(2)セミ類(カメムシ目) 1)セミ類(セミ科) (総称) ア 対象種 ハルゼミ、ニイニイゼミ、クマゼミ、アブラゼミ、 ヒグラシ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシ等 イ 生息情報 全集落 ウ 採録した呼び名 a) 総称 セビ、セービ、セミ b) 雄 ナキ、ナキゼミ c) 雌 オシ、オシゼミ、ダマ、ドボ、ドモ、 ドモゼミ、ドンボ エ 生息及び呼び名の状況 生息環境や時期に応じて各種の鳴き声が聞かれ、郡内全集落に生息した。 本類の呼び名は、総称、雄及び雌で区分けして調査を行った。 a) 総称 本類総称の呼び名としては、 「セミ」や「セビ」をはじめ計 3 種を採録した。 郡内全域で「セミ」と呼ばれたほか、 「セビ」 、 「セービ」が坂下地区を除きほぼ全域で散在 する形でみられ、かつては一般的に使われた呼び名であったと考えられる。 b) 雄(鳴くセミ) 雄の呼び名としては、 「ナキ」と「ナキゼミ」の計 2 種を採録した。 鳴かない雌に対して、鳴くことからの呼び名として「ナキ」 、 「ナキゼミ」と郡内のほぼ全 域で呼ばれたようであるが、雄の呼び名としてセミ毎の呼び名がよく使われたことから、こ うした呼び名が一般的でない集落もみられた。 c) 雌(鳴かないセミ) 雌の呼び名としては、 「ドモ」や「ドボ」をはじめ計 7 種類を採録した。 ほぼ全員から回答があり、雄の「ナキ」よりよく使われた呼び名であったようである。 なお、隣接地域として聴き取りを行った柘植町(旧阿山郡)では雌雄で区別した呼び名は みられなかった。 オ その他 セミ類の雌雄別の呼び名の聴き取りに際して、その区別の状況について参考に聴き取りを行 ったところ、多くの集落で、雌雄の認識が事実とは異なっていた。当時、鈴鹿郡域の多くの集 落では、鳴くセミは雌、鳴かないセミは雄、と認識されていたとみられる。 セミ類の呼び名「セビ」 、 「セービ」の分布 滋賀県 伊勢湾 伊賀市 1 2)ハルゼミ(セミ科) ア 対象種 ハルゼミ イ 生息情報 全集落 ウ 採録した呼び名 ・ 生息場所 マツゼミ、マツムシ ・ 鳴き声 ゲジ、ゲジゲジ、ジェージェー、 ジージー、ジンジン、ゼーゼー、ゼビゼ ビ、ゼリゼリ、ゼリゼリムシ ・ 鳴く時期 カイダルムシ、モノグサムシ エ 生息及び呼び名の状況 セミ類の中で最も早く鳴き声をあげる小型のセミである。当時は 6 月頃より身近な松林から 鳴き声が聞かれ、郡内全集落に生息した。 本種の呼び名としては、 「マツムシ」や「ゼリゼリ」をはじめ計 13 種を採録した。 主な生息場所が松林であったことから加太地区を中心に「マツゼミ」 、それ以外の広い地域で は「マツムシ」と呼ばれたほか、鳴き声から「ゼリゼリ」 、 「ゲジゲジ」等の呼び名が多くの集 落でみられた。 また、夏前で当時の田植え等の作業と重なり体がだるく感じられる時期に、疲れをより増幅 させるような鳴き声をあげることから、集落によっては「カイダルムシ」や「モノグサムシ」 とも呼ばれた。 ほとんどの人がその姿を見ることがなく、 「松林でゼリゼリと鳴く虫」という認識が強かった ようであるが、鳴き声は集落や人によって少し異って捉えられていた。 なお、生息地であった松林は、戦後の大規模な杉や檜の植林、高度成長期以降の地域開発や 病害虫による松枯れ等により大幅に減少し、今日、平野部では本種の鳴き声はほとんど聞かれ ないようである。 ハルゼミの主な呼び名の分布 ゲジ・ゲジゲジ モノグサムシ ゼリゼリ カイダルムシ 滋賀県 マツゼミ 伊勢湾 伊賀市 マツムシ 2 3)ニイニイゼミ(セミ科) ア 対象種 ニイニイゼミ イ 生息情報 全集落 ウ 採録した呼び名 ・ 小型 コセ、コセミ、コゼミ ・ 体色 ババゼミ ・ 鳴き声 ジージー、ジージーゼミ、チーゼミ 、チーチー、チーチーゼミ、チッチ、チ ッチゼミ、チッチー、チュウ、チュウゼ ミ、チュッチュ、ミーミ、ミーミゼミ、ミーミー、ミンミゼミ エ 生息及び呼び名の状況 梅雨明けの少し前頃より鳴き声が目立ち始める小型のセミである。身近な木立から鳴き声が 聞かれ、郡内全集落に生息した。 本種の呼び名としては、 「チーチー」や「コゼミ」をはじめ計 19 種を採録した。 鳴き声や小型のセミであることからの呼び名が多く見られ、旧東海道沿いの集落で「チーチ ー」と呼ばれたほか、白川地区から御幣川流域の地域を中心に他のセミより小型であることや アブラゼミを「オヤゼミ」と呼ぶことに対して、 「コゼミ」や「コセミ」などと呼ばれた。また、 久間田地区では「チッチゼミ」 、野登地区から白川地区、神辺地域の一部にかけては「ババゼミ」 がみられた。 その他、 「ミーミー」や「ジージー」と呼ぶ集落もみられたが、主たる呼び名となっていた集 落は少なかったようである。 なお、住民により鳴き声の認識が異なり、幾つかの呼び名を採録した集落もみられた。 ニイニイゼミの主たる呼び名の分布 コゼミ チッチゼミ ババゼミ ババゼミ ジージー 滋賀県 チーチー 伊勢湾 伊賀市 コゼミ 3 4)クマゼミ(セミ科) ア 対象種 クマゼミ イ 生息情報 全集落 ウ 採録した呼び名 ・ 鳴き声 シャーシャー、シャーシャーゼミ、 ジャージャー、シャッシャー、シャンシャ ン、シュワシュワ、シワ、ジワ、シワシワ、 ジワジワ、ワシワシ ・ 大型 オーゼミ ・ その他 コロモゼミ エ 生息及び呼び名の状況 梅雨明け後にニイニイゼミに少し遅れて鳴き始め、桜の木などの比較的高い所に停まる大型 のセミである。身近な木立から鳴き声が聞かれ、郡内全集落に生息したが、山間部では個体数 が少なくなる傾向がみられた。 本種の呼び名としては、 「シワシワ」や「シャーシャー」をはじめ計 13 種を採録した。 郡内のほぼ全域で、 「シワシワ」 、 「シャーシャー」などと呼ばれ、鳴き声から同じ言葉を 2 度繰り返した呼び名が一般的に使われたほか、牧田地区や久間田地区では単に「シワ」とも呼 ばれた。 その他、一部の集落で「ワシワシ」や透き通った翅から「コロモゼミ」と呼ばれる場合もみ られたが、地域的に広がりをもった呼び名ではなかった。 なお、隣接地域として調査を行った水沢町(旧三重郡)では「シャガシャガ」を採録した。 オ その他 聴き取りから、本種に関して「日の暮にシャーシャーが鳴くと忙しい」と言ったという話を 採録した。 クマゼミの主な呼び名の分布 シワ コロモゼミ ワシワシ シワシワ・ 滋賀県 シャーシャー 伊勢湾 伊賀市 4 5)アブラゼミ(セミ科) ア 対象種 アブラゼミ イ 生息情報 全集落 ウ 採録した呼び名 ・ 翅の色 アカゼミ ・ ニイニイゼミとの対比 オーゼミ、オヤゼミ ・ 鳴き声 エチキチ ・ 鳴く時期 ボンゼミ ・ 雨合羽に似たこと カッパ、カッパゼミ ・ 標準和名等 アブ、アブラ、アブラゼミ ・ その他 ウマゼミ、オカネ、カネ、カネゼミ、ガラ、カラカラゼミ、ガワ、ガンガン、 ガンガンゼミ、クマ、クマセミ、クマゼミ、クマクマ、クマタロウ、ゲジ、ジャゴ、ト トゼミ、ホンゼミ、マゼミ エ 生息及び呼び名の状況 盆前後に鳴き声が目立つ大型のセミである。身近な木立から鳴き声が聞かれ、郡内全集落に 生息した。 本種の呼び名としては、 「オヤゼミ」や「カッパ」をはじめ計 29 種を採録した。 白川地区から御幣川流域の地域にかけては「オヤゼミ」と呼ばれたほか、神辺地区から井田 川地区にかけては「カッパ」 、牧田・庄野地区を中心として「カネゼミ」 、石薬師地区を中心と して「ガンガン」 、久間田地区では「ガワ」 、関町から昼生地区の一部にかけては「クマゼミ」 等と呼ばれ、地域によって多様な呼び名がみられた。 また、当時、既に集落によっては標準和名である「アブラゼミ」も使われていたようであり、 他に呼び名を採録しなかった集落としては、加太地区に加え他地域に数集落みられたが、当時 以前からの呼び名であるのか、学校教育等で使われるようになった呼び名であるのか本調査か らははっきりとしない。 なお、隣接地域として調査を行った関町福徳(旧河芸郡)では「タンバゼミ」 、関町萩原(同) では「ガマゼミ」 、山田町(旧三重郡)では「ジャガ」を採録した。 オヤゼミ アブラゼミの主な呼び名の分布 ガワ オーゼミ ホンゼミ オヤゼミ ガンガン 滋賀県 アブラゼミ 伊勢湾 伊賀市 カネゼミ カッパ クマゼミ・クマクマ 5 6)ヒグラシ(セミ科) ア 対象種 ヒグラシ イ 生息情報 ほぼ全集落 ウ 採録した呼び名 ・ 鳴き声 カーカー、 カーカーゼミ、 カタカタ、 カッカ、カッカゼミ、カッカー、カッカー ゼミ、カナカナ、カナカナゼミ、カラカラ ・ 標準和名等 ヒグラシ、ヒグラシソウ ・ その他 チンチン エ 生息及び呼び名の状況 朝夕に鳴き声が目立つ中型のセミである。山林のある地域を中心に生息するが、当時は郡内 に山林が広がっていたことから、郡内のほぼ全集落で生息していたとみられる。 本種の呼び名としては、 「ヒグラシ」や「カッカー」をはじめ計 13 種を採録した。 郡内全域で標準和名である「ヒグラシ」と呼ばれたほか、鳴き声から「カッカー(ゼミ) 」又 は「カーカー(ゼミ) 」という呼び名が山辺の地域を中心に広くみられた。 また、各集落によっては少しずつ鳴き声の捉え方の違いもみられ、 「カラカラ」や「カナカナ」 などの呼び名も一部の集落で採録した。 なお、平野部では昼間は他のセミ類の鳴き声が目立ち、朝夕にのみ神社や森といった木立か ら鳴き声が聞かれたため、呼び名はあるものの、住民が本種自体を見ることあまりなかったよ うである。 ヒグラシの主な呼び名の分布 ヒグラシ カーカー・カッカ・カッカー カタカタ カナカナ カラカラ 滋賀県 伊勢湾 伊賀市 6 7)ミンミンゼミ(セミ科) ア 対象種 ミンミンゼミ イ 生息情報 ほぼ全集落 ウ 採録した呼び名 ・ 鳴き声 ビンビン、ミンミ、ミンミゼミ、ミ ンミン、ミンミンゼミ ・ その他 イトノベ、イトノベムシ エ 生息及び呼び名の状況 山林に生息し、ミーンミーンと引っ張る鳴き声 が特徴的な大型のセミである。 現在、鈴鹿郡域では平野部より少し気温が低い山間部を中心として生息し、秋口に山辺の集 落を中心に鳴き声が聞かれる。 当時は郡内に広く山林が分布していたこともあり平野部においても本種の鳴き声が聞かれ、 ほぼ郡内全集落に生息していたものとみられる。 本種の呼び名としては、 「ミンミン」や「ビンビン」をはじめ計 7 種を採録した。 郡内全域で特徴的な鳴き声からの呼び名であり、標準和名でもある「ミンミン」 、 「ミンミン ゼミ」と呼ばれたが、集落によっては「ビンビン」 、 「ミンミ」等を採録した。また、本種の鳴 き声はミーンとよく引っ張ることから「イトノベムシ」とも呼ぶ集落も一部にみられた。 現在では、標準和名でもある「ミンミンゼミ」が強く印象付けられていることや、集落によ ってはニイニイゼミが「ミーミー」と呼ばれていたことから、当時の呼び名の正確な把握が難 しい面がある。集落や人によっては「ビンビン」等、標準和名である「ミンミンゼミ」と異な る呼び名で呼ばれたものとみられる。 ミンミンゼミの主な呼び名の分布 ミンミン ビンビン イトノベムシ 滋賀県 伊勢湾 伊賀市 7 8)ツクツクボウシ(セミ科) ア 対象種 ツクツクボウシ イ 生息情報 全集落 ウ 採録した呼び名 ・ 鳴き声 ツクシ、ツクシンボ、ツクツク、ツク ツクボウシ、ツクボウシ、ツックン、ツック ンヒョウ、ツックンボウシ エ 生息及び呼び名の状況 その名のとおりツクツクボーシと聞こえる特徴的 な鳴き声をあげ、秋の到来を告げる中型のセミであ る。 夏の終わり頃から秋口にかけて身近な木立から鳴き声が聞かれ、郡内全集落に生息した。 本種の呼び名としては、 「ツクツクボウシ」 や 「ツックンボウシ」 をはじめ計 8 種を採録した。 郡内全域で特徴的な鳴き声からの呼び名であり、標準和名でもある「ツクツクボウシ」と呼 ばれたほか、ほぼ全域で「ツックンボウシ」とも呼ばれ、また「ツクシンボ」 、 「ツクボウシ」 等がみられた。 オ その他 聴き取りから、本種に関して「ツクツクボウシがツックンヨーシと4 回鳴くと世の中が良く なる」 、 「ツクツクボウシがツックンヒョーシと 5 度鳴くと(一反で)5 俵取れる」 、また「ツク ツクボウシがよく鳴くと暑くなる」と言ったという話を採録した。 ツクツクボウシの主な呼び名の分布 ツクツクボウシ・ツックンボウシ ツクシンボ ツクボウシ 滋賀県 伊勢湾 伊賀市 8 9)セミ類の幼虫(セミ科) ア 対象種 セミ類(幼虫) イ 採録した呼び名 ・ セミの子 セミノコ、セミノデカケ ・ その他 ウゴ、ガンゴジ、ガンゴージ、サ ナギ、ジンド、チンチン、デカケ、ヤゴ ※ 抜け殻 カラ、ガンガラ、ガンゴージ、 ガンゴージノカラ、セミガラ、セミノカラ、 デンガラ、ヌケガラ ウ 呼び名の状況 抜け殻 夏の夕暮れ以降に地表に出、羽化の後、木枝等 に抜け殻を残し飛び去ってしまうことから、姿があまり見られない様態のセミである。 本幼虫の呼び名としては、 「ガンゴージ」や「ジンド」をはじめ計 10 種を採録した。 郡の東部から北部に位置する高津瀬地区から、庄内、深伊沢、椿、久間田地区にかけて「ガ ンゴージ」と呼ばれたほかは、地域的に広がりをもった呼び名はみられず、土中で見られる他 の昆虫類の幼虫と同様に「ジンド」 、または幼虫類を指す言葉と考えられる「ウゴ」や「ヤゴ」 、 また、小さいことから「チンチン」 、セミになる前であることから「セミノコ」などと呼ばれた りしたようである。 その他、固有の呼び名があったようであるが、はっきりとしない集落もみられた。 なお、羽化した後に残される抜け殻の呼び名について参考に聴き取りを行ったところ、 「セミ ガラ」や「ヌケガラ」をはじめ計 8 種を採録した。郡内では「セミガラ」 、 「ヌケガラ」と広く 呼ばれた。 エ その他 聴き取りから、本幼虫に関して「寺の境内などで、薄く表土をどけ小さな穴を見つけ、その 穴を大きくし水を入れると出てくる」 、 「地面の穴に細い竹端をつっこみ、それが動けばいるこ とがわかるので、地面に出てくるのを待って取った」という話を採録した。 セミ類の幼虫の主な呼び名の分布 ガンゴージ ヤゴ ウゴ チンチン 滋賀県 伊勢湾 伊賀市 ※ 呼び名「ガンゴージ」について 本呼び名は、上記のとおり郡北東部の地域を中心にセミ類の羽化直前の様態を指すほか、西 庄内町北畑及び川崎町ではカブトムシの幼虫、また深溝町及び伊船町野田・新田ではカブトム シの蛹(サナギ)の呼び名ともなっていた。 9
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