The world of UBIQUITIN Volume 2

CONTENTS
巻頭言
巻頭言(領域代表挨拶) 岩井 一宏
01
研究班員一覧
02
岩井 一宏(京都大学・大学院医学研究科・教授)
特別寄稿
私が研究者になった理由 岩井 一宏
04
タンパク質制御システム」
(略称:ユビキチン制御)
は、
25年度からは8つの計画研究、
17の公
Review & Essay
私の研究:現在まで 石戸 聡
08
原核生物からユビキチンの起源にせまる 金井 保
11
募研究の体制で研究を推進して参りました。
領域研究に着手したばかりと思っておりました
が、
今年度、
平成26年度は3年目で既に折り返し点を迎えています。
本年9月には中間評価を
受け、
A評価を頂くことが出来ました。
ひとえに、
本領域に参加くださっている計画研究、
公募
研究の先生方の優れた研究のおかげです。
本当に感謝申し上げます。
Technical Reports
NMRを使った蛋白質の解析 杤尾 豪人
15
ポリユビキチン鎖選択的結合の構造的基盤 佐藤 裕介
19
高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を用いた
ユビキチン修飾の動的分子プロセスの解明 紺野 宏記、春山 隆充
平成24年度に発足致しました本新学術領域研究
「ユビキチンネオバイオロジー:拡大する
発見の経緯もあり、
ユビキチン研究はタンパク質分解系の研究者と一緒に領域を形成して
参りました。
しかし近年、
ユビキチンが分解以外の様式でタンパク質の機能を制御することが
明らかにされつつあることを踏まえ、
本領域では分解も含め、
広く
「ユビキチン」
に関与する研
24
究を推進されている研究者を結集してタンパク質分解のグループとは独立して領域研究に取
り組んでおります。
本新学術領域研究の申請時には、
ユビキチンは発見されて35年経ち、
発
Meeting Reports
見者達にノーベル賞が授与されていること等も踏まえれば、
もはや
「ネオバイオロジー」
では
ユビキチンネオバイオロジー熱海領域班会議報告 関 裕之・野口 あや・林下 瑞希
27
ないであろうとの意見もありました。
しかし、
領域開始時には日本ではまだ
「ユビキチン」
=
「分
ユビキチンネオバイオロジー領域班会議に参加して 植松 桂司 28
解」
と認識されている研究者の方が多かったのも実情だと思います。
手前味噌かもしれませ
分子生物学会シンポジウム ”ユビキチンコードの生物学”に参加して 川口 紘平
29
第86回日本生化学会大会シンポジウムに参加して 横田 直人
30
んが、
日本生化学会、
分子生物学会等の学会でのシンポジウム、
ワークショップに参加してお
りますと、
本新学術領域研究のメンバーの先生方のご尽力もあり、
ユビキチン修飾系が多彩
な生命現象の制御系として機能していることが広く認知されつつある様に感じられます。
ユビ
キチン系の異常がガン、
神経変性疾患などの多くの疾患の原因になっていることなどもあり、
私立大学戦略的研究基盤形成支援事業
生体分子コバレント修飾の革新的解析拠点形成
「第1回国際シンポジウム」
の報告 石戸 聡 31
新学術領域研究『ユビキチン制御』第一回国際シンポジウムに参加して 岡田 麻衣子
34
Symposium for young ubiquitin researchers in Japan
“New Era in the Ubiquitin Research” 報告 高木 賢治
37
EMBO conference “Ubiquitin & UBLs:
At the crossroads from chromatin to protein” 岩井 一宏 38
本領域では、
計画研究班のメンバーらが樹立している研究試料・手法のみならず、
本領域
Benzon symposium No. 60 Nuclear regulation by ubiquitin 岩井 一宏
38
で開発する新規ユビキチン解析手法を計画研究班・公募研究班の区別なく提供する、
ユビキ
生化学会年会シンポジウム”ユビキチン・ワールド”に参加して 川口 紘平
38
Cold Spring Harbor Asia 2014 Meeting “Protein Modification & Homeostasis” 岩井 一宏
39
り、
世界をあっと驚かせるような日本発の新規な実験手技の開発を進めたいと思っています。
何卒ご協力をお願い申し上げます。
チン研究プラットフォームの構築を進めています。
このプラットフォームは今後日本のユビキチ
ン研究グループが一致団結して世界に打ち克つ大きな戦力になると思っておりますが、
研究
試料の登録、
利用などまだまだ不十分なのが現状です。
領域外の先生方には利用いただける
40
領域ニュース 受賞報告/アウトリーチ活動報告
42
シンポジウム・ワークショップ報告(2012-2014)
44
編集後記
47
場合にも利用していただける様にしたいと思っております。
何卒、
多くの研究試料の登録、
利
用をお願い申し上げます。
本新学術領域に参加して頂いている計画・公募研究の先生方とともに切磋琢磨して日本
のユビキチン研究をさらに大きく発展させたいと考えておりますので、
ご協力をお願い致しま
領域代表挨拶
進展しております。
本領域の後半では、
基礎研究、
展開研究、
技術革新、
何れの分野でも世界
トップレベルのユビキチン研究を遂行するとともに、
今後のユビキチン研究に不可欠であった
状況にはなっておりませんが、
公募研究で領域に参加頂いた先生方には、
領域を離れられた
速報 本領域評価委員の田中啓二先生が平成26年度「文化功労者」
として表彰
世界のユビキチン研究の技術革新、創薬展開も含め、私どもの想像を遙かに上回る速度で
すとともに、
領域の発展に繋がる良いプランがございましたら、
どしどし提案いただきます様
お願い申し上げます。
01
研究班員一覧
総括班
計画研究班
研究代表者
研究分担者
連携研究者
岩井 一宏
京都大学・大学院医学研究科 教授
駒田 雅之
東京工業大学・大学院生命理工学研究科 教授
嘉村 巧
名古屋大学・大学院理学研究科 教授
佐伯 泰
東京都医学総合研究所・生体分子先端研究分野 副参事研究員
水島 恒裕
兵庫県立大学・大学院生命理学研究科 教授
川原 裕之
首都大学東京・大学院理工学研究科 教授
大竹 史明
国立医薬品食品衛生研究所・毒性部 研究員
太田 智彦
聖マリアンナ医科大学・大学院医学研究科 教授
畠山 鎮次
研究課題名
直鎖状ポリユビキチン鎖の選択的生成機構とその役割
ユビキチン修飾系による膜タンパク質の輸送制御機構
研究代表者/分担者
所属・役職
(代表)岩井 一宏
京都大学・大学院医学研究科 教授
(代表)駒田 雅之
東京工業大学・大学院生命理工学研究科 教授
(分担)石戸 聡
昭和薬科大学・薬学部 教授
転写調節機構におけるユビキチン修飾系の役割解明
(代表)大竹 史明
国立医薬品食品衛生研究所・毒性部 研究員
K6およびK63ユビキチン鎖によるDNA修復制御機構
(代表)太田 智彦
聖マリアンナ医科大学・大学院医学研究科 教授
A02 ユビキチン修飾の識別、検出法の開発とその応用
研究課題名
ユビキチンリガーゼによる選択的基質識別メカニズム
研究代表者/分担者
所属・役職
(代表)嘉村 巧
名古屋大学・大学院理学研究科 教授
(分担)畠山 鎮次
北海道大学・大学院医学研究科 教授
昭和薬科大学・薬学部 教授
ユビキチン識別タンパク質によるポリユビキチン鎖情報の
(代表)川原 裕之
デコード機構とその役割
首都大学東京・大学院理工学研究科 教授
加藤 龍一
高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 准教授
選択的なポリユビキチン鎖検出・定量法の開発
(代表)佐伯 泰
田中 啓二
東京都医学総合研究所・所長
東京都医学総合研究所・生体分子先端研究分野
副参事研究員
(代表)水島 恒裕
兵庫県立大学・大学院生命理学研究科 教授
大隅 良典
東京工業大学・フロンティア研究機構 特任教授
(分担)加藤 龍一
高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 准教授
石戸 聡
評価委員(連携研究者)
北海道大学・大学院医学研究科 教授
A01 ユビキチン修飾系による生体制御機構
選択的ユビキチン識別機構の構造生物学
水島 昇
東京大学・大学院医学系研究科 教授
永田 和宏
京都産業大学・総合生命科学部 教授
公募研究班
村田 茂穂
東京大学・大学院薬学系研究科 教授
A01 ユビキチン修飾系による生体制御機構
白川 昌宏
京都大学・大学院工学研究科 教授
研究課題名
研究代表者/分担者
ユビキチン修飾による膜交通と葉緑体形成制御機構の解明
(代表)山口 淳二
所属・役職
北海道大学・大学院理学研究院 教授
ストレスセンサーKeap1のユビキチンライゲース活性制御機
(代表)鈴木 隆史
構の解明
東北大学・大学院医学研究科 助教
時計タンパク質CRYの安定化と分解という拮抗作用を導く
(代表)深田 吉孝
2種類のE3リガーゼ
東京大学・大学院理学系研究科 教授
FAAP20によるK63結合型ポリユビキチン鎖特異的認識の
(代表)佐藤 裕介
構造的基盤
東京大学・放射光連携研究機構 助教
バクテリアが利用するユビキチンシステム
(代表)金 玟秀
東京大学・医科学研究所 特任准教授
腎臓および肺の線維化を左右するユビキチン制御の解明
(代表)北川 雅敏
浜松医科大学・医学部 教授
ユビキチン修飾系による転写因子Hes1タンパク質の安定化
(代表)小林 妙子
と幹細胞制御
京都大学・ウイルス研究所 助教
原核生物で発見された真核生物型ユビキチンシステムの生
(代表)金井 保
化学的解析
京都大学・大学院工学研究科 講師
多重ドメイン蛋白によるユビキチンシグナルの選択性と疾患 (代表)小松 賢志
京都大学・放射線生物研究センター 教授
ユビキチン化による鉄代謝制御システムの解明
(代表)西山 正章
九州大学・生体防御医学研究所 助教
細胞創傷治癒機構におけるユビキチンの役割
(代表)河野 恵子
名古屋市立大学医学部・大学院医学研究科 講師
ユビキチン連結酵素PARKINを活性化するメカニズム
(代表)松田 憲之
東京都医学総合研究所・蛋白質代謝研究室 副参事研究員
mRNA品質管理機構におけるユビキチン化の新規機能の解析 (班友)稲田 利文
東北大学・大学院薬学研究科 教授
システイン残基ユビキチン化修飾の分子基盤とペルオキシ
(班友)藤木 幸夫
ソームタンパク質輸送制御
九州大学・大学院理学研究院 特任教授
A02 ユビキチン修飾の識別、検出法の開発とその応用
研究課題名
研究代表者/分担者
(代表)紺野 宏記
金沢大学・バイオAFM先端研究センター 准教授
直鎖型ポリユビキチン鎖合成の構造的基盤の解明
(代表)杤尾 豪人
京都大学・大学院理学研究科 教授
ケミカルバイオロジーを利用した人工的ユビキチン修飾シス
(代表)内藤 幹彦
テムの開発
02
所属・役職
ユビキチンによるタンパク質翻訳後修飾のダイナミクス
国立医薬品食品衛生研究所・機能生化学部 部長
03
特別寄稿
ESSAY
私が研究者になった理由
岩井 一宏(京都大学大学院医学研究科・細胞機能制御学)
ニュースレターを担当してくださっている
脳されていたのかもしれません。高校時代
から私に電話があったのは先生が私の父
首都大学東京の川原裕之先生からエッセ
は決して成績は良くなかったので、少し苦
の友人だったからでした。
しかし、
「楽園」
を
イを書いてくださいとの依頼を受け、
はたと
労しましたが何とか入学できました。
謳歌していた私にはそんな殊勝な友人が
困ってしまいました。
そこで、
どんな内容が
04
いるはずはありません。一週間ほどして
「す
良いですかと尋ねると、内容は問いません
当時の京都大学は学生に対して全くの
みません、誰もいません。」
と返事をしまし
が、研究への想い、最近の世の中を見て心
放任でしたから、大学に入ってもフラフラ
た。ただ、その時ふと魔が差したのかもし
に浮かぶ事、班員の皆様への喝(?)
とか、 していました。当時の医学部は入学後の2
れませんが、
「 私でも良かったら…..。」
と口
とのコメントをいただいた。半生を自分で
年間は医学進学課程と称して一般教養の
走ってしまいました。せっかく言ってもらっ
書けるほど立派な仕事もしていないし、領
みを学び、3-6年の4年間で医学を学ぶシ
たのに申し訳なく思ったからその言葉を発
域に参加されている方々に喝を入れるほど
ステムでした。私たちの時代の京大の医学
したのか、今でも理由は判然としません。私
の偉い人間でもないので….、
とずっと悩み
進学課程は今の学生さん達からはおそら
の言葉を受けて、村地先生は「最初からそ
続けて原稿締切の直前になってしまいま
くは想像出来ないレベルの
「楽園」
でした。
の
(私を誘う)
つもりだった」
というようなこ
した。川原先生から
「個人的には研究をス
あまりにも赤裸々に真実を書くと問題があ
とを言われたと思います。
「しまった….。」
と
タートさせた頃の話が・・」、
とのコメントも
るかもしれないので、残念ですけど詳細は
あったので、責任を押しつけるわけではあり
業を迎えることができました。
気の原因を明らかにしてそれをターゲット
体をいただいて研究しているのですが、病
にした治療法を開発したいと思うようにな
気になってからの状態を見ているだけで病
将来の進路に関してですが、これも非
り、大学に戻って研究をしようと思いまし
因に迫る研究が出来ていないように感じて
後悔しましたけれど時すでに遅く、私は3年
常に適当に決めました。祖父、父が内科医
た。
ただし、病気orientedでしたから臨床
いました。
そこで、指導教員に無理をお願い
記載しないことにします。私は一般の学生
生の夏休みを村地研究室(病態研)
で過ご
だったこともあり、何となく内科医になるこ
の教室で研究をと思い、
内科の大学院生に
して基礎の免疫系の研究室で膠原病のモ
ませんが、何を考え、研究者としての人生を
の例に漏れず、その楽園を謳歌していまし
し、ゲル濾過やHPLCを使ったカルパイン
とにした感じです。内科でも何を専門にし
なろうと思いました。当時の私は本当にい
デルマウスを用いた自己抗体産生機序の
送るようになったのかを書いてみることに
た。
今ふり返れば、
もっと真剣に自然科学だ
精製やプロテアーゼの活性測定などの実
たいかとかは全く何も考えていませんでし
い加減で、何となく研究したいと思っただ
研究をすることにしました。基礎の研究室
しました。私の人生の選択があまりにも受
けでなく、人文、社会科学も学んでおくべき
験のまねごとをすることになりました。
やっ
た。私が卒業した当時(1985年)
は無事医
けで、
どの疾患を研究したいとか明確な目
に内科の研究室の先輩が助手としておら
動的なことに驚かれるかもしれませんが、
だったと深く反省しています。
その2年生の
てみると実験は楽しかったですし、研究室
師国家試験に合格すれば大学付属病院で
的は全くありませんでした。内科には色々
れて研究指導してくださったのですが、私
若い人たちの参考にでもなればと思ってい
冬のことだったと思いますが、
自宅に1本の
のメンバーもユニークな方が多く良い経験
研修医をするのが普通でしたが、私の実家
な研究グループがあり、
どこかに決めて大
が研究を始めて5ヵ月ぐらいで留学に出ら
ます。
電話がありました。
この電話が私に研究者
になりました。
それに、
タンパク質分解が単
が大学病院からあまりにも近く
(徒歩5分:
学院に入学しますが、
どのグループにする
れたので研究指導者が不在になり、途方に
としての人生を送ってもOKと思わせるきっ
なるゴミ処理では無いことも理解できまし
授業にたまに出ても、友人からは散歩に来
かで困りました。学生時代にはほとんど授
暮れました。
というのは、
その基礎の研究室
まずは、大学の選択から。何となく京都
かけになったのだと思います。
「君の同級生
たし。今になってみると、魔が差したように
ただけやろ?と揶揄されていた)、家から離
業に出席していないので、
グループを主宰
は胸腺、T細胞の研究をしている研究室で、
大学を選びました。理由は家から近かった
で、研究室で実験のアルバイトをしてくれる
発した一言が、私がユビキチンを研究する
れたくて当時には珍しく神戸の病院で研修
されている先生方を全く知らなかったから
B細胞の研究をしている人は留学に出た助
からだけです。京大が私の通った小学校の
学生さんを知りませんか?」当時京大の臨
きっかけを作ったのかもしれません。大学
医をしました。
この時は父の意見は受け入
です。そこで、研修医の一年先輩で前年に
手だけだったからです。
しかし、教授の厚意
校区内にあるのだから、仕方ありません。半
床検査医学の教授をされていた村地孝先
院生になってから知ったのですが、
「楽園」
れませんでした。
それぐらい、実家から出た
内科の大学院に入学された方に相談した
もあってそのまま研究を続けることが出来
分冗談で、父に東大に行きたいと行ったこ
生からでした。
ユビキチンの研究者でご存
を有意義に活かして研究室に出入りしてい
いとの思いが強かったのでしょう。私が研
ところ
「免疫グループって楽しそうやで。」
と
ました。
ただ、
自分だけで研究のデザインを
とがありますが
「貧乏なので無理。
おまえは
じの方はほとんどおられないでしょうが、
た同級生も数多くいたようです。
私がもう少
修をした病院は日本でもトップレベルの病
言われ、顔も声も知らない先生が主宰され
して実際に実験をする日々でしたし、間借
東大向きの人間じゃない。」
とにべもなく却
村地先生はプロテアーゼを研究する生化学
し真面目な学生で彼らのことを知っていた
院だったので、数多くの症例を経験するこ
ている免疫・膠原病グループの一員になり
り状態ですから、
出来るだけ研究費を使わ
下されました。後者に関してはなぜ東大向
者で、
カルパインの命名者です。
もう昔話と
ら、
このエッセイを書くことはなかったかも
とが出来ました。
ただ、何となく決められた
ました。教授にお願いすれば適当に配属を
ず、研究試料を手作りで作ったりする日々
きでは無いのかきっちりと理由を聞いてお
思っていただいていたようですが、
その後重
しれません。その後も、私は先輩に誘われ
プロトコールに沿って治療をしているだけ
決めてもらえたのでしょうが、
そうしなかっ
を送りましたが、
自分が自分のデータ、研究
けば良かったと少し後悔しています。学部
点領域研究でお世話になった鈴木紘一先生
て心臓外科がやっていた羊を用いた人工
の様に思えました。
当時は、例えばCMLに
たのは天の邪鬼な性格のためでしょうか。
成果に責任を持つ必要に迫られたことは、
は医者になりたかった訳ではなく、
どちらか
には村地先生との逸話は長い間話すこと
心臓の実験を見せてもらったりはしました
対するグリベックの様な病因をターゲット
というと高校時代は医者になりたくなかっ
が出来ませんでした。村地先生とはプロテ
が、何をするわけでもないフラフラとした学
とした治療法はほとんど開発されていない
晴れて大学院生になって、患者さんやヒ
り返れば良いトレーニングになったように
たのですが、医学部を選んでしまいました。
アーゼの名称をはじめとして、
ライバルで
生時代を送りました。京都大学だからこそ
時代ですから当然のことだとは思います。 トのマテリアルを用いて膠原病の研究に従
思います。
また、臨床よりも研究に心が傾き
祖父、父が医者だったので、医学部って洗
あった時期が長かったからです。村地先生
だと思いますが、それでも何とか無事に卒
日々多くの患者さんと触れ合ううちに、病
始めたのもこの時期だったように思います。
非常に辛かったのは事実ですが、今からふ
事しました。病気の患者さんから貴重な検
05
役立たずの私に研究費を使わせてくださっ
た。当時はまだタンパク質分解は単なるゴ
のendocytosisにおける役割を明確にし
の研究を続けていました。臨床研カンファ
たことや単なる偶然がなかったら:村地先
た桂義元教授には本当に頭が下がる思い
程で、医者は好きな仕事だったのですが、 ミ処理みたいに思われていた時代です。分
た彼女の出世作のCellの論文のpublish
レンスではVHLがCul2と複合体を形成す
生に魔が差したような返事をしなかったら
です。
おそらく医業からは足を洗って研究者で生
解に目を向けることが出来たのはおそらく、
前で、Meetingで色々と工作するのを目
ることを発表したと思います。Arnimと色々
…、FASEBのMeetingに行こうと思わな
きて行くことになるのだろうなあと思いだし
大学生の時にカルパインに少しだけですけ
の当たりにしました。あのMeetingの後、 と話すとVHLはCul2と結合してHIF-1α
かったら…、Arnimが臨床研カンファレン
ていました。
ど手を染めていたことが幸いしたようです。
彼女はあっという間にユビキチンの世界
をユビキチン化すると思うのだけど、証明
スに呼ばれていなかったら…、
おそらく全く
ユビキチン化されることは検出出来ません
のrising starになりましたから、本当に
できない…。スイスのグループもやってい
違った人生になっていたでしょう。今も内
大学院を修了するのに1年余分にかか
を巡るてんやわんやの日々を送っていく過
りましたが、その後、留学の機会を得まし
た。
リンパ球が抗原を認識してどのように
1993年からNIHで実験を始めました。
でしたけど、no reviseで受理されました。
参考になることが沢山ありました。それと
て負けてしまう…。
と言う話でした。私はそ
科医だったかもしれません。
それと、人との
機能を発現するようになるのかを分子レ
最初に取り組んだのは鉄代謝制御因子
そろそろ日本に着地したいと思っていまし
Aaron Ciechanoverさんとお友達になっ
の年の5月にイスラエルのCiechanover
出会いの大切さを感じています。留学時の
ベルで理解したいと思い、T細胞抗原受
IRP1、IRP2のノックアウトマウスの作製。
たが、
さすがに鉄では全く誰にも相手にさ
たのもこの時です。Klausner研の友人が
さんの研究室に1ヵ月滞在してin vitro
研究室はユビキチンとは全く無縁の研究室
容体からのシグナル伝達の大御所の米国
今と違ってゲノム配 列は判っておらず、
れないだろうと悩んでいました。実際に内
Ciechanoverさん宛の手紙を書いてくれ
ubiquitinationの手法を教えてもらってい
でしたけど、
そのときの知古が色々と助けて
NIHのRichard Klausner博士を志望し
DNAシーケンスはRIを使い自分でゲル
科の教授から一度電話があったのですが、
て、
それを渡したのがきっかけです。田中先
たので、京都で実験できるかも…。
と話をす
くれたのだなあと痛感しています。
ました。
しかしです。Klausnerさんからは
を作って泳動して目で配列を読む時代で
「鉄?どの疾患と関係があるの?」
と言わ
生にはその後日本に戻ってから今日に至る
ると、旅程を変更して臨床研カンファレンス
留学に来てもOKとは言って頂いたのです
すから、大仕事です。ゲノム断片をphage
れて答えに窮し、
もう臨床は無理だと自覚
まで本当に良くしていただいています。
ふり
の後1週間ほど京都に滞在して一緒に実
ただ、もっと積極的に自分の人生を切
が、
「 T細胞抗原受容体からのシグナリン
vectorからクローニングして、制限酵素で
させられました。その頃、せっかくアメリカ
返ってみれば、
このFASEB conferenceに
験をし、
ユビキチンリガーゼであることを示
り開くことの意義もお伝えしたいと思いま
グの仕事は辞めたので、鉄代謝制御機構
mappingしてコンストラクトを作りました。
にいるので、
アメリカでの学会に参加しよ
出席したことは大きな転機だったのだなあ
せそうな感触を得ました。
その後、3ヵ月ほ
す。実名は控えますが、私の助手、助教授
をやるのだったらね」
との条件付きでした。
Post-doc時代に全く成果がでないのでは
うと思い、見付けたのがFASEB summer
と実感しています。Meetingの写真があり
どでVHLがユビキチンリガーゼの基質認
時代に京大で一緒に実験をしてくれた神
Klausnerさんはかなりの大物研究者で、 と不安になり、誰もやらずに放置されてい
research conferenceの
「ユビキチン」。
ましたので小さいですが添付します。
識サブユニットであることを示して、論文化
経内科出身の大学院生は神経変性疾患
色々な先生方のお世話になってやっとOK
たプロジェクトも進んで手がけました。そ
1 9 9 5 年 のことです。そこで、初めて田中
出来ました。論文化の過程でArnimと色々
を専門としている研究室に留学をして素
をもらえたので、断ることは無理で、承諾。
の1つが鉄代謝制御因子IRP2の鉄依存
啓二先生にお会いしました。演者のリスト
1996年に日本に帰国しましたが、結局
と話すうちにArnimがユビキチン研究の世
晴らしい業績を上げ、現在は日本のある
公私に渡り色々な要因があったので他の
的活性制御機構の研究でした。抗IRP2抗
にあった、ただ1人の日本人、それが田中
は基礎系の免疫の研究室に戻ることにな
界の動向に関する色々な情報を次々と入
大学で研究室を構えています。彼は、留学
選択肢がなかったのも大きな理由ではあっ
体の作製、精製その他全て自分でやりまし
先生でした。
日本では免疫の世界しか知ら
りました。教授のお仕事をお手伝いしつ
手するのを知り、
日本が如何に情報から隔
に際し自分でapplicationの手紙を書き、
たのですが、詳細は省略します。
ただ、
その
た。大学院時代の間借り生活で身につけ
なかった私は不徳にも田中先生を全く存
つ、鉄とユビキチンの研究をさせてもらい
絶されているのかを思い知らされました。
post-doc interviewに行ってpositionを
経緯のおかげで免疫は廃業することになり
た技術が助けてくれました。Klausner研
じませんでした。Meeting中はKlausner
ました。幸い神経内科から来た大学院生
まあ、
それが日本の良さ、強さでもあったの
得ました。彼がapplicationの手紙を書い
ました。鉄を研究することには納得したつ
究室のメンバーでそんな下働きをする人は
研の仲間の友人のLinda Hickeたちとつ
が、免疫よりも鉄の方が自分の領域に関
ですが。VHLが家族性疾患の責任遺伝子
ていた2000年に、
その年のLasker賞の受
もりでしたけど、知り合いの先生からは
「リ
いなかったのも幸いしたみたいです。その
るんでいたので、田中先生も私のことを
「あ
係ありそうと言って、一緒にやってくれまし
で、腎細胞ガンのtumor suppressorだっ
賞が内定していたCiechanoverさんが私
ンパ球を止めて赤血球をやるんか?」
って
抗体を用いたりしてIRP2が鉄存在化での
の日本人だれ?」
って思っておられたらし
たので、
その学生1人と私の0.5人分ぐらい
たので、
この成果は2001年に大阪市大で
の研究室に滞在していました。彼は自分で
言われたときは凹みました。
また、
この留学
み分解されることを見出して論文化しまし
いです。
ちなみに、Lindaはまだユビキチン
で自分達の仕事をしていました。研究費は
職を得る時に大きな力になってくれました。
Ciechanoverさんに推薦状とpost-doc
鈴木紘一先生の重点領域研究に加えても
Arnimとの共同研究がなければ、今の私は
インタビューのpresentationもチェックを
らって本当に助かりました。副業みたいな
なかったかもしれません。2001年に大阪
依頼しました。後年になってCiechanover
状況ではありましたが、
自分の研究を続け
市大で職を得て、IRP2のユビキチンリガー
さんから聞いたのですが、彼の留学先の
ることが出来る環境を与えてもらったこと
ゼとして同定したのがHOIL-1です。その
Bossが採用を決めたのはCiehcanover
に、当時の指導教授であった湊長博先生
後、HOIL-1のlong isoformであるHOIL-
さんの推薦書が大きな決め手の1つだっ
には本当に感謝しています。人生悪いこと
1Lのbinding partnerとしてのHOIPの
たようです。当時の私の研究室、実績は弱
だけではなく、時々幸運もあります。1998
同定と、直鎖状ポリユビキチン鎖の発見、
小研究室のそれ以外の何者でもありませ
年11月に田中啓二先生が主催された第
SHARPINの同定等があり、現在の直鎖状
んでしたが、そこで頑張った学生さんが、
13回臨床研カンファレンス“Ubiquitin
ポリユビキチン鎖の研究に繋がっています。
Ciechanoverさんが研究室にやってきた
and Proteasome: A New World of
このあたりのことは、別に書くこともないの
ことをpositiveに活かそうとした積極性が
Proteolysis”がそれです。田中先生が招
でこのあたりで筆を止めようと思います。
彼の人生を切り拓いたのだと思います。
代わりにKlausner研の同僚だったArnim
私のキャリアのはじめの頃をふり返って
おそらく、成功談を聞くことはあっても、
Pauseが来日しました。Klausnerさんは
みると、
「これがしたい!」
とかpositiveに
こんな話を聞かれることは少ないと思い、
私の留学中に米国のNational Cancer
決断していったことはほとんどなかったの
だらだらとくだらない文章を書いてしまい
Instituteの所長に就任したので、ガンの
だなあ、
と言うのが実感です。
ただ、
自分で
ました。若手の方に喝を入れることは出来
研究に手を染めることになったのですが、
は運が悪い人生だと思っていたのですが、
ないと思いますけど、何かのお役に立てば
Arnimはその先兵としてVHLの研究に従
自分が感じていたほど悪くはないですね。 と思います。
事していました。
ドイツに戻ってからもVHL
反省です。
ただ、
あまり深く考えずに行動し
待されたStefan Jentschの都合が悪く、
06
07
REVIEW
& ESSAY
できる環境を目指しました。
そこで、得るこ
私の研究:現在まで
とが出来たものが理化学研究所免疫アレ
化による制御をNatureに発表しようとし
ルギー科学総合研究センター(RCAI)での
ている情報を、平野先生から頂いたので
チームリーダーとしてのポジションでした。 した。彼は、MARCH-Iを発見したのでは
石戸 聡(昭和薬科大学・統合感染免疫学研究室)
MARCH-Iによる制御の意味は?
なく、MHC class II自身のユビキチン化
一 命 を 取 り 留 め 、よ し 行 くぞ!と
を頂き、大変驚き、
また、全く信じることが
を生化学的に証明し、
ユビキチン化による
MARCH-I KOの免疫学的phenotypeの
できなかった事を覚えています。
MHC class IIの輸送機構、
ユビキチン化
解析に力を注ぎました。様々な遺伝子改変
の制御に関して報告しようとしていました。
マウスを作成し、検討した結果、至った答
私は、その酵素であるMARCH-Iを見出し
えは、MHC class IIのユビキチン化が消失
たので、Natureのback to back論文とし
すると樹状細胞(強力な抗原提示細胞)
の
回、研究紹介の機会を頂きました昭和薬科大学の石戸でございます。
はじめにこのような機会を頂きました
単に、過剰発現させていた結果を、RCAI
て発表できるのではと思い、徹夜で論文を
機能が抑制されるというものでした。Ira、
川原裕之先生に深く感謝致します。昭和薬科大学に赴任して3年目でまだまだ、大変な状態ではありますが、
のDirectorの先生方に信じて頂き、感謝
仕上げて投稿しました。
しかし、
なんと、12
Philippeらの唱えている、
「MHC class II
と驚きと大きな不安を抱えてRCAIに行く
時間後にメールにてrejectされてしまいま
のユビキチン化消失が活性化に関与する」
決意をしました。本当に、MIRファミリーが
した。様々なjournalに投稿し、最終的に
と一見矛盾する結果です。
この違いは、多
免疫制御分子なのか??正直、MIRファミ
EMBO Journalが採択してくれました。本
分、
ユビキチン化消失後の時間経過の違い
リーと心中するつもりで理研に赴きまし
当に、安堵しました。確か、
クリスマスあたり
によって生ずるのではと考えています。下
インの類似ドメインを持っており、2つの
た。RCAIにて、MIRファミリーの生理機能
でacceptされ、
ネオンがこんなにも美しい
図が私の仮説です。
すなわち、
「感染早期で
今までの研究生活を振り返ってみたいと思います。少しお付き合い頂ければ幸いです。
それはウイルスから始まった
兎に角、JJのlabにてMIRの研究に没頭し、
私が本格的に研究を始めたのは、発ガ
いくつかの成果を挙げることが出来た事が
膜貫通領域を持っている分子群が存在す
を調べるべく、
すべてのファミリーメンバー
ものかと、
しみじみ思ったものです。
この報
は、
ユビキチン化の消失による抗原提示機
ンウイルスであるC型肝炎ウイルスの発ガ
現在の私の基礎となっています。
る可能性をdatabaseから得ました。
これ
のknock outマウスを作製しました。
そう
告で、私は、MARCH-Iの発見者として一躍
能亢進により、適正な免疫応答が始動され
らをMIRファミリーと名付けました。MIR
すると、驚いたことには、MHC class IIを
有名になりました、
と言いたいのですが、
な
るが、
ユビキチン化の消失が持続した場合
ウイルスから免疫、
分子細胞生物学へ
ファミリー分子を人為的に片っ端から発
制御していたのはc-MIRではなく、c-MIR
んと、我々の報告の数カ月後、Ira Mellman
(感染後期を想定している)、樹状細胞に
現させ、免疫システムに関連する膜タンパ
の相同分子であるMARCH-Iと呼ばれる
の弟子であるDr. Philippe Pierreが、免疫
抑制のシグナルを惹起させ免疫終息を導
ク質のユビキチン化、抑制を調べると、い
MIRファミリー分子でした。
この結果には
活性化によりMARCH-IによるMHC class
く」
との仮説です。
このように、私は、
ユビキ
けたのがきっかけであります。
当時は、細胞
MIRは、2つの膜貫通領域を持つ膜結
くつかの分子がウイルスMIRと同様の機
大いに勇気づけられ、安堵したものです。
す
IIのユビキチン化が抑制される事を発表し、
チン化の消失によって免疫始動と、終息の
にトランスフェクションをしてC型肝炎ウイ
合型E3ユビキチンリガーゼであり、免疫
能を持つ可能性を見出しました。
この中で
べてのKOに何もphenotypeがなければ
免疫活性化の機構の一つとしてMARCH-I
両方が行われていると考えています。
このこ
ルスのタンパク質の分子相互作用を研究
を起動するMHC class Iを標的とするも
特にc-MIRと名づけた分子の活性が強く
終わっていました。
これで、MHC class II
の抑制が貢献しているとの仮説を打ち立て
とを検討することは、かなり困難を極める
していました。
その中で、
ガン抑制遺伝子で
のでありました。極めて強力な活性を持っ
注目に値するものでした。
がMARCH-Iによりユビキチン化によって
ました。現在は、我々の仕事と、Philippeの
ことと思われますが、
この仮説の検討の為
あるp53が非構造タンパク質であるNS3と
ており、MHC class I等の免疫制御膜タ
制御されている事を世界に発表できる!
仕事、Iraの仕事が共にreferされているよ
に、MARCH-I、
ユビキチン化の制御機構を
相互作用していることを見出しました。分
ンパク質分子をユビキチン化することに
と意気揚々としていました。がしかし、、、 うです。
かなり、
きわどい発表でした。少しで
紐解こうとしております。
その制御が判明す
子が複合体を作ることは明らかに出来ま
より細胞表面からエンドサイトーシスを
なんと、MHC class II研究領域の大御
も遅れていれば、多分EMBOには採択され
れば、制御機構を変調させることにより検
したが、結合によるガン発生との関連性を
誘導し、
リソソームにて分解します。MHC
c-MIRおよびその類似分子群の存在の
所である当時Yale大学におられたDr. Ira
なかったでしょう。私はこの論文で、理研で
討することが出来ると考えています。残念
見出すことは出来ませんでした。
そこで、他
class Iは細胞傷害性T細胞による認識傷
可能性を見出したことは、私にとってびっく
のガンウイルスによる発ガン機構を見出し
害に必須の分子である事から、MIRによ
りでした。
なぜなら、c-MIRはMHC class I
たいと思い、
さらに、一度海外で自分の可
るMHC class Iの抑制は、ヘルペスウイ
ではなく、MHC class IIを顕著にユビキチ
能性を試したいと考え、米国ハーバード大
ルスによる宿主免疫回避に関与している
ン化し抑制するタンパク質であったからで
学のDr. Jae U Jung(以下JJと呼びます) と考えられます。私はMIRを手に入れる事
す。私はこの結果を前向きに考え、生体内
のもとに行きました。JJは、年間にJournal
によって、ユビキチン化による膜タンパク
にてc-MIRによるMHC class IIのユビキ
of Virologyに多い時は12本(要するに
質輸送、免疫学に強い興味を持つに至り
チン化制御が存在すると考えました。
この
毎月)
の論文を発表している大変activeな
ました。そして、神戸大学の掘田先生の研
projectを続けるにあたって、研究費の獲
若手研究者でした。彼からもらったカポジ
究室に戻して頂いたのですが、私は、アメ
得に奔走しました。幸いにも、当時理研免
肉腫関連ヘルペスウイルスによる免疫回
リカから持ち帰ったMIRの仕事の発展に
疫センターのグループディレクターであら
避機構のプロジェクトが大当たりし、大変
取り組ませて頂きました。まず、MIRの起
れた平野俊夫先生の特定領域研究の公募
興味深いMIR(Modulator of immune
源について興味を持ちました。なぜなら、
班員として研究サポートを頂くことが出来
recognition)と名付けられたE3ユビキチン
様々なウイルスタンパク質が、我々宿主の
ました。平野班に入れていただいたことが、
リガーゼの発見に至りました。
このMIRの
持つ機能分子と機能的に類似しているか
私のもう一つの転機となりました。
ここまで
発見が、現在の私の基礎を作っています。
らです。興味あることに、MIRはRINGドメ
の結果を論文にまとめ、
それをもとに、研究
ン機構の解明からです。分子生物学を用い
て、研究活動をしたいと思っていたところ
に、神戸大学にてC型肝炎ウイルスの研究
をされていた掘田博先生からお誘いを受
08
の一命を取り留めたのでした。
採用に関して、谷口克先生から直接お電話
MARCH-Iの発見
今
Mellmanが、MHC class IIのユビキチン
新天地を求めて
09
REVIEW
& ESSAY
ながら、
この段階にて、RCAIの改組により
時間切れとなり、RCAIは新たな研究組織
最後に
IMSとなりました。
これは、
かなり悔しい事
以上の事は、1995年から、現在までの
でありましたが、仮説の検証のため新天地
20年間の簡単なまとめです。
この間に、私
を求める事とあいなりました。
事としては、子供を得、異国での生活をし、
様々な方々と交流させて頂きました。やは
10
原核生物からユビキチンの
起源にせまる
そして、昭和薬科大学へ
り、excitingである事は、多くの著名な研
この移動は、私にとって極めて重要なも
いくところです。正直、神戸大学にて研究を
のとなりました。RCAIにてMARCH-Iを発
開始した当時には、現在のようになれると
見し、2007年にその報告を切り抜けた後、
は全く思ってもいませんでした。単に、
ウエ
私は自ら研究を行わず、
もっぱら研究員の
スタンでバンドが出ること、結合を見ること
結果をもとに研究を進めていました。
しか
ぐらいで、大変エキサイトしていました。
し
し、昭和薬科大学への移動により、私自身
かしながら、
こうして振り返ってみると、大
でRCAIでの研究再現を行う機会を得る
した仕事、結果ではなかったけれど、それ
ことになり、
かなり体も動くようになりまし
ぞれの時点で挑戦し続けている事が次の
た。やはり、
自ら実験し、結果を見ることは
道を切り開いているのであると言う事が見
エキサイティングであり、様々なアイデア
えてきます。JJのところに行った事、谷口克
も浮かんでくるものと実感している毎日で
先生のRCAIへ行ったこと、すべての挑戦
す。当たり前ではありますが、RCAIとは違
が色々な研究者と引きあわせ、私を成長さ
い、教育、大学業務のウエイトがかなり多
せてくれました。
これからも、
さらに、挑戦を
く、大変ではありますが、curiosity base
続けます。私の話が、皆さんの将来への参
で研究できるので、
ある意味のびのびと私
考に少しでもなれば幸いです。次にこのよ
いきなり昔話からで恐縮だが、大学院
けている。
の仮説の検証を行っています。現在、MHC
うな機会を頂くことが出来ましたら、MHC
生の頃は酵母の研究をしていた。
パン酵母
超好熱菌とは好熱菌の中でも最も高い
class IIユビキチン化消失の意義に関して
class IIのユビキチン化による制御機構の
も実験に用いていたが、あくまでもツール
温度で生育するグループを指し、一般的に
は、MHC class II beta鎖のC末にユビキ
全体像の御紹介ができる事を信じて筆を
としてであり、主たる研究対象はn-アルカ
は、至適生育温度が80℃以上である微生
全生物は真核生物と原核生物に分類さ
チン分子をin frameにてつないだ変異型
置かせて頂きます。
ンで生育する特殊な酵母であった。本酵母
物群と定義される。超好熱菌に属する生物
れ、
さらに原核生物はバクテリア
(細菌)
と
MHC class IIを発現させる事により、活性
(Candida tropicalis )
をn-アルカンで培
は、
全てが原核生物であり、
大半がアーキア
アーキアに分類される。
アーキアに属する
化によってもMHC class IIのユビキチン化
養すると、
アルカンの変換により生じた長
(古細菌)
に属する。超好熱菌は、1980年
好塩菌やメタン生成菌などは、古くからそ
が持続するようにし、検討を開始しました。
鎖脂肪酸の代謝に関わる酵素群が、
それを
前後より次々と発見され、現在、実験的に
の存在が知られてはいたものの、特殊な種
興味あることには、
このマウスでは12ヶ月
内包するオルガネラ
(ペルオキシソーム)
と
確認されているその生育上限は122℃に達
類のバクテリアだと考えられてきた。1970
頃までに、多核巨細胞が頻出し削痩が生じ
共に誘導合成される。
当時はこのような酵
する 。超好熱菌は、
その存在自体が純粋な
年代後半に、米国のCarl R. Woeseは、
こ
死亡します。
このマウスでは、MHC class II
素群の転写誘導機構の解析をしていた。今
驚 き で あり 、そ の 解 析 に より 生 物 の
れらの生物群は、バクテリアとは系統学的
究者と交流することにより、研究が進んで
金井 保(京都大学大学院工学研究科)
本
領域の名称が示す様に、現在、
ユビキチンの機能はプロテアソームが関与するタンパク質分解に留まらず、細
胞内の様々な機能に関与(拡大)
することが認識されつつある。
このような
「ユビキチンネオバイオロジー」
の
時代において、本稿の読者は、
ユビキチンの新たな機能の理解を目的として、
日々研究を進めているであろう。
だが一
方で、
このように多彩な機能をもつユビキチンは、一体どのように発生したのであろうか?その進化的な源流を探る
ことは果たして可能なのであろうか?これらの問いへのヒントになるかもしれない遺伝子群が、最近、原核生物で発
見された。本稿では、原核生物で初めて発見された真核生物型ユビキチン様システムについての私たちの実験結果
を、
その研究背景と共に述べたい。
Ⅰ)
好熱菌との出会い
酵素や代謝経路の同定、
並びにその制御機
産業応用の観点からも注目されている。
構の解明などを中心に、現在に至るまで続
1)
Ⅱ)
アーキア
のユビキチン化によって胸腺のT細胞選択
でも常識破りの「アウトロー的」微生物に
habitability(生存適性)
に対する我々の認
に全く異なる存在であるとし、真核生物と
に異常があるため、骨髄キメラを作成する
惹かれてしまうのは、
この様な出自と関係
識を大きく拡大させた。
このような(超)好
バクテリアに並ぶ第3のドメイン(domain)
ことによって、その問題を回避し検討中で
が無いとは思えない。
熱菌の発見と時期を同じくして、他の極限
の構築を提唱した。
アーキアは膜脂質にイ
す。
まだ、検討が始まったところであります
さて学位取得後に、
どのような研究分野
的環境(高酸性、高アルカリ性、低温、高塩
ソプレノイド構造やエーテル結合が存在す
が、興味ある結果が得られています。
このマ
に進もうかと思案していたときに、
超好熱菌
濃度など)
にも、
それらの環境に適した生存
るなど、他のドメインには無い特徴をもつ
ウスの異常の解析から、MHC class IIの
の研究をしているラボの存在を知り
(京都
戦略を示す微生物群が生息していることが
一方で、
セントラルドグマ等の基盤的な生
ユビキチン化消失の意義を訴えてまいりま
大学大学院工学研究科、今中忠行教授)、
明らかとなり、
これらの生物群を総称して極
命機構は、明らかに真核生物型システムと
す。
やっと、移転も終了し、後押しを得ること
そこにポスドクとしてお世話になることに
限環境微生物(extremophiles)と呼ぶ。極
の系統学的類似性が見られる。
アーキアが
が出来、
これからだ!と活力を得るに至って
なった。
こちらでは鹿児島県トカラ列島の
限環境微生物は、
それら自身の生命戦略の
プロテアソームをもつことも、真核生物との
おります。
硫気孔より単離された超好熱性アーキア
解明も興味深いが、それ以外でも例えば
類似性のひとつである。
この様な特徴から、
Thermococcus kodakarensis(至適生
PCRで用いる耐熱性DNAポリメラーゼに
真核生物はアーキアに近い原始生命体を
育温度85℃)
を超好熱菌研究におけるモデ
代表されるように、過酷な環境でも機能す
母胎として発生し、
その途中過程でミトコン
ル生物と位置づけ、本菌がもつユニークな
る優れたバイオマテリアルの供給限として、 ドリアや葉緑体の起源となるバクテリアを
11
共生させて大きく進化した、
と考えられる。
パク質とリジン残基と通じて結合する5)。
ア
他方で、真核生物に特有の生命システム
クチノバクテリア門はBacteriaとしては例
(サイクリン・CDK系、MAPKカスケード、
イ
外的にプロテアソームをもち、Pupはプロ
ノシトールリン酸系など)
も存在することか
テアソームのATPase サブユニットである
Caldiarchaeum subterraneum は
Ublに成熟化機構が存在することが予想さ
ら、
これらのシステムは真核生物として分岐
Mpaと相互作用する。
またPup欠損株で
(独)海洋開発研究機構の布浦拓郎博士ら
れた。
さらにmUbl-E1複合体形成条件に、
してから獲得したと考えられてきた。
しかし
はプロテアソームの基質タンパク質が蓄
により国内地下金鉱の熱水環境中
(69°C)
近年のゲノム情報の蓄積により、真核生物
積することから、Pupはプロテアソームを
で発見された好熱性アーキアである 。本
に特有と考えられてきたシステムのいくつ
経由したタンパク質分解に関与すると考
菌は、培養可能な生物種が見つかっていな
かは、
その原型がアーキア
(の一部)
に存在
えられる。このようにPupは機能的には
い好熱菌のグループ
(Aigarchaeota門)
に
とから、mUblとE2が直接反応するのでは
その様な
することが明らかになってきた 。
Ubとほぼ同等であるが、Pup およびPup
属し、本菌もまた培養法が未確立である
無く、Ubの場合と同様にmUbl-E1複合体
例の一つとして、私たちのグループでは好
化に関わる酵素群はUb化経路の酵素と (つまり単離できていない)。
しかし本菌を
を経由してmUblがE2に受け渡されると考
熱性アーキアに発見された真核生物型ユ
は相同性が無いことから、Pup系はUb系
優先して含む微生物マットより作製した
えられた。
ビキチン様システムに注目し、その生化学
とは独立して進化したと考えられている。
fosmid libraryを用いてメタゲノム解析を
続いてE3タンパク質としてRING finger
的な機能検証を進めている。
2)好塩性アーキアで発見されたSAMP
行った結果、1,680,938 塩基対から成る
domainをもつCSUB_1477 遺伝子を大
( S A M P 1とS A M P 2の2種が知られて
本菌の全ゲノム塩基配列が決定された。
ゲ
腸菌で発現させた場合には、発現タンパク
2)
行った結果、mUblのみがATP依存的にE1
と複合体を形成した(図3左)。従って、本
E2を添加することで、mUbl-E2複合体が
8)
図2 C. subterraneum のユビキチン様遺伝子周辺の遺伝子構造
形成することを確認した
(図3右)。
この複
合体形成はE1が無い場合には起きないこ
Ⅲ)原核生物における
ユビキチン様タンパク質
いる)は、U bと同様β- g r a s p 構 造をも
ノム情報からの推測により、本菌は酸素あ
質は不溶化した。本タンパク質は75 aaと
ち、C 末 端にG l y - G l y m o t i fをもつ 。
るいは硝酸イオンを電子受容体として、水
非常にコンパクトであることから、
すぐ下流
S A M P 化タンパク質はプロテアソーム
素を酸化して獲得したエネルギーにより二
の機能未知タンパク質(CSUB_1478)
と
ユビキチン(Ub)は真核生物にのみ存在
変異株において、
その量が変化することが
酸化炭素を固定して生育する、化学合成
協調してはたらく可能性を考えた。そこで
するが、
ユビキチンに高次構造が類似した
判明している。
タンパク質のSAMP化機構
独立栄養生物であると予想された。
ユビキチン様(Ubiquitin-like, Ubl)
タンパ
の詳細は不明であるが、MoeBとSAMP
本菌のゲノム上にはThiSやMoaDなどの
ク質は、原核生物にも広く分布している
(図
の 複 合 体 が 検 出されていることから、
Ubl遺伝子も存在するが、
それ以外に真核
で発見されたUbl系においては、E2, E3の
1)。ThiSとMoaDは原核生物にのみ存在
MoeB がSAMPの活性化に関与すると
生物のUbに極めて近縁なUbl遺伝子が見
各ホモログ遺伝子は見つかっていない。
する100 aa以下の小タンパク質であり、共
考えられている。一方でE2やE3のホモロ
つかった
(図1)。本UblのGly-Gly motifの
従って本菌のUbl系は、真核生物のUbシス
にC末端にGly-Gly motifをもつ。
これらの
グはゲノム上にはなく、相当する反 応を
後には、
さらに9 aaの配列が存在すること
テムの全構成因子を含む、原核生物では初
真核生物のUbシステムは生物種間の
活性を示すかを確かめるために、
Ubl化基質
タンパク質は、補酵素であるチアミン二リ
触 媒する因子が存在するかも不明であ
から、Ubと同様に成熟化プロセスの存在
めての例である。真核生物がアーキアを母
保存性が高いことから、解析を行っても進
としてUbシステムをもつパン酵母の細胞抽
ン酸やモリブドプテリンの合成にそれぞれ
る。
3)高度好熱性細菌であるThermus
が予想された。
また驚くべきことに、本Ubl
体に誕生したとすれば、本Ublシステムは真
化的観点からの考察は困難である。一方
出液を添加して50℃で反応させた。
反応溶
関与し、硫黄原子の導入反応におけるキャ
thermophilus においても、tRNAの硫黄
遺伝子の下流にはE1, E2, E3(RING-
核生物のUbシステムの祖先的存在である
で、真核生物型Ubシステムの祖先的存在
液に対して抗Ubl抗体を用いたWestern
リアタンパク質として機能する。その過程
修飾に関与するキャリアタンパク質である
finger type)の各ホモログ遺伝子が存在
可能性がある。一方で、
これらの遺伝子群
と思われる本菌のUblシステムの解析に
blot 解析を行った結果、E3の添加により
で、
これらのUblは、E1と相同性をもつ活性
TtuBが、E1ホモログであるTtuCを介して
し、
これらがオペロンを形成していた(図
が真核生物からの水平伝播により獲得さ
より、現在では多彩な機能をもつUblシス
新たなバンドの出現が確認された
(図4)。
化酵素(ThiFとMoeB)
によりATP依存的
タンパク質と共有結合を形成する 。
この
2)。
さらに本オペロンのプロモーターを挟
れた可能性も考えられる。
しかし分子系統
テムの根源的な機能に迫ることができる
これはmUblが酵母タンパク質に転移した
にC末端のアデニリル化を受ける
(最終的
ケースにおいても、E2やE3に相当する因
んで反対側には、脱Ub化酵素(DUB)のホ
学的解析において、本菌のUbl関連因子は
かもしれない。そこで我々は、本菌のUbl
ものと推測され、従って調製したE3はUb
にはチオカルボキシル化される)。
このよう
子は見つかっていない。
モログ遺伝子(JAMM型)
までもが存在し
特定生物種の因子と相同性をもたないこ
システムの機能検証を開始した。
しかしC.
ligase活性を示すと考えられた。
そこで現
ていた。前述のように、
これまでの原核生物
6)
7)
図3 左)Ubl, mUbl, E1を用いた複合体形成実験 右)mUbl, E1, E2を用いた複合体形成実験
Ⅴ)
C. subterraneum の
Ublシステムのin vitro機能検証
両タンパク質を共に発現させると、両タン
パク質は可溶性画分に存在した。両タンパ
ク質は精製過程を通じて同じ画分に現れ
たことから、複合体を形成していると考え
られた。
この精製画分が実際にUb ligase
と、
さらに本Ubl遺伝子群がオペロンという
subterraneum の菌体は単離されていな
在ではC. subterraneum のUbl 化基質
UbとE1は原核生物の硫黄化合物生合成
明確に原核生物型の遺伝子構造をもつこ
いことから、実験には各因子を大腸菌によ
の同定を目的として、一次配列や機能を基
系から進化したと考えられる。一方でこれ
となどから、水平伝播の可能性は低いと考
り発現させた組換えタンパク質を用いた。
準にいくつかの候補タンパク質を選択し、
らのUblは、
タンパク質を修飾することは無
えている。
また2013年にはAigarchaeota
複合体形成実験は、各因子をATPと共に
本系によるmUbl化反応を進めている。
く、
またE2やE3に相当する因子も見つかっ
門に属する新たなアーキアのメタゲノム解
混合し、
C. subterraneum の生理的環
ていないなど、Ub系との明確な相違点も
析が報告され 、本菌のUblシステムと非常
境に近いと考えられる高温(70℃)
で一定
見られる。
に類似したUbl関連遺伝子群が発見され
時間反応させて得られた反応溶液をSDS-
近年、原核生物においてもタンパク質を
た。
このことから、本Ublシステムは少なくと
PAGEに供し、共有結合により生じた複合
現在は多彩な機能をもつUbも、誕生当
修飾するUblの存在が報告されている。以
もAigarchaeota門に属するアーキアでは
体を検出した。
時はシンプルな機能をもつ分子であったは
下に3つの例を紹介する。
1)結核菌などの
保存されていると予想された。
まずはUblとE1, E2との複合体形成実
ずである。Ubのアミノ酸配列は真核生物
アクチノバクテリア門に存在するPupは、一
験を進めた。
この際、成熟化プロセスの存
間で極めて高い相同性を示すことから、Ub
般的なUblとは配列の相同性が低く、
また
在を予想し、Gly-Gly motifをC末端とす
の発生は少なくとも真核生物の誕生当初
る仮想的な成熟型Ubl (mUbl)も作製し
にまで遡り、
かつ真核生物の発生のかなり
な反応およびタンパク質間の相同性から、
明確な立体構造をもたないが 、基質タン
9)
3,4)
12
た。Ubl/mUblとE1との複合体形成実験を
Ⅳ)
アーキアにおける真核生物型
Ubl遺伝子群の発見
図1 ユビキチンおよびユビキチン様タンパク質の進化系統樹
おわりに
13
TECHNICAL
REPORTS
能性がある。現在までに我々は、本Ubl系の
生化学的再構成実験により、
タンパク質の
Ubl化反応を再現する段階にまで辿り着い
た。今後は、本Ubl系のさらなる解析(Ubl
化残基の同定、ポリユビキチン化の有無、
プロテアソームとの関係性の調査など)
を
続けることにより、Ub系の起源に迫ってい
きたいと考えている。
文 献
図4 酵母の無細胞抽出液を用いたmUbl化実験
初期の段階で、ほぼ現在の形にまで完成
されたと予想される。
つまりUbの進化によ
り、真核生物全体の進化の方向性が
(一部
とは言え)決定されたと言うこともできる。
このことは真核生物におけるUb系の重要
性を物語ると同時に、真核生物において
Ubの進化を辿ることが極めて困難である
ことも表す。一方でC. subterraneum に
発見されたUblシステムは、Ub系の発生と
進化の空白を埋める貴重な存在となる可
1) Takai, K., Nakamura, K., Toki, T., Tsunogai,
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NMRを使った蛋白質の解析
杤尾 豪人(京都大学大学院理学研究科・生物物理学教室)
い
わゆる構造生物学では、蛋白質の立体構造を
「構成原子の座標」
として、数オングストローム
(10-10 メートル)
の精度で決定し、
その構造に基づいて蛋白質の生化学的な機能を理解すること、
そして、
それによって生命現
象の分子論的理解を促すこと、
が主な狙いである。蛋白質構造を原子レベルまで決定できる手段としては、X線結晶
回折法、核磁気共鳴法(NMR: nuclear magnetic resonance)、
そしてクライオ電子顕微鏡法の三つがあるが、最
もよく利用されるのはX線結晶回折法である。Nature、Science、Cellなど、
いわゆるトップジャーナルを見ると、
ほ
ぼ毎号、X線結晶回折法で得られた蛋白質の構造が掲載されている
(但し、
ごく最近では、
クライオ電顕での構造解
析が急速に伸びているが)。
しかし、
もちろん、NMRや電子顕微鏡法にも各々の特長がある。
その技術を使って何が
できるか、
どんなことがわかるかを吟味したうえで、
目的に応じて相補的に使うことが肝要だと思われる。筆者自身
は、必要に応じてX線結晶回折法も利用しているが、学生時代からNMRを主な解析ツールとしてきた。本稿では、
NMRによる蛋白質研究について、最近の動向を含めて紹介したい。
にほぼ等しいが、NMRの場合は、多少の凝
対象になってきた
(後述)。
集が起こっても、何らかのデータ
(二次構
ところで、
「結晶中の蛋白質」
と、
「水に溶
X線結晶回折法との比較
造や相互作用部位の特定)が得られる可
けた蛋白質」の構造は同じなのか、
と疑問
X線の場合、
まず、蛋白質試料を結晶化
能性はあるので、ややリスクは低いと言え
に思われるかも知れない。一般に、蛋白質
する作業が必要である。
良質な結晶が得ら
るかも知れない。
なお、
かつては上記の様に
の結晶には、50%程度の水分子が含まれ
れるまで結晶化条件やコンストラクトの微
「単分散の水溶液」が必須であったが、近
ているとされる。
このため、結晶中の蛋白質
調整を繰り返す。時には、
この作業に何年
年は、固体試料に対して行なうNMR測定
構造は溶液中の構造をよく反映していると
も要することもあるが、困難であればある
の技術開発が急速に進んでおり、微結晶は
考えられている。実際、安定なドメイン構造
ほど、他人にとっても難しいので、構造が解
もちろん、沈殿した蛋白質でも構造解析の
に関しては、溶液中での構造と結晶構造と
Ⅰ)NMRについて
けたときのインパクトは大きい。一方、NMR
では、通常、水溶液の状態で測定を行うの
で、結晶化の作業は必要ない。必要量の蛋
白質を安定に調製できれば、
すぐにデータ
取得を開始できる。
しかし、蛋白質試料が
非特異的な会合体を形成したり、凝集・沈
殿したりするとまともなデータにはならな
いので、バッファーのpHや塩強度、界面活
性剤の添加など、条件を変えて、
できるだけ
単分散の状態になるようにしてやる必要が
ある。
また、X線の場合同様に、
コンストラク
トの最適化も行われる。
ただ、結晶構造の
場合は、結晶が得られないと
「データ無し」
14
図1. カルモジュリンの溶液構造と結晶構造の比較
(左)溶液NMRのデータに基づいて計算された20個の構造の重ね合わせ
(左 PDB ID:1DMO)
N-lobeで重ね合わせてある。
(右)結晶構造(右 PDB ID:3CLN)
15
の間に大きな差がないことがわかってい
するということが指摘されている。
また、
ア
る。
しかし、溶液中で
「ゆるい
(不安定な)構
ミロイド線維など、非晶質な対象を原子レ
造」
に関しては注意が必要である。例えば、
ベルで解析できるのも固体NMRの強みで
溶液中での構造決定
結晶中のカルモジュリンの構造を見ると、N
ある
(非晶質固体にはX線結晶回折法は使
方法の詳細は割愛するが、
試料の状態が
ローブとCローブの間を繋ぐリンカー部位
えない) 。
よく、
良好なNMRスペクトルが得られれば、
3)
が、長いαヘリックス構造をとっている
(図
X線結晶回折法と同等の精度
(数オングスト
1の右)。一方、NMRによる解析から、
この
NMRスペクトルと同位体標識について
ロームレベル)
で蛋白質の原子座標が決定
リンカーは溶液中では安定な構造をとら
通常は、蛋白質に含まれる水素原子の
できる。一方で、原理的に、溶液NMRでは、
ず、
フレキシブルであることが示されている
原子核(プロトン、H)が発するNMR信号
蛋白質のサイズが大きくなるに連れてNMR
つまり、溶液中では、
カルモ
(図1の左 )。
を観測する。
しかし、蛋白質中の Hの数は
信号が弱まるため、分子量三万を越えるあ
ジュリンのN及びCローブの相対的な位置
膨大なので、多数のNMR信号が互いに重
たりから、
複雑なNMR測定ができなくなり、
関係は静的に固定されたものではなく、
なり合い、そのままでは、一つ一つを区別
立体構造を精度良く決定することが困難に
時々刻々とダイナミックに変動している、
と
することはできない。そこで、Hに共有結
なる
(多くの研究者が、
この限界を打ち破る
いう描像が正確である。従って、結晶構造
合した炭素および窒素のNMR現象を利
べく新しい方法論の開発を進めているが)。
は、
「結晶化しやすい状態」
の
「高解像度な
用して HのN M R 信 号を分 離する。ただ
このため、
蛋白質同士、
あるいは蛋白質-核
スナップショット」
と言える。一般に、NMR
し、天 然の炭 素 ( C )や窒 素 ( N )では、
酸の複合体の
「構造決定」
となると、対象が
から得られる情報は結晶構造よりも解像
NMR信号を発しない、或いは、極めて弱
かなり限定されてしまう。
1)
16
Ⅱ)NMRを使った蛋白質の解析
1
1
1
1
12
14
図2.NMRによるp62 UBAとUbの相互作用部位の同定
(上段)p62 UBA二量体は一旦解離した後にUbと結合する。
(左下)高濃度(200 μM)
および低濃度(3.1μM)
で測定したp62 UBAのNMRスペクトル。低濃度
では、
モノマー由来のピークが出現した。
(右下)三つの状態のスペクトルを比較し、各残基ごとのNMR信号の変化量を算出し、残基ごとにプロットした。赤:モノマー
とダイマーの差、緑:モノマーと複合体の差、青:ダイマーと複合体の差。大きな変化が見られた部位が相互作用面。図は、文献5)より転載。
度・分解能は低い。
しかし、水溶液中での蛋
いので、炭素は Cで、窒素は Nといった
しかし、高い精度を求めなければ、或い
白質の
「動き」
に関する情報が得られるとい
非天然の安定同位体で置き換える。
これ
は、
相互作用部位や構造変化部位を特定す
当然ながら、
ダイマー界面のアミノ酸残基を
-helix 3に大きな変化が見られ、
この領域で
らいでいるか」
を示す定量的なパラメーター
う特長がある。従って、両者を相補的に用
らの同位体は、近年、細胞内蛋白質を定
る、
という目的であれば、分子量制限はもっ
取り巻く環境は、
モノマーとして存在する場
Ubと結合していることがわかる
(図2上段の
を得ることができる。例えば、Rap80のタン
いることで対象分子の振る舞いに関して、
量するためのSILAC (Stable Isotope
と緩い。数100kDaのサイズの蛋白質複合
合と、
ダイマーが形成された場合では大きく
緑色)
。
なお、
今の場合はUbを同位体標識し
デムUIMは、
図3のように、
長い一本のヘリッ
より正確な描像が得られることになる。
Labeling using Amino acids in cell
体が対象であっても、溶液中での構造変化
異なる。
よって、
それらのアミノ酸残基のピー
ないことで、 N標識されたUBAのスペクトル
クス構造をとってジユビキチン
(Ub2)
に結
Culture)法で広く用いられるようになっ
(リガンド結合、
多量化、
フォールディング/ア
ク位置は、
モノマーとダイマーで異なるはず
のみを選 択 的 に観 測しているが 、逆 に
合する。NMRを使って、Rap80主鎖アミド
溶液NMRと固体NMR
たので、ご存 知の方も多いと思われる。
ンフォールディング、
翻訳後修飾など)
をモニ
である。
実際、
高濃度(図2左下 200 μM)と
15
のH-Nグループの分子内揺らぎ
(図3左上)
先に述べたように、NMRには、
「 溶液」
SILACでは、特定のアミノ酸を Cや Nで
ターでき、
他の手法で得られた情報を含める
低濃度(図2左下 3 μM)でのスペクトルを
Ub側の相互作用部位を同定することができ
を反映するヘテロNOEという値を残基ごと
NMRと
「固体」NMRという二つのカテゴ
標識するが、NMRの場合は、通常、蛋白質
ことで信頼性の高い構造モデルを作成する
比較すると、
後者では新しいピークが出現し
る。
に調べたところ、
複合体中では揺らぎが少な
リーがある
(分野外の方から見れば大差な
中の全ての炭素、全ての窒素をこれら同
また、
先述の固体NMR法で
ことができる 。
ていることがわかるが、
これらは、
解離したモ
以上は極めて簡単な滴定実験だが、
蛋白
いが、Ub2非存在下ではH-Nの揺らぎが激
いかもしれないが、装置構成が大きく異な
位体に置換する。
この試料調製は、大腸菌
は、
理論上、
分子量に対する制限はないこと
ノマー由来のピークである
(なお、
3 μMでは
質中のどのアミノ酸残基が相互作用に参加
特に、
二つのUIMの間
しいことが分かった6)。
る)。前者では、蛋白質水溶液が、後者では
の発現系が使える場合は容易で、単純に、
から、
その将来が期待されている。
ダイマーも50%程度は残っているため、
ダイ
しているかを特定できれば、
変異体を使って
にあるリンカー部位は、揺らぎが激しく、
微結晶、粉末、沈殿、
アミロイド線維などが
同位体を含む培地中で蛋白質を発現させ
マー由来のピークが消失することはない)
。
すぐに活性試験や機能実験を行える。
実際、
Ub2非存在下では安定なヘリックスは形成
測定・解析の対象となる。一昔前は、
「蛋白
るだけである。最も低コストなのはM9と
NMRを使った相互作用解析など
p62 UBAのダイマーとモノマーのNMR
我々のグループでは、X線やNMRで構造解
されないことがわかった
(図3中)
。
つまり、
リ
質のNMR」
と言えば、溶液NMRであった。
呼ばれる合成培地で、炭素源はグルコー
以下では、
p62のUBAドメインとユビキチ
スペクトルを比較し、各アミノ酸残基ごとに
析を進めつつ、
このような相互作用解析を
ンカー部位のヘリックスは、
Ub2との結合に
しかし、近年の固体NMR法の発展は目覚
ス の み 、窒 素 源 は 塩 化 ア ン モ ニ ウム
ン
(Ub)
を例にとって、
NMRを使った簡単な
ピーク位置の違い
(Δδ)
を計算して、
アミノ
行ない、機能実験を同時並行で進めること
よって誘起され、
安定化される
(図3右)
。
ましく、条件によっては、溶液NMRと同等
これらを Cグルコー
(NH4Cl)のみなので、
相互作用解析について紹介する 。p62
酸残基ごとにプロットしたところ
(図2 右下
が多い。
なお、
以上の様な滴定実験のために
一口に、
蛋白質の揺らぎ・運動性と言って
の精度で構造決定ができる。固体NMRは、
スと、15NH 4Clにそれぞれ置き換えて培地
UBAは溶液中ではモノマー・ダイマーの平
赤色棒グラフ)
、
α-helix 2とそのN末端側、
は、数十~100μM程度の蛋白質溶液が2
も、
その時間スケールは、
ピコ秒(10-12 sec)
特に膜蛋白質の解析に強みを発揮する2)。 を作成すればよい。発現量が少ない蛋白
衡状態にあることが知られている。
図2の二
および、
α-helix 3の後半とそのC末端側で
~300μL必要である。
分子量は、
数10 kDa
からミリ秒(10-3 sec)オーダー以上と幅広
と言うのは、溶液NMRで膜蛋白質を解析
質の場合は、市販の同位体標識用のリッ
次元スペクトルは、1H-15N相関スペクトルと
Δδが大きくなっており、
これらの部位
(図2
超でも可能であるが、
サイズが大きくなるほ
い。上の例では、
ランダムコイルに典型的な
する際は、
ミセルで可溶化した状態でなけ
チな培地を使う。大腸菌では発現が困難
呼ばれるもので、
「 共有結合した H - Nペ
上段の赤色部分)
が二量体界面に含まれる
ど難易度も高くなる。
ピコ~ナノ秒の
「速い揺らぎ」
の有無を計測
ればならないが、固体NMRでは、
より天然
な場合は、他の宿主を用いざるを得ない。
ア」毎に一つのピーク
(NMR信号)が生じ
ことがわかる。
このデータはp62 UBA二量
に近い脂質二重膜中に再構成した状態で
酵母であれば比較的安価に同位体培地
る。蛋白質中の主鎖ペプチド結合毎に一つ
体の結晶構造とよく一致している。
蛋白質のダイナミクスの研究
によって抑制される、
という現象を見ている。
の解析が可能だからである。
βバレル構造
を調製、
あるいは購入できる。昆虫細胞や
のH-Nペアがあるので
(プロリンを除く)
、
一
さらに、
p62 UBAダイマーに非標識のUb
次に紹介したいのは、
NMRを使った蛋白
しかし、二つの安定な構造(例えば、活性型
のような安定な構造の場合は、
ミセル可溶
培養細胞を利用する場合も、市販の培地
つのピークが蛋白質中の一つのアミノ酸残
を添加してスペクトルを測定すれば、
同様の
質の
「構造ゆらぎ」
の定量的な解析である。 と不活性型)が交換しているような、
「まと
化と二 重 膜 中では構 造に大 差ないが、
を入手できるが、
コストは相当高くなる。
基に対応する
(AsnとGln側鎖にもH-Nペア
スペクトル変化の解析から、Ubが、UBAの
これはNMRの最大の特長と言える。元来、
まった数の原子集団」
が協調的に動く場合、
GPCRのようなヘリックス構造の場合、
ミセ
があるが主鎖とは区別可能)。
スペクトル中
「どの部位に」
結合しているかを特定できる。
蛋白質の構造は、
ガチガチに固定したもので
その時間オーダーは、
もっと遅く、
マイクロ~
ル中では構造の安定性が低く、脂質二重
での各ピークの位置はH-Nペア近傍の立体
図2 右下 緑色棒グラフのように、
α-helix 1
はなく、
常に揺らいでいる
(熱揺らぎ)
。
NMR
ミリ秒とされる。
そのような場合でもNMRス
膜中に埋め込まれることで構造が安定化
構造や溶媒との接触状況によって決まる。
とα-helix 2の間のループ領域、及び、
α
では蛋白質中の個々の原子が、
どの程度
「揺
ピン緩和時間の測定は有用で、溶液中での
13
15
13
15
13
4)
5)
1
15
15
N-Ubに非標識UBAを混合してやれば、
しており、
これが結合に伴うヘリックス形成
17
TECHNICAL
REPORTS
ポリユビキチン鎖選択的結合の
構造的基盤
佐藤 裕介(東京大学放射光連携研究機構)
図3.NMRによる蛋白質主鎖の揺らぎ解析
「主鎖の揺らぎ」
の指標として、各残基のN-Hグループが分子内でどの程度揺らいでいるか
(N-H角度が1° ずれるのに平均で何ピコ秒を要するか?に関連)
を指標と
する。
中央の棒グラフ縦軸は、15N核のスピン緩和時間に関係した
「ヘテロNOE」
と呼ばれる量で、値が小さいほどN-Hの角度揺らぎが大きい。
グレーの棒が複合体
中の、黒がフリーのRap80 タンデムUIMのヘテロNOE値。複合体形成で全体的にN-Hの角度揺らぎが抑制されていることがわかる。
また、Ub2フリーでは、UIMを
繋ぐリンカー部位でより大きなN-H角度揺らぎが見られる。図は文献6より転載。
活 性 型と不 活 性 型の存 在 割 合 ( p o p u
管内水溶液中とは、大きく様相が異なると
文 献
lation)や両者間の交換速度(exchange
想像される。
しかし、
どの程度異なるのか、
ど
rate)を定量的に求めることができる7)。
この
のように異なるのか、
は明らかになっていな
ようなパラメーターは、
蛋白質の活性を理解
い。
NMR分光法は生きた細胞にそのまま適
1) Zhang, M., Tanaka, T. and Ikura, M. (1995)
Calcium-induced conformational transition
revealed by the solution structure of apo
calmodulin. Nat. Struct. Biol. 2, 758–767.
するために有用である。
用できて、
細胞内部の分子からでもスペクト
ルを得ることができる。
しかも、細胞内の特
NMRで細胞内蛋白質の振る舞いを調べる
定の蛋白質のみを Cや Nで標識すること
最後に、
NMRを使った細胞内蛋白質の研
で、
その蛋白質のみのNMRスペクトルを測
究について少し触れておきたい。通常、蛋白
定できる。
これによって、細胞内の特定の蛋
質の構造解析や生化学の実験が行なわれ
白質の構造や構造揺らぎを直接NMRで解
る溶液条件は、多くの蛋白質が本来働く細
析する、
「in-cell NMR」
という試みが始まっ
胞内
(in-cell)環境とは大きく異なっている
ている
13
15
。現時点では、NMRの検出感度
11)
,12)
8)
。
例えば、
細胞内には様々な分子が高密度
の問題から、
多数の
(~107個)
細胞集団を対
に詰め込まれているため、蛋白質の並進拡
象とした測定しかできていないため、
得られ
散が抑制される。
加えて、
様々な分子との非
る情報は、
あくまで細胞集団中での平均で、
特異的な相互作用が頻繁に起こる。
また、
細
蛋白質の局在情報も失われている。
しかし、
胞中の物質分布は均一ではない。
さらには、
それでも、
細胞内の蛋白質のフォールディン
細胞内の水は、大部分が水和水として蛋白
グ安定性や構造揺らぎが、試験管内とは大
表面などに束縛されており、
自由に動き回れ
きく異なることが指摘されるなど、
細胞内環
るものが少ないと考えられている
。
これら
境が蛋白質の物性に及ぼす影響が無視でき
を考えると、
細胞内での生化学反応は、
試験
ないことを示す事実が次々に明らかになって
9)
,10)
きている。
今後、
細胞生物学分野にとっても
有意義なデータを出していくためには、
検出
感度の向上が必須で、
我々は、
NMRの計測
原理やハードウェア開発まで立ち戻って研
究を進めている。
Ⅲ)領域内の共同研究
・LUBACの構造解析(杤尾、岩井)
図4.計算機上で行われた大腸菌内部の
分子シミュレーション
文献8より転載。
18
・ユビキチン-UIMの相互作用解析(杤尾、
駒田)
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structure at work in living cells using NMR
spectroscopy. Curr. Opin. Chem. Biol. 16,
609–613.
ユ
ビキチン(Ub)は7つのリジン残基と、N末端のアミノ基を用いて、8種類のUb鎖を作り、
これらのUb鎖
は細胞内で明確に区別されます。私達のグループでは特定のUb鎖を認識する脱Ub化酵素(DUB)や
Ub結合ドメイン(UBD)のUb鎖選択的認識メカニズムについて結晶構造解析の手法を用いて解明するとい
うことをテーマにしてきましたが、
このテーマは2006年に駒田先生から
「AMSHというDUBがK63鎖を特異
的に切断するという面白い活性を持つ」
というお話を聞いてスタートしました。当時は私の不勉強もあり、Ub
はプロテアソームの分解シグナルとして働くというイメージしか無く、Ubの繋がり方の違いで異なるシグナル
伝達を担うという事も知らずに実験を始めた事を覚えています。また、K63鎖の合成に必要なE1、E2と、K63
鎖合成反応のプロトコルは岩井先生からいただきました。本領域が始まるよりもだいぶ前のことでしたが、
こ
の頃から本領域の先生方には大変お世話になっていたようです。さて、今回ニュースレターで記事を書かせて
いただけるということで、
これまでに私達のグループが構造決定したAMSH-LP、RAP80、TAB2/3、HOIL1L、CYLDによるUb鎖の選択的認識メカニズムについてまとめてみました。
AMSH-LPによるK63鎖特異的切断のメ
からなり、Ubとの結合様式もNMR構造か
カニズムであるが、
これはAMSH-LPが切
ら解明されていた4)。
しかし、RAP80の2つ
チロシンキナーゼ様受容体などの受容
断 す る 2 つ の U b 間 のリン ク 部 分
の連続したUIMがどのようにK63鎖を特異
体へのK63鎖修飾は、
リソソームでの分解
(G76-K63)
とその周辺を直接認識し、
的に認識しているかは不明であった。
おそ
シグナルとして働く。AMSHとそのホモログ
K63鎖を見分ける、
という非常にわかりや
らくなんらかの方法でRAP80は2つのUb
であるAMSH-LPは、エンドソーム上で
すいものであった。JAMM core領域と
間のリンク部分を認識しているのだろうと
K63鎖修飾を受けた受容体からK63鎖を
Ins-2領域に存在する2つのフェニルアラニ
考え、R A P 8 0の2つの連 続したU I Mと
特異的に切断することで、受容体を細胞膜
ンでLys63の側鎖を挟み込んでいる他、
K63-Ub2複合体の結晶構造を決定した5)
上にリサイクルする1)。結晶構造を見ると
Lys63の前後のGln62、Gln64の側鎖と4
AMSH-LPは、全てのJAMMファミリーが
本の水素結合を形成し、K63鎖への高い
RAP80の2つのUIM間には9残基のヘ
共通に持つJAMM coreと呼ばれる基本
特異性を獲得するというメカニズムが明ら
リックスからなるinter UIM領域があり、全
骨格の他に、特徴的な2箇所の挿入領域
かとなった。
体で一本のα-ヘリックス構造をとる。
また、
Ⅰ)AMSH-LPによるK63鎖切断
(Ins-1とIns-2)によって構成されていた
(図1)。Ub2量体を構成する2つのUbの
(図1)。
それぞれのUIMはすでに決定されていた構
Ⅱ)RAP80によるK63鎖の認識
造とほぼ同じ様式でUbと結合し、N末端側
に近い方のUbを
『近傍側Ub』、基質から遠
DNA二重鎖切断の修復シグナルとして
側Ubとそれぞれ結合する。
しかし、意外な
い方のUbを
『先端側Ub』
と呼ぶが、先端側
K63鎖が形成されるが、RAP80のN末端
事に2つのUb間のリンク部分の直接的な
UbはIns-1とJAMM core、近傍側Ubは
側に存 在する2つ連 続したu b i q u i t i n
認識は行っていないことがわかった。
では
Ins-2とJAMM coreと相互作用する。
これ
interacting motif(UIM)
がK63鎖特異
RAP80はどのようにリンクの直接的な認
らの相互作用領域はAMSHファミリー間
的に結合することで、DNA二重鎖切断部
識無しでUb鎖の選択をしているのだろう
で生物種を超えて保存されていて、
どちら
位へとDNA修復酵素群を引き寄せる 。
か。
その答えは2つのUIMの
『位置関係』
に
の 相 互 作 用 領 域 も重 要 である 。さて、
UIMは16残基の一本のα-ヘリックスのみ
ある。結 晶 構 造をよく観 察してみると、
2)
うち、Ub鎖が基質を修飾する際により基質
UIMが近傍側Ubと、C末端側UIMが先端
3)
19
の非常に特徴的な点としては、2種類のUb
種のUb鎖に対して特異性を持つ
(図2)
。
し
NF-κB活性化の過程で、
HOIL1-Lに存在す
鎖を認識するという点である。
これまでに得
かし、
もちろんM1鎖とK63鎖で繋がり方が
るNZFドメインもM1鎖を特異的に認識する
られた単一のUb鎖を特異的に認識するタン
異なるため、近傍側UbはM1鎖とK63鎖で
パク質とは異なる機構が予想されたが、
異なる配向をとる。非常に興味深いことに
M1鎖合成活性には影響しないが、
LUBAC
CYLDとM1-Ub2およびK63-Ub2との複合
CYLDの挿入領域は柔軟で、近傍側Ubが
のM1鎖合成が始まった際、
そこへ次々と他
体の結晶構造から、
その特徴的なM1/K63
M1鎖とK63鎖で配向が変わっても、
違いに
のLUBACが集積し、
さらにM1鎖合成を促
鎖切断機構が明らかとなった(論文投稿
対応して挿入領域も動くため、挿入領域は
進させることでNF-κB活性を亢進させる役
中)
。
M1/K63鎖のどちらでも近傍側Ubと相互
割があると考えられる。
CYLDはUSPファミリーに属するDUBで
作用できる。
また、
詳細は割愛するが、
いくつ
H O I L- 1 LのN Z FドメインはN p l 4や
あるが、Ub特異性の無い他のUSPと比べ、
かの水素結合はM1/K63鎖の間で切り替わ
TAB2/3と同様の構造のcore領域に加え
先端側Ubとの相互作用領域が欠失してい
り、
M1/K63鎖どちらに対しても切断に必要
て、11残基のループとそれに続く16残基の
る一方、近傍側Ubとの相互作用領域が挿
なだけの親和性を得ているということが明ら
ヘリックスからなるtail領域を持つことがわ
入されていた。Ub特異性の無いUSPは、先
かとなった。
(ところで本当にどうでも良いこ
かった (図1)。TAB2/3と同様、HOIL-1L
端側Ubとの相互作用のみで十分に結合す
となのですがCYLDはシステインプロテアー
のNZF-coreによる先端側Ubの認識は
るため、
あらゆる種類のUb鎖を切断する事
ゼで、
システインを触媒残基として持ちます。
Npl4によるUbの認識と同様であった。
また、
ができると考えられる。
一方CYLDは欠失領
この触媒残基Cys(C)
に続く配列はあらゆ
TAB2/3とは異なる位置に、
非常によく保存
域のため、
先端側Ubとの相互作用のみでは
る生物種で共通で、Tyr(Y)-Leu(L)-Asp
果たすことが知られている8),9)。M1鎖による
10)
。HOIL1-LとM1鎖の結合はLUBACの
10)
図1 特定のUb鎖を認識するタンパク質の結晶構造
された近傍側Ubとの相互作用領域が存在
不十分であり、
近傍側Ubとの相互作用が必
(D)
となり、
続けて読むとCYLDとなります。
RAP80に結合した近傍側Ubのアミノ基の
鎖が活性化シグナルとして働く。TAB2とそ
TAB2/3によるUb鎖の特異的認識メカニ
し、
RAP80、
TAB2と同様にHOIL-1L NZFド
要である。
この近傍側Ubとの相互作用を挿
この驚くべき事実は、
私もかなり初期の段階
うち、先端側のUbのGly76と結合できる距
のホモログであるTA B 3はN p l 4 z i n c
ズムは、RAP80と同様に2つのUb間のリン
メインもUb間リンク
(Gly76-Met1)
の直接
入領域によって強めるが、挿入領域を含む
で気づいていたのですが先に他のグループ
離にあるのはLys63のみである。
これは、8
finger(NZF)
ドメインを介してK63鎖に特
ク部分の直接的な認識によるものではな
的な認識はせず、2つのUb結合領域の
『位
近傍側Ubとの相互作用領域がM1/K63鎖
によって報告され、成果はNatureに掲載さ
種類のUb鎖のうちK63鎖のみ、隣り合っ
異的に結合し、TAK1キナーゼ複合体を引
く、2つのUb結合領域の
『位置関係』
による
置関係』
でUb鎖を見分けていることが明ら
に最適化されているため、CYLDはこれら2
れました13)。惜しいことをしました。)
た2つのUbが
『同時に』2つのUIMと結合で
き寄せ、NF-κBの活性化に重要な役割を
ものであることが明らかとなった。UIMと同
かとなった。
しかしTAB2とは近傍側Ubとの
きることを意味する。UIMとUbの結合は単
果たす 。Ub鎖の特異性を持たないNZFで
様にNZFとUbの結合も弱く単独では不十
相互作用領域が異なり、HOIL-1Lの2つの
独では弱く(Kd = 0.1~2 mM)、同時に
あるNpl4とUbの複合体複合体の構造は
分であるが(表1)、TAB2/3の2つのUb結
Ub結合領域の
『位置関係』
はM1鎖に最適
結合することではじめて安定な結合となる
N M R 解 析で 明らかにされていたが 、
合領域の
『位置関係』
がK63鎖に最適に配
に配置されている。
加えて、
tail領域のヘリッ
のだろう。一方、K63鎖以外のUb鎖では、
TAB2/3のNZFがどのようにK63鎖特異
置されているため、2つの隣り合ったUbが2
クス部分も近傍側Ubと相互作用し、
結合を
隣り合った2つのUbが同時に2つのUIMと
的に結合するのかは不明であったため、
つのUb結合領域に『同時に』結合できる
安 定 化させる( 表1)。興 味 深いことに、
結合することは不可能、もしくは著しく不
TAB2/3のNZFドメインとK63-Ub 2複 合
K63鎖のみが選択的に結合できるのであ
HOIL1-Lの近傍側Ub結合領域は
安 定な状 態になると考えられる。また、
体の結晶構造を決定した(図1)。
ろう。
SHARPINのNZFドメインでも完全に保存さ
inter UIMの長さが非常に重要で、9残基
結晶構造を見てみると、TAB2/3とNpl4
のinter UIMを長くしても短くしても2つの
のNZFドメインは同様の構造をとっており、
UIMの位置関係にずれが生じるため、隣り
さらに、TAB2/3と先端側Ubの結合様式
合った2つのUbが同時に2つのUIMと結合
4)
6)
4)
れているが、SHARPINにはtail領域が存在
Ⅳ)HOIL-1LによるM1鎖の認識
しないためHOIL-1Lと比べるとM1鎖への結
はNpl4とUbの結合様式と同様である7)
(図
NF-κB伝達経路ではK63鎖だけではな
能の違いがHOIL-1LとSHARPINの機能に
できなくなり、K63鎖との結合能も失われ
1)。
しかしNpl4とは異なり、TAB2/3には
く、
HOIP、
HOIL-1L、
SHARPINからなるUb
何か関係があるのか、
という点も気になると
る。
つまり、RAP80の2つのUIMの
『位置関
他の生物種間に渡り非常に良く保存され
リガーゼ複合体LUBAC
(linear ubiquitin
ころである。
係』
が、K63鎖のみ隣り合った2つのUbが2
た領域が存在し、
ここで近傍側のUbと結
chain assembly complex)
によって合成さ
つのUIMに
『同時に』結合できるように配置
合することがわかった。興 味 深いことに
れるM1鎖(直鎖状Ub鎖)
も重要な役割を
されているため、特異性を獲得しているの
合能、
および特異性が若干低い10)。
この結合
Ⅴ)CYLDによるM1/K63鎖切断
CYLDもTAB2/3、
HOIL-1Lと同様NF-κ
だろう。
Bシグナル伝達経路で働くタンパク質である
が、前者2つとは異なりCYLDはDUBであ
Ⅲ)TAB2/3によるK63鎖の認識
免疫・炎症反応の過程で多くの遺伝子
を持つ11)。
このため、
CYLDはNF-κBの過剰
の発現誘導に関わるnuclear factor-κB
な活性化を負に制御し、皮膚の腫瘍を始め
(NF-κB)
シグナル伝達経路において、K63
20
り、
M1鎖とK63鎖を特異的に切断する活性
表1 SPR による解離定数測定結果
とした様々な癌の抑制に寄与する12)。
CYLD
図2 CYLD によるM1/K63 鎖認識
21
GSTが2量体であるため、UBDも2量体化
した。
しかし、
Ub鎖特異性のあるタンパク質
し、
これが原因でUb鎖の特異性が変化し
は多数報告されていますが、
そのほとんどは
得る 。
このため、最近ではGST融合UBD
K48、K63そしてM1鎖への特異性に限ら
最後に、特異性を誤認して結晶化してし
を用いてUb鎖の特異的認識機構の議論
れています。細胞内にはそれ以外のUb鎖、
まった例を紹 介する。N E M O2量 体の
をすると、Reviewerから修正を求められ
特にK11鎖などは豊富に含まれていること
UBANドメインとFAAP20のUBZドメイン
る事も多い。
ただし個人的には、Ub抗体の
も知られており、それらに対する特異的な
はどちらもK63鎖特異的に結合するという
染まり具合がUb鎖によって違う、Ub鎖が
DUBやUBDも存在するはずです。
それらが
報告があった。
しかし、実際にはNEMO2
極端に長くなってくるとK63鎖への特異性
どのようにUb鎖を認識しているのかも大変
量体のUBANドメインはM1鎖特異的であ
が強く見える事がある、
そもそも目的のUb
興味深いところであり、
まだまだUb鎖の働き
り14)、M1鎖の隣り合った2つのUbに同時
鎖とそれ以外で解離定数が10倍程度しか
については疑問が尽きません。
もし何か構造
に結合する。一方、FAAP20のUBZドメイ
差がないので見分けがつきづらい、
といっ
が気になるサンプルがあれば、
是非お気軽に
ンはUb鎖への特異性は有していなかった。
た事の方が重大な問題となることが多い
ご連絡下さい。
そのため得られた結晶構造は、NEMO2量
と感じる。
Ⅵ)NEMOとFAAP20による
K63鎖認識?
16)
体とK63-Ub2との複合体ではK63-Ub2
が無理矢理2つのNEMO2量体と結合し
たものであり 、FAAP20とK63-Ub2との
15)
複合体はFAAP20が先端側Ubのみと結合
文 献
まとめ
今回は私達のグループで構造決定した
したものであった(論文投稿中)
( 図3)。
Ub鎖特異性を持つタンパク質の結晶構造
NEMOのUb鎖の特異性について誤認が生
についてまとめてみました。
今回紹介した以
じた原因としては、NEMOの結晶構造解析
外にも他のグループから続々とUb鎖への特
を行った当時はM1鎖がNF-κB伝達シグ
異性のあるタンパク質の結晶構造が決定さ
ナルとして働くという事実が知られていな
れ、Ub鎖特異性を持つUBD共通の特徴と
かった事が大きい。
しかし、
そのほかの要因
してUb間のリンク部分は直接認識せず、2
としては、
GST融合UBDで特異性を確認す
つのUb結合領域の
『位置関係』
によってUb
ることの問題点も指摘されている。
つまり、
鎖の選別を行っている事が明らかとなりま
1) Mizuno, E., Iura, T., Mukai, A., Yoshimori,
T., Kitamura, N., and Komada, M. (2005)
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and RNF8, key players in the recruitment
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5) Sato, Y., Yoshikawa, A., Mimura, H., Yamashita,
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basis for specific recognition of Lys 63-linked
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8) Tokunaga, F., Sakata, S., Saeki, Y., Satomi, Y.,
Kirisako, T., Kamei, K., Nakagawa, T., Kato, M.,
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14)Rahighi, S., Ikeda, F., Kawasaki, M., Akutsu,
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136, 1098-1109.
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Crystal structure of the NEMO ubiquitinbinding domain in complex with Lys 63-linked
di-ubiquitin. FEBS Lett. 583, 3317-3322.
16)Sims, J.J., Haririnia, A., Dickinson, B.C.,
Fushman, D., and Cohen, R.E. (2009) Avid
interactions underlie the Lys63-linked
polyubiquitin binding specificities observed
for UBA domains. Nat. Struct. Mol. Biol.
16, 883-889.
図3 Ub 鎖特異性の誤認による産物
22
23
TECHNICAL
REPORTS
高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を
用いたユビキチン修飾の動的分子
プロセスの解明
紺野 宏記・春山 隆充(金沢大学バイオAFM研究所)
タ
ンパク質の翻訳後修飾の1つであるユビキチン化は、ユビキチン-プロテアソーム系による細胞内タンパ
図2 Tetra、Hexa-ubiquitin(K63-linked)
の高速AFM像
ク質の品質管理にとどまらず、DNA修復、細胞周期、転写、翻訳、シグナル伝達、免疫などほぼすべての
細胞内プロセスの制御に関与している。
このユビキチン修飾のメカニズムに対する理解をさらに深めるには、
リ
アルタイムでユビキチン修飾の動的分子プロセスを動画映像で直視することも非常に有用であると思われる。
高速原子間力顕微鏡(High Speed AFM:HS-AFM)は、高い空間、時間分解能を併せもつため、タンパク質
の形状とその動きを同時に観察できるという他の装置にない特徴がある。
これまでの分子生物学、生化学、構
造生物学的手法に加え、高速AFMを用いた分子ダイナミクスのリアルタイム観察により、ユビキチン修飾に対
してこれまで以上にシームレスな構造機能相関の解明ができることを期待している。
図3 Tetra-ubiquitin(K48-linked)
の高速AFM像
図4 ユビキチンが付加した基質タンパク質の高速AFM像
Ⅰ)高速AFMについて
ないので、1枚の画像を取得するのに分の
ない特徴を有する高速AFMであるが、装
オーダーを要する。
このため、
タンパク質分
置の制約についても十分に理解する必要
か観察できない点である(逆にこれを利用
ユビキチンが4つ連結したTetra-ubiquitin
このことから、Tetra-ubiquitin(K48-
原子間力顕微鏡(AFM)は、
カンチレバー
子の形状とダイナミクスをリアルタイムで観
がある。一般的なAFMにも当てはまるが、
することもある)。
また、基板上に固定され
(K63-linked)の高速AFM観察の結果から
linked)は、従来の知見と同様に5),6)、
ある程
と呼ばれる微小な板バネの先端についた
察することは出来なかった。AFMの高速化
AFMは試料をその形状に沿ってなぞる観
た場合でも、
その際のタンパク質分子の配
述べたい(図2a)。Tetra-ubiquitin (K63-
度コンパクトに折れ畳まっていると考えら
尖った深針を試料に接触させて、探針と試
を可能にしたのが、金沢大学・安藤敏夫教
察手法であるため、
タンパク質の構造を破
向によってはダイナミクスを観察できない
linked)は直鎖状に近い構造を取る割合が
れる。
ここまで、
ユビキチン鎖のみの観察結
料に働く力をカンチレバーの変位として検
授(バイオAFM先端研究センター長)のグ
壊したり、
タンパク質間相互作用を乱す可
場合もある(観察したい部位が表面にある
高いことが知られているが 、高速AFM観
果について述べてきたが、ユビキチンが付
出する。通常、
カンチレバーを数nmで振動
ループで、観察試料や走査範囲にもよるが
能性がある。
とくにタンパク質分子は他の
ことが重要)。実際のAFM観察では、
この絶
察においても直鎖状の構造が観察された。
加された基質タンパク質の高速AFM観察
させながら基板上をXY走査し、試料の凹
ビデオレート(33ms/frame)に迫る時間
試料に比べて非常に柔らかいので、AFM
妙な固定条件を見つけ出すことが非常に
直鎖状でない構造も見受けられたが、
どの
も行っているので紹介したい。
ユビキチンが
凸変化によるカンチレバーの振動振幅が
分解能を実現している。高速化を可能にし
観察では計測機器の条件設定に細心の注
重要であり、多大な労力を要するが、
このよ
構造がどのくらいの割合で存在するかを統
1つ付加された基質タンパク質は、京都大
常に一定になるように
(図1a)、
すなわち探
た技術の詳細は、安藤グループから多数の
意を払う必要がある。もう1つの制約は、
うな点を上手くコントロールできれば、高
計的に処理できるだけの観察例はまだな
学・岩井一宏先生から提供して頂いた。基
針と試料の距離が一定になるようにZ方向
論文、総説が出ているのでそれらを参照さ
AFM観察では溶液中を漂っている試料は
速AFMでしか明らかにすることができない
い。次にHexa-ubiquitin (K63-linked)の
質タンパク質については、未発表データで
にフィードバック制御を行う。XY各ピクセ
このように従来の観察手法に
れたい1)~4)。
見えず、基板にある程度固定された試料し
未知の動的分子ダイナミクスの解明が可
観察も行った。Hexa-ubiquitinもさまざま
あるため詳細は述べないが、高速AFM観
能となる。
な形状で観察されたが、直鎖状というより
察により基質タンパク質に付加されたユビ
はリング状の構造を取っている例が多く観
キチンをはっきりと認識することができた
ルでのフィードバック量をマッピングするこ
とで試料の凹凸に応じた3次元映像を得る
(図1b)。AFMは、XY方向で1-2nm、Z方
Ⅱ)ユビキチン鎖の高速AFM観察
向で0.1nmの空間分解能が比較的簡単に
察された(図2b)。K63鎖は各ユビキチン間
(図4)。
同士に特定の相互作用がないため、取りう
得られるため、
タンパク質の形状を直接観
ユビキチン鎖の長さや種類(連結様式)
る構造の自由度は高いと考えられるが、
ユ
察することができる。
また、真空中での観察
は、基質タンパク質の役割や細胞内プロセ
ビキチンが6つ連結したときに優先的にリ
を余儀なくされる電子顕微鏡と違い、
タン
スに重要な影響を与えるため、高速AFM
ング状構造を取る詳細については不明で
観察でユビキチン鎖の長さおよび種類を識
ある。一方で、Tetra-ubiquitin(K48-
これまで、高速AFM観察がユビキチン修
別できるか否かは重要である。
そこで、筆者
linked)は明らかに直鎖状の構造では観察
飾の研究分野にも有用であることを空間
らはいくつかの長さおよび連結様式の異な
されず、高速AFM観察では1つの玉のよう
分解能の視点から述べてきたが、筆者らの
るユビキチン鎖のAFM観察を行った。
まず、
に観察される例がほとんどだった(図3)。
本来の目標はユビキチン修飾過程の動的
パク質が本来機能している溶液中で観察
できることもAFMの利点である。
しかし、一
高解像度データ
ご支給ください。
般的なAFMではラスター走査のピクセル
毎で高さ情報を取得しないと映像化でき
24
5)
図1 原子間力顕微鏡(AFM)の基本構成
Ⅲ)ユビキチンの受け渡しの
動的分子プロセスの解明
25
MEETING
REPORT
MEETING REPORT 01
ユビキチンネオバイオロジー
第2回熱海班会議報告
キチン研究が“ネオバイオロジー”であることを改めて認識した。
夜のポスター発表には、
当研究室の院生も参加した。初めて
のポスター発表を経験した修士1年の学生は、
「普段は所属研
究室や学内の限られた人としか議論を交わすことがないが、
ポ
関 裕之・野口 あや・林下 瑞希
スターセッションを通じて、
日常ではお会いすることのできない
(首都大学東京 理工学研究科 細胞生化学研究室)
多くの方々と交流することができ、楽しく有意義な時間を過ごす
ことができた。
また、ポスター発表以外の時間にも、
ナイトセッ
図5 ユビキチンの受け渡しに伴うE3の構造変化モデル
Verdecia et al.Mol Cell. 1:249-59(2003)
分 子プロセスの 解 明である。現 在 、E 3
ligaseを中心としてE2から基質タンパク質
までのユビキチンの受け渡し過程に焦点を
Ⅳ)領域内の共同研究
領域内の以下の先生方とも共同研究を
当てた観察系の構築を試みている。E3は
行っております。
HECT型とRING型に大別できるが、
そのど
・LUBACによる直鎖形成メカニズムの解析
ちらのE3においてもユビキチン受け渡しの
(岩井先生)
際にE3自身が大きく構造変化する可能性
・プロテアソームによるユビキチン鎖認識メ
が示唆されている
カニズムの解明(佐伯先生)
。例えば、HECT型E3
7),8)
に存在するユビキチン結合サイトである
・ユビキチン結合タンパク質の認識するユ
C-lobeがユビキチンの受け渡しに伴い約
ビキチン鎖の種類(金井先生)
40Å動くことが、構造生物学的知見から推
高速AFM観察にご興味のある方は気軽に
測さている(図5)。
このような知見と高速
連絡してください。
AFM観察の整合性を検証するうえでも、
当
面は生化学的・構造生物学的知見が豊富
なE3を観察対象にする必要性があるが、
も
ちろん、構造未知の新規E3の動的分子プ
ロセス観察も非常に魅力的である。
また、
ユビキチン修飾に関して、
ユビキチ
ンを基質タンパク質に1個ずつ繋げていく
モデル(Sequential addition model)が
提唱されているが、
ユビキチン鎖がE2もし
くはE3上(HECT型の場合)で生成されて
東洋のナポリ、熱
ションや卓球大会などを通じて他の研究室の学生の皆さんと
海で開催されたユビ
交流することができ、学生ならではの思いや悩み(将来の進路
キチンネオバイオロ
など)
について話しあった。本班会議を通じて得た人脈を大切に
ジー第2回班会議で
し、互いに切磋琢磨しあうことで、今後の研究生活や卒業後の
は、
我々はホストとし
進路に活かしていくことができると確信した。反省点は、
口頭発
て総勢100名を超
表等で質問をしなかったことである。今回はホスト役としての業
文 献
える先生、研究員、
1) Ando, T. et al. (2001) A high-speed atomic
force microscope for studying biological
macromolecules. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A
98, 12468-12472.
学生の方々をお迎え
2) Kodera, N. et al. (2010) Video imaging of
walking myosin V by high-speed atomic force
microscopy. Nature 468, 72-76.
3) Uchihashi, T. et al. (2011) High-speed atomic
force microscopy reveals rotary catalysis of
rotorless F(1)-ATPase. Science 333, 755758.
4) Uchihashi, T. et al. (2012) Guide to video
recording of structure dynamics and dynamic
processes of proteins by high-speed atomic
force microscopy. Nat. Protoc., 7, 11931206.
5) Datta, A. B. et al. (2009) The structure and
conformation of Lys63-linked tetraubiquitin.
J. Mol. Biol. 392, 1117-1124.
6) Tenno, T. et al. (2004) Structural basis for
distinct roles of Lys63- and Lys48-linked
polyubiquitin chains. Genes Cells 9, 865-875.
7) Verdecia, M. A. et al. (2003) Conformational
flexibility underlies ubiquitin ligation mediated
by the WWP1 HECT domain E3 ligase. Mol.
Cell 11.
8) Dou, H. et al. (2012) Structural basis
for autoinhibition and phosphorylationdependent activation of c-Cbl. Nat. Struct.
Mol. Biol. 19, 184-192.
務があり忙しかった点もあったが、積極性と主体性をより強く発
左から、執筆者の野口さん、林下さん、関君
揮し議論に参加すべきであったと感じた。」
と述べている。
する立場にあった。数か月前から川原教授指導のもと、
「お・も・
て・な・し」精神を発揮するよう教育を受けた。
この時から我々の
班会議は始まっていた。
「お・も・て・な・し」精神を身に着けた私たちは、先生方のお
顔、研究内容、御出身等のプロフィールを頭に叩き込んだ。
この
領域の権威である先生方の研究成果を改めて拝見させていた
だくことは、
自分の研究を見つめ直すことに繋がり非常に勉強に
なった。
永田先生の乾杯のご挨拶とともに
1日目。早朝、私たちは東京を出発した。通勤ラッシュで混み
また、修士2年の学生は、
「ポスター発表では、1対1でじっくり
合っていた車内も、箱根の山々とその向こうに聳える富士山が見
議論できたことがよかった。研究手法や論文執筆についてアドバ
えるころには、
すっかり貸し切り状態になった。相模灘に面した
イスを頂くことができ、
とてもためになった。
ユビキチン化修飾の
熱海はそのほとんどが丘陵であり、熱海駅から会場までの道の
検出に手こずっていたが、
いただいたアドバイスを参考にして実
りも坂道が続いていた。会場に到着後、共にホストを務める太田
験をしたところ、
良い結果を得ることができた。
ナイトセッション
先生の研究室の方々と打ち合わせをし、熱海駅でプラカードを
では様々な立場の方々から、他の研究室の様子や留学体験、教
持ち皆様のご到着をお待ちする係、
ホテルで会場を設営する係
員の仕事等についてお話を聞くことができた。
また、研究者を目
に分かれ任務をこなした。著名な先生方の次々のご到着に身が
指す学生同士の交流は、
お互いによい刺激になった。」
と述べて
引き締まる一方、第1回班会議で知り合った方々との再会を喜
おり、若手研究者にとって、知見や人脈を広げる絶好の機会で
んだ。
あった。
領域代表の岩井教授にご挨拶を頂き、班会議は開幕した。28
から基質タンパク質に付加されるモデルも
名の先生方による口頭発表は、
どれもユビキチンが関与すること
あり、はっきりとした見解はない状況であ
でありながらも全く異なる生命現象にフォーカスされており、
ユビ
る。
このような問題に対しても高速AFMに
よる構造と動的分子プロセスの同時観察
が解明の糸口になることを期待している。
若手シンポジウム風景
2日目。午後に行われた若手研究発表会では、横田助教と修
士の学生が発表した。学生が発表用スライドを保存したUSBを
若手らによる熱いポスターディスカッション
26
忘れ、八王子まで往復5時間かけて取りに戻ったが、本人曰く、
27
にはポスターセッションが行われました。54演題の発表があり、
交流が深められる大変有意義な場となりました。
予定されていた2時間では足りないくらい、各ポスターの前で活
発な議論が多く行われていました。個人的には、今後の研究展
本領域会議は、
ユビキチンとその周辺分野におけるトップラン
開のアドバイスを頂いたり、
お互いが納得するまで熱く議論した
ナーの先生方と若手研究者の方々が集い、直接顔を合わせて
り、非常に有意義な時間となりました。
交流を深めることができる素晴らしい場です。
この貴重な機会を
大切にして、我々若手がユビキチン研究と真摯に向き合い成長
2日目の午後には、若手研究発表会がおこなわれ、21名の若
していかなければならないと感じました。
手研究者が10分の持ち時間で口頭発表を行いました。若手限
最後に本会議の開催準備、進行をして頂きました川原先生、
定ということで、発表後の質疑応答では若手研究者同士の活き
太田先生および研究室の方々にこの場を借りて熱く御礼申し上
活きとしたディスカッションが見られました。
また、
その後の懇親
げます。
会では優秀発表者として、CRYタンパク質の安定化と概日時計
の発振制御について発表された平野さん、ポリユビキチン鎖の
ファイバー形成について発表された森本さん、ERによるリガンド
依存的E3活性の制御について発表された岡田さんが表彰され
「今となってはいい思い出です。熱海でよかった。今度からは、
ができた。
来年度の班会議ではレベルアップした発表を聞いてい
データは二重三重に保存しておきます。発表は制限時間に納め
ただけるよう、今回学んだことを今後の研究生活で生かしていき
ることにいっぱいいっぱいでした。
自分の研究の魅力を伝えられ
たい。
るよう、
プレゼン力の向上にも努めなければいけませんね。」
との
こと。
3日目。2夜連続のナイトセッションが明け方まで続いたにも
関わらず、活発な議論が展開された。
当研究室の学生の多くは、
この日発表された原核生物におけるユビキチンシステムの研究
に興味を持っていた。
MEETING REPORT 02
第2回領域班会議に参加して
ユビキチンネオバイオロジー第2回班会議は昨年度の2倍以
植松 桂司(名古屋大学大学院理学研究科 分子修飾
上の方の参加があり、
より多くの研究最先端のお話を伺うこと
制御学グループ)
懇親会にてご挨拶
MEETING REPORT 03
平成25年12月11日か
分子生物学会
「ユビキチンコードの生物学」
に
参加して
ら13日にわたる3日間、
熱海ニューフジヤホテル
( 静岡県 熱 海 市 )におい
て第2回領域班会議が開
催されました。今回の会
川口 紘平
議では、研究計画班と公
(東京工業大学大学院生命
募研究班の先生方による
ました。同世代が活躍する姿を見ることで私自身大変刺激を受
加え、若手研究者による口頭発表会が企画され、
まさに本領域
けました。1日目、2日目とも夕食後は恒例のナイトセッションが
のフルメンバー参加による濃厚なプログラムでした。3日間の会
催されました。お酒
2013年12月3日より神戸にて
議は天候にも恵まれ、
延べ100名以上の研究者の方々が参加さ
も入りリラックスし
第36回分子生物学会が開催されました。
およそ一週間後に班
れ、非常に活発な討論と交流が行われました。
た雰囲気の中で、研
会議を控えていたこともありなかなか忙しい時期だったのです
究の裏話しから世間
が、
ピペットマンとPowerPointから解き放たれ、神戸に近づく
領域代表である岩井先生のご挨拶から会議はスタートし、
話まで各々話に花を
につれて新しい知識に出会えることへの期待感が増してきまし
1日目の午後、2日目と3日目の午前に計画班と公募班の先生方
咲かせていました。
た。その期待に反する事無く様々な経験をすることができ、大
28名による発表が行われました。
シグナル制御、DNA修復、転
特 に私たち若 手 に
満足の出張となりました。そのなかでも岩井先生、佐伯先生の
写、膜タンパク質制御など広範な生命現象にユビキチン修飾が
とっては、同世代は
司会進行のもと進められた「ユビキチンコードの生物学」は印
もちろんのこと先輩
象深い発表の連続でした。
研 究 者や先 生 方と
最初の演題は岩井先生(京大)の発表で、LUBACによる直鎖
関与していることを再認識させられたと同時に、
ユビキチン修飾
に秘められた多彩な能力に興奮を覚えました。1日目の夕食後
28
理工学研究科 駒田研究室)
最新の研究成果発表に
領域会議をお世話してくださった太田先生
29
状ポリユビキチン鎖形成についての発表でした。
内容もさること
ながら非常に引き込まれる説明で、直鎖ポリユビキチン鎖の発
MEETING REPORT 04
トを受け進められている、私立大学戦略的研究基盤形成支援
テアソーム阻害が細胞死を引き起こすメカニズムについて、
村田
事業における研究活動の一貫として、8月28日から2日間に渡っ
茂穂先生
(東京大学)
が、
プロテアソームの形成過程において、
TA
て昭和薬科大学にて行われた。本プロジェクトは、昭和薬科大
タンパク質の挿入経路に関わるGETタンパク質が役割を果たして
学とアジア諸国の研究教育研究機関の連携により、様々なタ
いることを新たに発見したことについて発表されました。
東京都医
ンパク質修飾による生理学的制御機構を明らかにする事、
ある
る時計タンパク質CRYのユビキチン化についての発表で、論文
第86回日本生化学会大会に
参加して
のデータに加え脱ユビキチン化酵素による制御について新たな
横田 直人(首都大学東京 理工学研究科 生命科学専攻
学総合研究所の佐伯泰先生は、
質量分析法を用いたユビキチン
いは様々なタンパク質修飾を用いて新たな創薬へ向かうため
報告をされておりました。
2つのユビキチンリガーゼが互いに拮
細胞生化学研究室)
鎖の絶対定量開発についての報告と、
それを用いたUBDタンパク
の基盤形成を行う事を目的としている。従って、海外から、
ユビ
質の相互作用するユビキチン鎖の種類についての解析についてお
キチン研究にて活躍されているDr Chin Ha Chung(Seoul
見の経緯などは感動しました。次に発表されたのが深田先生
(東大)でした。Cell誌の表紙にもなったFBXL21とFBXL3によ
抗することに加え、脱ユビキチン化酵素も24時間というゆっくり
とした周期を作り出すために働いているというのはとても興味
第86回日本生化学会大会は、2013年9月11日から13日ま
話され、新しい技術を使いこなすことで、新たな革新的発見が得
National University)、TGF-betaシグナリングにて著名なDr
深かったです。
つづいて鐘巻先生(遺伝研)
のオーキシン依存的
でパシフィコ横浜において開催されました。乗りなれない満員電
られるということを改めて実感いたしました。最後に九州大学の
Xin-Hua Feng(Zhejiang University)、代謝シグナルにて活
分解系の構築についての発表がありました。
オーキシンによって
車にゆられ、そして、今回はニュースレターの記事を書くという
中山敬一先生が、
Fbxw7によりガン幹細胞がG0期に維持される
躍中のDr Sheng-Cai Lin(Xiamen University)
の3名とそ
活性化される植物特異的Fボックスタンパク質を融合すること
大役を仰せつかっていたので普段よりも緊張した面持ちで二日
メカニズムや、
Fbxw7の抑制が逆にガン転移を促進すること、
そし
れぞれの研究室の学生、ポスドク、
さらに国内から、
ユビキチン
により、細胞に発現させた特定のタンパク質をオーキシン依存
目の朝、畠山慎次先生と、嘉村巧先生によってオーガナイズさ
て、
それらの知見から如何なる戦略で薬を投与するかなどについ
研究の若手であり、本領域の計画班員として活躍されておられ
的に非常に短時間で分解に導く事が出来るということでした。
れたシンポジウム
「拡大するユビキチンネオバイオロジーの可能
て発表されました。
ガン研究とはあまり関係のない分野に居る自
る川原裕之先生(首都大学)、TGF beta シグナルで活躍され
si/shRNAの適さない必須タンパク質の優れたノックダウン法
性」
に参加してきました。桜木町駅で降りると目に入るのは、
ポス
分にも分かりやすく、
非常に興味深い内容でした。
ている宮澤恵二先生(山梨大学)、代謝領域にて活躍中の山内
となってくるのではないでしょうか。
ここからの発表はなかなか”
ターが入ったと思われる筒を担いだスーツ姿の若者たち。学会
こった”ストーリーとなっていて、
まず佐伯先生(東京都医学研)
会場に近づいてきたなあとしみじみと思いつつ、残暑厳しい9月
がポリユビキチン化タンパク質の鎖長制御機構についてお話さ
上旬の横浜の町を足早に会場へと進んでいきました。
れ、
つづいて白川先生
(京大)
によるユビキチン鎖は長くなればな
敏正先生(東京大学)
らを招待し、昭和薬科大学にて研究交流
シンポジウムタイトルの「拡大するユビキチンネオバイオロ
を行った。2日間延べ人数として昭和薬科大学教員および学生
ジーの可能性」
をまさに体現したような内容構成で、3時間のシ
144名が参加し、研究交流としては盛況であった。今回の企画、
ンポジウムがあっというまに過ぎていきました。非常に多岐にわ
進行を、本学の石戸聡(統合感染免疫)、伊東進(生化学)、水谷
るほど不安定になり、不可逆的に繊維化するとの発表がありま
開演前には、演者の先生方がお話されていたところに混ぜて
たる内容の発表でしたが、
いずれの発表内容も興味深く、
いくつ
顕洋(薬物治療学)
にて行った
(写真1)。以下にシンポの内容に
した。
アブストラクトが「ユビキチンとその重合体であるポリユビ
いただき、CRISPRを用いた実験法のコツなどを教えていただ
かの発表では質問をさせていただきました。領域以外の先生方
ついて簡単に紹介する。
キチンは・・・」
という一行のみだったこともあり、
その発表は衝撃
きました
(このニュースレターが発表されたときはまた新しい改
や学生も多く聞きにこられていたことから、
この分野への関心の
をもって迎えられたのではないかと思います。最後に小松先生
変技術がでているかもしれませんが...)、
このような話が気軽
高さがうかがえました。
(東京都医学研)によって繊維化したユビキチン凝集体の形成が
に出来るのは、直接会話が出来る学会の利点だと改めて実感い
プロテアソーム機能不全に対する生体防御機構として働くとい
たしました。
本シンポジウムの後は、
ポスター会場や他のシンポジウムにも
足を運びました。
ポスター発表は例年通り、非常に多くの発表が
う発表がありました。
ユビキチンが繊維化するという話だけでも
十分に衝撃でしたが、
さらに繊維化したユビキチン鎖が生体内
今回のシンポジウムは、
ユビキチン鎖、
ユビキチン化タンパク質、
行われており、所属する研究室の学生を含め活発に議論を行っ
で機能をもつということでした。
タンパク質修飾の中でもユビキ
プロテアソームシステム、
そして基質認識機構という四つの観点
ていました。領域会議に代表される特定の分野に特化したシン
チン修飾は最も多様性のある修飾といえるかと思いますが、
ま
からユビキチン-プロテアソームワールドに迫るというものでした。
ポジウムとは異なり、生物学(生化学)全体の流れを知ることが
た新たな概念が加わったのではないでしょうか。
7名の先生が発表され、
その発表内容はユビキチン鎖の種類や長
出来る点や、
タイトルに惹かれて立ち寄ったシンポジウム会場や
さなどの解析法についての研究から、
ユビキチン-プロテアソーム
ポスターから思わぬ発見をし、興奮するという体験はこのような
以上のように自分の研究室にいただけではなかなか知り得
系の破綻によるガン化機構の解明やガン治療への展望に至るま
大きな学会のみで、
楽しめることではないかと改めて感じました。
ない様々な知見に触れる貴重な機会を得る事が出来ました。
で多岐にわたり、
この分野の広さを改めて実感いたしました。
ユビキチンというくくりで複数の発表を聴いていますと、
その名
が示します通り、生物のありとあらゆる機能が登場してきます。
簡単に発表された内容について紹介いたします。
最初の演題で
このように生物学を俯瞰してみることのできる分野はなかなか
は、
畠山慎次先生
(北海道大学)
によってTRIMタンパク質の機能
無いのではないかと思い、それが難しさでもあり面白さでもあ
について発表が行われました。
TRIM32とガン化の関係、
レチノイ
るのかなと思いました。
また、先生方の発表を聴いていずれは
ン酸レセプターを介した分化制御などについて報告されました。
自分の研究があのような場で発表されるような成果となるべ
続く、
佐々木義輝先生
(京都大学)
の発表では、
HOIPがNF-kBや
く努力していきたいと思い、今後研究をしていく上で良い刺激
ERK経路を介し、
B細胞成熟に関与することを報告されました。
聖
を受ける事が出来たと思います。
マリアンナ大学の太田智彦先生は、
ヘテロクロチンにおける二重
鎖切断について、
ATM依存的なBRCA1-BARD1複合体の機能
30
に関する演題が二題続きました。
Anne Bertolotti先生が、
プロ
最後になりますがこのような場を設けてくださった岩井先
やHp1-γとの関連性などとともに発表され、名古屋大学の中務
生、佐伯先生をはじめとして発表された先生方、
またレポート
邦雄先生は、
SCF複合体によるユビキチン化基質認識機構につい
執筆の機会を与えて頂きました川原先生(首都大東京)
に厚く
て、機能未知のF-Boxタンパク質のlr224wと代謝経路制御に着
御礼申し上げたいと思います。
目して行った研究について発表されました。
続いてプロテアソーム
MEETING REPORT 05
私立大学戦略的研究基盤形成
支援事業
生体分子コバレント修飾の
革新的解析拠点形成「第1回
国際シンポジウム」
の報告
石戸 聡(昭和薬科大学 統合感染免疫学研究室)
写真1:上段左から、西島学長、
川原先生、新井先生
下段左から、Dr Chung、井上先生
シンポの開始にあたって、本学学長である西島正弘先生から
開会の辞を頂いた
(写真1)。
その後、東京大学のNF-kBシグナ
ルにおける先駆的研究者 井上純一郎先生、脂質代謝の先駆的
研究者 新井洋由先生から、基調講演を頂きさらに研究交流に
もご参加頂いた
(写真1)。井上先生のお話しは、最新のガン進
展に関するもので、NF-kBの持続活性化が予後の悪い乳ガンの
発生に関与している事が紹介された。Triple negativeと分類
される乳ガンは、
エストロゲンレセプター、
プロゲステロンレセプ
ター、ERBB2を発現していない乳ガンであり、治療後に早期再
発する事が多いとされている。井上先生らのグループは、
このタ
今回のシンポジウムは、文部科学省と昭和薬科大学のサポー
イプの癌に注目し解析を行った。
その結果、NF-kBが過剰にさ
31
らに持続的に活性化されている事を見出した。
そこで、
この癌の
が引き起こされる事を見出した。UfmylationはK69鎖であり、
抗原刺激に対してIgEが高値となる事が明らかとなった。
このよ
Cancer stem cell (CSC)に注目し解析を行った。
その結果、
p300をASC1へリクルートするシグナルであった。
このように、
うに、
メカニズムは全く不明であるが、MHC IIのユビキチン化抑
たマウスを作製し、腫瘍血管新生について検討を行い、
このよ
non-CSCにてNF-kBの恒常的活性化が認められ、non-CSC
17b-estradiolはERaと結合することにより、ASC1をUfSP1の
制による抗原提示の亢進が、
適切な免疫応答を誘導する事を明
うなノックアウトマウスでは血管が未成熟で血液が漏れやすく
がCSCをNotchシグナルを介して刺激している事が明らかと
結合抑制する事によりufmylationし、ERaによる遺伝子発現制
らかにしつつある。
なっていることを示し、TGF-betaシグナルが血管の安定に必
なった。
このように、
ガン細胞自身における異常ではなく、
ガン
御をしている事が明らかとなり、
この制御が乳ガンの進展に関
細胞の置かれている環境におけるNF-kBの異常により乳ガン
与している事が強く示唆された。実際、UfSP2をknock down
さらに、
「TGF-betaシグナル」
では、Dr Xin-Hua Fengが、
が発生する事が強く示唆された。新井先生のお話では、脂質代
すると、乳ガンの進展が亢進し、ufmylationされないASC1変
TGF-beta細胞内シグナル伝達分子SmadおよびSmad分子
また、
「 代謝シグナル」では、Dr Sheng-Cai Linから、
謝の病態への関与に関する新井グループの最新の知見が報告
異体は乳ガンの進展が抑制される事が示された。
この発見は、
を核外輸送するRanBP3の脱リン酸化を触媒するPPM1Aに
AMPK、mTORがどのように細胞内の代謝シグナル系を調
された。生体膜を構成するリン脂質には炭素数や二重結合が
乳ガンの進展におけるユビキチン様修飾が関与していることを
よるTGF-betaシグナル抑制メカニズムについての最新の話
節しているのかについてお話しを頂いた(写真2)。細胞が栄
異なる様々な脂肪酸鎖が結合しているが、
リン脂質脂肪酸鎖
示す極めて重要な知見である。
さらに、川原裕之先生から、新
題を提供した
(写真2)。特にPPM1AがSmad分子を脱リン酸
養で満たされている時には、mTORが活性化し、細胞内では
の多様性の生理学的意義の多くは明らかにされていない。
そこ
合成ポリペプチドの品質管理を担うBAG6複合体についての
化すると同時にRanBP3も脱リン酸化させ、RanBP3による
anabolismが亢進するのに対し、栄養不足時には、AMPKが
で、新井先生らのグループは、線虫C. elegansを用いた遺伝学
お話しを頂いた
(写真2)。BAG6は、凝集性の高い不良タンパク
Smad分子の核外輸送を促進することでTGF-beta /Smad
活性化し、catabolism が促進する。講演では、飢餓時のスイッ
的解析によって探索している。その中で、新たなMembrane-
質の認識と分解に関わることが川原先生によって報告されてい
シグナル伝達を抑制するという新たな抑制機構についての
チはAMP濃度の上昇で、
これによって、LKB-Axin-AMPKの
bound acyltransferase MBOATファミリー酵素が見出さ
たが、今回,小胞体膜への組み込みに失敗した膜タンパク質群
報告を行った。宮澤恵二先生は、Pin1とよばれるpeptidyl-
複合体がendosome上で形成されることがAMPKの活性化
れた。酵素群の中で、mboa-7は細胞内シグナル伝達において
がBAG6の主要なクライエントとなること、
その識別にはBAG6
prolyl-cic/trans-isomeraseがSmad分子のリンカー部位
に密接につながっていること、更には、Axinがendosome上の
重要な役割を持つホスファチジルイノシトールに高度不飽和
並びにその結合タンパク質群が関わることを見出し,そのメカ
のリン酸化セリン・トレオニンを認識し、
ユビキチンE3リガーゼ
V-ATPaseとも複合体をつくることで、mTORをendosome上
脂肪酸を導入する酵素であった。
さらに、mboat-7の欠損マウ
ニズムの考察がなされた。
さらに、
ポリグルタミン凝集体形成と
であるSmurf2をSmad分子と会合させることにより、Smad
から遊離させ、
それによってmTORのシグナルは、減弱されるこ
スはCerebral cortexに異常をきたし、脳発達、機能に重要で
BAG6との関係についての実験結果が新しく報告された。
この
分子を分解するというTGF-beta /Smadシグナル伝達抑制
とを報告された。AMPK、mTORの両分子はendosome上にて
ある事が示された。現在、脂質代謝異常としてlipotoxicityと
ように、BAG6は、
これまでに知られたシャペロンとは異なるメカ
機構についての話題を提供した。
さらにTGF-betaシグナルに
機能し、
その際、Axin がscaffold分子として、V-ATPaseがそれ
いう考えがあり、
それらが糖尿病等の成人病の原因と考えられ
ニズムで、凝集性のタンパク質の品質管理に関わる様子が徐々
よる転写がolig1と呼ばれる転写因子依存的なパスウェイと
をendosomeにとどめておくanchor分子として働いていること
ている。
この点に関して、新井先生のグループは、高度不飽和
に浮かび上がりつつある。不良タンパク質の分解産物は抗原提
非依存的なパスウェイが存在し、依存的なパスウェイでは上
が示された。山内敏正先生からは、脂肪細胞から分泌されるア
脂肪酸を誘導することにより、Unfolded protein response
示の原材料とされることも知られており、MHC領域にコードさ
皮間葉転換(EMT)に関与する遺伝子が誘導され、非依存的
ディポネクチンに関する基礎とトランスレーショナルな展開の最
(UPR)とよく似た応答が起こることを見出した。興味あることに
れた新規シャペロン・分解誘導因子としてのBAG6複合体の役
パスウェイではp21、p15、c-mycのような細胞増殖抑制に
新情報に関するお話しを頂いた
(写真2)。
お話しは、
アディポネ
は、Unfolded proteinによる典型的な応答とは異なり、ATF6
割解明が期待される。小生は、MHC class IIがユビキチン化に
関する遺伝子の転写が調節されていることを報告した。伊東
クチンの受容体の発見から、受容体アゴニストとして働く低分子
alphaを介さない応答であることを見出している。
これらの現象
て制御されている事を見出した経緯を紹介し、
その意義の追求
進先生もTGF-beta /Smadシグナルを抑制する新規分子
化合物であるAdiporonの発見に至った経緯に関する事、
さら
を、Membrane lipid saturationと名付け、様々な病態に関与
をどのように行っているのかを紹介した。現在、感染等の免疫起
TMED10に関する話題を提供した。TMED10はTGF-beta
に、AdiporonのAdipoR1/2に対する結合特性と生理活性に
している可能性を示した。
動時にMHC IIのユビキチン化が抑制され免疫が起動すると考
受容体と結合することで、そのシグナルを抑制すること及び
関する内容であった。基礎的研究によって創薬標的となりうる
えられている。従って、MHC IIのユビキチン化が抑制されないモ
TMED10の細胞外領域がその抑制に関わっていることを報
分子基盤を同定し、
その確固たる研究成果から極めて現実的・
さらに、二日目では、本学の石戸、伊東、水谷が、
それぞれ、
「ユ
デルマウスを作成し、解析を行いつつある。興味あることには、
こ
告した。加えてTGF-beta II型受容体コンディショナルマウスと
積極的な方法で臨床治療薬に繋がるlead compoundを得ら
ビキチンシグナル」、
「 TGF-betaシグナル」、
「 代謝シグナル」の
のマウスは約1年後に削痩し死亡する。
さらに、他のモデルでは、
PDGFb-Cre-ERマウスを掛け合わせ、血管内皮細胞特異的
れるまでについてであった。水谷顕洋先生は、IP3レセプターに
にタモキシフェン依存的にTGF-beta II型受容体を欠損させ
要であることを報告した。
sessionを企画し議論した。それぞれのハイライトトークを紹
結合する分子IRBITを紹介し、
リン酸化による制御機構について
介する。
「ユビキチンシグナル」
のセッションでは、Dr Chin Ha
の最新知見を報告した。
Chungが乳ガンの発生に係るシグナルの最新知見を紹介した
(写真1)。
まず、Chungらのグループは新たなユビキチン様修
2日目最終日に、本学の食堂にて、招待研究者、発表者、本学
飾であるUFM1に着目した。UFM1はUbiquitin-fold modifier
学生が集まり意見交換会を行った
(写真4)。Dr Chungから、
1と呼ばれubiquitinとよく似た構造を持つタンパク質である。
学部学生に対して、
「 臨床薬剤師を目指すのみではなく、是非、
Ubiquitinシステムと同様に、E1としてUBA5、E2としてUFC1、
研究を行い新たな世界を体験しよう!」
との呼びかけを頂いた。
E3としてUFL1を使いUFM1鎖を作る。さらに、これらの反
その後、直接、学生を囲んで、様々なお話を頂いた。学生達は、
応は、UFM1特異的プロテアーゼUfSPによって抑制される。
大変感銘を受けた様子であった
(写真4)。私達研究者は、海外
Chungらは、
これらの修飾がどのような分子に起こっているのか
の研究者とそれぞれの研究環境についてお話しを伺い、意外と
をHisタグのついたUFM1を発現させNiカラムにて精製する事
共通する悩みを持っているものが分かり、
また、
それらに対して
により、調べた。
その結果、現在すでに報告されている分子以外
の対処の議論ができ大変有意義であった。
さらに、それぞれの
に、
エストロゲンレセプター alpha(ERa)の発現制御分子である
招待研究者の若手とも交流でき、
サイエンスのレベルの高さを
ASC1を同定した。Eraのリガンドである17b-estradiolの非存
改めて実感した。将来、是非、一緒に仕事をしてみたい若者達で
在下では、ASC1はUfSP2と結合しufmylationが抑制されて
いるが、17b-estradiolが存在するとUfSP2が離れufmylation
32
写真2:上段左から、
山内先生、Dr Lin、
川原先生
下段左から、Dr Feng、宮澤先生
あった
(紙面の都合上、彼らの発表内容は割愛させて頂いた。)
写真3:上段、伊東先生、下段左から、水谷先生、小生
(写真4右)。
33
最後に:今回、我々の主催したシンポジウムを紹介する機会
多様な組織形態を通じて高度に保存されたシステムであること
いてもご紹介いただきました。
を頂いた川原先生に深謝申し上げる。Dr Chungは素晴らしい
を認識致しました。
シンポジウムにおいてこのシステムを紐解く
国内からは5名の先生が発表されました。稲田先生は翻訳伸
研究者、指導者であり、Dr Chungのお話しには大変深く感銘し
手法も、基礎から応用、応用から基礎へと相補的なベクトルで
長段階の異常認識機構の解析から、緻密なユビキチン修飾制
た。
Dr Chungをご紹介頂いた岩井一宏先生、
田中啓二先生に、
フィードバックされております。
自身の研究テーマと異なる分野
御が正確な遺伝子発現の保証機構の一端を構築していること
この場を借りて深謝申し上げる。我々の大学は、私立単科大学
においてこれらの手法を学ぶことは、多様なものから共通の仕
を発表されておりました。
ではあるが、
このような研究活動も精力的に行っている。本プロ
組みを抽出する目を養い、
自身に応用していく上で大変勉強に
ジェクトは2017年まで5年間行われる。是非、若手の皆さんに
なりました。
駒田先生と松田先生は特定の病態に焦点をあててユビキチ
も興味を持って頂ければ幸いである。
ン修飾系の意義をご報告されました。駒田先生は、脱ユビキチ
ン化の低活性型/高活性型フォームのスイッチ機構を解き明か
し、
この制御機構の破綻と病態との関連をご紹介下さりました。
松田先生は病態発症の抑制機構リン酸化/ユビキチンという2
つの修飾形態のクロストークを従来とは全く異なる、斬新な視
点から発見されました。
熱い討議を交わされる岩井領域長とMichael Rape教授
一方で、岩井先生はユビキチンE3リガーゼ複合体の分子機
能解析からはじまり、各複合体構成因子のノックアウトマウスの
国際シンポジウムということで、海外から4名の先生、Allan
解析に至るまで壮大なスケールでご報告され、複合体としての
M Weissman(NIH, USA)、Simona Polo (IFOM, Italy)、
生理作用のみならず複合体として機能することの意義について
Michael Rape (HHMI, USA)、Ze’ev Ronai (Sanford-
も言及されておりました。
Burnham institute, USA)がご講演して下さいました。
写真4:左、Dr Chungと本学学生
右、今回参加してくれた若手海外研究者:左からChen-Song Zhang,
Terytty Yang Li (Dr Lin’s lab)、Hee Min Yoo, Jong Ho Park (Dr
Chung’s lab)、ShuChen Gu, Yi Yu (Dr Feng’s lab)
Weissman 博士はE2酵素に対するユビキチンや制御因子群
ユビキチン分野における最新の手法をご報告して下さったの
のBackside bindingの重要性を構造の観点から、
ユビキチンシ
は佐伯先生です。細胞内の多様なユビキチン鎖の形態を定量的
ステムにおけるE2酵素制御の重要性を提示して下さいました。
且つ高感度に選別する手法を確立され、固有のユビキチン鎖認
細胞骨骼因子の機能解析を通じて新しいクラスのUbiquitin-
識を介したユビキチン結合タンパクの、新たな細胞内ネットワー
binding domain (UBD)を発見されましたのはSimona博士で
MEETING REPORT 06
新学術領域研究
『ユビキチン制御』第一回国際
シンポジウムに参加して
岡田 麻衣子(聖マリアンナ医科大学大学院・医学系研
究科・応用分子腫瘍学)
す。
各種isoformにおけるこのUBDを介した機能差異とがん細胞
における細胞動態との関連性を議論されました。
一方Rape博士とRonai博士は生理/病理メカニズムの視
点からユビキチン制御の重要性をご講演されました。Rape博士
はhESC(human embryonic stem cell)の分化機構を解明
から、神経堤細胞の運命決定を担うユビキチンリガーゼを同定
されました。
また、
このようなユビキチンリガーゼが存在すること
クをご紹介して下さいました。
で、
ユビキタスな翻訳装置であるリボソームに標的特異性が生
以上、
かなり私の主観がはいっておりますがご講演について
じる可能性が示唆されていうようにも見受けられました。Ronai
ご紹介させていただきました。
このように共通の原理を背景に
平成26年11月10日、
京都において当該領域研究の第一回国
博士は低酸素応答のkey regulatorであるHIF1を取りまくタン
多様な生命現象に視野を広げる、或いは多様な生命現象から
際シンポジウムが開催されました。会場である国際高等研究所
パク分解系のネットワークから、
それを基盤とした創薬戦略につ
共通の原理を見出す機会は本当に貴重であると思いました。
こ
はサイエンスシティ京阪奈に位置しております。趣のある庭園が
の会に参加させていただき、
とっても頭が柔らかくなったような
広がる敷地に、和をモチーフとした建物が調和しており、研究所
(気がします)。是非、
日頃の研究生活においても皆様の柔軟な
という名前からは想像ができないその景観の美しさにとても魅
思考を組み入れて、前進して行いきたいと思います。
了されました。天候にも恵まれ、窓の多い建物からはいつでも庭
園が見渡せる開放的な空間でシンポジウムがスタートしました。
最後になりますが、
このような機会を与えて下さった岩井先生
をはじめ、多くの先生方に厚く御礼申し上げます。
“ユビキチン制御”というたった一点から、実に多様な生命現
象を紐解かれたシンポジウムでありました。世界の第一線で御
活躍されている先生方のご講演から、改めてユビキチン修飾が
34
フロアからも熱心な質問が続いた。
35
MEETING REPORT 07
聴衆の興味を理解し、十分な準備をすることの重要性を感じま
Symposium for young
ubiquitin researchers
in Japan
“New Era in the Ubiquitin
Research” 報告
した。
会議の最後には本シンポジウムのメインイベントとしてMeet
the professorが行われました。
これは招待研究者を囲んで、
若手研究者が自由に質問・相談するものであり、4グループに
分かれて行われました。Meet the professorは話し合う内容
は指定せず、
自由討論で行われましたが、
どのグループも
(将来
PIとしての研究室の運営も含めた)研究の進め方や留学につ
いての話題が多かったのではないかと思います。私が参加した
高木 賢治(兵庫県立大学大学院
Dr. Weissmanのグループでは、順番に自己紹介と質問を行い、
生命理学研究科 水島研究室)
Dr. Weissmanが答えるという形で進行されました。討論のな
かでDr. Weissmanはcreativityの重要性を強調しており、Dr.
平成26年11月11日から2日間、
Weissmanのもとに留学した畠山鎮次先生の提案から研究室
京都府木津川市の国際高等研究所
でユビキチンリガーゼ研究が始まったことを例として挙げられて
において
『Symposium for young
いました。
これまで、留学というと受け入れ研究室の研究内容に
ubiquitin researchers in Japan
沿った仕事をすることを想像していましたが、独創性がありチャ
“New Era in the Ubiquitin Research”』
が開催されました
(主
ンスを引き寄せること
催:本新学術領域)。本シンポジウムは、前日開催された『1st
ができるような若手研
International Meeting for New Aspects of the Ubiquitin
究者が求められている
Research』
に引き続き行われたもので、若手研究者が国際舞
のだと感じました。70
台を経験することを目的として、会議はすべて英語で進められ
分間では全然足りな
ました。会議では15人が口頭発表(15分間)、21人がポスター
いぐらい、
白熱したディ
発表を行い、ユビキチン研究の第一線で活躍するDr. Allan
スカッションが行われ
Weissman、
Dr. Simona Polo、
Dr. Michael Rape、
Dr. Ze’ev
ました。
Ronaiの4名の招待研究者らと活発に議論が行われ、非常に内
容の濃い二日間となりました。
会議の発表の合間には奈良散策も組み込まれており、東大寺
や興福寺、平城京跡見学など研究から離れたゆっくりとした時
「日本の若手研究者にとって英語で発表することは大変なこと
間を過ごすことが出来ました。夫人と仲良く歩くDr. Weissman
でありますが・
・
・」
とOpening Remarksで佐伯泰先生が述べら
を見ると、
「オンオフの切り替えが大事」
という当たり前のこともす
れたように、
(ポスター発表を行った)私を含め多くの参加者が
んなりと理解できた気
発表・討論に苦難の連続だったように思われます。
しかしながら、
がします。
本会議で発表し招待研究者の鋭い質問に答えることで、今後の
Concluding Re-
研究に向けて士気が鼓舞されました。
marksでは村田茂穂
先生から
「今回のシン
口頭発表の内容はユビキチンによる翻訳後修飾が多くの生命
ポジウムを経て若手研
現象に関与していることから多岐にわたり、多くの専門的な議論
究者は苦手な英語で
がなされる中、
ユビキチン鎖の特異性やその関与、
また現象を裏
の発表も克服し、
自信
付ける変異体実験の
を持てたのではないか」
との言葉をいただきました。本会議がこ
実施など、研究の基
れから国際舞台での活躍を目指す研究者として有意義な機会に
本となる質問も含ま
なったと同時に、若手が頑張っていかないといけないと強く感じ
れていました。
これは
た二日間でした。
私にとって専門外の
内容を理解するうえ
最後になりましたが、
このような若手発表の場を設けていただい
で非常に役に立ち、
た、
本新学術領域の関係者の方々に深く感謝します。
今後の発表において
36
37
MEETING REPORT 08
MEETING REPORT 09
EMBO conference
Benzon symposium
“Ubiquitin & UBLs:
No. 60 Nuclear regulation
At the crossroads from by ubiquitin
chromatin to protein”
岩井 一宏(京都大学・大学院医学研究科)
岩井 一宏(京都大学・大学院医学研究科)
いきっかけとなりました。
最初に、濱崎純先生(東大)による哺乳類プロテアソームに
おけるユビキチン化タンパク質認識機構と脱ユビキチン化機
構に関する発表がありました。
プロテアソームのユビキチン認
識に関わるサブユニットであるRpn10とRpn13、脱ユビキチ
ン化酵素のUSP14のノックアウトマウスを用いた生理学的な
意義について解析されていました。次に、筒井康博先生(東工
大)による分裂酵母におけるFbh1による相同組換えの制御に
MEETING REPORT 11
Cold Spring Harbor
Asia 2014 Meeting
“Protein Modification &
Homeostasis”
岩井 一宏(京都大学・大学院医学研究科)
Benzon SymposiumはBenzon Foundationが主催する
関する発表がありました。Fbh1はDNAヘリカーゼ活性とユビ
EMBO conference “Ubiquitin & UBLs: At the
シンポジウムで毎回異なるテーマを取り上げてシンポジウムを開
キチンリガーゼ活性を併せ持つタンパク質で、相同組換えに
6月16-20日にあったCold Spring Harbor AsiaのProtein
crossroads from chromatin to protein” は2014年10月
催しています。今回はDNA repairの研究者がユビキチン関連の
重要なRad51をユビキチン化するそうです。一つのタンパク
Modification & Homeostasisの報告を記します。
私は他に
19-24日にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されました。
シンポジウムを提案して開催されました。
日本からは聖マリアン
質が両者の活性を持つ意味、すなわち両者の活性がどのよう
所用があったので18-20日の参加です。16-17日に関しては、外
日本からは、領域の評価委員の田中啓二先生、村田茂穂先生
ナ医大の太田先生、
阪大の中田先生、
名市大の中西先生も参加
に協調して働くのかが知りたいと思いました。次に、駒田先生
部評価委員の村田茂穂先生が出席されていましたので、必要
と岩井の3人が参加しました。KeynoteのCiechanoverの到
されておられましたし、
コペンハーゲン、
チェコ在住の日本人研究
による脱ユビキチン化酵素USP8の変異による脳下垂体腫瘍
があればお聞きになればと思います。Speakerは中国系の研究
着が遅れることになり(23日に60分のlectureをしましたが)、
者も参加されていました。
DNA repair関連の演題が多かったの
の発症機構に関する発表がありました。論文がアクセプトされ
者が多いですが、十分にレベルの高いmeetingだったと思いま
keynote lectureはFred Goldbergが行いました。
また、
Tony
が特徴で、岩井にはフォローが出来ない演題もありました。
ユビ
る前だったため、具体的な病名は伏せた発表となりました。次
す。私は聞いた中ではDr. Ning ZhengのFBXL3によるCRY1
Hunter、
David Komanderが不参加でした。
ちなみにDavidは
キチン関連ではやはり、質量分析、結晶構造の秀でた演題が多
に、沖米田司先生(関西学院大)によるCFTRの品質管理機構
認識の構造解析、Dr. Feng Shaoのbacteria toxinによる
交通事故で不参加でした。
講演はKeynoteとCiechanover以外
かったように思います。
James ChenがRIG-Iではなく直鎖・NF-
に関する発表がありました。非常に綺麗なスクリーニングによ
inflammasome制御などは見事な仕事だったと思います。
ユビ
は全員discussion込みの20分で、
十分深い話ができたかと言う
kappaBの話をしたので、
またまた面倒なことになりましたが、
り、CFTRに特異的なユビキチンリガーゼを同定していたのが
キチンだけではなく、autophagy、SUMOもありましたが、
中国
と疑問もありました。
また、organizerも含め若手のspeakerが
Ivan Dikicが初日だけで帰った後だったので大事にはならず、
印象的でした。我々の研究室でもスクリーニングによって目的
の研究レベルが高くなっていることを実感しました。
また、
CSHA
多かったこと、
アルゼンチンであったためか、ユビキチンとは関係
Jamesとはfloorで後で話をして揉めないように話をしました。
他
のタンパク質を同定していきたいと考えているので非常に参考
の様な組織があり、世界から研究者を招聘し、種々のtopicに関
がないRNAの話や、SUMOの話題が多かった様に思います。話
の分野もおそらくそうなのでしょうけど、
ユビキチンの分野は質
になりました。次に、藤田尚信先生(UCSD)によるバクテリアに
してsmall sizeのmeetingが開催できるのは、
国内の研究レベル
題としてはMichael Rapeの話はおもしろかったですが、おそら
量分析に非常に良く適合したので質量分析の技術革新に呼応
対する選択的オートファジーの分子機構に関する講演があり
の向上に大きく貢献していることは間違いなさそうでした。
く11月の国際シンポジウムでその話をしてくれると思います。
そ
して大きく発展していますし、癌をターゲットにした創薬が急速
ました。個人的に印象的だったのは、選択的オートファジーが
れ以外では村田茂穂先生が講演タイトルとは違った話をされま
に進んでいるように感じました。
私どもの領域もしっかりとやって
p62-LC3系に依存しなくても起こるということでした。オート
したが、非常におもしろかったです。
それ以外はアルゼンチンは
いかないとダメだと強く感じました。
シンポジウムとは別にコペ
ファジー研究は非常に急速に進歩している分野かと思います
日本からみて本当に地球の裏側だと実感したことぐらいでしょうか。
ンハーゲン大学にも行きましたが、
デンマークが基礎研究に十分
が、
まだまだ未解明の部分が多く残されているということが実
な資金をつぎ込んでいるのが印象的でした。
感できました。次に、松田憲之先生(都医学研)による異常ミト
コンドリアにおけるリン酸化ユビキチンの機能に関する発表が
MEETING REPORT 10
生化学会年会シンポジウム
「ユ
ビキチン・ワールド」
に参加して
ありました。今年Natureで発表された内容に加え、
リン酸化ユ
ビキチン鎖によるParkinのミトコンドリア局在に関する新たな
報告が追加されておりました。最後に、佐々木義輝先生(京大)
によるToll様受容体(TLR)刺激によるBリンパ球活性化におけ
る直鎖状ポリユビキチン鎖の役割についての発表がありまし
川口 紘平(東京工業大学生命理工学研究科 駒田研究室
た。驚くべきことに直鎖状ユビキチン鎖はTLR4シグナリングで
修士2年)
は細胞死、TLR9シグナリングでは細胞増殖という異なる機能
の制御に関わっているとのことでした。
秋深まる10月15日より国立京都国際会館にて第87回日
本生化学会年会が開催されました。第2日目の10月16日に
ポスター発表終了後、
シンポジウム演者の先生方の懇親会
東京都医学総合研究所の松田憲之先生と私の指導教員であ
に参加させて頂きました。第一線の研究をされている先生方
る駒田先生によりオーガナイズされたシンポジウム「ユビキチ
のお話を直に聴くことができ、
ただただ学会に参加しているだ
ン・ワールド:分子の鎖が織りなす多彩な生命機能」に参加致
けでは得られない貴重な体験をさせていただきました。今後も
しました。個人的には、論文のリバイズ実験が終わり、一段落
ユビキチンをテーマとしたシンポジウムが数々開催されるかと
といったところだったのですが、各先生方の非常に興味深い講
おもいますが、積極的に参加していきたいと思います。
演を聴くことで今後の研究に対する意欲を得ることができ、良
38
39
速 報
過日、
開催された平成26年度
『ユビキチンネオバイオロジー』
領域会議
(愛知県蒲郡市、
平成26年12月3日〜5日)
では、
田中啓二先生の
本領域評価委員の田中啓二先生が
平成26年度「文化功労者」
として表彰
平成26年度「文化功労者」表彰をお祝いして、先生の記念講演会とお祝い会を開催しました。本班会議のレポートは次号に掲載いたしま
すが、
田中先生のお祝い会の様子のみ速報いたします。
記念講演にて
お話しされる田中先生
評価委員の田中啓二先生(公益財団法人東京都医学総合研究所所長)が平成26年度「文化功労者」として表彰されました。
おめでとうございます。本新学術領域より、心からお祝い申し上げます。
ユーモアを交えて、
これまでの研究の道程をご紹介下さいました。
顕彰式:平成26年11月4日 ホテルオークラ東京
専攻:酵素学(タンパク質分解系の研究を包括的に進め、生命科学の最重要テーマの一つに押し上げた)
田中先生のコメント
このたびの
「文化功労者」
として顕彰されますことは、私の望外の歓びであります。私は、
タンパク質の新陳代謝の解明にむけての基礎
研究に邁進してきましたが、
その結果を評価して頂きましたことに恐悦いたしております。
ご支援を賜った関係者の皆様に厚く御礼申し上
げたいと思います。
また、私の
「プロテアソーム」研究の成果は、卓説した多くの先輩・同僚・学生たちとの共同研究の賜物であり、
これらの
方々のご助力無しには成し遂げることはできませんでしたので、関係者諸子に重ねて深謝致します。
私は、過去40年以上に亘り一貫してタンパク質代謝を中心とした生命機構の解明に全力で立ち向かい、
その結果、
「プロテアソーム」
と
名付けた巨大で複雑なタンパク質分解装置の発見に辿り着きました。
近年、
この酵素複合体の生理的及び病理的重要性が国内外で幅広
く注目を浴び生命科学全般に大きな波及効果を与えるに至った結果が、文化功労者としての顕彰に結びついたのではないかと考えてい
ます。学術の発展に徹した一科学者の地道な研究の成果が、間接的ではありますが、社会的にも重要な貢献ができつつある現状を踏まえ
ますと、私の研究人生は幸運の一言に尽きると思っています。
また、私のような基礎研究者に、
このたびの褒賞が与えられたことが、若い研
究者を育む契機になって頂けば、研究者冥利に尽きると思っています。
しかし、生命科学は依然として多くの謎・未知を抱えており、
その破綻がもたらす多くの疾患の原因解明等について、科学はまだまだま
だ無力でありその克服が社会的に厳しく要請されています。私は研究者一人ひとりによる無心の努力がこれらの難治性疾患の予防や治
療法の発見に繋がると考えており、私もなお研究を続行して、生命と健康を守る科学の発展に寄与していきたいと思っています。
と同時に
科学の発展は、一人の研究者の努力のみでは大きな成果に結びつけることは困難であります。
日本の科学力が文明国家の基盤の一翼を
担え得るように進展させるためには、個人の倫理性を高めた科学に挑戦する若者が増大し、大志を抱くことができるような研究体制作り
が必須でありますので、
その実現に向けて、今後も微力ながら努力を続けて参りたいと思っています。
40
班員からのお祝い品を、愛弟子の小谷野史香さんから受け取る田中啓二先生(平成26年12月4日)。
田中先生、本当におめでとうございます!
41
領域ニュース
受賞・表彰
佐伯先生が平成26年度日本生化
学会奨励賞を受賞しました
アウトリーチ活動
第15回サイエンスカフェ in
上北沢
受賞名:平成26年度日本生化学会奨励賞
研究課題:
「プロテアソームの分子集合
と動態に関する研究
」
「老化の鍵を握る --ミトコンドリア
の秘密にせまる--」
表彰式:平成26年10月15日 国立京都
平成26年3月16日
(日)
国際会館にて
14:00~16:00
佐伯先生の受賞コメント:
「この度の受
公益財団法人東京都医学総合研究所 賞は生化学から研究をスタートした私に
(世田谷区上北沢2-1-6)
とって本当に励みになります。
さすがに今
実施代表者:松田憲之
(東京都医学総
では低温室にこもり続けることは無くな
合研究所 蛋白質代謝研究室)
りましたが、繊細なプロテアソームの精
受講生:一般の参加者36名
製を通じて根気強さや論理性、実験精度
サイエンスカフェとは、
お茶や音楽ととも
の重要性を学びました。
これからも、生化
に気楽な雰囲気の中で、研究者と身近な
学マインドをもって独自の研究を展開し
サイエンスを自由に語り合える場です。
たいと思います。最後に、本賞を推薦して
15回目となる今回は、
ミトコンドリアに
くださった田中啓二先生ならびに研究室
ついてのお話です。
ミトコンドリアは細胞
の皆様に感謝したいと思います。」
の中にある小さな袋状の構造で、
エネル
ギーを生産する場所であることから、“細
畠山先生が平成25年度日本リウ
マチ財団・三浦記念リウマチ学術
研究賞を受賞しました
どの話題に関係してマスメディアに登場
受賞名:平成25年度日本リウマチ財団・
した時に、その名前を聞いたことがある
三浦記念リウマチ学術研究賞
かもしれません。近年、
このミトコンドリ
研究課題:
「リウマチ性疾患における免
アが神経の老化やパーキンソン病と密接
疫細胞活性化を制御するユビキチン化シ
に関係していることが解かってきました。
ステムの解明
」
今回は研究者や研究者の卵など10名ほ
表彰式:平成26年6月8日 丸ビルホー
どのスタッフと一緒に、講演や実験を交
ル7階にて
えながら、
ミトコンドリアについての理解
畠山先生の受賞コメント:
「リウマチ性疾
を深めました。
胞内の発電所”と呼ばれます。
また
「パラ
サイト・イブ」
や
「ミトコンドリア・イブ」
な
患の発症及び悪性化に関して、免疫担当
細胞の異常な活性化が関与していること
が報告されています。われわれはユビキ
チン関連酵素群であるTRIMファミリー
タンパク質の多くが、免疫シグナルである
NF-κBシグナルやIRFシグナルを制御し
ていることを複数報告しました。
この事に
関して、研究助成とともに本賞を拝受い
たしました。」
http://www.igakuken.or.jp/event/science/science15.html
内容(都医学研 HPより転載)
:
42
43
シンポジウム・ワークショップ報告(2012-2014)
第37回日本分子生物学会年会ワークショップ
「ユビキチンをはじめとした翻訳後修飾による
タンパク質の機能・動態変換」
第36回日本分子生物学会年会
ワークショップ
「ユビキチンコードの生物学」
第86回日本生化学会大会
シンポジウム
「タンパク質の品質管理と疾患」
2013年9月13日
(金)横浜
第85回日本生化学会大会
シンポジム
「プロテアソーム:タンパク質分解の分子
基盤と疾患・バイオロジー」
オーガナイザー:木村洋子(東京都医学総合研究所)、垣塚彰
2012年12月14日
(金)福岡
(京都大学)
オーガナイザー:村田茂穂
(東京大学)
、
川原裕之
(首都大学東京)
2013年12月5日
(木)神戸
講演者:田口英樹(東京工業大学)、
川原裕之(首都大学東京)、
2014年11月26日
(水)横浜
オーガナイザー:岩井一宏(京都大学)、佐伯泰(東京都医学総
藤田尚志(京都大学)、長谷川成人(東京都医学総合研究所)、 (東京都医学総合研究所)、水島恒裕(兵庫県立大学)、坂田
オーガナイザー:岩井一宏(京都大学)、村田茂穂(東京大学)
合研究所)
藤澤貴央(東京大学)、木村洋子(東京都医学総合研究所)、垣
絵理(イェール大学)、
白燦基(理化学研究所)、川原裕之(首都
講演者:小谷野史香(東京都医学総合研究所)、藤田宏明(京
概要:
「ユビキチンは多彩な様式でタンパク質を調節することに
塚彰(京都大学)
大学東京)
都大学)
、
森本大智
(京都大学)
、
木村洋子
(静岡大学)
、
川口紘平
より広汎な生命機能を制御することが明確となり、分解の枠組
概要:
「細胞内のタンパク質の品質管理は、分子シャペロンや分
概要:
「プロテアソームは、
ユビキチン化タンパク質を分解するこ
(東京工業大学)、福嶋俊明(広島大学)、奥村文彦(名古屋大
みを超えた新時代を迎えている。多様なポリユビキチン鎖をはじ
解系の分子を含む数多くのタンパク質によって行われている。
こ
とにより細胞周期、
シグナル伝達、転写制御をはじめ真核細胞
学)、鶴田文憲(筑波大学)、濱崎純(東京大学)、
田中克典(関西
めとした様々なユビキチン修飾は
「ユビキチンコード」
と称すべき
れらの分子がバランスをとりながら翻訳、
フォールディング、分解
内でおこる様々な生命現象の進行に必須のタンパク質分解酵
学院大学)
膨大な情報を内包する。本シンポジウムでは多様な局面からユ
などのプロセスに働き、細胞内タンパク質のホメオスタシス
「プロ
素複合体である。近年、
プロテアソームが癌、神経変性、炎症な
概要:
「ユビキチン化をはじめとしたタンパク質翻訳後修飾
ビキチンの役割の解析、解析技術の開発に従事する研究者に
テオスタシス」
を守っている。
また、
ストレスや感染などのプロテ
どのヒト疾患に関与していることが明らかとなり、実際にプロテ
(PTM)は、オルガネラ動態、膜タンパク 質輸送、
タンパク質分
最新の成果を発表していただき、
ユビキチン研究の現況と今後
オスタシスを乱す緊急事態に対しては、既存のプロテオスタシス
アソームは癌治療の標的の一つと認識されている。
しかしその
解、DNA修復、
シグナル伝達など広範な生命現象の制御を担っ
の展開について論じたい。」
ネットワークを増強するだけでなく、特異的なマシーナリーも用
重要性に比し、
プロテアソームの詳細な動作機構や疾患への関
意してストレスに対応していることも明らかになってきた。
タンパ
与機構の解明はいまだ十分でない。本シンポジウムでは細胞活
ク質の品質管理がうまく働かなくなるとプロテオスタシスの破
動のキープレーヤーであるプロテアソームに焦点を絞り、その
綻が起き、
ミスフォールディングを許し、
ストレスに対して脆弱に
多様性によるバイオロジーの新たな進展、66個のサブユニット
はじめてきた。本ワークショップでは若手研究者を中心に、
この
第86回日本生化学会大会
シンポジウム
「拡大するユビキチンネオバイオロジー
の可能性」
なり、神経変性疾患などの障害を引き起こす。本シンポジウムで
からなる複雑な超分子複合体の形成機構、細胞内動態や高次
分野の新しい潮流をなすトピックを口演していただく。」
2013年9月12日
(木)横浜
は、
タンパク質の品質管理における興味深い話題を、基本的な
構造解析に基づいた動作機構への洞察、
ヒト疾患との関わりな
オーガナイザー:畠山鎮次(北海道大学)、嘉村 巧(名古屋大
フォールディングのマシーナリーからミスフォールディングによ
ど、多面的なアプローチによる幅広いプロテアソーム研究の最
第87回日本生化学会大会
シンポジウム
「ユビキチン・ワールド:分子の鎖が織り
なす多彩な生命機能」
学)
る疾患まで幅広く紹介し、
その理解を深めたい。」
先端を紹介し、議論したい。」
2014年10月16日
(木)京都
木義輝(京都大学)、太田智彦(聖マリアンナ医科大学)、Anne
第85回日本生化学会大会
シンポジウム
「ベールを脱いだユビキチン系の新機能」
オーガナイザー:駒田雅之(東京工業大学)、松田憲之(東京都
Bertolotti(MRC-LMB, UK)、村田茂穂(東京大学)
日本生化学会
北海道支部支部例会第50回記念大会
シンポジウム
「生化学の歴史と発展を振り返って」
医学総合研究所)
概要:
「ユビキチンは真核生物に存在する小分子量のタンパク質
2013年7月26日
札幌
オーガナイザー:中山敬一 (九州大学), 岩井一宏 (京都大学)
講演者:沖米田司
(関西学院大学)、駒田雅之(東京工業大学)、
であり、基質タンパク質に共有結合することで機能を発揮する
例会長・オーガナイザー:畠山鎮次(北海道大学)
講演者:河野恵子(名古屋市立大)、中務邦雄(名古屋大学)、
佐々木義輝(京都大学)、筒井康博(東京工業大学)、濱崎純(東
翻訳後修飾メディエーターである。
ユビキチン修飾は、
プロテア
特 別 講 演:J o a n C o n a w a y 博 士( ストワーズ 研 究 所 )
弓本佳苗(九州大学)、武田有紀子(京都大学)、飯塚眞由
(帝京
京大学)、藤田尚信(カリフォルニア大学サンディエゴ校)、松田
ソームによるタンパク質分解の標識として機能するだけでなく、
憲之(東京都医学総合研究所)
分解機能とは異なるシグナル伝達、
DNA修復、
膜ダイナミクスな
概要:
「ユビキチン化は真核細胞に高度に保存されたタンパク質
どにおいても重要な機能を有することが判明してきた。
また、生
ていることが明らかとなり、
その重要性は今なお拡大する一途
である。
さらに、新しい解析手法の発達により、例えばユビキチン
化のメカニズムそのものに関する全く新しい知見なども得られ
講演者:村田 茂穂(東京大学)安友康二(徳島大学)、佐伯泰
講演者:畠山鎮次(北海道大学)、中山敬一(九州大学)、中務
邦雄(名古屋大学)、佐伯泰(東京都医学総合研究所)、佐々
「Structure and function of transcriptional regulatory
complexes」
の翻訳後修飾であり、複数のユビキチン分子がイソペプチド結
化学的にも、
ユビキチンが基質タンパク質に結合した後のユビキ
合あるいはペプチド結合でつながったユビキチン鎖が標的タン
チン鎖形成過程においても多様性があることが明らかになって
第65回日本細胞生物学会大会
シンポジム
「タンパク質分解システムによる細胞制御」
パク質にコンジュゲートされる反応である。
その際、
ユビキチン
きた。
そして、標的タンパク質に形成されるユビキチン鎖の構造
2013年6月21日
(金)名古屋
の7つのリジン残基およびN末端のどのアミノ基を介してユビキ
的多様性(M1鎖、K11鎖、K48鎖、K63鎖など)
が、
さまざまな
オーガナイザー:駒田雅之(東京工業大学)、小松雅明(東京都
チンがつながるかにより、
ユビキチン鎖には多様なタイプが存在
機能多様性にもリンクすることが知られてきた。
また、
ユビキチン
医学総合研究所)
する。
そして、
モノユビキチン化も含め、
これらの多様なユビキチ
以外にもSUMO、Nedd8、ISG15などのユビキチン様タンパク
概要:
「ユビキチン修飾系およびオートファジーの関連分子が、
ン化修飾がタンパク質の機能をそれぞれに異なる様式で制御し
質の存在とその基質認識メカニズムも報告されている。本シン
それぞれの分解の場であるプロテアソーム、
リソソームの垣根を
ていること、
その破綻が様々な疾患に結びつくことが解明されて
ポジウムでは、
ユビキチン修飾の多様性がもたらす生命機能や
越え、多彩な細胞機能を制御することが明らかになってきた。本
きている。本シンポジウムでは、
プロテアソーム分解に加えてシ
疾患の理解に関する新しい展開について、最先端のトピックス
シンポジウムでは、
これらのタンパク質分解系による新しい細胞
グナル伝達、DNA組換え/修復、
オートファジー、
エンドサイトー
を取り上げ議論したい。」
制御に焦点をあて、分解システムそのものや分解に関連した細
シスといった様々な細胞機能のユビキチン化による制御に焦点
胞内輸送、
タンパク質品質管理など、広範な細胞現象にかかわ
を当て、新たなステージに入ったユビキチン研究のカッティン
る分子群の新規機能を取り上げ討議したい。」
2012年12月14-16日 福岡
大)、土屋光(東京都医学総合研究所)、濱崎純(東京大学)、
山
口憲孝(東京大)、尾勝圭(東京都医学総合研究所)
グ・エッジを、疾患との関連を交えつつ議論したい。」
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編集後記
ホームページをご活用ください
総括班では,
「ユビキチンネオバイオロジー」
ホームページを運営しております。
ホームページでは、本領域の研究組織・研究成果や関連会議の開催情報など、領域に関する最新情報をタイムリーに配信してお
りますので、是非、
ご覧下さい。
また、新着論文紹介・評論サイト
「ユビキチンフォーラム」
では、広く皆様のご投稿をお待ちしており
ます。
このフォーラムが活発な議論の場となりますよう奮ってご活用ください。
新学術領域研究「ユビキチンネオバイオロジー」
ホームページ
http://ubiquitin.jp
ユビキチンフォーラム
http://ubiquitin.jp/forum/about.php(利用方法)
http://ubiquitin.jp/forum/index.php(評論サイト)
新学術領域
『ユビキチンネオバイオロジー』
ニュースレター
はないですが、
どうかチャレンジを!お写真じっくりと拝見
第二号をお届けいたします。
していると、
ユビキチン研究の歴史が間近に感じとれるよ
うに思います
(HK)
。
領域長の岩井先生に特別にお願いして、先生のこれま
でに至られる想いを披瀝して頂きました。岩井先生、無理
ご執筆いただきました皆様、
お忙しい中を本当に有難う
なお願いをご快諾下さいまして、本当に有難うございまし
ございました。
た。
毎年開催される
「ユビキチン」
班会議に、
班員の研究室
何の報酬も差し上げること出来ませんが、
これを機会に
に所属する多くの若手がこぞって参加していることは、本
領域内外との共同研究の動きが、
ますます加速することを
領域の大きな特徴と感じます。若手の皆さんは、
エキサイ
願っております。
ティングな本領域の進展の中で将来への希望にあふれて
いる一方で、
研究者としてのキャリアの積み方、
あるいは目
「まだ執筆依頼が来ない!」
とひそかにお思いの先生方、
先
生のお原稿をいつでもお待ちしております。
指すべき研究者のスタイルについて、時には思い悩むこと
もあるかもしれません。岩井先生の現在のご研究は、領域
皆様のご研究に関連したミニレビュー、学会参加報告
会議や若手シンポなどで間近に接する機会が多いと思い
記、研究室の若手紹介、領域内共同研究の宣伝、研究者
ますが、
岩井先生がご研究をスタートさせた頃のお姿とお
社会を眺めながらのエッセイなど、
ご自由なスタイルでご
気持ち、初めて触れる方も多いのではないかと思います。
寄稿下さい。英文論文には出来ないような大胆な仮説な
本文中に出てくる1995年FASEB summer research
ども、是非、
どうぞ!また、本誌の誌面に活用させて頂ける
conference
「ユビキチン」
の記念写真、
岩井先生にご提供
お写真(学会・班会議・研究室でのスナップショット、秘蔵
頂きました。
田中啓二先生をはじめ、
ユビキチン研究の黎
の歴史的写真etc..)
などもご提供いただけるとありがたく
明期を築かれた多くの先生方のお顔も見つけ出すことが
思います。直ちに第3号の編集に取りかかる予定です。皆
出来ます。
さて、岩井先生はどこにいらっしゃるか、
お分か
様よりのご寄稿を常時お待ち申し上げております。
りになりますでしょうか??
「先生を探せ」
ユビキチン版で
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(川原・駒田)
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