未来型インフラ としての上下水道

2008年10月1日
株式会社トキメックは に 社名変更いたしました。
〒144-8551
東京都大田区南蒲田2-16-46
TEL.03-3732-2111 FAX.03-3736-0261
http://www.tokyo-keiki.co.jp/
TOKIMEC REPORT
1999 WINTER
“モーツァルトの演奏では絶対に開放弦を使ってはな
必要不可欠な要素であり、ビジネスの基本でもあるか
らない!” 20世紀初期を代表する指揮者、ブルー
らだ。その基本を再度徹底し、忠実に遂行しようとい
ノ・ワルターは言った。
う行為は決して間違ってはいない。しかし、合理性を
バイオリンの弦は下からト、ニ、イ、ホと調弦されて
追求しているだけでは新しい価値を生み出すことはで
いる。ニ長調の和音を弾く場合、
「ニ」と「イ」を指
きないのも事実だ。お客様にとって、安く、早く、確
で押さえずに開放弦を使い「ホ」の弦だけで一音高く
実にというのは必要条件であり、決して十分条件では
「嬰ヘ」にすれば簡単に弾くことが可能だ。しかし、ワ
ない。むしろ、いま求められているのは満足条件とも
ルターは、その奏法を決して許さなかった。そんな奏
言うべき新しい価値の提供なのである。
者がいると「モーツァルトが聴いたら何と言って嘆く
勝手な想像だが、ワルターが糾弾したのは開放弦の使
ことか」と声を荒げたという。
用そのものではなく、プロ奏者としての姿勢ではなか
現代社会は合理性至上主義の時代である。結果が同じ
ったか。音楽は演奏が終了すれば消滅してしまう芸術
ならば、そこに至るまでの過程はシンプルであるのが
作品だ。残るのは心の中に刻まれた感動のみである。
正しい。極論すれば結果さえ出れば過程は問わないの
聴衆に感動を与えることができなければプロの音楽家
である。コストや効率を考えれば当然の帰結だ。それ
とは言えまい。ワルターはモーツァルトという天才を
は、ワルターがモーツァルトの演奏にこだわった思考
自らがイメージする音楽で再現し、聴衆に感動を与え
形式と対極にあるようにも見える。
たかったはずだ。だからこそ一切の妥協を排すため開
しかし、本当にそうなのだろうか?
放弦の使用を禁じたのに違いない。
いま、産業界では構造改革と事業再編成が強力に推し
それは、新しい価値の提供を通じて顧客満足を実現し
進められている。その根底には、あくなき合理性の追
ようとする姿勢にもどこか似ている。お客様に感動を
求があるのは言うまでもない。合理性は商品やサービ
与えること、それは芸術の世界だけに求められるもの
スをより安く、より早く、より確実に提供するために
ではない。
(N.T)
平成 11 年 12 月発行(通巻 96 号)
発 行/
株式会社トキメック 営業統括室
〒 144-8551 東京都大田区南蒲田 2-16-46
TEL.03-3730-7013 FAX.03-3733-3690
発 行 人/ 黒 石 守 郎
編 集 人/ 今 野 二 郎
編 集 協 力/
(株)パルナス
本誌に対するご意見、お問い合わせは営業統括室まで
URL :http://www.tokimec.co.jp/
Mail:[email protected]
未来型インフラとしての
上下水道
特集
Technical Report
16
地球の重力とその計測方法
TOPICS
18
油圧システムの復権を目指すCPS
新しい省エネ型油圧システムの誕生
SCIENCE & TECHNOLOGY
20
基幹産業となるバイテク
Interview
日本の農業は 情報システム化に
乗り遅れてはいけない
23
Contents
12
未来型インフラ
としての上下水道
HOT LINE
高精度測定と小形軽量化のニーズにお応えします
超音波流量計「UF-900シリーズ」
電源 / 信号の分離が不要の2線式電波レベル計誕生!
電波レベル計「レベルショット」MRG-10
機動性に優れた小形軽量ボディで探傷作業をサポート!
ディジタルポータブル超音波探傷器 sonoStar-100
建設・建築現場での作業を省力化!
特定小電力ワンハンド比例ラジコンPHシリーズ
未来型インフラ
としての上下水道
特 集
先の阪神大震災は、水道システムがいかにライフラインの要たるかを再認識させた。
しかし、生活や産業活動に直結したこのインフラストラクチャーは
いま、環境問題や加速的需要増を背景とした一大転機に差し掛かっている。
それは水量、水質から循環システムまで、データに基づいた最適管理が求められる時代が
到来したことを意味する。将来へ向けた継続的な利用を念頭に
情報化を付加したこれからの水システム構築を俯瞰していこう。
特集:未来型インフラとしての上下水道
加速する需要増を見据え
リソースとコストの最適管理を追求する
人類の生命は地球上を循環する水に支えられている。自然のホメオスタシスを壊さず、また安定した水利用システム
を維持するためには、水質、利用内容、供給量、排水処理方法などを多角的に監視・分析し、常に情報を蓄えてお
りの年間使用量で見れば、日本はアメリ
バーゼルなどでは取水地付近を保護地域
システムが再生しきらないうちに次なる
カの約 40 %、そしてイギリスの4 倍とな
に設定し、地下水を汲み上げて各戸に送
利用を行うと、単に水源を枯らすばかり
る。1 世紀の時を経て、我が国の水シス
水している。そのため、こうした地域で
でなく、例えば地盤沈下のように取り返
テムが都市型へと発展したことはこの数
は地上から水を散水し、地下に浸透させ
しのつかない結果をも引き起こす。そう
字が物語っているだろう。
ることで、常時補給している。その際、
しないためには、長期間に渡って水シス
給水源として、火山帯の麓に広がる熊
ちょうど土地自体が自然の濾過装置とし
テムをモニタリングし、早め早めの対策
本や鹿児島などの一部の地下水利用地域
て浄化効果を発揮するのが特徴だ。地下
を立てていくことが継続的利用には不可
を除けば、一般には河川からの水、表流
水は主に被圧地下水と呼ばれる深層の水
欠だ。
水が利用されている。ただし、地球温暖
(自律的に流動しないため、日本では水位
現在、各自治体などでは水資源の利用
く姿勢が重要だ。まさに水の利用は「水」を知るところから始まるといってよい。そこで、まずは、水を育む自然界
化に伴う降雨量の変化は、雨に負うとこ
によって地震の地殻変動調査の指標とし
に関するネットワークとデータベースによ
のなかで、近年、水がどのように動き、我々がどう利用することができるのか、地球規模で概観するところからはじ
ろの多い表流水が減少する可能性も否定
ても利用される)が主に取水される。日
るシステム構築を進めている。核になる
めてみよう。
できない。渇水などの緊急時に備える意
本の大都市部では地下水は地盤沈下の恐
のはやはり過去の基礎データだ。そのた
味でも、天然水源だけでなく多様なソー
れや電気やガス、地下鉄などの地下埋設
めに、まず、既存設備を利用した日々の
スを確保しておくに越したことはない。
物があるため、利用に規制がかけられる。
モニタリングが根底になくてはならない。
では、それにはどんな手段が存在する
東京下町の江東区、葛飾区などでは明治
また、その地域の水の利用が、表流水
のだろうか。まずは、雨水や施設内排水
以降の水道、井戸併用時期に人口増も相
か、湧水・地下水涵養をしながらの取水
■自然の水サイクルで何が起きているか
よる水域の生態系への影響も懸念される。
る。そのために、今後はネットワークと
の高度処理による再利用、地球上の
まって過剰な吸い上げをしたため地盤が
なのか、はたまた淡水化の利用か、ある
温室効果ガスの削減などをめぐっては、
データベース機能を付加した情報システ
97.5 %を占める海水を活用する淡水化の
沈下したが、一度沈んでしまえば、どん
いはそれらの手段の組み合わせかなど、
海に戻る。その一部は地中に浸透して、
地球温暖化防止京都会議が1997年に開催
ムを活かして、人と自然の織りなす複雑
例がある。前者は東京ドームや新国技館
なに水分を補給してももう戻らない。ヨ
システムのハード面全体を広域的に捉え
地下水を潤す。大気に囲まれた自然界を
されたが、世界的なレベルで水システム
な水システム(水のサイクルとリサイク
のような大きなスポーツ施設の地下に約
ーロッパの例のように涵養しながら取水
る視野も必要だ。それがないことには、
循環する水は、尽きることのない資源と
を含めた環境を意識的に考えなければな
ル)をより明確に把握していこうとして
1,000 m クラスの貯水空間を設置し、そ
するなど留意が必要だ。
水資源開発施設であるダムや送水管建設
言われる。だが、社会・生活における水
らない歴史的局面を迎えていることは明
いる。蓄積した過去のデータをまとめる
のままでは蒸発したり、下水道に流れ込
こうした事例から言えることは、安定
利用は天候などの自然的な要因に左右さ
らかなようだ。
ことで、さらにそれぞれのエリアの水道
んでしまう雨水を比較的きれいなうちに
した水システムの構築には、地域特性が
データが取れていれば、既設の施設に速
地上に降り注いだ雨が河川に流れ込み、
3
に際して、適正な能力設定ができない。
れやすいため、人為的にコントロールす
人工の水システム(上下水道等の運用)
システムの問題点を浮き彫りにすること
回収して効果的に利用する工夫だ。淡水
非常に強く影響するということだ。併せ
やかに機能を付加したり、補ったりする
ることは難しい。たとえば、日本の年平
は、微生物による分解や自然の土壌濾過
が可能になり、より完成されたシステム
化の研究・活用は、淡水が入手しにくい
て、水事業がその地域の自然環境や人々
こともできる。森林や農地の整備などを
均降水量はおよそ1700mm と世界平均降
機能による自浄作用で成り立つ自然循環
としての水循環を次世代にも引き継ぐこ
沖縄や福岡などで始まっている。
の暮らしぶりに応じた、きめ細かいもの
含めた地下水の涵養や水源汚染の防止な
水量970mmの約2 倍に相当する。しかし
システムの中に、ある意味、割り込んで
とが可能になるだろう。
でなくてはならないことも示唆している
ども、それぞれの地域において最適なシ
この数字は人口密度を考慮すれば決して
いくことだとの見方もできる。だからこ
だろう。
ステムを見出すことが容易になるだろう。
大きいものではない。事実上、利用者か
そ、取水から排水に至るシステム、ある
ら見れば、水は使用量の限られた世界共
いは気体(排ガス)・固体(ゴミ)排出
明治時代の実業家・渋沢栄一は東京市
以上の漏水があるとも試算され、これは
有の財産だ。
コントロールまで含め、自然本来のサイ
への上水道導入時期(1890年代前半ごろ)
生活用水の 10 %近くに匹敵する量であ
冒頭で世界的な水システムが切迫した
クルを乱さないようしていくことが我々
に、海外からの輸入水道管の利用を提唱
る。それ故に、足元の漏水管理はもう 1
事態に直面しつつあることに触れた。し
21世紀に向けても、人口・産業拡大の
に課せられていると言える。
した。ちなみに、近代水道の先輩格のイ
つの水源確保と言われる。
かし、なぜ、このようにまで追い詰めら
傾向はまだまだ鈍りそうにない。その分
ところが、世界人口は増え続けている。
国連事務総長の発表によれば、1995 年の
時点で、世界で3分の1を占めていた水不
我が国でも、国土庁が 1999 年の 6 月
足人口は、途上国などを中心に2025年に
「ウォータープラン 21」を発表。水資源
は3分の2まで増加するという。需要拡大
白書(平成11年度)によると、このプラ
の一方で、世界規模の異常気象が供給面
ンで持続的水利用システムの構築、水環
に影響を及ぼすとも報じられる。特に温
また、既設の水道管からのわずかな漏
水も集積すると意外に無視できない量と
■多様な水源からなる都市型水道
なる。一説には、全国総計で年間10億m
それぞれの長所と短所を分析し相補的に
3
■水循環システムを監視する意義
組み合わせ、リスク分散的な治水事業も
可能になる。
ギリスでは、テームズ川流域のロンドンに
海外ではどのような給水源を求めてい
れてしまったのだろうか。理由のひとつ
確実に水需要も増加し、水源を初めとし
おいて1860 年代に上下水道がほぼ完成、
るのだろうか。例えばヨーロッパでは、
は、明らかに人口や産業の拡大だ。そも
た自然界のダメージは否応なく強まるこ
トイレの水洗化が始まる時期であった。
ライン河のように複数の国々が共有する
そも水の変化は、長い時間をかけて起き
とになるだろう。安全な水を次世代に引
ひるがえって現在、我が国の水使用量
水資源がある一方で、適当な河川が得ら
る。なかでも、地下水の再生には1,400年
き継ぐために、一方で、ライフラインと
境の保全と整備、そして危機管理施策の
は生活用水と工業用水で約891 億m 、農
れない都市もある。そこで、湧水や地下
かかるとも言われている。ところが、水
いう生命の根幹に関わるシステムを強固
暖化による降水量の偏在や砂漠化などは、
充実を、地域の「実状や特性に応じた計
3
業用水が約590 億m (取水量ベース、平
水を利用するケースも多い。ドイツのベ
需要増加のスピードは、自然界の循環ス
に構築していくためには、あらゆる英知
水系への打撃が大きい。また、酸性雨に
画を策定」し、実現することを唱ってい
成8年度データ)
。人口で割った一人当た
ルリンや時計づくりで知られるスイスの
ピードをはるかに上回ってしまった。水
を傾けていくことが必要だろう。
2
3
3
特集:未来型インフラとしての上下水道
化され造られる水道水の水量のほぼ半分
上水道 を見張 る集中管理 システム― ブロック配水網
に相当する量だ。この水を地震直後の混
乱期に市民に生存のための最低限の水と
「危機管理」という言葉が阪神大震災以降、特に注目されるようになった。ポンプによる揚水で遠く離れた水源から市街地ま
で送水している場合などには、停電などの非常時の給水が問題になる。そのため、平時から効率的な維持管理方法と立ち直
りの早い上水道システム造りを行い、ライフラインとしての機能を強化させておく必要がある。そのなかでもブロック配水を
して提供していく考えだ。市ではこの間
に、復旧チームによるいち早い補修を行
っていくというシナリオを立て、万が一
採用している横須賀市の事例を中心に、情報化された水管理システムをご紹介しよう。
に備えている。
そのため、普段から配管の強化・改修
■複雑な地理制約を克服
44 年に発足。これによって、重複した投
■災害に強い上水道を造る
にも取り組んでいる。これはちょうど上
横須賀市は、その特異な地理条件によ
資を回避するなど、限られた水源を共同
災害時に問題になるのは、停電になっ
水道の普及率が 99.95 %に達した昭和 55
って、きわめて先進的な水道システムを
開発・利用するために足並みをそろえて
てポンプ機能がストップしたり、あるい
年頃から、埋設管の維持管理と同時に旧
開発してきている。まず、その地理的条
きた。
は管自体が破断してしまい断水状態に陥
式の管を新しいものに交換するなど、そ
また、同市は非常に起伏の多い複雑な
ることだ。そこで、対応策として、前者
れまでの普及拡張的な性格から、ライフ
三浦半島に位置する横須賀市には、水
地形をしており、数多くの地点にポンプ
に対しては異なる地区から二系統で電力
ライン確保の姿勢へと移行していった時
源として活用できるような大規模河川が
所を設置し揚水することが不可欠となっ
供給を受けたり(横須賀への入り口とな
期に始動している。地理的制約を克服す
ない。需要量の大部分は他市を越えて酒
ている。結果、送水ポンプ所が 20 か所、
る重要ポンプ所)、自家発電装置を備え
る取り組みに震災対策がリンクしたこと
匂川や相模川に求め、市外 5 つのルート
配水池 29 か所が現在までに設置された。
るなどし、電源確保を行っている。また、
で、同市の水道システム構築には、情報
から取り込んでいる(下図参照)
。結果、
こうした開発努力によって、各戸への安
破断部分からの水の噴出による2次災害
化をキーとした明確な形が与えられたの
水源から各戸にいたる横須賀市の水道管
定した水圧の維持を実現させているのだ。
の発生には、緊急遮断弁による水流出の
だ。
は大小含めて、その総延長は約 1,500km
これら地形条件に加え、三浦半島周辺
にも達する。もちろん水源となる大規模
にユーラシア、太平洋、フィリピンの 3
いずれにせよ、市内に小規模な湧水水
なダム開発は、その全てを 1 市だけで負
つのプレートがひしめきあっていること
源しか持たない同市にとっては、いかに
それが、
「水運用システム」
「マッピン
えるものではない。そこで、神奈川県、
が、同市の水道事業策定に強く関係して
震災直後の給水(その手段と量)を確保
グシステム」の導入だ。「水運用システ
川崎市、横浜市と連携し、「神奈川県内
くる。つまり、上水道の震災対策だ。
するかが重要な課題である。これには、1
ム」では水源地から配水池までを担当し、
件から見ていこう。
広域水道企業団」と呼ばれる組織を昭和
った解決策が取り入れられている。たと
主査 鈴木好平 氏
■最適な運用を実現するシステム
市内全域の配水状況を把握できる中央監視盤
“監視制御”
“予測と計画”を主機能に最
適水運用を測るシステムだ。
えば、配水幹線と本管のある区域部分を
一方の「マッピングシステム」は各配
太くしておき、先の緊急遮断弁が閉じる
水池から、各家庭、事業所に至るまでの
ことで貯水槽に早替わりする。弁は地震
エリアをブロック化し、支管に取り付け
計などにより、一定ガル以上の加速度等
られたメータなどからの情報をデータベ
の条件で自動的に閉まるように設計され
ースにまとめることで情報の可視化、共
ている。したがって、平常時は常に新し
有化を目指したシステムである。
い水が循環する大口径の配管も、遮断弁
エリアはまず、調整機能を持つ1万m3
の作動によって一時的な貯水機能を自動
以上の配水池により5つの地域に市を大
的に持つようになる。これは配水池やポ
きく分割し、これを大ブロックとした。
ンプ所についても同様だ。
次に、これを200∼5,000m3 の給水需要量
市では、こうした対策によって貯水さ
非常時において、管や施設からの出水を最小限にくい止めるための緊急遮断弁
をもつ 28 の中ブロックに細分。さらに、
ち、中ブロックと小ブロックにおける管
な目標は地域の現状をいかに忠実に表現
れる緊急時の水量は約 15 万m と推定し
このブロックを給水人口2,000 ∼4,000 人
路の情報を、路上の建物や遮断弁などの
するかにある。各ブロックのポイントと
ている。これは、横須賀市に水を供給す
を単位とした約 170 の小ブロックに分け
付加情報と随時、重ね合わせて一枚の分
なる管には流量計などが設置され、計量
る逸見、有馬、小雀の浄水場で一日に浄
ている。マッピングシステムではこのう
布図として表示する。システムの最終的
区域ごとにリアルタイムにデータをシス
3
4
横須賀市水道局 事業部 浄水課
主任 長谷川浩市 氏
防止対策がとられている。
つには複雑な埋設配管の状況を逆手にと
図:横須賀市の水源と取水系統
横須賀市水道局 事業部 経営計画課
5
特集:未来型インフラとしての上下水道
増加 する汚水 の処理 と有効活用 がテーマの下水道
下水道の普及とともに、管渠に流れ込む汚水の量が近年増え続ける傾向にある。そのため、終末処理場では処理機能の充実
をはかると同時に、従来まで廃棄物扱いだった大量発生する汚泥や処理水を、資源として見直す効果的なリサイクル方法を
模索している。相模川流域下水道事業や再利用の例を通して、こうした下水道事業の進むべき方向を探ってみたい。
■汚水処理パフォーマンスを向上させる
路上に設置された超音波流量計(UF-800)のピットとセンサの設置部(写真右/センサは白い箱の中に格納)
ここで計測された流量データがテレメータを通じて本局に伝送され、遠隔監視される。
(横須賀市内)
超音波流量計UF シリーズの最新モデルUF-900。
従来機より大幅な小形・軽量化を図ると共に、
さらに高い測定精度を実現している。
の周辺に集まる市や町では、下水道施設
濃い水が集まるようにもなってきた。
下水道は、地下に埋設される管渠、揚
を共有、管理する流域下水道を形成して
流域下水道において、流量などの計測
水するポンプ場、汚水を浄化する終末処
いる。相模川流域下水道の右岸の終末処
が必要とされるポイントは大きく2種類
理場で構成され、その管理内容によって
理場である四之宮管理センターでは厚木
ある。
公共下水道と流域下水道に大別される。
市、平塚市など3市2町から流入する汚
個々の市や町が独立して整備するのが公
水を最終的に処理している。
まず1つめは流域下水道の幹線に流れ
込む各市町からの下水の流入量の測定、
共下水道であり、終末処理場の数で全体
ここでの下水道幹線に集まる汚水の内
および幹線管内にいくつか設置された流
テム側に蓄積していく。これをもとに、
ては、流れが向かう方向を需要量に合わ
な流量計測が要となる。その際、管内を
の6割を超える。一方、運営の効率化や
訳は、主に生活排水や工業排水、および
量計による監視だ。幹線への接続点にお
水理計算を行い、漏水および破損個所を
せて逆転することも可能だ。直線的な在
流れる水かさの最大、最小量の範囲が広
経済性を高める目的で、ふたつ以上の市
雨水である。都市活動によって生ずる排
ける流入量の測定についてだが、これは
絞りこみ、減圧家屋を特定するところま
来配水では、上流にトラブルが発生した
く、計測誤差が出やすいことが課題とな
や町が協力しあい、広域的に汚水を幹線
水は、相模川流域下水道でも下水道普及
接続する市や町が管理主体となり、その
で高い精度を発揮することを目標として
とき下流側が一斉に影響を受けたりする
る。加えて、管渠内の水が需給状況に応
に集め、まとめて一括処理する形態が流
率と処理人口の増加にともない、終末処
流入比率によって処理費用などを分担す
いる。そして修理時に古い管を交換。こ
ことあるが、ブロック配水はこうした弱
じて双方向に流れるような場合には、流
域下水道といわれるものだ。近年では地
理場への総流入下水量が年々増える傾向
る際の指標として利用されている。一方、
れによって、ブロック全体の強度を少し
点を克服する機能を備えている。
量計がこれに対応していなくてはならな
方都市やその周辺地域を中心に拡大し、
にある。特に、上水道利用量のピークを
基幹をなす幹線内の測定は管理センター
ずつ向上させていく形をとっている。横
さらには漏水管理の徹底にも威力を発
い。こうしたニーズに対して、トキメッ
平成 10 年度末で 42 都道府県のなかの約
迎える夏期が、下水処理においても同じ
が担当する。異物や気泡など多くが混入
須賀市ではこのようにブロック配水と安
揮する。受益者負担制度で行われる水道
クの超音波流量計 UF シリーズが、北見
150処理区で、供用が開始されている。
く年間最大量になる。これに降雨や降雪
する未処理の汚水量を開渠用のドップラ
全管理システムを融合している。災害に
事業は、各戸の使用量をきちんと計算し、
市をはじめとして全国でご採用頂いてい
横浜、川崎などの主要都市を擁し、下
といった自然的変動がプラスされ、年間
ー式超音波流量計などで測定し、上流か
強い水道システム構築は現在も着々と進
それを安定的に収入源として確立するこ
る。同シリーズは、双方向計測が可能な
水道普及率が全体平均で85%を超える神
を通して水量は常に変化する。また近年
ら下流にわたる「流れ」の全体像を把握
行中だ。
とで成り立っている。水の使用量に基づ
ほか、流れる水量が少なくなったときでも
奈川県。しかし、内陸地域では地理的条
では、都市化の傾向が強まり、深夜の排
するよう努めている。
く利用料の適切な回収率は有収率といわ
信頼性の高い数値を出力するダブルレン
件や構成人口などにより、普及率に開き
水が増えつつある。その一方で、利用者
2つめのポイントは、終末処理場内に
れるが、この数字が漏水によって落ち、
ジ機能を持つことで、わずかな水量変化
のある地域が混在しているところも多い。
の節水意識の高まりや省水タイプのトイ
おける処理水の各種計測である。処理施
実状と合わなくなると水道事業の運営そ
も見逃さず、漏水の発見に貢献している。
そこで、県西部を流れる相模川と酒匂川
レタンクの普及などにともない、汚れの
設ではさまざまに変量し、流入してくる
■流量計を駆使した配水管理
次に、効率的な配水管理と流量計の関
係を見ていこう。ホテルなど一日を通し
のものに影響が及ぶ。
◆◆◆
て水を使用するような施設を除いて、一
例えば北海道北見市でも、有収率向上
横須賀市の事例を中心に、現在構築さ
般的には工場や事業所、家庭などでは一
を目的の 1 つにブロック配水が導入され
れている上水道システムの一端をご紹介
日の水使用量に上下がある。そうした施
いる。市内を24 のブロックに分割。ブロ
した。安定した配水網の確立には、まず
設においては常時、一定の供給量を必要
ックごとに流量計を設置し、リアルタイ
優れた集中管理機能が必要だ。そこでは、
としているわけではない。これを考慮す
ムにデータを集計することで、漏水発見
適切な水量、水圧、水質等の正確な基礎
ると、配管の送水能力を適切にできたり、
から修繕完了までの時間を一気に短縮し
データを不断にモニタリングすることが
ポンプ所の運転を抑えることによって、
た。これによって、給水の合理化と各戸
重要な役割を果たしている。何よりも正
電力コストを抑えることもできる。
に行き渡る水の安定供給を達成すること
しい情報源があってこそ、それらを集中
ができた。
管理し、判断し、迅速な対応を生み出す
特に網の目のように地中に張り巡らさ
れたブロック配水網では、時間帯によっ
最適配水管理、また漏水監視では正確
ことが可能になるのだ。
下水処理プロセスの概念図
(財)神奈川県下水道公社 業務部
四之宮管理センター
所長 林 雄二 氏
6
7
特集:未来型インフラとしての上下水道
高段着水井でのレベル管
理に活躍する電波レベル
計「レベルプロ」
。マイク
ロ波によって測定対象に
非接触で高精度なレベル
を計測する。
流域下水道の幹線との接続点には超音波流量計 UVH-1000K が設置されている。
下水処理に要した費用を、受益者が使用した分だけ公平に負担していただくた
めの指標として利用されるほか、終末処理場に流れ込む下水量を予知して処理
場の能力を最大限に発揮させるために役立っている。
水処理施設への流入汚水
量の検出センサとして超
音波ポンプ流量計 UDF500 が採用されている。
流速の不安定なポンプ出
口付近や、異物混入の多
い汚水などの流量計測に
適したヘビーデューティ
仕様が特長だ。
電波レベル計「レベルシ
ョット」の低段沈砂池水
路における水位計測実験
の模様。微弱電波機器認
定済のマイクロ波インパ
ルスを使用しているので
開水路でのレベル管理に
適している。
の助けを借りて状況を把握し、ポンプな
とで投下した費用をうまく活かそうとい
の電力自給率の3分の1をもまかなえる
どの機械の良不良を診断、メンテナンス
うわけだ。環境保全という面でも優れた、
との試算も出ている。
を行う仕組みだ。いかに処理機能を低下
効率的なコスト縮減と言えるだろう。
また、マルチメディア時代の到来を見
させずに、無事動かすことができるかど
汚泥処理に関しては、セメント資材や
据え、地下にはりめぐらされた各戸を結
うか。こうしたテーマに地道に取り組む
透水性ブロックなどの建設資材利用が増
ぶ下水道空間に、光ファイバーケーブル
ことで、流入汚水のさまざまな変化に対
えている。上述の四之宮管理センターで
を施設する計画も進む。下水道の管理と
しても柔軟に対応できる経済的な処理シ
も増えゆく汚泥の問題を解決する手段と
一般情報通信網としての機能を兼用する
ステムの維持が可能になっているのだ。
して、セメント資材への再利用に取り組
ものだ。
んでいる。透水性ブロックは雨水の地下
下水の浄化処理技術そのものも、ハイ
浸透技術のひとつであり、アスファルト
テクの力を利用して進歩しつつあるよう
第8次下水道整備七箇年計画が進行す
で被覆される都市の地表と地下の間で水
だ。日立製作所と大林組が超伝導と植物
る現在、下水道普及率は約 58 %(平成
循環を取り戻す土木ツールとして注目さ
利用を組み合わせた浄水システムを研究
10年度)に達した。人口5万人以下の地
れている。また、汚泥の処理形態のひと
している。鉄粉を汚水中にまぜ、富栄養
方の市町村などでは下水道普及率20%の
つである脱水ケーキは適切な乾燥処理に
化の原因となるリンを吸着したところを
数字に満たないところも多いが、人と自
よって石炭と同程度の発熱量をもつ燃料
超伝導磁石で除去する仕組み。超伝導磁
然の調和を考えた最適システムの構築が
に再生できる。東京都では脱水ケーキを
石の利用で電力消費量が少なくて済む利
望まれている。近年の下水道事業は、大
一日あたり250m 処理できる施設で、こ
点がある。これにアシなどの水生植物の
都市から小規模都市へと移行しつつあり、
うした固形燃料を製造、所内で活用して
もつ自然の窒素吸収力を併せて、微生物
下水道、集落排水、合併式処理浄化槽な
いる。脱水ケーキは、全国における年間
の異常発生などを抑える方法だ。特に湖
どの複数の整備手法の中から、条件に適
の最終処分汚泥総量240万m のうちの157
沼のような閉鎖水域で汚濁防止が期待さ
したものが選択されている。
万m (65.5%)を占めている。そのため、
れる。基本的に汚染は汚染元できれいに
ところで、近年、汚水処理や水質保全
資源転換された場合は極めてメリットが
するというのが浄化の考え方といえる。
機能が主たる下水道システムを捉え直し、
大きいと言える。今後の研究が期待され
るところだ。
■下水道の秘める資源の活用
3
3
3
日本では、広大な面積を持つ濾過施設
汚水(いわば処理場内へのインプットと
べての汚水を、安定的かつ継続的に受け
を含めた下水の質・量の変化を10年、20
それが持つ「資源」を活用しようという
なる水)をなるべく処理場の運転計画に
入れる体制づくりを目指してきた。処理
年単位で見通すとなると、その設備が恒
動きが各地で盛んになってきた。
「資源」
消化ガスはメタンガス約60 %、炭酸ガ
に関してもこうしたハイテクや"バイテク
見合うように調整している。こうするこ
場には沈殿、曝気などを行う一連の処理
久的に機能させられるか予測することは
としての期待がかかるのが下水処理水、
ス約35 %を含んでいるため、燃焼させる
"を駆使したノウハウを蓄積している。公
とで、効率の良い運転を行い、十分な浄
水槽が合計10系列計画されているが、現
なかなか難しい。もちろん、ある程度の"
最終処理段階で発生する汚泥、そして温
ことで発電機を動かし電力を採取できる。
害や産業廃水などが問題になっているア
化が可能になってくる。そこで、処理場
在うち5系列が稼働中だ。昭和48年に供
拡張性"を施設に持たせることは可能だ。
度やガスなどのエネルギーだ。住民の共
全国1,293の終末処理場のうち、まだわず
ジア・アフリカなどの途上国に、近代的
の最初の受け入れ口にあたる着水井およ
用が開始された当初は、1系列の運転か
四之宮管理センターでも今後、必要にな
有財産である下水処理システムから引き
か20 ほどの施設でしか運用されていない
な水システム構築のための支援や技術提
び、沈砂池への入口には電波レベル計を
ら始まったが、処理量の増大に比例する
ると見込まれる高度処理用の施設のため
出すメリットを二重、三重にしていくこ
が、理想的な発電を行った場合、処理場
供を行っていることも注目される。
設け、流れ込む汚水量を監視、ゲート制
ように、敷地内の処理施設の建設を徐々
の用地確保を行っている。だが、設備投
御の際の指標値として利用している。さ
に進めつつある。処理水は最後に河川放
資は処理コストに反映されることもあり、
らに、沈砂池から最初沈殿池に連絡する
流するため、薬品使用を極力避けた微生
なるべく既存設備を、効果的に活用する
ポンプ室の間には、汚水量を振り分ける
物処理を採用しているが、この方法はあ
方針で運営を行っている。それを実現す
ための分水槽があり、汚水測定に強いド
る程度の時間を要する。しかし、一定品
るための方策のひとつとして、計測技術
ップラー式の超音波ポンプ流量計による
質の浄化を行うために処理時間を減らす
に基づいた処理状況や施設のチェックが
測定が常時行われている。施設内には、
わけにはいかない。
ある。
処理水や汚泥を流すパイプが張り巡らさ
実際、システムの設計当初の時点で、
どんなに高機能な処理機械を導入し、大
障状況などをつかみやすいが、水没部分
式流量計が設置されている。
がかりな施設をつくったとしても、生活
や水質、または濁水の水位レベルなどは
スタイルの変化や長期的な気候変化まで
肉眼では分かりにくい。そこで計測機器
8
超音波気体流量計 MGF-10
下水処理には微生物によって汚濁物質を分解する
「エアレーション(ばっ気処理)
」というプロセスが
ある。この処理にはエアレーションタンクに大量の
空気を送り込んで微生物を活性化する必要があるの
だが、エアブロワモータの消費電力が下水処理施設
の大きな負担となっている。空気流量を効率的に管
理して最適化を図ることは、省エネ運転にも大きく
貢献できる。超音波気体流量計は管路内に空気の流
れを妨げる障害物が無いので、圧力損失が無く合理
的な管理を行うことが可能だ。
点検では、目に見える部分であれば故
れているが、このパイプの各所には電磁
これまで、四之宮管理センターではす
を作るのが困難な場合も多く下水道処理
9
特集:未来型インフラとしての上下水道
農業用水 と都市用水 のバランス供給 を実現 する導水路整備
堰の開閉によって集中的にコントロール
渡が行われた場合、どう変化するかを試
る熊本市では、安定した質・量の農水を
するわけだ。
算し、画面に表示する機能だ。農地の再
確保するため、昭和50年から試験を開始。
編により、作付け内容などが変化した場
現在では下水処理水中に含まれる窒素な
さて、制御の基礎データとなるのが、
首都圏向けの都市用水を供給する利根川は、一方で貴重な農業用水の供給源としての役割も果たす。ここで需要に応じた安
定供給を行うのが、導水路の目的だ。それ以外にも、河川浄化など多目的な役割を果たす導水路は、複数の堰やゲートを利
流量の把握である。用水路は主に開渠で
合、それまで流れてきた上流からの水が
どを適宜削減した高度処理水を利用し、
あり、ここではレベル計と流速計を併用
減少したり、農作業日が集中してしまう
繁忙期には一日あたり2万 5,000 ∼3万
用して広範囲に渡って河川水の流れをコントロールしている。特に、農地の持つ役割の見直しや所有者の流動化などが見ら
したトキメックの開渠式超音波流量計が
ことによる供給能力の低下などが起きて
m3 を供給する。また、河川表流水だけで
採用されている。検出器は主に、水位調
は困る。そこで、地図情報データベース
は不足しがちな桑名市においても補助的
整堰の下流地点に配置される。堰の操作
を使って計算し、事前に調整をはかる狙
に処理水の農水転用が実施されている。
れる近年では、より適切な農水管理が重要になってきた。
られない。しかし、農業経営形態の移り
などが築かれている。朝霞浄水場方面へ
に応じて、制御対象となる流量の増減が
いだ。世代交代とともに、土地の再編を
以上、農業用水を中心にいくつかの取
変わりにともない、その利用目的は徐々
連絡する秋ヶ瀬取水堰などの可動堰は水
確実に行われたかどうかをすぐさま監視
順調に促すためにも、このシステムが注
り組みを紹介してきた。地下水涵養や水
その 1 つ、利根川・荒川水系のなかでも
に変化しているようだ。近代的農業経営
の分岐と流量をコントロールする役目を
できる仕組みだ。集められたデータは中
目される。
質保全機能をもつ「農地」を守ることは、
長い歴史をもつ利根導水路事業。取水口
への移行、技術革新による冬期栽培の実
果たす。このように水路は埼玉県を中心
央監視室に伝送され、24時間体制で管理
さらに、農水の給水源を河川水以外か
ひいては自然との共存にもつながる。一
として中心的な役割を果たしてきた利根
現、農地の持つ国土保全や環境活性の役
に網の目のように広範囲に発達してきた。
される。こうして、利根導水では中長期
ら得ようとする取り組みも進む。たとえ
般にはなじみが薄いものの、農水管理の
大堰(堰長約 690m)もここで管理され
割の再認識などの動きがその背景にある
それでは、こうした複雑な水路をどの
的なスパンで起こる水の過不足を常時モ
ば、下水処理水の農水利用だ。この事業
果たす役目は大きい。
ている。この堰からは農業用水と都市用
ためだ。そこで暮らす人々のアメニティ
ように管理しているのだろうか。水資源
ニタリング、それに応じて複数の堰を適
は少しずつ軌道に乗りはじめ、稲作潅漑
水を合わせて、年約 20 億m もの水が取
向上も含め、農地管理の基礎となる最適
開発公団では、水路の拡張と同時に管理
切に操作し、受益地域への公平で安定し
用水を中心に、年間 1,120 万 m3 の処理水
水され、そのうち約43%が農業用水、残
な農業用水整備が焦点となっている。
システムの自動化も並行して整備してき
た配水機能を実現している。
が全国で活用されている(平成6年度実
■広域的な河川水の制御
全国に水資源開発水系は7ヶ所あるが、
3
績)。各種水源として主に湧水を利用す
り約57%が都市用水として東京、埼玉を
利根導水路の整備は昭和 38 年に始ま
た。現在では、供給量の割り振りの決定
中心に供給される。だが、一年のうちに
り、現在では農村の人口減少や宅地化、
やオペレーションを、いくつかの管理所
は需要量に動きがあるため、複数の水路
増加する都市部の水需要から、余剰とな
が共同で行っている。特に、制御対象と
全国には、農家が主体となって組織す
と堰を駆使し、必要な水量を必要なエリ
った農業用水を都市用水として転用し、
なるのは変化の大きい農業用水だ。季節
る土地改良区が存在する。その中で全国
アに振り分けるきめ細かなコントロール
さらには隅田川の河川浄化も行う。そう
的には、潅漑用水などで4月から9月末
の水田面積の約 15 %にあたる土地で、
を行っている点が特徴だ。
した目的のために、これまで必要な用水
頃までがピークにあたる。その一方で、
「農地流動化支援水利用調整事業」が進
路や可動堰を送水網の中に徐々に構築し
休耕期にはほとんど取水がゼロになるこ
行中だ。これは、GIS(Geographic Info-
くの水が必要になることが知られる。全
てきた。農業用水向けとして埼玉用水路、
ともあり、振幅が大きい。もちろん、こ
mation System :地理情報システム)を
国で農業用水は水使用量全体の約66%を
邑楽用水路、見沼代用水路(都市用水を
の間、都市用水の安定供給は確保されて
利用した「農地流動化」計画であり、全
占め、その量はここ数年大きな変化は見
含む)などが、都市用水向けに武蔵水路
いなくてはならない。そのため、複数の
国土地改良事業団体連合会(全土連)の
ところで、農業、なかでも稲作には多
■近代的農業における水環境の見直し
最終汚泥を農地へと還元させる――粒状肥料化装置「ライマルメイト」
公共下水道計画区域外となるような農山村地域等では、小規模排水処理システム=
農業集落排水(施設)が導入されている。農業集落排水は基本的に生活雑廃水であ
り、都市部下水道のような重金属類等がほとんど含まれない。そのためP9で見た
ような、最終処理過程で発生する汚泥の利用が図りやすい。緑農地への利用、建設
資材としての利用などが知られるが、中でも利用のしやすさから、汚泥の肥料化が
支援のもとに今後、対象エリアを拡張し
徐々に浸透している。肥料には、普通肥料と特殊肥料の二種類があるが、下水汚泥
ていく考えだ。後継者がいないため農地
を肥料化したものは後者に属し、法律で安全基準が定められている。
を譲渡したい人がいる一方で、農業を新
トキメックの粒状肥料化装置
「ライマルメイト」もそうした“廃
たに志す若い都会人などもいる、という
棄物”をうまくリサイクルしようと
ように人材流動的な状況において、相互
いう発想から生まれた。大規模な
の情報を提供しあい、最適な農地管理を
施設では、汚泥乾燥方法としてゴ
実現するためのシステムとして開発され
ミ焼却炉の排ガスを利用する例な
どがあるが、本機では、生石灰の
た。あらかじめデータを登録した農地の
消和反応を主熱源に利用し、低コ
分散状況や作物の作付内容をパソコン上
スト処理を実現している。
でチェックすることが可能である。
興味深いのはコンピュータを使った
開渠式超音波流量計 UF-860。信頼性の高い流量データの提供を通じて、水資源
の有効利用と農業集落への公平な配水、都市部への安定的な水資源供給などに
役立っている。
分水路。埼玉用水路、武蔵水路、見沼代用水路などへ配水されていく。
10
「農業用水の振り分け」のシミュレーショ
ンだ。用水の利用頻度や流量が、農地譲
●取材協力(文中敬称略)
横須賀市水道局殿 / 財団法人神奈川県下水道公社 四之宮管理センター殿
水資源開発公団 利根導水総合事業所殿
11
図1 加速度信号と周期の関係
100Hz
1sec
1G 1000 Gal 震度7(400Gal)短周期地震計 長周期地震計
1min
1hour
1day
1month
1year
100years
6(250Gal)
100 Gal
重力加速度測定技術 5 80Gal)
(
4(25Gal)
10 Gal
1mG
海上重力計
重力計
強震計
3( 8Gal)
2 2.5Gal)
(
1Gal
1(0.8Gal)
重力異 常
100mGal
地殻破壊
地震前兆
地震前後
地殻変動
地下物質移動
10mGal
地球の重力とその計測方法――
重力の測定が地球の姿を明らかにしていく
高感度広帯域地震計
1μG
1mGal
100μGal
400 年以上も前、ガリレオはピサの斜塔で重力の実験を行いました。この時得られた重力加速度の値は5m/sec 2 。
それから現在まで重力の測定精度向上によって地球全体の精密な重力空間分布が明らかになってきました。
10μGal
1nG
地球潮汐
Iunar:-0.065∼+0.135mGal
solar:-0.025∼+0.051mGal
4cycle/day∼1/18.6cycle/year
常時雑微動
数μGal
人工の震動
風による震動
海洋潮汐
1μGal
(1)重力計の加速度レンジ
面の大気中で高度を上げると重力値は減り、−0.3086 mGal/
スロウ地震・サイレント地震
超伝導重力計
10nGal
(2)非周期的情報
と、重力測定は地表面の高さ(上下)の変化となる。地球表
4.2μGal
(435day)
地盤、マントル、
外核共鳴
100nGal
重力の時間変化は地球中心までの距離の変化として捉える
<10-8>
極運動
ピーク:3sec
今回は地球観測における重力測定の意味とトキメックの寄与についてご紹介します
1 地球の重力
大気荷重
4.2μGal/10mb
1pG
1nGal
100pGal
(1G=980Gal)10-2
内核共鳴
10-1
100
101
102
103
104
105
106
107
108
109
1010 周期(sec)
重力とは地球科学の定義では単位質量に働く引力と遠心力
m(フリーエア勾配)変化する。一方、そこに地下の岩石と
の合力(天文科学では引力のみ)で、重力加速度である。地
同じ密度の物質があるとしてその影響を取り去ると−0.1967
部が粘弾性なため、地球の自転周期である365 日より遅れて
力異常図(参考文献2)が2mGal の精度で出版されている。
球上の平均重力は力の単位では約9.8 N/kg、加速度の単位で
m Gal/m(ブーゲ勾配)で変化する。測定点が空中や山の上
極位置の変化となる。これは地球潮汐に比べて2桁下の変動
最近では地質調査所が中心となって関東・中部地方に限り1
は 9.8 m/sec 2 である。実用単位ではこれを 980Gal(1
の場合にこれらの補正をし、空間スケールをその地域や地球
であるため、検出には超伝導重力計が用いられるが、当然の
mGal の精度のものが出されているようである。海上では移動
cm/sec 2=1Gal)として用いることが多い。この重力値から
プレート等に変えて見ると地震前後や火山噴火による重力変
ことながら地球潮汐の影響や気圧の影響(大気荷重:0.42 μ
距離が大きいので例えば赤道から極地方まで移動したとする
は空間スケールや時間スケールを変えて見ると様々な情報を
化が現れる。地震や火山活動では断層や溶岩などの地下物質
Gal/mbar)
、そして重力計自身のドリフトの影響を取り去っ
と約5 Gal 変化し(極地で約 983Gal、赤道で約 978Gal :正
得ることができる。
の移動(地殻変動)が起こるので、かなり大きな重力変化が
てはじめて得られるものである。
規重力)
、この中で数100 mGal の変化が観測される。
図1は重力や地震の加速度信号と周期の関係を示したもの
発生する。
である。この図には地球の重力場を1として規格化した場合
の意味で1G=980Gal(厳密には場所によって異なる)とし
(3)周期的情報
このように重力異常の研究や調査には 100Gal のレンジで
更にn Gal の世界となると地球深部での情報が得られる。
地殻やマントル、外殻の共鳴や内核の共鳴による地球の固有
0.01mGal の精度が求められることが多い。感度的には10 −8
振動情報の検出、通常の地震計では記録できない周期の長い
Gと表現される。重力計がこの感度を達成できているかどう
スロウ地震やサイレント地震などの検出が考えられている
かはこのレンジでの特異な信号、つまり地球潮汐を明確に検
た目盛も示した。地震の振動そのものによる加速度は5∼6
周期的な重力の変動には大きく2つある。1つは地球潮汐
Hz にピークがあり、一般に強震計と呼ばれる加速度計で検出
によるものと、地球の極運動によるものである。地球潮汐は
される。例えば震度3は8 Gal(≒8 mG)の加速度が検出
地球と月と太陽の位置関係によって重力変化が起きているも
されたことを示している。従ってこの分野で用いられる加速
ので、月によるものは− 0.065 ∼+ 0.135mGal、太陽による
度計は10 −5 G(10mGal)程度で十分である。地震計にはさ
ものは− 0.025 ∼+ 0.051mGal の間で変動する。ほぼ1日で
地球重力場による等重力ポテンシャル面のうち、重力ポテ
らに周期が長く、10 −9G(1μ Gal)程度をねらった高感度
極大極小が4点現れることになる。月は太陽の約2倍影響を
ンシャルが一定値の面をジオイドと称している。この面(平
広帯域地震計があるが、このレンジでは加速度で検出するこ
及ぼす。この影響が重なったのが実際の地球潮汐である。こ
均海水面にほぼ一致)を基準として重力の地理的な分布は重
とは極めて難しく、速度計が用いられることが多い。重力計
の情報は全地球的で、その計算理論値が高精度で求められる
力異常の分布という形で表現される。重力異常は緯度による
はこのような地震計と比べると時間周期がずっと長い加速度
ので、独特な重力変化である。この地球潮汐の測定では地球
重力の変化(正規重力)
、高さによる重力変化(フリーエア
を対象としている。周期では1,000 秒から数年にも及ぶ。そ
の弾性的性質のため地球潮汐によって測定点近傍の地域が上
ー勾配)を除いたものである。これは地下の密度構造を反映
してその感度は 10
方に移動するので、計算理論値を1.2 倍程度補正する必要が
するので、資源探査や地下構造の調査の基礎データとなる。
そうなのは3つの方法しかない(図2,参考文献3、4)
。自
ある。
先に述べた地球科学の分野の情報はこの重力異常で表すこと
由落下式と振り子式、そしてスプリング式である。自由落下
ができる。日本では地震大国ということもあり、日本列島重
式ではある時間でマスが移動する変位を測定する。このため
−8
G(10 μ Gal)∼ 10
−10
G(100nGal)
にも達する。このような感度が達成できると次に述べるよう
な地球科学に関する情報が得られる。
極運動では4μ Gal/435 日の変化が現れる。これは地球内
12
(更に詳しくは参考文献1参照)
。
出できているかどうかで判断できる。地球潮汐が検出できれ
ば、その重力計は重力異常観測用に十分使用することができ
(4)重力異常
ることになる。
2 重力の測定
(1)重力測定法
地球の重力場に対して1∼0.01ppm もの分解能を達成でき
13
図2 重力測定法
重力加速度計測技術
図3 重力計の動作原理
図4 重力計の外観図
トルカ信号(フィードバック)
重力計本体
マグネット
重力計出力信号
ピックアップ
出力
ヒンジ
には正確なタイミング時間でサンプルする必要がある。実際
いる。超伝導重力計は現在最も精度が良いが、装置が相対的
には真空中の反射体の自由落下を測定するのに原子時計で精
に大型で移動することが容易でない。また、高価な装置とな
密に調整されたレーザ基準が用いられている。この装置では
ってしまうために、導入が限られている。地球科学というよ
1μ Gal が達成されているが、装置が複雑できわめて高価な
りは地球物理学上での利用となっている。
●フレックスヒンジタイプサーボ方式
●光学式変位方式
コイル
重力方向
ものとなる。
(2)加速度計型重力計
振り子式では振り子の振れの周期を測ることで重力を計算
図5 南極観測船しらせ
する。この方式では理想的に振れさせることが難しく、温度
トキメックの重力計は電磁力によるフィードバック型加速
採用された。この重力計は南極観測船ふじに搭載され、船の
制御に対する要求が厳しい。この方式での最高精度は100 μ
度計タイプである。この種の重力計は海上、陸上を問わずプ
ローリングやピッチングの影響を除くため、プラットホーム
Gを達成しているが、1960 年代以降は用いられていない。
ラットホーム上にあればどこででも重力を測定できる利点が
上に設置された。このシステムはNIPRORI−1(the
ある。
National Institute of Polar Research(NIPR) and the Ocean
以上2つの方法ではその地点の絶対重力値を測定できる。
一方、スプリング式はある地点と別の場所やある時刻と別の
図3にトキメックの重力計の原理を、図4に重力計の外観
Research Institute(ORI) of the University of Tokyo)と呼ばれ
時刻の間の相対重力を測定する。最も簡単な方法はスプリン
を示す。ヒンジと呼ばれるバネに取り付けられたマス(ペン
ている。その後、改良版が南極観測船しらせ(図5)と東京
グ(バネ)にマスを取り付けておいて、相対的な重力の差に
ジュラム)が重力で下方に変位すると、この変位信号を光学
大学の海洋研究船白鳳丸に海上重力計として搭載され、今も
比例するマスの変位を測定するものである。ところがこの方
式ピックアップで検出する。この変位信号がゼロとなるよう
実用されている。
法では10cm のスプリングでの10 μGの変化は変位で10
m
に、ペンジュラムに取り付けられたトルカコイルに電流を流
そして1998 年には通産省のNEDO(新エネルギー・産業
にしかならない。なんらかの変位拡大が必要で、これは
し、本体の永久磁石による磁場中でバランスさせる。そうす
技術総合開発機構)のプロジェクトの1つとして東海大学瀬
LaCoste とRomberg による傾斜したゼロ長スプリングを採用
ると流した電流が重力に比例しているので、これを重力計の
川教授の「ヘリコプタ重力計測システムの開発」が開始され、
する方法でなされた。スプリングを傾斜させることで周期の
出力とするものである。この方式は加速度計の原理そのもの
トキメックの重力計が搭載された。このシステムは航空機搭
きわめて長い上下方向の振動計とし、はじめの長さがゼロで
であるが、一般の加速度計に比べると高感度化するために特
載型重力計測装置と呼ばれる(図6)
。現在、飛行試験中で
あるバネで正確にフックの法則に従うものとした。このいわ
にマスが大きくなっており、結果として全体が大きくなって
あるが世界レベルでの精度を発揮している。トキメックの重
ゆるラコステの重力計では10 μGal が達成されている。
いる。この重力計は地球潮汐を検出できるレベルにある。
力計が重力異常測定を通じて地球の新しい姿を明らかにして
−9
さらにこのスプリング式と本質的に同じ方法で、磁気的に
図6 航空機搭載型重力計測装置
いく。
マスを持ち上げるものに2つの方法がある。電磁力による方
3 トキメックにおける重力測定
法と磁気浮上によるものである。電磁力によるものはフィー
ドバック型の加速度計方式とも呼ばれる。磁気浮上による方
法は磁場を作るのに超伝導体コイルを用いる。この磁場中で
トキメックにおける重力計の開発は1980 年代から開始され
ニオブの真球や中空アルミにニオブ蒸着したものを浮かせて
た。最初は国立極地研究所の耐強振動型重力加速度計として
14
参考文献
(1)日本測地学会、
「現代測地学」
、1994 年 10 月。
(2)河野芳輝、
「日本列島重力異常図」
、東京大学出版会、1989 年 11 月。
(3)友田好文、
「地球観測ハンドブック」
、東京大学出版会、1985 年1 月。
(4)David Chapin, "Gravity Instruments: Past, Present, Future", The Leading
Edge, pp.100-112, 1998.
15
油圧システムの復権を目指すCPS
――新しい省エネ型油圧システムの誕生――
して利用する機能だ。従来よりアキュム
レータを用いる油圧システムはあった
が、油の流量でシステムを動かすために
どうしても流量制御弁が必要になり、熱
損失は避けがたかった。また、回生制動
建設機械やプレスマシンといった産業機械をはじめ、多くの場面で動力供給装置として利用される油圧シス
テム。だが、電力消費量の大きさや油の管理の手間がかかりすぎる、などの問題点も指摘されてきた。そうし
たなかで、今回、開発された「トランスフォーマ」は油の流量の絞り機構をなくし、エネルギー回生機能を持
つ CPS のキーコンポーネントとしてコンパクトにまとめることに成功したものであり、これまでの油圧シス
テムをブレークスルーする牽引車としての活躍が注目される。
効果はなく、アキュムレータも単に蓄積
された油の体積利用にとどまっていた。
だが、CPS 回路においては、与えられた
エネルギーを一部回収し、アキュムレー
タに蓄えてより無駄なく活用できる。
熱損失の大きい
従来の油圧システム
自動車のパワーステアリングをはじ
ルギーが損失してしまっていた。これが、
プ側の油量を制御するプライマリーコン
今回登場した「トランスフォーマ」は、
エネルギーロスの最大の原因になってい
トロール(Primary Control)が主流だ
これらの CPS の持つ特徴をすべて具備
たのである。
った。それに対して、セカンダリーコン
したアプリケーションと言える。利用方
トロール(Secondary Control)とは、
め、船舶の舵取り装置から揚錨機のよう
そうした中、絞り機構を全く使わない
法は、既存の昇降駆動型の大型油圧シス
特に、電源や冷却器などを小型化,省略
自動車のような部分負荷条件では、現在
な甲板機械の作動など大きなパワーを必
CPS と呼ばれるシステムが研究され、油
アクチュエータ側の軸トルクを制御する
テムの「流量調整弁」を本機と置き換え
化できるため、海中や狭隘な場所といっ
の油圧機器ではトルクロスが無視できな
要とするシーンで、油圧システムは頻繁
圧システムの効率化が注目されている。
ことで外部の駆動機械に仕事をさせるシ
るだけでよい(その際、
「変圧器」とし
た過酷な作業現場における動力システム
い。こうした問題を乗り越えれば、CPS
に目にすることができる。もっとも単純
この CPS は、圧力源から必要なだけ動
ステムで、近年、脚光を浴びているもの
て本体回路側に組み込まれるため、この
として、あるいは、電源供給の乏しい場
の適応範囲はさらに広まると期待され
な油圧システムとしては、動力源から油
力を取り出せるアクチュエータ制御であ
だ。
名称がある)
。すでに油圧システムの中
所でのインフラ整備に供する建機の作動
る。いち早くCPS の活用に着目し、
「ト
を強く押し出し、ピストン運動を行う負
るために、発生したエネルギーを複数の
HST( Hydraulic Static Transmis-
に組み込まれているアキュムレータは、
などに活用するケースが考えられる。
ランスフォーマ」を開発したトキメック
荷へ直線往復運動という形で力を伝える
出力の形で取り出すことができる利点が
sion)に代表されるプライマリーコント
そのままCPS におけるエネルギー回生機
そうした一方で、CPS の研究は世界
研究グループでは、すでにこれらの課題
ものが知られているだろう。たとえば、
ある。さらに、油圧回路中のアキュムレ
ロールでは、動力源から出力制限してア
能を持たせることができる。これだけで、
的にもまだ始まったばかりであり、解決
に対して取り組み始めている。省資源や
押し出すときの加圧力を利用するプラス
ータにエネルギーを一時的に蓄えること
クチュエータに伝達するように働くの
基本的な CPS の特長はすべて発揮させ
すべきテーマも多い。たとえば、油圧回
環境との共存が強く要請されるこれから
チック加工の射出成形機がこの原理を利
で、エネルギーの有効活用ができる理想
で、ひとつの動力源から取り出せる「仕
ることが可能だ。もちろん、必要なエネ
路の改良により、蓄積エネルギーの無効
の時代、新しい油圧システムがさまざま
用している。このほかに連続回転運動用
的な省エネ型油圧システムとして評価が
事」はひとつだけ、という制約があった。
ルギー量を計算によって求め、無効率範
範囲のさらなる縮小なども実現できると
な場所で活躍する機会が増えていくこと
や首振り用があり、クレーンやハッチカ
高い。この度、トキメックで開発された
一方、軸トルクの操作によってアクチュ
囲を小さくしたアキュムレータを採用
考えられる。また、低トルクで走行中の
は間違いないだろう。
バーの開閉といった、限られた動力の増
「トランスフォーマ」はこの技術を発展、
エータの速度制御を行う二次制御系の
し、さらにシステム全体の最適化を図れ
幅が求められる操作で利用されてきた。
応用したシステムだ。そこで、まずCPS
CPS では、多数のアクチュエータを同時
ば、使用する油量も少なくエネルギー効
について少し説明を加えておきたい。
に動かせるメリットがある。これは、た
率を一層高められる。
ところが、こうした油圧システムには
いくつかの課題も指摘されている。その
ひとつが「使われるエネルギーの無駄が
大きい」ということである。さきほどの
アクチュエータ側を
制御するCPS の仕組み
とえば、ひとつの動力装置を作業現場に
持ち込めば、それを利用して荷揚げ機械
など複数の外部装置を駆動できる可能性
を意味している。
省エネ型油圧システムへ
流量マッチ型絞り制御
――強まる社会的ニーズ
ピストンの例で言えば、動力を負荷に伝
CPS は、「Constant Pressure Sys-
達する際、押し出される油の量をコント
tem(定圧力システム)」の略称である
さらに注目すべきはアキュムレータと
で駆動装置の速度制御を達成する CPS
ロールすることで、負荷の動きを最終的
が、ヨーロッパでは特にセカンダリーコ
の組み合わせによって、エネルギーを蓄
は、重量物を短時間のうちに何度も上げ
に制御するため、油量を途中の管路で増
ントロールと称されることが多い。絞り
積し、回生できる機能を備える点だろう。
下げするような、いわば大きなトルクが
減させるための、
「絞り弁」が欠かせな
機構を使わない省エネ型の油圧システム
エネルギーの回生とは、例えるならば、
何度もかかり、大電力が必要になる従来
かった。だが、絞り機構は電気回路でた
の制御方式には大きく2つあり、動力源
走行中の自動車がブレーキをかけて停止
の油圧回路の代替システムとして最適
とえるならば、可変抵抗に該当するもの
に近いポンプ側の制御、および機械を駆
する場合に、そのままでは大部分が発熱
だ。省エネ効果がてきめんに現れるのは
である。弁で進路をはばまれた油の圧力
動させるアクチュエータ(負荷)側の制
に変わる走行中の運動エネルギーの一部
こうした電力多消費型のシステムにおい
は熱になって散逸してしまうため、たと
御のどちらを行うか、で分類することが
を、バッテリーのような「バッファ」に
てであり、まさにCPS を利用したトラン
えば速度を変化させるたびに、動力エネ
できる。これまでは前者にあたる、ポン
蓄え、次回の発進時には逆過程で動力と
スフォーマこそ、うってつけだと言える。
16
表/ CPS トランスフォーマ適応前/後の昇降駆動における比較
このように出力トルクを操作すること
CPS トランスフォーマ
電動機
37 kw
5.5 kw
タンク容量
900 L
150 L
アキュームレータ
なし
100 L
オイルクーラ
あり
なし
瞬間最大電力
56.6 kw
8.8 kw
2,570 wh
555 wh
積算電力
(14t の金型を10 分間に5 回昇降させるケース)
17
基幹産業となるバイテク
GMO は既にどれほど
浸透しているのか
までに何代もかかってしまい、効率は
てだ。ターミネーター技術とは、胚芽
性についてもきちんと検討するべきだ
けして良くない。
を殺す遺伝子を組み込み、第2世代
ろう。
ビールの副原料であるトウモロコシ
もう1つは、本来ならその植物が
(f2)を作らせないものだ。莫大なコ
例えば、鉄やビタミンなどの栄養素
に、遺 伝 子 組 み換 え物 (G M O =
(あるいは種としての植物が)持つこ
ストをかけて新たなGMOを開発して
が欠乏している地域の人々に、それら
Genetically Modified Organisms)を使
とはない異種のタンパク質(遺伝子)
も、その種子を採取され再利用されて
を固定しやすい品種を作り出し提供す
わない――。この8月に農水省が
をもGMOは利用する点だ。
は利益回収ができない。そこでf2の
ることで、栄養状態の改善に役立てる
GMO農産物やその加工食品の表示義
これらタンパク質(または新たに生
存在を消すことで、毎年新たにシード
ことができるかもしれない。この例は、
務で、その基準を部会報告したのを受
成されたタンパク質)はむろん人間に
を買わざるを得なくなる。ターミネー
スイス工科大のチームがイネで開発に
けて、日本のビール大手3社では2001
は無害とされているが、100%アレル
ター技術はアメリカの企業と米農務省
成功している。
年までに非GMトウモロコシに全面的
とは何か。端的に言えば、ある目的と
とを意味する。事実、業務用大豆など
ギーを引き起こさないとは言い切れな
の共同開発で、日本を含む世界78か国
貧困な土壌で育つ品種の開発も事例
に切り替えることを表明した。いずれ
する機能――寒さや病害虫に強いなど
は、海外生産品の方が圧倒的に安い。
い。厚生省は日本で既に流通している
に特許出願されている。いまのところ
が報告されている。森敏東大教授を代
もアメリカなどからの輸入トウモロコ
――を持つ遺伝子を、農産物の細胞に
特にGMOであれば価格競争力は極め
GMOのアレルギー性は通常の農作物
どのGMOにも導入されていないよう
表とした研究チームは、アルカリ土壌
シを使用しているが、そこにGM品が
組み込んで、それ自体に目的の機能を
て高いものになる。(多くの品種が
と同程度としているが、それらを長期
だが、将来に渡ってそうである保証は
でも生育する鉄欠乏耐性を飛躍的に高
混入している可能性を否定できないた
発現させるようにしたものだ。
GMO化され安い価格で国際市場に出
的に摂取し続けることの影響はまった
ない。
めたイネを作出した。森教授は「増加
さて、以上のようなリスクが喧伝さ
人口を支えるための食糧増産のために
れているわけだが、例えば安全性につ
は、世界の耕地の67%という大面積を
2つ目のリスクは「遺伝子汚染」と
いて冷静に考えれば、いま食べている
占める不良土壌での単位面積当たりの
物輸出大国にとってGMOは切り札的
呼ばれるものだ。ある特定の遺伝子を
物もけして大丈夫とは言えない。農薬
作物収量を上げることが必要」※と述
したものだ。現在は、虫が食べると死
存在だ(現在GMOは、アメリカ、カ
持った植物が自然環境の中で生育され
の問題、輸入食品のポストハーベスト、
べている。不良土壌の約半分がアルカ
んでしまうという“害虫抵抗性”や、
ナダ等を中心に生産されており、逆に
ることで、花粉が飛び、周辺にある近
畜産物に与えられる化学飼料、地下水
リ土壌で、それを改良する安価で効果
的な肥料は現在ないとのことだ。
めの措置だ。菓子メーカも追随しそう
世界で初めての商用GMOは、収穫
回れば、日本の在来品種はますます対
く未知数であり、GMOのリスクとし
で、コーン菓子の某大手は、この年内
後も鮮度が長持ちするよう操作された
抗力を弱められ、自給率はさらに低下
て指摘されている。
にもGMOではないフランス産に切り
トマトとされる。これは、果実体を柔
していくだろう。
)裏を返せば、農産
替える予定。そのコストアップ分は商
らかくする酵素を抑える遺伝子を注入
品価格には転嫁しない模様だ。
こうした動きは、GM食品に対して
強い不安を持つ日本の世論を受け止め
“除草剤耐性”を備えさせたものが主
欧州では反GMOへと傾いている)
。特
縁植物へも組み換えられた遺伝子が広
を介した農地汚染……。こうして挙げ
たもので、使用表示が義務化された後
流となっている。
“害虫抵抗性”は農
にアメリカは、バイオテクノロジー産
がることが懸念される。バイオホラー
てしまえば、GMOだけが特段に危険
ここまで、GMOを素材にバイオテ
(2001年4月予定)
、購買に影響が出る
薬の撒布量を軽減できる、一方の“除
業がコンピュータ産業を将来的に上回
風に言えば、GMOについたウイルス
なものだとは言えない。今後しばらく
クノロジーの前線をレポートした。遺
ことを懸念してのものと考えられる。
草剤耐性”では育成作業の手間を省力
っていく可能性を認識し、ブッシュ政
が組み換え遺伝子を取り込み、まった
世界の人口増は緩みそうにないが、伴
伝子組み換えというテーマは、医療分
しかしこれらの例は、既に日本に少な
化できる、などの利点を持つ。結果、
権以降その競争力獲得に注力してきた
く新たなウイルスが誕生することにな
って起きてくる絶対的な食糧不足に対
野をはじめGMO以外にも当然応用さ
からぬ量のGMOが入っている現実を
従来より低いコスト・労働力で、農作
と言われる。
るかも知れない。
して、果たして従来農法だけで対応可
れてきている。例えば、観賞用に青い
示すことでもある。事実、トウモロコ
物を大量生産できる道を開いた。当然
3つ目のリスクは、GMOの種子を
能なのか。GMOがそれを一手に解決
カーネーションの開発、後の染色工程
シ以外にも、大豆、なたね、ジャガイ
最終商品としての価格も限りなく廉価
供給する企業によって、1国の食糧事
するものではないが、1選択肢である
を省ける青い綿花の開発などがある。
モ等22品種が、厚生省の安全審査を通
を追求できる。
情が左右されかねないことへの懸念だ。
ことも否定はできないだろう。
環境問題にかかわるものでは、植物に
何が問題なのか――
代表的な3つのリスク
過して流通している。現在はそれが表
一方、GMOの最大輸入国である日
これまでも農業技術分野では、接ぎ
手間がかからない、育成コストが安く
示されていないため、気に留めずに食
本は、現在、農作物の自給率(カロリ
木という一種のクローン技術や交配と
つく、価格競争力が強い、そんな
しているというのに過ぎないのだ。
ー換算)が40%といった低い状態にあ
いう手法を駆使して、目的とする機能
GMOが在来品種を駆逐してしまうか
る。その要因の1つは、人件費を筆頭
を発現する植物を作り出してきた。そ
も知れない。そして、農家は毎年
GMOは食品であるだけに、黎明期
は明らかに負の成果ではない。結局の
に日本の農業システムは高くつく、と
れらとGMOが大きく違う点は、1つ
GMOシードをその開発企業から購入
である現在はどうしても負の側面がま
ところ、そうした製品を使うか使わな
いう点だ。これは付加価値の高いもの
にはGMOの開発期間が非常に短くて
し続けることになるかも知れない。そ
ず強調される。しかし、
(もちろん安
いかの自由が確保されていること、そ
以外は日本では作りにくい、というこ
済む点だ。交配では性質を安定させる
れはターミネーター技術の存在によっ
全性確認を前提にしてだが)その有益
れがまずもって重要となってくる。
GMO とは何か
その種類、機能
そもそもGMO・遺伝子組み換え体
生分解性プラスチックを作らせること
遺伝子組み換えが
求められるケース
※
18
も実現できそうだ(現段階では、なた
ね種子の乾燥重量で3%程度)
。これら
(科学技術振興事業団HP: http://www2.jst.go.jp/pr/announce/19990723/index2.html)
19
植物工場
日本 の農業 は
情報 システム化 に
乗 り遅 れてはいけない
「食糧生産から人間が解放されるのはい
ルのものを指します。植物の成長をプロ
取れるものになるんです。そういう意味
ていた時とは違うし、苗か収穫段階かで
つなんだろうか――、植物工場にかかわ
グラムで完全にコントロールし、計画的
では、植物体が大きくなったり、生育期
も違うわけです。制御すると一言で言う
っていると、私はそんなことを考えます。
に生産するものですね。もう少し広く捉
間が長いもので、植物工場に向いたもの
のは簡単なんですが、対象は生物であり、
人間はこれまで、食べるために働いてこ
えると、従来で言う温室生産のうちでも
はそれほどないと言っていいでしょう。
そして、多くの状況を勘案しなくてはな
なくてはならなかった。ずっと飢えと戦
高度化したものや、植物の組織や細胞を
――環境を制御するとのことですが、具
らないので、実際には結構大変なので
ってきたわけです。それが、プラントか
大量培養し有用物質を得るような施設
体的にはどのようなものを?
す。
ら一定のエネルギーを、一方でタネを供
も、大きな意味で植物工場と言えるでし
星 コントロールするファクターは、実
――それらすべてをシステムだけで制御
給すれば、あとはボタンを押すだけで食
ょう。目的物としては食用に供するもの
際には数え切れないほどありますが、大
するのですか。
糧となる植物ができてくる。それは人類
以外に、植物生産のための苗、観賞
きく言えば、光、温度、水、化学物質
星 最終的なさじ加減というのは、まだ
のひとつの夢だと思うんですね。
用・緑化用植物などになります。
が主ですね。光合成の原料となるCO2 な
アルゴリズム化されていないんです。生
――食用としてはどんな植物が多いので
ども化学物質に含まれます。しかし、4
産者の人が見て「ちょっと水を切った方
か、エネルギーの問題は残るとしても、
すか。
つと言っても、例えば光では強さ、照射
がいいな」と思えば設定値を下げる、そ
植物工場がそういうものを実現していけ
星 葉菜類が中心です。逆に言うと、現
時間、スペクトル、照射方向など、制御
んな人間的な余地が残っていますね。た
ば、食糧生産という労働から人間を解き
在は葉菜類中心の技術開発レベルである
要因はものすごくあるわけです。温度に
だ、それでは作り手によって商品に個人
放ってしまうことも可能なわけです。科
とも言えます。果菜類や花も一部作られ
しても、空気の温度以外にも、酵素反応
差(品質のばらつき)が出たり、初心者
学技術が、いかに人間を縛ってきたもの
ていますが、完全ではない。葉菜類とい
なら植物体温だし、水の吸水では根の温
が失敗しやすいといった結果も出てきま
から解放させるか、という取り組みだと
うのは成長が単純で、植物体を大きくす
度、光合成や蒸散では葉温です。また、
す。ですから、最終的には完全自動化を
すれば、植物工場の考え方は、私にはと
ればそれが商品になります。花や果実で
天候の変化、世話の仕方など、これまで
目指すことになるでしょう。ただ、突き
ても面白いと思えるわけです。
」
は最終商品に至るまでのプロセスが多
の履歴によって、植物の状態はダイナミ
詰めていくと、最後は本当に微妙なさじ
く、各段階に応じた制御システムが完成
ックに変化します。応じて、適当な環境
加減になっていくんです。人間がやって
されていません。
というものもダイナミックに変化しま
いた部分をどうセンサに置き換え、どう
もっと言うと、コスト面の制約も強く
す。さらに、制御するためにはコストが
制御していくか、そこは今あちこちで研
をシステムで完全に制御し、ほとんどの
あります。植物工場には利益を出す3原
かかりますので、生産ということを考え
究しているところです。
工程を自動化した生産方法を言う。星岳
則があるんです。1つには生育期間が短
ると、低コストな制御のやり方が必要に
――最新テクノロジーという点では、遺
彦氏はこのうち、環境の制御システムを
いこと。つまり、1日単位のコスト換算
なるわけです。
伝子組み換えとのジョイントなども行わ
研究している。しかし、星氏が目指して
に耐えうることです。2つめは、植物体
1つの例をあげると、窓の開閉を制御
いるのは単に自動生産システムの構築に
が小さくてスペースを取らないけれど
する時、開閉によって影響を受けるのは
星 今はまだないですが、植物工場によ
とどまらず、日本の農業が世界の中で競
も、商品になる部分の割合が大きいこと
温度、湿度、ガスなどで、これらが複雑
る封じ込めの性質を活かせれば可能性が
争力を持つために高度に産業化していく
です。トマトなど1mくらいになり、し
に絡み合ってきます。例えば、CO2 ガス
あるのではないでしょうか。遺伝子を換
よう働きかけたい、という点だ。植物工
かも商品部分(実)は小さい。葉菜類
濃度をコントロールしているのに窓を開
えるという生物的なアプローチは、遺伝
場は、従来からの農学的なアプローチで
なら育った地上部分の全部が商品です
ければ、ガスが逃げてしまいます。しか
子組み換えだけでなく、大昔から交雑育
はなく、工学的なアプローチから農業を
ね。3つめにはプライスが高いこと。こ
し、室内の気温が植物の要求する気温よ
種という方法で行われています。植物工
発想しようとしたものだ。日本には世界
れは床面積1 m 2 当たりいくらという換
り上がりすぎていれば、下げたほうが良
場向きの品種も、交雑育種や胚培養の
で唯一の植物工場学会があり、また、現
算。例えば、1m2 当たり年間10 万円ぐ
い。そして、気温を下げるためには、冷
技術を利用して作られたものもありま
在 15 社が植物工場普及振興会に属して
らいの売上ならとても良いです。施設建
房するより冷たい外気を入れたほうがコ
す。植物工場というのは、遺伝子組み換
研究・普及に努めている。
設費は、いろいろな付帯設備を含めると
ストが安い。しかし、室内の空気を急に
えのような生物的な技術ではなく、あく
栽培床面積1m 2 当たり10 万円というオ
冷やすと結露や霧の発生する危険があ
まで工学的な技術なんです。ある品質を
ーダーになってしまい、1,000m 2 で1億
る。一方、乾燥した空気が入ってきて湿
良くするのでも、温度や湿度、光をコン
円程度になることが多い。それが平米1
度が低下してしまうかもしれないわけで
トロールして例えば甘みを増やしてや
万円では 10 年でも建物しか償却できな
す。さらに、外の風向き加減でどの窓を
る。市場に出ている高糖度トマトなど、
――まず、植物工場の概略をご説明くだ
い。金利とか地代、人件費など全部入
どのくらい開けるか、風下と風上、昼と夜、
まさに物理的操作だけで出来ています。
さい。
れると最低でも平米2万円が必要でしょ
天気の善し悪しで違うわけです。植物が
物理的なコントロールは化学的なコント
星
狭義では、人工光源を用い、環境
う。そういうメリットを享受できそうな
我慢できる気温も、これまで雨や曇りが
ロールより安全性が高いと、欧米を中心
を完全に制御して植物を育成するスタイ
のが、苗とか、葉菜類でも面積が詰めて
続いていて急に晴れた時と、ずっと晴れ
に、植物の制御を物理的なものに置き換
いかに楽に、また安定して食糧を作る
●
植物工場――、狭義で言うのなら、光
までを含めた生育に必要な条件(環境)
植物工場とは
どのような生産方法か
東海大学 開発工学部 生物工学科
星 岳彦
助教授
20
21
れていますか。
価値の高いもの以外は作らなくなってし
で、戦略を作るための市場リサーチなど、
まうのではないか、という懸念がある。
ほとんど生産者側ではやってこれなかっ
ーチと、植物工場などの環境制御を主体
それをどう考えるかです。農業とは元来
た。それじゃやっぱり産業になりません
とする物理的アプローチは、車の両輪の
生産性の低いものなのだから、国民みん
よね。話題になっている商品は何か、好
ように、両者が協力して大きな果実に結
なで助け合っていこうという考えも一方
まれる傾向は何か、そういう作り方をし
びつくと思います。つまり、いくら良い
ではありますが、それが単に補助金を付
ていくにはどうしたらよいかという方針
品種のタネができても、それを食べられ
けていくというだけでなく、先ず産業と
がなくて、ただ美味しいから、新鮮だか
私達の暮らしに欠かせない上
るまでにいかに育てるかという競争があ
して魅力あるようにしていかないと、い
らでは競争に負けてしまう。食糧という
えようとの試みがすすめられています。
遺伝子をはじめとする生物的なアプロ
PRODUCTS
高精度測定と小形軽量化のニーズにお応えします
超音波流量計「UF-900 シリーズ」
量計測の目的には、流量の監視、
の原理をもつため、流体に直に
い測定精度を実現した「UF-
水道、また、農業用水や工業用
制御、警報などがあり、電磁式,
接しない、万一センサが故障し
900 シリーズ」を完成しまし
水も、簡単に作り出す事ができ
差圧式, 容積式そして超音波式
ても流れを止めず修理ができる、
た。
ない貴重な資源。そして、これ
など、それぞれの目的に適した
既存の設備(配管)にも容易に取
らの水を管理するうえで大きな
機種があります。
り付けられるなど、
るわけです。結果的に、良い品種、プラ
くら誘導していっても日本の農業を維持
のは、まず流通地域における絶対消費量
スして良い生産方法、を実現できたとこ
していくのに限界はあるのではないでし
というものがあるわけです。みんながい
ろが勝ち残るわけです。良い品種さえバ
ょうか。
くら一生懸命作っても、過剰になれば価
ウェイトを占めるのが水位計測
その中にあって、植物工場で作られた
格は下がるし、かといって生鮮品ですか
と流量計測です。浄水場,ダムな
流速を検知するセンサを配管の
優れた特長をもって
育つという考え方は誤りで、そこまで、
野菜や花は比較的儲かる。麦などと比べ
ら貯蔵しておいてタイミングを見て出荷
どの水源地,工場などにおける流
外表面に設置できるという唯一
います。
技術的にもまだ進んでいないのではない
て、たいていの工場生産物は5倍から10
するということはできません。あるタイ
でしょうか。
倍ぐらいの生産性を持っています。産業
ミングにおいて最適な量・質・種という
として植物生産と言うことを考えていく
のを、産業全体の中で見極めて作らない
のであれば、この生産性の問題は避けて
通れません。植物工場だけで自給率が改
イオテクノロジーで作ればあとは適当に
日本農業の現状、
そして将来への方向性
善していくものではないでしょうが、1
なかでも超音波式流量計は、
トキメックは、
■特長
1963 年に世界で初
・流量演算方式を、従来のFS 精度(フルスケール精度)からRD 精度(指示
めて一般工業用超音
値精度)に改良し、より高い測定精度(指示値の± 1 %以内)を実現して
波流量計「UF-100
と、安定した生産、収益確保はできない
います。
シリーズ」を開発し
わけです。
[測定精度] ± 1.0 % RD(流速≧ 0.8 m/s の場合)
± 0.008 m/s(流速≦ 0.8 m/s の場合)
やはり、情報が大事なんだと思うんで
――生産者の高齢化や後継者不足、日
つのカギであろうとは思っています。こ
す。それと情報に基づく決断力ですよね。
本の農業が直面している問題として、ま
れに関連して言えば、植物工場ではコス
サラダ菜であれば、生育期間である1か
ずそういったことが挙げられますね。
ト意識がすごく出てくるメリットがあり
月先を読んで生産しないといけない。気
星 他にこんな見方もあります。2年ぐ
ます。このサラダ菜1つ作る原価はいく
象情報、市況情報……、今は様々な情
らい前の数字ですが、農業従事者は380
らかというのが、きちんと計算できます。
報が例えばインターネットを介して収集
万人ぐらいで生産額が14 兆 5000 億円ぐ
いくらが損益分岐なのか、そうした原価
できます。情報システム化は当然農業分
らい。日本の産業全体では労働力人口
計算ができるのが産業としては重要なは
野にも及んでいるわけで、この波に乗り
約 6,700 万人に対して、生産額は約 930
ずですが、この点は従来、あまりなかっ
遅れたらダメだと思いますね。農業こそ
兆円ですので、人数当たりの生産高とし
たことなんですね。いま日本の農業は
乗り遅れずに、よその国より1歩でも早
て比較すると平均の4分の1強程度とな
様々な問題を抱えていますが、まず産業
く情報を集め、生産・流通・販売と一
ります。だから、ものすごく単純な言い
としては成り立っているのか、そこを考
貫して見通した戦略を立てていくことが
方をすると、就農人口を100 万人にして
えることが根本だと思っています。
大事なんじゃないでしょうか。それを可
同程度の生産額をあげなければ、日本の
――そうした現状を踏まえて、星研究室
能にする、農業におけるSIS のようなも
平均的なレベルの生産効率を達成できな
としてはどういったことに注力していこ
のを構築していきたいと思っています。
い。逆に、今の人数では生産額を3.6 倍
うと考えているのですか。
って蓄積したノウハ
ウと最新のハードウ
と軽量化(質量比:約 40 %減)を実現。計装盤などの設置スペースを小さ
ェア技術を組み合わ
くできます。
せ、従来機より大幅
・必要直管長の不足に起因する流速分布の乱れ対策として、最大4測線ま
な小形・軽量化を図
ると共に、さらに高
での多測線測定が適用できます。
電源 / 信号の分離が不要の2 線式電波レベル計誕生!
電波レベル計「レベルショット」MRG-10
めの計測器で、この境界面を総
気,ガスなどの影響を受けない非
おける計測精度の向上について
相互間,気体または液体と粉粒体
称してレベルと呼ぶことから、
接触計測の特長を生かした高精
も、時間軸伸長方式の応用によ
との境界面の位置を測定するた
その名が付けられています。レ
度計測を可能にしています。
って安定した計測精度を実現し
レベル計は、気体と液体,液体
ベル計測の目的はおもに量
また、通常のパルス方式レベ
の測定,プロセスの監視や
ル計では困難であった近距離に
ています。
制御などですが、その原理
にしなければならない。統計から見ると
星
産業としては明らかに弱いんです。日本
ウ)をさらに追求することですが、それ
の人件費は非常に高く、それだけの人手
以上に大事なのは、生産物の売り方とか
種方式の機種が市場に供
をかけて作るから商品価格は当然高くな
どんなものを作るか(商品企画)といっ
給されています。
るし、国際競争力も無くなる。あるいは、
た、経営戦略までを支援できるようなシ
このたびトキメックが発
農業は賃金が安く、無償の家族労働に
ステムを作っていくことだと思っていま
●
売した「レベルショット」
支えられていると言うこともできます。
す。というのも、今まで農業に従事して
ボディと最先端技術のマ
それが日本の食糧自給率 41 %という数
きた人たちは、作ることに追われ過ぎて
植物工場
字になってきます。
いたと思うんです。とにかく、良く育っ
使用した電波レベル計で、
てたくさん取れればいいというのが中心
タンク内の温度,圧力,水蒸
1つは環境制御のやり方(ノウハ
22
て以来、長年にわた
・従来機種 UF-800 シリーズに比べて、大幅な小形化(容積比:約 60 %減)
PRODUCTS
このままいくと、日本では花とか付加
他方式の流量計より
や構造は測定対象や目的
■特長
に応じて多岐にわたり、各
・微弱電波を使用しているので、公共空間(河川, 海, 市街地)での使用も問
MRG-10 は、小形・軽量
イクロ波インパルス方式を
題なく、設置場所の制約もありません。(微弱電波機器認定取得済)
・2線式のため、新たな電源ラインを敷設する必要がなく、既設のDC ラ
インに接続できます。
・ DC 4 ∼ 20 mA の電流信号と同時に、HART 信号が標準で出力される
ので、コンピュータへの直接取り込みが可能です。
・レベル計測のみでなく、距離測定、計数カウンタセンサ または アラ-ムセ
ンサとしての使用も可能です。
・本質安全防爆構造です。(認可申請中)
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PRODUCTS
機動性に優れた小形軽量ボディで探傷作業をサポート!
ディジタルポータブル超音波探傷器 sonoStar-100
超音波探傷器は、橋梁や鉄鋼
構築物における鉄骨溶接部試験
PRODUCTS
建設・建築現場での作業を省力化!
特定小電力ワンハンド比例ラジコンPH シリーズ
当社従来比で容積率 70 %減、
はデータの再現性や記録性に優
になります。また、B スコープ
建設・建築の現場では、建機
す。しかも、その比例コントロ
質量 65 %減、奥行きも77mm
れるといった特長を備えていま
による断面画像も表示できます
車両オペレータ1人で物や作業
ールが簡単に行えるよう、操作
部を通常のジョイスティックと
「混信による誤動作が心
採用した従来のラジコンに対し
ては、
「受信距離が短くて不便」
などの製造時およびメンテナン
という薄型(従来機種の1/4)
すが、sonoStar-100 はこうし
から「きずエコー高さ」とその
の安全を確認しながら微妙な位
ス時の非破壊検査装置として重
を実現しており、ほぼ A4 サイ
たメリットを最大限に発揮して
位置情報に加えて「きずの形状」
置合わせ等を行わなければなら
異なるトリガータイプとし、片
配」という声を耳にする
に関する情報も得られます。多
ない場合があります。こうした
手で操作できるよう工夫されて
ことが多々ありました
角的なチェックによる信頼性の
作業を安全かつ合理的に行うた
います。
が、PH シリーズならこ
高い判定にお役立ていただけま
めに開発されたのが、ここにご
また、電波方式に特定小電力
うした心配はほとんどあ
す。
紹介する特定小電力ワンハンド
方式を採用しており、約 100m
りません。建機車両の遠
比例ラジコンPH シリーズです。
という余裕の操作範囲を実現、
隔操作を実現するPH シ
30 年以上にわたって培ってきた
本商品は ON/OFF 操作だけ
使用電波も 429MHz 帯の 40
リーズを、作業の安全と
超音波探傷のノウハウと最新の
ではなく、クレーンなどが円滑
バンド内の未使用周波数を自動
効率化にぜひお役立てく
的に探し出すオートスキャニン
ださい。
グを備えています。微弱電波を
要な役割を果たしています。た
ズのノートパソコンに匹敵する
とえば、昨今のコンクリート崩
サイズとなっています。小形軽
落事故に象徴されるように、昭
量なので専用ストラップを使用
和 40 年代初期の高度成長期に
探傷評価を積極的にサポートい
たします。
たとえば、探傷結果は「きず」
して首から下げることができ、
からのエコー高さと位置をもと
建設された大形構築物は部材や
必要に応じて両手で探傷作業を
に評価を行いますが、その評価
設備の大規模修繕、交換が必要
行うことが可能です。高所や狭
には熟練した技術を要します。
な時期がきており、その「安全
い場所での作業が多い探傷試験
sonoStar-100 に搭載されてい
sonoStar-100 には、当社が
性の確認」が大きな社会的関心
が、これによって効率良く行え
るスプリット表示機能を利用す
ディジタル信号処理技術が結集
に操作できる比例コントロール
事になっていることはご存じの
るようになります。
れば通常の波形とズーム波形も
されています。その確かな品質
が組み込まれているのが特長で
もちろん、超音波探傷器の基
同時に表示できるので、より精
と使いやすい機能を、検査業務
にぜひお役立て下さい。
通りです。
このように非破壊検査の重要
本性能である欠陥検出能力、再
細な観察が可能です。2つの波
性はますます高まる傾向にあり
現性、履歴追跡能力なども徹底
形データを一画面で比較できる
ながら、熟練検査技術者の数は
追求しました。ディジタル方式
ため、判定が容易に行えるよう
必ずしも充分とは言えません。
したがって、検査業務の効率化
■特長
を図ると共に、検査結果の信頼
・大幅なダウンサイジングによる高い機動性。
性をさらに向上させることが急
務となっています。
こうした社会ニーズにお応え
イラストロジック クイズ
(当社従来商品と比較して容積率 70 %減、質量 65 %減の小形軽量化を実現)
・スプリット表示機能:通常の波形とズーム波形を同時に表示して探傷評価をサポート。
●問題
・波形機能:波形メモリ(探傷調度含む)は240 波形が記憶でき、プリンタに接続して連続印刷が可能。
マス目を以下のルールに従って塗りつぶしていくとイラストが表れます。そ
れが何のイラストかをお答えください。
するために開発したのが、ディ
・マクロ機能:オペレータのキー操作を記憶してプレイバックができる。
ジタルポータブル探傷器
・ B モード表示機能:被検材の断面表示による評価が可能。
sonoStar-100 です。ニュース
・見やすいディスプレイ:大きく見やすい7.2 インチカラー液晶画面を新採用。
は、大幅なダウンサイジング。
・フリーズ機能:探傷波形の画像をフリーズし、ワンタッチで波形記憶ができる。
●ルール
①縦列、横列に並んでいる数字の1つ1つは、それぞれの列の中で連続して
塗るマスの数を表わします。
②1つの列に2つ以上の数字があるときは、その数字の並び順通りに、数字
が指定しているマスの数を塗っていきます。ただし、違う数字の指定によっ
て塗られたマス(のかたまり)同士は、その間に1マス以上の空きを作るこ
とが条件です。
●ヒント
答えは「割って食べるもの」
。
※数字の合計が大きく、また連続して塗る数の大きな列に注目。塗るマス
(のかたまり)をこの列のどこに配置するにしても、1)
、2)のルールから、
必ず塗れるマス(絶対に塗れないマス)というのが存在する。これを順次見
つけていくのがポイント。
■回答と応募の方法
答えを、ハガキ、FAX、E メールいずれかの方法で、
(株)トキメック 営業
統括室 広報グループ宛にお送り下さい。その際、本誌へのご感想も添えて
頂ければ幸いです。
ご応募頂いた方の中から、抽選で100 名の方に、弊社オリジナル・テレホン
カードを差し上げます。
締切は、2000 年1 月31 日と致します。
●解説用の例題
①右図の場合、まず上側の数字の「5」に注目。タテ列のマス目の数は5、指定の数も5だから、この列は全部塗りつぶ
すことになる。②次に左側数字の一番上、
「1」に注目。このヨコ列において1マス塗るという指定だが既に①で1マス
塗れているから、このヨコ1列は他のマスは塗られないことがわかる。そこで全部×を付けておく。③次に左側の上から
2番目「4」に注目。既に塗られている1マスが、数字が指定する4マスの内の1つである。ということで、この列にも
絶対に塗られないマスが存在するのでそこに×を付ける。このようにして、塗れるマスを論理的に見つけていく。
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by S.Hattori