HAYS JOURNAL ISSUE 10 – LEADERSHIP PROFILE (P.28) リーダーシップの化学反応 製薬業界でさまざまな職種を経験したことで、ダポ・Ajayi ⽒は優れたリーダーの特質を⾒極める卓越した視野を ⾝につけることとなりました 幹部プロフィール ̶ ダポ・Ajayi(DAPO AJAYI)⽒ 英国の製薬会社 AstraZeneca の最⾼調達責任者(CPO)である Dapo Ajayi ⽒は、現職への就任についてはっ きりとしたプランを描いていたわけではなかったといいます。2014 年 4 ⽉に CPO に任命されるまで、Ajayi ⽒は製造から、 サプライチェーン、総合管理、グローバルマーケティングに⾄るまで、相互に関連しあうさまざまな分野――いずれも AstraZeneca もしくはその⼦会社での勤務――で経験を積んできました。 薬剤師の資格を持つ Ajayi ⽒は、⼤学院⽣のときにキャリアをスタートさせ、その後、1986 年にインペリアル・ケミカル・ インダストリーズ(ICI)社に⼊社。最初は医薬品開発に携わっていましたが、やがて製造分野へと興味が移っていった といいます。「初めのころは、若⼿のプロダクションマネージャーとして製造と品質パフォーマンスの管理を任されていました。 やがて、⼯場の品質パフォーマンスが⾃分 1 ⼈の努⼒ではどうにもならないことに気づかされたのです」と Ajayi ⽒は語り ます。「私のもとで働いてくれるチームの協⼒も必要になってきます。リーダーシップが重要であり、すべてのリーダーが⾃分 の率いるチームに対し価値提案を⾏う必要があるのだということを再認識しました」 1995 年には、Ajayi ⽒は英国の製造部⾨の上級職に昇進しました。数年間そのポストを務めた後、さらに経験の幅 を広げる必要があることに気づいたといいます。「その時まで、私は英国以外の国で仕事をしたことがありませんでしたが、 AstraZeneca ではグローバルなビジネスを展開していました」と Ajayi ⽒は話します。「予備的な話し合いを重ねた結 果、グローバルな職務への異動が決まり、現在に⾄っています」。国際プロジェクト管理の責任者というこのポジションに 就くことで、Ajayi ⽒は異⽂化に触れることができたといいます。そして 2005 年には、英国事業の責任者に就任し、チェ シャー州マックルズフィールドおよびブリストル近郊のアブロンにある英国拠点の事業を任せられることとなりました。 ダポ・Ajayi ⽒の略歴 1987 年:英国王⽴薬剤師会に⼊会 2005〜2008 年:AstraZeneca 英国事業責任者 2006 年:AstraZeneca CEO Award for Leadership 受賞 2008〜2010 年:AstraZeneca プエルトリコ 社⻑兼ゼネラルマネージャー 2010〜2011 年:AstraZeneca グローバルマーケティングセールス&オペレーションズ部⾨コーナーストーンブラン ド担当バイスプレジデント 2012〜2014 年:オペレーションズ部⾨グローバルエクスターナルソーシング担当バイスプレジデント 2013〜2014 年:ハーバードビジネススクールのエグゼクティブリーダーシップ開発プログラム修了 2014 年〜:AstraZeneca 最⾼調達責任者 「グローバルなビジネスリーダーを⽬指すには、異なる⽂化圏で働く必要があった」 国際的な場での活躍 Ajayi ⽒がリーダーとして⼤きく成⻑することになったのは、IPR Pharmaceuticals の社⻑兼ゼネラルマネージャーとして、 カリブ海の島国、プエルトリコの事業を率いる機会を⼿にしたことがきっかけでした。このことは、仕事のために、夫と⼦ども と共に初めて英国を離れることを意味してもいました。「上司の⾔葉を今でも覚えています。グローバルなビジネスリーダー を⽬指すのなら、まったく異なる⽂化圏の組織を率いる経験をする必要がある、と⾔われました」と Ajayi ⽒は話します。 「夫は仕事を持っていましたから、このことが彼にとってどのような意味を持つのかじっくり考える必要がありました。また私た ちには息⼦が 2 ⼈いて、上の⼦は⾼校進学をひかえていました。それでしばらく考えたのですが、いろいろ問題はあるもの の、⾏って得られる経験のほうが⼤きいという結論に達したのです」 プエルトリコで過ごした 2 年間、Ajayi ⽒はこの国の⽂化にすっかり溶け込み、部下たちと仕事上だけでなく個⼈的にも 親しくなりました。「その⼟地で⽣活し仕事をしているチームのメンバーと、時間をかけて親しくなることで、⽂化の違いにつ いて学ぶことができます」と Ajayi ⽒は⾔います。「駐在員だけで集まり、閉ざされた世界で暮らしていては、このような違 いを真に理解するチャンスは得られないと思います」 また彼⼥は、⾃分の判断を信じることを⾃然に⾝につけていったといいます。「プエルトリコはハリケーンの多発地帯です。 ハリケーンが近づいてきたら、休業にして社員を帰宅させるかどうか決めなければなりません。全員が決断を待っています」 と Ajayi ⽒は当時を振り返ります。「電話で誰かに相談することはできません。⾃分で決めなければならないのです。権 限が与えられていることを実感しました。この経験が、私をリーダーとして成⻑させてくれたと思います」 ですが、リーダーに求められるほかの資質は、より普遍的なものだったようです。「⽂化の違いにかかわらず、個⼈がリーダ ーに期待することは世界中どこでも共通しています」と Ajayi ⽒は⾔います。「社員は明確な⽅向性とビジョンを期待して います。実際に会うことができ、時間をかけて社員と触れ合い、個⼈として⾃分たちを尊重してくれる。そんなリーダーを 求めているのです。また彼らは、権利の⾏使を妨げる障害を取り除いてくれる⼈物を求めています。これらは、プエルトリコ、 中国、イタリア、アメリカのどの国の社員にも当てはまることです。理想のリーダーとしての基本を⾒失うことなく、⽂化の違 いに合わせて⾃分のスタイルを変えることを学びました」 しかし、その 2 年後、彼⼥は帰国の必要性を感じるようになります。⼦どもたちが英国の学校への⼊学を望んだこともあ りましが、グローバルな戦略的マーケティングのポジションにひかれたことが⼤きかったといいます。「オペレーションとサプライ チェーンという慣れ親しんだ仕事とは 180 度異なる分野への異動でした」と Ajayi ⽒は当時を振り返ります。「それまで の経験を活かせるだけでなく、新しい事を学び、会社のまったく別の分野で働くことができる絶好のチャンスでした」 ビジョンを⾒定め、社員を⿎舞する このような幅広い経験と、グローバルで分野横断的なバックグラウンドを持つ Ajayi ⽒が、3 年後に AstraZeneca の調 達部⾨の責任者に昇進することはごく⾃然なステップのように思われました。「上司の⾒⽅は、私には国外で仕事をした 経験があるのに加え、ビジョンと戦略、幅広い⼈脈、⼈を⿎舞する⼒といった、リーダーとしての多様な資質が備わってい るというものでした」と Ajayi ⽒は⾔います。「これらはあらゆる上級管理職に求められる前提条件である、というのが私の 考えです。かならずしも調達部⾨での勤務を希望していたわけではありませんが、絶好の機会のように思われました。 AstraZeneca が新しい⼤胆な⽬標に向かって歩み出そうとしているときに変化をもたらすことができるチャンスだと考えた のです」 事業変⾰の⼀環として、ロンドンからケンブリッジへの本社の移転が進められており、多数の英国の調達リーダーがすでに ケンブリッジに着任し、科学部⾨と連携して働いていました。新⼊社員の採⽤もすでに終わっており、チームに合流するこ とが決まっていました。「2016 年にかけて、継続的に移⾏作業が進められています」と Ajayi ⽒は⾔います。「最⼩必要 ⼈数の調達リーダーを英国のケンブリッジに集め、オペレーションと業務機能をサポートする⼤規模な調達チームを、イン グランド北⻄部に引き続き配置する予定です。ですが、調達部⾨はグローバル組織であり、世界中のさまざまな事業部 内にチームを置いています」 さらに Ajayi ⽒は、ワルシャワで進められている AstraZeneca のグローバル調達サービスチームの⽴ち上げの指揮をとっ ています。同サービスチームは、戦略的調達に重点を置き、さまざまな地域を拠点とする調達ビジネスパートナーのサポ ートにあたる予定です。 AstraZeneca では、サプライチェーンのパートナーのイノベーションの活⽤を⽬指し、主要なサプライヤーと親密な関係を 築くことに⼒を⼊れています。「当社は多くの外部サプライヤーと取引をしており、このことをサプライヤーと協⼒関係を結び、 新たな洞察やイノベーションにアクセスするための絶好の機会として捉えています」と Ajayi ⽒は⾔います。「よって、サプラ イヤーと AstraZeneca の関係を良いものにするために、どうすれば調達の機能を活性化・発展させることができるのかに 着⽬しています」 このような取り組みの⼀環として、現在同社は、関係にもとづくスキルを向上させることを⽬指し、調達リーダーのスキルア ップに重点的に投資を⾏っています。「サポートにあたっている機能部⾨との間に良好な関係を築き、サプライヤーとつな がりを持つことが⼤切です」と Ajayi ⽒は⾔います。「今年末までに、100 ⼈以上の調達リーダーに、ビジネスパートナリ ングスキルの強化を⽬的としたプログラムを受講してもらうことにしています」。また Ajayi ⽒は、社員が⾃分のスキルレベ ルと改善が必要な個所を⾒極めるための調達能⼒フレームワークの開発に取り組んでいるほか、他の機能部⾨と緊密 に協⼒して、プロセスの簡素化を図り、社内業務をより効率的に進める⽅法を探っています。 多くの機能部⾨がそうであるように、Ajayi ⽒と彼⼥のチームにとっても⼈材の確保と維持は常に課題の 1 つであり、総 合 HR ビジネスパートナー(HRBP)に現在そして将来の⼈材計画の⽀援を依頼しています。「HRBP は、調達リーダ ーシップチームの⼀員として、AstraZeneca が組織としてどのように進化していくのか、そして調達部⾨がそれを反映す るにはどう進化すればいいのかを⼀緒に考えてくれています。そのうえで、能⼒があると思われる⼈物を部⾨内に配置し、 それらの⼈材のための強⼒な開発チャネルを整備するために共に取り組んでくれています」。これらの取り組みには、ソー シャルメディアを利⽤するなどして、⼈材を引きつけるために雇⽤主としてのブランド⼒を開発することも含まれます。 多様性を重視 Ajayi ⽒にとっては、ダイバーシティ(多様性)も優先事項の 1 つであり、特に⼥性の上級管理職を増やすことや、さま ざまな国籍のリーダーを雇⽤することに積極的に取り組んでいるといいます。 「あらゆる企業がまず実践する必要があるのは、多様性がビジネスの強みになるという認識をしっかりと持つことです」と Ajayi ⽒は⾔います。「これまで私はいくつものチームに所属してきましたが、特に優れたチームの特徴として、ジェンダー、 地域、考え⽅などの⾯で多様性に富んでいるということがあげられます」 また Ajayi ⽒は、仕事での成功と他の優先事項とのバランスを取ることが可能であることを⼥性たちに⾝を持って⽰すな ど、若⼿の指導の重要性を強く主張しています。「⾃分たちも同じ⼈間なのだということを若い⼈たちに伝えることは、私 のような上級管理職の役割の 1 つです」と Ajayi ⽒は⾔います。「リーダーになって間もない⼈たちのなかには、私たちの ことを⽇々の⽣活の⼼配をしなくていいなどと考えている⼈もいるようです。ですが、家の⾷材を切らさないよう気を配らな ければならない点では、私もほかの⼥性と同じです」。さらに、組織の果たす役割も重要だと彼⼥は⾔います。組織は、 柔軟な働き⽅を採⽤しつつ、それがキャリアアップの妨げにならないように注意する必要があるというわけです。 Ajayi ⽒がこれまで経験してきたキャリアの幅広さを考えれば、数年先の決まったプランにコミットすることにためらいがある のも無理からぬことかもしれません。「私はこれまで、はっきりとしたキャリアプランを⽴てたことはありません」と Ajayi ⽒は⾔ います。「常に精⼀杯努⼒をし、困難な職務に挑戦してきました。その結果、会社に価値をもたらすことができたのです。 今の職務はとても刺激的で、現状に満⾜しています。ですが、意欲を掻き⽴ててくれるチャンスを探すことをやめるつもり はありません」 「とはいえ、仕事がすべてというわけではありません」と Ajayi ⽒は⾔います。「上の息⼦は⼤学⽣になったばかりで、下の ⼦も来年進学をひかえています。⺟親として、⼦どもが巣⽴った後の寂しさに慣れる必要があります。ですが、これも私と 夫にとっての新たなチャンスだと考えています」
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