長崎大学病院 グランドラウンド 「糖尿病薬、さて、どれ使う?」 内分泌・代謝内科(第一内科) 阿比留教生 6月10日(水) 7階シミュレーションセンター 2型糖尿病病態を考えるための 二つの基本軸 1. 2型糖尿病の病態軸 インスリン作用障害(抵抗性)と分泌障害 2. 2型糖尿病の時間軸 食後高血糖と空腹時高血糖 2型糖尿病の病態軸 インスリン作用障害(抵抗性)と分泌障害 環境(運動不足・肥満) 糖毒性・脂肪毒性 インスリン抵抗性 高血糖 遺伝 インスリン分泌障害 環境 (高脂肪食、他) 糖毒性・脂肪毒性 2型糖尿病 の発症 インスリン分泌障害の推移 正常者 2型糖尿病素因 初期反応の低下 インスリン分泌は、上がって→下がる?? 境界型 軽症 遅延分泌の上昇 中度~重度 インスリン分泌全体の低下 2型糖尿病の時間軸 正常 食事 軽症糖尿病 食事 血糖値 食後高血糖 血糖値 進行した糖尿病 食事 空腹時高血糖 血糖値 インスリン抵抗性 インスリン 肝細胞 インスリン 脂肪細胞 インスリン 筋肉細胞 インスリンの標的細胞と作用 肝臓 糖放出抑制 グリコーゲン合成 ブドウ糖 イ ン ス リ ン 骨格筋 末梢組織の糖取り込み グリコーゲン合成 中性脂肪合成 脂肪組織 2型糖尿病患者の自然歴 食後高血糖 空腹時高血糖(DM診断) インスリン抵抗性の増大 β細胞機能不全の進行 膵β細胞の代償性分泌亢進 病態に合わせた経口血糖降下薬の選択 経口血糖降下薬 2型糖尿病の病態 インスリン抵抗性 増大 インスリン 分泌能低下 糖 毒 性 インスリン作用不足 高 血 糖 食後高血糖 空腹時高血糖 イ ン ス リ ン 抵改 抗善 性系 イ ン ス リ ン促 分進 泌系 糖排 吸泄 収調 ・節 系 種 類 主な作用 ビグアナイド薬 肝臓での糖新生の抑制 チアゾリジン薬 骨格筋・肝臓での インスリン感受性の改善 スルホニル尿素薬 インスリン分泌の促進 速効型インスリ ン分泌促進薬 より速やかなインスリン分泌 の促進・食後高血糖の改善 DPP-4阻害薬 血糖依存性のインスリン分泌 促進とグルカゴン分泌抑制 α-グルコシダーゼ 阻害薬 炭水化物の吸収遅延・ 食後高血糖の改善 SGLT2阻害薬 腎での再吸収阻害による 尿中ブドウ糖排泄促進 日本糖尿病学会 編 2014-2015 糖尿病治療ガイド 歴史を振り返ろう 年号 SU薬 1960 1957 トルブタミド 1959 クロルプロパミド 1970 1971 グリベンクラミド インスリン分泌促進系 インスリン抵抗性 改善系 ビグアナイド薬 1961 メトホルミン α-GI 1980 1993 アカルボース 1984 グリクラジド 1990 1994 ボグリボース グリニド薬 2000 糖吸収・排泄 調節系 2000 グリメピリド ビグアナイド薬復活 チアゾリジン薬 1999 ナテグリニド 1997 トログリタゾン(発売中止) 1999 ビオグリタゾン 2006 ミグリトール 2004 ミチグリニド DPP-4 阻害薬 2010 2011 レパグリニド 2009 シタグリプチン 2010 ビルダグリプチン アログリプチン 2011 リナグリプチン 2012 テネリグリプチン アナグリプチン 2013 サキサグリプチン SGLT2阻害薬 2014 イプラグリフロジン ダパグリフロジン ルセオグリフロジン トホグリフロジン カナグリフロジン 2015 エンパグリフロジン 糖尿病治療薬のサイエンス(南山堂)P2改変 その昔、よく診ていた2型糖尿病症例. 45歳男性 (今は60歳) 母が糖尿病 大学教授 30歳台まで、身長172㎝ 体重は、60kg前後 35歳台、運動量が減り、65kgとなった。 40歳、健診で、尿糖陽性を指摘、その他異常なし。 42歳、体重が67kgで糖尿病診断。SU剤を開始する。血糖コントロールが 不良であり、43歳からも、 αグルコシダーゼ0.6mg3Xを開始するもHbA1c (JDS)は8 %前後. 44歳、糖尿病神経障害、早期腎症出現し、インスリン導入 SU至上主義 20世紀までの糖尿病薬物治療 高血糖 BG & TZD SU insulin a-GI インスリン分泌:代償性増 加 第1期 非代償性 分泌低下 高度分泌不全 第2期 第3期 第4期 ここ20年間、激増する2型糖尿病症例. 55歳男性 20歳から30歳台まで、格闘技など運動量は多かった。体重は、65kg 40歳台、運動量が減り、75kgとなった。 48歳、77kgとなり健診で、尿糖陽性、中性脂肪高値、肝機能異常を指摘。 50歳、78kgとなり糖尿病診断、SU薬、メトホルミンにてHbA1c8.5%前後。 本年2月、近医2週間入院。食事療法・運動療法を開始 0.5kgの体重減少で、退院したが、血糖コントロール良好で推移。 Bさん入院前後の経過 BG SU薬 200 禁酒 10 入院 HbA1c 150 8 100 6 50 4 0 2 AST ALT γGTP 20歳~30歳 脂肪蓄積は、皮下脂肪と少しの内臓脂肪 65㎏ イ ン ス リ ン 抵 抗 性 1 2 3 4 5 6 イ ン ス リ ン 分 泌 β細胞 40歳台 内臓脂肪蓄積が進行 でも余裕あり 1 75㎏ イ ン ス リ ン 抵 抗 性 過 剰 な 分 泌 2 3 4 5 6 7 イ ン ス リ ン 分 泌 8 β細胞 48歳 メタボへ突入 内臓脂肪蓄積があふれ、 肝臓・筋肉に脂肪が沈着 食後高血糖 異所性脂肪 糖 糖 1 2 77㎏ 糖 分 泌 不 足 3 イ ン ス リ ン 抵 抗 性 4 イ ン 5 ス リ 6 ン 分 7 食後高血糖の裏に、脂肪肝、脂肪筋あり 泌 8 9 10 脂肪肝 50歳 糖尿病発症 異所性脂肪 糖 糖 全身臓器に脂肪が浸潤 機能障害(膵β細胞も) 糖 糖 高血糖毒性 糖 糖 糖糖 糖 糖 1 糖 糖 糖 糖 2 78㎏ 3 イ 4 ン 空腹時高血糖の裏に異所性脂肪・高血糖毒性あり ス 5 リ ン 6 抵 抗 7 性 8 9 分 泌 不 足 イ ン ス リ ン 分 泌 10 NASH 11 β細胞機能不全 容量減少 わずかに脂肪を燃焼する食事・運動療法は、 2型糖尿病の特効薬! 78㎏ 77.5㎏ 1 異所性脂肪 特効薬! 2 イ ン ス リ ン 抵 抗 性 3 4 5 6 7 8 9 イ ン イ ス ン リ 食事・運動 ス ン リ 抵 ン 抗 分 性 泌 1 2 4 5 6 7 10 8 11 9 β細胞機能不全 NASH イ ン ス リ ン 分 泌 3 β細胞機能回復 肝機能(ALT)正常化 UKPDS 2000年からの、糖尿病治療薬選択 インスリン抵抗性勢力拡大 PROACTIVE 高血糖 BG & TZD BG & TZD SU insulin a-GI インスリン分泌:代償性増加 第1期 非代償性 分泌低下 高度分泌不全 第2期 第3期 第4期 ビグアナイド復活の理由! -39% メトホルミン療法によるlegacy effect -UKPDS- 強化療法群におけるリスク低下 複合エンドポイント 糖尿病関連の全エンドポイント (Any diabetes related endpoint) 細小血管症 (Microvascular disease) 心筋梗塞 (Myocardial infarction) 総死亡 (Death from any cause) RRR(relative risk reduction);相対リスク低下 2007年 1997年 (試験終了時) (試験終了10年後a) ) RRR: p値: 32% 0.0023 21% 0.013 RRR: p値: 29% 0.19 16% 0.31 RRR: p値: 39% 0.010 33% 0.005 RRR: p値: 36% 0.011 27% 0.002 log-rank検定 (vs 従来療法群) a)試験終了後の追跡期間8.5年(中央値) Holman RR, et al: N Engl J Med 359, 1577-1589, 2008 (UKPDS80)より作成 ビグアナイド薬の多彩な作用機序 メトホルミン グルカゴン adenylate cyclase 受容体 ATP AMP蓄積 ミトコンドリア 呼吸鎖の抑制 cAMP PKA AMPK↑ 糖新生↓ 筋、脂肪の糖取り込み↑ Miller RA,Nature. 2013 494(7436):256-60. ビグアナイド薬の作用機序 1 2 1 イ ン ス リ ン 抵 抗 性 2 3 4 4 5 5 6 76 7 8 9 8 9 1010 NASH 3 1111 分 泌 不 足 イ ン ス リ ン 分 泌 β細胞機能不全 ピオグリタゾンの作用機序 内臓脂肪 脂肪沈着 チアゾリジン誘導体 PPARg 善玉:アディポネクチン 悪玉: FFA, TNF-a ↑ エネルギー流入 ↓ 皮下脂肪 肥満と浮腫・心不全に要注意! 脂肪沈着 ピオグリタゾンの作用機序 異所性脂肪 1 イ イ ン ン ス ス リ リ ン ン 抵 抵 抗 抗 性 性 NASH 2 1 3 2 4 3 5 4 6 5 7 6 8 79 8 10 9 11 分 泌 不 足 イ イ ン ン ス ス リ リ ン ン 分 分 泌 泌 β細胞機能不全 心血管疾患ハイリスクT2DMアクトスの心血管イベント抑制効果 全症例(n=5,238) Hard MACE4) 1) Endpoint 0 イ ベ ン 10 ト 減 少 20 率 ( 対 30 プ ラ セ 40 ボ ) 50 総死亡 心筋梗塞 脳卒中 心血管死 心筋梗塞 脳卒中 16% 18% p=0.027 p=0.02 心筋梗塞 既往例2) 脳卒中 既往例3) CKD* 合併例5) (n=2,445) (n=984) (n=597) 脳卒中 総死亡 心筋梗塞 脳卒中 致死性・ 急 性 非致死性 心筋梗塞 冠症候群 28% p=0.045 37% 34% p=0.035 p<0.05 1) Dormandy J.A.:Lancet,366,1279,2005. 2) Erdmann E.:J Am. Coll. Cardiol.,49,1772.2007. 3) Wilcox R.:Stroke,38,865,2007. 4) Wilcox R.:Am. Heart J. published online 21 Jan.2008. 5) Schneider C.E.:J.Am.Soc.Nephrol.,19,182,2008. 47% p=0.008 *:糸球体濾過量(GFR) <60mL/min/1.73m2 DECODE 2000以降の糖尿病薬物治療#2 食後高血糖の独立 舟形研究 食後高血糖 空腹時高血糖 BG & TZD SU SU グリニド insulin a-GI インスリン分泌:代償性増加 第1期 非代償性 分泌低下 高度分泌不全 第2期 第3期 第4期 食後血糖が高いと心死亡リスクが上昇する DECODA ハザード比 4 線形トレンド p<0.001 3 線形トレンド NS 2 1.05 3.39 1.27 0.88 1.0 1.0 1 0 -110 110~125 -126 空腹時血糖値 (負荷2時間血糖を補正) -140 140~199 -200 (mg/dL) 2時間血糖値 (空腹時血糖を補正) DECODA Studyのうち舟形町住民、日系米人、日系ブラジル人を含む5つのコホート 6,817名を5年間追跡し、 観察開始時点の75gOGTTにおける血糖判定区分と心血管疾患による死亡リスクを検討した。 Nakagami T. and the DECODA Study Group:Diabetologia,47,385,2004より作図. 食後高血糖の治療戦略 グリニド α-GI 血糖 インスリン ★血糖上昇とインスリン上昇のタイミングを合わせる ・ゆっくり食事する(スローフード) ・α-グルコシダーゼ阻害薬 ・最初に食物繊維を十分に摂取(糖質制限食) ・グリニド系薬 (速効型インスリン分泌促進薬) 河盛隆造 (順天堂大学・内科):実験と治療、674、70-73、2004.より一部改変 ACCORD Study 25 ( ) 累 積 イ ベ ン ト 発 症 率 % 全死亡 20 ハザード比 95%信頼区間 P値 1.22 1.01-1.46 0.04 15 強化療法 10 5 標準療法 0 0 1 2 3 4 5 6 観察期間(年) 「低血糖・体重増加について」 強化療法群 N=5,128 標準療法群 N=5,123 P Value 低血糖 医学的介入が必要 538(10.5%) 179(3.5) <0.001 1,399(27.8%) 713(14.1%) <0.001 体重 10kg以上増加 3㎏の体重増加と30%の低血糖増加は QALY(quality adjusted life year)を0.356低下させる 0.4 糖尿病合併症がもたらす不利益 2型糖尿病の場合 患 合併症なし 者 -0.035 一 0.2 人 あ 合併症あり 0.1 た 脳卒中 心不全 り -0.167 -0.200 0 の Q -0.1 A L 腎不全 失明 Y -0.2 -0.200 -0.160 の 変 -0.3 化 0.3 -3kg -2kg -1kg 0kg +1kg +2kg +3kg +10% +30% +20% 0% -10% -20% -30% -0.4 足の潰瘍 -0.170 心筋梗塞 -0.180 数値はDisutility 米国の研究資料をもとに作成 P. McEwan et al, Diabete, Obesity and Metabolism; 12: 431-436; 2010 “血糖の質”質のよいHbA1c 血 糖 値 HbA1C:7.5% 血 糖 値 HbA1C:7.5% 時 間 Del Prato S:Int. J. Obesity,26(Suppl3),S9-S17,2002. DPP-4阻害薬 Non-peptidomimetic Peptidomimetic(基質類似) F OH Vildagliptin N 分子式: C17H25N3O2 分子量: 303.4 NC Sitagliptin NH2 O N N 分子式: C16H15F6N5O N H O F N N F 分子量: 407.32 CF3 CH3 N Alogliptin N Teneligliptin N CN N 分子量: 339.39 N 分子式: C22H30N6OS NH2 N O S 分子量: 426.58 N N H O CH3 N H3C N 分子量: 383.45 NC O Saxagliptin H N 分子式: C19H25N7O2 CH3 N N H Anagliptin 分子式: C25H28N8O2 N O CH3 Linagliptin 分子量: 472.54 O N N N CH3 O NH2 N N N N CH3 OH N 分子式: C18H25N3O2 分子量: 315.41 分子式: C18H21N5O2 N O H3C NC NH2 O Nabeno M, Kadowaki T, et al. Biochem Biophys Res Commun 2013; DPP4阻害薬の作用機序 小腸 小腸 食物 食物 L細胞 L細胞 分泌 DPP-4 分泌 DPP-4阻害剤 DPP-4を阻害し GLP-1の分解を抑制 GLP-1 GLP-1受容体 β細胞 DPP-4により 数秒で分解 α細胞 インスリン分泌促進 グルカゴン分泌抑制 血糖依存的 落合慈之(監):糖尿病・代謝・栄養疾患ビジュアルブック,学研 2010,p34 第Ⅲ相長期投与試験 DPP4阻害薬の長期における血糖コントロール (%) 8.4 ビルダグリプチン50mg1日2回(n=103) HbA1c※ 7.9 長期効果が 期待できる 7.4 6.9 mean±S.E. 6.4 -2 0 2 4 8 12 16 24 32 投与期間 40 52 最終 (週) 評価 対象:2型糖尿病患者 [食事療法または食事療法・運動療法で血糖コントロールが十分に得られていない(HbA1c※6.9%~10.5%)患者]103例 方法:ビルダグリプチン50mg1日2回、52週間投与した。 ※HbA1cはNGSP値で表記した。 (承認時評価資料) 菊池方利ほか: 新薬と臨牀 59(2), 137-154, 2010 36 第Ⅲ相長期投与試験 DPP4阻害薬の長期にわたる体重の変化 (kg) 74 ビルダグリプチン50mg1日2回(n=103) 72 70 体 重 68 66 64 体重増加を きたしにくい! 62 mean±S.E. 60 -2 0 2 4 8 12 16 20 24 28 投与期間 32 36 40 44 48 52 最終 (週) 評価 対象:2型糖尿病患者 [食事療法または食事療法・運動療法で血糖コントロールが十分に得られていない(HbA1c※6.9%~10.5%)患者]103例 方法:ビルダグリプチン50mg1日2回、52週間投与した。 ※HbA1cはNGSP値で表記した。 37 承認時評価資料より引用 スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬の QALY(quality adjusted life year)への影響 0.250 0.215 0.200 0.150 患 者 一 人 あ た り の Q A L Y の 変 化 0.100 0.129 0.100 0.087 0.087 HbA1c 0.050 低血糖 体重 0.000 -0.001 -0.050 -0.100 -0.001 上記3つの複合 -0.030 -0.035 -0.044 -0.096 -0.129 -0.150 SU薬 チアゾリジン薬 DPP-4阻害薬 P. McEwan et al, Diabete, Obesity and Metabolism; 12: 431-436; 2010 ~DPP4阻害薬の登場で何がかわったのか?~ Impact! ◎ DPP4阻害薬は長期効果が期待できる ◎ DPP4阻害薬は低血糖や体重増加のリスクが低い ◎ DPP4阻害薬のAdd-onにより、強力に血糖を改善させる Question? ◎ DPP4阻害薬の長期安全性 ◎ DPP4阻害薬による心血管イベント抑制効果(EXAMINE, SAVOR ) ◎ 各DPP4阻害薬間の、効果・安全性の相違 2010年以降、劇的に変化した糖尿病薬物治療 質の良いHbA1c (低血糖・体重増加の少ない治療選択) ACCORDE ADVANCE 食後高血糖 空腹時高血糖 BG & TZD DPP-4 グリニド グリニド インスリン分泌:代償性増加 第1期 insulin DPP-4 SU GLP-1 SU a-GI a-GI 非代償性 分泌低下 高度分泌不全 第2期 第3期 第4期 腎臓はグルコース調節において重要な役割を担う グルコース恒常性 正味 ~0g/日 グルコース取り込み ~250g/日 グルコース消費 ~250g/日 ・食事からの摂取 ~180g/日 ・グルコース生成 ~70g/日 -糖新生 -グリコーゲン分解 ・脳 ~125g/日 ・その他の部分 ~125g/日 濾過されるグルコース ~180g/日 グルコース再吸収 ~180g/日 グルコース再吸収 Wright EM, et al.: J Intern Med. 261(1): 32-43, 2007一部改変 41 Marsenic O.: Am J Kidney Dis. 53(5): 875-883, 2009一部改変 2014年 糖尿病治療の新たな展開 1835年 リンゴの樹皮からフロリジン同定 。 1886年 フロリジンの尿糖排泄促進効果報告。 1990年代 フロリジンの欠点 1994年 リンゴの実は、かじるな! 糖尿病モデル動物でのフロリジンの抗糖尿病効果証明 ◎血糖低下 ◎糖毒性の軽減 消化管からの吸収が悪く経口投与に不向き SGLT2及びSGLT1を非選択的に阻害 ヒトのSGLT2遺伝子同定(金井好克氏、現大阪大学教授) 1998年~ フロリジン誘導体 T-1095 消化管からの吸収が良く経口投与が可能に SGLT2及びSGLT1を非選択的に阻害 2002年~ 腎性糖尿の原因遺伝子としてSGLT2遺伝子 選択的SGLT2阻害剤の開発 C-glycosideタイプSGLT2阻害剤の開発の歴史 フロリジンの改良 (O-glycosideタイプ) T-1095 フロリジン(天然物) :O-glycoside C-glycosideタイプの開発 Ipragliflozin SGLT2選択的 問題点 経口吸収性なし 非選択的(SGLT1も阻害) 作用時間短い アグリコンであるフロレチンの GLUT阻害作用 Luseogliflozin Sergliflozin 経口吸収性改善 (プロドラッグ化) GLUT阻害作用なし 経口吸収性改善(プロドラッグ化不要) SGLT2選択性向上 長時間作用 GLUT阻害作用なし Ehrenkranz JR. et al: Diabetes Metab Res Rev 21(1), 31-38, 2005 Fujimori Y. et al: J Pharmacol Exp Ther 327(1), 268-276, 2008 Oku A. et al: Diabetes 48(9), 1794-1800, 1999 Han S. et al: Diabetes 57(6), 1723-1729, 2008 SGLT2 SGLT1の役割とSGLT2選択性 SGLT2 SGLT1 部位 ほぼすべてが腎臓に発現 主に小腸に発現しているが、 腎臓、脳、心臓にも発現 糖特異性 グルコース グルコース、ガラクトース グルコースに対する親和性 (Km値) 低い(2mM) 高い(0.4mM) 役割 腎臓でのグルコース再吸収 食事摂取によるグルコースの吸収 腎臓でのグルコース再吸収 20倍 LX4211 ~200倍 ヒトSGLT2選択性 vs SGLT1 Ipragliflozin Canagliflozin > 1,000倍 Luseogliflozin Empagliflozin Dapagliflozin EGT-1442 Ertugliflozin Tofogliflozin Wright EM, et al.: Am J Physiol Renal Physiol. 280(1) F10-F18, 2001 44 Wright EM, et al.: J Intern Med. 261(1): 32-43, 2007 腎での糖再吸収と血糖 血管 腎糸球体 近位尿細管 S1 SGLT2阻害剤 心臓 血管 160g グルコース (血糖) S2 グルコース再吸収 SGLT2 遠位尿細管 S3 :グルコース 20g SGLT1 80g 糸球体で濾過された グルコースは、腎臓の 尿細管で再吸収される 腎臓 膀胱 ヘンレ係蹄 100g尿糖 #45 尿管 集合管 再吸収しきれない 糖が排泄(尿糖) 海外第Ⅲ相臨床試験 -アジア人試験(MB102054) SGLT-2阻害薬服用後の膵β細胞機能の回復 (HOMA-2%Sで算出) (ANCOVA) 11.69(95%Cl:6.44,16.95) 20 ベースラインからの 膵β細胞機能変化量 9.44(95%Cl:4.13,14.74) 15 10 10.49 12.74 5 1.05 0 -5 ベースライン (Mean±SD) 56.9±30.5 プラセボ (n=114) 53.9±25.0 56.1±22.9 5mg群 10mg群 (n=113) (n=109) Dapagliflozin 対 象:食事及び運動による血糖コントロールが不十分な18歳以上のアジア人2型糖尿病患者393例 方 法:無作為化プラセボ対照並行群間比較多施設共同二重盲検試験。対象患者をフォシーガ 5mg群、10mg群、プラセボ群に無作為に割付け、治験薬を 開始24週後における膵β細胞機能(HOMA-2%Sで算出)の調整済み平均変化量を検討した。 安全性:有害事象の発現率は、フォシーガ 5mg群61.7%(79/128例)、フォシーガ 10mg群60.9%(81/133例)、プラセボ群63.6%(84/132例)であった。 1日1回、24週間投与し、投与 Ji L, et al.: Clin Ther. 36(1): 84-100, 2014 海外第Ⅲ相臨床試験 -アジア人試験(MB102054) SGLT-2阻害薬服用後のインスリン感受性の回復 (HOMA-2%Sで算出) 15.64(95%Cl:10.01,21.27) (ANCOVA) 20 ベースラインからの インスリン感受性変化 量 10.20(95%Cl:4.48,15.92) 15 15.48 10 10.05 5 0 -0.16 -5 ベースライン (Mean±SD) 56.9±30.5 プラセボ (n=114) 53.9±25.0 56.1±22.9 5mg群 10mg群 (n=113) (n=109) Dapagliflozin 対 象:食事及び運動による血糖コントロールが不十分な18歳以上のアジア人2型糖尿病患者393例 方 法:無作為化プラセボ対照並行群間比較多施設共同二重盲検試験。対象患者をフォシーガ 5mg群、10mg群、プラセボ群に無作為に割付け、治験薬を 開始24週後におけるインスリン感受性(HOMA-2%Sで算出)の調整済み平均変化量を検討した。 安全性:有害事象の発現率は、フォシーガ 5mg群61.7%(79/128例)、フォシーガ 10mg群60.9%(81/133例)、プラセボ群63.6%(84/132例)であった。 1日1回、24週間投与し、投与 Ji L, et al.: Clin Ther. 36(1): 84-100, 2014 SGLT2阻害剤がもたらす影響 概念図 末梢組織への 糖取り込み増加 末梢組織への 糖取り込み低下 肝糖放出の増加 膵インスリン分泌能 の低下 β細胞機能の 保護? インスリン抵抗性 高血糖 腎尿細管からのグルコース再吸収阻害 尿中グルコース排泄 カロリー喪失 空腹時血糖値の低下 耐糖能の改善 HbA1c低下 体重減少 糖毒性の低減 Idris, I. et al: Diabetes. Obes. Metab. 11(2), 79-88, 2009 SGLT2阻害薬の作用機序 異所性脂肪 糖 糖 イ ン ス リ ン 抵イ 抗ン 性ス リ ン 抵 抗 性 高血糖毒性 糖 糖 糖 糖 糖 糖 1 糖 2 31 42 53 64 7 5 8 6 97 18 09 11 糖 糖 糖 糖 糖 分 SGLT2阻害薬 泌 不 イ足 ン ス リ ンイ 分ン 泌ス リ ン 分 泌 選択的SGLT2阻害薬 Empagliflozin Phlorizin Luseogliflozin Tofogliflozin Ipragliflozin Dapagliflozin Canagliflozin 2型糖尿病患者を対象とした臨床薬理試験 ルセオグリフロジンによる1日尿糖排泄量 (g) プラセボ (n=8) ルセオグリフロジン0.5mg (n=7) ルセオグリフロジン2.5mg (n=8) ルセオグリフロジン5mg (n=8) 140 ルセオグリフロジン1mg (n=8) 129 129 120 120 117 a) 1 100 日 尿 80 糖 排 60 泄 量 40 93.8 86.9 76.5 74.4 28.0 27.3 20 0 投与1日目 投与7日目 急速効果が 期待できる 最小二乗平均値 a)投与前日の1日尿糖排泄量を共変量とした。 対 象:2型糖尿病患者40例 方 法:対象患者にルセオグリフロジン0.5mg、1mg、2.5mg、5mgまたはプラセボを1日1回朝食直前に7日間反復経口投与したときの尿糖排泄作用を検討した。 安全性:副作用の発現は、 0.5mg群で8例中1例(12.5%)に便秘が認められた。 ルセフィ錠の【用法・用量】 通常、成人にはルセオグリフロジンとして2.5mgを1日1回朝食前又は朝食後に経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら5mg1日1回に増量することができる。 承認時評価資料(2型糖尿病患者を対象とした臨床薬理試験) 第Ⅲ相単剤長期投与試験 SGLT2阻害薬のHbA1c低下の長期効果 HbA1c 変化量の推移 (%) 投与52週におけるHbA1cの変化量 ルセオグリフロジン2.5mg群※(n=299) 0.5 (%) ベ ー 0 ス ラ イ ン か -0.5 ら の HbA1c 変 -1.0 化 量 * * * * -1.5 024 * * * * * * * * * * 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 (週) ベ ー ス ラ イ ン か ら の HbA1c 変 化 量 ルセオグリフロジン2.5mg群※ (n=279) [7.67±0.66] ベースライン 0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4 -0.50 (-0.6, -0.4) -0.5 * -0.6 投与期間 平均値±S.D. *p<0.001(vs. ベースライン) 、1標本t検定 ※投与24週にルセオグリフロジンに5mgに増量した症例を含む 平均値(両側95%CI) ベースラインは[平均値±S.D.] *p<0.001(vs. ベースライン) 、1標本t検定 ※投与24週にルセオグリフロジンに5mgに増量した症例を含む 長期効果が 期待できる 対 象: 食事・運動療法にて血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者299例 方 法: 対象患者にルセオグリフロジン2.5mgを1日1回朝食前に52週間経口投与し、各種評価を行った。ただし、投与後16週および20週時のHbA1c(JDS値)が 7.0%以上(NGSP値として7.4%に相当)、かつ増量しても安全性に問題がないと判断した場合に、24週時に5mgへの増量を可とした。 安全性: ルセオグリフロジン2.5mg群※における副作用の発現率は16.7%(50/299例)で、主な副作用は、便秘、頻尿各9例(3.0%)、口渇5例(1.7%)、尿中β2ミクログロブリン増 加、低血糖症各4例(1.3%)、尿中アルブミン陽性、血中ケトン体増加各3例(1.0%)であった。 承認時評価資料(単剤長期投与試験) 第Ⅲ相単剤長期投与試験 SGLT2阻害薬の体重変化量の推移 ベースラインからの体重変化量の推移 投与24週および52週における体重の変化量 ルセオグリフロジン2.5mg群※[69.5(n=299)] (kg) ルセオグリフロジン2.5mg群[69.48±14.01(n=299)] ベースライン 平均値±SD [ベースライン 平均値] (kg) 0 ベ ー ス -1.0 ラ イ ン か ら -2.0 の 体 重 の -3.0 変 化 量 -4.0 * * * * * * * * * * 02 4 (ベースライン) 8 * * * * 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52(週) 平均値±SE *: p<0.05(vs. ベースライン)、1標本t 検定 ※投与24週にルセオグリフロジン5mgへ増量した症例を含む。 投与24週(n=290) 投与52週(n=279)※ 0 ベ ー ス ラ -1 イ ン か ら の 体 重 -2 の 変 化 量 -1.91 (-2.1, -1.7) * -2.68 (-2.9, -2.4) * -3 平均値(両側95%CI) *: p<0.001(vs. ベースライン)、1標本t 検定 ※投与24週にルセオグリフロジン5mgへ増量した症例を含む。 体重を減少 させる! 対 象: 食事・運動療法にて血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者299例 方 法: 対象患者にルセオグリフロジン2.5mgを1日1回朝食前に52週間経口投与し、各種評価を行った。ただし、投与後16週および20週時のHbA1c(JDS値)が7.0%以上 (NGSP値として7.4%に相当)、かつ増量しても安全性に問題がないと判断した場合に、24週時に5mgへの増量を可とした。 安全性: ルセオグリフロジン2.5mg群※における副作用の発現率は16.7%(50/299例)で、主な副作用は、便秘、頻尿各9例(3.0%)、口渇5例(1.7%)、尿中β2ミクログロブリ ン増加、低血糖症各4例(1.3%)、尿中アルブミン陽性、血中ケトン体増加各3例(1.0%)であった。 承認時評価資料(単剤長期投与試験) SGLT2阻害薬による有害事象 ■低血糖 ■脱水・熱中症 ■脳梗塞・心血管イベント ■皮膚関連事象 ■尿路感染症・性器感染症 SGLT2阻害薬開始3か月間の有害事象 SGLT2i verseus DPP4i different SGLT2i D Yabe et al. Expert Opinion on Drug Safety 2015 14, (6) 795-800 Recommendation ① SU 薬等インスリン分泌促進薬やインスリンと併用する場合には、低血糖 に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。患者 にも低血糖に関する教育を十分行うこと。 ② 高齢者への投与は、慎重に適応を考えたうえで開始する。発売から3ヶ月 間に65歳以上の患者に投与する場合には、全例登録すること。 ③ 脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬 との併用は推奨されない。 ④ 発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れない ような場合(シックデイ)には休薬する。 ⑤ 本剤投与後、皮疹・紅斑などが認められた場合には速やかに投与を中止し、 副作用報告を行うこと。 ⑥ 尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努める こと。問診では質問紙の活用も推奨される。 ⑦ 原則として、本剤は他に2剤程度までの併用が当面推奨される。 日本糖尿病学会ホームページ『SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation』 http://www.jds.or.jp/common/fckeditor/editor/filemanager/connectors/php/transfer.php?file=/uid000025_7265636F6D6D656E646174696F6E5F53474C54322E706466 脱水回避のポイント 投与の際は脱水に注意が必要である。 特に高齢者では自覚症状もなく注意が必要である。 脱水や脳梗塞を回避するために、夏場は多めの水を飲んでもらう。 1) 決まった時間(2~3時間に1回)に水分補給を行う。2) 一度に大量の水を飲まないようにする(消化器、心臓、腎臓への負担となる)。 2) スポーツドリンクは血糖上昇につながるので気をつける。 3) コーヒーや緑茶は利尿作用があるのでできれば避ける。 2)3) 夜間の排尿を避ける目的で水分を摂取を控えないようにする。 2)4) 感染症による発熱、嘔吐、下痢のときも脱水に注意する。 5) 57 1)循環器病情報サービス < http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph36.html#anchor-6> 2)医療法人社団福仁会 国分寺南町診療所<http://www.geocities.jp/chgham/html/water.html> 3)糖尿病ネットワーク<http://www.dm-net.co.jp/calendar/2011/011704.php> 4)かくれ脱水JOURNAL <http://www.kakuredassui.jp/step1> 5)かくれ脱水JOURNAL<http://www.kakuredassui.jp/virus1> どのような患者さんにSGLT2阻害薬を使うのか? 血糖コントロール 適度な体重減少 脂質の改善 血圧の低下 Add-on効果 体液量減少 急激な体重減少 尿路・性器感染症 早期心血管イベン トの危険性 BMI 25 20歳 65歳 年齢 熊本宣言 2013 血糖コントロール指標と評価 コントロール目標値 注1) 目 標 HbA1c (%) 血糖正常化を 目指す際の目標 合併症予防 のための目標 6.0未満 7.0未満 注4) 注2) 注3) 治療強化が 困難な際の目標 8.0未満 治療目標は年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定する。 BANDYチャート(改) HbA1c>9.0% →Insulin HbA1c7.0-9.0% or GADAb(+) BMI < 22-23 BMI > 22-23 DPP-4 阻害薬 BG 2T→4T→6T ⇒MAX 漸増 メトグルコ A1c> 7 DPP-4 + 阻害薬 アマリール 0.5-2mg グリミクロン 20-40mg + 少量SU + アクトス メトグルコ + グリニド/aGI +SGLT2 阻害剤 A1c> 7.5 アクトス ♂ 15-30mg ♀ 7.5-15mg BOT 強化インスリン GLP1RA A1c> 8 Basal+GLP1RA A1c> 7.5 福井県済生会病院 番度行弘先生提供 一部改編
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