ここ - 愛知県立大学 情報科学部

RoboCup 2016 Leipzig 参戦記
今年のロボカップ世界大会は,6 月 30 日から 7 月 3 日まで,ドイツ・ライプツィヒにお
いて開催された.以下は,その参戦記である.
去る 3 月に愛知工業大学で開催された RoboCup Japan Open 2016 小型リーグで 2 年ぶ
りに優勝し,その勢いで今大会に臨みたいところである.Japan Open では,プログラム上
の不具合を 4 か所ほど見つけ,この間その修正に全力を尽くしてきた.ボール前で躊躇す
る問題,制御の問題,チップキック時のボール軌跡処理の問題,役割が突然替わってしま
う問題,である.このうち最後の問題を除いてほぼ解決した.最後の問題は,発生頻度が
低いので,再現が難しくまだ解決を見ていない.プログラムを丁寧に読み,議論を重ね,
解決を図った.みなよく頑張った.だからこそ,今年は良い成績をおさめたい.そんな意
気込みで,6 月 26 日(日)大学に集合して出発.中部国際空港隣接のホテルに前泊する.
翌日午前 6 時,ロビー集合.空港に行きチェックイン.7 時 40 分発のフライト.経路は,
セントレア(中部国際空港)→成田→フランクフルト→ライプツィヒである.長い 1 日に
なりそうだ.
ライプツィヒまでの行程で乗り継ぎ時間の短かったのは,成田だったが,さすがは日本
である,きわめて手順通りの対応でスムースに乗り換えることができた.11 時間 30 分のフ
ライトでフランクフルト着.ここまでは順調だった.フランクフルトの乗り継ぎでトラブ
ルが発生した.乗り継ぎ便への手荷物検査で,ロボットのバッテリーが引っ掛かったのだ.
それも山口君一人だけ.手荷物検査のレーンは複数あったが,そのうちの 1 つのレーンの
検査官(女性だった)が厳しかった.実は,ロボカップ関係者の何人かがすでにバッテリ
ーで引っ掛かっていた.容量が大きく持ち込み不可といわれているらしい.それで上司の
判断を仰ぐということで待っているというのだ.我々は,その直後に来たのだが,同じ理
由で引っ掛かった.我々のバッテリーの容量は小さく大丈夫だと申告しても頑として聞き
入れてくれない.ここの乗り継ぎ時間は 1 時間 30 分ほどあったので,最初は,まあすぐに
終わるだろうと余裕だったのだが,30 分経過してもらちが明かない.そのうちに勤務時間
が終わったといって一部の検査官は帰り始める.待たされる者は,だんだん焦ってくる.
フライトまで 30 分を切っても一向に拉致があかない.急いでいるから何とかしてくれとい
うと「君の英語はわからん」という始末.そりゃないだろう.今まで話していたじゃない
か.フライトまで残り 20 分になって,ようやく一人 2 個までのバッテリーの持ち込みを許
可するということになった.山口君は 3 本持っていた.幸い私は持ってなかったので,2 本
と 1 本に分けて,何とか返してもらった.このトラブルでずいぶん疲れが増した.おかげ
でライプツィヒまでのフライトはよく寝ることができた.
ライプツィヒ空港で荷物を無事受け取り,迎えのバスに乗って,7 時過ぎにホテルに無事
到着.チェックインを済ました.ホテルは郊外にあり,交通の便が悪い.
(次ページの写真
は,ホテルの玄関とその周辺.のんびりした田舎だということがわかる.
)そんな中で街の
中心部まで夕食を取りに出た.バスとトラムを乗り継いで行く.もう夜の 8 時だというの
に太陽が輝いている.今の時期この辺りは夜 10 時近くまで明るかった.さてトスカーナ料
理のトラッテリアで食事を終え,行きとは逆のコースでトラムに乗ったが,系統を間違え
明後日の方向に連れて行かれた.やむなく元の駅に戻り,正しい系統のトラムに乗ってバ
スの乗り換え駅まで来た.時間は夜 11 時 10 分を回っていた.さすがに辺りは真っ暗であ
る.当然バスはもうない.歩いて帰らなければならないがどちらの方向に行けばよいのか
よくわからない.しかし最近の学生諸君は文明の利器(スマホ)を持っている.それを駆
使して,どうにか歩いて帰ってくることができた.11 時 45 分であった.実はこの外出は結
果的にとてもよかった.会場との位置関係が大体把握でき,土地勘が身についたからだ.
明日は問題なく会場に行けるだろう.今朝 4 時 30 分に起きてからもう 26 時間強が過ぎて
いた.
(日本とドイツの時差は夏時間のため 7 時間.
)疲れ切って就寝.
6 月 28 日(火)晴れ.ドイツ・ライプツィヒの 6 月は,気持ちがよい.太陽はかなり上
空にあり(南中時 63 度くらいの高さ)
,強い光が差し込む.屋外に出ると汗をかく.しか
し,空気は乾いていて,涼しい風が吹き抜ける.だから,汗はすぐに乾いてしまう.じめ
じめした日本と比べると天国だ.朝 8 時 30 分にホテルの車で会場まで送ってもらう.荷物
があるだけに助かった.10 分ほどで
会場に到着.
(右の写真は会場の建物.)
受付待ちの行列に並ぶ.2 時間ほど待
たされてようやく順番が来た.当方は
申請書類がそろっていたので,あっと
いう間に受付完了.会場に入る.会場
は Leipziger Messe.111,300 平方米
の敷地に 6 棟以上の建物があり,その
1 つ 1 つが 100 米四方の大きさである.
本当に広いと感じる.例年のことでは
あるが,会場に入ると気が引き締まる.
さあ,今年も頑張るぞ!!
その後,各チームとの挨拶ののち,セットアップ作業に入る.
6 月 29 日もセットアップ日である.昨日ほぼ調整が終わっていたので,今日は練習試合
を行うチームが多い.RoboDragons は,夕方から STOX(ブラジル),RoboFEI(ブラジル),
KIKS(日本)と練習試合を行った.いずれの試合も得点で勝り,RoboDragons システムは順
調に仕上がっているように感じた.その後,23 時まで調整し,ホテルに帰る.23 時 30 分
ホテル着.相当疲れが溜まっているようだ.すぐに就寝.
6 月 30 日(水)本日も好天.今日から予選が始まる1.8 時 15 分会場入り.挨拶を済ま
し,ミーティング.午前 11 時から試合が始まる.それまで調整.RoboDragons は午後1時
と午後4時からの試合が組まれている.そのほかに,午前 11 時から副審(日下部,山口が
担当)
,午後 3 時から主審(安達,羽山が担当)をする必要がある.また,午後 7 時からは
テクニカルチャレンジ(ボール配置チャレンジ)が予定されている.RoboDragons はこの
チャレンジに参加予定である.今日もハードなスケジュールになりそうだ.
午後 1 時.
いよいよ今年の RoboDragons の初戦だ.
相手は RoboJacket.
Georgia Institute
of Technology のチームで 2007 年から出場している.このチームは学生が組織しているチ
ームでいわゆる指導者はいない.昨年までの
数年間は日本人の大沢君が所属していた.
(彼は今頃何をしているだろうか?)
試合は,審判がいないとか,ビジョンシス
テムの調子が悪いとかで 10 分ほど遅れて始
まった.RoboDragons のキックオフで試合
開始(写真右上,手前が RoboDragons).
RoboJacket は 4 台のロボットしかない.
RoboDragons 果敢にキックオフゴールを狙
う.その一蹴りが敵の薄みを突いて見事に
決まる.幸先よく 1 点を先取.この後は,
RoboJacket のキックオフで再開になるが,
そのボールがほんの 20cm ほどしか飛ばな
い.そうなれば,RoboDragons はすぐにボ
ールを取りに行くはずなのに,こちらもボ
ールに近づかない.いったい何が起きたの
だ.RoboJacket がボールをさらに蹴って,
センターサークルを出たころにようやく
RoboDragons がボールを奪いに動く.一旦
1
チーム分け,スケジュール,結果は以下を見ていただきたい.
http://wiki.robocup.org/wiki/Small_Size_League/RoboCup_2016/Schedule_and_Results
ボールを取れば,パス回しができる
RoboDragons は,すぐに得点する(写真右
下)
.これが,何回も繰り返された.明らか
に RoboDragons システムのバグである.そ
んな試合であったが,前半に 10 得点し,コ
ールドゲームとなった(写真は試合後の記
念写真)
.この試合で,このバグが見つかっ
たことは良かった.すぐに修正をかけ,解
消した2.
午 後 3 時 か ら は , MRL(Iran) vs.
KIKS(Japan)の主審が割り当てられている.
安達君が主審,羽山君が Referee Box3担当
を務める(写真 2 枚目)
.MRL は気性が荒
いチームなので,彼らを裁くことは相当の
覚悟がいる.昔は,日本人が主審を務める
ことはほとんどなかったが,2005 年大阪大
会で私が小型リーグの実行委員会委員長を
やっていたとき,日本人も主審を務めなけ
れば今後相当に不利になると考え,自ら志
願して主審をやった.それで何とかやれる
ことがわかり,以降は他の日本チームのみ
なさんも臆することなく主審をやるように
なった.今では,学生が主審をやるように
なった.彼らは慣れることも早く特に抵抗
もなくやっている.これも国際化の一端で
あろう.
(なお,複雑な局面になると,言葉
のハンディは大きいので,副審の助けを借
りることもあるが,それを割り切ってちゃ
2
バグの原因はノイズ対策にあったとのこと.ビジョンシステムから送られてくるボールの
位置データは,カメラ画像にのる雑音の影響を受けて,本来のボールの位置とは異なる位
置データを送ってくることがままある.キックオフ時のボールの位置は静止しているはず
だが,雑音の影響で微妙に動いているように見える.通常閾値を設定しその閾値以下の変
化は無視するようにプログラムを書いている.その閾値の値が一つの問題だった.もう一
つは,キックオフのボールの位置を管理する変数があるのだが,それを時々刻々更新して
しまって,ボールがキックオフ位置にいつまでもいるように判定してしまったというのが
原因のようである.このバグは,現象がはっきりしていたのですぐに解決した.
3 Referee Box は,主審の指示をチームに伝えるソフトウェア.この操作は人間が行う.
んとできるようになったところに大きな進歩がある.)さて,試合は両者譲らず 0-0 の接戦
が続く.微妙なプレイが出現し,MRL から抗議がでる.主審の安達君は臆することなく
RoboJackets の副審の助けを借りて,クレームを裁いた(前頁 3 枚目の写真.副審と協議
しているところ)
.場慣れしていて頼もしく感じた.
午後 4 時からは,RoboDragons vs. Anorak(Pakistan)の試合が組まれていたが,Anorak
棄権のため,10-0 で RoboDragons が勝利した.これで 2 勝である.
午後 7 時 30 分からテクニカルチャレンジが行われた.課題は,ボール配置.Referee box
から指定された位置にボールを置く,という課題である.ボールの初期位置は,タッチラ
イン上であったり,フィールの中であったり,フィールド外だったり,さまざまである.
障害物のロボットがいる場合もある.制限時間があり,15 秒以内にタスクを完了しないと
いけない.基本的なやり方は,1 台のロボットがボールをドリブルして指定位置に持ってい
く,2 台のロボットがパスでボールを受け渡し,指定の位置に置く,であろう.このチャレ
ンジは,将来レフェリーが自動化された場合に,out of play となったボールを restart ポジ
ション(スローインの位置やペナルティキックの位置など)まで速やかに運ぶという目的
のもとで行われる.
このチャレンジには 5 チームが参加した.RoboDragons も参加した.RoboDragons は,
フィールド外の壁際やゴールマウスなど難しい初期位置に置かれたボールのハンドリング
は失敗したが,そのほかのものは成功し,成功率 45%で 3 位となった.上位 2 チーム(成
功率は 64%と 55%)は,ドイツのチームであった.
(おそらくこのチャレンジの発案者のチ
ームであろう.そつなく課題をこなしていた.
)RoboDragons チームは,遠征直前に Referee
box の変更を HP で知り4,急遽対応をした.安達君が 3 日ほどで対応してくれた.実際に
は変更はなかったのだが,そのおかげでボール配置チャレンジができるようになった.け
がの功名である.にわか作りではあったが,45%の成功率は上出来である.
7 月 1 日(金)
.本日も予選である.
午前 11 時から SSH(Netherlands) vs. NUEIslanders (Northern Cyprus)の副審を日下部
公式の HP に記述されていることだから当然実施されるものと考えていた.ところが,現
地に到着してみるとその変更はしないと言われた.冗談じゃない.公式ページに書いてお
いてやらないはないだろう.委員に抗議しておいた.
4
君と山口君が務めた.(下の写真はその様
子.
)
午 後 1 時 か ら の RoboDragons vs.
Thunderbots(Canada)の試合.この試合は,
開始前に通信トラブルが発生して 40 分遅
れの開始となった.RoboDragons のキック
オフで始まった(写真はキックオフの様子.
手前が RoboDragons のロボット).私の当
初の予想は RoboDragons の楽勝だった.
ところが,そうは問屋が卸さない.
Thunderbots 動く動く.コース取りは雑だけれど,とにかく動く.そのために RoboDragons
のボールハンドリングがうまくいかない.パスが通らず,シュートがふさがれるのだ.そ
して我がロボットがボールを頻繁に外に出す.開始早々には相手のスローインで,
RoboDragons はマークにつかないという信じられないことが起きた.相手ロボットが直接
ゴールを狙ってキックする.ゴールキーパーがブロックしたと思いきや,スピンのかかっ
ていたボールはキーパーに当たってバウンドし,そのままカーブを描いて我がゴールを割
ってしまった.なんということ.先制を許してしまった.不運なゴールではあったがやむ
を得ない.気を取り直して(といってもロボットは全く冷静であるが)先に進む.
この試合,ボール占有率はわが方が圧倒的に有利だが,相手のスローインとなることが
多かった.スローインで相手はストレートキックをしてくる.そのボールがブロックする
わがロボットに当たり,はじかれてフィールド外に出てしまう.これが何回か繰り返され
る.見ている方は,キックコースをもう少し考えたらいいのにとか,わがロボットはボー
ルをグリップできないのかとか,いろいろ思うのだが,ロボットはどこ吹く風でアルゴリ
ズム通りに淡々と動く.そうこうするうち,ようやく,我々にチャンスが巡ってきて,連
携プレイが決まりゴール.同点に追いつく.
ようやくふりだしに戻った.前半 5 分を過
ぎていた.さあ,これから.しかし,アル
ゴリズムに従って動いている以上,同じ動
作の繰り返しになる.同じようなパターン
が続き,数分して,同じような格好でもう
1 点が我々に入った.
ひとまず安心である.
人間様なら,試合の様子を見て戦略を変え
るだろうけれど,悲しいかな RoboDragons
はそこのところはまだ検討中である5.もう
5
安井君(2013 年度修士修了)が相手行動の分析の研究を始め,安達君が行動系列の分類の
研究を進めている.これが応用できれば,柔軟な行動ができるようになるのだが,まだ実
少し時間をいただきたい.その後も同じような試合展開で前半 10 分が終わった.
後半も同じような展開になった.その中で,1 点をもぎ取って,結局 3-1 で勝利を収める
ことができた.
最後に記念写真を撮って終了(前頁の写真.メンバー数の圧倒的な差にうらやましさを
覚える)
.
予選の最後は ZJUNlict vs. RoboDragons
である.午後 8 時から始まった.試合の第
一印象は,ZJUNlict のスピードが我が方よ
り速いことである.わずかな差でも,試合
を有利に運ばれてしまう.当方のロボット
は,車輪子タイヤの地面と接地する面がフ
ラット(O リング)なのに対し,ZJUNlict
のロボットは切れ込みが入っているタイプ
(X リング)である.この差がグリップ力を
大きくし,スリップを防止してくれる.この X リング,すでに多くのチームが採用してい
る.我々は遅れをとってしまった.すぐに直すにしても今回の試合には間に合わない.今
はそのハンディをしょって戦わねばならない.さて,試合のほうは,スピードに勝る
ZJUNlict が有利に展開するが,RoboDragons も防御の面では負けてはいない(写真上は
RoboDragons のスローインの様子)
.敵の
攻撃を巧妙に防ぎ,前半は相手にゴールを
割らせなかった.一方で RoboDragons の
攻撃は,前にボールを進めるのであるが,
相手にカットされることが多く,攻めあぐ
ねた.後半は,チームカラーと攻撃サイド
を変えて戦いが進んだ.RoboDragons は,
後半開始早々にゴールを割られてしまっ
た.この 1 点で風向きがガラッと変わり,
RoboDRagons の守りにミスが出始めたよ
うに思う6.そして試合終了までに 3 点を取られてしまった(上の写真は,この試合の集合
写真)
.
この結果,RoboDragons は C グループ 2 位通過となった.
7 月 2 日(土)
.本日から決勝トーナメントが始まる.
システムでちゃんと動くところまではできていない.
6 プログラムで動いているのに,そんな風に変わるのか?と思われるだろう.これをどう説
明すべきか?確率過程(ポアソン過程)として考えればゴール事象が 2,3 回集中して発生し
ても不思議はない.
(当方に点数が入らないのは力の差があるためである.
)これを人は風
向きが変わったと感じるのだろう.
午後 1 時からラッキールーサー戦7は,RoboDragons(C group 2nd) vs. KIKS(B Group 3rd)
の日本勢同士の対戦となった.KIKS のキックオフで試合開始.KIKS のゴールを狙ったチ
ップキックに対して,以前の RoboDragons のシステムには,デフェンスロボットがコース
を開けてしまうバグがあったが,これは今回修正されていた.ひとまず安心.さて,試合
が進むと,何か変だ.まず,ロボットの速度が遅く見える.
(KIKS 側もロボット速度は速
くない.
)さらにボールのハンドリングがきわめてへたくそだ.ボールに近づいても蹴ろう
としない.ひょっとして,ボール前の躊躇問題が再発したか?(これは直したはずだった
が.
.
.
)さらにさらにボールをロボットのお尻に当ててはじくケースも目立った.要するに
軌道制御がうまくできていない.原因は現時点では不明だが,基本的なところだから何と
しても直してほしい.そんな状況の中で,KIKS 側に隙ができ,そこを突いて先制点を上げ
た.しかし喜んでいるような状況じゃない.
いつ入れ返されるかわからない.祈る気持ち
で試合を見る.試合が進んで,KIKS にトラ
ブル.ロボットが止まってしまった.この機
に 1 点追加.2-0 となる.3 点目は,1 点目
と同じような状況が発生し得点した.前半終
了(右の写真は試合の様子).後半は,同じ
ような展開が続く.タイムアウトを取って,
プログラムを修正しようとしているが,本質
的な解決には至らなかった.そして,ボール
さばきの不調がオウンゴールを与えてしま
った.3-1.まずい展開になってきた.気を
取り直して,試合を見る.RoboDragons は
相変わらず連携が悪い.が,KIKS も付き合
ってくれて一進一退の攻守が続く.その後に
RoboDragons が 1 点を加えて,結局この試
合は 4-1 で RoboDragons の勝利となった.
(写真は KIKS との集合写真)
このままでは,上位チームには歯が立たな
い.メンバーに,これでは次の Parsian 戦には勝てないぞ,と檄を飛ばす.次の試合開始
までには何とか修正されていてほしい.
午後 3 時からは準々決勝が始まった.Parsian (Iran, D group 1st) vs. RoboDragons であ
る.Iran のチームは,クレームをつけることで有名だ.この試合も定刻には始まらなかっ
た.やれビジョンシステムが問題だとか,Referee box が問題だとか,まだ調整中だから待
A グループの 2 位と B グループの 3 位の対戦,というように各グループ 2 位と 3 位の対
戦.グループ間の偏りを是正するための方式.
7
ってくれだとか,何やかや言ってくる.審
判もほとほと困り果てている.30 分ほど過
ぎてようやく始まった.Parsian のキック
オフで開始.そのとき,Parsian のロボッ
トが我々のフィールドに入ってくる.明ら
かに違反で,クレームをつけると,相手は
タイムアウトをとって修正する.ようやく
修正が済み試合開始.しばらく試合を見て
いると RoboDragons が有利に進めている.
よくゴールを狙うが,コースが甘く,何本も外す.本来なら 1 点は先取していてもおかし
くない状況だが,いまだ得点できず.その間も Parsian はしょっちゅうクレームをつけ,
試合が頻繁に止まる.本来ならタイムアウトを取って処理すべき問題もゲームを止めて処
理する.全く困ったものだ.ゲームは一進一退で両者得点が入らず前半戦を終わる(上の
写真は試合の様子)
.
後半戦はサイドを変えて始まった.前半
の状況からして,統計的にはそろそろ我が
方に得点があってよいころだ.我が方果敢
に攻めるが,ゴールに当たりこそすれはじ
かれてしまう.なんでこんなにシュート精
度が悪いのかなぁ,どうやったら克服でき
るのかなぁと考えつつ試合を眺める.よう
やく,ゴール前のクロスプレイでゴールが
決まった.1 点先取した.これでいけると思
った.守備に入らないで攻撃を続ければよい.残り時間も少なくなり,Parsian も焦りの色
を隠せない.タイムアウトを使い切って調整する.が,焦りが悪い方向に働き,バグを入
れたようだ.スローインでボールを押して進んでしまい,反則を取られる.これでほとん
ど勝利間違いなしと確信した.祈る気持ちで試合終了まで見ていた.そして審判からゲー
ムオーバのコール.勝った!4 位以上が確定した(上の写真は Parsian との集合写真).
明日の準決勝に備え,今夜は早く帰って休息を取ろう.だが,この後に ETDP(Extended
Team Description Paper)の発表会がある.羽山,山口両君が発表する.忙しい日程だ.学
生諸君にはいい経験だけれど,きっと本人たちは大変だろうな.でも頑張ってくれ.それ
をやることが君たちの血肉になるのだから.
ETDP の発表会は,前年の上位 8 チームが自分たちのシステムの技術ポイントを発表す
る.発表会は,午後 6 時からの予定だったが,準々決勝が延びて時間が推してきたため,7
時からの開催で,持ち時間は一人 6 分になったそうだ.RoboDragons は,前半を山口君,
後半を羽山君が発表した.我々は主に相手戦略の学習について実機実装した結果を発表し
た.学習アルゴリズムの概要とシミュレーション結果の動画を見せた.学生諸君の発表は,
ppt のカンペ丸読みで物足りなかったが,内容的には興味深かったと見えて,大きな拍手を
もらったように思う(上の写真は左が山口君の発表,右が羽山君の発表)
.結果オーライで
ある.二人は初発表でしかも英語.極度に緊張していただろう.しかし,発表が終わって
緊張が解けると,大いに食欲が湧いてきたようだ.お疲れ様でした.
7 月 3 日(日)
.いよいよ準決勝の日を迎えた.我々は 9 時から CMDragons(USA)と対
戦する.昨年のチャンピオンチームだ.
フィールドそばの観客席で日本から来た人と話をしているところに,Prof. Manuela
Veloso が現れた.これは挨拶をしなければならない.本日の試合の健闘のエールをかわし,
ちょっと雑談.
CMDragons のロボットは 2006 年以来同じものを使い続けているとのこと.
世の中 50 ワットモータが主流になってきているが,彼女のところは 30 ワットモータで車
輪を駆動している.それでも準決勝にまで進むのだから,よほどソフトウェアが洗練され
ている.さすがは CMU だ.
試合が始まった.前半は,一進一退の攻
防が続く(右の写真は試合の様子)
.我が方
もレベルが上がってきたと思った.だがし
かし,わが方のロボットはボールのハンド
リングが悪い.敵が周りにいなければ問題
なくキックできるのだが,ボールを挟んで
前に敵がいるとき,わが方のロボットはウ
ロウロするばかりでボールを蹴ることがで
きない.パスコースが定まらないから蹴れ
ないということだろうが,もう一工夫しなければならない.この辺りは,これから改良し
ていこう.この弱点のために点が入りそうなところで入らないのだ.もう一つは,今回目
立ったことだが,シュートコースが甘い.ゴールを外すことが多かった.何世代か前のロ
ボットはシュート精度が高く,確実にゴールを決めることができた.この原因は,ボール
のレシーブ機構が 1 点留めであることが影響しているようだ.ここも改良しなければなら
ない.試合のほうは,拮抗した戦いが続いたが,前半終了間際にわが方の守りに隙ができ
てそこを CMDragons に習われゴールを決められた.CMU のシュート精度は極めて高い.
後半戦が始まった.どうやら敵は戦略を変えたようだ.我が方のロボットはマーク戦略
をベースにしているが,それを逆手にとって
左右に振り回し,オープンスペースを作る戦
略を取っているように見えた.そして,オー
プンスペースに敵ロボットがいる.そのロボ
ットに 1-2 シュートを決められた.完全に
やられている.ここを突かれてはわが方はな
すすべなし.CMU のこの攻撃パターンで後
半は完全にやられ,5 点を献上した.終わっ
てみると 6-0 の完敗であった(右の写真は集
合写真.Prof. Veloso と握手で健闘を讃えあ
う)
.学ぶこと多し!学生諸君,この試合をよく分析して対応を考えよう.
3 位決定戦に回ることになった.相手は ZJUNlict に決まった.
(MRL(Iran)が ZJUNlict
を破り決勝に進んだ.
)予選リーグで負けているだけに,何とか一矢報いたいところだ.
この試合は,予選と同じような展開となった.CMDragons のところで述べたように,我
が方のボール捌きのまずさがチャンスをピンチに変えてしまう.この問題,昨年から指摘
し,今年のジャパンオープン後に集中的に検討したのだが,結局修正しきれなかったとい
うのが現在のところの結論である.この部分を本質的に直さなければ上位 3 強には勝てな
い.来年に向けて頑張るしかない.試合のほうは,3-0 で完敗である(下の写真は,試合
の様子と集合写真)
.
この後決勝戦が行われた.CMDragons vs. MRL である.この試合は,symposium 発表
原稿のチェックで見ることができなかったが,MRL が 3-1 で勝利した.Congratulation!
MRL.
今回の大会を通じての感想.0 点で負けた場合,相手との実力差があるとみてよい.そこ
から,MRL,CMDragons,ZJUNlict の各チームとわがチームの間には実力差があること
を認めざるを得ない.また,ドイツの 2 チーム(Tigers Mannheim,ER-Force),イラン
の 2 チーム(Immortals, Parsian)
,STOX(ブラジル)と RoboDragons は同レベルの実
力と思われる.今回はくじ運が幸いして 4 位となったが,どのチームが 4 位になっても不
思議ではない.
このようにして RoboDragons の夏は終わった.今回は,大会最終日まで試合ができたこ
とに感謝する.また,遠征に当たって経済的にご支援をいただく愛知県立大学に感謝する.
擱筆
2016/7/4
成瀬 正
(追記)7 月 4 日(月)にロボカップシンポ
ジウムがあり,安達君が相手行動の分類に関
する発表を行った(右の写真は発表する安達
君).会場からの質問にも卒なく答え,見事
に発表を終えた.
Y. Adachi, M. Ito, T. Naruse “Classifying
the strategies of an opponent team based
on a sequence of actions in the RoboCup
SSL”, RoboCup symposium, 2016.7
(付記)参戦記もこれが最後となりました.私は今年度末をもって卒業となります.この
20 年近くロボカップに携わり,多くの知己を得ることができ,世界のあちこちに遠征する
ことができ,そしてその地域の日常風景を知ることができたことに感謝します.この間,
学生諸君が大いに健闘してくれました.学生諸君の努力なしにこのプロジェクトは成立し
ませんでした.また,このプロジェクトに携わった学生諸君は,修羅場を潜り抜け,よい
人生修行になったと思っています.また,社会で大いに活躍していることと思います.本
当にありがとうございました.これからは,外野席でロボカップの発展を見守っていきた
いと思います.
ロボカップに携わる皆さん,夢を求めてどうか頑張ってください.