別途資料 私たちの体を構成する細胞内では,分子モーターとよばれる

別途資料
私たちの体を構成する細胞内では,分子モーターとよばれるタンパク質群が,化学エネルギーを力
学的運動へと変換することで,多種多様な細胞運動を駆動しています.ミオシンモーターは,アクチ
ンという繊維状フィラメントの上を滑り運動することで筋収縮を引き起こします.キネシンとダイニ
ンとよばれる 2 種類の分子モーターは,細胞内レールである微小管上を直進運動することで,多様な
細胞内物質の長距離輸送を行います.これら 3 種類の主要分子モーターのうち,
『ダイニン』は,そ
の分子としての巨大さと複雑さゆえに研究が困難であり,分子モーターの中で唯一,その全体の立体
構造が判っていませんでした.
今回,私たちの研究グループは,細胞性粘菌がもつダイニンモーターを完全に機能する状態で結晶
化し,その立体構造を世界に先駆けて明らかにしました(図1).その結果,ダイニンは ATP を加水
分解する AAA+リングと呼ばれる部位から 2 本の長い脚が突き出した構造をしており,これら 2 本の
脚を構造変化させながら微小管上を移動していることがわかりました.また,力発生を担うレバーア
ーム様の構造(リンカー構造)が AAA+リングを跨ぐように位置しており,このレバーアームがスイ
ングすることにより力を発生していることを示唆する構造を見ることができました.これらの構造的
特徴は,従来知られていたミオシンやキネシンとは全く異なるものであり,ダイニンは,新しい運動
の仕組みによってレール上を運動する第三の分子モーターであることが明らかになりました.
ダイニンモーターはヒトの細胞内では,細胞内物質輸送や細胞分裂において必須の役割を果たして
います.また,精子の尾部に代表される繊毛・鞭毛の波打ち運動を駆動する唯一の分子モーターでも
あります.この度の研究結果は,これら生体に重要な細胞運動がどのような仕組みで駆動されている
のか,その基本的な仕組みを明らかにした重要な研究成果であるといえます.
図1:細胞質ダイニンの全体構造
リング状の AAA+構造の上をリンカー構造(紫)が橋渡ししており,長い脚のような構造部位(黄
色と橙色)が確認できる.微小管と呼ばれるレールと結合するのは,黄色の脚の先端の小さな球状部
分である.