ロイズの現状と将来 - 損保ジャパン日本興亜総合研究所

ロイズの現状と将来
目
次
Ⅰ.はじめに
Ⅴ.ロイズの 1980 年代の危機に対応する
Ⅱ.ロイズの歴史
改革とその成果
Ⅲ.現在のロイズの仕組み
Ⅵ.変化しつつあるロイズ
Ⅳ.ロイズの2回の危機
Ⅶ.ロイズの将来
主任研究員 細田道隆 研究員 望月晃
要
約
Ⅰ. はじめに
ロイズは 300 年にもわたる歴史の中で何度も危機を迎えた。その中でも最大の危機と言われる 1980 年代末
からの巨大損失の発生とその後の改革に焦点をあて、検討を加えた。
Ⅱ. ロイズの歴史
テムズ川沿いにオープンした Edward Lloyd’s coffee house に客としてやって来た海運業者らの間で、海
上保険の取引が行われるようになり、17 世紀末にロイズが誕生した。誕生から 1980 年代末の危機までの歴史
を概観する。
Ⅲ. 現在のロイズの仕組み
ロイズは保険引受を行っているシンジケートの集合体である。他に類を見ない存在であるロイズの現在の
組織と機能を概観する。
Ⅳ. ロイズの 2 回の危機
ロイズは 1960 年代中頃にも経営危機を経験したが、その後は高収益時代を迎えた。しかし、キャパシティ
過剰や巨大災害の多発などから 1980 年代末より巨額の赤字を計上するに到った。
Ⅴ. ロイズの 1980 年代の危機に対応する改革とその成果
ロイズは 1980 年代の危機に対応し、世界における最も安定的な利益をもたらす保険引受市場としての地位
を取戻すため、改革計画を相次いで実行した。その結果、ロイズの収益は黒字に転じ、David Rowland 会長は、
ロイズは危機を脱したと宣言した。
Ⅵ. 変化しつつあるロイズ
現在ロイズに再び赤字転落の危機が迫っている。資本構造の変化やロイズを取巻く環境変化に対応し、今
後の成長を図るため、ロイズが進めてきている取組みを概観する。
Ⅶ. ロイズの将来
ロイズが解決しなければならない課題、将来の成長の可能性について検討する。
Ⅰ. はじめに
者らが集まるコーヒーショップとして、このころ
に有名になり、1688 年 2 月発行の London Gazette
ロイズは 17 世紀のロンドンに誕生したが、ロイ
という新聞にこの coffee house に関わる広告1 が掲
ズの歴史はまさに損害保険の歴史と言っても過言
載されていることから、1688 年頃の誕生と言われ
ではないであろう。特に海上保険分野では他の市
るようになった。
場の追随を許さず、ロイズが世界中の海運に関す
る情報を独占していた時代もあった。
ロイズは長い歴史の中で幾度かの危機を迎えた
Edward Lloyd 氏は場所を提供する他、信頼に足
りる海運情報やその他の保険関連サービスを提供
するだけで、自らは保険に関わらなかった。
が、そのたびに内部の改革を行い、あるいは新種
なお、17 世紀を通じてロンドンでは海上保険が
保険を取扱い、そして新しい資本を導入して、危
かなり普及していたが、保険のみを専門に取扱う
機を乗り越えてきた。
業者はいなかった。リスクを引受けるのは商人で
その中でも最大の危機は、1980 年代末から 1990
あって、その商人が引受けたリスクを商人の助手
年代初めにかけての巨大損失の発生であった。ロ
のブローカーが他の商人に持ち回って引受けても
イズの存続を揺るがしたこの危機に対して、ロイ
らうという方式をとっていた。
ズは 300 年の歴史を破って、法人の資本を導入す
るなどの改革によって乗り切った。
2. Lloyd’s List の発行
しかし、ロイズ特有の 3 年会計方式や無限責任
1696 年、Edward Lloyd 氏は海運に関するニュー
の個人ネームと有限責任の法人ネームの利害対立
スを中心とする一枚の新聞、ロイズニュースを有
などの問題を依然として抱えており、その将来性
料で発行したが、内容に乏しくこの時には 5 ヶ月
を危ぶむ声もある。また innovative な損害保険の
しか続かなかった。
開発に取組み、世界の損害保険市場をリードして
Edward Lloyd 氏の死後(1713 年)、店は人手に
き た ロ イ ズ で あ る が 、 ART ( Alternative Risk
わたっていたが2、1734 年に到り、海運に関する詳
Transfer)やバミューダ市場という新しい仕組み、
細な情報を掲載した Lloyd’s List が週刊として定
保険市場の発展に対して伝統的な枠組みが対応し
期発行されるようになった。Lloyd’s List は現在
きれなくなってきているという見方も可能である。
では日刊となっているが、この海運情報誌発行に
本稿では、ロイズの理解を助けるために、ロイ
より、ロイズは海上保険における地位を確立した。
ズの歴史、仕組みを概観し、その後 1980 年代末か
らのロイズの危機とその危機に対する改革に焦点
3. 保険会社との競争
をあてた。そしてさらにロイズの現状と課題、将
ロイズ誕生直後の 17 世紀最後の 10 年間から、
来における成長の可能性についての検討を進める
18 世紀初頭にかけては、英国の海上貿易の拡張期
こととした。
であった。この繁栄に伴って投機熱も盛んとなり、
いわゆる「南海泡沫事件」3 が発生した。保険につ
Ⅱ. ロイズの歴史
いても法律で規制しようという機運が高まり、一
般に泡沫法(Bubble Act)と呼ばれる法律が 1720
1. ロイズ誕生
ロイズは 1688 年頃にロンドンに誕生した。ロン
ドンにコーヒーショップが 1652 年に生まれて以来、
年に制定され、ロイヤル・エクスチェンジ社とロ
ンドン・アシュアランス社に対して海上保険の独
占権が与えられた。
商人、ジャーナリストや医者が仕事や社交の会合
しかし、この法律は、2 社以外の会社、協会、
の場所としてコーヒーショップを利用していた。
パートナーシップの海上保険の引受を禁じたもの
テ ム ズ 川 沿 い に オ ー プ ン し た Edward Lloyd’s
であり、個人のアンダーライターには規制は及ば
coffee house に客としてやってきた海運業者らの
なかった。また、独占権が与えられた保険会社も
間で、海上保険の取引が行われるようになり、ロ
やがて、収益が安定している火災保険に特化する
イズが誕生した。自然発生的な誕生であることか
ようになり、個人アンダーライターの立場は逆に
ら、正式な設立年月日は明らかではない。海運業
強化された。そのため、保険会社 2 社に対する独
占権が廃止されるまでのおよそ 100 年間、これら
ダーライター個人が引受けていた。船舶と積み荷
の保険会社と個人アンダーライターによる海上保
の価額の上昇に伴い、資本の不足するロイズは保
険の支配が継続することとなった。
険会社に対する競争力を失いつつあり、将来を見
越したアンダーライターの中には、ロイズから保
4. 法人化
険会社に転じる者もいた。
1871 年 ロイズ法(Lloyd’s Act)によりロイズ
この流れをせき止めたのが、シンジケートの大
は法人化された。この法人化が、今日のロイズの
型化とノンマリン保険の引受であった。海上保険
基盤を築いたとロイズは自ら評価している。
分野ではシンジケートの大型化により、引受キャ
ロイズ法はロイズを法人と定め、ロイズ委員会
パシティを拡大し、保険会社に対する競争力を回
に対し、会員を管理する権限を付与したばかりで
復した。また当時英国では、火災保険は既に 200
なく、会員以外の者がロイズの保険証券に署名を
年の歴史を有していたが、海上保険以外のノンマ
行ったり、ロイズのスタンプを作成、使用するこ
リン保険がロイズにおいて 1887 年に初めて引受け
とは犯罪行為であると定めた。また会員の権利保
られた。これを契機にロイズは従来の保守、伝統
護に万全を尽くし、破産、詐欺や信用毀損行為な
の歴史の殻を破り、火災利益保険を手始めとして
どによる除名手続も規定した。
盗難保険や労災保険など新種保険の引受に手を広
さらに海運情報をロイズの業務の一環として認
げた。ロイズは 19 世紀末までに、伝統的な海上保
めている。ロイズはこの海運情報を独占すること
険引受のクラブから多様なリスクを取扱う国際的
で優位に立っていたが、これは世界中に張り巡ら
な市場へ成長したと説明している。
せたエージェンシーと信号所によるところが大き
い。特に信号所は海運情報の独占に貢献し、1890
なお、自動車保険の引受は 1909 年より、航空保
険の引受は 1911 年より開始している8。
年代後半以降の無線の発明、普及までこの独占は
6. サンフランシスコ地震保険金支払
続いた。
このようにロイズの法的存在、規約、バッジの
1906 年に米国でサンフランシスコ地震が発生し
規定などは 1871 年であり、その意味でロイズの歴
た。この大地震により、サンフランシスコは廃墟
史は 300 年ではなく、100 年と見ることも可能であ
と化し、3 万戸の家屋が倒壊し、25 万人が家を失
4
る。
い、死者は 700 人に上った。
なお、ロイズは発足以来、伝統的に自主規制を
罹災被保険者に対する火災保険の支払義務が明
守ってきているが、監督当局より、ソルベンシー
確でないため、欧米の他の保険会社は支払を拒み、
5
マージンについては、規制を受けている 。また、
あるいは躊躇していた。その中で、ロイズはサン
現在英国では、金融制度改革が進展中であるが、
フランシスコのエージェンシーに対し、「被保険者
英国政府はロイズを規制対象とする意向を表明し
全員に対し、保険証券の約款に関係なく、全額を
ており、ロイズも規制のアウトラインを支持する
支払え」という電報を発信し、即座に保険金支払
6
と公表している 。
を行った。ロイズの支払額は当時の金額で 1 億ド
ルを上回ったと言われるが、ロイズが米国市場で
5. 大型シンジケートとノンマリン保険
1844 年までは保険会社の保険契約に関する賠償
得た評判と信用は金銭に換えがたいものがあった
という9。
責任は会社の管財人、取締役が負っていたが、
またこの地震後に、米国の大手損害保険会社の
1844 年会社法によりこの規定が改定されると、保
Hartford 社が地震リスクの引受をロイズに依頼し
険会社の設立ラッシュが起こった。1870 年代半ば
たことにより、ロイズによる超過損害再保険引受
以降、海上保険取引を巡ってこれら新設保険会社
が開始された。なお、1996 年の総収入保険料に占
との間で激しい競争にさらされた。またこのころ
める超過損害再保険を含む再保険料の割合は 53.8%
には汽船は大型化し、保険価額も巨大化していっ
である10。
た。当時のシンジケート7は 2 名から 3 名のネーム
からなっており、しかも保険引受の内 20%はアン
7. ロイズ危機とその克服
Board)を設置した。マーケット会議はロイズの営
1988 年から 1992 年にかけて巨大災害の支払が続
業戦略の計画・実施や本部サービスの提供を担当
き、79 億ポンドにも達する損失を計上した。法人
し、監督規制会議はロイズマーケットに関する監
会員の導入などによりこの危機を乗り切り、1996
督規制に関する責任を負う。
年の総会でロイズ再建完了が宣言された。この経
シンジケートに出資して実際にリスクを引受け
る人をネームと呼び、従来は個人のみ11 がネームと
緯、事情については、詳細を後述する。
なることができた。この個人ネームは独立した無
Ⅲ. 現在のロイズの仕組み
限責任を負い、シャツのボタンを売ってまで保険
金支払にあてると言われている。
ロイズは保険契約者の代理人であるロイズブ
ロイズ危機への対応の一環として、法人ネーム
ローカーと、シンジケートのネームに代わって保
の制度が取入れられた。法人ネームは個人ネーム
険を引受けるアンダーライターとの間の保険業務
と異なり、有限責任である。
を取扱う市場である。法人組織となっているが、
エージェントと呼ばれるものには 2 種類ある。
保険会社ではない。保険を引受ける数百のシンジ
メンバーズエージェントは、個人ネームに対し、
ケートから成り立っている。
シンジケートの選択に関する専門的な助言やネー
現在、ロイズの監督、規制を行っているのは、
ムに要求されるロイズ関連の事柄の代行を行い、
1982 年ロイズ法により設立されたロイズ評議会
個人勘定や税務報告書の管理に関する事務処理
(Council of Lloyd’s)である。このロイズ評議会
サービスを提供する。必要があればネームに代わ
がロイズマーケットの規制と監督に関する全ての
りマネージングエージェントの業務に介入する。
それに対し、マネージングエージェント12 は、ア
権限を行使し、またロイズの活動、運営を規定す
るロイズ規約を定める権限を有している。
ンダーライターの採用や管理、シンジケートの引
監督、規制を行うにあたっては、マーケットか
受方針の決定、保険金請求に関わる合意および支
ら一定の距離を保つ必要があり、1993 年 1 月にロ
払、シンジケートの再保険の交渉およびその管理、
イ ズ 評 議 会 は マ ー ケ ッ ト 会 議 ( Lloyd’s Market
シンジケートに関する会計業務を担当している。
Board ) と 監 督 規 制 会 議 ( Lloyd’s Regulatory
《図表1》現在のロイズの仕組み(1999 年現在)
ロイズ・マーケットの現状
資 本
ネーム(個人会員)
法人ネーム(法人会員)
メンバーズ・エージェント
ロイズ・アドバイザー
シンジケート
ロイズ評議会
マ ー ケ ッ ト
マーケット会議
監督規制会議
ロイズ・ブローカー
契 約 者
個 人
法 人
(出典)ロイズのホームページの内容を参考に、安田総合研究所にて作成
なお、メンバーズエージェントとマネージング
払責任が果たせない場合に備えて設置された。こ
エージェントを兼ねているエージェントをコンバ
の基金に対して、各ネームは毎年、賦課金を支払
インドエージェントと呼ぶが、メンバーズエー
う仕組みになっている。この基金の管理は、ロイ
ジェントがネームの引受キャパシティを自己のマ
ズ本部機構が担っている。
ネージングエージェントに提供しているという批
中央基金はロイズのセーフティネットであるが、
判もあってか、1999 年現在ではコンバインドエー
この相互保証がモラルハザードを招くという批判
ジェントは姿を消している。
がある。
「私はそのリスクを引受けない。しかしあ
法人ネームは、シンジケート選択に関する助言
なたがそれを引受け、それを私が支払うことにな
をロイズアドバイザーより受ける義務がある。但
る」13という言葉が引用されることがあるが、アン
し、法人ネーム自らがその資格を得ることが可能
ダーライターが慎重な配慮を行わないまま保険を
である。
引受け、結果として当該シンジケートのネームが
なお、ロイズは独立したシンジケートの集合体
であるが、ロイズが組織全体として健全性を維持
支払不能に陥った場合、中央基金を通じて、他の
ネームが損害を負担することとなった。
するために独特の制度を用意している。以下、そ
の主な制度を概観する。
4. 3 年会計方式と勘定締切
ロイズでは、通常の保険会社と異なり、3 年会計
1. 引受キャパシティ限度額の設定、およびロイ
ズ預託基金の設定
方式を採用している14 。個々のシンジケートは引受
年度の収入保険料を保険料信託基金に繰入れる。
ロイズの保険ビジネスは個々のネームが提供す
この勘定は 3 年間オープンの後に閉じられるが、
る引受キャパシティによって支えられている。
第 3 年度の年度末に未払保険金の厳格な査定を行
個々のネームは各引受年度開始前に、自らが引受
う。残存する保険責任があれば、これを次期引受
けることができるグロス保険料を設定する。これ
年度の同一あるいは他のシンジケートに再保険を
は総引受可能保険料限度(OPL:Overall Premium
かけることにより、勘定を締切る。収益が発生す
Limit)と呼ばれ、この限度額をネームが属する各
れば、個々のネームの参加割合に応じて配分する。
シンジケートに割り振る。
この再保険契約は再保険による勘定締切
この限度を設定するにあたって、ネームは通常
(Reinsurance To Close:RITC)と呼ばれるロイ
その 30%にあたる金額をロイズに預託することが義
ズ独特の制度である。ロイズのシンジケートは単
務付けられている。この預託金とネームが設置す
年度毎の結成であり、恒久的存在でないため、シ
る個別準備金、特別準備金をあわせたものが当該
ンジケートが保険会社のように支払準備金を積立
ネームのロイズ預託基金となる。
てることができない。この代替手法が再保険によ
なお、先の引受限度はこのロイズ預託基金にロ
イズ評議会が定める倍数を乗じた額を超えられな
い。
る勘定締切であり、再保険は既発生損害および既
発生未報告損害に対して行われる。
なお、クレームの続発により未払責任額の確定
ができない場合、第 3 年度末に勘定が締切れない。
2. 保険料信託基金
ロイズでの保険取引によって生じる保険料は全
このような勘定をランオフ勘定と言い、ネームの
支払責任は莫大な金額に膨らむ可能性がある。
て各シンジケートのマネージングエージェントが
管理している保険料信託基金に繰入れられる。こ
Ⅳ. ロイズの 2 回の危機
の基金は保険金、保険料返戻金、出再保険料、お
よび経費の支払などにのみ支出される。
ロイズは 1960 年代中頃にインフレ、保険料率低
下、異常災害の多発等により、経営危機を経験し
3. 中央基金
たが、その後は 20 年間にも及ぶ高収益時代を迎え
中央基金はネームの保険料信託基金、預託金、
た。1980 年代中頃においては、ロイズマーケット
個別準備金、特別準備金の全てをもってしても支
に関わる殆どの人が十分な利益を上げており、英
国や米国の保険会社と比較しても、一般的に高い
保険料率の低下が続くと保険会社の収益が悪化
利益率を確保していた。
し、時には市場から退出を迫られる保険会社が出
ロイズは 1991 年に締切られた 1988 引受年度に 5
現することがある。保険会社は収益を回復させる
億 1 千万ポンドの赤字を計上したが、翌年以降も
ために保険料を引上げ、保険市場は、買手市場
赤字が継続し、1992 引受年度までの 5 年間に英国
(ソフトマーケット)から売手市場(ハードマー
企業最大とも言われる累計 80 億ポンドにも達する
ケット)に転じることとなる。
赤字を計上するに到った。
《図表2》は、ロイズの収益と英国および米国
ロイズが再度赤字に転落し、2 回目の危機を迎え
の元受保険会社の保険引受サイクルを示している。
るに到った主な原因をまとめると、保険引受サイ
英国、米国共に元受保険会社のコンバインドレシ
クル、キャパシティ過剰、モラルハザード、米国
オは、100%を上回る状況が継続している。コンバ
におけるロングテイル保険金支払、および巨大災
インドレシオが 100%を上回る中で、悪化と改善の
害の多発の 5 つを挙げることができる。以下その
サイクルを示しているが、ロイズの収益のサイク
内容を概観する。
ルにも影響を与えていることが見てとれる15。
1. 保険引受サイクル
2. キャパシティ過剰
損害保険市場では、保険引受業務の収益性が、
1965 年に米国フロリダを襲ったハリケーン・
改善と悪化を繰返すという循環的な保険引受サイ
ベッツイに関する巨額の支払から、1965 引受年度
クルが存在すると言われてきた。これは、主に保
より 3 年連続で 4 億 1,100 万ポンドの赤字を計上
険会社による保険料率の引上げ、および引下げに
した。多くのネームが脱退したため、キャパシ
よって生じる。
ティ不足に陥ったロイズは、ネームの資力に関す
る条件を引下げ、さらにミニ・ネーム16 という安易
保険会社は市場での競争が激しくなると、マー
ケットシェアを向上あるいは維持するために保険
な資本導入方法を採用した。
料率を引下げる。
《図表2》ロイズの収益と保険引受サイクル
%
100万 ポ ン ド
1500
85
1000
90
500
95
0
-500
100
81
83
85
87
89
91
93
95
105
-1000
110
-1500
115
-2000
120
-2500
125
ロイズ損益
(引 受 年
度 、左 軸 )
米国保険
会 社 コンバ
イ ン ドレ シ
オ (右 軸 )
英国保険
会 社 コンバ
イ ン ドレ シ
オ (右 軸 )
(出典)Lloyd’s,“Lloyd’s Global Results 1998”,1999.などに基づき、安
田総合研究所にて作成
その結果、ネームの数は増加し、引受キャパシ
款となっており、米国裁判所の判事や陪審員が、
ティも拡大した。特に 1980 年代末にかけて急拡大
アスベストや環境汚染のような相当以前の事故に
し、例えば 大幅な赤字決算となった 1988 年から
対するロイズの支払責任を認めたことにより、莫
1991 年にかけて、70%の増加を記録した。豊富な引
大な保険金の支払を迫られた。
受キャパシティを得たシンジケートは、積極的に
ロイズは 1985 年に到り、
「オカランスメイド」
1980 年代中頃から盛んになったエクセス・ロス再
から「クレームズメイド」へと約款を改定し、保
保険を引受け、このエクセス・ロス再保険がロイ
険期間内になされたクレームのみを賠償責任対象
ズのシンジケート間を転々とするようになった。
とする変更を行った。アスベストの危険性は第二
引受を仲介するブローカーは、他のシンジケート
次大戦前から指摘されており、30 年前に約款が改
に移すたびに 10%の手数料を受取るため、エクセ
定されていれば、ロイズは 50 億ポンドの支払を免
ス・ロス再保険が転々とする中でブローカーの手
れただろうという見方もある21。
数料のみが膨張し、保険リスクと保険料とのバラ
この結果、破産に追い込まれるネームも多数発
ンスが崩れ、リスクが一部のシンジケートに集中
生し22、またネームによりアンダーライターやメン
していった。
バーズエージェント、マネージングエージェント、
このようにして再保険スパイラルと呼ばれるバ
ブローカーに対する損害賠償訴訟も相次いだ。ア
ブルが発生し、大災害発生を契機とするバブル崩
ンダーライターらの殆どは大きな資産を有してお
17
壊時の痛手を拡大することになった 。
らず、ネームの本当の狙いは彼らが付保していた
専門家賠償責任保険であった。しかし、この保険
3. モラルハザード
は市場の中でかけられていたので、ネームがお互
ロイズは 300 年にもわたり、一部の特権階級の
いを訴えている場合があった23。なお、ロイズ自体
間で運営されてきた。また仲間内の秘密主義も温
は 1982 年ロイズ法により、民事訴訟が免除されて
存され、シンジケートに資本を提供しているネー
いる24。
ムに対しても情報提供の義務はなかった18。
ロイズはイングランド銀行よりも長い歴史を有
5. 巨大災害の多発
しており、シティにおける伝統的な自主規制を
一連の巨大災害が世界的に多発し、再保険を引
守ってきたが、この自主規制は仲間内のなれ合い
受けていたロイズに莫大な負担をもたらした。
19
となり、有効に機能しなかった 。
1988 年 7 月の英国における石油掘削基地爆発事故
1970 年代から 80 年代にかけてブローカーやアン
を皮切りに、1992 年にかけてハリケーン・ヒュー
ダーライターの手による、不正取引が多発した。
ゴ、サンフランシスコ地震、ヨーロッパ北西部暴
1980 年代にはロイズ会長のグリーン卿や花形アン
風雨、エクソン・バルデス石油タンカー事故、
ダーライターとして知られたポスゲート氏も不正
フィリップス石油化学工場火災、我が国の台風 19
の疑いからロイズを去り、信用を著しく低下させ
号、さらにハリケーン・アンドリューと大災害、
20
た 。
事故が連続して発生した。
先にも触れたが、英国政府は現在進められてい
1989 年から 1992 年までの 5 大災害による保険業
る金融制度改革の下で、ロイズを金融機関として
界の負担は 290 億ドルに上る。その内で最大の支
規制対象とすることを決定している。
払はハリケーン・アンドリューの 150 億ドルで
あった25 。これらの莫大な損害は、保険業界26 およ
4. 米国におけるロングテイル保険金支払
びロイズを含むロンドン保険市場に多大な影響を
1960 年代初めまでは米国での製造物責任は食料
与えた。ロンドン保険市場は、主要保険市場の中
や化粧品などの消費財に限定されていた。しかし、
でも大災害保険に注力しており、大災害発生によ
1960 年代半ばに、厳しい製造物責任の考え方が、
る負担は大きいものがあった。そして特にロイズ
「製造物の欠陥がユーザーにとって過度に危険な
においては、先の再保険スパイラルがその影響を
場合」全てを対象とするべく拡大された。また古
さらに深刻化させた27。
い保険証券の多くは、幅広い解釈の余地を残す約
Ⅴ. ロイズの 1980 年代の危機に対応する改革とそ
の成果
皿としてエクイタス社(Equitas)を設立した。計
画当初は「クレームズメイド」への約款改定を考
慮して、1985 年以前の支払責任をロングテイルや
1. 改革の内容
再保険スパイラルを含めて、全て同社に移転する
巨額の損失を計上する中で、破産者を含めて
ネームの脱退が相次ぎ、ロイズは存続の危機にた
たされた。
予定であったが、1996 年 9 月の同社設立時には、
1992 年以前の支払責任が移転された。
しかし、無条件で行われた訳ではなく、準備金
この危機に対応し、さらに世界における最も安
の少ないシンジケートに所属するネームは多額の
定的な利益をもたらす保険引受市場としての地位
拠出金(再保険料)を求められた29 。また、エクイ
を取戻すため、ロイズは 1993 年 4 月にはビジネ
タス社の経営が破綻した場合の支払責任は、ネー
ス・プランを、1995 年には再建・再生を図る R&R
ムに残存する。
(Reconstruction and Renewal)計画を相次いで
発表し、実行に移した。その主な内容は収益目標、
(4) 資本の増強
モニタリングの強化、再保険会社の設立、資本の
無限責任を前提とした個人のネームが脱退した
増強、およびハイレベルストップロスカバーの 5
ことに伴う資本増強のため、300 年にわたるロイズ
つである。以下その内容を概観する。
の歴史の中で初めて、有限責任の法人ネームを導
入した。
(1) 収益目標
個人ネームは依然として無限責任の伝統を守っ
ロイズに対する信頼を回復するため、市場に収
ているが、パートナーシップを組織することによ
益率を約束する必要があり、キャパシティに対す
り、無限責任から有限責任に移行することができ
る目標収益率を 10%に置いた。ネームはキャパシ
る。
ティの 30%を預託金として預けるため、預託金に引
また小口資本を集めて多くのシンジケートに分
直すと収益率は 33%となる。改革の一手段として導
散投資を行う、MAPA(Members’ Agents’ Pooling
入された法人ネームの場合は、預託金に対して 20%
Arrangement)の制度も導入された。
となる。
この収益目標の実現のため、引受基準の維持、
シンジケート運営コストの削減、エージェント手
数料の抑制等の対応を積極的に行った。
(5) ハイレベルストップロスカバー
個人ネームの引受損失に対して、ストップロス
カバーの制度を設けた。ネームはこのファンドに
対して、一定の拠出を行わなければならないが、
(2) モニタリングの強化
ネームの 4 年間の合計損失が同期間の平均引受可
シンジケートやアンダーライターの自主性を重
能保険料限度額の 80%を超えた場合、その超過損失
んじるあまり、規律が乱れていた。本部主導型の
はこのファンドから支払われる。但し、資金が不
経営手法を採用し、キャパシティの管理を開始す
十分である場合には、残余の責任はネームの負担
るなど管理体制を強化した。また本部サービス提
となる。
供機構を新たに設置し、シンジケートの成績に関
する情報の標準化や経理および税務報告書の作成
28
を通じて情報伝達、業務効率 を改善した。
2. 改革の成果
1980 年代の危機に対応するこれらの改革を実行
またエージェントやアンダーライターの専門的
した結果、《図表3》に見られるように、ロイズの
職業能力の向上や適正を欠くエージェントなどを
収益は 1996 年(1993 引受年度)から黒字に転じ、
排除するため、研修や職業資格の拡充を行った。
1997 年(1994 引受年度)
、1998 年(1995 引受年度)
と 2 年連続で 10 億ポンドを上回る利益を上げた。
(3) 再保険会社の設立
また、1996 年 9 月 4 日の総会において、David
米国のロングテイルの賠償責任に関わる膨大な
Rowland 会長の手によりルーティンベル30 が 3 度鳴
未払責任を切り離し、こうした勘定を処理する受
らされ、ロイズは今回の危機を脱したとの宣言
《図表3》ロイズの業績推移
1991年
1992年
1993年
1994年
1995年
1996年
1997年
1998年
1999年
11,063
9,833
8,784
10,898
10,195
9,994
10,324
10,169
9 ,8 7 0
うち個人ネームの割合
(%)
100
100
100
85
77
70
56
40
27
うち法人ネームの割合
(%)
−
−
−
15
23
30
44
60
73
個人ネーム数
26,539
22,259
19,537
17,526
14,744
12,798
9,958
6,825
法人ネーム数
−
−
−
1988年
1989年
1990年
1991年
1992年
−1,863
−2,319
−2,048
−1,193
キ ャ パ シ テ ィ (資本)
(百万ポンド)
引受年度
成 績( 百 万 ポ ン ド )
−510
95
140
162
1993年
+225
202
435
1994年
1995年
+1,095
+1,149
4 ,5 0 3
668
1996年
+606
(出典)Lloyd’s,
“Lloyd’s Global Results 1998”,1999.などに基づき、安田総合研究所にて作成
1999 年 5 月、ロイズは 1996 引受年度の成績を発
が行われた。
なお、1997 年 10 月、ロイズは初めて Standard
表した。発表によると、1996 引受年度の総利益
& Poor’s 社と A.M.Best 社から保険財務力格付を取
(Total profit:Result after personal expenses)
31
得した 。これは、再建に向かうロイズにとって、
は、6 億 600 万ポンドで、1995 引受年度の同利益
保険市場での信頼を高めることに寄与する。
11 億 4,900 万ポンドと比較して約 5 割の減益と
Standard & Poor’s 社は、A+(Good)と評価し 、
なった。また、会員負担金36控除前の純利益(Pure
A.M.Best 社は、A(Excellent)と評価した33。なお、
year profit before personal expenses ) に つ い
両社での最高評価を得られなかった理由は、再建
ても、1995 引受年度が 16 億 5,700 万ポンドであっ
計画スタートからあまり時間がたっていないこと
たのに対し、1996 引受年度は 7 億 4,800 万ポンド
に加え、エクイタス社の将来について不安要素が
に減少し、正味収入保険料に対する純利益率は、
32
34
あるためであった 。
将来の不安要素として挙げられていたエクイタ
1995 引受年度の 28.0%から 1996 引受年度は 15.6%
に低下した。
ス社は、1998 年 10 月、1998 年 3 月末の財務諸表
ロイズは今後の成績の見通しについて、1997 引
を公表したが、利益、支払余力とも大幅に上昇し
受年度は 7,000 万ポンドの利益が見込めるとして
ていた。エクイタス社の社長 Michael Crall 氏は、
いるが、1998 引受年度には 6,000 万ポンドの赤字
「エクイタス社は短期間で大きなことを成し遂げ
に転落し、1999 引受年度も過剰な引受キャパシ
35
た」と述べている 。
ティとそれに伴う料率競争の激化により、成績の
改善は望めず、赤字基調が続くであろうと予測し
Ⅵ. 変化しつつあるロイズ
ている37。
なお、1997 年のロイズの収入保険料は、英国損
1. 楽観できない収益状況
害保険の収入保険料全体の 20%、再保険に限れば
前述のとおり、ロイズは 1993 引受年度より黒字
34%を占めているが、ロイズにおいて再保険が占め
に転じ、1994 年と 1995 年の両引受年度では 10 億
る割合は、1992 年の 50%弱から 1997 年には 17%に
ポンドを超える総利益を計上し、再生を果たした
まで低下してきている。また、ロイズが世界の再
かに見えたが、現在再び赤字転落の危機が迫って
保険市場に占める割合も、1992 年の 6%から 1996
きている。
年には 3%に低下している。
《図表4》1996 引受年度と 1995 引受年度の成績比較
(単位:百万ポンド)
1996
1995
増減額
4,794
5,916
▲1,122
純利益(会員負担金控除前)
748
1,657
▲909
海上
193
514
▲321
ノンマリン
523
856
▲333
航空
136
283
▲147
▲104
4
▲108
純利益(会員負担金控除後)
359
1,050
▲691
総利益
606
1,149
▲543
正味収入保険料
自動車
(出典)Lloyd’s,“Lloyd’s Press Release(LL39/99)
”(7 May 1999),1999.お
よび Lloyd’s,
“Lloyd’s Press Release(LL40/98)
”
(5 May 1998)
,1998.
より安田総合研究所にて作成
《図表5》1997 年英国保険会社・ロイズ収入保険料
(単位:百万ポンド)
国内自動車
国内ノンマリ 海外ノンマ マリン、航
ン(除自動車)
ロイズ
ABI 加盟
リン
再保険
合計
空、運送
858
771
1,713
1,875
1,084
6,301
6 ,085
12,654
941
1,051
1,644
22,375
214
1,015
34
748
431
2,442
7,157
14,440
2,688
3,674
3,159
31,118
保険会社
その他
合計
(出典)Association of British Insurers, “Insurance Statistics Yearbook(1987-1997)”,1998.
2. 資本構造の変化
ムの増加は、マーケットが資本の増強を求めてい
1994 年に初めて有限責任の法人ネームを導入し
るためである。
て以降、無限責任を負う個人ネームの数はより一
1998 年 11 月、Berkshire Hathaway Investment
層減少してきている。1998 年には、新たに 548 人
Group 傘下の大手再保険会社 General Re 社がマ
38
の個人ネームが無限責任から有限責任へ転換 する
ネージングエージェントの DP Mann 社を買収しロ
と共に、2,019 人の個人ネームが脱退し、1999 年
イズに参入した。また、1999 年 1 月には、英国最
の無限責任の個人ネーム数は 4,503 人となってい
大の生損保兼営保険会社である CGU 社が、海上保
る。また 1998 年、初めて法人ネーム(有限責任の
険の営業をロイズシンジケートに移転し、同月
個人ネームを含む)からのキャパシティが、無限
SmithKline Beecham(SB)社41 によるキャプティブ
責任の個人ネームからのキャパシティを上回り、
シンジケートも設立された。さらに、Swiss Re 社
1999 年現在では、キャパシティ総額 98 億 7,000 万
も Chartwell Re 社と共同してロイズの海上保険シ
ポンドの内、71 億 7,000 万ポンド(キャパシティ
ンジケートへの参加を発表するなど、ロイズへの
総額の 73%)が法人ネーム(有限責任の個人ネーム
法人資本の導入は一層進んでおり、ロイズマー
39
ケットの性格を根本的に変えつつある。有限責任
40
を含む)からのものとなっている 。
この個人ネームの減少は、前述のとおり 1980 年
の法人が資本の約 7 割を提供し、自分自身で引受
代末から 90 年代初めにかけて大きな損害を個人
を行うのであるから、ロイズは、通常の保険会社
ネームが被ったことによる結果であり、法人ネー
と変わらなくなってきているとの指摘もある42。
3. 規制の見直しの動き
罰金などの罰則を課すというものである(法案 12
条 1 項)。規制対象業務とは、一定の投資に関する
(1) 金融サービスおよび市場法
一定の業務を言う(法案 11 条 1 項)が、ロイズシ
現在英国では、金融監督制度に関する大規模な
ン ジ ケ ー ト の 引 受 資 格 ( Lloyd’s syndicate
改革が進められている。1998 年 7 月には、大蔵省
capacity ) お よ び シ ン ジ ケ ー ト の 会 員 資 格
から改革の要となる法律である「金融サービスお
(syndicate membership)は投資に該当し、ロイ
よ び 市 場 法 案 ( Financial Service and Markets
ズシンジケートへの参加に関する助言やロイズの
Bill)」が公表され、遅くても 2000 年には制定さ
マネージングエージェントは規制対象業務とされ
れることになると言われている。本法案の主な特
る。
徴は次のとおりであり、「ロイズに対する外部監督
上述のとおり、ロイズ評議会は金融サービス機
の強化」が盛込まれている。
構より一種の自主規制機関的な地位を認められる44
・ 単一の規制機関の創設
が、シンジケートの管理を行うマネージングエー
・ 単一のオンブズマン機構および補償機構の創設
ジェント、メンバーに対する助言を行うメンバー
・ 単一の不服申立審判所の創設
ズエージェントは、金融サービス機構による認可
・ 市場不正行為に対する新たな制裁制度の導入
を受け、規制されることになる。
・ ロイズに対する外部監督の強化
一方、大蔵省は、損害保険の販売やアドバイス
に関しては、銀行・証券・生保商品の販売体制と
(2) ロイズに対する外部監督の強化
は異なり、法規制ではなく、任意の自主規制団体
ロイズは発足以来、300 年以上にわたり自主規制
に委ねるという立場をとっている。それを受け、
を守ってきたが、1988 年以降のロイズ危機や頻発
新 た な 単 一 の 自 主 規 制 団 体 GISC ( General
した不正で、もはや自主規制のみでは不十分であ
Insurance Standard Council ) が 設 立 さ れ る 。
ることを露呈した。ロイズに対する信頼を取戻す
従って、これまでロイズが行ってきたロイズブ
ためには、ロイズに対し法的規制を強化すること
ローカーに対する規制・監督についても、GICS が
が必要であると政府が判断し、ロイズに対する外
行うこととなる。
部監督の強化が本法案に盛込まれたと言われてい
る。
なお、前述のとおり、ロイズはこのような規制
のみ直しを受入れる考えを表明している。
政府はロイズについて、本法案の市中協議用
ペーパー(Consultation Document)の中で次のと
43
おり述べている 。
4. 今後の成長をめざすロイズの取組み
前述のとおり、ロイズに再び赤字転落の危機が
「現在、ロイズ保険市場は支払能力の観点から
迫ってきている。ロイズは、資本構造の変化やロ
大蔵省によって規制されているが、ロイズの業務
イズを取巻く環境の変化に対応し、今後の成長を
のその他の側面についてはロイズ法に基づき、ロ
図るため、以下のような取組みを進めてきている。
イズ評議会によって規制されている。政府として
は、ロイズの保険契約者も、他の保険者によって
(1) 組織の再構築の検討
引受けられる保険契約者と同様に同一の監督制度
1997 年 9 月、先を見据えた果敢なビジネスの意
に基づく便益を享受すべきであると考える。本法
志決定が行えるような組織の再構築をめざし、独
案では、ロイズ市場に対する広範な介入権限と認
立調査委員会(Independent review committee)
可 権 限 を 金 融 サ ー ビ ス 機 構 ( FSA : Financial
が設立され、イングランド銀行の元理事の Pen
Services Authority)に付与している。但し、ロ
Kent 氏が会長に就任した。
イズ評議会の主要な役割は許容され続ける。
」
ロイズは 1982 年ロイズ法の下、ロイズ評議会が
本法案における業者規制の基本は、規制対象業
管理してきたが、個人ネームと企業、ブローカー
務を遂行しようとする者に対し、認可業者か規制
との内部紛争が意志決定を困難にすることが度々
対象業務に関して免除された者であることを求め
あり、また、監督規制会議とマーケット会議が分
(法案 7 条 1 項)
、これに違反した場合には禁固や
かれていることも意志決定の複雑さを増す要因と
なっていた。そこで、独立調査委員会は、ロイズ
・ 世界的な取引の権利、機会、ブランド力を利用
の戦略と規制の舵取りを容易とするためには、株
し、国際的な顧客にサービスを提供することを
式会社のような近代的な委員会機構の設立が必要
通じて、リスクに関するグローバルマーケット
であるとの認識から、従来の複雑で古臭い経営構
プレイスとしてのロイズの地位を構築する。
造を単一の経営委員会に変更するよう勧告を行っ
・ 専門知識の向上や技術革新によって、ロイズ
た。
マーケットを顧客にとって独特の魅力あるマー
独立調査委員会の報告では、数を減らしつつあ
る個人ネームと、それにとって代わりつつある企
業資本の間のより公平なバランスを委員会にもた
ケットにする。
・ 顧客に競争的なサービスを提供し、マーケット
コストを削減する。
らすために、双方の集団の代表者数を、ロイズの
・ ロイズによる全ての保険契約者に対する確かな
事業への貢献度、つまりはキャパシティに連動さ
安全と資本提供者に対する高い収益機会の提供
せるとの方策を提案し、ロイズは 1998 年 4 月、そ
を確実なものとする。
の勧告を受入れた
45
・ ロイズの自主規制要件の遵守、および外部の規
しかし、この勧告を実行するためには、ロイズ
制者による規制要件の遵守。
法の改正が必要となる。政府はこの勧告を否定し
た訳ではないものの、前述の金融監督制度改革の
(4) 単年度会計方式への移行の検討
方が優先順位が高いとの認識から、本件に関する
前述のとおり、ロイズは現在、3 年会計方式を採
ロイズ法改正には消極的で、実質ロイズの組織の
用している。これは、ロイズシンジケートは 1 年
46
再構築は見送られることとなった 。
単位で引受を行い、続く 2 年間はクレームを受付
け、3 年終えると未払債務を引継シンジケートに再
(2) 取引形態の見直しを表明
1998 年 1 月、会長に選任された Max Taylor 氏は、
保険し、引受年度を締切るという「年度別危険参
加方式」に基づくものである。しかし、この方式
コスト削減の観点から取引形態の大幅見直しに着
は、運営に大変費用がかかる上、情報技術などの
手し始めた。ロイズは伝統的に、手数料ベースの
長期投資を阻害している。また、この方式では、
ロイズブローカーを仲介した取引であるが、この
デリバティブなどは言うに及ばず、多年度契約証
方式が高コスト体質につながり、他の有力な再保
券の発行すら難しく、各シンジケートでは、顧客
険者との競争上、不利な状況になりつつあった。
のニーズを満たす新商品作りに支障をきたしてい
さらに、ブローカー同士の合併・買収を通じて一
る49。
部の有力なブローカーの力が強まり、相対的にロ
このようにロイズで現在生じている「年度別危
イズアンダーライターの交渉力が弱まる結果と
険参加方式」の問題点と法人ネームの多くがロイ
なってきていた。Max Taylor 会長は、「ロイズに
ズシンジケートの単年度の会計情報を求めている
とって必要なのは、世界的規模で再保険取引が可
ということを考慮して、マーケット会議は、1998
能な、従来までのロイズブローカーに代わる取引
年の優先事項の一つとして、「年度別危険参加方
先を検討することであり、直接的な取引ができる
式」に基づく 3 年会計方式から、恒久的資本を前
ならば、必ずしもロンドンのブローカーにこだわ
提とした単年度会計方式への移行の実現可能性を
らず、ロンドンに事務所を置く外国の保険会社で
検討するプロジェクトを立ち上げ、現在も主に以
もかまわない」との意向を述べ、取引形態・範囲
下の点について検討が進められている50。
の見直しに対する積極的な姿勢を表明した47。
・ シンジケート会計報告システムの導入と単年度
会計データ提供のための新たな会計報告データ
(3) 「5 つの戦略目標」の発表
1998 年、ロイズにおけるビジネスに成功をもた
らすような取引環境を整備・提供することが重要
であるとの観点から、規制監督会議は、以下の 5
48
つの戦略目標を発表した 。
ベースの確立による現在の会計報告の構成変更
の可能性について。
・ 全てのシンジケートにとっての単年度会計の実
現の可能性について。
(5) キャプティブシンジケートの設立
で提供することが可能であることが挙げられる。
法人資本のさらなる導入に積極的な姿勢をみせ
なお、Rodger 氏は、ロイズのキャプティブシン
ていたロイズは、1998 年 11 月、1999 年 1 月より
ジケートの不利な点について、シンジケートの運
キャプティブに門戸を開放するという歴史的な決
営コストが高い点や、キャプティブシンジケート
定を行い、その第 1 号として、 1999 年 1 月に
が破産した場合、引受けた保険契約が最終的にロ
SmithKline Beecham(SB)社によるキャプティブ
イズマーケット全体に影響を与えるため、バ
シンジケートの設立を受入れた。Max Taylor 会長
ミューダ等のオフショアキャプティブに比べて厳
は、「SB をロイズに迎入れることができ、我々は大
しい規制を守ることを要求している点などを指摘
変喜んでおり、他の企業もロイズにキャプティブ
している。
を設立することを期待している。我々は、キャプ
ティブシンジケートの導入が現存のマーケットに
(6) バミューダマーケットとの競合と技術革新
とっての相当な追加的機会を生み出すであろうと
バミューダは大西洋上(米国東海岸から航空機
確信している」と述べ、今後のキャプティブシン
で 2 時間程度)の英国領の島で、有利な規制と租
51
ジケートの設立にも積極的な姿勢を示している 。
税環境などから、オフショア金融・保険マーケッ
ロイズのマネージングエージェントである Amlin
トとして発展してきた。特に、長年にわたり、世
Capital Management 社の Alastair Rodger 氏は、
界一のキャプティブ設立地として君臨しており、
多国籍企業がロイズにキャプティブシンジケート
1998 年末時点で、1,500 以上のキャプティブがあ
を設立する利点について以下のとおり指摘してい
ると言われている。また、バミューダマーケット
52
では、ART に代表される伝統的な再保険に代替する
第一点目は、ロイズシンジケートは、60 数ケ国
危険分散商品も提供されており、世界屈指の保
る 。
に包括的なライセンスを持っているため、ただち
険・金融センターとして高い評価を得ている。
に多国籍保険会社の機能を果たすことができるこ
巨大な資本的支えを持つバミューダの保険会社
とである。通常キャプティブは、自国で認可が必
の出現で、大災害に対するキャパシティ提供者と
要な保険種目については、認可を取得している自
して、ロイズが行使してきた影響力は衰え、バ
国の保険会社(フロンティング保険会社)を経由
ミューダの再保険会社を中心とした海外の競争相
させる必要があるが、ロイズにキャプティブシン
手にマーケットシェアを奪われてきたが、失った
ジケートを設立すれば、企業は 60 数ケ所の居住地
ビジネスをロイズマーケットに取戻すため、現在
を利用できるキャプティブを設立したことになる。
は、バミューダの保険会社による資本の受入れ53 を
従って、費用のかかるフロンティング協定を結ぶ
図ると共に、ART 手法の取込みに向けた準備を行っ
必要がなく、保険料を直接ロイズのキャプティブ
ている54。
シンジケートに払込むことができる。
第二点目は、英国の多国籍企業のリスクマネー
(7) 「成長のための優先事項」の発表
ジメント部門は、ロイズのキャプティブシンジ
マーケット会議は、1998 年の「5 つの戦略目
ケートを利用すれば、きめ細かく、国際的な保険
標」に続き、1999 年 2 月に「成長のための優先事
を英国において管理することができることである。
項(Priorities for growth)」という報告書を発
第三点目は、例えば米国のように英国と租税条
表した55 。報告書は、世界の保険市場における主要
約を締結している国にとって租税が節約できるこ
な動向を次の 6 つに整理した上で、そのような環
とである。米国企業が、バミューダのキャプティ
境下、ロイズが今後成長を遂げるために行うべき
ブと保険契約を締結する際には、海外に送付する
優先事項として、「魅力的な取引環境の創造」と
保険料に対し連邦内国消費税を支払わなければな
「収益性の高い成長の支援」という 2 つの目標を
らないが、ロイズのキャプティブシンジケートで
掲げた。
あれば、その支払は免除される。
・ 国際化
第四点目としては、ロイズのキャプティブシン
ジケートであれば、資本は現金に限らず、信用状
・ 保険会社、再保険会社、ブローカーの間の合併
・ 保険商品のコモディティ化56
・ 顧客の高度化とリスク保有の広がり
た め に 、 IUA ( ロ ン ド ン 国 際 保 険 協 会 :
・ リスクファイナンシングの代替手法の影響
International Underwriting Association of
・ 技術の急速な発展
London)とロイズとの密接な協力関係によって、
ロイズにおける事務処理の合理化やロイズおよ
① 「魅力的な取引環境の創造」
報告書は、第一の優先事項である「魅力的な取
引環境の創造」を達成するためには、ロイズの事
57
業コストを現在よりも引下げる ことが必要であり、
そのためにはマーケットの構造や諸手続を簡素化
びロンドン市場における事務処理の統一を図る。
・ 保険証券発行やクレーム処理の明確なサービス
基準を設定する。
・ エージェントの効果的な与信管理を可能とさせ
るデータ提供システムの導入。
しなければならないと述べている。具体的には以
・ 電子商取引の推進。
下のような点を指摘している。
・ 収益性の高い成長は、営業権を拡大することに
・ ネームに対する中央基金の賦課金を 2000 年に
よっても達成できる。そのためには、ロイズの
58
キャパシティの 0.25% へ引下げ、その後も同水
世界的な取引免許を維持・拡大すると共に、顧
準を維持する。
客のニーズに対応するため、ART 商品や手法の開
・ 規制に要するコストやコンプライアンスの複雑
さを減少させるため、ロイズの規制システムと
金融サービス機構により提供される規制の枠組
みとの調整を図る。
発をはじめ、ロイズの現行の商品範囲の拡大を
図る。
・ 世界の保険専門家の間で、革新性を備えた密接
な関係を構築する。
・ RBC(Risk Based Capital)の制度をさらに発展
・ ロンドンマーケットに参加している企業に対し、
させ、引受リスクとこれに必要な資本とを密接
法人メンバーとしてのロイズ参加を促進し、ロ
に均衡させる。これによって、資本はさらに効
イズマーケットの拡大を図る。
率的に使用されることとなり、中央基金は安定
する。
・ 継続的で、簡素化した資本構造への転換を図り、
コスト削減と柔軟性の向上を実現する。
(8) 事務処理に関する IUA との共同イニシア
ティブの推進
「成長のための優先事項」を受けて、ロイズと
・ シンジケートやエージェントが、現在統合に向
IUA は、事務処理を合理化し、重複するコストを削
かう傾向にあるが、これも事業コストの減少に
減して、グローバルな元受・再保険市場でロンド
役立つ。
ンの競争力を高めるための共同イニシアティブを
進めている。現在ロイズと IUA の代表によるトッ
② 「収益性の高い成長の支援」
報告書は、第二の優先事項である「収益性の高
い成長の支援」を達成するためには、マーケット
の競争力を高めること、および、ロイズの営業権
プレベルの会議が毎月開催されており、以下の 4
分野について検討が行われている59。
・ 保険金の支払、保険証券の発行、保険料の受領
までに要する時間の短縮を図る。
(franchise)を拡大することが必要であると述べ
・ 事務処理に関するサービス基準を設定し、それ
ている。具体的には以下のような点を指摘してい
に対するブローカー、アンダーライター等の履
る。
行度を示す統計を発表する。
・ 今後もロイズはブローカーマーケットであり続
・ LPC ( ロ ン ド ン 事 務 処 理 セ ン タ ー : London
ける。競争力は、ブローカーとの新しい協力関
Processing Center)と LPSO(ロイズ保険証券署
係の枠組みを取決めることによって強化される。
名局:Llody’s Policy Signing Office)間の共
ロイズへのアクセスの機会は広げられるべきで
同開発の支援。
あり、最も効果的なサービスを提供するために、
ロイズブローカーとマネージングエージェント
との間の協定をより柔軟にする必要がある。
・ コストを削減し、競争的なサービスを提供する
・ 電子商取引の促進。
Ⅶ. ロイズの将来
のロイズは単なるロンドンの保険取引所にすぎず、
本来のロイズではない61 」との根強い反撥もある。
ロイズは、これまで見てきたとおり、今後の成
さらに、無限責任ゆえに個人ネームは、現在ロイ
長をめざし数々の取組みを進めてきているが、そ
ズに求められている恒久的資本提供にも難色を示
の前途にはいくつかの解決しなればならない問題
している。一方で、法人ネームは、ロイズを投資
が存在している。以下、ロイズが抱えている課題、
先の一つと捉えており、恒久的な資本提供にも前
将来の成長の可能性について検討する。
向きである。このように、両者の間にはロイズに
対する考え方の点で、根本的な相違が存在してい
1. エクイタス社の不安
る。
ロイズの将来を考える上で着目すべき点は、ロ
ロイズが今後も紳士のクラブであり続けない限
イズの再建計画の鍵となる存在であったエクイタ
り、相互保証方式は有効に機能しない。この方式
ス社の今後の動向についてである。エクイタス社
は既に、ロイズの危機に際して、限界があること
の現在の業績は、前述のとおり、予想を上回るも
を露呈したが、有限責任の法人ネームの導入によ
のであるが、その一方で、将来にわたっていかに
り、この方式がモラルハザードを生じさせる可能
エクイタス社が健全であるかを立証するには今だ
性はさらに高まっている。しかし一方で、ロイズ
疑念が残されている。
が他の有力な保険会社、保険マーケットと対抗し、
仮に、アスベストや環境汚染等のロングテイル
自らのマーケットを拡大させていくためには資本
の賠償責任保険に関する多額の支払が発生し、今
の増強は不可欠であり、今後 ART などの新技術を
後エクイタス社が困難な状況に直面した場合、ロ
導入する上でも、新たな法人資本の受入れが必須
イズがマーケットの中でその支援をネームに求め、
となろう。
完結させることは困難であると言われている。例
従って、ロイズが今後成長を図るための前提は、
えば A.M. Best 社は、エクイタス社に関する将来
有限責任の企業中心の制度に基づいているとも言
の問題を解決するためのロイズの能力に対する疑
え、相互保証を前提に成り立ってきた無限責任の
問を投げかけており、
「ロイズのネームがエクイタ
個人中心の制度との両立を図っていくことは困難
ス社を支援する選択権を持っている一方で、仮に
であると考えられる。他の有力な保険会社との対
それが必要となった時、ネームが財政支援を行う
抗上、ロイズは近い将来、株式会社化を図ること
か疑問である。これは、ロイズで可能とされる財
も必要となってくるであろう。
政の柔軟性が限られたものであることを浮き彫り
60
にしている」と述べている 。
3. 3 年会計方式の限界:単年度会計方式への移行
ロイズは、伝統的に巨額の損失に直面した場合、
前述のとおり、ロイズが現在採用している 3 年
相互保証方式からネームにその分担を求めてきた
会計方式は、ロイズシンジケートの「年度別危険
が、有限責任の法人資本が 7 割を超える現状では、
参加方式」を前提としたものであり、この方式は、
エクイタス社を仮に救済する必要が生じた場合、
多大な運営コストがかかる上、情報技術などの長
その提供可能な資金には自ずと限界がある。この
期投資を阻害し、さらにシンジケートにおける新
問題は、将来のロイズにとっての不安材料であり
商品開発にも支障をきたしている。
続けるであろう。
ロイズが今後成長を図るためには、コストの削
減、長期的な技術投資が必要であると共に、特に、
2. 無限責任の個人ネームと有限責任の法人ネー
ムとの両立の可能性
多年度契約、ART といった顧客のニーズを満たす新
商品の導入は不可欠である。従って、「年度別危険
前述のとおり、ロイズはそもそも無限責任の個
参加方式」の廃止は、ロイズが他の有力な保険会
人ネームにより支えられてきた相互保証方式を前
社、保険マーケットと対抗するために、ART などの
提にした組織であった。従って、1994 年の有限責
新技術の導入を図る上での前提であると言える。
任の法人ネームの導入以降、企業がロイズマー
現在ロイズでは、前述のとおり、マーケット会
ケットの中核となってきていることに対し、「現在
議を中心に単年度会計方式への移行が検討されて
いるが、早急な解決が必要な課題であると言えよ
本の積極的導入」、「単年度会計方式への移行」、
う。
「全ブローカーへのロイズマーケットの開放」な
どの取組みは、世界の保険マーケットに遅れをと
4. 全ブローカーへのロイズマーケットの開放
らないための、さらに、他の有力な保険会社や保
1999 年 2 月に発表されたマーケット会議の報告
険マーケットとの厳しい競争の中でロイズマー
書「成長のための優先事項」で明示された目標を
ケットを成長・拡大させていくための、ロイズの
受けて、ロイズは、募集体制の効率化を図るため
近代化計画に位置づけられると言えよう。
に、1999 年 10 月、マネージングエージェントとブ
しかしながら、ロイズ自身も、また多くのアナ
ローカーとの取引方法について検討した市中協議用
リストも、ロイズの収支は少なくとも今後 2、3 年
62
ペーパー(consultation document)を発表した 。
間は損失であると予測している。従って、ロイズ
本ペーパーでは、マネージングエージェントに、
にとって、今後損失が拡大することによって、新
初めて非ロイズブローカーとの取引を認め、マー
たな投資家がロイズマーケットへの参入に慎重と
ケットで活躍する多くの保険仲介者に取引範囲を
なる可能性があることは、懸念すべきことである。
拡大するとの提案がなされている。つまり、マ
そのような意味からも、ロイズは過去の危機ほど
ネージングエージェントは、一定の適格要件を備
の規模ではないものの、現在、楽観できない状況
えたブローカーであれば、当該ブローカーの保証
にあると言えよう。
人になり、ロイズに登録されたブローカーとする
63
ことができるというものである 。
このような状況の中で、ロイズの将来の成長を
左右する大きな鍵は、ワールドクラスの魅力ある
運送リスク専門ブローカーの RL Davison & Co
商品・サービスの提供とロイズマーケットの効率
社の John Davison 会長は、この改革はロイズマー
性向上を実現することであると考えられる。従っ
ケットに参加している者全てのメリットになると
て、ロイズの将来の成長は、ロイズが現在取組ん
考えており、次の三つのメリットをもたらすと述
でいる各改革をいかに迅速かつ着実に実行するこ
64
べている 。
とができるかにかかっていると言えるであろう。
・ 保険契約者にとっては、より低廉な価格でのカ
これから数年のロイズの動向が特に注目される。
バーの確保が可能になる。
・ 保険マーケットがより競争的になる。
<参考文献>
・ ロイズの将来の存続がより確かなものになる。
・ ヘイミシュ・マクレイ、フランセス・ケーンク
グローバル化、合併、急激な技術革新によって
影響を受けた保険業界において、アンダーライ
ターは、新たなビジネス機会を絶えず求めている。
この改革案では、ロイズブローカーだけでなく全
てのブローカーにロイズマーケットが開放される
こととなり、ロイズの活性化と競争力強化が図ら
れるものと期待されるが、一方で、急激な変化は
起きないだろうという意見もあり、今後の動向に
注目していく必要がある。
ロス「キャピタルシティ」(中前忠訳、東洋経済
新報社、1986)
・ ゴドフリー・ホジスン「ロイズ」(狩野貞子訳、
早川書房、1987)
・ 木村栄一「ロイズ・オブ・ロンドン」(日本経済
新聞社、1987)
・ 酒本知子「ロイズの現状と展望」(生命保険経営
第 61 巻第 2 号、生命保険経営学会、1993)
・ コーポレーション・オブ・ロイズ「ロイズの改
革 利益計画:ロイズ事業計画」
(安田総合研究
5. おわりに
所訳、安田総合研究所、1993)
以前は革新的な損害保険の開発に取組み、世界
・ 千歳雄一郎「ロイズの利益計画―ロイズ事業計
の損害保険市場をリードしてきたロイズであるが、
画 の 概 要 」( 安 田 総 研 ク ォ ー タ リ ー Vol.7 、
ART やバミューダ市場などの新たな仕組みやマー
1993)
ケットの発展に対し、ロイズの伝統的な枠組みだ
・ 南方哲也「ロイズの改革―法人資本の導入に伴
けでは、必ずしも対応しきれなくなってきている。
う個人会員制度の変革」(損害保険研究 第 57
これまで見てきた「事務処理の効率化」、「法人資
巻第 1 号、損害保険事業総合研究所、1995)
・ アダム・ラファエル「ロイズ保険帝国の危機」
・ The Economist ,“ A Decaf Coffee-House? ”
(篠原成子訳、日本経済新聞社、1995)
・ 週刊東洋経済「ロイズ再建プランの行方」(東洋
(February 20th1999),1999.
・ A.D.Bain,“Insurance Spirals and the London
経済新報社、1996)
Market” , The Geneva Papers on Risk and
・ 週刊東洋経済「ロイズ再建完了、日本に進出」
Insurance Vol.24 No.2(April 1999), 1999.
(東洋経済新報社、1997)
・ 南方哲也「ロイズの危機と再建の課題」
(分研論
集 No.121、生命保険文化研究所、1997)
1
ダービー市のブランスビー氏が盗難に遭った高級
・ 河村賢治「英国金融サービスおよび市場法案の
時計に関して情報提供を求めた広告で、情報の提
概要と近時の展開」(国際商事法務 Vol.27,
供先を本人、およびロイズコーヒー店としていた。
No85,1999)
2
・ Robert Kiln , “Predictions on Lloyd’s and
Reinsurance 1968-1993”
,LLP,1997.
Edward Lloyd 氏の死後も、ロイズコーヒー店は
保険センターとして順調に発展した。しかし、病
気になった人の余命を予測する等の賭博保険が流
・ PR Newswire Association ,“ Appeal Court
行したため、真面目なアンダーライターは店の
Upholds Lloyd’s Debt Collection Judgement”
,
ウェイターの一人であったトーマス・ フィール
1997.
ディングを店主として新ロイズコーヒー店を 1769
・ Howard Lisa S ,“ Agencies assign Lloyd's
年にオープンさせた。このコーヒー店で行われた
‘ A’ rating ; Lloyd's market place Receives
保険取引が現在のロイズに発展した。
first
3
claim-paying
rates ”, Information
Access Company,1997.
南海会社という会社が設立されたが、これを契機
にカリブ海沿岸貿易が英国の船舶に開放されると
・ Jones Rob ,“ First-time rating for Lloyd's
いった投機的な期待感が高まった。この南海株の
of London”,UMI Inc.;ABI/INFORM,1997.
暴騰により株式市場は上げ一色となったが、1720
・ M2 Communications ,“ Lloyd’s J & H Marsh &
年にバブルは破裂した。
Mclennan Agreement to connect Lloyd's to J &
4
H Marsh & Mclennan’s broking system”
,1997.
(篠原成子訳、日本経済新聞社、1995)38 頁。
・ FINANCIAL SERVICES AND MARKETS BILL : A
CONSULTATION DOCUMENT(July 1998)
,1998.
・ Zinkewicz Phil,“Lloyd’s rebounds confronts
5
アダム・ラファエル「ロイズ保険帝国の危機」
1982 年保険会社法第 32 条、第 33 条、第 35 条、
第 84 条。
6
Lloyd’s ,“ Lloyd’s Press Release (LL32/99 )”
further controversy & change ”, UMI Inc. ;
(15 April 1999),1999.
ABI/INFORM,1998.
7
・ Lloyd’s,“Lloyd’s Capacity and Capital Base
1999”,1998.
・Swiss Re,“The Global Reinsurance Market in
the Midst of Consolidation” (Sigma No.9/1998)
,
1998.
・ ABI ,“ Insurance Statistic Yearbook 19871997”,1998.
・ Financial Services Authority ,“ The future
regulation of Lloyd’s”,1998.
・ Adrian Leonard ,“ Another drop in ranks of
Lloyd's Names”
,Journal of Commerce,1999.
・ A.M.BEST,“Insolvency:Will Historic Trends
Return?”(February 1999)
,1999.
・ Lloyd’s,“Lloyd's Global Results 1998”,1999.
シンジケートはネームのグループであり、法的な
主体ではない。
8
1996 会計年度における収入保険料の種目別内訳
は、マリン 18.2%、ノンマリン 56.0%、航空 9.1%、
自 動 車 16.7% と な っ て い る 。 Lloyd’s ,“ Lloyd’s
Press Release(LL39/99)”
(7 May 1999)
,1999.
9
アダム・ラファエル「ロイズ保険帝国の危機」
(篠原成子訳、日本経済新聞社、1995)44 頁他。
なお、ロイズの米国での評判は極めて高かったの
で、ロイズという名の盗用を禁ずる法律を作る州
もあった。
10
Swiss Re, “The Global Reinsurance Market in
the Midst of Consolidation” (Sigma No.9/1998),
1998.
11
一部のネームはワーキングネームと呼ばれ、ロ
イズでアンダーライターやブローカー、エージェ
は競馬の話を別にすれば何か興味あることが討議
ントとして働いている。またネームは伝統的に英
されることはめったになかった。アダム・ラファ
国人男性に限られていた。1968 年に英国人以外に、
エル「ロイズ保険帝国の危機」(篠原成子訳、日本
そして 1969 年に女性の参加を認めた。なお、アン
経済新聞社、1995)54 頁。
ダーライターはロイズのネームでなければならな
19
い。
あるお互いの信頼の関係(最高の誠意: utmost
12
かつては大手のロイズブローカーがマネージン
good faith)を維持することは可能だった。大半
グエージェントの経営を支配していたが、ブロー
の人たちがお互いを知っていた。新しく加わった
カーが引受に圧力をかけるという批判から、1982
市場のプロの中には、古い規律に従って行動する
年ロイズ法により分離された。
用意のない者がいた。アダム・ラファエル「ロイ
13
ズ保険帝国の危機」
(篠原成子訳、日本経済新聞社、
The Economist ,“ A Decaf Coffee-House? ”
th
市場が小さければ、ロイズの基本的な潤滑油で
(February 20 1999)
,1999.
1995)75 頁。
14
この慣行は中世の商人によって利用された「航
なお、20 世紀の初めまではネーム数はわずか数
海会計」に由来する。この方式では、船が港に無
百 に す ぎ な か っ た 。 Robert Kiln,“Predictions
事寄港した後に会計が閉じられた。また無限責任
on Lloyd’s and Reinsurance 1968-1993 ”, LLP ,
を負うネームに、ロイズから脱退する道を確保す
1997.184 頁。
るためという指摘もある。1 年単位で引受を行い、
20
続 く 2 年 間 は ク レ ー ム を 受 け 付 け る 。 The
オフショアへの再保険に出し、税金逃れを行って
Economist ,“ A Decaf Coffee-House? ”( February
いた。この手法が、自らが管理する再保険会社へ
ブローカーやアンダーライターは余分な収益を
th
20 1999)
,1999.
の出再や保険料の流用につながった。アダム・ラ
15
ロイズの地域別総収入保険料は、英国 36%、米国
ファエル「ロイズ保険帝国の危機」
(篠原成子訳、
30%、英国を除く欧州 15%、米国を除く米州 10%、
日本経済新聞社、1995)90 頁。
アジア ・パシフィック 5%、その他 4%で あ る 。
21
アダム・ラファエル「ロイズ保険帝国の危機」
Swiss Re, “The Global Reinsurance Market in
(篠原成子訳、日本経済新聞社、1995)149 頁。
the Midst of Consolidation” (Sigma No.9/1998),
22
1998.
“A Decaf Coffee-House?”(February 20th1999),
16
1999.
伝統的なネームはスコットランドの広大な地主
というような資産家や名家であったが、資力条件
23
少なくとも 1,600 人が破産した。The Economist,
アダム・ラファエル「ロイズ保険帝国の危機」
の引下げで(ミニ・ネームが導入され、条件は 3
(篠原成子訳、日本経済新聞社、1995)281 頁。
万 5 千ドルにまで引下げられた)
、中産階級が多数
24
1982 年ロイズ法第 14 条。
ネームとなった。ネームは従来、自己が居住する
25
Swiss Re,“The Global Reinsurance Market in
居宅を預託金として、あるいは純資産の証拠とし
the Midst of Consolidation” (Sigma No.9/1998),
て用いることができなかったが、銀行の保証によ
1998.
り可能となった。保険リスクに関する知識や資産
26
も乏しいネームはアスベストやハリケーンの支払
が倒産しているが、その内 20 社は大災害の支払に
に耐えることができなかった。
よ る 倒 産 で あ る 。 A.M.BEST, “Insolvency : Will
17
Historic Trends Return?” (February 1999), 1999.
ネームは別のシンジケートあるいは外部の保険
1989 年から 1993 年の間に米国の保険会社 236 社
会社でストップロスの再保険をかけることができ
27
た。しかし、多くのネームは再保険の情報の提供
Market ”, The Geneva Papers on Risk and
を受けていないか、受けていても再保険金額は結
Insurance Vol.24 No.2(April 1999),1999.
果的に不十分であった。
28
18
1 年に 1 度、メンバーズエージェントとの社交を
し 、 ロ イ ズ 、 ILU ( The Institute of London
目的とした昼食会にネームは出席したが、そこで
Underwriters)、LIBC(Lloyd’s Insurance Brokers
A.D.Bain,“Insurance Spirals and the London
ロイズマーケットにおける業務の効率化をめざ
Committee ) の 三 者 が 、 LIMNET ( The London
の多国籍企業。
Insurance Market Electronic Network)を設立し
42
た。この LIMNET は 1995 年に AON 社をはじめとし
(February 20th1999)
,1999.
た 4 大ブローカーによって設立された WIN(World
43
Insurance Network)
、および 1987 年に欧州の再保
CONSULTATION DOCUMENT(July 1998),1998.
険会社 8 社が設立した RINET(The Reinsurance
44
and Insurance Network)を統合し、1999 年 6 月に
ら、リスクの監視、保険料信託基金に関するルー
WISE を発足させた。
ルの策定、シンジケート業務の承認・ 監視、マ
29
この拠出金を支払えないネームの救済や訴訟の
ネージングエージェントの運営の監視などが要求
和解金にあてる資金として、ロイズは資産の売却
さ れ る 。 Financial Services Authority ,“ The
およびネームやエージェント、ブローカーからの
future regulation of Lloyd’s”
,1998.
負担金で 32 億ポンドが集められた。週刊東洋経済
45
「ロイズ再建完了、日本に進出」
(東洋経済新報社、
(16 April 1998),1998.
1997)。
46
30
reform Lloyd’s”(3 April 1998),1998.
1799 年 10 月に沈没した英国のフリゲート艦ルー
The Economist ,“ A Decaf Coffee-House? ”
FINANCIAL SERVICES AND MARKETS BILL : A
例えば、ロイズ評議会には金融サービス機構か
Lloyd’s,“Lloyd’s Press Release(LL30/98 )”
Financial Times,“Government blocks move to
ティン号から重さ 80 ポンドのベルが引上げられた。
47
これ以降、船の沈没時にベルが鳴らされたが、現
big shake-up of market ”( 7 January 1998 ),
在では、各種の儀式や船の行方不明が告げられた
1998.
時に鳴らされる。悪いニュースは 1 回、良い
48
ニュースの場合は 2 回鳴らされる。3 度鳴らされた
February 1999),1999.
のは初めてであり、3 度目のベルが新たな時代の始
49
まりを告げている。
(February 20th1999)
,1999.
31
50
格付に関してロイズは、1998 年、1999 年とも、
Financial Times ,“ New Lloyd’s chief plans
Lloyd’s,“Lloyd’s Press Release(LL9/99)”(2
The Economist ,“ A Decaf Coffee-House? ”
Lloyd’s,“Lloyd’s Press Release(LL54/98 )”
1997 年と同水準を維持している。
(14 July 1998),1998.
32
同社での最高評価は AAA である。
51
33
同社での最高評価は A++である。
(22 December 1998)
,1998.
34
Business Insurance,“Lloyd’s get its wish -
52
Lloyd’s,“Lloyd’s Press Release(LL120/98)”
National Underwriter ,“ Multinationals Eye
Market wide ratings”
(6 October 97)
,1997.
Lloyd’s As Captive Home”(15 March 1999)
,1999.
35
53
Lloyd’s,“Lloyd’s Press Release(LL94/98 )”
バミューダの保険会社である Ace 社や XL 社等は
(1 October 1998)
,1998.
ロイズに重要なオペレーションを保有している。
36
ロイズにおいて契約の引受に関連して要する費
特に Ace 社は 1998 年 6 月に参入し、現在ではロイ
用のことで、主なものは、ネーム年会費、中央基
ズにおける最大のキャパシティ提供者で、その約
金への拠出金、メンバーズエージェント・フィー、
10%を支配している。
マネージングエージェント・フィーなどである。
54
37
Wrapping up Risk”(3 March 1999),1999.
Lloyd’s,“Lloyd’s Press Release(LL39/99 )”
Post Magazine,“Alternative Risk Transfer;
(7 May 1999)
,1999.
55
38
February 1999),1999.
1994 年以来、1,734 人の個人ネームが無限責任
Lloyd’s,“Lloyd’s Press Release(LL9/99)”(2
から有限責任へ転換している。
56
39
有限責任の個人ネームのキャパシティは、7 億
ことによって、顧客にとって理解しやすく、かつ
3,200 万ポンド(キャパシティ総額の 7%)である。
大量販売が可能な保険商品を保険会社が提供する
40
動きをさす。細田道隆・望月晃・江頭達政「自由
Lloyd’s,“Lloyd’s Press Release(LL121/98)”
商品内容や料率体系を極力簡略化・単純化する
(30 December 1998)
,1998.
化後の欧州損害保険市場における個人物件ディス
41
トリビューションの動向」(安田総研クォータリー
英国、ブレントフォードに本社を置く製薬関係
Vol.30、1999)
、40 頁。
適切な取引遂行のための管理体制を整備しておく
57
ロイズマーケットの現在のコストは、キャパシ
ことを求めている。マネージングエージェントは、
ティ総額の 2.45%に上っている。ロイズは、これを
彼らが取引するブローカーは信用できる会社であ
2003 年までに 0.5%に引下げることを目標にしてい
るということを対外的に十分説明できなければな
る。
らない。
58
64
59
1999 年の水準はキャパシティの 1%である。
但し、Davison 会長は、当面は保険市場への浸透
National Underwriter ,“ Lloyd’s Pushing To
は限られるであろうと考えている。彼は、ロイズ
Streamline, Cut Costs To Increase London’s
ブローカーは複雑なロイズマーケットに精通して
Global Competitiveness”
(12 July 1999)
,1999.
いるので、「ベストの結果は、ロイズブローカーを
60
利用することによって得られる」と主張している。
Financial Times ,“ The bell tolls once
more”(27 may 1999)
,1999.
また、4 つのロイズシンジケートを管理する
61
Kiln の David Gilchrist 会長も、今回の改革案を
Robert Kiln ,“ Predictions on Lloyd’s and
Reinsurance 1968-1993”
,LLP,1997.188 頁。
支持しているが、今回の改革は劇的な衝撃を与え
62
ることはないであろうと強調している。「アンダー
Lloyd’s,“Lloyd’s Press Release(LL76/99 )”
(12 October 1999)
,1999.
ライターと取引する仲介者数の大幅な増加はすぐ
63
但し、マネージングエージェントは当該ブロー
には生じない。我々は今ただちに、水門を開ける
カーの信用確保に責任を持ち、当該ブローカーと
つもりはない。我々は数多くのロイズブローカー
の取引について市場の評判を貶めることのないよ
と永続的な取引関係を築いてきたから」と述べて
うにする責務を負う。ロイズは全てのマネージン
い る 。 Post Magazine ,“ The way forward ”( 12
グエージェントに対し、新たにブローカーとの取
August 1999)
,1999.
引を開始する場合には、事前に十分な注意を払い