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本杉―都市的っていうと1 F のアクセス部分をほとんど駐車場にして、
本杉―そういうふうにやっていけば、吹き抜けの作り方もうまく機能し
まるでモーテル風になっているのが若者的な都市に住むのかなって
ていくんじゃないかな。
感じがするよね。現代は誰もが車を所有しているわけで、その車をどうした
川口―飛田さんの案の、この住戸にくっついているのがショーケースな
いのか、見せたいか見せなたくないのか、車によってグランドレベルが占有
んですよね。構成も中庭っていうより通り庭って感じですね。
されることの意味がわかりにくいよね。
城戸崎―金丸さんの案はショーケースから入れたりしたけど、飛田さんの
城戸崎―山村君は私が指導したんですけど、結構欲張った案なんですよね。
案はショーケースをショーケースにしか使ってないんですよね。ファサード
円形のプランに対して、上から来た光を横に抜いて外観の操作をしているん
を作るだけ、っていうのがいさぎよい。光が上からも入ったりすれば面白い
だけど、ただ円形で抜いたときにまっすぐとは違う光の効果が出て
のにナーという気はします。ただショーケースの裏が壁で完結しちゃている
くるはずなんだけど、そこがよく表われなかったよね。
のはどうなんでしょう?
本杉―この平面図を見ると、2つの建物を対峙させようっていう感じは
川口―模型には透明感がありますね。これメゾネットで、上から光をと
素直に伝わってくるよね。まるで H.シャローンのロミオとジュリエットみたいな。
っていますよ。基本的には採光も丁寧に考えているんですよ。
一同―(笑)
本杉―断面図を見ると、入り組んだ空間のつながり方とか、光の入り方
川口―犬塚君の案もヒルサイドテラスによく学び、敷地に対する建て方
とか結構考えているんだよね。それが平面図だとわかりにくい。それにして
もよく考えて設計された案ですよね。代官山という比較的整った街並みの中
もなんでカフェを中に持ってきて調理場を外に持ってきているんだろう?
での配置計画って結構難しいじゃないですか。その点この案はある程度まと
城戸崎―やっぱりこの中にまちを作っちゃっているんですよ。こ
まっているんじゃないかと。
こだけのルールでできている。周りとの関係を1回切っちゃって、関係を持
本杉―犬塚君の案は、中庭型じゃなくて吹き抜けを使ったタイプだ
とうとしていないのが少し気になりますよね。
ね。
川口―ひとりよがりな部分があるんですけど、そういうのがないとスト
城戸崎―1 F と2 F のプランが全く違うのが面白いですね。それ
ーリーが組み立てられなくて難しいのかもしれませんよね。
と玄関なのかな?スタジオって書いてあるところが。そこは使い方によって
城戸崎―みんな正解に向かいたいと思っていて、そういう意味では(逆の
は面白いんじゃないですかね。
意味で)いいのかなって思いますよね。正解なんてないんですよね。正解は
本杉―うん。上下でスタジオと住居がからんで、さらにそのスタジオの
それぞれ学生の数だけあって、自分なりの正解を求めなきゃいけないんだけ
周りにギャラリーが取り付いて、関係している構成や発展の可能性を感じる
ど、よく「先生これしちゃいけないですか?」とか「これなしですよね」と
よね。ただ下から上までを単調に処理しちゃってるから、アートと住居の関
か聞くのね。もっと目立ちたい!とか、俺は格好いいの作るぞ!
係が薄くなってるんだよね。これから老人が増えることを考えると、1 F 部
とかそういう強い意志が感じられないんだよね。日本の場合って、美しいも
分にそうした住戸があると外に出ていきやすい。それを代官山だからアーテ
のとか格好いいものとかを否定する人がものすごく多いでしょう?役所なん
ィストにコマーシャルという発想が普通すぎる気がする。経済ベースにのっ
て行ったらみんなそうですよね?突出しちゃいけない、機能さえおさえてあ
た発想だというのが気になるし、人間はそんなに上に住まなきゃい
れば、目立たないほうが良いということです。そうした考えが学生にまで染
けないの?って思っちゃうけどなあ。
み付いちゃってて、結局日常の中でいいものを見る機会がないからこうなっ
城戸崎―コマーシャルじゃないけど 1つグレードの高い生活 ってやつ
ちゃうんだよね。
ですね(笑)
本杉―それはあるよね。自分はこうやりたいとか、どうだ!っていうの
川口―それをこのパースが表現しているんですね。
を見せて欲しいよね。本当は 都市 っていうのものの楽しさ、エネルギッ
都市の中に住む楽しさ
城戸崎―居住者以外はここから、居住者はここからって分けちゃってる。
シュな強さをもっと感じて欲しい。
混ぜちゃってもいいんじゃないかな?そういうプランこそ、よっぽどコミ
うのを学生が自分の生活感の中からどう作りあげていくのかを期待している
ュニティを作り出す可能性があるんだよね。
んだけどなあ。
ってい
●指導
1組:本杉省三 宇杉和夫 赤羽輝臣 奥田孝次
城戸崎和佐 杉千春 横山聡
1208 飛田久恵
2組:今村雅樹 渡辺富雄 川口とし子 河辺哲雄
桑原立郎 近藤康弘 前田光一
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私の学生時代
アストリッド クライン
Astrid Klein
1983
1985
1986
エコール・ド・ボザール卒業(フランス、ミュルーズ)
フランコ・ヘニー・スタジオ(イタリア、バレーゼ)
エコール・ド・アール・デコラティーフ卒業
(フランス、ストラスブール)
インテリアデザインにおいて芸術学士号取得
1987
1988
ビッチュ&パートナーズ・スタジオ
(ドイツ、デュッセルドルフ)
ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了
1988
1988
(イギリス、ロンドン)建築において芸術学修士号取得
YRMパートナーシップ(イギリス、ロンドン)
伊東豊雄建築設計事務所(東京)
クライン・ダイサム・アーキテクツ設立
建築設計すると思わなかったな。最初は美術大学に行った
親は、日本は(物価が)高いし、奨学金も高いし、行くなら
ことが多いですよね。この人は慶応、この人は早稲田、っ
んですよね。フランスのエコールドボザールに。家族にアー
自分で払ってって。どこでもいいんだけど、日本は高すぎて
て。この大学ならこのくらいのレベルだろうって。本当にそ
ティストが多いんです。兄弟5人の中で3人がアーティス
払えないって。それでとりあえず、ロンドンに行ってその後
うかどうか確認しないの。そうすると、みんなせっかく大学
ト。それを父親がすごいイヤがっていたの。彼は科学者で、
日本に来た。来たときは3ヶ月分のお金しかなかった。ほん
に入ってもあんまり頑張らないみたいですね。向こう(海
お金儲けしてない兄弟をサポートしていたのね。娘までアー
とはそれも2ヶ月分しかなかったしね。そうね、はまっちゃ
外)はそんなことないのね。やっぱり大学で頑張らないと、
ティストになったんじゃ、「生活にならない」ってずっと言
ったのね。
出来る人になれないから就職にならない。そういう意味で海
ってた。でも私もアーティストになりたくて。彼は私が頑固
イギリスの RCA にジェームズ・ガーワンって先生がいた
なのわかってて諦めてやらせてくれて。でもそのうち自分で
のね。彼はスターリングのパートナーだったんですね。有名
もわかった。これはつらいなぁ。大変だぁって。
な場所−ケンブリッジ歴史図書館とかつくった人。すごく歳
ね。
日大の3年後期課題で 1/10 の詳細図まで描かせたんです。
私のお母さんはずっとインテリアデザイナーになりたく
のはずだから、まだ生きてるかどうかわかんない。でもすご
ミラーの高さとか、何がどこに必要とか普段知らないドアの
て、自分の家で家具をいっぱいつくったりしていたの。私も
い知識があってね。学生はいつも自分がつくったものにすご
幅まで調べるっていう。そういう関係を詳しく調べてほんと
それを手伝って家具をつくって塗装してってよくやって。そ
いプライドを持って「これはどう?これは?」って見せてい
に寸法いれる課題だったんですね。なぜそこまでさせたかっ
れって彫刻みたい。私、彫刻とかインスタレーション大好き
て、それを「あーいいね」って言われたいんだよね。でも彼
て4年生になったら自分のプロジェクトをやらな
だったのね。「部屋もインスタレーションじゃない」って言
は全然。いつも「いいよ。誰でもプランなんか描けるん
われて、そういえば、いろいろなボリュームがあって、いろ
だよ。もうやめよう。それよりいろいろ話しましょ
いろなカラーがあってそれをバランスとか意味もたせてっ
う」って。彼言ったのは、プレゼンテーションの日
であまりスケール感のないもの
て・・・。それでやってみようかなって。インテリアデザイ
にプランを壁に貼って、それを最後のピンをいれた
を経験者がみたら、アウトにな
ンの方に移ってフランスの技術大学に行ったの。
(インテリ
瞬間にこう床に倒れちゃう、それはいい学生って。な
アデザインを)すごい気に入ってて、でもなんで窓際で(デ
んでかっていうと、全部そこに表れているから話さなく
ザインを)終わらなくちゃいけない?彫刻じゃないじゃんっ
ていい、プレゼンテーションしなくていいってことなのね。
て、そこでトータルにしてみたくて。でも建築的にじゃなく
実際の建物も建って終わりなのよね。自分の作品なのに、ず
クトでの経験がないにしてもリアルな寸法がわからないと。
ってやっぱりアートな建築が私にとって重要だったのね。そ
っと隣りに立って、「こういうのをやりました」って言わな
その上でこれがつくってみたいって気持ちがないとやっぱり
れで、イギリスのロイヤルカレッジオブアート(RCA)に
いじゃないですか。だから、彼に対しては話は無駄でした
就職にはならない。だって最後の目的が「つくる」わけだか
行ったんです。そこは建築部門もあったの。でもメインはア
ね。そういう彼の姿勢には感銘を受けました。だから日本に
ら。いいアイディアで夢見てるだけじゃなくてそれを実現す
ート。そこに行って「全部やりたい」ってなったんです。ア
きても日本語しゃべれなくてもなんとかすごい自信持って
る。そこのいくつかのハードルをどうやってクリアするかを
ートから入ってきているからこそ、だからこそ夢だけではな
た。当時はね(笑)。ずっといると思わなかったし。スケッ
見せて欲しいなと。本当は 1/10 の図面までは書かなくても
くちゃんと実現出来ますよって、そこから戦いが始まった
チとか図面でいくらでも出来るから、身振り手振りで通して
いいと思うんです。でも 1/10 を描ける知識があるから描け
の。アーティストはみんな変な扱いされるから「いやいやち
ました。顔(表情)も読めるし、なんとかなりましたね。で
るの。最初 1/10 を描くときにはまだ知識がない。描くこと
ょっと待って、それだけじゃないよね」ってね。
も日本語は早く習いましたよ。仕事のためだけじゃなくっ
によって考える力になりますよね。それをもとに模型をつく
日本に来たのは、まず自分の目で見たかった。バブルのと
て、どこか住むとその文化をやっぱり知りたいんだよね。ニ
って得た情報をまた図面に入れたりっていう作業で色々と見
きで、すごい変な建物いっぱい出来ていて、「スゴイ!」っ
ュアンスとか。こんにちはとか、ありがとうとかだけではな
えてくるの。図面から模型、模型からディテールっていうサ
て思ってね。彫刻好きな私だからね。青山製図専門学校って
くね。
イクルは3次元のものをつくるのに全部必要なの。だから本
主要作品
・ UNDER COVER LAB、ファッションデザインアトリエ(新築)
・ Bloomberg ICE、金融情報会社インタラクティブスペース
本ってそこまで出来るんだって思ってね。すごいな、もっと
(インテリア)
・ビーコンコミュニケーションズオフィス、
いなって思って仕事探して、幸運にも伊東事務所に入った。
が「出来る」ことが就職に一番大事なんです。でも日本の場
本当は RCA に行く前に日本に来たかったんですね。でも父
合はどこかの大学をでて、いい人かよくない人って判断する
見てみたいって。それで好きだったらもうちょっと長くいた
いといけない。そのプロジェクトって
今度就職でみせるんですね。そこ
ってしまうんです。まだこの人夢
だけ見てるってね。そういう人は実際
のプロジェクトで使えない(笑)。実際のプロジェ
当は課題を始める前に、海外からきたポートフォリオを見せ
ありますよね、バッタみたいな形。好きな訳ではなくって日
広告会社オフィス(インテリア)
外で教育を受けた人の方がある程度、自立さをもってるよ
−日本と海外の教育システムの違いについて
海外の学校は基本的なシステムが違うのね。向こうは自分
れたらと思うんです。こういうレベルですよ、目指すのはっ
て。目覚ますのか?(笑)
。目覚ませない人もいるかもしれ
ないけど。私きびしすぎるかしら(笑)。
(インタビュー: 2003 年 12 月 Delux にて)