Full Text

匡国
頚部脂肪腫の 1症例
雫
治彦
加島 健 司
徳島赤 卜字病院
佐藤
豪
耳鼻咽喉科
要旨
脂肪J
l
重は全身のあらゆる部位に発生しうるが、頭頭部における発生頻度は低いと 言われている 。今回われわれは頭部
に発生した 巨大な脂肪腫を経験した 。
0
歳、男性。左頚部腫脹に気付 き紹介受診。初診時 、左頚部に 約1
2
0X60mmの軟らかな腫痛を 触 れ
、
症例 は3
CTに
陸揚像を認めた 。脂肪J
l
重が疑われ、全身麻酔下に摘出術を行った 。摘
て胸鎖乳突筋直下に脂肪組織と 問 じ吸収域を持つ l
J
重場であり、病理診断は脂肪腫であ った。
出物は、 表面黄色 、平泊、被J真に覆われた充実性のJ
キーワード :脂肪腫、頭部腫f
菌
、
CT
はじめに
脂肪腫は中匹葉由来の軟部組織から発生する腫虜で
あり、 全 身の各種臓器から発生しうるが、耳鼻咽喉科
領 域 に お け る 脂肪 腫 の 発 生 頻 度 は 低 いと 言 われて い
る。 また、 脂肪腫は発育が緩徐であり自覚症状 に乏し
いため、 受診時には相 当大きく進展した症例 も多く見
られ る。
今回われわれは 、頚部に発生した巨大な脂肪腫の症
例 を経験したので 、その概 要を報告する 。
症 例
図 1 外観
左顎 下部か ら 鎖 '~J 上 に かけて腫 癒を認める
患者 :3
0
歳男性。
主訴 : 左 !El~部腫脹
既往歴 :急性肝炎
か った。
画像 所見
:CTにて 、下顎から鎖骨上まで、左胸鎖
現病歴 :平成 1
3
年 2月頃か ら左頚部腫脹 に気づ き近
乳突筋の 内側 に上下 8c
m に渡り 脂肪組織と 同 じ吸収
医内科受診。左 頚部腫:胞を認めたため当利紹介となっ
域を持つ腫蕩像を認めた (
図 2)。深 部 で は 内 頚 静脈
た。
を圧迫し 、内 頚動脈 に近接していると思われた 。
局所所見:左顎下部から鎖骨上にかけて 、正常皮膚
に覆われた上下径約 1
00mm前 後 径約 50mmの腫癒を
0 腫 癌 は 弾性 、軟、圧痛なく可動 性 は
認めた (
図 1)
CT所見より 、頭 部 脂 肪 J重と診 断し 平 成 1
3
年 5月 1
1
日、全 身麻酔下に 、j
重蕩摘 出術 を施行し た。
手術所見:J句鎖乳突筋前縁に沿って皮府切聞を行 っ
なか った。 また、所属リンパ節に 明 らかな 異常は認め
た。胸鎖乳突筋は腫蕩に圧排 され、薄 く前後に伸展さ
なか った。
れており 、 その直下 に黄色脂肪様の腫壌を認めた (
図
臨床検 査所見 :血液生化学検査 では肝機能異常を認
3)。周囲との癒着はなく 、剥 離は 容 易 で あ ったが、
め た が、血 液 一 般検査、尿 一 般 検査に 異 常は認めな
臆爆が胸鎖乳突筋内側 に大き く進展 してい るために腫
66 頚音 1
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脂 肪腫の l症例
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図 4 摘出標本
長径 1
0
5mm短径 5
5mm
考 察
図 2 CT像
胸鋲乳突筋の内側に脂肪組織と同じ吸収域を持
つ腫蕩像を認める
軟部組織から発生する腫揚としては 、脂肪腫が最も
頻度が高く、脂肪腫の約 1
3%が頭頚部領域に発生する
と報告されている 1)。耳鼻咽喉科領域においては、主
に後頭部の皮下に多いが、その他、耳下腺 2)、副 U
[
;
J
[
頭
間隙 3)なども報告されている 。好発年齢は 4
0才以 上 と
いう報告もあるが、本邦の報告例では、
l才から 7
2才
とあらゆる年齢にみられ、性差は報告により 一定して
いない 。
臨床症状は、無痛性の腫 1長であり機能上の問題を引
き起こすことは少なく、美容上の問題が中心となるこ
とがほとんどである 。発育が経慢であるために臨床経
過が長いことも特徴である 。そのため、初診時には大
きな腫傷塊として存在することが多い 。
図 3 術中所見
)j旬鎖乳突筋直下に黄色脂肪様の J
J
重傷を認める
頭頚部脂肪腫の大きさは 、大きいものでは長径 1
0
0
に 4cm程分割し腫蕩上端を剥離 、腫蕩を一塊に摘出
mmを超える巨大な脂肪腫の報告も見られ叫 6)、最も
0
0x2
0
0x2
00mm、重 量8
0
0
gのもの
大きなものでは 2
もあった九 今回の症例 も、長径 1
05mm短径4
5mmと
する事ができた 。大耳介神経は結繋切 断、副神経は保
比較的大きな脂肪腫症例 であった 。
場上端を 明視下に置く目的で、胸鎖乳突筋の上方を縦
存した 。摘出した腫壌は長径 1
05mm短 径 55mmであ
診断には CTが有用であり 、CTである程度術前診
り、表面黄色 、平滑、被膜に覆われた充実性の腫療で
断が可能なことも多い 。一般的に 脂肪腫 CT値は、一
) 病 理組織結果は 、脂肪腫であり、悪
あった (
図 4。
般の脂肪組織と同様に -90 ~
性像は認められなかった 。
Iも有用であり 、T1、T2強 調 画
多い i)。 また、 MR
術後経過:術後 8日にて退院となり、以後 6ヶ月経
過し、局所再発は認 め られていない 。術後左肩挙上不
全を訴えたが、他 院整形外科での リハビリテー ション
にて症状は改善した。
VOL
.7 NO
.1 MARCH 2
0
0
2
-1
2
0Huで あ る こ と が
像共に脂肪組織と 同様 に 高 信 号 領 域 と し て 摘 出 さ れ
。
る ~ ) -6
)
治療法は、手術による腫揚の完全摘出が原則で全摘
出すれば再発は少ないと 言 われている 。腫療は被膜に
頚部脂肪Il車の i症例
67
覆わ れており剥離および、摘出は比較的容易である 。本
症例では腫療は完全摘出できたので予後良好と思われ
るが、 摘出後再発を繰り返し、 数 回目 に脂肪肉腫と病
理診断された報告3)もあり今後の経過観 察が重要で あ
ると思われた 。
3)末広倫雄,斉藤龍介,藤田
彰
, 他 :副 H
国頭問│掠
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maの l例.耳喉
5
9:41-48,1
9
8
7
4)牧野邦彦,天津陸郎 :頚部脂肪腫 .JHONS 15:
1
4
5
8-1
4
6
2, 1
9
9
9
5)亀谷 隆一 , 1
1
1口宗一,島1
1
奇奈保子,他:頚部に発
生した脂肪服の 2症例 .耳鼻│
臨
床
まとめ
9
0:455-461,
1
9
9
7
6)成 田七美 ,児玉
頚部に発生 した脂肪腫を報告 した 。 CTは診断に有
用であ り、術前に脂肪腫と 診断され た。
章 :1
W
J頚部から頭蓋底まで進展
していた脂肪腫,耳1
1
侯頭頚
7)高津 l
陽尚,間島雄一,山田 弘之, 他 :頚部脂肪腫
の 2症例.耳鼻 │
臨床
文 献
6
3:259-263,1
991
86:567-572, 1
9
9
3
8)中山明 1全, 瀧 本 勲 , 稲 福 繁 , 他 :1
N
I
J
頭下街に
みられた脂肪腫の 1例.耳1
1
侯 5
9:6
5
5-6
5
8,1
9
8
7
1)田中利 善,善浪弘善
4症例 .耳喉頭頚
2)中村会 一,高木
中田
渉 :頭頚部脂肪j
j
重の
65:1
39-144, 1
993
明,加納 直行,他 :耳下腺脂肪
l
J
重の 2例.耳鼻 │
臨床
9)清水啓成, 曽爾信行 ,原
陸子,他 :側頭部より
副│
咽頭 間隙に進展した脂肪腫の 1症例 .耳1
1
困喉頚
7
1:517-520,1
9
9
9
75:1
6
53-1
6
5
6,1
9
8
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