家庭におけるトイレ・トレーニングについて ~予告「ママ、おしっこ」

KAO INFORMATION
2002年8月
家庭におけるトイレ・トレーニングについて
予告「ママ、おしっこ」が急に増える時期について
佐山佳奈子
奥田真知子
小島みさお
鉄谷考史
本報告は、
日本発達心理学会第13回大会(2002.3.29)でポスター発表した内容(文献1)
をもとに、
これまでの研究結果を加味してまとめたものです。
■背景・目的
幼児期に行われるトイレ・
トレーニングは、子どもにとって、
自分の行動に自信を持つとともに、母親
への信頼を育む重要な過程だと考えられます。また母親にとっても、子どもの成長を実感でき、育児
の上での節目ともなっています。ところが、母親によっては、
より早くオムツをはずしたいという気持ち
から、子どもの発達状態を十分に把握せずにトイレ・
トレーニングを行った結果、思うように進まず母
子ともにストレスに悩まされる場合があるようです。
従来、
「2歳を過ぎた春から開始し、薄着で過ごせる初夏から夏にかけてトイレ・
トレーニングを行
い、3歳までにおむつをとる」というようなことが言われてきました。一方、最近は子どもの発達に応じ
てトレーニングを進める方法が提唱され、子どもの発達を見極める目安などが提示されるようになっ
ています。
花王生活文化研究所でも乳幼児を持つ母親を対象にアンケート調査を行っており、子どもの成
長に伴って、尿が膀胱に溜まったり、排尿したことを示す様々なシグナルが子どもから発信されてい
ることを明らかにしています(文献2)。この排尿シグナルは子ども一人一人の、成長・発達に応じた
トイレ・
トレーニングを進めるための有効な手段と考えられます。
そこで本調査では、
トイレ・
トレーニング中の各々の母子の生活行動、排尿行動、母親の気持ちの
変化などを経時的に追い、
トレーニング実態を把握することによって、子どもの排尿発達やトレーニン
グ進行状況にどのような個人差があるのかを明らかにするとともに、母親の不安や悩みに答え、
より
実際のトイレ・
トレーニングに活かせる情報を提供することを目的としました。
■方法
本格的にトイレ・
トレーニングを始めようとする専業主婦の母親33人に対し、母親によるトレーニ
ング終了申告までの間、週3日のトレーニング日誌と月1回の記述式アンケートを実施。
● 日誌内容
トイレへの誘導・着用品交換時における排
: 母子の生活行動、排尿状況、
尿前行動(排尿シグナル)、親の気持ち
● アンケート内容 : 排尿前後行動・しぐさ
(排尿シグナル)の記録、
トレーニングの進行状況
と母親の気持ち、
「乳幼児発達スケール(発達科学研究教育センター)」
による幼児の発達評価、
ことば・遊びの内容
● 調査期間
: 1999年4月〜2000年2月
-1-
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■結果と考 察
1. トイレ・トレーニング進行のタイプ
トイレ・
トレーニングの進行は、個人の差が大きいだけでなく、生活上のさまざまな要因によっても左
右されます。今回の調査協力者(33人)においても、
この調査期間内(10ヶ月)に、母親の妊娠・出
産、母親や子どもの病気・入院、盆・正月の里帰り、転居等により、
トレーニングの中断・後戻りや、子
どものトレーニングへの反抗等が生じたケースが多々見られ、最終的にトレーニングが完了したのは
18人でした。今回はこの18人について解析した結果を報告します。
一般にトイレ・
トレーニング中の子どもの家庭における排尿パターンは、
1. 母親が2時間おきなど時間を決めて子どもをトイレに誘導する場合
2. 起床・就寝・外出などのタイミングでトイレに誘導する場合
3. 子どもの排尿シグナル(動きが止まる、
おなかをさわる等のしぐさ)
を親が察知して誘導する場合
4.「ママ、
おしっこ」などの言葉のシグナルで予告があり、母親が誘導、
あるいは子どもが自分でトイ
レに行く場合
などがあります。一方、
トレーニングを開始した母親の関心事は、子どもがいつ「ママ、
おしっこ」と言
い(予告)、
トイレで排尿に成功するかということだと思われます。
そこで母親がトイレ・
トレーニングの進行状況の目安にしていると思われる、子どもの排尿予告に
注目し、
その予告の現れる時期と頻度の変化を追い、母親が誘導して行う排尿頻度との比較を試
みました。以下、子どもが自分から「おしっこしたい」ことを母親に伝え、
トイレでおしっこが出来た場
合を「予告成功」、母親が率先して子どもをトイレに連れて行き、
トイレでおしっこができた場合を「誘
導成功」と表すことにします。
図1に、排尿の「誘導成功率」
「予告成功率」と、
これらの合計である「トイレ合計成功率」の推移
について、代表例を示しました。ここで「予告成功率」の変化に注目すると、
トレーニングの進行は
大きく2つのタイプに分けることができました。
(1)予告成功が急に現れ、そのまま増加するタイプ(予告成功急増タイプ)18人中9人
●予告成功がほとんどない時期からトレーニングが始められているケースが多く、誘導成功が
そのままトイレでの成功という時期がしばらく続きます。ある時急に予告成功が増え、
その伸
び方が大きいものです(図1.(ア)〜(オ))。
●母親からみると、
「連れて行けばトイレでおしっこできるのに、連れて行かないとおむつの中に
してしまう」ため、2〜3時間ごとにトイレに誘導することがトレーニングの中心となります。
「い
つになったら教えてくれるのだろう」
「時計とにらめっこの毎日でストレスがたまる」などの声
が多くみられました。
(2)予告成功が始めからあり、増減するタイプ(予告成功緩増タイプ)18人中9人
●トレーニング開始時期から10回に1〜2回程度の予告成功があり、誘導成功もあります。
トレー
ニング進行中、予告成功が増えたり減ったりします。予告成功が急に増える時期があります
が、
その伸び方は小さいものです(図1.(カ)〜(ケ))。
●母親からみると、
トレーニング開始時からある程度予告成功があるため、
「誘わないほうがよ
いのかしら」と悩んだり、
「こんなにスムーズに行くなんて」と安心していたら、思わぬ反抗・後
戻り・長期化が生じてストレスをかかえるケースが多くみられました。
-2-
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●図1 トイレ・トレーニング進行のタイプとトレーニング期間中のトイレ成功率の推移
トイレ合計成功率(尿)
予告成功率(尿)
誘導成功率(尿)
予告成功が急に伸びる時期
グラフ内凡例:イニシャル・性別
① 予告成功急増タイプ(ア)〜(オ)
② 予告成功緩増タイプ(カ)〜(ケ)
(%)(カ)
(%)
(ア)
100
80
100
Y.O男児
T.N男児
80
ト
イ
レ 60
成
功 40
率
60
40
20
20
0
30M
31M
32M
33M
0
31M
34M
32M
33M
月齢
(%)(キ)
(%)
(イ)
100
100
.0女児
80
60
60
40
40
20
20
0
25M
26M
27M
28M
29M
30M
31M
32M
33M
0
31M
M.O男児
80
60
60
40
40
20
20
32M
33M
34M
35M
35M
36M
37M
Y.H女児
0
29M 30M 31M 32M 33M 34M 35M 36M 37M
100
100
Y.Y男児
80
60
60
40
40
20
20
0
27M
34M
(%)(ケ)
(%)
(エ)
80
33M
100
100
0
31M
32M
(%)(ク)
(%)
(ウ)
80
T.K女児
80
28M
29M
30M
0
27M
T.G男児
28M
29M
30M
31M
32M
33M
34M
35M
36M
(%)
(オ)
100
T.K男児
80
60
40
20
0
25M
2.
26M
27M
予告成功が急に伸びる時期(予告成功急伸月)
トレーニング進行のタイプに関わらず、予告成功が急に伸びる時期がみられました。図2は、予告成
功率の1ヶ月間の伸び率が30%以上の月を「予告成功急伸月」と名付け、
トレーニング期間中に予
告成功急伸月が現れた時期(月齢)
を表したものです。
●予告成功急伸月の月齢は、26〜36ヶ月と個人差があり、平均31ヶ月でした。また、
その伸び率は、
30〜62%と個人差がありました。
-3-
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●トレーニング終了時における予告成功率は、100%に近い場合もありますが(図1(エ)
.
、
(ク))、60
%に満たないケースもありました(図1.
(イ)、
(ウ)、
(オ))。母親のトレーニング終了の理由として
多かったのは、
「自分から教えるようになったから」と、
「綿パンツで一日過ごせるようになったから」
でした。これにより母親は、
「外出時を含めて一日中綿パンツで過ごせること」をトレーニング終了
の目安にしていることがわかり、今回の調査では、予告成功率よりも、誘導成功も含めた、
トイレ合
計成功率が70%以上で終了するケースが多くみられました。
●トレーニングの終了時期は、
トレーニングの開始月齢や、
トレーニング期間の長短、
トレーニング進行
のタイプに関わらず、予告成功急伸月の1〜2ヶ月後に終了するケースが多いことが分かりました。
●図2 トイレ・トレーニングの期間と予告成功急伸月
開始月
急伸月
終了月
月齢
(M)
18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38
子供
ク 12月
急伸月
イ
4月
オ
5月
12月
急伸月
急伸月
翌々年1月
翌々年
7月
ケ
5月
エ
4月
急伸月
サ
5月
急伸月 7月
ア
7月
5月
8月
急伸月
ウ
5月
キ
4月
急伸月
シ
4月
急伸月
カ
6月
ス
急伸月
コ
11月
8月
7月
8月
急伸月
5月
急伸月
6月
3.
翌年2月
急伸月
7月
急伸月
9月
予告成功急伸月にみられる母親と子どもの気持ち
日誌およびアンケートより、予告成功急伸月における母親の気持ち、子どもの様子などの記述を抜
き出し、代表的なものを、表1、表2にまとめてみました。
(1)予告成功急伸月の母親の気持ち
子どもが「ママおしっこ」と予告をして、
トイレでおしっこができた時には、
その都度喜び、誉めてい
る様子がうかがえました。母親はトレーニング開始から「早くトイレを教えて欲しい」と思っているため、
予告成功急伸月は、
ほっとする時期であろうと考えていましたが、
日誌からは「やっと教えてくれるよ
うになった」という安堵感は、
あまり感じられませんでした。
母親の気持ちの中では、予告成功が増えるとともに、予告することやトイレでおしっこができること
が当たり前のこととなっていくようです。ウンチのトイレ排泄が出来るのはいつからか、外出時も綿パ
ンツで過ごせるのはいつか、
おねしょ対策はどうしたらよいかなど、次の段階への新たな不安や焦り
が生じ、
「早く終わって開放されたい」といった気持ちが出てくるようです。
「おしっこを最近急に教えてくれるようになった」という声は、予告成功急伸月には少なく、主に翌
月以降にみられました。予告が急に増えるという事実と母親の実感との間には、ずれがあるようです。
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●表1 予告成功急伸月の母親の気持ち
母親の気持ち
母親の生の声
トイレでおしっこができたこ
とを喜ぶ
・ おおっ!やったぁー今度は大成功だ!
!上手に出来たねぇ。
おしっこの予告を喜ぶ
・ 昨日も1回、今日も1回、言葉で「おしっこ」と、する前に知らせてくれた。これが早
く毎回になってくれるとよいのに。
誘うのをや めて予 告を待 つ
方がよいのか、と悩む
・ おしっこを教えてくれないので、ママから聞いていくパターンが定着しつつあるけ
れど、おもらししてもいいからほっておくのと、どっちがいいのか迷っている。
遊びに夢 中になると予 告を
しない、と落胆する
・ アーア出ちゃったねぇー。遊びに夢中になるとトイレを忘れる。
おねしょはい つしなくなる
かと心配する
・ 昼間はだいぶ(トイレでおしっこが)できるようになった。夜も起こして連れて行
くほうがよい(早くとれる)のだろうか。
ウンチを予告しないことに
落胆する
・ 今日はおしっこのタイミングがよかったようで、成功率が高くとてもよい1日でした。
でもウンチは出た後しか教えてくれないんだよね…。いつになったら…って感じ。
母親のストレス
・ 何でもっと早く教えてくれないのーと怒鳴ってしまった。もぉーっ。
・ よその子がおむつはずれに成功すれば追いつめられる。
・ 子どものトイレタイムをいつも頭の中にインプットしておかなくてはならない。
・ やってもやってもとれない。いつまで続くのか不安。小学校までにはとれるかしら?
母親のストレスからの開放
・ 開始直後はイラついたが、子どものペースでと気楽に構え、いつかはとれると思っ
てからは不安はなくなった。成長の一過程として楽しくなってきた。
・ このところほとんど失敗もなく、ほっとしている。急にとれてきた。
トレーニングが短期間で終
わった場合
・ 遊びだしたのでしばらく放っておいたら、シグナルがあって急いでトイレへ。
・ オシッコが出た。ご褒美に1本締め!
(2)予告成功急伸月の母親のストレス
母親が予告成功急伸月を素直に喜べないことの要因として、
「自分ががんばれば、
おむつは早く
はずれるはず」といった思いがうかがえます。
「こればかり
(子どもの排尿)は思い通りにならない」、
「子どもに振り回される」など、振り回されることへの怒り・不安・絶望感等のストレスを強く感じてい
るようです。
(3)母親のストレスからの開放
多くの母親がトレーニングのストレスに最後まで悩まされる一方で、途中から気持ちを一転して気
楽に構えたり、開き直ったりしてストレスから開放される母親もみられました。この気持ちの転換が予
告急伸月よりも前にある人からは、子どもの予告が急に増えたことを素直に喜ぶ声が聞かれました。
また、
図1.
(オ)
(カ)のように、
子どもの成長とトレーニング実施時期がうまく合ったケースでは、
トレー
ニングが短期間で終わり、母親のストレスの声は少なくなっていました。
(4)予告成功急伸月の子どもの気持ち
子どもの方には、
トレーニングで「トイレは?」と言われるのを嫌がる様子、失敗してがっかりする様
子、
トイレでおしっこができたことを喜ぶ様子、誉められて嬉しそうな様子などが、
日誌の母親の記述
からうかがえます(表2)。
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●表2 予告成功急伸月の子どもの気持ち
子どもの気持ち
子どもの様子
トレーニングを嫌がる
・ いつのまにかおむつの交換が減ってきて嬉しいけど、午前中にトイレに誘ったら「トイレっ
て言うなー」と泣き出してしまった。
・(急に教えるようになったと思っていたら)ここ数日おもらし後、教えない。
注意されるのが面白くないらしい。
・「おでかけするからトイレに行こう」とその気にさせようとするが「さっき出た」と反抗する。
失敗してがっかり
・トイレに間に合わずちびってしまった。ちょっとショックだったようだ。
・ 買い物の帰り「おしっこ」というので走って帰ってきたが、パンツに少しちびってしまった。
「ママ、怒らないでね。少しおしっこ出ちゃった」と申し分けなさそうに言った。
トイレでおしっこでき
て嬉しい
・トイレで成功したので「ちゃんと出来たよぉ」と嬉しそうでした。
・ 幼稚園で可愛いトイレを見つけ、
「トイレいくー」といって早速便座に座った。
ほーんの少し搾り出たって感じのおしっこだったけど、とてもいい笑顔だっ た!
!
誉められて嬉しい
・「おしっこ」と自分で言ってしたので、お母さんにもお姉ちゃんにもとても誉めてもらって
上機嫌。
・ お風呂の前に「おしっこしないか?」とお父さんに聞かれ、素直におまるへ。
誉められてご機嫌。
4.
予告成功急伸月の1〜2ヶ月前にみられる子どもの生活の変化
母親はトイレ・
トレーニングにストレスを感じがちなので、予告成功急伸月を予測することができれ
ば、気持ちのゆとりにつながるのではないかと考えました。そこで、予告成功急伸月の1〜2ヶ月前の
日誌等から、子どもの遊びや生活の変化に関する記述を抽出し、
( 1)言語の発達(2)遊びの変化
(3)社会性(4)運動・操作能力(5)排尿行動の5つに分類しました(表3)。
これらはすべて母親の観察によるものです。このような変化が多くみられるようになったら、子どもが
自分から「おしっこしたいこと」を伝える時期が近いと考えてよいと思われます。
●表3 予告成功急伸月1〜2ヶ月前の子どもの生活の変化
(1)言語の発達
・
・
・
・
・
・
(2)遊びの変化
・ ごっこ遊びをする(人形でお母さんごっこ・おままごと・お店やさんごっこ・怪獣で戦いごっ
こ等)
・ 絵本を一人で読む(ページをめくる・絵を見て考える・絵を見て一人でしゃべる等)
・ 電話がなると走ってとりにいく。電話をとって何か言う
(3)社会性
・ 親と同じことをやりたがる(鍋の中の料理をかきまぜる・洗濯物を干すのを手伝う・掃除
機をかける・買い物袋を持つ等)
・ おもちゃの貸し借りができる(「はいどうぞ」
「貸して」等が言える)
(4)運動・操作能力
・
・
・
・
高いところから飛び降りたがる
友達と追いかけっこをする
鉛筆やクレヨンでお絵描きをする
パズル遊びや粘土遊びをする
(5)排尿行動
・
・
・
・
トイレに連れて行けば、
2回に1回はトイレでおしっこができる
自分から便座に座る
父や母がトイレへ向かうと「○○も!
(自分の名前)」と言って先に行く
おむつやパンツを自分で脱いだりはいたりする
発音がはっきりしてくる(「とーたん」→「おとーさん」等)
語彙が急に増える
二語文を言う(「おとーさんかいしゃ」等)
口まねをさかんにする
疑問文を言う(「これなあに?」等)
1〜10くらいの数字を言う(「1・2・3・5・10」等、順不同や順番飛ばしでも)
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5.
予告成功急伸月の排尿シグナル
乳幼児の排尿シグナルについては既に当研究所で調査・研究しており
(文献3)、
その報告では、
排尿シグナルの内容を、生理的機能の発達段階(A〜E)
と排尿前の発現率に対応させて配列し、
図3のように整理しています。さらに、
これらの排尿シグナルはトレーニングの目安として活用出来るこ
とを示し、
その具体例として、
トレーニングを開始する時期の目安は、Cレベルのシグナルが排尿前に
発現・増加してきた時期であり、
トレーニング進行の目安になるのは、Dレベルのシグナルが排尿前に
発現する頻度の増え方であることを挙げています。
今回の調査では、母親の記録したトレーニング日誌から排尿シグナルの記述をぬき出し、発現し
た排尿シグナルの内容とレベル、
タイミングについて変化を調べ、実際のトレーニングの進行状況(予
告、誘導成功率推移)
との比較・検討を行いました。その結果、
●トレーニング開始期は、B〜Dレベルのシグナルが排尿後に発現する場合が多い。
●予告成功急伸月にはD〜Eレベルのシグナルが中心で排尿前に発現する場合が多く、排尿後シ
グナルはほとんどなくなる。
の2点が明らかになりました(代表例 図4)。このように、実際に、
トレーニング進行に伴って、発現す
る排尿シグナルのレベルが変化することが確認され、
また、予告成功急伸月に排尿シグナルの発現
傾向が、排尿後から排尿前に変わることがわかりました。
以上を踏まえ、
トレーニングの開始から終了にわたって、具体例をまじえながら、子ども一人一人
の発達に応じたトレーニングを行うための排尿シグナルの活用法を考察しました。
●図3
排尿シグナルの分類
0%
20%
40%
60%
80% 100%
N数
シグナル内容
A レベル
反射的な動作
シャックリをする
ブルッとする
27%
8%
73%
53%
39%
止まって表情硬化
100%
しゃがむ
B レベル
排尿を感じ
始めた動作
86%
じっと空を見る
おしりふきを持って来る
67%
尿意を感じ
始めた動作
15
5
21
7
19
3
24
15
21
4
13
100%
6
26
おむつをひっぱる
7%18%
急に立ち止まる
13%
76%
81%
6%
57%
29%
じーっとこちらをみる
17%
71%
股を開く
17%
67%
動きが止まる
21%
あっと声を出す
25%
ぐずる・不機嫌になる
13%
17%
72%
25%
37%
7%
50%
9%
53%
27% 9%
64%
36%
45
22
16
23
7
20
24
17
6
24
105
18
20
22
75
23
11
21
64%
14
24
60%
5
26
25
40%
前押さえモジモジする
45%
18%
36%
11
トイレに向う
48%
16%
36%
25
24
33%
9
17
部屋の隅に行く
落ち着きがなくなる
ソワソワ・うろうろする
言葉で伝える
90
100%
パンツを下ろす
E レベル
9
ガニ股になる
すり寄ってくる
尿意を排尿
行動で伝え
始めた動作
18
抱っこをせがむ
膀胱辺りを触る
D レベル
33%
93%
7%
止まってオチンチン辺りを見る 14%
C レベル
14%
発現の
平均月齢
67%
88%
91%
13%
9%
8
27
11
26
定位置へ行く
100%
3
22
足閉じてスリスリ合わせる
100%
6
28
小走りになる
100%
2
30
チッチ等している最中に言う
100%
34
23
チー出た等とした後に言う
100%
152
22
チー出る等とする前に言う
100%
81
24
-7-
排尿前
排尿中
排尿後
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(1)
トレーニング開始時期の見きわめ
本調査では、開始期にBレベルのシグナルの排尿後の発現が多い場合は、
トレーニングが進まず
に中断したり、
1年以上の長期トレーニングになるケース
(図2.
(ク))がありました。短期間で終わっ
たケース
(図2.
(オ)
(カ))では、開始期にCレベルのシグナルが排尿前にみられています。
他のケースから考慮しても、
トレーニングの短期間化と母子のストレス軽減をめざすのであれば、Cレ
ベルのシグナルが排尿前に見られる頃にトレーニングを開始することが効果的といえそうです。
(2)
トレーニング進行中
トレーニング中は、2時間ごとにトイレ誘導したり、起床、就寝、外出をきっかけにトイレ誘導をしていま
すが、
うまくいかないことも多いようです。そのような場合はシグナル観察が役に立ちます。C・D・Eレベ
ルのシグナルが排尿前にみられることがだんだんと多くなっていきますので、子どもの排尿シグナルがど
んな言動なのか、
タイミングは排尿前か、
誘うタイミングと合っているかなどを確認するとよいと思われます。
(3)予告成功急伸月
この時期は、子どもが尿意を感じて母親に伝えることができるので、排尿前シグナルがでてからト
イレに連れて行けばいい時期です。
ただ、子どもが「おしっこ」と伝えにくるときは「モレちゃいそう」というギリギリのタイミングであること
も多く、母子とも大慌てでトイレに駆け込む、
という時期でもあります。
「最近急に教えてくれるように
なった」という母親の実感が遅れるのは、
こういう状況が影響しているのかもしれません。
●図4
予告成功急伸月における排尿シグナルの発現状況の変化
トイレ合計成功率(尿)
予告成功率(尿)
誘導成功率(尿)
予告成功が急に伸びる時期
グラフ内凡例:イニシャル・性別
(%)
(オ)
(%)(キ)
100
80
100
T.K男児
0
25M
ト
イ 60
レ
成 40
功
率 20
26M
0
31M
27M
月齢
排尿前
T.K女児
80
ト
イ 60
レ
成 40
功
率 20
排尿中
排尿後
排尿後シグナル合計
32M
33M
34M
35M
B〜Eはシグナルレベル
(前)
(中)
(後)はシグナル発現タイミング
(回/日)
排
尿
シ
グ
ナ
ル
の
回
数
(回/日)
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
25M
排
尿
シ
グ
ナ
ル
の
回
数
26M
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
31M
27M
32M
33M
34M
35M
トレーニング開始期のシグナル
予告成功急伸月のシグナル
トレーニング開始期のシグナル
予告成功急伸月のシグナル
B「ママ」と呼んでガニ股になっている(後)
C「ママ、チッチ」と膀胱あたりをさわる(後)
D「ママ、チッチ」と言ってパンツを脱ぐ(中)
E「ママ、チッチ出た」
(後)
C 動きが止まってチンチンを押さえる(中)
E「ママ、
チッコ」と、
トイレへ走る(中)
E「ママ、
チッコ出る」
(前)
E お風呂で「チッコしていい?」
(前)
B ガニ股歩き(後)
D 股やお尻をさわる(前)
E「おしっこ」
(後)
E「おしっこ」
(中)
E「おしっこー」
(前)
D 股に手をあてる(中)
E「おしっこでたー」
(後)
E 股をおさえる(前)
E「おしっこでる」
(前)
E「おしっこ行きたい」
(前)
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KAO INFORMATION
■まとめと提 案
1.まとめ
本報告ではトイレ・
トレーニング中の母親に日誌をつけてもらうことにより、家庭におけるトイレ・
トレー
ニングの実施状況を調査・解析し、子どもの排尿発達やトレーニングの進め方にパターンがあること
と、
「ママ、
おしっこ」という排尿予告の増える時期(予告成功急伸月)があることを明らかにしました。
この予告成功急伸月について知ることは、排尿シグナルを観察することと共に、先を見通してトレー
ニングを進めるうえで、有効な手段になると思われます。
もともと子どもの排尿機能の発達には個人
差があります。今回の調査からも排尿シグナルの現われ方、予告成功率の変化、予告成功急伸月
の月齢など、
トレーニングの進み方は子どもによって差がみられました。
母親は子どもの成長やトレーニングの進行等について予測がつかないため、漠然とした不安を
抱えながらトレーニングをすることになりがちですが、本報告で述べた排尿シグナルや予告成功急
伸月の目安などを活用することによって、
ゆとりをもって、
より子どもの発達に合ったトレーニングを進
めることが出来ると思われます。以下その活用について提案いたします。
2.ゆとりを持ってトイレ・トレーニングを行うための提案
(1)排尿シグナルを観察する
排尿シグナルの観察を意識することは、子どもに気持ちを向け、子どものあるがままの姿を受け入
れるきっかけになります。
「おむつを幼稚園入園までにとりたい」などという母親の都合ではなく、子
どもの成長に合わせたトレーニングにも結びつきます。排尿シグナルを観察することが、
トレーニング
の開始時期の目安になり、
またトレーニング中も進行度合いを確認することが出来ます。
(2)
「ママ、
おしっこ」が急に増える時期がくることを知り、気持ちにゆとりを持つ
多くの子にみられる、
「ママ、
おしっこ」が急に増える時期は、
トレーニングの進行を確認し、終了
時期の見当をつける上で重要な指標となります。この予告成功急伸月は、
ある程度子どもの生活の
変化に伴っていると思われますので、母親が子どもの変化を認識できる観察眼を持っていることが
望まれます。
また、子どもにとってこの時期は、
「トイレでおしっこをすることができた!」という成功体験を積み重
ねる時期です。母親は、
「ママ、
おしっこ」という時の子どものやる気を尊重し、先を急がずにその時
の成功の喜びを子どもと共有してほしいと思います。
尚、
当研究所では研究で得られた知見を活かし、
トイレ・
トレーニングアドバイス情報を、花王メリーズ
サイトの育児コーナーにコンテンツ提供しています。
(http://www.kao.co.jp/merries/babycare/)
■ 文献
1)佐山、奥田、小島、鉄谷:日本発達心理学会 第13会大会発表論文集 P.285、2002
2)奥田、小島、鉄谷:第47回 日本小児保険学会講演集 P.408、2000
3)奥田、小島、鉄谷:チャイルドヘルス,
Vol.4 No.9 P.56-59,診断と治療社,
2001
●お問い合わせ・ご意見は
花王株式会社 生活者研究センター
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