特 集 21 世紀の糖尿病治療の最新戦略 —糖尿病の診断基準と治療薬選択指針— 12 特 集 21 世紀の糖尿病治療の最新戦略 —糖尿病の診断基準と治療薬選択指針— 2 型糖尿病の最新治療 戦略と併用療法の指針 山崎勝也 1),浦風雅春 2),戸邉一之 3) 1)川井クリニック 副院長 2)かみいち総合病院 副院長,内科部長,糖尿病センター長 3)富山大学医学部 第一内科 教授 単剤の経口血糖降下薬で血糖コントロールが治療目標に達しない場合,あるいは単剤での経過中に血糖コン トロールが不良な場合に併用療法が検討される.しかし,併用を考える前に,食事療法・運動療法を見直し, 再指導を行い,服薬アドヒアランスの確認,他疾患の合併などを精査しておくことは重要である. 実際に併用療法を行う際には,経口血糖降下薬の特徴を理解し,併用のメリットとデメリットを考えること が必要である.とくにインスリン分泌促進薬と膵外作用を有する経口血糖降下薬を併用することにより,内因 性のインスリンを有効に利用することで膵臓のβ細胞への負荷の軽減を図ることは重要である. コントロール不良のまま,漫然と投薬継続することのないよう,各々の薬剤の特性を理解して併用することで, よりよい血糖コントロールを目指すことが重要である. それに最近発売された DPP-4 阻害薬の 6 種類に分類され はじめに る( 図1 )1).それらはそれぞれ異なった作用機序を有し, 患者の病態・病期に応じた選択が必要である.経口血糖 降下薬の単剤での使用で,血糖コントロールが不十分な 2 型糖尿病患者でもインスリン抵抗性が強くインスリン 場合,併用療法が考慮される. 分泌能の保たれているものから,インスリン分泌能の低下 しているものまでさまざまな病態を呈する.2 型糖尿病に おいてもインスリンの絶対的適応として,ケトーシスを呈す るようなインスリン依存状態や糖尿病昏睡,糖尿病合併妊 併用療法の考え方 娠があり,インスリンの相対的適応として,重篤な感染症, 全身麻酔下の外科手術,重篤な肝障害・腎障害などがあ 単剤の経口血糖降下薬で血糖コントロールが治療目標 る.インスリン分泌能がある程度保たれているインスリン に達しない場合, あるいは単剤での経過中に血糖コントロー 非依存状態では,まず食事療法,運動療法を中心とする ルが不良な場合に併用療法が検討される.その薬剤選択 ライフスタイルの改善が行われ,それによる改善が不十分 には,単剤での血糖コントロール状況やその作用機序など な場合,経口血糖降下薬が使用される.現在使用できる を考慮して,追加する薬剤を選択する( 経口血糖降下薬はスルフォニル尿素(SU)薬,α- グルコシ に,インスリン分泌促進薬である SU 薬を単純に増量する ダーゼ阻害(α- GI)薬,速効型インスリン分泌促進(ナテグ ことは,膵臓のβ細胞への負荷となり,一時的には血糖 リニド)薬,ビグアナイド(BG)薬,チアゾリジン(TZD)薬, コントロールの改善を認めるが,長期的にはインスリン分 110 ◆ MEDICINAL 2011/10 Vol.1 No.1 図2 )2).とく 12 2 型糖尿病の最新治療戦略と併用療法の指針 2型糖尿病の病態 + インスリン作用不足 インスリン 分泌促進薬 糖毒性 インスリン 分泌能低下 インスリン 抵抗性改善薬 インスリン抵抗性 増大 経口血糖降下薬 食後高血糖 改善薬 高血糖 主な作用 ビグアナイド薬 肝臓での糖新生の抑制 チアゾリジン薬 骨格筋・肝臓での インスリン感受性の改善 DPP-4阻害薬 血糖依存性のインスリン 分泌促進とグルカゴン分 泌抑制 スルホニル尿素薬 インスリン分泌の促進 食後高血糖 空腹時高血糖 種 類 速効型インスリン 分泌促進薬 より速やかなインスリン 分泌の促進・食後高血糖 の改善 α-グルコシダーゼ 炭水化物の吸収遅延・ 阻害薬 食後高血糖の改善 図1 併用可能な主な組み合わせ 病態に合わせた経口血糖降下薬の選択 2 型糖尿病の発症因子と病態 経口血糖降下薬 インスリン抵抗性改善薬 インスリン抵抗性増大 ・チアゾリジン薬 ・ビグアナイド薬 インスリン分泌促進薬 インスリン分泌能低下 インスリン作用不足 食後高血糖 空腹時高血糖 DPP-4 阻害薬 高血糖 糖吸収遅延薬 ・α-Gl 糖毒性 ・SU 薬 ・速効型インスリン分泌促進薬 + 図 2 経口血糖降下薬の併用 作用機序の異なる薬剤の組み合わせは有効と考え られるが,一部の薬剤では有効性および安全性が 確立していない組み合わせもある.詳細は各薬剤の 添付文書を参照のこと. 泌を疲弊させることになり,血糖コントロールが悪化する が提唱されている.これらは欧米の 2 型糖尿病に対して作 2 次無効を認めることも多い.そこで膵外作用を有する経 成されており,インスリン分泌能の低い日本人では単純に 口血糖降下薬を併用することにより,内因性のインスリン あてはめられないが,日本人でも近年増加している,肥満 を有効に利用することで膵臓のβ細胞への負荷を軽減でき を伴って発症した 2 型糖尿病では参考になると考える. る.また,膵外作用薬はインスリン分泌促進薬との併用だ 糖尿病専門医が参加している糖尿病データマネジメン けでなく,作用機序の異なる膵外作用薬の併用による効果 ト研究会の報告では,経口血糖降下薬の単剤療法が約 も報告されており,低血糖予防,インスリン分泌能保持が 37%,インスリン単独療法が約 20%で,併用療法が 40% 期待される. 以上に行われていた( 併用療法のガイドラインは日本では確立されたものがな 療法では,SU 薬+ BG 薬の併用が最も多く,次に SU 薬 いが,欧米では,ADA/EASD コンセンサスステートメント +α -GI 薬,SU 薬+ BG 薬+α -GI 薬,SU 薬+ BG 薬+ ( 図3 3) ) とAACE/ACEコンセンサスステートメント ( 図4 4) ) 図5 )5).経口血糖降下薬の併用 TZD 薬,SU 薬+ TZD 薬の併用が多かった ( 図6 )5). MEDICINAL 2011/10 Vol.1 No.1 ◆ 111
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