http://cosmic.riken.jp/mihara/uchu1/2007/2kaime/2kaime.pdf 宇宙の科学1 第二回 2007.10.3. 特殊相対性理論 1. ボール投げの常識 ①松坂が 150km/h = 40m/s のボールを投げる。 40m 先まで付くのに 1s かかる。 速度 40m/s 進んだ距離 40m かかった時間 1s ②松坂に 75km/h=20m/s で進む西武電車に乗ってもらい、進行方向にボールを投げ てもらう。 20 m/s 40 m/s <乗っている人から見ると> 等速直線運動している電車の中では、 地上でやるのと同じようになる。 (地球は自転していて東京では東向き 40 m に 400m/s で動いているのに、投手が 東に投げても西に投げても、同じスピードであることを思い出してください。 ) つまり乗っている人から見ると 40m 先の電車の前の壁に届くのに1sかかる。 速度 40m/s 進んだ距離 40m かかった時間 1s 20 m/s 40 m/s <外の人から見ると> ボールのスピードは電車 のスピードが加わり 40 m 40+20=60 m/s になる。 前の壁に届くまでの時間 は変わらない。1s。 速度 60m/s 進んだ距離 60m 20 m 1 40 m かかった時間 1s しかし光となるとボールとは違う。 (ことが 1887 年に分かり、みんなが困った) 2. 光の場合 速さは 30 万 km/s。 ① 地上でやる場合、 長さ 30 万 km の電車を考える。電車の先頭に届くまで 1s。速度は 30 万 km/s 速度 30 万 km/s 進んだ距離 30 万 km かかった時間 1s ② 電車に乗ってやる場合、 電車の速さは光の速さの半分の 15 万 km/s で進むとしよう。 <乗っている人から見ると> 等速直線運動している電車の中では、松坂と同じく、地上でやる場合と同じになる。 30 万 km 先の電車の前の壁に届くのに1sかかる。 速度 30 万 km/s 進んだ距離 30 万 km かかった時間 1s <外の人から見ると> 光のスピードは変わらなかった。 30 万 km/s 光は、出た瞬間に、出たランプの速度は忘れて、観測している人に対して光速で 進む。 外の人が見て t 秒かかったとすると、 前の壁に届くまでに光の走る距離は、ct 電車の走る距離は vt ct = 30 万 km + vt (←本当はここで電車の長さは 30 万 km ではないが。 ) t = 30 万 km/(c-v) =2s 速度 30 万 km/s 進んだ距離 60 万 km 2 かかった時間 2s (注意)ここの計算では特殊相対論の効果を正しく入れていないので、上の計算は 正確ではありません。 正確には、あとの節で計算するように、 t = 1 1 − v c 2 2 を使わなくてはなりません。右辺の値をローレンツ因子といいます。 が、とにかく、「光が出る」と「光が電車の前に届く」という2イベント間の時間が 見る人によって違っていた。 つまり 時間は「相対的」である。 3.マイケルソン=モーレーの実験 (1887) 実際の光速度が変化するかどうかの実験は、地球の公転速度(30km/s)を使って行われ た。 1887 年ごろ、光の速さを測っていたマイケルソンとモーレーは奇妙なことに気づい た。地球の公転・自転の向きに出した光もそれと直角方向に出した光も同じスピードだっ た。これは電車に乗って進行方向にボールを投げた時とは明らかに違う。 光は一旦放出されると、それを出した人の座標系のことは忘れて(その人のスピードが いくらだったとかは忘れて)それを見ている人の座標系で、電気と磁気の波になって光速 で進んでいく。それを見ている人は、光を出した人だったり、外で見ている人だったりす るが、その誰からみても、等速直線運動をしている人から見る限り、光速で進むのである。 上でみたように、車両の後ろから光が出て(できごと1)、光が長さ 30 万 km の車両の 先頭部に達する(できごと2)という2つのできごとの間の時間は、 ・電車に乗っている人にとってはちょうど1sで、その間光は 30 万 km 走る。 ・しかし外から見ている人にとっては、2つのできごと間に電車が進んだ距離を光が進 む分だけ余計に時間が必要なので、1s以上かかる。 つまり、その人の速度により、時間の進み方が違うのである。 ここでは光の到着時間について考えたが、光があろうとなかろうと、速く走るものの中で は間はゆっくりになる。では最悪、光はそうだと認めるとしても、皆さんの感じる時間も 同じくゆっくりになるのだろうか? 残念ながらそうなのである。光は電気と磁気の波で あり、水晶時計の水晶の弾性も電子の持つマイナス電気の反発だし、脳内の信号のやりと りも電気信号である。光は全物理現象の代表なのだ。光がゆっくりになれば、心臓の動き もゆっくりになる! 遅くなり方はローレンツ因子 1 / √(1 – v2/c2)である。 また2者が等速直線運動をしている限り、どちらからどちらを見ても同じ状況である。 3 つまり、電車に乗っている人からみると、外の人は-v で動いている。2 乗しているので同じ ローレンツ因子になり、今度は外の人の時計がゆっくりになる。 お互いに相手の時計はゆっくりになり、では、どっちが正しいの?と言っても、どちら も正しいのである。 ちなみに、松坂のボールで出てきた速度の加算則は相対論的には次のようになる。u で進 む電車の中で速度 v で投げたボールを外から見た速度 V は、 V = u + v uv 1 + c2 となる。 (4も参照) 松坂の場合、u も v も光速 c に比べとても小さいので、分母の(1+uv/c2)は、uv/c2 を 無視して1としてよい。なので、 V = u+v となる。だから松坂の場合は、常識と同じである。 光の場合、c/2 で進む電車から c で光を出す。その光を外から見ると V = c / 2 + c (1 / 2 + 1 ) c = = c (c / 2 )c 1 + 1/2 1 + c2 となり、光速となる。 かくして相対性理論は、日常の遅い速度から光速まで、どの速度でも正しい理論なの である。 4.光速は超えられないのか 光速の 90%で進む船から光速の 20%で物を投げたら、それは光速の 110%の速さになる か。 普通に考えれば V=v+u しかし v か u が光速に近いとこの式は成り立たない。 正しくは、 V = u + v uv 1 + c2 となる。 v も u も遅いときには、v/c とか u/c はほとんど 0、ということは vu/c2≒0 なので V = v+u / (1+0) = v+u となって常識と合う。 4 しかし光速から光速で出した場合(v=c, u=c) V = (c+c) / (1+c*c/c2) = 2c/2 = c つまり光速になる。 同様に、光速に近い速さの 90%から 20%で出した場合 V=(0.9+0.2)c / (1+0.9×0.2) = 1.1c / 1.18 = 0.93c つまり光速の 93%となる。 結論 光速より速いものはない 5.特殊相対性理論とは 光速に近い速さで移動すると、われわれから見て移動する人の ① 時間はゆっくりになる ② 進行方向の長さが短くなる。 (姿が進行方向に縮む) ③ 重さは重くなる という理論である。 遅くなり方は、 Γ = 1 v 1 − c Γはギリシャ文字でガンマの大文字です。 2 2 ボールのスピードが光速に近くなってくると、③の効果で重くなってくるので、同じ ように投げてもスピードがつかないんだよねぇ。(松坂談) 6.検証1:宇宙線ホドスコープ 宇宙から来る放射線(たいてい陽子)が大気に衝突するとミューオンという粒子ができ る(ミューオンは、電子系列3種類のうちのひとつで電子の 200 倍重い。記号はμ。あ とのマイクロ[百万分の1]と同じだが意味は別物なので注意)。宇宙線は大気の上層(高 度 30km)で空気とぶつかりミューオンだけが地上に着く。手のひらに毎分1個程度来 ている。ミューオンの寿命は 2 マイクロ秒。速さはほとんど光速である。 では、本来なら 30 万 km/s×2 マイクロ秒=600m しか飛べないはずなのに、なぜ 30km も飛べるのか。→特殊相対性理論の効果のためなのである。 まずミューオンの名誉のために言っておくが、ミューオンはちゃんと2マイクロ秒だけ 5 生きて、死んでいる。我々から見るとミューオンの時間がゆっくりになるのが原因だ。 ミューオンの速度が光速の 99.99%の速度ならば、 1/√(1-v2/c2) = 70 ミューオンの時間は 70 倍ゆっくり。つまりミューオンが 1s たったと思う時、我々の世 界では 70s が経過している。 われわれから見るとミューオンの寿命は 2 マイクロ秒×70 = 140 マイクロ秒 なのである。光速で 140 マイクロ秒飛べば、 30 万 km/s×140 マイクロ秒=42km も飛べる。したがって地上までも届く。OK。 ここで再びミューオンの名誉のためにミューオンの見た様子も記述しておくと、 、 、 自分は止まっていて、地球が光速の 99.99%で走ってくるので、大気の厚さは通常 30km のところ、30km/70=430m しかない。私の寿命2マイクロ秒の間に地球は 600m 動く ので、私が生きている間に私は 430m 先の地面にぶつかる。痛た。 7.検証2:GPS 衛星 GPS 衛星は秒速 4km で地球の周りを回っている。GPS 衛星の原子時計は、特殊相対論の 効果により、地上の原子時計より1日あたり 7.7 マイクロ秒遅れる。こんなに時間がず れていてはそのままでは使い物にならない。特殊相対論の補正をしているからこそGP Sが役に立っているのである。(11 も参照。) 8.浦島太郎とタイムマシン 浦島太郎という話がある。亀の背に乗り竜宮城に行って 3 日過ごしたら地上では 100 年たっていたという話である。この解釈はともあれ、単純には時間の流れが 1 万倍違っ たということである。もし亀が光速の 0.999999995 で走っていれば、これは起こりうる。 実際 KEK(高エネルギー研究所)の PF(フォトンファクトリ)という施設の真空リング容 器の中では、電子がこのくらいのスピードで常に回っている。この電子に乗っていれば、 3日過ごしただけで地上では 100 年経っているはずである。 これは「未来に行くタイムマシン」である。つまり、自分が生きている間に 100 年後の 世界に行くなどということは原理的には可能なのである! でも、残念ながら過去に行くタイムマシンは不可能である。 6 9.双子のパラドックス 双子の兄が光速の 60%で進むロケットに乗って、6光年離れたバーナード星に行く。 当然、着くまでに 10 年かかる。弟は地球にとどまる。 地球の弟から見ていると、地球の時計が1秒進む間に、兄の時計は√(1-0.36)=0.8 秒 しか進まない。(ロケットは段々遠くなっていき、電波が伝わる時間は増えていくが、 その伝達時間を補正した上での話である。) バーナード星に着いた瞬間、弟は 10 才年取っている。兄は8才しか年をとっていない。 さて、この双子なのに年に差ができるが、本当か?というのが第1のパラドックスであ る。 時間の流れが所により異なるとは日常生活からは考えにくいが、しかしながら、実際の ところそうなのだ。 10.次なるパラドックスは、立場を兄に変えたときに起こる。 相対性理論の名の示すとおり、等速直線運動は相対的である。どっちが止まっていて、 どっちが動いているとは言えない。兄は「自分が止まっていて、動いているのは、弟(地 球)でありバーナード星である」と言う。地球―バーナード星の距離は、それらが動い ているため、兄から見るともはや 6 光年ではない。6*0.8 = 4.8 光年である。ロケット の速度は 0.6c であるから着くのに 4.8/0.6 = 8 年かかる。つまり着いたとき兄は8歳。 ここまでは上の弟の場合と合っている。しかし 1. 「弟は動いていたので、俺の 0.8 倍ゆっくりだ」と兄はいう。したがって、バー ナード星についた時、「弟は 8*0.8=6.4 歳で、俺は8歳。俺のほうが年上だ」と いう。 2. 帰りもしかり。後ろ向きに動いているだけだからΓは同じ。兄は8歳年取って、 弟は 6.4 歳年取る。 3. つまり再会したとき、兄は16歳、弟は 12.8 歳だという。 これは困った。 弟は、自分が 20 歳、兄が 16 歳。 兄は、弟は 12.8 歳、自分は 16 歳。 と言う。どちらが正しいのか? これが第2のパラドックス。 真実は、弟 20 歳、兄 16 歳である。 兄は、「一般相対性理論」というもう1つの相対性理論を使わないといけないところを 無視しているからである。それはバーナード星で U ターンするところだ。 当然ロケットは逆噴射して減速し、 (探査終了後)地球に向けて加速する。 7 加速度運動しているときには一般相対性理論が適用される。すなわち、加速度運動して いるときには時間はゆっくりながれるのだ。兄は一瞬で U ターンしたとしても、その一 瞬の間に、地球では 7.2 年が流れる。 自分が加速度運動をしているかどうかは、自分が力を受けているかどうかで分かる。減 速中、兄はロケットの床から力を受けていて、明らかに加速度運動をしていると自分で も分かるのだ。一方、弟は何ら力を感じず、加速度運動はしていない。 よって兄の立場では、正しくは、 自分は、行きに 8 年、帰りに 8 年、年をとり、地球に戻ったとき 16 歳。弟は、行き に 6.4 年、U ターンの瞬間に 7.2 年、帰りに 6.4 年、年をとり、再会時には 20 歳にな っている。 となる。 11.地上の重力 加速度のありなしという点では、実は地表ではわれわれは地球の重力による加速度を受 けているので、宇宙の無限遠地点に比べると、時間がゆっくり進んでいる。先の GPS 衛 星の例では、GPS 衛星が飛んでいる地上 2 万 km では、地球の重力が弱く、地上より 1 日あたり 46.2 マイクロ秒だけ早く時間がすぎる。6の特殊相対論の効果と合わせれば、 結局 1 日あたり 46.2-7.7=38.5 マイクロ秒だけ GPS 衛星の時計は進むことになる。 これを補正しないと、GPS 測位は 1 日で 11km も実際とずれることになり、使い物にな らない。われわれが 10m 程度で GPS を使えているのは、特殊相対論と一般相対論、双方 の効果を正しく考慮しているからなのである。 とにかく、このように、時間の流れは、速さによって、それから一般相対論を考えると、 加速度の有り無しで変わる。君達が 20 年かけて築いてきた常識に反するのは申し訳な いが、真実なのだから仕方がない。 8
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