車いすで考えるバリアフリー 第一回 「障がい」と「環境」を

車いすで考えるバリアフリー
第一回
「障がい」と「環境」を考える
作業療法学科
松尾彰久
Ⅰ.はじめに
WEB 講座「車いすで考えるバリアフリー」は車いすを通して、動きの不自由さや身の回
りの環境を今一度考えてみようというものです。今月から3回に分けて連載することにな
りました。
第一回は、基本的な知識を整理することを目的とし、動きの不自由さということを考え、
バリアフリーという用語とユニバーサルデザインという用語を解説させていただきます。
なお、下の写真は、埼玉県立大学の正門付近の長いスロープで撮影しました。車いす利
用者の安全のため、スロープを上から下へ、手前の方へ下っている様子です。
Ⅱ.動きの不自由さ
車いすを利用するというのは、なんらかの動きの不自由さが原因だということが多いで
しょう。また、車いすからは、障がいという言葉をしばしば連想します。そこで、まず、
障がいについて簡単に述べさせていただきます。障がいの定義は、時代や国によって該当
する範囲が大きく違っています。障がいという言葉には、広く、深い背景があり、まとも
に取り組むと迷路に迷い込みそうです。しかし、障がいと私たちとの距離は思ったほど遠
くありません。私たち自身が事故や病気に直面することは皆無とは言えず、肉親が年を取
ることで体が不自由になる可能性もあります。また、生まれてくる子どもに障がいがない
という保証はありません。家族、親戚、友人、地域社会と見渡す範囲を少しずつ広げてい
くと、障がいとの接点にぶつかることも少なくないかと思います。障がいは、どこか遠く
にあるものではなく身近なものとして認識しておく必要がありそうです。いうまでもない
ことですが、障がいの中には動きの不自由さを伴うものがあります。
一方で、特に障がいがあるとは感じない状態でも動きの不自由さを伴うものがあります。
例えば、大きな荷物を持って電車に乗ること、妊娠すること、ベビーカーを押すことなど
も動きの不自由さにつながります。
このように考えていくと、障がいのある、なしにかかわらず、動きの不自由さと私たち
自身はまったくの無関係とは言えません。
Ⅲ.バリアフリー
障がいと環境との課題を考えるとき、よく使われる言葉に、バリアフリーがあります。
バリアフリーのバリアとは「障壁」のことです。フリーとは「取り除く」ということです。
バリアフリーとは障壁を取り除くことであり、そこから、
「障がい者が社会参加に関するこ
とで支障となるような障壁を取り除く」という意味が発生しました。
1995年に総理府が出した障害者白書には4つの障壁として、物理的な障壁、制度的
な障壁、文化・情報での障壁、意識上の障壁を取り上げられており、それらすべてを取り
除くことをバリアフリーとしています。
さて、ここでは、物理的な障壁について考えてみます。車いすを実際に駆動すると、屋
外では、段差や坂、悪路に直面し、スムーズに駆動できない困難に直面します。できるだ
け、そのようなバリアを解消していくことが誰もが住みやすい環境へとつながっていきま
す。なぜなら、車いすにとってバリアフリーな環境は、ベビーカーを押す人にとっても社
会参加しやすい環境だと思われるからです。
しかし、実際に車いす体験をしないと、どのような場面が不便なのか、どの程度不便な
のか、実感することが難しいことを付記しておきます。
上の写真は、車道と歩道の段差と、その介助方法を示しています。このような段差も車
いす利用者にとっては、大きなバリアになります。
Ⅳ.ユニバーサルデザイン
ユニバーサルデザインとは、最初からバリアを作らないという考え方です。障がい者に
も、高齢者にも、若者にも、誰にとっても使いやすいということです。国内で最近作られ
たもので、公共性の高い建物はほとんどがユニバーサルデザインの考え方を導入している
と思われます。
21世紀に入り、ユニバーサルデザインの考え方は、益々、建築物や商品に取り入れら
れていくことでしょう。ユニバーサルデザインの浸透は、使いやすさという点で、障がい
のある、なし、にかかわらず有益であると思われます。
上の写真は、広いスペースが確保され、車いす利用が容易な空間です(埼玉県立大学)。
上の写真は、段差を解消した入口で、ドアは自動ドアになっています (埼玉県立大学)。
Ⅴ.まとめ
今回は、動きの不自由さということを考え、関連して、バリアフリーとユニバーサルデ
ザインについて簡単に解説させていただきました。生活しやすい環境が整っていれば動き
の不自由さという障がいは解消されることがあります。逆に、環境が障がいをつくりだす
こともあるのです。
最後に、障がい者にとって生活しやすい街づくりは、地域で生活するみんなにとっても
生活しやすい街づくりにつながっていくということをご理解していただけたことと思いま
す。