194 秋号 - 北海道建築指導センター

通巻 第194号 V O L.45 N O.3
OCTOBER 2015
194 秋号
北海道の住まいづくりをめざして
一般財団法人 北海道建築指導センター
写真撮影:株式会社エスエス
一般財団法人
北海道建築指導センター
10月、11月の住宅講座のご案内
開催日時
10月9日㈮
14時~16時
11月27日㈮
14時~16時
場
所
テーマ
藤田観光ワシントンホテル 「屋根、外壁、断熱のリフォーム」
―計画的な点検・手入れで
旭川 2階ラベンダー
(旭川市宮下通7丁目)
省エネ長持ちの家―
「リフォーム工事費の目安を知って、
賢い選択」
―屋根・外壁・キッチン・浴室・
トイレなどの工事費は?―
かでる2.7
5階 520研修室
(札幌市中央区北2条西7丁目)
「旭川・帯広地域」業務区域拡大
講 師
建築確認申請手数料
延長!!
28年3月まで 割引キャンペーン
西代 明子氏
一級建築士事務所
西代企画設計・代表
(札幌市)
山本 明恵氏
恵和建築設計事務所・
代表
(札幌市)
問い合わせ・申し込み先
(一財)
北海道建築指導センター 企画総務部企画総務課
TEL 011-241-1893 FAX 011-232-2870
詳しくは、北海道建築指導センターのHPをご覧ください。http://www.hokkaido-ksc.or.jp/
会員765社
(9/15現在)「センター倶楽部ほっかいどう」
入会のご案内
4
センター倶楽部とは
センター倶楽部は、会員の皆さまとともに道内において質の高い住宅の供給を促進
する団体です。会費や入会金は一切いただきません。
● 会員の要件
・会の趣旨に賛同する方
・道内に事業所又は道内で事業を行う住宅関連事業者
● 会員の特典
・住宅建築に関する各種情報提供
・研修会、セミナー等への参加
・
「センター倶楽部ほっかいどう認定住宅」は、まもりすまい保険の団体向け保険料が
適用になります。
センターリポート編集委員名簿(敬称略)
● 認定住宅の要件
・まもりすまいの届出事業者
・住宅保証機構の「設計施工基準」への適合
・当会の品質管理基準に適合すること
(木造住宅の場合は、通気構法及び基礎の高さ400㎜以上)
◎入会を希望する方は、
「入会申込書」にご記入いただき、下記事務局に提出してください。
◎詳しくは、北海道建築指導センターのホームページをご覧ください。
森
谷口
谷
松田
早川
竹田
田村
清水
センター倶楽部ほっかいどう事務局(北海道建築指導センター内)
TEL:011-241-1893 FAX:011-232-2870 http://www.hokkaido-ksc.or.jp
傑
尚弘
吉雄
眞人
陽子
公典
北海道大学大学院工学研究院 教授
北海道科学大学工学部建築学科 教授
北海学園大学 名誉教授
(一社)北海道建築士事務所協会 理事・広報委員長
(一社)北海道建築士会 情報委員会副委員長
札幌市都市局市街地整備部住宅課
住宅企画係長
佳愛 北海道建設部住宅局建築指導課
建築企画グループ主査
浩史 (地独)北海道立総合研究機構(北方建築総合研究所)
建築研究本部企画調整部 企画課長
小林 幹夫 (一財)北海道建築指導センター
同
堀田 陽子
同
田中 雅美
センターリポート
Vol.45 No.3 秋号
平成27年10月1日発行
発行人
通巻194号
小林 幹夫
発行 一般財団法人 北海道建築指導センター
〒060-0003 札幌市中央区北3条西3丁目1番地
札幌北三条ビル 8階
TEL(011)241-1893
FAX(011)232-2870
印刷 ㈱アイワード
今月のことば
も く じ
「25年後のまち」
2
第194号(2015.10 秋号)
センターゼミナール Part1
堤
拓哉
大雪時における
人類の誕生が700万年前、氷河期が終
老朽建築物の安全対策に関する調査研究
わったのが1万年前、縄文時代が5000年
前、こう述べても時間のスケール感がピ
6
センターゼミナール Part2
瀬戸口
剛
風雪シミュレーションによる
ンとこないのが実情ではないだろうか。
稚内駅再開発ビル「キタカラ」の都市デザイン
では25年というスパンはどうだろう。
昨年、いわゆる増田レポートが公表さ
10
生き意気まちづくり
神長
敬
歴史的地域資産とまちづくり
れた。
「全国896の自治体が消滅」の衝撃
的な見出しで始まるレポートは、実は中
14
身の方がさらに衝撃的である。
建築物
水越
英一郎/海藤
裕司
インフラストラクチャーとしての建築
「北海道ガス札幌東ビル技術開発・研修センター」
少子高齢化社会といわれて久しいが、
忍び寄る少子化の危機感はこれまで、も
20
う一つ伝わらなかった。
海外訪問記
石井
旭
北海道の農村における地域連携のあり方を探る
ドイツ地方都市を参考に
増田レポートの最大の特徴は、出産適
齢期の20~39歳の女性の人口減少に着目
26
した点である。
「このような若年女性が
行政報告
建築基準法・建築士法の改正について
北海道建設部住宅局建築指導課建築基準グループ
25年後に半減してしまうまち」を想像願
いたい。
28
北海道においては145もの市町村で若
北の近代建築散歩
小野寺
一彦
おびひろの古民家「旧齋藤邸」
年女性が半減し、なんと86%も減ってし
30
まうまちがあると予測されている。
建築の一村一品
浦野
宏美
地域にひろがる新しい学び舎
かつて会社とは拡大再生産するものと
「江差町立江差中学校」の改築工事
習ったが、
多くのまちが縮小再生産する。
アートな視点






































下村
昨年、ある講演で「人口減少でパイが
憲一…19
とき・まち・ひと/コラージュ




















(
YO)…25
減り大変だと言うが、住宅産業にとって
北総研 NOW 
























































32
北の住まいだより


















































33
は今後、最大取得層である30代が大きく
減少することこそが問題」という話を聞
いた。
このような厳しい状況が予想される
中、中小工務店においては、経営が不安
定になるとともに、新技術の取得や省エ
ネ等の法改正、複雑な補助制度への対応
もままならなくなることが予想される。
〈表紙の写真〉
「北海道ガス札幌東ビル技術開発・
研修センター」
今後の住宅産業の生き残り戦略におい
札幌市内に分散していた北海道ガスの技術開発研究所、技
ては、
「工務店一人で悩まない」ことが重
術研修センター(現、人材開発センター)、メンテナンス関
連部門、保安関連部門等を1カ所に集約することで、部門間
要である。現在、各地で芽生えている住
の横断的な連携を促進し、北海道ガス全体の知的生産性を
宅団体(集団)および、そのネットワー
クの果たす役割に注目したい。
高めることを目的に建設。「インフラストラクチャーとし
ての建築」を基本テーマに設計されている。詳細は14ペー
(H)
ジ参照。
―1―
Part
1
大雪時における
老朽建築物の安全対策に関する調査研究
堤
拓哉
地方行政法人北海道立総合研究機構建築研究本部
北方建築総合研究所環境グループ・主査(都市環境)
1.研究の背景と目的
(棟)
500 基データ:北海道防災消防課
北海道は平成23、24年度と二冬続けて大雪
473
400
に見舞われ、多数の人的被害と建物被害が生
300
棟数
じました(図1-1)
。建物被害では非住家被害
が平成23年度は75%(353/473棟)
、平成24年
235
200
125
度は79%(186/235棟)に及びました。
100
非住家被害では農業施設のほか、空き家の
0
被害が多い状況にあります(図1-2)
。また、
H17
0
3
1
H18
H19
H20
年度
23
13
H21
H22
H23
H24
図1-1 道内における雪による建物被害の状況
公共施設被害では、老朽化した体育館など鉄
骨造被害が多く見られました。北海道の空き
(棟)
40
家数は年々増加しており(図1-3)
、今後も過
疎化や人口減少により、空き家や廃校などの
基データ:北海道防災消防課
※建物属性不明は除く
34
35
30
老朽建築物の大雪による被害が続くことが懸
棟数
25
念されます。
20
15
このような背景から当研究所では、平成
10
15
11
10
9
倉庫
車庫・物置
5
24~25年度に北海道建設部建築指導課からの
0
受託研究として、老朽建築物の大雪に対する
公共施設
農業施設
空き家
図1-2 非住家被害の建物属性(H24)
安全対策の検討に必要な基礎資料の整備を目
的に調査研究を行いました。本稿では、その
(万戸)
50 基データ:総務省、住宅土地統計調査
概要を紹介します。
11%
40
空き家数
2.空き家等木造老朽家屋を対象に検討
⟹
1 空き家の大雪による被害
上川、空知、後志、石狩管内において、空
30
9%
22
20
11%
10%
27
23
14%
(%)
15
37
12
12%
30
9
6
17
10
き家の雪による被害調査を行いました。一部
0
損壊に相当する被害では、軒折れや軒の変形
の被害例が多く(写真2-1)
、煙突やアンテナ
3
S58
S63
H5
年度
H10
H15
H20
図1-3 北海道の空き家数および空き家率
の損壊なども見られました。
半壊に相当する被害では、小屋組み損傷に
まで至る例がありました。このほか空き家か
ら沿道への落雪も確認されました
(写真2-2)
。
被害状況を整理した結果、雪荷重に対して
弱い部位である軒付近で最初の破壊が起き、
⒜軒折れ
軒の損傷が進行すると小屋組みの破壊につな
写真2-1
―2―
⒝軒の変形
空き家の雪による被害事例
0
空き家率
Center Seminar
センターゼミナール 166
⒜小屋組みの損傷
写真2-2
⒝空き家からの落雪
⒜積雪前
空き家の雪による被害事例
⒝積雪後
写真2-3
調査を行った空き家 A
がり、やがて柱、壁等が損傷し、全壊に至る
と考えられます。このような倒壊までのプロ
セスは、まれな大雪により一気に全壊まで至
るケースや、長年放置された状態の空き家が
複数年をまたいで徐々に破壊が進行していく
ケースがあると考えられます。
⒜積雪初期
写真2-4
⟹
2 空き家を対象とした実測
古い家屋など一般に断熱性能が低い建物に
⒝積雪後
調査を行った空き家 B
日降雪量
4.0
120
3.0
80
2.0
が雪下ろしなどを行わない限り、居住時以上
雪下ろし
2013/1/6
2012/12/30
2012/12/23
2012/12/16
根雪と変形の実測調査を下川町で行いまし
2012/12/9
本研究では、実際の空き家を対象とした屋
2012/12/2
0
恐れがあります。
2012/11/25
の雪荷重が長期間にわたり繰り返し作用する
2012/11/18
40
1.0
2013/2/3
に伴う熱による融雪は無く、空き家の所有者
2013/1/27
しかしながら、空き家では暖房などの生活
変位
160
降雪量・積雪深
方向に働きます。
(mm)
5.0
2013/1/20
屋根上の雪が溶けるため、雪荷重が低減する
変位
2013/1/13
おいて暖房を行うと、室内側からの熱により
積雪深
(cm)
200
0.0
図2-1 空き家 A における測定結果
た。写真2-3、写真2-4に調査を行った空き家
日降雪量
160
40.0
120
30.0
下ろし)が行われ、雪荷重による変位が弾性
10.0
2013/1/30
2013/1/23
空き家となっても所有者の適正な管理(雪
2013/1/16
0
2013/1/9
著しい劣化がみられる空き家 B では、雪下ろ
雪下ろし
2012/12/26
40
2012/11/28
いますが、長年空き家状態が続き、目視でも
し後も変位が残留しています。
20.0
80
2012/12/19
き家 A では、雪下ろし後に変位が減少して
2012/12/12
降雪量・積雪深
き家の年数が短く、構造体も比較的健全な空
変位
(mm)
50.0
いずれの空き家でも、積雪深の増加に伴い
横架材の変位(たわみ)が増しています。空
変位
(cm)
200
2012/12/5
みの推移を例示します。
積雪深
2013/1/2
と、図2-1、図2-2に横架材の鉛直方向のたわ
0.0
図2-2 空き家 B における測定結果
範囲内であれば、健全な状態が維持されます
が、十分な管理が行われず構造体に損傷や劣
り、破壊や変形が徐々に進行していくことが
化がある場合は、雪荷重による残留変位が残
実測からも明らかになりました。
―3―
図2-3 空き家の雪に対する危険度調査シート(目視による外観調査案)
⟹
3 雪に対する危険度調査シートの検討
空き家の発生・確認
平成25年度時点では、空き家の危険度を評
「危険度評価」
(現況危険度)
価する判断基準やチェックシートが整備され
【危険】と判定
危険ではないと判定
「小屋組み耐雪診断」
(将来的危険度)
ていない状況でした。本研究では、前述の調
所有者への情報提供・助言
査結果を踏まえ、空き家の雪に対する危険度
放置の場合
。
調査シートを検討しました(図2-3)
所有者の適切な管理・是正
適切な管理
調査シートでは、最初に周辺に対する危険
END
ストック活用へ
度(倒壊・落雪)を評価し、次に倒壊および
中古住宅として評価
所有者への
指導・勧告
是正され
ない場合
是正された場合
END
自主的解決
行政的措置
・詳細調査
・除却等
END
行政的解決
※詳細調査は、
内部調査を含めた専門家による診断
図2-4 空き家の危険度評価のフロー(案)
落雪する状況にあるかなど緊急性を評価しま
す。緊急性が無い状況であれば、空き家の損
傷程度および柱・壁の傾斜を把握します。
年々悪くなることから、危険度評価を継続的
損傷程度の評価では、雪荷重による被害は
に行う必要があると考えます。
主に軒部分から始まり小屋組みへ被害が伝搬
3.老朽鉄骨造建築物を対象とした検討
する傾向にあることから、定期的な調査によ
⟹
1 老朽鉄骨造建築物の被害状況
り被害が進行しているかを評価します。傾斜
については、傾斜の進行度合いを経年的に評
平成24年の冬に道内で発生した主な大スパ
価することができるような構成になっていま
ン鉄骨造建築物の被害例を表3-1に示します。
す。
用途は体育館などで、いずれも竣工後40年程
図2-4に空き家の危険度評価を行う際の実
度経過しており、一施設を除き冬期は使用さ
施フローを例示します。空き家の損傷は毎年
れておらず、雪下ろしもされていない状況で
の積雪により経年的に被害が進行し、状況も
した。
―4―
(kN/m2)
3.5
表3-1 大雪による大スパン鉄骨造の被害事例
場所
建物用途
竣工年
2012.2.13
A市
体育館
1966
2012.2.15
B市
体育館
1976
2012.2.23
C市
美術館
1970
2012.2.24
D市
体育館
1963
2012.2.27
E町
プール
1973
3.0
屋根上積雪重量
被害発生日
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
2011/11/1
2011/12/1
2011/12/31
無暖房
2012/1/30
2012/2/29
2/13被害発生
15℃間欠暖房
図3-2 屋根上積雪重量の解析結果
17m
A
5.7m
B
拡大部
バネ設定位置
写真3-1
2L-100×100×7
A 市における被害例
ヒンジ
L-100×100×7
非線形バネ
2L-100×100×7
図3-3 A 市体育館を対象とした構造解析
⟹
4 部材等の損傷影響に関する構造解析
部材の劣化や接合部の損傷が耐雪性能に及
ぼす影響を解析的に検討しました。 A 市の
図3-1 S48と H12との垂直積雪量の比較(増加量)
被害例を対象にした構造解析では(図3-3)
、
⟹
2 雪荷重算定用の垂直積雪量の調査
溶接部(図中のバネ設定位置)が降伏した状
雪荷重を算定する際に用いる垂直積雪量の
態になると、許容される積雪重量は0.8倍程
昭和48年規定値と平成12年規定値との比較
度まで減少するなど、接合部の損傷が耐雪性
(増加量)を図3-1に示します。写真3-1に示
能に大きく影響することがわかりました。
す大スパン鉄骨造建築物の所在地(A 市)に
老朽鉄骨造建築物では、
⑴~⑷の検討から、
お け る 垂 直 積 雪 量 は、昭 和 48 年 規 定 値 で
暖房の有無が作用する屋根雪荷重に大きく影
100㎝、平成12年規定値で130㎝となっていま
響すること、部材等に損傷や劣化があると全
す。倒壊時の地上積雪深は111㎝で、昭和48
体の耐力低下につながるため、過大な屋根雪
年規定値と比べても大きな違いはない状況で
荷重が作用しなくとも倒壊する恐れがあるこ
した。
とが明らかになり、使用状況や定期点検等に
⟹
3 暖房が屋根雪荷重に及ぼす影響
よる部材や接合部の確認が重要と考えます。
被害時の積雪重量と暖房が屋根雪に及ぼす
4.まとめ
影響を明らかにするため、数値モデルを用い
た解析を行いました。A 市(写真3-1)の被
本稿では、老朽建築物の大雪による被害に
害を対象とした解析結果では(図3-2)
、被害
関する調査研究を紹介しました。空き家対策
時の積雪重量は2.7kN/㎡となり、過大な積雪
に関しては、国のガイドラインが示されたこ
重量が作用した状況ではないこと。仮に15℃
とにより、自治体の取り組みも本格化するた
で間欠暖房した場合は0.9kN/㎡まで積雪重
め、関係機関と連携しながら必要な検討と支
量が減少することがわかりました。
援を行っていきたいと考えています。
―5―
Center Seminar
Part
2
センターゼミナール
風雪シミュレーションによる
稚内駅再開発ビル『キタカラ』の都市デザイン
瀬戸口
剛
北海道大学大学院工学研究院
建築都市空間デザイン部門・教授
1.はじめに
2.風雪の影響を低減する都市デザイン
人口4万人に満たない小都市の稚内市が、街な
日本の最北端にある稚内市は、冬季の気候が厳
かの拠点ともなる先進的な再開発事業を、稚内駅
しい地域である。日本海とオホーツク海に挟まれ
を中心に実現した。再開発事業の内容は、JR 稚
ており、年間の日照日数は100日に満たず、冬季は
内駅舎、バスターミナル、サービス付き高齢者向
吹雪の日が120日間にもおよぶ。これらの厳しい
け住宅、グループホーム、地域交流センター、映
気象条件を考慮しなければ、快適な都市空間のデ
画館、飲食・物販施設、コンビニエンスストア、
ザインは示せない。
事務所、道の駅と、多岐にわたる。冬季の気候が
そこで稚内駅前地区再開発では、一般市民のみ
厳しい稚内市において、一年を通して市民の集ま
ならず、公共交通機関を利用する高齢者や子供な
る駅および施設『キタカラ』となり、年間約80万
どの交通弱者、土地に不慣れな観光客などが、そ
人(2014年)が訪れている。
れぞれの施設に容易にアクセスできるユニバーサ
『キタカラ』の計画にあたっては、風洞実験によ
ルなデザインを進めている。
る風雪シミュレーションを行い、建築物の形態や
稚内市は冬季の風雪が強く、稚内駅前地区再開
構成を決めた。先進的な研究と事業が連動して成
発を進めるうえで、風雪の影響を受けにくい施設
果を上げたことが評価され、文部科学大臣賞およ
配置の検討が欠かせない。稚内駅前地区再開発事
び日本建築学会賞を頂いた。
業区域を対象に風雪シミュレーションを行い、冬
また、再開発事業自体も先進的な点が評価され
季に風雪の影響を受けにくい望ましい施設配置の
て、日本都市計画学会賞計画設計賞を関係者とと
検討を北海道大学瀬戸口研究室を中心に行った。
完成した稚内駅と再開発ビル『キタカラ』の施
もに頂いた。
本稿では、日本最北端の駅で成功した稚内駅前
設配置は、風雪シミュレーションにより導き出さ
地区再開発事業において、風雪シミュレーション
れている。評価結果はデザインガイドラインとし
を用いて稚内駅再開発ビル『キタカラ』の形態を
てもまとめられ、再開発施設計画の前提条件とな
決めたデザインプロセスを概説する。
り、地区計画の方針として活用された。検討事項
は、以下の3点である。
写真1
稚内駅再開発ビル『キタカラ』
―6―
①風洞実験による稚内駅再開発ビルの配置パター
⑥駅前広場や歩行者動線と連携して駐車場を整備
ンの決定(北海道大学瀬戸口研究室+(地独)北
した。駅前広場や都市軸となる歩行者動線に隣
海道立総合研究機構北方建築総合研究所によ
接して、必要な駐車場を確保した。
⑦稚内駅再開発ビルに「道の駅」を併設した。
る)。
②風洞実験による施設シミュレーションの評価と
4.
『キタカラ』の風雪シミュレーション
対応策-稚内駅前地区再開発のためのデザイン
稚内駅前地区再開発事業では、冬季においても
ガイドラインづくり。
③関連事業者や市民との協議-稚内駅前地区再開
安全な屋外空間や歩行空間を確保するために、さ
発の関連事業者(北海道開発局、北海道庁、JR
きの7つの計画課題に対応して、以下に示す8つの
北海道、稚内中央商店街など)との協議。
環境評価項目を設定し、風雪シミュレーションに
より検討した。検討は15パターンにもおよんだ。
3.稚内駅前地区再開発事業の計画課題
①「マチ」と「ミナト」をつなぐ歩行環境を良好に
するために、歩行者動線上に過度の吹きだまり
稚内駅前地区再開発事業において、都市計画の
をつくらない。
観点から以下の7つの計画課題を位置づけた。こ
②駅前広場の除排雪がしやすいこと。
れらは風雪シミュレーションの前提条件となる
③冬季においても交通機関相互の乗り換えや交流
(図1)。
施設へのアプローチを容易にする。
①「マチ」と「ミナト」をつなぐ都市軸として豊か
④稚内駅舎北側の「さいはて広場」に過度の吹き
な歩行者動線を確保する。従前は、両地区は稚
だまりをつくらない。
内駅と JR 線で分断されていた。
⑤稚内駅構内での吹きだまりを低減する。
②稚内駅を中心として「複合交通ターミナル」
(稚
内駅舎、駅前広場、交流施設)を整備した。同
⑥交流施設駐車場での吹きだまりを低減する。
時に稚内駅は日本最北の駅であるため頭端駅
⑦都市間バス停車帯付近での吹きだまりを低減する。
⑧国道交差点横断歩道の風雪環境の悪化防止。
(行き止まりの駅)のスタイルとした。
③「複合交通ターミナル」は稚内駅と路線バス、タ
そして、稚内駅前地区再開発事業にあわせて「地
クシー、自家用車を乗降する駅前広場、交流拠
区整備計画」を策定した。デザインガイドライン
点としての交流施設などが一体となった施設と
のみではなく、都市計画の手続きとして風雪シ
した。従前は、稚内駅舎と路線バス乗り場が離
ミュレーションの結果を反映させるため、「地区
れていた。
計画の方針」には風雪を考慮すべき内容を示した。
自然現象を相手に明確な数値を示すことは難し
④駅前広場は交通機能の集約を図るため、拡大に
く、
「地区整備計画」の具体的な数値項目に関し風
より必要規模を確保した。
雪を根拠に示すことはできないが、「地区計画の
⑤稚内駅舎、交流施設、駅前広場、駐車場、歩行
方針」で拠点整備の基本的な考え方を示している。
者空間を連携して整備した。
さいはて広場
計画地
臨港地区へ
歩行者動線
(e)
④さいはて広場での (a)
吹きだまりを低減
新稚内駅舎
計画地
(c)
(e)
⑤JR稚内駅構内での
吹きだまりを低減
③JRとバスの
乗り換え
複合交通ターミナル計画
(b)
(e)
(g)
交流施設
交流施設
①歩行者動線上での 計画地
駐車場
吹きだまりを低減 (c)
(f)
(e)
駅前広場
③交流施設への ⑥交流施設駐車場での
計画地
(c)
(d)
(e)
アプローチ
吹きだまり低減
②駅前広場内
歩行者動線
の除排雪
都市間バス停車帯
⑧国道交差点
の風雪環境
⑦都市間バス停車帯
の風雪環境
中心市街地へ
図1 稚内駅前地区再開発事業の計画課題と対応する風雪シミュレーションの環境評価項目
―7―
映している。
5.稚内駅前地区再開発事業の先進性
積雪を考慮して風雪の風洞実験を行い、都市デ
ザインの形態を導き出す計画設計は、世界的にも
本事業は全国都市再生整備計画のもと、基本理
念を「日ロ友好最先端都市」
(小泉元首相)の形成
例が無い。
に、基本テーマを「マチ」と「ミナト」の連携強
⟹
4 稚内駅の真上にある高齢者住宅
化、にぎわいのある生活街の形成、都市観光によ
稚内駅再開発ビル『キタカラ』の上層階には保
る交流促進の3つに定め、5つの計画コンセプトに
留床を設け、サービス付き高齢者住宅およびグ
基づいて事業を進めた。これらは北国の都市デザ
ループホームとして活用し、街なか居住を実現し
インとして、先駆的な取り組みである。
ている。
⟹
1「マチ」と「ミナト」をつなぐ
北国では冬季の高齢者の外出が制限されるた
港湾都市の稚内市において、中心市街地「マチ」
め、まちの中心地である駅の真上の高齢者住宅は
と臨港地区「ミナト」の連携は極めて重要である。
極めて高いニーズがある。全国的にもめずらしく
地方都市の再開発のモデルとなる。
再開発事業では稚内駅舎を60m 後退させ、両者
をつなぐ動線を確保した。再開発ビル『キタカラ』
⟹
5 多世代および観光客が集う複合交流拠点
を拠点に施設の連携を構築し、中心市街地の再生
再開発事業では、稚内駅、バスターミナル、商
に寄与している。また、市街地における再開発事
業施設、市民交流施設、高齢者住宅、北緑地トイ
業と臨港地区の施設整備を連携させ、両地区で都
レ(公衆トイレ)などの、多機能の施設を複合さ
市・建築デザインを共有し、施設を合築させてい
せている。北国では冬の居場所が求められ、子供
る。その結果、両地区で相互の動線や施設の連携
や高齢者、観光客など様々な人々が訪れ利用して
が図られており、北国に必要なアトリウムを中心
いる。
『キタカラ』内のアトリウムでは、㈱まちづくり
に一体的なデザインが実現している。
稚内が様々なイベントを催し、多くの人を集めて
冬が厳しい北国では、公共公益施設が街なかに
集積することは極めて重要である。
いる。『キタカラ』のアトリウムが冬季の大切な
⟹
2 日本最北端の頭端駅をデザインする
交流空間となっており、中心市街地の活性化にも
寄与し、にぎわいを「マチ」へ連鎖させている。
頭端駅であることにこだわり、稚内駅はホーム
の正面に駅舎を配置し、列車の正面に向かって乗
6.環境評価と融合する科学的都市デザイン
降できるように配置した。さらに改札を出ると、
冬の長い北国では重要なアトリウム空間へと導
稚内駅の再開発に合わせて取り組まれた本研究
き、交流空間を生み出している。また、旧稚内駅
は、従来は分離されていた都市デザインと環境評
構内に敷設されていたレールを使用した車止めモ
価を融合するもので、相互の応答により進められ
ニュメントを交流広場内の旧駅構内と同じ位置に
た(図2)。
設置しており、最北端の駅ならではの人気観光ス
🄐まずは、都市デザインのための計画条件を設定
ポットとなっている。
する。「マチとミナトをつなぐ歩行者動線」が大
全国の JR 路線には頭端駅が約60カ所あるが、
まれ
前提の計画条件となる。この部分が無いと、環境
ホーム正面に乗降させるデザインの駅は極めて稀
評価が自己目的化する。
である。
❞つぎに、計画条件を実現するための風雪シミュ
⟹
3 風洞実験による『キタカラ』の都市デザイン
レーション上の課題「歩行者動線上に雪の吹きだ
稚内市では冬季に吹雪が多く気候が厳しいこと
まりを形成しない」に置き換える。
から、再開発計画の模型を用いて風雪の風洞実験
🄑風雪シミュレーションを行った結果、基本的な
を行った。再開発事業で最も重要となる「マチ」
建築物のボリュームレベルの基本形をいくつか提
と「ミナト」をつなぐ動線上に雪の吹きだまりが
示する。
できにくい、再開発地区の都市・建築デザインを
🄒それらをもとに、建築物の形態を都市デザイン
導き出した。稚内駅舎と再開発ビルの基本計画段
の観点から検討し、2~3案の基本スタディ案に絞
階から、風洞実験を用いることにより、雪の吹き
り込む。
だまりが懸念される場所を特定し、基本計画に反
❟基本スタディ案2~3案に対して、風雪シミュ
―8―
都市デザイン
(稚内駅前地区再開発計画)
(A)
稚内駅前地区再開発計画の
まちづくりの課題
「マチとミナトをつなぐ
歩行者動線」
(B)
風雪シミュレーションより
施設形態の基本形を提示
環境評価
(風雪シミュレーション)
(ア)
風雪シミュレーション
「歩行者動線上に吹きだま
りを形成しない」
(C)
基本スタディ案を検討
(イ)
基本スタディ案の
風雪シミュレーション
(D)基本スタディ案の絞り込み
(E)
基本スタディ案
図2 都市デザインと風雪シミュレーションの応答
写真3
雪の吹きだまりを把握する風洞実験
レーションを行い、それぞれに対する環境評価を
先に設定した課題に基づいて行う。
🄓、🄔その結果を受けて、基本スタディ案を最適
な案に絞り込む。
実際の設計活動と並行して風雪シミュレーショ
ンを行うことで、結果を設計に反映することがで
きる。そのため、対処療法的に防雪柵を設ける、
植樹をするなどではなく、根本的に建築物の形態
から決定することができる。
本研究は、風雪シミュレーションを都市デザイ
ンに応答的に対応させ、稚内駅の再開発事業に実
写真4
稚内駅アトリウムから列車の正面を見る
際に反映させていることが大きな特徴である。
数々頂いた賞も、そのことが評価されての受賞と
②北海道大学として地域の気候や風土に基づき、
雪や寒さを対象とする。
理解している。
7.おわりに
③上記の2つを合わせると、世界でオンリーワン
の研究となる。
大学人として常に意識していることがある。
風雪シミュレーションを用いた都市デザイン研
①先端的な研究を目指し、科学的にアプローチす
究は、本研究が世界で唯一である。受賞に際して、
る。従来の前時代的な手法から、科学的な都市
デザインを目指す。
写真2
日本最北の稚内駅のデザインとモニュメント
(写真1、写真2:Ⓒ稚内駅前地区市街地再開発組合 撮影:佐藤雅英)
関係各位にお礼申し上げる。
〈関係受賞〉
文部科学大臣表彰科学技術賞(2015年度)
「積雪寒冷都市において風雪の影響を低減する都市デザイ
ンシミュレーション手法の研究」
瀬戸口剛(北海道大学)
日本建築学会賞(論文)
(2014年度)
「積雪寒冷都市において風雪の影響を低減する都市デザイ
ンシミュレーション手法の研究」
瀬戸口剛(北海道大学)
日本都市計画学会賞計画設計賞(2014年度)
「稚内駅前地区再開発事業「キタカラ」-北国の都市デザ
イン-」
瀬戸口剛(北海道大学)
、相澤誠吾(稚内駅前地区市街地
、工藤広(北海道稚内市長)
、島田修(北
再開発組合理事長)
海道旅客鉄道株式会社代表取締役社長)
、菅野彰一(株式
会社北海道日建設計代表取締役会長)
、加納美佐恵(株式
会社北海道日建設計設計室主管)
―9―
生き意気まちづくり
歴史的地域資産とまちづくり
神長
敬
NPO 法人歴史的地域資産研究機構・理事
を与え、人と人をつなぎ、地域力が育まれる
1.歴史的地域資産保存活用の制度設計
拠点となっています。
⟹
3 北海道ヘリテージ・マネジメント専門職育
⟹
1 北海道の歴史的地域資産の現状
成講座の制度設計
北海道における歴史的地域資産や文化遺産
を取り巻く状況は「北海道は歴史が浅いから
2011年、北海道の歴史的地域資産の現状を
保存するような重要な物が無い」
、
「そもそも
憂いた3者が集まりました。㈳北海道建築士
文化遺産が少ない」
、
「保存改修に費用がかか
会、北海道文化財保護協会、NPO 法人歴史的
りすぎる」と、保存や活用に関する取り組み
地域資産研究機構の3者は、角幸博・北海道大
に対して極めて消極的な状況にあります。
学名誉教授を実行委員長とした北海道文化遺
これまで積雪寒冷地において培われてきた
産活用活性化実行委員会を設立。北海道ヘリ
建造物や土木構造物の技術、伝統芸能などの
テージ・マネジメント専門職育成のための制
くらし文化、北海道特有の景観など、歴史的
度設計を行い、2014年度から文化庁の「文化
地域資産の消失や関連する資料の散逸が急速
遺産を活かした地域活性化事業」の交付決定
に進んでおり、建築技術や文化資産の継承が
を受け、活動を本格的に開始しました。
困難な状況となっています。
ヘリテージ・マネージャーは、歴史的建造
⟹
2 復興のよりどころとなる歴史的地域資産
物の保全活用にかかわる専門家として、建築
いま、見直されるべきは、文化遺産や歴史
士会が中心となり、兵庫県や愛知県など、全
的地域資産が有する可能性ではないでしょう
国28の府県で実施されています。
か。なぜなら、東日本大震災では、多くの命
北海道においては、他の地域と比べ、広範
とともに、記憶や歴史の痕跡も流されました
な大地に歴史的地域資産が点在している現状
が、奇跡的に残った神社や古墳、歴史的建築
を踏まえ、ヘリテージ・アドバイザーを頂点
物などの地域資産が復興のよりどころとなっ
として、ヘリテージ・マネージャー、ヘリテー
ているからです。
ジ・コーディネーターと裾野の広い専門家の
陸前高田市の高台にある諏訪神社には、津
育成を目指した構成としていることが他の地
波から逃れた地域住民、約80名が避難して一
北海道ヘリテージ
マネジメント・アソシエーション
夜を明かし、その後は崩壊した参道の石段を
住民が再生するなどし、いまでも地域に親し
まれています。地域の歴史的資産は生きる力
ヘリテージ・アドバイザー
ヘリテージ・マネージャー
ヘリテージ・コーディネーター
北海道ヘリテージ・マネジメントの考え方
諏訪神社/陸前高田市
―10―
域と異なる大きな特徴となっています。
また、
それらをネットワークさせるために、
北海道ヘリテージ・マネジメント・アソシエー
ション(仮称)の創設も目指しています。
◎ヘリテージ・アドバイザーは、ヘリテージ・
マネージャーやヘリテージ・コーディネー
ターの養成を行う講師陣や専門家で、事務局
が任命します。また、様々な案件のアドバイ
ヘリテージ・マネジメント専門職第1期生
ザーとして、ヘリテージ・マネージャーやヘ
リテージ・コーディネーターの相談を受けた
をいまのうちから見いだしていくことを使命
際に指導する役割も担います。
として付け加え、次の7つを掲げています。
◎ヘリテージ・マネージャーは、各地域の担
①地域に埋もれている文化遺産や歴史的地域
当として、歴史的建造物や文化遺産、歴史的
資産の発掘
地域資産の修復技術や活用方法、歴史的地域
②保存活用への道筋をつける手段としての登
資産を活かしたまちづくりなどの相談に応じ
録文化財の推進
る専門家として、それぞれの地域で活躍する
③文化遺産、歴史的地域資産の所有者へ助言
役割りを担います。専門職育成講座では、登
④文化遺産、歴史的地域資産の保存活用の企
録有形文化財を目指す際の評価書作成のスキ
画立案による地域の活性化
(60時間受講)
ルなども学んでいきます。
⑤災害時非常時における被災物件の調査、復
◎ヘリテージ・コーディネーターは、保存活
旧のための技術指導および助言等
用に向けた取り組みをアドバイザーやマネー
⑥専門家や地域、都道府県、関連業種等との
ジャーと連携して地域に広めていく地域サ
ネットワークの構築
ポーター的な人材としています。
(30時間受講)
⑦伝統的な技術の継承や地域固有の文化を視
広範な大地に点在する歴史的地域資産を一
野に入れた取組み等さらなる技術の向上
2014年度はヘリテージ・マネージャー28名、
つでも多く後世に残し保存活用していくため
に、できるだけ多くの人に関心を持ちかか
ヘリテージ・コーディネーター7名が第1期生
わってもらえるような制度設計としていま
として誕生しました。2015年度も定員を上
す。受講資格も他府県では建築士に限定して
回って講座がスタートしています。
いますが、ヘリテージ・マネージャーは建築
2.れきまち・ひろばの取り組み
士に加え、技術士や建築施工管理技士、土木
⟹
1 関係者や関心のある人をつなぐ
施工管理技士、学芸員も受講できるようにし
ています。ヘリテージ・コーディネーターは、
私たち特定非営利活動法人歴史的地域資産
前述の資格のほか、文化財やまちづくりを担
研究機構(略称:れきけん)は、歴史的地域
当している行政職員や一般の市町村民も受講
資産の保存活用を進めるためには、所有者や
できるようにしています。
地域に住む人が大切にしたいという「強い思
⟹
4 北海道ヘリテージ・マネジメント専門職が
い」を育んでいくことが最も重要と考えてい
目指すもの
ます。
北海道ヘリテージ・マネジメント専門職が
そのためには、建物を「なおす人」や新た
目指すこととして重要なのは、歴史的地域資
な「価値をみつける人」
、それらを大切に使い
産の保存活用です。そこに、これから時間の
ながら「育む人」
、保存活用を温かく「見守る
経過とともに価値が増すであろう、将来資産
人」など、専門家のネットワークや地域の人
―11―
れきまち・ひろば
みつける人
育む人
地域が元気になる
地元が好きになる
人と人がつながる
なおす人
見守る人
人と地域がつながる
豊かな社会になる
「れきまち・ひろば」の効果
れきけん活用ガイド
●ネットワーク先2:北海道ヘリテージ・マ
たち同士のつながりなど、たくさんの人の関
ネージャーおよびヘリテージ・コーディ
わりと力を借りる関係づくりが必要です。
ネーター
私たちは「れきまち・ひろば」を関係づく
りのラウンドテーブルと位置づけ、歴史的地
前述したヘリテージ・マネージャーとヘリ
域資産に関わる人たちのネットワーク化に取
テージ・コーディネーターが全道で誕生して
り組んでいます。
います。それぞれの地域で歴史的地域資産の
●ラウンドテーブル:れきまち・ひろば
価値評価や保存活用についてアドバイスして
北海道の歴史的地域資産の保存活用に関わ
くれる専門職として連携を図っています。
●ネットワーク先3:各地域の活動団体
る活動団体や専門家、学識者や NPO 法人、
個人などをつなぐフォーラムを「れきまち・
道内には歴史的地域資産の保存活用に関わ
ひろば」として開催しています。情報交換や
る NPO などの活動団体がいくつかありま
交流、協力関係を築く場として、1年に数回、
す。活動内容の相談や活用の進め方の先例と
不定期で開催しています。
して参考になります。これから何かをはじめ
たいときに大いに役立つことでしょう。
⟹
2 歴史的地域資産の価値を知る
歴史的地域資産は、建物そのものの建築年
代が古く、建築様式などにその時代の特徴が
あること、また建物だけではなく、地域固有
のくらしや文化を物語っているもの、または
事柄や樹木、土木構造物など幅広いものが対
象となっています。当法人では、歴史的地域
資産の価値を以下の6つの視点から読み取る
2015年2月に札幌市中央区の地下歩行空間で開催した
3回目の「れきまち・ひろば」。通りすがりの市民も立
ち止まって耳を傾けた
ことができるよう、
「れきけん活用ガイド」と
してまとめ、みなさん自身で価値評価できる
ようにしました。
●価値の視点1:歴史的価値
●ネットワーク先1:建築ヘリテージサロン
建築ヘリテージサロンは、建築施工に関わ
歴史的地域資産は、北海道の歴史の中にお
る建設会社や工務店、レンガ工、石工、瓦工、
いて様々な価値をもっています。その価値
塗装工、左官工など、あらゆる建築技能を有
は、建築物であれば、建設年代(築50年以上)
する職人の専門家集団で、当 NPO の連携団
が古いことによって生じる歴史的価値を基本
体として道内の歴史的建造物等の補修や改修
とします。また特別な由緒・由来があり、特
などの相談に対応する体制を整えています。
徴的な工法や材料が用いられている、著名な
―12―
ニッカウヰスキー北海道工場/余市町(登録有形文化財)
旧小熊邸/札幌市(札幌景観資産)
設計者や施工者、職人の関わりがあることな
は、地域の景観や環境の維持に極めて重要な
ども評価の基準となります。
役割を果たしているといえます。
●価値の視点2:地域的価値
●価値の視点5:活用価値
北海道は先住民族のアイヌ民族および開拓
歴史的地域資産がまちや地域のイメージを
の歴史を基礎とし、市街地を中心に農業、林
高めるものとなっており、
文化・コミュニティ
業、鉱業、酪農業、漁業などが発展してきまし
施設や飲食施設として活用されたり、商品開
た。そのため、地域の基幹産業の歴史を伝え
発などの経済活動に利用されているなど、地
る建物が住宅を含め多く見られます。沿岸部
域の活性化に寄与しているものを活用価値と
の漁家建築、農村部の農村住宅、都市部の文
して評価します。
化住宅や工場施設などの近代化遺産など、地
●価値の視点6:思い入れ価値
域の歴史と密接に関わる由緒・由来のある施
歴史的地域資産は、そのものに価値がある
設や環境が地域的価値として評価されます。
ことに加え、地域に住む人が愛着をもって保存
●価値の視点3:文化・芸術的価値
や活用の取り組みをしていることが重要です。
文化的価値とは、歴史的地域資産の背景と
住民が保存活動をしているもの、特別な愛
なるくらしや地域にあるもので、まちの成り
称で呼ばれているもの、まちづくりや地域活
立ちを物語るもの、地域固有の素材が活かさ
性化のきっかけとなっているもの、地域住民
れているもの、特徴的な景観を形成している
に深く愛されているものは思い入れ価値とし
ものなど、地域全体をその範囲とします。
て評価することができます。歴史的地域資産
芸術的価値は、外観・内観の意匠やデザイ
は公共性を持ち、地域のくらしを支えるもの
ンが優れている、構造物としての魅力や迫力
として大きな価値があるといえます。
があるなど、その時代の空間表現や構造美、
3.おわりに
造形美などをさします。これらの客観的な価
値評価は専門家の判断も重要ですが、スケッ
文化庁では地域の歴史的魅力や特色を通じ
チしたり写真におさめたくなる魅力など、主
て地方の文化・伝統を語り伝える
「日本遺産」
の
観的、心情的な住民の評価も重要です。
認定を進めています。北海道には、
ニシン漁で
●価値の視点4:環境的価値
栄えた地域固有の文化や歴史的建造物、
炭鉱遺
歴史的地域資産が周囲の景観や良質な居住
産、
豊かな自然景観など、
多様な地域資産があ
環境を形成するのに寄与しているものが環境
ります。
北海道の魅力を国内外に伝えていく、
的価値です。たとえば、並木や防風林が特徴
有形無形の資産を地域が主体となって保存活
的な街なみや田園景観を形成しており、ラン
用していくことが喫緊の社会課題といえるの
ドマークとしての役割を果たしているなどが
ではないでしょうか。今後、取り組みがます
あげられます。歴史的地域資産の保存活用
ます活発になることを願っています。
―13―
建築物
南東側外観。敷地内に約4mの高低差があるため、エントランスホールを2階に配置
インフラストラクチャーとしての建築
『北海道ガス札幌東ビル技術開発・研修センター』
水越
英一郎・海藤
裕司
株式会社山下設計
厚別川
河川敷地
線
ロ歩道
サッポ
ス
セ
アク
1.計画の背景と経緯
本施設は、これまで札幌市内に分散していた北海
道ガスの技術開発研究所、技術研修センター(現、
球形ホルダー
人材開発センター、
以下同)
、
メンテナンス関連部門、
保安関連部門等を一カ所に集約することで、部門間
二里川
の横断的な連携を促進し、北海道ガス全体の知的生
球形ホルダー
整備主体となる技術開発研究所および技術研修セ
ンターは、低炭素社会の実現に向けた新たな技術の
開発や、私たちの安心・安全な生活を支える人材育
成等を行う上で起点となる組織であり、ここで展開
される研究や研修の内容は、社会や時代のニーズに
駐車場
札幌東ビル
駐車場
応じて、刻々と変化している。
車両
出入り口
緊急車両用
車庫
アクセスサッポロ歩道線
産性を高めることを目的に建設された。
スロープ
通用口
主出入り口
設計にあたっては、
「インフラストラクチャーと
車両
入り口
「建物自身の持続性向
しての建築」を基本テーマに、
上」
、
「働く人たちの知的生産性向上」
、
「立地特性・
国道12号
施設特性を活かした環境性能向上」を図り、低炭素
社会の実現に向けた一つのプロトタイプとなる建築
の在り方について考えた。
配置図
―14―
車両
出口
N
2.持続性の高いインフラストラクチュア
としての施設づくり
施設は、中央に設けた幅約3mの廊下を中心に、東
西に間口6m×奥行き18mを基準単位とする鉄筋コ
ンクリートプレストレスト構造のフレームの繰り返
しによって構成されている。国道12号に面する南端
には、エンドタブとしてのエントランスホールを配
置するとともに、球形ホルダーに面する北側は将来
的な拡張にも対応可能な仕組みとなっている。
廊下と居室エリアの間には、柱スパンごとに実
験・研修用の各種ユーティリティ供給を行う「設備
シャフト」を配置するとともに、居室内は大梁と小
梁を同一方向に掛け渡し、各スパンに3本の「ユー
ティリティ供給用床ピット」を設けることで、梁貫通
を伴わずにすべてのユーティリティ供給が行える仕
組みを構築した。床ピットの両脇には、各種機器固
定用のアンカーを900㎜ピッチで配置するとともに、
特に更新頻度の高い実験室群では、スチールアング
ルを加工した実験用設備架台を設け、建築設備は架
台上部、
実験設備は架台下部と明確に区分している。
また、本施設内ではガス器具の燃焼試験やガス器
標準実験室の床には「ユーティリティ供給用床ピット」を設置
具を用いた研修等が多く実施されることから、給気
ルートを「居室系」と「実験・研修系」の2系統に区
分している。
さらに、
居室エリアの外壁側には、
設備バルコニー
を設け、実験機器の増設や屋外機器の性能検証など
にも利用できるようにし、先端には、冬期の雪庇防
止、朝・夕の直達日射の抑制、屋外機器の目隠し等
を目的とした金属スクリーンを設け、安定的な室内
環境の確保を図っている。
このような明快なシステムを持つ建築空間および
設備供給システムが、拡張性・更新性の高いインフ
ラストラクチュアとして、本施設の持続性を高めて
廊下には規則的に設備シャフトが並ぶ
いる。
南西側(国道12号側)外観。西面に設備バルコニーが見える
―15―
南側外観詳細。施設内での活動の様子が街からもうかがい知れるよう、透明感のあるデザインとしている
けた設備シャフト部分には、階ごとに異なる色彩を
3.分野横断的な交流を促進し
知的生産性を高める施設づくり
施し、各階にアイデンティティを与えるとともに、
単調になりがちな廊下空間に変化を与えている。
本施設のメインアプローチとなる国道12号側と、
会議室や打ち合わせコーナーは、廊下に面してガ
敷地内の基準地盤には、約4mの高低差があること
ラス張りの空間として配置するとともに、2層吹き
から、これを活かした空間構成を採用している。
抜けの大型実験室・研修室等には見学用のガラスス
社会との接点となるエントランスホールおよびオ
クリーンを設ける等、廊下全体が北海道ガスの活動
フィス機能は、国道12号に面する2階南端に配置し、
ミュージアムとなるような空間づくりを行うこと
透明感のあるデザインとすることで、国道側からも
で、施設内のインフォーマルなコミュニケーション
内部の活動を垣間見ることができる。
を誘発し、部門間の横断的な連携を促進するよう計
画した。
エントランスホールから直線状に延びる廊下に設
N
設備バルコニー
吹き抜け
設備バルコニー
ガス機器実験室
キャットウォーク
保安
事務所
分析室
ガス機器試験室
設備バルコニー
2階廊下。右は廊下に面して設けた打ち合わせコーナー
厨房実験室
メカニカル
ラウンジ
スリット
会議室
打ち合わせ
コーナー
エントランスホール
事務室
通用口
貯雪塔
図書資料室
給気塔
キャットウォーク
会議室 応接室
吹き抜け
駐車場5台
会議室
主出入り口
車寄せ
オフィスエリア
2階平面図
2階ラウンジ。コミュニケーションを誘発する開放的な空間
―16―
4.立地特性・施設特性を活かした環境性能
向上=新たな環境技術への挑戦
降雪
屋根にたまった雪
貯雪塔に雪が
たまったら
断熱蓋を閉めます
本計画では、積雪寒冷地という立地特性や各種実
験等により多くの排熱が発生するという施設特性を
活かし、
「最小のエネルギー投入で、最大の効果を得
落雪
涼しい風
貯雪塔
約100m3
エントランスホール
冷蔵庫
断熱材によって保冷します
ること」を基本方針とした新たな環境技術の開発を
「自然落雪式貯雪塔」を用いた雪冷房システムの概念図
行った。中でも「オフィスエリアのゼロエネルギー
化」は、建物内での熱の授受によって、大幅な省エ
ネルギー化を図る「建物内スマートグリッド」とも
言える技術である。
技術1
自然落雪式の貯雪塔による雪冷房(補助空調)
北海道では冬期の利雪・克雪がエネルギーや生活
面での課題の一つとなっている。ここでは、エント
ランスホールの屋根に傾斜を設け、自然の力で雪を
貯雪塔にため、夏期の補助空調に利用する技術を開
貯雪塔内部
エントランスホールの階段
室内断熱窓から貯雪塔内が見える
吹き出し口には雪模様を採用
貯雪塔脇に設けた外気取り入れ口
クールヒートトレンチ内部
発した。これまでの雪冷房は、貯雪庫に雪を投入す
るために多くの重機や人力を要したが、今回の方式
では、これらが一切不要になる。
屋根の傾斜や材質は、将来的に一般的な木造住宅
に応用することを考慮し、ガルバリウム鋼板として
いる。試算により、1日6時間程度利用で、9月初旬ま
でエントランスホールの補助空調が可能な計画とし
た。
技術2
クールヒートトレンチ
本施設内では、多くのガス機器の燃焼試験等が行
われるため、必要換気回数が膨大になる。そこで、
クールヒートトレンチを採用し、地熱による予冷・
予暖を図ることとした。
その結果、夏期は41日のうち、26日間を外気冷房
のみで対応、冬期は平均外気負荷を約75%削減でき
85
65
45
25
5
−15
2/28
2/21
2/7
2/14
1/31
1/24
1/17
1/3
1/10
12/27
12/20
12/6
12/13
11/29
11/22
11/8
11/15
11/1
10/25
10/18
10/4
10/11
9/27
9/20
9/6
9/13
8/30
8/23
8/9
8/16
8/2
7/26
7/19
7/5
7/12
温度
[℃]
35
25
15
5
−5
−15
エンタルピー[kJ/kg]
ることが実証された。
4000
3000
2000
クールヒートトレンチ内風量 二酸化炭素濃度
クールヒートトレンチの年間の温度変化と空気質(実測データ)
―17―
0
2/28
2/21
2/14
2/7
1/31
1/24
1/17
1/10
1/3
12/27
12/20
12/13
12/6
11/29
11/22
11/15
11/8
11/1
10/25
10/18
10/11
10/4
9/27
9/20
9/13
9/6
8/30
8/23
8/16
8/9
8/2
7/26
1000
風量
[m3/h]
5000
基準値:1000
[ppm]
7/19
7/5
1200
1000
800
600
400
200
0
7/12
二酸化炭素濃度
[ppm]
外気温 クールヒートトレンチ内温度 外気エンタルピー クールヒートトレンチ内エンタルピー
技術3
排熱利用でオフィスエリアをゼロエネルギー化
本施設内では、研究・研修活動に伴い、多くの実
験用排熱が発生する。建て替え前の施設は、これら
をすべて排熱として捨てていた。このような現象
は、多かれ少なかれ世の中の建物で生じていること
ここでは、
建物内での熱の授受を行い、
「オフィ
だが、
スエリア」
と名付けた実験室や研修室以外の部屋
(=
事務室・会議室等)のゼロエネルギー化を図るシス
屋上に設置されたソーラー集熱パネル
テムを構築した。これは
「建物内スマートグリッド」
とも言える技術である。
「ソーラー集熱パネルによる創熱」
、
「天然
熱源は、
ガスコージェネレーションによるエネルギーの副次
的利用」
、
「実験排熱回収」等を効果的に組み合わせ
ている。
その結果、中間期は建物全体の負荷を賄うととも
に、夏期は建物全体のピーク負荷の26%、冬期は建
物全体のピーク負荷の67%を削減できる仕組みと
なった。
ソーラー吸収式冷温水発生機
天然ガスを熱源とする
コージェネレーション装置
実験機器排熱回収システム
(上:屋外部分、下:屋内部分)
熱源方式の基本的な考え方
技術4
環境性・快適性に優れた次世代オフィス
本施設では、
「最小のエネルギー投入で、最大の効
果を得ること」を基本方針に掲げ、
「外壁の外断熱
化」
、
「クールヒートトレンチによる外気導入」
、
「壁
内・床内の換気による躯体蓄熱」
、
「設備バルコニー
2階オフィスエリア(スケルトン)
による室内環境の安定化」
、
「LED 照明の採用」等、
徹底した負荷削減を図るとともに、
「技術3」で述べ
た排熱利用型の熱源システムの導入により、施設全
体の大幅な省エネルギー化を図っている。
オフィスエリアは、輻射空調方式や壁内・床内の
換気等により、
ムラのない快適な室内環境を創出し、
ここで働く人たちの知的生産性向上にも貢献してい
天井輻射パネル
る。
―18―
パネルヒーター、床吸い込み口、
壁面吸い込み口
東側外観。黒い壁の部分は外断熱工法。オフィスエリアは黒い壁の2階部分
施設概要
称 北海道ガス札幌東ビル技術開発・研修センター
※建物名、組織名は竣工時の名称
所 在 地 北海道札幌市厚別区大谷地東1丁目3-1
建 築 主 北海道ガス株式会社
〈設計・監理〉 株式会社山下設計
〈施
工〉
建
築 鹿島・岩田地崎・伊藤・宮坂共同企業体
空 調 ・ 衛 生 新菱冷熱工業株式会社
電
気 東光電気工事株式会社
環 境 試 験 室 株式会社大西熱学
〈建 築 概 要〉
敷 地 面 積 12,311.95㎡
名
(すべての写真撮影:株式会社エスエス)
建 築 面 積 3,541.58㎡(新築 3,065.25㎡ 既存 476.33㎡)
延 べ 床 面 積 8,299.82㎡(新築 7,635.24㎡ 既存 594.58㎡)
各 階 面 積 1階 2,768.43㎡ 2階 1,800.30㎡ 3階 2,585.37㎡
4階 481.14㎡ 既存 594.58㎡
階
数 地上4階
建 蔽 率 28.76%(許容:70%:角地緩和適用)
容 積 率 65.88%(許容:200%)
構 造 規 模 RC 造(現場プレストレスト工法)
、一部 S 造、杭基礎
〈工
程〉
基 本 設 計 2011年3月~2011年6月
実 施 設 計 2011年7月~2011年12月
工 事 期 間 2011年12月~2012年12月(本体工事)
2013年1月~2013年3月(機器工事)
2013年1月~2013年5月(外構工事)
第9回のテーマ:分かち合う
自撮り、接写、何でも有りで美術品とふれ合ってい
る。それは作品の保護に神経質な日本の美術館と違
いすぎて、戸惑うほどだ。こうした観賞態度は今や
フランスの美術館では当たり前のことらしく、どん
クロード・モネはパリ郊外のジヴェルニーに住み、
な名画の前でも同じであった。まさに自由、平等、
そこで1926年86歳で没するまで睡蓮を描き続けた。
博愛を実感するアートシェアリングだ。
自宅に「水の庭」を造り、水面に浮かぶ睡蓮、水中
最近、
「シェア」または「シェアリング」という言
の水草、水面に映る空や柳など、庭の光を追い求め、
葉がよく使われる。シェアハウス、カーシェアリン
50歳頃からの作品数は大小200点以上におよぶ。晩
グなどは潮流となり、モノを「所有」する時代から、
年は白内障のため視力が著しく衰えたが、それでも
「共有」する時代になりつつあるようだ。モノばか
りでなく空間も時間も情報も、
なお睡蓮と池をキャンバスに写
し取ろうとした。
そして核兵器や自衛権まで集団
モネの死後、大作の「睡蓮」
でシェアすることが課題となっ
を寄贈されたフランス政府は、
ている。政治的主張や戦争がら
パリのオランジュリー美術館を
みは別として、シェアは21世紀
だ
大改造し、楕円形の二つの大広
のキーワードとなりつつある。
間にそれぞれ4面構成の大壁画
これまでも私たちは道路や公共
を展示した。有名な
「睡蓮の間」
施設など多くのモノをシェアし
である。一室には、白い雲を映
てきた。今は介護や育児なども
す水面に睡蓮が浮かぶ真昼の
地域でシェアしはじめている。
池。もう一室には、睡蓮と2本
そうした目で見ると美術館や博
クロード・モネ「睡蓮」
(1920~26年)
のしだれ柳が微風に揺れる池の
物館は、所有することなど不可
オランジュリー美術館
ほとり。
「部屋に他の作品を展
能な美術品や宝物をみんなで分
示しない」
、
「作品と観客との間に仕切りやガラスな
かち合い、感動できる貴重な場所となっていること
どを設置しない」など、モネはその展示に厳しい条
がわかる。
件をつけて、亡くなる直前まで筆を入れたという。
モネは「光の画家」と呼ばれ、時間とともに移り
「睡蓮の間」に入って驚くのは、楕円の壁面すべて
ゆく光の変化を、
生涯にわたり追求した画家である。
を覆う絵の大きさと臨場感である。まるで自分がジ
彼の作品を通して、私たちはその光をシェアする。
ヴェルニーの庭に立って、池に咲く睡蓮を眺めてい
志を大きく持つならば、
「睡蓮の間」に集う人々のよ
るように思える。私だけではない、世界中からこの
うに、この地球の恵みをみんなで分かち合い、平和
部屋に来たすべての人が、池のほとりに立って庭の
の光をシェアする。そんな「アースシェアリング」
景観を楽しんでいる。さらに驚くのは、作品との近
の未来をイマジンできたのも、モネの絵の力と言え
さである。写真は撮り放題、
フラッシュだけは禁止、
るだろう。
下村 憲一(建築家)
すいれん
モネの「睡蓮」と
アースシェアリング
―19―
北海道の農村における
地域連携のあり方を探る
~ドイツ地方都市を参考に~
石井
旭
地方独立行政法人北海道立総合研究機構建築研究本部
北方建築総合研究所地域研究部居住・防災グループ・研究主任
1.はじめに
2014年12月初旬のことである。ドイツはク
リスマス一色。まちの広場ではクリスマス
マーケット(写真1)が毎日華やかに行われ、
少し着ぶくれた老若男女が外にあふれかえ
り、楽器を演奏し、歌い、シナモンのきいた
写真1
ホットワインとシンプルなピザを片手にお
しゃべりをしている。
クリスマスマーケット(フライブルク)
(百万人)
130 日本
120
人口減少傾向に転換
110
100
(年)
2012
2010
2004
2002
私は北海道の農村地域で生まれ育ったが、
2000
70
1998
くなるほど、
深くて重いテーマの旅であった。
1996
80
1994
方を探ること。街の人々の歓声も耳に届かな
人口減少傾向に転換
ドイツ
1992
90
1990
に悩む北海道の農村における地域連携のあり
2008
ツに約1週間滞在した。テーマは、人口減少
2006
街角がそんなにぎわいに包まれる冬のドイ
図1 ドイツと日本の人口の推移
かつてそこにはʠほどほどʡの利便性があっ
出典:IMF - World Economic Outlook Databases より筆者作成
た。最近は、店が少なくなり、かつてほど便
(自治体数)
35000
利ではなくなってきた。農村地域が持続して
30000
いくために、
ʠほどほどʡの利便性をいかに確
西ドイツの
地方自治体の
構造改革
25000
保していくかが求められる。しかし、単独で
ドイツ
日本
20000
利便性を確保するには限界がある。この旅で
15000
10000
は、特に複数自治体による「地域連携」に着
昭和の大合併
平成の大合併
5000
目し、そのあり方を探った。
0
(年)
1945
1965
1967
1969
1971
1973
1975
1977
1979
1981
1983
1985
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
2007
2009
2011
視察先は、ドイツ地方都市を選んだ。日本
図2 ドイツと日本の自治体数の推移
は2005年から人口増加が停滞し、2008年から
出典:ドイツ統計年鑑 Statistisches Jahrbuch より筆者作成
図3 人口規模別自治体数の構成比
口減少が進み、また、人口規模の小さな自治
250万_
100万_250万
50万_100万
25万_50万
10万_25万
5万_10万
2万5千_5万
このように、ドイツは日本と同じように人
0
5千_1万
治体が多く存在する(図3)
。
10
1万_2万5千
1220(2011年現在)あり、人口5千人以下の自
20
1千_5千
している(図2)ものの、日本の約7倍の1万
ドイツ
日本
30
500_1千
る(図1)
。ドイツの自治体数は合併等で減少
(%)
40
100_500
自治体数の構成比
も早く、2002年から人口減少の途についてい
0_100
人口減少傾向に転じたが、ドイツは日本より
出典:ドイツ統計 Statistisches Bundesamt より筆者作成
―20―
(人)
2-1.水平連携による地域づくりの実践
体が多くありながら、その地方都市の姿はい
~ラインガウ圏域~
ずれも産業と生活の混成からなり、豊かで自
立した生活を営んでいるように見える。ドイ
ヘッセン州ラインガウ圏域は、ライン川北
ツの地方都市が個々の個性を発揮しつつ、い
岸に人口3千~1万7千人の7自治体が連続する
かなる方策により利便性を確保してきたか、
地域(図6、図7)で、ヘッセン州都ヴィース
そこに、何らかのヒントがあるのではないか
バーデン市等に近接している。世界遺産の城
と期待した。
が点在しライン川沿いの観光地として栄え、
ブドウ、ワインの産地としても知られる。
2.ドイツ地方都市の
⟹
1 観光振興と歴史的遺産保全を目指した都市
人口減少下の地域づくり
改造プログラム
人口減少下の都市では、将来人口に合わせ
本圏域は、7自治体が連携して都市改造プ
都市インフラや土地利用をいかに適正な規模
ログラムを実践している。人口数千人規模以
に再編するかが求められる。この点では、ド
上の都市が、人口減少下においていかなる都
イツの人口減少を前提とした都市計画制度に
市機能の連携を図っているかに関心があった
見習うべきものがある。
が、実際には都市改造プログラムに都市機能
ドイツの都市計画制度(図4)は、かつては
の連携に関する事業は見られなかった。それ
人口増加に対応し新規開発と歴史的街並み保
ぞれの都市が商業・工業・住宅地を抱え、独
全の両立を目指した事業制度であった。しか
し、現在は人口減少に向けて、郊外スプロー
ル化を防止し、老朽化した住宅等ストックの
ダウンサイジングと既成市街地の土地利用促
進を基軸に据えた事業制度に変化した。
特に、東ドイツをはじめとして人口減少下
図5 地域連携のタイプの違い
の都市計画事業として打ち出されたのが「都
市改造プログラム(Stadtumbau)
」である。
プログラムの内容については、すでに詳細な
報告 が多数ある。今回は、今まであまり触
1)
れられていなかった、人口規模の小規模な自
治体からなる圏域でいかに都市改造プログラ
ムを適用しているのかに着目し、連携方式の
異なる2圏域(図5)にスポットを当てた。
図6 ラインガウ圏域の位置と構成都市
「街並み修復事業 Sanierungsmaßnahmen」
「市街地新規開発 Entwicklungsmaßnahmen」
出典:ラインガウ圏域フォイスナー氏提供資料
⬇
Gemeinde
Walluf
Stadt
Eltville
Gemeinde
Kiedrich
Stadt
OestrichWinkel
Stadt
Geisenheim
Stadt
Lorch
①社会都市プログラム Soziale Stadt 1999~
コミュニティ希薄や社会的マイノリティへの課題
に対応した交流センターや公園等の場所づくり
Stadt
Rüdesheim
(2011 人口)
20,000
15,000
10,000
5,000
0
(2001-2011 の人口増減率(%)
)
10
5
0
−5
−10
−15
②都市改造プログラム Stadtumbau 2002~
住宅の空家や老朽化に対応した減築など住宅ス
トックの需給バランスの調整や住宅改善、産業変
化に対応した跡地再利用等を推進
図7 ラインガウ圏域の人口、人口増減率
図4 ドイツにおける都市計画制度の変化
出典:Stadtumbau in Hessen Zweckverband Rheingau 2013.2
―21―
立した自治体運営となっているようである。
都市改造プログラムでは、
自然環境保全、
産
業・流通、観光レクリエーション分野での連
携を図ることとし、事業として①サイクリン
グロード整備、②産業跡地の再利用、③歴史
的遺産の保全を推進している。今回視察した
事例は、いずれも産業跡地の再利用、歴史的
遺産の保全を目的としていた
(写真2、
写真3)
。
写真2
⟹
2 参加自治体が対等な連携体制
ヒルヒェンハウスの改修・保存(ロルヒ)
連携の歴史は、2005年、オーストリッヒ・
ヴィンケルの大規模産業施設跡地の利用に関
して連携を図るよう取り組んだことが発端で
ある。当時は失敗に終わったが、2007年にな
り、7都市は再び連携の可能性について模索
した。そのきっかけが、圏域による都市改造
プログラムの実施であった。
中心的な都市は、地理的に中央に位置する
オーストリッヒ・ヴィンケルである。しかし、
当市に特別強い権限があるわけではなく、参
写真3
市庁舎周辺の建物撤去、広場整備(キードリッヒ)
加自治体は同等の議決権を有し、事業の費用
負担も同等であるという。本圏域は、いわば
対等な連携体制を構築している。
エンメルスハウゼン
2-2.拠点・ネットワーク型の地域づくり
~エンメルスハウゼン自治体連合~
ラインラント=プファルツ州エンメルスハ
ウゼン自治体連合は、25の自治体で一つの連
合(行政体)を形成している(図8)
。周辺都
市の人口は数十人から1千人程度(図9)で、
中心のエンメルスハウゼン市は5千人弱、圏
図8 エンメルスハウゼン自治体連合の範囲
域で1万5千人規模を形成している。
⟹
1 自治体連合による「最適規模」の形成
すること、10㎞圏内など空間的なつながりを
ラインラント=プファルツ州には古くから
加味すること、大規模自治体と小自治体を両
人口規模の小さな市町村が多数存在し、その
方含む地域形成を行うことなどを自治体再編
結果、行政事務の単独実施が困難となり郡の
の方針とした 。こうして、自治体連合は形
負担が増加した。州は行政効率化のため市町
成された。
2)
村合併を画策したが、一方で、地元住民から
自治体連合は、地域インフラの維持・管理
は「居住市町村で行政サービスを受けたい」
等に関する技術的な事項を担い、周辺自治体
という声があがった。
に技術的支援を行う広域行政機関の役割を
このため州は、行政が地域住民に身近な存
担っている。
⟹
2 地域拠点を形成する都市改造プログラム
在でありながら、かつ人口5千人から1万人の
当市の都市改造プログラムは、産業施設跡
「最適規模」を形成して行政サービスを維持
―22―
4,737
112
153
359
594
464
139
352
66
363
259
128
468
748
389
592
238
187
業・住宅が一体となった拠点施設、市の中心
1,243
1,254
(人)
広場などの整備を行っている(図10)
。
特に、商店はエンメルスハウゼン市に集中
Utzenhain
Thörlingen
Schwall
Pfalzfeld
Norath
Niedert
Ney
Mühlpfad
Morshausen
Mermuth
Maisborn
Lingerhahn
Leiningen
Kratzenburg
Karbach
Hungenroth
Hausbay
Halsenbach
Gondershausen
Emmelshausen, Stadt
Dörth
Birkheim
Bickenbach
Beulich
Badenhard
させることとし、自治体連合内で店舗の立地
524
140
348
497
142
地の再開発事業を契機とし、歩行者空間、商
を制限している結果、周辺自治体における商
店の立地は数えるほどとのこと。都市改造プ
ログラムは、圏域の人口や空間的な「最適規
図9 自治体連合を構成する自治体の人口
模」を明確にし、その拠点都市の求心性・魅
出典:エンメルスハウゼン自治体連合 web
(www.emmelshausen.de/vg_emmelshausen/)
力向上を目的としていることが特徴である。
その結果、中心都市に投資が集中すること
になり、
不公平感が発生しかねない。しかし、
各自治体で都市経営の裁量権を一定程度確保
することで、自治意識を醸成しており、不満
などは見られないとのことであった。
⟹
3 ネットワークを形成する交通サービス
当市では、都市改造プログラムによる拠点
整備に合わせ、周辺自治体の利便性を維持・
写真4
向上するために多様な交通サービスを供給し
エンメルスハウゼンの中心地の町並み
ている。周辺自治体の不満噴出を抑えること
に加え、近郊の中核都市への人口流出を抑え
ることを意図している。
「青少年タクシー」の
特にユニークなのは、
取り組みである。16~21歳の若者が金曜・土
曜・祝前日の22時~6時に帰宅する場合に、タ
クシー代へ2ユーロを補助するもので、利用
図10 都市改造プログラムの整備プラン
者数は年間1万人を超える。なお、タクシー
出典:エンメルスハウゼン市提供資料
補助は、昼間の高齢者向けもある。さらに、
⟹
1 移動の時間距離を短縮するアウトバーン
圏域内では、州の補助によりバスの便数を増
全区間無料の高速道路、
ドイツには有名な、
やし、自治体間交通の強化を図っている。
3.ドイツ地方都市の
「アウトバーン」
(図11)があり、これが地方都
市が自立して生活できる大きな基盤となって
地域連携を支える基盤
いる。東西南北張り巡らされたアウトバーン
2事例から、連携により都市機能整備にお
は、都市間を結び、国と国を結ぶ。その延長
ける合理性や効率性を高めること、自然保全
は5万㎞以上であり、日本の高速道路(約9千
や観光振興を狙った戦略的な連携を図ること
㎞)の5倍以上ある。アウトバーンは、第1次
など、地域の規模や特徴に応じた連携の戦略
世界大戦の敗戦を機として、国威発揚や雇用
の重要性を改めて実感した。
創出、さらには迅速な軍事行動の実現等を目
これら地域連携がなぜ成り立つのか。その
的として整備されたという。
背景を考えつつ旅を進める中で、人々やまち
このアウトバーンの存在が、ドイツ国内の
にふれ、以下の点が浮かび上がってきた。
地理上の不利地をほぼ無くしたと言える。
―23―
⟹
2 都市の密度を形成する集住思想
統計的に、日本と比べドイツの可住地面積
の人口密度は低いと言われるが、訪問すると
ドイツのほうがはるかに居住密度は高く感じ
る。そこに特有の集住思想が見られる。ドイ
ツには、土地利用や建築に対し、
「建築調和の
原則」や「計画無くして開発無し」
、つまり「土
地利用や建築が周囲との調和を持ってなす」
という集団利益的考え方があり、集住思想も
それらが源流となっているのではないかと推
察される。
図11 アウトバーン路線図
バーデン=ヴュルテンベルク州テュービン
データ:EuroGlobalMap Pan-European Database at Small Scale
ゲン市の旧市街地を歩くと、十分な土地が確
保できないながら、密度を高くし住み続ける
工夫がなされている(写真5)
。街路は細く、
建物は高く積み上げられ、1階は商業・業務、
2階以上は集合住宅として利用されている。
2階以上は街路に十数センチ持ち出し、密度
感をさらに増している。
同州フライブルク市ヴォーバン地区では、
写真5
住宅はすべて集合住宅である。建設時から入
テュービンゲン旧市街地の町並み
居住民でデザイン等を検討するコーポラティ
。住宅や土地
ブ方式を採用している(写真6)
を共有の資産とし、コミュニティを形成しな
がら協力・工夫してまちを作り上げる考え方
が、結果として現在の都市の密度を形成して
いると感じた。
⟹
3 地域を支えるプランナーの存在
写真6
今回、ラインガウ圏域を案内していただい
たのは、フランクフルト市に在住のフォイス
ナー氏である。民間企業に所属しているにも
コーポラティブ方式で建設した省エネ住宅
「クレーハウス」
(フライブルク)
4.おわりに
かかわらず、
ラインガウ圏域で10年以上も自治
ドイツ都市計画は人口減少に対応して大き
体連携に携わっており、
都市改造プログラムの
「事業マネージャー」に位置付けられている。
日本では、通常単年度ごとに入札やプロ
かじ
く舵をきり、都市縮退と持続的都市経営を目
標に据え、補助事業に人口規模基準を設ける
ポーザルを行うなどして委託先を「公平に」
などして最適単位形成を促していた。
選定することが重要視されているが、継続的
これに対応し、地域特性を踏まえ、ライン
な関わりを支える仕組みとはなり得ていな
ガウ圏域のように広域的解決が必要な課題に
い。こうした都市計画プランナーが長きにわ
対する水平連携の考え方や、エンメルスハウ
たり関わることができる仕組みが、地域の持
ゼン圏域のように構成都市の役割分担による
続を支えていることを実感した。
都市機能確保と公共交通ネットワークの整備
―24―
をバランス良く実施する考え方が見られた。
生活の豊かさがあった。利便性を保つのは手
その地域連携の背景に、長大なアウトバー
段であるが、真に持続すべきは、地域の生活
ンの存在、土地や建築を共有の資産と認識し
の豊かさである。クリスマスマーケットで楽
協力して形成する集住思想、地域を支えるプ
しそうな人々の表情を見て、そんな思いに駆
ランナーの存在を感じた。なにより、地域連
られたドイツ旅であった。
【謝辞】
携により薄れかねない自治体の自治意識を、
2事例共に尊重している姿が印象的であった。
本視察の実施にあたり、視察先の選定、ス
北海道立総合研究機構は、
平成27年度から、
ケジュールの検討・調整、視察先での聞き取
戦略研究「農村集落における生活環境の創出
り調査や資料収集への対応など、多くの方に
と産業振興に向けた対策手法の構築」に取り
大変お世話になりました。ここに記し、感謝
組む。ドイツ訪問はまさにその助走期間であ
の意を表します。
り、
地域形成のあり方に大きなヒントを得た。
〈文献〉
1)例えば、大村謙二郞ほか「縮小都市時代のドイツにお
ける都市・地域計画と日本への示唆に関する調査研
究 報告書―東西の都市改造計画を中心に―」
(財団
法人アーバンハウジング、2008.3)
2)財 団 法 人 自 治 体 国 際 化 協 会「ド イ ツ の 地 方 自 治」
(2003.8.29)
私が住んでいた農村地域に話を戻すと、都
会並みの利便性とはほど遠い状況であった
が、人々が自然豊かな土地で農作物を育て、
木の実や山菜を採り、釣りをし、仲間と四季
を楽しみ、収穫の喜びを分かち合う、そこに
とき・まち・ひと/コラージュ
(寄付)で賄われるとのことで、筆者は完成までの時
間の長さに納得したのである。
2005年世界遺産登録後、入場者の増加により予算
が潤沢になったことに加え、3D、CAD による石材
加工などの IT 技術の進歩により、建設に要する時
間が飛躍的に縮まったようである。200年後の完成
建築・夢・技術
を夢見ていた身にすると、完成した姿を目にする
ろ まん
建築とは、夢・浪漫・技術により実現するもので
「夢」が実現することはうれしい限りだ。
あると思う。
一方、夢だけで終わる建築が多い中、一度はコン
「夢」のある建築として誰もが認識する、スペイ
ペの審査で落選しながらもヨットをモチーフにした
ン・バルセロナのサグラダ・ファミリア聖堂(聖家
一枚のスケッチが審査委員長の目にとまり、紆余曲
う
族聖堂)が完成するかもしれないという。設計・建
折の末に14年も掛け完成したヨーン・ウッツォン設
築に取り組んだアントニ・ガウディ(1852~1926)
計のシドニーのオペラハウスには浪漫を感じさせら
の没後100年に完成するように工事が進められてい
れる。ちなみに、この審査委員長は、前号のコラム
るらしい。
で取り上げたエリエル・サーリネンの息子のエー
筆者が訪れたのは1980年だったが、その時点で建
ロ・サーリネンである。彼も優れた建築家として知
設が始まってから、ほぼ100年を経過していた。当
られ、新たな技術に支えられる夢と浪漫あふれる作
時、
「生誕の門」
、
「受難の門」が完成していたが、
「完
品を数々残している。マサチューセッツ工科大学の
成までにはあと200年は掛かる」と言われていたと
教会、竜の背骨のようなアーチと曲線によるイェー
記憶している。
「生誕の門」横の入り口から聖堂内
ル大学のホッケー場、高さ192m にも及ぶセントル
部に入り、天井を見上げるとバルセロナの澄んだ青
イス市のゲートウエイ・アーチなどが有名である。
空が広がっていた。屋根と天井の建設工事はまだ始
コンペで選ばれ、キール・アーチが特長と言われ
まっていなかった。今では樹木のように頂部が広が
るザハ・ハディドによる新国立競技場設計案は、夢
り林立する柱によって支えられた荘厳な天井が完成
だけで終わりそうだ。夢、浪漫、技術…新国立競技
している。西欧の大聖堂は、完成までに数百年を要
場建設計画には何が欠けていたのだろうか。
するのが珍しくないことと合わせ、建設費用は浄財
―25―
(YO)
行政報告
建築基準法・建築士法の改正について
北海道建設部住宅局建築指導課建築基準グループ
工事中の建築物の仮使用について、一定の安
建築基準法の一部改正について
全上の要件を満たす場合には、指定確認検査
機関も仮使用を認定できることとします。
1.改正の経緯
⟹
3 構造耐力に関する規定の整備
建築基準法は、建築物において木材利用や
構造計算適合性判定の対象を合理化するた
新技術導入を促進するための規制緩和、建築
め、エキスパンションジョイント等で構造上
関連手続きの合理化、事故・災害対策の徹底
は分離されている建築物の各部分において、
など多様な社会経済的要請に的確に対応し、
構造耐力に関する規定の適用については、そ
国民の安全・安心の確保と経済活性化を支え
れぞれ別の建築物の部分とみなすこととしま
る環境整備を推進することが急務であるとし
す。
て改正され、平成27年6月1日に施行されまし
⟹
4 木造建築関連基準の見直し
た。
①木材の利用を一層促進するため、耐火構造
より合理的かつ実効性の高い建築基準制度
としなければならない3階建ての学校等に
を構築するため、構造計算適合性判定制度の
ついて、実大火災実験等により得られた新
見直し、木造建築関連基準の見直し、容積率
たな知見に基づき、一定の防火措置を講じ
制限の合理化、建築物の事故等に対する調査
た場合には、準耐火構造等にできることと
体制の強化等の所要の措置が講じられていま
します。
②延焼を防止する性能を満たす建築物の部分
す。
又は防火設備によって3,000㎡以内ごとに
2.改正の概要
区画することにより、耐火構造等でなくと
合理的な建築基準制度の構築
も3,000㎡を超える木造建築物の建築を可
⟹
1 構造計算適合性判定制度の見直し
能とすることとします。
⟹
5 新技術の円滑な導入に向けた仕組み
①建築主が、審査者や申請時期を選択できる
よう、指定構造計算適合性判定機関等へ直
現行の建築基準では対応できない新建築材
接申請できることとします。
料や新技術について、国土交通大臣の認定制
②比較的簡易な構造計算について、十分な能
度を創設し、それらの円滑な導入を促進しま
力を有する者が審査する場合には、構造計
す。
算適合性判定の対象外とします。
⟹
6 容積率制限の合理化
③構造の規定に係る既存不適格建築物につい
①容積率の算定に当たり、エレベーターの昇
て、増改築する場合に構造計算適合性判定
降路の部分の床面積を延べ面積に算入しな
を行うことを義務付けることとします。
いこととします。
(H26.7.1施行)
⟹
2 指定確認検査機関等による仮使用認定事務
②住宅の容積率の算定に当たり、地下室の床
の創設
面積を延べ面積に算入しない特例を、老人
特定行政庁等のみが承認することができた
ホーム等についても適用します。
―26―
実効性の高い建築基準制度の構築
約の原則を規定化
⟹
1 定期報告・検査報告制度の強化
②延べ面積300㎡を超える建築物について、
定期調査・検査の対象の見直し、防火設備
書面による契約締結の義務化
等に関する検査の徹底や、定期調査・検査の
③延べ面積300㎡を超える建築物について、
一括再委託の禁止
資格者に対する監督の強化等を図ることとし
ます。
④国土交通大臣の定める報酬の基準に準拠し
⟹
2 建築物の事故等に対する調査体制の強化
た契約締結の努力義務化
①建築物においてエレベーター事故や災害等
⑤設計業務等に関する損害賠償保険の契約締
が発生した場合に、国が自ら、必要な調査
結の努力義務化
を行えることとします。
⑥建築士事務所の区分(一級、二級、木造)
②国及び特定行政庁において、建築設備等の
明示の徹底
⟹
2 管理建築士の責務の明確化による設計等の
製造者等に対する調査を実施できるよう調
業の適正化
査権限を充実します。
①管理建築士の責務を下記のとおり明確化
建築士法の一部改正について
・受託する業務等の選定
・業務の実施者の選定
1.改正の経緯
・提携先等の選定
従来、建築物の設計・工事監理の業務にお
・事務所の技術者の管理
いては、必ずしも書面による契約がなされな
②建築士事務所の開設者に対する管理建築士
いことなどにより、業務を行う建築士事務所
が述べる意見の尊重義務化
の責任が不明確であることから、建築紛争の
⟹
3 免許証の提示等による情報開示の充実
増大・長期化等につながっていることが指摘
①建築主からの求めに応じた免許証提示の義
されています。また、近年、建築士免許証の
務化
偽造による建築士なりすまし事案が発生して
②建築士免許証の記載事項等(定期講習の受
いることなどから、建築主への建築士に関す
講履歴、顔写真)に変更があった場合の書
る情報開示の充実が求められています。
換え規定の明確化
⟹
4 建築設備士に係る規定の整備
このため、建築設計関係3団体(
(公社)日
本建築士会連合会・
(一社)日本建築士事務所
①法律上に「建築設備士」の名称を規定化
協会連合会・
(公社)日本建築家協会)による
②建築士が延べ面積2,000㎡を超える建築物
「建築物の設計・工事監理の業の適正化及び
の建築設備について、建築設備士の意見を
聴くことを努力義務化
建築主等への情報開示の充実に関する共同提
案」を踏まえ、書面による契約の義務化(延
⟹
5 その他の改正事項
べ面積300㎡超)
、
管理建築士の責務の明確化、
①建築士事務所に係る欠格要件及び取消事由
建築士免許証提示の義務化等について議員立
に、登録申請者が暴力団員等であることを
法により建築士法は改正され、平成27年6月
追加
25日に施行されました。
②建築士事務所の所属建築士を登録事項と
(3カ月以内)
し、
変更した場合の届出義務化
2.改正の概要
③建築士事務所登録申請における様式の変更
⟹
1 書面による契約等による設計等の業の適正
等
化
④建築士に対する国土交通大臣・都道府県知
①当事者が対等な立場で公正な契約を行う契
事による調査権の新設
―27―
北の近代建築散歩
おびひろの古民家
『旧齋藤邸』
小野寺
一彦
一般社団法人北海道建築士会十勝支部
北海道ヘリテージマネージャー
(実測協力/惠田喜歩、
賀陽弥生子、
川村善規、
佐藤季之、山田大樹)
旧齋藤邸(帯広市)
昭和46年に電信通り商店街組合が設立さ
立地概要
れ、同49年帯広電信通り商店街振興組合の法
北海道・十勝帯広(蝦夷地)では、先住民
人化により、帯広市内4番目の商店街振興組
のアイヌの人々が、独自の文化を築き、地域
合となった。
街区には、
浄土真宗本願寺帯広別院があり、
社会が形成されていた。帯広の本格的な開拓
は、明治16(1883)年に依田勉三の率いる晩
近隣街区にも4寺院と帯広神社があり、帯広
成社が、
下帯広村に入植したことから始まる。
の門前町として発展してきた。
十勝の開拓は、北海道に多く見られる官主導
旧齋藤家住宅はこの電信通に位置し、周囲
の屯田兵によるものではなく、晩成社をはじ
には帯広市では比較的多くの歴史的建造物が
め、富山、岐阜など本州からの民間の開拓移
残っている。旧齋藤家住宅は東側と南側が道
民により進められた。
路に面し、東向かいには、浄土真宗本願寺帯
明治2(1869)年、蝦夷地は北海道と改称さ
広別院が隣接する。
れ、十勝国(ほぼ現在の十勝総合振興局域)
築造年及び変遷
を創設。帯広の前身の河西郡下帯広村が誕生
した。その後明治28(1895)年、北海道集治
齋藤家は、鳥取県出身の齋藤長明氏が釧路
監十勝分監の開庁とともに受刑者により大通
市で裁判官を退職後帯広に移り住み、昭和9
(当時は監獄道路と呼ばれた)が整備され、市
年に築造された。後に、齋藤家の遠縁にあた
街地誕生の基礎となった。以後下帯広村は、
る吉川弘道氏が福井県から養子にはいった。
明治35(1902)年に十勝で最初の町となり、
昭和17年斎藤長明氏の死去後、同24年に吉川
昭和8(1933)年には市制が施行された。
弘道氏と誠文堂書店(大通16丁目)の長女、
旧齋藤家住宅の隣接する電信通は、帯広駅
大村セツ氏(後に節子と改名)が結婚し齋藤
から北東方向に約1.5㎞、中心部から徒歩約
家住宅に住んだ。
15分のところに位置し、電信通商店街区とし
増改築が幾度かくり返され、昭和40年には
ては、大通から東4条南中通までの約450mで
東側の縁側の南突き当たりにトイレが増築さ
ある。
れ、同時に外壁のモルタル塗りが行われた。
通りは、当初「晩成社通」と呼ばれていた
その後2度、屋根のふき替えが行われ、昭和53
が、明治30年10月11日に帯広・大津間に電信
年に齋藤家住宅北側隣接地に住宅を新築し、
が開通した際、帯広で初めて晩成社通に電信
一家が移り住んだ。以降、この齋藤家住宅が
柱が立ち、これを期に「電信通」と称するよ
使用されることは無くなる。
うになった。
平成12年、節子氏の長女、弘美氏が、叔母
―28―
L 形に配された縁側には外付けのガラス格子戸が
竿縁天井の廊下。コーナーは羽重ね螺旋状に張られている
と住むための住宅を同一敷地内南西角に築造
した際、齋藤家住宅の台所西にあった勝手口
及び開口が塞がれ、外壁はモルタルで塗り込
められた。
建物の特徴
旧齋藤家住宅は東を正面とし、間口7間・奥
行き10.5間、南に向いた主体部の東に間口
2.5間の座敷部と西に間口3間の茶の間があ
床の間と床脇
り、中央東西に広がる縁側部5間幅の間には、
3室が並ぶ三間取りである。
れ、床の間と床脇のあいだの壁は半円形に切
東側の玄関は主に来客用として使用され、
り取られ、床柱も中間部が無く、吊り床の様式
日常生活としての玄関は西角の勝手口を利用
が用いられている。出窓の内側に立てられた
していた。玄関には取り付き(寄り付き)があ
障子は縦格子の変わり組子が施されている。
り、右手(北)に応接間、左手(南)に座敷を
また、
当時茶の間の台所にはポンプがあり、
配し、取り付きを抜けると縁側が西へ伸び、右
築造時から内風呂があったと聞く。
手(北)には三間続きのタタミの間が施され、
縁側西の突き当たりの台所・茶の間の右(北)
屋根は半切り妻屋根で、玄関上部の屋根は
みのこう
箕甲納めとなっており、棟飾り・鬼板、頂部の
銅板の飾り、
破風尻の彫り物が施されている。
隣には使用人の部屋という平面構成である。
しっくい
玄関右の応接室は、
漆喰塗りの大壁仕上で、
L 形に配された縁側の開口上部の小屋根に
ひさしうで ぎ
回り縁・天井も同様に塗込められ、天井中央
は、庇 腕木で受け垂れた腕木庇がかかる。
野垂
には丸形の天井飾りが取り付けられている。
木の鼻には、
銅板の小口金物が付けられている。
応接室からつながる三間通しのタタミの間
外付けされた一本引き形式の腰付きガラス
は、各室が源氏襖で仕切られ、その上部は透
格子戸は、縁側の西端と南端の戸袋に収納さ
かし竿欄間が取り付けられている。縁側へつ
れる構造で、戸袋の外部は細幅の下見板張り
ながる障子は、横額入り障子で、欄間も変わ
に割り付けられた押し棒が施されている。
り組子の引き違い障子がはいる。天井は竿縁
ポーチ柱間の上部には割り付けられた格子の
天井で、
廊下も竿縁天井納めとなっているが、
はめ込みのガラス戸があり、このような様式
コーナーは羽重ね螺旋状に張られている。
は縁側上部の欄間にも共通するデザインと
さお
ら せん
座敷は付け書院の他、床の間、床脇が配さ
なっている。
―29―
建築の一村一品
地域にひろがる新しい学び舎
『江差町立江差中学校』の改築工事
浦野
宏美
江差町建設水道課都市計画係・技師
②学校施設の性能や機能が充実した学校づく
建設の経緯
り③地域に開かれ将来においても活用ができ
日本海に臨む江差町の高台にある『江差町
る学校づくりを基本的な考え方として掲げ、
立江差中学校』は、中心市街地唯一の中学校
「学び舎 として良好であること」を第一に計
や
で、昭和22年の開校以来、1万人を超える卒業
画しました。
生を輩出しています。
全体構成としては、校舎と体育館を一体化
既存の校舎の最も古い棟は昭和35年に建設
させることで学校に一体感を生み、コンパク
されたもので、半世紀にわたり生徒を見守っ
トな形態とすることで限られた敷地を有効に
てきました。しかし、著しい老朽化と耐震性
活用し、十分なグラウンドスペースを確保し
の問題から建て替えを行うこととなり、平成
ました。そして、高台に建つまちのシンボル
23年11月に江差中学校改築検討委員会を立ち
として堂々とした風景を生み出すとともに、
上げ、新しい校舎建設に向けた検討をはじめ
「たば風」と呼ばれる強い北西風に配慮した
ました。
配置計画としています。
その後プロポーザルを経て設計が行われ、
平成26年11月に新校舎が完成しました。新校
舎はグラウンド部分に計画され、既存校舎を
使いながらの建設工事となりました。現在、
既存校舎の跡地において、新しいグラウンド
の建設が進められています。
設計コンセプト
校訓の「無限求真」
、
「和気藹々」をテーマ
一体化によりアクセスが容易になった体育館には、ギャラ
リーを設置
とし、①学習環境として充実した学校づくり
―30―
可動間仕切りで連結
▲
技術室
コミュニティ
ルーム
PC室
音楽室
視聴覚室
WC
美術室
図書室
▲
夜間
玄関
普通教室
▲
WC
エントランス 生徒・職員
ホール
玄関
▲
普通教室
多目的
職員室
体育館
ギャラリー
校長室
可動間仕切り
で連結
多目的
普通教室
普通教室 多目的 普通教室
保健室
WC
普通教室
▲
ステージ
理科室
特別支援教室
WC
家庭科室
学年ユニットとして構成
1階平面図
2階平面図
エントランスホールから吹き抜けを見上げる
普通教室の腰壁に1階は杉を使用(2階は松)
江差をイメージしたエントランスのレリーフ
内部構成
は樹種による色味の違いがわかるよう制作し
ました。
普通教室は、学年ごとのユニットによる計
画としました。
2クラスと多目的教室、
学年専
おわりに
用トイレでユニットを構成することで、学年
ごとに独立した学習プログラムに対応するこ
『江差中学校』は、この先も何世代にもわた
とができ、
落ち着いた学習環境が整いました。
り多くの生徒を受け入れていきます。子供が
保健室に隣接させた特別支援教室は、プレ
地域に愛着をもって育っていくよう、
「地域
イルームを介して3室を設け、多様な生徒の
の核」となる学校として年輪を刻んでいくこ
生活の場としての機能を確保しました。
とを期待しています。
教育の場としてのしつらえ
建物概要
所 在 地
構 造・階 数
延べ床面積
設 計 者
仕上げには、生徒が多く過ごす空間を中心
に木を使用しています。環境教育の場とする
ため、階ごとに腰壁の羽目板の素材を変え、
―31―
江差町字陣屋町506番地
RC 造一部 S 造 2階建て
4,996.66㎡
株式会社アトリエブンク
北方建築総合研究所ニュース
北総研 NOW
カルチャーナイト2015(札幌市内で開催)に参
チカホ・サイエンスパークに「夢のまちマップ」
加しました
を出展しました
海の日の3連休を控えた平成27年7月17日㈮、札
平成27年8月5日㈬、札幌市赤れんが庁舎や札幌
幌市内の様々な施設を夜間解放して、
「カルチャー
駅前通地下歩行空間
(チカホ)
で、
「サイエンスパー
ナイト2015」
(主催:認定 NPO 法人カルチャーナ
ク」
(主催:北海道、道総研)が開催されました。
イト北海道)が開催されました。
このイベントは、小学生を対象とした「子ども
ʠカルチャーナイトʡとは、北欧が発祥で、普段
のための科学の祭典」として、夏休みに科学技術
は昼間しか見ることができない公共施設や文化施
を楽しみながら体験し、学ぶ機会を提供するもの
設、民間施設を夜間開放し、市民が地域の文化を
です。
楽しむ行事です。各施設がもっている専門分野や
北総研では、チカホの展示コーナーに「つなげ
特色を生かしたプログラムをその日のために提供
よう! 夢のまちマップ」を出展しました。子ど
します。
もたちに未来のまちを想像しながら折り紙や筆記
道総研では北海道総合研究プラザを解放し、北
用具を使って小さな地図を作ってもらい、それを
総研建築技術グループの植松武是主査が「あなた
つなげてひとつの大きな地図を作成し、まちがど
の住まいを守ります~リフォームによる地震に強
のようにでき上がっているのかを実感してもらう
くて省エネな家づくり」と題して講演する、リ
ものです。
今年は新しい取り組みとして、従来の『ひとり
フォームセミナーを開催しました。
「木造住宅の耐震と断熱を同時に行う改修には、
コース』に加え、
『グループコース』を設けて、子
いろいろなメリットがあります」
、
「わが家は地震
どもたちが相談しながらまちづくりに取り組むこ
に耐えられるのか、耐震診断のポイントを確認し
とができるエリアをつくりました。
、
「特別な技術や材料を用いるのではな
ましょう」
当日は夏休み中の小学生がたくさん訪れ、順番
く、どの地域の工務店においても施工が可能で
待ちができるほど大盛況となりました。札幌の最
す」
、
「道などで実施している無料の耐震診断も活
高気温が35℃近くになる暑い日で、チカホも相当
用しましょう」等、耐震性・省エネ性・耐久性を
な蒸し暑さでしたが、子どもたちは「町長さんか
同時に向上させる改修工法について、植松講師が
らのお願い」や「自分が住みたい将来のまち」を
具体的にわかりやすく説明しました。
思い描き、友達やきょうだい、家族と話し合いな
がら一生懸命描いてくれました。
参加者は、専門的な内容にも熱心に耳を傾ける
完成した地図は北総研 HP からご覧になれま
とともに、外張り断熱改修や地震発生時の実験映
す。
像の動画などに真剣に見入っていました。耐震断
熱改修の効果とともに、地震に備えることの大切
http://www.hro.or.jp/list/building/research/nrb/
さが PR できたことと思います。
koho/event/index.html
カルチャーナイトでの「リフォームセミナー」の様子
「夢のまちマップ」づくりに参加した子どもたちの様子
―32―
10月、11月の住宅講座のご案内
開催日時
10月9日㈮
14時~16時
11月27日㈮
14時~16時
場
所
テーマ
藤田観光ワシントンホテル 「屋根、外壁、断熱のリフォーム」
―計画的な点検・手入れで
旭川 2階ラベンダー
(旭川市宮下通7丁目)
省エネ長持ちの家―
「リフォーム工事費の目安を知って、
賢い選択」
―屋根・外壁・キッチン・浴室・
トイレなどの工事費は?―
かでる2.7
5階 520研修室
(札幌市中央区北2条西7丁目)
「旭川・帯広地域」業務区域拡大
講 師
建築確認申請手数料
延長!!
28年3月まで 割引キャンペーン
西代 明子氏
一級建築士事務所
西代企画設計・代表
(札幌市)
山本 明恵氏
恵和建築設計事務所・
代表
(札幌市)
問い合わせ・申し込み先
(一財)
北海道建築指導センター 企画総務部企画総務課
TEL 011-241-1893 FAX 011-232-2870
詳しくは、北海道建築指導センターのHPをご覧ください。http://www.hokkaido-ksc.or.jp/
会員765社
(9/15現在)「センター倶楽部ほっかいどう」
入会のご案内
4
センター倶楽部とは
センター倶楽部は、会員の皆さまとともに道内において質の高い住宅の供給を促進
する団体です。会費や入会金は一切いただきません。
● 会員の要件
・会の趣旨に賛同する方
・道内に事業所又は道内で事業を行う住宅関連事業者
● 会員の特典
・住宅建築に関する各種情報提供
・研修会、セミナー等への参加
・
「センター倶楽部ほっかいどう認定住宅」は、まもりすまい保険の団体向け保険料が
適用になります。
センターリポート編集委員名簿(敬称略)
● 認定住宅の要件
・まもりすまいの届出事業者
・住宅保証機構の「設計施工基準」への適合
・当会の品質管理基準に適合すること
(木造住宅の場合は、通気構法及び基礎の高さ400㎜以上)
◎入会を希望する方は、
「入会申込書」にご記入いただき、下記事務局に提出してください。
◎詳しくは、北海道建築指導センターのホームページをご覧ください。
森
谷口
谷
松田
早川
竹田
田村
清水
センター倶楽部ほっかいどう事務局(北海道建築指導センター内)
TEL:011-241-1893 FAX:011-232-2870 http://www.hokkaido-ksc.or.jp
傑
尚弘
吉雄
眞人
陽子
公典
北海道大学大学院工学研究院 教授
北海道科学大学工学部建築学科 教授
北海学園大学 名誉教授
(一社)北海道建築士事務所協会 理事・広報委員長
(一社)北海道建築士会 情報委員会副委員長
札幌市都市局市街地整備部住宅課
住宅企画係長
佳愛 北海道建設部住宅局建築指導課
建築企画グループ主査
浩史 (地独)北海道立総合研究機構(北方建築総合研究所)
建築研究本部企画調整部 企画課長
小林 幹夫 (一財)北海道建築指導センター
同
堀田 陽子
同
田中 雅美
センターリポート
Vol.45 No.3 秋号
平成27年10月1日発行
発行人
通巻194号
小林 幹夫
発行 一般財団法人 北海道建築指導センター
〒060-0003 札幌市中央区北3条西3丁目1番地
札幌北三条ビル 8階
TEL(011)241-1893
FAX(011)232-2870
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通巻 第194号 V O L.45 N O.3
OCTOBER 2015
194 秋号
北海道の住まいづくりをめざして
一般財団法人 北海道建築指導センター
写真撮影:株式会社エスエス
一般財団法人
北海道建築指導センター