京都大学 生態学研究センターニュース Center for Ecological Research NEWS Kyoto University 2010. March. No.107 平成 22 年度 共同研究公募のご案内 今号からの新連載 新連載1 ゲノムから生態系まで ● グローバルCOE が目指すもの 新連載2 大串隆之 地球研だより ● 生態学を外から見ると・・・ 酒井章子 Center for Ecological Research NEWS No.107 第 107 号 目次 2010 年 3 月 ■平成 22 年度 京都大学生態学研究センター共同研究公募要領 ……………………………………… 3 ■連載 連載 1 ゲノムから生態系まで(第 1 回) ●グローバル COE が目指すもの 〜生態学の枠組みを一新する〜 大串隆之 ……………………… 5 連載 2 地球研だより(第 1 回) ●生態学を外から見てみると・・・ 酒井章子 …………………………………………………………… 7 連載 3 DIWPA だより(第 3 回) ●第 2 回 AP-BON 会議 中野伸一 ………………………………………………………………… 8 ■センター員の紹介 研究紹介 ●ミクロにマクロを視る 有村源一郎 ………………………………………………………………… 10 ●クローナル植物における個体の階層性と生育環境への適応 荒木希和子 ● Herbivore-induced plant volatiles ……………………………………… 13 Maurice W. Sabelis ……………………… 11 センターを去るにあたって ●センター発足前夜 藤田 昇 ●あしあと 小島 巌 …………………………………………………………………………………… 15 ………………………………………………………………………… 14 ●田上の朝靄を思い出しながら 内海俊介 …………………………………………………………… 17 ●多様性に支えられたセンター生活 鮫島由佳 ……………………………………………………… 18 ■センターの活動報告 公募型共同利用事業 研究会の報告 ●表現型可塑性の生物学 岸田 治 …………………………………………………………………… 19 ●ゲノムと生態系をつなぐ進化研究 ー環境変動・集団履歴・適応ー 田中健太 ………………… 21 公募型共同利用事業 セミナーの報告 ●アオコの生態・生理・分子系統地理学的研究の現状 公募型共同利用事業 近藤竜二 ……………………………… 22 野外実習の報告 ●琵琶湖丸ごと陸水実習 中野伸一 ………………………………………………………………… 23 ●陸生大型ミミズ類の研究法入門 〜野外採集から種同定まで〜 伊藤雅道 ……………………… 25 2009 年度生態研セミナー開催報告 谷内茂雄 ……………………………………………………………… 26 オープンキャンパス 2009 の報告 生態研ライブラリーの紹介 大串隆之 …………………………………………………………………… 27 谷内茂雄 ………………………………………………………………………… 27 ■センター関係者の動き …………………………………………………………………………………………… 28 センター員の異動 2009 年度協力研究員追加リスト 外国人研究員の紹介 ■センターの主要な会議の要旨 ………………………………………………………………………………… 29 京都大学生態学研究センター運営委員会(第 56 回)議事要旨 京都大学生態学研究センター協議員会(第 67 回)議事要旨 2 No.107 Center for Ecological Research NEWS 平成 22 年度 京都大学生態学研究センター 共同研究公募要領 1.公募事項 京都大学生態学研究センターは、生態学に関する 共同研究を推進する全国共同利用施設として機能し てきましたが、平成 22 年度から『生態学・生物多様 性科学における共同利用・共同研究拠点』として新 たに発足します。本公募は、生態学の基礎研究の推 進と生態学関連の共同研究の推進を目的として、本 センター以外の機関に所属する教員または研究者と本 センターの教員とが協力して行う、以下の研究テーマ に関する共同研究を公募するものです。 ■募集研究テーマ ¡ 水域に関する生態学的研究 ¡ 熱帯に関する生態学的研究 ¡ 陸域生物相互作用に関する生態学的研究 ¡ 理論生態学的研究 ¡ 分子解析手法を用いた生態学的研究 ¡ 生物多様性保全に関する生態学的研究 ■公募内容:以下の共同研究 a、共同研究 b、研究 集会・ワークショップについて公募します。応募され る際、当センターにおける窓口となる担当教員を、少 なくとも1 名決めてください。応募された案件について、 本拠点で審査の上、採否を決定します。 共同研究 a:上記のテーマいずれかに該当し、当センター の共同利用施設、設備、生物標本、データベース 等を利用する研究。上限を 50 万円として、研究参 画者の旅費、消耗品費、その他必要経費について、 研究費を補助します。研究組織に、当センターの教 員を少なくとも1 名加えてください。 共同研究 b:上記のテーマいずれかに該当し、当センター の共同利用施設、設備、生物標本、データベース 等を利 用する研 究 。 研 究 費は支 給しません。 共 同 研究 a に採択されなかった応募研究については、希 望があれば共同研究 bとして採択することがあります。 研究集会・ワークショップ:生態学に関する研究集会・ ワークショップの開催について、出席者や講師の旅費、 その他必要経費について、上限を 20 万円として補 助します。研究集会・ワークショップを当センター以 外の場所で開催する場合、講演者等に当センターの 教員を含めてください。 2.申請資格者 ■共同研究(a、b)代表者および研究集会・ワー クショップ代表者 大学の教員、研究機関の研究者、またはこれら と同等の研究能力を有するとセンター長が認めた者 ■研究分担者 次のいずれかに該当する者とします。 1. 大学の教員、研究機関の研究者 2. 技術職員、大学院生 3. その他センター長が適当と認めた者 3.申請方法 ①共同研究(a、b) および研究集会・ワークショップ の申請を行うにあたって、共同研究(a、b) 代表者、 研究集会・ワークショップ代表者は、事前に本セ ンターの担当教員と十分な打ち合わせをして下さい。 ②共同研究(a、b) 代表者は「共同研究申請書」を、 研究集会・ワークショップ代表者は「研究集会・ ワークショップ申請書」1通を、それぞれ電子ファ イルとして、共同利用・共同研究拠点係 [email protected] までお送りください。 ③採択後は、研究分担者(本センター所属の者を 除く)からの「 共同研 究 承 諾 書 」を必ず提出し て下さい。(「共同研究承諾書」(所属長承諾の 押印有)を提出していただくことで、所属先への 出張依頼は行いません。) ④申請書および承諾書の書式ファイルは、本センター のホームページからダウンロードできます( 以 下 、 URL 参照)。 http://www.ecology.kyoto-u.ac.jp/ecology/ activities/cooperative.html 4.研究期間 採択決定後から平成 23 年 3 月 31 日まで 5.申請書提出期限 平成 22 年 5 月 7 日(金)、午後 5 時 期限厳守 (ただし、共同研究bについては、随時募集・採用 いたします) 6.知的財産権の取り扱いについて 知的財産権の帰属等に関しては、京都大学の規 定(以下の URL 参照)に従います。 3 Center for Ecological Research NEWS No.107 京都大学知的財産ポリシー: http://www.saci.kyoto-u.ac.jp/wp-content/ uploads/2007/06/tizai_policy070628.pdf の代表者は、終了後速やかに「共同研究報告書」 あるいは「研究集会・ワークショップ報告書」それぞ れ 1 通を、申請書提出先宛に提出してください。様 式については、本センターのホームページからダウンロー ドできます。また、共同研究報告書および研究集会・ ワークショップ報告書の一部は、本センターが発行す る生態研ニュースに掲載させていただきます。 知的財産に関わる FAQ: http://www.saci.kyoto-u.ac.jp/index.php?page_id=94 7.共同利用・共同研究における施設等の損害につ いて 共同利用・共同研究中に、共同利用施設、設備、 生物標本、データベース等に利用者の過失による損 害を生じさせた場合には、利用者の所属機関に対し て原状回復をお願いすることがあります。 11.本研究による成果の発表 本共同研究による成果の発表の際は、必ず本研 究事業により援助を受けた旨を明記してください。 ・和文:「本研究は、京都大学生態学研究センター の共同利用・共同研究事業(H22-CR-××) の支援により行った。」 ・英文: The present study was conducted using Joint Usage / Research Grant of Center for Ecological Research (H22-CR-XX), Kyoto University. 8.申請書提出先 京都大学生態学研究センター、共同利用・共同研 究拠点係 [email protected] 9.採否 本センターの共同利用・共同研究拠点運営委員 会(仮称)の議を経て、センター長が採否を決定し、 平成 22 年 5 月末日までに、申請者へ通知します。 12.問合せ先 〒 520-2113 大津市平野 2 丁目 509-3 京都大学生態学研究センター 共同利用・共同研 究拠点係 電子メール:[email protected] 電話:077-549-8200 10.共同研究(a、b)、研究集会・ワークショップの 報告書 共同研究(a、b) および研究集会・ワークショップ JR南草津駅 センターの 案内図 南田山 琵琶湖 線 湖 米原 琶 琵 JR 線 1号 松下中央 道 国 JR瀬田駅 センター 所在地 nic so na Pa 工場 立命館 大学 笠山 京 滋 バ イ パ ス 瀬田駅口 医科大学北口 福祉センター口 滋賀医科 大学 京都 名神高速道路 龍谷 大学 瀬田西IC (京都方面のみ利用可) 文化 ゾーン 瀬田東IC バスルート 宇治 4 センター 大 学 病 院 前 京都大学 生態学研究 センター前 飛鳥西ゲート (米原方面のみ利用可) 徒歩 草 津 田 上 I C 信 楽 県 道 43 号 線 No.107 Center for Ecological Research NEWS 連載 1 ゲノムから生態系まで (第 1 回) グローバル COE が目指すもの 〜生態学の枠組みを一新する〜 大串隆之(京都大学生態学研究センター) 大串隆之(おおぐし たかゆき) ・現職:京都大学生態学研究センター・教授 ・専門分野:生物多様性科学 生態学研究センターは、理学研究科生物科学専攻 および霊 長 類 研 究 所とともに、 京 都 大 学グローバル COE プログラム「生物の多様性と進化研究のための 拠 点 形 成 : ゲノムから生 態 系まで( 平 成 1 9 〜 平 成 23 年度)」を推進しています。 多様性と進化』研究のブレークスルーとなる研究を創 出すること、興味が細分化しつつある生物学・生命科 学を、ゲノムを共通基盤に体系化を図り、21 世紀にふ さわしい『生物学の知の体系』を確立すること、そして これらを世界に向けて発信することを目指しています。 本プログラムのウエブサイト(http://gcoe.biol.sci. kyoto-u.ac.jp/gcoe/index_j.php)にはその目的が 次のように記されています。 ● COE プログラムの生態学における意義 この新たな生物学の創出という目的に沿って、生態 学 研 究センターは、 生 物 多 様 性 科 学の視 点から生 態 学の教育と研究に取り組んでいます。ここでは、まず本 COE プログラムの生態学における意義を考えてみましょう。 この地 球 上に生 息している生 物のどれ 一 つとして、 単独で暮らしているものはいません。生物と生物はさま ざまな関係で結ばれており、これらの関係が組み合わさっ て生物群集が形作られています。つまり、生物群集は 生物間のネットワークによって特徴づけられているのです。 現在、世界の至るところで生物多様性の危機が叫ばれ ています。その例として、ある生物の絶滅を考えてみましょ う。それは地域個体群の消失から始まります。これは、 地域個体群に特有の遺伝的な多様性の喪失にほかな りません。一方、個体群の消滅のメカニズムは、生物 の個体数がどのように維持されているかという個体群生 態学の中心的な課題です。地域個体群の消失は、そ れとさまざまな関係で繋がっている他の生物とのネットワー クの喪失でもあります。さらに、その生物が生態系にお いて重要な消費者であったなら、物質循環のあり方は 大きく変わってしまうでしょう。 グローバル COE では、21 世紀 COE で始めた分野 間交流をさらに発展させて、階層横断的な教育と研究 に積 極 的に挑 戦し、『 生 物の多 様 性をもたらした進 化 のメカニズム』を研究する新しい世代の育成に取り組 むとともに、新しい学問分野の創出(実験進化学、実 験行動進化学、進化人類学、進化生態系ネットワー ク科学など)を試みます。そのために、本拠点では、『生 物の多様性と進化』研究のブレークスルーを創出でき るような新たな世代の研究者を育成すること、『生物の 間接相互作用網の一例.ジャヤナギの枝にタマバエの虫こ ぶが作られると、新しい枝が盛んに伸びてくる.栄養価が高 く軟らかな新葉が増えるので、アブラムシやハムシが集まって くる.しかし,アブラムシが増えると,甘露に誘引されたアリ が周囲のハムシを排除してしまう(Functional Ecology の カバー写真). ●求められる生態学分野の再統合 このように、生物の生理や行動、進化、個体群動態、 食物網、物質循環、生物多様性などは生物群集や生 態系にさまざまな影響を与え、同時にそれらから影響を 受けています。つまり、生物多様性の問題に向き合う ためには、個別の分野に捕われない幅広い見方が必 要です。しかし、従来の生態学では、これらの課題は、 個体、個体群、群集、生態系といった分野に分かれ て発展してきました。そもそも、生物多様性がどのような 仕組みで維持され、創り出されているかを理解せずして、 生物多様性を保全することなどできるわけがありません。 生物多様性の理解のためには、20 世紀を通して細分 化してきた生態学の分野の再統合が求められているの です。たとえば、進化という生物の最も基本である現象 を、従来の生態系生態学は無視してきました。生物進 化は生態系生態学が明らかにしなければならない課題、 たとえば生態系の物質循環に何の役割もはたしていな 5 Center for Ecological Research NEWS No.107 いのでしょうか? そんなことはありません。最近になって、 生物進化が物質循環を大きく左右することが分かってき ました。生態系生態学の新たな発展が見えてきたのです。 さらに、進化をいち早く取り入れた個体群生態学との接 点を通して、 異なる階 層を繋ぐ意 義が明らかになるで しょう。 ●間接相互作用網の提唱 つぎに、私たちの研究グループの取り組みを紹介しま しょう。生物群集のネットワークは、これまで食う食われ る関係に基づく「食物網(food web)」によって理解 されてきました。そのため、非栄養関係・形質を介し た間 接 効 果 ・ 相 利 片 利 関 係が生 物 群 集の組 織 化に 果たす役割については、ほとんど分かっていませんでし た。しかし、自然界で普遍的なこれらの関係は、生物 多様性の維持と創出に不可欠な役割を担っていること が明らかになってきたのです。私たちは生態系の基盤 生物(生産者)である植物の「被食による形質の変化」 に注目して、食物網にこれらの関係を組み込んだ「間 接相互作用網(indirect interaction web)」という 考え方を提唱しました(Ohgushi, 2005; 大串 , 2009)。 陸上植物の上では、被食による植物の成長や質の変 化(表現型可塑性)が、それを利用する多様な生物 の間に相互作用の連鎖を生み出し、生物群集に多様 性と複雑性をもたらしているのです(前頁写真参照)。 それは、 植 物の形 質の変 化が多くの間 接 相 互 作 用・ 非栄養関係・相利片利関係を生み出し、これによって 新たなニッチが創り出されるからです。また、間接相互 作用網の解析から、時間的・空間的に棲み分けてい る生物や系統的に異なる生物も、植物の変化を介して、 生物群集のネットワークにしっかりと組み込まれているこ とが明らかになりました (Ohgushi, 2007, 2008; Ohgushi et al., 2007a, b)。さらに、生物群集によって植物の表 現型可塑性の発現が異なり、それが群集内の生物の 形質進化を促すことも分かってきました(Utsumi et al., 2009) 。 本グローバル COE では、間接相互作用網という視点 から、a 生物多様性の維持・促進のメカニズム、s 形 質 介 在による間 接 効 果の普 遍 性とその群 集 ・ 生 態 系における意義、d 植食者によるボトムアップ栄養カス ケード、fトップダウンとボトムアップ効果の統合、g 地 上部と地下部の相互作用、h 遺伝多様性と生物多様 性の相 互 作 用、 j 進 化 生 物 学と群 集 生 態 学 ・ 生 態 系生態学の統合、などの 21 世紀の生態学を拓く新た な課題(Big Questions)に挑戦していくつもりです。 6 参考文献 Ohgushi, T. (2005) Indirect interaction webs: herbivore-induced effects through trait change in plants. Annual Review of Ecology, Evolution, and Systematics, 36, 81-105. Ohgushi, T. (2007) Nontrophic, indirect interaction webs of herbivorous insects. pp. 221-245. In Ohgushi, T., Craig,T.P. and Price, P.W. (eds.), Ecological Communities: Plant Mediation in Indirect Interaction Webs, Cambridge University Press, Cambridge, UK. Ohgushi, T. (2008) Herbivore-induced indirect interaction webs on terrestrial plants: the importance of non-trophic, indirect, and facilitative interactions. Entomologia Experimentalis et Applicata, 128, 217-229. 大串隆之(2009)食物網から間接相互作用網へ.「シ リーズ群 集 生 態 学 3 : 生 物 間ネットワークを紐とく」 (大串隆之・近藤倫生・難波利幸編),pp. 151-184, 京都大学学術出版会,京都. Ohgushi, T., Craig, T.P. and Price, P.W. (2007a) Ecological Communities: Plant Mediation in Indirect Interaction Webs. Cambridge University Press, Cambridge, UK. Ohgushi, T., Craig, T.P. and Price, P.W. (2007b) Indirect interaction webs propagated by herbivoreinduced changes in plant traits. pp. 379-410. In Ohgushi, T., Craig,T.P. and Price, P.W. (eds.), Ecological Communities: Plant Mediation in Indirect Interaction Webs, Cambridge University Press, Cambridge, UK. Utsumi, S., Ando, Y. and Ohgushi, T. (2009) Evolution of feeding preference in a leaf beetle: the importance of phenotypic plasticity of a host plant. Ecology Letters, 12,920-929. No.107 Center for Ecological Research NEWS 連載 2 地球研だより (第 1 回) 生態学を外から見てみると・・・ 酒井章子(総合地球環境学研究所) 地球研に異動してから 2 年がたちました。この 2 年 間は、さまざまな新しい経験をすることが多かったよう に思います。それは、まずサブリーダーとして大きな研 究プロジェクトを運営する立場になったこと、幅広い分 野の研究者と共同研究したり議論したりする機会が増 えたこと、また大学とは違う研究所という組織に入った ことなどといった理由があります。短期的な論文生産 効率から見ると、専門外の課題に首を突っ込むのはマ イナスですし、純粋な研究とは違うところでの苦労も 少なくありません。でも、自分の視野を広げるなど長 期的に見ればプラスになることも多いかなと、ポジティ ブに考えることにしています。 ●経済学と生態学の交流 視野が広がったことで、この頃興味を持っているもの の一つに経済学があります。経済学と生態学は、エコ ノミーとエコロジーが同じ言葉に由来することに象徴され るように、 手 法や発 想に似ているところがあります。い かに効率よく餌を得るのかという最適採餌理論は、少な いコストでいかに利益を上げるか、という経済性の発想 に基づいていますし、物質の循環を考える生態系生態 学は、家計や国家の経済収支を考えることに似ています。 でも、よく指摘されることですが、経済学と生態学の間 には、これまであまり交流がありませんでした。 しかし、 近 年 環 境 問 題の解 決 手 段として、 二 酸 化 炭素排出権取引などに代表される経済的な仕組みの利 用が注目されるようになり、生態学者と経済学者が同じ 会議に出席するというようなことも、少しずつ増えてきた ように思います。わたし自身もプロジェクトや会議で出会っ た経済学の研究者からいろいろなことを聞きかじるうちに、 ちぐはぐだった議論も少しはかみ合うようになり、共同研 究を考えたりするようになりました。そこで感じたのは、 生態学や生物多様性に強い関心を持っている経済学 者や企業が少なくないこと、経済学的な環境問題への 取り組みにおいて、もっと生態学者の積極的な関与が 望まれているらしいことでした。 ●企業の生物多様性への取り組み 一 方で残 念に思うのは、 企 業の環 境 問 題への取り 組みや、経済的仕組みを利用した環境問題の解決に 対し、頭ごなしの不信感や拒否反応を示す研究者もい ることです。現実には、企業による生物多様性につい ての広報活動は、すでに世の中での理解に小さくない 役割を果たしていると思いますし、今後環境問題の解 決に向けた経済的な仕組みや効果の重要性は増して 酒井章子(さかい しょうこ) ・現職:総合地球環境学研究所・准教授 ・専門分野:植物生態学 いくと思います。生態学者が学ぶべきことも多いのでは ないでしょうか。 今 年 は 名 古 屋 で生 物 多 様 性 条 約 の 締 約 国 会 議 (COP10)が開催されることもあって、一般向けに生物 多様性についての本も多く出版されています。その中で、 先月読んだ『企業のためのやさしくわかる「生物多様性」』 ( 技 術 評 論 社 )は、 生 態 系や生 物 多 様 性の重 要 性 、 生物多様性に関連した世界や日本国内での動き、それ と企業活動の関係がコンパクトに非常にわかりやすくまと められていて参考になりました。 この本では、生物多様性に配慮せずに企業活動を することは、大きなリスクであるとしています。近い将来 生物多様性を守るために法律が変更され急に活動を変 更せざるをえなくなったり、突然問題が顕在化し賠償を 求められたり企業の評判を傷つけるようなことが起こりう るからです。 逆に、 他に先 駆けて生 物 多 様 性への配 慮をアピールすることは、企業や商品の価値を上げるチャ ンスともなりえます。 本の最後には、生態系や生物多様性をいかに伝え ていけば効果があるのか、についても説明されています。 そこには、「 経 済 的に重 要であるか 」を示すアプロー チと「 命やさまざまな生き物そのものに価 値がある」と いう倫理的なアプローチの双方を用意しておくことが賢 明である、とあります。経済性一辺倒ではうまくいかな いよ、といっているわけです。 多くの人に納 得してもら う方便ともとれますが、生物多様性の多面的な機能や 価値を考えると、相手や場合によってアプローチを変え るのは自然なことだともいえます。そのようなバランス感 覚をもつことは、研究者には案外難しいことかもしれま せん。 ●生態学を外から見る視点 気づいてみると、上に述べたような「生態学を外から 見る視点」は、地球研に来て得たものの一つかも知れ ません。外から見ると、これまでの自分自身の研究は、 生物学の中の生態学の、そのまた一部分の送粉や植 物の繁殖といった、非常にせまいものです(それと研究 の意義とはまた別の問題だと思いますが)。知識や興味 を共有する研究者の間での議論は非常に楽しいもので すが、チャレンジ精神と好奇心があれば、異分野の研 究者と話したり議論したりして、少し遠くから自分の研 究を見てみるのもおもしろいかもしれません。 生 態 学を 専門とする皆さんも、興味があればぜひ地球研に遊び に来てください。 7 Center for Ecological Research NEWS No.107 連載 3 (第 3 回) 第 2 回 AP-BON 会議 中野伸一(なかの しんいち) ・現職:京都大学生態学研究センター・教授 ・専門分野:水域生態学 中野伸一(DIWPA 事務局長) 12 月 10 日と 11 日、国連大学で開催された第2回 A P - B O N 会 議に出 席しました。この 会 議の目的は、 環境省生物多様性センターの HP によると、「この会 議は、アジア太平洋地域の政府関係者、研究者、大 学 及 び 生 物 多 様 性 科 学 国 際 共 同 プログラム (DIVERSITAS)、地球観測政府間会合生物多様性 観測ネットワーク(GEOBON)、生物多様性条約事 務局(SCBD)等が参加し、既存の生物多様性情報 の収集など、この地域の生物多様性観測ネットワーク (AP-BON)の具体的な活動の促進について、検討 することを目的に開催されます。」です。 今回は、第 1 回ほどは多くの参加者を募らず、総勢 100 名弱程度でしたが、Gar y Geller さん(Deputy Manager, NASA Ecological Forecasting Program) や Anne Larigauderieさん(DIVERSITAS の Executive Director)も参加して、密度の高い議論が展開されま した。 最初に、矢原徹一教授(九州大学)から、GEO・ GEOSS・AP-BON の経緯の説明があり、これに続いて、 渡辺綱男さん(環境省自然環境局審議官)から APBON の活動に期待することが説明されました。その後、 基調講演が三題行われ、一般講演と続きました。講演 のタイトルと発表者は以下の通りです。 ● 12 月 10 日: 基調講演 ・ DIVERSITAS achievements & contribution to GEO BON Dr. Anne Larigauderie (DIVERSITAS) DIVERSITAS について、そのプロジェクト、ネットワー ク、活動内容を紹介。 ・ The GEO Biodiversity Observation Network Dr. Gary Geller(GEO BON Str. C. and California Institute of Technology) モニタリングから得られる情報は、管理や政策決定に とって有益な情報であり、これらは AP-BON の関心 とも共通する。 ・ Formulation of the Post 2010 Target and update of the Strategic Plan 志村純子(SCBD) 戦略計画改定とポスト2010 年目標の CBD 事務局案 を紹介。目標達成のためには実施、監視、見直し、 評 価の強 化が必 要であり、そのためにも M Y P O W 8 第 2 回 AP-BON 会議での議論の様子 (Multi-Year Programme of Work)を作業計画 に組み込むことが重要であるとも述べた。 一般講演 ・ Biodiversity Monitoring of Forest Ecosystems by Large-Scale Plots: Examples in Malaysia, Thailand and Japan 伊東 明(大阪市立大学) ・ Biodiversity Research in Southeast Asia Dr. Benito C. Tan (Keeper of Singapore Herbarium) ・ Biodiversity Research and Conservation in Mongolia Dr. Gombobaatr Sundev (National University of Mongolia) ・ Environmental and/or Biodiversity Monitorings in Freshwater Systems of Asian Countries 中野伸一(DIWPA 事務局長、京都大学) ・ Freshwater Biodiversity and Conservation in the Taihu Basin, China 鹿野雄一(九州大学) ・ Marine Biodiversity Studies in Hong Kong Prof. Gray A. Williams (The University of Hong Kong) ・ Marine Biodiversity and Its Conservation Efforts Dr. Susetino (Research Center for Oceanography, Indonesia) ・ Vegetation of China 藤原一繪(横浜国立大学) No.107 Center for Ecological Research NEWS ・ Current trends in Sabah, Malaysia Abdl Hamid Ahmad (ITBC, Malaysia) ● 12 月 11 日: 一般講演 ・ International Long-term Ecological Research East Asia-Paci c Regional Network s Activities Dr. Eun-Shik Kim (Chair, ILTER-EAP Regional Network, Korea) ・ Biodiversity and Ecological Data Management Using Ecoinformatics Chau Chin Lin (Taiwan Forestry Research Institute) ・ Introduction to FishBase and SeaLifeBase and others Nicolas Baily (WorldFish Center, Aquatic Biodiversity Informatics Of ce, Los Banos, Philippines) ・ Development of a deposit system for biodiversity observation data in Asia Paci c Region 伊藤元己(東京大学) ・ Satellite Remote Sensing for Terrestrial Ecosystem/ Biodiversity observation in Japan , 石井励一郎(独立行政法人海洋研究開発機構) ●今後の AP-BON の行動計画 以下の行動計画が採択されました。 a 観測・評価体制の設立: AP-BON 運営委員会 次のように暫定運営委員会が設置されました。 ・共同議長 矢原徹一(九州大学大学院理学研究院) Rodrigo Fuentes (ASEAN Centre for Biodiversity, FILLIPINES) ・運営委員 中静 透(東北大学大学院生命科学研究科) Eun-Shik Kim (Department of Forest Resources, Kookmin University, KOREA) Dedy Darnaedi (Research Center for Biology, Indonesian Institute of Sciences, INDONESIA) 白山義久(京都大学フィールド科学教育研究セ ンター) Keping Ma (Institute of Botany, The Chinese Academy of Sciences, CHINA) ・事務局 環境省 AP-BON ポータルの開発 アジア太平洋地域における生物多様性モニタリン グの推進 s CBD-COP10 推進活動 アジアの生物多様性の観測研究の現状に関する 本の出版 . COP10 プレコンファレンスの開催 上記の本の出版についてですが、この本にはアジア 各国で行われている生物多様性モニタリングのディレクト リ(リスト)を付けます。ディレクトリには、有名で大規 模で、皆が知っているモニタリングを掲載すると言うよりは、 各地域で個別に地道に行われているモニタリングを一つ 一つ拾い上げて行く作業が想定されており、この作業 に DIWPA のネットワークを活用しようとのことになってい ます。すでに、DIWPA 事務局から、DIWPA の全メ ンバーに向けて、各地域の生物多様性モニタリングの 情報提供の呼びかけが行われています。どれだけ情報 が集まるか、楽しみです。 その他、AP-BON に関わる人全てが GEO-BON の コンセプト文 書を読むべきであるとの共 通 認 識 、 A P B O N 活 動からどのような成 果 物 が 得られるか 、 A P BON 活動に含まれる国の範囲をどうするか等の議論が ありました。 最後に、これは DIWPA 事務局長としての仕事も重 ね合わせて活動しようと考えているのですが、上記の生 物多様性の本について、現在、本書全体の編集作業 を私中心に行わせてもらっています。これは、AP-BON・ CBD-COP10 を盛り上げるためにも重要な仕事なので、 できるだけ早期に完成の目途を立てられればと思います。 また、これら一連の活動の中で、3 月 11 日にインドネシア・ バリ島で開催される「平成 21 年度地球規模生物多様 性モニタリング推進事業」にかかる国際会議「GEOSSAP シンポジウム」に出席することとなりました。ここでは、 インドネシアの DIWPA メンバーに会うこともできるような ので、DIWPA 活動をますますアクティブにしていきたい と思います。 9 Center for Ecological Research NEWS No.107 センター員の紹介 −研究紹介− 有村源一郎(ありむら げんいちろう) ミクロにマクロを視る 有村源一郎 ●ゲノム科学の現状 ヒトのゲノムが解読されて 7 年が経ちます。ヒトの遺 伝子は約 2 万 2000 といわれており、その多くの遺伝子 は未だ未同定もしくは推定のものです。これは、得られ たゲノム情報だけでは正確なアノテーションが困難であ るからです。つまり本当の意味での遺伝情報(ゲノム) を理 解するには、 各々の遺 伝 子 情 報からタンパク質を 合成(多くの場合が大腸菌、酵母、培養細胞を使用)、 精製タンパク質を使った機能解析を経て、遺伝子組換 えと変異による実際の生体での機能の探索が必要とさ れます。しかし、これらの実 験の多くが莫 大な労 力 、 時間、費用を必要とするため、有用遺伝子以外の機 能解明はなかなか進まない現状が続いています。 最近はポストゲノム時代といわれ、ゲノム情報からの タンパク質の構造決定、メタボローム解析などが網羅的 に行われています。さらに、次世代シークエンサーを用 いた個体レベルでの遺伝子解析(1000 ゲノムプロジェ クト等 )が進 行しており、 個 体 間の違いなどを全 遺 伝 子レベルで解析し、病気にかかるリスクや薬剤への反応、 環境因子への反応などにおける個人差のメカニズム解 明を目指しています。また自然生態学の分野においては、 『生物の進化と多様性』メカニズムの解明につながると 期待されています。 ・現職:京都大学理学研究科生物科学専攻およ び生態学研究センター准教授(2008 年 2 月〜) ・専門分野・研究テーマ:植物の生理学、分子 生態学、特に植物の香りを介した生物 間相互作用。 ・連絡先:[email protected] ●ゲノムからマクロへ ゲノム科学の躍進により遺伝子情報を誰もが手軽に 入手出来る時代になりましたが、それらのツールをマク ロレベルでの研究に応用利用することは未だ容易では ありません。これらの目的のためには、遺伝情報を基に した遺 伝 子の機 能の徹 底 的な解 明と、 個 体レベル以 上の生態学研究(相互作用研究、行動学など)を有 機的に統合する必要があるからです。したがって、こう いった試みは未だ途上段階であり、故に筆者がこの分 野に挑戦した所以でもあります。 ●生物間の相互作用に関わる遺伝子の発掘と機能解明 ここからが本題ですが、筆者は植物を中心にして「生 物 間の相 互 作 用ネットワーク」の分 子 機 構の解 明を目 指して、遺伝子研究からマクロレベルでの生物間の相 互作用メカニズムの解明につなげる総合研究に取り組 んでいます。特に筆者が注目しているのは、害虫に加 害され た 植 物 から 放 出され る 香り成 分 ( H I P V : Herbivore-Induced Plant Volatile)が情報化学物 質として媒介する昆虫と植物間の相互作用に関する分 子メカニズムです。HIPV は みどりの香り とテルペン などの揮発性物質により構成されており、筆者はこれら の HIPV の生合成遺伝子の組換え植物、変異体、合 成タンパク質を用いたマクロ研究から遺伝子解析などを 行っています。 HIPV の主要成分であるテルペンは、天然化合物と しては最多の 30,000 以上が存在しています。筆者はこ れまで、生物間の情報化学物質として働くテルペンの 生合成機構の解明を目指して、草本から木本まで様々 なテルペン合 成 遺 伝 子を同 定してきました。 現 在は、 相互作用研究のモデルとして用いられるリママメから単 離された、 揮 発 性テルペンの生 合 成 遺 伝 子を恒 常 的 に発現した遺伝子組換え植物を作成し、テルペンに刺 激された植物の害虫に対する防御応答(プライミング効 果 )、 天 敵 昆虫の誘引効 果の分 子 機 構の解 明を行っ ています。これらの研究から以下のことを明らかにした いと考えます。 ・ H I P V の情 報 化 学 物 質としての植 物の防 御 応 答 、 昆虫の行動制御メカニズム ・ HIPV の生物間相互作用、生態系構築、生物の多 様性に与えるインパクト ・ 組換え植物の温暖化環境保全、食料政策への応用 的利用 図 1.2009 年 Plant and Cell Physiology5月号に掲載された総説 10 No.107 Center for Ecological Research NEWS センター員の紹介 −研究紹介− 荒木希和子(あらききわこ) クローナル植物における個体の階層性と生育環境への適応 ―ジェネットレベルでの現象を捉える― 荒木希和子 私は、植物の中で クローナル植物 というグループ を対象に、野生植物の生態にする研究を行ってきました。 本稿では、このクローナル植物の特性を 個体(ジェネ ット)の認識 という観点から紹介し、その特性を生かし た今後の研究の発展性について述べたいと思います。 ●クローナル植物の特性 クローナル植物は、栄養繁殖により新たな植物体を 生産することができます。これをクローン成長とよびます。 そして、クローン成長によって形成されたシュートや株の ことをラメットとよびます。娘ラメットは多くの場合、親ラメッ トと物理的・生理的に連結したクローナル断片を形成し ますが(図 1)、この連結は必ずしも永続的には維持さ れず、時期や状況に応じて切断されます。個々のラメッ トは、分離して独立しても単独で生存することが可能で あり、野外で見るとこのラメットが個体として認識されが ちです。しかし、遺伝的に同一なものを個体とするならば、 ラメットはあくまで個体の一部であり、ラメットの集合体で あるジェネットが個体に相当します(図 1)。したがって、 野 外 集 団において見た目でジェネットを識 別することは 困難であり、ジェネットの挙動を把握することが容易で はありません。しかしながら、適応度を評価する単位は あくまで遺伝的個体であるため、クローナル植物の適応 を考えるためにはジェネットレベルでの現象を理解するこ とが重要になります。 図 1.クローナル植物での個体(ジェネット)、クローン断片、 ラメットの定義と概念図 ●ジェネットの同定 ジェネット内のラメットは全て同一遺伝子型を示すので、 遺伝マーカーを用いてラメットの遺伝子型を特定するこ とにより、個体の広がりを調べることができます。図 2 は 地 下 茎 でクローン成 長 するスズラン ( C o n v a l l a r i a keiskei Miq.) の野外集団を対象に 5 m間隔でサンプリ ・現職:京都大学生態学研究センター・研究員 (研究機関) (2009 年 4 月〜) ・専門分野・研究テーマ:植物生態学・分子生 態学、クローナル植物 ・連絡先:[email protected] ングを行い、遺伝子型を調べた結果です。ラメットの密 度と重ね合わせてみると、比較的大きいジェネットはパッ チ状に広がっていて、その周囲には小さいジェネットが 散在していることがわかりました(Araki et al. 2007)。 この分布図を持って再び野外に出ると、ジェネットの まとまりをイメージしてラメットの広がりを眺めることができ ます。図中で示されている大きめのジェネットは、ラメット でのパッチと大体一致するので、野外でもそれなりに認 識できました。しかし、ジェネットの境界付近に行ってみ ると、ラメットの分布が途切れるわけではないので、どこ までが同じジェネットかがわからないことに気づきました。 形態(花の数など)やラメットサイズも何となくジェネット 間で違うように見えます。しかし、これらの違いは成長 段階や微環境の違いによるかもしれないので、やはり形 態でジェネットを区別することはできません。 図 2.集団内のラメット密度と遺伝子型の分布.色が密度、 数字が遺伝子型を示す.○は固有遺伝子型.斜線は トランセクトプロットの位置を示す. ●ジェネット内のラメットの識別 そこで、複数のジェネットとその境界を含めたトランセ クトを設置して、その中の全てのラメットについて遺伝子 型を特定しました。その結果、大きなジェネットの中心 部は高密度でほぼ単一ジェネットのラメットなのですが、 ジェネットの境界では、異なるジェネットのラメットが混ざ り合って存在していることがわかりました。また、5 m間 隔のサンプリングでは見られなかった小さいジェネットの 存在も明らかになりました。 また、ラメットを葉の長さについてジェネットごとにまとめ、 ジェネット間で比較してみると、ラメットサイズは同一ジェ ネットでも場所によって異なる一方、異なるジェネットでも 同所的に分布しているラメット間では類似していました。 実際にその場所に行ってみると、他の草本や低木の分 布が比 較した場 所 間で異なっており、サイズの違いに は遺 伝 的 変 異よりも周 囲 環 境の影 響が大きいと考えら 11 Center for Ecological Research NEWS No.107 れます。 ●ジェネットの特徴 ジェネットを識 別した上でラメットの挙 動を調 べると、 それをジェネットの特徴としても捉えることができます。例 えば、成長(各ラメットの成長と新規加入ラメット数の 総和として表せる)が盛んなジェネットや、開花率(開 花ラメット/非開花ラメット)の高いジェネットを特定でき ます(Araki et al. 2009)。さきほどのラメットサイズが 類似していた場所でも、開花密度や成長率にはジェネッ ト間で違いがあることがわかりました。このような同所的 に存在するジェネット間の違いには、遺伝的要因が関 与していることが示 唆されます。 一 方 、ジェネットの一 部分でクローン成長が顕著なラメットが見られるなど、ジェ ネット内での違いもあるようです。 ●個体内変異をもたらすメカニズム 近年、モデル植物や農作物では塩基配列上の遺伝 的変化を介さないエピジェネティックな機構が表現型に 影響することが指摘されています(Bird 2007)。エピジェ ネティック変異は DNA やクロマチンのメチル化、アセチ ル化などの変化により遺伝子発現パターンを調節するも ので、体細胞分裂で維持されるもの、有性繁殖により 次世代にも継承されるものなど維持機構にもいくつかあ ることが知られています(Richard 2006; Salmon et al. 2007)。それゆえに野生生物においても、環境によっ て誘発されたり、加齢と共に蓄積されたりと、エピジェ ネティック変異が遺伝的変異とともに集団内に多様な表 現型をもたらしていることが考えられます(Bossdorf et al. 2008)。 そこで私は、一昨年度より本研究センター工藤研究 室で、タネツケバナ属のクローナル植物のラメット間変異 にどの程度のエピジェネティック変異が関与しているか について研究をすすめています。当研究室で対象とし ている植物は、モデル植物であるシロイヌナズナに近縁 なアブラナ科に属するので、近年開発されているような 分子生物学的手法や栽培実験法を有効に利用するこ とができます。タネツケバナ属には様々な生活史を持つ ものがあり、これまでブラックボックスとされてきたクロー ナル植物の様々な現象についても分子生物学的な側面 から調べるのに理想的な材料です(図 3)。 ●個体内変異を生じさせる要因 クローナル植物のジェネットはクローン成長により空間 的に広範囲にラメットを配置します。環境の時空間的変 12 図 3.タネツケバナ属のクローナル植物 Cardamine trifolia(左)、 C. leucantha(コンロンソウ、右) 化はさまざまなスケールで生じ、ジェネット内でも不均一 であると考えると、同一の遺 伝 子 型を有するラメットが 異質な環境に生育していることになります。さらに、1 ラ メットでも生存していればジェネットとしても生存し続ける ので、クローナル植物の個体は非常に長寿であり、そ れゆえに経験する時間的な環境変化も大きいものと思わ れます。そのため、野外環境での生育において個体内 で生じる変異が生存に重要な役割を果たしている可能 性が考えられます。 クローナル植物の特性を利用して、遺伝的変異(個 体間変異)と個体内変異のメカニズムやその環境応答 に対する役割が解明されれば、野外環境における生物 の適応メカニズムや植物の寿命についても新たな知見 が得られるのではないかと考えています。 参考文献 Araki K, Shimatani K, Ohara M (2007) Floral distribution, clonal structure, and their effects on pollination success in a self-incompatible Convallaria keiskei population in northern Japan. Plant Ecol. 189: 175-186. Araki K, Shimatani K, Ohara M (2009) Dynamics of distribution and performance of ramets constructing genets: demographic-genetic studies in a clonal plant, Convallaria keiskei. Ann Bot. 104: 71-79. Bird A (2007) Perceptions of epigenetics. Nature 447: 396-398. Bossdorf B, Rhichards CL, Pigliucci M (2008) Epigenetics for ecologists. Ecol. Lett. 11: 106-115. Richards EJ (2006) Inherited epigenetic variationrevising soft inheritance Nat. Rev. Genet. 7: 395-401. Salmon A, Clotault J, Jencewski E, Chable and Manzanares-Dauleux M (2008) Brassica oleracea displays a high level of DNA methylation polymorphism. Plant Sci 174: 61-70. No.107 Center for Ecological Research NEWS センター員の紹介 −研究紹介− Herbivore-induced plant volatiles: Density(in)dependent plant responses, learning responses of predators and their consequences for frequency-dependent selection in predator-herbivore-plant systems Maurice W. Sabelis ・現職:アムステルダム大学(オランダ)・ 教授 ・専門分野:生態学 Maurice W. Sabelis (Guest Professor at CER:15 September-15 December 2009) Professor Maurice W. Sabelis held a guest professorship at CER(Kyoto University)from 15 September 2009 to 15 December 2009. During this period he gave three seminars: a an Institute seminar on 16 October, entitled How do predatory arthropods decipher the code of herbivore-induced and constitutive plant odours? (See abstract below) s a seminar for the research group of Prof. Takabayashi on November 17, entitled Enemyinduced responses and their consequences for arthropod communities d a seminar for the research group of Prof. Yamauchi on October 19, entitled Enemy-induced responses and their consequences for arthropod communities He also attended 5 seminars of staff (Arimura, Takabayashi) and PhD students (Uefune, Yamamoto, Choh, Ozawa, Muroi) of the research group of Takabayashi, a symposium with 3 invited speakers on 20 October, organized by Prof. Ohgushi ( gene to ecosystem ) and two presentations at Kyoto University (Biology of Sensing, 3 Dec. 2009). The main activities developed during the 3 month period were: a Full organisation of a two-day symposium to be held in Amsterdam (18-19 December 2009) in the framework of the Core-to-Core Program of JSPS (announcements, programming, fund acquisition, recpetion, dinner) s Literature search, preparation and writing of a chapter for The Encyclopedia of the Life Sciences, entitled Networks of chemical communication among plants, herbivores and their enemies. (Deadline 7 January 2010) d Revision of a co-authored manuscript by Shiojiri et al., entitled (Title: Herbivore-Specific, DensityDependent Induction of Plant Volatiles: Honest or Cry Wolf Signals?) f Comments on a co-authored manuscript by Kobayashi et al. (Title: Plant SOS signaling as a coevolutionary response to herbivory in a tritrophic context) g Comments on a manuscript by Choh et al., leading to a coauthorship (Title: Do phytophagous mites balance current against distant predation risk?) h Comments on a manuscript by Shiojiri et al., leading to co-authorship (Title: Acuity of chemical communication between Arabidopsis plants) j Informal discussions on research topics with Dr.Kobayashi, Dr.Arimura, Mr.Yamamoto, Mr. Takemoto and Prof. Takabayashi k Arrangement for a one-month visit of Mr. Takahashi to Amsterdam (January-February 2010) l Initiative to set up future collaboration with Dr. Choh on the behavioural ecology of Gynaeseius liturivorus, a predator of immature thrips and whiteflies In addition, a number of reviews were provided for scientific journals (Science, Quarterly Review of Biology, Basic and Applied Ecology, Journal of Chemical Ecology, Journal of Applied Ecology, Ethology, Biological Control, Systematic and Applied Acarology), 25 evaluations of Advanced Grant Proposals were done for the European Research Council (member of ERC Panel LS8 in 2009), one Faculty-1000 evaluation was written about a paper by Estok et al. (published in November 2009), 22 papers edited for the Proceedings of the International Congress of Acarology (including papers by Choh, Maeda, Kuwahara and Saito), 14 manuscripts of my own PhD students at the University of Amsterdam were reviewed (2 x Sznajder, 2 x Tien, 2 x Sarmento, Famah, Onzo, Van Maanen, de Bruijn, Montserrat, Grosman, Messelink, van Dijk). Finally, one project report (Biological control of Poultry red mites) and two new project proposals, one for TOP-NWO and one for STW, have been written. 13 Center for Ecological Research NEWS No.107 センター員の紹介 −センターを去るにあたって− センター発足前後 藤田 昇(ふじた のぼる) ・現職:京都大学生態学研究センター・准教授 ・専門分野:植物生態学 藤田 昇 1991 年(平成 3 年)4 月に生態学研究センターは 全国共同利用の施設として 10 年時限で発足した。国 立生態学研究所を実現するための母体となるため、理 学部の生態学関係の研究室が集まって生態学研究セ ンターを作ろうという話は前年 6 月の概算要求の前に出た。 動物生態は学部の講座であるためなくせないとのことで、 理学部附属植物生態研究施設と臨湖実験所が主体に なった。ただし、植物生態研究施設が理学部からなく なることには二つの危惧があった。一つは、理学部に おいて植物生態学の人材育成ができなくなるのではない かということである。その時点では、センターになっても 今まで通り理学部の植物生態学の教育にかかわれると いうことだったが、現在では来年度から理学部の課題 研究生をセンターは受け入れられないという事態になり、 事情が変わってきた。もう一つは、植物生態研究施設 が管理していた理学部附属植物園がセンターは別部局 となるので管理できなくなるという問題である。植物生態 研究施設時代には、全国の大学植物園と足並みを揃 えて、植物園内の植物のデータベース化や樹木の毎木 調査と配置図づくり、名札の完備など整備を進めてきた のだが。 センターが発足して、旧臨湖実験所に本部がおかれ、 旧植物生態研究施設は分室となった。発足前にはセン ターになれば研究費が充実するなどのバラ色の話がなさ れたが、発足すると教官の研究費はゼロというように植 物 生 態 研 究 施 設 時 代よりも研 究 予 算が厳しくなった。 二カ所に分かれていて風通しが良くなかったこともあり、 分室では不満が多く本部との融和に苦労したが、その 後新任の教官が分室にも赴任するようになり、センター としてのまとまりができてきた。 1 9 9 8 年 ( 平 成 1 0 年 ) 10 月にⅠ期棟が完成して本部が移転し、2000 年(平 成 1 2 年 ) 2 月にはⅡ期 棟が完 成して分 室が移 転し、 完全に一体となった。 センター発足によって研究面は大きく変化した。一つ は共同研究体制ができたことである。当時は、博士論 文が単著でなければならず、そのため植物生態研究施 設では個 人 研 究の体 制であった。センターになって共 同研究の体制になり、近代化した。もう一つは、センター が発足して、どのようなセンターを創るか、どのようにセ ンター共同研究を発展させるかと教官・若手の大学院 生を問わず生態学の異なる分野の研究者が毎日活発 な議論を行い、生態研セミナーや各種行事の参加率も 高く、熱気があった。その中で、IGBP-MESSC、新 プロ、未来開拓、戦略基礎研究の大型プロジェクトが 共同研究として遂行された。その後、独立法人化し、 すでに発足から 19 年が経過した。当初の熱気は時間 とともに落ち着いてくるが、生態学研究センターが全国的、 世 界 的に期 待されているのは、 生 態 学の各 分 野で研 究 業 績をあげることだけではなく、 生 態 学の異 分 野の 研究者が協力・共同して、一つの講座では行ないえ ないような研究成果をあげることであろう。この 4 月から は独 立 法 人としての第 二 期を迎え、 全 国 共同利 用の 拠点としてスタートする。初心忘るるべからずとか原点 に返れという言葉があるが、生態学研究センター発足 時のような活発な議論とその結果としての実りある共同 研究の成果が期待される。 藤田昇先生には、平成 22 年 3 月 31 日をもって京都大学を定年退職されます。 藤田先生は、京都大学大学院理学研究科博士後期課程を経て、昭和 49 年 12 月に京都大学理学部付属植物生態研究 施設(当時)に助手として着任されました。その後、平成 3 年 4 月に理学部付属臨湖実験所とあわせて設立された生態学研 究センターに異動され、現在まで 40 余年にわたって一貫して植物生態学の研究・教育に邁進してこられました。理学部付属 植物生態研究施設時代には植物生態学の研究・教育を推進されました。特に、ギボウシを中心とした生理生態学研究に大き な業績を挙げられました。また、数多くの大学院生とともに研究することにより、野外観測と実験室での研究をつなげた植物生 態学の見方を後進に指導していただきました。 生態学研究センターに異動後は引き続き植物生態学の研究を進めるとともに、モンゴル草原の研究もされるようになりました。 家畜の植食圧が草本の多様性に与える影響を明らかにした研究は、生物多様性科学を推進する京都大学生態学研究センター の大きな研究成果となりました。さらに、総合地球環境学研究所のプロジェクト「生態系ネットワークの崩壊と再生」と連携し、 モンゴルの自然生態系と遊牧民の生活の相互作用を解明することを目的とする文理連携研究を、「モンゴル班」の班長として 推進しておられます。教員としての在任期間にわたって、共同研究者、大学院生の野外調査や実験にも惜しみなく協力してく ださり、植物生態学の研究や教育を支えてくださった貢献ははかりしれません。 (「藤田昇先生 14 最終講義のご案内」より抜粋:センター関係教員一同) No.107 Center for Ecological Research NEWS センター員の紹介 −センターを去るにあたって− あしあと 小島 巌 1966 年 4 月 1 日 旧理学部付属植物生態研究施設(理学部植物園 を含む/以下「植生研」)に技能員として採用。 1991 年 4 月 12 日 生態学研究センターに配置換。 2000 年 4 月 2 期棟が完成し田上に移る。 2008 年 3 月 31 日 定年退職。 同年 4 月 1 日 再雇用職員となる。 2010 年 3 月 31 日 再雇用終了により退職。 ●仕事場の思い出 これ迄 43 年間を振り返ると、色々と思い出されます。 私の仕事場は時代と共に移り、それぞれの場所で様々 な思い出があります。勤め初めた頃は「技官室」が無 く、植物園内に在った官舎(私の前任者、井上さんが 住んで居られました)を借り、着替えをし、仕事に出て おりました。その後、1 階建てであった建物に 2 階が継 ぎ足され「院生室」「技官室」が出来、以来そこが私 の仕事場となりました。第 2 部門が増設され教官、院 生が増え、多い時は 40 名近い人が、その建物にひし めき合って居ました。仕事場であった「技官室」は数 年で園内に在ったログハウス風の建物「育成室」に移 り、室内に古い本棚、標本箱、本棚を改造した工具 や道具棚で区切り、居室、工作室、標本室を作り仕 事をして居ました。 京 都に居る終わりの頃には、 動 物 教室と植物教室(以下「動、植」)の建物が建て替 えられ、圃場確保の為「育成室」を取り壊す事になり、 本館の入り口の部屋に移ったのでした。 ●教授の方々との思い出 教授の方々との貴重な思い出も沢山あります。面接 をしていただいた畠山さんは温厚な印象の教授で、面 接時の記憶は緊張して居た為、何を聞かれたのか全く 覚えていないが、その日に植生研に勤める事が決まり「4 月 1 日に来て下さい」と言われたことは覚えています。 当時、教官 4 名、事務兼実験補佐員 1 名、技能員 2 名、植物の栽培や管理は植物教室の技能員の方 2 名 と共同で行っていました。勤め始めた頃、植物園は北 (北部グランド)から西南角、農学部入り口近くに在る 植 物 園の正 門まで通り抜けられ 、 植 物 教 室の教 授 、 新家さん、北村さんが毎日出勤される道になっていました。 ここの道は新家さんが好く通られるから掃いておく様に、 と言われていたので、官舎で着替えを済ますと熊手と竹 箒を担いで道の掃除に向かっていました。掃除が終わ 小島 巌(こじま いわお) ・現職:生態学研究センター・技術職員 る頃、ゆっくりと新家さんが歩いて来られ、「お早うござ います」と挨拶をすると、帽子に手を添えて「お早う」 と言って行かれる様子が、学者さんという感じがしました。 北村さんは定まった道は無く、こちらが気が付かなくても 「御苦労さん」と声を掛けて行って下さり、剪定をして いるときには「あまりこちょこちょいじらない様に、なぜそ うなっているのか考えるのも研究なんや」と、気さくに話 しをして下さった教授でした。芦田さんは、園内に在る 池を以前の様なハス池に再現しようと大賀さんから貰わ れた古 代ハスのレンコンを持って来られたので、 毎 年 90cm のスイレン鉢で育てては、池に植えてみたのだが、 芽を喰われ結局実現出来かった。だが、毎年見られた スイレン鉢で育った花を今でもよく覚えています。また、 芦田さんの研究室ではよく飲み会があり、仲間に入れ てもらうことも在りました。 ●勤務中の出来事 勤務中の出来事で印象に残っている事も多く在ります。 農業機械がまったく無く、みな手仕事で備中鍬で耕し、 鍬で畝を作っていた頃、研究に使われていたのはサツ マイモのつるの部分でした。護国という直径 10cm 位 にもなる白いゴツゴツした襞の在る飼料用かと思われる 大きなイモと、農林1号という通常良く見る紫色のイモの つるのみを使われていたので、イモが沢山残り、みなで 焚き火、石炭ストーブ(だるま)を囲みわいわいと焼き 芋を作ったが、護国は美味しく無くがっかりしたものでし た。温室で採芽用に育てて居たイモを取り残し、そのま ま育てるとヒルガオ位の大きさの花が咲き、初めてサツ マイモの花を見たのもその頃の事でした。当時、植物 教室の用務員さんは女性であったので、事務官 1 名、 技 官 4 名が交 代で週に 1 〜 2 回 宿 直をしていました。 その頃、大学紛争が在り私の当直日に学生が雪崩れ 込み、廊下や教室の窓ガラスが割られました。そんな 時は止めに出ない様に、と云われていたので騒ぎが収 まるのをじっと待っていた思い出もあります。しばらく経っ た別の当直日には隣の動物教室で火災があり、宿直室 のドアを激しく叩く音がして目を覚ますと、「小島さん火 事や〜」と叫ぶ声がし、ドアを開けると動物の用務員さ んが、 両 手に消 化 器を下げて、 火 元である 2 階へ 先 に行くからと言うので、私も急いで動、植の大半の消化 器を掻き集め持って用務員さんの後を追いました。幸い 火災は一部屋だけで済んだのでよかったが、驚いた経 験でした。その後初めて左京消防署で防火管理者の 講習を受講しましたが、労働安全衛生法が次々と厳し くなり必要に応じ講習、研修を度々受ける事に成りました。 15 Center for Ecological Research NEWS No.107 そして週休二日制が実施される様に成ったが、当時は 自動潅水装置が無かった為、温室二棟を含む植物教 室約 5000 鉢、温室一棟を含む植生研約 2000 鉢の水 遣り、圃場の植え付け、播種後への水遣りのため、技 官 4 名で当番を決め出勤した事もありました。 ●学外での思い出 学外での仕事や技術を教わった事も思い出深いです。 初めて学外に出たのは新家さんと静原へジャゴケを探し に行った時で、西村さんの車「キャロル」で出掛けた のを今でも鮮明に覚えています。また、植物教室の教官、 村田さん、技官の西村さんには、仕事の事のみならず 仕事以外の事でも大変お世話になりました。乾燥標本 の作り方、保管の仕方、栽培管理の方法、ノコギリの 目立て、刃物の研ぎ方などの技術を教わり、また教官、 院生、学生の植物採集に一緒に行かないかとお誘い 頂き、学外への分類地理の採集会や観察会と色々な 所へ 連れて行って頂きました。そのお陰で、植物がど んな所でどのように生えているか、持ち帰りどの様に植 えるのか、と考える元が出来、また植物の名前(区別) も少しずつ判る様になり、とても有り難く思っています。又、 京都に居る時は、教官、院生、学生、から様々な仕 事を云われたが、教室技官には金工、木工、ガラス工、 石工など、そして以前は営繕係と云う部署も在り電気、 水道、ガスと、それぞれ専門の技官の方が多く居られ、 理学部 農学部 工学部 旧教養部と学部を超え技 術を教えてもらいに行く事ができ(中には職人気質でベ ランメイな人、講釈の長い人も居たが)とても助かり仕 事を熟なす事が出来る様になった。多くの技術を教え てくださった技官の方々にはとても感謝しています。 ●様々な植生調査への同行 また、色々な所へ植生調査に同行もさせて頂きました。 大峰調査 年に 2 回春と秋「深山の宿」奥がけで山 伏が泊まるお堂に 3 〜 4 泊し、第一部門の教官、院生 らみんなで、調査器材、食料を持ち上げ、岩からしみ 出る水を溜めて自炊しました。 数 年 後に行った時には 以前より仏像が減ってお堂の内が広くなっていたので、 盗まれたのだろうと話していた事もありました。カリヤス 尾はササが生い茂って調査し辛らかった。深泥池浮島 調査 植生調査、開水域、浮島の下の採水。移殖 実験、メタン採集など行い、器材の多い時は車で少な い時はチャリで向かいました。浮島では足を踏み抜く人 も、片足ならまだしも両足はまるともがけばもがく程沈む、 幾度も踏み抜く人が居た。ブナ林調査では 静岡、群 馬、熊本へ 行きました。天城山では年輪を数えて樹齢 16 を知る為、木を切り倒し 1m 毎に円板に切ったり、生長 錐で樹の中心目掛け、回し込んだりしました。1 回目で 中心抜くのは難しく2 〜 3 回程回し込むのだが、特にタ ンナサワフタギは堅く食い込み難い木であったので、そ の作業がとても疲れました。玉原では準備不足で夜遅 く迄調査用具を作り、又時間不足で雨の中での作業と いう辛い事もあったのですが、周辺に温泉が沢山在っ たので帰りに立ち寄り湯に入れ、癒されたその時の湯 が忘れられません。国見峠では 1 年目の調査区のササ の皆伐はしんどかった。ここは民宿「焼畑」に泊まれ たので食事の心配はなく、その名の通り焼畑農法を唯 一やっておられると言う事なので、御主人椎葉秀行さん に畑を見に連れてもらったが、なんとも長閑な風景でした。 奥さんのクニ子さんは「おばあさんの植物図鑑」「おば あさんの山里日記」と椎葉村に関する本を出しておられ ました。民宿で毎日出されるワクド汁(味噌汁にソバを 団子に練って入っている)はとてもうまくて腹が膨れました。 京都周辺も大文字山、瓜生山、木津川、芦生などへ 手伝いに行きました。現在、芦生はトンネルが出来て、 広河原からも抜けられるのですが、その頃周山街道し か行けず、狭い峠道を 2 ケ所超えなければならず、対 向車が来ないかと常に心配して通っていました。実験、 系統保存植物の量が多くなり植物教室の圃場、京都 農場、高槻農場、民間の畑を借りて栽培していました。 ●田上に移ってからの思い出 田上に移り、圃場関係で1人、作業をしていた時には、 耕す度に瓦礫が出て来て手に負えず、家のミニショベ ルを持って来て片付けたり、小板橋君と宮野君の手を 借りて開墾、排水工事、鉢棚作り、草刈などを行いま した。現在、生態研の鉢棚と見本園にはギボウシと数 種の植物が植わっています。松本君が入りCER の森 の整 備 、 松 林 再 生 地 、ビオトープ、カエル用コンテナ 埋め、トンボ池作り、排水路の整備と作業進みほぼ環 境が整って来ました。あとは林園区 2 ケ所と圃場の暗 渠排水を含む土地改良が残っています。機械、道具も 増えたのだが、最初は定員外職員を 3 名雇うと云う事 で部屋を作り古い机を運び込み準備をしていたが、職 員の増員は実現しませんでした。 そしてセンターに移ってからの事で一番に思い出される、 胸を打った出来事は、空、海、陸の事故で 3 年続け て 6 名の有能な人達を亡くしてしまったことです。ここに 謹んで哀悼の意を表します。事務の若いおねえさん達 には大変お世話になり、ありがとうございました。最後 に 43 年間、朝早くから起きて毎日欠かさず、弁当を作 り続けてくれた人に、心を込めて、ありがとう。 No.107 Center for Ecological Research NEWS センター員の紹介 −センターを去るにあたって− 内海俊介(うつみ しゅんすけ) 田上の朝靄を思い出しながら 内海俊介 修 士 課 程 、 博 士 課 程 、ポスドクと、 随 分 長い間 、 生態学研究センターでお世話になりました。恰好の良い 話をしようにも嘘がすぐにばれてしまいますので、正直に これまでの生活とセンターへの思いを綴っていこうと思い ます。 高校生の頃、私はまだできて間もない京大総合人間 学部なるものへの憧れを持っていました。世は 90 年代 後半。阪神淡路大震災にサリン事件、ヒトゲノムプロジェ クト、生命倫理、環境問題等々。これからの時代は学 際的、文理横断的な学問の創成こそが重要だ、と学 部の説明の受け売りそのままに熱くなったものです。私 は理 系の学 生でしたが、 人 文 分 野への関 心も非常に 強くありました。しかし、「教養学部が看板を挿げ替え ただけじゃないか」とか「実績はまだない。未知数」と いうアドバイス(あくまで当時の学外者からの意見です) のもとで方針変更。「やっぱり学際は自分の基盤を作っ てから」とかなんとか十代の未熟な頭で思い巡らし、も ともと「生命についての探究」という目標は定まってい たため、 伝 統ある理 学 部 へ 進むことに決めたのでし た。・・・あとはこのまま研究に向かってまっしぐら、な らば良かったのかもしれませんが、人生それでは面白く ない、というよりそう甘くない。文学部の先輩に紹介さ れたフーコーやアドルノに感 動 、 疏 水 沿いでの沈 思 黙 考またはほろ酔い、中島みゆきを熱唱、キャンパスでは 決して会うことのできない人々との邂逅と交流、喧々諤々 の議論、足掻いては動き、動いては足掻く・・・そん な風に疾走した学部四年間になったのでした。 こんな生活の中でなぜ生態学研究センターに来ること になったのか。学部生時代に生態学を志すようになった 理由は、一つ目に、生物学の中でも個体や集団の振る 舞いと個体間の関係を明らかにすることに拘りたかった からで、二つ目に、瀬戸臨海実験所での生態学実習 がとても実りあるものだったからです。そして、センター に通うようになったのは、苦しい京の地からの逃避・・・ ではなく、大串先生の講義を受け、生物の相互作用の 「豊かさ」に大変感動したからです。そのときの興奮そ のものを実際に思い出すことは難しいのですが(なぜな ら、その後の研究生活においていろいろな面白さを味 わったからなのですが)、間違いなく大串先生の研究室 に行きたいと強く思いました。 しかし、大学院に進んだからといって、スムーズに研 ・現職:Finnish goverment research fellow (University of Eastern Finland) ・専門分野:群集生態学、進化生態学、植物と 昆虫の相互作用センター員の紹介 究生活に移行できると思ったら大間違いなわけです。そ もそも、激動の 21 世紀、このような形で先に進むことを 決めたとはいえ、個人的な総括のための時間が思った より随分と必要でありました。また、当然、独創的で優 れた研究成果をあげるには相当な実力が必要です。し たがって、当時の私には、堅牢なる科学の城に立ち向 かうことは容易なはずがありませんでした。まずはヤナギ 河畔林の昆虫群集を対象としたフィールドワークを地道 に続け、少しずつデータを積み上げることからの始まり でした。時には大雨の中もスクーターを駆って、日々国 道 8 号線を往復し続けたものです。その後、ようやくそ れなりの野外操作実験に着手し、その成果が出始めた 頃、温め続けた発展的仮説も検証段階に移すことがで きるようになってきました。私なりの研究がほんの少し見 えて来たと言えるのも、その頃になってからでしょう。そ んな私でしたが、センターの皆様に辛抱強いご指導を 受けたおかげで学位取得にまで至り、およそ 1 年半の ポスドク期間を経てセンターを離れました。過去にセンター に在席されていた方も含め、本当に多くの方のお世話 になってきました。この場をお借りして、心よりお礼申し 上げます。また、「せっけんず」のフットサルとエコカッ プはとても清々しい思い出であり、他にもバレーやバドミ ントンなどは本当に楽しい時間でした。現在はどこまでも 真っ白なフィンランドで、気温− 30 度以下の凍結した湖 上でのスノーモービル体験をしたりしつつ、東フィンラン ド大学(旧名ヨエンスー大学)の暖かい研究室の中で この文章を書いています。4 月からは学振特別研究員 として東大総合文化研究科広域システム科に籍が移り、 フィンランド・日本を行ったり来たりすることになりそうで すが、それと同時に協力研究員としてセンターの施設を 実 験 等で利 用させていただきたいと考えています。 全 国共同利用施設であると同時に、個人レベルでの自由 な実験を立ち上げることができる生態学研究施設という のもそう多くはありません。大型プロジェクトも良いですが、 今よりももっと小回りを利かせて小規模でも優れたプロジェ クトを外部からどんどん受け入れていくことができれば、 更なるレベルアップが図れるのではないでしょうか。 最後になりましたが、センターの皆様のご健勝・ご活 躍と生態学研究センターの益々のご発展をお祈り致して おります。これからもセンターの皆様にはお世話になるこ とと思います。宜しくお願い致します。 17 Center for Ecological Research NEWS No.107 センター員の紹介 −センターを去るにあたって− 鮫島由佳(さめじま ゆか) 多様性に支えられたセンター生活 鮫島由佳 私がこの生態学研究センターに来たのは 2006 年の 春でした。指導教官である椿先生が「京都へ 行くこと になった」とおっしゃった時、私は旅行にでも行くのかと 思い「いってらっしゃい」と言いましたが、それが私の センターでの学生生活の始まりだったのです。九州の山 と海の狭間で育った私は、湖と山に囲まれた滋賀県に とても安心感を覚え、タヌキが闊歩するセンターも好きに なりました。正式に席が決まるまでの仮の席として割り振 られた院生室の窓際は田上の山々を望む眺めのよい席で、 くじ引きで席決めをしたのにご飯 1 回分のわいろでその 席を譲ってもらい、そこで 4 年間を過ごすことになりました。 研究面でセンターに来てよかったと思うことは二つあり ます。一つは周囲に自然が多く野外調査のフィールドが 近かったこと。修士の時のカワトンボの研究を博士課程 でも続けたかったのですが、幸いにもセンターから車で 10 分ほどの所にカワトンボが多く出る清流を見つけるこ とができ、ここを調査地として研究を行いました。暑くな り始める 5 月初旬からの野外調査は冬ごもり後の弱った 体にはなかなか大変でしたが、新緑のきれいな渓流に 舞うカワトンボを見ながら生物の進化や行動について考 えるのはとても楽しいことでした。何より研究対象を簡単 に観察しに行けたことは、限られたシーズンの間でデー タを取らなければならない私にとってとても有り難かった です。 二つ目は、研究者の多様度が高く研究室の垣根が 低いこと。そのお陰で様々な対象生物や現象を扱う学 生やポスドクさんと仲良くなり、自分にノウハウのないデー タ解析や遺伝子解析の方法でも丁寧に教えてもらうこと ができました。私の研究は彼らの協力なしには進められ なかったと思います。それに一口に 生態学をやってい る とは言っても、例えば物質循環と行動学というように、 微生物と哺乳類というように、それぞれの興味も対象も 手法も異なる学生が毎日顔をつき合わせて気軽に相談 や協 力ができる研 究 環 境は、とても貴 重で大きな可 能 性を秘めているのではないでしょうか。ごはんを食べな 18 ・2006 年 4 月より生態学研究センターの博士 後期課程に在籍。 ・専門分野:動物行動学、個体群生態学 ・連絡先:[email protected] がらいろんな研究の話が聞けるのもセンターで研究する 特典だと思います。院生の皆さんはこの 特典 を存 分に生かして、センターでの研究生活をたくさん楽しん でくださいね。今後もセンターから新たな面白い研究が 生まれることを願っています。 さらにじっくり振り返ってみると、私の研究生活はリフレッ シュコーナーの存在に支えられたところが大きかったと思 います。ここは皆が学会や調査で国内外から持ち帰る 怪しげな飲食物を囲んで交流する場所です。引っ越し てきた当初研究室仲間というものがいなかった私は、こ こで性別も年も国籍も関係なく昼夜も問わず多くの人に 声をかけて頂いたことがとても励みになりました。研究の 方向性を見失ってぼんやりしたり焦ったり、あるいは単 に飢えたりしているところへ 、救いの手が差し伸べられ たことも一度や二度ではありません。救いの手は励まし の言葉だったりカレーだったりしました。それぞれ際立っ た個性を持つセンターの人々とアルコールと共に過ごし た時間は、ともすればぼんやりしがちな私に刺激と宿酔 をくれました。また月 1 回のスポーツ部ではユーモアあふ れる事務の方々にも仲良くして頂き、疲れた頭にエネル ギーをもらいました。振り返れば、幾多の凸凹を乗り越 えてとても充実した 4 年間だったように思えるのも、こう して研究者の方はもちろんセンターの事務や技官の方々 との多 様なかかわり合いがあったからだと思うのです。 ここを去るのは寂しいですが、皆様には感謝の気持ち でいっぱいです。 4 月からは東京で ㈱ インテージという会社に勤務する 予定です。前社名を社会調査研究所と言い、マーケティ ングに関わる市場調査をやる会社です。もちろん新しい 生活への不安はありますが、生物多様性というキーワー ドがますます重要視されるこれからの社会において、研 究期間に学んだことがどう生きてくるのか楽しみでもあり ます。仕事でも私生活でもセンターで繋がった様々な縁 を大 切にしながら、これからも頑 張りたいと思います。 4 年間本当にどうもありがとうございました。 No.107 Center for Ecological Research NEWS センターの活動報告 公募型共同利用事業 研究会の報告 表現型可塑性の生物学 岸田 治(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター天塩研究林・助教) 開催日時:2009 年 11 月 14 日(土)〜 15 日(日) 開催場所:北海道大学 参加人数:49 人 同一の遺伝子型が環境の違いによって異なる表現型 を発現することを表現型可塑性と呼ぶ。表現型可塑性 は進 化 生 態 学の文 脈において良く研 究されてきたが、 その適応的意義や普遍性が広く認識されつつある現在 では、新たな視点とアプローチによる研究が盛んになり 始めている。表現型可塑性が個体の適応と深く関わっ ていることを考えれば、それが個体群プロセスや相互作 用に影響することが十分に予測でき、これは個体群生 態学や群集生態学における研究の展開を期待させる。 また、最近の分子遺伝学・発生学的手法の驚異的な 進歩は、機能的表現型のドラマチックな発現の背景に あるメカニズムに迫るチャンスを提 供している。つまり、 表現型可塑性研究はミクロとマクロの双方向に進み始 めようとしている状況にある。では、実際のところ研究 者たちは具体的に今何をやっているのか? この新しい 局面において、研究者同士が現在進行中の課題やア プローチについて情報交換することは、研究者が自らの 立ち位 置を確 認し、 研 究の意 義を見つめ直すのに役 立つだけでなく、より野 心 的な展 開を見 据えて研 究 計 画を練り直すことにもつながる。このようなプロセスは、 学生やポスドクといった若手にとっては特にかけがえの ないものになるだろう。そこで表現型可塑性を研究する 若者たちが最新の研究成果について発表し、議論す るための貴重な機会として、本研究集会を開催させて いただいた。 研究集会は 2009 年 11 月 14 日の午前と午後および 翌 15 日の午前に実施し、参加者は 49 名(うち演者は 17 名)であった。札幌での開催にもかかわらず、道外 からも 20 名の参加があり、全国規模の集会になったこ とはたいへん喜ばしいことであった。講演は、個体群や 群集生態学的な視点を取り入れたマクロ方向の研究と、 発生学的メカニズムの解明に焦点を当てたミクロ方向の 研究、表現型変異や発現様式についての適応論的説 明を検討した進化生態学的研究などに分類できたが、 方向性やアプローチに違いがあれ、多くの参加者が個々 の研究の意義を理解し、可塑性研究の魅力を大いに 実感できたと思われる。これは、生物の不思議な生き ざまについてとにかく知りたがっている演者たちが、そ の純粋な知的欲求からもたらされた研究の成果を、臨 場感あふれる語り口で披露してくれたためだろう。 ミクロ方向の研究の講演から、多くの演者が、それ ぞれ対 象としている表 現 型 可 塑 性の生 理 的 機 構を調 べるうえで、過去のモデル生物の発生学でよく調べられ てきた生理物質(幼若ホルモンなど)に着目しているこ とがわかった。このことは、 彼らが単に可 塑 性の発 生 機構を明らかにすることだけを目指しているのではなく、 可塑性をもつ種ともたない種の違いやそれらの進化に対 し、普遍的な説明を与えることを目標に据えていることを 意味する。生物の可塑性の獲得や喪失が、一部の遺 伝発生的機構の改変によって実現しているのだとしたら 実に驚くべきことである。進化生態学的研究の範疇に 入るものでは、複数の機能的形質の関係や形質相関 に注目して、可塑的応答のパターンや適応性を理解し ようとする新しいアプローチが紹 介された。さらに、 表 現型の変異を分析する上で、従来のように環境の異な る集 団 間で形 質の平 均 値のみを比 較するのではなく、 ばらつきについても比較し議論すべきではないかという 提案もなされた。マクロ方向の研究の講演では、表現 型可塑性が相互作用動態や群集構成種に与える影響 に注目した研 究と、 逆に、 群 集や非 生 物 的 環 境が表 現型可塑性に与える影響に注目した研究があったが、 その統合的なアプローチの重要性を、最終演者の内海 氏が自らの最新の研究成果を例に指摘してくださった(内 海氏は、植食に端を発した植物の表現型可塑性が植 食者の個体数だけでなく形質進化にも関与していること を示すとともに、形質進化の程度が生物群集の組成に 強く依存することを明らかにした)。群集の動態は、個 体の表現型可塑性を発動させるが、それは相互作用 の改変を通して結果的に群集の動態にフィードバックする。 そこでは、表現型の可塑性それ自体を含むさまざまな形 質の進化が促されているのかもしれない。一連の動的 なプロセスの全体像を理解するためには、生態学と発 生学が協働することが不可欠である。今回集まってくれ た若者たちが協働し、切磋琢磨することで、可塑性の 生み出す世界が明らかになっていくことを期待したい。 19 Center for Ecological Research NEWS No.107 プログラム ■ 11 月 14 日(土) 9:00 - 9:30 主旨説明 岸田 治(北大・北方生物)・三浦 徹(北大・環境科学) 9:30 - 10:00 珪藻の殻形態における表現型可塑性と多様性創出過程 城川祐香(東大・理) 10:00 - 10:30 ミジンコにおける捕食者に誘導される表現型多型 宮川一志(北大・環境科学) 10:40 - 11:10 サバクトビバッタの相変異:母親による子の形質決定メカニズム 11:10 - 11:40 アブラムシの翅多型制御メカニズムの解明 前野浩太郎(農業生物資源研究所) 石川麻乃(北大・環境科学) 11:40 - 12:10 季節的な表現型可塑性としての休眠とそのコスト 定清 奨(大阪府大・理) 13:30 - 14:00 シロアリにおける兵隊の防衛行動と神経基盤 石川由希(北大・環境科学) 14:00 - 14:30 真社会性アブラムシにおける表現型可塑性:兵隊の防衛行動と形態サイズの相関 14:30 - 15:00 トゲオオハリアリの体色にみられる性的二型の発現機構 服部 充(信大・理) 宮崎智史(北大・獣医) 15:10 - 15:40 ホルモンがもたらす武器多型 ―クワガタ大顎多型の発生・進化機構における幼若ホルモンの役割― 後藤寛貴(北大・環境科学) 15:40 - 16:10 種内競争に端を発する表現型多型 岡田泰和(岡大・異分野先端コア) 16:10 - 16:40 発生拘束か cost-benefit trade-off か:行動的誘導防御の個体発生にともなう切り替え 細 将貴(東北大・生命科学) 16:50 - 17:20 Hsp 遺伝子の発生過程安定化機能 高橋一男(岡大・異分野先端コア) 17:20 - 17:50 発生過程のノイズにより促進される遺伝子発現のモジュールの進化モデル 17:50 - 18:20 発生学的研究についてのまとめ 池本有助(東大・人工物工学研) 三浦 徹(北大・環境科学) ■ 11 月 15 日(日) 9:30 - 10:00 捕食者―被食者系において表現型可塑性と迅速な進化が個体群動態に与える影響 山道真人(総研大・生命) 10:00 - 10:30 形質変化の連鎖がシカ―植物―昆虫相互作用系に与える影響 10:40 - 11:10 プランクトン群集における生物間相互作用とそれを撹乱する殺虫剤の影響 高木 俊(東大・農) 坂本正樹(国環研) 11:10 - 11:40 植物の表現型可塑性が導く:群集構造に依存した植食者の進化 内海俊介(京大・生態研) 11:40 - 12:10 生態学的研究についてのまとめ 岸田 治(北大・北方生物) 20 No.107 Center for Ecological Research NEWS センターの活動報告 公募型共同利用事業 研究会の報告 ゲノムと生態系をつなぐ進化研究 ー環境変動・集団履歴・適応ー 田中健太(筑波大学生命環境科学研究科菅平高原実験センター・助教) 開催日時 :2009 年 12 月 7 日(月)〜 12 月 9 日(水) 開催場所:プチホテルゾンタック(上田市菅平高原) 参加人数:36 人 近年の分子手法の進歩は目覚ましい。生態学にとっ ては、(A)野外で見られる表現型変異の遺伝的背景、 (B)集団サイズ変化・遺伝子流動・自然選択などの 集団履歴、が分かるようになってきたことが大きい。そ こから、 表 現 型の変 異 、その元になる遺 伝 子 、 生 態 系の中で働く自然選択、の三要素にまたがって生物進 化を理解することができるようになってきた。集会では、 (A)・(B)双方を含む、生態学と分子手法にまつわる ホットな話題が紹介された。また、(B)に格段の進歩 をもたらしたコアレセント理論について、総合研究大学 院大学の印南秀樹氏をお招きして講義をしていただいた。 講義は数式を多用するよりも直感的な理解を促すよう に工夫されていた。演習が行われ、未来方向(フォーワー ド)のシミュレーションでは、集団サイズが小さいと一つ の対立遺伝子が比較的短い世代を経ただけで集団中 に固定してしまう遺伝的浮動の効果を参加者が体験した。 過去方向(バックワード)のシミュレーションでは、任意 の 2 個体は、世代を遡るとやがて共通祖先に辿り着く コアレセントと呼ばれる現象を体験し、その定式化も学 んだ。ここで重要なのは、バックワードのシミュレーション では、現在まで消えてしまった家系のことを考慮しなくて 良いので、フォーワードよりも遥かに計算量が少なくなる ということであった。そして、集団の遺伝的多型の状態 を記述するこのシミュレーションの枠組みに、突然変異、 自然選択、集団サイズ、遺伝子流動などの要因を組み 込み、これらの要因のパラメーターを遺伝的多型のデー 研究発表の様子 タから推定できることが解説された。翌日には講義の第 二部が行われ、シミュレーションの活用例やその方法など、 より実践的な解説が印南氏の指導を受けている大学院 生の山道氏によって行われた。 参加者による研究発表として、コアレセント理論を用 いた 5 題の口頭発表、それ以外の話題の 17 題の口頭 発表、2 題のポスター発表が行われた。用いられてい る材料は、河田雅圭氏・北野潤氏のグループのグッピー・ イトヨ・ショウジョウバエ、工藤洋氏のグループ、清水 健太郎氏、森長真一氏、永野淳氏、池田啓氏、そ れに筆者らのアブラナ科植物、菊池潔氏のフグ、大島 一正氏の蛾、小泉逸郎氏のザリガニをはじめ、セキツ イ動物・節足動物・草本・樹木・菌と多岐に及んだ。 しかし、進化をキーワードに遺伝子と生態に切り込む視 点が共通しており、分野をまたがって活発な議論が行 われた。これらの研究発表と講師の間の議論も盛んに 行われ、材料や目的に応じて、どの遺伝子を何座・何 個体しらべるべきかといった、踏み込んだ議論も行われ た。経験に基 づく直感や印象など、書かれたものを目 にすることは少ないが、実戦的で大いに参考になる情 報もしばしば語られた。これらの議論や歓談は、合掌 造りを移築した本会場を出た後も、フランス料理ビュッフェ や炉端焼きの懇親会に持ち越され、さらには、地下の 北欧風暖炉室で行われた二次会で、信州の地酒・地 焼酎・地ワインを囲みながら続いた。そのまま朝を迎え た参加者も見られた。 今回の集会では、筆者が直前に海外入院する不手 際があったものの、多くの方に集まって頂いて質の高い 討議が行えた。ひとつには、講義と研究発表の組み合 わせスタイルが効を奏したとの指摘があった。印南氏の 魅 力 的な講 義 があったおかげで、 筆者が予め声をかけた以外からも、 非 常に質の高い研 究を行っている 方 が 多 数 参 加して下さったことも、 会が盛り上がった要因だった。この 集会には、主に京大生態研の助成 をいただいた以外に、筑波大「若 手イニシアティブ」プログラムの援助 もいただいた。 講 師の印 南 氏と山 道 氏 、 参 加 者の 皆 様 、 運 営を手 伝って下さった菅 平センターの方 、 筆 者の不 手 際のなか 事 務 手 続きを 進めて下さった京 大 生 態 研と筑 波 大の事務職員の方に、深く御礼申 し上げます。 21 Center for Ecological Research NEWS No.107 センターの活動報告 公募型共同利用事業 セミナーの報告 アオコの生態・生理・分子系統地理学的研究の現状 近藤竜二(福井県立大学海洋生物資源学部・准教授) 開催日時:2009 年 11 月 14 日(土) 開催場所:京都大学生態学研究センター 参加人数:33 人 2009 年 11 月 14 日に、京都大学生態学研究センター の第 2 講義室において、「アオコの生態・生理・分子系 統地理学的研究の現状」と題したセミナーを開催した。 アオコは、 世 界 中の湖 沼で富 栄 養 化 が 問 題となった 1970 年代から顕在化している世界的環境問題であるが、 未だにこれを撲滅することができず、むしろアオコが発生 する湖沼は世界各地で増え続けている。世界各地の湖 沼は、互いに異なる環境条件を有するにも関わらず、富 栄養化が進行するとMicrocystis aeruginosa のアオコが 発生する。このことは、世界各地で見られるM. aeruginosa は遺伝的に多様であり、本種の環境適応性の高さ、あ るいは進化の速さがうかがえる。近年、非意図的に侵 入する無脊椎動物や微生物などによる生態系や人間へ の被害が多く報告されるようになったが、M. aeruginosa の アオコは侵入生物の生残と分布拡大のモデルとなりうる。 本研究集会では、主に M. aeruginosa をモデル生物と して、 本 種の分 布 ・ 拡 散と生 残 ・ 増 殖 ・ 優占および 関 連する研 究 成 果について最 新の情 報 提 供を行い、 今後の研究の方向性を探った。 講演プログラム 1. アオコの形成過程 (辻村茂男、琵琶湖環境科学研究センター) 2. アオコ原因微生物 Microcystis 属の分子識別 (近藤竜二・片岡剛文、福井県立大学海洋生 物資源学部) 3. 利根川水系におけるアオコ形成ラン藻 Microcystis aeruginosa の遺伝構造 (田辺雄彦、筑波大学生命環境科学研究科) 4. アオコを摂食する生物、特に原生生物について (中野伸一、京都大学生態学研究センター) 5. シアノファージ - Microcystis aeruginosa 間の生物 学・生態学的相互作用 (吉田天士、京都大学大学院農学研究科) 辻 村 氏は、アオコの、 ① 底 泥からの休 眠 細 胞の水 中への回帰、②水中での栄養細胞の増殖、③増殖し た個体群の物理的な集積、の 3 つの過程についての 研究結果を紹介した。 22 近藤は、アオコ問題において、発生件数が多くかつ 有 毒 種 が 含 まれ るという観 点 から 、 最も重 要 な Microcystis 属の形態分類と分子分類の問題点をあげ、 遺伝子マーカーを用いた Microcystis 属の分子識別の 有効性について述べた。 田辺氏は、関東地方の利根川水系において、アオ コ形成ラン藻の一種 Microcystis aeruginosa の複数の 個体群をモデルとし、高分解能分子マーカー(Multilocus sequence typing, MLST)を用いて集団構造の解析 を行った結果を紹介した。 中野氏は、主に Microcystis を摂食する原生生物に ついて,これまでの研究を簡単に紹介した。アオコを摂 食する生物としては、原生生物・ワムシ類・甲殻類動 物プランクトン・魚類がある。これらのうち、原生生物 のアメーバによるアオコの摂食は、ときとしてアオコのブ ルームを短時間のうちに消滅させることがある。発表では、 鞭毛虫やワムシによるアオコ摂食の見積もりとアメーバに よる摂食の見積もりを合わせ、湖沼のアオコの摂食によ る死滅速度がアオコの増殖に対してどの程度重要か、 報告された。 吉田氏は、ミクロキスティスに感染するシアノファージ (Ma-LMM01)を世界に先駆けて分離した実績を踏ま え、その全ゲノム塩基配列の決定に成功した例を紹介 するとともに、本ファージ - 宿主系をモデルに、①ファー ジ遺 伝 子 産 物の宿 主 光 合 成システムとの相 互 作 用 、 ②ファージ - 宿 主 間の遺 伝 子 伝 播によるゲノム間 相 互 作用、③環境における両者の生態学的相互作用につ いて紹介した。さらに、吉田氏は、本人の実感として、 湖沼におけるアオコの現存量動態に対する水温の影響 が大きいことを述べ、さまざまな環境要因を検討の視野 に入れたアオコ研究の必要性について説いた。 当日は、北は福島県、南は愛媛県までの全国各地 から、参加機関は大学、高等専門学校、自治体、民 間企業から、アオコに関わるさまざまな立場の方々の参 加を得た。特に議論となったのは、Microcystis の種を どう扱うべきか、遺伝子を用いたアオコの分類はどのよ うに考えるべきか、アオコに対するサイズ選択性摂食は どのようなものか、アオコの死滅要因としては何が重要か、 についてが議論された。 これまで日本国内でアオコの研究を牽引してきた著名 な研究者数名の参加を得たことは、セミナー主催者とし てうれしく思う。参加者の意識の高さから、極めて高い レベルの議論がなされ、アオコの生態・生理・分子系 統地理に関わる広い範囲での情報交換が実現し、い ずれの参加者にも充実した感が見られた。 No.107 Center for Ecological Research NEWS センターの活動報告 公募型共同利用事業 野外実習の報告 琵琶湖丸ごと陸水実習 中野伸一(京都大学生態学研究センター・教授) 開催日時:2009 年 8 月 22 日(土)〜 27 日(木) 開催場所:京都大学生態学研究センター 受 講 者:8 人 スタッフ:中野伸一、奥田 昇、陀安一郎、小板橋忠俊、 合田幸子、中島哲郎(順不同) 定 用水サンプルの採 取 、 安 定同位 体 測 定 用サンプル の採集を行いました。その後は、沖島へ 移動し、「島 の宿」にて昼食後、ろ過作業と沿岸ベントス採集を行 いました。この夜は、 夕食で琵 琶 湖の幸を堪 能して、 皆疲れたのか、早目に就寝しました。夕食後に、プラ ンクトンネット濃縮未固定サンプルを用いたプランクトン観 察会を試みましたが、顕微鏡の解像度が悪く、試みは 失敗に終わりました。 平成 21 年 8 月 22 日から 27 日にかけて、京都大学 生態学研究センターおよび琵琶湖・沖島の民宿「島の 宿」において、生態学研究センターの公募実習および 京都大学理学部の陸水生態学実習I実習の合同実習 を行いました。今年度は、公募実習枠から 1 名(名古 屋大学大学院)、京大理学部から7 名(生物科学専攻) の合計 8 名が受講しました。本実習では、日本最大の 琵琶湖において陸水生態学の基礎概念や大型湖沼の 野外調査の手法について総合的に習得することを目的 としています。実習は、沖島での二泊三日の野外調査 を中心として、観測船「はす」による環境計測や各種 生物試料採集・同定を行い、湖沼の環境構造の複雑 性や生物多様性について体験的に学習します。また、 調 査データの解 析や成 果 発 表 会を通じて、 琵 琶 湖が 直面している環境問題や生態系を維持する仕組みにつ いての理解を深めることができるだけでなく、本実習に 引き続き開催される安定同位体実習も受講すると、琵 琶湖の沿岸帯食物網に関して実際のサンプリングから 同位体解析・研究発表までを体験することができるシス テムになっています。 生全員が何度も投網にチャレンジしました。これは、回 数を重ねて体で覚えるしか習得する術がないのですが、 何人かの実習生は最終的に見事に投網が広がってい ました。また、投網以外にも、潜水による魚類採取も行 いました。これは、実習生全員が夢中になって琵琶湖 に潜っていました。残念なことに、今年は魚類がなかな か見つからず、投網を用いてすらほとんど魚類の採集 ができませんでした。このため、 実習後も、 奥田教 員 が一人であちこちに潜り、約 2 時間後にやっと数種類 の魚類を採集することができました。 ● 8 月 22 日 本実習の説明会を、生態学研究センターで行いました。 簡単な自己紹介の後、実習の概要を説明し、参加者 を 4 つの班に分けて、各班の課題を決定した後、中野 教員と奥田教員による琵琶湖生態系に関わる講義を行 いました。 沖島での投網実習の様子 ● 8 月 23 日 下 阪 本 の 船 着き 場に 集 合し 、 北 湖 の定点 Ie-1 に行き、 透明度測定、多項 目水質プロファイラー による水温・溶存酸 素 ・クロロフィル 蛍 光 強 度 の 測 定 、プ ランクトン採集、ベン トス採集、光合成測 ● 8 月 24 日 午前中に、瀬田シジミによる植物プランクトン摂食実 験をスタートさせました。その後、昨日得られた沖帯の 植物プランクトンサンプル、および沿岸付着藻類サンプ ルを用いた、明暗ビン法による光合成測定実習を行い、 明暗ビンの仕込みと培養開始を行いました。 午後は、投網実習です。奥田先生指導の下、実習 投網実習の後の投網洗いは大変で、実習生はかな りの時間をかけて、付着藻類が絡まった投網を洗って いました。その後、培養していた明暗ビンを回収・固 定しました。 この夜も、琵琶湖の幸を堪能しましたが、この夜が 島の宿での最後の夜ということで、皆さん夜遅くまで琵 琶湖研究の魅力や学問の世界に入るとはどういうことか を議論していました。 琵琶湖上の実習の様子 調査船『はす」にて ● 8 月 25 日 この日が島の宿を発つ日ですが、朝から強風が吹い 23 Center for Ecological Research NEWS No.107 ていました。朝の作業は、まず瀬田シジミによる植物プ ランクトン摂 食 実 験を終了させ 、クロロフィル濃 度 測 定 用のろ過作業を行いました。その後、船を何とか出航 させたのですが、沖の白石での作業は危険であると判 断され、Ie-1 で簡単な船上作業の後、下阪本に帰還 しました。 その後、センターに移動し、ベントスのソーティングと クロロフィル濃 度 測 定のためのクロロフィル抽出 作 業 、 DAPI 蛍光法による細菌細胞数計数を行いました。 ● 8 月 26 日 午前中に抽出されたクロロフィルの定量と光合成測定 用サンプルの酸素濃度滴定を行いました。午後は、各 班に分かれて、与えられた課題についてのデータ整理 と成果発表準備を進めました。 ● 8 月 27 日 この日の午前中から午後 1 時過ぎまで、データ整理と 成果発表準備を行いました。実習生は、センター図書 室の書籍を用いたり、TA や教員に相談したり、インター ネットを用いたりしながら、データの整理を進め、データ の理解を深め、発表の準備を行いました。午後 2 時ご ろから、本実習の成果報告会を開催しました。どの班 にも努力の跡がうかがわれ、いろいろ工夫を凝らした発 表が行われました。 ●実習生の感想(一部抜粋:受講生の許可を受け転載) ■ 生 態 学は、 概 念 的な学 問だと思っていたが、 予 想 以上に定量的な学問だとわかった。例えば、以前は食 物網を正確に%付きで描けるものなのかと考えていたこ とがあったが、魚の胃内容から実際にそれができてびっ くりした。またミクロ生物の分野に比べ、生態学は対象 が目に見えるので、すごく地に足が着いた感じがした。 ただ実験には物理や化学の知識が必要だし、統計的 な処理には数学の知識が必要で、いろいろなことを総 動員しないといけないと感じた。特に実験をする場合な どアイディア勝負といったところもあると感じた。■琵琶 湖の幸はとても美味しかった。海の魚はよく食べたこと があるが、 湖の魚を食 べる機 会はなかなかなかった。 刺身を食べたとき、潮の臭いがせず、魚の身の味が強 かったような気がする。このように美味しいものを守るた めにも、琵琶湖の環境をよくしていくことが大切だという ことが身に染みて理解できた。■プランクトンの検鏡では、 面白い形をしたプランクトンをたくさん見ることができた。 ツヅミモやミカヅキモ、クンショウモなど、昔習った覚え 24 のある植物プランクトンでも、よくよく観察してみると種類 によって微妙に異なった形をしていた。植物プランクトン が何故あのような様々な形をとっているのか、非常に興 味深い。今回はアオコのもとである Microcystis の姿も この目で捉えることができた。あれほど小さな生物が恐 ろしい毒を作り出すというのだから、やはり生物は面白い。 蛍光染色したバクテリアの写真が割と綺麗に撮れたの が嬉しい。■ DAPI 蛍光染色による細菌密度の測定 は 最も印 象 的 であった 。 沖 合 で 採ってきた 試 水 に DAPI 蛍光染色を施すと、蛍光色素が DNA に結合し て核が青色に、クロロフィルが赤色に可視化される。ク ロロフィルを有する植物プランクトンに動物プランクトンが 群がっている様子は一つの惑星のように見えた。■数々 の実験のなかには思い通りの成果は出なかったものもあっ た。そのお蔭で、データ取りは特に慎重に行わなけれ ばならないという重要な教訓が得られた。■ここで学ん だことで、 現 在の自分の研 究の改 善につながるものは 早速とりいれさせていただきます。他のことも、せっかく 学んだので、なんとか忘れないように、機会を見て復習 をしたいものです。■琵琶湖滞在中はとても楽しかった です。 何よりも食 事がおいしい。 琵 琶 湖の幸を思う存 分堪能ささせていただきました。あの食事は料金分以 上の価値があると思います。■実習のやり方について、 教 員間で情 報をうまく共 有できていなかった節がある。 また実験のやり方について、実習生間でコンセンサスが えられていないことがあった。より円滑に実習を行うには この二つの点を改善する必要がある。実習生間の、デー タの統一性のない取り方は、データをまとめる時点で後 悔と混乱を生んだと思う。あるところまで計算した状態 でデータを担当班に渡すよりも、生データを渡してしまっ たほうがやりやすいと思う。ところで、過去との比較を目 的にした実験を除き、冊子を配り中途半端にマニュアル 化した形で実験を行うよりも、もう少し自由度を高くするか、 完全にマニュアル化したほうが実験はやりやすいのでは ないだろうか。 屋外実習を終えて.沖島の桟橋にて No.107 Center for Ecological Research NEWS センターの活動報告 公募型共同利用事業 野外実習の報告 陸生大型ミミズ類の研究法入門 〜野外採集から種同定まで〜 伊藤雅道(駿河台大学経済学部・教授) 開催日時:2009 年 9 月 6 日(日)〜 9 月 9 日(水) 開催場所:富山県富山市 富山大学五福キャンパス 参加人数:28 人 んなメニューが提供され、盛り上がりを見せた。 講義・実習のタイトルと講師、内容は次の通りである。 公開実習プログラム 大 型ミミズ類に ついての 公 開 実 習 ( 通 称 E S S = Earthworm Summer School)は毎回多くの学生を 集めて行なわれ、リピーターとなる参加者も見られるほど である。今回は 2002 年(金沢大学)以来となる北陸 地区での開催ということになり、富山市の富山大学五 福キャンパスを会場にして 2009 年 9 月 6 日〜 9 日の 4 日 間にわたって開催された。 参加者は学生の正式参加者が 12 名、一般のオブザー バ参加が 8 名、講師 8 名と多くの参加者を得た。参加 学 生の所 属 大 学は、 地 元 富山 大をはじめ東 京 農 大 、 立正大、茨城大、横浜国大など、日本全国から集まった。 地元富山からはワラジムシ類研究の第一人者である富山 市科学博物館の布村昇先生にもご参加いただき、富山 の自然についての特別講義をお願いした。 本実習の開催にあたっては富山大学人間発達科学部 の椚座圭太郎、安本史恵両先生にお世話になった。そ して理学部の横畑泰志先生には会場の設営、実習の 進行、野外採集などさまざまな局面で便宜をはかってい ただいた。京都大学生態学研究センターの大園享司先生、 他谷久美さんには実習の実施にあたってさまざまな支援 をいただいた。ここにあらためて謝意を表したい。 本実習は大型ミミズ類を材料とした生態学または分類 学的研究(ミミズ類を餌とする捕食者の研究も含む)を実 施しようとしている学部、あるいは大学院の学生を対象と して 1)ミミズ類の基本的な分類体系や生活史、生態系 機能を学び、2)野外採集法、生態調査法を体験し、3) 実験室において固定・解剖・同定法の基礎を習得する ことを目的に行なわれた。今回はこれまでの実習より会期 を 1 日延ばして 4 日間とし、日本産普通種ミミズの種同定 についての約半日の実習を加え、初めての参加者でも普 通種の種同定を確実にしてもらうことに力点をおいた。 4 日間の会期のうち、第 1 日目は大型ミミズ類の研究 入門、系統分類などについての講義、第 2 日目は水田 のミミズについての講義、ミミズ野外採集と室内での固定、 解剖等についての実習(写真)、第 3 日目は富山県の 自然についての特別講義、生態系機能についての講義、 普 通 種の種同定についての実習、 第 4 日目は分 子 系 統学、天敵などについての講義を行なった。実施され た講義は 7 題、実習は 3 題であった。この他、生きた モグラのデモ、カラシ溶液による深層性ミミズの採集実 験など、予定された講義や実習以外にも実に盛りだくさ 9 月 6 日(日)第 1 日 会場:黒田講堂 講義 1「ミミズ学への招待」 (渡辺弘之 京大名誉教授) 講義 2「環形動物の系統とミミズ分類の基礎」 (伊藤雅道 駿河台大・経済) 9 月 7 日(月)第 2 日 会場:人間発達科学部 生物・地学実験室 講義 3「有機栽培水田における水生ミミズの生態 態と機能」 (伊藤豊彰 東北大・複合生態フィールド 教育研究センター) 実習 1「ミミズ類の野外採集法」 (石塚小太郎 成蹊大学/伊藤雅道) 実習 2「日本産陸生ミミズ類の解剖及び形態観察」 (石塚小太郎/伊藤雅道) 9 月 8 日(火)第 3 日 会場:人間発達科学部 生物・地学実験室 講義 4「富山県の自然と土壌動物の特徴」 (布村 昇 富山市科学博物館) 講義 5「ミミズ類の生活史と生態系機能」 (金子信博 横浜国大・環境情報) 実習 3「日本産フトミミズ科普通種の種同定」 (伊藤雅道/南谷幸雄) 9 月 9 日(水)第 4 日 会場:人間発達科学部 生物・地学実験室 講義 6「ミミズの分子系統学的研究概説」 (南谷幸雄 愛媛大・連合農学) 講義 7「ミミズの天敵、寄生動物概説」 (横畑泰志 富山大・理) 実習風景.ミミズの解剖や種同定に挑戦する参加者たち 25 Center for Ecological Research NEWS No.107 センターの活動報告 2009 年度生態研セミナー開催報告 谷内茂雄・准教授 生態研セミナーは、生態学研究センターの共通セミナーとして、センターの第二講義室で開催しています。毎月第 3 金曜 日開催(3 月・8 月は除く)の「定例セミナー(通し番号有)」と不定期にゲスト講演者を囲んで行う「スペシャルセミナー」 から成りますが、どちらも一般公開されています。2009 年度には、計 15 回開催しました 開催日 講演者 所属 スペシャル 4 月 24 日 海洋動物のトラッキングデータの解析方法 岡村 寛 遠洋水産研究所 外洋資源部 第 207 回 5 月 15 日 衛星リモートセンシングから見える広域植生変動のいくつかの特徴 地球環境研究プログラムの形成と生態学について 鈴木力英 北山兼弘 海洋研究開発機構 地球環境変動領域 京都大学生態学研究センター スペシャル 6 月 5 日 Inorganic nutrient control of Dissolved Organic Carbon (DOC) Fereidoun Rassoulzadegan CNRS, France dynamics in NW Mediterranean waters: Surface DOC accumulation スペシャル 6 月 19 日 はじめに『地球研とは何か?』 1. 日本列島における人間―自然相互間の歴史的・文化的検討 2. 病原生物と人間の相互作用環 3. 人間活動下の生態系ネットワークの崩壊と再生 第 208 回 7 月 17 日 モデル植物における遺伝子発現の種内多型とフィールド・オミクス 永野 惇 〜生態学的文脈での機能ゲノミクスに向けて〜 自然条件下における開花調節―遺伝子機能のコンテクスト依存性― 工藤 洋 第 209 回 9 月 18 日 東南アジア森林植生の人為的な改変と生物多様性 熱帯林・亜熱帯林に生息する落葉分解菌類の機能的多様性と系統地理 神崎 護 大園享司 京都大学大学院農学研究科 京都大学生態学研究センター スペシャル 10 月 1 日 The Fourth Dimension of Life Lev Ginzburg Stony Brook University, USA 第 210 回 10 月 16 日 How do predatory arthropods decipher the code of herbivore-induced and constitutive plant odours? イネの害虫利用術 Maurice W. Sabelis University of Amsterdam, Holland 高林純示 京都大学生態学研究センター 琵琶湖の植物プランクトンの変遷と目に見えない有機物を考える 愛媛県・宇和海におけるプランクトン食物網の特性と 春季ブルームにおける植物プランクトン優占種の長期変遷 一瀬 諭 中野伸一 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 京都大学生態学研究センター 第 211 回 11 月 20 日 スペシャル 11 月 24 日 26 タイトル 湯本貴和 湯本貴和 川端善一郎 酒井章子 山村則男 種内の小進化動態から種間の相互作用へ:アミメアリ利己系統の 土畑重人 長期存続メカニズム トビイロケアリにおける対病原菌戦略としてのグルーミング行動の 奥野正樹 生態学的意義 変化する共生関係:アリ植物オオバギの成長を通して見たオオバギと 半田千尋 共生アリの関係 総合地球環境学研究所 総合地球環境学研究所 総合地球環境学研究所 総合地球環境学研究所 総合地球環境学研究所 (独)農業生物資源研究所 植物科学研究 領域 京都大学生態学研究センター 東京大学大学院総合文化研究科 京都大学大学院農学研究科 京都大学大学院人間環境学研究科 第 212 回 12 月 18 日 熱帯山岳キナバル山における球果類樹木の生態 タイの熱帯林に生息するサイチョウ類による種子散布とその保全 相場慎一郎 北村俊平 鹿児島大学大学院理工学研究科 兵庫県立人と自然の博物館 第 213 回 1 月 15 日 日本在来魚における適応的分化 湖沼メソコスムにおける体サイズ構造とメタボリズム 小北智之 福森香代子 福井県立大学 海洋生物資源学部 京都大学生態学研究センター スペシャル 1 月 19 日 ショウジョウバエの暗所環境への適応進化 布施直之 京都大学大学院理学研究科生物科学専攻 グローバル COE 特別講座 スペシャル 2 月 8 日 Ecosystem size and ecosystem function in a relict forest 第 214 回 2 月 19 日 多種系の群集生態学について考えてみる タイの熱帯林に生息するキノコシロアリの生態とその機能 Leonardo D. Bacigalupe 村上正志 山田明徳 University of Conception, Chile 千葉大学大学院理学研究科 京都大学大学院農学研究科 No.107 Center for Ecological Research NEWS センターの活動報告 オープンキャンパス 2009 の報告 大串隆之・教授 生態学研究センターでは、大学院進学希望者を対象にして、毎年 12 月にオープンキャンパスを実施しています。 今年度のオープンキャンパスは、12 月 5 日(土)に開催されました。参加者は 9 名で、残念ながら例年の 3 分の1程 度に留まりました。当日、参加者は朝の 9 時から各研究室の研究内容を聞いた後、屋外(実験圃場・林園・ガラス 温室・CER の森など)や屋内(シンバイオトロン・安定同位体分析装置など)の研究施設を巡り、午後からは、興味 を覚えた研究室を訪問して、より詳しい説明を受けました。以下は参加者の感想です。 ¡ 現場の人の話が直接聞けて良かった。 ¡ 研究内容の説明が充実していた。 ¡ 大変わかりやすい研究紹介だった。 ¡ 午前の先生方の説明があわただしかった。 ¡ 院生や先生と直接話しができてセンターの事がよくわかった。 これらの意見を踏まえて、今後も受験希望者に満足してもらえるようなオープンキャンパスのありかたを探っていきたいと 考えています。また、今回の参加者はここ 2-3 年に比べて大幅に減少しました。これが今回に限ったことかは、今後の 推移を見る必要がありますが、参加者を増やすための何らかの方策を考える時期にさしかかっているのかもしれません。 生態研ライブラリーの紹介 谷内茂雄・准教授 「生態研ライブラリー」は、センター所属の教員・研究員の商業出版物(著書および編書)を集めたものです。研究成 果の社会への公開を目的に、出版物の刊行にも積極的に取り組んでいます。次の 4 冊が新たに出版されました。 『進化生物学からせまる』 (シリーズ群集生態学第 2 巻) 大串隆之・近藤倫生・吉田丈人(編) 京都大学学術出版会(2009 年 3 月発行:327 頁) 3,045 円 ISBN978-4876983445 『新たな保全と管理を考える』 (シリーズ群集生態学第 6 巻) 大串隆之・近藤倫生・椿宜高(編) 京都大学学術出版会(2009 年 12 月発行:211 頁) 3,045 円(税込) ISBN978-4876983483 『生物間ネットワークを紐とく』 (シリーズ群集生態学第 3 巻) 大串隆之・近藤倫生・難波利幸(編) 京都大学学術出版会(2009 年 8 月発行:328 頁) 3,045 円(税込) ISBN978-4876983452 『地球環境と保全生物学』 (現代生物科学入門第 6 巻) 鷲谷いづみ・夏原由博・松田裕之・椿宣高(編著) 岩波書店(2010 年 2 月発行:208 頁) 3,150 円(税込) ISBN978-4000069663 27 Center for Ecological Research NEWS No.106 センター関係者の動き センター員の異動 ¡ 藤田昇准教授が、3 月 31 日付けで定年退職されます。 ¡ 技術職員の小島巌氏が、3 月 31 日付けで退職されます。 ¡2010 年度外国人研究員(客員教授)として、トリノ大学(イタリア)の Massimo MAFFEI 氏が 4 月 1 日から 6 月 30 日まで滞在予定です。 ¡ 研究員(グローバル COE)の内海俊介氏が、11 月 1 日付けで東フィンランド大学へ異動しました。 ¡ 研究員(科学研究)の高橋純一氏が、4 月 1 日付けで京都産業大学へ異動します。 2009年度 協力研究員(Affiliated Scientist)追加リスト 氏 名 鈴木泰博 所 属 研究課題 名古屋大学大学院情報科学研究科・准教授 化学生態系のモデル化と種間相互作用の計測 とその可視化 外国人研究者の紹介 ■ 氏名 Narayan BEHERA (ナラヤン・ベヘラ) ■ 招聘方法と滞在期間 CER 外国人研究員(客員 教授):2009 年 12 月 16 日 - 2010 年 3 月 31 日 ■ 現職 Poorna Prajna Institute of Scientific Research, India, Visiting Professor ■ 滞在中の研究テーマ Niche separation and speciation in sexual populations in a heterogeneous environment ■ 専門分野 理論生物学、計算機生物学、 バイオインフォマティクス 28 ■ 氏名 Guillaume ACHAZ (ギョーム・アシャズ) ■ 招聘方法と滞在期間 JSPS 外国人招聘研究者: 2009 年 12 月 29 日 - 2010 年 8 月 23 日 ■ 現職 Universite′Pierre et Marie Curie, France, Assistant Professor ■ 滞在中の研究テーマ Epistasis as a cause of molecular evolution ■ 専門分野 理論集団遺伝学、進化生物学、バイオインフォマティクス No.107 Center for Ecological Research NEWS センターの主要な会議の要旨 京都大学生態学研究センター 運営委員会(第 56 回)議事要旨 時:平成 21 年 11 月 11 日(水) 午後 3 時〜 5 時 05 分 場 所:京大会館 出席者:運営委員 21 名、幹事 1 名 日 (議事前) 前回(平成 21 年 6 月 22 日書面審査)及び前々 回(平成 21 年 4 月 24 日開催)運営委員会議事録 (案)について諮り、承認された。 (議題) 1.教員人事について a 教授の選考について 椿センター長から、 植 物 生 態 学 分 野 教 授 人 事に ついて、 資 料 1 により、 人 事 選 考 委 員会 及び教 授 会での審議状況並びに候補者の経歴等について説 明があり、 意 見 交 換の後 、 可 否 投 票による意 見 分 布の調査を行った。 椿センター長から、この結果を協議員会に報告し、 審議願う旨、附言があった。 s 准教授の公募について 椿センター長より、資料 2 により、准教授の公募要 領(案)について説明があり、審議の結果、一部 修正のうえ、承認された。 (報告事項) 1.協力研究員について 椿センター長より、資料 3 により、協力研究員 4 名 を委嘱した旨、報告があった。 2.教員の兼業について 椿センター長より、資料 4 により、教員の兼業につ いて報告があった。 3.外部資金等の受け入れについて 椿センター長より、資料 5,6 により、外部資金 8 件を受け入れた旨、報告があった。 京都大学生態学研究センター 協議員会(第 67 回)議事要旨 時:平成 21 年 11 月 24 日(火) 午前 10 時〜 11 時 05 分 場 所:京都大学吉田泉殿 出席者:協議員 9 名、幹事 1 名 日 (議事前) ○ 定 足 数について、 本日は人 事 案 件があり、 協 議 員の三分の二以上の出席が必要であるが、それ を満たしている旨、報告があった。 ○ 前 回 ( 第 6 6 回 ) 議 事 録 ( 案 )について諮り、 承認された。 (議題) 1.教員人事について a 教授の選考について 議 長から、 植 物 生 態 学 分 野 教 授 人 事について、 人 事 選 考 委 員会 、 教 授 会 、 運 営 委 員会 等の経 過 並びに資料 1 により研究業績等について説明があり、 意見交換の後、可否投票により承認された。 s 准教授の公募について 椿センター長より、資料 2 により、准教授の公募要 領(案)について説明があり、審議の結果、一部 修正のうえ、承認された。 (報告事項) 1.協力研究員について 議長から、資料 3 により、協力研究員 2 名を委嘱 した旨、報告があった。 2.教員の兼業について 議長から、資料 4 により教員の兼業について、報 告があった。 3.外部資金の受け入れについて 議長から、資料 5,6 により外部資金 4 件を受け 入れた旨、報告があった。 29 2010 International Year of Biodiversity 編集後記 第 107 号をお届けいたします。2010 年は国連の国際生物多様性年(International Year of Biodiversity: IYB)。10 月に名古屋で開催される「生物多様性条約第 10 回 締約国会議(COP10)」にむけて、日本でも生物多様性に関するさまざまな会議やイベ ントが始まっています。センターニュースでも、生物多様性の国際的な動向をお伝えする 「DIWPA だより」に加えて、今号から「ゲノムから生態系まで」と「地球研だより」に、 それぞれ京大の「生物の多様性と進化」GCOE と地球環境問題に関わる生態学の取 り組みをリレーでお伝えします。 さて 2010 年 4 月 1 日から、センターは「生態学・生物多様性科学における共同利用・ 共同研究拠点(2010 年 4 月〜 2016 年 3 月の 6 年間)」となります。これまでの共同利 用公募も、新たに「共同研究公募」となります。2010 年代の生態学・生物多様性科 学をリードする意欲的な共同研究のご提案をお待ちしています。 (谷内茂雄) 京都大学生態学研究センター「センターニュース」 No.107 Center for Ecological Research News No.107 発行日 発行所 2010 年 3 月 31 日 京都大学生態学研究センター 〒 520-2113 滋賀県大津市平野 2 丁目 509-3 電話:077-549-8200(代表) FAX:077-549-8201 URL:http://www.ecology.kyoto-u.ac.jp E-mail:[email protected] (センターニュース編集係) ニュースレター編集委員 編集事務 ・谷内茂雄・山内 淳・大園享司・有村源一郎・荒木希和子 ・加藤由紀子 ◆センターニュースの内容は、バックナンバーも含めてセンターのホームページに掲載され ています。郵送を希望されない方は、センターニュース編集係までご連絡ください。
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