平成20年度 第3回美術館運営協議会議事録(要約筆記) 【日時】 平成21年2月12日(木)午後1時30分〜午後3時30分 【場所】 豊田市美術館会議室 【出席者】(委員)会長 欠席者 (事務局) 馬場 駿吉 名古屋ボストン美術館館長 高橋 綾子 名古屋芸術大学美術学部准教授 鈴木八枝子 若林交流館長 杉本 恭一 豊田まちづくり㈱地域事業部長 市川 敏美 エフエムとよた㈱放送局長 杉山 允朗 小坂自治区長 青山 睦代 公募市民 伊藤久美子 公募市民 岡田 光雄 市立中学校長(松平中学校) 寺 光彦 豊田市美術館館長 塚本 伸宏 副館長 天野 一夫 副主幹 池野 要 係長 田境 志保 係長 鈴木なつみ 主査 【議事】 (1)展覧会事業報告 (事務局) Blooming:ブラジル−日本 きみのいるところ 前回の会議の報告書に総括・検証がついていなかったので、ここに再度提出させていただく。 最初の移民の船が日本を発ってちょうど100年になる日伯交流100周年ということで、関連 企画の一つとして行われた。特に豊田市は保見団地を中心として、在住のブラジル人が7800 人も居住している−今はもう少し減っていると思うが−そういう関係もあり、現代の表現として ブラジルというものをとりあげた。日本に今までは積極的に紹介されてこなかったが、ここへ来 てブラジル関連の様々なイベントが行われた。当館でも独自の視点で15組の作家の82点を展 示した。71 日という期間の中でギャラリーツアーや作品解説、対談(詩人の吉増剛造と作家の 島袋道浩)、また好評だった音楽のライブ、また他にも解説を含めたブラジル関係の映画上映など、 美術周辺の他ジャンルのイベントを多くおこなった。また会期前になるが小学校でのモニカ・ナド ールのワークショップ、その成果をもとにした壁画制作など、外の施設との関係もつくり、かな り立体的に展覧会を形成している。来館者数は目標の2万人に対しては13,578人というこ とで、夏場の展覧会としては少ないが、現代美術の展覧会としては一日平均191人で、当館と してはかなり健闘した方だと思う。NHKのニュースで放映されたり、また展覧会後も批評が載 ったりと、マスコミへの露出度は当館の今年度の展覧会では一番で、反響もあった。ただし在住 のブラジル人の方についてはポルトガル語のチラシを作ったり、保見団地へポスティングを行っ たりしたが、ブラジル本国でも美術館に来る層と来ない層が別れてしまっているらしいが、入館 者へつながらなかったのが残念であった。割引などなんらかの措置を考えるべきであったかも知 れない。今後の課題にしたいと思う。展覧会の内容的にはブラジル人の作家だけでなく日本人の 作家も含めて構成されており、日本とブラジルという異文化コミュニケーションを見据えた展覧 会になった。日本にはじめて来たという作家もいたが、屏風や短冊形などの形式の点でも、精神 的な点でも、様々な形で日本の影響を受けている作品もあった。これもまた、在伯の日本人の力 かと思われる。15組中8組が日本に来たが、その場でウォールペインティングを行うことが多 く、また美術館の具体的な場を活かしていた。また二日にわたりアーティストトークを開催でき たことは成果であった。現場制作が多かったため、広報としては既存の作品イメージが使えなか ったため、人気のエルネスト・ネトの作品で出品していないものをポスターに使用したので、 「ど こで見られるのか?」という来館者の問合せが多くあり誤解を与えてしまった。参考図版と明記 すべきであった。また予定よりもカタログの出来上がりが遅れた点も迷惑をかけた。全体的には 映像あり、壁面を削って楽しむ作品あり、ただの絵画というだけではなく環境的なしつらえがで きており、体感的に場を楽しめる展覧会になった。実際にアンケート等によると、リピーターや、 まったりとすごすという観客も多かったようだ。 不協和音―日本のアーティスト6人 78日間という会期で、ミシャ・クバルと重なっていた。戦後日本を代表する6人の作家、オ ノ・ヨーコ、草間彌生、久保田成子、斉藤陽子、塩見允枝子、田中敦子で、いずれもおよそ70 代でうち、亡くなった田中以外は今でも現役で活動している。日常の只中から美術を立ち上げる フルクサスという芸術運動に関連した作家がオノ・ヨーコ、久保田、斉藤、塩見で、その他にも 同時代の60年代から国際的に活動し、現在ではいずれも評価を得てきた作家たちである。フル クサスは一見すると観念的で難しくおもわれがちだが、単に資料展や回顧展とならないようにし て、美術館学習の子どもたちにも理解のできる作品が多く好評だった。構成としては、最初の部 屋で6人の作品を紹介し、その他の部屋で有機的を作家が関連付けていく空間構成になっていた。 作品はショップがあったり、動かしたり、触れたりできたりとバラエティーゆたかであった。し かし反省点としては、監視のスタッフが声をかけるようにしていたのだが、触っていいものとい けないものがわかりにくく、気の利いたサインのようなものをつけた方がよかったかも知れない。 また殊に斉藤氏は本人の意向もあって、いたしかたないとはいえ、突然行われたパフォーマンス が少数の人々のみが見られたことが残念だった。さらに出品作家のトークや討議を行い評価につ なげる努力もすべきだったと反省している。内部的なことだが、次年度予定しているジュゼッペ・ ペノーネ展が延期になったので、代替案としてこの展覧会が考えられた。イタリアの企画会社の 協力もあったが、結果として日本ではなかなか見ることの出来ない作品も多く、展覧会として見 栄えのすするものにできた。ただ広報的にはオノ・ヨーコや草間彌生のような一般的にメジャーな 作品をもっとアッピールをしてもよかった。いい作品を展示していたのだが、オノ・ヨーコの作品 が少ないという声も聞かれたぐらいである。 ミシャ・クバル 都市のポートレート 東京国立博物館と森美術館で2回展示されたことがあるだけで日本ではほとんど無名の作家で あるが、海外では有名で特にヨーロッパ各地で多くの展示・プロジェクトを行っている。各地の 都市で光という素材・手法で表現していて、今回も豊田市の風景をグラスの底越しに映像で撮る といった作品を制作していた。都市に対して光で介在し、その社会的な問題に対し静かにして示 唆的な問いも発していくという日本では稀なタイプの作家である。今回はサンパウロで行われた プロジェクトなど、展示可能なものを展示した。展示空間はクリアで見事に作品に対応していて、 来館者からも好評であった。作家は日本に何回も来て、講演会も行ったが、長くは滞在できなか ったのが残念で、パフォーマンスは日本の作家にお願いした。しかし、展覧会はマスコミに取り 上げられることが少なく、検証される機会が足りなかった。一見すると分かりにくい作家である が、鑑賞の呼び水とするためパンフレットを配布して、作品に近づく導入とした。 (会長) Blooming 展は作家が直接壁に描くことを行ったり、視覚以外の感覚を使って鑑賞でき たりする作品もあり、いろいろと面白い。ポルトガル語でチラシを作ったそうだが、この辺りの ブラジル人の来館者が少なかったとのことである。いろいろな美術館がブラジルに関する展覧会 を行っていたが、豊田は充実していたと個人的に思う。不協和音も、フルクサスという50年代 から60年代にかけて活躍した、美術、音楽、パフォーマンスを含めた活動だったが、主に女性 の作家、今は70歳代だが、懐かしい作家であった。横浜ビエンナーレでは日本でのフルクサス 運動の映像が流れていた。音楽評論の秋山邦晴氏とお会いしたことがあったが、当時の映像があ りそれも懐かしく思った。女性の作家が活発に参加した運動だったが、今はメジャーになった人 が多い。触覚的なオノ・ヨーコの「タッチ・ミー」という作品があった。美術品は触っていけない ものが多いが、これは積極的に触ってくださいという作品だった。 (事務局)保存との兼ね合いもある。これはギャラリーから借りた作品だったが、手洗いの水が たまってしまったり、へこんでしまったりした。触らないと意味の無い作品なので、矛盾が出て しまうのがむずかしい。 (会長)クバル展の記録DVDが皆さんの手元にありますが。 (事務局)カタログの替わりとして学芸がテロップ翻訳から編集まで行い解説も付けた。経費を 節減しながらの映像展示の新しい記録だとおもう。 (委員)報告書は多角的な視点で書かれていた。よく分析されている。Blooming 展は夏の展覧会 の華になっていた。 (東京都現代美術館から)広島現代美術館に巡回したものは見ていないが、兵 庫県立美術館のものを見た。同じ時期にブラジル関連の企画をいくつかやっていたが、豊田のも のは個性の出た展覧会だった。不協和音は急遽開催が決まった展覧会ということで、ムディマフ ァンデーションの企画だそうだが、豊田の所蔵品もでていたが、新鮮に感じられた。めったに知 る機会のない斉藤陽子さんやフルクサスについて学生などに周知してほしかった。講演会も全て を網羅するものではなかった。立体的な普及事業が付随しているとよかった。クバル展の報告書 に「庶務・学芸担当間の調整がうまく行われた」とあるが、具体的にはどのようなことがあった のか?他の美術館では、関係がうまくいかないこともあるので、マネージメントサイドと学芸と の協業がうまくいくことが願われる。 (事務局)秋はペノーネ展を行う予定であったが、今年の夏に延期になった。調整の結果今回の 展覧会となった。そのため展覧会予算の組み替えを短期間に行わなければならず、不協和音とミ シャ・クバル展に予算を振り分けた。ペノーネ展ができなかったからここまでしかできなかった、 ということではなく、できなくてもこれだけの展覧会を組み立てよう、と予算や関係者との調整 を短い期間の中で行った。 (事務局)世間に内実を明らかにするわけではないが、このことは理由にはならないようなこと だが、協議会の場ではざっくばらんに聞いてほしい。美術館としては厳しい中、品質を落とさな いようにできた。担当から見れば、そのことが印象に残っているようだ。 (事務局)結果的には当初よりは充実した展覧会になった。実は、作家じしん、当初、街でのプ ロジェクトも考えていたが、時間不足もあって現実にはならなかったのは残念だった。 (事務局)豊田市の町と連動させるという構想もあったが、準備不足などもありそこまではでき なかった。 (会長)美術館としては展覧会の変更は内部としていろいろあると思うが、外に見せずにできた ということは、協力ができていたということではないか。 (委員)3つの展覧会はテーマと作品が一般の市民には難しかったのではないか?ブラジルの1 00周年で同時期に豊田スタジアムでイベントが行われた。サンバやサッカーといったベタなイ メージのものだったが、集客はあった。イベントの客の多くはブラジル人であった。展覧会はブ ラジル人の来館は少なかったとのことである。美術館のステイタスを維持するのも大切だが、逆 にスタジアムでは音楽イベントなどブラジル人の客ばかりであった。同じ市のやっているイベン トとして対比が感じられた。移民、出稼ぎといった経済原理だけでなく、展覧会であっても市と してはまず「知ってもらう」というアプローチも必要だったのではないか?不協和音だが、ビー トルズが好きでオノ・ヨーコも好きだが、オノ・ヨーコの個展をやったらこの5から10倍くら い人が来たのではないか? (委員)ペノーネ展の延期について朝日新聞に書かれていたが、そういう状況の中で、という面 でも見させてもらった。被害のあった触れる作品とは? (事務局)「タッチ・ミー」の作品。あとは斉藤氏の観客が変化させることの出来るブロックの作 品はよく修理していた。 (委員)草間彌生の作品は? (事務局)それはもともと触れてはいけない作品なので被害は無かった。 (委員)ブラジルの展覧会は体感できるような作品で、壁に描くというのは初めて見せてもらっ た。保見団地のブラジルの方にとっては観覧料がネックだったという話だが、何か特典があると よかった。草間さんの作品は森美術館で見て衝撃的だった。松本市の美術館にもあったが、名誉 市民になられたそうで、外に作品があったりして印象的な作家だった。小学生が見て楽しめる、 理解可能な作品の中でも、参加を促せる工夫があってもよかった。触っていいもの、いけないも のを子どもでも分かるようにシールなどで表示があるとよかったのでは?「さわってはいけない」 ではなく、「触っていい」ことがわかると伝わっていくと思う。 (委員)知り合いにいつも美術館の展覧会について宣伝しているが、ブラジル展は若い人が興味 を持った。色使いや池のハスや壁の絵や部屋を使った作品がよかったとのこと。カタログが買え なかったのが残念とも言っていた。ポスターを見て来たという意見もあった。インパクトはあっ たのでは?不協和音は40〜50代が興味を持った。オノ・ヨーコにひかれたようだが、ただし 「意味がよく分からない」と言われた。団塊の世代は真面目なので美術の見方の講座とか何か道 しるべがあるといい。クバルは個人的には一番好きだった。作家の講演会では分かりやすい英語 で話してもらった。逆に質問した日本人の英語の方が分からなかったくらい。作家の思いがよく 伝わった。 (委員)不協和音とクバルについてはコミュニケーションは芸術活動の一要素であると発見でき た。斉藤さんの作品も楽しかった。Blooming でチラシや広報について言われていたが、知人を誘 って来るが、現代美術はわからないが、一言説明を加えるとがぜんと面白くなると言われた。私 がミステリー好きということではないが、謎解きという観点から、おいでんバスにポスターとは 別に、謎の呼びかけ−「篠原有司男はなぜバイクにこだわるか?解答は美術館で」などがあると 一般の人にも「あれ?」と思うのでは。展示室に丁寧な解説があるのも親切だが、疲れてしまう。 パンフレットで持って帰れるものがあるといいと思う。カタログも立派で内容もしっかりしてお り、専門家にはいいと思うが、そんなに解説が無くても1000円以下で買えるような廉価版が あると、家に帰ってからでも楽しめると思う。 (事務局)学術的な側面から後付をまとめておきたいという必要が一方にあるが、鑑賞の手引き や簡単に美術館での思い出を残せるようなものを、工夫できるといい。研究の余地がある。 (会長)静岡県立美術館にあった草間さんの部屋型の作品は入って体感ができるが、絵画作品な どは解説がなく、とっつきにくいかもしれない。手引きがあるといいと思う。 (2)美術館新5ヵ年計画 (事務局)お配りした資料は、ただいま策定中のものでフォーマットが統一されておらず、分か りづらいところがあると思うが、進捗状況を説明したい。平成16年度に作った5ヵ年計画が最 後の年をむかえる。美術館の運営を8項目に分けてそれぞれに目標を立てて取り組んできた。1 収集保存、2調査研究、3展示、4教育普及、5広報、6社会との連携、7施設の整備管理、8 組織運営、それぞれに力を注いで推進していこうという形であった。本年度は最終年にあたるの で次の目標に向かって、新しい5カ年計画について検討した。 旧5ヵ年計画の反省点や評価であるが、1収集保存については、これまで3144点の作品を 収集してきており、購入はこのうちの3分の1くらいである。今までは順調であったが、今年度 は予定した金額の購入ができなかった。収集活動は美術館の根幹の部分となるので、今後は財政 の状況を見ながら計画的に進めていきたい。収集が進むと保存環境も大切になるが、手狭になっ た収蔵庫や保存管理のあり方について整理したい。例えばの話だが、旧東高の利用計画の中で考 えていきたい。まだ現実になるかどうかは分からない。2調査研究では美術館の中心活動の一つ だが、遅れていた紀要が第1号が昨年度に完成した。3展示はこの地域の個性ある美術館が多い 中、特色ある展覧会活動を目標にしており、専門的分野での評価はもらっている。しかし、観覧 者数は6万人前後であり、多いときでも7万人台である。展覧会内容と観覧者数の微妙な関係は 難しいが、これからも多くの観覧者に来てもらえるような展覧会を計画したい。経済環境の問題 もあり、今後は所蔵品を中心とした常設展の充実も考えていきたい。4教育普及活動は、市内小 学4年、中学2年の美術館学習は軌道に乗ってきたが、来年から選択性になった。出張授業やさ まざまな活動を展開したい。2007年4月から市内高校生が無料化になり、若年層に門戸が開 かれるように取り組んできた。中高年向けの事業はまだまだ不足しているので、生涯学習の場と して利用されるように、美術館職員全員で取り組んでいきたい。5広報は難しい面があり、展覧 会ごとにターゲットをしぼったPRなど試みているが、専門的な分析ができず十分な対応ができ ていなかった。最重要課題の一つなので、人的な配置も含め強化していきたい。6社会との連携 については運営協議会やモニター会議の設置を通して市民参画を進めてきた。友の会の会員数も 増えたが、豊田市は企業城下町ということもあり今後は法人会員など企業との連携を整えていく 必要がある。地域の皆さんの協力による「地域に根ざした美術館」も目指したい。7施設の整備 管理では開館13年を経過し、経年劣化による不具合も発生している。バリアフリー化が図られ ていないため利用しづらい部分もあった。当初22年度に改修を始める計画を立てていたが、財 政状況から延期することになった。8組織運営は、美術館にとっては実は大切な部分である。人 員体制、経営的な視点による運営や社会との連携など全般にわたる。 計画期間は今年度が今までの5カ年計画の最後の年なので、新しい計画は22年度から5年と なる。目標は「1市民に親しまれる美術館」ということでより多くの人に支援してもらえるよう にしていきたい。「2子どもの鑑賞機会の充実」ということで将来の来館者を視野に入れている。 3施設サービスの向上で質の高い美術館を運営するということをあげた。 美術館は教育委員会の一機関として位置づけられているが、上位の計画として教育委員会が定 めた「教育行政計画」と市長部局も関わった「文化芸術振興計画」がある。 「教育行政計画」は2 0年度から24年度の期間にどういった形で市の教育行政がとり行われていくのかが定められて いるが、その一部に美術館の事業がぶらさがっている。例えばそのうちの第2分野では「体験型・ 参加型の美術館教育事業の充実」が目標にあげられており、美術館の教育活動が位置づけられて いる。 「文化芸術振興計画」は文化芸術部門にしぼった計画だが、20年度から29年度の期間で 行われる。こちらも、基本目標Ⅰ「個性が輝き、創造性あふれる人づくり」のうちのそれぞれの 項目に美術館の事業がぶらさがっている。これらの上位計画にある将来像の実現に向かって、美 術館事業はどうあるべきかという形を新5ケ年計画でとることにした。 美術館運営の8項目のそれぞれの事業の目標については継続していくが、全てにわたっている と目標がぼやけてしまうので、今後5年間については1教育普及、2広報、3施設の整備と管理、 4組織運営の4分野に特化して力をそそいでいくことにした。事業に取り組みやすいように、例 えば教育普及では「子どもたちが美術に親しみやすい環境を整える」など具体的な項目をあげて いる。 4つの分野別の計画では終了年度の25年度にどのような状況を目指すのかという目標をあげ、 取組みと対比している。例えば「子どもたちが美術に親しみやすい環境を整える」の項目では、 ボランティアによる中学校への出張事業などの推進をすすめて「中学生に対する美術館教育への 支援体制の確立でき、教材などが整備されている」という目標をかかげた。それぞれ対応してお り、より具体的な内容が示されている。 (会長)美術館のこれまでの5カ年計画の取組み、今後の策定の状況を説明いただいた。美術館 の使命は8項目が柱になっている。最終年度を迎えて経済的には厳しいが、ほぼ目標どおりとの ことである。 (委員)8項目の中から4つの分野を抽出する中で、美術館の核となる部分は調査・研究だと思 う。安定した学芸員の質と量ということが前提であればまっとうな4項目の選択だと思うが、開 館以来、十数年のキャリアを積んで、どこの美術館よりも豊田市美術館はこれからが成熟期にな る。経験的・人間的にも40代が一番いい仕事ができると思う。3つの項目の部分は(収集保存、 調査研究、展示)信頼を置いた上で、4つの分野をえらんであればいいのだが、他の美術館だと 「美術館つぶし」のような状況もある。イベントなどを華やかにやって、集客をはかればいいと う世の中の流れに流されないように見守りたい。今年初めて研究紀要を読んだが、印刷費程度で できるので充実させて続けていってもらいたい。税金で買った貴重な作品についてはきちんと調 べていってもらいたい。調査研究の重要性は外部にも発信してもらいたい。 (事務局)美術館がこれで大転換することはないが、これまでの実績は実績として認めて、自信 になる部分は組織として受け止めたい。一方で期待されている部分をどう展開するか、現状に満 足しているわけではないが、てつかずに近い状況にある事業もあるので、姿勢を示す時期にある。 計測値としてでてくるデータのみいつも意識しているようでは本末転倒してしまう。芯の部分は 失わないようにしたい。一方で求められていることは、受け止められるように体制として必要で ある。 (委員)専門的な分野では評価が高いそうだが、観覧者は少ないとのことである。地元で聞かれ る話では、現代美術は何だ?という意見がある。小学校の先生の話では基礎のできた人が現代美 術を見るのは非常に有効だが、基礎のできていない人はそうはいかない。絵の審査の場合、色が ぬりたくってある絵が大人が描いたのか、子どもが描いたのかで評価が変わる。以前、美術館で 新聞紙を2枚広げてあって、作品ですので手を触れないでくださいというものがあった。 「これが 芸術か?」という意見が多くあった。専門性と一般性のギャップだと思う。近寄りにくいのは理 解できないからということから発している。そのあたりをどう埋め合わせるのか?特別展をどう 折り合わせるのか?運営の上で非常に大きいと思う。地域の話では、 「もともと(現代美術を)想 定していなかった。美術館を建てるのはいいと思っていたが、出来上がってみたら近寄りがたい」 という意見を聞く。もうちょっと明確にすべきだと思う。 (事務局)市民の多くはわからないと思っていることは指摘にあったとおりである。美術館は「ど うわかってもらうか」とういう努力はあらゆる機会を通して行うべき。そのうちの一つとして企 画展の計画の中でそういった意向を意識して考えていきたい。例えば子どものときに教科書で見 たような絵が今回見られそうだ、といった計画を行うと美術館に一歩近づくチャンスだと思う。 PRも工夫して、とにかくまず美術館に来てもらって「行ってみたらわかる絵もあった」といっ たことを体験してもらいたい。そこで、関連する作品や同じ作家の作品を見てさらに理解するこ ともできると思う。そういうことも含めていただいた意見を生かしていきたい。美術館の狙いが どうなっていくのか検討してもらいたい。 (事務局)地元の区の役員の方と話したときも、県の美術館には行くが豊田市美術館には行った ことがないという話もあった。フジイフランソワ展では石に観覧者が描ける作品、ブラジルの展 覧会では壁を削る作品、不協和音でも触れる作品、そのような形で少しでも参加できる作品を考 えた。参加型の展覧会がいつもできるわけではないが、また、笹井さんの触れる漆の作品など試 行的に行った。ブラジル展では保見の小学校に出向いてワークショップを行ったり、古い公民館 の壁に作品を描いたり、地元との調和ができる企画を行った。ブラジルの方が来てもらえるよう にねらった。だが、ブラジルの方に理解してもらえなかった。スタジアムでのイベントでは逆に 日本人が入りにくいような雰囲気があったそうだが、こちらの思っていることとのギャップの埋 め方について、新たな取組みを考えていきたい。区長さんやまちづくりの方たちにはご協力、ご 意見を頂きたい。 (会長)専門性と一般性は美術館が抱える問題である。専門に傾いたことをやっていると、地域 からは「われわれの分からないことをやっている」と意見をもらうこともある。名古屋ボストン 美術館では分かりやすい企画をやっているが、逆に現代の同世代の作品を見せることについて、 館内で検討している。どういうバランスでやっていくのがよいか、忌憚の無い意見をもらいたい。 (委員)方針に「やさしく、深く、おもしろく」というのは最大公約数の表現を使おうとすれば、 相反する言葉だと思う。市民美術館なのでターゲットは市民だと思う。しかし教育は楽しいこと ばかりではない、学ばなければならないことをきっちりやっていく使命もある。世界の豊田市な のだから、格好をしっかり維持して市民の誇れる美術館にしていくである。どちらかを明確にし ていけばいいと思う。ぶれない姿勢で胸を張ってやっていることを普及していけばいいのではな いか?他に感じることは、施設そのものが作品という点から、アクセスや周辺施設を整備して建 物に入らなくてもくつろぎをかもし出せるような、全体的な環境を整備し市民の憩いの場を作っ ていく、立地を生かしていけるといいと思う。 (事務局)東高校の跡地だが、予定では23年度ごろには計画が見えるという予定だったが。 (事務局)社会的な状況があり、先送りになった。 (事務局)美術館は豊田市に来てもらった人について考える場合、公共的な交通機関が活用でき るようにしたい。次年度以降実験的にバスを走らせる計画もあった。ちょうど周辺道路も整備さ れてきている。また東高跡地の計画では隣接した施設になるので美術館にとって大事な施設とな る。美術館事業を市民に近づいて活動が目に見えるように、また美術館に近いところで市民が活 動するなどの姿が描けると思う。立地の面で迷惑をかけている部分を改善できるよう、関係機関 に働きかけていきたい。距離的には変わらないが、心理的に駅から近くなるようにできるといい。 文化振興課の事業になるので、具体的に説明する立場ではないが、いい形で連動できるよう支援 いただきたい。 (3)美術館改修計画 (事務局)本来は来年度に設計、さ来年度以降工事に入る予定であったが、トヨタショックなど の影響により先延ばしになった。バリアフリー化と開館以来13年経過し不具合のある施設の更 新というとで、車いす用にエレベーターを設置したり、お子様連れの方が多くなっているので授 乳室を設置したり、駐車場の不便の解消のために214,915千円、作品保存環境の改善のた め寿命のきている空調機械や中央監視システムの修理に540,750千円、3つ目にスタッフ や展示の運営環境の整備、例えば天井の高い展示室1への作品搬入のためには、展示室5を通ら なければならないが、入り口が低いことがネックになっている。その点の改修や学芸事務室の窓 が開かないといった改修に9,660千円。3つを足すとおよそ7億7千万。この美術館の設計 をした谷口建築設計研究所に調査を依頼したところ、他にも問題のあるところを含め、約20億 の改装費という提案があがってきた。優先順位をつけ、12の問題点、7億7千万の事業として 絞り込んだ。来年以降すぐに改修はできないが、不具合は我慢しながら、平成25年度に設計、 26年度に工事というスケジュールで行いたい。27年度が開館20周年になるので、それまで にはきれいな美術館をお見せしたい。24年度までの調整期間は、豊田市が環境モデル都市にな ることもあり、エネルギーに対する取組みを考えていかなくてはならない。省エネや池の水につ いて検討したい。空調についても新しい技術の情報も得て、25年度までにはよりよい計画とし たい。 皆さんにいままでも意見を頂いてきているが、今後もお願いしたい。 (会長)来館者向けの改修もあるが、作品管理も美術館にとっては重要になる。 (委員)駐車場だが、外灯は夜遅くなると消えてしまうが、防犯のため3つくらいはつけておい てほしいという要望があった。 (事務局)駐車場整備には地元の協力をいただいている。ずっとつけっぱなしでも、批判をいた だくことがあるが、防犯上のことなら考えたい。 (事務局)駐車場の照明ということだけでなく、街灯としての性格もある。道路も変わるので検 討したい。 (4)平成21年度展覧会計画 (事務局)まず企画展は、今年、延期になったと説明したものだが、7月から 9 月にジュゼッペ・ ペノーネ展を行う。開館直後くらいに大きな展覧会をやったことがあり、その後当館の所蔵作品 で人気投票を行ったときに上位になったものである。言ってみれば豊田市美術館の一つの看板に あたるような作家になる。今回は近年の作品を中心とした展覧会で、豊田の茶葉を使い壁に設置 する作品なども予定している。秋には仮称であるが「日本近代美術と東アジア」を行う。日本の 作家がどのように大陸、台湾、朝鮮半島の風俗、風景を描いたか、そのイメージはどのような役 割を彼らに与えたか、という観点から展示する。梅原龍三郎、藤島武二、安井曾太郎といった代 表的な洋画家の成熟の場になったし、日本のシュルレアリスムの新たな源泉にもなった。そのよ うに日本の近代美術を読み替えるような展覧会になるだろう。 常設特別展は、3 月から先駆けとなるヤノベケンジの絵本原画展を行うが、4 月 11 日からヤノ ベケンジ−ウルトラ展を開催する。4 年ほど前にも行ったが、今でも問合せを受けることがある ほど地元の子どもたちにも人気があった作家である。新作を中心に、当館のコレクションを含め て展示する。それに加えて、常設展では 5 カ年計画でも触れたが、経済的な問題だけではなく、 美術館の姿勢として収集してきた作品でどのようにより積極的に展開していくか、どのように市 民に還元していくかを考えた。常設展第1期は今年度購入した作品とそれに関連した作品を混ぜ て特に絵画を中心に展示する。それ以後もテーマ性を持たせた、めりはりのある展示を行う。広 報にも関係するが、よりアピール度の高いものにしていきたい。調査研究についても、5カ年計 画には入れなかったが、当然、基本となる活動である。それを核に紀要、カタログ、展示やトー クなど、学術的なものから、一般的な平易なアプローチまで様々の出力の形で、全体的に結び付 けて考えていきたい。 (委員)前回の資料にあった、山田弘和のデザインの展覧会は? (事務局)財政的な事情で、予定していたものが中止になった。そのため、展覧会計画全体の中 でバランスが悪くならないよう、期間をずらしたりした。 (事務局)経済環境は豊田市では厳しくなっている。展覧会は1本減らした。ヤノベは子どもに もわかるように、ペノーネは若者向け、近代美術はお年寄りの方にも見やすいようバランスよく 考えた。改修計画は 5 年間先送りになった。前回の協議会で議題に出したシャトルバスは、予算 要求をしたが、実現できなかった。逆にじっくりと時間をかけてやれることもあるので、広報の 研究や学芸員の調査研究にも力が注げるのではないかと思う。 (委員) (中止になった)山田さんの展覧会は来年になるのか?デザインと科学の関係がわかって 面白く、学生も取り込めるものになったと思うが? (事務局)常設展第2期に、山田さんの作品も少し織り交ぜていきたい。 (会長)厳しい状況の中ではあるが、美術館の運営をがんばってほしい。
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