人の皮膚構造を模倣した 3D スクリーン

1PS-1201
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
人の皮膚構造を模倣した 3D スクリーン
東海大学大学院 工学研究科 光工学専攻
1.
諸言
現在の三次元投影の方法としては、両眼視差を用
いる方法が主流である。一方で、人の皮膚は片目で
見ても奥行き感を得ることができる。これは、人の
皮膚においてその表面だけでなく、内部でも散乱、
反射することから奥行き感が得られるためであり、
両眼視差に基づくものではない。ヒトの皮膚の光学
特性を模倣した奥行き感のあるプロジェクションス
クリーンの作成を検討している。ヒトの皮膚が奥行
き感を発現する原因の1つは光の波長により皮膚へ
の進入深度が異なることである。皮膚は深さ別に組
織が異なることから、光は色ごとに違った情報を持
って表に戻ってくるからである。
○児玉 晃季、黒田 章裕、青木 逸、前田 秀一
4. 結果・考察
酸化チタン微粒子からなるシートと酸化チタン顔
料からなるシートの透過率を測定した結果を Fig。2
に示す。
2.
目的
本研究では、試作したスクリーンと皮膚との光学
的な類似性を検証するために、スクリーンを構成す
る半透明のシートの BTDF による測定を実施した。
3. 実験
半透明シートは平滑で透明な PET シート上に酸化
チタン微粒子を含む塗工液をビーカー型アプリケー
ターで用いて、平滑に塗工することにより作成した。
酸化チタン微粒子の粒径は長径 10-20nm、短径 510nm である。また、同様の方法で酸化チタン顔料
を塗工した PET シートも作成した。 酸化チタン顔
料の粒径は 250nm である。これら半透明シートの
可視光(赤、緑、青)における透過率を BTDF を用
いて測定した。BTDF とは、
サンプルの透過率を様々
な角度から測定する機械である。それを Fig。1 に示
す。
Fig.2
CCBTDF values around the peak of the direction
of specular transmission (incident angle:45deg) in the
measurement area of the sheet coated with TiO2
nanoparticles and pigments as a function of vertical
angle from the specular transmission
酸化チタン微粒子シートでは、赤の光の透過率が高
いのに対して、青の光の透過率は低い。進入してく
る光の波長に対する特性が、ヒトの皮膚と同様であ
ることがわかった。一方、酸化チタン顔料からなる
シートでは光の波長にかかわらず透過率はほぼ一定
であった。酸化チタン顔料を用いた場合は、皮膚と
同様の光学特性を持たせることはできなかった。よ
って、酸化チタン粒子の大きさが、 本シートにおけ
る、光の散乱・透過に大きく影響していると考えら
れる。
5. 結論
試作したシートのうち、酸化チタン微粒子を用い
たシートは、その光学特性(進入する光の波長と進
入の深さの関係)において皮膚との類似性が認めら
れた。また、 酸化チタン粒子の大きさが、 本シー
トにおける、光の散乱・透過に大きく影響している
と考えられる。
Fig.1 Definition of BTDF(Bidirectional Transmittance
Distribution Function)
1PS-1202
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
中空管マイクロポンプ高効率化を目的とした FEM 解析による
溝付加型 PZT アクチュエータの動的評価
工学研究科機械工学専攻 ○鈴木宏昌,大阪工業大学 工学部機械工学科
東海大学 工学部精密工学科 槌谷和義
1. 緒言
近年,マイクロ流体システムの開発が盛んに行われてい
る[1]が,一般的なマイクロ流体システムは流路部とポンプ
部が別離されているため小型化が困難であった.そこで,
流路部とポンプ部を一体化することが可能な,圧電素子に
よる中空管マイクロポンプの技術[2]を応用し,針上へ複数
のリング型 PZT を配置することで,針内面に進行波を発生
させ,針自体をポンプとして稼働させる[3].しかし,流動
実験により,管内を通る流量が微量[3]であるため,変形量
増加による,ポンプ性能の向上が必要である.そこで,既
報[4]よりリング型 PZT の表面上に溝を付加によって,出力
が増加することが解析上で確認された.
しかし,出力に寄与する溝条件の最良化は行われていな
いといった問題が存在する.そこで,溝割合を変化させた
モデルにおいて管内における,径方向の変形量および発生
力を評価値とした静的圧電解析を実施すると共に,モーダ
ル解析および周波数応答解析で共振周波数の確認を実施し
た.その結果,最良溝割合 60 [%]で共振周波数が 123324
[Hz]である[5]ことを確認した.しかし,最良な PZT の設置
間隔が不明となっている.
従って,本研究では,溝付加型 PZT の設置間隔を決定す
るため,汎用有限要素法解析ソフト ANSYS を用いた時刻
歴応答解析により,溝付加型 PZT の実働稼働時における変
形挙動の確認を行う.交流電圧を印加し,液体の搬送に寄
与する管内面の変形挙動から最良となる溝付加型 PZT の
設置間隔を決定する.
2. 時刻歴応答解析による PZT の稼働時の再現
本研究は,用いる中空管マイクロポンプであるチタン管
上に前報[5]で求められた最良溝割合 60 [%]を付加した PZT
を取り付けた解析モデルを図 1 およびその寸法を表 1 に示
す[5].図 1 より溝幅は軸心からの角度 θ として定義され,
同様に溝底部の形状は軸心からの円弧状とする.したがっ
て溝深さは元となるリング型 PZT 外周からの径方向の距
離 h と定義する.ここでモデルは断面が円筒形状であり,
円周方向に対称性を有することから,計算コスト低減のた
め,1 / 4 モデルを用いる.拘束条件としては,剛体移動モ
ードの発生を防ぐため, Y-Z 平面を X 軸拘束,X-Z 平面を
Y 軸拘束し,X-Y 平面に Z 軸拘束とする.また,流動実験
[3]
に行われた際の PZT 設置間隔である 15 [mm]を想定した
Ti 長さを 20 [mm]にしたモデルで行う.PZT およびチタン
管の物性値は,マイクロポンプの流動実験[3]で用いられた
富士セラミックス社製圧電材料 C-9 材[6]ならびに純チタン
の物性値を用いる.また,使用する要素タイプとしては,
構造解析に用いる要素 SOLID185 を解析モデルに定義し,
要素長さは 0.15 [mm],節点数は 181480 とする.ここで,
PZT 周方向に対して,溝部が占める角度の比を溝割合と定
義し,溝付加型 PZT は最良溝割合 60 [%]モデルを用いる.
また,
用いる溝の形状は溝幅 θ=0.9 [°],
溝深さ h=0.25 [mm]
とする.評価値は Ti 管内径面 A 範囲の径方向の最大収
縮変形量である.
PZT
Y
上辻
靖智
l
Ti
θ
Y
h
X
A Z
X
P
Fig.2 1/4 analytical model.
Z
Table 1 Dimension of PZT and titanium tube.
T
Outer
internal
Width
Z
radius [mm]
6.75
6.25
PZT
Ti
radius [mm]
P
6.25
5Z
[mm]
5
20
T
3. 解析結果
最良溝割合 60 [%]モデルにおける,122324[Hz]の交流
電圧印加時の Ti 管内径面 A 範囲の径方向の最大収縮変
形量を時刻歴応答解析により評価した結果を図 5 に示
す.
A
-900
-800
Maximum deformation [nm]
東海大学大学院
-700
-600
-500
-400
-300
-200
-100
0
0
2.5
5
Ti
7.5
PZT10on Ti12.5
15
Ti
17.5
20
Length [mm]
Fig.5 Time history response analysis result.
4. 結言
中空管マイクロポンプの駆動源として,溝部を有するリ
ング型PZT の最良溝割合60 [%]モデルにおける最良設置間
隔を決定するため,時刻歴応答解析による変形挙動を確認
した結果以下の知見を得た.
(1) PZT の中心から 5 [mm]周期の定在波を確認.
(2) 定在波の周期リング型 PZT の幅 5 [mm]より,最
良となる溝付加型 PZT の設置間隔として 1.25mm
を確認.
参考文献
[1] 鈴木孝明,秦秀敏,新宅博文,神野伊策,小寺秀俊,
日本 AFM 学会誌,Vol.13,No.4,
(2005)
,pp.310-315
[2] 槌谷和義,中西直之,米田泰一,上辻靖智,森幸治,
仲町英治,日本機械学会論文集(C 編)71 巻 716 号,
pp249-255(2005-2).
[3] 有賀裕也,槌谷和義,2011 年度機械工学会 (2011).
[4] 相澤英一,槌谷和義,上辻靖智,2012 年度春季精密工
学会
[5] 鈴木宏昌,槌谷和義,上辻靖智,2014 年度春季精密工
学会
[6] 圧電ポンプ用バイモルフ素子の開発,東ソ‐研究報告,
第 37 巻,第 2 号,pp96(1993)
[7] 富士セラミックス「圧電セラミックテクニカルハンド
ブック」http://www.fujicera.co.jp/product/jp
1PS-1203
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
多角形状断面を有する極細無痛針の創製を目的とした局所スパッタリングの探求
東海大学工学研究科機械工学専攻
○木本
英明,東海大学工学部精密工学科
1.緒言
患者の負担を軽減する目的から痛みのないマイクロ
無痛針の開発を行っている.マイクロ無痛針は,内径
寸法 25 [μm], 外径寸法 50 [μm]を有している.
先行研究[1]において,多角形状断面の針の創製が可
能であることが報告されている.しかし,成膜速度が
低く上述の目的寸法までスパッタ粒子を堆積させる事
が困難であり成膜速度を向上させる必要がある.しか
し,成膜速度を上げると Ar ガス濃度が上昇しチャンバ
内でスパッタ粒子の散乱が発生してしまう.
ここで, Ar ガスフローを用いることでスパッタ粒
子に指向性を持たせた成膜が可能であると報告されて
いる[4]ことから本研究では,本来プラズマ源として供
給する Ar ガスの方向を,制御を行うことで,局所成膜
の実現を目指す.
2.マイクロ無痛針創製方法
本研究では,無痛針の寸法が極細であることからスパ
ッタリング法採用しまた,創製には長時間の成膜時間が必
要なため,図 1 に示す Ar ガス雰囲気により短時間で基材上
に成膜を行うことが可能な RF マグネトロンスパッタリン
グ装置を採用する.
Fig.1 Creation method.
3.スパッタリングにおける Ar ガスの供給
スパッタリングを行う上で,Ar ガスの供給される位
置は,重要な因子であると報告されている[2].
本研究では Ar ガスが供給される向きに着目し,新た
にガスフローの影響を考慮した Ar ガスの供給位置を
選定する.スパッタリングにおいプラズマの発生を妨
げずにターゲットからのスパッタ粒子をワイヤ基材上
に誘導可能な位置としてターゲット軸から 45 [°]の角
度を成しワイヤ基材上から 10 [mm]かつガスフローの
方向がワイヤの半径方向と一致する点で Ar ガスの供
給を行う.また,基材上とターゲットの距離間は既報
[3]
と同様に 40 [mm]とする.
4.局所成膜実験
冶具の回転を停止させ,300 [min]で実験を行う.また,
針の創製条件は既報[3]の成膜における創製条件で成膜を
行う.ここで,本報においては局所堆積の確認が目的であ
るため,スパッタ率の関係からターゲットにはマイクロ無
痛針材料の Ti ではなく Ag を用いている.図 2 に冶具の回
槌谷 和義
転を停止させ創製したマイクロ無痛針を示す.
Fig.2 Creation of non-rotating.
図 2 より,基材上にスパッタ粒子が局所的に堆積し,
最大膜厚 13.7 [μm],最小膜厚 4.5 [μm]のマイクロ無痛
針の創製が確認された.ここで,回り込み防止を定量
的に評価するために,式(1)に示す最大膜厚と最小膜
厚の膜厚差比 [3]を算出する.
The difference between the film thickness ratio [%]

Maximum film thickness - Minimum film thickness
 100・・・(1)
Minimum film thickness  Minimum film thickness
よって,図 2,式(1)より, 50.5 [%]の高い膜厚差比
を確認した.
ここで,既報 [3]で行われた局所成膜では,散乱の発
生により,膜厚差比が 0 [%]となる完全な円形状断面が
確認された.しかし,本報における局所成膜実験にお
いては 50.5 [%]の極めて高い膜厚差非が得られた.よ
って,Ar ガス供給位置を制御した RF マグネトロンス
パッタリング法を用いることで,目的の寸法を持つ多
角形状断面状を有したマイクロ無痛針の創製が可能で
あることが示唆される.
5.結言
基材上にスパッタ粒子を局所的に堆積させることを
目的とし,プラズマ源である Ar ガスの供給される方向
制御し局所成膜実験を行った結果,以下の知見を得た.
(1) Ar ガスフローの制御によりスパッタ粒子に指向性を
持たせることが可能であることを確認.
参考文献
[1] 首藤友弥・槌谷和義,2013 年度精密工学会大会学
術講演会講演論文集 Vol.2013,秋季(CD-ROM),
PageROMBUNNO.K38 (2013)
[2] 石井清,日本応用磁気学会誌 vol. 24,No. 11(2000)
[3] 首藤友弥・槌谷和義, 精密工学会大会学術講演会講
演 論 文 集
Vol.2012, 秋 季 (CD-ROM),
PageROMBUNNO.M37 (2012)
1PS-1204
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
薬剤投与効率向上を目的とした高分子超薄膜による注射針管内面の表面改質
東海大学工学研究科機械工学専攻 ○川田健人,東海大学工学部応用化学科 岡村陽介,
東海大学工学部精密工学科 槌谷和義,東海大学医学部医学科基礎医学系分子生命科学 梶原景正,木村穣
1. 緒言
近年,注射針は薬剤投与や採血などの様々な場面で用い
られているが,薬剤の浸透特性に着目した注射針の開発が
行われていない.
しかし,薬剤の浸透傾向は未だに不明確であり,針の製
造方法の差による表面の状態の差についての評価がなされ
ていない.
そこで,本研究では管内壁面の表面粗さによって圧力損
失が軽減することが知られていることから[1],注射針管内
壁面の表面性状に着目し,高分子材料であるカルボキシメ
チルセルロース(CMC)超薄膜を用いた注射針管内のコーテ
ィングによる表面改質を行う.そして,管内に成膜された
CMC 超薄膜による管内表面状態の変化を確認する.
2. 表面改質手法
本章では,注射針管内への具体的な薄膜手法について述
べる.
2.1. コーティング剤の選定
本研究で測定に用いる針としては糖尿病患者が使用して
いる針であり一般的な形状であるストレート形状と,異な
る形状であり痛みが少ないとされるダブルテーパー形状を
用いて比較を行う.管壁面を親水性にすることにより圧力
損失が抑制させることから[1],注射針管内に親水的特性を
有する高分子である CMC[2]によるコーティングを行う.
CMC の特徴としては,安定性,製膜性,生体適合性に優
れる等が挙げられる[3].さらに水溶液中で疎水的粒子に優
先的に吸着し保護コロイドを形成することからが知られて
いる[3].CMC の密着力を向上させるための中間層として高
柔軟性・高接着性の特性[4]を持ち疎水的特性を有するポリ
乳酸(PLLA)によるコーティングを行う.
2.2. 改質方法
本実験では,管内壁面へのコーティング剤の塗布方法と
してシリンジを用いる.シリンジ内にマイクロピペットを
用いて PLLA を 400 [μL]投入,
PLLA の詰まり防止のため,
PLLA 上部に同様に同量の純水を投入.そして混合しない
状態で装着した注射針へとプランジャで押し出し管内のコ
ーティングを行う.PLLA 乾燥後,同様に 400 [μL]の CMC
をシリンジ内に投入,プランジャで注射針管内へと押し出
しコーティングを行う.
3. 表面性状観察
ストレート針,
ダブルテーパー針各 4 本を対象に CMC
超薄膜によるコーティングを行った.これらの針を対
象にレーザーマイクロスコープ[5]を用い注射針管内面
の算術平均粗さを算出したものを図 1 に示す.
Fig.1 Arithmetic mean estimation graph.
コーティングにより全ての針で算術平均粗さの低下
が確認でき,表面性状の向上がみられた.これは CMC
によるコーティングの影響であると考えられる.従っ
て管内壁面への CMC 超薄膜の成膜,及びそれによる親
水性の向上といった表面改質が示唆される.
4. 濡れ性の確認
CMC 超薄膜による親水性の変化を確認する.親水性
確認として濡れ性の確認を行う.濡れ性の評価には接
触角を用いる.しかし,注射針内部が曲面を有してい
ることから濡れ性の測定には適していない[6].そのため,
針と同じ材料であるステンレス材上に同様にコーティ
ングを行い,接触角の確認を行う.未加工のステンレ
ス材を図 2(A)にコーティング後のステンレス材を(B)に
示す.
(A)Raw needle
(B)Coated needle
Fig.2 Stainless substrate.
ステンレス材上にそれぞれ 100 [μL]の水滴を付着さ
せ接触角を計測したところ(A)では接触角 θ=80 [°],(B)
では接触角 θ=46 [°]と親水性の向上が確認された.よ
って,注射針においても親水性の向上による管内の圧
力損失軽減及び,それに伴う浸透効率の向上が示唆さ
れる.
5. 結言
異なる 2 種類の注射針に CMC 超薄膜によるコーティン
グを行い管内壁面の算術平均粗さ及び濡れ性の確認を行っ
た結果,以下の知見を得た.
(1) CMC 超薄膜によるコーティングにより管内壁面
の算術平均粗さの低下を確認.
(2) ステンレス材上で親水性の向上を確認.
(3) コーティングにより表面粗さの低下,親水性向上
が確認されたことから管内圧力損失軽減による浸
透効率向上が示唆される.
参考文献
[1]石崎勇吾, 西田耕介, 津島将司, 平井秀一郎
化学工学論文集 Vol.40 No.4 Page.320‒326(2014)
[2] LUCHIAN A, TUCULESCU F, PORUMBEL A, Ind
Usoara Text Tricotaje Confectii Text,
Vol.39 No.1 Page.28-30 (1988.01)
[3]大崎正則 第一工業製薬 社報 No.564 拓人 2013 春
[4]岡村陽介 日本化学会講演予稿集 Vol.94th No.3
Page.773 (2014.03.12)
[5]KEYENCE Japan
http://www.keyence.co.jp/microscope/special/vkx/compare/
[6] GUILIZZONI Manfredo, J Colloid Interface Sci, Vol.364
No.1 Page.230-236
1PS-1205
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
材料設計によるチタン酸バリウム圧電薄膜の高機能化
東海大学大学院 総合理工学研究科総合理工学専攻
大阪工業大学 工学部機械工学科 上辻 靖智
東海大学 工学部精密工学科 槌谷 和義
1. 緒言
近年 MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)機器の
センサ・アクチュエータ用途等において,BTO(チタン
酸バリウム)をはじめとしたペロブスカイト型圧電材料
が極めて重要な地位を確立している.さらにその実装に
おいては,微細化の観点から薄膜化が広く行われている
が,その圧電性はバルク材と比較し数分の一程度に過ぎ
ず,薄膜化に伴う機能低下が重大な問題となっている.
ここで,圧電薄膜の高機能化に際し,最も広い範囲に
応用が可能な手法として添加元素による物性制御が広く
試みられて来た.しかし,その定量的な設計手法は確立
されておらず,ペロブスカイト型化合物の材料設計に際
して,知見の共有を難しくしている.
そこでペロブスカイト型圧電材料に対する添加元素の
定量的な設計手法を確立するため,BTO を対象に,第一
原理計算により,圧電性向上に有効な B サイト添加元素
の探索を試みる.その際,凝集エネルギから添加が可能
な元素を探索し,それらが圧電性に与える影響として,
正方晶系の格子定数による結晶構造の異方性,c/a 軸比の
増加による自発分極量の増大 [1]に着目する.そして,実
際にスパッタリング法により添加元素を含有した BTO
薄膜の創製を行い,添加元素の有効性を確認する.
2. 添加元素の探索
添加元素で BTO の B サイトを置換したモデルを作成
し,構造の変化を評価する.モデル構造としては,既報 [2]
のリートベルト法による実験値を用いる.さらに,計算
コストの関係から 2×2×2 となる unit cell より構成された
クラスタモデルとする.ただし,表面の影響を可能な限
り低減し,空間的な異方性を排除するため,B サイトの
Ti を原点に取る事で,モデル中心に B サイトが位置し,
また,計 27 の B サイトを有するモデルとする.
さらに添加元素の候補として,既報 [3]において,第一
原理計算による凝集エネルギ,またイオン半径による許
容因子から, B サイト置換が示唆される,Sc,V,Cr,
Fe,Co,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh を選定する.そして,
B サイトが添加元素候補で置換された 2×2×2 モデルを作
成し,安定格子定数を求める.また,置換対象はモデル
中心のB サイト一箇所とし,
3.7 at. %の添加状態とし,
a,
c 両軸の格子定数を変化させ,応答曲面法により最安定
となる極値を算出する.計算条件は Gaussian 09 による
DFT 法,PBE1PBE / LanL2MB を用いる.
以上の条件により,計算を行った結果を表 1 に示す.
表 2 より,解析上による BTO の c/a 軸比を Sc,V,Fe,
Co,Nb,Mo において上回り,異方性の増大を確認した.
よって,c/a 軸比の増大より,圧電性に影響する因子であ
る自発分極の増加 [1]が示唆される事から,B サイトへ添
○八十田
穣
加により圧電性の工事用が示唆される.さらに,最も高
いc/a軸比からNbを最も有効な添加元素として決定する.
Table 1 BaTiO3 structure by additive element
Ti
(BaTiO3)
Sc
V
Cr
Fe
Co
a
3.837
3.845
3.838
3.829
3.825
3.834
c
3.848
3.860
3.854
3.838
3.841
3.848
c/a
1.003
1.003
1.004
1.004
1.002
1.004
Element
Y
Zr
Nb
Mo
Ru
Rh
a
3.867
3.852
3.847
3.841
3.837
3.849
c
3.871
3.865
3.876
3.855
3.850
3.857
1.001
1.003
1.008
1.004
1.003
1.002
Element
Lattice constant
[Å]
Lattice constant
[Å]
c/a
3. 圧電薄膜の創製
前章で決定された添加元素の候補 Nb を用い,BTO の
B サイトに 3.7 at. %の Nb を含む BTNO,Ba(Ti0.963,
Nb0.037)O3 薄膜,および比較のため純粋な BTO 薄膜を,
スパッタリング法により創製する.その際,一般に組成
の再現が良いとされる RF(Radio Frequency)マグネトロ
ンスパッタリング法を用いる.また BTO ターゲットと
しては,BTO 粉末を圧粉した物を用い,Nb 添加した
BTNO ターゲットにおいては,BTO 粉末に対して 3.7
at. %相当の Nb 粉末を混合したものを用いる.
これらの条件により創製された圧電薄膜の自発分極量
を測定した結果を表 2 に示す.表 2 より,Nb の添加によ
り,圧電性向上に寄与する自発分極量の増加を確認し,
Nb が圧電性向上に有効な添加元素である事を確認した.
Table 2 Spontaneous polarization of BTO and BTNO
Spontaneous polarization [nC/cm2]
BTO
BTO +Nb 3.7 at. %
0.021
0.203
4. 結言
第一原理計算により,チタン酸バリウム B サイトに対
する添加元素の評価を行った結果,
Nb が最も有望な添加
元素として選定された.
また,
実際の薄膜創製において,
Nb の添加により自発分極量の増加を確認した事から,
添
加元素としての有効性を確認した.
参考文献
[1] Ricinsch, D., 金島岳,奥山雅則,“BaTiO3 および
PbTiO3 の自発分極の結晶異方性と単位胞体積依
存性の第一原理解析”,材料,Vol. 55, No. 2 (2006),
pp. 169-172.
[2] Xiao, C.J., Jin, C.Q. and Wang, X.H., “Crystal structure of
dense nanocrystalline BaTiO3 ceramics”, Materials
Chemistry and Physics, Vol. 111, (2008), pp. 209-212.
[3] 八十田穣,上辻靖智,槌谷和義,“第一原理計算に
よるチタン酸バリウム圧電性向上を目的としたB サ
イト添加元素の評価”,精密工学会 2014 年度春季大
会,2014.
1PS-1206
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
自己潤滑膜を生成するハイブリッドポリマーベアリングの開発
横浜国立大学 共同研究推進センター ○古池 仁暢
鹿島化学金属株式会社
鹿島 祐二
富山大学 理工学部
木田 勝之,溝部 浩志郎,松村 俊彦
はじめに
クリーン環境や海洋環境,蒸気・化学物質浮遊環境な
どの潤滑油を使用できない特殊環境用途での軸受などの
摺動部の超寿命および軽量化を図ることを目的として,
使用中に自己潤滑膜の摺動部への生成を試みた[1].
本研究では,機械的に強靭な性質をもつ熱可塑性樹脂
PEEK 軸受の軌道輪と玉の保持器を機械加工で作製し,
アルミナ玉を用いてラジアル方向への繰返し荷重下での
転動疲労試験を行い,自己潤滑膜の生成および損傷,お
よび摩耗の発生状況について調べた.
1.
実験方法
2.1 試験材 サンプル形状は#6205 ラジアル型の単列
深溝玉軸受を模擬し,
アルミナ玉を 9 個使用した.
内輪,
外輪は PEEK 樹脂,保持器は PTFE 複合材をそれぞれ
機械による切削にて作製したものを使用した.
2.2 試験方法 我々が新規に開発したラジアル型転が
り疲労試験機を用いて試験を行った.軸受の外輪をジグ
固定し,軸受を上方に引き上げることでラジアル荷重を
負荷した.内輪をシャフトに固定し,ラジアル荷重 15
~380 N,回転数 600~3000 rpm の試験条件で軸受を回
転させ,106 cycles の試験後に軌道面の自己潤滑膜,摩
耗および損傷の状態についてレーザ顕微鏡にて観察した.
また保持器,内輪,外輪の質量を測定し,試験前の質量
との差から摩耗量を求めた.
2.
実験結果および考察
図 1 に88N ラジアル荷重下で試験前後の内輪軌道輪の
顕微鏡写真を示す.
機械加工作製による PEEK 樹脂とア
ルミナ玉の組合せにおいて,軌道輪面全周にわたってサ
ブミクロンオーダ厚みの黒褐色のトライボ膜(図 1b)が
生成した.断面観察および XPS による分析の結果,
PTFE 複合材保持器由来の摩耗粉成分を含んだ PEEK
トライボ膜であることが判った(図 2)
.試験後の保持器
の摩耗量は 1~3mg であった.玉と内輪の界面に介在し
た摩耗粉が,玉と内輪のヘルツ接触による高面圧と,玉
の回転による摩擦熱からトライボケミカル反応が起こり
軌道面全周に渡って自己潤滑膜が生成したと考えられる.
自己潤滑膜が PEEK 内輪に生じた負荷応力条件では
運転中に内輪温度がガラス転位点(Tg= 124℃)を超える
ことなく 40℃前後で安定した.このとき膜が軌道面に再
生し耐焼付き性やしゅう動性も向上した.結果として回
転数 1200 rpm の場合,PEEK 保持器の場合と比較して
10 倍以上の許容ラジアル荷重 333 N を達成した.
結言
機械加工作製による PEEK 樹脂の内外輪とアルミナ
玉,PTFE 複合材保持器の組合せにおいて,無潤滑での
ラジアル荷重下での転動疲労試験を行った.保持器から
の摩耗粉が変質し PEEK 内輪軌道面表面に自己潤滑膜
が生成したことが判った.この自己潤滑膜の効果により
許容ラジアル荷重は従来に比較し10 倍以上に増加した.
4.
謝辞
本研究は競輪の補助(27-124)を受けて実施しました.
This work was supported by JKA and its promotion
funds from KEIRIN RACE (No. 27-124).
試験装置開発に㈲吉則工業の協力を得た.謝意を表す.
参考文献
[1] Hitonobu Koike, Katsuyuki Kida, Koshiro Mizobe,
Xiaochen Shi, Shunsuke Oyama, Yuji Kashima, Wear
of hybrid radial bearings (PEEK ring-PTFE retainer
and alumina balls) under dry rolling contact,
Tribology International, 90, (2015), 77–83.
3.
図 1 内輪軌道輪の顕微鏡写真;(a) 試験前,(b)後
図 2 内輪軌道輪の自己潤滑膜(拡大)
1PS-1207
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
ナノダイヤモンド微粒子の超音波による分散と凝集の基礎研究
桐蔭横浜大学院 工学研究科 医用工学専攻 ○遠田 リキ
桐蔭横浜大学
医用工学部 臨床工学科
池上和志、竹内 真一
1.はじめに
当研究室では、ソノリアクタを用いた超音波照射によ
るナノダイヤモンド微粒子の分散と凝集を行う研究をし
ている。近年、ナノ粒子を用いた Drug Delivery System
(DDS)の研究が行われている。DDS とは、必要な薬物を
必要な時間に必要な部位で作用させるためのシステム
(工夫や技術)の事を指す。当研究室では、薬剤のキャリ
アとして生体適合性が良いとされているナノダイヤモン
ド微粒子と超音波を用いた DDS を目的とする。これまで
当研究室では、ナノダイヤモンド微粒子の分散に関する
研究のみを行ってきた。今回は、ナノダイヤモンド微粒
子への超音波の照射時間を変化させる事で、ナノダイヤ
モンド微粒子の粒径がどのように変化するか、またその
時に pH がどのように変化しているかを検証した。
2.実験方法
本研究では、公称粒径 5nm のナノダイヤモンド粉末を
30 mg 使用した。このナノダイヤモンド粉末を蒸留水
500ml に入れて攪拌した後、超音波照射システムの水槽
内で超音波の照射を行った。共振周波数 40 kHz のボルト
締めランジュバン型振動子(HEC-45402、
本多電子)を装着
した振動板を縦 100 mm、横 100 mm、高さ 150 mm の水槽
底部に装着し、ファンクションジェネレータ(8116A、HP)
の出力信号(150 kHz)を増幅度 50 dB パワーアンプで増幅
して、振動子に印加した。その後、粒度分布測定装置
(LS230、Beckman Coulter)を用いて、超音波照射後の粒
径を測定した。また、一定時間超音波を照射した時の pH
値を pH メーター(SK-620PH、skSATO)で測定した。
Figure1 の結果より、超音波の照射時間 90 分に比べ超
音波の照射時間 135 分の方が粒子径の増加を観測できた。
3.2.超音波照射時のナノダイヤモンド懸濁液の pH 変化
ナノダイヤモンド懸濁液に対して超音波を照射した際
の照射時間に対するpHの変化をpHメーターで測定した。
照射時間と pH の関係を Fig.2 に示す。
Figure2 の結果より、pH の振れ幅が 6 から 7 の間を行
き来している事がわかる。また Fig.1 と Fig.2 の結果を
照らし合わせると pH が高い時には粒径が減少し、pH が
低い時には粒径が増加している事がわかった。超音波を
照射して音響キャビテーションを発生させると、水分子
は解離し、
活性酸素の一種である OH ラジカルを発生させ
ることが知られている。ナノダイヤモンド微粒子の分散
では、
この OH ラジカルがナノダイヤモンド微粒子の表面
改質を担っている事が知られている。そのため、分散時
に pH が上がったと考えられる。
Fig. 2 Relationship between exposure and
pH in nanodiamond particles suspension
3.実験結果
4.まとめ
3.1.超音波照射後の粒径の変化
今回、音響化学作用によるナノダイヤモンド微粒子の
分散状態と pH の時間変化について測定した。
今回の実験
では、pH が低い時にナノダイヤモンド微粒子の粒径が増
加していた。超音波の照射時間が 45 分時点では 90 分時
点に比べて pH が低い。また、超音波の照射時間が 90 分
時点に比べて 135 分の時点でも pH が低くなっている。
こ
れは表面改質に使用された OH ラジカルが何らかの要因
によって解離された為、pH が上昇したと考えられる。ま
た、お互いに反発する力が弱まりナノダイヤモンド微粒
子の本来ある凝集力で凝集した為、粒子径が増加したと
考えられる。今回の実験では、試料と超音波のみ使用し
ている為、OH ラジカルを剥がす要因として超音波である
ことが考えられる。したがって、超音波照射のみで分散
と再凝集を行う事が可能なのではないかと期待している。
ナノダイヤモンド懸濁液への超音波照射時間と粒子径
の関係を Fig.1 に示す。
Fig. 1 Relationship between ultrasound exposure time
and size distribution of diamond particles.
1PS-1208
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
血管内超音波検査プローブ搭載に向けたコイル状ステータ超音波モータの形状の検討
大関誠也 1,栗田恵亮 2,竹内真一 1
(1 桐蔭横浜大学大学院 工学研究科医用工学専攻,2 桐蔭横浜大学 医用工学部臨床工学科)
1. はじめに
現在医療分野では低侵襲な治療方法として血管内
超音波検査 (IVUS: IntraVascular UltraSound) が
用いられている。機械走査式の IVUS では血管内で
回転運動を行う必要があり、駆動源は、体外から動
力伝達ワイヤを介してプローブ先端に動力を伝えて
いる。しかし、湾曲した血管内では動力伝達ワイヤ
に過負荷がかかり、安定した回転を得られず IVUS
では画像歪などが発生してしまう問題がある。そこ
で、これらの問題を解決するために駆動源を小型に
し、カテーテル先端に設置することが提案された。
先行研究では IVUS への搭載を意識した小型モー
タとしてコイル状ステータ超音波モータ
(CS-USM: Coiled Stator Ultra-Sound Motor) の研
究を行ってきた[1]。そこで本研究では、IVUS プロ
ーブ搭載に向けた CS-USM の形状の検討を行う。
外径 2.40 mm、内径 2.00 mm の SUS304 製パイプ
をロータとして使用した。次に循環路を作製するた
めに抵抗溶接機である臼谷電子株式会社製
MINIMINI WELDER UH-1001 を用いて抵抗溶接
した。駆動用振動子には富士セラミックス製 C213
を使用し振動子と音響導波路の接着をおこなった。
接着には Expoxy Technology 社製エポキシ系導電
接着剤 EPO-TEK H20E を用いて接着し、同様にし
て電極リード線も接着した。
測定条件は振動子 1・2 共に周波数 283 kHz、印加
電圧 32 Vpp、位相差 107.6°の条件で駆動実験を行
った。その結果、最大回転数 204 rpm での駆動を確
認した。しかしながら、今回の実験では逆方向回転
は確認することができなかった。
2. 駆動原理
CS-USM は進行波型超音波モータであり、進行
波が音響導波路上を伝搬するとき、音響導波路表面
上の粒子は楕円軌道を描く。回転体 (ロータ) が与
圧により、音響導波路に接しているとき音響導波路
表面上の粒子と回転体との摩擦により、回転体は進
行波とは逆方向に回転する[2]。進行波を発生させる
方法として本研究では、2 つの振動子により時間
的・空間的に 90°の位相差を有する定在波を重ね合
わせることで進行波を生成している[3]。これにより、
位相差を反転させた場合では逆方向の進行波を生成
することができ、回転方向の制御が可能である。
3. アウターロータ型 CS-USM
当研究室ではロータが内側にあるインナーロータ型
CS-USM の研究が行われてきた。しかし、IVUS プ
ローブ搭載を意識すると画像化用超音波トランスデ
ューサの取り付けが困難であるため、ロータが外側
にあるアウターロータ型 CS-SUM を採用した。
Fig.1 インナーロータ(左)とアウターロータ(右)
4. 実験
作製した音響導波路(断面 0.05 mm×0.30 mm)を外
径 1.61 mm、内径 1.25 mm の SUS304 製パイプに
巻きつけコイル状ステータの作製を行った。その後、
Fig.2 駆動実験の概略図(上)上面から見た図
(下)側面から見た図
5. まとめ
今回作製したアウターロータ型 CS-USM は最大
回転数 204 rpm であり、逆方向の回転は確認できな
かった。原因としては循環路及び振動子の取り付け
位置にズレが生じたため、合成波が生成されていな
いことが考えられる。さらにアウターロータ型
CS-USM はインナーロータ型 CS-USM に比べ、巻
き付ける対象の径が大きく、音響導波路である
SUS304 の弾性的復元力がより顕著に現れコイル状
ステータの外径が大きくなってしまったものと考え
られる。ステータのピッチ間隔を測定した結果、設
定値の 0.05 mm より大きく異なり、さらにコイル状
ステータの最大外径は 2.09 mm になってしまった。
対策として巻き付け時に使用するパイプの径を小さ
くすることで拡がりを抑制出来ると考える。今後は、
本研究を発展させて IVUS プローブ搭載に向けたコ
イル状ステータの小型化を進めていく予定である。
1PS-1209
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
コイル状ステータ超音波モータ (CS-USM) の駆動効率向上に関する研究
- 適切な音響導波路材料の選定 大関誠也 1,上原長佑 2 ,竹内真一 1
(1 桐蔭横浜大学大学院 工学研究科医用工学専攻, 2 桐蔭横浜大学 医用工学部臨床工学科)
1. はじめに 当研究室では、これまでに血管内超音波検査 (IVUS:
Intra-Vascular Ultra-Sound)のために超音波トランスデュ
ーサを回転させるために血管内で駆動可能な超小型モー
タであるコイル状ステータ超音波モータ (CS-USM:
Coiled Stator Ultra-Sound Motor) の開発を行ってきた。こ
れまでに作製した CS-USM では、直径 0.5 mm のロータ
を用いて、
最大 3500 rpm の回転速度と 3.4 µNm のトルク
を記録した。しかし、駆動効率が低く、適切な材料の選
定がされていない。そこで本研究では、音響導波路に用
いられている材料の最適化を行い CS-USM の駆動効率
の向上を目的とする。
4. 結果 各材料を使用して作製した CS-USM の振動子の最大
振動速度を示す周波数は、チタン 302 kHz、銅 300 kHz、
ステンレス 302 kHz であった。各材料における振動子の
周波数と振動速度の関係を Fig. 2 に示す。駆動実験にお
いては、印加電圧 32 Vpp の時の最大回転速度は、チタン
2560 rpm、銅 3200 rpm、ステンレス 2652 rpm であった。
チタン、ステンレスでは印加電圧 12 Vpp で測定不能とな
り、銅では 20 Vpp で測定不能となった。印加電圧と回転
速度の関係を Fig. 3 に示す。
2. CS−USM CS-USM では、進行波型超音波モータの動作原理に基
づき、ロータに巻かれたステータに屈曲波が伝搬するこ
とによりロータに接する面の粒子は、楕円運動を行う。
このとき、摩擦力によりロータは屈曲波の伝搬方向と逆
方向に駆動される。
CS-USM の駆動原理をFig. 1 に示す。
Fig 2 各材料における振動子の周波数と振動速度の関係 Fig. 1 CS-USM の駆動原理
3. 実験 本研究において使用する音響導波路の材料は、チタン
(TR270C-H)、銅 (C1120R-H)、ステンレス (SUS304)であ
る。厚さ、幅、長さ、はそれぞれ 0.05 mm、0.3 mm、50 mm
である。ロータに音響導波路を 4 回巻きつけることで、
コイル状ステータとした。その末端部には圧電セラミッ
ク PZT 振動子を取り付けて CS-USM としている。圧電
セラミック PZT 振動子 (富士セラミックス、C213 材)
の厚さ、幅、長さはそれぞれ、0.25 mm、1 mm、5 mm と
した。ロータは直径 0.51 mm の鉄製丸棒である。
次に、作製した CS-USM の駆動実験を行った。まず、
レーザドップラー振動計 (LDV: laser Doppler vibrometer,
Ono Sokki Co., Ltd.; LV1710)を用いて駆動周波数の選定
を行った。印加電圧を 32 Vpp に設定し、周波数 282 kHz
~320 kHz の範囲で振動子の振動速度を測定した。振動
速度の測定結果から各材料の駆動周波数を選定し、印加
電圧を 0~32 Vpp の範囲でのロータの回転数の測定を行
った。
Fig 3 印加電圧と CS-USM のロータの回転速度の関係 3. まとめ チタン、銅、ステンレス を用いて単振動子型 CS-USM
の作製を行った。手作業でロータに音響導波路を巻きつ
けることでコイル状ステータを作製したため、螺旋間隔
などにムラが生じてしまった。そこで専用の巻きつけが
行える道具を作製して、コイル状ステータを作製し、実
験を行う予定である。 また、今回の駆動実験では、振動子に印加できる最大
の電圧は 32 Vpp であった。しかしながら、Fig 3 の結果か
ら、更に高い印加電圧を加えることによって回転速度の
向上が予想できる。そこで、パワーアンプ等を使用し 32
Vpp 以上の印加電圧を加え駆動実験を行う。 1PS-1210
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
ハイドロキシアパタイトの酸溶解性を利用した高機能材料の開発
神奈川県産業技術センター 機械・材料技術部
○小野 洋介
1. はじめに
ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)はセラミ
ックスの一種であり、骨や歯を構成する主成分として知
られている。一般的なセラミックスと比較して酸に溶け
やすく、また、合成条件を変えることによって粒子サイ
ズや形態を容易に制御できることが知られている。
本ポスターでは、ハイドロキシアパタイトを利用して
行ってきた 2 つの材料開発の研究成果について発表する。
2.複合化による高活性光触媒材料の開発 1)-4)
2-1.背景
酸化チタン光触媒は、太陽光エネルギーを利用して有
機汚れを分解できるため、
環境浄化等に利用されている。
光触媒活性を高める方針の一つとして、焼成工程におけ
る酸化チタンの相転移と比表面積低下を抑制する手法が
知られている。従来は、酸化チタンと酸化ケイ素等を複
合化して上記の抑制効果を得ていたが、複合化に伴い酸
化チタンの露出表面積が減少する点に課題があった。一
方、ハイドロキシアパタイトを用いれば図 1 に示すよう
に複合化後に溶解除去できると考え、光触媒材料の開発
を行った。
2-2.実験方法
リン酸二水素アンモニウム 1.0 g と硝酸カルシウム・
四水和物 3.4 g を蒸留水 100 mL に溶解し、この水溶液
中に市販の酸化チタン粉末(Degussa, P25)0.5 g を分散
させた。アンモニア水で pH を 8.5 に調整してハイドロ
キシアパタイトを析出し、複合体を得た。これを
600-900 ℃で 2 時間焼成し、0.25-1.00 mol/L の塩酸で
酸処理した。
2-3.実験結果
X 線回折法による結晶相調査の結果、複合化によって
酸化チタンの相転移温度が 200 ℃高くなり、800 ℃で
相転移し始めることが分かった。また、窒素吸着法によ
る比表面積測定の結果、700 ℃焼成開発品の比表面積は
42 m2/g であり、焼成前(47 m2/g)とほとんど変わらな
かった。複合化せずに焼成した場合には 16 m2/g であっ
たため、
比表面積低下についても抑制効果が確認された。
エタノールガスを循環させながら試料に紫外光を照射
し、その減少速度から光触媒活性を評価した結果、
700 ℃焼成開発品の光触媒活性は、原料に用いた酸化チ
タンの 1.5 倍であった。高活性光触媒の合成法は数多く
報告されているが、本手法は、コストの低い汎用原料を
用いている点、常圧で処理できる点にメリットがある。
3.テンプレート法による多孔質材料の開発 5)
3-1.背景
多孔質材料は吸着材や触媒担体などに利用されている。
その作製法の一つにテンプレート法が挙げられるが、従
来法ではテンプレートに有機物等を用いるため、高温処
理ができない点に課題があった。一方、ハイドロキシア
パタイトを用いれば高温焼成が可能であり、図 2 に示す
ように高温焼成後であっても除去できると考え、多孔質
材料の開発を行った。
3-2.実験方法
2-2.と同様にして合成したアパタイト 0.3 g をオ
ルトケイ酸テトラエチル 1.2 g に分散させ、アンモニア
水を加えて複合体を得た。これを 1300 ℃で 1 時間焼成
し、1.00 mol/L の塩酸で酸処理した。
3-3.実験結果と考察
X 線回折法による結晶相調査の結果、クリストバライ
トと呼ばれる、酸化ケイ素の高温安定相が確認された。
また、走査型電子顕微鏡による観察の結果、図 3 に示す
ような多孔質構造が確認された。本研究は、テンプレー
ト法によって多孔質クリストバライトを合成した初めて
の例である。
参考文献
1) Y.Ono et al., Ceram. Int. 37 (2011) 1563-1568.
2) Y.Ono et al., Mater. Sci. Eng. 18 (2011) 032017.
3) Y.Ono et al., J. Phys. Chem. Sol. 73 (2012) 343-349.
4) Y.Ono et al., Mater. Res. Bull.48 (2013) 2272-2278.
5) Y.Ono, Ceram. Int. 41 (2015) 3298-3300.
図 2 多孔質材料の合成プロセスの模式図
孔
5 μm
図 1 光触媒材料の合成プロセスの模式図
図 3 開発品の走査型電子顕微鏡像
1
2
1PS-1401
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
実環境を考慮した可視光応答型光触媒抗菌性試験方法の開発
公益財団法人神奈川科学技術アカデミー 光触媒グループ
永井 武、○砂田 香矢乃、石黒 斉
[ は じめ に] 光触媒素材の多くは、紫外もしくは可
グリコール)や PEG(ポリエチレングリコール)
視光による光照射のみで強い抗菌・抗ウイルス作用を
を使用することを考案した。③実環境では、常温
発揮することから、市場からの注目も大きい。2007
度・常湿度であることから、JIS 法のような保湿
年から 2012 年に行われた NEDO 事業「循環社会構築型
条件でなく、菌を塗布したサンプルを直接光照射
光触媒産業創成プロジェクト」の成果により、新規高
することとした。④試験サンプルに、PPG を混ぜ
性能可視光応答型光触媒が開発され、強い抗菌抗ウイ
た試験菌液を塗布する方法として、直接塗布法を
ルス作用を有することが明らかとなった。また、JIS
考案した。これらの試験方法の流れを図1に示
や ISO として抗菌・抗ウイルス試験方法が標準化され
す。さらに、実際このような条件で抗菌試験を多
た。さらに、病院や空港で大規模なフィールド試験も
なった結果、実環境に近い抗菌活性を示した。つ
行われ、室内照明による実環境空間においても抗菌効
まり、この結果より、より実環境条件に近い抗菌
果が認められた。しかしながら、実環境での抗菌活性
試験評価法を開発することができた。今後、試験
は、JIS 試験でのものより大きく低下した結果であっ
所で実用化できるよう検討を重ねていく予定で
た。おそらく実環境空間では、JIS 試験条件に比べよ
ある。 り環境負荷がかかっていると考えられる。そこで、光
触媒製品の実環境空間での抗菌活性を推測すること
ができる新規試験方法の検討結果を報告する。 [ 検 討 課 題 ] 試験方法は、すでに標準化されている
JIS R 1752 もしくは ISO 17094(いずれも光触媒製品
の可視光による抗菌試験)を元にして検討した。まず、
実環境の選択について、人が直接触れる場所は、その
汚染面を介して接触感染の可能性があるため、光触媒
製品が有する抗菌活性を充分に発揮できると考えら
れる。そこで、接触感染を新規試験方法での実環境と
想定すると、以下の様な因子について検討する必要が
ある。①試験菌株 ②夾雑物 ③非保湿条件 ④試験菌
液の塗布方法 図1新規試験法の流れ [ 結 果 ] 上記の4因子について、それぞれ最適と思わ
a,b)PPG を含む試験菌液を無菌の紙に染み込ま
れる条件を検討した。①試験菌種について、以前の
せ、試験サンプルに直接塗布法で塗布する(直接
NEDO 事業において、実環境中の菌の同定が行われた成
塗布法)。c)塗布後の試験サンプル(実際の皮脂
果を元に、人の皮膚の常在菌である表皮ブドウ球菌が
汚れに近い状態を再現出来ている)。d)試験サン
適切であると考えた。②夾雑物について、接触感染を
プルの設置。e)試験サンプルの光照射 モデルとしたことから皮脂汚れが主要な夾雑物と考
えられる。しかしながら、皮脂自体に抗菌活性があり、
*本研究は経済産業省の補助事業「アジア基準認
しかも疎水性であることから夾雑物として菌液と混
証推進事業(実環境を考慮した光触媒抗菌性能試
合することは適切で無いと考えた。そこで皮脂成分で
験方法に関する国際標準化)」の援助によって行
はない、擬似皮脂成分として、PPG(ポリプロピレン
っている。 1PS-1402
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
線虫 C. elegans を用いた、健康寿命延長に寄与する
生理活性物質の探索
神奈川工科大学応用バイオ科学部応用バイオ科学科 高木智也、近藤雄太、廣瀬浩太郎、有水一将、今
井和希、〇井上英樹
1. はじめに
生物は老化に伴い進行する代謝能および運動機能の低
下により健康寿命(全寿命のうち健康に不自由なく暮ら
すことのできる期間)が阻害される。健康寿命を延長する
メカニズムは十分に知られておらず高齢化社会を迎えた
現在、全寿命の延長だけでなく、QOL の向上のために
健康寿命を延長させることが重要であると考えられる。
健康寿命の阻害因子として代謝能の低下に伴う脂肪蓄積
によるメタボリックシンドロームおよび運動障害による
ロコモティブシンドロームが挙げられる。本研究では体
長約1mmの線形動物で、
寿命は3週間程度と短いうえ、
ヒトと遺伝子機構の多くが共通しているためヒトの生理
機構のシンプルなモデル生物系として用いられている線
虫 Caenorhabditis elegans (C. elegans)を用いて、寿命
制御機構のなかでも特に健康寿命を延長させるシグナル
伝達機構および、シグナル伝達機構を活性化させる植物
由来の生理活性物質に着目し、それらの探索および作用
機序の解析を行った。
2. 実験方法
2.1 試料の調製
乾燥させた各種植物 10g から、100ml メタノールを用
いてソックスレー抽出器により加熱還流抽出を行った。
メタノール抽出エキスは遠心エバポレーターを用いて濃
縮し、DMSO に溶解し全抽出液を得た。
2.2 線虫への投与
線虫飼育用 NGM 寒天培地をオートクレーブ後、目的
の濃度となるよう全抽出液を添加し、プラスチックディ
ッシュに分注した。
コントロール培地には同量の DMSO
を添加した。
2.3 ストレス耐性
ストレス源としてヒ素(As、最終濃度 5 mM)または過
酸化水素(最終濃度 6 mM)を用いた。2.2 で作製した培地
で卵から飼育した成虫を、ストレス源を添加した培地に
移し指定時間毎の生存数を計測した。
2.4 寿命測定
NGM 寒天培地に生殖細胞分裂抑止を目的とした
FUDR(フルオデオキシウリジン)および全抽出液を添加
したものを寿命測定培地とし、検定および対照培地で卵
から育てた成虫をそれぞれ寿命測定培地に移したのち生
存数を 2 日に一度計測した。
2.5 中性脂肪の測定
健康寿命の指標として、検定および対照培地で飼育し
年齢が 2 週間経過した線虫を集め、ナイルレッド染色を
行い、中性脂肪を生体染色したのち蛍光顕微鏡にて観察
した。
3. 結果及び考察
老化の進行と酸化ストレスには相関があることが報告
されているため植物全抽出液の効果について酸化ストレ
ス耐性を指標とした。その結果、ガジュツ抽出液添加培
地(ガジュツ培地)で生育した線虫は対照培地の線虫と比
較しヒ素および過酸化水素水による酸化ストレスに対し
生存率の大幅な向上がみられた(図 1)。バナナ果皮、フィ
ーバーフュー、カモミール抽出物それぞれも同様に酸化
ストレス耐性の向上がみられた。また、ガジュツ培地で
は最長寿命延長だけでなく中年、老年期の生存率の改善
が観察された(図 2)。さらに、中年期の線虫の中性脂肪の
蓄積状況をナイルレッド染色で検討した結果、ガジュツ
培地の線虫は脂肪蓄積が強く抑えられた(図 3)。また、ガ
ジュツ以外の植物抽出液でも寿命延長作用および脂質蓄
積抑制が観察された。以上の結果から、ガジュツ等植物
抽出液に含まれる生理活性物質が線虫の健康寿命の改善
に関与することが示唆される。現在、生理活性物質の線
虫における作用機序の解析と各植物中の生理活性物質を
単離・同定を進めている。
図 1. ガジュツによる酸化ストレス耐性
図 2. ガジュツによる寿命延長効果
図 3. ガジュツによる脂質蓄積抑制作用
1PS-1403
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
蛍光タンパク質を用いた新規-secretase 基質の構築
神奈川工科大学
工学研究科
○安達 稔
飯田 泰広
[目的]
Alzheimer’s disease (AD)は脳疾患であり有効な治
形質転換体の発現誘導行った後、超音波破砕によって
療法は確立されておらず、原因も未解明であるが、
菌体を溶菌させて His-Trap 精製を行い、SDS-PAGE に
amyloid-(Aが示す神経細胞毒性によって AD が引
よって分子量を確認した。また、発現誘導後の形質転
き起こされると論じるアミロイド仮説が有力である。
換体を共焦点レーザー顕微鏡によって観察を行い、
その Aの産生経路は、膜タンパク質が-secretase 及
FRET の有無を確認した。
び-secretase によって消化された Aペプチドの疎水
凝集によって形成される。そこで、産生経路の初期に
働く-secretase の阻害による A産生の抑制が、AD
治療に関する有用なターゲットになると考えられてい
る。本研究室では、これまでに-secretase を固定化さ
せて Flow Injection Analysis (FIA)システムを用い
図 1 新規-secretaseFRET 基質の概念
る事により、-secretase に対する阻害剤を容易に評価、 [結果]
出来るスクリーニング系を構築している。-secretase
pCold1-ECFP-SRS-EYFP の電
活性評価には基質特異性を持つ Fluorescence Resonance
気泳動及びシークエンス結果から、
Energy Transfer (FRET)基質を用いる事が一般的である。 目的 DNA 分子量及び塩基配列と
この基質は-secretase 認識配列に FRET 効率の高い蛍
の一致を共に確認した。また、精
光色素を化学修飾しており、蛍光波長の変化によって
製タンパク質の SDS-PAGE 結果
-secretase の活性評価している。
(図 2)から、目的タンパク質分子量
本研究では、スクリーニングの高効率化、多種類の
の 55 kDa との一致が確認出来た
サンプルを対象とすることを念頭に置き、Donor に青
為、目的とするタンパク質を得る
色蛍光タンパク質(ECFP)、Acceptor に黄色蛍光タンパ
事が出来たと考えられた。
ク質(EYFP)、Linker に-secretase 認識配列を用いた
発現誘導後の形質転換体の蛍光
FRET 基質を構築し、Linker の加水分解の有無による
像を図 3 に示す。図 3(a)は、ECFP
蛍光波長の変化によって、-secretase の活性評価を目
の励起波長(405 nm)を当てた後、
的として、阻害剤スクリーニングへの適用を試みた。
EYFP の蛍光波長で観察を行った。
当該基質はタンパク質による活性評価であるので、
同様に図 3(b)は、EYFP の励起波
in vivo で用いることが可能になると考えている。また、 長(476 nm)を当てた後、EYFP の
図 2 ECFP-SRS-EYFP
の SDS-PAGE
E.coli に当該基質を発現するプラスミドを形質転換、
蛍光波長で観察を行った。ECFP の励起波長で EYFP
該当タンパクの産生を行う事で、安価で大量に基質を
の蛍光が確認できた事と、EYFP の蛍光条件で蛍光が
得る事が可能となる。
確認でた事から、ECFP の蛍光波長が EYFP の励起波
[方法]
ECFP に対して 5’末端側に Kpn1 サイト、3’末端側に
-secretase 認識配列断片及び Xba1 サイトを PCR によ
って付加した。pCold1 及び PCR 産物に対して Kpn1 と
長となり、FRET していることが示唆された。これら
の事から、ECFP-SRS-EYFP が-secretase 基質とし
て用いる事が出来ると考えられる。
(a)
(b)
Xba1 で制限酵素処理させた後、ライゲーションを行い、
pCold1-ECFP を作製した。EYFP に対して 5’末端側に
-secretase 認識配列断片を PCR によって付加した。
pCold1-ECFP を Xba1 で制限酵素処理させた後、PCR
産物と In-Fusion を行い、pCold1-ECFP-SRS-EYFP を
作製した。DH5α に pCold1-ECFP-SRS-EYFP を形質転
図 3 形質転換体の蛍光像
換させた後、電気泳動による分子量の確認及び、DNA
(a):Ex405 nm を当てた時の蛍光像
シークエンスを行い塩基配列の決定をした。得られた
(b):Ex476 nm を当てた時の蛍光像
1PS-1404
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
先端成長時に輸送される-glucanase をターゲットとした
新規抗真菌薬探索のための基礎的研究
神奈川工科大学工学研究科
[目的]
真菌症は、カビなどの真菌がヒトに感染すること
○喜田亜由美、飯田泰広
[結果]
構築した pYES2-BGL2 の酵母内での動作を確認する
で発症する病気である。
この真菌症に対する薬剤は、
S. cerevisiae
神奈川工科大学
○飯田泰広ために、出芽酵母
安藝 翔
佐藤
生男 INVSc1 株へ導入し、
国内では 6 種類しかなく、副作用のために長期にわ
glucanase 活性評価を行った。その結果、形質転換体
たって使用できないものや、一部の薬剤では耐性菌
は野生型よりも glucanase 活性が高く、有意な差が得
が出現しており、新規の抗真菌薬の開発が望まれて
られた(Fig. 1)。このことから、pYES2-BGL2 が出芽
いる。そこで、本研究室では、真菌に特異的に作用
酵母内で glucanase を発現し、機能していることが示
する新規抗真菌薬になりうる物質のスクリーニング
唆された。
さらに、glucanase の発現誘導を SDS-PAGE
を行うための評価系を構築することを目的とした。
により確認した結果、未誘導の酵母と比べて
この評価系を構築するにあたり、ターゲットとした
glucanase の タン パク質量 が多いこ とが示され、
のは、真菌が成長する際に行う先端成長である。先
glucanase が発現誘導されていることが確認できた
端成長は、ある 1 点の細胞壁の分解と合成を繰り返
(Fig. 2)。次に、BGL2 終止コドンを取り除くために
しながら成長していく方法で、ヒトには見られない。
pYES2-BGL2 のインバース PCR と、BGL2 下流に組
そのため、先端成長をターゲットとすることで、真
み込むための GFP のクローニングを行い、ベクター
菌に選択的に作用する薬剤開発につながると考えた。
を構築した。その結果得られるベクター
今回、この成長時に輸送される-glucanase と蛍光タ
pYES2-BGL2-GFP は、今後、出芽酵母に導入するこ
ンパク質 GFP を利用した評価系を構築し、視覚的に
とで先端成長時の小胞輸送を評価するための系とし
阻害物質をスクリーニングできる系を考えた。
て期待できる。
[方法]
30
25
を構築した。このベクターを E. coli DH 5株でサブ
20
U/Kg
ローニングし、pYES2 に組み込む事で pYES2-BGL2
15
クローニングし、出芽酵母 S. cerevisiae INVSc1 株へ
10
導入した。出芽酵母での形質転換体のセレクション
5
に は 、 最 小 栄 養培 地 の ウラ シ ル を 含 ま ない も の
(SC-Ura-培地)を使用した。その後、出芽酵母の野生
※※
35
BGL2 を保持する pTOWug2-836 から BGL2 をク
0
INVSc1
未誘導
INVSc1
2 h誘導
pYES2-BGL2
2 h誘導
Fig. 1 glucanase活性評価結果
型と形質転換体をガラクトースを加えた培地で 2 時
間誘導培養したものからタンパク質粗抽出物を得て、
M
glucan 基質と 24 時間反応させることで、glucanase
分子量
活性評価を行い、SDS-PAGE にて glucanase 発現誘導
200
確認を行った。次に、BGL2 終止コドンを取り除く
pYES2-BGL2
未誘導
(kDa)
未誘導
①
②
※※: p>0.01
Student t-test
2時間誘導
①
②
①:INVSc1
②:INVSc1 with
pYES2-BGL2
120
95
* glucanase
ために pYES2-BGL2 のインバース PCR と、BGL2 下
65
29 kDa
流に組み込むための GFP のクローニングを行い、
50
In-fusion 反応を行い先端成長時の小胞輸送評価系ベ
クターpYES2-BGL2-GFP の作成を試みた。
36
27
*
20
10
Fig. 2 SDS-PSGEによるタンパク質抽出物泳動結果
1PS-1405
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
HAS2 細胞内局在解析のための HAS2-GFP 融合ベクターの構築
神奈川工科大学大学院 工学研究科
[目的]
ヒアルロン酸(HA)は、D-グルクロン酸と N-ア
セチルグルコサミンの二糖が交互に結合した高
分子多糖であり、哺乳類では関節液や目の硝子体、
皮膚などの結合組織に多く存在する。真皮におい
ては、コラーゲンとエラスチンによって形成され
た骨格の間隙を埋めるように存在しており、高い
保水性と粘性を持つ事から、肌の潤いや弾力を保
つ働きを担っている。一方、生体内の HA は加齢
や光老化に伴い減少して行く事が知られており、
ヒトの真皮における HA は、線維芽細胞の細胞膜
上に存在するヒアルロン酸合成酵素(HAS)によ
ってのみ合成される。しかし、細胞内で HAS が
発現してから細胞膜へ輸送されるまでの経路、発
現した HAS の何割が正常に細胞膜へ輸送される
か等、その輸送に関する機構は未だ解明されてい
ない。
本研究室では既に、正常ヒト皮膚線維芽細胞
(NHDF)において HAS2 遺伝子発現を誘導する物
質をスクリーニングし、蒼朮由来の活性物質を発
見しているが、その作用機構もいまだ解明されて
いない。
そこで本研究では、HAS2 の ORF 領域を GFP
と融合させた発現ベクターを構築し、構築したベ
クターを NHDF に導入、HAS2-GFP を産生する
細胞系を構築する。この細胞系は GFP 蛍光によ
り、生きた細胞内でリアルタイムに HAS2 の挙動
を解析する事が可能である。
同様に、HAS2 のプロモーター領域の下流に
GFP を融合させたベクターを構築し、NHDF へ
導入した細胞系を構築する。この系では、プロモ
ーター領域の ON/OFF による GFP 蛍光を検出す
る事で、ヒアルロン酸産生誘導物質の作用機構の
評価への利用が期待できる。
[実験方法]
HAS2-GFP 融合ベクターを構築するため、ライ
ゲーションに用いるベクター及びインサートの
作製を行うため、培養した正常ヒト皮膚線維芽細
胞(NHDF)より合成した cDNA を鋳型として PCR
を行い、HAS2 ORF をクローニングした。PCR
によりこの ORF の両端に EcoRⅠおよび BamHⅠ
の認識部位を付加し、対応する制限酵素により切
断、精製したものをライゲーション反応に用いる
インサートとした。
E.coli DH5α株から GFP の遺伝子領域を含む
プラスミド(pAcGFP1-N1)を抽出した。EcoRⅠお
よび BamHⅠを用いた制限酵素処理により線状
○時岡舜
井出貴子
飯田泰広
化し、精製を行ったものをライゲーション反応に
用いるベクターとした。
[結果]
HAS2 ORF の泳動図を Fig.2 に示す。HAS2 ORF
の PCR 産物を泳動した P のレーンにおいて、目的
分子量である 1656 bp 付近にバンドが確認できた
事から、このサンプルを制限酵素認識部位を付加
する鋳型とした。
ライゲーション反応に用いたサンプルを Fig.2
に示す。レーン 1 は、Fig.1 で増幅した ORF に制
限酵素認識部位を付加し、対応する制限酵素によ
り末端を処理したものである。目的分子量である
1665 bp 付近にバンドが確認できたため、このサ
ンプルをライゲーションに用いるインサートと
した。レーン 2 は大腸菌から pAcGFP1-N1 のベク
ターを抽出し、対応する制限酵素により切断した
ものである。目的分子量である 4718 bp 付近にバ
ンドが確認できたため、目的の線状化ベクターを
得ることが出来たと考え、このサンプルをライゲ
ーションに用いるベクターとした。
Fig.2 に示した 2 つの断片を用いて粘着末端同
士のライゲーションを行い、発現ベクターを構築
した。構築されたベクターは、GFP 蛍光による
HAS2 の局在解析に利用できる。
M : 1kb DNA Ladder
N : Negative control
P : HAS2 ORF
Intention size
P : 1656 bp
Fig.1 HAS2 ORF
M : 1kb DNA Ladder
1 : Prepared vector
2 : Prepared insert
Intention size
1 : 1665 bp
2 : 4718 bp
Fig.2 Prepared samples for ligation
1PS-1406
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
新規アポトーシス誘導性抗がん作用を有する物質のスクリーニング法の開発
神奈川工科大学
工学研究科
○長谷部佑亮、齋藤宇伸、高村岳樹、飯田泰広
〔目的〕
ヒトの体内では、異常の生じた細胞がアポトーシ
〔結果〕
スによって除去されることにより恒常性が保たれて
クローニング後の Survivin-と HBXIP の分子量を電
いる。しかし、アポトーシス機構に異常が生じると
気泳動によって確認した結果、各遺伝子の目的分子
発がんリスクが高まることが知られている。
量付近に単一のバンドが確認された(survivin-:429
Survivin-は Inhibitor of Apoptosis Protein (IAP)フ
bp、HBXIP:273 bp)。形質転換後の大腸菌はアンピシ
ァミリーに属するタンパク質であり、 Baculovirus
リンによる選択培地上でのコロニーが確認され、抽
IAP Repeat(BIR)ドメインという特徴的な塩基配列を
出後のプラスミドから PCR によって各 ORF が増幅
保有している。Survivin-の主な機能は細胞分裂の促
されたことから、当該プラスミドが大腸菌内で増幅
進であるが、BIR ドメインにおいて Hepatitis B virus
されていることが示唆された(図 1)。
X-interacting protein(HBXIP)と結合するとアポトー
本研究によって得られた各プラスミドは、図 2 に
シスを抑制することが知られている。この survivin-
示したシステムに組み込むことにより、survivin-と
はがん細胞内で特異的に高発現しているため、抗が
HBXIP の相互作用の評価及び結合を阻害する低副
ん剤研究の標的として魅力的であるが、survivin-の
作用抗がん物質の 1 次スクリーニングに役立つもの
機能全体の抑制は正常細胞の有糸分裂に悪影響を与
と考えられる。
える恐れがある。そこで本研究では、survivin-と
HBXIP の相互作用のみを阻害する物質を生薬中か
①
②
③
④
⑤
bp
①:100 bp ladder
②:D2W
らスクリーニングするための系を構築することを目
的とした。
〔方法〕
ヒト肝がん細胞:HepG2 の cDNA から survivin-と
HBXIP の ORF をクローニングするために PCR を行
③:HBXIP
④:D2W
1500
1200
1000
900
800
700
600
500
⑤:Survivin
425 bp
400
なった。Survivin には 7 種類のアイソマーが知られ
300
ており、なおかつ各アイソマーにおける ORF の両端
200
267 bp
の相同性が極めて高いことから、Overlap Extension
100
PCR(OE-PCR)を行ない、survivin-に特異的な配列の
断片を得ることで、当該遺伝子の完全長配列を特異
図 1. 大腸菌から抽出したプラスミドからの各 ORF
的にクローニングした。クローニングした両遺伝子
の増幅
は、電気泳動によって分子量の確認を行なった。
相互作用がない場合
(Survivin)
クローニングした survivin-と HBXIP はそれぞれ
pACTII ベクターと pAS1 ベクターに組み込み、大腸
A (HBXIP)
菌 Escherichia coli DH5 に 形 質 転 換 す る こ と で
OFF
DBD
pACTII-survivin-と pAS1-HBXIP を増幅した。また、
結合配列
TATA box
His3
転写活性化
ON
TATA box
His3
各ベクター内に保持されている ORF の配列を確認
するために、大腸菌からプラスミドの抽出を行ない、
相互作用がある場合
(Survivin)
PCR によるインサートの増幅と電気泳動による確認
を行なった。
A
(HBXIP)
DBD
結合配列
図 2. タンパク質複合体化阻害物質のスクリーニン
グ法の概要
1PS-1407
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
蒼朮由来 HAS2 誘導物質におけるヒアルロン酸産生評価
神奈川工科大学
㈱ジュジュ化粧品
工学研究科
中村
○穂坂友里、成岡美智、飯田泰広
幸雄
1.背景及び目的
ヒアルロン酸(以下HA)はD-グルクロン酸とD-N-
ン酸緩衝液で固定後、ビオチン標識ヒアルロン酸結
アセチルグルコサミンの2糖による交互の繰り返し
Flour488-conjugate avidin を 用 い て 検 出 し た 。
構造を持ち、高保水性機能を有する高分子多糖であ
Floromount を用いて封入し、共焦点レーザー顕微鏡
る。HAは皮膚の結合組織に広く存在し、肌のハリ、
で観察した。遺伝子発現も同様に NHDF 継代した後、
弾力性に深く関っているが、HAは年齢と共に減少す
活性物質を添加し、24 h 刺激を行った。24 h 後に RNA
る。また、HAは現在外科的手法のみでしか増やすこ
抽出、PCR を行い、半定量にて発現量を調べた。
合 タ ン パ ク 質 を 用 い て 一 次 反 応 を 行 い 、 Alexa
とが出来ない。このHA合成はヒアルロン酸合成酵素
(Hyaluronan synthase, HAS )のみが携わっており、そ
の酵素の遺伝子であるHAS(1,2,3)の発現を増加する
3.結果
蒼朮からヘキサン抽出を行い、Ag+-silicagel による
ことが出来れば、肌の内側からヒアルロン酸産生量
分画、GC-MS による解析を行ったところ、活性物質
を増加させることが期待できる。本研究室では既に
は Hinesol と-eudesmol であることが分かった。
正常ヒト成人皮膚線維芽細胞(Normal human Dermal
次に Hinesol、-eudesmol を NHDF に添加し、HAS2
Fibroblast, NHDF)を用いて252種類の生薬からHAS2
発現量、ヒアルロン酸産生を評価した結果、HAS2
発現量とHA産生量の促進作用を評価した結果、蒼朮
発現量は control に比べて Hinesol で約 1.8 倍、
に高い活性を確認することが出来ている。本研究で
-eudesmol で約 4 倍増加した(図 1)。
は、この蒼朮に含まれる活性物質が誘導するHAS2
ヒ アルロン酸 産生も HAS2 発現量 と同様に、
遺伝子発現量評価、また遺伝子レベルだけでなく、
Hinesol、-eudesmol を添加した場合、Control に比
ヒアルロン酸産生量の比較を行うためヒアルロン酸
べ、細胞を取り囲むように、広範囲にヒアルロン酸
結合タンパク質(HABP)による産生評価を試みた。
産生が増加していることが判明した。
30 分静置し、その抽出溶液全量をビーカーに移す作
業を 5 回繰り返し、蒼朮の抽出溶液のみを三角フラ
スコに回収する作業を 3 回繰り返したのち吸引ろ過、
減圧濃縮、重量測定したものを蒼朮抽出物とした。
120
4
100
3.5
3
80
2.5
60
2
1.5
40
1
20
0.5
得られた蒼朮抽出物を Ag+-silicagel を担体とし、ヘ
0
0
control
キサン:酢酸エチル=90:10 の溶媒溶液でカラムクロ
マトグラフィーを行い、Ag+-TLC により得られた溶
hinesol
β-eudesmol
図 1 活性物質添加時における HAS2 発現量
液を分画、回収した後、減圧濃縮、重量測定を行っ
た。分画により得られた活性画分を 10 L/mL にな
(a)
(b)
(c)
るようにヘキサンを用いて調製した。このサンプル
を用いてガスクロマトグラフィー(GC-MS)により
解析を行った
次に、活性物質を用いた HAS2 遺伝子発現評価、
ヒアルロン酸産生評価を行うため、NHDF を 4 日間
培養したのち、0.01%ポリ-L-ポリリジンコートした
図2
ヒアルロン酸結合タンパク質を用いたヒア
ルロン酸評価
カバースリップ上で、継代培養を行った。このカバ
(a)Control
ースリップ上の細胞を 4 %パラホルムアルデヒド-リ
(c)-eudesmol (2.5g/mL)
(b)Hinesol (4g/mL)
Cell (%)
った。蒼朮 100 g に対して、ヘキサン 250 mL 加え、
140
4.5
(HAS2/GAPDH)
はじめに、蒼朮から活性物質のヘキサン抽出を行
Relative HAS2 expression
5
2.実験方法
1PS-1408
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
アポトーシス誘導のための survivin 機能解析
神奈川工科大学
○齋藤宇伸、長谷部佑亮、高村岳樹、飯田泰広
[目的]
Survivinは正常細胞ではほとんど発現してお
らず、癌細胞で有意に発現していることが知ら
れている。このSurvivinは様々なタンパク質と
相互作用し複合体を形成することで、アポトー
シス実行因子であるcaspase活性を抑制し、アポ
トーシスを阻害する機能を有しており、survivin
の発現を抑制することで様々な癌細胞にアポ
トーシスを誘導できることから、抗腫瘍剤のタ
ーゲットとして注目されている。
しかし、survivinは細胞分裂時の紡錘体形成す
るために必要でもあることから、survivinの機能
そのものを抑制することは正常細胞にも影響
を与えると考えられる。Survivinは、XIAPのタ
ンパク質と相互作用することによりcaspase-9を
阻害することが知られているが、そのアポトー
シスを阻害する機能と複合体形成時のsurvivin
の必要な配列の関連性について詳細には調べ
られておらず、survivinのアポトーシスに関連す
る部位と細胞分裂に関する部位を明らかにす
ることは、副作用の少ない抗腫瘍剤開発の一助
となると考えられる。
そこで、本研究では、Yeast Two-Hybrid (以下
YTH)systemを利用してsurvivinおよび当該タン
パク質と相互作用するタンパク質の複合体形
成に必要な配列を解析することを目的とした。
HIS3 の誘導発現のために SD 培地の炭素源をガ
ラクトースにしたもの)で行った(図 1)。YTH
system の構築後、survivin の XIAP をサブクロー
ニングした発現ベクターに対して、当該システ
ムを応用した相互作用を評価する検討を行っ
た。
pAS1-XIAP
pACTⅡ-survivin
Prey vector
Bait vector
・GAL4 Activation Domain
・LEU2 (ロイシン栄養要求性補完)
・GAL4 DNA Binding Domain
・TRP1 (トリプトファン栄養要求性補完)
酢酸リチウム法による
形質転換
plating
SC -Trp
S.cerevisiae/pAS1-XIAP
酢酸リチウム法による
形質転換
SurvivinとXIAPが相互
作用した場合のみレ
ポーター遺伝子の
HIS3が発現される
plating
SG -Trp-Leu-His
S.cerevisiae/pAS1-XIAP/pACTⅡ-survivin
図 1 YST system を利用した survivin および XIAP タ
ンパク質の相互作用の評価方法
[結果および考察]
酵母から pAS1-XIAP および pACTⅡ-survivin
[方法]
を抽出し電気泳動した結果、目的分子量と近い
ヒト肝癌由来細胞(HepG2)から cDNA を作
バンドが確認できた。また、SG 誘導培地で両
製後、PCR により survivin と XIAP の DNA をク
ベクターを同一酵母に保持させた S. cerevisiae
ローニングした。それぞれの DNA を infusion
BY3913/pAS1-XIAP /pACTⅡ-survivin を培養し
反応により pACTⅡと pAS1 に組み込みそれぞ
た結果、コロニーの形成が観察できた。このこ
れの発現ベクターを構築した。酢酸リチウム法
とから、両プラスミドによる栄養欠損の補完と、
に よ り 酵 母 へ 形 質 転 換 し 、 S. cerevisiae
目的タンパク質同士の相互作用が考えられ、
BY3913/pASⅠ-XIAP を-Trp アミノ酸 drop out
survivin と XIAP の相互作用を評価できる YTH
mix を使用した SD 培地(炭素源グルコースの
system が構築できたことが示唆された。
最少栄養培地)において 3 日間、30℃で培養し
また、目的タンパク質配列をサブクローニン
た。酵母内で pAS1-XIAP (Bait vector)のプラス
グした結果、酵母内での保持が確認されている。
ミド保持が確認された後、pACTⅡ-survivin(Prey
当該システムを応用し目的タンパク質である
vector)を形質転換した。YTH system 構築評価は、 survivin および XIAP の相互作用する配列を評
GAL4 レポーター遺伝子である HIS3 と Lac-Z 活
価することで、survivin のアポトーシス阻害に
性評価を-Leu-Trp-His アミノ酸 drop out mix を使
関する機能を解明できることにつながること
用した SG 誘導培地(GAL4 レポーター遺伝子
が示唆された。
1PS-1409
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
自己組織化により高度配向したコラーゲンフィルムの作製 東工大資源研 1, JST さきがけ 2 ◯徳地 彩稀 1, 宍戸 厚 1, 2
1. 緒言 のせ, セルを組んだ。このセル内に調製した試料の原液
金属やセラミックス, 合成高分子などは力学特性や耐
を浸透させ, オーブン中で熱硬化させた。これにより,
久性, 易加工性に優れることから材料として広く用いら
表面にレリーフ構造が転写されたシリコーンエラストマ
れてきた。しかしながら, 医用材料のような生体と触れ
ーであるポリジメチルシロキサン (PDMS) 基板を得
る場面では, これらに代わる生体適合性の高い新しい材
た。作製した表面凹凸 PDMS 基板をレリーフ構造が上
料の開発が望まれている。そこで, 生体高分子を用いた
側になるようにボックス内に貼付し, ボックスを真空デ
医用材料に注目が集まっている。生体由来物質であるコ
シケーター内に設置した。コラーゲン溶液 (新田ゼラチ
ラーゲンは,直径 1.5 nm, 長さ 300 nm の三重らせん構
ン社製) を溶媒で希釈したものを試料溶液とした。表面
造を有する分子が自己組織的に会合することにより太く
凹凸 PDMS 基板上にコラーゲン溶液をキャストし, 真
て強靭な繊維構造を形成する。体内ではコラーゲン分子
空下で溶液を蒸発させることによりコラーゲンフィルム
やその構造体が適当な立体構造をなし, 皮膚や腱などの
を得た (図 1) 。
生体組織を構成している。材料を作製するにあたり, 高
機能化を指向した分子配向の制御が広く行われる。現在
3. 結果と考察 主流なコラーゲン分子の配向制御方法としてはエレクト
作製した表面凹凸 PDMS 基板を原子間力顕微鏡
ロスピニングや流動配向法などが挙げられるが,これら
(AFM) により観察すると, 凹凸の周期は 8 µm, 深さは
は配向方向の自由な規定や大面積で均一な材料の作製な
240 µm であり, 鋳型として用いたシリコン基板と同様
どにおいて課題が残っている。われわれは, 既存の方法
のレリーフ構造が転写されていることが確認できた。希
に代わる簡便なプロセスの開発を試みた。表面凹凸構造
釈したコラーゲン溶液を凹凸 PDMS 基板上にキャスト
を付与したシリコーンエラストマーを基板として用い,
し, 真空乾燥させ, コラーゲンフィルムを得た。得られ
コラーゲンの有する自己組織化能を誘起させることによ
たコラーゲンフィルムを偏光顕微鏡により観察し, 光学
り配向コラーゲンフィルムを作製し,光学特性の評価を
特性を調べたところ, メタノールで希釈したコラーゲン
行った。
溶液では, 凹凸 PDMS 基板の溝と平行にコラーゲン分
子が並びながら直径 20-25 µm の繊維を形成しているこ
2. 実験 とが明らかになった。同様の溶液を用いて, 凹凸を持た
まず始めに, 表面に凹凸構造を有する基板の作製を行
ない基板上でフィルムの作製を行うと, わずかな光学異
った。東レ・ダウコーニング社製 DOW CORNING
方性は見られたが, 繊維構造は観察できなかった。
TORAY SILPOT 184 W/C の主剤と硬化剤を重量比
以上より, 本手法では簡便に配向コラーゲンフィルム
10:1 で混合することで試料の原液を調製した。フォトリ
を作製することに成功した。今後, 細胞足場材料といっ
ソグラフィーにより表面凹凸構造を持たせたシリコン基
た組織工学的な応用が期待できる。
板にスペーサーを介して, 表面処理を行ったガラス基板
図 1 コラーゲンフィルムの作製プロセス.
1PS-1410
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
ラット唾液ムチンの生理的変動
1.はじめに
唾液分泌量の低下は唾液による粘膜防御バリアの
機能低下を招き、口腔乾燥症等の口腔内トラブルを
引き起こすことが知られている。一方、唾液の粘膜
防御機能を担う成分の一つと考えられている唾液ム
チンの質的・量的変動が口腔粘膜にどのような影響
を及ぼすのかについてはほとんど知られていない。
本研究では先ず唾液ムチンの生理的変動を把握する
ことを目的として、正常ラットを用い、非侵襲的か
つ定期的に唾液を採取し、これに含まれるムチンを
抗ラット唾液ムチンモノクローナル抗体を用いて測
定した。
2.実験方法
①ラット唾液の採取
仰向けに抱きかかえた SD 系雄性ラット(13 週齢、
体重 430g)の口元を市販の薬品瓶保護ネット(エチ
レン酢酸ビニル共重合体製)で覆い、固定した。口
腔内に円筒(ポリプロピレン製、外径約 3mm)を挿
入し、ポンプ(日東工器製 UPS-112E、自吸力 3kPa、
最大流量 36mL/min)で約 5 分間吸引して唾液を採
取した。なお、ラットは環境順化のための予備飼育
期間を含めて、餌と水を自由摂取とした。本実験は
神奈川工科大学動物実験委員会の承認を得て実施し
た。
②モノクローナル抗体を用いた唾液ムチンの測定
ラット唾液腺由来ムチンと特異的に反応する 2 種
のモノクローナル抗体(RSM2403 (IgG1),RSM2707
(IgM))を用いて、ELISA 法により唾液中のムチン
を測定した。定量用ムチン標準は、ラット唾液腺(主
に顎下腺と舌下腺)水抽出物をゲル濾過、
次いで CsCl
密度勾配遠心法で分画して得た分子量 150 万前後、
比重約 1.4 の糖タンパク質画分(ムチン画分)を用
いた。
3.実験結果及び考察
唾液の生理的な変動を検討するため、無麻酔で唾
液を採取した。2 時間間隔で 6 回同一ラットから唾
液を採取したが、ラットの状態は終始平常であり、
大きなストレスにはなっていないものと推察された。
唾液採取量は、採取初日(生後 91 日目)、午前中
が比較的多く、午後は少ない傾向がみられた(表 1)
。
3 日後(生後 94 日目)に同じタイムスジュールで唾
液を採取した結果、17 時と 19 時に比較的多量の唾
液が採取された。これらの結果から、唾液分泌量は
○合田
鈴木
瑞紀、栗原
龍秋
誠
一日を通して一定ではなく、周期性を示すが、その
周期は日によって異なることが示唆された(表 1)。
表 1.ラット唾液の採取
採取時刻
9時
11時 13時 15時 17時 19時
唾液採取量 (µL)
生後91日目
20
20
6
7
8
8
唾液採取量 (µL)
生後94日目
10
10
4
5
30
15
採取した唾液と唾液腺由来ムチンを認識するモ
ノクローナル抗体(RSM2403,RSM2707)との反
応性を検討した結果、いずれの抗体においても用量
依存的な反応がみられた。各抗体が認識するムチン
は唾液中に分泌されていることが確認された。
各抗体が認識するムチンの唾液中の濃度を測定
した結果を図 1 に示す。いずれの抗原ムチンについ
ても、唾液中の濃度は一日を通して一定ではなく、
夕方にかけて低下する傾向がみられた。日内におけ
る唾液中ムチンの濃度差は少なくとも 3 倍以上ある
と見積もられた。ムチン濃度と唾液採取量との関係
については相関性は認められなかった。
唾液ムチンの分泌量は必ずしも唾液量に反映さ
れず、生理的に変動していることが示唆された。
500
生後91日目
400
300
抗原濃度(相対値)
神奈川工科大学大学院 工学研究科
神奈川工科大学 応用バイオ科学部
200
100
0
生後94日目
500
400
300
200
100
0
9:00
11:00
13:00
15:00
17:00
19:00
採取時刻
図 1.ELISA 法によるラット唾液中ムチンの測定
は RSM2403、
は RSM2707 を示す。
1PS-1411
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
膵臓癌細胞のアポトーシス誘導に関する基礎研究
〇佐藤 貴亮 1、西村 裕之 2、吉田 薫 3、萩原 啓実 2、竹内 真一 4
(1 桐蔭横浜大学大学院 工学研究科 医用工学専攻、2 桐蔭横浜大学 医用工学部 生命医工学科、
3 桐蔭横浜大学
先端医用工学センター、4 桐蔭横浜大学 医用工学部 臨床工学科)
1
図 1 超音波照射システムのブロック図
Annexin V-FITC
明視野
図 2 時間経過による生存率変化
PI
はじめに
膵臓癌は初期にはほとんど自覚症状がなく、進行
も早いために早期発見が非常に難しいという特徴が
ある。膵臓癌細胞は膵臓外に浸潤しやすく周囲のリ
ンパ節や臓器に転移しやすいという特徴もあるため、
発見された段階で摘出手術が行えないほどまで進行
している事例が多々ある。そこで我々は、摘出手術
が行えない膵臓癌に対する追加療法として超音波に
よるアポトーシス誘導を考えている。今回は、膵臓
癌細胞株 MIA-PaCa2 に超音波を照射した際のアポ
トーシス誘導について検討を行ったので報告する。
2
方法
2.1 超音波照射条件
膵臓癌細胞株 MIA-PaCa2 を培養シャーレφ35 又
は 96 穴ウェルプレートに使用培地 DMEM(10 %
FBS,1 % P/S)で培養し、コンフルエント手前の状態
で超音波照射を行った。MIA-PaCa2 に対する超音
波照射には、ステンレス製振動板(φ180 mm)の
下中央部に本多電子製ランジュバン振動子
(HEC-45402,共振周波数 40 kHz)が装着されて
いる当研究室製の周波数 150 kHz 定在波型超音波
照射システムを用い、ランジュバン振動子に周波数
150 kHz、電圧 185 Vp-p の連続正弦波を印加した。
本システムのブロック図を図 1 に示す。培養シャー
レφ35 を使用した場合は 5 mm ステップで 9 点×9
点=81 点の位置にシャーレを移動させ 1 点あたり照
射時間 15 s、30 s で超音波照射を行った。ウェルプ
レートを使用した場合は固定式(移動せず)で照射時
間 15 s、30 s、1 min、5 min で超音波照射を行った。
超音波を照射せずに培養し続けたサンプルをコント
ロールとした。
2.2 測定方法
細胞生存率の測定においては培養シャーレφ35
で培養したサンプルを使用した。超音波照射の 0 時
間後、4 時間後、24 時間後に細胞を PBS(-)で洗浄し、
トリパンブルーで染色後、ビルケルチュルク血球計
算盤で生細胞カウントした。この時、コントロール
の細胞数を 100 %とした。アポトーシスの評価にお
いては超音波照射の 24 時間後に PBS(-)で細胞を洗
浄し、Annexin V-FITC と PI で染色後に蛍光顕微鏡
を用いて観察した。
2.3 結果
超音波を 15 s 照射して 24 時間の細胞生存率には
あまり変動が見られなかったが、30 s の超音波照射
ではおよそ 55%減少していた。Annexin V-FITC / PI
染色による測定でも培養シャーレφ35 を用いて 30
s の超音波照射を行った場合では Annexin V の蛍光
(緑)が強く、PI の蛍光(赤)が弱いことから、アポト
ーシス誘導の傾向が観察できた。細胞生存率のグラ
フを図 2、蛍光顕微鏡の写真を図 3 に示す。
コントロール
30 s
図 3 蛍光顕微鏡の写真 (明視野、Annexin V、PI)
1PS-1412
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
多変量解析による植物種子の成分分析と産地判別
○小林
神奈川工科大学大学院
工学研究科応用化学・バイオサイエンス専攻
健太、齋藤 貴
【概要】2000 年に農林水産省で「農林物質の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS 法)
」の改正が
行われた以降、食に関する興味・関心が年々高まっている。しかし、その一方で食に関する安全性の問題や食
糧危機などの問題も浮上している。これらの現状を踏まえ、安全で信頼性が高く・効率的な食品を求めて品種
改良を背景とした食品試験(交配試験、品種改良試験)が農業分野を中心に盛んになっている。そのため食品
の品質と安全性を管理するための様々な農産物の科学的な判別法は多岐にわたり求められている。本研究では、
種子による産地及び品種の判別法の開発を目的とし、日本で数多く食用生産されている玉葱の種子を対象試料
とし、食品中の無機元素組成を指標とした判別法の検討を行った。
【実験】洗浄済みの玉葱種子試料を凍結乾燥し、乾燥した試料 0.2 g をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製
容器(2.2 cmφ×27 cm)へ導入後、濃硝酸 10 ml を加え、マイクロ波分解抽出(800 W、210 ℃、15 min)を行った。
得られた玉葱種子溶解液を 210 ℃のホットプレート上で濃縮し、10 ml に定容した後、誘導結合プラズマ発
光分光分析装置(ICP-AES)を用いて、10 元素(P、K、Ca、Mg、Mn、Zn、Fe、Al、B、Sr)について定量分析を
行った。
【結果及び考察】玉葱種子試料として日本産 9 検体、
日 本
国 外
国外産(北欧、欧州産)17 検体、計 26 検体を用いて
産
無機組成分析を行った。ICP-AES により、10 元素(P、
K、Ca、Mg、Mn、Zn、Fe、Al、B、Sr)について無機
組成分析を行った。検出された金属元素の濃度は、P
>K>Mg>Ca>>Mn>Fe>Zn>B>Al>Sr の傾向
にあり、P、K、Mg、Fe、Mn、Zn の濃度は日本産の
図 1 日本産及び国外産の種子の主成分分析
傾向にあった。日本産試料と国外産試料を評価した主
成分分析を図 1 に示した。また、図 2 の主成分負荷量
は、日本産及び国外産のそれぞれに対してマーカーと
なる金属傾向を示したものである。その結果、主成分
分析による評価では日本産では Mg、P、K、Fe、Zn、
Mn、国外産では Al、Ca 濃度が高い傾向にあることが
Factor2
方が高く、Ca、B、Sr、Al の濃度は国外産の方が高い
1
0.5
0
-0.5
-1
Ca
Al
Mg
K
B Sr
-1
-0.5
0
0.5
P Fe
Zn
Mn
1
Factor1
図 2 主成分負荷量
認められた。また、日本産試料と国外産試料を評価し
たクラスター分析を図 3 に示した。玉葱種子を日本産
と国外産に分離することが可能であることが明らかに
なった。さらに、応用的展開として玉葱種子試料を赤
玉葱と黄玉葱の品種ごとの判別を試みた結果、主成分
分析による判別に関しては主成分値の混在により現段
階では判別が難しいが、クラスター分析及び線形判別
分析では、分離能が顕著で、品種毎の判別の可能性が
示唆された。
図 3 日本産及び国外産の種子のクラスター分析
1PS-1413
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
耐塩性植物の細胞培養とプロトプラスト化
神奈川工科大学大学院
○松下 雄太、斎藤 貴
工学研究科応用化学・バイオサイエンス専攻
【概要】農耕地における塩害は農作物への被害を生じさせることが知られており、対策には長期間・
高コストを要する。本研究ではファイトレメディエーションに着目し、特に好塩植物として知られて
いるアイスプラント(Mesembryanthemum crystallinum L)に注目した。この植物を用いて、より形態
の大きい植物との細胞融合による新種の耐塩性植物を見出すことを目的とし、本研究はアイスプラン
トのプロトプラスト化の形成能向上の条件設定の確立を試みた。
【実験】種子より生育させたアイスプラントの葉部を滅菌のためにアンチホルミン溶液に 5min 浸漬
後、幅 1mm に切断し、ペトリデッシュ上で細胞壁分解酵素液(セルラーゼ、ペクチナーゼ)を加えた。
その後、減圧下で脱気し、30℃で 1h 振盪後、その 20µl を採取し、位相差顕微鏡で細胞の形態観察を
行った。アンチホルミン溶液の濃度、測定時間、酵素液の D-マンニトール濃度を種々設定し、プロト
プラストの収量を調査した。
【結果及び考察】アイスプラントの細胞由来のプロトプラストの様子を図 1 に、分解反応時間に対す
る収量変化を図 2 に、滅菌用アンチホルミン溶液の濃度に対する収量への影響を図 3 に示した。
反応開始から 3~4h でプロトプラストの収量が最大に達する傾向が認められ、効率よくプロトプラス
トを得るためには D-マンニトールの濃度を 0.7M に設定する必要があることがわかった。また、滅菌
操作における植物細胞へのダメージ及び収量への影響を最小限に抑えるためにはアンチホルミン溶液
の濃度を 1%に設定することが最適であることもわかった。しかし、生成したプロトプラスト数は一般
に融合条件に適すると言われる 1~5×106 cell/ml には達していないことも分かった。
今後、収量を 1~5×106 cell/ml 程度に向上させる必要があり、
葉試料を用いる際、試料の生長段階や育成環境も大きく関係して
くると推測され、葉試料の生長状況が与える収量への影響に関して
も評価をしていく必要がある。
図 1 アイスプラント由来のプロトプラスト
図 2 反応時間とプロトプラストの収量の関係
図 3 滅菌試薬濃度と収量の関係