第2章 電子材料

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第 2 章 電子材料
2.1
半導体プロセス
半導体素子には多くの種類が有り, それらの製作は種々の製造プロセスを複雑に組み合
わて行われ, そこでは精度 · 再現性の確保が重要である. 基本的な半導体製作プロセスを整
理すると, 薄膜堆積 (多結晶 シリコン層, シリコンエピタキシャル層, SiO2 層, Si-N 層, 金
属電極等), 酸化, 不純物拡散, イオン注入, リソグラフィ−, エッチング等に大別される. 半
導体素子工学は多岐に亘る工学分野の集積から成っているもので, その各分野全てについ
て最先端の技術が常に要求されている.
本実験ではそれらの片鱗を学生実験レベルで習得することを目的とし, 基本的な半導体
プロセスの中から, 半導体素子の基本構造の形成とその電気的特性の測定が可能なものと
して, 金属膜蒸着によるショットキ− (Schottky) 接合形成 について実験を行なう.
[半導体プロセス実験全般の注意と心構え]
薬品や高電圧等危険な要素も沢山あるので実験中は安全に充分注意する必要がある. 半
導体試料は表面状態に極めて敏感であるため, その取扱には細心の注意が必要である. 半導
体試料は絶対に素手で触れてはならない. 従って作業はビニ−ル手袋をし, ピンセット等を
用いて行わなければならない. 半導体プロセス実験は本来, 空気中の塵をフィルタ−で取り
除いたクリ−ンル−ムの中で行うものである. 本格的なクリ−ンル−ムでは, 空気 1 m3 中
の 0.1 µm 以上の大きさの塵の数が 10 個以下にコントロ−ルされている. 通常の部屋では,
これが無人でも 105 個以上であり, 人間が歩行すると 107 個を越える.
[禁止事項]
実験室 (6N-103) 内は土足厳禁である. 必ず実験室前の廊下にある靴箱の専用上履きに履
きかえること. 実験室に入ってからナイロン白衣を着用し, キャップを被ること. 実験室内
は当然のことながら禁煙であり, ガムその他の飲食物も持込みを厳禁する.
[注意事項]
1. 薬品 (酸, アルカリ, 有機溶媒) : これらの薬品を使用する時は必ずゴム手袋, 前掛けと
保護眼鏡を着用すること. 半導体プロセス実験で使用する薬品は人体に有害であり, 皮
膚, 目等への付着を防がねばならない. 酸類は専用ブ−ス内でのみ使用すること. 特に,
弗酸 (HF) は皮膚に付くと骨まで浸み込み, 激痛を伴いながら細胞を破壊する恐ろしい
薬品である.
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第 2 章 電子材料
万̇一̇, 薬品が身体に付着したときは, 直ちに多量の水で洗うこと. 特に目に付着したと
きは, 目専用の水道栓が窓際にあるので, それを使用すること.
2. 不明なことがあるとき, 異常が生じたときは, 必ず直ちに教員に尋ね, 勝手に判断して
行動しないこと. 器具等を破損したり, 装置を故障させたときは, 直ちに報告すること.
2.1. 半導体プロセス
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金属膜蒸着によるショットキ−接合形成
2.1.1
実験目的
1. 半導体素子の 1 例として, ここではショットキー (Schottky) ダイオ−ドを自分で製作
することにより, 材料の処理, 装置の操作, 素子の製造工程等について理解を深める.
2. 試作した Schottky ダイオ−ドについて I–V 特性, C–V 特性, ダイオ−ドの逆方向回
復特性を測定し, 測定結果の検討を通じて Schottky ダイオ−ドの動作原理や素子特性
と製造工程の関係等についての理解を深める.
2.1.2
実験の概要
金属と半導体を接触させると, 双方のフェルミ準位に差がある場合には, フェルミ準位の
差が無くなるまで電子または正孔の移動が起こり, 半導体内部に空間電荷層 (space charge
layer) が生じて障壁 (barrier) が形成される. この障壁の整流特性は多くの場合, 金属 /n 型
半導体接触においては, 金属 (+)/半導体 (−) が順方向となり, 金属 /p 型半導体接触にお
いては, 金属 (−)/半導体 (+) が順方向となる.
障壁は図 2.1 の様な放物線の形となり, 空乏層は半導体の内部に向かってのみ伸びる.
金属側から見た障壁の高さ φB は, 金属の仕事関数 φM と半導体の電子親和力 φS との差
φM − χS に概ね等しく, また半導体側から見た障壁の高さ Vd (拡散電位差と呼ばれる) は
φM と半導体の仕事関数の差に概ね等しい. 金属と半導体の接触によって生ずるこのような
障壁は, その整流特性を最初に解析した人物の名 (Walter Schottky, 1886-1976 独) に因ん
で Schottky 障壁と呼ばれている.
Vd
B
Vf
Au
n
Si
図 2.1 Au - n 型 Si Schottky 障壁のバンド図.
第 2 章 電子材料
log If
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log Is
V
図 2.2 Shottky 障壁の電圧 – 電流特性.
2.1.3
電圧−電流特性 (理論)
障壁に電圧 V を印加するとき障壁を横切って流れる電流 I は, 普通のダイオ−ドの式,
[
I = Is
(
qV
exp
ηkT
)
]
−1
(2.1)
で与えられる. ここで q は単位電荷, k は Boltzman 定数, T は絶対温度, η はいわゆる
empirical constant (または ideality factor と呼ばれる) 1 である. また, Is は飽和電流で,
Richardson constant を A∗ , 障壁の面積を S とすると,
(
−qφB
Is = SA T exp
kT
∗
)
2
(2.2)
となる. A∗ = 120 (A/cm2 /K2 ) である.
順方向電圧が充分大きいと (2.1) 式は,
(
qV
If = Is exp
ηkT
)
(2.3)
となるから, 図 2.2 に示す様に, log If 対 V をプロットし, 直線部分を延長して log If 軸と
の交点を求めると, 飽和電流 Is を知ることができる. 得られた Is より, 障壁の高さ φB は
1
俗に n 値とも呼ばれ, Schottky 接合特性の良否が判別できる量である.
2.1. 半導体プロセス
21
(2) 式を変形して,
φB = −
kT
Is
ln
q
SA∗ T 2
(2.4)
となる.
Empirical constant η は, 理想的な Schottky 障壁ではほぼ η = 1 となるが, 障壁を流れ
る全電流が発生 · 再結合電流 (recommbination-generation current) である場合には, η = 2
となる. η を決める要因には, 上記の 2 つ以外に, ダイオ−ドの直列抵抗, 障壁近傍の洩れ
電流等が有り, 実際に log I 対 V プロットの直線部分から求める η の値は 1 と 2 の間に
落ち着く. 図 2.3 は各種金属シリサイド (珪化物)/n 型の Si の Schottky 障壁について V –I
特性を実測した例である.
(1) は η = 1.01 でほぼ理想的な V –I 特性を示している. 大電流領域での直線からのずれ
は, ダイオ−ドの構造に起因する直列抵抗である. (2) は洩れ電流または発生 · 再結合電流
による過剰電流 (excess current) の寄与が大きい場合で, この影響により η = 1.08 となっ
ている. (3) は過剰電流の寄与と直列抵抗の寄与とが混在している場合で, 比較的長い直線
部分から一応障壁の高さを求めることはできるが, η = 1.2 で理想的な Schottky ダイオ−
ドの特性からは遠いので, 求められる障壁の高さは正しい値より小さくなる. (4) は過剰電
流および直列抵抗の寄与が特にひどい場合で, この特性から障壁の高さを求めることはで
きない.
2.1.4
実験手順
1. 使用器具
(a) 真空蒸着装置 (タ−ボ分子ポンプ排気) ULVAC VPC-260
(b) プロ−バ 共和理研 K-157MP
(c) カ−ブトレ−サ 國洋電機 SCT-5T
(d) 低周波発振器 Shimazu CR-2000
(e) オッシロスコ−プ 40 MHz KENWOOD CS-4035
(f) 直流安定化電源 Kikusui PAL35-20
(g) ディジタルマルチメータ SOAR MC-535A 2 台
(h) 低周波発振器 Shimadzu CR-2000
実験全般の注意
♥ 各種装置は指導教員の許可/指示がある迄は, 使用してはならない.
♥ 以下の説明文の中で, アンダーラインの部分は実験開始後, 直ちに行なうこと.
♥ クリーンドラフト
1. 表面処理作業時にはゴム手袋, 前掛け, 面マスクを着用すること.
2. 超純水は, 必要時にのみ PURIC 装置上部右端の採水ボタンを押してドラフト内蛇口
から流して使い, 不用になったら再び採水ボタンを押して止めること.
♥ 使用する Si ウェーハは, 面方位 (100) , P-dope, n-型, 比抵抗 2.5 – 3.5 Ω·cm である.
第 2 章 電子材料
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(4)
(3)
10-3
(2)
10-4
(1)
10-5
If [A]
10-6
10-7
10-8
10-9
(1) Pt 2 Si/n-(100)Si
(2) PtSi/n-(100)Si
(3) IrSi/n-(111)Si
(4) NiSi/n-(100)Si
10-10
10-11
10-12
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
V [V]
図 2.3 各種金属シリサイド/n 型 Si Schottky 接合の電圧–電流特性の実測例.
2.1. 半導体プロセス
2.1.5
23
実験手順
[第1週]
シリコンウェーハ前処理 (洗浄) 4 等分にカットした Si ウェーハを 2 枚取り出し, 表面
(鏡面) を上にしてガラスビーカに入れる. 5 分間の超純水洗浄を行った後, HCl と H2 O2 を
10cc 程度注ぎ, 10 分間待つ. この液は強力な酸化剤であり, 盛んに泡が発生している間に
表面汚染物質が酸化され水溶性となって表面が清浄化される.
次に 5 分間の超純水洗浄を行った後, Si ウェーハをテフロン製のシャーレに移す. SiO2
エッチング液 (H2 O : HF = 100 : 1) を, 深さ 5 mm 程度の液量だけ注ぎ, 自然酸化膜をエッ
チング除去する. 1 分間位たってからビーカを傾け, ウェーハがビーカから落ちない様に注
意しながら, エッチング液を HF 系用プラスチック廃液容器に空ける.
最後に 1 分間の超純水洗浄を行った後, 超純水が深さ 2 cm 程度残る様にビーカを傾け
て超純水を捨てる. この時表面の濡れを観察する. SiO2 は親水性であり濡れるが, Si は疎
水性であるので水をはじく. スピンナでウェーハを乾燥させる. ウェーハをプラスチック
ケースに入れ, 蒸着装置の所へ持って行く.
蒸着装置への試料セット 蒸着装置の左側にある窒素ボンベのメインバルブを開け, 減圧
弁を調整して 2 次側圧力を 0.5 ∼ 1.0 kg/cm2 とする. 蒸着装置の手前にあるリークバルブ
を開けてチャンバーに窒素ガスをリークさせて大気圧にする. ガラスベルジャーを持上げ
てはずし, 蒸着装置の脇の台の上に置く.
** 注意 **
ベルジャーはかなり重く, ガラス製なので強いショックは禁物であり, 取扱には充分注意す
ること.
前処理済みのシリコンウェーハを鏡面を上に向けて所定の位置にセットし, その上にメ
タルマスクを乗せ, 更に振動による試料の移動を防止するためにステンレス製の分銅を乗
せる.
タンタル (Ta) 製リボン型ヒータに金線 (直径 0.5 mm, 長さ 10 mm) を乗せる. ガラスベ
ルジャーをセットする.
真空排気 RP SW を ON にして, ロータリポンプを始動させ, 手動バルブを ROUGH に
し, チャンバーの粗引きを約 5 分間行なった後, 手動バルブをゆっくり CLOSE, FORE WAY
に回す. 3 分間待ってから, TP SW を ON にし, STRAT ボタンを押して, ターボ分子ポン
プを始動する. ターボ分子ポンプ の電源の表示が 800 になるまで待つ. MAIN V. をゆっ
くり開けて, 真空排気する. 15 分間以上待つ.
ウェーハ裏面への金蒸着 シャッタが試料の下にあることを確認してから, ボートに通電す
る. 電源の出力を序々に上げて行くと, 出力 18 % 前後 (50 A) で, 金が溶融する. 金が丸く
なって安定したら, 出力を 20 % 程度 (55 A 強) に保ち, シャッタを開けて, 金が無くなるま
で蒸着を続ける. 金が無くなったら通電を止める. 第 2 章 電子材料
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試料取り出し 試料, ボート等が冷えるまで, 数分間待ってから, 主バルブを閉じリークバ
ルブを開けて, ベルジャー内が大気圧になったら, ベルジャーをはずして, 試料をピンセッ
トで取り出す.
試料のシンター ホットプレートを予め表面温度 370◦ C (温度調節目盛 = 2.7) に加熱し
ておき, 試料を鏡面を上にして乗せ, 3 分間シンター (Au-Si 合金層を作り, オーミックコン
タクト2 を形成する) する.
シリコンウェーハ洗浄 プラスチックピンセットで裏面金蒸着 + シンターしたウェーハ
を 1 枚取り出し, 表面 (鏡面) を上にして, ビーカに入れる. SiO2 エッチング液 (H2 O :
HF = 100 : 1) を, 深さ 1 cm 程度の液量だけ, このビーカに注ぎ, シンター中に形成された
自然酸化膜をエッチング除去する.
30 秒位たってからビーカを傾け, ウェーハを液面上に出し, ウェーハ表面の濡れを観察す
る. SiO2 は親水性であり濡れるが, Si は疎水性であるので液をはじく. ∼ 1 分間で自然酸
化膜は完全にエッチングされる.
ウェーハがビーカから落ちない様に注意しながら, エッチング液を HF 系用プラスチッ
ク廃液容器 に空ける.
超純水で流水洗浄する. ビーカを搖動させながら行ない, 超純水があふれる様になってか
らビーカを傾けて超純水を捨てる, 作業を 3 回繰返す. 最後は超純水を深さ 1 cm 程度残し
ておく. ゴム手袋, 薬品瓶を超純水でよく洗う.
スピンナでウェーハを乾燥させる. ウェーハをプラスチックケースに入れ, 蒸着装置の所
へ持って行く.
蒸着装置への試料セット 蒸着装置の手前にあるリークバルブを開けてチャンバーをリー
クして, 大気圧にする. ガラスベルジャーを持上げてはずし, 蒸着装置の脇の台の上に置く.
ビニール手袋を着用する. メタルマスクを所定の場所に乗せ, その上に前処理済みのシリ
コンウェーハを鏡面を下に向けて乗せ, 表面に多少残っている水分を濾紙ですいとる. シリ
コンウェーハの上にステンレス製分銅を乗せる. Ta 製ボートに金線 (直径 0.5 mm, 長さ 30
mm) を乗せる. ガラスベルジャーをセットする.
∗注∗
メタルマスクのパターンは, 直径 0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1.0 mm の円形である.
真空排気 RP SW を ON にして, ロータリポンプを始動させ, 手動バルブを ROUGH に
し, チャンバーの粗引きを約 5 分間行なった後, 手動バルブをゆっくり CLOSE, FORE WAY
に回す. MAIN V. をゆっくり開けて, 真空排気する. 15 分間以上待つ.
2
Ohmic contact : 整流性等を示さず, オームの法則が成立つ接合.
2.1. 半導体プロセス
25
∗ 注意 ∗
真空装置のバルブ操作は手順を間違えない様に充分注意する必要があり, 必ず教員の立会
いのもとに行うこと.
金蒸着 シャッタが試料の下にあることを確認してから, ボートに通電する. 電源の出力を
序々に上げて行くと, 出力 18 % 前後で, 金が溶融する. 金が丸くなって安定したら, 出力を
20 % 程度に保ち ( 電流 55 A 程度 ), シャッタを開けて, 金が無くなるまで約 6 分間蒸着を
続ける. 金が無くなったら通電を止める. 試料取り出し 試料, ボート等が冷えるまで数分間待ってから, 主バルブを閉じリークバル
ブを開けて乾燥窒素ガスを導入し, ベルジャー内が大気圧になったら, ベルジャーをはずし
て, 試料をピンセットで取り出す.
ガラスベルジャー清掃 アセトンを含ませたガーゼで, ガラスベルジャーの内部に付着し
ている金膜を, きれいに拭取ること.
蒸着装置の真空排気 清掃したガラスベルジャーをセットしてから, 真空排気する. その手
順は 2.1.5 と同様である. ターボ分子ポンプによる排気を 10 分間行なったら, 主バルブを
閉じ, ターボ分子ポンプの電源を STOP にする. 10 分間以上待って, ポンプのローターの
回転速度が充分低下してから, 三方バルブを CLOSE にして, TP SW を OFF にする. RP
SW を OFF にしてロータリポンプを止めて, ロータリポンプのヘッド部のリークバルブ
(本体の左奥にある) を開ける.
?? 厳重注意 ??
これを忘れると, ターボ分子ポンプの中がロータリポンプ油で汚染され, 大変な事になる.
サンプル保管 透明プラスチックケースにサンプルを入れ, ケースに班名を記入してから,
デシケータ (隣室にある) に入れて保管し, 次回の電気的測定実験に備える.
[第2週]
2.1.6
電圧−電流特性
市販の pn 接合ダイオードと諸君の製作したショットキーダイオードを, カーブトレーサ
の A, K 端子間に接続し, V – I 特性波形をトレシングペーパに記録せよ. ショットキーダイ
オード試料をプローバの台に乗せ, 真空チャックで固定し, プローバの針を金蒸着したドッ
トの上に降ろして, リード線を測定回路に結線する. 順方向と逆方向では電圧, 電流とも大
幅に異なるので, CRT 上の波形が適正なダイオード特性となる様に, 電圧感度と電流感度
を調節する必要がある.
第 2 章 電子材料
26
VD
I = Vi /100 k
100 k
Vi
図 2.4 I–V 特性測定回路.
順方向: V − I 特性の微係数に注目 ⇒ 立ち上がり電圧を求める.
逆方向: ブレークダウン電圧, 飽和電流 Is を求める.
電圧−電流特性 ダイオ−ドの電圧 VD に対する電流 I を図 2.4 の回路によりディジタル
ボルトメ−タ 2 台を用いて, ダイオード両端と 100 kΩ の金属被膜抵抗の両端の電圧を一
点一点測定する. 後者からダイオード電流を求め, V − I 特性を片対数方眼紙にプロットす
る. このとき電流軸を対数軸とすること.
この結果から, 飽和電流 Is , と η(n) 値を求めよ. 電圧範囲は, 0 ∼ 800 mV 程度が必要で
あろう. 測定値は専用フォーマットの記録用紙を用意したので, それを用いて, 記入すると
便利である. 電流値は金属被膜抵抗の両端の電圧の読みを, 抵抗値 (100 kΩ) で割り算して,
(オームの法則より, V (V)/1 ×105 (Ω)), から求めれば良い.
逆方向回復特性 図 2.5 の回路に 10 kHz (±1 V) の方形波パルスを入力し, 製作した
Schottky ダイオ−ドと市販の pn 接合ダイオ−ドの出力波形を記録する. レスポンスの違
いを観測するとともにその原因を考察せよ.
1 µF
+1
0
-1
600
PN
R
10 k
V
図 2.5 逆方向回復特性測定回路.
膜厚計算
金蒸着膜の厚さを計算により求めよ. 蒸着源とウェーハの距離は 10 cm とする.
2.1. 半導体プロセス
2.1.7
27
設問
裏面の金蒸着膜をシンターした理由を考察せよ.
2.1.8
実験全体の報告事項
1. 実験目的
2. ショットキー接合の概要 : 簡単に記述
3. 使用器具,装置
4. 実験の経過 : 詳細に書く
1. ウェーハ洗浄
2. 蒸着条件: チャンバ圧力,真空排気の経過,蒸着時の通電電流,蒸着時間,使用し
た金の量等について詳細に記述する.
3. シンタ条件
4. 電気的測定の条件
5. 実験結果
1. 金蒸着膜厚の計算による推定値
2. カーブトレーサによる V-I 特性のグラフ
3. V-I 特性の片対数プロットのグラフと η(n) 値,飽和電流 Is の値. 障壁の高さ φB ,の
計算値.
4. 容量–電圧 (C–V ) 特性測定結果. 測定結果から障壁の高さ φB , 拡散電位差 Vd , n 型
Si 基板の不純物濃度 N を算出せよ.
5. 逆方向回復特性の波形
普通の pn 接合ダイオードに比べ, ショットキーダイオードの逆方向回復特性が優れて
いることを明確にする.
6. 考察
1. 算出した諸結果を, 金属および半導体の仕事関数や比抵抗等について文献に報告され
ているデ−タと比較して検討せよ.
2. 普通の pn 接合ダイオードに比べ, ショットキーダイオードの逆方向回復特性が優れて
いる理由を説明し, その利点の応用例を調べよ.
3. 裏面の金蒸着膜をシンターした理由の考察
4. その他 第 2 章 電子材料
28
2.1.9
付録
真空装置について 真空を作るには, 洩れの無い容器 (中が真空になると外側から 1 気圧
の力が加わるのでそれに耐える強度が必要) の中の気体を排気すれば良い.
[真空度]
容器内の圧力, で表現する. 単位は, SI 単位系では Pa を用いる. 従来, 用いてきた Torr
は現在は使ってはならなくなった.
1 Pa = 7.50062 × 10−3 Torr ' 400/3 Torr
圧力領域により, 以下の様に分類される.
低真空 (Low Vacuum) : 100 Pa 以上
中真空 (Medium Vacuum) : 100 ∼ 0.1 Pa
高真空 (High Vacum) : 0.1 ∼ 10−5 Pa
超高真空 (Ultra High Vacuum, UHV) : 10−5 Pa 以下
極高真空 (Extreamly High Vacuum, XHV) : 特に 10−7 Pa 以下を云う.
[真空ポンプの種類]
現在, 特殊なものを除いて, 大気圧から高真空までひとつのポンプで真空排気できるポン
プは無い. 高真空以上の真空を作るには, 大気圧から中真空までを排気するための粗引き
(Roughing) と本引きに分けて真空排気する.
1. 粗引き用ポンプ :
(a) ロータリーポンプ:エアコンディショナーのロータリコンプレッサと同じ原理で逆
に空気を減圧するもの
(b) ソープションポンプ:分子吸着剤 (ゼオライト) を液体窒素温度に冷却して, 気体分
子を吸着することにより, 排気する.
2. 本引き用ポンプ :
(a) 拡散ポンプ:専用の油を加熱して蒸気を発生させ, その蒸気の流れに沿って, 気体分
子を拡散させて, 排気する. ポンプの背圧は通常ロータリポンプで排気する.
(b) ターボ分子ポンプ:ジェットエンジンと似た構造の複数段に組合された回転翼と固
定翼を高速回転させて, 気体分子を吸込む. ポンプの背圧は通常ロータリポンプで排
気する. スパッタイオンポンプ:Ti 電極間に高電圧を掛けて放電させ, 気体分子を
イオン化して, Ti 電極にとじ込める. 10−5 Torr 以下の圧力領域で動作する.
(c) クライオポンプ: He 冷凍機の技術を用いて, 気体分子を液化して, 排気する. この
ポンプも何等かのポンプで粗引きしてから用いる.
2.1. 半導体プロセス
2.1.10
29
本実験で使用する薬品の性質の簡単な解説
引火性薬品 (有機溶媒)
1. アセトン (CH3 COCH3 ) : 無色透明, 揮発性で臭いがある. m.p.= −94.82 ◦ C, b.p.=56.30
◦
C.3 引火点 ; −18 ◦ C, ガソリンよりも危険. 水, アルコ−ルに良く溶解する.
2. トリクロルエチレン (Cl2 C=CHCl) : 引火点 ; 87 ◦ C. m.p.= −73 ◦ C,
b.p.=87.2 ◦ C. 油脂性汚染の洗浄力が抜群. 水に溶けにくく, アセトン, アルコ−ルには
良く溶解する. 蒸気を吸入すると貧血, 肝臓傷害になる. 塩化ビニ−ル, ポリエチレン,
ゴムを溶かす.
** 注意 **
しかし, 最近はその人体への毒性が問題となり, あまり使われなくなった. 本実験でも
ジクロロエタンやメタクレン等の代替薬品を使用する.
3. エチルアルコ−ル (C2 H5 OH) : m.p.= −114.5 ◦ C, b.p.=78.3 ◦ C
劇毒物薬品
1. 塩酸 (HCl) : 金属を侵す. 発煙性, 刺激臭有り. 引火性 · 可燃性のある薬品と一緒に保
管しないこと.
2. 硫酸 (H2 SO4 ) : 皮膚に付くと火傷する目に入ると失明する. 水と混合すると発熱反応
するので, 希釈するときは水の中に徐々に硫酸を入れる. 硫酸は揮発性がないので, 希
硫酸でも水分が蒸発すると濃硫酸になり, 衣服等に付くと後で穴が開く等の危険があ
り, 注意が必要である.
3. 硝酸 (HNO3 ) : 金属を腐食する. 皮膚に付いたり, 目に入ると激しい火傷をおこす.
4. 弗酸 (HF) : ガラス (SiO2 ) を溶かすので, ポリエチレン容器 · ビ−カに入れること. 目
に入ると失明する. 皮膚に付くと数時間後に傷みだす.
5. 過酸化水素水 (H2 O2 ) : 爆発の危険がある. 皮膚に付くと炎症をおこす. 冷暗所 (実験
室では冷蔵庫に保管している) に, 酸化物 · 可燃物とは別に保管すること.
3
m.p.(melting point) は融点, b.p.(boiling point) は沸点 を表す.