8 - 素形材センター

「最近のプラスチック射出成形技術」
超大型電動射出成形機(型締力3,000トン)の開発
三菱重工プラスチックテクノロジー ㈱ 大 関 泰 明
バンパーに代表される自動車用大物部品成形の主要な課題である「ハイサイクル」、「薄肉化」等のニーズに対
応しながら、省スペース・省エネを可能にした世界初の超大型クラスの電動射出成形機「3000 em」について紹介
する。
置は成形サイクルを半減するために、大容量ダイレク
1.はじめに
ト駆動サーボモータと自動車部品材専用の MD(マル
プラスチック製品・部品を生産する射出成形機は、
チダム)メルタ付 UB スクリュを開発し、型締装置は
従来の油圧式に比べてクリーンで省エネ性に優れる電
新開発のセンタープレス構造で、パーティング面の口
動式が需要を伸ばしており、小型機から始まり、最近
開きを防止するバリレス成形を可能にすることを目指
1,000 トン以上の大型射出成形機まで電動化してきた
した。
が、サーボモータ容量や機械サイズの制約から 1,500
開発した 3000 em 機の外観を写真 1 に示す。
トンクラスが限界とされてきた。
また、図 1 に特にハイサイクルとバリレスを中心と
バンパーに代表される自動車用大物成形品におい
した高品質成形の実現技術を紹介する。
ても、生産性向上につながる「ハ
イサイクル」だけでなく、車体の
軽量化につながる「薄肉化」や車
体パネルやモジュール部品の「樹
脂化」が主要な課題になってきて、
大型でより複雑な形状の製品を、
安定して高精度・高品質に成形可
能な大型電動射出成形機の開発が
望まれていた。
写真 1
3000 em 機の外観
2.開発のねらい
主に自動車業界のバンパー成形
電動駆動
割ナット機構
電動型内圧波形制御
大容量ダイレクト駆動サーボモータ
電動高速可塑化装置
をターゲットとして、お客様のニー
ズ「加工費低減」
「材料費低減」
「ラ
ンニングコスト低減」を商品コン
セプトとし、環境への配慮(省エ
ネ、低騒音化)や、省スペース性
を保ちつつ 3,000 トンクラスの仕様
を満足させる手段として、当社で
長年実績のある 2 プラタン式型締
機構をベースに電動化によりハイ
サイクル化した。射出・可塑化装
電動駆動型開閉機構
(エジェクタラップ動作)
4点均等型締
センタープレス型締機構
ACサーボ駆動
+低騒音エコポンプシステム
図 1 高品質成形の実現技術
MDメルタ付UBスクリュ
最近のプラスチック射出成形技術
3.3000 em 機の特長
3.1 2 プラタン式型締機構による省スペース・省
エネ化
① 金型温度が変化しても型締力が変化しない。
② 偏心(オフセット)したキャビティ形状の金型や
セット取りを片肺成形しても型締精度を長期に維持
でき、寿命低下する個所が無い。
3000 em 機の最大の特長は、当社独自に開発した省
この利点を生かした em 機では次の様な成形が可能
スペース 2 プラタン式型締機構で、省エネ型低騒音の
である。
エコポンプシステムを採用することにより「世界最小
・ファミリモールド成形
機長の電動射出成形機」を実現したことにある。
・部分布張り成形(布張り部非対称)
3,000 トンクラスでは、世界的に見て油圧式射出成
しかし、この 4 点型締機構においてもトグル式型締
形機おいてもトグル式型締機構は、機長の問題と倍力
機構と同様にセンター押しの直圧式の油圧成形機と対
機構の構造からくる信頼性の問題から市場から大幅に
比して型盤端を支点とした型盤の湾曲変形を相対的に
減少し、2 プラタン式型締機構が主流となっている。
剛性の低い金型に影響を与えやすいという弱点があっ
当社は、長年にわたって培ってきた 2 プラタン式型締
た。その結果、金型パーティング面は、中央部に隙間
機構の設計ノウハウをベースに 3,000 トン用に電動型
が発生しやすく、型内圧がゲート周辺で高くなるので
開閉機構と電動駆動割ナット機構を新たに開発した。
口開きが生じて、バリが発生する傾向が見られた。
①型開閉動作は、操作・反操作側に配置された一対の
そこで金型口開き変形解析手法をもとに、金型合わ
ボールねじを各軸のサーボモータ制御に当社独自に
せ面の均一性を確保できる当社独自の分割型センター
開発した同期制御システムを採用、高応答な型開閉
プレス型盤を開発した。センタープレス型締機構と従
を実現し型開閉ドライサイクルを従来油圧機対比で
来の 4 点型締機構及びトグル式型締機構との比較を図
20%短縮した。
2 に示す。センタープレス型締機構は、以下の設計コ
②電動駆動割ナット機構についても、ボールねじと
サーボモータによる駆動方式を採用した。油・空圧
ンセプトで型締装置と金型構造を構造連成解析し最適
化した。
方式では難しい 4 つの割ナットの同時開閉を実現
し、0.7 秒で開閉が可能になった。
③型締力は、型閉し自在構造のタイバーを割ナットで
ロックした後、ショートストロークの型締シリンダ
を昇圧して発生させる。型締油圧は、必要な時のみ
サーボモータにより起動、可変、停止させる新型低
騒音エコポンプシステムにより高精度で省エネ制御
される。この油圧ポンプシステムは、金型の油圧コ
アプル作動にも使用され大径のコアプルシリンダに
対応できるよう最大 150ℓ/min まで可変に流量制御
図 2 センタープレス型締機構による金型合わせ面
口開き(バリ)の低減 できコアプル動作を短縮できる。この油圧源が
ビルトインされているのでシャットオフバルブ、
バルブゲートやクランパの対応が容易である。
以上のように大幅なドライサイクル短縮と安定
した型締力および省エネルギーを両立させること
ができた。超大型機分野において、
このハイブリッ
ド型が主流になっていくと思われる。
3.2 4 点均等型締センタープレス型締機構
2 プラタン式型締機構は、タイバー 4 本に均等
な型締圧力をかける機構のため、トグル式型締機
構に対して次の利点がある。
図 3 金型口開き変形解析
ダイレクト駆動サーボモータ
図 4 大容量ダイレクト駆動サーボモータと射出軸同期制御
① 固定盤・可動盤ともタイバーの
荷重点から型盤中央部に力線
が流れるようなリブ構成とし
直圧と同様な荷重均一性をめ
ざす。
② 金型取付け面は、型締力によ
る変形を受けない。
③ 型盤本体と金型取付け面は、
分割構造とする。
図 5 ダイレクト駆動射出
この構造の金型パーティング
面の口開き解析結果と従来型の
4 点型締機構と対比した結果を図 3 に示す。ゲート周
りの口開き量は大幅に改善されておりバリを大幅に減
らす事が期待できる。
3.3 大容量ダイレクト駆動サーボモータと多軸同
期制御による薄肉成形対応
射出装置は、バンパー成形で必要な低圧・高速射出
を実現し、精度維持とメンテナンス性からベルトレス
となるダイレクト駆動サーボモータの 4 軸同期制御を
採用することを計画し、中型電動機で開発した 2 軸同
期制御のダイレクト駆動サーボモータをベースにサイ
サーボモータと 4 軸同期制御システムにより低慣性化
と応答性向上を図ることができ油圧成形機でしか実現
できなかった 「 型内圧波形制御 」 を電動射出成形機に
おいても可能にした。
図 6 にバンパー成形における電動型内圧波形制御時
の樹脂流動シミュレーション結果を示す。型内圧の立
上がり時にも安定に制御されており収束性が良い事が
わかる。この 「 電動型内圧波形制御 」 と 「 多点ゲート
充填(シーケンスバルブ制御)」 により安定した低型
内圧成形が可能になった。
ズアップと積層アップして大容量化
を実現し、同期制御の高速化するこ
とで 4 軸同期制御を開発した。これ
により射出機構の慣性を低減して薄
肉成形に重要な速度応答性を向上さ
せ、ベルトの伸びやズレなどによる
制御精度安定性の阻害要因を排除し
た。また、ベルトによる騒音、発塵
をなくした(図 4、図 5)。
またこの大容量ダイレクト駆動
図6
バンパー成形における型内圧波形制御時の
樹脂流動充填シミュレーション結果
最近のプラスチック射出成形技術
図 7 バンパー成形における型内圧低減効果
図 7 にバンパー成形における型内圧低減効果を示
る混練性向上と樹脂温度の均一化はバンパーの品質確
す。先述したセンタープレス型締機構との相乗効果に
保には不可欠である。
よりバンパー成形におけるバリ発生を防止する事がで
当社が他社に先駆けて適用して御好評いただいてい
きる。
るダブルフライトタイプの 「UB スクリュ 」 は、ダム
3.4 バンパー専用 MDメルタ付 UB スクリュ
クリアランステーパ(当社特許)の「クローズドダム」
バンパー成形にて 30秒サイクルを実現する為にはこ
により未溶融樹脂を通過させない。図 8 に示すように
のサイクルで可塑化能力 860 kg/h
(バンパー重量:4.3 kg)
この UB スクリュの先端にマルチダムミキシング 「MD
が必要でありスクリュ回転 167 rpm の高速回転で樹脂
メルタ 」 を装着し、ハイサイクル成形時の混練性能向
温度ばらつきを 5℃以内とする事が重要である。
上を図った。
特に未溶融樹脂の混入防止(未溶融レス成形)によ
図 8 MDメルタ付 UBスクリュ
図 10 バンパー成形時の可塑化能力
図 9 MDメルタの溶融機構
図 9 に 「MDメルタ 」 の溶融機構
を示す。
多角形断面形状を持つマルチダム
により可塑化能力を落とすことな
図 11 樹脂温度ばらつき
く、未溶融樹脂に最適な剪断、分割
作用を与える。
本スクリュのバンパー成形時に計測した可塑化能力
4.おわりに
を図 10 に示す。30 秒のハイサイクル成形時にも目標
3000 em の導入により生産性が向上し、当初のニー
の可塑化能力を十分クリアする。また、同じハイサイ
ズを充分に満たす成果が得られたとの評価をお客様よ
クル成形時に計測した樹脂温度のばらつきを図 11 に
り頂いている。
示す。このデータは、ノズル部でのスクリュストロー
今後は、高精度成形が可能な本機を中核として、生
ク方向の温度分布を高感度の 4 対式熱伝対で計測した
産品変更時の金型予熱システム追加により、垂直立ち
ものである。「MDメルタ付 UB スクリュ 」 の樹脂温度
上げを目指したオンデマンド成形システムやサブ射出
ばらつきは、5℃以内であり、溶融樹脂の可塑化品質
ユニットと金型回転盤を組合せた異材複合成形システ
は格段に向上した事がわかる。以上から 「MDメルタ
ムへの展開など、新たなニーズにお応えする製品開発
付 UB スクリュ 」 の採用により汎用のインライン型ス
を行うことで、日本のものづくりの更なる進歩発展に
クリュユニットにて高速バンパー成形を実現できるこ
貢献していきたい。
とがわかった。
三菱重工プラスチックテクノロジー株式会社 開発部
http://www.mhi-pt.co.jp/
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