バイオエタノール生産に向けた 稲わら等の収集運搬作業体系に関する研究

Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No.6
バイオエタノール生産に向けた
稲わら等の収集運搬作業体系に関する研究
Study on Rice Straw Collection System for Bioethanol Production
佐 賀 清 崇 *・ 芋 生 憲 司
Kiyotaka Saga
**
・ 横 山 伸 也
Kenji Imou
*
Shinya Yokoyama
*
藤 本 真 司 ・ 柳 田 高 志 ・ 美 濃 輪 智 朗
Shinji Fujimoto
**
Takashi Yanagida
*
Tomoaki Minowa
(原稿受付日 2008 年 5 月 1 日,受理日 2008 年 10 月 24 日)
Many studies about ethanol production technologies have been reported. However there are few studies about feedstock
collection. This paper presents cost of collecting and transporting rice straw. Upon investigation of the contractor, which
collects rice straw for feed, the costs of collection and transportation prove to be 20.0 and 6.8¥/kg, respectively. Therefore
actual cost of rice straw for feed is 26.8¥/kg. On the other hand, the rice straw cost for ethanol feedstock should be less than
11.8¥/kg. Under the condition of small-scale system that is manual labor and local transportation, the rice straw cost is 8.4¥/kg,
so it can fall below target cost. In case of large-scale system, if winter crop that is barley straw or Italian Ryegrass is combined,
the target cost will be realized. It is important to construct flexible system using not only rice straw but also winter crop.
技術の共用,生産の効率化によるコストダウンの効果が期
1.はじめに
待される.
稲わらの生産量は米の減産に伴って減少傾向あり,30 年
これまでセルロース系バイオマスを原料とするエタノー
前の約 1,350 万トンから現在の約 900 万トンへと 2/3 に減少
ル製造技術については数多く報告されている.しかしなが
している.図 1 に国産稲わらの年間生産量と用途別利用量
ら,エタノール原料の収集運搬作業体系に関する知見はま
の推移を示す.稲わらはかつて農業用の資材や家畜の飼料
だ少ない.そこで本研究では,現行の稲わらの収集運搬作
として幅広く利用されてきたが,現在,稲わらの大部分は
業体系を整理して,ヒアリング調査によって把握した飼料
水田に鋤き込まれている.稲わらを水田に鋤き込み,農地
向用稲わらの収集運搬コストと,エタノール原料として求
に還元することで担保される稲作の持続性については十分
められるコストを比較検討することで,バイオエタノール
留意しなければならないが,鋤き込まれている稲わらを粗
生産に向けた稲わら等の収集運搬作業体系を考察する.
飼料やエタノールなどのバイオ燃料の原料として利用する
ことは選択肢として考えられる.
2. 飼料用稲わらの収集運搬作業体系と供給事業例
現在,農林水産省は稲わら粗飼料の増産を奨励しており,
これによって飼料自給率の向上をはかろうとしている.稲
2.1 収集運搬作業体系
わらを粗飼料として供給する際には補助金が支給されてお
飼料用稲わらの収集運搬作業体系は図 2 のように大きく
り,エタノール利用と競合すると考えられるかもしれない.
2 つに分類できる.1 つは稲わらを乾燥させて供給する乾燥
しかしながら,2005 年度に輸入された粗飼料は約 270 万ト
わら体系であり,もう 1 つは乾燥させずに高水分のまま密
ンであり,同年度にすき込みや焼却された稲わらの重量約
封して発酵させるラップサーレージ体系である.乾燥わら
710 万トンの約 38%である.従って,国産稲わらが粗飼料
1600
自給率を向上させるべく飼料に利用されても,エタノール
1400
原料として供給できる分はなお残る.むしろ,粗飼料増産
1200
利用量 (万トン/年)
の目的で,稲わらの収集・運搬に関する技術開発が進めら
れており,作業の効率化と低コスト化が図られつつある.
このことは稲わらのエタノール原料としての利用について
も好影響をもたらすものであり,原料の奪い合いではなく,
1000
800
加工用
すきこみ,焼却,その他
600
堆肥
400
敷料
200
*
産業技術総合研究所バイオマス研究センター
〒737-0197 広島県呉市広末広 2-2-2
e-mail [email protected]
**
東京大学大学院農学生命科学研究科
〒113-8657 東京都文京区弥生 1-1-1
飼料
0
75
80
85
90
年
図1
8
95
度
稲わらの用途別使用量の推移 1)
00
05
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No.6
での長期保存が可能になる.フィルムは通常,幅の 2 分の
ラップサイレージ体系
予乾
収穫
(刈取)
1 を重ねて 2 回巻きつけて 4 層とするが,3 ヶ月を越える長
梱包
ラッピング
反転・集草
梱包
期貯蔵の場合には 3 回巻きで 6 層にする.ラップサイレー
積込
運搬
ジ体系の場合,乳酸発酵させることが,エタノール発酵に
どのような影響を及ぼすかを明らかにする必要がある.
(5)積込・運搬
乾燥わら体系
大型のロールベールは 150kg 以上であるため,圃場から
図 2 飼料用稲わらの収集運搬技術体系
の搬出及び積込にはベールグリッパやベールフォークが用
体系では,刈取後に反転し十分に乾燥させてから,直方体
いられる.運搬には専用のワゴンもあるが,一般的には通
か円柱形に梱包する.一方,ラップサーレージ体系では刈
常のトラックやダンプが用いられる.
取後の予乾によって水分を 50∼60%程度にし,梱包してラ
2.2 供給事業例
ッピングする.ラッピングすることで屋外貯蔵が可能とな
2005 年秋以前に実施された関東地域における稲わら収
るが,嫌気状態のため長期間保管すると乳酸発酵が進行す
集事例を表 1 に示す.稲わらの取引に関しては無償と有償
る.従ってエタノール原料としては,乾燥わらが適すると
の事例があり,稲わらと堆肥の交換によって成立している
考えられるが,ラッピングして短期間屋外で貯蔵する可能
事例も存在する.供給形態は全て大型の乾燥稲わらロール
性もある.以下に各作業プロセスの概要を示す 2).
ベールである.多くの事例において畜産糞尿を原料とする
(1)収穫
堆肥が,稲わら収集事業者によって農地に還元されている.
我が国で稲の収穫に用いられるコンバインは主として,
補助金については述べられていないが,何らかの補助制度
自脱コンバインと汎用コンバインである.自脱コンバイン
を活用していると考えられる.乾燥わらロールベールの販
は稲の穂先だけを脱穀するため,稲わらは長わらのかたち
売価格は 20 円/kg 以上であり,エタノール原料としては高
で排出される.一方,汎用コンバインは全稈を脱穀部に投
すぎる価格で取引されている.
入され,稲わらは細断されて排出される.
現在の国内農業は高度に機械化され省力的であるが,後
(2)反転・集草
継者難や低コスト化の要請から農業が大規模経営の担い手
乾燥わら体系では,排出された長わらや裁断わらを 2∼3
に集約される傾向にある.稲わらについても,組合などの
回撹拌して反転させ,水分を刈り取り直後の 60%程度から
事業体によって大規模に収集されている.個々の農家が稲
15%程度にまで低下させる.乾燥が不十分な状態で梱包す
わらを収集するには労働力が足りず,収集機械を各戸で購
ると腐敗,カビ,発熱などが生じ,発火する危険性もある.
入するには高価過ぎる.またエネルギー収支の点でも無駄
反転はトラクタに装着したテッダという作業機によって行
が多くなると考えられる.従ってエタノール生産において
われ,レーキという作業機で列状に集草する.
も,原料稲わらの収集・運搬は,ボランティア的な活動を
(3)梱包
除くと,各事業者が大面積を担当する形になると思われる.
梱包とはかさ密度が低い稲わらを圧縮成形し,成形した
わらをトワインやネットで巻き付ける作業である.梱包機
3. エタノール生産コストの分析
はベーラと呼ばれ,自走式と牽引式がある.また直方体に
成形するタイトベーラと,円柱形に成形するロールベーラ
3.1 飼料用稲わらの収集運搬コスト
に分けられる.ベールの大きさは様々であり,大型ロール
筆者らが 2007 年秋に聞き取り調査した茨城県の関本稲
ベールでは直径 1.0∼1.5m 程度,幅 1.0∼1.2m 程度である.
わら供給組合の事業収支を表 2 に示す.この事業者は肉牛
(4)ラッピング
を飼育する酪農経営を行いつつ,茨城県筑西市・下妻市,
稲わらをポリエチレンのフィルムで密封することで屋外
そして栃木県小山市含む半径 30km 圏内に点在する排水条
表 1 関東地方における飼料向け稲わらの収集事業例 3)
栃木
千葉
千葉
長野
茨城
収集者(組合)
耕種農家5戸
酪農家3戸
耕種農家2戸
畜産農家2戸
耕種農家3戸
畜産農家3戸
収集面積(ha)
270
40
収集量(t)
1081
200
稲わら購入価格(円/10a)
無償
無償
ベール販売価格(円/kg)
時価
20
59
255
1000
32
65
142
293
568
交換
4000
40
30∼40
9
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件の良い大規模水田から稲わらを収集している.収集面積
表 2 稲わら収集運搬事業の事業収支
は約 300ha であり,10a あたり約 400kg(含水率 15%)収集
300ha(半径30km圏内)
収集面積
しており,8,000 個(150kg/個)の稲わらベールを生産して
8000個
収穫ベール数
いる.自家消費以外の稲わらベールは 6,000 円/個で隣県の
(万円)
畜産農家へ販売している.以下,断りがない限り稲わらの
収入
重量は含水率 15%の値である.2006 年度までは農林水産省
稲わらベール販売
の国産粗飼料増産対策事業により 10a あたり 5,000 円の補
支出
助金が出されていたが, 3 ヵ年の補助期間が終了し 2007
4,800
備考
(円/10a)
16,000
稲わら購入(A)
1,200
4,000
収集運搬費(B)
3,195
10,650
年度は補助金を受けていない.稲作農家への堆肥供給は行
人件費
900
3,000
っておらず,農地還元すべき稲わらの有機分の対価として
燃料費
120
400
10a あたり 4,000 円を支払っている.この事業者の作業体系
は反転 2 回行った後に,集草、梱包し圃場から搬出し、ト
資材費(ネット)
175
583
機械償却費
950
3,167
6000円/個
60日*15人*1万/日
整備費
250
833
ラックに積み込む.自家消費以外の稲わらベールの輸送は
輸送費
800
2,667
外部の業者に委託しており,1 個あたり 1,000 円の輸送費を
合計(A)+(B)
4,395
14,650
支払っている.
ノール収率(0.3L/dry-kg)から算出する.稲わら発生密度
1000円/個
表 3 に稲わら収集運搬作業における各プロセスのコストを示
とは利用可能な稲わらの発生量を当該県の総面積で除した
す.算出方法は以下の通りである.まず,既往文献よりアタッチ
値である.利用可能な稲わらの発生量とは,当該県の水田
メントの価格,各プロセスの作業時間そして燃料消費量を整理
作付面積,稲わらの発生量(400kg/10a),そして現在は水田
した.そして,表 2 に示した各項目における支出額を上記の整
に鋤き込まれているが,鋤き込み以外の用途の可能性も考
理したデータで比例配分して,各プロセスのコストを算出した.
えられる稲わらの割合(0.738)を掛け合わせた値である.以
具体的には人件費は作業時間で,燃料費は燃料消費量で,機
上より,茨城県及び栃木県のエタノール生産に稲わら発生
4)
密度はそれぞれ 37.8,30.7t/km2 と算出され,収集半径を
.なお,機械償却費及び整備費にはアタッチメントだけでなく
30km と仮定すると,年産約 2 万 kL のエタノールが生産可
トラクタも含まれる.飼料用稲わらの調整・収集プロセス及び運
能と推定された.図 3 に年産 2 万 kL 規模の濃硫酸法によ
搬プロセスのコストはそれぞれ 20.0,6.7 円/kg であり,稲わら購
るエタノール製造コストを示す
入費 10 円/kg を含めると,合計 36.7 円/kg と算出された.
製造コストを 100 円/L と仮定した場合,設備償却費,ケミ
3.2 エタノール製造コスト
カルス費,発酵副原料費,蒸気・電力費,人件費を差し引
械償却費及び整備費はアタッチメント価格を用いて算出した
5)
7)
.目標とするエタノール
いた原料コストは 46.6 円/L となり、稲わら重量あたり(含
バイオマス・ニッポン総合戦略推進会議によると稲わら
水率 15%)に換算すると 11.8 円/kg となる.
を原料とするエタノールの目標生産コストを 100 円/L とし
ている .本研究でも同様に目標生産コストを 100 円/L と
エタノール製造コストのうち,設備費の占める割合は原
仮定した.エタノール製造コストの中で大きな割合を占め
料費に次いで大きい.プラント建設費のなかで,前処理糖
る設備償却費は,プラント規模によって大きく変動する.
化工程にかかる費用が全体の 62%を占めており,中でも耐
そこで,プラント規模を稲わら発生密度,収集半径,エタ
酸性設備が必要な硫酸回収・濃縮,糖酸分離によるものが
6)
表 3 各作業プロセスのコスト
調整・収集プロセス
反転
反転
ジャイロテッダ
アタッチメント
4)
150
アタッチメント価格(万円)
5)
作業時間(h/ha)
0.5
0.5
集草
梱包
積込
ジャイロレーキ ヘーベーラ ロールグラブ
合計
運搬プロセス
合計
-
-
-
-
-
80
370
60
660
0.5
0.8
0.4
2.7
燃料消費量(L/ha)5)
人件費(円/10a)
2.5
2.5
2
6.4
4
17.4
556
556
556
889
444
3,000
燃料費(円/10a)
57
57
46
147
92
400
資材費(ネット)(円/10a)
0
0
0
583
0
583
機械償却費(円/10a)
360
360
384
1,775
288
3,167
整備費(円/10a)
95
95
101
467
76
833
合計(円/10a)
1,068
1,068
1,086
3,862
900
7,983
2,667
10,650
合計(円/kg)
2.7
2.7
2.7
9.7
2.3
20.0
6.7
26.6
10
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プサイレージ体系では積極的な乾燥を行う必要がなく,ラ
(円/L)
ッピングしたロールベールは屋外で保管可能である.稲わ
らは圧縮してもエネルギー密度が低いので,貯蔵に膨大な
原料費
46.4
設備償却費
39.9
スペースが必要であることを考慮すると,この利点は大き
い.一方,乾燥稲わらでは屋根付きの施設が必要になる.
調査した事業者は粗飼料としての品質を確保するために
反転作業を 2 回行っている.しかしながらエタノール原料
人件費
4.5
蒸気・電力費
2.2
発酵副原料費
2.0
ケミカルス費
5.0
とする場合,飼料と違い多少の品質低下は許容されるかも
しれない.また収集・運搬後すぐに加工すれば,乾燥の程
度が悪くても問題にならない可能性がある.作業体系③は
図 3 エタノール製造コストの内訳 7)
(濃硫酸法,目標コスト 100 円/L,年産 2 万 kL の場合)
玄米収穫後の稲わらを圃場に放置して乾燥させる反転作業
を省略した体系である.関東地方のように冬に晴天が多い
大きい.硫酸不使用の微粉砕・酵素糖化法なども提案され
ており
地域で可能であると考えられる.
8)
,各エタノール変換技術の経済性を評価する必要
作業体系④は梱包プロセスを省略した小規模な体系であ
があるが,その問題については今後の課題としたい.
る.表 3 に示すとおり収集運搬コストのうち梱包プロセス
に占める割合が大きく,梱包プロセスが省略されると大幅
4. 考察
にコストが下げられる.しかしながら,梱包しない稲わら
はかさ密度が低いため輸送効率が悪く,小規模で近距離の
4.1 エタノール生産用稲わらの収集運搬作業体系
ヒアリング調査により現行の飼料用稲わらの収集運搬コ
運搬になるものと考えられる.この体系では,コンバイン
ストが 26.6 円/kg,稲わら購入費が 10.0 円/kg であることが
にノッタ及び立体放出器を取り付けて結束した稲わらを立
明らかとなった.一方,エタノール原料として求められる
たせ,数週間乾燥させた後,手作業で乾燥した立ちわらを
稲わらの収集運搬コストは 11.8 円/kg であることから,こ
収集しそのまま近距離運搬させる.ノッタとは稲わらを結
のコストの差を埋めるために何らかの方策が必要である.
束する機械であり,立体放出器とは結束わらをコンバイン
稲わら購入費は農地に還元すべき有機物の対価として
から圃場に落とす際に,回転を与えて下部を広げ,円錐状
にすることで自動的に圃場に立たせる装置である.
支払われている.一方,鋤き込まれた稲わらが温室効果ガ
図 5 に図 4 に対応する各作業体系の稲わら収集運搬コス
スであるメタンの発生源となっていることが報告されてい
.今後,エタノール製造過程で発生する副産物を適切
トを示す.貯蔵設備に関するコストは含まれていないので
に処理し,肥料として利用できて,かつメタンの発生を抑
注意されたい.現行の飼料用乾燥稲わら作業体系①では
制するような残渣利用技術の開発が望まれる.本研究では
26.6 円/kg,ラップサイレージ体系②では 34.6 円/kg となっ
エタノール製造過程の副産物が適切に農地に還元されるも
た.ラッピング工程のコストはラッピングマシン 150 万円,
のと仮定して,稲わら購入費を含まない収集運搬コスト
作業時間 0.3h/ha,軽油消費量 4.0L/ha を用いて算出した 4)5).
(26.6 円/kg)のみ取り上げて作業体系を考察する.
またラップフィルムのコストは稲わらベール 1 個あたり
る
9)
図 4 に予想されるエタノール原料向け稲わら収集運搬作
1,500 円前後かかるので,稲わら 1kg あたり 10 円とした.
業体系を示す.図 4 の作業体系①と②はそれぞれ現行の飼
作業体系④の収集に関するコストはコンバインのアタッ
料用の乾燥わら体系とラップサイレージ体系である.ラッ
チメントの機械償却費のみで,この機械償却費に運搬費を
①
②
収穫
(刈取)
③
④
反転
集草・梱包
運搬
屋内貯蔵
運搬
屋外貯蔵
予乾
集草・梱包
ラッピング
加工
圃場に放置
集草・梱包
運搬
立ちわら乾燥
近距離運搬
図 4 エタノール原料に向けた稲わら収集・調整作業体系
11
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No.6
調査した収集事業者においても農業機械の利用率を向上さ
(円/kg)
結束・立体放出
梱包
運搬
反転
ラッピング
集草
積込
せ,事業収支を改善するためにこの作物の生産を行ってい
る.イタリアンライグラスを生産する利点として以下の 3
40
つの理由が挙げられる.第 1 に,粗放的栽培であることか
ら生産コストを低く抑えることが可能であり,乾物収量が
30
多いため資源作物として優れている.農林水産省の統計資
料によるとイタリアンライグラスの生産費は 19.0 円/kg(含
20
水率 13.5∼15.7%)と報告されている 10).第 2 に,耐湿性に
も優れていることから排水条件に関わらず生産でき,水田
11.8円/kg
裏作に適している.そして第 3 に,栽培期間において複数
10
回の刈取が可能である.このことは事業者が計画的に作業
できることを可能にする.また,随時刈り取ってエタノー
0
①
②
③
④
ルプラントに運搬することで,貯蔵の問題を緩和させるこ
とが可能である.
図 5 各作業体系の稲わら収集運搬コスト
足し合わて作業体系④の収集運搬コストを算出した.アタ
上記のような稲わら以外のバイオマスとの組み合わせも
ッチメントのノッタ及び立体放出機の総額 50 万円 4),償却
検討し,柔軟なシステムを構築することは経済的に有効で
期間 5 年,年間処理面積 15ha を用いてそれぞれの機械償却
あると考えられる.また,エタノール生産プラントの稼働
費を算出した.立ちわらを収集してそのまま近距離運搬す
率を平準化して設備利用率を向上させ,原料を安定的に供
る作業体系④では 8.4 円/kg と算出され,作業体系④であれ
給するためにも,稲わら以外の原料も利用すべきである.
ば目標コスト 11.8 円/kg を下回ることが可能である.しか
5. まとめ
しながら,梱包プロセスを省略した作業体系④は小規模な
近距離運搬であることから,収集半径 30km といった大規
本研究では,飼料用稲わらの収集運搬コストをヒアリン
模な作業体系では難しいと思われる.
グし,各作業プロセスのコストを明らかにした.飼料用稲
4.2 水田裏作による機械利用率向上
わらの調整・収集プロセス及び運搬プロセスのコストはそ
調整・収集プロセスにおけるコストの中で,機械償却費
れぞれ 20.0,6.8 円/kg であり,合計 26.8 円/kg と算出され
の占める割合は約 40%であり,この機械償却費が大規模に
た.一方,エタノール製造の目標コストを 1L あたり 100
機械化された作業体系のコストを押し上げている.稲わら
円とした場合,求められる稲わらの収集運搬コストは 11.8
のように収穫期の限定されているバイオマスでは機械を使
円/kg(年産 2 万 kL,濃硫酸法)である.立ちわらを収集
用する期間が短く,原料あたりの機械償却費の占める割合
してそのまま近距離運搬する小規模な作業体系では 8.4 円
が大きくなる.稲わら以外のバイオマスを組み合わせ,機
/kg となり,目標コストを下回ることが可能である.また,
械償却費を分散させることで,大規模な収集運搬システム
大規模な作業体系においても,麦わらやイタリアンライグ
である作業体系③においてもエタノール原料としての目標
ラスなどの水田冬作物も組み合わせることで,機械償却費
コストを満たす可能性がある.
が分散し,エタノール原料としての目標コストを満たす可
稲の裏作として麦類が栽培されている地域は特に有望で
能性があると考えられる.稲わらだけでなく他のバイオマ
ある.麦の茎は収穫時の水分が少なく,稲わらのように長
スとの組み合わせも検討し,柔軟なシステムを構築するこ
期間乾燥させる必要がない.小麦では収穫適期に茎が枯れ
とが重要である.
たような状態になっているので,場合によっては麦わらを
そのまま梱包できる.また麦わらを鋤き込んでも代掻きの
謝辞
際に浮遊して,作業の障害になる.従って,稲わらに比べ
本研究調査の遂行にあたり,茨城県筑西市倉持牧場の倉
ると比較的容易に供給可能で,農家も圃場外に搬出される
持秀男氏より多大なるご協力と有益なご助言を賜った.こ
ことに抵抗がない.
こに謝意を表する.
麦わら以外ではイタリアンライグラスが有望であると
考えられる.この作物は東北から九州までの広い地域で栽
引用文献
培されている水田冬作物である.極早生品種から極晩生品
種まで多くの品種があり,現在約 50 品種が市販されている.
12
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No.6
1)
燃料の大幅な生産拡大,(2007)
農林水産省生産局畜産部畜産振興課;飼料作物関係資
料,(2006),p.84
2)
3)
4)
7)
社団法人地域資源循環技術センター;稲わら等バイオ
製造技術の現状と展望,バイオインダストリー,24(4),
マスからのエタノール生産,(2008),p.11-37
(2007),33∼43,
関東農政局;国産稲わら自給率 100%を目指して−関東
8)
ール製造方法のプロセス評価,第 3 回バイオマス科学
社団法人日本農業機械工業会;稲わら収集・調整機械
会議発表論文集,(2008),36-37
9)
環境省;温室効果ガス排出量算定に関する検討結果第
3 部農業分科会報告書,(2006)
農業機械学会;農業機械による環境保全機能向上のた
10) 農林水産省;畜産物生産費,牛乳生産費,牧草(飼料作
めの調査研究,(1992)
6)
美濃輪智朗ら;セルロース系バイオマスからのエタノ
地域での稲わら畜産利用の取組事例−,(2006)
体系表,(2000)
5)
山田富明;セルロース系原料からのバイオエタノール
物)の費用価,(2006)
バイオマス・ニッポン総合戦略推進会議;国産バイオ
13