コメリとナフコの挑戦 ―ホームセンター業界最大手を目指して― 1. はじめに

コメリとナフコの挑戦
―ホームセンター業界最大手を目指して―
国際地域学科 3 年 1810080167 高橋英司
1.
1-1.
はじめに
ホームセンター業界を選んだ理由と業界の現状
今回、筆者がホームセンター業界を調べようと思ったきっかけは 2 つある。1 つは日経ビ
ジネスの 2010 年 5 月 31 日号の『コメリ「攻め農業を支える」』という記事を読み、ホーム
センターの行う事業に興味を持ったからである。
2 つ目に、2006 年 9 月にカーマ・ダイキ・ホーマックの 3 社が合併し、業界最大手の DCM
Japan ホールディングスができるように業界再編やスーパーやドラッグストアなどの異業
種との低価格競争などがこの業界に起きている。市場の伸び率が鈍化するこのような現状
の中でどのような企業があり、その財務状況がどうなっているか調べたくなったからだ。
現状では、ホームセンター業界は大型のショッピングモールが郊外に進出しているが、2009
年 3 月時点で業界全体では最大手の DCM Japan、5 位のニトリを除き、売上高の伸び率は
鈍くなっている。
1-2.
図表 1-1
小売業の中のホームセンター業界
小売業の各業界の売上高
小売業:各業界規模(売上高)
百貨店
7.3兆円
スーパー
13.1兆円
コンビニ
7.8兆円
ドラッグストア
4.3兆円
家電量販店
5.7兆円
ホームセンター
3.9兆円
合計
42.1兆円
(図表 1-1 は一橋総合研究所 「2010
年版
図解革命!
業界地図
ダイジェスト」 高橋書店
をもとに筆者作成)
最新
2010 年
ここでは小売業のなかでのホームセンター業界の位置
づけを見る。なお、ここで用いるデータは売上高ベース
とし、2009 年 3 月期決算(連結)の数字を用いている。図
表 1-1 より、ホームセンター業界全体では売上高は 3.9 兆
円であり、ほかの小売業と比べると売上高は低いことが
分かる。
ホームセンター業界全体の売上高が少ない理由の 1 つ
として、ほかの業界と比べて店舗数が少なく、扱う商品
の単価が低いためであると考えられる。たとえば、百貨
店は宝飾・貴金属、ドラッグストアは医薬品、家電量販店
は白物家電など単価の高い商品を扱う。コンビニやスーパ
ーは全国的に店舗数が多い。ホームセンター業界は単価が
比較的低く、店舗数が少ないことで売上高が少ないと考え
られる。
2 つ目にホームセンター業界の各企業はほかの事業を行っていない、もしくは行っていて
1 / 17
もホームセンター事業が 90%以上の売上高、利益を占めるためでもある。たとえば、スー
パーはイオンやユニーなど多くのグループ会社を抱えている企業があり、売上高も多い。
これら 2 点が他の小売業とホームセンター業界が異なり、売上高が少ない理由である。
1-3.
ホームセンター業界の中のコメリとナフコ
図表 1-2 各企業の売上高と営業利益
(図表 1-2、1-3 ともに一橋総合研究所
高橋書店
(単位:億円)
「2010 年版
図表 1-3
図解革命!
各企業の店舗数
(単位:店舗)
業界地図 最新ダイジェスト」
2010 年と各企業の 2009 年度の有価証券報告書をもとに筆者作成)
次にホームセンター業界の中のコメリ、ナフコの位置付けを見る。ホームセンター業界
で売上高の多い主要各社と比較しながら見ていく。なお、用いたデータは 2009 年度のもの
で、各企業の決算月はコメリとナフコが 3 月、島忠が 9 月、それ以外の企業は 2 月である。
まず図表 1-2 のホームセンター業界の各企業の売上高と営業利益を見ると、DCM Japan ホ
ールディングスの売上高が 4625 億円で、最も多い。しかし、営業利益を見ると、ニトリが
330 億円で最も高くなっている。ニトリの営業利益が多いのは、円高の影響が大きく出てい
るからである。前年の 2008 年は営業利益が 260 億円であった。2009 年は輸入家具の仕入
れコストが下がり、営業利益がさらに増えた。読売新聞の 2010 年 8 月 25 日付の朝刊第 9
面によると、
「海外からの仕入れが多い家具製造販売のニトリホールディングスは対ドル 1
円の円高が、年間で営業利益を約 9 億円押し上げるという。」とある。近年の円高の影響が
営業利益に顕著に表れていると言える。コメリは売上高が 2775 億円で業界 4 位、営業利益
が 147 億円で業界 3 位である。ナフコは売上高が 2037 億円で業界 6 位、営業利益が 97 億
円で業界 7 位である。
次に図表 1-3 のホームセンター業界の各企業の店舗数を見ると、コメリの店舗数が 949
店舗で圧倒的に多いことが分かる。コメリの店舗数が多いのは創業当時から小規模の店舗
を数多く出店してきたためである。
DCM Japan ホールディングスは 2006 年 9 月にカーマ、
2 / 17
ダイキ、ホーマックの 3 つのホームセンターが合併してできたために 489 店舗あり、店舗
数はコメリに次ぎ 2 番目に多い。ナフコは九州に 153 店舗と集中しており、全国では 246
店舗ある。
1-4.
財務分析で比較する両社の紹介と戦略
図表 1-4 コメリの売上高・営業利益の推移
(単位: 図表 1-5 ナフコの売上高・営業利益の推移
位:百万円)
百万円)
① 株式会社コメリについて
1962 年(昭和 37 年)設立。住関連用品を主に扱うホームセンターであり、コメリ・ホーム
センター(以下 HC)とコメリ・ハード&グリーン(以下 H&G)というチェーンストアを全国展
開。コメリ HC は一般家庭向けの商品や農業資材、建築資材を販売している。一方、コメ
リ H&G は主に DIY(Do It Yourself)商品と園芸用品を中心に取り扱っている。また、コメ
リ HC の中でも売り場面積の広い店舗(1000 平方メートル以上の店舗)をコメリ・パワー(以
下 PW)と呼んでいる。図表 1-4 より、売上高は右肩上がりに推移している。営業利益は 2009
年に一時落ち込んだものの、2010 年には上がった。
戦略としては 2010 年 3 月決算の有価証券報告書の第 2【事業の状況】によると、プライ
ベートブランドの「コメリセレクト」の品質と価格で顧客の満足度の向上を目指す。次年
度は PW を 5 店舗、HC を 1 店舗、H&G を 44 店舗出店し、上半期には 1000 店舗を超す
見込みである。九州における店舗数も 100 店舗を超え、さらなるドミナント化を目指す。
また、120 店舗の既存店の全面改装、多彩な資材、園芸商品の取り扱い顧客へのサービスを
さらに高めることを目指す。
② 株式会社ナフコについて
1970 年(昭和 45 年)設立。家具・ホームファッションストア、ホームセンター、コンビネ
3 / 17
(単
ーションストアを東北と北海道を除く全国に展開。主に資材・DIY・園芸用品、生活用品、
家具・ホームファッション用品を扱っている。オリジナル商品の「良品特価」や月間奉仕
品の「厳選特価」を中心とし、販売に取り組んでいる。図表 1-5 より、2009 年に売上高は
大きく伸びたものの、営業利益は落ち込んだ。
戦略としては 2010 年 3 月決算の有価証券報告書の第 2【事業の状況】によると、良品特
価のさらなる値入改善・品質強化に取り組む。また、利益率の高い輸入品もさらに拡大し
ていく見通し。資材・DIY・園芸用品、生活用品、家具・ホームファッション用品を三本柱
と考え、一般消費者からプロ業者まで幅広いニーズにこたえることを目指す。店舗の差別
化としては、家具とインテリアをコーディネートさせた「ツーワン・スタイル」の新業態
開発と 300 坪の小規模店舗の出店の継続といったことが挙げられる。
1-5.
注意事項
特に指摘がない限りコメリは連結、ナフコは単体の有価証券報告書のデータを用いる。
両社とも決算月は 3 月である。2010 年と書いてあれば、2010 年 3 月期のことを指す。た
だし、コメリはホームセンター事業の売上高、営業利益及び資産の金額は全セグメントの
売上高合計、営業利益合計及び資産合計のいずれも 90%超であるために有価証券報告書で
は事業の種類別セグメント情報の記載が省略されている。
2.
ステップ 1:収益性分析
それではホームセンター業界の 2 社、コメリとナフコの財務分析を行う。まずは両社の
収益性について、使用総資本事業利益率(ROI)、株主資本利益率(ROE)、売上高当期純利益、
総資本回転率、財務レバレッジの 5 つの指標を見る。
2-1. 使用総資本事業利益率(ROI)
図表 2-1 使用総資本事業利益率(ROI の推移) (単位:%)
4 / 17
図表 2-2 総資本の推移(単位:百万円)
図表 2-3 事業利益の推移(単位:百万円)
まず始めに使用総資本事業利益率(ROI)を見る。図表 2-1 の使用総資本事業利益率(ROI)
は事業利益(ここでは営業利益+受取利息+受取配当金)を総資本で割ったものである。2009
年にはコメリ、ナフコともに ROI は下がっている。
次に使用総資本事業利益率(ROI)を総資本と事業利益に分解する。コメリ、ナフコ両社の
総資本と事業利益を比べると、図表 2-2 の総資本は両社とも右肩上がりで増えていることが
分かる。しかし、図表 2-3 の事業利益の見ると、コメリ、ナフコともに 2008 年までは増加
していたが 2009 年には減少している。ここで使用総資本事業利益率(ROI)を総資本、事業
利益に分解したことで使用総資本事業利益率(ROI)が下がっているのは、分母である総資本
が増えているが、分子である事業利益が横ばいであるためだと言える。
次に両社の事業利益の構成を見る。
図表 2-4
株式会社コメリ
コメリの事業利益の構成(単位:%)
(単位:%)
2006 年
売上高
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
売上原価
70.0
70.2
70.6
70.2
69.9
売上総利益
30.0
29.8
29.4
29.8
30.1
販売費および一般管理費
27.5
27.2
27.2
27.9
28.1
広告宣伝費
1.6
1.5
1.4
1.4
1.5
給料及び手当
8.9
8.7
8.5
8.9
9.1
貸借料
4.7
4.7
4.6
3.4
3.2
減価償却費
2.8
2.8
2.9
4.2
4.1
その他
2.9
2.9
3.2
3.5
3.7
営業利益
6.1
6.2
5.9
5.5
5.5
事業利益合計
6.1
6.2
5.9
5.5
5.5
5 / 17
図表 2-5
株式会社ナフコ
ナフコの事業利益の構成(単位:%)
(単位:%)
2006 年
売上高
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
売上原価
69.2
68.5
68.0
69.1
68.3
売上総利益
30.8
31.5
32.0
30.9
31.7
販売費および一般管理費
24.8
25.2
25.7
26.4
26.3
広告宣伝費
2.6
2.4
2.2
2.6
2.4
地代家賃
3.4
3.5
3.7
3.8
3.9
減価償却費
1.7
1.8
1.9
2.0
2.3
その他
3.0
3.0
3.3
3.5
3.3
営業利益
6.0
6.3
6.2
4.6
5.4
事業利益合計
6.0
6.4
6.3
4.6
5.4
図表 2-4,2-5 の事業利益の構成よりコメリ、ナフコともに販売費及び一般管理費が多くを
占めることが分かる。これは、原材料費の高騰の影響を受けやすいためである。ここ数年
は原油価格や素材価格の高値安定が続いているので、販売費及び一般管理費が多くかかっ
ている。またコメリ、ナフコともに貸借料、地代家賃、減価償却費の割合が多いのは、両
社とも店舗の新規出店や増床を毎年行っているためである。2010 年はコメリが 5.5%、ナ
フコが 5.4%で両社ともに売上高に占める事業利益の割合は同程度である。
2-2. 株主資本利益率(ROE)
図表 2-6
株主資本利益率(ROE)の推移 (単位:%)
6 / 17
図表 2-7
当期純利益の推移
(単位:百万円)
図表 2-8
株主資本の推移
(単位:百万円)
次に株主資本利益率(ROE)の分析を行う。図表 2-6 より、コメリは徐々に ROE が下がっ
ている。一方、ナフコは 2009 年に 3.9%まで ROE を落としているものの、2010 年には約
6%にまで回復している。次に株主資本と事業利益に分解する。図表 2-8 より、両社とも分
母である株主資本は右肩上がりである。図表 2-7 の当期純利益が横ばいで推移しているため、
株主資本利益率(ROE)が低下していると言える。
図表 2-9
売上高当期純利益率の推移
(単位:%)
図表 2-10
総資本回転率の推移
(単位:%)
次に ROE を売上高当期純利益率(図表 2-9)、総資本回転率(図表 2-10)、財務レバレッジ(図
表 2-11)の 3 要素に分解し、ROE の動きの裏付けを見ていく。まず、図表 2-9 の売上高当
期純利益率を見る。2006 年にはコメリがナフコを上回っているが 2010 年にはナフコがコ
メリを逆転している。これは、コメリの売上高が伸びているが当期純利益が伸びていない
ためである。一方、ナフコは 2010 年に売上高は増えているが、その割合以上に当期純利益
が増えたために売上高当期純利益率が 2010 年に大きく上がっている。
次に、図表 2-10 の総資本回転率を見る。総資本回転率は売上高を総資本で割ったもので
ある。この指標が高いほど総資本の回収スピードが速いことを意味する。コメリはほぼ横
7 / 17
ばいで推移し、ナフコは徐々に低下している。両社ともに売上高の伸びと同程度の割合、
もしくはそれ以上に総資本が増加しているからである。
図表 2-11
財務レバレッジの推移
(単位:倍)
最後に財務レバレッジを見る。財務レバレッジは自己資本比率(自己資本÷総資本)の
逆数に分解したもの、つまり、総資本÷自己資本である。図表 2-11 を見るとコメリがナフ
コを上回っているがコメリ、ナフコともに横ばいで推移している。コメリは総資本を多く
保有しているため、ナフコよりも財務レバレッジが高い指標となっている。
2-3. 収益性分析のまとめ
ここまで収益性の指標を見てきたが、収益性ではナフコが 2010 年に売上高当期純利益率
でコメリを逆転するも、財務レバレッジはコメリがナフコを一貫して上回っていた。使用
総資本事業利益率(ROI)、株主資本利益率、総資本回転率はほぼ互角だった。収益性の面で
はコメリもナフコも大きな差は見られなかった。両社とも事業利益が横ばいで推移してい
るため、いかにコストを抑え、利益率を高められるかというのがこれから重要になる。両
社は新規出店だけでなく、既存店舗の増床・業態変更や不採算店の閉店を行っている。そ
れが利益率に結びつくために気候や原油価格に左右されにくい商品(園芸商品や植物の苗、
DIY 商品など)、利益率の高いプライベートブランド商品を多くの顧客に売り込んでいくこ
とが必要になるだろう。
3. ステップ 2:安全性分析
3-1. 連結キャッシュ・フロー計算書の分析
次にこのステップ 2 では安全性分析を行う。まず、資金調達、投資・財務活動の状況を
知るために両社のキャッシュ・フロー計算書を見る。
8 / 17
図表 3-1
コメリ・ナフコ両社の連結キャッシュ・フロー計算書
(単位:百万円)
連結キャッシュ・フロー計算書
Ⅰ営業活動によるキャッシュ・フロー
Ⅱ投資活動によるキャッシュ・フロー
定期預金の純増減額
有形固定資産の取得による支出
有形固定資産の売却による収入
無形固定資産の取得による支出
固定資産の除却による支出
投資有価証券の取得による支出
投資有価証券の売却による収入
敷金及び保証金の差入による支出
敷金及び保証金の回収による収入
敷金及び保証金の純増減額
投資その他の資産の増減額
その他
投資活動によるキャッシュ・フロー合計
Ⅲ財務活動によるキャッシュ・フロー
短期借入金の純増減額
長期借入れによる収入
長期借入金の返済による支出
リース債務の返済による支出
株式の発行による収入
自己株式の取得による支出
自己株式の処分による収入
配当金の支払額
財務活動によるキャッシュ・フロー合計
Ⅳ現金及び現金同等物の増減額
Ⅴ現金及び現金同等物の期首残高
新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額
Ⅵ現金及び現金同等物の期末残高
コメリ
2,009
2,010
13,130
19,928
54
14,531
25
-375
0
-2
7,955
2
-550
-
-664
-231
-257
-14,528
-48
-8,317
10,460
-2,970
-4,745
-2,869
-4,036
-3,166
-1,337
0
-1,761
-252
-1,650
9,665
23
8,038
-325
-1,739
-12,238
-627
8,038
7,410
(単位:百万円)
ナフコ
2,009
2,010
6,794
12,242
-8,644
650
-8,874
0
0
-426
0
-358
76
-12
-7
-180
127
56
-629
-8,988
-8,549
3,200
1,800
-2,312
-113
22
0
579
4,000
-2,752
-555
11
-
-937
1,658
-535
12,825
-982
299
3,991
12,290
12,290
16,281
図表 3-1 のコメリ、ナフコの連結キャッシュ・フロー計算書をみる。まず、営業活動のキ
ャッシュ・フローでは 2010 年にコメリは 199 億円、ナフコは 122 億円の収入があったこ
とが分かる。コメリ、ナフコともに 2009 年と比べ営業活動による収入が増加していること
が分かる。次に投資活動によるキャッシュ・フローを見る。コメリは、店舗の新設に伴う
有形固定資産の取得による支出が 2009 年に 145 億 28 百万円、2010 年に 79 億 55 百万円
と大半を占める。ナフコも同じく、新規出店などで有形固定資産の取得による支出が 2009
年は 86 億 44 百万円、2010 年は 88 億 74100 万円と大半を占める。このことからも、両社
は店舗の新規出店に力を入れていることが分かる。
次に財務活動によるキャッシュ・フローを見る。コメリは 2009 年のみ短期借入金が増加
している。主な支出としては、長期借入金の返済による支出、自己株式の取得による支出、
リース債務の返済による支出である。一方、ナフコは収入として 2009 年、2010 年ともに
長期借入金による収入が見られる。主な支出としては長期借入金の返済による支出、リー
9 / 17
ス債務の返済による支出が見られる。リース債務とは主に設備投資に必要な資金の調達を
目的とした債務のことである。
3-2. 短期支払能力
図表 3-2
流動比率の推移
図表 3-3
(単位:%)
当座比率 (単位:%)
まずは短期支払能力を判断する指標である流動比率と当座比率を見る。図表 3-2 の流動比
率は流動負債を流動資産で割ったもの、図表 3-3 の当座比率は当座資産(ここでは現預金、
売掛金、受取手形)を流動資産で割ったものである。流動比率、当座比率ともにナフコが
コメリよりも高い水準にある。よって、短期支払能力はナフコのほうがコメリより優れて
いると言える。流動比率でいえば、コメリは 100%を下回り、ナフコも 120%程度のため、
安全とされる 200%には届いていない。
当座比率は 2006 年と比べ、
コメリは 2010 年に 18%、
ナフコは 34%と上がってはきているものの、安全とされる 100%には程遠い数字である。
3-3. 長期支払能力
図表 3-4
自己資本比率 (単位:%)
図表 3-5
10 / 17
固定長期適合率
(単位:%)
次に長期支払能力を測るための指標である、自己資本比率と固定長期適合率を見る。図
表 3-4 の自己資本比率はステップ 1 で見た財務レバレッジの逆数となっていることが分か
る。こちらはナフコが 60%近い水準をキープしている。一方、コメリは、50%を下回り、
40%近い水準にある。よって、自己資本比率で見たとき、ナフコのほうがコメリよりも高
い割合で自己資本を保有しているため、より安全だと言える。
次に、図表 3-5 の固定長期適合率を見る。これは、固定資産を(自己資本+固定負債)で
割ったもので、固定資産を長期的な負債でカバーできるかどうかを見るための指標である。
こちらもナフコが 100%を下回り、理想的な水準にあると言える。コメリは 100%を上回り、
ナフコと比べると安全とは言えない。コメリは固定負債が減り、店舗の新規出店が増え、
固定資産が増加しているためであると言える。
3-4. インタレスト・カバレッジ・レシオ
図表 3-6
インタレスト・カバレッジ・レシオ
(単位:倍)
これまでみてきた安全性の指標は、貸借対照表上のデータであったが、図表 3-6 のインタ
レスト・カバレッジ・レシオは損益計算書上のデータを用いる。インタレスト・カバレッ
ジ・レシオは支払わなければならない利息の何倍稼いでいるかを見るための指標で、
(営業
利益+受取利息+受取配当金)÷支払利息という式で表される。ナフコ、コメリともに 2009
年までは下降傾向だったが、2010 年には上昇している。ナフコが 2006 年から 2010 年まで
コメリより高い水準を維持している。2009 年まではコメリ、ナフコともに営業利益が減る
一方で、支払利息が増えたことによるものである。
3-5. 安全性分析のまとめ
格付けに関しては株式会社日本格付研究所(JCR)、ムーディーズ、スタンダード・アンド・
プアーズの 3 社の Web サイトから探したものの、
見つけることができなかった。そのため、
ここでは格付けによる評価は行わない。
ここまで安全性を見てきた結果、ナフコがどの指標でも一貫してコメリを上回っている
11 / 17
ことが分かった。ナフコはコメリと比べ負債、とりわけ流動負債が少ないことが大きな要
因である。自己資本比率が高いように、自己資本をうまく活用して設備投資や新規出店を
行っている。一方、コメリの固定負債は減ってきてはいるものの、流動負債が多く、資金
繰りに苦労していると考えられる。
4. ステップ 3:効率性・生産性分析
4-1. 総資本回転率を分解しての分析
これまで収益性、安全性という指標を見てきた。しかし、いくら収益性や安全性が高く
とも効率的に資産の有効活用ができていなければ、本当に収益性が高いとは言えない。こ
こでは、総資本回転率、棚卸資産回転率、売上債権回転率、有形固定資産回転率、投資そ
の他の資産回転率の 5 つの指標を見ることで両社の効率性分析を行う。
図表 2-9
総資本回転率の推移
(単位:回) (再出)
2 のステップ 1 で見た図表 2-9 の総資本回転率をここでは棚卸資産回転率、売上債権回転
率、有形固定資産回転率、投資その他の資産回転率の 4 つに分解して分析していく。
図表 4-1
棚卸資産回転率の推移
(単位:回)
12 / 17
図表 4-2
売上債権回転率
(単位:回)
図表 4-1 の棚卸資産回転率は売上高を棚卸資産(ここでは商品及び製品、貯蔵品及び原材
料)で割ったものである。2006 年から 2010 年までは両社ともほぼ横ばいである。これは、
両社ともに売上高の増加と同じ割合で棚卸資産が増えているためである。棚卸資産回転率
ではナフコがコメリを一貫して上回っている。次に図表 4-2 の売上債権回転率を見る。売上
債権回転率は売上高を売上債権(ここでは受取手形及び売掛金)で割ったものである。コメリ
は 2006 年から 2008 年にかけて売上債権回転率が落ち込んでいることが分かる。これは、
売上高の伸びに比べて売上債権の伸びが大きいことが原因である。
図表 4-3 有形固定資産回転率の推移
(単位:回) 図表 4-4
投資その他の資産回転率
(単位:回)
次に図表 4-3 の有形固定資産回転率を見る。コメリ、ナフコともに有形固定資産回転率が
減少傾向にある。これは売上高の伸び以上に有形固定資産が増えているためである。
最後に図表 4-4 の投資その他の資産回転率を見る。2006 年にはナフコがコメリを上回っ
ていたが、2007 年以降はコメリがナフコをずっと上回っている。コメリの投資その他の資
産の中でも、主に投資有価証券と差入保証金・敷金が減少している。
4-2. 効率性・生産性分析のまとめ
ここまで総資本回転率を分解し、棚卸資産回転率、売上債権回転率、有形固定資産回転
率、投資その他の資産回転率を見てきた。効率性の観点からいえば、ナフコは棚卸資産回
転率、売上債権回転率がコメリを上回っていた。コメリは投資その他の資産回転率のみナ
フコを上回っていた。有形固定資産回転率は両社ともほぼ互角であった。よって、効率性
ではナフコのほうがややコメリを上回っていると言える。
コメリ、ナフコ両社とも新規出店を行っている。それだけではなく、経営効率の悪い店
の閉店を進め、効率性を上げる努力も行っている。しかし、実際には数字として成果があ
まりあがっていない。どの指標もほぼ横ばいであった。両社ともより一層効率性を上げる
工夫、もしくは新規出店が相次いだため、有形固定資産の取得による支出が増えたことか
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ら、収益をある程度上げるまでの時間が必要になるだろう。
5. ステップ 4:成長性分析
5-1. コメリ、ナフコの成長性の推移
図表 5-1
コメリの成長性の推移
(2006 年=100)
図表 5-2
コメリの成長性の推移(2006 年=100)
成長性はコメリ、ナフコの総資本、株主資本、売上高、営業利益の各数値について 2006
年を 100 としたときの趨勢を示している。図表 5-1 のコメリの成長性を見ると、コメリは
総資本、株主資本、売上高は徐々に伸びてきているが、営業利益は伸び悩んでいる。売上
高が右肩上がりに伸びているので、一見すると順調に成長しているようだが、本業、すな
わちホームセンター事業では苦戦を強いられている。営業利益が横ばいに推移しているこ
とで顕著に表れている。
図表 5-2 のナフコの成長性を見るとナフコは徐々にではあるが、総資本、株主資本、売上
高が成長している。ナフコもコメリと同じように営業利益が伸び悩んでいる。原因として
地代家賃と販売費および一般管理費が増加していることが挙げられる。また、2009 年には
営業利益が大きく減少した。
5-2. 成長性のまとめ
ここまでコメリとナフコの成長性を見てきたが、両社ともいかに営業利益を上げるかが
今後成長していくための鍵となっている。ホームセンター業界は灯油など原油だけでなく、
原材料の高騰が資材などの製品の価格に直接影響してくる。よって植物の苗などの園芸用
品やプライベートブランド商品などの利益率の高い商品を売っていくことが業績を上げて
いくために必要になるだろう。また、ほかの小売業との価格競争もあるため、いかに利益
率の高く、気候などの影響を受けづらい商品を多く売るかが両社とも成長していくうえで
重要となるだろう。
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6. ステップ 5:グループ経営分析
ここからはコメリのみグループ経営分析を行う。なお、前述のとおりコメリはホーム
センター事業の売上高、営業利益及び資産の金額は全セグメントの売上合計、営業利益合
計及び資産合計のいずれも 90%超であるために有価証券報告書では事業の種類別セグメン
ト情報が省略されている。よって、連単倍率分析のみ行う。
図表 6-1
2006
1.21
1.23
1.33
1.30
10
総資本
売上高
営業利益
当期純利益
連結子会社数
2007
1.12
1.08
1.25
1.11
8
2008
1.09
1.07
1.25
1.22
8
2009
1.09
1.07
1.32
1.32
8
2010
1.06
1.02
1.28
1.15
9
コメリは連結子会社として物流事業の北星産業㈱やクレジット業務の㈱コメリキャピタ
ルがある。図表 6-1 のコメリの連単倍率の推移をみると、総資本、売上高、営業利益、当期
純利益のすべての指標が 2006 年と比べ 2010 年には下がっている。このことからコメリは
親会社、すなわちホームセンター事業に力を入れていることが分かる。
ほかの事業を行わない理由は、2 つ考えられる。コメリだけではなく、他のホームセンタ
ーの業態をとる企業にも言えるだろう。1 つ目に、ホームセンター業界が拡大した歴史とし
ては総合スーパーが効率性の面から日用品などを切り捨てたことがある。つまり、ほかの
企業が行わなくなった事業に入り込んだことから、現在ではホームセンター業界の企業は
ホームセンター以外の事業を行いにくい環境にあると考えられる。
2 つ目にコメリだけでなく、各企業がドミナント化を進めていることが考えられる。多く
の企業がチェーンストアのグローバル・スタンダードを目指している最中にあり、新規店
舗の出店を増やしている。まだホームセンターのチェーンストアのビジネスモデルを作り
上げる中で、さらに新規事業を立ち上げることはまだ行わないと考えているのであろう。
7. 総合評価に代えて
7-1. 株価・PBR・PER の分析
図表
7-1
両 社 の 株 価 と PBR ・
図表 7-2
PER(2010 年 8 月 27 日時点)
株価(円)
PBR(倍)
PER(倍)
コメリ
1977
0.96
15.64
ナフコ
1295
0.38
6.37
コメリ
ナフコ
両社の PER の推移
2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
26.90 21.65 15.33 15.22 19.27
21.70 13.81
6.22
7.08
8.42
(図表 7-1 は Yahoo!ファイナンス http://finance.yahoo.co.jp/ をもとに筆者作成)
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分析の最後にコメリ、ナフコ両社の PBR(株価純資産倍率)と PER(株価収益率)について
見る。図表 7-1 を見ると、コメリの PBR は 0.96 倍で 1 倍を割り込んでいる。ナフコの PBR
は 0.38 倍と、1 倍を大きく割り込んでいる。
また、図表 7-1 よりコメリの PER は 15.64 倍、ナフコの PER は 6.37 倍である。コメリ
のほうがナフコよりも PER が高く、成長性・収益性の高い会社と言える。図表 7-2 より、
PER が 2009 年は低くなったが 2010 年には回復したように、図表 1-4,1-5 で見た営業利益
の動きと対応していると言える。
7-2. 各分析についてのまとめ
ここまで収益性、安全性、効率性、成長性を見てきた。収益性は両社ともほぼ互角であ
った。しかし、安全性では負債の少ないことがあり、ナフコがコメリを大きく上回ってい
た。効率性では、ナフコがコメリを少しではあるが上回っていた。成長性は両社とも営業
利益以外では右肩上がりに推移していた。市場の評価である株式については PBR、PER で
コメリがナフコを大きく上回っていた。
コメリ、ナフコのどちらが優れているかで言えば安全性、効率性の観点からしてナフコ
であると思われる。両社とも店舗の新規出店を進めているが、より効率的に収益を上げて
いるのはナフコであろう。理由としては、1 つ目に店舗数がコメリと比べて圧倒的に少ない
ことにある。はじめに見たように、コメリは 949 店舗もあるが、ナフコは 246 店舗とコメ
リと比べて 700 店舗も少ない。しかし、2009 年に一度落ち込んだ事業利益を回復させるな
ど、底力がある。2 つめに、扱う商品である。ナフコはコメリと異なり、家具を多く取り扱
うために、円高による影響が大きく出るのではないかと思われる。このことが収益性に影
響し、利益を大きく上げると考える。よってコメリと収益性、成長性の面で差をつけるの
だろう。以上の 2 点から、ナフコのほうがコメリよりも優れていると考える。
最後に両社の努力すべきこととしては、収益性・安全性をより高めることである。両社
とも新規出店、店舗の増床を行いながらも不採算店の閉店も行っている。設備投資を行っ
た分をこれから回収することになるのだが、そのためにも高い収益性が必要となる。特に
コメリは自己資本の割合を高め、安全性をより高めなければならない。
7-3. 今後の動向
ホームセンター業界全体でみれば、売上高は季節性の商品(灯油など)の売れ行きが悪い年
があるなど、やや伸び悩んでいる状況にある。ホームセンター業界ではニトリのみ営業利
益がずば抜けて多いため、各社は利益率をより高めることが必要になる。
コメリ、ナフコの両社の今後の動向として考えられることは、3 つある。1 つは円高が両
社の業績に影響してくると考えられる。両社は海外から輸入した商品(家具など)を取り扱う
ため、最近進んでいる円高により両社の仕入れコストが下がり、利益率が上がることが考
えられる。
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2 つ目に、季節性の高い商品を多く取り扱うため、冷夏や暖冬などの気候条件に大きく影
響されてしまう。これに対応するためには両社とも通年で発売するプライベートブランド
(以下 PB)商品の品揃えの充実をさせると思われる。PB 商品は価格が安く、製造は中国など
のコストの低い国で行っているため、利益率が高いのが特徴である。実際に「ナフコは売
上高の 5%程度が PB だが、軍手や長靴など通年で売り上げが見込める売れ筋商品に絞り込
んでいる。
」(2010 年 8 月 24 日 日本経済新聞 地方経済面 九州沖縄経済)とある。1-4
のところで述べたように、コメリも PB 商品の「コメリセレクト」を拡充し、気候条件に影
響されない商品を多く作っていき、利益率を高める戦略をとると思われる。
3 つ目に、両社とも経営効率を高めるための不採算店の閉店、店舗の新規出店、既存店舗
の業態変更を積極的に進めていくと考えられる。コメリ、ナフコ両社ともにこれら 3 つの
ことを行い、より地域に根ざした顧客満足度・サービスの向上を目指している。特にコメ
リは九州への進出に力を入れ、次年度には九州の店舗数が 100 店舗を超す勢いである。ナ
フコは店舗の新規出店こそ少ないものの、経営効率改善のための閉店や既存店舗の業態変
更を進めている。以上のことから、業績自体は 2010 年には売上高や事業利益は上がってい
るので、両社ともに今後も継続しての不採算店の閉店、店舗の新規出店、既存店舗の業態
変更を行っていくと思われる。
<参考文献>
伊藤邦雄 「ゼミナール現代会計入門」 第 8 版 日本経済新聞社 2010 年
一橋総合研究所 「2010 年版 図解革命! 業界地図 最新ダイジェスト」
高橋書店
2010 年
株式会社コメリ Web サイト http://www.komeri.bit.or.jp/ 2010 年 8 月 29 日参照
株式会社ナフコ Web サイト http://www.nafco.tv/top/index.html
2010 年 8 月 29 日参照
Yahoo!ファイナンス http://finance.yahoo.co.jp/ 2010 年 8 月 29 日参照
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