜の陥凹や呼吸性変動は認めなかったが、外耳
道下壁骨が陥凹し外耳道皮膚の動揺がみられたため、当科へ紹介受診となった。既往に特記事項はなく、体重変動もなかっ
た。聴力検査はほぼ正常で耳管機能検査で右側は耳管開放型であった。側頭骨 CT および頭部 MRI を施行したところ、真
珠腫形成や腫瘍等は認めず、内耳道や内耳の形成に異常はなかったが、右頭蓋底部に骨の奇形を認め、脳脊髄液腔は右第
9、10、11脳神経に沿って頸静脈孔や右舌下神経管内に拡大していた。右外耳道下壁は骨欠損があり、頸動脈管の下壁の骨
も欠損し、上咽頭に連続していた。保存的に経過をみているが、上咽頭処置等により損傷を来した場合、致命的になり得る
可能性があるので注意が必要と考えられる。
490
突発性難聴 Grade 1、2 に対するステロイド内服治療の成績について
○河野敏朗1)、松浦省己1)、石戸谷淳一2)、岩村節子3)、鯨井和朗4)、高畑喜延5)、古川
8)
9)
10)
10)
滋6)、栗原美樹7)、
1)
佐藤博久 、池田陽一 、高橋優宏 、折舘伸彦 、松島明美
西横浜国際総合病院
耳鼻咽喉科1)、石戸谷耳鼻咽喉科2)、岩村耳鼻咽喉科3)、くじらい耳鼻咽喉科4)、
5)
高畑耳鼻咽喉科 、古川耳鼻咽喉科6)、上大岡耳鼻咽喉科7)、佐藤耳鼻咽喉科8)、池田耳鼻咽喉科9)、
横浜市大
耳鼻咽喉科・頭頸部外科10)
【目的】突発性難聴 Grade 1、2 に対するステロイド内服治療の成績について検討をしたので報告する。
【対象と方法】対
象は2009年11月から2014年10月までにステロイド内服治療をした、突発性難聴 Grade 1 の41例と Grade 2 の26例の計67例
(男性33例、女性34例)とした。発症から治療開始まで30日以内の初回治療症例とした。Grade 別に治療成績、あるいはロ
ジスティック回帰分析を用いて治療成績に影響を与える因子について検討をした。有効は治癒と著明回復、回復とし非有効
0%、Grade 2 は治癒10例、著明回復1例、回復9例、
は不変とした。
【成績】Grade 1 は治癒29例、不変12例で有効率は70.
9%であった。Grade 1、2 の間には治療成績の有意差は認めなかった。ロジスティック回帰分析で
不変6例で有効率は76.
は発症から治療開始までの日数が治療成績に関与していた。
【結論】突発性難聴 Grade 1、2 のステロイド内服治療の有効率
は約70%強であるが、不変症例も約30%弱存在した。
118―602
491
2015
突発性難聴に対するステロイド鼓室内注入療法の検討
○岡田昌浩1)、小川日出夫1)、高木大樹1)、山田啓之1)、羽藤直人1)、高木太郎2)、本多伸光2)
愛媛大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、愛媛県立中央病院
医学部
耳鼻咽喉・頭頸部外科2)
突発性難聴に対するステロイド投与には全身投与と鼓室内注入が用いられる。鼓室内注入は、全身投与後のサルベージ治
療、あるいは糖尿病などで全身投与が困難な症例に対する初期治療としてその有効性が認められている。しかし、全身投与
と鼓室内注入の同時併用療法の有効性に関しては一定の見解を得ていない。
当科では鼓室内注入をサルベージ治療として行ってきたが、聴力改善は 10∼20dB 程度にとどまり、実用的な聴力レベル
まで改善する症例は少数であった。鼓室内注入のタイミングは早い方が治療成績も良いと予想されるが、同時併用療法の有
効性は示されていない。これは全身投与のみで治癒に至る症例もあるため、鼓室内注入の上乗せ効果が出にくいとも考えら
れる。全身投与のみで軽快する症例を早期に判断し、難治と予想される症例のみに鼓室内注入療法を追加すれば、より良い
治療効果が期待できるのではないかと考えた。そこで、治療開始3日後の聴力で予後を予測し、比較的早期に鼓室内注入を
行うプロトコルを作成したので、その方法や結果について報告する。
492
突発性難聴に対するステロイド鼓室内注入療法の治療成績―投与間隔による有効性の相違―
○鈴木秀明、小泉弘樹、田畑貴久、大久保淳一、池嵜祥司、喜瀬祥啓、北村拓朗、橋田光一
産業医科大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【目的】突発性難聴に対するステロイド鼓室内注入の間隔が聴力予後に与える影響について検討した。
【方法】対象は入院治療を行った突発性難聴患者177例で、治療開始までが30日以内で grade 2 以上の症例とした。治療は、
プレドニゾロン 100mg を全身投与しデキサメタゾンを鼓室内注入した。105例に対しては週1回計4回、72例に対しては1
週間内に4回注入を行った。評価指標は、厚生労働省の判定基準による治癒率、著効率、有効率、および聴力利得、聴力改
善率、治療後聴力の6項目とした。
0/14.
1%(長間隔群/短間隔群)
、著効率が43.
8/40.
8%、有効率が75.
2/74.
6%、聴力
【結果】治療成績は、治癒率が20.
0±4.
3/49.
8±4.
6%、治療後聴力が 56.
2±2.
6/51.
5±2.
9dB であった。
利得が 25.
3±2.
2/25.
6±2.
6dB、聴力改善率が48.
いずれについても両群間に有意差はなかった。
【結論】突発性難聴に対するステロイド鼓室内注入療法は、投与間隔を短くすることにより有効性が向上するとの報告が
ある。しかし今回の検討では、週 1 回投与と週 4 回投与との間に有効性の差はなかった。
493
鼓室内ステロイド療法の突発性難聴に対するサルベージ効果について
○藤田信哉1)2)、山中敏彰1)、岡本英之1)、村井孝行1)、松村八千代1)、北原
奈良県立医科大学
医学部
1)
糺1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科 、奈良県総合医療センター
耳鼻咽喉科2)
【目的】2011 年の総会で、めまいを伴う突発性難聴において鼓室内ステロイド療法(ITS)はめまい、耳鳴に有用である
と報告した。今回突発性難聴において、全身ステロイド療法後の残存症状に ITS を施行し、そのサルベージ効果について
検討した。【対象と方法】対象は2012年から2014年までに、当科で全身ステロイド療法を行った突発性難聴のうち、ITS を
施行した23例である。ITS は1∼2週間毎に1回行い、3回を1クールとした。全身ステロイド療法のみで、ITS を施行し
なかった突発性難聴症例を対照群とした。
【結果】ITS 施行群では、約30%に聴力改善を認め、約70%に耳鳴の緩和を認め
た。
【結論】ITS は、全身ステロイド療法後のサルベージとしての有用性が示唆された。
494
ゼラチンハイドロゲルを用いた IGF―1 局所投与による突発性難聴治療 :
聴力予後関連因子に関する多変量解析
○中川隆之1)、熊川孝三2)、宇佐美真一3)、羽藤直人4)、田渕経司5)、高橋真理子6)、藤原敬三7)、佐々木
亮8)、
小宗静男9)、平海晴一10)、坂本達則1)、山本典生1)、伊藤壽一1)
京都大学大学院
愛媛大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、虎の門病院
医学研究科
耳鼻咽喉科4)、筑波大学
神戸市立医療センター中央病院
岩手医科大学
耳鼻咽喉科5)、名古屋市立大学
耳鼻咽喉科7)、弘前大学
耳鼻咽喉科2)、信州大学
耳鼻咽喉科3)、
耳鼻咽喉科6)、
耳鼻咽喉科8)、九州大学
耳鼻咽喉科9)、
耳鼻咽喉科10)
ゼラチンハイドロゲルを用いた IGF―1 局所投与の突発性難聴に対する有効性検証を目的として、デキサメサゾン鼓室内
投与を対照治療としたランダム化対照試験を行い、ステロイド全身投与が無効な突発性難聴例において、IGF―1 局所投与が
優れた聴力改善効果を示すことが示唆された(Nakagawa et al., 2014)。本研究では、これらの症例を対象とし、2次治療
(IGF―1、デキサメサゾン)を含めた聴覚改善に関連する可能性がある因子を説明変数とし登録から試験治療16週目にかけ
ての純音聴力検査閾値の変化量ついての多変量解析を行った。結果、発症から2次治療までの日数(14日以内、15日以
上)
、診断時の Grade 分類(Grade 1―3、Grade 4)、年齢(60歳以下、61歳以上)および2次治療が有意に純音聴力検査閾
値の変化量に影響を与えることが判明した。一方、随伴症状としてのめまいの有無、性別は影響を与えなかった。これらの
結果は、60歳以下、2次治療を発症後2週間以内に行う、2次治療として IGF―1 局所投与を選択することがより良好な聴
力改善に関与することを示唆する。
118―603
日耳鼻
495
ステロイド治療後の突発性難聴難治例に対するアミドトリゾアートの使用経験
○鳥原康治1)、福留真二1)、鍋倉
宮崎大学
医学部
隆2)、加藤榮司1)、松田圭二1)、東野哲也1)
1)
耳鼻咽喉科 、宮崎県立宮崎病院
耳鼻咽喉科2)
【はじめに】突発性難聴では、ステロイドが治療の中心であり、投与法の工夫やほかの治療法を併用することで有効性を
高める試みもなされている。今回、ステロイド治療が行われて聴力が改善しなかった症例に対してアミドトリゾアートを投
与することの有用性について検討する。
【方法】2013年5月以降に、ステロイド治療を他施設で受けるも聴力改善が認められなかった10症例につき、臨床研究と
して患者の同意のもと紹介いただいてアミドトリゾアートを7日以上単独投与した。
5日、当科初診時の聴力は Grade 4 が2
【結果】前医での治療は、ステロイド内服と点滴が5例ずつで平均治療期間が8.
例、Grade 3 が7例、Grade 2 が1例であり、アミドトリゾアート治療終了後の聴力改善は、治癒3例、著明回復2例、軽
度回復3例、不変2例であった。
【考察】標準的治療法であるステロイド投与で効果がない場合には、ほかの治療法が検討される。今回、アミドトリゾア
ートが有用であった突発性難聴症例を経験した。治療法の選択枝のひとつとして再検討を要するものと考えている。
496
突発性難聴に対する高気圧酸素療法の有用性に関する研究
∼ 2 施設間前向き比較試験結果報告∼
○丸田
弾1)、竹内寅之進2)、田浦政彦1)、岡
国家公務員共済組合連合会
国家公務員共済組合連合会
正倫3)、玉江昭裕3)、白土秀樹3)、瀬川祐一3)4)
佐世保共済病院
耳鼻咽喉科1)、日本赤十字社
3)
福岡赤十字病院
耳鼻咽喉科2)、
4)
浜の町病院 、せがわクリニック
突発性難聴の標準的治療は、副腎皮質ステロイド(以下ステロイド)治療であることは異論のないところであるが、補助
的治療としてはプロスタグランディンや種々の循環改善薬、高気圧酸素療法(以下 HBO)などが用いられており、定まっ
た補助治療はない。当院は HBO を有する数少ない施設であり、古くから突発性難聴に対して、HBO を併用してきた。今
回われわれは、関連施設である、浜の町病院との共同研究で、突発性難聴に対するステロイド+HBO 併用療法の有効性
を、ステロイド単独使用との前向き比較試験によって検討したので、報告する。対象は2011年5月から2013年12月の間に当
科および浜の町病院耳鼻咽喉科で一次治療を受けた190例で、当科(HBO+ステロイド)75例、浜の町病院(ステロイド)
115例である。HBO の副作用についてはカルテ調査を行い、発現率などをふまえつつ、突発性難聴に対する HBO の有効性
について総合的に検証した。
497
突発性難聴に対するリハビリテーション(CI)療法
○岡本秀彦1)2)、福嶋宗久3)、北原
生理学研究所
統合生理研究系
総合研究大学院大学
奈良県立医科大学
糺4)、猪原秀典5)
感覚運動調節研究部門1)、
生命科学研究科
生理科学専攻2)、関西労災病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科3)、
4)
耳鼻咽喉・頭頸部外科学 、大阪大学大学院医学系研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学5)
突発性難聴は急激な感音難聴を示す原因不明の疾患である。突発性難聴発症後の聴力回復は聴覚中枢における可塑性変化
と関連があることが、最近の研究により報告されている。われわれは突発性難聴患者に病側耳を積極的に活用する「病側耳
集中音響療法」を行い聴覚神経回路における不適切な可塑性変化を防ぐことで聴力の回復を促そうと試みた。研究参加者53
人中22人が病側耳集中音響療法を受けた。病側耳集中音響療法を受けた患者の健常耳には耳栓をして聞こえにくくし、病側
耳で音を聞いてもらうようにした。入院時、退院時、3カ月後の純音聴力検査の結果を比較し、また病側耳集中音響療法を
受けた患者のうち6人には、脳磁図を用いた神経活動測定を行った。その結果、病側耳集中音響療法を受けた患者の方が有
意に良い聴力回復を示した。また、突発性難聴発症時には聴覚誘発反応の対側優位性が失われていたが、治療後には回復し
ていた。病側耳集中音響療法は不適切な脳の可塑性変化をおさえて病側耳聴力の回復を促していると考えられる。
498
急性感音性難聴の治療成績 : 内耳窓閉鎖術と保存的治療の比較
○永井知幸
古賀総合病院
耳鼻咽喉科
保存的治療で改善しない難聴が内耳窓閉鎖術の適応である。60dB 以上の急性感音性難聴の140人141耳を検討した。内耳
窓閉鎖術を71人72耳に行った。術前にステロイドを使用しなかった38耳の治癒は Grade 3 が45%、Grade 4 が15%であった。
術前にステロイドを使用した34耳の治癒は Grade 3 が5%、Grade 4 が7%であった。ステロイドを使用した症例は手術の
時期にかかわらず、ステロイドを使用しなかった症例より聴力の回復が悪かった。保存的治療を69耳に行った。治療は
ATP6T の内服である。治癒は Grade 3 が43%、Grade 4 が22%であった。中島らの日本の突発性難聴の報告(2014)では、
治癒は Grade 3 が32%、Grade 4 が4%である。私の保存的治療の成績は突難の報告より良かった。保存的治療で改善しな
い難聴を手術したからである。ステロイドを使用しないで手術した症例の成績が突難の報告より良かった。外リンパの漏出
の持続期間が、内耳窓閉鎖術で短縮したのだろう。内耳窓破裂症にステロイドを使用しないで早期に手術を行えば、急性感
音性難聴の治療成績が良くなるだろう。
118―604
499
2015
マクログロブリン血症に急性感音難聴を発症した 2 例
○瀧口洋一郎、吉田聰子
永寿総合病院
耳鼻咽喉科
マクログロブリン血症は過粘稠度症候群を伴うことにより末梢循環不全を生じさまざまな臓器障害を引き起こすことが知
られている。今回われわれはマクログロブリン血症に急性感音難聴を発症した2例を経験した。症例1)64歳、男性。右難
聴を自覚し当院受診。既往として左突発性難聴に対し他院での加療歴があり、左耳聴力はスケールアウトであった。右耳は
山型の感音難聴を認めステロイド加療施行も聴力改善をみとめなかった。初診時の血液検査にて高 IgM 血症をみとめ、血
液内科にてマクログロブリン血症と診断された。約2カ月後に再度聴力悪化をみとめスケールアウトとなった。症例2)83
歳、女性。マクログロブリン血症にて血液内科加療中に難聴精査のため当科受診。両耳とも軽度∼中等度感音難聴をみとめ
た。初診時より約1年6カ月後に難聴悪化を訴え、両耳とも低音域を中心とした聴力悪化をみとめた。ステロイド加療施行
し約2カ月目には悪化前とほぼ同等の聴力まで回復した。以上の症例につき文献的考察を含め報告する。
500
当科における急性低音障害型感音難聴の治療と予後の検討
○菅谷明子、前田幸英、片岡祐子、假谷
岡山大学大学院
医歯薬学総合研究科
伸、西
和則
耳鼻咽喉・頭頸部外科
急性低音障害型感音難聴(以下、ALHL)は、急性あるいは突発性に蝸牛症状が発症することから突発性難聴(以下、
SD)の一部とも解釈することができる。しかし、予後が比較的良好であり、反復例も含むなどの点から、SD とは独立した
病態が想定されており、ステロイド投与の是非も含めた治療法の検討が必要である。今回、当科で加療した ALHL および
SD について、治療法と予後を後方視的に検討した。
当科で平成20年から26年にステロイド、ATP、利尿剤、ビタミン剤等を投与した ALHL は74例(確実例57例、準確実例17
例 : 平成22年度急性高度難聴調査研究班の基準に準拠)であった。全体の予後は治癒77.
0%、改善10.
8%であり、このうち
7%)に対して、外来にてステロイドを用いずに加療したが、これらの症例でも治癒82.
1%、改善10.
3%
ALHL の39例(52.
と90%以上の確率で改善を認めた。一方で、同時期に当科に入院してステロイド点滴を行った SD145例では回復以上が
72.
1%であった。
この検討から、ALHL の治療では、ステロイド全身投与が必ずしも必要でない症例があると考えられた。
501
最後部篩骨洞(特に Onodi cell)
、蝶形骨洞周囲における視神経、内頸動脈の走行について
○和田弘太1)、新井千昭1)、長舩大士1)、渡邊美隆2)、小島博己3)、鴻
1)
信義3)、枝松秀雄1)、柳
2)
清4)
3)
東邦大学耳鼻咽喉科 、セントラルクリニック 、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科 、聖路加国際病院4)
われわれは、Onodi cell と蝶形骨洞の前壁の形態を、矢状断 CT を用いて分類し手術において有効であると報告した。方
法は、矢状断 CT を用いて、蝶形骨洞前壁の最外側において視神経との関係、蝶形骨洞前壁正中部において頭蓋底、下垂体
との関係の2点を確認し、Skull base type、Optic canal type、Sella type、Infra―Sella type の4type に分類する。われわれの
検討では、Onodi cell は49%にみられた。この分類を利用すると術前に蝶形骨洞の前壁の形態が想像でき、視神経の走行が
Onodi cell の同定、蝶形骨洞開放の指標となる。今回、われわれは Onodi cell、蝶形骨洞における視神経の隆起の程度を CT
を用いて観察し、手術における内視鏡画面でどのように観察できるかを検討した。また、CT ないしは MRI を用いて観察し
えた症例において Onodi cell、蝶形骨洞と内頸動脈の走行について検討したので報告する。
502
術前 CT による前頭陥凹セルと前頭洞底の広さの関連性について
○牧原靖一郎1)、浦口健介1)、石原久司1)、宮武智実1)、假谷
香川労災病院
1)
伸2)、岡野光博2)、西
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
和則2)
耳鼻咽喉・頭頸部外科学2)
われわれは第115回日本耳鼻咽喉科学会総会にて、当院での2013年度の内視鏡下前頭洞手術症例を、特に鈎状突起の付着
部位に着目して、前頭洞からの排泄路の分類を報告した。鈎状突起の付着部位から、前頭洞からの排泄路が agger nasi cell
レベルで内側それとも後方に認めるか、intersinus septal cell や frontal bulla cell を認める前頭洞レベルでどの方向に認める
か、という観点で排泄路の分類を行った。鈎状突起上方付着部位の違いや、前頭陥凹のセルの種類によって、前頭洞からの
排泄路はさまざま存在しており、個人差がとても大きかった。実際の手術では術前 CT でそれぞれの前頭洞からの排泄路の
読影を行い、その排泄路にそって注意深く鉗子を挿入し、周囲の隔壁を安全な方向に除去する必要がある。前頭洞をどれだ
け大きく開放できるかは、前頭洞底の広さ、特に前後径に影響される。今回当院での2013年度の内視鏡下前頭洞手術症例
を、前頭洞底の前後径や frontal beak の厚さと、前頭陥凹のセル、特に agger nasi cell との関連性などについて検討し、報
告したい。
118―605
日耳鼻
503
Contra―lateral sphenoidal Onodi cell
(CSOC)
、
(CEOC)の検討
Contra―lateral ethmoidal Onodi cell
○柳
清1)、和田弘太2)、小島博己3)、鴻
信義3)
1)
聖路加国際病院耳鼻咽喉科 、東邦大学耳鼻咽喉科2)、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科3)
われわれは蝶形骨洞の分類を矢状断 CT で Skull base type、Optic type、Sella type、Infra―sella type に分類した。この分
類は同側の後部篩骨洞が蝶形骨洞の上方に発育する Onodi cell の程度を同定し、手術の難易度や予後を術前に予測できる。
われわれはこの分類を行う中で蝶形骨洞が同側の篩骨洞ではなく、反対側の蝶形骨洞や篩骨洞に圧排され、視神経管が反対
側の蝶形骨洞や篩骨洞内に存在する症例があることを確認し、これらを Contra―lateral sphenoidal Onodi cell(反対側蝶形
。今回はそ
骨洞性 Onodi cell)
、Contra―lateral ethmoidal Onodi cell(反対側篩骨洞性 Onodi cell)と命名した(2013、和田)
れらの存在率と臨床的意義につき検討したので報告する。これらの蜂巣を術前に認識することで、手術で開放する必要のな
い隔壁を開放せずに済み、手術時間の短縮や安全な手術操作に繋がる。
504
当院における鼻・副鼻腔手術の事故防止マニュアル
○宮本康裕、谷口雄一郎、齋藤善光、阿久津征利、三上公志、肥塚
聖マリアンナ医科大学
泉
耳鼻咽喉科
内視鏡下鼻・副鼻腔手術(Endoscopic sinus surgery、以下 ESS)における、術中副損傷の発生は少なからず存在する。
8%であり重大な副損傷は0%であったと報告している。しかし
重田らは、術中副損傷あるいは術後合併症の発生頻度は5.
ながら、マイクロデブリッダーなどのパワーインストルメントにより、いったん眼窩内に侵入してしまえば、重篤な副損傷
を来してしまう可能性が高い。今回われわれは、術中副損傷のリスク回避を図り、また万が一生じてしまった副損傷あるい
は合併症に対する対応を決めておくことにより、術者の精神的負担を軽減し、ESS をより安全に行うことを目的に、鼻・副
鼻腔の事故防止マニュアルを作成した。術前チェックリストの改訂、ナビゲーションシステムを併用する基準、パワーイン
ストルメントの使用基準、事故発生時の対応を大きな柱として作成を行った。そのマニュアルの一部を報告するとともに、
若干の文献的考察を加え報告する。
505
慢性副鼻腔炎に対する内視鏡下鼻副鼻腔手術の合併症に関する検討
―DPC データベースを用いて―
○鈴木さやか1)2)、康永秀生1)、近藤健二2)、山岨達也2)
東京大学
大学院医学系研究科
東京大学医学部付属病院
公共健康医学専攻
臨床疫学・経済学教室1)、
2)
耳鼻咽喉科
本研究は慢性副鼻腔炎の術式別の合併症発生率を明らかにすることを目的とした。厚生労働科学研究 DPC 研究班のデー
796人)を抽出し手術合併症
タベースから、内視鏡下鼻副鼻腔手術を施行された16歳以上の患者情報(2007年∼2013年、50,
率を後方視的に分析した。
、男性65%、喫煙者25%、喘息合併8%(アスピリン喘息0.
6%)
、大学病院
患者の背景因子は、平均年齢54歳(±15歳)
47%で
での手術施行32%であった。術中および術後合併症(髄液漏、眼窩合併症、大量出血、Toxic shock syndrome)は0.
生じた。術式別では、篩骨洞蝶形洞根治手術において1.
40%(10例/714例)と最多であった。手術範囲別に3群(単洞、
48%、34例/29,
074例、p=0.04)
。その
複数洞、全洞)に分類したサブ解析では、眼窩合併症は複数洞手術で多かった(0.
他項目では手術範囲との有意な関連は認めなかった。喫煙者および喘息合併患者は有意に広範囲の手術を受ける傾向にあっ
た。
506
当院における短期入院鼻副鼻腔手術1,429件の検討
○松本真吏子1)、木倉幹乃1)、星野知之1)、黄川田
1)
徹2)
2)
サージセンター浜松 、鼻のクリニック東京
当院は平成3年より全身麻酔下の鼻副鼻腔手術を短期入院(1泊2日∼2泊3日)で行ってきた。短期入院による手術
は、早期社会復帰が可能である一方、術後感染、術後出血の危険性を回避するため、手術適応、患者の全身状態、医療機関
側の体制など、考慮しなければならない。当院では、手術適応を良性疾患とし、1回の手術内容を60分以内の手術時間、
200ml 以内の出血量とし、糖尿病、高血圧、喘息などの慢性疾患では、十分にコントロールされていることを条件としてい
る。さらに、患者には術前治療の重要性を啓蒙し、術後の危険性について十分に理解させるなど行ってきた。今回は、2010
年1月から2014年9月までの約5年間に行った鼻副鼻腔手術のうち、サージセンター浜松で術前、術後治療を行った1,
340
人1,
429件に対して、術後感染や術後出血など術後1カ月以内の問題を検討し、われわれが行ってきた短期入院での鼻副鼻
腔手術の安全性を検討した。さらに今後の短期入院の鼻副鼻腔手術の課題を報告する。
118―606
507
2015
頭頸部扁平上皮癌術後早期再発例の検討
○本多啓吾1)、安里
亮1)、辻
純2)、嘉田真平2)、辻村隆司2)、片岡通子2)、神田智子3)
京都医療センター
1)
頭頸部外科 、京都医療センター
耳鼻咽喉科2)、京都逓信病院
耳鼻咽喉科3)
頭頸部扁平上皮癌術後の患者の多くに再発が生じる。再発の多くは2年以内に生じ、中には、治療後きわめて早期に再発
を来す例も存在する。早期再発例の特性を知ることで再発例における救済治療の個別化に有用であると考えられる。
【対
象・方法】2005年から2013年までに主治療として手術加療を行った頭頸部扁平上皮癌症例371例のうち、経過中に再発を来
した85例を、術後6カ月以内に再発を来した早期再発群40例と、6カ月以降に再発を来した対照群45例に分けて比較検討し
た。
【結果】両群間で、男女比、年齢、原発部位、病期には有意差を認めなかった。再発部位については、早期群で対照群
07)
。遠隔転移のない再発例における救済手術施行率は同
より遠隔転移の頻度が低い傾向があった(20% vs. 38%、p=0.
。一方、救
等であった(59% vs. 64%)が、救済術後の予後は39% vs.74%と早期再発例の予後が不良であった(p<0.01)
。【結論】早期再発例は治療抵抗性であることが確認され
済不能例の予後は同等であった(生存期間中央値165日 vs.153日)
た。
508
喉頭、中・下咽頭扁平上皮癌に対する化学放射線療法後の救済手術の治療成績
○田口享秀1)、西村剛志1)、高橋優宏1)、塩野
2)
山下ゆき子 、山本
2)
理1)、小松正規1)、佐野大佑1)、矢吹健一郎1)、荒井康裕1)、
2)
馨 、佐久間康徳 、折舘伸彦1)
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、横浜市立大学附属市民総合医療センター
横浜市立大学医学部
耳鼻咽喉科2)
【目的】頭頸部扁平上皮癌に対して化学放射線療法(chemoradiotherapy : CRT)を施行した場合、残存・再発症例に対し
ては救済手術が検討される。今回、当科における CRT 後の救済手術の治療成績について検討を行った。
【対象と方法】1998
年3月から2013年4月の期間に、喉頭・中・下咽頭扁平上皮癌Ⅱ∼Ⅳ期の診断で CRT を施行し、効果不良または治療後残
存・再発に対して救済手術を施行した78例を対象とした。粗生存率および疾患特異的生存率は Kaplan―Meier 法を用いて検
0%、5年疾患特異的生存率は65.
5%であった。病期別での
討を行った。
【結果】救済手術症例全体での5年粗生存率は61.
9%、Ⅲ期50.
3%、Ⅳ期56.
0%であった。術後合併症は創部および全身的なものを含 め て30例
5年粗生存率はⅡ期92.
5%)に発生したが、遊離皮弁の壊死や頸動脈破裂といった重篤な合併症はなかった。
【考察】CRT 後の救済手術は有
(38.
用であるが、一定の術後合併症発生のリスクを負うことは避けられない。
509
化学放射線療法後の救済手術の検討
○丸尾貴志、宮崎眞和、篠崎
剛、富岡利文、林
国立がん研究センター東病院
頭頸部外科
隆一
頭頸部癌の治療は近年、急速に変化してきている。特に臓器温存は生存率とともに重要視される項目の一つとなり、化学
放射線治療(CRT)は局所進行頭頸部癌に対する標準治療の一つとしてその地位を確立した。また、近年では分子標的薬と
の併用療法(BRT)も広く実施されている。その中で、CRT、BRT 後の救済手術の重要性が増してきている。2004年から
2014年までの10年間に、当科で CRT ないしは BRT が施行された中咽頭、喉頭、下咽頭癌症例359例を対象とした。男性323
例、女性36例、初診時年齢平均63.
9歳(36∼78)
、原発部位別内訳は中咽頭癌140例、喉頭癌45例、下咽頭癌174例であった。
救済手術を要したのは80例であり、再発で手術適応となったのは40例、残存で適応となったのは40例であった。初回治療法
別には CRT 後337例、BRT 後22例であった。治療成績、術後合併症、初回治療法での比較検討を行い報告する。
510
下咽頭癌・喉頭癌頸部郭清術後における術後照射の検討
○北村公二、藤井
隆、喜井正士、鈴木基之、音在信治、貴田紘太、須川敏光、金村
大阪府立成人病センター
亮、小池良典
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
従来、頭頸部癌に対する放射線治療は一般的には二門照射(±一門照射)で行われることが多く術後照射(PORT)も同
様に行われてきた。そのため健側頸部は転移がなくても自動的に照射野に含まれていた。照射野や線量を自在に設定できる
強度変調放射線治療が頭頸部にも用いられるようになり今後増加することが予想される。そこで下咽頭・喉頭癌で PORT
の適応となる最も頻度の高い pN2b 症例において健側頸部を照射野から安全に除外できるか否かについて検討した。
下咽頭・喉頭癌に対して1988∼2010年に手術を施行した一次治療症例のうち両側頸部郭清術を施行した pN2b 症例の下咽
頭癌90例、喉頭癌34例を対象に PORT に対する健側頸部再発の有無について検討した。
PORT の有無にかかわらず下咽頭癌では郭清を行った健側内深頸 LN に再発は認めず、また喉頭癌では健側頸部に LN 再
発は認めなかった。
健側 pN(−)の場合下咽頭癌においては健側内深頸 LN 領域への照射を、また喉頭癌では健側頸部の PORT を省略でき
る可能性が示唆された。
118―607
日耳鼻
511
進行頭頸部癌における Neutrophil to lymphocyte ratio(NLR)の有用性
○中山雅博、廣瀬由紀、西村文吾、田中秀峰、田渕経司、大久保英樹、和田哲郎、原
晃
筑波大学
近年、好中球/リンパ球数比(Neutrophil to lymphocyte ratio ; NLR)は炎症の状態を反映する指標として知られており、
さまざまな癌種において NLR の予後予測因子としての有用性が報告されている。しかし、頭頸部癌での報告は多くはな
い。今回、進行頭頸部における治療前 NLR と予後との関係を調べ、その有用性について検討した。対象は2002年から2011
年に当科で治療を行った stage III・IV の204例(喉頭癌59例、中咽頭癌70例、下咽頭癌58例、口腔癌17例)とした。NLR 高
値群・低値群に分類し、各群の全生存率をカプランマイヤー法で検討を行った。NLR 高値群は、低値群と比較して有意に
予後が悪かった。NLR は進行頭頸部癌において有用な予後予測因子となり得る可能性が示唆された。
512
演題取り下げ
513
中耳常在菌叢と慢性中耳炎細菌叢の 16SrRNA 菌種組成解析
○南
修司郎1)2)、務台英樹2)、堀井
北村
1)
1)
新3)、和佐野浩一郎4)、桂
1)
2)
資泰5)、田中藤信6)、瀧口哲也7)、大石直樹8)、
2)
充 、大友章子 、永井遼斗 、五島史行 、松永達雄 、藤井正人2)、加我君孝2)9)
耳鼻咽喉科1)、国立病院機構東京医療センター
国立病院機構東京医療センター
3)
国立病院機構大阪医療センター
耳鼻咽喉科 、静岡赤十字病院
国立病院機構嬉野医療センター
耳鼻咽喉科5)、国立病院機構長崎医療センター
国際医療福祉大学クリニック
耳鼻咽喉科 、
7)
耳鼻咽喉科 、慶應義塾大学医学部
国立病院機構金沢医療センター
臨床研究センター2)、
4)
耳鼻咽喉科6)、
8)
耳鼻咽喉科 、
言語聴覚センター9)
従来の培養検査で同定できる細菌は、細菌叢全体の1%にも満たない。すべての細菌に存在し、かつ多様性のある
16SrRNA 配列を調べることにより、難培養微生物も同定することができる。人工内耳手術など炎症のないコントロール14
例、慢性中耳炎手術時に採取した37例において中耳 16SrRNA 解析を行い検討した。135の代表配列が得られた。コントロー
3%、Actinobacteria 16.
6%、Bacteroidetes 13.
3%、Firmicutes 5.
8%であった。耳
ル群では門レベルで Proteobacteria 64.
漏のない乾燥した慢性中耳炎耳では、コントロール群に類似した細菌叢であったが、耳漏のある慢性中耳炎耳では、Proteo5%と低下し、Firmicutes の割合が30.
9%と増加していた。これまで中耳常在菌の 16SrRNA 解析の報
bacteria の割合が41.
告はなく、初めて中耳常在菌叢を明らかにした。また難培養微生物の慢性中耳炎への病的関与が疑われる。
514
真珠腫性中耳炎における網羅的細菌叢検討
○橋田光一、喜瀬祥啓、田畑貴久、小泉弘樹、寳地信介、鈴木秀明
産業医科大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
真珠腫性中耳炎の大きな特徴は、周囲骨組織の著明な吸収が生じることである。骨吸収機序に関して過去にさまざまな検
討がなされており、細菌感染による炎症反応や局所の酸性化が重要な factor のひとつであると考えられている。今回われわ
れは 16SrDNA クローンライブラリー法を用いて真珠腫性中耳炎手術症例の網羅的な細菌学的検討を行ったので若干の文献
的考察を含め報告する。対象は2014年9月以降に、当科にて手術的加療を行った真珠腫性中耳炎症例とし、真珠腫およびケ
ラチン落屑物を術中に採取し解析した。クローンライブラリー法は分子生物学的解析手法のため、培養同定の困難な細菌や
死菌を含めた細菌叢の網羅的解析が可能である。結果は検体中の各検出細菌の割合が示されるが、対象からの嫌気性菌の検
7∼97.
8%であった。嫌気性菌の病原因子は組織障害性物質の誘導や脂肪酸産生による pH の低下などが挙げられ
出率は23.
る。本法で嫌気性菌は高率に検出され、嫌気性菌感染は真珠腫性中耳炎における局所炎症増悪、骨吸収機序に大きな役割を
果たすのではないかと考えられた。
118―608
515
2015
肺炎球菌ワクチンと新規抗菌薬は小児急性中耳炎にどのような影響を与えているか
○戸川彰久、保富宗城、平岡政信、河野正充、池田頼彦、山中
和歌山県立医科大学
医学部
昇
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】急性中耳炎の臨床像は、薬剤耐性菌の増加、肺炎球菌ワクチンの普及、新規抗菌薬にともない変化してい
る。本研究では肺炎球菌ワクチンおよび新規抗菌薬の小児急性中耳炎の臨床に対する影響を検討した。
【方法】日本医療デ
ータセンター(JMDC)のデータベース情報を基に、2007年から2013年までの7年間の小児中耳炎(0歳∼15歳未満)の患
者数および鼓膜切開率の経年的変化を検討した。
【結果】抗菌薬とその処方数、PCV7 の接種時期と中耳炎患者数および鼓
膜切開率との関係を解析したところ、中耳炎患者数は7年間有意な変化は認められなかったが、鼓膜切開率は解析期間中経
【考察】PCV7 の本格的接種は2011年から開始され、その効果が認
年的に減少し特に2010年から有意な減少が認められた。
められるのは2012年以降と考えられ、鼓膜切開率の減少と TFLX や TBPM の処方数の増加が有意な負の相関を示した。小
児中耳炎患者における鼓膜切開率の減少には主に新規抗菌薬が寄与している可能性が高いと考えられた。
516
肺炎球菌ワクチンの普及による肺炎球菌の変化 : 無莢膜型株の存在は何を意味するか?
○中嶋宏児1)2)、保富宗城2)、平岡政信2)、河野正充2)、池田頼彦2)、山中
昇2)
耳鼻咽喉科 、和歌山県立医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
国保日高総合病院
1)
【はじめに】2010年の肺炎球菌ワクチンの導入以来、本邦においても肺炎球菌感染症の臨床像が大きく変化している。中
でも、肺炎球菌血清型について、ワクチン血清型株の低下と非ワクチン型株の増加が注目される。
【方法】本邦における耳
鼻咽喉科感染症患者より分離された肺炎球菌株の中で莢膜を有しない無莢膜型株の分離頻度と分子疫学的検討を行った。
【結果】肺炎球菌無莢膜型株は全体の8%に認められた。
【考察】肺炎球菌ワクチンの普及に伴い肺炎球菌の中に占める無莢
膜株の割合の増加が危惧される。本株は莢膜を有しないため、莢膜ワクチンは無効であり、今後のサーベイランスが重要と
なる。本研究では、さらに MLST による分子疫学評価を行うとともに、無莢膜型株の病原性の意義についても考察したい。
517
肺炎球菌性中耳炎における病原性因子の発現と抗菌薬の影響
○武田早織、保富宗城、河野正充、平岡政信、山内一真、山中
和歌山県立医科大学
医学部
昇
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】肺炎球菌は環境に合わせて莢膜量を変化させる。鼻咽腔では、莢膜が薄い Transparent 型が優位であるのに
対して、中耳貯留液中では莢膜が厚い Opaque 方が優位である。本研究では、肺炎球菌の感染過程における莢膜量の変化お
よびマクロライド系抗菌薬による莢膜量の変化を検討する。
【方法】肺炎球菌株を THY 培養液で培養した後に、TSA 寒天
培地にてコロニーの形態を検討するほか ELISA 法によりクラリスロマイシン添加による莢膜量の変化を検討する。Detroit
562 細胞をもちい、培養細胞上に肺炎球菌を添加した後の上皮細胞への付着と莢膜変化を検討した。
【結果】クラリスロマ
イシン添加群では Transparent 型株が有意に多く、莢膜抗原量は非添加群に比べて有意に低値であった。
【考察】肺炎球菌
は、莢膜量を変化させることで、培養細胞間隙へ侵入し感染を来す。クラリスロマイシンは肺炎球菌の莢膜量を減弱させ
る。これらのことからも、肺炎球菌の莢膜量変化が肺炎球菌の定着に極めて重要と考える。
518
肺炎球菌バイオフィルムに関与する新しい表面抗原 PsrP の発現頻度の検討
○保富宗城、河野正充、平岡政信、山内一真、戸川彰久
和歌山県立医科大学
医学部
耳鼻咽喉科
頭頸部外科
【はじめに】急性中耳炎の難治化には起炎菌のバイオフィルム形成が大きくかかわる。インフルエンザ菌のバイオフィル
ム形成が注目されてきたが、肺炎球菌については検討されていない。本研究では、肺炎球菌の表面抗原である PsrP のバイ
オフィルム形成とヒト鼻咽腔への保菌について検討した。
【対象と方法】小児鼻咽腔より2カ月以上同一菌株が検出された
保菌株24株と侵襲性感染症より分離された侵襲株46株を対象とした。肺炎球菌の同一性については MLST により判断した。
PsrP の発現は PCR 法をにて行い、クリスタルバイオレット法によるバイオフィルム形成を検討した。
【結果】保菌株では
9%に認められ、侵襲性株(8.
7%)に比べ有意に高頻度に PsrP の発現を認めた。PsrP の発現はバイオフ
PsrP の発現は29.
ィルム形成と関連した。
【考察】肺炎球菌についても PsrP を介したバイオフィルム形成が認められ、ヒト鼻咽腔への定着
に関与すると考えられた。急性中耳炎の難治化には、インフルエンザ菌のみならず肺炎球菌も含めた混合感染によるバイオ
フィルムの関与が考えられる。
118―609
日耳鼻
519
上咽頭・中咽頭重複癌の 1 例
○音在信治、藤井
隆、喜井正士、鈴木基之、貴田紘太、北村公二、須川敏光、金村
大阪府立成人病センター
亮、小池良典
耳鼻咽喉科
上咽頭癌は EBV、中咽頭癌は HPV、ともに発癌にウイルスとの関連が示唆されている。今回頸部リンパ節転移を伴った
上咽頭・中咽頭重複癌症例を経験した。頸部リンパ節転移の原発巣は不明であったが、経過中に中咽頭癌からの転移である
ことが判明した一例であった。症例は58歳男性、2カ月来の咽頭違和感自覚し近医受診。中咽頭腫瘍が認められ、生検で扁
平上皮癌との結果であった。加療のため当科紹介。初診時上咽頭にも腫瘍を認め生検したところ、同じく扁平上皮癌であっ
た。しかし免疫染色にて上咽頭癌は p16(−)
、中咽頭癌は p16(+)と同一組織ではなく重複癌との診断を下した。T分類
は中咽頭は前口蓋弓原発で T3、上咽頭は後壁原発で T1。また左側頸部に多発リンパ節転移を来していた。遠隔転移は認め
ず CDDP 併用の放射線化学療法 70Gy を施行。しかしその3年後左頸部リンパ節再発を認め頸部郭清術を施行した。術後
病理組織検査にて p16(+)であり、最終的に中咽頭癌の転移であったと判断した。上咽頭・中咽頭の同時性重複癌はまれ
であり報告例も少ない。当科での疫学も含めて検討する。
520
下咽頭癌における食道癌重複症例の検討
○野田大介、鈴木
豊、千田邦明、成澤
地方独立行政法人
山形県・酒田市病院機構
健
日本海総合病院
耳鼻咽喉科
下咽頭癌は昨今化学放射線療法の進歩や NBI といった診断機器の登場とそれに伴う ELPS の施行によって治療成績の向
上は目覚ましいものがある。しかし、依然として頭頸部癌の中で予後不良の癌とされる理由の一つに multicentric zone か
らの重複癌発生頻度が多いことが挙げられる。重複癌症例は近年増加傾向とされており、その中でも食道癌との重複癌が最
も頻度が多いことが分かっている。下咽頭癌における食道重複癌症例はその重複癌の部位や進行度、同時性か異時性かによ
って個々の症例で治療法の選択やどちらの治療を優先していくかなど難渋する症例も多い。そこで、今回われわれは2004年
1月から2013年12月までの10年間に当科で治療を行った下咽頭癌74症例における食道癌重複症例20例について治療成績、問
題点を検討した。若干の文献的考察を加えて報告する。
521
同時性頭頸部癌食道癌症例に対する治療アルゴリズム : 九州がんセンター試案
演題取り下げ
○益田宗幸1)、大森裕文1)、若崎高裕1)、力丸文秀1)、藤
森田
3)
勝 、藤
九州がんセンター
賢史1)、檜垣雄一郎1)、國武直信2)、江頭明典3)、
3)
也寸志
頭頸科1)、九州がんセンター
放射線科2)、九州がんセンター
消化器外科3)
頭頸部癌患者に同時性異時性に食道癌が合併する頻度が高いことはよく知られており、患者数も増加している。実際の治
療に当たってはそれぞれの癌の進行度や患者の状況に合わせて、関係する科での協議により治療方針を組み立てることにな
るが、各科の治療方針を無理なく反映させながら治療を行うことは容易ではなく、プロスペクティブなデーターの蓄積が行
いにくい。この状況に対応するため、2003年から2014年までに当院で治療した同時性頭頸部癌食道癌症例75例の解析を行っ
た。全症例の5年生存率は39%であり、さまざまな治療が行われていた。これらの解析から、食道癌 Stage I、II、III と進
行咽頭喉頭癌を同時に治療する際の方針を立てる際に問題が生じ安いことが明らかになった。最新の食道癌治療ガイドライ
ンと頭頸科で行っているケモラディオセレクション戦略(Head and Neck 2014)をもとに同時性癌にたいする治療アルゴ
リズムを作成した。
522
頭頸部扁平上皮癌における同時性重複癌の治療方法
○油井健宏、加藤久幸、日江井裕介、櫻井一生、内藤健晴
藤田保健衛生大学
医学部
耳鼻咽喉科学教室
頭頸部扁平上皮癌の発癌因子として喫煙、飲酒があり、これらは上部消化管領域、呼吸器領域での重複癌を高める因子と
なっている。今回われわれは2010年から2014年の4年間において当科で治療を行った頭頸部扁平上皮癌174例について特に
加療前の上部消化管内視鏡検査(GIS)の観点から重複癌調査を行った治療前の GIS が未施行、挿入困難、拒否、無治療例
の35例を除いた139例を対象とした。頭頸部扁平上皮癌の内訳は喉頭癌50例、下咽頭癌32例、中咽頭癌30例、口腔癌15例、
鼻副鼻腔癌7例、上咽頭癌3例、頸部食道癌1例、聴器癌1例であった。同時性重複癌を認めた症例は21例あり、内訳は下
咽頭癌8例、喉頭癌8例、中咽頭癌4例であった。加療前に行われた GIS にて重複癌が認められた症例は20例(12%)、PET―
CT にて肺癌が1例検出された。GIS にて検出された食道癌は17例、胃癌が5例であった。これらの症例について重複癌の
発生頻度、喫煙、飲酒との関連性、治療方針について検討したので若干の文献的考察を加えて報告する。
118―610
523
2015
頸部食道癌―耳鼻咽喉科と消化器外科合同手術症例
○西村文吾1)、中山雅博1)、廣瀬由紀1)、田中秀峰1)、田渕経司1)、和田哲郎1)、原
筑波大学
1)
耳鼻咽喉科 、筑波大学
2)
消化器外科 、筑波大学附属病院
晃1)、久倉勝治2)、寺島秀夫3)
ひたちなか社会連携教育研究センター3)
当院では頸部食道癌の手術治療は消化器外科が担当するが、進行頸部食道癌で咽頭喉頭摘出を要する際には、耳鼻咽喉科
も治療に加わる。術前の咽喉頭の病変の評価に始まり、喉頭摘出についての患者、家族への説明、また術後の頸部術創、永
久気管孔の管理、人工喉頭や食道発声など代替音声の相談、音声リハビリなど、耳鼻咽喉科が果たす役割は多岐にわたる。
今回2009年から2014年に消化器外科と耳鼻咽喉科で合同手術を行った頸部食道癌6例について検討を行った。食道癌取扱い
規約による病期は stage III が4例、stage IV が2例であった。stage III 症例は術前化学放射線療法が行われ、stage IV 症例
は根治的化学放射線療法後の再発に対する救済手術であった。完全寛解(CR)を得られたのは3例で、3例は局所再発や
遠隔転移を来し死亡していた。CR を得た症例のうち2例は食道発声が可能であり、うち1例は当科でボイスプロテーゼ挿
入による気管食道シャント術を施行した。残る1例は人工喉頭による音声リハビリを施行中である。
524
BOX 型聴力検査室を用いた装用閾値測定の試み
○藤田紘子1)、新田清一1)2)、鈴木大介1)2)、坂本耕二1)、齋藤
済生会宇都宮病院
1)
耳鼻咽喉科 、慶應義塾大学
真1)、野口
勝1)、小川
郁2)
2)
耳鼻咽喉科
ファンクショナルゲイン(以下 FG)測定は、補聴器フィッティングにおいて有用な検査であるが、補聴器適合検査の指
針(2010)の基準を満たす聴力検査室を有する医療機関は限られており、広く普及しているとは言えない。そこでわれわれ
は、より多くの医療機関で施行可能な装用閾値測定を検討することを目的として、当院補聴器外来通院中の患者(8名)に
対して、一般的に診療所で使用されている広さに制限のある BOX 型聴力検査室(リオン社製)に小型スピーカーを設置し
た検査室(以下簡易音場検査室)と上記基準を満たす当院の防音室で行った音場検査結果を比較した。結果、両者の FG 値
は基準内の検査室では高い傾向があるものの、全周波数で高い相関を示し、500Hz 以外では有意差を認めなかった。また、
両者の FG 値の差の絶対値の平均は 4.
8dB で、簡易音場検査室の測定値でもある程度フィッティングの指標となる可能性
があると考えられた。今後も症例を増やして、簡易音場検査室の臨床応用方法について検討していきたい。
525
Chirp 音を用いた ASSR の成人例に対する有用性について
○平賀良彦、神崎
慶應義塾大学
晶、大石直樹、渡部高久、藤岡正人、若林聡子、小島敬史、細谷
医学部
誠、小川
郁
耳鼻咽喉科学教室
聴性定常反応(以下 ASSR)は機能性難聴をはじめとする成人難聴に対しての他覚的検査として有用であるが、検査時間
が長いことから容易には検査できないの現状である。近年、蝸牛伝達遅延を補償しより精度の高い神経同期を誘発するため
に CE―ChirpⓇ 音が開発され、Interacoustics 社より市販化された Eclips では CE―ChirpⓇ 音を用いた ASSR を採用しており、
検査時間の大幅な短縮に成功したといわれている。今回われわれは、正常成人例にて Chirp 音による ASSR を行いその有効
性を確認し、機能性難聴症などの成人症例にも検査を行ったので報告する。対象は聴力の正常な成人4例、精神病の既往の
ある心因性難聴3例、精神病の既往のある特発性難聴1例とした。検査は Chirp 音を用いた ASSR を覚醒・睡眠を問わず施
行し ASSR 閾値と検査時間を測定した。ASSR 検査は再現性確認のため2回行い、Chirp 音を用いた ABR も比較のため施行
した。聴力正常の成人例に対しては Chirp 音による ASSR に加え、従来の ASSR の比較として複合 SAM 音を用いた MASTERⓇ による測定も行った。
526
CE―Chirp を用いた AABR の検討
○岸野明洋、増田
毅、友松裕貴、永田善之、野村泰之、鴫原俊太郎、大島猛史
日本大学
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野
医学部
新生児聴覚スクリーニングの普及に伴い、AABR は現在では欠かすことのできない検査機器の一つになっている。
MAICO 社製 MB11 BERA phone に刺激音として CE―Chirp が搭載され、われわれはこの器械を用いて新生児聴覚スクリー
ニングを行った。Chirp 音は蝸牛を伝搬する音の時間的位相を調整したもので、基底回転から頂回転にいたる蝸牛内の感覚
細胞を同時に刺激することができる。低音域から高音域までの反応が同時に出現するため ABR で得られるV波の振幅が大
きくなり stacked ABR ともいわれ、閾値付近の判定に有用である。新生児聴覚スクリーニングに求められる要素はいくつ
かあり、医学的側面からは特異度と感度が共に高いこと、検査担当者の視点からでは検査時間が短く操作方法が容易である
こと、医療経済的側面からはランニングコストが安価であることが求められる。MB11 Bera phone は電極を貼付する必要
がないことから医療経済性の面と操作性の面で優れていることはこれまでにも報告がある。CE―Chirp が搭載されたことに
より MB11Bera phone に加わった新たな有用性について報告する。
118―611
日耳鼻
527
乳児における他覚的聴覚検査の負担軽減の試み
○永田善之、増田
毅、友松裕貴、岸野明洋、野村泰之、鴫原俊太郎、大島猛史
日本大学
耳鼻咽喉科
医学部
新生児聴覚スクリーニングの普及により、早期に難聴が発見される症例が増えている。検査で refer がでれば、後に聴覚
の精密検査を行うことになるが、聴性誘発反応をはじめとする他覚的聴覚検査は被検者の鎮静が必要なため患児や親にとっ
ては負担になる。われわれは ABR、ASSR、DPOAE が1台の器械に搭載された Interacoustics 社製 Eclipse を用いてこの3
1回、加算回数を1,
000回に設定した。
つの検査を一度に行った。刺激音は CE―Chirp を用い、ABR の刺激頻度を毎秒44.
Eclipse に搭載された ASSR は音圧差が 20dB 以内であれば周波数毎に音圧が設定できるため、500、1,
000、2,
000、4,000Hz
の4周波を同時に測定することができ、検査時間を短縮することができた。ABR と ASSR は電極を張り替えることなく施
行できるため、検査途中で患児を覚醒させてしまうリスクを低減できた。ABR、ASSR、DPOAE を3位一体として行うこ
とで低音域に残聴がある場合や、auditory nerve disease のように蝸牛機能が正常で後迷路に問題があるなどさまざまな難
聴のパターンに対応でき、診断を付ける上で有用であると考えられた。
528
宮城県における新生児聴覚スクリーニングの現状について
○奥村有理1)、川瀬哲明2)、沖津卓二3)、高梨芳崇1)、八幡
東北大学
医学部
湖1)、宮崎浩充1)、香取幸夫1)
1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 、東北大学
医工学研究科
聴覚再建医工学分野2)、
3)
宮城県医師会ヒヤリングセンター
新生児聴覚スクリーニング(NHS)は難聴の早期発見と、その後の適切な療育のために重要であり、近年多くの産院に
普及しつつある。宮城県でも NHS を行う施設は増加しているが、仙台市以外の市町村で実施率が低い。また、NHS を受け
ずに、成育期の発語の遅れや音への反応不良により難聴が発見される症例も認められる。宮城県では NHS で refer となっ
た児への対応マニュアルが作成され、産院から速やかに精密聴力検査認定機関へ紹介されている。今回、われわれは NHS
(AABR または OAE)にて refer となり、NHS 後の精密聴力検査認定である東北大学病院ないし宮城県医師会ヒヤリングセ
ンターを受診した新生児を対象として、精密検査の結果とその後の療育状況を調査した。一方、NHS を受けず、その後に
難聴が発見された児に関しても調査し、NHS の有用性と今後の課題について検討した。他県からの報告との比較も含め、
報告する。
529
胎児聴力検査の試み
○松岡理奈1)、池田勝久1)、小池卓二2)、李
順天堂大学
医学部
信英2)
1)
耳鼻咽喉・頭頸科 、東京電気通信大学
情報理工学部2)
今回、われわれは胎生期の難聴を診断するための基盤研究として、胎生期の聴力検査を2種の方法で検討した。30週∼37
週の胎児10症例に対し、音刺激を加えて分娩監視装置にて心拍を計測した。刺激には胎児音刺激装置として開発された圧電
素子を用いて、胎児モデルで計測された 45dB∼75dB 相当の音圧を、胎児の心拍数の静止期に5秒間加えた。同様に30週以
降の胎児5症例に対し、音刺激を加えて聴性誘発電位を計測した。単極誘導として前頭部と頭頂部付近の直上の腹壁に関電
極を設置し不関電極は大腿部外側に設置した。圧電素子は胎児の側頭骨直上の妊婦の腹壁に置いて音刺激を加えた。心拍の
変化は、33週以降から音刺激直後より心拍増加となる傾向を認めた。36週を超えると有意に音響刺激後に頻脈を認めた。ま
た、音圧が大きくなるほど変化率は増加した。聴性誘発電位に関しては、36週以降で 6msec∼9msec に再現性のある電位を
認めた。音刺激による定位反応は上位中枢の関与が考えられ、妊娠後期からの胎児心拍および脳電位の変化から聴力の関与
を示唆できる。
530
盲聾児における air puff audiometry による聴覚検査
○力武正浩1)2)、小森
学2)、坂田英明1)、富澤晃文1)、加我君孝1)3)
目白大学言語聴覚学科1)、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科2)、東京医療センター感覚器センター3)
難聴のある乳幼児において聴力検査法としては OAE、ABR、ASSR の他覚的聴力検査と BOA、COR、VRA、遊戯聴力検
査等小児聴力検査がある。これらを組み合わせ、繰り返し検査を行うことにより聴覚を評価し、補聴器の装用に役立てたり、
人工内耳の適応について検討することとなる。盲聾児において他覚的聴覚検査は視覚障害の有無に関係なく行えるが、BOA
以外の小児聴力検査では視覚を活用して検査を行うため盲聾児の検査としては行うこと、または評価の判断が困難なことが
多い。今回われわれは air puff を用いた聴力検査 : air puff audiometry により聴力の評価を行った。症例は先天性の4歳の
盲聾児である。ABR と COR 検査ではおおよそ80から 90dB の聴力であったが、COR では繰り返し行ったものの、やはり聴
性反応の評価が難しかった。air puff による空気の刺激で条件付けし、音が聞こえた時に空気刺激に対して、声を出し顔を
動かす反応を得ることができた。air puff audiometry は盲聾児における聴覚検査の一つとして有用であると考えられる。
118―612
531
2015
認知症患者における聴力評価
○清水謙祐1)2)、松田圭二2)、鳥原康治2)、東野哲也2)
医)建悠会
吉田病院
精神科1)、宮崎大学
医学部
耳鼻咽喉科2)
【はじめに】日本は高齢化社会となって認知症患者数は増加し、2012年には462万人と推定される。認知症患者の聴力につ
いて検討した。
8歳)の長谷川式認知症検査(HDS―
【対象と方法】当院を受診した認知症患者40例(男12例、女28例、61∼93歳、平均78.
R)30点満点と聴力検査(4分法)を評価した。
【結 果】HDS―R は5∼10点 が7例、11∼15点 が7例、16∼20点 が15例、21∼27点 が11例 で あ っ た。聴 力 検 査 は 平 均 右
50.
79dB 左 51.
08dB、左 正 常(∼25dB)2例、軽 度 難 聴(26∼40dB)11例、中 等 度 難 聴(41∼70dB)22例、高 度 難 聴
(71dB∼)5例で、左正常3例、軽度難聴15例、中等度難聴13例、高度難聴9例であった。
【考察】これまで認知症患者に対してルーチンの聴力評価・鼓膜観察は行っていなかったが、難聴は認知症 risk factor の
一つであり、難聴の認知症患者は幻聴発現・認知障害進行の risk があるため、適切な介入が必要と思われる。認知症は治
療困難な疾患であり、聴覚からの脳刺激・補聴器装用という点からも耳鼻咽喉科専門医の果たす役割は大きいと期待する。
532
認知障害と加齢性難聴との関係について―疫学調査プロジェクト(PROST)データから―
○森田由香、宮尾益道、山本
新潟大学
医学部
裕、髙橋
姿
耳鼻咽喉科
種々の加齢性疾患は互いに関係があると考えられている。
しかし、
難聴と認知障害の関係についての報告は非常に少ない。
そこで、新潟大学で佐渡島民を対象に行っている疫学調査プロジェクト(PROST)のデータから加齢性難聴と認知障害の
関係を検討した。
40歳以上のデータ登録者のうち、純音聴力検査と、認知障害の指標である MMSE
(mini mental state examination)
、アル
ツハイマー病の危険因子とされる APOE4 遺伝子の検索が施行された252例を対象とした。加齢性難聴以外の難聴、耳疾患
は除外した。MMSE は23以下を認知障害あり、24以上を認知障害なしとして検討した。その結果、認知障害あり群では、
認知障害なし群に比し、すべての周波数で聴力閾値の上昇を認めた。また、APOE4 遺伝子がある群は、ない群に比べて、
中∼高音域において閾値が上昇する傾向がみられた。これらの結果は、70歳未満においてより顕著であり、認知障害は加齢
性難聴の増悪因子のひとつである可能性が示唆された。
533
DPOAE による検証⑴聴力と DPOAE の結果との乖離から鼓膜インピーダンスの低下をみる
○村上真美1)、村上力夫1)、田淵圭作2)
村上医院耳鼻咽喉科1)、たぶち耳鼻咽喉科2)
健常な耳では、聴力検査の結果と DPOAE の結果はある程度相関する。しかし、脆弱にみえる鼓膜では、聴力検査の結果
と比べて DPOAE の出力が低下することを、地方部会で報告した。そこで、鼓膜の劣化を聴力検査と DPOAE 値の乖離で評
価できると考えて、次の検討を行った。
【対象と方法】1.入学時の健診で要精査とされた273名のうち聴力正常でティンパ
ノA型を示した422耳の DPOAE と静的コンプライアンス(SC)を散布図に表し検討した。2.鼓膜に病的所見のない11名
(健常者5名、鼓膜インピーダンス低下が考えられる6名)に、3M テープを鼓膜に貼付し、直前直後に PTA、TG、DPOAE
を施行し検討した。
【結果】1.聴力―DP 解離と SC は負の相関関係があった。2.鼓膜インピーダンス低下が考えられる者
への 3M 貼付は SC 低下、DP 上昇を認め、健常鼓膜は貼付による変化を認めなかった。何れも自・他覚とも聴力不変であ
った。【考案】DP の低下は鼓膜インピーダンスの低下と相関し、鼓膜の劣化は聴力と DPOAE の乖離で示されると考えら
れた。
534
DPOAE による検証⑵中耳圧平衡能を鼓膜インピーダンスの物理力学的な観点からみる
○村上力夫1)、田淵圭作2)、村上真美1)
村上医院耳鼻咽喉科1)、たぶち耳鼻咽喉科2)
調圧とは、中耳腔への気体の出し入れによって鼓膜を初期形状に戻すことである。初期形状の鼓膜面積 (
a m2)伸展時の
、鼓膜インピーダンス n
(N/m2)
、外気圧 A
(Pa)
、中耳圧 B
(Pa)とすると A
(N/m2)
×b
(m2)
=B
(N/m2)
×b
鼓膜面積 b
(m2)
(b−a)
(m2)
×n
(N/m2)の物理力学的平衡状態(応力の釣り合い方程式)にある。鼓膜インピーダンスが低い程、容
(m2)+
積の変化に違いがある。同じ中耳腔容積、同じ耳管機能であれば鼓膜インピーダンスの低い方が調圧のための気体の出入容
量が大きい。即ち調圧に不利である。劣化・健常鼓膜に陰陽圧負荷試験を施行し、陰陽圧解除能を調べた。特に同一児で
DP、SC の結果から鼓膜インピーダンスに左右差があるものを対象にした。結果、力学的に中耳平衡能に関与していると推
察し得た。耳管機能に対する治療がない現状で、鼓膜のインピーダンスを下げない治療をすることしかできない。鼓膜イン
ピーダンスの低下が DP―聴力乖離によって数値的目安になることは、治療選択の際一つの指標として重要と考える。
118―613
日耳鼻
535
慢性持続低酸素症(睡眠時無呼吸症候群)に対してアディポネクチンが
膵臓 β 細胞に及ぼす影響
○清水崇博、植田広海、小川徹也、谷川
愛知医科大学
徹、内田育恵、稲川俊太郎
耳鼻咽喉科
睡眠時無呼吸症候群は2型糖尿病の危険因子である。睡眠時無呼吸症候群による慢性持続性低酸素症が酸化ストレスを引
き起こし糖尿病へ至ると考えられている。また、2型糖尿病の発症には脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンの低下が
関連し、慢性持続性低酸素症はアディポネクチン分泌を抑制するという報告がある。われわれはラットを用いて慢性持続性
低酸素症による酸化ストレス、インスリン分泌能、インスリン抵抗性の変化、それらに及ぼすアディポネクチンの影響につ
いて検討した。ラットを慢性持続性低酸素症群、慢性持続性低酸素症にアディポネクチンを投与した群、コントロール群の
3群に分けた。血清グルコース、血清インスリン、血清 MDA、HOMA―IR、HOMA―β、血清アディポネクチンの実験前後
の値を比較した。結果、慢性持続性低酸素症が2型糖尿病のひとつの要因と考えられ、睡眠時無呼吸症候群も同様に危険因
子であると推測された。またアディポネクチンがその発症を抑制する可能性があることが示唆された。
536
閉塞性睡眠時無呼吸患者における MRI を用いた上気道軟部組織の検討
○山口宗太、森脇宏人、坂口雄介、高畑喜臣、井上なつき、久保田俊輝、石井祥子、大久保はるか、吉川
東邦大学
医療センター大橋病院
衛
耳鼻咽喉科
【背景】閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の上気道形態の画像評価にはセファロメトリー、CT、MRI があるが、本邦では MRI
を用いた上気道軟部組織と OSA の関連を報告した例は少ない。
【目的】咽頭軟部組織容積、気道容積、舌容積、副咽頭間隙
脂肪容積と OSA の重症度の関係について検討する。
【対象・方法】終夜睡眠ポリグラフ検査と上気道 MRI を施行した76例
8回/h)を対象に咽頭軟部組織容積・気道
(男性56例、女性20例、年齢中央値49歳、BMI 中央値 26.0kg/m2、AHI 中央値24.
容積・副咽頭間隙脂肪容積(硬口蓋上端から喉頭蓋上端の範囲)
、舌容積について検討した。各容積は軸位断 MRI で測定部
【結果】重回
位の断面積をマニュアルで計測し画像解析ソフト(AZE VirtualPlace 風神Ⓡ AZE 社製)を用いて 3D 構築した。
帰分析の結果、AHI の予測式として年齢、舌容積、副咽頭間隙脂肪容積が有意な要因であった。また BMI25kg/m2 未満の
非肥満患者では AHI の予測式として年齢、副咽頭間隙脂肪容積が有意な要因であった。
【結論】OSA の重症度には舌容積、
副咽頭間隙脂肪容積が影響を及ぼすと考えられた。
537
CPAP 長期使用者における睡眠内容の臨床的検討
○菊池
淳1)2)3)、中園秀樹2)3)、池園圭子2)3)、梅野博仁2)
1)
菊池医院 、久留米大学
医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)、久留米大学病院
睡眠医療外来3)
(背景)睡眠時呼吸障害に対する経鼻持続陽圧呼吸療法(CPAP)により、無呼吸低呼吸指数(AHI)が減少することは明
らかであるが、長期間使用することで睡眠内容がどのように変化するか検討した報告は少ない。
(目的)CPAP を長期間使
用することで、AHI と睡眠内容がどのように変化したか検討する。
(方法)久留米大学病院睡眠医療外来で CPAP を導入さ
れ、その後定期的に CPAP 使用下の終夜睡眠ポリグラフ検査を行った男性20例を対象に、導入後2∼6年の睡眠内容の変
化を検討し、統計的な解析を行った。
(結果)睡眠内容の一部は、タイトレーション時よりもいったん改善し、その後は維
持するかやや悪化する傾向であった。また年齢的に標準と考えられる睡眠内容に比べ、対象の睡眠内容は良好な結果であっ
た。(考察)CPAP を長期にわたり使用できるためには、AHI の減少のみならず、睡眠内容の改善が持続していることも重
要と考えられた。
538
当院における CPAP 治療の adherence についての検討
○鈴木啓介、代田桂一、伊藤潤平、鈴木淳志、寺田聡広、柘植勇人
名古屋第一赤十字病院
耳鼻咽喉科
閉塞性睡眠時無呼吸症候群 OSAS の治療法として CPAP は広く普及しているが、さまざまな理由で継続できない症例も
ある。そのため、今回、われわれは、2010年1月から2013年12月まで4年間に当院で終夜ポリソムノグラフィー(PSG)を
施行、OSAS と診断し、CPAP を開始した160例(男132例、女28例)を対象とし、当院での CPAP 治療の adherence につい
て調べてみた。この160例のうち CPAP 治療を開始し1年後、治療を継続し通院している139例を継続群とし、CPAP を中
断、ほかの治療に変更したり、治療そのもの中止した21例を中断群とした。また継続群139例のうち CPAP のメモリーのデ
ーターより平均使用時間が4時間以上、かつ使用日数70%以上使用できている113例を Adherence 良好、それ以外の26例を
Adherence 不良とした。その上でそれぞれの群間で性差、年齢、BMI、PSG 結果、ESS などを比較検討した。
118―614
539
2015
当科の CPAP 使用患者における自覚的鼻閉の影響
○杉本一郎、石橋卓弥、濱本隆夫、樽谷貴之、河野崇志、竹野幸夫、平川勝洋
広島大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
CPAP 継続使用の妨げとなる原因としては、マスクやバンドの不快感や騒音、鼻閉、鼻痛などの鼻症状、口腔乾燥、咽頭
痛などの口腔咽頭症状、空気の嚥下による腹部膨満などさまざまある。その中でも鼻閉の有無がそのアドヒアランスを決定
する大きな要因となることが今までも報告されている。鼻閉に関しては鼻腔通気度検査での評価にて、鼻腔通気改善手術を
すすめることも報告されているが、鼻腔通気度検査は日中の座位での評価であり、睡眠中の仰臥位での鼻腔通気の実際の評
価は現在のところ困難である。今回、われわれは CPAP 継続使用中の患者に対し、自覚的鼻閉の有無のアンケートを行い、
CPAP のアドヒアランス、日中の眠気、睡眠の質との関連を検討した。口呼吸があるほどの自覚的鼻閉がある群は、口呼吸
があるほどの自覚的鼻閉がない群に比べ、有意に CPAP のアドヒアランスが悪く、日中の眠気が残っており、睡眠の質も
悪い傾向にあった。CPAP 患者の自覚的鼻閉を評価し、対応することは、アドヒアランス上昇のために有用であると思われ
た。
540
CPAP アドヒアランスに対する鼻副鼻腔疾患の影響
○井下綾子、松岡理奈、伊藤麻美、笠井美里、池田勝久
順天堂大学
医学部
附属
順天堂医院
耳鼻咽喉・頭頸科
【背景と目的】持続陽圧呼吸(CPAP)療法はさまざまな有効性から閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)治療の第一選択とされて
いる。一方、アドヒアランスが問題となり対応に苦慮することが多い。CPAP 導入された患者のアドヒアランス影響因子を
検討した。【方法】当科で睡眠ポリグラフにて OSA と診断され CPAP 導入された患者を対象とした。1晩の4時間以上装着
【結果】アドヒアランス良好群78例、不良群77例であった。
日が70%以上をアドヒアランス良好群とし、不良群と比較した。
3±11.
6歳、54.
8±11.
4歳、BMI は 26.
7±4.
4kg/m2、28.
1±6.
2kg/m2 とコンプライアンス良好群はよ
年齢はそれぞれ59.
り高齢で BMI が小さいが有意差はなく、AHI は 53.
5±24.
7/h、53.
2±21.8/h とほぼ同様であった。鼻腔抵抗は良好群
35 100Pa/cm3/s、CPAP 下 AHI は良好群 2.
5±1.
4/h、不良群 4.3±5.2/h であった。鼻副鼻
0.
36 100Pa/cm3/s、不良群 0.
腔疾患症例は良好群31%、不良群45%で不良群において有意に多かった(p=0.023)。【結語】鼻副鼻腔疾患の合併は CPAP
アドヒアランス低下の一因となる可能性がある。
541
閉塞性睡眠時無呼吸における鼻腔通気度検査結果と鼻呼吸障害の検討
○河内理咲、大岡久司、朝子幹也、八木正夫、友田幸一
関西医科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室
(背景)これまで鼻呼吸障害による CPAP 脱落患者の鼻腔抵抗値は基準値として両側 0.35∼0.
38Pa/cm3/S と報告されて
いる。今回当科睡眠時無呼吸外来において後向きに検討を行った。
(対象)2011年12月より2012年11月まで当科睡眠時無呼
吸外来を受診した男性患者のうち AHI>5 かつ鼻呼吸障害に対して鼻治療を要した50例を対象とした。保存的加療のみで治
療し得た症例は26例(さらに通年性アレルギー性鼻炎(PAR)および季節性アレルギー性鼻炎(SAR)RAST 陽性は7例、
どちらも陰性は11例)であった。アレルギー性鼻炎および肥厚性鼻炎に対して下鼻甲介粘膜焼灼レーザー治療行った18例
(PAR+SAR は6例、どちらも陰性は7例)
、鼻腔形態改善手術まで必要であった6例であった。そこで、これらの群におい
て鼻腔通気度計を用いて計測した治療前の鼻腔抵抗値を比較検討した。
(結果と考察)両側鼻腔通気についてレーザー治療
19±0.
07 PaS/cm3 と比較して
を行った PAR+SAR 群は、0.
37±0.16PaS/cm3 と保存的加療のみであった PAR+SAR 群の 0.
有意に高値であった(P<0.
05)
。
542
睡眠時呼吸障害の過眠といびきに対する手術療法の検討
○久松建一1)、工藤逸大2)、牧山
清2)、岸
博行2)
土浦いびき・睡眠時呼吸障害センター1)、日本大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野2)
【目的】われわれは睡眠呼吸障害(SDB)に対して複合鼻科手術(CNS)(後鼻神経切除術、鼻中隔矯正術、両側粘膜下下
鼻甲介骨切除術、両側中鼻甲介部分切除術の複合手術)またはコブレーションを用いる UPPP(cobUPPP)を行っている。
CNS および cobUPPP の SDB における過眠といびきに対する効果を検討する。
【方法】過眠、睡眠時にいびき、無呼吸を訴
える患者に昼間の眠気の問診(ESS)
、簡易 PSG、鼻腔通気度検査、開口時の口腔咽頭形態(Mallampati 分類)さらに PSG
を施行して診断した。患者で CNS または cobUPPP を行った症例について術前、術後の PSG events の変化、ESS、健康関
連 QOL を検討した。
【結果】CNS および cobUPPP は重症 OSAS を含む SDB に対して有効であり、過眠、いびきに極めて
高い効果を示した。また、健康関連 QOL についても下位尺度で有意な改善が認められた。
【結論】手術療法は重症から軽
症の OSAS、呼吸努力関連覚醒、過眠、いびきに対して極めて有用である。
118―615
日耳鼻
543
小児の REM 依存性閉塞性睡眠時無呼吸に関する検討
○恩田信人1)、千葉伸太郎1)2)、澤井理華1)、吉越
1)
彬1)、安藤裕史1)、渡邊統星1)、森脇宏人1)、内田
亮1)、
1)
鴻 信義 、小島博己
東京慈恵会医科大学
耳鼻咽喉科1)、太田睡眠科学センター2)
小児の閉塞性睡眠時無呼吸障害の病態は解明されていない領域が多く、治療法に関しても確立されたものが無いのが現状
である。今回われわれは PSG のデータを基に、小児 OSA を REM 依存性の群と非 REM 依存性の群に分けて検討を行った
ので報告する。方法 : 太田睡眠科学センター睡眠データベースより、平成14年6月から平成24年5月までに睡眠時無呼吸障
害疑いで PSG を施行した小児386例を連続抽出し、REM 依存性 OSA の症例と非 REM 依存性 OSA の症例について後ろ向
きの検討を行った。結果 : REM 依存例は OAI および呼吸関連覚醒指数が有意に低値であり、軽症と考えられた。さらに6
歳以上と未満(就学前後)の群に分けて検討すると、6歳未満の群において REM 依存例は非 REM 依存例に比較し軽症と
考えられた。一方、6歳以上の群は REM 依存例において臥位通気度が有意に高値であり、鼻腔抵抗値が病態に関与すると
考えられた。結語 : 小児の REM 依存性 OSA は成人同様軽症例が多く、6歳以上の群においては鼻腔抵抗の関与が考えら
れた。
544
小児閉塞性睡眠時無呼吸症の重症度に影響する要因について
○澤井理華1)、千葉伸太郎2)、恩田信人1)、吉越
彬1)、安藤裕史1)、渡邊統星1)、森脇宏人1)、鴻
信義1)、
1)
小島博己
東京慈恵会医科大学
耳鼻咽喉科学教室1)、太田睡眠科学センター2)
小児閉塞性睡眠時無呼吸症の重症度について検討したので報告する。方法と対象)太田睡眠科学センター・睡眠データベ
ースを用いた後ろ向き調査。平成14年6月から平成24年5月に睡眠関連呼吸障害の疑いで太田睡眠科学センターを受診、
PSG を施行した1歳から14歳の小児386例を連続抽出した。患者背景データ、PSG パラメーター、上気道所見、鼻腔通気
度、セファログラムを用い重症度について統計学的検討を行った。結果)全年齢で重症度に影響する因子は、Facial―axis、
、鼻腔通気度(臥位両側 P100 値)であった。6歳未満の未就学児で重症度に影響す
MP―H、口蓋扁桃肥大(brodsky 分類)
る因子は Facial―axis、MP―H、口蓋扁桃肥大であり、6歳以上の就学児は鼻腔通気度(臥位両側 P100 値)であった。ほか
に就学児では、OSA 重症度があがるにつれ BMI が減少していた。結語)小児 OSA の重症度には口蓋扁桃肥大、顎顔面形
態、鼻腔抵抗値など上気道要因が関連し、年齢により要因は異なり、病態の変化の存在が推察された。
545
小児 OSAS に対する手術的加療が身体発育に及ぼす影響の検討(第 2 報)
○田原晋作、原
浩貴、山下裕司
山口大学大学院医学系研究科
耳鼻咽喉科学分野
小児の OSAS は睡眠中の呼吸障害とともに、身体の成長にも影響を及ぼすことが指摘されている。小児 OSAS に対する
治療としては、その気道閉塞機転を考慮し口蓋扁桃摘出術・アデノイド切除術が挙げられるが、手術後に身長や体重が急激
に増える、ということは以前から知られているところであり、そのメカニズムとしては咽頭の狭小化からくる物理的摂食障
害の解消、努力性呼吸によるエネルギー消費増大の改善、成長ホルモン分泌の変化などが挙げられている。このように
OSAS による身体の成長の抑制あるいはその手術的加療による成長の改善は明らかとされているが、長期的に術後の成長に
どのような影響を及ぼしているか、あるいは手術が施される年齢によって影響に違いがみられるのかということを検討した
報告はみられていない。
前年、われわれは小児 OSAS 症例において術前後の長期にわたる身体計測結果を調査し、手術的加療が身体発育に及ぼ
す影響を検討し報告を行ったが、さらに症例数を加え、また新しい知見を得たので、第2報として報告する。
546
小児睡眠時呼吸障害に対する観血的治療に関する検討
○中島逸男1)2)、大久保昌章2)3)、平林秀樹1)、春名眞一1)2)
獨協医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、獨協医科大学睡眠医療センター2)、おおくぼみみはなのどクリニック3)
小児睡眠時呼吸障害の原因は増殖したアデノイド、口蓋扁桃肥大によるものが多く、アデノイド切除術、口蓋扁桃摘出術
が第一選択であり、手術によりその多くは著明に改善する。しかしながら、術後出血など低年齢での観血的治療は手術に伴
う合併症のリスクを回避することはできない。このような背景から、当科では2007年4月1日から外科的治療が必要と判断
した3歳未満の小児 OSAS の患児に口蓋扁桃切除術(アデノイド切除術を含む)を実施してきた。そこで今回われわれは、
小児睡眠時呼吸障害と診断し得た例でアデノイドを含めた口蓋扁桃切除術例を施行した8症例(全例男児)を対象とし、各
、ODI
呼吸パラメーターのほか、年齢、性別、身長、体重、OSA―18 スコアについて検討した。術後に RDI(呼吸障害指数)
(酸素飽和度低下指数)は改善を認めたが、半数の4例にいびき等の症状が残存していることがわかった。うち3例はアデ
ノイド切除術を再施行したが、口蓋扁桃摘出術も必要であったのは1例であった。これらの結果に文献的考察を加えて報告
する。
118―616
547
2015
CTP 陽性症例の臨床的検討
帆1)、杉崎一樹1)、新藤
○松田
鈴木
4)
晋1)、柴崎
修2)、井上智恵1)、伊藤彰紀2)、加瀬康弘1)、宇佐美真一3)、
1)
衛 、池園哲郎
埼玉医科大学
耳鼻咽喉科1)、埼玉医科大学
神経耳科2)、信州大学
耳鼻咽喉科3)、東京医科大学
耳鼻咽喉科4)
2012年厚生労働省特定疾患急性高度難聴調査研究班および新規診断マーカー CTP を用いた難治性内耳疾患の多施設検討
に関する研究班において、外リンパ瘻診断基準改訂案が出された。改訂案では、外リンパ瘻確実例が、以下の2項目のいず
れかを満たすものとなっている。1)顕微鏡、内視鏡などにより中耳と内耳の間に瘻孔を確認できたもの。瘻孔は蝸牛窓、
(CTP)が
前庭窓、骨折部、microfissure、奇形、炎症などによる骨迷路破壊部に生じる。2)中耳から Cochlin―tomoprotein
検出できたもの。
突発性難聴と比較して、CTP 陽性症例では前庭障害が多く、また急性感音難聴では高齢患者で CTP 陽性症例が多い等の
特徴を報告してきた。
今回われわれは、2014年4月から現在までの間に、外リンパ瘻を疑い CTP 検出検査を行い、CTP が陽性であった症例の
誘因の有無、誘因の分類、聴力経過、聴力レベル、めまい・眼振の有無などの検討を行った。
548
難聴を伴う耳石器性めまい症例
○室伏利久1)、小宮山櫻子1)、林
裕史1)、松崎真樹1)、津田幸子2)、吉村恵理子1)2)
帝京大学
耳鼻咽喉科1)、藤沢市2)
医学部附属溝口病院
われわれは、これまで、ほかの症候を伴わず、身体の傾きや上下動などの直線的な運動感を生じるめまい発作を、特発性
耳石器性めまいと呼称し、報告してきた。これまでの検討からは、運動感の方向により、3タイプに分類され、また、発作
の持続時間から、比較的長い発作時間のグループと短い発作持続時間のグループの2つに大別されることを示してきた。ま
た、検査所見としては、VEMP 異常がほぼ全例に認められることを明らかにしてきた。疾病に関する一般論からすると、
特発性(一次性)の症例があれば、ほかの疾患に伴う、いわゆる二次性の症例の存在も推定される。今回は、難聴を伴い、
ほかの内耳疾患に随伴して生じたと考えられる耳石器性めまい症例について報告する。難聴の原因疾患としては、内リンパ
水腫、突発性難聴などであった。平衡機能検査の所見としては、VEMP 異常が全例に認められた。二次性耳石器性めまい
症例の検討は、特発性耳石器性めまいの病態の解明にも有用であると考えられる。
549
C2 に関連する耳閉感の病態生理
○石井正則1)、月舘利治1)、高宮優子2)、内尾紀彦1)、苦瓜夏希1)
JCHO 東京新宿メディカルセンター
耳鼻咽喉科1)、東京慈恵会医科大学
耳鼻咽喉科学教室2)
聴力像が正常か、低音部の聴力レベルがわずかに低下している症例や、耳管狭窄症でも耳管開放症でもなく、急性低音障
害型感音難聴やメニエール病の回復後に耳閉感のみを強く訴える患者がいる。そのような患者67名に対して、C2(第二頸
3%(±19.
1)の耳閉感の改善が認められることが分かった。そこで、
髄神経)に圧を加えることにより、VAS で平均52.
それらの耳閉感を訴える患者に対して赤外線サーモセンサーによる顔面皮膚温度、鼓膜温度、自律神経機能の周波数パワー
スペクトラム解析、動画による画像解析などを行い、C2 の圧力による耳閉感が改善する病態生理を研究した。その結果、
C2 のピンポイントの圧力負荷により、顔面皮膚温、頸部皮膚温、鼓膜温が有意に上昇し、口蓋帆張筋の弛緩が認められ、
自律神経機能の解析で、C2 の圧迫開始直後に明らかな交感神経成分の上昇が認められた。これらのことにより、C2 の『皮
膚圧反射』を介する交感神経機能の亢進が耳閉感の改善に関与すると考えられた。
550
めまいで発症した骨 Paget 病の一例
○小山新一郎1)、永井世里1)、尾崎慎哉1)、石田
名古屋第二赤十字病院
1)
愛1)、和田明久1)、村上信五2)、蒲谷嘉代子2)
耳鼻咽喉科 、名古屋市立大学
大学院
医学研究科
耳鼻咽喉・頭頸部外科2)
骨 Paget 病は、慢性進行性の疾患で骨形成が亢進するため骨の肥厚と変形を生じる疾患である。体幹骨、頭蓋骨が侵され
ることが多く、難聴、耳鳴、めまいを来すことが報告されている。われわれはめまいで発症した骨 Paget 病の治療を経験し
たので報告する。症例は70歳代女性、2014年にめまいを主訴に当院を紹介受診した。右鼓膜は発赤し、耳漏も認めたが鼓膜
穿孔は認めなかった。右軽度難聴であった。CT では右乳様突起の正常な含気蜂巣がみられず、鼓膜は肥厚していた。受診
3週後に耳後切開で、右道上棘の後部から骨を採取し病理組織検査を行い骨 Paget 病と診断された。VEMP は右反応無し
左正常反応、カロリックテストでは両側正常反応で、重心動揺検査ではパワーベクトル分析で正常であった。エチドロン酸
二ナトリウム(ダイドロネル)の投与を開始した。めまいは徐々に改善し、経過観察中である。
118―617
日耳鼻
551
当科で経験した末梢性めまいと鑑別困難であった小脳梗塞症例の検討
○池谷洋一、仲島孝昌、許
昭和大学
医学部
芳行、小林
斉、北野
学、稲葉大朗、小林一女
耳鼻咽喉科学講座
めまいは日常診療において良く経験する疾患の一つである。運動失調、意識障害などが認められない場合、耳鼻咽喉科を
初診することが多い。小脳梗塞には、典型的な小脳症状を呈さず、臨床所見のみでは末梢性めまいと鑑別困難な症例がある
ことが報告されている。小脳梗塞は重篤な結果を招くことも多く、できるだけ早期に診断し、専門科にコンサルトすること
が必要である。2007年4月から2014年11月までの間に、末梢性めまいが疑われ当科に入院した症例は268例であった。入院
2%)あり、そのうち小脳梗塞は4例(1.
5%)であった。い
後、画像検査により中枢性めまいと診断された症例は6例(2.
ずれもめまい以外に中枢神経症状は認めず、1例は感音難聴を合併しており突発性難聴に伴うめまいが強く疑われた。今
回、当科にて経験した末梢性めまいと鑑別困難であった小脳梗塞症例について、若干の文献的検討を加えて報告する。
552
外傷後めまい症例における重心動揺と聴覚・嗅覚・味覚の検討
○相馬啓子1)、國弘幸伸2)、冨岡拓矢1)、猪野絢子1)、佐藤陽一郎1)
耳鼻咽喉科1)、慶應義塾大学
川崎市立川崎病院
医学部
耳鼻咽喉科2)
【目的】外傷後に画像所見に異常を認めないにもかかわらず、慢性的なめまい、耳鳴、難聴、嗅覚・味覚障害などの多彩
な症状が持続する症例を経験する。このような平衡障害を解明するために、神経耳科学的所見との関連を検討した。
【対象】
2歳)
。【方法】
外傷後にめまい、味覚障害、嗅覚障害が生じたと問診票に記載した254例(男性115名、女性139名、平均44.
標準純音聴力検査、標準語音聴力検査、静脈性嗅覚検査、嗅覚同定能力研究用カードキット検査、電気味覚検査、濾紙味覚
検査を施行。これらと重心動揺の検査結果とを比較検討した。
【結果】嗅覚は、アリナミンテストと重心動揺との間にはわ
ずかに相関を認める程度であったが、嗅覚同定とは中程度の相関が認められた。しかしロンベルグ率との相関はなかった。
味覚は、閾値・同定とも軽度の相関のみ、聴覚は、聴力の左右差および最高語音明瞭度とも重心動揺との間に相関を認めな
かった。【考察】外傷後の慢性的な平衡障害は、嗅覚の認知障害となんらかの関連がある可能性が示唆された。
553
耳石器障害によるめまいの精神心理学的検討
○瀬尾
徹1)、白石
功1)、小林孝光1)、斉藤和也1)、渡邉寛康2)、土井勝美1)
近畿大学医学部耳鼻咽喉科1)、大阪中央病院耳鼻咽喉科2)
はじめに : 前庭誘発筋電図(vestibular evoked myogenic potential: VEMP)により耳石器障害によるめまいと診断され
る患者で神経症傾向が強いものを経験する。耳石器障害めまいの精神心理面について検討したので報告する。対象と方法 :
耳石器障害めまい患者19名に対し、CMI 健康調査、日本版 STAI、自己評価抑うつ尺度(SDS)を実施した。また BPPV お
よびメニエール病についても実施した。結果 : CMI で3・4領域を示すものは、耳石器障害めまいの58%であり、メニエ
ール病(37%)や BPPV(15%)よりも多かった。STAI では、耳石器障害めまいでは特性不安よりも状態不安が高い傾向
があった。SDS の異常(48以上)を示すものは耳石器障害めまいの20%であり、メニエール病(33%)や BPPV(38%)よ
り低値であった。考察 : 耳石器障害によるめまいは、誘因なく繰り返すので不安感を増強させるが、症状は軽微であるので
抑うつ傾向は少ないのではないかと考えた。
554
演題取り下げ
555
めまい患者の起立試験における起立性血圧上昇の臨床的意義について
○平川治男1)、西
康行2)、谷光徳晃1)、野田礼彰1)、園山
広島赤十字・原爆病院
徹1)、立川隆治2)
1)
耳鼻咽喉科 、呉医療センター・中国がんセンター
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
めまいの原因の1つに起立性調節障害がある。起立性調節障害としては、起立性低血圧症、体位性頻脈症候群がめまい・
平衡を扱う専門科領域ではよく知られている。起立性調節障害の診断では、一般的には起立試験が行われ、収縮期血圧の低
下、脈圧の狭小化、脈拍数の増加、が評価される。これらは、ある程度までは正常な現象と考えられ、過度なものを異常と
診断する。すなわち、起立試験では、ある程度の収縮期血圧の低下がみられることが正常で、逆にわずかでも収縮期血圧が
上昇することは異常である可能性がある。経験上、めまいを訴える患者には、起立試験で収縮期血圧の上昇を示すものが少
なくないが、他科領域を含めても、起立性の血圧上昇については、これまで注目されて来たとはいえない。今回われわれは、
めまい患者に起立試験を施行し、収縮期血圧の上昇を示した症例について検討した。
118―618
556
2015
ぐらぐら、ふわふわめまいと加齢性平衡障害
○野村泰之、戸井輝夫、岸野明洋、木村雄介、原田英誉、森田優登、鈴木啓誉、澤田芙沙子、増田
毅、
鴫原俊太郎、大島猛史
日本大学
医学部
耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野
【背景、目的】めまい患者の中には「ぐらぐらする」「ふらつく」「ふわふわする」を主訴として受診する者も多いが、
そのような非回転性めまい患者には加齢性平衡障害も含まれることがある。加齢性平衡障害は、治療しない限りは増悪して
いく進行性病変ともいえる。われわれは、非回転性めまいのうちで今後さらに患者数が増すであろう加齢性平衡障害患者へ
の治療を試みているが、数例の症例を呈示する。
【対象、方法】日本大学病院ならびに日本大学医学部附属板橋病院を受診した非回転性めまい患者を群分けし、加齢性平
衡障害とみられた患者群に対して治療を試みた。
【結果、考察】ぐらぐらふわふわ等の非回転性めまい患者は自律神経群、末梢前庭群、心循環系群、加齢性群、そのほか、
に群分けされた。
加齢性群のなかには運動理学療法等で自覚症状の改善をみた患者が認められたが、
治療には長期を要した。
加齢性平衡障害は多要因で生じると考えられるため、治療も複合的に行う必要があると考える。
557
傾斜センサを用いた平衡機能障害リハビリテーション装置とその基礎的研究について
○小山京子1)、矢部多加夫2)、衛藤憲人3)、岡田京子3)
東京都立広尾病院1)、やべ耳鼻咽喉科
表参道2)、東海大学
工学部
医用生体工学科3)
【目的】片側性前庭神経障害において、高齢者などでは前庭代償が弱く慢性浮動性めまいを呈することがある。両側障害
では前庭入力以外の補正に期待することになるが効果的な支援加療選択肢は少ない。近年失われた感覚入力をほかの感覚入
力で支援、リハビリテーションに結びつけようとする感覚代行治療の試みがなされている。
【方法・結果】傾斜センサにて
センシングされた体幹角度はその傾きに比例した物理量に変換され、被検者にフィードバックされる。物理量は振動作用を
利用した。振動子を複数にすることで、体幹傾斜方向に加え傾斜角度情報を患者に与えることが可能となる。本装置により
患者歩行時において、正常な体幹角度を維持し続けることが確認された。
【考察】本システムは被検者に鋭敏かつ低侵襲の
刺激を与えることが可能である。同刺激は極めて明確な知覚刺激として認知されることから、前庭排除等に伴う転倒を未然
に防ぐと同時に平衡機能障害のリハビリテーションとして有効で、慢性平衡障害改善戦略の治療選択肢の一つとしての可能
性が考えられた。
558
姿勢・歩行障害に対する感覚代行リハビリテーション治療の carry over 効果
○山中敏彰1)、村井孝行1)、松村八千代1)、伊藤妙子1)、清水直樹1)、岡本英之1)、和田佳郎1)、藤田信哉2)、
北原
糺1)
奈良県立医科大学
耳鼻咽喉・頭頸部外科学1)、奈良県総合医療センター
耳鼻咽喉科2)
【目的】不可逆な前庭機能障害に代償機構が停止すると、姿勢や歩行機能の障害が存続する。このような難治化した慢性
平衡障害に対して前庭覚代行装置(VSD)を用いるリハビリテーション治療を試みたので報告する。
【方法】姿勢・歩行障害が慢性化した一側前庭障害症例16例を対象にした。頭位の傾きを感知する加速度計からの情報を
電気信号に変換して舌に設置したインタフェースに伝達するシステムを使用して、バランストレーニングを8週間行った。
評価には重心動揺速度と歩行機能スコアを用いて、治療終了後2年間追跡し効果を判定した。
【結果】VSD トレーニングにより重心動揺と歩行機能スコアは短期間で改善を示した。治療を終了した後にもこれらの改
善は、6∼12カ月間変化せず12∼24カ月後に約20%悪化するも、効果は持ち越され維持された。
【結論】VSD は、短期間トレーニングで改善をもたらし、その後も効果を carry over させる、有用なリハビリテーション
モダリティーとして期待される。
559
コーンビーム CT による中耳腔軟部組織陰影の評価
○宮永宜明、平原信哉、長井慎成、松田圭二、東野哲也
宮崎大学
医学部
付属病院
耳鼻咽喉・頭頸部外科
【はじめに】コーンビーム CT(CBCT)の硬組織解像度は優れているとされるが、軟部組織については十分な検討が行わ
れていない。今回われわれは、CBCT を用いて側頭骨撮像を行い、同時期に撮像された CT との比較検討を行ったので報告
する。少なくとも中耳真珠腫の術前・術後評価において CBCT は CT の代用となり得ると結論された。
【方法】真珠腫症例
における、術前もしくは術後に撮影した CT と CBCT の軟部陰影を比較し軟部陰影の描出に関して検討した。
【対象】2013
年9月から2014年9月の1年間で CT と CBCT を撮影した真珠腫症例13例(男性 : 9例、女性 : 4例/弛緩部型真珠腫 : 7
例、先天性真珠腫 : 4例、2次性真珠腫 : 2例)
。【結果】軟部陰影の評価において CBCT は CT と同等に軟部陰影の描出は
可能であった。
【考察】CT と CBCT の撮影時期の隔たりによって多少の差は認めた。今後は同時期に撮影した症例を増や
し、比較検討する。
118―619
日耳鼻
560
RS―EPI(Readout segmented echo―planer imaging)を用いた拡散強調画像による
中耳真珠腫の診断
○山本典生1)、平海晴一2)、坂本達則1)、岡野高之1)、山崎博司1)、伊藤壽一1)
京都大学
大学院医学研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科1)、岩手医科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科2)
拡散制限のある物質で高信号を呈する拡散強調画像(DWI)は真珠腫の診断に有用であるが、DWI に最適といわれる
single shot echo―planer imaging
(SS―EPI)では、画像に歪みが生じたり、磁化率アーチファクトにより、空気と骨の境界に
アーチファクトを生じたりする。これらの欠点を解消できる高速スピンエコー法(FSE)による DWI が真珠腫の診断に多
く用いられているが、今回われわれは FSE 同様に歪みを抑え、より S/N 比の高い DWI を撮影できる Readout segmented
(RS―EPI)を用いた拡散強調画像による真珠腫の診断を試みた。対象は2013年12月から2014年11月まで
echo―planer imaging
に RS―EPI による DWI を撮影した25例のうち、手術により真珠腫の有無を確認できた12例である。拡散制限の信号が陽性
であった7例中5例では真珠腫を確認できた。また、信号が陰性であった5例中真珠腫を術中に確認した症例は1例もなか
1%、陽性的中率70.
1%、陰性的中率100%であった。
った。つまり、症例数は少ないが感度100%、特異度70.
561
造影 MRI における真珠腫周囲の増強効果の程度と術後含気に関する検討
○長井慎成、松田圭二、後藤隆史、東野哲也
宮崎大学
医学部
耳鼻咽喉頭頸部外科
MRI による造影効果を指標に、術前の真珠腫周囲の造影増強効果の程度と術前後の含気の関係について検討を行った。
対象と方法 : 2010年1月から2013年11月の間に、当科で初回手術を行った真珠腫患者の内、術前に造影 MRI を施行した74
例が対象。術前後の含気は CT を用いて評価を行い、含気がないもの、耳管から中耳にかけて含気を認めるもの、上鼓室ま
で含気を認めるもの、乳突洞まで含気を認めるものの4段階に分類。造影 MRI における真珠腫周囲の造影の程度は、造影
効果をほとんど認めないもの(L群)
、中等度認めるもの(M群)
、高度増強効果を認めるもの(H群)の3段階に分け評
価。結果 : L群では術前後で含気の変化はほとんど認めなかった。一方M群、H群では有意に術前後の含気の改善を認め
た。一方M群、H群は、L群に比べて術前の含気が有意に悪かった。まとめ : 造影 MRI において真珠腫母膜周囲の造影効
果が強い症例は、術後の含気化が良い傾向にあり、術前の真珠腫周囲の造影増強効果の程度が術後の含気に何らかの影響が
あることが示唆された。
562
中耳コレステリン肉芽腫症の MRI 拡散強調画像所見の検討
○深美
悟1)、中島逸男1)、後藤一貴1)、今野
獨協医科大学
医学部
渉1)、金谷洋明1)、平林秀樹1)、春名眞一1)、田中康広2)
耳鼻咽喉・頭頸部外科1)、獨協医科大学越谷病院
耳鼻咽喉科2)
中耳コレステリン肉芽腫症はコレステリン結晶に対する異物反応性肉芽腫で、青色鼓膜や鼓膜の膨隆を伴う例、穿孔鼓膜
からの茶褐色や血性耳漏を呈する例などさまざまな症状を呈する。MRI では T1 および T2 強調画像で共に高信号を示すこ
とが特徴的で、拡散強調像で高信号を呈す例はまれとされる。近年、真珠腫性中耳炎における MRI 拡散強調像の有用性が
報告される中で、中耳コレステリン肉芽腫症での拡散強調像での陽性例が散見されている。今回、われわれは手術により中
耳コレステリン肉芽腫症と診断した13例の術前の MRI 所見を検討したので報告する。
563
耳硬化症例の術前 MRI 内リンパ水腫所見と術後経過
○曾根三千彦1)、吉田忠雄1)、加藤
名古屋大学大学院
医学系研究科
健1)、森本京子1)、大竹宏直1)、寺西正明1)、向井田
1)
徹2)、中島
務3)
2)
耳鼻咽喉科 、トヨタ記念病院耳鼻咽喉科 、
国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科3)
われわれのガドリニウム造影 MRI を用いた内リンパ水腫評価の検討では、メニエール病以外にも種々の耳疾患に内リン
パ水腫の存在が確認されている。耳硬化症に内リンパ水腫が合併することは以前から報告されており、前庭症状や急性感音
難聴などのエピソードを伴う耳硬化症症例では、MRI にて蝸牛および前庭に著明な内リンパ水腫を認めている。一方、内
耳症状のない症例にも内リンパ水腫の存在が確認されており、そのような症例ではアブミ骨手術に伴う合併症のリスクも高
いと危惧される。今回、術前に MRI 内リンパ水腫評価を施行した耳硬化症例を対象に、画像所見と術後経過を観察し検討
した。MRI 上前庭内リンパ水腫を認めない症例では術後経過は良好であったが、内リンパ水腫を認めた症例では術後めま
い症状が持続する傾向があった。この結果は MRI 内リンパ水腫評価の有用性を示しており、内リンパ水腫合併例では手術
の適応とリスクについて説明が重要であると考えられた。
118―620
564
2015
遅発性内リンパ水腫症例の画像所見の検討と対応
○福嶋宗久、平井崇士、伊藤理恵、宮口真一、赤埴詩朗
関西労災病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
遅発性内リンパ水腫 DEH は先行する高度感音難聴から続発性に内リンパ水腫が生じ、メニエール病様の前庭症状が発現
する疾患と定義される。2014年4月以降めまいや難聴で当科を受診した症例のうち遅発性内リンパ水腫と診断したものは4
症例であったが、その内訳は男性2名、女性2名で、同側型2例、対側型1例、両側型1例であった。これら4症例すべて
に内耳造影 MRI を施行したところ、いずれも高度な内リンパ水腫が確認された。2症例に対してはイソソルビドを主とす
る投薬を行い症状の寛解を得たが、2症例に対しては内科的治療が無効であったため内リンパ嚢開放術を施行し、現在術後
半年が経過している。結論)1.同側型 DEH では、内耳造影 MRI によって先行難聴耳優位な大きさで内リンパ水腫を可視
化することができた。2.対側性 DEH において、先行耳の変性性内リンパ水腫と後発耳の内リンパ水腫を画像上で判別す
ることはできなかった。3.DEH に対する内リンパ嚢開放術は有効と思われた。4.両側性 DEH の診断において、内耳造
影 MRI は非常に有益と思われた。
565
頸部リンパ節転移を来した男性絨毛癌の一例
○金井英倫1)2)、池田賢一郎1)2)、宮澤昌行1)、相馬裕太1)、北野
1)
1)
2)
学1)、今村友美1)、古川
傑1)、小松崎敏光1)、
1)
兼井彩子 、嶋根俊和 、小林一女
昭和大学医学部耳鼻咽喉科学講座1)、昭和大学病院頭頸部腫瘍センター2)
絨毛癌は女性では先行妊娠と関連して発生してすることが多いが、
男性の発症は非常にまれである。
多くは原発が睾丸で、
そのほか縦隔・後腹膜・松果体の報告がある。今回原発不明の男性絨毛癌を経験したので報告する。症例は59歳男性。主訴
は呼吸苦である。心臓超音波検査で右室に腫瘍認め、全身 CT 検査で心臓実質の腫瘍と両側頸部から縦隔にかけての多発リ
ンパ節腫脹が認められた。左鎖骨上窩リンパ節を摘出し、絨毛癌を含む悪性胚細胞腫瘍と診断された。治療はカルボプラチ
ン(CBDCA)とエトポシド(VP―16)が行われたが効果がなく、その後 BEP(ブレオマイシン・エトポシド・シスプラチ
ン)療法に変更されるも画像上腫瘍の縮小傾向は認められなかった。その後放射線治療も行われたが、治療開始から6カ月
後に永眠された。男性絨毛癌は非常にまれで予後不良であることが知られている。今回文献的検討を加えて報告する。
566
放射線および化学療法の 4 年後の右上頸部リンパ節転移に対する頸部郭清の病理にて
確診となった胸腺癌の一例
○山本智矢
国立病院機構
九州医療センター
耳鼻耳鼻咽喉科
臨床研究センター
症例は60台男性で甲状腺専門病院で右甲状腺腫瘍を指摘され、FNA で腺癌疑いの診断で当院に紹介された。初診時に上
縦隔から右甲状腺に広範に浸潤する腫瘍を認め、生検では SCC 疑いであった。全身精査でほかに病変を認めないことから
原発不明 SCC の鎖骨下リンパ節転移として TS―1 併用放射線療法 70Gy および化学療法(DTX+CDDP)3クール施行、そ
の後 TS―1 内服にて外来フォローとした。4年後右上内深頸リンパ節に転移が疑われ、頸部郭清を行ったところ術後病理で
胸腺癌の転移と診断された。今回の治療経験および胸腺癌の疫学、治療法などについて述べる。
567
頭頸部原発神経内分泌癌の 3 例
○上浦大輝1)、古阪
日本大学
医学部
徹1)、浅川剛志1)、岸
博行2)、高根智之1)、樋口雄將1)、大島猛史1)
1)
耳鼻咽喉・頭頸部外科 、日本大学病院2)
頭頸部原発神経内分泌癌の3症例を経験した。症例1は61歳男性で主訴は右頬部痛であった。右上顎洞に骨破壊性の腫瘍
を認め、組織検査の結果は小細胞性神経内分泌癌であった。動注化学放射線療法と根治手術で原発巣は消失したが、5年後
に肺と縦隔リンパ節転移を認めた。放射線化学療法を行い、縮小を認めた。その後脳転移をガンマナイフで加療した。胸
膜、縦隔、肝臓の転移に対し化学療法を繰り返したが、初診から7年で永眠された。症例2は74歳男性で多発肝転移の精査
中に下咽頭腫瘍が発覚した。組織検査の結果は神経内分泌癌であった。化学療法を1クール施行し、局所は肉眼的に消失し
たが、転移巣の悪化のため初診から4カ月で永眠された。症例3は82歳男性で、中咽頭後壁に腫瘍を認め、組織検査の結果
は神経内分泌癌であった。化学療法を2クール施行し、局所は肉眼的に消失したが、再発し初診から約7カ月で永眠された。
治療にあたっては、原発巣のコントロールに加えて遠隔転移に対する戦略も必要と考えられた。
118―621
日耳鼻
568
当科および関連病院における頭頸部神経内分泌小細胞癌の検討
○若岡敬紀1)、水田啓介1)、柴田博史1)、棚橋重聡1)、林
4)
1)
1)
寿光1)、西堀丈純1)、安藤健一2)、大西将美3)、
1)
白戸弘道 、久世文也 、青木光広 、伊藤八次
岐阜大学
耳鼻咽喉科1)、高山赤十字病院
医学部
岐阜市民病院
耳鼻咽喉科2)、大垣市民病院
耳鼻咽喉科3)、
4)
耳鼻咽喉科
頭頸部領域に発生する神経内分泌小細胞癌は比較的まれであるが、悪性度が高く早期に血行性転移を来し予後不良といわ
れている。今回われわれは2006年から2014年までに当科および関連病院で経験した頭頸部神経内分泌小細胞癌9症例につい
8歳(38歳∼84歳)
、男性4例、女性5例であった。原発部位の内訳は、耳下腺2例、鼻副鼻腔
て報告する。平均年齢は61.
3例、中咽頭2例、下咽頭1例、頸部1例であった。下咽頭の1例は、組織生検時には扁平上皮癌であったが、手術後の病
理診断では扁平上皮癌が混在した混合型小細胞癌であった。治療法はほとんどの症例で肺小細胞癌に準じた化学療法
(CDDP+VP―16、CDDP+CPT―11、CBDCA+VP―16、AMR)と放射線治療であった。頭頸部原発の小細胞癌は症例数が少
なく有効な治療法が確立されておらず、臨床的な特徴も明確にはされていない。そこで今回、関連病院を含めて症例数を増
やして検討したので文献的考察を含め報告する。
569
当院で経験した節外性鼻型 NK / T 細胞リンパ腫の 2 例
○中村紗矢香、佐野
中部労災病院
塁、佐藤栄祐、安藤
篤
耳鼻咽喉科
節外性鼻型 NK/T 細胞リンパ腫を2例経験したので考察を加え、報告する。
【症例1】43歳男性、右頬部の腫脹が出現し
歯科にて歯肉炎として治療されるも改善なく当院を紹介受診した。初診時単純 CT で右上顎洞内に充満する陰影を認め上顎
洞炎として上顎洞根本術を施行した。その後も改善を認めず MRI にて右上顎歯肉に腫瘤性病変を認め、生検にて診断を得
た。
【症例2】43歳女性、咽頭痛と鼻閉で受診した。口腔内および上咽頭にアフタを認め徐々に増悪した。鼻腔内も徐々に
びらん様に変性し、頤皮膚にも腫瘤を形成した。各所より生検し診断を得た。両症例ともに他院血液内科にて放射線治療お
よび化学療法にて腫脹の著明な改善を認めた。鼻腔およびその周囲の難治性病変では鑑別として節外性鼻型 NK/T 細胞リ
ンパ腫を念頭に置かなければならない。