情報リテラシー科目における プレゼンテーション実習を通じた情報モラル

情報リテラシー科目における
プレゼンテーション実習を通じた情報モラル教育
発
表
者: 河野
稔 (兵庫大学 健康科学部)
連
絡
先: 〒675-0195 兵庫県加古川市平岡町新在家 2301
Tel: 079-427-5111 / Fax: 079-427-5112
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1. はじめに
情報化社会に参画する人材を育成する上で,情報機
器や情報サービスの操作スキルだけでなく,情報化の
利点と問題点を理解して活用できる態度を身につける
ための情報モラル教育は重要である.しかし,高等教
育では,情報リテラシー科目のみで情報モラル教育を
扱う場合が少なくない.また,授業期間が半期である
ことも多く,授業設計上,情報モラル教育に割く時間
を増やすことは難しい.
そこで本稿では,情報リテラシー科目に効果的に情
報モラル教育を盛り込むことを目指した,短期大学 1
年次に開講された情報リテラシー科目における情報モ
ラル教育の実践について報告する.とくに,情報モラ
ルの複数のトピックについての啓発を目的とした,テ
レビ CM のようなプレゼンテーションにまとめた実習
を中心に述べる.
第 3 回では電子メールの利用として,メールの作法
を説明し,目上の人物に対するメールを送る架空のシ
ナリオに関する課題を用意した.
また,第 5 回の授業は,情報化社会の良い点や問題
点を取り上げた.良い点については,SNS や写真・動
画共有サイトなどネット社会の最新トピックを紹介し
た.問題点の学習には,情報倫理のビデオ教材を活用
した.2007~2008 年度は「情報倫理デジタルビデオ小
品集 2」[1] から,2009 年度は「情報倫理デジタルビデ
オ小品集 3」[2] から,学生が体験する可能性が高い,4
つのビデオクリップを選択して視聴した.同時に,ビ
デオに関連した小テストに回答することで,ビデオの
内容を深く理解しながら学習することを目指した.さ
らに,視聴後に印象に残ったビデオクリップやビデオ
全体についての感想を手書きでまとめ,次の第 6 回で
のワープロを活用したレポート作成の材料とした.
2. 情報リテラシー科目と情報モラル教育
3. 情報モラルのプレゼンテーションの制作実習
2.1 授業の概要と全体計画
実践した情報リテラシー科目は,H 大学短期大学部
の 1 年次開講「コンピュータ演習」である.併設の大
学と共通の初年次教育として位置づけられた,1 セメ
スター(全 15 回)の演習形式の必修科目である.本稿
では,筆者が担当した,保育科の 2007 年から 2009 年
の 3 年間の授業について述べる.
授業内容は,大学・短大での学習活動に必要となる
パソコンやインターネットの活用だけでなく,情報を
適切に活用するための知識や態度としての情報モラル
まで,情報教育全般を扱う.
授業計画としては,最初の 2 回でガイダンスや設定
などの準備をしたあと,インターネットの利用,文書
作成(ワープロ),データ処理(表計算)の各テーマを
3 回ずつの授業で扱い,プレゼンテーションのみ 4 回
の授業で扱う.
2.2 授業における情報モラル教育の位置づけ
授業計画として,情報モラルは複数回の授業で扱う
ほうが教育上の効果があると考え,インターネットの
利用をテーマとした第 3 回と第 5 回の授業で,情報モ
ラルに関するトピックを扱った.
3.1 実習の目的と内容
第 12 回と第 13 回でプレゼンテーションソフト
(Microsoft PowerPoint)の活用方法を学習した後,最
終課題として,第 14 回と第 15 回では,プレゼンテー
ションソフトのまとめと情報モラルの啓発を目的とし
た,プレゼンテーションの制作に取り組んだ.
高校生程度を視聴者に想定し,プレゼンテーション
ソフトのリハーサル機能を利用して,テレビ CM のよ
うな,30~60 秒で自動的にスライドショーを行うプレ
ゼンテーションを制作する.プレゼンテーションの内
容は,教員が提示した情報モラルに関する 8 つのテー
マから 1 つを選択し,4~6 枚程度のスライドで,テー
マに関するトラブルの事例を「起承転結」形式のスト
ーリーにまとめ,最後のスライドで対処法や注意点を
解説する.
この課題のために,2 つの資料を教材として利用し
た.まず事前説明では,ウェブ上の資料[3] をもとに,
情報モラル全般を 30 分程度解説した.また,ストーリ
ーを考える上での参考に,高校生レベルの情報倫理の
テキスト[4] の巻末にある,3 コマ漫画をプリントして
配布した.
社団法人 私立大学情報教育協会
平成22年度 教育改革ICT戦略大会
3.2 テーマの選択状況
2007 年度から 2009 年度までの各年度において,学
生がどのテーマの作品を制作したかの割合を,表 1 に
示す.
いずれの年度においても,選択が一番多かったのが
「売買のトラブル」である.学生にとってはインター
ネットを利用した買い物やオークションが一番興味を
ひかれる,または実際に利用しているということであ
ろう.また,2008 年度と 2009 年度は「ネット詐欺」
を選択した学生の割合も多い.学生の声を聞いても,
学生自身や知り合いなどがネット詐欺に遭遇した経験
がある場合が多いようである.その一方で,
「不正アク
セス」はどの年度でも割合が少ない.技術よりのテー
マであるため,学生の関心をひかなかったようである.
3.3 提出された課題に対する考察
学生は,配布した資料やインターネットから収集し
た情報をもとにストーリーを考え,プレゼンテーショ
ンを完成させた.学生個人によって出来栄えの差はあ
るものの,全体としては,選択したテーマについて陥
りやすい危険性を訴えるためのストーリーがよく練ら
れた作品を制作できた.
図 1
学生が制作したプレゼンテーション
(テーマ:ネット詐欺)
アニメーション機能やクリップアート(Microsoft
Office 付属の素材集)を活用して,登場人物同士で掛
表 1
テーマ
個人情報の漏えい
ネチケット
迷惑メール
売買のトラブル
コンピュータウィルス
不正アクセス
著作権の侵害
ネット詐欺
け合いをするなど,演出上の工夫を凝らした作品もあ
った.ただ,最後のスライドでの,テーマに関する注
意点などの解説については,説明が不十分な作品も見
受けられた.学生の作品の一例を図 1 に示す.
4. 今後の課題
実際の授業では,時間の都合で,教員からのフィー
ドバックが十分できなかった.今後の課題としては,
フィードバックとともに,学生間の相互評価を検討し
たい.制作後であっても,多角的な評価を学生にフィ
ードバックできれば,選択したトピックについての理
解を深めることができるだろう.また,相互評価を通
じて,他のトピックに関しても知識や態度を修得する
ことが期待できる.
また,事前に小テストや意識調査などで学生の情報
モラルに関するレディネスを把握した上で,プレゼン
テーション以外の内容へ情報モラルのトピックを組み
込む工夫を検討したい.
参考文献
[1] 岡部成玄,布施泉,村田育也,中西通雄,辰己丈
夫,中村純,深田昭三,多川孝央,山之上 卓,
メディア教育開発センター:“情報倫理デジタル
ビデオ小品集 2”,メディア教育開発センター情報
教材シリーズ(2005)
[2] 中村純,岡部成玄,布施泉,村田育也,辰己丈夫,
上原哲太郎,中西通雄,深田昭三,多川孝央,山
之上卓,メディア教育開発センター:“情報倫理
デジタルビデオ小品集 3”,メディア教育開発セン
ター情報教材シリーズ(2007)
[3] 情報教育学研究会・情報倫理教育研究グループ:
“インターネットの光と影 小冊子(第 3 版)
”,
http://www.iec-ken.jp/rinri/pamf-v30.pdf (2010 年 8
月 19 日参照)
[4] 情報教育学研究会・情報倫理教育研究グループ:
“インターネット社会を生きるための情報倫理
改訂版”,実教出版(2005)
制作されたプレゼンテーションのテーマの選択状況
関連キーワード
アンケート,クレジットカード,パソコンの破棄
メールでのマナー,掲示板でのマナー
チェーンメール,スパムメール
ネットオークション,違法物・危険物の販売
ウィルス対策ソフト,ソフトの不具合
なりすまし,スパイウェア,不正侵入
違法コピー,キャラクターの使用
ワンクリック詐欺,フィッシング詐欺
社団法人 私立大学情報教育協会
平成22年度 教育改革ICT戦略大会
2007 年
11.7%
10.4%
11.7%
31.2%
14.3%
3.9%
11.7%
5.2%
2008 年
4.3%
10.9%
8.7%
23.9%
2.2%
6.5%
28.3%
15.2%
2009 年
18.2%
2.3%
15.9%
25.0%
6.8%
6.8%
9.1%
15.9%