2回目 (2007.4.18) 特殊相対性理論

http://cosmic.riken.jp/mihara/uchu1/2007/2kaime/2kaime.pdf
宇宙の科学1
第二回
2007.10.3.
特殊相対性理論
1. ボール投げの常識
①松坂が 150km/h = 40m/s のボールを投げる。
40m 先まで付くのに 1s かかる。
速度
40m/s
進んだ距離
40m
かかった時間
1s
②松坂に 75km/h=20m/s で進む西武電車に乗ってもらい、進行方向にボールを投げ
てもらう。
20 m/s
40 m/s
<乗っている人から見ると>
等速直線運動している電車の中では、
地上でやるのと同じようになる。
(地球は自転していて東京では東向き
40 m
に 400m/s で動いているのに、投手が
東に投げても西に投げても、同じスピードであることを思い出してください。
)
つまり乗っている人から見ると 40m 先の電車の前の壁に届くのに1sかかる。
速度
40m/s
進んだ距離
40m
かかった時間
1s
20 m/s
40 m/s
<外の人から見ると>
ボールのスピードは電車
のスピードが加わり
40 m
40+20=60 m/s になる。
前の壁に届くまでの時間
は変わらない。1s。
速度
60m/s
進んだ距離
60m
20 m
1
40 m
かかった時間
1s
しかし光となるとボールとは違う。
(ことが 1887 年に分かり、みんなが困った)
2. 光の場合
速さは 30 万 km/s。
① 地上でやる場合、
長さ 30 万 km の電車を考える。電車の先頭に届くまで 1s。速度は 30 万 km/s
速度
30 万 km/s
進んだ距離
30 万 km
かかった時間
1s
② 電車に乗ってやる場合、
電車の速さは光の速さの半分の 15 万 km/s で進むとしよう。
<乗っている人から見ると>
等速直線運動している電車の中では、松坂と同じく、地上でやる場合と同じになる。
30 万 km 先の電車の前の壁に届くのに1sかかる。
速度
30 万 km/s
進んだ距離
30 万 km
かかった時間
1s
<外の人から見ると>
光のスピードは変わらなかった。 30 万 km/s
光は、出た瞬間に、出たランプの速度は忘れて、観測している人に対して光速で
進む。
外の人が見て t 秒かかったとすると、
前の壁に届くまでに光の走る距離は、ct
電車の走る距離は vt
ct = 30 万 km + vt
(←本当はここで電車の長さは 30 万 km ではないが。
)
t = 30 万 km/(c-v)
=2s
速度
30 万 km/s
進んだ距離 60 万 km
2
かかった時間
2s
(注意)ここの計算では特殊相対論の効果を正しく入れていないので、上の計算は
正確ではありません。
正確には、あとの節で計算するように、
t =
1 1 −
v
c
2
2
を使わなくてはなりません。右辺の値をローレンツ因子といいます。
が、とにかく、「光が出る」と「光が電車の前に届く」という2イベント間の時間が
見る人によって違っていた。 つまり 時間は「相対的」である。
3.マイケルソン=モーレーの実験 (1887)
実際の光速度が変化するかどうかの実験は、地球の公転速度(30km/s)を使って行われ
た。 1887 年ごろ、光の速さを測っていたマイケルソンとモーレーは奇妙なことに気づい
た。地球の公転・自転の向きに出した光もそれと直角方向に出した光も同じスピードだっ
た。これは電車に乗って進行方向にボールを投げた時とは明らかに違う。
光は一旦放出されると、それを出した人の座標系のことは忘れて(その人のスピードが
いくらだったとかは忘れて)それを見ている人の座標系で、電気と磁気の波になって光速
で進んでいく。それを見ている人は、光を出した人だったり、外で見ている人だったりす
るが、その誰からみても、等速直線運動をしている人から見る限り、光速で進むのである。
上でみたように、車両の後ろから光が出て(できごと1)、光が長さ 30 万 km の車両の
先頭部に達する(できごと2)という2つのできごとの間の時間は、
・電車に乗っている人にとってはちょうど1sで、その間光は 30 万 km 走る。
・しかし外から見ている人にとっては、2つのできごと間に電車が進んだ距離を光が進
む分だけ余計に時間が必要なので、1s以上かかる。
つまり、その人の速度により、時間の進み方が違うのである。
ここでは光の到着時間について考えたが、光があろうとなかろうと、速く走るものの中で
は間はゆっくりになる。では最悪、光はそうだと認めるとしても、皆さんの感じる時間も
同じくゆっくりになるのだろうか?
残念ながらそうなのである。光は電気と磁気の波で
あり、水晶時計の水晶の弾性も電子の持つマイナス電気の反発だし、脳内の信号のやりと
りも電気信号である。光は全物理現象の代表なのだ。光がゆっくりになれば、心臓の動き
もゆっくりになる!
遅くなり方はローレンツ因子 1 / √(1 – v2/c2)である。
また2者が等速直線運動をしている限り、どちらからどちらを見ても同じ状況である。
3
つまり、電車に乗っている人からみると、外の人は-v で動いている。2 乗しているので同じ
ローレンツ因子になり、今度は外の人の時計がゆっくりになる。
お互いに相手の時計はゆっくりになり、では、どっちが正しいの?と言っても、どちら
も正しいのである。
ちなみに、松坂のボールで出てきた速度の加算則は相対論的には次のようになる。u で進
む電車の中で速度 v で投げたボールを外から見た速度 V は、
V =
u + v uv
1 +
c2
となる。
(4も参照)
松坂の場合、u も v も光速 c に比べとても小さいので、分母の(1+uv/c2)は、uv/c2 を
無視して1としてよい。なので、
V = u+v
となる。だから松坂の場合は、常識と同じである。
光の場合、c/2 で進む電車から c で光を出す。その光を外から見ると
V =
c / 2 + c (1 / 2 + 1 ) c
=
= c
(c / 2 )c
1 + 1/2
1 +
c2
となり、光速となる。
かくして相対性理論は、日常の遅い速度から光速まで、どの速度でも正しい理論なの
である。
4.光速は超えられないのか
光速の 90%で進む船から光速の 20%で物を投げたら、それは光速の 110%の速さになる
か。
普通に考えれば V=v+u
しかし v か u が光速に近いとこの式は成り立たない。
正しくは、
V =
u + v uv
1 +
c2
となる。
v も u も遅いときには、v/c とか u/c はほとんど 0、ということは vu/c2≒0 なので
V = v+u / (1+0) = v+u
となって常識と合う。
4
しかし光速から光速で出した場合(v=c, u=c)
V = (c+c) / (1+c*c/c2) = 2c/2 = c
つまり光速になる。
同様に、光速に近い速さの 90%から 20%で出した場合
V=(0.9+0.2)c / (1+0.9×0.2) = 1.1c / 1.18 = 0.93c
つまり光速の 93%となる。
結論
光速より速いものはない
5.特殊相対性理論とは
光速に近い速さで移動すると、われわれから見て移動する人の
① 時間はゆっくりになる
② 進行方向の長さが短くなる。
(姿が進行方向に縮む)
③ 重さは重くなる
という理論である。
遅くなり方は、 Γ =
1 v
1 −
c
Γはギリシャ文字でガンマの大文字です。
2
2
ボールのスピードが光速に近くなってくると、③の効果で重くなってくるので、同じ
ように投げてもスピードがつかないんだよねぇ。(松坂談)
6.検証1:宇宙線ホドスコープ
宇宙から来る放射線(たいてい陽子)が大気に衝突するとミューオンという粒子ができ
る(ミューオンは、電子系列3種類のうちのひとつで電子の 200 倍重い。記号はμ。あ
とのマイクロ[百万分の1]と同じだが意味は別物なので注意)。宇宙線は大気の上層(高
度 30km)で空気とぶつかりミューオンだけが地上に着く。手のひらに毎分1個程度来
ている。ミューオンの寿命は 2 マイクロ秒。速さはほとんど光速である。
では、本来なら 30 万 km/s×2 マイクロ秒=600m しか飛べないはずなのに、なぜ 30km
も飛べるのか。→特殊相対性理論の効果のためなのである。
まずミューオンの名誉のために言っておくが、ミューオンはちゃんと2マイクロ秒だけ
5
生きて、死んでいる。我々から見るとミューオンの時間がゆっくりになるのが原因だ。
ミューオンの速度が光速の 99.99%の速度ならば、
1/√(1-v2/c2) = 70
ミューオンの時間は 70 倍ゆっくり。つまりミューオンが 1s たったと思う時、我々の世
界では 70s が経過している。
われわれから見るとミューオンの寿命は
2 マイクロ秒×70 = 140 マイクロ秒
なのである。光速で 140 マイクロ秒飛べば、
30 万 km/s×140 マイクロ秒=42km
も飛べる。したがって地上までも届く。OK。
ここで再びミューオンの名誉のためにミューオンの見た様子も記述しておくと、
、
、
自分は止まっていて、地球が光速の 99.99%で走ってくるので、大気の厚さは通常 30km
のところ、30km/70=430m しかない。私の寿命2マイクロ秒の間に地球は 600m 動く
ので、私が生きている間に私は 430m 先の地面にぶつかる。痛た。
7.検証2:GPS 衛星
GPS 衛星は秒速 4km で地球の周りを回っている。GPS 衛星の原子時計は、特殊相対論の
効果により、地上の原子時計より1日あたり 7.7 マイクロ秒遅れる。こんなに時間がず
れていてはそのままでは使い物にならない。特殊相対論の補正をしているからこそGP
Sが役に立っているのである。(11 も参照。)
8.浦島太郎とタイムマシン
浦島太郎という話がある。亀の背に乗り竜宮城に行って 3 日過ごしたら地上では 100
年たっていたという話である。この解釈はともあれ、単純には時間の流れが 1 万倍違っ
たということである。もし亀が光速の 0.999999995 で走っていれば、これは起こりうる。
実際 KEK(高エネルギー研究所)の PF(フォトンファクトリ)という施設の真空リング容
器の中では、電子がこのくらいのスピードで常に回っている。この電子に乗っていれば、
3日過ごしただけで地上では 100 年経っているはずである。
これは「未来に行くタイムマシン」である。つまり、自分が生きている間に 100 年後の
世界に行くなどということは原理的には可能なのである!
でも、残念ながら過去に行くタイムマシンは不可能である。
6
9.双子のパラドックス
双子の兄が光速の 60%で進むロケットに乗って、6光年離れたバーナード星に行く。
当然、着くまでに 10 年かかる。弟は地球にとどまる。
地球の弟から見ていると、地球の時計が1秒進む間に、兄の時計は√(1-0.36)=0.8 秒
しか進まない。(ロケットは段々遠くなっていき、電波が伝わる時間は増えていくが、
その伝達時間を補正した上での話である。)
バーナード星に着いた瞬間、弟は 10 才年取っている。兄は8才しか年をとっていない。
さて、この双子なのに年に差ができるが、本当か?というのが第1のパラドックスであ
る。
時間の流れが所により異なるとは日常生活からは考えにくいが、しかしながら、実際の
ところそうなのだ。
10.次なるパラドックスは、立場を兄に変えたときに起こる。
相対性理論の名の示すとおり、等速直線運動は相対的である。どっちが止まっていて、
どっちが動いているとは言えない。兄は「自分が止まっていて、動いているのは、弟(地
球)でありバーナード星である」と言う。地球―バーナード星の距離は、それらが動い
ているため、兄から見るともはや 6 光年ではない。6*0.8 = 4.8 光年である。ロケット
の速度は 0.6c であるから着くのに 4.8/0.6 = 8 年かかる。つまり着いたとき兄は8歳。
ここまでは上の弟の場合と合っている。しかし
1. 「弟は動いていたので、俺の 0.8 倍ゆっくりだ」と兄はいう。したがって、バー
ナード星についた時、「弟は 8*0.8=6.4 歳で、俺は8歳。俺のほうが年上だ」と
いう。
2. 帰りもしかり。後ろ向きに動いているだけだからΓは同じ。兄は8歳年取って、
弟は 6.4 歳年取る。
3. つまり再会したとき、兄は16歳、弟は 12.8 歳だという。
これは困った。
弟は、自分が 20 歳、兄が 16 歳。
兄は、弟は 12.8 歳、自分は 16 歳。
と言う。どちらが正しいのか?
これが第2のパラドックス。
真実は、弟 20 歳、兄 16 歳である。
兄は、「一般相対性理論」というもう1つの相対性理論を使わないといけないところを
無視しているからである。それはバーナード星で U ターンするところだ。
当然ロケットは逆噴射して減速し、
(探査終了後)地球に向けて加速する。
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加速度運動しているときには一般相対性理論が適用される。すなわち、加速度運動して
いるときには時間はゆっくりながれるのだ。兄は一瞬で U ターンしたとしても、その一
瞬の間に、地球では 7.2 年が流れる。
自分が加速度運動をしているかどうかは、自分が力を受けているかどうかで分かる。減
速中、兄はロケットの床から力を受けていて、明らかに加速度運動をしていると自分で
も分かるのだ。一方、弟は何ら力を感じず、加速度運動はしていない。
よって兄の立場では、正しくは、
自分は、行きに 8 年、帰りに 8 年、年をとり、地球に戻ったとき 16 歳。弟は、行き
に 6.4 年、U ターンの瞬間に 7.2 年、帰りに 6.4 年、年をとり、再会時には 20 歳にな
っている。
となる。
11.地上の重力
加速度のありなしという点では、実は地表ではわれわれは地球の重力による加速度を受
けているので、宇宙の無限遠地点に比べると、時間がゆっくり進んでいる。先の GPS 衛
星の例では、GPS 衛星が飛んでいる地上 2 万 km では、地球の重力が弱く、地上より 1
日あたり 46.2 マイクロ秒だけ早く時間がすぎる。6の特殊相対論の効果と合わせれば、
結局 1 日あたり 46.2-7.7=38.5 マイクロ秒だけ GPS 衛星の時計は進むことになる。
これを補正しないと、GPS 測位は 1 日で 11km も実際とずれることになり、使い物にな
らない。われわれが 10m 程度で GPS を使えているのは、特殊相対論と一般相対論、双方
の効果を正しく考慮しているからなのである。
とにかく、このように、時間の流れは、速さによって、それから一般相対論を考えると、
加速度の有り無しで変わる。君達が 20 年かけて築いてきた常識に反するのは申し訳な
いが、真実なのだから仕方がない。
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