ビジュアルコミュニケーションと支える技術 –品質を支える仕組

平 成 26 年 8 月
IP 電 話 普 及 推 進 センタ
技 術 解 説 第 7回
『ビジュアルコミュニケーションと支 える技 術 –品 質 を支 える仕 組 -』
ビジュアルコミュニケーションにおける サービス品 質 ( QoS)には、 IP 電 話 と 同 様 の 音
声 品 質 と 映 像 品 質 があります。 IP ネットワーク上 における音 声 品 質 を保 証 する技 術 は、
技 術 解 説 第 3 回 で解 説 しました。ここではビジュアルコミュニケーションの品 質 を良 くす
る 上 で、 音 声 品 質 の 確 保 と 共 通 の 技 術 と 映 像 に特 有 の技 術 、 音 声 と 映 像 を 同 期 す る
技 術 について解 説 します。
ビジュアルコミュニケーションの品質
●音 声 品 質 の確 保 と共 通 なしくみ
ビジュアルコミュニケーションでは、音 声 と映 像 の両 方 を取 り扱 います。 IP ネットワーク
でサービス品 質 を保 つには、音 声 と映 像 の IP パケットが安 定 して通 信 できるような設 計
が必 要 となります。
そのため には 音 声 や 映 像 の 帯 域 を 検 討 し 、 音 声 や 映 像 を 送 る ネ ッ ト ワー クを予 定 し
ている通 話 数 ・会 議 数 に十 分 な帯 域 を確 保 するように設 計 します。
また会 議 の開 始 時 に会 議 サー バ( H.323 ゲ ートキー パなど) が帯 域 制 御 を行 い、 予
め決 まった数 以 上 の接 続 は行 わせないといった運 用 が必 要 です。
ネットワーク上 の伝 送 機 器 (ルータ、LAN スィッチなど)では、音 声 や映 像 の優 先 制 御
による 品 質 の確 保 を行 うことができます。ただ、 映 像 に関 しては企 業 のポリシーにもより
ますが、データ量 が多 いこともあり優 先 制 御 をしないことが多 いです。
●映 像 に特 有 のしくみ
映 像 パケ ッ ト が欠 落 す る 事 によ って 品 質 が劣 化 す る と 映 像 が乱 れ ます 。こ れに対 応
する技 術 として、あらかじめ冗 長 なパケットを付 加 しておくことにより欠 落 を補 う前 方 誤 り
訂 正 (FEC)という技 術 や映 像 を再 生 しながら必 要 なパケット だけ再 送 要 求 を行 うパケ ッ
ト 再 送 機 能 (ARQ)と い った 技 術 が あり ます 。 以 下 の 説 明 は 簡 単 化 し たも ので、 実 際 に
はビジュアルコミュニケーションの製 品 やサービス毎 により 高 度 なアルゴリズムが使 われ
ています。
①前 方 誤 り訂 正 (FEC, Forward Error Correction )では、送 信 側 のシステムによって送
信 デー タストリーム に冗 長 データ が付 加 されて送 信 さ れる。 そのため、 受 信 側 に一 部 の
データが到 着 しなかった場 合 、送 信 側 にデータの再 送 を要 求 することなく、冗 長 データを
使 用 し てエラーを検 出 し、 実 装 されたアルゴリズムを使 用 してエ ラーを訂 正 することがで
きます。図 1 に FEC の概 念 図 を示 します。
図 1:前 方 誤 り訂 正 (FEC)の概 念 図
②パケット再 送 機 能 (ARQ, Automatic Repeat reQuest)は、受 信 側 でパケット損 失 を見
つけると送 信 側 に伝 え、送 信 側 が損 失 したパケットを再 送 する エラー回 復 方 法 です。基
本 的 な仕 組 は、 全 てのパケット にシ ーケンス番 号 とタ イムスタンプが付 与 さ れており、 受
信 側 ではそのシーケ ン ス番 号 を見 てパケッ ト 損 失 を検 出 する とい うものです。 受 信 側 で
パケット 損 失 を検 出 する と 再 送 要 求 を送 り ます。 送 信 側 では送 信 済 みのパケ ット をバッ
ファに保 存 し ており 、 そこ から損 失 パケッ ト を再 送 し ます 。 受 信 側 では 再 送 パケ ッ ト を含
む受 信 したパケットを正 しい順 に並 べ替 えてデーコーダに送 ります。以 下 に ARQ の概 念
図 を示 します。
図 2:パケット再 送 機 能 ( ARQ)の概 念 図
また、 映 像 コ ー デッ クにおける 画 像 情 報 を圧 縮 す る 仕 組 み ( ※) を利 用 して、パケッ ト
が欠 落 し た際 に 映 像 の乱 れを補 正 することが出 来 ます。パケ ット 欠 落 時 に、キー フレー
ムの再 送 要 求 を 行 ってそれ以 降 の 映 像 の表 示 に影 響 が出 ない よ うにし ます。 図 3 にキ
ーフレームと再 送 されるイメージを示 します。
画面(フレーム)
差分
データ
画面1
キーフレーム
キーフレーム1
画面2
差分
データ
画面3
前画面との
差分データのみ
差分2
差分3
パケット損失が
大量に起きた
画面N キーフレーム
一定時間ごと、または
大きな画面変化で送信
キーフレームN
時間軸
キーフレームを再送する
図 3:キーフレームと再 送 について
※第 5回 で解 説 した映 像 コーデックについて補 足 します。 ITU-T H.264 などの映 像 コー
デックでは伝 送 する情 報 量 を削 減 ( 圧 縮 という)するため、画 面 が切 り 替 わったとき基 本
となる画 像 (キーフレーム)と、その差 分 データを送 る方 式 を採 用 しています。
●映 像 と音 声 の同 期 について(リップシンク)
映 像 と 音 声 は別 々に 映 像 パケ ッ ト、 音 声 パケ ッ トと して送 信 さ れます 。 音 声 と 比 較 す
ると圧 倒 的 に映 像 の情 報 量 の方 が多 い 上 に、 IP ネ ット ワーク上 の優 先 度 は 一 般 的 に
音 声 が映 像 より高 く設 定 されており 、映 像 と音 声 がずれて再 生 されることがあります。
ビデ オ会 議 など 、 リア ルタ イム に映 像 や音 声 を 見 ながら 会 話 をす る よ うな状 況 では、
これはかなりストレスになり、快 適 な利 用 を妨 げることになります。
受信側
送信側
エンコード
映像
コーデック
音声
こんにちは コーデック
②
デコード
IPネットワーク
口の動きが
遅れる
映像
コーデック
②
①
同時に
出たパケット
①
:映像パケット
:音声パケット
音声
コーデック
遅れる 届く
こんにちは
図 4:音 声 パケットと映 像 パケットがずれて到 着 する問 題
これに対 応 するためリップシンク(※)という、受 信 側 で映 像 と音 声 の同 期 を取 る 技 術
があります。リップシンクは受 信 側 でデコード処 理 をするときに、 IP ネットワーク上 で使 わ
れる RTP プロトコルの同 期 情 報 (同 期 送 信 元 識 別 子 やタイムスタンプ)を 参 照 して、映
像 と音 声 の同 期 を取 ります。
し かし 、 リ ッ プ シ ン クを 使 うこ と で 遅 延 が 発 生 す る と い う 欠 点 もある た め 、 ネ ッ ト ワー ク
品 質 が高 い場 合 には使 う必 要 はありません。
※リップシンク(Lip Synch、Lip-Synching):くちびる(Lip)の動 きと 音 声 を同 期 させる技
術
データ共有技術
ビジュアルコミュニケーションを有 効 に活 用 するため、ビデオ会 議 システムや Web 会
議 システムでは、 会 議 への参 加 者 同 士 が資 料 を共 有 する 機 能 を提 供 してい ます。こ れ
をデータ共 有 と呼 びます。
●データ共 有 とは
ビジュアルコミュニケーションでは、映 像 や音 声 だけでなく、資 料 を共 有 する事 が非 常
に大 切 です。それはプレゼンテーションや研 修 を行 うときの講 演 資 料 、会 議 を行 うときの
会 議 資 料 や議 事 録 など を考 えれば分 かります。これ らを個 別 にファイルや紙 など を送 っ
て準 備 するのではなく、システムの機 能 として提 供 することで効 率 化 がはか れます。
●代 表 的 なデータ共 有 方 式
ここでは表 1 に代 表 的 なデータ共 有 について示 します。
データ共 有
ファイル共 有
アプリケーション共 有
(H.239 対 応 )
対 応 端 末 ・H.323 ビデオ会 議 端 末 ・PCタイプ端 末
・PCタイプ端 末
(専 用 端 末 )
・PC タイプ端 末
標 準 対 応 ITU-T の H.239 標 準
特徴
帯域
各 社 の独 自 方 式
各 社 の独 自 方 式
ビ デ オ と デ ー タ の 2 つ の 共 有 するデータをファイル ア プ リ ケ ー シ ョ ン の 画 面 を
映 像 を同 時 に送 受 信 す で最 初 に送 る
複 数 の 端 末 に 送 信 し て共
る
有
追 加 の デ ー タ の 映 像 は フ ァ イ ル 送 信 時 に 、 一 時 元 の映 像 音 声 の帯 域 とは
元 の 映 像 音 声 の 帯 域 的 に大 きいトラヒック
別 に帯 域 が必 要
を共 有
操 作 / 書 き 共 有 元 のみ操 作 可 能
会 議 の 発 言 者 が 操 作 可 共 有 元 が操 作
込み
能 (※1)
(許 可 により他 端 末 からの
操 作 が可 能 ) (※1)
表 1:データ共 有 方 式 の例
・H.239 対 応 データ共 有 は、ビデオ会 議 で2つ以 上 の映 像 (参 加 者 映 像 と資 料 データな
ど)を送 受 信 できます。標 準 に基 づくため、マルチベンダや PC タイプ端 末 と専 用 端 末 の
両 方 が使 えるなど相 互 接 続 性 に優 れています。
また、データ共 有 の時 も元 から使 っていた通 信 の帯 域 の一 部 を追 加 さ れたデータのチャ
ネルが使 うなど、使 用 帯 域 に配 慮 しています。
・ファイル共 有 機 能 は、 Web 会 議 でよく使 われてい ます。 共 有 するデー タを予 め 相 手 に
送 信 し、 同 じファイルを同 期 さ せて共 有 する 方 式 です。ファイル送 信 時 に一 時 的 に大 き
な帯 域 を使 い ますが、その後 はほと んど帯 域 を使 わないと 言 う利 点 があります。各 社 の
独 自 方 式 なので、相 互 接 続 性 は劣 ります。
・アプリケーション共 有 機 能 は、アプリケーションの画 面 を複 数 の端 末 に送 信 して共 有 す
る方 式 です。 同 じアプリケーシ ョンを各 端 末 で操 作 できるため、コラボレーションを行 なう
ケースで有 効 です。
※1 各 社 の独 自 方 式 のため、操 作 性 は異 なる可 能 性 があります。