虚数乗法を持つヒルベルト尖点形式に対する 円分岩澤主予想について

虚数乗法を持つヒルベルト尖点形式に対する
円分岩澤主予想について —参考資料—
原 隆∗
(大阪大学大学院理学研究科)
第 6 回ゼータ若手研究集会
2013 年 2 月 15 日 長崎大学にて
以下 p は奇素数とし,有理数体の代数閉包 Q の埋め込み ι∞ : Q ,→ C, ιp : Q ,→ Qp を固定する.
■基本設定 (p 通常 CM 型)
F : 総実代数体
K: F の総虚二次拡大 (このとき K は CM 体 であるという)
c: Gal(K/F ) の生成元 (“複素共役”)
以下を仮定;
²
(unr) p は F に於いて不分岐;
¯
(ord) p 上の F の素イデアルは K で分裂
±
°
Σ: p-通常 CM 型; つまり K の Q への埋め込み全体の集合 IK の部分集合で,
- Σ ⊔ Σc = IK
(Σc = {σ ◦ c | σ ∈ Σ});
- Σp ⊔ Σcp = {p 上の K の素イデアル }
ιp
σ
但し Σp = {K −
→ Q −→ Qp が誘導する p 上の K の素イデアル | σ ∈ Σ}
を満たすもの (仮定 (ord) に依り p 通常 CM 型は存在する).
∼
※Σ−
→ IF ; σ 7→ σ|F に依り Σ と F の Q への埋め込み全体の集合 IF を同一視する.
■ヒルベルト尖点形式
(肥田の “二桁重さ” の表記による定義)
(κ1 , κ2 ) ∈ Z[IF ] × Z[IF ]; ヒルベルト保型形式の “重さ” (肥田の “二桁重さ” の表記)
∑
×
ε : A×
C× ; “Nebentypus” 無限型 κ1 + κ2 − t の (A0 ) 型量指標 (t = τ ∈IF τ )
F /F {→
¯
(
)
}
¯
a b
¯
∈ GL2 (rF ⊗Z Ẑ)¯ c ∈ N ⊗Z Ẑ ; 合同部分群 (Γ0 (N ) の類似)
Γ̂0 (N) =
¯
c d
I
F
∼ GL2 (R) (GL2 (F ⊗Q R) の連結成分) は,ポワンカレ上半平面 h の ♯IF 個
※ GL2 (F ⊗Q R)+ =
+
√
√
IF
の直積 h に座標毎のメビウス変換で作用する.i = ( −1, . . . , −1) に関する GL2 (F ⊗Q R)+ の等
方化部分群を Ci と表す.
以 上 の 設 定 の 下 で ,重 さ (κ1 , κ2 ), レ ベ ル N, Nebentypus ε の ヒ ル ベ ル ト 尖 点 形 式 は 関 数
f : GL2 (AF ) → C で以下の 3 条件を満たすものとして定義される;
1. (保型性)
各 α ∈ GL2 (F ), z ∈ Z(GL2 (AF )) (スカラー行列), u = uf u∞ ∈ Γ̂0 (N)Ci に対して
f (αxuz) = ε(z)εf (uf )f (x)Jκ1 ,κ2 (u∞ , i)−1
が成立.
∗
日本学術振興会特別研究員 (PD/23 · 200)
但し εf は ε の有限部分で,
((
(
)
a b
∈ Γ̂0 (N),
c d
((
) )
(
)
a b
a b
κ1 −t
κ2 −κ1 +t
Jκ1 ,κ2
, z := det(ad − bc)
(cz + d)
,
∈ GL2 (F ⊗Q R)+ , z ∈ hIF .
c d
c d
2. (正則性)
εf
a b
c d
))
:= εf (d),
各 z ∈ hIF に対して,GL2 (F ⊗Q R)+ の元 u∞ を u∞ (i) = z となるように選ぶ時,
fg : hIF → C; z 7→ f (gu∞ )Jκ1 ,κ2 (u∞ , i)
f
は全ての g ∈ GL2 (AF ) に対して正則関数を定める.
3. (尖点性)
各x∈
∫
GL2 (AfF )
に対して
AF /F
((
) )
1 u
f
x du = 0 (du は AF /F の適当なハール測度).
0 1
重さ (κ1 , κ2 ), レベル N, Nebentypus ε のヒルベルト尖点形式の空間を Sκ1 ,κ2 (N, ε; C) と書く (こ
れは κ1 + κ2 が t の整数倍でないと空集合).
f ∈ Sκ1 ,κ2 (N, ε; C) は (アデール的) フーリエ級数展開
√
C(ξyd; f )(ξy∞ )−κ1 eA∞
( −1ξy∞ )eAF (ξx), x ∈ AF , y ∈ A×
F
F
ヒルベルト尖点形式のフーリエ係数
((
f
y
0
x
1
))
= |y|AF
∑
×
ξ∈F+
×
を持つ (d は F の絶対共役差積, F+
は F の総正な可逆元全体のなす加法的モノイド).C(−; f ) は F
の整イデアル上定義された複素数値関数.これを f のフーリエ係数 と呼ぶ.
フーリエ係数が全て Q 代数 A に含まれるヒルベルト尖点形式のなす空間を Sκ1 ,κ2 (N, ε; A) と表す.
■虚数乗法を持つヒルベルト尖点形式
×
A×
K /K
(テータ持ち上げによる導入)
×
→C
(A0 ) 型量指標 (größencharacter of type (A0 )) 導手 C は Σp と素とする.
∑
∼
無限型を µ = σ∈Σ (µσ σ + µσ̄ σ̄) (∈ Z[IK ]) と書く; 即ち x∞ = (xσ )σ∈Σ ∈ (K ⊗Q R)× −
→ (C× )Σ
η:
に対して
η∞ (x∞ ) = x−µ
∞ :=
∏
σ −µσ̄
x−µ
x̄σ
σ
σ∈Σ
(x̄σ は xσ の通常の意味での複素共役).このとき µσ + µσ̄ は σ ∈ Σ に依らず一定値 −k をとる.
à 類体論に依り絶対ガロア群の連続指標 η gal : GK → OC×p と 1 対 1 に対応する.
¥
¨
ここで η の無限型が Σ-許容的; 即ち各 σ ∈ Σ に対して µσ < µσ̄ を仮定.
¦
∑§
∑
κ1 = σ∈Σ µσ σ|F ∈ Z[IF ], κ2 = σ∈Σ µσ̄ σ̄|F ∈ Z[IF ] とおく.
à 尖点的ヒルベルト原始形式 ϑ(η) ∈ Sκ1 ,κ2 (DK/F NK/F (C), νK/F η|A× | · |AF ; Q) で,素イデアル l
F
でのフーリエ係数が
{
0
C(l; ϑ(η)) =
η(L) + η(Lc )
l が K で惰性する場合,
l が K に於いて l = LLc と分解する場合
となるものが存在 (η のテータ持ち上げ; 吉田敬之, Hervé Jacquet, Robert Langlands).
但し νK/F は二次拡大 K/F に付随する二次指標で DK/F は二次拡大 K/F に対する相対判別式.
※殆ど全ての素イデアル l に対して C(l; ϑ(η)) = νK/F (l)C(l; ϑ(η)) が成立.
逆にこの様な性質を持つ尖点的ヒルベルト原始形式は全て CM 体の (A0 ) 型量指標のテータ持ち上
げとして表される.
(Ã CM 体 K に依る “虚数乗法”)
※ (ord) 及び導手の条件に依り ϑ(η) は p-概通常形式 となる.
f := ϑ(η) の “p-安定化” (大体 “レベルが p で割れるようにレベルを上げる操作”) とする.
資料集
N : 分数イデアルの絶対ノルム
Ôur : Qp の最大不分岐拡大の整数環
■CM 体の p 進 L 関数 (Nicholas Michael Katz, 肥田晴三, Jacques Tilouine)
F : g 次総実代数体, K: F の総虚二次拡大, (unr) と (ord) を仮定
d = dF : F の絶対共役差積, DF : F の 判別式, Σ: p 通常 CM 型
C = FFc l: K の整イデアル (但し FFc は F 上分裂する素イデアルの積, l は F 上惰性する素イデアル
の積で, F と Fc は互いに素で Fcc ⊇ F).
K × の元 δ で
(1δ ) δ は純虚数 (つまり δ c = −δ) かつ各 σ ∈ Σ に対して Im(σ(δ)) は正;
(2δ ) ある pCCc と素な F の分数イデアル c が存在して,〈u, v〉δ = (uv c − uc v)/2δ で定義される rK
∼
上の交代形式が同型 rK ∧rF rK −
→ d−1 c−1 を誘導する
を満たすものをとる.このとき,Ô ur [[Gal(KCp∞ /K)]] (KCp∞ は K に対する法 Cp∞ の射類体) の元
LKHT
(K) で,以下の 補間性質 で特徴付けられるものが唯一つ存在する;
p
∏
η gal (LKHT
(K))
(−1)kg (2π)|d| σ∈Σ Γ(k + dσ )
p
√
=
(r
:
r
)W
(η)
K
F
p
Ωkt+2d
|DF |Im(2δ)d
CM,p
∏
∏
L(0, η)
×
(1 − η(L))
{(1 − η(Pc ))(1 − N P−1 η −1 (P))} kt+2d .
ΩCM,∞
P∈Σp
L|C
但し各 P ∈ Σp に対し完備化 KP の一意化元を ϖP ,η の導手に於ける P の指数を e(P) と書くと
き,局所因子 Wp (η) は
Wp (η) =
∏
−e(P)
N P−e(P) ηP (ϖP
∑
−e(P)
ηP (x)eP (ϖP
(2δ)−1
P x)
x∈(rK /Pe(P) )×
P∈Σp
で定義され,さらに η :
)
×
A×
K /K
→C
×
は導手が Cp∞ を割るような (A0 ) 型量指標で以下の 2 条件を
満たすようなものを任意に動くものとする;
(i) η の導手は F の全ての素因子で割り切れる;
∑
∑
(ii) η の無限型を −kt − σ∈Σ dσ (σ − σ̄) (t = σ∈Σ σ) と表したとき,k 及び dσ (σ ∈ Σ) が以下
の何れかを満たす;
(a) k ≥ 1 かつ 各 σ ∈ Σ に対し dσ ≥ 0;
(b) k ≤ 1 かつ 各 σ ∈ Σ に対し k + dσ − 1 ≥ 0.
∑
(補間性質の等式では d = σ∈Σ dσ σ の表記を用いた)
ΩCM,p ∈ (Ôur ⊗Z rF )× , ΩCM,∞ ∈ (C ⊗Q F )× はそれぞれ Katz の p 進 / 複素 CM 周期.
※ p 進 L 関数 LKHT
(K) は上記の (1δ ), (2δ ) を満たす δ の取り方に依存するが,δ を取り替えた際
p
の影響は全て明示的に書き下せる.
■ヒルベルト尖点形式の p 進 L 関数
χcyc : Gal(F (µp∞ )/F ) →
∗
Z×
p
(Yuri Ivanovič Manin, 落合理, Mladen Dimitrov,......)
p 進円分指標
k ∈ Z[IF ] に対し k = maxτ ∈IF kτ , k∗ = minτ ∈IF kτ と定める.
f ∈ Sκ1 ,κ2 (N, ε; Q) を正規化された p 安定な固有尖点形式とし,さらに p に於いて概通常であると
仮定する.O を Qp の “十分大きな” 有限次拡大の整数環とするとき,(f に付随する剰余ガロワ表現に
関する技術的な仮定 (Vanρ̄f ), (Irρ̄f ) の下で) 岩澤代数 O[[Gal(F (µp∞ )/F )]] の元 Lp (f ) で以下の補間
性質で特徴付けられるものが唯一つ存在する;
χjcyc φ(Lp (f ))
= G(φ−1 )
∏
Γ(j − κ1,τ )
τ ∈IF
∏
Ap (f ; φ, j)
p|p
(−2π
√
−1)jd
∏
L(f ; φ, j)
Γ(κ∗1 + 1 − κ1,τ )Cf,∞
sgn(φ)
τ ∈IF
.
但し j は κ∗1 + 1 ≤ j ≤ κ2,∗ を満たす任意の整数を動き, φ は Gal(F (µp∞ )/F ) の任意の位数有限な
指標を動く. G(φ−1 ) は φ−1 に対するガウス和であり,p 上の素点での局所因子 Ap (f ; φ, j) は,αp (f )
を二次方程式 X 2 − C(p; f )X + ε(p)N p = 0 の根のうち “p 概通常” であるものとしたとき




1 −
∗
N pj−κ1 −1
αp (f )φ(Frobp )
Ap (f ; φ, j) = (
)ordp (c(φ))
j−κ∗
1 −1

N
p



αp (f )
p が φ の導手 c(φ) と素であるとき,
p が φ の導手 c(φ) を割り切るとき
で与えられる.
ϵ
Cf,∞
∈ C× は (モジュラーシンボル) 周期と呼ばれる複素数.
※ 上記の補間公式は,楕円保型形式の場合の Amice-Vélu, Manin-Višik の p 進 L 関数と同じよ
うなタイプの補間公式となっている.
■Greenberg の Almost Divisibility 判定法
(Ralph Greenberg, プレプリント)
F : 代数体, S: p 上の素点及び無限素点を全て含む F の素点の有限集合
FS /F : S の外不分岐な F の最大ガロア拡大
R: 標数 p の有限体を剰余体に持つ標数 0 の完備局所ネーター正則整域
R∨ = Homcont (R, Qp /Zp ): R のポントリャーギン双対
T : Gal(KS /K) の連続作用を持つ R 上の有限階数自由加群, D = T ⊗R R∨ : ポントリャーギン双対
T ∗ = Homcont (D, µp∞ ): D のクンマー (カルティエ) 双対
離散 R-加群 A が,有限個を除いた全ての高さ 1 の R の素イデアル P に対し PA = A を満たす
¤
¡
とき£R-almost divisible ¢であるという.
各 v ∈ S に対して局所ガロワコホモロジー H 1 (Fv , D) の部分 R 加群 L(Fv , D) を固定し,L-セル
マー群 SelL (F, D) を大域-局所制限写像
φL : H 1 (FS /F, D) →
∏ H 1 (Fv , D)
L(Fv , D)
v∈S
の核として定義.以下を仮定:
(RFXR ) R は反射的 (reflexive);
(LOCD,S ) 或る非アルキメデス素点 v ∈ S に対し (T ∗ )Dv = 0 (但し Dv は v での分解群);
(1)
(LOCD,S ) 全ての v ∈ S に対し T ∗ /(T ∗ )Dv は反射的;
[
]
∏
(LEOD ) X2 (F, S, D) := ker H 2 (FS /F, D) → v∈S H 2 (Fv , D) のポントリャーギン双対が捩れ R-加
(2)
群;
(SURD ) φL が全射.
∏
さらに v∈S L(Fv , D) が R-almost divisible であるならば,SelL (F, D) も R-almost divisible.
※ (LEOD ) は古典的な場合の弱レオポルト予想に関係する非常に非自明な条件.