プラスチック上への薄膜転写プロセスの開発 的場彰成* 奥谷潤* 筒口善央* 米澤保人* 中 田 祐 次 郎 ** 松 岡 樹 ** 川 江 健 ** 森 本 章 治 ** チ タ ン 酸 ジ ル コ ン 酸 鉛 (PZT)は 優 れ た 圧 電 特 性 を 示 す 材 料 し て 知 ら れ て い る が , そ の 作 製 に は 高 温 プ ロ セスが必要である。そのため,樹脂や衣服などの耐熱温度が低い基材の上に作製することができない 。こ れが解決できれば,例えば脈拍などのメディカル情報の測定機能を持たせた衣服の開発に繋がる。 そこで 本 研 究 で は , 500 o C以 上 の 高 温 プ ロ セ ス が 必 要 な PZT 膜 を 耐 熱 温 度 が 200 o C以 下 の プ ラ ス チ ッ ク 上 に 作 製 す る PZT薄 膜 の 転 写 プ ロ セ ス を 検 討 し , PZT膜 の 剥 離 に 酸 化 カ ル シ ウ ム (Ca O)及 び 酸 化 マ グ ネ シ ウ ム (MgO)の 潮 解 性 を 利 用 す る こ と で , プ ラ ス チ ッ ク 上 に PZT膜 を 形 成 す る 方 法 を 確 立 し た 。 キ ー ワ ー ド : 転 写 , 潮 解 性 , チ タ ン 酸 ジ ル コ ン 酸 鉛 (P ZT) Development of Transfer Process of Film onto the Plastic Akinari MATOBA, Jun OKUTANI, Yoshiteru DOUGUCHI, Yasuto YONEZAWA, Yujiro NAKADA, Tatsuru MATSUOKA, Takeshi KAWAE and Akiharu MORIMOTO Although it is known that lead zirconate titanate (PZT) has superior piezoelectric properties, a high temperature fabrication process is required for its fabrication. Therefore, PZT can not be fabricated on the substrate with low heat resistance, such as plastic, and textiles. If this problem is solved, for example, it leads to the development of the clothes with the function measuring medical information, such as a pulse. In this study, we studied the transfer process which PZT film fabricated in more than 500 degree fabricated on the plastic substrate of 200 degree or less heat-resistant temperature. Then, deliquesce of calcium oxide and magnesium oxide are used for the transfer of PZT film. As a result, it is established the process which PZT film fabricates on the plastic substrate. Keywords : transfer, deliquesce, lead zirconate titanate (PZT) 1.緒 言 プ ロ セ ス が 必 要 な PZT膜 の 形 成 を 可 能 と す る 薄 膜 転 写 チ タ ン 酸 ジ ル コ ン 酸 鉛 (PZT)は , 優 れ た 圧 電 特 性 を プロセスを検 討した。 持 つこ とか ら圧 電セ ンサ とし てよ く用 いら れる 。しか 2.作製及び測定方法 し , 十 分 な 圧 電 特 性 を 得 る た め に 作 製 に は 500 o C以 上 の高温プロセスが必要であり,これまで耐熱温度が o 2.1 PZT膜の作製 200 C以 下 の 樹 脂 基 板 や 衣 服 の 上 に 作 製 す る こ と は で パ ル ス レ ー ザ 堆 積 (PLD) 法 1) に て , Si 基 板 上 に き なか った 。も し耐 熱温 度の 低い 基板 上に 作る ことが PZT/STO/CaO及 び PZT/STO/a-MgOを 作 製 し た 。 各層 の 可 能と なれ ば, 例え ば衣 服に 人体 の心 拍数 や体 温など 作 製 条 件 を 表 1に 示 す 。 膜 厚 は CaOを 1m及 び 20m, の メデ ィカ ル情 報を 測定 する 機能 を付 加す るこ とが可 a-MgOは 1m, PZTは 1mと し た 。 チ タ ン 酸 ス ト ロ ン 能となる等, 医療分野を中心に開発が望 まれている。 チ ウ ム (STO)は PZT作 製 の ため の バ ッフ ァ 層 で ある 2) 。 そ こ で本 研究 では ,潮 解性 を持 つ酸 化カ ルシ ウム膜 CaO及 び MgOは 潮 解 性 を 持つ た め 純 水に 曝 す こ とに よ (CaO)及びア モル ファ ス酸 化マ グネ シウ ム (a-MgO)膜を っ て PZT膜 を Si基 板 か ら 剥 離 さ せ る こ と が 可 能 と な る 。 PZT膜 と 基 板 と の 中 間 層 と し て 用 い る こ と で , 耐 熱 温 形 態 観 察 及 び 結 晶 構 造 解 析に は 潮 解 性 の 高 い CaO, 電 o o 度 200 C以 下の プ ラス チッ ク基 板上 に 500 C以上 の高温 気 特 性 測 定 に は PZT薄 膜 作 製 時 に 用 い ら れ る a-MgOを 用いたサンプ ルを使用した。 * 電子 情報部 ** 金 沢大学 表1 2.3 PZT/STO/CaO or a-MgOの作製 条件 ターゲット 堆積温度 ( o C) レーザエネルギ ー(mJ) 繰り返し周波数 (Hz) a-MgO 600 STO 600 PZT 600 150 150 150 150 の短縮が求められる。また,転写の前後において, 5, 20 10 5 5 PZT膜 の 特 性 が 変 化 し て い な い か 調 査 す る 必 要 が ある。 48, 550 堆積時間 (min) 堆積雰囲気 (Torr) 徐冷雰囲気 (Torr) 測定方法 CaO 600 O 2 :0.1 100 O 2 :0.1 O 2 :10 10min (CaO) 10shot (a-MgO) O 2 :0.1 O 2 :10 実 用 化 の た め に は 図 1の プ ロ セ ス ③ に お い て PZT膜 の 剥離 時間 をで きる だけ 短く し製 造工 程に かか る時間 そ こで ,剥 離時 間短 縮を 検討 し, 形態 観察 ,結 晶構造 100 解 析 , 電 気 特 性 測 定 に よ っ て PZT膜 の 変 化 を 調 査 し た。 作 製 した サン プル の表 面及 び断 面観 察に は走 査型電 O 2 :0.3 O 2 :10 子 顕 微 鏡 (JEOL㈱ 社 製 JSM-7001F), 元 素 分 析 に は エ ネ ル ギ ー 分 散 型 X線 分 析 (JEOL㈱ 社 製 JED-2300F)を 用 い た 。 断 面 試 料 作 製 に は イ オ ン ミ リ ン グ (JEOL㈱ 社 2.2 転写プロセス プ ラ ス チ ッ ク 上 へ の PZT膜 の 転 写 を 行 っ た プ ロ セ ス は以下のとお りである。模式図を図 1に示す。 ① 表1に示し た条件 により Si基板上 にPZT膜 を作製す 製 SM-09010)を 用 い た 。 PZT膜 の 結 晶 構 造 の 確 認 に は , X線 回 折 (XRD)装 置 (ブ ル カ ー エ イ エ ッ ク ス エス ㈱ 社製 D8DISCAVER) を 用 い た 。 電 気 特 性 測 定 に は 強 誘 電 体 評 価 シ ス テ ム (㈱ 東 陽 テ ク ニ カ 社 製 FCE-3 金 沢大学にて実 施)を用いた。 る。 ② 両 面 テ ー プ (ニ チ バ ン ㈱ 社 製 ナ イ ス タ ッ ク )を 用 3.測定結果 いて,治具 (Si)を PZT表面に接着す る。 ③ 純 水 に 浸 漬 さ せ , CaOを 潮 解 さ せ る こ と で Si基 板 から PZT膜を剥 離させる。 3.1 Si基板からの剥離時間 治 具 が な い 状 態 で PZT膜 を 室 温 で 純 水 に 浸 漬 し た 場 ④ スピ ンコ ート を用 いてワ ニス (宇 部興 産㈱ 社製 U- 合 , PZT膜 は 短 時 間 で 剥 が れ る が , 水 中 に 四 散 し 保 持 ワ ニ ス )を塗 布 した プ ラ スチ ッ ク基 板 (東洋 プ ラ ス で きな かっ た。 そこ で当 初は ワッ クス など の接 着剤を チ ッ ク 精 工 ㈱ 社 製 R1000)上 に PZT膜 を 固 定 す る 。 用 いて 治具 と接 着し たが ,純 水の 浸透 が阻 害さ れ,純 o そ の 後 200 C, 4時 間 で熱 処 理す る こと で 接着 さ せ 水 漬 後 の Si基 板 か らの 剥 離 がで き な か った 。 そ こで , る。 純 水 が 浸 透 し や す い 両 面 テ ー プ を 用 い て PZT膜 を 治 具 ⑤アセトンを用いて両面テープを溶解し,治具を PZT膜から剥離 させる。 に 貼り 付け て浸 漬さ せた 。そ のと きに 必要 とし た時間 を 表 2に示 す。 CaOの 厚さ が1mの とき , CaO-PZT間の 剥 離 ま で 480時 間 以 上 か か っ た 。 そ こ で , 治 具 が な い 状 態 で 0.5時 間 程 度 純 水 に 浸 漬 し た 後 に 治 具 を 接 着 し , 再 度浸 漬さ せた 。さ らに 薄膜 側面 から 純水 が浸 透する と 考えられ るため ,CaOの厚 さを 20mと厚 くすること で 浸透 を促 進し 剥離 時間 の短 縮を 図っ た。 その 結果, 剥 離 に か か る 時 間 を 2時 間 に 減 少 さ せ る こ と が で き た 。 表2 PZT膜の剥離時間 治具なし CaO 厚さ 1m 20m 24時間 1時間 治具あり 最初から 途中から※ >480時間 144時間 2時間 治具なしで純水中に0.5時間浸漬後,治具に接着して 再度1.5時間純水中に浸漬 図1 プラスチック上への PZT膜の転写プロセス 光学写真 (全体図) 電子顕微鏡 写真 (a) PZT/STO/CaO/Si (a) PZT/STO/CaO/Si 光学写真 (全体図) 電子顕微鏡 写真 (b) PZT/テープ/治具 (b) PZT/テープ/治具 電子顕微鏡写 真 (c) PZT/ワニス/プラスチック 図2 (c) PZT/ワニス/プラスチック 表面観察の結果 図3 断面観察の結果 図 4に各プロセ スの X線回折の結果 を示す。各プロセ 3.2 形態観察と結晶構造解析 図 2に 各 プ ロ セ ス で 作 製 し た 試 料 表 面 断 面 の 光 学 , ス は図 2,3と同 じで ある。 図4(b)に おける 28o 付近のピ ークは両面テ ープによるものである。 電 子 顕 微 鏡 (SEM)写 真 を , 図 3に 断 面 の SEM写 真 を 示 図 4(a)よ り , Si基 板 上 に PZTが 結 晶 化 し て い る こ と す。図 2(a), 3(a)は図 1①の表面,図 2(b), 3(b)は図 1③の が 分 か る 。 図 4(c)に お い て 縦 軸 の X線 強 度 が 減 少 し て 剥 離 面 , 図 2(c), 3(c)は 図 1⑤ の 表 面 の 観 察 結 果 で あ る 。 い る の は , 図 2(c)及 び 図 3(c)の 表 面 及 び 断 面 解 析 で 示 断 面 観 察 画 像 (図 3)で は , 元 素 分 析 結 果 か ら 得 ら れ た し たよ うに サン プル 表面 に両 面テ ープ が残 って いるた 各層を表記す る。 め だ と 考 え ら れ る 。 プ ラ ス チ ッ ク へ 転 写 後 も PZT膜 の PZT/STO/CaO/Si(図2(a))とPZT/テープ /治具(図 2(b))の 回 折パ ター ンに 変化 は認 めら れな かっ た。 また 両面テ 電 子顕 微鏡 画像 より ,プ ロセ スに よっ て表 面形 状が異 ープは超音波 特性に対して影響はないと 考えられる 。 な っ て い る こ と が 分 か る 。 こ れ は PZT/テ ー プ /治 具 の 以 上 の 結 果 よ り , プ ラ ス チ ッ ク 上 に PZT膜 が 形 成 さ 断 面 SEM写真 (図 3(b))か ら, PZT膜 を Si基板 から 剥離さ れていること が確認できた。 せ た後も剥 離面に CaO膜が 10m程度 残って いるためで あ る 。 ま た , PZT/ワ ニ ス /プ ラ ス チ ッ ク で は 両 面 テ ー 3.3 電気特性 プ と 思わ れる 繊維 形状 が 見ら れる (図 2(c))。 図3(c)に示 電 気 特性 を測 定す るに あた って ,本 研究 にお いては す と お り , 転 写 後 の PZT/ワ ニ ス /プ ラ ス チ ッ ク の 試 料 CaOで は 両 面 テ ー プ の 残 渣 の除 去 な ど が 完 全 に でき な で は 厚 さ 1m程 度 の PZT膜 が 残 っ て い る こ と が 分 か る 。 か った ため ,治 具及 び両 面テ ープ を用 いず に転 写した 図5 (a) PZT/STO/CaO/Si 誘電特性 P r 及び抗電界 2E cはそ れぞれ60C/cm 2 , 62kV/cm程度で あ った 。剥 離前 後に おい て誘 電特 性に 変化 はな く,膜 質に変化がな いことが分かった。 4.結 言 潮 解 性 を 持 つ CaO膜 を 用 い る こ と で プ ラ ス チ ッ ク 上 に PZT膜 を 転 写 す る 方 法 を 検 討 し , 以 下 の 結 果 を 得た。 (1)CaOの 厚 さ を 20mと し , 治 具 に 接 着 す る 前 に 室 温 で 純 水 に 浸 漬 さ せ る こ と で , 剥 離 時 間 を 2時 間 に 短 縮することが できた。 (b) PZT/テープ/治具 (2)治具 との接着に両面 テープ,プラ スチックとの接着 にワニスを用 いることで転写が可能とな った。 (3)結晶 構造解析から転 写後の結晶構 造の変化は少ない こ と が 分 か っ た 。 ま た, 潮 解 性 を も つ a-MgOを 用 い た 場 合の 誘電 特性 の結 果か ら, 電気 特性 に関 しても 劣化はないこ とを確認した。 謝 辞 本研 究を 遂行 する に当 たり ,終 始適 切な ご助 言 ,ご 助 力を 頂い た岡 山大 学 氏,澁谷工業 (株) X線回折の結果 a-MgO上の PZT膜につ いて電 気特性 を測定 した。 図5に 剥離前後での 誘電特性を示す。 図 5より最大印加電圧 800kV/cmにおける残留 分極値 池永 佐々木 氏に感謝します。 参考文献 (c) PZT/ワニス/プラスチック 図4 神田 氏, 金沢 工業 大学 1) 電気学会. レーザーアブレーションとその応用. コロナ 社, 1999. 366p. 2) S. Takahara, A. Morimoto, T. Kawae, M. Kumeda, S. Yamada, S. Ohtsubo, Y. Yonezawa. Thin Solid Film. 2008, 516, p. 8398.
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