ポスター発表要旨集

P‐01
P‐02
飼育下 マレ ー バ クの 乳汁 を用 い た
分娩後プロ ゲス テ ロ ン 値の 測定 とそ の 評 価
1
2
2*
飼 育 下 ニシ ゴ リ ラ の夜 間行 動分 析
1
金澤朋子 ・佐藤英雄 ・山本倫世 ・村田浩一
(1 日本大学生物資源科学部・2 横浜市繁殖センター
2*
元横浜市繁殖センター)
野生動物の性周期や妊娠状態を知る上でプロゲステロ
ン値の測定は有用であるが、検査のための血液採取には
個体への侵襲が伴う。そこで非侵襲的に採取可能な糞尿
が試料として用いられる場合が多い。一方、家畜の牛で
は、血液中プロゲステロン値と高い相関が認められるこ
とから、乳中プロゲステロン値が発情判定、妊娠診断、
分娩後の卵巣機能回復状態および卵巣疾患の診断などに
使用されている。
そこで本研究では、マレーバク(Tapirus indicus)にお
いても乳汁を用いたプロゲステロン値測定が有効である
か否か、さらに本法で分娩後の変動を明らかにすること
ができるか否かを評価した。対象動物は、横浜市繁殖セ
ンターで飼育管理され、分娩が確認された雌個体 3 頭(初
産 1 頭、経産 2 頭)である。乳汁採取期間は、出産後か
ら約 1 年間とし測定時まで-20℃で冷凍保存した。プロゲ
ステロン(P4)値の測定は、自作プレートを作成し EIA
法で行ったので、その結果と本希少種の飼育管理におけ
る有用性について報告する。
P‐03
個別 ケ ージ飼 育ニ ホ ン ザル にお け る 動画 呈 示 によ る
異常 行 動 の頻 度の 減 少
宝田一輝 1・長尾充徳 2・釜鳴宏枝 2
山本裕己 2・田中正之 1
1
( 京都大学野生動物研究センター・2 京都市動物園)
飼育下では夜間行動の詳細な観察が可能であり、動物
の行動を把握するうえで有用な情報を得ることができる。
本研究では京都市動物園で飼育をされているニシゴリラ
(Gorilla gorilla gorilla)1個体を対象に夜間行動の分
析を行った。分析は獣舎外に設置された監視カメラの映
像を用いて、2010 年 2 月∼2010 年 4 月までの 47 日間を
対象とした。観察期間の 77%で夜間に寝床としている場
所から移動して採食する様子が観察された。この現象は
就寝後 18 時∼23 時までの間に起こる「夜食型」と起床
直前の 1 時間に起こる「早朝食型」の 2 パターンに分類
されることが分かった。また 2009 年 11 月∼2010 年 4 月
までの 73 日間を対象に睡眠場所滞在時間を分析した。月
別の平均滞在時間は 13 時間から 14 時間程度であり日の
出時刻による変化は見られなかった。しかし日毎の比較
では 12 時間から 17 時間と大きな変化がみられた。
P‐04
名 古 屋市 東 山 動 物 園 にお け る ナ イ ト ZOO と
昼 間 の来 園 者 の 行 動 の比較
小倉匡俊
(京都大学霊長類研究所・日本学術振興会)
杉本美鈴・五百部裕
(椙山女学園大学)
本研究では、個別ケージ飼育のニホンザル( Macaca
fuscata)の異常行動の頻度に対する動画呈示の効果を調
べた。被験体のケージの前に LCD モニターを設置し、動
画呈示をおこなった。ネットワーク共有動画を用いてニ
ホンザル・ヒト・アニメーションの動画を呈示した。赤
外線距離センサーを設置し、被験体がモニターとの距離
を変えることによって動画呈示の有無を操作できるよう
にした。こうした実験設定のもとで、被験体の異常行動
の頻度を記録した。動画呈示条件においては、非動画呈
示条件よりも異常行動の頻度が有意に少なかった。動画
内容により選択的に動画を再生し、異常行動の頻度に与
える影響も異なった。被験体は動画の内容に対する選好
性を示し、動画内容は被験体の行動にも影響したが、選
好する動画の内容は個体により異なった。本実験設定下
では操作性の効果は見られなかった。これらの結果から、
動画呈示は個別ケージ飼育のニホンザルの異常行動を改
善するために有効な手法であると考えられる。
最近、夜間の動物園を公開する動きがいくつかの動物
園で見られる。では夜間と昼間では、動物や来園者の行
動に違いはあるのだろうか? 本研究はこうした問題意
識から、名古屋市東山動物園において、ナイト ZOO(夜
間開放)時と昼間の動物や来園者の行動を比較した。ま
たナイト ZOO 時の周囲の明るさの影響も合わせて調査し
た。ナイト ZOO 時の調査は 2010 年 8 月の 5 日間、昼間の
調査は 2010 年 9 月の 1 日間に、いずれもキリン舎の前で
行った。キリン舎の前に来た男女のカップルを調査対象
とし、彼らの行動と動物の行動、動物の位置を 15 秒間隔
で記録した。また調査対象者のキリン舎前での滞在時間
を計測した。こうして得た資料を、動物の行動や動物と
の距離が来園者の行動や滞在時間にどのように影響する
か、そしてこの影響の仕方にナイト ZOO の際の周囲の明
るさがどのように関係しているか、さらにはナイト ZOO
と昼間でこの影響の仕方に違いが認められるのか、とい
った観点から検討する。
P‐05
自然 学ポケ ッ トゼ ミナ ール 活動 紹 介
P‐06
CSU と 動 物 園の 連 携
秋吉由佳 1・伊藤祥子 2・平栗明実 3・渡邉みなみ 1
(1 岐阜大学応用生物科学部・2 岐阜大学工学部・
3
日本大学生物資源科学部)
私たち自然学ポケットゼミナール生は、毎週日曜日に
愛知県犬山市にある京都大学霊長類研究所で活動してい
る。このゼミナールは霊長類の理解とフィールドワーク
の実践の場となっている。昨年度までは岐阜大学の学部
1 年生のみを対象とするゼミナールだったが、10 年目の
今年から全国の大学の学部 1 年生が対象となった。主な
活動として、チンパンジーの観察、果実採取、レクチャ
ー、年 3 回の野外セミナー、SAGA での活動報告がある。
チンパンジーの観察では、個体識別をおこない、チンパ
ンジーの個体間関係の変化に着目して、ビデオ撮影をし
ている。果実採取では、彼らの採食品目を増やすため、
所内で管理されている樹木の果実を収穫している。レク
チャーでは研究所の先生方の話を聴き、専門的な知見を
広めている。野外セミナーでは、夏の妙高高原笹ヶ峰の
火打山登山や野外生活などをおこない、フィールドワー
クを実践し、自主性や柔軟性、協調性の大切さを学んで
いる。
P‐07
京都 市動物園 にお ける チ ン パ ン ジ ー の健 康 管理
∼タンザニア・ゴンベ国立公園の野生チンパンジーを見て
∼
山本裕己・松永雅之・伊藤二三夫・坂本英房
(京都市動物園)
タンザニアのゴンベ国立公園では,チンパンジーを観
察する際のルールが定められており(動物との距離・観
察時間の制限,咳エチケット等),ストレスや感染症に対
し一定の配慮がされている。チンパンジーとの直接的な
接触がない点で飼育下での管理とは異なるものの,人と
チンパンジーとの間には信頼関係が構築されていると感
じた。
一方,飼育下では,チンパンジーに対して,より積極
的な健康管理を行う責任がある。京都市動物園では,日
常的に体温測定・体重測定を行い,健康状態・栄養状態
の把握に役立てている。また,年 1 回健康診断を実施し,
血液検査等により健康維持や疾患の予防・早期発見に努
めている。投薬器による麻酔薬投与には動物に大きなス
トレスがかかるが,注射トレーニングによって投薬時の
ストレスを軽減することもできた。
チンパンジーは社会性や知性が高く,信頼関係の構
築・トレーニングによって採血等高度な診察が可能だが,
動物園においても,実践可能な範囲で負担が少なく効果
的な健康管理手法を検討していく必要がある。
寺本研 1・森裕介 1・藤澤道子 2・野上悦子 3・森村成樹 2
鵜殿俊史 1・小林久雄 1・伊谷原一 2
1
( チンパンジー・サンクチュアリ・宇土(CSU)・2 京都
大学 野生動物研究センター(WRC)
・3 京都大学 霊長類
研究所)
国内では遺伝及び亜種の問題からチンパンジーの施設
間移動が必要なケースがみられ、CSU ではこれに積極的
に協力してきた。移動後の適切な飼育を実現するために
は、チンパンジーへの正しい認識、正確な個体情報、飼
育技術の施設間での共有が必要である。このため、CSU
では個体を移動するばかりではなく、①移動前のサポー
ト(施設建設及び改修へのアドバイス・移動先職員への
研修・群れ作り)、②移動に関するサポート(移動中の付
き添い・施設への収容)、③移動後のフォローアップ(ペ
アリング及び群れ作りへの協力・運動場馴化への協力・
飼育繁殖への協力)を行うことにより移動先の飼育に協
力している。今回は、CSU と動物園の連携状況の報告と
併せて移動時の留意点、特に移動用ケージに関しても検
討を加えたので報告する。
P‐08
2009 年 度 に 増設 し た オ ラン ウー タン 舎 につ いて
水品繁和・入倉多恵子
(市川市動植物園)
1992 年より飼育するスマトラオランウータン(父親イ
ーバン♂1988 年生、母親スーミー♀1988 年生)との間に
誕生した第 1 子(ウータン♂2003 年生)が成長したため、
親から独立した際の生活空間確保および第 2 子繁殖に向
け、2009 年秋新たな飼育展示場を増設した。形状は、既
存の放飼場がモート形式であること、敷地、予算などを
考慮しケージ形式を選択した。設計は予算の都合から市
の職員により行われた。そのためシンプルな形状となら
ざるを得なかった。ケージのサイズは、奥行き10m
幅6m 高さ5m、さらに前面の観覧柵からは 4 メート
ル弱の距離をとった。奥行きを深く取り動物に心理的余
裕を与えることを重視した。放飼場内には運動具を設置、
幹としての縦ポールにツルとしての消防ホース、空間上
部には樹冠機能として消防ホースを横方向に張りめぐら
した。これは自然界での基本となる行動様式を発揮する
選択肢を与えるための試みであるが、現在のところ移動
の際に彼等が地面を使わず空中のみで移動をしているこ
とは想像以上の効果であった。
P‐09
チ ンパ ンジ ー にお け る 生息 環境 展 示 の可 能 性
P‐10
チ ン パン ジ ー 来 園 1 年 間 に見 ら れ た 繁 殖 に関 わる
課 題 と展 望
川口芳矢・平賀真紀・小川直子・小林和彦・小倉典子
(よこはま動物園)
よこはま動物園のチンパンジー展示場は、チンパンジ
ーの生息地を再現した生息環境展示方式で造られている。
1400 ㎡の面積を有する屋外展示場内には、樹高 10m 以上
の高木をはじめ、低木、地被植物など合わせて 34 種の植
物が植えられ、建設前に生息地調査を行いデザインされ
た擬木や擬岩、循環式の流れを配してアフリカの森が再
現されている。来園した7頭(雄2、雌5)のチンパン
ジーを初めて屋外展示場に放飼した2009年4月以来、
約 1 年半が経過した。今回は、この間のチンパンジーに
よる展示場内植物の利用頻度や嗜好性、展示場内の利用
箇所に見る季節性や年度による変化などと、実際にアフ
リカの森でチンパンジーを観察した経験から、チンパン
ジーにおける生息環境展示の可能性を考察する。
P‐11
広島 市安佐動 物公 園で の チ ン パ ン ジ ーに お け る
最近の エン リ ッ チ メン トに つい て
江草真治・谷口伸広
(広島市安佐動物公園)
広島市安佐動物公園のチンパンジー飼育展示において、
チンパンジーたちの暮らしの質をより高めるためのひと
つの手段として、近年取り組んでいるエンリッチメント
について報告する。1.竹(笹)を放飼場に設置する。2.
金網BOX。前面が金網の箱を壁に設置した。箱の中は
二段の棚があり、小さく切った果物やピーナッツを入れ
る。枝や指でかき出して食べる。3.竹ジュース。竹に穴
を開けて、その中に水やジュースを入れる。手が入る大
きさの穴にしておけば、棒を上手に利用することができ
ない個体でも、指やワッジを使って利用することができ
る。4.4リットルペットボトルフィーダー。大型のペッ
トボトルの中に、裂いた新聞紙と食物を詰め込む。5.凍
りポカリ。2倍に薄めたポカリスエットをペットボトル
に入れて、凍らせて与える。6.凍りトマト。凍りオレン
ジ。7.ペットボトルの底にはちみつを少量入れる。8.消
防ホースの切れ端のなかに食物を入れる。9.木の枝がい
っぱい。
以上の項目を、日替わりで行っている。
平賀真紀・小川直子・川口芳矢・小林和彦・小倉典子
(よこはま動物園)
よこはま動物園では 2009 年 3 月よりチンパンジー飼育
を開始した。雄 2 頭、雌 5 頭の計 7 頭を飼育しており、
チンパンジーをより野生に近い群れ構成である複雄複雌
群で飼育展示している。来園以来 3 頭の未経産若雌に関
しては、子育てを学習した後に出産させるという計画の
下、ホルモン剤により排卵抑制している。残る 2 頭の経
産雌では妊娠を確認したが、1 頭は流産、1 頭は逆子によ
る分娩異常で死産という結果となり、繁殖には成功して
いない。流産に関しては、飼育環境の変化や集団内個体
間の関係など不安定要素が多い時期だったことが原因と
思われるため、現在では起こりにくいと考えられる。死
産に関しては、今回の経験を活かして次回起こった場合
には早急に対応できると考える。また、これら妊娠・出産
以外の繁殖に関わる課題として、雄の繁殖異常行動や雄
間の順位から起こる交尾頻度などが挙げられる。これら
を改善し、複雄複雌群での繁殖を目指したい。
P‐12
日 本 国 で飼 育 さ れ てい るオ ラン ウ ー タ ンの
腸 内 フ ロー ラ 解 析
長森 隆 1・小池麻里子 1・海老久美子 1・中野章代 1・今
岡明美 2・梅崎良則 2・服部正平 3・森田英利 1・日本動物
腸内細菌研究コンソーシアム*
(1 麻布大学獣医学部・2 ヤクルト本社中央研究所・3 東京大学大学院・
*
旭山動物園・釧路市動物園・円山動物園・市川市動植物園・千葉市動
物公園・多摩動物公園・ズーラシア・日本平動物園・浜松市動物園・
豊橋総合動植物公園・東山動植物園・京都市動物園・王子動物園・天
王寺動物園・フェニックス自然動物園・平川動物公園・ノーザンファ
ーム(中島文彦)
・東京大学大学院(服部正平)
・麻布大学(森田英利))
動物園等で飼育されているオランウータンの新鮮な糞便
を採取し嫌気的に輸送した。糞便を段階希釈の後、BL 寒天
培地に塗抹し、37℃で 48 時間、嫌気培養した。生菌分離さ
れた菌株は 16S rRNA 遺伝子配列で菌種を推定した。その結
果、ヒトと同様に Bifidobacterium 属や Lactobacillus 属
等が分離され、年齢と共に変化する傾向がうかがえた。し
かし、ヒトとは違う菌種が分離されていることから宿主特
異性が示唆された。その中に、新菌種候補の
Bifidobacteirum 属も含まれていた。動物園飼育のオランウ
ータンの健常時の指標および食習慣や生活環境の異なる野
生オランウータンのフローラとの違いを検討していきたい。
また、セグメント細菌(SFB)は宿主の免疫系の発達に重要
なはたらきをしている。しかし、ヒトでは、16S rRNA 遺伝
子配列では SFB を検出できず、その存在の有無に興味がも
たれている。本研究では、オランウータン、チンパンジー、
サラブレッド等の糞便から SFB に類似のサイズの PCR 産物
が増幅され、今後の研究の進展如何では、オランウータン
の免疫形成解明の一助になると考えられる。
P‐13
ニシゴ リラの 快適 な飼 育環 境に む け ての 取 り組 み
P‐14
イ ン ド サイ に お け る種 子の 消化 管 通 過 時間
― 動 物園 で の調 査 ―
長尾充徳1・釜鳴宏枝1・田中正之2
( 京都市動物園・2京都大学野生動物研究センター)
1
京都市動物園では,1961 年から現在まで 13 頭のニシ
ゴリラを飼育し,3 頭の繁殖に成功している。しかし,
その飼育環境は万全と言えるものではなかった。そこで
2004 年から,これまでの飼育環境を見直し,その改善を
行っている。それは,心理的なものから物理的なものま
で多岐にわたっている。
また,2010 年 4 月下旬から 5 月上旬にかけて担当者が
ガボン共和国を訪れ,野生のニシゴリラとその生息環境
の観察を行ってきた。そこでは,樹上の利用頻度が高く,
獣舎での空間利用が必要であると痛感した。そして,こ
れまでの取り組みでは,多様な探索行動とその時間の延
長が重要なポイントであると考えられる。
これらのことを考慮し,飼育環境の改善に努めて行き,
2010 年 10 月に導入した若い雄ゴリラとの繁殖にも繋げ
て行きたい。
P‐15
人工 哺育チン パ ン ジー の 群 れ 入 れ に つい て
東川上純・清水美香・永田裕基・木岡真一
(多摩動物公園)
当園で生まれたジン(オス:2008 年 7 月 2 日生)は、母
親の育児放棄により人工哺育となった。コドモのころか
ら群れの中で多くのことを学び、経験する彼らは、早期
に群れに戻すことが重要である。そこで、ジンを早期に
群れに戻す試みをおこなった。
コドモを単独で群れに入れることは危険を伴うため、
養母に預ける方法で群れ入れをおこなった。早期から群
れの個体にジンの姿を見せ、相性のよい個体と格子越し
の見合いをおこない、その観察結果から養母を決定した。
養母との見合いは、直接観察と監視カメラでの観察によ
り関係を評価しながら徐々に段階を進めていき、終日の
同居に成功した。
養母との関係安定後、群れのアルファオスとの見合い
をおこなった。アルファオスに守らせる形で、徐々に同
居する頭数を増やしていき、2010 年 6 月 30 日(728 日
齢)に群れの全ての個体との同居に成功した。今回は、
群れ入れまでの過程を報告する。
野口なつ子・高槻成紀
(麻布大学・野生動物学研究室)
インドサイは絶滅危惧種であり、保護の重要性が指摘
されている。生態系における役割を明らかにすることは、
その重要性を高めることができる。その役割のひとつが
種子散布であり、それを示すためには、1)種子の消化管
通過時間と2)行動圏の情報が必要である。そこで、この
調査では1)を明らかにすることを目的として、多摩動物
公園のインドサイ2頭を用い、形や重さが異なる6種類の
種子を与え、糞中に排出される時間を調べた。種子排出
数のピークは大きい個体で摂食してから72時間後、小さ
い個体で42時間後であり、大きい個体のほうが遅かった。
また、消化管通過時間は種子の大きさや形には影響を受
けなかった。このような情報は野外では得ることができ
ないため、動物園で積極的に情報収集をすべきだと考え
た。動物園での調査には、個体の詳細な情報が得られる
などの利点がある。動物園においてこのような調査がさ
らに行われることを期待したい。
P‐16
ヒ グ マ展 示 施 設 に お ける 環 境 エ ン リ ッチ メン トの
デ ザ イ ンー札 幌 市円 山 動 物 園
「 エ ゾヒ グ マ 館 」 新 築計 画
片山めぐみ 1・木戸環希 2・足利真宏 3・朝倉卓也 3・河西
賢治 3・田村康宗 3・本間耕 3・土佐貴樹 3・向井猛 4・伊
藤真樹 4・吉野聖 5・伊藤哲夫 6
(1札幌市立大学デザイン学部・2 景観整備機構
観・まちづくりセンター・3 札幌市円山動物園
動物園
飼育展示課
財団法人京都市景
飼育係・4 札幌市円山
獣医師・5 札幌市円山動物園
経営管理課
経営
管理係・6 札幌市都市局)
本研究は、放養場外の空間や観覧者をも含めた、動物と
環境との関係を豊かにする「環境エンリッチメント」の考
え方により設計された「エゾヒグマ館」の基本計画の概要
を紹介する。この考え方は、放養場内の環境要素との関係
(関係1)、放養場外の景色や音、匂いなどの知覚情報との
関係(関係2)、放養場外の知覚情報の取得を可能にする環
境要素との関係(関係3)、人間とのコミュニケーションか
らみた観覧者との関係(関係4)、人間とのコミュニケーシ
ョンを媒介する環境要素との関係(関係5)から成る。これ
らを考慮し飼育員のアイディアを取り入れたコンセプト図
を作成した後、主に、以下のような「環境エンリッチメン
ト」を施した。床下暖房の「雨宿りスペース」と「洞穴」、
深さに変化のある「プール」、手を使って餌をかき出す「え
さ穴」、チップの中に隠れたえさを探す「チップエリア」、
北海道に自生する13種類の樹木(関係1)。頂上からの眺
めがよく風が吹き抜ける丘など(関係2・3)。サイズの大き
な窓、および匂いや音が放養場内外に伝わる壁面の筒など
(関係4・5)。施設オープン後は、メスのエゾヒグマ(2歳)
に以上の要素を利用した様々な行動が観察されている。
P‐17
野生チ ンパン ジー と 飼 育 チ ンパ ン ジ ーの 行 動 の 直
接比較 ∼認知 実験 は 環 境 エ ンリ ッ チ メン ト と し て
も 機 能 するか ?
山梨裕美 1,2・林美里 1・松沢哲郎 1
( 京都大学霊長類研究所・2 日本学術振興会 2)
1
本研究は同じ観察方法により収集された野生チンパ
ンジーと飼育チンパンジーの活動時間配分や行動のデ
ータを比較したものである。野生下と飼育下での活動
時間配分の直接比較は飼育環境の評価のために重要で
ありながら、これまでおこなわれてこなかった。そこ
で今回ボッソウと京都大学霊長類研究所のチンパンジ
ー計 22 個体(ボッソウ 10 個体、霊長類研究所 12 個体)
を対象に、行動の調査をおこなった。観察は個体追跡
法で朝から夕方までおこない、行動を 1 分ごと記録し
た。また飼育下では吐き戻し・糞食などの行動は逐次
記録法で記録した。結果、平日に認知実験がおこなわ
れることで、飼育下での採食・休息時間が野生のそれ
とかわらなくなっていた。一方、人が少なくなる休日
にはチンパンジーの活動時間は採食・休息・移動すべ
てのカテゴリーにおいて飼育下と野生下で有意な差が
あった。さらに時間帯の違い等も含め行動を検討して
いく。
P‐19
東山 動 物園で のチ ン パ ンジ ーの 知 性 展示 と そ の効 果
鈴木健太1・市野悦子1・木村元大1・島田かなえ1・櫻庭
陽子1・廣澤麻里2・中山哲男3・近藤裕治3・山本光陽3・
高倉健一郎3・原真実3・足立幾磨2
1
( 岐阜大学応用生物科学部・2京都大学霊長類研究所・
3
名古屋市東山動物園)
名古屋市東山動物園と京都大学の連携により、2008 年
12 月からチンパンジーの知性を来園者に知ってもらう
ための展示をしている。具体的には、チンパンジー舎屋
外展示場横に設置された実験ブース(名称:パンラボ)
にて、タッチパネルを用いた認知実験をおこなっている。
見本あわせ課題と数字課題をおこなっている。2010 年 8
月に転出した 1 個体を含めた 5 個体の内、4 個体が見本
あわせ課題を習得した。数字課題についても各個体順調
に学習中で、1 個体はすでに 9 までの数字系列を学習し
た。現在、その個体についてはさらにマスク課題を訓練
している。また、これらの展示が来園者に与える影響を
調べた。来園者の滞在時間を記録し、知性展示あり条件
となし条件で比較した。分析の結果、展示あり条件で有
意に滞在時間が長かった。こうした展示により、来園者
がより興味をもって動物を観察し、その行動や知性を学
ぶ機会を提供することができたのではないかと思う。今
後もチンパンジーについてより深い情報を発信していき
たい。
P‐18
日 本 国 内の テ ナ ガ ザル の飼 育の 変 遷 ( その 2)
打越万喜子
(京都大学霊長類研究所)
類人猿のテナガザル類は東南アジア・中国南部・イン
ドに生息するが、全種に絶滅の恐れがある。国内の約 170
個体のテナガザルは、域外保全の観点から、また、教育・
研究において貴重な存在である。昨年の SAGA12 では、過
去の文献と日本動物園水族館協会の血統登録台帳を基に
して、1956 年から 2007 年までの国内テナガザルの情報
を整理したものを発表した。その後、同協会の年報から
の情報を追加したところ、50 年代から 90 年代までのデ
ータに多数の個体の取りこぼしがあったことがわかった
ので、修正したものを改めて報告する。また、テナガザ
ルに関連するさまざまな情報を動物園の皆さんと交換す
ることで、飼育下のテナガザルの福祉の向上をはかるた
めの場としたい。
P‐20
東 山 動物 園 の チ ン パ ンジ ー タ ワ ー 利 用状 況の 長期 調
査
木村元大1・櫻庭陽子1・鈴木直美1・市野悦子1・島田かな
え1・鈴木健太1・廣澤麻里2・中山哲男3・近藤裕治3・山
本光陽3・高倉健一郎3・原真実3・足立幾磨2
1
( 岐阜大学応用生物科学部・2京都大学霊長類研究所・
3
名古屋市東山動植物園)
2008 年 11 月に名古屋市東山動物園のチンパンジー舎
に、高さ 11m のタワーが導入された。チンパンジーのよ
り自然な行動を引き出すことが目的である。本研究では、
東山動物園のチンパンジー全 5 個体(オス 2 個体、メス
3 個体)のタワー利用について、タワー導入後 1 年間(2008
年 11 月 9 日から 2009 年 11 月 14 日)の動向を調べた。
調査には、放飼場を撮影したビデオ映像を用いた。4 週
ごとに 7 日間の調査期間を設けた。放飼開始から 1 時間
を対象とした。1 分ごとのスキャンサンプリング法で、
タワー利用の有無と利用している場所を記録した。調査
期間の降雨の有無を記録し、天候による利用率の変化も
調査した。結果によると、1 年間を通して梅雨期と夏季
に利用率が減少した。また、雨天時に利用率が減少した。
このことから、季節や天候による影響が大きいと考えら
れる。今後も調査を続けていくとともに、利用率の増加
を目指したタワーの評価・改善をおこなっていきたい。
P‐21
学びの 場 とし ての 動 物 園
∼中学校・高等学校を対象とした学習プログラムの展
開∼
神田恵・江藤彩子・赤見理恵・高野智
(財団法人日本モンキーセンター)
財団法人日本モンキーセンターは、登録博物館活動の
一環として、学校団体にレクチャーやスポットガイドな
どの教育普及活動を積極的に行っている。一般的に動物
園は小学校低学年や幼稚園の遠足の場所として見られが
ちだが、動物園が持つ潜在的能力を活用すれば、中学生
や高校生を対象とした、より深く充実した学習が可能で
ある。日本モンキーセンターでは、近年地元の中学校や
高校と連携し、校外学習プログラムや出張授業などに力
を入れ、成果を上げている。今回は、2010 年の 6 月から
9 月に地元の中学校と連携して実施した 3 年生の選択理
科の授業を例に報告する。この授業で、生徒は 3 コース
(形態学・採食生態学・社会生態学)に別れ、標本や行
動の観察など、2 時間の実習を計 6 回行った。授業後の
アンケートでは「難しかった」という声もあったものの
「サルの面白さがわかった」とポジティブな意見も多く、
生徒たちにとって充実した実習となったと考える。
P‐23
飼育下 アジア ・ア フリ カゾ ウと 行 動 目録 に おけ る
行動レ パ ート リー の 比 較
水野佳緒里 1・茶谷公一 2・今西鉄也 2・足立幾磨 3
( 岐阜大学・2 名古屋市東山動植物園・3 京都大学霊長類
研究所)
1
飼育下動物と野生動物の行動レパートリーを比較する
ことで、飼育環境に何が不足しているかがわかる。本研
究では、名古屋市東山動植物園のアジアゾウ 3 頭とアフ
リカゾウ 1 頭の行動レパートリーを記録し、ゾウ一般の
行動目録(Elephant Husbandry Resource Guide, Deborah
Olson, 2004)と比較した。隔週 1 回、1 種につき 1 時間
のビデオ撮影をした。なお、撮影期間は 2010 年 4 月∼10
月であり、合計撮影時間はそれぞれの種で 12 時間となっ
た。収集したビデオは上記の行動目録に従い分類した。
その結果、アジアゾウでは 242 項目のうち 65 項目(26.9%)、
アフリカゾウでは 272 項目のうち 40 項目(14.7%)が観
察された。行動目録にはない行動レパートリーも観察さ
れた。例えば、アジアゾウは「鼻で壁を叩く」、「鼻で持
った物を水につける」行動で、アフリカゾウは、
「鼻で持
った物を地面に叩きつける」、「頭を壁に打ちつける」行
動である。総合計撮影時間が 24 時間と少ないため、今後
も観察を続ける必要がある。
P‐22
東 山 動物 園 の チ ン パ ンジ ー に お け る 飼育 環境(物理
的・社会 的)の 変 化が 行 動 に も た らす 影 響 ― メス の事
例
櫻庭陽子 1・市野悦子 1・木村元大 1・島田かなえ 1・鈴木
健太 1・廣澤麻里 2・近藤祐治 3・山本光陽 3・足立幾磨 2・
松村秀一 1
1
( 岐阜大学応用生物科学部・2 京都大学霊長類研究所・
3
名古屋市東山動物園)
2010 年、名古屋市東山動物園のチンパンジー群(当初
オス 2 個体、メス 3 個体)で、屋外展示場の改修工事に伴
う物理的飼育環境の変化と、個体の移動による社会的飼
育環境の変化が生じた。改修に伴い、6 月 2 日から 6 月
30 日までは終日屋内で飼育され、7 月 1 日以降屋外運動
場の利用が再開された(物理的環境変化)。続いて、メス
1 個体の転出とメス 2 個体の新規導入により、9 月 9 日か
らメス 4 個体の群れ作りが始まった(社会的環境変化)。
本研究では、物理的・社会的環境変化にともなって、先
住のメス 2 個体の行動どのような変化を与えたかを比較
した。14 時から 15 時までの 1 時間に、対象個体の行動
を 1 分間隔のスキャンサンプリングで記録した。オスと
離れて、転入してきたメス 2 個体との同居が始まると、1
個体は、休息が減少、移動が増加した。1 個体は異常行
動が増加した。これらより、物理的・社会的環境変化に
伴う影響を考察する。
P‐24
第 3 号 オ ラン ウ ー タ ン 吊 り橋 プ ロ ジ ェ ク ト架 橋報告
について
黒鳥英俊1・和田晴太郎2・小川直子3・小川光輝3・中西
宣夫3・Saimon Amos4・Nazarius Domianus5・Unding Jami
5
・Leah Schein5・Rodi Tenquist5・Rob Colgan5・Benoît
Goossens6
1
2
( 上野動物園・ 京都市動物園・3BCTJ・4Fieldskills
Adventures Sdn Bhd.・5Cardiff University・6DGFC)
ボルネオオランウータンが数多く生息するマレーシ
ア・サバ州キナバタンガン川流域は近年、アブラヤシ
のプランテーション開発が進み、保護区内でも違法に
樹木が伐採され、オランウータンは木から木へと移動
することができず、小川や排水路によっても分断され
孤立した状態が続いている。そこで現地のボルネオ保
全トラスト(BCT)、BCT ジャパンを中心にボルネオの
生物多様性保全のために、分断化された保護区をつな
ぐ解決策の一つとして、日本の動物園の協力をもとに
オランウータンのための吊り橋を、2008 年、2009 年に
2 本架橋してきた。2010 年、1 号橋をオランウータン
が渡ったことがわかり、吊り橋の有効性が証明され、
今回緊急性の高い区域で3号橋の設置に取りかかった。
今回はこれまでの経験に基づき,今後できるだけ多く
の橋をかけるためにシンプルなデザインとし,現地へ
の技術移転を考慮し,地元で活動している海外の研究
者、地元の協力者のもとに完成することができた。そ
れと設置から 2 年、1 年を経過した 1 号橋と 2 号橋の
設置状況についても報告する。
P‐25
動 物園 のチ ン パン ジ ー がチ ンパ ン ジ ーら し く
暮 らす た めに
∼多摩 動 物園 での 試 み ∼
P‐26
教 育 プ ログ ラ ム で おこ なう 樹上 採 集 再 現
エ ン リ ッチ メ ン ト
野上悦子・鵜殿俊史・森村成樹・椎原春一
(NPO 法人サンクチュアリ・プロジェクト)
木岡真一・清水美香・永田裕基・東川上純
(東京都多摩動物公園)
多摩動物公園のチンパンジーの放飼場(2000 年∼)に
は、タワーややぐらがあり、アリ塚やナッツ割など野生
を意識した施設となっているが、チンパンジーは過ごし
辛そうにしていることが多かった。ツタの代わりとなる
ロープや木が茂る森には当たり前にある日陰がないとい
った問題点が挙げられる。そのため、2009 年から給餌回
数の見直しや施設の改善を行った(木岡ら,SAGA12 ポス
ター)。
動物園のチンパンジーが野生のチンパンジーのように、
ベッドを作り、チンパンジーが木に登る姿を来園者に見
せるためにはどうしたらよいのか?チンパンジーがチン
パンジーらしく暮らすために、担当者のみで行った、多
摩動物公園で取り組んだ試みを紹介する。
P‐27
チンパンジーの「樹上での採食」は野生では日常的に
行われていますが、飼育下では再現が困難なことのひと
つです。これを再現することで飼育下で必然的に短くな
ってしまう採食時間を長くすることができ、エンリッチ
メントとしての効果が高いと思われます。しかも野生の
行動に近いため、動物園などでおこなうと一般に対する
教育効果が非常に高いと考えます。葉のついた1∼2m
の枝にサイコロ状に切った果物や野菜などをとりつけ、
「実のなる木」をつくり、これをタワーの上に設置しま
した。「実のなる木」を作る作業は手間がかかりますが、
これを教育プログラムとして企画したことで、参加者の
力を借り、短時間でおこなうことができました。このエ
ンリッチメントについて紹介します。
P‐28
フク ロテナガ ザ ル 展 示 場改 修に つ い て
ア ム ー ルト ラ の 周 産期 行動 の観 察
加藤洋子
(千葉市動物公園)
坂本英房1,2・中野和彦1・渡辺英博1・岡橋要1・田中正之2
(1京都市動物園・2京都大学野生動物研究センター)
フクロテナガザル屋外放飼場の止まり木を自然木から
コンクリート柱に取り換えた。回収後のフクロテナガザ
ルの行動の変化と今後の課題について報告する。
当園では、オス 1 メス 1 の計 2 頭のフクロテナガザル
を飼育している。屋外放飼場(130.38 ㎡)は池に囲まれ
た無柵放養式で、ループ状の鉄棒(1.4m∼2.8m の高低差
あり)がある。2006 年頃より、自然木にて止まり木を設
置してきたが、腐食などにより交換が必要となった。今
後のメンテナンスなどを考え、コンクリート柱を選択し
て設置した。
コンクリート柱は 5m、6m、8m の 3 本。これを消防ホー
スで繋ぎ、空間利用ができるようにしている。
コンクリート柱設置から 10 月末までのフクロテナガ
ザルの行動の変化、現在の放飼場の問題点、今後の課題
についてまとめた。
P‐29
Tri-national issues of conservation in the Nimba
Mountain,
West Africa - Chimpanzee as an indicator species
1
2
Nicolas GRANIER , Laura MARTINEZ , Marie-Claude
HUYNEN1
and Tetsuro MATSUZAWA3
1
( Behavioral Biology Unit, Department of Environmental
Sciences,University of Liege・2 Research Institute of
EcoScience, Ewha Womans University, Seoul,Republic of
Korea・3 Primate Research Institute, Kyoto University, Inuyama,
Japan)
The Nimba Mountain consists of a 40km-long scenic
mountain chain rising abruptly more than 1000m above
surrounding plains. It extends along the tri-national border
between Guinea, Côte d’Ivoire and Liberia and peaks at
1752m, constituting the third highest summit of Western
Africa. It is classified as a Natural World Heritage site because
of its picturesque landscape and unique biogeographical
characteristics, the multiplicity of micro-climates and
ecological niches that have favored the emergence of a highly
diverse and endemic wildlife. It is located at the crossroads of
3 main ethnic influences (Manon, Yakuba and Kono) which
result from ancient migratory fluxes and populations mixing.
In either anthropological or biological terms, the Nimba
Mountain can be defined as much by its intrinsic diversity as
by its global homogeneity; a varied but single entity torn
between different national administrative and protective
statuses. The early protection of the Guinean and Ivorian parts
of the Nimba Mountains has favored numerous scientific
investigations initiated in the 1940s. The nowadays ongoing
studies provide updated data on the conservation state of this
unique site, showing that biodiversity in general, and
chimpanzees in particular, are highly threatened by increased
habitat destruction. During his PhD research in the Eastern
part of Nimba, Granier has monitored the augmentation and
diversification of human pressures in this complex multifactor
context. Today’s biggest challenges may consist of dealing
with the trade-off between biodiversity preservation and local
development, as well as to take up the elaboration of a global
and coherent transnational program of natural resources
management.
P‐30
大 型 類 人猿 情 報 ネ ット ワー ク(GAIN) の 活動 紹介
― 英 語 版の ト ラ イ アル ―
打越万喜子 1・佐賀正和 2・山崎由紀子 2・佐藤義明 1
落合知美 1・松沢哲郎 1
1
( 京都大学霊長類研究所・2 国立遺伝学研究所生物遺伝
資源情報総合センター)
「大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)」は国内の
チンパンジーとゴリラとオランウータンについて、個体
の情報を収集し、データベース化し、一般に開示して、
学術研究の推進に供する事業である。2002年度より
始まり、これまでの8年間で、国内保有の全個体の登録
と公開ができている(http://www.shigen.nig.ac.jp/gain/)。
国内の研究者および飼育施設の関係者に認知されてきた。
この事業を維持し、さらに発展させるために、現在、次
の活動をおこなっている。①飼育施設からの情報収集と
整備:出産・死亡などの個体情報を継続してモニターし、
随時、ホームページに反映させている。個体ごとのDN
A情報・行動情報についても整備をすすめている。また、
グーグルマップを導入した。②ホームページとデータベ
ースの英語化:未訳の部分もあるが、GAINの英語版
をすでに公開した。今後の国際的な連携のための土台と
なることが期待される。
P‐31
釧 路 市 動物 園 に お ける タン チョ ウ 保 護 につ いて
生駒忍1・飯間裕子1・古賀公也1,2
志村良治1・井上雅子2
1
( 釧路市動物園・2タンチョウ保護研究グループ)
釧路市動物園では、1975 年の開園以来、タンチョウの
保護を行っている。現在は丹頂鶴自然公園と阿寒国際ツ
ルセンターも動物園の所管となり、共に保護に取り組ん
でいる。
保護された野生タンチョウは全て釧路市動物園へ運び
込まれるが、生息数の増加(2010 年約 1300 羽)に伴い、
死体を含めた保護件数は年間 30 件に及ぶ。傷病個体は
放鳥に向けて治療を行うが、放鳥不可能な場合は飼育下
繁殖に用いる。死亡個体は、全て病理解剖を行い死因の
究明に努めている。解剖後の全身と臓器は、調査研究に
供するため保存している。
また、3 施設で計約 40 羽を飼育しており、飼育下繁殖
群の維持、孵卵・人工育雛に取り組んでいる。2009、2010
年には各 2 羽の人工育雛を行った。これら飼育個体を用
いた発信機装着個体の放鳥を予定している。
野生下での絶滅の危機はひとまず回避されているが、
放鳥を見据えた人工育雛法の確立、ファウンダーの充実、
放鳥不可能個体の有効活用、教育普及活動の充実など、
課題は多い。
P-32
ケニ アの フィ ー ル ド ス クー ル:
一ヶ 月の 野外 研 修 プ ロ グラ ム
P‐33
タ ン ザニ ア の 疎 開 林 に棲 息 す る ブ ッ シュ ハイ ラッ ク
ス の 単 独オ ス の 日 周行 動パ ター ン
仲澤伸子
(京都大学理学部理学科)
飯田恵理子・伊谷原一・中村美知夫
(京都大学 野生動物研究センター)
八月の一ヶ月間、霊長類を見るケニアのフィールドス
クールに参加した。米国ラトガース大学のジャック・ハ
リス教授が、毎年おこなっているプログラムである。プ
ログラムの目的は、サバンナ、ケニア山、ターナ川など
を訪れ、ケニアの生息地の多様性と、生物多様性を実感
することだ。また、各地の抱える問題を知ることも目的
である。そのために私たちが主におこなったのは、野生
動物の観察や論文講読およびディスカッションである。
また、ケニアで研究を続けている先生方のゲスト講演、
行動を共にする先生方の講義を各地でお聞きした。この
プログラムは、ケニアの施設と連携している。米国の教
授だけでなく、こうした施設のスタッフが行動を共にし、
学生に教授した。学生の国籍はさまさまであった。この
発表では、AS-HOPE 事業の支援を受け、このフィールド
スクールに参加したときの報告をする。
ハイラックスはイワダヌキ目に属する 1 科 3 属からな
る原始的な特徴を保持した哺乳類であるが、その生態や
行動はまだよく調べられていない。本研究は、2010 年 7
月にタンザニア共和国ウガラ地域において、疎開林に棲
息するブッシュハイラックスの行動や生態に関する基礎
資料を収集する目的で行った。
P‐34
先生は どっち ? バ ンド ウ イル カ( Tursiops
truncatus )に よる 視 覚的 な人 の 識 別
P‐35
友永雅己 1・上野友香 2・小倉 仁 2・杉山麻美 2
佐藤(二宮)真奈美 2・川上丞太 2・神谷知宏 2
(1 京都大学霊長類研究所 ・2 名古屋港水族館)
名 古 屋 港 水 族 館 の バ ン ド ウ イ ル カ (Tursiops
truncatus)4 個体を対象に、彼らにとって身近な異種個
体であるヒトを視覚的にどのように識別しているのかに
ついて検討を行った。日常の訓練場面で、各個体ごとに
固定したトレーナーがついたての後ろから左右いずれか
に現れてサインをするという試行を4回行った後、5回
目にはトレーナーともう一人別の人物がついたての両側
から現れて移動するというテストを行った。その結果4
個体とも自分のトレーナーの方を有意に追従し(83%)、視
覚的に人を見分けていることが示唆された。今後は何が
手がかりとなっているのかを検証していきたい。
一般にハイラックスは単雄複雌の群れを形成し、残り
のオスたちはその周辺の岩場で生活しているといわれて
いる。今回の調査では群れに属さない単独オスが観察さ
れたのでその行動パターンについて報告を行う。観察対
象となったオスは、通常ウガラの群れハイラックスが棲
む岩場ではなく、コビトマングースと巣穴を共用してい
た。日中には採食や移動は観察されず、ほとんどの時間
で休息していた。休息する場所については、巣穴周辺の
日陰、日当たりのよい岩の上、巣穴内などさまざまであ
ったが、時間帯により、利用場所に偏りが見られた。ま
た、群れの行動とどれくらいの差があるかを検討する。
カ エ ルか え る ・ 考 え る
∼ カ エ ルの 里 親 イ ベン トを 通じ て の エ ゾア カガ エ
ル の 生 態観 察 に つ いて ∼
生駒忍 1・木村久美子1・志村良治1・井上雅子 2
(1釧路市動物園・22010 年 3 月まで同園在籍)
カエルをはじめとした両生類は、食物連鎖の一端を担
っている。希少種であるシマフクロウやタンチョウもま
たカエルを採食する。園内・北海道ゾーンのトンボ池や
木道散策路では、4 月にはいるとエゾアカガエルの産卵
が始まり、卵塊を入園者があちこちで見ることができる。
動物園内では動植物の採材を禁止しているが、子どもた
ちの意欲が自然観察に向かうように、「カエルの里親制
度」を行った。5月にあらかじめ申し込みのあった20
人の小学生に集まってもらい、観察の仕方や飼育方法を
説明し、卵塊を持ち帰ってもらいカエルまで育てたら池
に返してもらうようにした。カエルの返却の際には、職
員が一緒に付き添い、子どもたちが直接トンボ池に返し
た。この教育プログラムにより子どもたちがカエルの飼
育活動を通じて、自然を見る基本姿勢を体験し、身近な
自然や希少な動物たちを守ることにつながるということ
を考える機会をつくることができたと考える。
P‐36
ベイ ト マーク 法を 用 い たタ ヌキ の 種 子散 布 距 離の 推
定
坂本有加・高槻成紀
(麻布大学・野生動物学研究室)
東京都西部の日の出町谷戸沢廃棄物広域処分場は、ご
みの埋め立て終了後、植生管理やビオトープ造成により
様々な生き物が見られるようになった。中でもタヌキは
林内と草原に少なくとも 22 カ所の溜め糞場を持ち、糞に
大量の植物種子が含まれることが確認された。そこで本
研究では、タヌキが溜め糞を介して行う種子散布の実態
を明らかにすることにした。方法はベイトマーク法を用
い、ソーセージにラベルを埋め込み、糞から回収した。
ソーセージに入れ林内に置いた合計 5961 枚のラベルの
うち、回収されたのは 21 回(7 カ所)の 208 枚(回収率
3.5%)であった。マークラベルは林内で 3 カ所(14 回分)、
草原で 4 カ所(7 回分)の溜め糞場で発見された。これ
らのことから、タヌキは林内に生育する植物の種子を食
べれば、林内だけでなく草原にも散布することが示され
た。
P‐38
モン ゴルにお ける 野生 馬 と ア カ シ カ の資 源 利 用
P‐37
東 京 都町 田 市 の 里 山 にお け る カ エ ル2種 の食 性比較
八木愛1・福山欣司2・戸金大3・高槻成紀1
( 麻布大学・野生動物学研究室・2慶応大学生物学教室・3
自然環境研究センター)
1
里山には谷津田と雑木林の環境が隣接しているため、
カエル類に重要な生息地である。カエルにもいくつかの
種があるが、調査地の東京都町田市の里山にはトウキョ
ウダルマガエル(T ダルマ)とニホンアカガエル(アカ)
が目立つ。この2種について 2010 年 5 月から 10 月まで、
捕獲場所を水田、放棄田、畔、など 5 つのカテゴリーに
分けて記録し、捕獲後、強制嘔吐法で胃内容物を採取し
た。T ダルマは多くが水田で捕獲されたが、アカは林縁
のほか、水田、放棄田でも多かった。最もサンプル数が
多かった夏には、T ダルマは昆虫の幼虫、アリ類、バッ
タ類、クモ類など水田や畦に多い動物を、アカは幼虫、
甲虫、クモ類、ワラジムシ類など畦に多い動物をよく食
べていた。このように大きくいえば、T ダルマは水田か
ら畦でそこに多い動物を食べており、アカはやや林より
にいたが、夏は畦において両種が共通した食物を利用す
る傾向があった。春と秋はその違いが大きくなる傾向が
あった。
P‐39
東 京 の ゴミ 処 分 場 跡に 戻っ てき た 哺 乳 類た ち
大津綾乃・高槻成紀
(麻布大学・野生動物学研究室)
奥津憲人・高槻成紀
(麻布大学・野生動物学研究室)
モンゴルのフスタイ国立公園にはタヒ(モウコノウマ)
が生息している。タヒは一度絶滅したものの、その後ヨ
ーロッパの動物園から「里帰り」し、現在では個体数を
増やしているが、同公園内にはアカシカも生息している。
タヒの増加は「回復」として歓迎されているが、公園の
生態系保全という視点からみると、慎重な検討が必要で
あり、両種の資源利用を知る必要がある。そこで本研究
では両種の資源(群落選択、食物としての植物)利用を
明らかすることを目的とした。
群落選択は糞塊カウントにより、食性は糞分析により
求めた。その結果、春にはタヒは草原を利用し、単子葉
を主体(87.8%)として採食するが、アカシカは林を利
用し、単子葉(53.0%)とともに双子葉(32.6%)もよ
く採食していることがわかった。つまり、タヒとアカシ
カでは群落選択でも採食植物も異なっており、資源を分
けていることがわかった。今後ほかの季節の分析もおこ
なう予定である。
都市におけるゴミの処分は大きな問題である。東京都
西多摩郡日の出町にある廃棄物広域処分場では、ゴミの
埋め立て後、動植物の回復が図られている。これは都市
ゴミの問題を考える一つのモデルとなるものである。
2009 年から行った自動撮影装置による調査では、タヌ
キ、キツネ、ハクビシン、アライグマ、ノウサギなど 8
種類以上の中型・小型哺乳類が確認された。また、処分
場内のススキ群落には、絶滅危惧種であるカヤネズミの
営巣も確認されている。
このような動植物の回復には、異なる管理によって生
まれた多様な環境が重要だと考えられる。そこで草原を
利用するノウサギとカヤネズミに注目して異なる群落の
利用度を調べた結果、ノウサギはどの群落も利用してい
たが、カヤネズミはほぼススキ群落しか使わなかった。
日の出処分場跡地は立ち入り禁止になっているために
野生動物の回復が順調であったと考えられるが、こうし
た跡地の利用の仕方は他の市町村でも参考になるであろ
う。
えるだろう。
P‐40
嵐 山ニ ホン ザ ル E 集 団に おけ る 1 歳 齢子 ザルに対 す
る母の 子育てス タイ ルが子 の社 会 的な 関わ り に 及ぼ
す 影響
P‐41
オ マ キ ザル の ク ル ミ割 り行 動
鋤納有実子・大西賢治・中道正之
(大阪大学大学院人間科学研究所)
藤森唯 1・加藤綾 2・佐藤義明 3・林美里 3
( 岐阜大学応用生物科学部・2 岐阜大学教育学部
3
京都大学霊長類研究所)
マカクやヒヒにおいて、0 歳齢の子ザルに対する母ザ
ルの子育てには、個体差が存在する。この個体差は子育
てスタイルと呼ばれ、保護性と拒否性という 2 つの性質
によって説明されてきた。しかし、0 歳齢の時と比較し
て母ザルとの関わりが少ない 1 歳齢子ザルに対する子育
てスタイルは、まだ検討されていない。本研究では、1
歳齢子ザルに対する母ザルの子育てスタイルが、0 歳齢
子ザルに対する母ザルの子育てスタイルと同様に説明さ
れるか否か確認し、さらにこれが子ザルの他個体との社
会的な関わりに及ぼす影響について調べた。嵐山ニホン
ザル E 集団の 1 歳齢子ザルを観察対象とし、母ザルや集
団他個体との社会交渉を記録した。母子間交渉のデータ
を元に主成分分析を行った結果、1 歳齢子ザルに対する
母ザルの子育てスタイルも同様に、保護性と拒否性によ
って規定されることが示唆された。また、保護的な子育
てを受けている 1 歳齢子ザルは、他個体から受ける毛づ
くろいの生起率が低いことが明らかになった。
オマキザルは中南米に生息する中型の霊長類である。
オマキザルは、その丈夫な歯で堅い殻に包まれた食物を
食べたり、堅い果実を木やタケの幹に叩きつけてそれを
開けたりすることが報告されている。そこで今回は、堅
い殻を持つクルミをオマキザルに与えた場合、オマキザ
ルはクルミを「打つ」という行為と「噛む」という行為
をどのように取り入れているかについて調べた。観察方
法として、京都大学霊長類研究所のメスのオマキザル 5
個体にクルミを 1 個ずつ与え、クルミを受け取ってから
中身を食べ始めるまでの過程を 1 個体ずつビデオカメラ
で撮影した。クルミを手にして最初におこなう行為は 5
個体ともほぼ「打つ」行為で、最後におこなう行為には
「打つ」と「噛む」の両方が見られ、個体によってその
偏りは異なった。また、「噛む」行為は個体によって 2
つのパターンがあり、セッションを通して一定の頻度で
現れる個体とセッションの後半になるにつれその頻度が
高くなる個体がいた。
P‐42
ニホ ン ザルの あか ん ぼ うに おけ る 固 形飼 料 洗 い行 動
の 獲得 と 伝播
P‐43
幸 島 野 生ニ ホ ン ザ ルに おけ る 58 年 間 の 人口統 計学
的解析
夏目尊好 1・中島麻衣 2・丸川昌輝 1
須田直子 3・松沢哲郎 3
1
( 岐阜大学応用生物科学部・ 2 京都大学野生動物研究セ
ンター・ 3 京都大学霊長類研究所)
鈴村崇文1・冠地富士男1・杉浦秀樹1・
松沢哲郎2・伊谷原一1
1
( 京都大学野生動物研究センター・2 京都大学霊長類研
究所)
京都大学霊長類研究所リサーチリソースステーション
の放飼場で暮らすニホンザルは、固形飼料を水に浸して
から食べるという行動をする。幸島ニホンザルのイモ洗
い行動に似ている。そこでこの行動がどのように集団内
に広まり、世代を超えて伝わるのかを調べた。観察した
ニホンザルの一群は、0 歳から 8 歳までの 24 個体で構成
される。その中で 2009 年に生まれた現在 1 歳になるあ
かんぼう 3 個体を 2009 年 7 月から 2010 年 10 月まで原
則として毎週 1 回観察した。観察日数の合計は 64 日で
ある。1 日 1 時間の直接観察とアドリブのビデオ記録を
おこなった。その結果、あかんぼうは生後 3 か月頃から、
母親を含む他個体が水に浸した固形飼料を拾ったり奪っ
たりするようになった。1 歳で、自ら水に浸して食べる
ようになった。3 個体のうちの 1 個体は、親はほとんど
しないが、子どもは固形飼料洗いをするようになった。
集団内に広まり、世代を超えて伝わる文化的行動だと言
幸島のニホンザルの研究は故今西錦司先生によって
1948 年に開始された。それ以降幸島では継続的に研究さ
れ、個体毎の人口統計学的なデータが蓄積されている。
この 60 年間におよぶ幸島野生ザルのデータを用い寿命、
繁殖、家系について解析を行った。給餌状態が個体数、
一歳未満死亡率、出産間隔、出産率、初産年齢に影響を
与える事が示唆された。また、寿命ではオスが 8.25 歳、
メスが 9.42 歳となりメスが長生きする傾向が見られた。
しかし、20 歳を超える個体はオスの方が多くこれは群に
所属する高順位のオスである。幸島には 7 つの家系が存
在したが、現在では EBA 系が約 70%を占める。家系毎に
出産パラメーターの比較を行った所、EBA 系は初産年齢
が早く一歳未満死亡率が低い事が示された。EBA 系は優
位家系でありα-Female を輩出する家系でもある。高順
位の個体ほど安定した子育てを行えるのではないかと考
えられる。
1
ンジーどうしの関係形成を支援する有効な手法となるこ
とが分かった。
P‐44
飼育 下 フサオ マキ ザ ル のオ ス間 に 見 られ た攻 撃的 交
渉 の調 節 過程
1
2
2
2
2
石黒雄大 ・高井進 ・山下直樹 ・長尾充徳 ・釜鳴宏枝 ・
山本裕己2・田中正之1
1
( 京都大学野生動物研究センター・2京都市動物園)
集団で生活する動物にとって、個体間の攻撃的交渉の
回避や、相手や場面の選択は重要である。本研究は、京
都市動物園で飼育されているフサオマキザル集団の中の
2 個体のオス(一方は α オス)を対象として社会交渉を
観察した。対象個体のどちらか一方、または双方に食物
を与える実験期を設定し、実験期とそれ以前の平常期に
おいて、個体追跡法により対象 2 個体の威嚇/警戒、近接
といった行動を記録した。分析は 1 日を通常の給餌時間
帯、実験時間帯、それ以外の時間帯に分けて行った。そ
の結果、実験時間帯には α オスの威嚇が増加したが、実
験進行とともに減少した。他方、もう一方のオス個体の
警戒は給餌時間帯と実験時間帯でのみ増加した。この個
体は α オスの実験場面に限られた威嚇の増加に対して、
食物存在下という、それと似た文脈においてのみ警戒を
増加させ、文脈に応じて行動傾向を調節していたことが
示唆された。
P‐46
CSU にお ける雄集 団 の 群れ 作 り と 復 帰 個 体の 再 編 入
森裕介1・鵜殿俊史1・小林久雄 1・野上悦子2
藤澤道子2・森村成樹2
1
( チンパンジー・サンクチュアリ・宇土・2京都大学野
生動物研究センター)
飼育チンパンジーの健康、長寿、福祉のために豊かな
社会環境を整備することは必須である。野生チンパンジ
ーは 20∼100 個体で1つの集団を形成するが、小集団に
分かれては再び合流して大集団を形成する離合集散を繰
り返す。野生での複雑な集団編成を模して、CSU の雄集
団を中心に 2007 年から集団サイズの大型化と離合集散
シミュレーションの導入を開始し、2010 年には大人雄 15
個体を定期的に 2∼3 群に分け、再合流させるのに成功し
た。同年 3 月、他動物園に繁殖目的で移動していた雄 1
個体が CSU に戻り、この離合集散集団に加わることとな
った。シミュレーションで形成される小集団を利用し関
係作りをおこない、およそ5ヶ月で全ての個体と自由な
組み合わせで生活ができるようになった。現在は1集団
当たり 4∼12 個体、2∼3 集団に変化する条件を実施して
いる。離合集散シミュレーションは、チンパンジーの個
体間交渉を刺激する複雑な社会環境を実現するだけでな
く、未知のチンパンジーがいる集団へ加わる際にチンパ
P‐45
フ サ オ マキ ザ ル は どの よう な物 体 を 好 むの か
佐藤義明 1・打越万喜子 1・藤森唯 2・林美里 1
( 京都大学霊長類研究所・2 岐阜大学応用生物科学部)
1
フサオマキザル(Cebus apella, s.l.)は南米に生息
する中型のサルである。野生では、堅い殻に包まれた実
を食べるとき、実をじかに樹木の節に叩きつけたり、石
を実に叩きつけたりして割る。実や石を選択するときに
は、重さなどを手がかりにして、より適切なものに好み
を示すことが報告されている。そういったオマキザルの
選好を解明するための端緒として、この発表では、課題
要求も動機づけもない場合に、物体の組をいくつか呈示
して、オマキザルがどのような選好を示すのかを調べた。
オトナメスのフサオマキザル 5 個体に、木球と木立方体、
穴のない木球と穴のある木球、木球とコルク球、コルク
球と発泡スチロール球、発泡スチロール球と木球を対に
して呈示した。実験参加個体が各試行で最初に触れたほ
うをその個体の選好した刺激とした。反応後に強化する
ことはしなかった。発表では、結果と、オマキザルの選
好に関する示唆、および環境エンリッチメントに対する
示唆を示す。
P‐47
学 習 場面 を 利 用 し た チン パ ン ジ ー の 行動 モニ タリ ン
グ
田中正之 1・國本幸子 1・松永雅之 2
伊藤二三夫 2・山本裕己 2
1
( 京都大学野生動物研究センター・2 京都市動物園)
動物を飼育管理する上で、日々の体調のモニタリング
は重要である。とくに体重は体調を知る有効な指標とな
る。京都市動物園では、屋外運動場に出る前の朝の 1 時
間を「チンパンジーのお勉強の時間」として、チンパン
ジーが学習課題に取り組む様子を展示している。この時
間を利用して、チンパンジーの体重を測定するために、
課題を行うタッチモニター前の床に体重計を設置した。
チンパンジーの学習の展示は 2009 年 5 月から 2010 年 9
月末までに 317 回実施した。体重計は 2010 年 1 月に設
置し、3 個体のチンパンジーの体重を計測している。学
習への取り組みはチンパンジーの自由意志に拠っている
ので、毎回すべての個体を計測できるわけではないが、
現在までに 112 日分の計測データが得られており、各個
体の体重変化がモニターされ、給餌量の調整をおこなっ
ている。発表では、学習課題での試行数、体温の計測値
など多様な指標とともにデータを提示する。
P‐48
リラン シンバ の北 20km の トゥ ビラ で 発 見 され た
チ ンパン ジー( Pan troglodytes )の ベッ ド
吉川翠 1・小川秀司2・Mapinduzi Mbalamwezi ・小金澤正
昭3・伊谷原一 4
1
( 東京農工大学大学院・連合農学研究科・2 中京大学・
国際教養学部・3 宇都宮大学・農学部・4 京都大学・野生
動物研究センター)
タンザニア西部のトゥビラ(05°01 S, 30°06 E)で
2008 年 2 月にチンパンジーのベッドを発見した.ベッド
は常緑樹種の 20mの高さに 1 個作られていた.トゥビラ
ではチンパンジーの生息確認情報はこれまではなかった.
周辺では,トゥビラの約 20km 南に位置するリランシンバ
にチンパンジーが生息している (加納ら,1999; Ogawa et
al., 2006).このリランシンバのチンパンジーの1頭が
一時的にトゥビラまで来て一晩泊まったと考えられた.
トゥビラはもともとリランシンバのチンパンジーの遊動
域の一部だった可能性もある.しかしリランシンバ周辺
は難民によって開墾が行われたため,チンパンジーの生
息域は狭まり果実は減少していた可能性が高い.そのた
めチンパンジーは食物を探して長距離移動したのかもし
れない.また 1 頭で移動したのは,食物が不足し分散し
て遊動する季節であったからかもしれない.このベッド
の発見によって,最も広い遊動域を持つと推定されてい
るタンザニアのウガラ地域に限らず,疎開林地帯のチン
パンジーは一時的には 20km 以上離れた場所にまで移動
する可能性が示唆された.
P‐50
ヒトの 子ども とお とな にお ける 数系 列記 憶課 題 :
チン パ ン ジー との 比 較
井上紗奈
(林原類人猿研究センター)
これまでの研究から、チンパンジーの子どもは、数系
列記憶課題、とくに瞬間的な記憶を問う課題において優
れたパフォーマンスを示すことがわかった。本研究では、
ヒトに対し、チンパンジーと同じ課題を導入した。「数字
記憶課題」では、タッチパネルモニタに現れたいくつか
の数字のうち最も小さい数字に触れたとたん、残りがす
べて白い四角形に置き換わった。どの数字がどの位置に
あったか、正しい順序に四角形に触れて消すと正解とな
る。
「時間制限課題」では、数字が画面にあらわれる時間
を3種類(650/ 430/ 210ms)に制限した。実験の結果、
「数字記憶課題」では、ヒトの子どもでも、5・6数字ま
で記憶することができた。しかし、子どももおとなも、
解答をはじめるまでの時間が長く、チンパンジーの瞬間
的な反応とは異なることがわかった。
「時間制限課題」で
は、子どももおとなも、制限時間がもっとも短いとき成
績が低くなったが、これは、成績が低下しないチンパン
ジーの子どもとは異なる結果である。
P‐49
チ ン パ ンジ ー の 群 れの 中で のオ ス の 役 割
福永恭啓
(滋賀県立大学人間文化学研究科)
大阪市天王寺動物園のチンパンジーの群れでは、05 年
当時、オスが若かったため、メスがオスよりも優位であ
った。最優位にあったメスは低順位メスを攻撃し、子殺
しを行うなど非常に高い攻撃性を見せ、エサなどの資源
を自らの子どもとほぼ独占していた。しかし、07 年にメ
スとオスの優劣が逆転し、オスが最優位となると、オス
が高順位メスから攻撃を受けた低順位メスを支援するよ
うになり状況が変化した。群れの中でのオスの優位確立
は低順位メスに取ってどのような意味があるのか、オス
が優位を確立する前後で、高順位メスから低順位メスへ
の攻撃頻度と各個体のエサ獲得率の変化を検討した。結
果、オスの優位確立後、高順位メスから低順位メスへの
攻撃頻度は減少し、エサ獲得率は、オスの獲得率上昇と
ともに低順位個体の獲得率も上昇した。これらのことか
ら、群れの中でオスが優位を確立することは、低順位個
体を保護し、エサなどの資源をより広く分配する機能が
あると示唆された。
P‐51
チ ン パン ジ ー を 対 象 とし た 対 面 課 題
林 美里
(京都大学霊長類研究所)
京都大学霊長類研究所では、ヒトがチンパンジーと同
室して直接飼育をおこなったり、対面場面で認知課題を
実施してきたりした実績がある。発表者も、2000 年に誕
生した 3 個体のチンパンジー(オス 1 個体、メス 2 個体)
を主な対象として、彼らが性成熟をして 10 歳半をむかえ
た現在でも同室での対面課題を続けている。子どもの成
長に伴う、対面場面の主観的な難易度の長期的な変化に
ついて報告する。子どもと母親とのあいだの関係性の変
化や、対面場面におけるエピソードなどを交えて、母親
に育てられているチンパンジーの子どもとの関係性を維
持する方法について考察する。さらに 2007 年には、おと
なオス 1 個体との対面を開始し、現在にいたるまでまっ
たく問題なく継続している。ヒトの発達研究の手法をそ
のまま応用し、同室して対面課題をすることによって得
られた、チンパンジーの認知発達の特徴についても紹介
する。
れた。今後も、アユムとアキラの力関係を含めた、ワカ
モノ期に入った 3 個体の社会関係の変化を観察していく。
P‐52
チン パンジー に 見 られ た ハ ン セ ン 病 の1 例
鵜殿俊史1・谷川和也2・鈴木幸一2・石井則久2
藤澤道子3・伊谷原一3
1
( 三和化学研究所チンパンジー・サンクチュアリ・宇
土・2国立感染症研究所ハンセン病研究センター・3京都
大学野生動物研究センター)
ハンセン病は、らい菌によって起こるヒトの感染症だ
が、今回極めてまれなチンパンジーのハンセン病に遭遇
し、治療に成功したので報告する。症例は、シエラレオ
ネ由来の推定年齢 31歳の雌チンパンジーで、2009 年 5
月に眼瞼、目の周囲、口唇などに艶のある硬い結節が出
現し獅子様顔貌を呈した。鼻腔スワブおよび生検皮膚ス
タンプから抗酸菌を検出し、皮膚組織の DNA かららい菌
が検出されハンセン病と診断された。組織学的には LL
型ハンセン病で、SNP 解析では日本には存在しない西ア
フリカ型と判明した。WHO が推奨する多剤併用療法を1
年間継続した結果、皮膚結節はほぼ消失し鼻腔スワブの
らい菌は陰性化し完治した。同居個体からはらい菌は検
出されなかった。
P‐54
チンパ ンジー の子 ども の発 達に 伴 う 社会 関 係の 変
化:
最近 接距離個 体 (NN) の記 録 から
市野悦子1・水野佳緒里1・藤森唯1・秋吉由佳1・伊藤祥
子1・長尾彩加1・平栗明実2・渡邊みなみ1・松沢哲郎3
(1岐阜大学・2日本大学・3京都大学霊長類研究所)
京都大学霊長類研究所では 14 頭のチンパンジーが飼
育されており、そのうち母子が 3 組いる。2000 年に生ま
れたアユム(オス)、クレオ(メス)、パル(メス)の発
達に伴う社会関係の変化を調べるために、3 組の母子を
中心とした観察をおこなってきた。子どもが 1 歳から 4
歳までと、7 歳から 10 歳まで、毎週 1 回ビデオ撮影をお
こなった。その記録から、1 分ごとのタイムサンプリン
グで、子どもとその母親の最近接距離個体(Nearest
Neighbor, NN)を記録した。1 歳から 4 歳まででは、子
ども 3 個体とも母親が NN である割合が最も高かった。
7 歳から 10 歳では、アユムの NN はアルファオス(父親)
アキラの割合が高くなった。クレオとパルは、母親以外
の個体の割合は増えたが、母親の割合が最も高いままだ
った。2009 年度からはアキラの NN の記録を始めた。
2010 年夏にはアユムによるアキラへの攻撃が多く見ら
P‐53
野 生 ニシ ロ ー ラ ン ド ゴリ ラ の ヒ ト リ オス にお ける
下 痢 状 糞の 採 食
―ヒ ト リオ ス 2 個 体 間 の非 親 和 的 交渉 に際 して―
本郷峻・井上英治
(京都大・理・人類進化論)
類人猿が自身あるいは他個体の糞を採食する行動に関
して、野生個体と飼育下個体の両方の立場から研究が重
ねられ、(1)退屈やストレス、(2)医学的問題(病気)
(3)食物の欠乏(4)栄養分の再利用など幾つかの原因
や適応的機能が考察されてきた。
発表者はガボン共和国、ムカラバ‐ドゥドゥ国立公園
において、野生ニシローランドゴリラのヒトリオス(シ
ルバーバック)2 個体間の非親和的交渉を観察した。小
さな方のオスが樹上約 10m の位置に座りながら下方を頻
りに覗きこみ、大きな方のオスはその樹の周りの地上で
胸叩きや咆哮、突進を繰り返した。小さな方のオスは樹
上を移動しながら 2 度の下痢状糞をし、それらを自身の
手で掬って食べた。約 50m の樹上移動の後、小さな方の
オスが地上に降りて走り出すと、大きな方のオスもそれ
を追っていった。この交渉は合計 70 分以上続いた。
この観察について、ストレスと栄養要求の満足の両側
面から仮説を立て、考察する。
P‐55
マ ハ レ山 塊 国 立 公 園 の野 生 チ ン パ ン ジー を取 り巻 く
環 境 の 長期 的 変 動
伊藤詞子1・中村美知夫1・五百部裕2・上原重男1・座馬
耕一郎3・Anton Seimon4・Lilian Pintea5・西田利貞1・6
(1京都大学・2椙山女学園・3林原類人猿研究センター・
4
Wildlife Conservation Society・5The Jane
GoodallInstitute・6京都大学、日本モンキーセンター)
東アフリカ西端に位置するマハレ山塊国立公園(タン
ザニア連合共和国)は、45 年にわたって野生チンパンジ
ーの研究が継続してきた。本発表では、彼らの生息環境
(気象、森林面積、植物の季節動態、哺乳類密度)に焦
点をあて、その長期的変動について報告する。マハレは
国立公園化によって中心域での人為的攪乱が減少し、チ
ンパンジー個体群の生存を脅かす潜在的危険性の多くは
回避されていると考えられる。しかし、本研究の結果か
ら、地球温暖化、公園境界付近の伐採の進行、そして、
人間活動がなくなったことに伴う環境変化などが示唆さ
れた。森林破壊、病気の感染、狩猟といった問題が多く
の類人猿の生存の脅威となっており、そうした脅威をど
う取り除くかが緊急の問題としてある。一方で、マハレ
の事例はそうした取り組みの先に進行する「自然」の変
化とどう向き合うかが、彼らの長期的保全へ向けた次な
る未知の課題としてあることを示している。
P‐56
A rapid reassessment of factors determining chimpanzee
populations’ distribution and threats to their survival in
the Republic of Mali, West Africa
Laura Martinez 1・Nicolas Granier 2・Jae C. Choe 1
(1 Institute of EcoScience, Ewha Womans University,
Republic of Korea・2 Behavioral Biology Unit, Dept. of
Environmental Sciences , University of Liège, Belgium)
The Bafing-Falémé area, located in southwestern part of the
Republic of Mali (West Africa), is recognized internationally
important for conservation of the West African chimpanzees,
Pan troglodytes verus and constitutes the northernmost limit
of the species’ distribution (Duvall et al. 2003, Kormos et al.
2003). In 2003, Granier and Martinez (2004) conducted a
first assessment in the area of the project “Bafing-Falémé
Transboundary Protected Area”, covering nearly the entire
range of chimpanzee distribution in Mali. Three monitoring
methods were combined to obtain a general overview of
chimpanzees’
situation:
interviews
with
villagers,
opportunistic reconnaissance surveys and nest/vegetation
surveys on line transect in three Sample Areas. In February
2010, a rapid reassessment was conducted throughout the
same area. Reconnaissance surveys were carried out in
seven sites that were previously identified as important
habitats, including the three Focal Areas. Indirect indices of
chimpanzees’ presence, habitat preferences and behavior were
recorded and georeferenced. Interviews were conducted in
the same villages as 2003, or in new villages located nearby.
Some of the interviewees were the same, allowing a precise
evaluation of changes occurred during this 7-years time
interval.
Overall, this reassessment showed that
chimpanzees’ situation has not drastically changed between
2003 and 2010. However, development of human activities
has increased the pressure on chimpanzee populations.
Agricultural expansion continues to represent the main threat.
Several other factors increasingly hinder chimpanzee
conservation: mining, conflict over space and resources,
wildfires, and hunting. Most crucially, a road is under
construction through the area. This new international
commercial axe is expected to amplify vulnerability to all
other threats. Future studies will focus on assessing impacts
of this new road on the survival of chimpanzee populations in
Mali.
P‐57
STRESS ASSESSMENT IN FREE-RANGING
WESTERN LOWLAND GORILLAS IN TROPICAL
FOREST: MOUKALABA-DOUDOU NATIONAL PARK,
GABON.
Chimène NZE NKOGUE1・ Shiho FUJITA2・ Philippe
MBEHANG NGUEMA1・ Chieko ANDO4・Michiko
OGINO2・Yuji TAKENOSHITA3・Yuji IWATA3
(1Institut de Recherche en Ecologie Tropicale
(IRET)/CENAREST, Gabon・2Faculty of Agriculture,
Yamaguchi University, Japan・3 Faculty of Child studies,
Chubu Gakuin University, Japan・ 4 Graduate School of
Sciences, Kyoto University, Japan)
For many years, wild gorillas have been habituated to
human observers for both research and ecotourism purposes.
Direct observation of wild gorillas make it possible to offer
fascinating experience to tourists as well as to collect
behavioral data in a social or ecological study. Although close
and frequent contact with human can cause stress to the
subjected animals, there are few quantitative data concerning
such human impacts. In this study, in order to evaluate stress
levels during habituation, fecal cortisol level was assessed. In
the Moukalaba-Doudou National Park, Gabon, one group of
western lowland gorillas called Group Gentil (GG) has been
habituated since November 2005. After 21 months, we
achieved all-day follows of GG, and the behavioral responses
of the group members to human observers changed as
habituation progressed. During habituation, we collected fecal
samples and measured cortisol levels using Enzyme Immuno
Assay (EIA). In the first phase of habituation, cortisol level
decreased, and then it increased again as the duration of
observation became longer. These results show that the
gorillas should be susceptible to intensive observations even
though they were accustomed to the presence of human
observers. In conclusion, this study demonstrated that
non-invasive cortisol measurement is useful for stress
assessment in free-ranging western lowland gorillas.
P‐58
チン パ ンジー ・サ ン ク チュ アリ ・ 宇 土で の 研 修報 告
島田かなえ 1・市野悦子 1・藤森唯 1・櫻庭陽子 1・廣澤麻
里 2・野上悦子 3・森村成樹 3・藤澤道子 3
1
( 岐阜大学応用生物科学部・2 京都大学霊長類研究所・3
京都大学野生動物研究センター)
私たち自然学ポケットゼミナール生は、2007 年からチ
ンパンジー・サンクチュアリ・宇土(CSU)で研修をお
こなってきた。この研修では、チンパンジーの動物福祉
の理念と方法論を学習することと、行動調査をおこなう
ことを目的としている。動物福祉では、CSU でのエンリ
ッチメントの取り組みを学習し、フィーダー作成などに
参加している。また、行動調査では、テーマ決定、行動
観察、観察結果の分析、発表までを教官の指導のもとお
こなってきた。たとえば CSU で積極的におこなわれてい
る新たな群れ作りによる行動変化や、フィーダー設置前
後のチンパンジーの行動変化の観察をおこなってきた。
これらの活動を通じて、観察技術の向上やエンリッチメ
ントへのよりいっそうの理解を図ることができた。この
研修で得られた知識や技術を他の場所で実践、応用して
いきたいと考えている。
P‐60
マレ ーシア・ オ ラ ン ウ ータ ンア イ ラ ン ド
廣澤麻里・林美里・松沢哲郎
(京都大学霊長類研究所)
マレーシアのペラ州ブキット・メラにオランウータン
アイランドという施設がある。個体数が年々減少してい
るオランウータンを絶滅から守ることを目的として
2000 年に設立された。35 エーカーの島の一部を利用して、
オランウータンの繁殖と、リハビリテーションがおこな
われている。最終目標は、オランウータンの野生復帰だ。
これまでに 16 個体の子どもが生まれた。しかし、その子
どもたちのほとんどが病気などの理由で人工保育されて
いる。リハビリテーションでは、段階的に人との接触を
減らしながら、森で生活する術を学んでいる。2010 年 6
月より京都大学霊長類研究所は、オランウータンたちの
飼育環境をよりよくするための協力を始めた。この発表
では、7 月に 10 日間滞在したときのようすを報告する。
P‐59
オ ラ ンウ ー タ ン に お ける 既 知 個 体 と
未 知 個 体の 視 覚 的 な弁 別
花塚優貴 1・島原直樹 2・清水美香 2
徳田雪絵 2・緑川晶 3
1
( 中央大学大学院文学研究科・ 2 東京都多摩動物公園・
3
中央大学文学部)
オランウータンは大型類人猿の中でも社会的な交渉頻
度が低いことが知られている。このような社会環境の中
でオランウータンは他個体をどのように認識しているの
だろうか。本研究ではオランウータンが既知個体と未知
個体を、顔を手掛かりに見分けているかどうか検討した。
東京都多摩動物公園にて飼育されている 6 頭のオランウ
ータンを対象に、既知個体と未知個体の写真を対呈示し、
各写真に対する注視時間を計測した。既知個体として現
在見ることのある個体(以下現在既知個体)と 10 年前に
見たことがあり、現在は見ることのない個体(以下過去
既知個体)の写真を、未知個体として既知個体と性別・
年齢をマッチングした個体の写真を使用した。その結果、
現在既知個体と未知個体では後者を、過去既知個体と未
知個体では前者を有意に長く見るということが判明した。
以上の結果からオランウータンは顔を手掛かりに既知個
体と未知個体を見分けていることが示唆された。
P‐61
マ ハ レ山 塊 国 立 公 園 にお け る 野 生 チ ンパ ンジ ーの
ア カ ンボ ウ の 「 採 食 」行 動 に つ い て
松本卓也
(京都大学大学院理学研究科)
野生チンパンジーの住む森には多種多様な植物が生え
ており、季節によってその様相は大きく変化する。その
ような状況下で、チンパンジーは膨大な数の潜在的食物
の中から実際に採食するものを取捨選択していると言え
る。これまで、異なる調査地ごとに採食品目がリスト化
され、食物分配を通してオトナからアカンボウへ(特に
母から子へ)採食品目が伝達されると語られることが多
かった。それでは、分配されるもの以外にアカンボウは
どのようなものを、またどのような時に口にしているの
だろうか。
本研究では、2010 年 7 月から 9 月にかけて、タンザニ
アのマハレ山塊国立公園において野生チンパンジーM グ
ループのアカンボウ(0∼3 歳)5 個体を個体追跡した。
そして、唇に触れる、くわえる、なめる、咀嚼するなど
の行為を大きく「採食」と定義し、その対象となったも
の(および部位)を記録した。また、アカンボウの視界
内にいた場合のみ、母親の行動と母子間距離を記録した。
その結果、アカンボウがオトナと比べて多様な品目を口
にしていること、母親と同時期に採食をする際には母親
と同じものを口にする傾向があることが示唆された。
P‐62
緑 の回 廊:
孤立化 したチ ンパ ンジ ーの 生息 域 を 植林 で つな ぐ
大橋岳1・松沢哲郎2
( 財団法人日本モンキーセンター・
2
京都大学霊長類研究所)
1
ギニア共和国ボッソウでは 1976 年以来、長期にわたっ
て野生チンパンジーの調査が継続しておこなわれてきた。
アブラヤシの堅果割りなどユニークな文化的行動がしら
れている。一方で、群れの構成に目をむけると 2010 年
11 月現在 12 個体しかおらず、また高齢化も進んでいる。
群れの存続が極めて危ぶまれる状況だ。群れの存続には、
チンパンジーが群れ間を往来してくれる必要がある。ボ
ッソウから東に 10km と離れていないニンバ山に別のチ
ンパンジーの群れが生息している。ボッソウとニンバ、
2つの群れを隔てるサバンナに植林を施し、森林でつな
ぐことによってチンパンジーの往来を促進したい。
「緑の
回廊」プロジェクトとよぶ本事業は 1997 年から継続して
いる。堅実に進む植林の進行状況を本発表で報告したい。
P‐64
脊髄 炎 を発症 した チ ン パン ジー の 長 期リ ハ ビ リ経 過
報告
兼子明久・渡邉祥平・友永雅己
(京都大学霊長類研究所)
2006 年 9 月 26 日、京都大学霊長類研究所で暮らすレ
オというチンパンジーが、脊髄炎により倒れ、四肢不全
麻痺に陥った。関係者とレオ自身の努力、により、約 1
年後に、レオはケージの中で座れる状態にまで回復する
にいたった。さらにそれから 3 年の時が経ち、現在では、
下半身の一部で筋肉の拘縮などが残ってはいるものの、
レオは一人で歩き、ブラキエーションをするまでになっ
た。この 3 年間、我々はレオが動けるように様々なリハ
ビリテーション(以下リハビリ)をおこなってきた。レ
オの状況に合わせたケージや部屋を作るなどの物理的環
境を工夫したリハビリ、膝の曲げ伸ばしなどによる、関
節の可動域を広げるような理学療法的なリハビリ、そし
て、歩行を促すようなコンピュータ課題をさせる「認知」
リハビリなどである。今回の発表では、これらのリハビ
リの様子を紹介する。
P‐63
野 生 チ ンパ ン ジ ー のニ シキ ヘビ に 対 す る反 応
座馬 耕一郎
(㈱林原生物化学研究所類人猿研究センター)
チンパンジーはその生活環境の中で、さまざまな動物
と出会い、さまざまな交渉をもつ。ある種の動物は遊び
道具になり、ある種の動物はチンパンジーの食べ物とな
り、ときにはある種の動物により捕食されることもある。
アフリカに生息するニシキヘビは、体サイズが大きく、
チンパンジーのアカンボウを捕食する可能性が指摘され
ている種である。しかしニシキヘビの個体群密度が低い
ためか、チンパンジーとニシキヘビの出会いはほとんど
記録されていない。本研究では、2008 年にタンザニア、
マハレ山塊国立公園で観察した野生チンパンジーの集団
と 1 匹の野生ニシキヘビとの出会いについて報告する。
また、この観察を、その他の動物との出会いと比較し、
その特長を考察する。
P‐65
ケ ニ ア 、ナ イ ロ ビ 国立 公園 とそ の 周 辺 にお ける
ヒ ョ ウ( Panthera pardus )と 人 々の か か わり
山根裕美
(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフ
リカ地域研究専攻)
多くの野生動物が生息するアフリカでは、様々な形で
生態資源を用いた人間活動が営まれてきた。東アフリカ
のケニアでは1977年より法律で狩猟が禁止されている。
近年は、急激な人口増加にともなう土地開発によって野
生動物の生息地が減少し、地域住民と野生動物の間で
様々な問題が引き起こされている。
本研究はケニアの首都にあるナイロビ国立公園とその
周辺において、野生動物と人々がどのように生活の場を
共にし、どのような問題を抱えているのかを、ヒョウ
(Panthera pardus)に着目し調査を実施した。国立公園
のすぐ近くまで居住地が迫ってきており、以前は国立公
園の内と外を自由に行き来していた野生動物の行動や食
性にも変化がみられるようになった。今回、ヒョウに
GPS/VHF首輪を装着することによりその行動域の観察に
成功した。大型ネコ科の中で最も広範囲に生息しており、
適応能力の高い動物として知られているヒョウが、大都
市に隣接した国立公園で急激な環境変化にどのように対
応しているのかをみていく。
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イヌ と ヒト と の 共 生
∼な ぜ共 生は 成 り 立 つ のか ?∼
永澤美保・圓史緒理・河合絵美・神林俊一・下沢明希
寺内豪・茂木一孝・菊水健史
(麻布大学獣医学部動物応用科学科伴侶動物学研究室)
近年、イヌはオオカミよりも視覚などを用いたヒトと
のコミュニケーション能力に優れていることが示されて
います。このような社会的認知能力は、家畜化の過程で
情動性の変化に伴って副次的に獲得され、その結果、現
在のようなヒトとの特異的な共生関係を築くことが可能
になったと考えられています。
私たち伴侶動物学研究室では、
「なぜ、イヌとヒトとの
間に共生は成立するのか」を解明するために、発達行動
や社会認知の観点から研究を進めています。発達行動に
おいては、発達期の環境により情動性や社会性に変化が
起こるのかに注目して研究を行っています。社会認知に
おいては、動物がどのようにして他者、特にヒトとのコ
ミュニケーションを行っているのか、視覚的能力に着目
して研究を行っています。今回のポスター発表では、こ
れらの取り組みを紹介します。
食 肉 製 品と し て シ カの 利用 の試 み
鈴木喬之・坂田亮一
(麻布大学獣医学部 動物応用科学科 食品科学研究室
(食肉部門))
2010 年 5 月 25 日、シカの食害対策や捕獲したシカ
の有効利用についての会議が、NPO 法人地域交流センタ
ー主催により長野県南牧村役場で行われた。我々の研究
室ではシカ肉の食肉製品としての有効利用を目的に、シ
カ肉を利用したジャーキー、ソーセージ、ベーコンを試
作し、本会議に提供した。一般的に野生動物は血生臭い
と思われているが、試食した結果好意的な意見が多かっ
た。このことは、信濃毎日新聞(5 月 26 日地域版)にも
掲載されている。同記事によると、『2008 年度の南佐久
郡(北相木村を含む)のシカ個体調整数は約 1,920 頭。
農林業被害は約 2 億 1 千万円で、被害は年々増加し、捕
獲後、利用されずに埋められるシカも多いとみられてい
る。』と記載されている。
このように、有害鳥獣として処分されるシカの肉は、
加工によって食肉製品として十分利用できる可能性があ
るということが示された。