LD 励起単一モード Q スイッチ Nd:YAG レーザの

LD 励起単一モード Q スイッチ Nd:YAG レーザの周波数可変動作
川戸栄, 松村竜也, 竹内克説, 小林喬郎
福井大学
工学部
〒910-8507
電気・電子工学科
福井市文京 3-9-1
e-mail: [email protected]
Tel: 0776-27-8564
Fax: 0776-27-8749
各種の高精度分光計測や高効率の非線形光学用の励起光源として、単一周波数での高
出力パルスレーザが必要とされている。そこで、LD 励起 Nd:YAG の小型で高出力の単一モー
ド Q スイッチレーザを開発した。繰り返し周波数 10 kHz 時で平均出力 3.1 W, 光-光変換効
率 16 %が得られた。パルス幅 92 ns からフーリエ変換して 4.8 MHz の発振線幅が得られた。
次に、エタロンを用いて周波数帰還制御を行い、レーザの中心周波数の安定化と周波数可変
(FM)動作を可能とした。
LD 励起、単一周波数、Q スイッチ、シーディング、リング共振器、周波数変調
Frequency Modulation of a LD pumped, single-mode Q-switched Nd:YAG laser
S. Kawato, T. Matsumura, K. Takeuchi, and T. Kobayashi
Department of Electrical and Electronics Engineering, Faculty of Engineering
Fukui University
Bunkyo 3-9-1, Fukui 910-8507, Japan
e-mail:[email protected]
TEL:0776-27-8564, FAX:0776-27-8749
A single frequency Q-switched pulse lasers are useful as light sources for
high-precision spectroscopic sensing and non-linear optics. We have developed a compact
high-power single frequency LD pumped Q-switch Nd:YAG laser. The average output power
was 3.1 W with optical efficiency of 16 % at 10 kHz repetition frequency. The line width was
estimated to be 4.8 MHz from the pulse width of 92 ns. The stabilization of the laser frequency
was achieved using the etalon as a frequency discriminator.
diode pump, single frequency, Q-switching, seeding, ring resonator, frequency modulation
1. はじめに
ので報告する。
半導体レーザ(LD)励起の固体レーザは高
効率で熱的影響が少ないため、低雑音で高
2. Q スイッチリングレーザの構成と動作
特性
安定であり、スペクトル幅が狭く単一モー
パルスレーザの単一周波数化には、1) 波
ド発振で高出力、かつ、小型、安定などの
長選択素子を用いる方式、2) マイクロチッ
1)。この単一周波数
プ・短共振器を用いる方式 5)、3) 小型の進
レーザは、高分解能で超高感度の分光計測
行波型共振器を用いる方式 6)、4) シーディ
が要求されるドップラーライダーなどの地
ングによる方式
球環境リモートセンシングをはじめとして、
ている。特に 4)の方法は、共振器長を長く
コヒーレント光通信、非線形光学の励起光
してパルス幅を広げることによる発振線幅
源など、幅広い応用が期待されている 1, 2)。
の低減が可能であり、共振器内に波長選択
CW 発振での固体レーザの単一周波数動
などの素子を入れる必要がなく、挿入損失
作では、フリーランニング動作でも線幅数
の低減が可能である。また、リング共振器
kHz、3)負帰還制御により
mHz 以下の安定
を用いれば、単一周波数のエネルギー取り
化 に も 成 功 し て お り 、 現 在 、
出し効率が高い、などの利点を持つ。その
Schawlow-Townes 限界以下のハイパーコ
ため、本研究ではリング共振器構成でシー
ヒーレント領域での研究が進んでいる 4)。
ディング方式を採用した。
高性能化が進んでいる
7)、などの方法が考えられ
これに対し、パルス動作の固体レーザの
本研究で設計制作したシーディング方式
周波数制御の研究は現在まであまり進展し
のリングレーザの構成を図 1 に示す。結晶
ていないものと考えられる。低平均出力の
長 8mm の Nd:YAG 結晶をファイバ結合の
単一周波数レーザには、マイクロチップ型
半導体レーザ(波長 808 nm、ファイバ出力
5)、NPRO6)などの進行波
10 W、Nd:YAG 結晶端面でのスポット径 1
型リング共振器を用いたものなどがあり、
mm)を 2 個用いて両端面から励起した。パ
W レベル以上の高平均出力のレーザには上
ルス繰り返し周波数が 10 kHz を越える高
記の単一周波数レーザを種光とした
繰り返し動作に対応できるよう、Q スイッ
MOPA 構成や、シーディング動作構成が開
チには音響光学素子を用い、また、出力光
発されており、周波数線幅、安定度ともに
を直線偏光にするためにブリュースタ板を
10MHz 程度のものが得られている。しかし
2 枚挿入した。共振器長を 330 mmと長く
ながら、風速計測用ドップラーライダーを
してパルス幅を広くした。励起のスポット
はじめとする各種の高精度計測の光源には、
径は 1 mm であり、レーザのビーム径を励
これよりもさらに狭い線幅と、周波数安定
起スポット径以上にしてモードマッチング
度が要求されている。
効率を高めるため、曲率半径 5 m のミラー
や短共振器レーザ
そこで本研究では、LD 励起の小型で高
効率・高出力の Nd:YAG レーザを開発し、
特に周波数の安定化と周波数変調可能な Q
スイッチパルス動作について検討を行った
を用いた。出力鏡透過率は出力結合効率の
最適化を考慮して 10%とした。
Isolator
Seeder
AOM
Output
w
PZT
Pol.
OC(M1)
M4
KTP
M2
M3
2w
LD
LD
Nd:YAG
F-P etalon PD
Frequency stabilization
circuit
図 1 周波数安定化 Nd:YAG パルスレーザの
構成図
外部からのシーダ光として Nd:YVO4 マ
表1
繰り返し周波数(kHz)
平均出力パワー(W)
ピークパワー(kW)
パルス幅(ns)
線幅(MHz)
閾値(W)
スロープ効率(%)
光-光変換効率(%)
M2
ビーム広がり角
ビーム直径
出力特性
CW
4.2
------5.3
28
21
10
1
3.1
0.8
3.4
13
92
62
4.8
7.1
5.5
8.8
21
8.4
16
4.0
1.1
1.4 mrad
0.5 mm
横モードの良さを示す M2 値はスレーブ
イクロチップレーザ光を用いて、スレーブ
レーザで 1.1 となり TEM00 モードである。
レーザの出力鏡から注入した。この方法は
また、繰り返し周波数 10 kHz のとき、20 W
透過率の非常に低い後部鏡から注入する場
励起で平均出力 3.1 W、ピーク出力 3.4 kW、
合にくらべて注入効率が高い。シーダとス
パルス幅 92 ns が得られた。図 3 にシーデ
レーブレーザの偏光はλ/2 板で一致させ、
ィング時のスレーブレーザ出力のスペクト
スレーブレーザからシーダにレーザ光が戻
ルを示す。測定には FSR 10 GHz、分解能
るのを防ぐため光アイソレータを挿入した。
5
300 MHz の走査型ファブリペロー干渉計
平均出力光パワー(W)
CW
4
を用いた。FSR 10 GHz の間に他のモード
が存在せず、縦単一モードで発振している
PRF 10 kHz
ことがわかる。また、レーザの発振線幅は
PRF 1 kHz
装置の分解能である 300 MHz 以下である
3
ことがわかる。そこで、フーリエ限界幅が
得られていると仮定して、パルス幅 t =
2
92 ns のとき、発振スペクトルの形状をガ
ウス型と仮定するとスペクトル線幅
1
  0.44 / t
0
0
5
10
15
20
励起光パワー(W)
図 2 励起光-平均出力特性
図 2 励起-平均出力特性
図 2 及び表 1 にレーザ出力特性を示す。
CW 発振時の最大出力は 20 W 励起時に 4.2
W であった。出力結合効率は 67 %、モー
ドマッチング効率は 36 %となった。さらに
効率を上げるには、レーザ出力のビーム径
を広げるなどの必要があると思われる。
・・・(1)
より、  = 4.8 MHz が得られた。
図 4 に出力パワーに対するパルス幅の関
係を示す。励起パワーが小さく、繰り返し
周波数が高い程パルス幅は広くなる。図 5
に実際に構成したレーザの外観を示す。
ーブレーザの発振周波数  o と設定周波数
10GHz
 のずれ e     o (図 7 参照)はレーザ周
波数制御部の応答関数 H を用いて、
 ex   o H   n
・・(2)

1 H
1 H
と表すことができる 8)。ここで、  ex は外
e 
部雑音成分であり、気温や機械的振動など
図 3 スレーブレーザの出力スペクトル特性
による共振器の光学長の変動による周波数
の変化成分が対応する。一方、  n は制御
ループ内部の雑音成分であり、周波数計測
500
部の雑音が対応する。(2)式より、帰還制御
PRF
パルス幅(ns)
400
部の利得 G= H が十分大きければ、周波数
10kHz
1kHz
の安定度は制御ループ内部の雑音  n の
300
みで表される。周波数制御回路の電圧帰還
200
増幅率は周波数検出部の感度( dVo / d o )と
周波数変調部の感度 d o / dVe を用いて、
100
0
G  dVo / d o  d o / dVe ・・(3)
5
10
15
20
励起パワー(W)
図4
励起パワーとパルス幅の関係
とあらわされる。特に制御ループ内部の雑
音を抑えるには低雑音で感度 dVo / d o の
高い周波数弁別器が必要である。
これまで一般に、インジェクションシー
ディングレーザの周波数安定化には、シー
ディング動作時には Q スイッチパルスの遅
延時間が短くなることを利用した制御方法
が用いられている
9)。これは、シーダの発
振周波数とスレーブレーザの共振周波数の
ずれが小さいほど Q スイッチパルスの遅延
時間が短いことを用いたものであり、この
図5
レーザの外観
場合は遅延時間の検出部が周波数検出部に
対応している。しかしながら、この方法で
3. 周波数制御部の設計と FM 動作特性
は発振周波数の検出精度はスレーブレーザ
3.1 帰還制御部の設計と構成
共振器の FSR と制御回路の精度できまり、
図 6 に本レーザの周波数制御部のブロッ
ク図を示す。周波数制御部は周波数検出部
と周波数変調部より構成されている。スレ
達成可能な安定度は FSR の 5 %程度が限度
である 10)。
これに対し本研究では、レーザの発振周
波数の弁別素子として高分解能エタロンを
分解能 76 MHz(FSR= 3 GHz, Finesse=40)
用い、レーザ共振器 FSR に依存しない方式
のエタロン(B)の二種類のエタロンを用い
を採用した 11)。
て行った。低分解能のエタロン(A)を用いた
場合の周波数検出部の感度は dVo / d o =
νo スレーブレーザ
シーダ
いた場合の感度は dVe / d e = 0.53 V/MHz
Lc
KTP
PD 積分器
エタロン
PD 積分器
周波数検出部
となる。外来雑音の効果を 100 分の 1 以下
PZT
V
VPZT
Ve
Vin
12 mV/MHz、高分解能のエタロン(B)を用
PID
基準周波数:ν 周波数変調部
図 6 周波数安定化制御部のブロック図
に低減するためには、(2)式よりループゲイ
ン G を 99 倍以上にする必要がある。この
と き 、 (3) 式 よ り 周 波 数 変 調 部 の 感 度
d o / dVe は エ タ ロ ン (A)を 用 い た場合で
8.3 GHz/V、エタロン(B)を用いた場合で
190 MHz/V 以上必要である。ここで、レー
ザの周波数変調特性は、レーザ共振器の変
周波数検出の模式図を図 7 に示す。レー
調特性 K1 = d o / dLc 、PZT 素子による共
ザ出力をエタロンに入射し、エタロンの透
振器の変調特性 K2 = dLc / dVPZT 、誤差電
過光強度によってレーザ発振周波数を検出
圧 Ve の PZT 電 圧 へ の 増 幅 度 K3 =
した。このとき、エタロン透過前の光強度
dVPZT / dVe を用いて、
を同時に検出して規格化し、レーザ出力パ
d o / dVe = K1・K2・K3
・・・(4)
ワーの変動によるエタロンの透過光強度の
で示される。ここで、用いた PZT 素子の感
変動を取り除いた。また、レーザはパルス
度や共振器の長さより、 dLc / dVPZT = 11
出力であるため、積分器を用いて出力を平
nm/V、 d o / dLc = 0.85 MHz/nm となるの
滑化し安定した周波数検出信号を得られる
で、誤差電圧の増幅度 dVPZT / dVe はエタロ
ようにした。
ン(A)の場合では 800 倍以上必要であるが、
高分解能のエタロン(B)を用いれば 20 倍以
上あれば十分であり、高分解能のエタロン
(B)を用いれば 1 MHz の安定化は十分可能
であることがわかる。
発振周波数の安定度の測定結果は低分解
能のエタロン(A)を用いた場合、20 MHz 程
図 7 エタロン透過スペクトルとレーザ発
振スペクトルの関係
度となった。次に高分解能エタロン(B)を用
いて安定化実験を行い、3 MHz の安定度を
得た。
3.2 周波数制御実験
次に、周波数変調特性の測定結果を図 8
実験は線幅 1.5 GHz のエタロン(A)と、レ
に示す。図は変調周波数 20 Hz、振幅 1 Vp-p
ーザの第二高調波出力を用い第二高調波で
で PZT 電圧を変調した結果とエタロンに
よる周波数変調成分の計測例である。変調
幅は 12 MHz で、分解能 0.5 MHz が得られ
3) T. J. Kane and R. L. Byer: Opt. Lett.,
10, 65 (1985).
4) D. Shoemaker, A. Brillet, C. N. Man,
た。
O. Cregt, and G. Kerr: Opt. Lett., 14,
609 (1989).
周波数変調入力・出力
A
5) J. J. Zayhowski: Opt. Lett., 16, 575
(1991).
6) I. Freitag, A. Tuennerman, and H.
Welling: Opt. Lett., 22, 706 (1997).
7) Y. K. Park, G. Giuliani, and R. L.
B
0
Byer: Opt. Lett., 5, 96 (1980).
20
40
60
80
100
120
時間 (ms)
図 8 周波数変調特性
A: PZT 変調電圧, B: 周波数出力
4. まとめ
8) 大津元一: コヒーレント光量子光学,
朝倉書店(1990).
9) L. Rahn: App. Opt. 24, 940 (1985).
10) K. F. Wall, et. al.: ASSL’99, 82
(1999).
周波数変調入力・出力
本研究ではパルス出力で単一周波数動作
11) Y. K. Park, G. Giuliani, and R. L.
の全固体 Nd:YAG リングレーザの周波数安
Byer: IEEE J. Quantum Electron.
定化と変調動作を実現した。まず、小型で
QE-20, 117 (1984).
比較的共振器長の長いリング型レーザにシ
ーディングを行うことにより、高効率な単
一周波数動作とスペクトルの狭帯域化を行
った。シーディング時のスペクトル幅は、
0
20
40
60
パルス幅 92 ns から
4.8 MHz となり、平均
時間(ms)
出力は繰り返し周波数 10 kHz 時に基本波
で 3.1 W、ピーク出力 3.4 kW、スロープ効
率 21 %、光-光変換効率 16 %が得られた。
また、高分解能エタロンを用いた周波数制
御を行い、発振周波数揺らぎ 3 MHz 以下の
安定度を得た。さらに、分解能 0.5 MHz で
の周波数変調が得られた。
参考文献
1) R. L. Byer: Science 239, 742 (1988).
2) 小林喬郎編: 固体レーザー, 学会出版
センター(1997).