食肉衛生検査所分離豚丹毒菌への PCR による同定と生菌ワクチン株 と

食肉衛生検査所分離豚丹毒菌への PCR による同定と生菌ワクチン株
との識別の試み
小畑晴美、喜田宗敬
三重県中央家畜保健衛生所
【はじめに】
三重県における豚丹毒の発生は,1998年以降農場での大発生はなく,食肉衛生検査所に
おける摘発が大部分を占めている。また, Erysipelothrix属はかつて1菌種とされていた
が, E.rhusiopathiae (以下Er)のほかに E.tonsillarum (以下Et)をはじめとしてDNAの相
同性試験により少なくとも4菌種が含まれていると報告 4) されている。これらは,生化学的
性状からは分類できず,Polymerase Chain Reaction(以下PCR)での分類が実施されている。
また,関節炎型から生菌ワクチン株が分離されるという報告 2)がある。
今回,我々は,食肉衛生検査所から分離菌の分与を受け,菌種の分類,血清型別,1a型
菌と生菌ワクチン株(小金井65-0.15)の識別を試みた。
【材料】
県下2箇所の食肉衛生検査所において,豚丹毒で摘発・届出された出荷豚から分離された以
下の豚丹毒菌を検査材料とした。
材料1
平成18年度上半期に6農場の出荷豚から分離された8株
材料2
2005年9月から11月にかけて豚丹毒の敗血症型が確認された県下の1農場の出荷
豚から分離された19株
【方法】
(2)
Erysipelothrix属の特定:PCR, 牧野らの方法3)
Er,Etを含む4つの種の特定:PCR,北海道衛研の武史の方法5)
(3)
血清型別:ゲル内沈降反応(独立行政法人 動物衛生研究所に依頼)
(4)
1a型菌と生菌ワクチン株の識別:
(1)
① Randomly Amplified Polymorphic DNA(以下RAPD法)
今田らの報告2)のD9355プライマーを用い,Akopyanzらの方法1)で実施
② アクリフラビン耐性試験
【成
績】
材料1(平成18年度上半期分)
8株の病型は5株が関節炎型, 3株が蕁麻疹型であった。血清型別は,関節炎型がすべて1a,
蕁麻疹型が1b,2b,11であった(表1)。PCRでは8株すべてがErの特異プライマーのみに増
幅産物を認めた。血清型1a型菌と生菌ワクチン株の識別では,関節炎型で血清型1aの5株す
べてが,生菌ワクチン株と同じアクリフラビン濃度0.005%まで発育(アクリフラビン耐性)し,
生菌ワクチン株と同じRAPDパターン(RAPD1-2型:約2.5,1.5,0.9,0.5Kbの4本のバンド,
約400bpのバンド,および253bpの主要なバンドを有する)であった(図1)。また,生菌ワクチ
ン株との識別に供した5株は4農場の出荷豚からの分離株であった。
表1 材料1:平
1:平成18
成18年度上半
年度上半期の検査
の検査成績
成績
由来 病型
由来病型
菌数
PCR
属+ 種(Er)
Er)+
M
1a
血清型別
血清
型別
1b 2b
11
蕁麻 疹型
蕁麻疹型
3
3
3
0
1
1
1
関節 炎型
関節炎型
5
5
5
5
0
0
0
市販ワクチン
1
1
1
①
⑤
⑥
⑦
⑧
671 Vac
2000bp
1400bp
1000bp
1
RAPD (1
(1-2型)
0
関節炎型
5
5
市販ワクチン
1
1
M
←
←
1500bp
←
1000bp
900bp
800bp
600bp
500bp
500bp
←
←
300bp
アクリフラビン耐性
0
M
750bp
1550bp
400bp
由来病型
蕁麻疹型
蕁麻疹型
N
400bp
700bp
300bp
←253bp
200bp
200bp
100bp
100bp
① 野外分離株
№ 006 関節炎型
⑤ 野外分離株
№ 016 関節炎型
⑥ 野外分離株
№ 041 関節炎型
⑦ 野外分離株
№ 042 関節炎型
⑧ 野外分離株
№ 050 関節炎型
671 標準株 №671
Vac 小金井
65-0.15株
N Negative cont.
M Maker
図1 材料1:
材料1:RAPD法 結果
材料2(平成17年度発生農場分離株)
豚丹毒発生農場の規模は母豚310頭の一貫経営で,発生の時期は,家保の立入りによる敗血
症(2頭)の確認および食肉衛生検査所でのと殺禁止(2頭)・摘発(蕁麻疹型8頭,関節炎型11頭)
状況等より,9月下旬から11月中旬にかけて発生があったと推定された。食肉衛生検査所での
出荷豚からの菌分離は,発生のあった9月下旬から11月中旬にかけての時期は主に蕁麻疹型か
ら8株,それ以降は関節炎型から11株が分離された(図2)。終息のために11月中旬から生ワク
チン(90日齢)を不活化ワクチン(60日齢,90日齢)に変更したが,終息後も食肉衛生検査所での
摘発・届出は,生ワクチンを接種した出荷豚がいなくなるまで散発的に認められた。血清型
は19株すべて1a型で,PCRはすべてがErの特異プライマーのみに増幅産物を認めた。生菌
ワクチン株との識別では,19株すべてアクリフラビン感受性で,生菌ワクチン株と異なる
RAPDパターンを示した(表2)。
表2 材料2:平成
2:平成17
17年度
年度 発生農場
農場の検査結果
の検査結果
4
敗
敗血症
血症型の発
の発生
生
不活化
不活化V
Vac.
ac.
頭
3
家保
家保立入
11月
11
月1日
2
敗血症
と殺禁止
蕁麻疹
関節炎
家保立入
家保立
入
9月
月28
28日
日
9
1
∼
9/
1
∼ 7
9/
∼ 24
10
/
∼ 01
10
/
∼ 08
10
/
∼ 15
10
/
∼ 22
10
/
∼ 29
11
/
∼ 05
11
/
∼ 12
11
/
∼ 19
11
/
∼ 26
12
/
∼ 03
12
/
∼ 10
12
/
∼ 17
12
/
∼ 24
12
/
3
∼ 1
1
/0
∼ 7
1/
1
∼ 4
1/
2
∼ 1
1/
2
∼ 8
2/
04
0
9月
10
10月
11月
12月
2006年1月
2月
発生農場
発生農場の概要
の概要 母豚
母豚310
310頭,一貫
頭,一貫
豚丹毒ワク
豚丹毒ワクチ
チン
ン 生(∼11月中旬
11月中旬)),90
90日齢
日齢
不活化(11
不活化
(11月中
月中旬
旬∼)
∼),60
60,
,90日
90日齢
齢
供試菌株
供試菌株:敗
:敗血症
血症,返品を除く蕁麻疹
,返品を除く蕁麻疹型,関節炎
型,関節炎型の
型の出荷
出荷豚か
豚から食肉衛生
ら食肉衛生検査
検査所で分離
所で分離
方
法:18年度
法
:18年度上半
上半期分
期分離株
離株と同
と同じ
じ
図2 1農場
農場に
におけ
おける週別
る週別豚丹毒
豚丹毒摘発
摘発状況
状況
解体年月日
由来病型
PCR
1(105)
105)∼ 4 (108)
2005
200
5, 9.20
蕁麻疹型
Er
血清 アクリフラビ RAPD
型別 ン耐性 パターン
1a
−
(1)
5(109)
109)
110)
6(110)
2005, 10
2005
10.
.21
2005, 10.28
蕁麻疹型
関節炎型
Er
Er
1a
1a
−
−
(1)
(1)
7(111)
111)
8(112)
112)∼ 9 (113)
10(114)
114)∼11(115)
(115)
12(116)
116)
2005, 11
2005
11.
. 4
2005
200
5, 11
11.
.10
2005
200
5, 11
11.
.18
2005
200
5, 11
11.2
.22
2
蕁麻疹型
蕁麻疹型
関節炎型
関節炎型
Er
Er
Er
Er
1a
1a
1a
1a
−
−
−
−
(1)
(1)
(1)
(1)
13(117)
117)
14(118)
118)
15(119)
119)∼16(120)
(120)
2005, 12
2005
12.
.13
2005
200
5, 12
12.
. 6
2005
200
5, 12
12.2
.21
1
関節炎型
関節炎型
関節炎型
Er
Er
Er
1a
1a
1a
−
−
−
(1)
(1)
(1)
17(121)
121)∼18(122)
(122)
19(18)
18)
2006, 1.17
2006, 1.31
関節炎型
関節炎型
Er
Er
1a
1a
−
−
(1)
(1)
市販ワクチン
Er
1a
+
1 -2
№
参照株(670)
【まとめおよび考察】
豚丹毒生菌ワクチン株(小金井 65-0.15)のマーカーはアクリフラビン耐性とマウスの病原
性であるが,本報告では,マウスの病原性の検査は実施していないので,生菌ワクチン類似
株という言葉を使用する。材料1(平成18年度上半期分)の8株および材料2(平成17年度発生農
場分離株)の19株を用いたPCRによる同定では,分離株はすべてErと同定することができた。
血清型別,アクリフラビン耐性試験およびRAPD法を併用した生菌ワクチン株との識別で
は,材料1の分離株8株のうち,慢性関節炎型からの分離された5株はすべて生菌ワクチン類似
株と判定された。生菌ワクチン類似株が分離された関節炎の摘発率は,この調査期間で0.006%
(と殺検査82,954頭中5頭)であった。材料2は発生農場で経時的に豚丹毒で摘発・届出られた
出荷豚からの分離菌であるが,豚丹毒が発生した農場では,終息後,食肉衛生検査所におい
て関節炎型で摘発・届出られた出荷豚からの分離菌は,すべて血清型1aの強毒株であった。
今回の調査では,散発的に生菌ワクチン類似株が関節炎から分離されるものの,豚丹毒発
生農場では終息後,本症の後遺症として認められる関節炎から生菌ワクチン類似株は分離さ
れるものではなかった。
【文献】
1) Akopyanz,N.et al.:DNA diversity among clinical isolates of Helicobacter pylori
detected by PCR-based RAPD fingerprinting.Nucleic Acids Res.20,5137-5142
2)Imada,Y.et al.(2004),:Serotyping of 800 Strains of Erysipelothrix Isolated from Pigs Affected with Erysipelas and Discrimination of Attenuated Live Vaccine Strain by Genotyping.J.
Clin.Microbiol.,42,2121-2126.
3)Makino,S.et al.(1994):Direct and rapid detection of Erysipelothrix rhusiopathiae
DNA in animala by PCR.J.Clin.Microbiol.,32,1526-1531.
4)Takahashi,T.,SawadaT.:豚丹毒,豚病学第4版,342-352,近代出版,東京(1999)
5) Takeshi,K.et al.(1999),:Direct and rapid detection by PCR of Erysipelothrix sp.DNAs prepared from bacterial strains and animal tissues. J.Clin.Mic-robiol.,37,4093-4098.