弧度法と三角関数の微分の公式

弧度法と三角関数の微分の公式
この節では、三角関数 sin x, cos x, tan x の微分の公式について復習します。三角関数の
微分の公式の基礎となるのは、次の極限です:
sin h
= 1.
h→0 h
通常、この極限は以下のように説明されます: まず、h > 0 とし、次のような図を考え
ます。
(1)
lim
B
D
h
A
O
C
ここで、|OC| = |OB| = 1 で、OCB は半径 1 の円の一部となる中心角 h の扇形で、線
分 OA と AB, OC と CD はそれぞれ垂直に交わっているとします。三角関数の定義より、
|OA| = cos h, |AB| = sin x, |CD| = tan x なので、三角形 △OAB と △OCD の面積はそ
れぞれ |△OAB| = 21 cos h sin h, |△OCD| = 12 tan h であり、図より明らかに
|△OAB| < | 扇形 OCB| < △OCD|
なので、
(2)
1
1
cos h sin h < | 扇形 OCB| < tan h
2
2
が成り立ちます。
ここで、三角関数の微積分を高校で習ったとき弧度法(ラディアン, radian)という角
度の単位を導入したことを思い出しましょう。上の図でいうと、中心角が h ラディアンと
いうは、弧 CB の長さが h になるということでした。何故こんなものを導入したのでしょ
うか? 普段使う度という角度の単位を使わないのは、何故でしょうか? 講義中にも説明し
ましたが、ラディアンという角度の単位を使う理由は、(1)の極限が極限値 1 を持つよう
にするためです。以下それを見るために、角度の単位がラディアンと度の場合に極限(1)
の値を求め、さらにそれを使って三角関数の微分の公式を求めてみましょう。
我々は、半径 1 の円の面積は π であることを知っています。円は中心角が 360◦ = 2π ラ
ディアン(半径 1 の円の円周は 2π であった)の扇形と考えられますから、中心角が h の
扇形の面積 | 扇形 OCB| は比例関係
2π : h =π : | 扇形 OCB|
360 : h =π : | 扇形 OCB|
(ラディアンを使った場合)
(度を使った場合)
1
より、
| 扇形 OCB| =
h
(ラディアン),
2
| 扇形 OCB| =
πh
(度)
360
と計算できます。よってこれらを(2)に代入して、
1
h
1
cos h sin h < < tan h =
2
2
2
πh
1
1
cos h sin h <
< tan h =
2
360
2
sin h
2 cos h
sin h
2 cos h
(ラディアン)
(度)
となるので、これを整理すると
sin h
1
<
(ラディアン)
h
cos h
sin h
π 1
π
cos h <
<
(度)
180
h
180 cos h
cos h <
を得ます。三角関数の定義より limh→0 cos h = 1 なので、
sin h
= 1 (ラディアン),
h→0 h
lim
sin h
π
=
(度)
h→0 h
180
lim
がわかります。以上で、角度の単位でラディアンを使った場合は(1)が得られ、度を使った
場合は 1 とは異なる極限値が得られることがわかりました。h < 0 の場合も、同様にでき
ます。
次に、これを使って 3 角関数の微分の公式を求めてみましょう。まず、
(cos h − 1)(cos h + 1)
sin h − sin h
cos h − 1
=
=
h
h(cos h + 1)
h cos h + 1
より、limh→0
sin h
h
の値にかかわらず、
sin h
− sin h
cos h − 1
= lim
lim
=0
h→0 h h→0 1 + cos h
h→0
h
lim
であることに注意します。三角関数の加法定理と上で求めた極限値を使うと、
sin x cos h + cos x sin h − sin x
sin(x + h) − sin x
= lim
h→0
h→0
h
h
cos h − 1
sin h
= sin x lim
+ cos x lim
h→0
h→0 h
h
(
cos x
(ラディアン)
=
π
cos x
(度)
180
lim
2
を得ます。つまり、
′
sin x =
(
cos x
π
180
(ラディアン)
cos x
(度)
がわかりました。cos x の方も同様に、
cos(x + h) − cos x
cos x cos h − sin x sin h − cos x
= lim
h→0
h→0
h
h
cos h − 1
sin h
= cos x lim
− sin x lim
h→0
h→0 h
h
(
− sin x
(ラディアン)
=
π
(度)
− 180 sin x
lim
より、
′
cos x =
(
− sin x
π
− 180
(ラディアン)
sin x
(度)
がわかります。
以上により、三角関数の微分の際に弧度法(ラディアン)という角度の単位を使う重要
π
性が理解できたと思います。実際、もし (sin x)′ = 180
cos x という公式を使わなければな
らなくなったら、多くの計算がどれほど面倒になるかは、大学受験をくぐり抜けてきたみ
なさんなら想像できでしょう。
残りの tan x の微分の計算は(以下、角度の単位としてラディアンを使って)、
(
′
′
1 + tan2 x
cos2 x + sin2 x
(sin x)′ cos x − sin x(cos x)′
sin x
=
=
=
tan x =
1
cos h
cos2 x
cos2 x
2
cos x
と簡単に出来ます。まとめて、高校以来おなじみの公式が得られました:
′
sin x = cos x,
′
cos x = − sin x,
′
tan x = 1 + tan2 x =
1
cos2 x
以上、三角関数の微分の公式を “説明しました”。実は、上の説明は、完全に厳密な “証
明” ではありません。どこが問題かというと、上の “説明” の中で
(i) 半径 1 の円の面積は π である。
(ii) 扇形の面積は、中心角に比例する。
の 2 点を使っているところです。そもそも、曲線によって囲まれた図形の面積は、(その
厳密な定義も問題ですが)本質的に積分を使って計算されます。つまり、微分の理論を構
築している最中に、まだ構築していない積分の理論の結果を使ってしまっています。円弧
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の長さを使って、極限値(1)を求める流儀もありますが、曲線の長さもまた積分を使って
計算されます。公理的集合論的な立場で、公理から厳密に微積分の理論を構築する必要が
あるときには、積分の理論を先に作ったほうがよいでしょう。例えば、ZFC 以外の集合論
の公理系を使ってどのような微積分学ができるかを調べる場合や、計算機に微積分の定理
を証明させる場合は、気をつけなければいけないかもしれません。もちろん通常は、この
ような事は気にする必要はなく、おおらかに計算を実行して何の問題もありません。
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