根来:競争と共有の関係 競争と共有の関係 ー産業基盤としての情報ネットワークー 根来龍之 (早稲田大学IT戦略研究所所長・商学部教授) 2003年6月20日 引用についてのお願い: この資料の一部をコピーして使用する場合は、連絡は不要ですが、 下記のように出所を示してください。 (出所:根来龍之「競争と共有の関係」 2003.6) http://faculty.web.waseda.ac.jp/negoro/ e-mail: [email protected] 2003/6/21 1 根来:競争と共有の関係 本日の話の趣旨 • 購買企業から見た場合、サプライヤーとの長 期的協働とサプライヤー同士の競争の両立 =「バランスソーシング」が求められる。 • 同時に、購買企業の取引コスト低減は永遠の テーマである。 • 産業共有型ネットワーク環境の整備は、バラ ンスソーシングの質的向上に貢献する。 2003/6/21 2 根来:競争と共有の関係 バランス・ソーシング 低 競争的な価格決定 信頼に基づくパートナーシップ 高 協調的 な関係 低 2003/6/21 •価格低減と機能・品質改善に向 けたインセンティヴは状況に依存 •サプライヤーとの目標の一致を 前提とする •創造された価値は、サプライヤー の取り分となる 非効率的な購買 •伝統的な購買手法に基づく事 務的な購買 •提示価格に対して受動的にな る •高く買わされる 高 バランス・ソーシング •サプライヤーの能力を最大に 活用する •買い手企業とサプライヤーの 両方の改善を促進させる •買い手企業が優れた調達・管 理能力を有することが前提 食うか食われるかの生存競争 •大きな購買力を背景とする •サプライヤーの怠慢の排除に役 立つが、反感を買う可能性もある •共同での改善に向けた活動に 繋がらない (出所:レスター,ティモシー・M.『ストラテジックソーシング』プレンティスホール出版、1999年。) 3 根来:競争と共有の関係 2003/6/21 4 根来:競争と共有の関係 自動車における取引先との情報交換 • 組立企業と部品企業,資材企業,装置企業,販社との 間でさまざまな情報通信手段を用いて情報が交換され ている. • 従来の自動車産業でのデータ交換 – 製品エンジニアリング時におけるCAD図面データ交 換 – 試作段階での品質データ、見積もりデータ – 量産時における受発注データ – 販売時における販売データの交換 • 近年,あらゆる段階でのリードタイム短縮が求められて いる。そのため,素早い情報交換が必要となっている. 2003/6/21 5 根来:競争と共有の関係 JNX (Japanese automotive Network eXchange) の設立目的 • 通信インフラコストの削減 OEM A B OEM C A B C JNX X Y Suppliers Z X Y Z Suppliers •セキュリティの保証されたデータ交換 •信頼性の高いデータ交換 •迅速なデータ交換 •標準化された業界共通のアプリケーション基盤 2003/6/21 (出所:JNX広報資料) 6 根来:競争と共有の関係 企業間情報ネットのタイプと特徴 ←クローズド オープン→ 専用線/VAN エクストラネット (VPN) オープンなインターネット パフォーマンス 帯域保証 帯域保証 帯域保証されず 安全性 Secured Secured Not-Secured プロトコル 独自、TCP/IP TCP/IP TCP/IP アプリ標準化 系列独自 標準化志向 標準化志向 ネット料金 大 中 小 (出所:安部忠彦「企業間分業構造,製品/部品構造と電子商取引システム」 2003/6/21 7 根来:競争と共有の関係 Common Application Infrastructure (CAI) Applications of Various Companies At Present Individual ASP CAD ASP User directory Authentication Portal Supplier Directory Future 2003/6/21 Applications of Various Companies Common NW Infrastructure (JNX) ASP ASP New ASP ASP CAD Data Supplier Data Exchange Directory Exchange Service Service Common Application Infrastructure(CAI) (Portal, Authentication, User directory, etc) Common NW Infrastructure (JNX) (出所:JNX広報資料) 8 根来:競争と共有の関係 2003/6/21 9 根来:競争と共有の関係 取引コスト インク 探索 ワイア 比較 リー 参照 コミュ 連絡 ニケー 調整 ション 交渉 取引相手を探す、対象製品を探す 価格を比較する、機能・サービスを比較する 取引相手の特徴を理解する、対象製品の特徴を 理解する 取引上の条件(数量、納期等)を連絡する 取引内容を調整する 取引内容を交渉する 電子的手段の利用→インクワイアリーコストを下げる インフラの一本化→コミュニケーションコストを下げる(JNXの第一の効果) 2003/6/21 10 根来:競争と共有の関係 ダイナミック・インタラクション コントロール 監視 強制 アジャストメ 調整 ント ラーニング 提案・要求 共同開発 取引が契約とおりかどうかを 監視する 契約の履行を強制する 相手に合わせる 相手に要求を行う 相手に提案を行う 相手と共同して新しいものを つくる 電子的手段の利用→コントロールコストを下げる インタフェースの標準化→アジャストメントコストを下げる(JNXの第二の効果) 他のラーニングコストを下げるには、継続的取引が必要 2003/6/21 11 根来:競争と共有の関係 コスト削減の比較対象 JNXで取引開始 潜在バイヤー 現状 バイヤー サプライヤー JNX 現在のサプライヤーとの取引コストの比較 潜在サプライヤー 2003/6/21 JNXで取引開始 現状サプライヤーと 潜在的サプライヤーとの取引コストと ダナイミックインタラクションコストの比較 (取引先拡大の拡大・変更のコスト) 12 根来:競争と共有の関係 希望的な信頼→育成購買 • 能力について、今はないが将来は期待できるという「希 望的な信頼」がある場合、企業は、相手の能力を引き 上げるように取引相手を育成することがある。 • 技術指導や情報提供 • ただし、技術や情報が、競争相手に流出する可能性が あるので、技術指導や情報提供は「意図への期待」が 前提となる。 (参考:真鍋誠司「自動車部品取引における信頼の担保メカニズム」) 2003/6/21 13 根来:競争と共有の関係 意図への期待 • 相手が「予期する以上の利他的行動」をとる可能性への 期待 • 不確実性下での協力への期待 • 第3者的企業では期待できない、高度な技術指導、情 報提供、天災や緊急事態時の対応への期待 • 機会主義的行動をとらないことへの期待 「経済主体が自己利益を追求するために悪賢く取引を する方針」(Williamson,1975) (参考:真鍋誠司「自動車部品取引における信頼の担保メカニズム」) 2003/6/21 14 根来:競争と共有の関係 恩義的取引の方がパフォーマンスが高い • 恩義的取引とは、契約が不完全なままで、「好意による信頼」を重視する取引 関係である。 • 契約遵守の信頼+好意に基づく信頼は、真の情報開示を促進する。情報開示 (例:投資計画、製品計画)は、不確実な状況への対応コストを下げる。 • 能力への信頼は、取引時のコントールコスト(検査コスト等)を下げる。 • 好意に基づく信頼は、新たな状況へのダイナミックな反応=高レベルの努力・ 尽力を引き出す。 • 好意に基づく信頼は、コミュニケーションを密にし、対応の柔軟性を導き、開発 費の削減を可能にする。 • 好意に基づく信頼は、価格交渉コストを下げる。 (参考:真鍋誠司「自動車部品取引における信頼の担保メカニズム」) 2003/6/21 15 根来:競争と共有の関係 2003/6/21 16 根来:競争と共有の関係 各協力会におけるサプライヤーの残存率 %︶1968年の企業数=100とした場合 100 90 東海協豊会(トヨタ系) 80 70 旧宝会(日産系) 60 旧三菱自動車協力会 50 40 30 20 10 ( 0 1968年 1972年 1977年 1982年 1987年 1992年 1997年 (出所)『日本の自動車部品工業』各年版掲載の自動社メーカー部品協力会会員名簿及び『宝会記念誌』(1993) をもとに著者が集計して作成。 2003/6/21 17 (出所:山田耕嗣「継続的取引とエコロジカル・アプローチ」高橋伸夫編『生存と多様性』白桃書房、 1999年) 根来:競争と共有の関係 オープン化と継続取引 • オープンなネットワーク上でも、継続的な取引関 係は重要である • オープン化→短期取引市場化は誤り – ×「短期取引化」 – ×「短期収益の追求」 – ×「信頼は二の次」 • 競争と協調のバランスが重要 井上達彦「<EDIインタフェースと企業間取引形態>の相互依存性」組織科学Vol.36 No.3 pp.74-91 2003/6/21 18 根来:競争と共有の関係 オープンなネットワークでの継続取引 取引相手の絶対数 2003/6/21 取引の継続性 スポット取引 継続的取引 自由市場的取引 オープンかつ密接な関係 (マーケットプレイス) 多数 ーーー 少数 (意味がない) オープンかつ密接な関係 少数者間の有効競争 Moreコンテンスタブル 井上達彦「<EDIインタフェースと企業間取引形態>の相互依存性」組織科学Vol.36 No.3 pp.74-91 19 根来:競争と共有の関係 オープンなネットワーク下での継続的な取引関係が 有利になる理由 • トランザクションコストが下がる。 – オープンネットワークによって取引先とのネットワークの関係 資産的特殊性を減らす。 • コントロールコストが下がる – 継続性によって、取引先の機会主義的な行動を防ぐ。 • アジャストメントコストが下がる – オープンネットワークによって、潜在的参入脅威を作り出す→ 長期的な取引相手入れ替えの可能性 • ラーニングコストが下がる – 継続性から生じるメリットとして、取引相手からの素早いフィー ドバックがある。 – このようなフィードバックによって、情報の獲得と蓄積が行わ れる。 20 2003/6/21 根来:競争と共有の関係 2003/6/21 21 根来:競争と共有の関係 バランス ソーシング 低 競争的な価格決定 信頼に基づくパートナーシップ 高 協調的 な関係 低 2003/6/21 •改善に向けたインセンティヴは 不明 •サプライヤーとの目標の一致を 前提とする •創造された価値は、サプライヤー の取り分となる 高 バランス・ソーシング •サプライヤーの能力を最大に 活用する •買い手企業とサプライヤーの 両方の改善を促進させる •買い手企業が優れた能力を有 することが前提 非効率的な購買 食うか食われるかの生存競争 •伝統的な購買手法に基づく事 務的な購買 •提示価格に対して受動的にな る •高く買わされる •大きな購買力を背景とする •サプライヤーの怠慢の排除に役 立つが、反感を買う可能性もある •共同での改善に向けた活動に 繋がらない (出所:レスター,ティモシー・M.『ストラテジックソーシング』プレンティスホール出版、1999年。) 22 根来:競争と共有の関係 コスト削減の比較対象 JNXで取引開始 潜在バイヤー 現状 バイヤー サプライヤー JNX 現在のサプライヤーとの取引コストの比較 潜在サプライヤー 2003/6/21 JNXで取引開始 現状サプライヤーと 潜在的サプライヤーとの取引コストと ダナイミックインタラクションコストの比較 (取引先拡大の拡大・変更のコスト) 23 根来:競争と共有の関係 結論 • JNXは、 • 単純に、通信インフラコストを低減するだけでな く、 • オープンなネットワーク環境下で継続的取引を 行うことで、 潜在的参入圧力を高め、 • 競争と協調の「バランスソーシング」のインフラと して機能しえる。 2003/6/21 24 根来:競争と共有の関係 参考文献 • • • • • • • • • • • • • • • 根来龍之・木村誠『ネットビジネスの経営戦略』日科技連、1999年。 小野桂之介・根来龍之『経営戦略と企業革新』朝倉書店、2001年。 根来龍之「デルモデル:その普遍性と特殊性」 『 IEレビュー 』 Vol.41 No.3、2000。 根来龍之「一気通貫経営への疑問」 『 IEレビュー 』 Vol.41 No.3、2000。 根来龍之「サプライチェーン・マネジメントのエージェント・モデル」『経営情報学会誌』 Vol.7 No.3 (PP.180-185)、1998。 根来龍之・坂爪裕「KFCサプライプロセスの発展と改善」 『 IEレビュー 』 Vol.40 No.1、1999。 安部忠彦「企業間分業構造,製品/部品構造と電子商取引システム」奥野・池田[編]『情報化と 経済システムの転換』東洋経済新報社、2000年、pp.267-296. 井上達彦「<EDIインタフェースと企業間取引形態>の相互依存性」組織科学Vol.36 No.3 pp.7491 今井賢一・伊丹敬之「組織と市場の相互浸透」伊丹・加護野・伊藤編『日本の企業システム第4巻』 有斐閣、1993。 近能義範『「戦略論」及び「企業間関係論」と「構造的埋め込み理論」』赤門マネジメント・レビュー 1巻5号・6号、2002。 山田耕嗣「継続的取引とエコロジカル・アプローチ」高橋伸夫編『生存と多様性』白桃書房、 1999。 藤本隆宏・武石彰・青島矢一『ビジネス・アーキテクチャー』有斐閣、2001年。 デビット・フォード『リレーションシップ・マネジメント』白桃書房、2001年 。 レスター,ティモシー・M.『ストラテジックソーシング』プレンティスホール出版、1999年。 その他の関連文献紹介: http://faculty.web.waseda.ac.jp/negoro/ 2003/6/21 25 根来:競争と共有の関係 略歴:根来龍之(ねごろ・たつゆき) 早稲田大学IT戦略研究所所長。早稲田大学商学部・大学院商学研究科教授 (大学院IT戦略コース責任者)。慶應義塾大学大学院講師。1952年三重県生ま れ。京都大学卒業(社会学専攻)。慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA) 修了。鉄鋼メーカー、英ハル大学客員研究員、文教大学などを経て、現職。 CRM協議会副理事長。経営情報学会誌編集長。ビジネスモデル学会ネットビジ ネス研究分科会座長。組織学会理事。Systems Research誌Editorial Board。 Systems Practice誌International adviser。 ●主な著書に『オープンパートナーシップ経営』(PHP)、 『ネットビジネスの経営 戦略』(日科技連)、『製薬・医療産業の未来戦略』(東洋経済新報社)、『The Strategic Management of Manufacturing Businesses』(3A Corporation) 、『生産 企業の経営』(海声社)、『経営戦略と企業革新』(朝倉書店)、『日経ビジネスで 学ぶ経営戦略の考え方』(日本経済新聞社)、『ERPとビジネス改革』(日科技連) など。 主な訳書にウィルソン『システム仕様の分析学:ソフトシステム方法論』(共立出 版、監訳)、ローゼンヘッド『ソフト戦略思考』(有斐閣、共訳)など。 ●専門は、システム方法論、情報システム論、戦略経営論の統合分野。 ●HP: http://faculty.web.waseda.ac.jp/negoro/ e-mail: [email protected] 2003/6/21 26 根来:競争と共有の関係 早稲田大学IT戦略研究所 www.waseda.ac.jp/projects/riim/ • IT戦略研究所(Research Institute of Information Technology and Management: 略称RIIM)は、情報技術(IT)が経営戦略、経営組織などに与え る影響について研究・提言を行うことを目的とした研究所です。寄付金(納税 時控除可能)と受託研究費で運営。 • • • • リサーチ結果の公開 – ワーキングペーパーシリーズの発行 – IT戦略研究所編集の著作刊行 アカデミックシンポジウムの主催 研究プロジェクトの受託 – 個別受託研究の受託 – マルチクライアントプロジェクト(研究会)の運営 – 客員研究員の受け入れ ELフォーラム(企業幹部のためのコミュニティ:登録無料)の企画・運営 www.elforum.org 2003/6/21 27 根来:競争と共有の関係 早稲田大学商学研究科MBAコース(社会人向け夜間・土曜日) 特定テーマ群を設定した専門性あるMBAコース 来年度は5つのモジュール<選択科目群>を設定予定: <経営戦略とIT>、<クレジット・ビジネス戦略>、<マーケティング戦略 >、 <企業価値経営と評価 >、<リスクマネジメント> <特徴> ・少人数教育:このコースは、教育密度を第一に考え、全体で40人程度、各モジュール1 0∼15人の規模で実施する(人数は予定)。 ・MBA基礎科目と特定テーマ集中学習の両立:入学者は、基礎(コア)科目とモジュール 科目の両方をバランスよく履修することによって、専門性を持ったMBAをめざす。 1.制度上の位置付け:修士(経営学)を取得する。履修年限2年間。36単位以上(1科目=半期2単 位制)単位取得が必要。博士課程後期受験も可能 。 2.入学時期:2004年4月 3.履修時間帯:平日19:00∼22:05 + 土曜日9:00∼16:10 4.開設場所:西早稲田キャンパス(地下鉄東西線早稲田駅から歩いて5分) 5.受験資格:入学の時点において大学卒業後、継続して常勤者として満3年以上の実務経験を有 する者。出身学部を問わない。現在の職業における専門性の継続的改善を図るだけでなく、 キャリアチェンジやキャリアアップを図ろうとする方々も対象とする。 6.募集人数・入試方法:40名程度。書類審査、記述試験、口述試験による選考。 7.詳細情報:http://www.waseda.ac.jp/gradcom/ 2003/6/21 28 根来:競争と共有の関係 Thank you 2003/6/21 29
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