平成24年8月 第704号 ファンボローエアショー報告 航空ジャーナリスト 青木 謙知 7月9日から15日の一週間、ロンドンの南西 約55㎞にあるファンボロー飛行場で、西暦偶 数年恒例の航空界の大イベント、ファンボ ロー・インターナショナル・エアショー2012 が開催された。ただ今年のファンボローは、 異例ずくめでもあった。まず7月27日からロ ンドン・オリンピックが開催されるため、通 常の7月後半の開催が前倒しされた。さらに イギリスでは6月下旬から大雨が続き7月に 入っても治まらず、イングランドのほぼ全土 に洪水警報または注意報が出され続けてい た。ファンボロー飛行場周辺には大きな被害 はなかったようだが、飛行場のあるハンプ シャーでも洪水の被害はあり、またショーの ファンボロー・インターナショナル・エア ショー2012の会場風景。A380が飛行展示の ため飛び立とうとしている。 たものと捉えて良いだろう。 会期中も天候には恵まれず、一時的だったも その一方で商談規模は大きく、会期中に発 のも含めれば、雨の降らない日のなかった一 表された航空機の発注(確定契約だけでなく 週間でもあった。 コミットメントも含む)は758機で、その総 それでもショーの規模自体は前回よりもさ 額は約720億ドル(約5兆4,000億円)に達した。 らに大きくなり、出展した企業・団体等の数 これは前回の約53%増とのことで、最高を記 は39ヵ国から1,506社で、前回の1,450社を約 録した2008年のショー(約880億ドル=約6兆 4%上回った。また展示場全体の面積は、前 6,000億円)には及ばないものの、史上二番目 回よりも18%増やされて、126,933㎡になって の商談額であった。 いた。 しかし入場者数は、9日から13日までのト こうした商談額をリードするのはもちろ レード・デーは約107,000人で、前回の120,461 ん、アメリカのボーイング社とヨーロッパの 人を下回った。また14日と15日の一般公開日 エアバス社の受注発表であり、この両社が も、12万人程度の来場を見込んでいたが約10 ショー会期中に発表したものは次の通りであ 万人に止まり、前回の108,000人とほぼ同数で る(用語は両社発表のものを使うが、コミッ あった。この結果総来場者数は約207,000人と、 トメントと購入合意は同義である) 。 前回の約228,000人を大きく下回ることとなっ たが、これは前記した悪天候が大きく影響し [ボーイング社] ●ヴァージン・オーストラリアが737 MAX 23 1 トピックス 機を確定発注。 ●エア・リース・インターナショナルが737 MAX-8 60機と737 MAX-9 15機を確定発注、 ほかに737 MAX 25機の購入権を再確認。 ●GECASが737 MAX-8 75機と737-800 25機に ついてコミットメント。 ●ALAFCOが737 MAX-8について20機のコ ミットメント。 ●シナジー・エアロスペースがA330-200 6機 とA330-200F 3機を確定発注。 ●アボロンがA320neo 15機のコミットメン ト。 またこの2社以外にも、ボンバルディア社 はQ400 NextGen 21機の確定受注と、開発中の Cシリーズについてエア・バルティックとの 間にCS300 10機の購入とほかに10機の購入権 ●アボロンが737 MAX-8 10機と737 MAX-9 5 取得について覚書を交わしたことを発表し 機、737-800 10機の計25機のコミットメン た。さらにショー後半の7月11日には、三菱 ト。 航空機がアメリカのスカイウエストとの間 ● ユ ナ イ テ ッ ド 航 空 が 737 MAX-9 100 機 と 737-900ER 50機を確定発注。 ●社名未公表で737-800 3機を確定受注。 [エアバス社] ●アルキア・イスラエル航空がA321neo 4機の 購入に合意。 ●ドルクエアがシャークレット付きA319 1機 を確定発注。 で、MRJ 100機の購入について基本合意に達 したことを明らかにした。三菱航空機が、こ の種の航空ショーで受注に関する発表を行っ たのは、これが初めてである。この時点では まだ最終契約には至っていなかったが、契約 が交わされれば単一航空会社からの最大確定 受注となる。 またMRJはこれまでに、全日本空輸から25 ●キャセイ・パシフィックがA350-1000を10 機(確定15機、オプション10機)、トランス・ 機確定発注、加えて発注済みのA350-900 36 ステーツ・ホールディングスから100機(確 機のうち16機をA350-1000に変更。これに 定50機、オプション50機)、ANIグループ・ホー よりキャセイ・パシフィックのA350XWB ルディングスから5機(確定)を受注しており、 の確定受注機数はA350-900が20機とA350- オプションも含めた受注総数は230機(確定 1000が26機になった。またキャセイ・パシ は170機)となって、YS-11の量産型受注機数 フィックは、別に2機のA350XWBのリース (180機。試作機を含めた総製造機数は182機) 契約を交わしているので、導入総数は48機 を越えたことになる。なおスカイウエストの になる。 発注は、基本的にはMRJ90であるが、将来的 ●チャイナ・エアクラフト・リーシングがエ ア バ ス A320 フ ァ ミ リ ー 36 機(う ち 8 機 は A321)の購入に合意。 にMRJ70にきりかえることができるオプショ ンが設けられることになっている。 こ の 受 注 予 定 の 発 表 の 後 三 菱 航 空 機 は、 ●CITがA330ファミリー10機を確定発注(う MRJの新しいキャビン・モックアップを報道 ち5機は2011年のオプション契約を正式発 関係者に公開した。三菱航空機はMRJの計画 注に切り替えたもの)。 発表後から比較的短期間で、胴体の細かな設 ●ミドル・イースト航空がA320neoとA321neo 計変更を二度行っていて、2008年のファンボ を各5機確定発注。ほかに8機をオプション ロー航空ショーから設計変更後の客室モック 契約。 アップを展示してきた。この旧モックアップ ●UITがA321 20機を確定発注。 2 は全長が約2.5mで、普通席2列が並んでいた 平成24年8月 第704号 だけであったが、今回の新モックアップは全 そのままは入れるようスペースと扉が工夫さ 長が約8mもあり、前方に上級クラス座席が横 れている。MRJの客室は元々、段差を一切な 1席+2席の3席配置で2列、その後方に普通席 くしたバリアフリー設計になっており、さら がこれまでと同様の2席+2席の横4席配置で3 に車椅子ではいることのできるトイレを備え 列並ぶというものであった。初公開のモック るといった、日本人の設計らしい細やかな気 アップなので、もう少し細かなことを記して 配りが盛り込まれているのである。大型の おく。 オ ー バ ー ヘ ッ ド・ビ ン や 発 光 ダ イ オ ー ド (LED)を使った客室照明などは、これまで のモックアップのものを踏襲しているが、上 級クラスでは座席配置が1席と2席なので、1 席側は張り出しを小さくしたものになった。 三菱MRJの新しい客室モックアップ。上級ク ラスと普通席の両座席が取り付けられ、また 最後部にはギャレーとトイレ・ユニットもある。 まず上級クラス座席だが、革張りのシート で座席ピッチは38inである。普通席は各種の ピッチを体感できるように、右列は1列目と2 列目の間が32in、2列目と3列目の間が29inで、 左列はそれぞれが31in、32inと、計4種類の間 MRJは客室の照明に発光ダイオードを使用し、 またオーバーヘッド・ビンも大きい。上級席 と普通席では右列のビンの大きさが異なる。 隔で取り付けられている。また右列2列目の MRJはご存じのように、今年4月25日にス 座席だけ、リクライニングが可能である。こ ケジュールの見直しを発表した。その主な理 のリクライニングは、背もたれ部が倒れるの 由として三菱航空機の江川社長は会場で行っ ではなく、座面が前方に5㎝スライドするこ た記者会見で、製造を委託している三菱重工 とで座面と背もたれの構成角度を大きくする 業 に お け る 製 造 上 の 問 題 が あ っ た こ と と、 もの。従ってリクライニングしても、後ろの MRJ自体が最新技術を多用して作ることに 席には背もたれが倒れてこないので、後列を なっておりその技術の熟成に時間を要してい 圧迫することはない。 ることを挙げた。そしてこれらはすでに対策 モックアップ最後部は、右側にギャレー、 を進めているところにあり、2015年度半ばか 左側にトイレ・ユニットが付けられている。 らの引き渡し開始という新しいスケジュール ギャレーはカートを3台収納できるスペース は守ることができるとした。 がありストッカーも大型である。トイレは、 機内で使用する標準車椅子(40㎝×65㎝)で 新規開発の旅客機としては、MRJよりも大 きなクラスで、カナダのボンバルディア社が 3 トピックス 開発しているCシリーズもまた注目を集めて なっている。しかし1席減らすほどのキャビ いる。これまで100席以上のジェット旅客機 ン幅の差はないので、座席の幅は737が17in は、基本的にはボーイング社とエアバス社が (43.2 ㎝)、A320 が 18in(45.7 ㎝)で あ る の に 市場を分け合ってきた。しかしCシリーズは、 対し18.5in(47.0㎝)となり、また3席側の中 標準客席数110席のCS100と130席のCS300の2 央座席には19in(48.3㎝)幅の座席を使用し、 タイプでその市場に乗り込んだのである。現 居住性が高まっているとボンバルディア社で 在はロシアのイルクートがMS-21で、中国の は説明している。またそれぞれの機種が上記 COMACがC919で単通路機市場に参入しよう の幅の座席を使用した場合、通路幅は737と としているが、最も計画が進んでいるのがこ A320 が 19in(48.3 ㎝)だ が C シ リ ー ズ は 20in のCシリーズで、ボンバルディア社は計画し (50.8㎝)になるともした。 ている2012年内の初飛行は実現できるとし た。またボーイング社、エアバス社ともにもっ と小型の機種である737-600とA318について は、新世代化(neoおよびMAX)を行わない ことにしており、製造がそれらに完全に切り 替われば両社の製品群は130席級が最も小型 の機種となる。これはCシリーズにとっては、 市場を確保する上で明るい話題である。 ボンバルディア社はCシリーズの優位性に ついて、既存機の改良などでは不可能な新し い設計技術や製造技術を導入でき、経済性な どあらゆる面で差を付けることができるとし ている。また装備エンジンは、MRJやA320neo ファミリーなどでも使われる、プラット&ホ ボンバルディア社が開発しているC-シリーズ の客室モックアップ。エアバス社やボーイン グ社の単通路期よりも幅は狭いが、それを上 回る快適性を提供することを目指して設計し ている。 イットニー社の旧称ギアード・ターボファン (GTF)のピュアパワーPW1000Gシリーズ(具 客室の設計にも、各種の新技術が採り入れ 体的にはCS100がPW1519GまたはPW1521Gま られている。まず内壁は、新しい素材と製造 た は PW1524G、CS3000 が PW1521G ま た は 技術を用いて、そのラインを極力真っ直ぐに 1524G)で、このシリーズのエンジンを実用 近づけたことで、窓側席の窮屈間をなくして 装備する最初の機種ともなる。 いる。同様に、窓の周辺のえぐり取りを大き Cシリーズについては、カナダ大使館商務 くし、この部分でも圧迫感を減らした。また 部の手配で、日本人メディアと産業界関係者 窓自体も大型で、ボーイング777とほぼ同じ 単独で、客室モックアップを訪問する機会が 大きさになっているという。オーバーヘッド・ 用意され、合わせて説明を聞くことができた。 ビンはピボット式の大容積タイプで、また空 Cシリーズは細身の胴体を使用しており、こ けたときにより低い位置まで下がるようにし のため客室最大幅は3.28mと、ボーイング737 て、背の低い人でもビンへの手荷物の出し入 の3.53mやエアバスA320の3.68mよりは狭い。 れを容易にした。機内照明はLEDで、色を変 このため普通席は、2席+3席の横5席配置と えてのムード照明とすることが可能であり、 4 平成24年8月 第704号 で3,080nm。 また非常口などには万国共通のイラストを 使ったピクトグラムが用いられている。客室 ●737 MAX-9:最大離陸重量194,700lb(88,316 以外の機体各部にも最新の技術が用いられて ㎏)で 3,595nm。737-900ER は いて、全く新しい時代の単通路旅客機になる、 187,700lb (85,141㎏) で3,055nm。 とボンバルディア社は説明した。 新型の旅客機としては、エアバス社はA330 こうした737 MAXは、ファンボロー開催前 の時点で451機を確定受注しており、さらに の重量増加型の開発を明らかにした。これは シ ョ ー の 期 間 中 に 前 記 の 受 注 を 得 て い る。 A330各タイプの最大離陸重量を揃って240ト ボーイング社では2012年末までに確定受注機 ンにするというもので、まずは現在230トン 数を1,000機にすることを目指しており、また のA330-300に適用する。A330ファミリーは、 2017年の就航開始を目指して作業を進めてい 胴体の短いA330-200や純貨物型のA330Fも最 る。 大離陸重量は同じで、これらもA330-300に続 実機展示では、地上展示と飛行展示をあわ いて240トン型を可能にする。A330-300は240 せた総出品機数は153機と、ここ数回のショー トン型にすることで、乗客300人を乗せた状 と大きくは変わっていない。しかし今回は、 態で航続距離を400nm延ばすことが可能と 主要な機種で航空ショー初出品というものが なって標準航続距離は5,950nmとなる。また 少なく、目新しさという点では少々寂しかっ A330-200にこの重量を適用すると、航続距離 たのは事実だ。またヨーロッパ全体の景気後 の270nmの延伸とペイロードの2.5トンの増加 退の影響を受けてか、トレード・デーの飛行 を同時に行える。その結果乗客246人を乗せ 展示は機数が少なかった。例えば従来は複数 ての航続距離は7,050nmになり東京∼ロンド 機種を飛行させ るエアバス社も、シャーク ン、ロサンゼルス∼ダブリンなどの路線に使 レット付きのA320や軍用輸送機A400Mなどを 用できるようになる。エアバス社ではこの 出品したものの、飛行展示を行ったのはA380 240トン型のA330を、2015年に就航させると だけであった。このA380は、会期前半はマレー している。 シア航空に引き渡す、同航空向け二番機が展 ボーイング社では、昨年開発を決定した次 世代737の新世代型である737 MAXシリーズ 示されたが、水曜日のショーが終わった後に、 社有のA380の飛行試験機に入れ替えられた。 について、運航自重を引き下げる一方で最大 離陸重量を現在のタイプより増加し、これに より航続距離を延伸させる計画であることを 明らかにした。各タイプの、次世代737と737 MAXの比較は次の通り。 ●737 MAX-7:最大離陸重量159,400lb(72,304 ㎏)で 航 続 距 離 は 3,800nm。 737-700は154,400lb(70,036㎏) で3,400nm。 ●737 MAX-8:最大離陸重量181,200lb(82,192 ㎏)で 航 続 距 離 は 3,620nm。 737-800は174,200lb(79,017㎏) 飛行展示を行う、マレーシア航空向け引き渡 し二番機のA380。会期途中でエアバス社の 社有機で試験用の機体と入れ替わった。 5 トピックス ボーイング社は、前回のファンボローに続 いて787-8を出品し、この種の航空ショーでは 初めて飛行展示を行った。フライトではタッ チ・アンド・ゴーや追い風での着陸を披露し トリを務めていたが、この展示機もカタール 航空向けの引き渡し機で、飛行展示は水曜日 までの3日間のみで、木曜日の朝にシアトル に向け離陸していった。このため一般公開日 には、787の姿はなかった。 前回のファンボローに続く出品となったボー イング787-8。カタール航空向けの機体が持 ち込まれて、機内の公開と飛行展示を行った。 AIM-9XサイドワインダーAIM-120 AMRAAM 各1発という軽装備で飛行展示を行ったボー イングF/A-18Fスーパー・ホーネット。 ほぼクリーン形態で飛行展示を行ったユーロ ファイター・タイフーン。イギリス空軍第6(F) 飛行隊の所属機である。 軍用機では、ユーロファイター・タイフー ン、サ ー ブ JAS39 グ リ ペ ン、ボ ー イ ン グ F/ 一方で、リードイン・ファイター練習機と A-18Fスーパー・ホーネットといった戦闘機 呼ばれる、戦闘機前段階練習機は今後多くの 群が飛行展示を行い、それぞれが特徴を生か 国で需要があると考えられており、ロシアの したフライトを披露したが、戦闘機全体の話 ヤコブレフYak-130と韓国のコリア・エアロ 題は少なかった。その理由の一つとしては、 スペース・インダストリーズ(KAI)T-50の2 大きな商戦であったインドと日本が新戦闘機 機種が飛行展示を行った。また、開発・販売 の機種を決定し、また近く決定するとみられ で 先 行 し て い る ア レ ニ ア・ア エ ル マ ッ キ ているブラジルもダッソー・ラファールが優 M-346も、フィンメカニカの専用展示ブース 位で、喫緊の大きなプロジェクトがないこと で地上展示され、見ている限りでは多くの国 が挙げられよう。このためスーパー・ホーネッ の空軍関係者が機体を訪れていた。これらの トとロッキード・マーチンF-35は、記者会見 中でも注目されたのがT-50で、韓国がこうし ではパイロットがその操縦などについて語っ た航空ショーに実機を持ち込んで飛行展示を ただけで、ユーロファイターは記者会見も開 行ったのは、史上これが初めてである。 催しなかった。 因みにファンボローに飛来したT-50は、い ずれも韓国空軍の曲技チーム『ブラック・イー 6 平成24年8月 第704号 グルス』の使用機で、3機が到着し、1機が地 上展示、1機が飛行展示、もう1機が予備機と して使われた。T-50は超音速ジェット練習機 で、航続距離は長くはなくまた空中給油もで きないので、これらの機体は船でイギリスに 運ばれ、陸揚げ後飛行を行って会場に到着し た。 4機がイギリス訪問ツアーの一環として飛来 し、連日飛行展示を行ったアメリカ海兵隊所 属のベル/ボーイングMV-22Bオスプレイ。 定通り配備を進める』と述べただけであった。 またショーの直前の時点で、アメリカ海兵隊 には360機の装備計画に対して152機を、空軍 には50機の装備計画に対して26機が引き渡し 済みで、配備計画がほぼ半分の位置にさしか 韓国KAIがロッキード・マーチン社の協力を 得て開発したT-50練習機。国際的な販売も目 論んでいる。 かっていることを説明、また現在は月産3機 軍用機の中で注目を集めていたのは、ベル/ 調達契約(MYPⅡ、5年間)では、174機の製 ボーイングV-22オスプレイである。オスプレ のペースで製造が行われていることも示し た。また2012年12月締結予定の第Ⅱ期多年度 造契約が予定されているともした。 イはアメリカ海兵隊のVMM-264“ブラックナ ファンボローに飛来した4機のMV-22Bのう イツ”に所属する4機のMV-22Bがイギリス訪 ち1機は、メディアや産業関係者などの試乗 問ツアーを行い、ファンボローの前に開催さ 会に使われ、筆者も会期2日目の火曜日の午 れたロイヤル・インターナショナル・エア・ 前中に試乗することができた。この日はあい タトゥにも参加した。ファンボローへのオス にくの悪天候で、予定されていた飛行パター プレイの出品は2008年以来二度目であるが、 ンの一部は中止となり、極めて短い滑走での 2013年には空軍のCV-22BがRAFミルデンホー 離陸から、機体モードをヘリコプターから固 ルの第352特殊戦航空軍への配備が予定され 定翼機に変えて毎分3,000ft(914m)の高上昇 ており、今回のツアーはそれに先駆けてのお 率による急上昇の後は、固定翼機モードで飛 披露目の意味もあった。 行を続けた。その間には加速と減速や、60度 バンクでの急旋回などを行い、最後は固定翼 オスプレイは日本でも配備が計画されてい 機モードからヘリコプター・モードに転換し たから、特に日本のメディアにとってはより つつ高度と速度を下げて、短いホバリングの 注目度の高い出品機であった。ショー初日に 後着陸した。試乗中の感覚は、基本的には 行われた記者会見でも、沖縄配備に関する質 C-130などの軍用輸送機に乗っているのとお 問が出たが、回答した海兵隊の担当者は『予 なじであったが、聞こえてくるエンジン音や 7 トピックス 感じられる振動はむしろヘリコプターにかな 15 人 が 8 ∼ 10 人 に 減 っ て い る。も う 一 つ は り近いものだった。音については、エンジン AW139を大型化した軍用型AW149(2009年11 がターボシャフトであるからだと思うし、振 月13日に初飛行)を民間型にしたAW189で、 動についてはプロップローターが、プロペラ 最大離陸重量が軍用型の8.5トンよりも軽い8 よりはヘリコプターの主ローターに近いため トン級だが、キャビンには16∼18名の乗客を であろう。 乗せることができる。初飛行は、AW189の方 が先で2011年12月21日、AW169は2012年5月 10日であるが、もちろんこの両機種ともにこ の種の航空ショー初出品である。共通性の高 い3機種を揃えて、顧客の細かな要望に対応 していこうというアグスタウエストランド社 の姿勢が強く現れた3機種でもある。 試乗の最後に会場上空に到着し、ヘリコプ ター・モードに切り替えて着陸段階に入った MV-22B。 ヘリコプターの飛行展示では、アグスタウ エストランド社の3機種のファミリーによる アグスタウエストランド社のAW139から発 展した8トン級の双発ヘリコプターAW189。 AW139、AW169との3機種でファミリーを 構成している。 飛 行 展 示 が 目 を 引 い た。こ の 3 機 種 と は、 AW139、AW169、AW189である。 AW139は、アグスタ(当時)とアメリカの ベルが共同開発し、2001年2月3日に初飛行し 実機ではなく実物大の模型展示ではあった が、注目を集めていたのが民間の宇宙旅行企 業ヴァージン・ギャラクティックの宇宙機、 た6.5トン級の双発人員輸送用ヘリコプター 『スペースシップ・ツー』であった。『スペー AB139をベースにしており、ベルが製造・販 スシップ・ツー』は、航空機2機を主翼で結 売から手を引いたことでアグスタウエストラ 合した母機『ホワイトナイト・ツー』の中央 ンド社の単独製品AW139となったものだ。そ 部に吊り下げられて離陸し、高度約14,000m してアグスタウエストランド社では、この で切り離されると内蔵するロケットモーター AW139の基本設計と技術を活用して派生型を で上昇、高度約110,000mに到達し降下を開始 開発することとしたのである。 する。この間約6分にわたって、乗客は無重 その一つが小型化して4トン級の双発機と 力状態を体験でき、宇宙旅行をすることにな したAW169で、キャビンの乗客数もAW139の る。大気圏内に戻ると滑空により着陸すると 8 平成24年8月 第704号 いう方式で、 『スペースシップ・ツー』はショー の会期前の時点で18回の滑空飛行試験を消化 していた。因みに1回の宇宙旅行の費用は、 20万米ドル(約1,500万円)である。 ヴ ァ ー ジ ン・グ ル ー プ の 会 長 で あ る リ チャード・ブランソンは会期中に会場を訪れ、 有人宇宙旅行を成功させるとともに、今後は 衛星打ち上げビジネスにも事業を拡大してい くことを考えていることを明らかにした。 『ホ ワイトナイト・ツー』と『スペースシップ・ ツー』による実際の宇宙旅行の開始は、2013 年末が予定されている。 ヴァージン・ギャラクティカが計画している 宇宙旅行用の宇宙機『スペースシップ・ツー』 の実物大モックアップ。 天候には恵まれなかった今回のファンボ ロー航空ショーであったが、主催者は次回も 期日は、7月14日から20日の一週間とされて 2014年に開催することを発表している。開催 いる。 9
© Copyright 2024 Paperzz