7.24(体験) 雪のうえに暮らすユキムシを探そう 竹内 望(千葉大学理学部地球科学科), 角川 咲江(西堀榮三郎記念探検の殿堂) キーワード:ユキムシ,セッケイカワゲラ,雪氷生物 ふつう虫はあたたかい夏に成虫になりますが,寒い冬に成虫になるかわった虫がいます.雪の上でみつかるこのような 虫を「ユキムシ」とよびます.ユキムシは氷点下を下回る寒い日でも,雪の上を活発に歩きまわります.寒い雪の上に生 きている虫がいるなんてちょっと信じられませんが,じつは世界中の氷河や積雪などの雪氷の世界に,いろいろなユキム シが生息していることが,最近わかってきました. 寒い世界で生きるユキムシは,今から何万年も昔,地球の気候が寒かった氷河期(氷期)という時代から,雪の世界で 生きてきた生物と考えられています. ユキムシにはいろいろな種類がいます.本州の東北地方から上信越,山陰の積雪地帯では,真冬から春にかけてセッケ イカワゲラ(ユキクロカワゲラ)が現われることが知られています.比較的どこにでもみられるのは,ゴマのような小さ な昆虫で雪の上を飛び回るトビムシのなかまです.氷点下10度を下回っても活動できるのはクモガタガガンボです.ア ラスカの氷河には,コオリミミズというミミズが棲んでいます.コオリミミズは日本ではまだ見つかっていませんが,も し日本でも見つかったら大発見です.一方,北海道では,晩秋に雪のように舞うアブラムシのなかまをユキムシとよんで いますが,このアブラムシは,ここでいうユキムシには含まれません. ユキムシはどのような種類がいてどんな生活をしているのかについて,実はまだあまりよくわかっていません.いまま で,そんな寒い所に虫が暮らしているとは誰も考えなかったからです.ちょっとよく目をこらして雪の上をさがしてみれ ば,まだ誰も知らないユキムシを発見できる可能性もあります.滋賀県の博物館,西堀榮三郎記念探検の殿堂では,子ど もたち向けのイベントで,真冬の雪山でユキムシ探しの活動をおこないました.その活動では, 2006 年 2 月 12 日,子ど もたちによってユキクロカワゲラが発見され,滋賀県内最南の分布の記録となりました. ユキムシはいったいどんな一生をおくっているのでしょうか.ユキムシは,春から夏に成虫になる虫とは,まったく違 う一生をおくっているに違いありません.また,雪の上で生きていくために,さまざまな「生きるための工夫」があるは ずです.えさは何処にあるのでしょうか? いつどこで卵を産めばいいのでしょうか? 私たちの身近な真冬の自然の中に,まだまだ知られていないユキムシの世界があります.彼らは遠い昔の氷河期から現 在まで,どうして生き残ってきたのでしょうか? るのでしょうか? そして,今後,地球が温暖化していったとき,彼らはいったいどうな ユキムシを知ることは,地球の歴史,そして将来を知ることにもつながります. 1.材料, 準備物(あると便利な物) 防寒具,長靴,ルーペ,筆記用具,デジタルカメラ. ユキムシの行動観察と実験:時計,爪楊枝,方位磁石,巻き尺(2 3m),手鏡. 2.方法 ユキムシの探し方と観察方法 天気のいい日に,森や林の中の積雪の上をよく目を凝らしてユキム シを探します.ユキムシは,普通黒い色をしていて,大きさは数ミリ (トビムシ)から数センチ(カワゲラ)です.ユキムシのひとつセッ ケイカワゲラ(ユキクロカワゲラ)は,落葉樹の森林の沢沿いの積雪 にいることが多いです.場所,時期,天気,気温によって,見つかる 虫は違うかもしれません.中には夜にだけ活動するユキムシもいます. ユキムシを見つけたら,場所,時間,天気を記録して,それはどんな 種類の虫なのか,何をしているのか,どこに歩いているのか,ルーペ をつかったり,デジタルカメラで写真をとったりして,じっくりと観 察してみましょう. ユキムシの観察風景 (滋賀県東近江市) セッケイカワゲラの行動観察と実験 ① 雪の上をあるくセッケイカワゲラをさがします. ② セッケイカワゲラを見つけたら,みつけた雪の上に爪楊枝を一 本たてましょう. ③ 歩いていく方向には,いったい何があるか注意しましょう. (大 きな樹木,太陽,雲,斜面の角度など) ④ 時計をみながら1分ごとにカワゲラの位置に爪楊枝をさしてい きます.できれば10分以上,カワゲラがどこにむかって歩いて いくのか,追ってみましょう. ⑤ 観察が終わったら,雪の上にさした爪楊枝の位置を,はじめか ら順に方位磁石と巻き尺で記録しましょう. ⑥ 以上のことを数匹のカワゲラでくりかえし記録し,カワゲラが どれくらいの早さで何処に向かっているのかを求めてみましょ う. カワゲラの太陽コンパスの実験 カワゲラは太陽をみながら自分の向かう方向をきめているといわれています.本当かどうか,鏡をつかってたしかめ てみましょう. ① 雪の上を歩くカワゲラをみつけたら,歩く方向と太陽の位置を確認しましょう. ② しばらくしたら,カワゲラから太陽が見えないように手をかざしましょう.カワゲラを手の影の中に入るようにしま す.そして同時に,太陽の方向と反対側から手鏡で太陽の反射光をカワゲラにあててみます.カワゲラにとっては, 太陽の位置が急に変わったようにみえるはずです. ③ カワゲラはどんな行動をとるかな? カワゲラの様子を観察してみましょう. 日本で見つかるユキムシ セッケイカワゲラ(または,ユキクロカワゲラ).日本の雪の深い地方に分布. 成虫でも普通のカワゲラと違って羽がありません.大きさは約 2 センチ. クロカワゲラの仲間.はねのあるカワゲラもみつけることができます.大きさは約 2 センチ. トビムシ.大きさ数ミリの小さい虫.ぴょんぴょんと雪の上をとびまわる,ふだ んは,土の中にいます. クモガタガガンボ.よるになるとでてくる虫.マイナス 10 度になっても動き回 ることができます. ゴミムシの仲間.カワゲラににてるけど,ちがいます.カワゲラをたべてしま う虫です. コオリミミズ.アラスカの氷河にいる雪の中にすむミミズです.日本で見つけ たら大発見?! 【考えてみよう.ゆきむしの七不思議】 1.ユキムシは,なつはなにをしているのだろう? 2.ユキムシは,なにをたべているのだろう? 3.どうして,さむくても生きていけるのだろう? 4.どこにむかって,あるいているのかな? 5.どうして,その方向にあるいているのかな? 6.どうやって,あるく方向をきめるのだろう? 7.どうして,さむい雪の上を生活場所にえらんだのだろう? 3.注意点 あぶない場所には絶対に立ち入らないようにしましょう.ひとりでユキムシを探しにいくのは絶対にやめましょう.防 寒対策はもちろんですが,必ず長靴をはき,安全に十分配慮しましょう. 4.学術的な背景 ユキムシを含めて,雪や氷の世界に棲む生き物を,雪氷生物(せっぴょうせいぶつ)と呼んでいます.雪氷生物は,近 年になってようやく世界各地の氷河や積雪に生息していることが知られるようになったばかりで,まだまだ研究途上の研 究分野です.雪氷生物は,どのようにして,また,どうして寒冷環境で生息しているのかという生物学的に非常に興味深 い研究対象であるとともに,気候変動との関係,雪や氷の融解へ影響,雪氷コアによる過去の環境復元の際の環境指標と しての応用など,地球科学や環境学的にも注目されています. 5.学校カリキュラムとのつながり 理科:身近な自然∼冬∼ 環境問題:地球温暖化と雪氷の世界,気候変動と自然,氷河期の地球,極限環境生物 6.参考図書, URL 雪と氷の世界の生物 竹内望 HP http://www-es.s.chiba-u.ac.jp/~takeuchi/glacialbiology_j.html 雪氷生物学 -Glacier Biology- 幸島研究室 Home http://www.ecology.bio.titech.ac.jp/Study/glacio_bio/G-biology.html 7.連絡先 竹内 望 千葉大学理学部地球科学科 〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町 1-33 TEL.043-290-2843 角川咲江 FAX.043-290-2843 西堀榮三郎記念探検の殿堂 〒527-0135 http://www-es.s.chiba-u.ac.jp/ [email protected] http://www.tanken-n.com/ 滋賀県東近江市横溝町 419 TEL.0749-45-0011 FAX.0749-45-3556 [email protected]
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