水エマルジョン燃料使用低公害発電機用エンジン

水エマルジョン燃料使用低公害発電機用エンジン
Komatsu’s Low Emission Engine, STA6D140,
Using Water Emulsified Fuel
渡 辺 欣一郎
Kin-ichirou Watanabe
上 野 充
Mitsuru Ueno
岡 崎 達
Tohru Okazaki
長 坂 昇 平
Shouhei Nagasaka
日本では電力自由化の中でオンサイト発電システムの普及が著しく,発電機用エンジンとしては,燃費の良さか
らディーゼルエンジンが盛んに使われている.
コマツは水50%,燃料50%のエマルジョン燃料を作るエマルジョン燃料製造装置を開発,その燃料を用い,排気色,
のディーゼルエンジン
燃費を現行エンジン以上に保ちながら,NOxを1/10に低減した超低NOx(100ppm O2 13%換算)
STA6D140を新たに開発した.本稿ではエマルジョン燃料製造装置とエンジンについて報告する.
The business of onsite diesel power generation is rapidly expanding in Japan, as the nation’s electric power supply
industry is being deregulated and liberalized. Diesel engines are commonly used for onsite power generation for their
good fuel consumption ratio.
Komatsu successfully developed an emulsified fuel manufacturing facilities called Emulsion Mixer which produces
emulsified fuel blending fuel and water at an equal ratio of 50% each. Then Emulsion Mixer has been followed by the
development of STA6D140 diesel engine which uses emulsified fuel produced by Emulsion Mixer. This is an ultra low
NOx engine (100 ppm at O2 13% level) which has succeeded in reducing the NOx level to one-tenth of the conventional
diesel engines, while maintaining better exhaust gas color and fuel consumption ratio. This thesis discusses the
development and features of Emulsion Mixer and the STA6D140 diesel engine.
Key Words: Diesel Engine, Engine Performance, Emulsified Fuel, Diesel Engine, Power Generation
1.は じ め に
2.システムの概要
ここ数年,電力自由化の中でオンサイト発電システムの
普及が著しく,発電機用エンジンとしては,燃費の良さか
らディーゼルエンジンが盛んに使われている.発電機用エ
ンジンの排ガス規制は大気汚染防止法などで,O2 13%換
算で 950ppm であるが,大都市圏では環境への配慮から
100ppm の規制を行っている自治体もある.
(図1)
従来これら100ppm規制地域には主にガスエンジン,ガ
スタービンが使用されており,ディーゼルエンジンはNOx
低減が困難なため,脱硝装置などの後処理で対応してきた
が,排出黒煙の問題があった.
本報では水50%,燃料50%の水エマルジョン燃料を安
定的に製造する燃料製造装置と,その燃料を用いて,NOx
と排出黒煙を同時に低減し,大都市圏に適応できる低エ
ミッションのディーゼルエンジンを開発したので紹介する.
図2にシステムの概要を示す.従来のディーゼルエンジン
との構成上の違いは下記である.
(1)水エマルジョン燃料製造装置
(2)ハイブリッドアフタクーラシステムを含む白煙防止
システム
以下,各々について詳述する.
2002 q VOL. 48 NO.149
水エマルジョン燃料使用低公害発電機用エンジン
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国内 NOx規制
(参考)
950ppm
大気汚染防止法(環境庁)
大阪府
大阪市
他の規制地域
規制地域外
(114ppm)
堺市
神戸市
700ppm
北九州市
刈田町
大気汚染防止法準拠
ただし個別指導あり
(114ppm)
(114ppm)
(190ppm)
NOx 950ppm Area
NOx Under 950ppm Area
A重油換算50R/h以上
千葉県
千葉市
特別地域
その他
東京都
第1種地域
第2種地域
静岡県
清水市
神奈川県
横浜
川崎,横須賀
その他
A重油換算50R/h以上
200R/h未満
500kW以上
500kW未満
(750ppm)
A重油換算50R/h以上
100ppm
埼玉県
A重油換算50R/h以上
400ppm
愛知県
(名古屋市を除く)
113ppm
名古屋
171ppm
760ppm
福島県
A重油換算50R/h以上
山梨県
規制は非公開
大防法×0.8
(=760ppm)
A重油換算50R/h以上
排出ガス量5000m N/h以上
100ppm
100ppm
150ppm
A重油換算50R/h以上
(114ppm)
(497ppm)
57ppm
110ppm
190ppm
A重油換算50R/h以上
定格出力2000kW未満
定格出力2000kW未満
A重油換算50R/h以上
A重油換算50R/h以上
200R/h未満
A重油換算50R/h以上
図1 NOx Regulation
Fuel
Muffler
Air Cleaner
Water
Turbocharger
Water Fuel
Valve
Turbine
Surfactant
Mixer
Circulation
Surfactant tank
Jacket Water Aftercooler
Generator
Mixing tank
Level
sensor
Tank
Pressure
gauge
Level
sensor
Emulsifier
Emulsion Mixer
Air-to-Air Aftercooler
Hybrid aftercooler
Pump
Control panel
図3 Fuel Mixing System
100
25
Total
2.1. 水エマルジョン燃料製造装置
燃料製造装置の概要を図3に示す
燃料製造工程は下記を自動的に行う.
混合槽に A 重油注入
(1)予攪拌
添加剤注入
水注入
(2)循環ポンプで乳化機を通し,混合槽に戻る乳化過程を
開始
規定時間後乳化完了
(3)乳化完了後貯油槽に移送
Total %
80
図2 Emulsions Engine System
15
40
Distribution
20
0
0.1
1
10
Liquid size µm
図4 Liquid Size Distribution
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20
60
乳化機の構造は基本的に衝突拡散を繰り返すように作られ
ており,乳化機を数回通過させることにより,粒径が安定す
る.図4に粒径分布を示す.平均粒径は約 3 ␮m である.
水と燃料を乳化させるには添加剤が必要であるが,この
要求特性として,乳化性,防錆性,防腐性を重視して開発
を進めた.
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to
Engine
Transfer
10
5
0
100
Liquid Size
Distribution %
Compressor
2.2. 白煙防止システム
エマルジョンエンジンは大量の水を含んだエマルジョン
燃料を使用するため,冷態時,低負荷時の着火性が悪く,
補助装置が必要となる.図7に概要を示す.
(1)開閉バルブ付ハイブリッドアフタクーラ
高負荷時は冷却水開閉バルブを閉じ水冷アフタクーラ
に水を流さず,空冷アフタクーラで冷却された空気をエ
ンジンに導入し,NOx を抑える.
低負荷時は水を流し,給気温度を上げ白煙を防止する.
(2)温水ヒータ
エンジン停止時は常時規定温度にするよう,ヒータが
制御される.
(3)給気ヒータ
エンジン始動後エンジン内部が暖まるまで,給気を電
気ヒータで暖める.
(4)排気シャッタ
エンジン始動後エンジンの負荷を増やし早く暖気完了
とするため,排気シャッタを閉める.ハイアイドリング
になり,負荷投入の準備完了後排気シャッタを開放する.
(5)電子制御燃料噴射ポンプ
始動時,低負荷時,着火性を良くするため噴射タイミ
ングを進角,高負荷時NOxを抑えるため,遅角させる.
ポンプはコマツ自社製のKP21を使用し,最適タイミン
グを達成することができた.
(6)大容量噴射ノズル
大量の水を含んだエマルジョン燃料を使用するため,
噴射量は増大する.このため,大流量,高性能のノズル
が必要になり,噴孔を流体研磨したノズルを採用した.
(7)高圧縮比 FCD ピストン
従来のエンジンでは圧縮比 15 であったが,始動性,
白煙の観点より,また断熱性の面からFCD素材を採用
し,この排気量15rクラスでは例を見ない圧縮比20と
した.(図8)
添加剤
乳化性
防錆性
水
図6 Microscopic
View of Water
Emulsified fuel
図5 O/W Type Emulsion Fuel
Exhaust shutter
Turbocharger
Blower
Turbine
Hybrid Aftercooler
Air-to-Air Aftercooler
Water
Exhaust
Water Jacket
After warmer
エマルジョン燃料は扱いやすさ
(非危険物扱)
の点,また,
後述する水の混入割合が目標NOxの観点から50%必要な
ため,水の中に燃料があるO/W型エマルジョン燃料を生
成する添加剤を使用した.
(図5,図6)
Coolant Heater
Valve
Big Capacity Nozzle
High Compression
FCD Piston
Intake Heater
Electric Governor
Controller
図7 Engine System
FCD Piston
AL Piston
図8 FCD Piston
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表1 Engine Specification
3.エンジン性能
Engine
3.1. エンジン諸元
エンジン諸元を表1に示す.
Engine Type
4-Cycle Water-Cooled DI
Turbocharged with
Hybrid Aftercooler
Aspiration
Displacement
r
15.24
Compression Ratio
–
20 : 1
Valve Train
–
4-valve OHV
–
Inline with Variable
Injection Timing
Cly. No. ⫺ Bore ⫻ Stroke
mm
L6 ⫺ 140 ⫻ 165
Oil Capacity
r
77
Fuel Injection System
100
90
Relative NOx %
3.2. エンジン性能
図9にエマルジョン燃料の水混入率の変化による NOx
の変化を示す.
発電機用に開発を進めてきたため,現在の規制で,ほぼ
全国で使用可能な性能とすべく,現行に比べNOx 低減率
90% を目標とした.
水混入率は始動性,白煙とのトレードオフにより50%と
定め,NOxを低減する他の手段として,噴射時期遅延,空
冷アフタクーラの採用などで,低減率約90%を達成した.
今回の開発したSTA6D140とベースエンジンのスモーク
の比較をすると,エマルジョン燃料により,スモークはほ
とんど 0%と約 5%改善された.
このようにしてエンジンは表2のように燃費の悪化を抑
えて,超低 NOx と低スモークの性能を得られた.
水 50%,燃料 50%のエマルジョン燃料を用いた結果,
水の蒸発潜熱により,局部的燃焼温度が下がり,NOx が
激減した.
スモークの改善については,燃料噴射量が2倍になるた
め噴射時のモーメンタム増加,噴射圧アップ
(約2割)
も寄
与していると思われる.しかし現行エンジンが50%の負荷
でも排気色が0%でないことから,エマルジョン燃料は粒
径が3μと小さいため,燃料微粒化により,燃料と空気の
ミキシング向上が図られたと考える.
80
70
60
50
40
30
20
10
0
Improvement of
Combusion
Target
0
10
20
30
40
50
60
70
80
Mixed Water Ratio %
図9 NOx vs. Mixed Water Ratio
表2 Engine Performance
SA6D140A
STA6D140
Conventional Emulsified Fuel
NET
r
15.24
,.
Power
kW
272
,.
BSFC
g/kWh
211
213
NOx
ppm
750
95
Smoke
BSU
0.5
0.0
Power
kW
272
272
BSFC
g/kWh
218
,.
NOx
ppm
732
95
Smoke
BSU
0.5
0.0
Displacement
50Hz
60Hz
2002 q VOL. 48 NO.149
STA6D140
水エマルジョン燃料使用低公害発電機用エンジン
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筆 者 紹 介
4.まとめ
Kin-ichirou Watanabe
わたなべ
発電機用エンジンとしてはぼ全国のNOx規制を満足す
るエンジン,エマルジョン製造装置を開発し,下記結果を
得た.
(1)水50%,燃料50%のエマルジョン燃料を安定的に供
給できるエマルジョン燃料製造装置を開発した.
(2)乳化性,防錆性,防腐性を満足するエマルジョン燃料
用添加剤を開発した.
(3)排ガスの NOx はほぼ全国全域の規制に適合する
O2 13% 換算で 100ppm を達成した.
(4)スモークは現行エンジンに比較し,大幅に低減した.
きんいちろう
渡辺 欣一郎
1982年,コマツ入社.
現在,
(株)
アイ・ピー・エー応用商品開発グループ
所属.
Mitsuru Ueno
うえ
の
みつる
上 野
充 1984年,コマツ入社.
現在,
(株)アイ・ピー・エー副社長.
Tohru Okazaki
おか
ざき
とうる
岡 崎
達 1974年,コマツ入社.
現在,
(株)アイ・ピー・エー企画・統括グループ
所属.
Shouhei Nagasaka
なが
さか しょう へい
長 坂 昇 平
1996年,コマツ入社.
現在,
(株)
アイ・ピー・エー応用商品開発グループ
所属.
【筆者からひと言】
開発している時は,デッドロックに何度か乗り上げ,その都度,
関係者のご協力を得,何とか量産まで来ることができました.特に
エマルジョン燃料特有の腐食対策には,添加剤メーカをはじめ,外
部の方々にお世話になり,深く感謝します.
エマルジョン燃料は,まだ,EPAなどで認められた燃料ではないた
め,建機への適応はエマルジョン燃料が市民権を得た後となります
が,NOxを画期的に下げる技術のため,広く使われるよう始動補助
装置の簡素化などの改良に努力していきたいと思います.
2002 q VOL. 48 NO.149
水エマルジョン燃料使用低公害発電機用エンジン
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