新規顧客の獲得にはネットの活用も手段の一つである ~~成功事例の中から学ぶべきこと~~ 財団法人 北陸経済研究所 主任研究員 小谷 元 洋 概略 このレポートでは、統計的に全国の電子商 円高が製造業の空洞化を招くといわれて久 取引の現状を明らかにするとともに、北陸地 しい。北陸地域の企業の中にも市場を求めて 域の現状をアンケート調査をもとに明らかに 海外へ進出する製造業も多い。海外へ進出す した。 ることも企業防衛の一つの手段ではあるが、 さらに、北陸地域の先進事例として、中小 国内に留まって市場を開拓することはできな 企業 IT 経営力大賞(経済産業省主催)やネッ いのかがこのレポートの出発点である。 トショップコンテスト北陸( (財)石川県産業 現代において、企業間取引はホームページ 創出支援機構、(財)富山県新世紀産業機構、(公 やブログ、フェイスブック、ツイッターなど 財)ふくい産業支援センター共催)などに入賞経 の Web サイトを利用することがマーケティン 験のある企業にその成功例、失敗例などをうか グにおける中心的な役割を果たしつつある。 がった。当該企業は、規模的に決して大きいと 企業のブランド構築、顧客からのコンタクト はいえない。むしろ中小企業でも規模の小さい を引き出すことなどが、マーケティング・ツ 企業に分類されるかもしれない。小さくても、 ールとしての代表的な役割だといえる。新規 現状打破のために挑んだネット取引に活路を見 顧客の獲得、売上の増加、海外進出しなくて 出してきた。 も取引が継続できるために、Web サイトを利 ホームページを持つことはハローページに 用できないかどうかを考えたのが、このレポ 企業名を掲載することと同じようにとらえる ートである。 企業が多くなっている。そしてホームページ こんな製品を作りたいと思ったら何をする の作り方次第では、そこから新たな顧客を獲 だろう。地元の商工会議所や商工会に行って 得できる時代になっている。既存の取引先が 企業を探すかもしれない。取引銀行に行って 海外に生産拠点を求めてしまった現在、ネッ 仕入れ先、販売先の企業を紹介してもらうか ト取引で成功した中小企業の生き残りを賭け もしれない。しかし、現在は、ネットで検索 た行動の過程の中から、今後の中小企業のネ する時代でもある。時代の変化に合わせて自 ットを活用した生き方のヒントを見出してい 社の情報発信を変えなければ取り残されてい きたい。 くかもしれないのである。 -- 1 1.インターネット利用の現状 表1 なっている。安価で容易にインターネットの常 時接続が可能になったことが大きく伸ばしてい インターネットを利用した 電子商取引の有無 る要因であろうと思われるが、まだまだ活発に 電子商取引の実施 行 行 無 っ っ 回 て て 答 い い る な い 回 答 数 割 合 (%) 35.4 64.1 平 全 体 成 [産業分類] 1 建設業 4 年 製造業 平 成 2 2 年 差 異 18.4 80.4 37.9 62.0 卸売・小売業、飲食店 42.0 57.0 回 答 数 割 合 (%) 全 体 49.4 48.6 [産業分類] 建設業 37.5 60.8 製造業 48.2 49.6 卸売・小売業 59.4 37.7 回 答 数 割 合 (%) 全 体 14.0 ▲ 15.5 [産業分類] 建設業 19.1 ▲ 19.6 製造業 10.3 ▲ 12.4 卸売・小売業 17.4 ▲ 19.3 電子商取引を行っているとは言い難い。 (2)中小企業における電子商取引の現状 中小企業庁が毎年実施している「中小企業実 0.6 態基本調査」から見ると、中小企業(法人企業) 1.2 0.1 1.0 では、平成 22 年度に電子商取引を行った企業は、 2.0 じ)、個別業種では、卸売業が 15.1%(11.1%)、 1.7 2.2 2.9 小売業が 13.7%(11.5%)に対して、製造業が 1.4 0.5 2.1 1.9 全体では 9.2%(平成 15 年度 8.8% 以下同 9.9%(9.2%)、建設業が 5.8%(6.0%)とな った。平成 15 年度から平成 22 年度にかけては、 卸売業、小売業で電子商取引を実施した企業数 の割合が増加しているのに対し、製造業では微 増、建設業では微減となっている。導入してい (資料:通信利用動向調査 (総務省) ) る企業の中では、実施企業の中で年間売上高に ☆電子商取引 電子商取引(Electronic commerce)とは、インターネッ トや特定顧客用の専用線といったコンピュータネットワーク上で の電子的な情報通信によって商品やサービスを分配した り売買したりすることをいう。 ☆通信利用動向調査 世帯(全体・構成員)及び企業を対象とし、統計法に 基づく一般統計調査として平成 2 年から毎年実施(企 業調査は、平成5年に追加し平成 6年を除き毎年実 施。世帯構成員調査は、平成 1 年から実施)している。 占 め る 電 子 商 取 引 の 割 合 は 、「 年 間 売 上 高 の 5%未満」としたのが、建設業で 33.4%(12.2%)、 製造業で 50.0%(34.7%)と増加している。調 達・仕入活動において電子商取引を導入してい ない企業は、建設業で平成 15 年度の 51.4%か ら 35.9%に、製造業で同 47.6%から 35.8%へ と減少している。 表1をご覧いただきたい。インターネットを 利用した電子商取引の有無である。ほぼ消費者 相手の業界と言ってよい卸売・小売業では、電 子商取引を行っている企業は、平成 22 年には平 成 14 年と比較して+17.4%ポイントの 59.4% となり、過半数の企業で何らかの形で電子商取 引を行っている。一方、企業相手が多いと思わ れ る 製 造業 で は、 同 じく + 10.3% ポ イン ト の 48.2%、建設業で+19.1%ポイントの 37.5%と -2- ☆中小企業実態基本調査 中小企業を巡る経営環境の変化を踏まえ、中小企 業全般に共通する財務情報、経営情報及び設備投資 動向等を把握するため、中小企業全般の経営等の実 態を明らかにし、中小企業施策の企画・立案のため の基礎資料を提供するとともに、中小企業関連統計 の 基本 情報 を提供 する ため のデー タ収 集を 行う こ とを目的としている。 総務省が実施している「事業所・企業統計調査(基 幹統計)」の結果をもとに、中小企業約 420 万社の 中から約 11 万社を選出している。業種に応じて資 本 金お よび 従業者 数に それ ぞれ上 限が 定め られ て おり、公正に選出した企業について調査している。 2.北陸3県における現状 図2 電子商取引の有無(業種別) 図3 電子商取引の有無(県別) 北陸経済研究所が平成 24 年6月に実施した 企業経営動向調査の中で、北陸の電子商取引の 現状を調査した。 企業経営動向調査の概要 目 的 : 北陸の企業における半期ごとの業 況など動向調査 法 : 郵送によるアンケート調査 期 : 平成24年6月上旬 調 査 対 象 先 : 北陸3県内の主要企業 : 592社(金融、保険業を除く) 有 効 回 答 数 : 298社(回答率50.3%) 調 調 査 査 方 時 回 答 企 業 の 内 訳 : (産業別) 製 建 造 設 業 業 157 社 36 卸 ・ 小 売 業 49 サービス 業ほか (規模別) 大 企 業 56 69 中 (地区別) 富 小 山 企 業 県 229 153 石 福 川 井 県 県 86 56 そ の 他 3 (1)電子商取引の実施の有無 全体(図1)では、36.4%が電子商取引を導 入している。規模別では、大企業で 46.2%、中 小企業では 33.3%が電子商取引を導入してい る。業種別(図2)製造業で 35.8%、建設業で 福井県で 27.5%が電子商取引を導入している。 30.3 % 、 卸 小 売 業 で 40.0 % 、 サ ー ビ ス 業 で ただ、企業経営動向調査の対象となった中小 38.8%が電子商取引を導入している。県別(図 企業の従業者規模別回答状況(表2)を見ても 3)では、富山県で 36.2%、石川県で 40.0%、 分かるように、福井県では、中小企業と言って 図1 電子商取引の有無(規模別) も従業者規模がある程度大きい企業(100 人以 上)の回答に影響されたことが考えられる。100 人未満の企業がもっと多く調査対象となってい れば、この結果に変化があったことも考えられ る。 表2 中小企業における 県別従業者規模別回答状況 (単位:%) 従業者数 富山県 石川県 福井県 -3- ~10人 未満 2.7 1.5 4.3 ~30人 未満 13.4 13.4 13.0 ~50人 ~100人 未満 未満 19.6 31.3 13.4 37.3 15.2 15.2 100人 以上 33.0 34.3 52.2 (2)実施開始時期 占めるものの、「5%未満」が 39.4%、「10%以 「電子商取引を実施した」と回答した企業9 上」が 14.1%となった。 9社にその時期を聞いたところ(表3)、「平成 表5 10 年」と回答した 10 社と最も多い。しかし、5 件数 年単位で見ると、平成 10~14 年が 20 社、15~ 電子商取引を導入しているが調達または仕入れ 実績がなかった 19 年が 21 社、20~24 年が 28 社と比較的最近に なって電子商取引を始めた会社が多い。 表3 電子商取引開始時期(無回答 30 社除く) 電子商取引 実施開始時期 平成10年 平成11年 平成12年 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 社数 10 0 2 0 8 6 2 4 電子商取引 実施開始時期 平成18年 平成19年 平成20年 平成21年 平成22年 平成23年 平成24年 総合計 社数 4 5 9 2 7 7 3 69 年間調達額・年間仕入金額に 電子商取引が占める割合 (%) 7 7.1 年間調達額または年間仕入金額の5%未満 39 39.4 年間調達額または年間仕入金額5%以上~ 10%未満 6 6.1 年間調達額または年間仕入金額の10%以上 14 14.1 調達仕入活動においては電子商取引を導入し ていない 27 27.3 無回答 6 6.1 (合計) 99 (5)その他の事業活動の電子商取引 「その他の事業活動における電子商取引」で 【電子商取引を実施した企業について】 は(表6)、「その他の事業活動には電子商取引 (3)年間売上高に占める割合 を導入していない」が 53.5%と過半数、「配送、 年間売上高に占める電子商取引の割合(表4) または手配」が 31.3%となった。 は、「5%未満」が 40.4%と最も多く、ついで 表6 その他の事業活動における電子商取引 件数 「10%以上」が 24.2%となっている。まだまだ 普及の余地はある。 表4 年間売上高に電子商取引が占める割合 件数 電子商取引を導入しているが、売上高実績がな かった 年間売上高の5%未満 6 6.1 40 40.4 年間売上高の5%以上~10%未満 14 14.1 年間売上高の10%以上 24 24.2 売上に係る部分では電子商取引を導入していな い 14 14.1 無回答 1 1.0 (合計) 99 31 31.3 アフターサービスにおいて電子商取引を行った 1 1.0 10 10.1 53 53.5 無回答 4 4.0 (合計) 99 上記、1、2以外の事業活動において電子商取 引を行った その他の企業活動において電子商取引を導入 していない (%) (%) 配送または手配において電子商取引を行った 【電子商取引を実施しなかった企業について】 (6)実施しなかった理由 「電子商取引を実施しなかった」と回答した 53 社にその理由を聞いたところ(表7、「その (4)年間調達額、年間仕入金額に占める割合 年間調達額または年間仕入金額に占める電子 商取引の割合(表5)は、「調達仕入活動におい ては電子商取引を導入していない」が 27.3%を 他」が最も多く、58.4%となった。記入理由を まとめると、 「必要なし」及びこれに類する文言 を記入した企業が 29 社(17.0%)、「業種として 向かない、なじまない」およびこれに類する文 -4- 表7 3.ネットを使うことによる 電子商取引を実施しなかった理由 (複数回答可) 件数 パソコンなど電子機器に強い人材がいない (%) メリット・デメリット 20 11.6 8 4.6 24 13.9 3 1.7 その他 101 58.4 ①製造工程の IT 化、見える化 無回答 21 12.1 ②営業組織がなくても展開可能 (合計) 173 インターネットやフェイスブックなどわかる人材が いない 前年度はたまたま実施しなかった 以前に実施いていたが、電子商取引を止めた (1)メリット 中小の製造業がネットを利用することのメリ ットは何であろうか。先進企業からの話をまと めると次のようになる。 ③新規先を広域から獲得可能 言を記入した企業が 13 社(7.6%)であった。 ④ニーズ・シーズのマッチング また、「パソコンや電子機器強い人材がいない」 ⑤下請けからの脱却 が 11.6%となった。 ⑥新分野開拓 ⑦ユーザーとの直接取引 (7)電子商取引についての今後 ⑧価格以外の付加価値 電子商取引を実施しなかったと回答した企業 などであろう。 に「今後、どうしようとお考えですか」と聞い これらを、後述する先進企業別にしたのが表 たところ(表8)、「今後とも電子商取引を実施 9である。 する計画・予定はない」との回答が 57.8%と過 表9 半数となった。 表8 ㈱ 小 林 製 作 所 電子商取引の今後の方針 (複数回答可) 件数 (全体)% 今後とも電子商取引を実施する計画・予定はな 100 57.8 い 今後導入予定であり、パソコンなど電子機器に 9 5.2 強い人材を育成中 今後導入予定であり、インターネットやフェイス 4 2.3 ブックなどわかる人材を育成中 今後導入予定であり、外部のITコンサルタントな 5 2.9 どに相談中 その他 40 23.1 無回答 17 9.8 (合計) 173 先進企業における ネット利用のメリット 太 陽 テ ク ノ リ サ ー チ ㈱ ㈱ タ ニ ハ タ 田 安 鉄 工 ㈱ ダ ン ボ ー ル ・ ワ ン ㈱ 西 村 金 属 ㈱ ミ ズ ノ マ シ ナ リ ー 1.製造工程のIT化・見える化 ○ ○ 2.営業組織がなくても展開可能 ○ ○ ○ 3.新規先を広域から獲得可能 ○ ○ ○ ○ 4.ニーズ・シーズのマッチング ○ ○ ○ 5.下請けからの脱却 ○ ○ 6.新分野開拓 ○ 7.ユーザーとの直接取引 ○ ○ ○ ○ ○ 8.価格以外の付加価値 ○ ○ (資料:北陸経済研究所が各社ヒアリングをもとに分類した) (2)デメリット(ネット取引のわな) 製造業共通に言えることは、ネット取引には わなが潜んでいることである。 ①取引相手方の信用調査をどうするか。資金 決済をどうするかである。掛売り 100%で取引 -5- していると、リスクが大きすぎる。顔の見えな 経営形態別では、株式会社が 16 社、有限会社が い相手と信頼関係を築く方法を考えるべきであ 5 社、個人経営が 1 社となった。また、県別で る。商売の王道を外してはならない。 は、富山県が 5 社、石川県が 6 社、福井県が 11 ②HP 制作にしても、システム構築にしてもあ 社となった。資本金の平均(判明した 19 社)は る程度の資金が必要なことである。さらに、自 2338 万円、従業員数の平均(判明した 19 社) 社で行き詰まった時、頼るのは IT コンサルタン は 33 人となった。小売業以外の製造業などでも トであろうが、IT コンサルタントにも優劣があ 応募が可能であり、2 社が該当する。 り、過去に携わった事例を明確に PR していない 場合は要注意だと言われている。 4.北陸の先進事例 ネットショップコンテスト北陸(共催:(財) 石川県産業創出支援機構、(財)富山県新世紀産 業機構 、(公 財)ふくい 産業 支援セ ンタ ー )が 2011 年と 2012 年、2年連続で開催されている。 ここで入賞した 22 社について分析してみると、 表 10 ☆ネットショップコンテスト北陸 北陸3県の中小企業者(個人事業含む)が運営す るネットショップを対象に行うコンテスト。ネッ トショップ運営者や専門家がビジネス活用の観点 から客観的に評価している。 一般消費者向けの販売機能をもつネットショッ プ(販売サイト)であることが応募条件となって いるが、 買い物かご以外でも、注文・予約・見積 依頼などのフォーム機能があれば、旅館・ホテル 業、製造加工業、サービス業、建設業など、物販 を伴わないサイトでも応募可能である。 2012 年度は 224 件の応募があった。 先進事例として紹介する企業の概要 資本金 従業員数 事業内容 主な受賞歴 (50音順) 電子商取引開始時期 売上高など 1000万円 82名 精密板金・組立・塗装・提案型設計 ㈱小林製作所 中小企業IT経営力大賞2012 経済産業大臣賞 ITを利用した生産管理システムを構築 1000万円 2名 環境計量証明 太陽テクノリサーチ㈱ ネットショップコンテスト北陸2012 準グランプリ 2007年 2007年:1000万円、2011年:1億1000万円 2100万円 15名 木製建具、ラティス、間仕切、組子欄間など組子技術を使用した間仕切製作 ㈱タニハタ 中部IT経営力大賞2010 優秀賞 2000年 2011年3月期、9600万円(*) 個人営業 5名 金属修理 田安鉄工 製造業ホームページコンテスト2005 町工場賞 2004年 2004年以前:約2000万円、2004年以降:約3000万円 1000万円 13名 ダンボール製造 ㈱ダンボール・ワン ネットショップコンテスト北陸2012 審査員奨励賞 2005年 2005年:30万円、2011年:1億3000万円(ネットショップのみ) 1500万円 30名 眼鏡部品製造販売 その他精密部品加工 西村金属㈱ 日経ものづくり大賞2007 日経BP特別賞 中小企業IT経営力大賞2012 優秀賞 2003年 2003年:約2億円、2009年:約5億円 3000万円 45名 アルミ精密部品製造、油圧機器部品製造 ㈱ミズノマシナリー 中小企業IT経営力大賞2012 審査委員会奨励賞 2002年度と2010年度の比較 2003年 取引先数:3.6倍、売上高:1.58倍 (*)東京商工リサーチ等の公開データから取得した。 -6- また、中小企業 IT 経営力大賞 2012(主催: の中で生産管理、人の動きまでが映像というデ 経済産業省)には、全国で 180 社応募があり、 ータになっている。製造過程で情報化できる部 23 社が入賞している。そのうち、北陸からは、 分をできるだけ IT を使って見える化すること 大賞(経済産業大臣賞)、優秀賞、審査委員会奨 を極めている企業である。 励賞にそれぞれ 1 社ずつ受賞している。 ・既成概念にとらわれない経営者 ・ホームページは発信、受信の双方の機能 ☆中小企業 IT 経営力大賞 経済産業省が関係機関の共催・協力のもとに主 催する平成 19 年度に創設された表彰制度のこと。 優れた IT 経営を実現し、かつ他の中小企業が IT 経 営 に 取り 組 む際 の 参考 と なる よ う な中 小 企業 や組織に贈られている。 2012 年度は 180 件の応募があり、その中から大 賞(経済産業大臣賞)3社、優秀賞(各共催機関 長賞)10 社、特別賞(中小企業庁長官賞及び商務 情報政策局長賞)4 社及び審査委員会奨励賞 6 社 の合計 23 社が選ばれている。 【太陽テクノリサーチ株式会社 (白山市鹿島平 11-110)】 これらの企業をはじめとして、取材をしてき た。それをまとめたのが表 10 である。ここで、 資本金と従業員数に見ていただきたい。どの企 業も中小企業である。さらに、電子商取引導入 前後の売上高にも注目していただきたい。 労働局より作業環境測定機関の認可を受け石綿(ア スベスト)の事前調査、アスベスト粉じん濃度測定、ア スベスト含有分析などの環境分析及び食品分析を実施 している。昨年は放射能測定も行っている。 2006年、アスベスト検査専門の会社として太陽テク ノリサーチ㈱を設立 2008年に(財)石川県産業創出支援機構主催「革新 的ベンチャービジネスコンテスト」で『優秀起業家賞』 を受賞。2009年に水質検査の受託を開始。精度のよい 水質検査を格安で行える仕組みを作る。 2012年にはネットショップコンテスト北陸2012で審 査員奨励賞受賞。アスベスト分析・測定は、 10000検体以上実施。 起業 1 年目(2007 年 5 月期)の売上は 1000 万円であったが、インターネットでの注文が取 5.北陸の製造業における ネット活用の先進企業(五十音順) 【株式会社小林製作所(白山市水島町 429-17)】 昭和22(1947)年設立。精密板金・組立・塗装・提 案型設計。平成4(1992)年石川ブランド優秀新製品賞 受賞(生産管理ソフトSopaK)。14(2002)社内のコンピ ュータとIT活用が認められ金沢市IT大賞受賞。22(201 0)年中部IT経営力大賞2010最高賞受賞。23(2011)年 「全自動画像コマ撮りシステムSopaK-C」平成23年度石 川ブランド優秀新製品 情報産業部門 金賞受賞 24 (2012)年 中小企業IT経営力大賞 経済産業大臣賞 受賞。 生産管理システムに社内ネットワークを取り込み、 工場内の職員の動きが把握できるようにし、効率化を 図ってきた。このシステムは、遠隔地にある工場につ いても本社で随時にリアルタイムで確認が可能であ り、動線の検証や、紙ベースでは伝わらない技術の伝 承、クレームに対するリスクマネジメントなどにもな っている。この社内の生産管理システムを社外向けに したのが「SopaK-C」である。 もともと製造業であるので、ネットワークと は無縁の世界にいたのであるが、情報化の流れ れるにつれて、売上は増加し、2011 年 5 月期に は 1 億 1000 万円となった企業である。 ・下請けからの脱却 ・双方向の情報発信に努める 【株式会社タニハタ(富山市上赤江町 1-7-3)】 昭和34(1959)年設立。平成10(1998)年11月創造 的企業活動企業認定、14年11月経営革新企業認定、1 7年6月トライアル企業認定。22年『中部IT経営力大 賞2010』で優秀賞受賞。 2006年からインターネット販売を開始し、現在、 全売り上げの9割近くをネット販売が占めることにな る。 当社は、2000 年の春、中国製の当社製品と同 じような製品が 10 分の 1 という価格で入ってき たため、大手小売店から納品打ち切りを宣告さ れ、売上が半減した経験を持つ。このとき、4 -7- 年前に始めた HP であったが、更新していなかっ ダンボールという差別化しにくい製品を差別 たことを反省し、この利用を考えて始めた。 化する手段として HP を開設している。HP から ・HP は、営業マンの 1 人である の受注システムによる受注額は、平成 17(2005) ・販売のノウハウは必要 年度当初は、30 万円の売上しかなかったが、24 ・何を基準にホームページを評価すべきか (2012)年度予想では、1 億 5000 万円を予想し ・ユーザーの細かい要望をすくい上げる ている。売上比率では約 50%がネットでの受注 となっている。 【田安鉄工(福井市北楢原町 13-26)】 ・海外に出るべきか否か 2011年12月期の売上高は約3000万円。工作機械の 下請けと公共事業だけを手掛けていた時代は、約200 0万円で推移。ホームページ作成後5年で約1.5倍の売 上増。 2005年に全国規模の製造業ホームページコンテス ト(ものづくり系ポータルサイト「NCネットワーク」 (会員数17000数以上)主催)で町工場賞を受賞。国 際溶接スペシャリストIWSなどの資格を持つ。 現在はBtoCが9割。8割が県外客となっている。3 年前から自社企画開発商品(バーベキューグリル「i rori」、コンロ「バーベ缶」)を提案。 ・他社との差別化戦略として ・業種によって HP の作り方も異なる ・ダンボールのための営業を嫌う傾向 【西村金属株式会社 (鯖江市丸山町 3 丁目 5-18)】 昭和43(1968)年有限会社西村金属工業所設立。極 少ネジ金具類製造。翌44年、眼鏡用智製造開始。平成 19(2007)年12月、日経ものづくり大賞受賞。平成2 4年2月、23年度中小企業IT経営力大賞ITコーディネー タ協会会長賞受賞。ネット受注からロングテール型 (*)に多品種少量の新規顧客を獲得し、眼鏡部品の 製造からチタン加工製品の製造に事業領域の大きな 転換を果たしている点が評価された。((*)インタ ーネットを利用したネット販売などにおいては、膨大 なアイテム(商品)を低コストで取り扱うことができ るために、ヒット商品の大量販売に依存することな く、ニッチ商品の多品種少量販売によって大きな売り 上げ、利益を得ることができるという経済理論をロン グテール理論という。ロングテール効果、ロングテー ル現象、ロングテール経済、ロングテール市場という 形でも使われる。) 「身近な生活用品の修理で困っている人の需 要が取り込めるのではないかと」2004 年に HP を立ち上げている。HP の一つは「金属修理専門 サイト」として公開している。 ・エンドユーザーとの対話の中から ・商圏は広がった ・技術向上の機会も増加する ・修理だけに終わりたくない ・ホームページが支持される理由 ホームページを導入した前後で売上げを比較 【株式会社ダンボール・ワン すると、ホームページを導入した平成 15(2003) (七尾市下町丁 32-1)】 年の全体の売上は 2 億円だったのが、21 年には 昭和53(1978)年能登紙器㈱設立。平成13(2001) 年大阪営業所のホームページ開設。業界で初めて「オ ーダーメイド」の自動見積」サービス開始。16年、現 在のホームページを開設。17年ホームページをネット ショップ化。21年ホームページをリニューアル サイ ト名を「ダンボール・ワン」に変更。22年ネットショ ップコンテスト石川で138社の中から準グランプリを 獲得。23年能登紙器㈱から㈱ダンボール・ワンに社名 変更。ネットショップコンテスト北陸で196社の中から 第3位受賞。 5 億円まで伸び、23 年事業年度は 4 億 9000 万円 となった。現在では約 20%が地元眼鏡業界から の売上、残り 80%がネットでの売り上げとなっ ている。 ・顧客を創造しなければ先細りする ・シーズとニーズが合致した状況から始まる ・新分野への進出のためにも -8- ・自社の強み、弱みの分析とていねいな発信 ット を使 って 取引 す る とき のメ リッ トの 相関 ・コンテンツ(情報の内容)の充実に注力 関係図である。まず、製造工程の IT 化や・見 える化などでシステムを導入する。そして、ユ 【株式会社ミズノマシナリー ーザーとの直接取引ができること、さらに広域 (富山市婦中町板倉 513-4)】 昭和59年9月設立。アルミ加工/同時5軸/長尺・大 物の機械加工を得意とし、自社製品は持っていない。 中小企業IT経営力大賞2012(主催 経済産業省) で審査委員会奨励賞受賞。新規顧客開拓のために、 ホームページからの技術紹介や、SNSを利用した顧客 との接点拡大を図っている。 になっている。そこから、顧客のニーズを探し 出し、技術に関連していれば、自社のシーズと のマッチングを行い、技術以外のことであれば、 価格 以外 の付 加価 値向 上の 策と し て 経営 に反 生産管理システムにより、受注情報、製造情 報の一元化や関連する図面管理を実現するのに 加え、見積管理データベースや営業管理システ ムなどと連携させ、ネットでの見積もりや早急 な注文への対応を可能とした。さらに、生産現 場でのバーコードリーダーを活用することによ り、進捗状況の見える化を実現している。HP 制 作前後で取引先数、売上高を比較(平成 14 年度 と平成 22 年度)すると先数では 3.6 倍、売上高 で 1.58 倍と増加している。 下請 けか らの 脱却 も可 能と なっ てい るの であ る。 (2)中小企業の社長は何をすればよいのか 決してシステム的な技術を身に付けなければ ならないといっているのではない。評価するに は、いろいろな HP を見て研究することも必要で あろう。Web 担当から出来上がった HP を評価す る必要があるが、その際は自社目線ではなく、 る。 ・想定していなかったニーズの発見 また、社長自身が十分なシステム的な素養を ・IT コンサルタントに委託するならば 有していないならば、社長の HP にかける思いと 資金の保証は明確にしておくべきであろう。 「 IT 6.先進事例からのまとめ リテラシー(情報機器やネットワークを活用し (1)メリットの相関関係 図4をご覧いただきたい。製造業の企業がネ て、情報やデータを取り扱う上で必要となる基 本的な知識や能力)の高い人がやればよい。そ れがたまたま社長であれば社長であろうし、役 メリットの相関関係図 員であれば役員、社員であれば社員が担当する 製造工程のIT化・見える化 ユーザーとの直接取引 映している。その結果、新分野への開拓が進み、 ユーザー目線で使いやすさを評価すべきと考え ・顧客のニーズを HP の中に落とし込む 図4 から 新規 先を 発掘 でき るこ とが 企業 発展 の鍵 新規先を広域から獲得可能 ことでよいのではないか」(㈱アクセスネット 情報技研 ニーズの取り出し (技術) (技術以外) シーズとのマッチング 価格以外の付加価値 新分野の開拓 下請けからの脱却 -9- 代表取締役長棟隆氏)と言う。 6.提言 (1)集客・販促支援業務を行う データベースサイト 工業統計の平成 22 年確報 産業編によれば、 従業者数 10 人以上の事業所では北陸 3 県合計で 全国の 3.8%を占めているのに対し、データベ ースサイト登録社数の割合では、製造業はイプ ロスのデータベースで 1.4%、NC ネットワーク のデータベースでも 2.6%に過ぎない。自社の 技術に自信があるからこそ生き残っている企業 が多いはずである。情報発信のやり方をうまく すれば、更なる商機がつかめるものと思われる。 (2)規模が小さければ小さいほど、危機感が 強ければ強いほど威力を発揮する 事例で取り上げた企業は、ベンチャー企業で あったり、リーマン・ショックなどの影響を受 けて売上高を大幅に落としたりしたところが多 い。すなわち、危機感がばねになって、ネット 取引を成功させている。 円高で取引先が海外に進出し、国内生産を縮 小するとなった時、一緒に海外に進出できるで あろか。体力のある企業であれば可能かもしれ ないが、そこまでの体力がなければ、国内に留 まる方策を考えるであろう。その時、ネット取 引は選択肢としては優先順位が高い。 方によっては為替の変動におびえることなく国 内で商売ができる可能性を残しているのである。 (4)確実な商談のために的確なアドバイスを 「情報発信」というと一見攻めていそうであ るが、実は受け身にならざるを得ない。なぜな らば、どれだけ良い HP を作ったとしても、そこ に訪問してくれる人がいなければ宝の持ち腐れ となるのである。検索して自社の HP に訪問する 技術者のことを想定すると、おそらく製品開発 に切羽詰って、誰かに助言を得たいものと思わ れる。したがって、すでにシーズとニーズがマ ッチし、ここが商談の始まりとなるである。的 確なアドバイスができれば、確実な商談につな がるであろう。また長期にわたる取引ともなる 可能性を秘めている。 (5)アウトソーシング もし、若い後継者や若い社員がいない場合は、 アウトソーシングも考える。技術データベース に登録するとか、IT コーディネータに相談する とかである。ただし、サーチエンジンの検索結 果のページの表示順の上位に自らの Web サイト が表示されることだけをことさら重視するよう なコーディネータとは付き合うべきではない。 おわりに (3)ターゲットを明確にする 国勢調査からみると 国内で働く人の 15%前 後が製品開発などに携わっていると考えられる。 製品開発など、技術情報、製品情報を欲してい る層を考えると、「専門的・技術的職業従事者」 が一番近いかもしれない。やや遠いが「生産工 北陸の製造業、建設業の企業の技術は決して 劣ってはいない。ただ、情報発信が下手なだけ ではないだろうか。自らの技術を発信する術は、 たった 10 年前と比較しても大きく広がってい る。これらを駆使することも必要である。 程・労務作業者」もわずかではあろうが対象に なろう。この層に向けてのマーケティングの仕 -10- 以上
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