日本における個人発明家の特許発明商 業化の現状

平成22年度
プロジェクトレポート
日本における個人発明家の特許発明商
業化の現状及び阻害要因に関する研究
東京工業大学大学院
イノベーションマネジメント研究科
技術経営専攻
指導教員
学籍番号
氏名
田中義敏教授
09M45170
董
佐夫
要旨
近年我が国では、特許庁に毎年 300,000-450,000 件の特許出願がなされており、そ
の中のおよそ毎年 12,000 件の特許出願が個人によるものである。知的財産カネジメン
トの観点から、特許発明は取得するだけではなく、それを効果的に活用しなければなら
ない。特許出願件数からわかるように、日本においては個人発明家の特許出願はほんの
一部に過ぎないため、個人発明家の特許発明の活用・商業化の状況は、特許庁による知
的財産活動調査だけでは明らかにはなっていない。
本研究の目的は、日本における個人発明家の特許発明商業化の現状および阻害要因を
明らかにすることである。本研究は、特許流通促進事業の一環で構築された特許流通デ
ータベースに登録している個人発明家の活動について調査研究した。特許流通データベ
ース上のデータを用いただけではなく、特許流通データベースに登録している個人発明
家の中から対象者を抽出してアンケート調査を行った。
本研究の結果から、日本においては、ライセンサモデルを志向する個人発明家が多く
いるが、個人発明家のライセンス許諾率が非常に低いことがわかった。また、ヒト・モ
ノ・カネ・情報といった4つの要素が個人発明家の特許発明商業化において大きな影響
を与えていることが本研究によって検証できた。その中でも、特許発明商業化において
特許発明がどのような市場に利用することができ、その市場にどのような代替技術が存
在している等の情報が重要で、特に有料市場調査データベースへのアクセスの有無が個
人発明家の特許発明商業化を大きく左右することが分かった。日本企業が個人発明家の
ことを軽んじる傾向があり、個人発明家が活動しやすい環境・仕組みを構築することが
必要だと考えられる。
今後の課題としては、研究対象者を特許流通データベースに登録している個人発明家
だけではなくてさらに広げることと、個人発明家が保有する特許発明の具体的技術また
は法的手続きも研究対象データに取り入れることがあげられる。
Abstract
There are 300,000-400,000 patent applications filed to Japan Patent Office every
year. Among this huge amount of patent applications, around 12,000 patent
applications are made by individual inventors every year.
From viewpoint of patent management, not only patent application but also
patent utilization is very important. That is why Japan Patent Office makes survey
on Intellectual Property-Related Activities to find out how intellectual properties
are utilized in Japan. However, the situation of patent utilization by individual
inventors cannot be cleared up from the result of that survey because individual
inventors in Japan only have a little part of patent.
The purposes of this research are to clear up the situation of patent utilization of
individual inventors in Japan and to find out the factors which make it difficult for
them to commercialize their patented inventions. In this research, besides using the
data of individual inventors who registering patented inventions on Patent
Licensing Database, I made questionnaire survey to individual inventors extracted
from individual inventors who registering patented inventions on Patent Licensing
Database.
The results obtained from this research are as following.
 There are so many individual inventors in Japan who want to utilize the
patented inventions by licensing, however not only a few patented inventions
has been licensed.
 Human, equipment, capital, and information resources are very important for
individual inventors to commercialize their patented inventions. Especially
information of market seems to be the most important of those resources.
As future tasks, it is necessary to expand research targets but not limited on Patent
Licensing Database. It is also interesting to consider individual patent data.
目次
序論 ..................................................................................................................................... - 1 1.
本研究の課題 .................................................................................................... - 1 -
2.
本研究の特徴 .................................................................................................... - 2 -
3.
本論文の構成 .................................................................................................... - 2 -
第1章
研究背景 ........................................................................................................... - 3 -
1.1
発明と特許権 ................................................................................................ - 3 -
1.2
個人発明家のモデル像.................................................................................. - 3 -
1.3
日本におけるベンチャーと個人発明家 ........................................................ - 4 -
1.3.1
日本におけるベンチャー ................................................................... - 4 -
1.3.2
日本における個人発明家の状況 ........................................................ - 5 -
1.3.3
日本における個人発明家の活躍 ........................................................ - 6 -
1.4
第2章
2.1
研究背景のまとめ ......................................................................................... - 7 既存研究と本研究の位置づけおよび目的 ........................................................ - 8 既存研究 ....................................................................................................... - 8 -
2.1.1
アメリカにおける個人発明家 ............................................................ - 8 -
2.1.2
ライセンス契約実務 ........................................................................ - 10 -
2.2
本研究の位置づけと目的 ............................................................................ - 11 -
2.2.1
リサーチクエスチョンと本研究の目的 ........................................... - 11 -
2.2.2
仮説および検証方法 ........................................................................ - 11 -
第3章
特許流通データベースにおける分析 ............................................................. - 13 -
3.1
特許流通データベースの概要..................................................................... - 13 -
3.2
特許流通データベースの登録者および登録権利の特徴............................. - 14 -
3.3
個人発明家の特徴 ....................................................................................... - 16 -
3.3.1
登録権利の権利状況および権利の種類 ........................................... - 16 -
3.3.2
研究対象となる個人発明家および特許権の概況............................. - 17 -
3.4
第4章
4.1
特許流通データベースにおける分析のまとめ ........................................... - 22 アンケート調査分析 ....................................................................................... - 23 アンケート調査の目的および設計 ............................................................. - 23 -
4.1.1
アンケート調査の目的 ..................................................................... - 23 -
4.1.2
アンケート調査の設計 ..................................................................... - 23 -
4.2
アンケート調査対象者の特定方法 ............................................................. - 25 -
4.3
アンケート調査の実施方法 ........................................................................ - 26 -
4.4
アンケート調査結果 ................................................................................... - 26 -
4.4.1
アンケートの回収結果 ..................................................................... - 26 -1-
4.4.2
アンケート調査結果の考察~個人発明家の所属~ ......................... - 26 -
4.4.3
アンケート調査結果の考察~特許発明の商業化経験~.................. - 29 -
4.4.4
アンケート調査結果の考察~有料データベース~ ......................... - 32 -
4.4.5
アンケート調査結果の考察~特許発明商業化イメージ~ .............. - 36 -
4.4.6
アンケート調査結果の考察~特許発明のポイントとなる技術・製品~ -
40 第5章
特許流通データベースにおける分析およびアンケート調査結果の分析に対する
考察 ................................................................................................................................... - 41 5.1
【仮説1】の検証 ....................................................................................... - 41 -
5.2
【仮説2】の検証 ....................................................................................... - 42 -
5.3
【仮説3】の検証 ....................................................................................... - 43 -
第6章
結び ................................................................................................................ - 43 -
6.1
結論と提言 .................................................................................................. - 43 -
6.2
今後の研究課題........................................................................................... - 47 -
謝辞 ................................................................................................................................... - 48 参照文献 ........................................................................................................................... - 49 研究付録 ........................................................................................................................... - 50 アンケート調査の各質問に対する回答の統計 ............................................................. - 50 アンケート調査用紙 ......................................................................................................... - 65 -
-2-
序論
1. 本研究の課題
世界に名を馳せる企業の多くは、最初は一人または複数の個人によってベンチャーと
してスタートしている。1990年代にアメリカ経済が驚異的な復活を遂げた主要な要
因はシリコンバレーに続々と誕生するベンチャー企業の旺盛なベンチャー活動にある
といわれている。日本を含む世界中の国々が「ベンチャービジネスが国家経済の成長に
大きく貢献する」という仮説のもとに、ベンチャービジネスの育成を重要な政策課題と
して取り組んでいる。長期にわたる日本経済の低迷において、中小企業やベンチャーへ
の期待が急速に高まっている[1]。
日本では様々な創業支援活動、中小企業支援活動等のベンチャービジネス支援活動が
民間だけでなく、政府も様々な政策を打ち出している。近年でいえば、「新たに事業を
開始しようとする個人や中小企業等に対しての幅広い支援、中小事業者の新技術を利用
した事業活動に対しての支援を行い、地域産業資源を活用した事業環境の整備を回るこ
とで、経済の閉塞感を打破するために新たな事業の創出を促し、雇用機会を創出するこ
と」を目的として、新事業創出促進法が1998年12月11日に法律第152号とし
て成立した[2]。新事業創出促進法は2005年4月13日をもって廃止され、199
9年3月31日に法律第18号として成立した「中小企業の新たな事業活動の促進に関
する法律」へ統合されている。財務省、経済産業省、文部科学省も別々ではあるが、様々
な政策を実施している。特に経済産業省のもとにある特許庁は、中小企業や個人発明家
等を対象に特許料減免による支援、無料で先行技術調査の支援を行って、知的財産権に
関する支援活動に取り組んでいる。
効果的な支援策を策定するためには、支援対象者であるベンチャーや個人発明家を取
り巻く環境を知り、そのような環境の中でベンチャーや個人発明家がどういった困難に
直面しているのか、それらの困難を乗り越えるためにはどういった支援を望んでいるの
かを知る必要がある。
本研究は、日本における個人発明家の特許発明商業化の現状および阻害要因に関する
研究調査である。個人発明家がどのような困難に直面しているのか、どのようなニーズ
があるのかを明らかにすることを研究課題としている。個人発明家がどのような困難に
直面しているのか、どのようなニーズがあるのかを明らかにすることができれば、個人
発明家に対する支援策の策定にも貢献できると考える。
-1-
2. 本研究の特徴
本研究は、以下の特徴を持っている。
(1) これまでに研究調査がほとんど行われていない、日本における個人発明家に関
する調査研究であること
(2) 研究対象者を抽出するために、特許流通データベースを利用していること
(3) 独自に個人発明家を定義していること
3. 本論文の構成
本論文は6章で構成されている。
1章では、個人発明家のモデル像について概説したあと、特許出願状況や諸研究から
ベンチャーや個人発明家の存在意義や活躍について説明する。このような状況の中で本
研究がチャレンジしようとしていることを述べ、研究背景をまとめる。
2章では、アメリカにおける個人発明家やライセンス契約実務に関する研究を既存研
究として取り上げ、その研究成果を整理した上で本研究の位置づけと目的を説明する。
最後にリサーチクエスチョンから仮説の策定および仮説の検証方法を説明する。
3章では、特許流通データベースの概説から、特許流通データベースに開示されてい
る登録している個人発明家に関する情報から、個人発明家の活動状況や特徴を探る。
4章では、アンケート調査の目的および設計について確認し、アンケート調査対象者
の特定方法および実施方法について説明する。最後にアンケート調査の結果より、分析
および考察を展開する。
5章では、本研究で得られた結果にさらに考察を加え、仮説の検証を行う。
6章では、本研究で明らかになった事実を結論として説明し、提言および今後の研究
課題を示す。
-2-
第1章
研究背景
1.1
発明と特許権
発明とは、これまでにまったくなかった新しいものを創造することであり、すでに存
在するものに何か新しい要素を加えることであり、すでに存在するものを別の新しい方
法で創造することである。その中で当業者からみて新規性と進歩性が満たされた発明は、
特許権を取得することで法的に守ることができる。今日、世界中の多くの国で特許制度
が作られており、特許制度が国々の技術革新やビジネスをサポートする役割を果たして
いる。特許権を取得するためには、その国の特許庁に特許出願を行わなければならない。
ある国における特許出願数や特許公報から、その国における技術開発の動向を把握する
ことが可能である。
発明創造に取り組む主体は技術者や発明家と言われる人々である。発明創造に取り組
む人々の中には、企業、大学や研究機関等といった組織に所属して研究開発に携わる人
(以下、被雇用研究者と呼ぶ)、そういった組織に所属せずに何かの発明に取り組んで
いる人(以下、独立発明家と呼ぶ)がいる。被雇用研究者は組織に所属しているがゆえ
に、研究開発の成果も企業に属する場合が多い。また組織の中に知的財産権を扱う部署
があれば、被雇用研究者は自ら知的財産権のカネジメントを考慮しなくて済み、研究開
発に没頭できる環境に恵まれているといえる。一方、独立発明家はすべての作業を自ら
行わなければいけない状況に置かれているといえる。また被雇用研究者であれ、独立発
明家であれ、研究開発に取り組み、その結果を特許出願して権利化し、さらにその権利
を活用する流れは同様である。
本研究でいう個人発明家とは、被雇用研究者か独立発明家かどうかを区別せずに特許
登録情報の「発明者」と「出願人」が同一である特許における「出願人」(「発明者」)
を個人発明家と定義している。
1.2
個人発明家のモデル像
発明創造の成果物を特許出願して権利化し、その利用方法としては自己実施するか、
他人にライセンス・譲渡するかの二つがある。個人発明家に関していうならば、自己実
施とは自ら発明をするだけではなく、その発明をもとに自分で事業化して創業しようと
するモデル、つまりアントレプレナーモデルである。一方、他人にライセンス・譲渡と
-3-
は、自ら発明して特許を取得するが、それをもとにした事業化は企業に依頼し、特許利
用のライセンス料を稼ごうとするモデル、つもりライセンサモデルである。
アントレプレナーモデルで有名な個人発明家としては、エジソンや松下幸之助、最近
でいうとダイソンが例として挙げることができる。このモデルで成功するためには、優
れた発明能力だけではなく、経営能力も必要不可欠であるため極めて困難であるといえ
る。さらに個人発明家の発明技術がすべてユニークで、単独で製品を構成することが難
しいと考えられるため、アントレプレナーモデルを取る個人発明家は極めて尐数だと考
えられる。
一方、レメルソンがライセンサモデルの個人発明家として有名である。レメルソンは
750 社にも及ぶ企業とライセンス契約を結び、15 億ドルものライセンス収入を得たと
いわれている[3]。このモデルでは自ら起業することが必要ではないので、会社経営に
関する諸能力を必要としないため、アントレプレナーモデルと比べて困難が尐ないかも
しれないが、特許権のライセンス先となりうる企業を特定し、さらにライセンス契約の
交渉をしなければならないため簡単ではない。
アントレプレナーモデルに属する個人発明家は自ら起業するため、その結果ベンチャ
ー企業経営者に変身して国家経済に直接的に貢献することができる。ライセンサモデル
に属する個人発明家は自ら起業しないが、特許権の実施権を第三者である企業等に許諾
することによって国家経済に間接的に貢献することができる。したがってどちらのモデ
ル像であっても、個人発明家の活躍が国家経済の成長につながることが期待できる。
1.3
1.3.1
日本におけるベンチャーと個人発明家
日本におけるベンチャー
ベンチャーに関して様々な研究が盛んに行われている。1997年に、米国バブソン
大 学 と 英 国 ロ ン ド ン ビ ジ ネ ス ス ク ー ル の 起 業 研 究 者 達 が 中 心 と な っ て Global
Entrepreneurship Monitor(GEM)が組織された。GEM の研究プロジェクトは、ベ
ンチャービジネスの国家経済に及ぼす影響について、多国間にわたる大規模なデータを
用いて実証研究を行い、各国の政策担当者に重要な政策方針を提供しようとするもので
ある。GEM は、調査参加国(2009年は54か国)で同一の起業活動の定義を採用
し、1か国当たり約2000人に対してのインタビュー調査、当該分野の専門家へのア
ンケート調査、そしてマクロ経済関連のデータ整理などを実施し、起業活動の実態や国
際比較に務めてきた。GEM が発行した2009年のアニュアルレポート[4]を基に経
-4-
済産業省の委託調査で財団法人ベンチャーエンタープライズセンターが分析を行って
レポートを発行した。レポートでは、近年は起業活動率の上昇とともに起業活動の浸透、
個人投資家の活動など、プラスに動く項目も見られたが、起業家の社会への浸透度、事
業機会の認識、起業に関する能力・スキル、起業家への評価は厳しいものであり、一層
の対策が必要だと記述した[5]。また日本ではベンチャーに関する事例調査研究や比較
研究が多く行われており、日本のベンチャーが置かれている環境や直面している困難が
分析されている。
1.3.2
日本における個人発明家の状況
表 1 からわかるように、近年我が国では、特許庁に毎年 300,000-450,000 件の特許
出願がなされている。これらの特許出願のほとんどが企業、大学、研究機関といった組
織によってなされているが、
およそ 12,000 件の特許出願が個人による出願である[6]。
個人の特許出願数は全体的に小さなシェアしか占めていないが、ある一定の集団を形成
しているようにみえる。
特許庁は我が国の知的財産政策を企画立案するにあたっての基礎資料を整備するた
め、我が国の個人、法人、大学等公的研究機関の知的財産活動の実態を把握することを
-5-
目的として、知的財産活動調査を行っている。2009年度の知的財産活動調査[7]に
よると、「個人・その他」に該当した162人の回答者の平均知的財産活動費が11.
8百万円で、製造業の諸業界のそれに比べると資本リソースによる制限を大きく受けて
いることがわかっている。
また製品の製造・販売のためにではなく、自ら保有する特許権を侵害している疑いの
ある企業に巨額の賠償金やライセンス料を求めるために特許権を保有する、パテント・
トロールと呼ばれる人たちが近年警戒視されている。このような風潮の中で、生産設備
等を通常持たない個人発明家はパテント・トロールとして警戒されがちで、権利活用が
難しいではないかと考えられる。
1.3.3
日本における個人発明家の活躍
長岡らは発明者とイノベーション過程に関する研究[8]では企業にとって価値の高い
特許の発明者を主要な調査対象としてアンケート調査を行った。調査対象者としては、
OECD がデータベース化している3極特許からランダムに抽出したサンプルを主要な
調査対象(サンプルの約7割)とし、残り約3割のサンプルは3極へすべて出願をせず、
日本国のみの特許出願からランダムに抽出した。回答者の中には、本研究で個人発明家
と定義している者は7%、およそ356名含まれた。このことから、企業にとって価値
の高い特許を取得し、活躍している個人発明家が存在しているといえる。
また榊原をはじめとする第一研究グループは、日本における技術系ベンチャーの特徴、
特にIPOを目指す技術系ベンチャーの特徴について行った調査研究から、6割以上の
創業経営者が一つ以上の特許を保有していることがわかった[9]。このことから、発明
を特許権利化し、自ら創業する個人発明家が存在しているといえる。
さらに独立行政法人工業所有権情報・研修館は1997年から特許流通を促進させる
事業に取り組んでいるが、特許流通促進事業の成果として2009年3月末までに累計
で12124件もの特許ライセンス契約が成約している[10]。ライセンサ(特許提供
者)の内訳をみると、個人がライセンサとしてのライセンス契約数は1240件ある。
このことから、個人発明家が自らの特許権を技術移転することに活躍していることがう
かがえる。
-6-
1.4
研究背景のまとめ
日本におけるベンチャーに関しては事例研究や比較研究が多く行われており、日本の
ベンチャーが置かれている環境や直面している困難が分析されている。一方、日本にお
ける個人発明家は発明創造活動に従事しており、一定の活躍が見られているにもかかわ
らず、個人発明家に関しては断片的な情報[8][9][10]しかない。また個人発明家を研
究対象とした研究調査はほとんど行われておらず、その状況はわかっていない。個人発
明家は日本における産業発展に活躍し貢献していることから、個人発明家の特許発明の
商業化が進展することにより、新たな製品を市場に提供し、消費者の便益向上に役立つ
と考える。
個人発明家の特許発明商業化を促進するためには、本研究がチャレンジする、個人発
明家の特許発明商業化の現状および阻害要因を明らかにすることが重要だと考える。個
人発明家がどのような困難に直面しているのか、どのようなニーズがあるのかを明らか
にすることができれば、個人発明家に対する支援策の策定にも貢献できると考える。
-7-
第2章
2.1
既存研究と本研究の位置づけおよび目的
既存研究
第1章で述べたとおり、日本における個人発明家に関する調査研究はほとんどみられ
ない。そのため、比較的に個人発明家の活躍が顕著なアメリカにおける個人発明家に関
する既存研究を取り上げる。また本研究が日本における個人発明家の特許発明商業化に
関するものであるため、日本における特許発明商業化の現状を知ることが必要である。
本節ではアメリカにおける個人発明家に関する研究とライセンス契約実務に関する
調査を取り上げ、概括する。
2.1.1
アメリカにおける個人発明家
和田は Bronwyn Hall, Adam Jaffe, Manuel Trajtenberg らの作成した NBER の米国
特許データベースを用いて個人の発明活動につき基礎的な情報を整理した[11]。米国
特許を用いた理由としては現実に無料で利用可能なデータとしては米国特許しかない
である。また米国では個人発明家の活動が顕著であり、技術者が独立起業することが多
い米国の発明者の実態について把握できるという利点があった。
和田の研究では、
NBER の発明者データで米国在住の発明者だけを観察母集団にし、
1975年から1999年に登録された米国在住の発明者による特許 1,210,497 件、
806,432 名もの発明者を研究対象とした。個人発明家であるかどうかを区別するために、
発明者が生み出した特許のうち Assignee が存在する特許の割合を示す「アサイン率」
を用いて、アサイン率が 50%未満を個人発明家、50%以上を企業所属の被雇用研究者
と定義した。さらに和田は、共同発明者の数及び共同発明者中の発明者順位、発明者の
最初の出願年及び最後の出願年、クレーム数、被引用数をパラメータとして用いて個人
発明家と被雇用研究者の違いについて分析した。
和田の研究によると、アメリカにおける個人発明家の特許は以下の特徴を有すること
がわかった。
1.個人発明家は共同発明者数が尐なく、筆頭発明者であることが多い
2.個人発明家で多くの特許を取得した者は、長年にわたって特許取得活動をしている
場合ばかりであるが、企業所属の場合には、数年という比較的短期間で非常に多くの特
許を取得しているケースがある。
3.表2-1に示すように、個人発明家の特許は玩具、家具、衣服といった分類に多く
-8-
分布し、逆に有機化合物・医薬など物質特許、半導体、コンピュータなどにおいては、
被雇用研究者がほとんどを発明している。全体ではそう特許数のほぼ80%が被雇用研
究者によって生み出され、20%は個人発明家によっている。
4.個人発明家は被雇用研究者に比べて特許生産性において不利であることが確認でき、
また特許につながる発明生産性には、先行技術に関する知識インプット量も影響してい
る。
さらに和田は、レメルソンのように個人でライセンサとして成功したものは、特許取
得において優れた能力を持っているのみならず、メーカである大企業を訴える材料とな
る技術分野で特許を持っている特殊例であると説明した。
和田は特許情報を用いてアメリカにおける被雇用発明者と個人発明家の違いについ
て説明したが、個人発明家による特許発明商業化の現状および個人発明家がかかえる課
-9-
題等に関して分析していない。本研究は日本における個人発明家を研究対象としており、
日本における個人発明家の特許発明商業化の現状および阻害要因に関する分析を試み
ている点で、意義を有する。
2.1.2
ライセンス契約実務
社団法人発明協会は、特許庁の委託を受け企業における特許ライセンス契約等に関す
る実態調査を行い、報告書として企業経営、企業戦略における「ライセンス政策」、具
体的にいうと特許・ノウハウに関する<制度論>、その制度を活用して取得、保有する
<戦略論>を含めた総合政策論としての観点から、
「ライセンス契約実務ハンドブック」
[12]をまとめた。
この調査は平成10年に行われ、アンケート調査方式により、国内の特許出願上位3
00社の企業を対象とした。アンケート回収数が211で、回収率が70.3%であっ
た。調査の結果から、
・特許ライセンスにおいて、特許権の権利範囲、特許権の有効性、基本特許か改良特許
か、第三者特許権等への抵触の有無、製品の市場規模、競合製品の有無、製品の収益性、
実施にあたっての容易性、独占的実施権か非独占的実施権か、権利の状態が重要視され
ており、特許に伴うノウハウの有無はさほど重要視されないことがわかった。
・企業の特許ライセンス契約実務において、複数の特許権の包括契約も多いが、単独特
許権のライセンスが主流であることがわかった。つまり、個人発明家のような、取得特
許数の尐ない者にとって、特許ライセンスにおいて所有特許権の数が尐ないことが決定
的な不利要因にならないと考えられる。
・特許等のポイントとなる技術・製品(部品)については、特許ライセンスにおいて実
際生産される製品やそれを構成する部品がライセンス特許の権利対象となっているこ
とがほとんどであることがわかった。個人発明家が保有する特許権のポイントとなる技
術・製品を知ることができれば、この調査の結果と比較することにより、何らかの知見
がえられるかもしれないと考える。
・本書によると、ライセンス契約の交渉の際に、一方的に交渉することは結果的にう
まくいかない。Win-Winとなるポイントを見つけ、ライセンス契約によって交渉
相手側のメリットを主張することが重要であることがわかった。
この調査は企業を対象として特許ライセンス契約に関するものであるが、日本国内に
おける特許ライセンス状況を知るためには非常に貴重な情報である。
- 10 -
2.2
本研究の位置づけと目的
2.2.1
リサーチクエスチョンと本研究の目的
理由は分からないが、日本企業が個人発明家を軽んじて相手にしようとしない傾向が
ある[13]。つまり、個人発明家が自らの研究成果を企業に生かしてもらいたくても、
企業に相手にされずに終わってしまうケースが多い。長岡らの研究では特許の商業化に
おいて大半の場合、多くの特許の束が必要である[8]と述べたが、ライセンス実務的に
は企業間の特許ライセンスにおいて単独特許のライセンスが主流であることが特許ラ
イセンス契約等に関する実態調査の結果からわかっている[12]。アメリカにおける個
人発明家が資本リソースによる制限を受け、個人発明家が活躍する技術分野には特徴が
ある[11]が、日本における個人発明家の状況がわからない。さらに日本における個人
発明家がどのような動機で特許出願しているのか、そもそも特許発明の商業化に積極的
なのか、消極的なのかがわからない。長岡らの研究[8]、第一研究グループの研究[9]
や独立行政法人工業所有権情報・研修館が取り組む特許流通促進事業の結果[10]から、
日本における個人発明家が活躍していることが確認できたが、日本における個人発明家
がどのモデル像で、どのような技術分野で活躍しているかに関しては未だに明らかには
なっていない。
日本における個人発明家の活動を支援するためには、日本における個人発明家を対象
に調査研究する必要があるにもかかわらず、そういう研究がほとんどみられない。本研
究では、個人発明家の特許発明商業化の現状を明らかにするとともに、そこに存在する
個人発明家の特許発明商業化を阻害する要因を発見することによって、個人発明家に対
する支援策の策定や、個人発明家が特許発明商業化を行う際に役立ちたい。
2.2.2
仮説および検証方法
2.2.1で説明したリサーチクエスチョンから、以下のような仮説を用いて研究を
進めた。特許流通データベースに開示されている個人発明家に関するデータや、特許流
通データベースより抽出した個人発明家に対するアンケート調査の回答結果データを
用いて仮説の検証を行い、個人発明家の特許発明商業化の現状および阻害要因について
考察した。
Hofstede は50か国以上にわたる IBM 社員を対象にして、国別の文化の差異につい
- 11 -
て研究したところ、
「権力格差の大きさ」
、
「個人主義―集団主義の程度」
、
「男性らしさ―
女性らしさの程度」
、
「不確実性の回避の強さ」、
「長期的思考―短期的思考の程度」とい
った5つの文化的次元を見出した[14]。Hofstede の研究によると、日本は不確実性の
回避志向が高い国として位置付けられた[14]。ベンチャーを立ち上げて経営するには、
必要とする資本の調達や優秀な人材の獲得といった不確実性の高い要素が常にともな
うだろう。したがって、日本における個人発明家のモデル像としては、アントレプレナ
ーモデルではなく、ライセンサモデルに偏っているではないかと考える。
【仮説1】
日本においては、ライセンサモデルを志向する個人発明家が多い。
<検証方法>
特許流通データベースに開示されているデータおよびアンケート調査の問1-1、問
2-8および問2-9に対する回答結果データを用いて、【仮説1】を検証する。
ヒト、カネ、モノに情報が、企業経営において重要な要素として認識されており、企
業は豊富な資本を用いてビジネスを行うために必要なヒト、モノ、そして情報を調達す
る。個人発明家が特許発明を商業化するためには、他人の力を借りたり、試験や生産の
ための設備を必要としたり、特許・技術や市場動向に関する情報が必要だと考えられる。
場合によってはお金を使って必要とするものを自ら揃わなければならない。したがって
これらの要素が個人発明家にとっても重要で、個人発明家の特許発明商業化に影響を与
えていると考えられる。
【仮説2】
ヒト・モノ・カネ・情報が個人発明家の特許発明商業化に影響を与えている。
<検証方法>
アンケート調査の問1-3、問1-4、問1-5、問2-1および問2-2に対する
回答結果データを用いて、
【仮説2】を検証する。
特許発明の商業化に成功するためには、早い段階から特許発明の商業化のイメージを
持つ必要があると考える。早い段階から特許発明の商業化のイメージを持てば、特許出
願するとすぐに審査請求して急いで権利化しようとするし、その特許発明をどのように
商業化すべきかがより明確にわかると考えられる。つまり早い段階から特許発明の商業
化のイメージを持って特許発明の商業化に取り組むことが重要だと考える。
- 12 -
【仮説3】
特許発明の商業化のイメージを持つことが、特許発明の商業化において重要である。
<検証方法>
アンケート調査の問2-3から問2-9までの設問に対する回答結果データを用い
て、【仮説3】を検証する。
第3章
特許流通データベースにおける分析
本研究は個人発明家の特許発明商業化の現状およびそこに存在する阻害要因を調査
研究する。日本では NBER のような、発明者を対象とした特許データベースが存在し
ない。本研究では特許流通促進事業の一環として構築された特許流通データベースを利
用し、特許流通データベースで個人として登録し、特許を保有する者を研究対象とした。
本章では、特許流通データベース、そして特許流通データベースで開示されている個
人発明家に関するデータを用いた分析を説明する。
3.1
特許流通データベースの概要
特許流通データベースは特許流通促進事業の一環として構築されたデータベースで
あり、権利者が特許流通データベースに登録した開放する意思のある特許についてライ
センス等を希望する第三者に当該特許の検索サービスを提供することでマッチングを
推進するものである。登録、検索は無料で、1997年4月サービスが開始されて毎週
更新されている。特許流通データベースにおける登録者に関しては、企業、個人、学術
研究と大学・TLO の4つのカテゴリーで分類されている。特許流通データベースに登
録している権利に関する情報は、出願番号や出願人といった権利の基本情報のほかに、
技術分野を分類しており、わかりやすいように機能や適用製品に関する情報も掲載して
ある。そして特許流通データベースの大きな特徴としては、図3-1に示すように特許
流通データベースに登録している特許が過去に実施実績あるいは許諾実績、すなわち活
用されたものかどうか、という情報を知ることができる点が挙げられる。権利の実施と
しては、自己実施と第三者による許諾実施の二種類あるため、特許流通データベースに
おける実施実績とは自己実施の実績を、許諾実績とは第三者へのライセンス許諾実施の
実績を指すと解釈できる。このような情報は基本的に公開されないものであり、特許流
- 13 -
通データベースに登録している特許が過去に活用されたか否かという情報は極めて貴
重だと考えられる。また特許流通データベースでは、機械・加工、化学・薬品、食品・
バイオ、電気・電子、土木・建築、生活・文化、情報・通信、金属材料、繊維・紙、有
機材料、無機材料、輸送とその他の計13のカテゴリーで登録権利の技術分野を分類整
理し、検索しやすいように工夫している。
3.2
特許流通データベースの登録者および登録権利の特徴
特許流通データベースは毎週更新されるため、本研究で利用する特許流通データベー
スで採集したデータは、2010年11月12日に更新されたもので、登録者数・登録
権利数は表3-1のとおりである。総登録者数は2,774で、学術研究や大学・TLO
としての登録者数と比較すると、企業や個人としての登録者数がそれらの10倍にも及
び、総登録者数の9割以上を占めている。一方、総登録権利数は34,860件で、企
業、学術研究や大学・TLO の登録権利数が総登録権利数のほとんどを占め、登録者数
で最も多い個人の登録権利数は全体のわずか6%しかない。
図3-2は、登録権利数を登録者数で除算して求められる登録者一人当たり登録権利
- 14 -
数の違いを示している。学術研究や大学・TLO としての登録者は一人あたり登録権利
数において高い数字を示したのに対して、企業や個人としての登録者(以下、特許流通
データベースで個人として登録している者を個人発明家と呼ぶ)は低い数字を示した。
以上のことから、以下のことが推測できる。
1.学術研究や大学・TLO は研究機関としての機能を果たし、多くの研究成果が権利
化されている。しかしながら性格上ビジネスを行うことが困難であるため、第三者に対
する技術移転が主な権利の活用方法であろう。したがって、できる限り多くの権利を特
許流通データベースに登録して技術移転しようとしていると考えられる。
2.日本における分野別上位出願人をみれば、ほとんどが日本の企業で、つまり日本に
おける特許出願のほとんどが企業によるものであることがわかる。しかしながら特許流
通データベースに登録している企業保有の権利の数は、個人、学術研究や大学・TLO
より多いものの、圧倒的に多いようにはみえない。このことから、企業は保有する権利
の一部、しかも自社のビジネスにとってそれほど影響を与えないような権利を特許流通
データベースに登録しているではないかと考えられる。企業が保有する権利の一部だと
いえ、特許流通促進事業においては重要かもしれない。
3.企業、学術研究、大学・TLO と比べて個人としての登録者の特徴としては、登録
者数が最も多いものの、登録権利数で圧倒的に尐ない。個人としての登録者の一人当た
- 15 -
り登録権利数は1.56件であり最も尐ない。企業、学術研究、大学・TLO には複数
名の研究者が所属して研究活動に取り組んでいるに対し個人は一人であるため、研究の
生産性には圧倒的な違いがあるだろう。企業、学術研究、大学・TLO も発明者ベース
で統計すれば、一人当たりの登録権利数の差が縮まると考えられる。
3.3
3.3.1
個人発明家の特徴
登録権利の権利状況および権利の種類
本研究の研究対象は個人発明家であることから、特許流通データベースに個人として
登録している者についてさらに分析を進める。
特許流通データベースで個人としての登録権利2,111件であった。その内訳は表
3-2に示されたとおり、すでに特許庁で権利として登録しているものは1,689件
で、残りの422件は現在特許庁で審査中の権利であった。審査中の権利は、これから
権利として登録されるかどうかは特許庁の判断に委ねられているため、確実に権利とし
て登録される保証はない。そのため未だに審査中の権利は、権利としての安全性は極め
て不確実だといえる。さらに未だに審査中である422件のデータを取り除いた168
9件の権利について権利の種類を調べたところ、うち1,319件が特許権、370件
が実用新案権であった。
ライセンスの実務においては、ライセンシーがライセンス契約を行う際に権利が登録
前か登録後かという権利の状態を重視する傾向がある[11]ため、本研究では特許流通
データベースに登録している、未だに審査中である422件のデータを研究対象データ
から取り除くことにした。また、本研究では特許権にフォーカスした研究として設計し
ているため、370件の実用新案権も研究対象データから取り除くことにした。その結
果、1,319件の特許権が残り、それらの特許権の保有者は978名であった。
1.1で述べたように、本研究でいう個人発明家とは、被雇用研究者か独立発明家か
- 16 -
どうかを区別せずに特許登録情報の「発明者」と「出願人」が同一である特許における
「出願人」(
「発明者」)を個人発明家と定義している。したがって上記の978名の個
人としての登録者が本研究で定義する個人発明家の定義と一致し、本研究における研究
対象者とした。以降、これらの978名の個人としての登録者を個人発明家と呼ぶ。
3.3.2
研究対象となる個人発明家および特許権の概況
研究対象の1,319件の特許権に関して、特許流通データベースの掲示内容である
技術分野、実施実績および許諾実績の有無について説明する。
【技術分野】
特許流通データベースに開示されている、1,319件の特許権の技術分野をみると、
多くの特許権が複数の技術分野に分類され、登録している。特許流通データベースに開
示されているデータをそのまま使いたいため、複数の技術分野で登録している特許に関
しては特許流通データベースにおける登録技術分野数でカウントした。たとえば特許 A
が技術分野 α と β に登録していれば、特許 A を技術分野 α の特許と技術分野 β の特許
のように区別してカウントする。このように研究対象の1,319件の特許を技術分野
でカウントすると、特許数は2,045件になり、つまり特許権一件当たりの登録技術
分野数が1.55であった。
これらの特許権の13の技術分野カテゴリーにどのように分布しているのかを知る
ために、
「技術分野集中度」を設定した。
「技術分野集中度」は、ある技術分野に登録し
ている特許権の件数が全特許権の件数のどれほどを占めているのかを示す指標で、
技術分野集中度=当該技術分野に登録している特許権の件数/全特許権の件数
として定義した。1,319件の特許権の「技術分野集中度」を示す図3-3からわか
るように、生活・文化が31%、機械・加工が17%、土木・建築が12%を占めて上
位となっている。一方、金属材料、有機材料、無機材料の3つの技術分野が下位で、い
ずれ2%以下となっていることがわかった。また全特許権の件数を13で割って、一つ
の技術分野当たりに登録している特許権の平均件数を求め、さらにそれを全特許権の件
数で割ることで、平均技術分野集中度を定義した。平均技術分野集中度は7%であった
ため、技術分野集中度が7%以上の分野においては個人発明家が多く分布しており、技
術分野集中度が7%より低い分野においては個人発明家が尐なく分布していると分類
することができる。
- 17 -
個人発明家の特許発明が生活・文化分野に最も多く分布されていることから、多くの
個人発明家は日常生活の様々なシーンから発明アイデアを得ているではないかと考え
られる。また材料など、研究設備に対して高額な投資を必要とする技術分野においては、
個人発明家の活躍の余地が尐ないことが理解できる。特許流通データベースに登録して
いる個人発明家に限っていうと、日本における個人発明家の活躍する技術分野は、アメ
リカにおける個人発明家[11]のと同じ傾向があるといえる。
【実施実績の有無】
研究対象となる1,319件の特許権がこれまでに自己実施されたかどうかの実績を、
特許流通データベースの「実施実績」を用いて知ることができる。「実施実績」の欄で
開示されているデータは「有」
、
「無」に加えて「試作品」の三種類のデータがあり、そ
れぞれに該当する特許件数および比率を表3-3に示す。
「実施実績」が「有」となっている特許権が276件で、全体の21%を占めている
ことがわかった。この276件の特許権は、237名の個人発明家によって保有されて
いる。特許流通データベースでは978名の個人発明家が登録しているため、全体の2
4%の個人発明家が「実施実績」のある個人発明家であることがわかった。この237
名の個人発明家がアントレプレナーモデルの個人発明家であるといえる。しかしながら、
- 18 -
978名の個人発明家の中で、アントレプレナーモデルの個人発明家を目指そうとする
個人発明家がもっと存在しているかもしれない。
【許諾実績の有無】
研究対象となる1,319件の特許権がこれまでに第三者へのライセンスによる許諾
実施があるかどうかを、特許流通データベースの「許諾実績」を用いて知ることができ
る。「許諾実績」の欄で開示されているデータは「有」と「無」の二種類のデータがあ
り、それぞれに該当する特許件数および比率を表3-4に示す。
表3-4からわかるように、1,319の特許権のうち「許諾実績」があるのはわず
か77件の特許権であった。またその77件の特許は64名の個人発明家によって保有
されており、特許流通データベースに登録している個人発明家の6.5%に過ぎないこ
とがわかった。この64名の個人発明家がライセンサモデルの個人発明家であるといえ
る。しかしながら、978名の個人発明家の中で、ライセンサモデルの個人発明家を目
指そうとする個人発明家がもっと存在しているかもしれない。
さらに「実施実績」と「許諾実績」が「技術分野集中度」との関係を調べた。
【「実施実績」と「技術分野集中度」】
- 19 -
「技術分野集中度」とそれぞれの技術分野における実施率の関係を図3-4に示す。
平均技術分野集中度7%と平均実施率21%をもとに、13の技術分野を(平均技術
分野集中度が高く、平均実施率も高いグループ)
、
(平均技術分野集中度が高いが、平均
実施率が低いグループ)
、
(平均技術分野集中度が低いが、平均実施率が高いグループ)
、
(平均技術分野集中度が低く、平均実施率も低いグループ)、の4つのグループに図3
-5のようにグルーピングすることができた。
- 20 -
【「許諾実績」と「技術分野集中度」】
「技術分野集中度」とそれぞれの技術分野における許諾率の関係を図3-6に示す。
- 21 -
平均技術分野集中度7%と平均実施率6%をもとに、13の技術分野を(平均技術分
野集中度が高く、平均許諾率も高いグループ)、
(平均技術分野集中度が高いが、平均許
諾率が低いグループ)、(平均技術分野集中度が低いが、平均許諾率が高いグループ)、
(平均技術分野集中度が低く、平均許諾率も低いグループ)、の4つのグループに図3
-7のようにグルーピングすることができた。
3.4
特許流通データベースにおける分析のまとめ
2010年11月12日に更新された特許流通データベースにおける分析から以下
のことがわかった。
1.個人としての登録者数が最も多いものの、一人当たりの登録権利数では圧倒的に尐
ない。
2.特許流通データベースに登録している978名の個人発明家が保有する1,319
件の特許権の技術分野分布から、日本における個人発明家の活躍する技術分野は、アメ
リカにおける個人発明家[11]のと同じ傾向があるといえる。
3.特許流通データベースに登録している個人発明家の特許発明の実施実績が高く、平
均実施率は21%であった。
4.特許流通データベースに登録している個人発明家の特許発明の許諾実績が非常に低
く、平均許諾率はわずか6%であった。
5.グループ1(「土木・建築分野」
)においては、比較的に多くの個人発明家が活動し
ており、実施率と許諾率がともに高く特許発明の商業化がうまくできているようである。
- 22 -
6.グループ2(
「生活・文化分野」、「電気・電子分野」、「輸送分野」や「その他の技
術分野」)においては、比較的に多くの個人発明家が活動しているにもかかわらず、実
施率と許諾率がともに低く特許発明の商業化がうまくできていないようである。
7.グループ3(
「食品・バイオ分野」、「化学・薬品分野」、「有機材料分野」や「無機
材料分野」)においては、比較的に尐数の個人発明家しか活動していないが、実施率と
許諾率がともに高く特許発明の商業化がうまくできているようである。
8.グループ4(「情報・通信分野」
)においては、比較的に尐数の個人発明家しか活動
していなく、実施率と許諾率がともに低く特許発明の商業化がうまくできていないよう
である。
第4章
4.1
4.1.1
アンケート調査分析
アンケート調査の目的および設計
アンケート調査の目的
特許流通データベースのデータを利用して、個人発明家の特許発明商業化の特徴があ
る程度わかった。しかしながら、個人発明家がどのような属性を持っているのか、発明
の権利化にどのように行動したのか、権利化した特許にどのような特徴があるのか、権
利化してから特許発明の商業化に着手するまでにどのように行動したのかが、特許流通
データベースのデータからではわからない。特許流通データベースに登録している個人
発明家を対象にアンケート調査を行うことによって、個人発明家の行動を知り、特許発
明商業化の阻害要因を探る。
4.1.2
アンケート調査の設計
特許発明商業化のプロセスを、発明しその成果を特許出願してまだ権利として登録さ
れていないフェーズ、出願特許が特許権として登録した後のフェーズ、特許発明を利用
しようとする商業化フェーズの3つのフェーズに分割した。特許発明商業化がうまくい
くかどうかは、特許発明の商業化フェーズだけではなく、その前の権利化フェーズなど
も非常に重要だと考え、特許発明商業化のプロセスを上記の3つのフェーズに分割した。
アンケートは個人発明家の属性を把握する基本質問に、この3つのフェーズに則して図
4-1のように設計した。
- 23 -
基本質問セッションで個人発明家の属性や特許発明商業化に利用するツールについ
て質問する。個人発明家が、どのように特許出願を行ったのか、特許取得するまでに企
業が特許ライセンスする際に重要視するファクター[12]を考慮して行動したか、特許
発明商業化のイメージを持っていたのかについてセッション2で質問する。セッション
3では、個人発明家が、特許が権利化されてから権利の評価をしたのか、企業が特許ラ
イセンスする際に重要視するファクター[12]を考慮して行動したかについて質問す
る。そしてセッション4では個人発明家が特許発明商業化に対する目的、姿勢等につい
て質問する。
アンケート調査の質問項目は、セッション1で5項目、セッション2で9項目、セッ
ション3で8項目、セッション4で5項目の計27項目で構成されている。またそのう
ち、定量的に処理するのは、問1-2、1-5、2-1、2-2、2-3、2-4、2
-6、2-7、3-1、3-2、3-4、3-5、3-7、3-8、4-1、4-2,
4-3の17項目で、残りの項目は定性的に処理する。
アンケート調査の対象者は、特許流通データベースに登録している個人発明家から抽
出した。そして抽出された個人発明家が保有する特許の特許公告を特許電子図書館から
検索し、特許公告に記載してある「発明者」と「出願人」が一致しているかどうかを確
認し、さらにアンケート調査の対象者の住所情報を入手した。
実際アンケート調査の対象者に送付した質問票は、研究付録にて掲載している。
- 24 -
4.2
アンケート調査対象者の特定方法
本研究の研究目的を満たすために、特許流通データベースに登録している個人発明家
の特徴を考慮してアンケート調査の対象者を図4-2に示されたプロセスで特定した。
特許流通データベースの「許諾実績」データが示す許諾実績のある特許権は64名の
個人発明家が保有するわずか77件しかなく貴重なデータと考え、許諾実績のある64
名の個人発明家をアンケート対象として特定した。しかしながら、特許電子図書館で特
許公告を検索するに当たって未備蓄のものや、「発明者」と「出願人」が異なるものが
見つかり、それらをアンケート調査の対象者から取り除いた。結果的にアンケート調査
の対象者として抽出できた許諾実績のある個人発明家は58名となった。
次に許諾実績のない特許権については、「技術分野集中度」とそれぞれの技術分野に
おける実施率・許諾率を用いてグルーピングした4つのグループから、特徴のある技術
分野を選択し、さらに選択した技術分野からアンケート調査の対象者を抽出しようとし
たが、グループ4の技術分野において個人発明家の活動や活躍があまりみられない特徴
を持つため、グループ4の技術分野を除外した。結果的に、グループ1から土木・建築
- 25 -
分野、グループ2から生活・文化分野、グループ3から食品・バイオ分野の計3分野を
選び、さらにそれぞれの技術分野から個人発明家を50名ずつ抽出してアンケート調査
の対象者とした。
4.3
アンケート調査の実施方法
【アンケート調査の実施期間】
2010年12月7日~2010年12月27日
【アンケート調査の対象者】
図4-2で示すアンケート調査対象者の特定プロセスにしたがって、208名の個人
発明家をアンケート調査の対象者として抽出した。その内訳は以下の通りである。
・許諾実績【有】
:58名
・許諾実績【無】:生活・文化分野50名、土木・建築分野50名、食品・バイオ分野
50名
【アンケート調査の実施手段】
アンケート調査の対象者に質問票を郵送し、そして回答も郵送で回収した、文面によ
るアンケート調査である。
4.4
4.4.1
アンケート調査結果
アンケートの回収結果
208名の対象者に質問票を書類にして送付したところ、17通が住所変更等のため
送付できなかった。その結果、191名の個人発明家に対して質問票が送付され、その
うち103名の個人発明家から返答をいただき、返答率が約54%であった。そのうち
1件だけを無効回答とみなした。
アンケート調査の各質問に対する回答の統計は、研究付録にて掲載している。
4.4.2
アンケート調査結果の考察~個人発明家の所属~
問1-1で個人発明家の所属について質問した。問1-1に対する回答の分布は図4
-3に示す。
- 26 -
図4-3から、回答していただいた個人発明家の32%が経営者、52%が所属なし
となっており、その二つのタイプで84%を占めていることがわかった。従業員100
人以上の企業、従業員100人以下の企業、大学、そして研究機関と回答した個人発明
家はそういった組織に雇用された被雇用研究者だといえる。したがって、問1-1の回
答結果に基づいて回答者を被雇用研究者、経営者、所属なしの3つのグループにグルー
ピングし、それぞれのグループに関する定量項目の回答の平均値の差異についてt検定
を行い、t検定を行った結果を表4-1に示す。
表4-1からわかるように、経営者グループと所属なしグループでは、問1-2およ
び問2-2において5%有意で平均に差があることが認められた。また被雇用研究者グ
ループと所属なしグループでは、問1-2および問1-5において5%有意で平均に差
があることが認められた。
- 27 -
表4-2は、経営者グループと所属なしグループで平均値の有効差異が認められた項
目のt検定結果を示している。表4-2から、所属なしグループと比べて、経営者グル
ープはより多くの特許発明の商業化に成功しており、中間処理の補正手続を自ら行うよ
りも特許事務所に依頼する傾向が強いといえる。
また表4-3は、被雇用研究者グループと所属なしグループで平均値の有効差異が認
められた項目のt検定結果を示している。表4-3から、所属なしグループと比べて、
被雇用研究者グループは、より多くの特許発明の商業化に成功しており、試験・生産設
備の面では恵まれている環境で研究活動に従事しているといえる。
以上のことから、組織等に所属していない個人発明家は、経営者としての個人発明家、
被雇用研究者としての個人発明家と比べて特許発明の商業化がうまくできていない状
- 28 -
況にある。また一般的に経営者や被雇用研究者は安定的に収入が得られるのに対し、組
織等に所属していない個人発明家にとっては金銭の制約が大きいと考えられる。中間処
理の補正手続を特許事務所に依頼することや、試験・生産設備の購入・維持にはどうし
てもコストがかかってしまう。組織等に所属していない個人発明家の特許発明商業化が
うまくできていないのは、そういった金銭の制約によるものだと考えられる。
4.4.3
アンケート調査結果の考察~特許発明の商業化経験~
問1-2では個人発明家の特許発明商業化経験について質問した。問1-2に対する
回答の分布は図4-4に示す。
図4-4から、特許発明商業化の経験がないと答えた個人発明家は51%を占めてい
ることがわかる。次に特許発明商業化の経験が1回あると答えた個人発明家は13%で、
残りの個人発明家は2回以上の特許発明商業化経験を持っている。
問1-2の回答結果に基づいて回答者を特許発明商業化経験がないグループ、経験が
1回あるグループ、複数回の経験があるグループの3つのグループにグルーピングでき
る。さらに特許発明商業化経験が1回あるグループと複数回あるグループを合併すれば
特許発明商業化経験があるグループとしてグルーピングできる。それぞれのグループに
関する定量項目の回答の平均値の差異についてt検定を行い、t検定を行った結果を表
4-4に示す。
- 29 -
表4-4からわかるように、特許発明商業化経験がないグループと経験が1回あるグ
ループでは、いずれの質問においても5%有意で平均に差があることが認められなかっ
た。特許発明商業化経験がないグループと複数回経験があるグループでは、問1-5、
問2-1、問2-2、問2-7および問4-2において5%有意で平均に差があること
が認められた。また特許発明商業化経験がないグループと経験があるグループでは、問
2-1、問2-2および問4-2において5%有意で平均に差があることが認められた。
表4-5は、特許発明商業化経験がないグループと複数回経験があるグループで平均
値の有効差異が認められた項目のt検定結果を示している。表4-5から、特許発明商
業化経験がないグループと比べて、複数回の特許発明商業化経験があるグループの個人
発明家は、試験・生産設備の面では恵まれている環境で研究活動に従事しており、特許
出願や中間処理において特許事務所に依頼する傾向が強く、特許発明の技術的難易度が
高く、商業化交渉においては相手の立場に立つ傾向がみられる。
- 30 -
また表4-6は、特許発明商業化経験がないグループと特許発明商業化経験があるグ
ループで平均値の有効差異が認められた項目のt検定結果を示している。表4-6から、
特許発明商業化経験がないグループと比べて、特許発明商業化経験があるグループは特
許出願や中間処理において特許事務所に依頼する傾向が強く、商業化交渉において交渉
相手のビジネスにもたらす利益をアピールして交渉する傾向がみられる。
- 31 -
以上のことから、特許出願や中間処理に関して特許事務所に依頼することと、商業化
交渉の際には交渉相手側の立場に立って思考し、交渉相手側のメリットを強く主張して
いることが特許発明商業化に成功している個人発明家に共通してみられる。特に特許発
明商業化に何度も成功している個人発明家は、試験・生産設備の面でも恵まれており、
特許発明の技術的難易度が高いことが特徴的である。特許出願や中間処理を特許事務所
に依頼することや試験・生産設備をそろえることは金銭的な制約を大きく受けるため簡
単にできないが、商業化交渉の際に交渉相手側の立場に立って思考し、交渉相手側のメ
リットを主張するようにすることによって、特許発明の商業化がうまくいくかもしれな
い。
4.4.4
アンケート調査結果の考察~有料データベース~
問1-3と問1-4では、有料特許情報検索データベースや有料市場調査データベー
スについて質問した。問1-3や問1-4に対する回答の分布は図4-5に示す。利用
の面からいうと、有料市場調査データベースよりも有料特許情報検索データベースのほ
うがより利用されている一方、需要の面からいうと、有料特許情報検索データベースよ
りも有料市場調査データベースのほうがより需要が高いことが、図4-5からわかる。
ここで、有料データベースの利用状況でアンケート調査の回答を以下の4つのグルー
プにグルーピングして、それぞれのグループに関する定量項目の回答の平均値の差異に
ついてt検定を行った。t検定を行った結果を表4-7に示す。
グループ1.有料特許情報検索データベースも有料市場調査データベースも利用してい
る
- 32 -
グループ2.有料特許情報検索データベースは利用しているが、有料市場調査データベ
ースを利用していない
グループ3.有料特許情報検索データベースは利用していないが、有料市場調査データ
ベースを利用している
グループ4.有料特許情報検索データベースも有料市場調査データベースも利用してい
ない
表4-7からわかるように、グループ1とグループ2では、問1-2、問2-1、問
2-2において5%有意で平均に差があることが認められた。グループ1とグループ3
では、問3-5において5%有意で平均に差があることが認められた。グループ1とグ
ループ4では、問1-2、問1-5、問2-2、問2-3において5%有意で平均に差
があることが認められた。さらにグループ2とグループ4では、問4-1において5%
有意で平均に差があることが認められた。
表4-8はグループ1とグループ2で平均値の有効差異が認められた項目のt検定
結果を示している。表4-8から、グループ2と比べて、グループ1は特許発明商業化
に成功しており、また特許出願や中間処理において特許事務所に依頼する傾向が強い特
徴がみられる。
- 33 -
表4-9はグループ1とグループ3で平均値の有効差異が認められた項目のt検定
結果を示している。表4-9から、グループ3と比べて、グループ1は特許発明が利用
できる市場についてより明確に分析している特徴がみられる。
表4-10はグループ1とグループ4で平均値の有効差異が認められた項目のt検
定結果を示している。表4-10から、グループ4と比べて、グループ1は特許発明商
業化に成功しており、試験・生産設備の面では恵まれている環境で研究活動に従事して
おり、中間処理においては特許事務所に依頼する傾向が強く、さらに特許発明が利用で
きる市場についてより明確に分析している特徴がみられる。
- 34 -
表4-11はグループ2とグループ4で平均値の有効差異が認められた項目のt検
定結果を示している。表4-11から、グループ4と比べて、グループ2は特許ライセ
ンスの種類や違いについての知識が豊富であることがみられる。
- 35 -
以上のことから、情報が比較的に多い有料のデータベースにアクセスできることが、
特許発明商業化の成功に寄与していることがわかった。特に有料市場調査データベース
にアクセスすることが重要で、有料市場調査データベースにアクセスすることによって
特許発明が利用できる市場の発見や観察が容易になる。さらに特許事務所の協力を得て
強い特許権を獲得できれば、特許発明商業化に成功しやすくなることがわかった。
一方、80%の回答は有料市場調査データベースを必要だと感じていることがわかっ
た。このことから、特許発明が利用できる市場の発見や観察が個人発明家の特許発明商
業化にとって重要かつ必要であるといえ、市場調査に関する支援策を講じるべきだと考
える。
4.4.5
アンケート調査結果の考察~特許発明商業化イメージ~
アンケート調査における問2-8および問2-9は、個人発明家が特許発明をどのよ
うに利用するかという特許発明商業化イメージに関する質問である。問2-8は複数回
答としたため、考えられうる回答の種類を用意して回答の分布を示す工夫をした。問2
-8や問2-9に対する回答の分布は図4-6に示す。
図4-6から、特許発明商業化のイメージは個人発明家によって様々で、明確なイメ
ージを持っている個人発明家のほうが多いことがわかる。1.2で述べた個人発明家の
モデル像を用いて、これらの個人発明家を分類することに試みた。アントレプレナーモ
デルを志向する個人発明家は特許発明を用いて自ら事業を展開するため、他社に真似さ
れるリスクを排除するためには特許発明を第三者にライセンス許諾・売却せずに自己実
- 36 -
施するだろう。一方ライセンサモデルを志向する個人発明家は特許発明の純粋使用では
なく、第三者にライセンス許諾あるいは売却して商業的に使用するだろう。アントレプ
レナーモデルもライセンサモデルも考えている個人発明家は一見様々な特許発明の活
用法を考えているようにみえるが、どっちのモデルで活用すべきかわからず、特許発明
商業化のイメージが明確になってないとも考えられる。以上のことをふまえて、問2-
8の回答より個人発明家を以下のグループにグルーピングすることができる。
グループA:アントレプレナーモデル(自己実施だけ考えている個人発明家)
グループB:ライセンサモデル(ライセンス許諾・譲渡売却をどちらかだけを考えてい
る個人発明家か、ライセンス許諾・譲渡売却という組み合わせを考えている個人発明家)
グループC:中間モデル(自己実施を考えていると同時に、ライセンス許諾・譲渡売却
も考えている個人発明家)
グループD:不明確モデル(特に特許発明商業化について考えなかった個人発明家)
個人発明家を上記の4つのグループにグルーピングしたあとの問2-8の回答分布
図は図4-7になる。図4-7からライセンサモデルを志向する個人発明家が多いこと
がわかる。
ここで、上記の4つのグループに個人発明家をグルーピングして、それぞれのグル
ープに関する定量項目の回答の平均値の差異についてt検定を行った。t検定を行った
結果を表4-12に示す。
- 37 -
表4-12からわかるように、グループAとグループBでは問2-1と問3-2にお
いて5%有意で平均に差があることが認められた。グループAとグループCでは、問1
-5や問2-1において5%有意で平均に差があることが認められた。グループAとグ
ループDでは、問2-3において5%有意で平均に差があることが認められた。グルー
プBとグループDでは、問2-4において5%有意で平均に差があることが認められた。
グループBとグループC、グループCとグループDでは、いずれの項目においても5%
有意で平均に差があることが認められなかった。
表4-13はグループAとグループBで平均値の有効差異が認められた項目のt検
定結果を示している。表4-13から、グループBと比べて、グループAは特許出願に
おいて特許事務所に依頼する傾向が強く、特許発明に対する代替技術をより認識してい
ることが確認できた。
- 38 -
表4-14はグループAとグループCで平均値の有効差異が認められた項目のt検
定結果を示している。表4-14から、グループCと比べて、グループAは試験・生産
設備の面では恵まれている環境で研究活動に従事しており、特許出願において特許事務
所に依頼する傾向が強いことが確認できた。
表4-15はグループAとグループDで平均値の有効差異が認められた項目のt検
定結果を示している。表4-15から、グループDと比べて、グループAは特許発明が
応用できる製品・用途をよりしっかり考慮していることが確認できた。
- 39 -
表4-16はグループBとグループDで平均値の有効差異が認められた項目のt検
定結果を示している。表4-16から、グループDと比べて、グループBは特許発明が
利用できる市場をより明確に理解していることが確認できた。
以上のことから、アントレプレナーモデルを志向する個人発明家は強い権利を獲得し
ようと特許出願は専門家である特許事務所に依頼することが多い。また、事業経営を行
う観点からいうと、特許発明が応用できる製品・用途についてしっかり考慮しているだ
けではなく、代替技術のこともしっかり認識していることが、アントレプレナーモデル
を志向する個人発明家の特徴であることがわかった。モデル像の違いによる特許発明商
業化実績の差は見られなかったが、アントレプレナーモデルを志向する個人発明家が最
も活発に活動していることがわかった。
4.4.6
アンケート調査結果の考察~特許発明のポイントとなる技術・
製品~
ライセンス契約実務においては、ライセンス契約の実績はライセンス契約対象となる
特許等のポイントとなる技術・製品によって変わる[12]。このことを考慮して、アン
ケート調査では特許発明のポイントとなる技術・製品について「特許ライセンス契約等
に関する実態調査」の結果に則して設問した。また個人発明家の特許発明のポイントの
認識を確認するために、セッション2とセッション3で同じ質問を設けた。このことに
関するアンケート調査の結果は図4-8のとおりである。
- 40 -
図4-8からわかるように、同じ内容の設問であるにもかかわらず問2-3と問3-
6に対する回答が異なる分布を示している。特に「製品全体」との回答が権利登録後で
大きく増えていることがわかる。また図4-8から、新機能・用途が個人発明家の特許
発明のポイントとなることが最も多く、部品が特許発明のポイントとなることが最も尐
ないことがわかった。しかしながら、企業間でのライセンス契約実務においては、特許
発明のポイントとなることが最も多いのが製品全体で、その次に部品が特許発明のポイ
ントなることが多い。一方、用途が特許発明のポイントとなることが最も尐ないことが
示されている[12]。
このことから、個人発明家の特許発明のポイントは、企業が特許ライセンスする際に
重視するポイントが乖離していることがわかる。個人発明家の特許発明が企業にとって
は魅力的でないことが個人発明家、特にライセンサモデルを志向する個人発明家の特許
発明商業化を阻害しているかもしれない。
第5章
特許流通データベースにおける分析およびアン
ケート調査結果の分析に対する考察
5.1
【仮説1】の検証
【仮説1】
日本においては、ライセンサモデルを志向する個人発明家が多い。
- 41 -
アンケート調査では、個人発明家の特許発明商業化に対するイメージの抽出を試みた。
4.5.5で説明したとおりに、アンケート調査に対する回答を基に個人発明家を4つ
のグループにグルーピングすることができた。ライセンサモデルにグルーピングされた
のは全回答者の54%に達したことから、日本においては、ライセンサモデルを志向す
る個人発明家が多いといえる。
しかしながら、特許流通データベースの分析では、個人発明家の自己実施実績が2
1%であるのに対し、ライセンス許諾実績が非常に低くわずか6%にとどまることがあ
きらかになった。またアンケート調査結果の分析からも、日本では経営者としての個人
発明家が最も活躍していることが説明できる。
以上のことから、日本においてはライセンサモデルを志向する個人発明家が多いかも
しれないが、アントレプレナーモデルを志向する個人発明家のほうがより活躍している
といえる。
5.2
【仮説2】の検証
【仮説2】
ヒト・モノ・カネ・情報が個人発明家の特許発明商業化に影響を与えている。
4.4.2で行った分析では、経営者としての個人発明家が特許発明の商業化で活躍
していることが確かめられ、経営者としての個人発明家の特徴の一つには、特許出願や
中間処理を専門家集団である特許事務所に依頼していることであった。
4.4.3で行った分析では、特許発明商業化の経験が多い個人発明家、つまり特許
発明商業化で成功を収めている個人発明家の特徴の中には、特許出願や中間処理を特許
事務所に依頼していることがあげられるとともに、試験・生産設備の面で恵まれている
環境で研究活動に従事していることがあげられた。
さらに4.4.4で行った分析から、特許発明商業化で成功するためには、有料市場
調査データベースへのアクセスが非常に重要であることも確かめられた。
以上のことから、個人発明家が特許発明商業化で成功するためには、市場に関する情
報が重要で、試験・生産設備の面で恵まれていることが必要であるとともに、強い特許
権を獲得するためには、専門家集団である特許事務所に特許出願や中間処理を依頼する
ことも重要だと考えられる。有料市場調査データベースにアクセスするにはもちろん、
- 42 -
試験生産設備の購入・維持、特許事務所に特許出願や中間処理を依頼するためにはお金
が必要になる。したがって、ヒト・モノ・カネ・情報といった4つの要素が個人発明家
の特許発明商業化において大きな影響を与えているといえる。
5.3
【仮説3】の検証
【仮説3】
特許発明の商業化のイメージを持つことが、特許発明の商業化において重要である。
問2-8や問2-9の回答を用いて、個人発明家が特許発明の商業化に取り組む際に
持っているイメージを整理し、個人発明家を4つのグループにグルーピングすることが
できた。4つのグループに属する個人発明家は、それぞれの特許発明の商業化のイメー
ジを持っているが、分析の結果から、どのグループも特許発明の商業化に対して優位性
があることが確認できなかった。つまり特許発明の商業化のイメージだけが、特許発明
の商業化につながらないといえる。したがって、【仮説3】は棄却され、特許発明の商
業化のイメージを持つことが、必ずしも特許発明の商業化において重要であるとは言え
ない。
第6章
6.1
結び
結論と提言
2010年11月12日に更新された特許流通データベースにおける分析から以下
のことがわかった。
1.個人としての登録者数が最も多いものの、一人当たりの登録権利数では圧倒的に尐
ない。
2.特許流通データベースに登録している個人発明家の特許発明の実施実績が高く、平
均実施率は21%であった。
3.特許流通データベースに登録している個人発明家の特許発明の許諾実績が非常に低
く、平均許諾率はわずか6%であった。
4.「土木・建築分野」においては、比較的に多くの個人発明家が活動しており、実施
- 43 -
率と許諾率がともに高く特許発明の商業化がうまくできているようである。
5.「生活・文化分野」
、
「電気・電子分野」や「輸送分野」においては、比較的に多く
の個人発明家が活動しているにもかかわらず、実施率と許諾率がともに低く特許発明の
商業化がうまくできていないようである。
6.「食品・バイオ分野」
、「化学・薬品分野」、「有機材料分野」や「無機材料分野」に
おいては、比較的に尐数の個人発明家しか活動していないが、実施率と許諾率がともに
高く特許発明の商業化がうまくできているようである。
7.「情報・通信分野」においては、比較的に尐数の個人発明家しか活動していなく、
実施率と許諾率がともに低く特許発明の商業化がうまくできていないようである。
また、アンケート調査の結果から以下のことがわかった。
1.個人発明家の所属・地位による特許発明商業化における差異
所属なし個人発明家と比べて、経営者発明家は、より多くの特許発明の商業化に成功
しており、中間処理の補正手続を自ら行うよりも特許事務所に依頼する傾向が強いとい
える。
所属なし個人発明家と比べて、被雇用研究者個人発明家は、より多くの特許発明の商
業化に成功しており、試験・生産設備の面では恵まれている環境で研究活動に従事して
いるようである。
以上のことから、組織等に所属していない個人発明家は、経営者としての個人発明家、
被雇用研究者としての個人発明家と比べて特許発明の商業化がうまくできていない状
況にある。また一般的に経営者や被雇用研究者は安定的に収入が得られるのに対し、組
織等に所属していない個人発明家にとっては金銭の制約が大きいと考えられる。中間処
理の補正手続を特許事務所に依頼することや、試験・生産設備の購入・維持にはどうし
てもコストがかかってしまう。組織等に所属していない個人発明家の特許発明商業化が
うまくできていないのは、そういった金銭の制約によるものだと考えられる。
2.特許発明商業化の経験における差異
特許発明商業化経験がない個人発明家と比べて、複数回の特許発明商業化経験がある
個人発明家は、試験・生産設備の面では恵まれている環境で研究活動に従事しており、
特許出願や中間処理において特許事務所に依頼する傾向が強く、特許発明の技術的難易
度が高く、商業化交渉においては相手の立場に立つ傾向がみられる。
特許発明商業化経験がない個人発明家と比べて、特許発明商業化経験がある個人発明
家は、特許出願や中間処理において特許事務所に依頼する傾向が強く、商業化交渉にお
いて交渉相手のビジネスにもたらす利益をアピールして交渉する傾向がみられる。
以上のことから、特許出願や中間処理に関して特許事務所に依頼することと、商業化
- 44 -
交渉の際には交渉相手側の立場に立って思考し、交渉相手側のメリットを強く主張して
いることが、特許発明商業化に成功している個人発明家に共通してみられる。特に特許
発明商業化に何度も成功している個人発明家は、試験・生産設備の面でも恵まれており、
また特許発明の技術的難易度が高いことが特徴的である。特許出願や中間処理を特許事
務所に依頼することや試験・生産設備をそろえることは金銭的な制約を大きく受けるた
め簡単にできないが、商業化交渉の際に交渉相手側の立場に立って思考し、交渉相手側
のメリットを主張するようにすることによって、特許発明の商業化がうまくいくかもし
れない。
3.有料データベース利用の有無における差異
有料特許情報検索データベースを利用している個人発明家と比べて、有料市場調査デ
ータベースと有料特許情報検索データベースの両方を利用している個人発明家は、特許
発明商業化に成功しており、また特許出願や中間処理において特許事務所に依頼する傾
向が強い特徴がみられる。
有料市場調査データベースのみを利用している個人発明家と比べて、有料市場調査デ
ータベースと有料特許情報検索データベースの両方を利用している個人発明家は、特許
発明が利用できる市場についてより明確に分析している特徴がみられる。
どの有料データベースも利用していない個人発明家と比べて、有料市場調査データベ
ースと有料特許情報検索データベースの両方を利用している個人発明家は、特許発明商
業化に成功しており、試験・生産設備の面では恵まれている環境で研究活動に従事して
おり、中間処理においては特許事務所に依頼する傾向が強く、さらに特許発明が利用で
きる市場についてより明確に分析している特徴がみられる。
どの有料データベースも利用していない個人発明家と比べて、有料特許情報検索デー
タベースを利用している個人発明家は、特許ライセンスの種類や違いについての知識が
豊富であることがみられる。
以上のことから、情報が比較的に多い有料のデータベースにアクセスできることが、
特許発明商業化の成功に寄与していることがわかった。特に有料市場調査データベース
にアクセスすることが重要で、有料市場調査データベースにアクセスすることによって
特許発明が利用できる市場の発見や観察が容易になる。さらに特許事務所の協力を得て
強い特許権を獲得できれば、特許発明商業化に成功しやすくなることがわかった。一方、
80%の回答は有料市場調査データベースを必要だと感じていることがわかった。この
ことから、特許発明が利用できる市場の発見や観察が個人発明家の特許発明商業化にと
って重要かつ必要であるといえ、今後、行政においても市場調査に関する支援策を講じ
るべきだと考える。
4.特許発明商業化イメージにおける差異
特許発明の許諾実施のみを考えている(ライセンサモデル)個人発明家と比べて、特
- 45 -
許発明の自己実施のみを考えている(アントレプレナーモデル)個人発明家は、特許出
願において特許事務所に依頼する傾向が強く、ビジネスで有効な安定した強い権利取得
の必要性を認識していると考えられる。また代替技術のこともしっかり認識しているこ
とがわかった。
特許発明の自己実施も許諾実施も両方考えている個人発明家と比べて、特許発明の自
己実施のみを考えている個人発明家は、試験・生産設備の面では恵まれている環境で研
究活動に従事しており、特許出願において特許事務所に依頼する傾向が強いことが確認
できた。
特許発明の実施方法について考えていなかった個人発明家と比べて、特許発明の自己
実施のみを考えている個人発明家は、特許発明が応用できる製品・用途をよりしっかり
考慮していることが確認できた。
特許発明の実施方法について考えていなかった個人発明家と比べて、特許発明の許諾
実施のみを考えている個人発明家は、特許発明が利用できる市場をより明確に理解して
いることが確認できた。
以上のことから、特許発明商業化イメージの違いについては、特許発明商業化の実績
にはそれほど寄与しないことがわかった。しかしながら、特許発明商業化イメージの違
いによって以下の差異が存在することがわかった。アントレプレナーモデルを志向する
個人発明家は、強い権利を獲得しようと考え、特許出願は専門家である特許事務所に依
頼することが多い。また、事業経営を行う観点からいうと、特許発明が応用できる製品・
用途についてしっかり考慮しているだけではなく、代替技術のこともしっかり認識して
いることが、アントレプレナーモデルを志向する個人発明家の特徴であることがわかっ
た。モデル像の違いによる特許発明商業化実績の差は見られなかったが、アントレプレ
ナーモデルを志向する個人発明家が最も活発に活動していることがわかった。
以上をまとめると、本研究より、日本における個人発明家の状況について以下のこと
があきらかになった。
・日本においては、ライセンサモデルを志向する個人発明家が多いが、特許流通データ
ベースのデータから、個人発明家のライセンス許諾率が非常に低いことがわかった。自
ら起業して商業化するためにたくさんの資金が必要でかつリスクが高いため、多くの個
人発明家がライセンサモデルを志向しているのではないかと考えられる。また企業に門
前払いされる個人発明家もいることから、個人発明家のライセンス許諾率が低い原因の
一つとしては、日本企業が個人発明家のことを軽んじることであり、個人発明家の特許
発明商業化をサポートするには、個人発明家が活動しやすい環境づくりが必要だと考え
られる。
- 46 -
・商業化交渉の際に交渉相手側の立場に立って思考し、交渉相手側のメリットを主張す
ることが、特許発明商業化によい影響を与えることがわかった。つまり、交渉相手のビ
ジネスと交渉相手が身を置く市場の状況について調査し、さらに保有特許発明が交渉相
手のビジネスにどのようなメリットをもたらすかを調査したうえで商業化交渉に臨む
べきだといえる。
・ヒト・モノ・カネ・情報といった4つの要素が個人発明家の特許発明商業化において
大きな影響を与えていることが本研究によって検証できた。その中でも、特許発明商業
化において特許発明がどのような市場に利用することができ、その市場にどのようなほ
かの技術が存在している等の情報が重要で、特に有料市場調査データベースへのアクセ
スの有無が個人発明家の特許発明商業化を大きく左右することが分かった。市場につい
て知ることで、客観的に発明がその市場にビジネス上利用できるかどうかを知ることが
できる。特に特許出願前に市場調査することが重要で、発明が生かせそうにないと判断
するならば、特許出願を見直すことができ、出費を抑えられる。
本研究の結果から、個人発明家に対しては、商業化交渉の際に交渉相手側の立場に立
って交渉相手側のメリットを主張すること、常に市場に関する情報を収集すること、発
明の権利化において知識が豊富である特許事務所に依頼することを提言したい。また、
政府および管轄官庁に対しては、個人発明家が活動しやすい環境を提供すること、個人
発明家に市場に関する情報の重要性を喚起すること、個人発明家の市場に関する情報へ
のアクセスを支援することを提言したい。
6.2
今後の研究課題
本研究は、特許流通データベースに登録している個人発明家だけを研究対象としてい
るため、本研究で得られた結果は日本におけるすべての個人発明家を説明することがで
きない。今後の研究課題としては、研究対象者をさらに広げることがあげられる。
また、特許発明の商業化には特許権を欠かせることができない。そのため、個人発明
家が保有する特許発明の具体的技術または法的手続きも研究対象データに取り入れる
ことが必要だと考えられ、今後の研究課題としてあげられる。
- 47 -
謝辞
本研究を進めるにあたり、研究テーマの設定から、研究のデザイン、アンケート調査
の質問項目の検討まで、多くの助言・激励をいただいた田中義敏教授に心から深く感謝
いたします。また、宮崎久美子教授、田辺孝二教授、佐伯とも子教授をはじめ、本研究
科の教員の方々に心から深く感謝いたします。
また、本研究のアンケートの実施にあたり、たくさんのコメントを添えてご協力いた
だいた個人発明家の皆様に心から深く感謝いたします。
さらに、本研究科を通してお世話になりました学生の方々、特に田中研究室のメンバ
ーに心から深く感謝いたします。
最後に、長年私の普段の生活を支援してくださった両親および妻の張霄に心から深く
感謝いたします。
- 48 -
参照文献
[ 1]
矢作恒雄・磯辺剛彦,「日本のベンチャー活動~Global Entrepreneurship
Monitor 2000~」,商工金融2001年5月,pp30-54(2001.5.20)
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http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/circumstances.html
[3] Nicholas Varchaver, 「The Patent King」
, Fortune(2001.5.7)
[4] GEM,「GEM 2009 Global Report」
(2010.1.14)
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事業(起業家精神に関する調査)報告書」
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長岡貞男,塚田尚稔,
「発明者から見た日本のイノベーション過程:RIETI 発明
者サーベイの結果概要」
,RIETI Discussion Paper Series 07-J-046(2007.12)
[9]
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かんする調査研究」
,科学技術政策研究所調査資料 No.73(2000.9)
[10]
独立行政法人工業所有権情報・研修館
http://www.ryutu.inpit.go.jp/index.html
[11]
和田哲夫,「個人のイノベーションとライセンス 」,科学技術政策研究所
DISCUSSION PAPER No.25(2002.11)
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,発明協会(編集),
「ライセンス契約実務ハンドブック」
(2
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馬場錬成,「なぜ出ない?日本の個人発明家(3)-個人発明家やベンチャー
を軽んじる日本企業」
,日経 BizPlus ビジネスコラム第23回(2003.08.28)
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ヘールト・ホフステード(著)
,岩井紀子(翻訳),岩井八郎(翻訳),「多文化
世界―違いを学び共存への道を探る」(1995.2)
- 49 -
研究付録
アンケート調査の各質問に対する回答
の統計
- 50 -
問1-1 所属について
問1-2 特許発明の商業化経験について
- 51 -
問1-3 技術情報の取得において、有料の特許情報検索データベースの利用および必
要性について
問1-4 市場情報の取得において、有料の市場調査データベースの利用および必要性
について
- 52 -
問1-5 特許発明を実施するための設備について
問2-1 特許出願における出願手続きについて
- 53 -
問2-2 中間処理における処理手続きについて
問2-3 特許発明が利用できる製品・用途について
- 54 -
問2-4 特許発明が利用できる市場について
問2-5 特許発明のポイントとなる技術・製品について
- 55 -
問2-6 市場における競合技術について
問2-7 特許発明の技術的難易度について
- 56 -
問2-8 特許発明をどのように利用するか考慮した
問2-9 問2-8で2または3と回答した方へ
- 57 -
問3-1 特許の安定性について
問3-2 代替技術の有無について
- 58 -
問3-3 技術の完成度・実現可能性
問3-4 特許発明が利用できる製品・用途について
- 59 -
問3-5 特許発明が利用できる市場について
問3-6 特許発明のポイントとなる技術・製品について
- 60 -
問3-7 市場における競合技術について
問3-8 特許発明の技術的難易度について
- 61 -
問4-1 ライセンスの種類・違いについて
問4-2 商業化交渉に対する姿勢について
- 62 -
問4-3 ライセンスの範囲・対価について
問4-4 ライセンスの目的について
- 63 -
問4-5 商業化における手続きについて
- 64 -
アンケート調査用紙
- 65 -
日本における個人発明家の特許発明商業化の現状および阻害要因に関する
研究調査へのご協力のお願い
様へ
平成 22 年 12 月 3 日
東京工業大学大学院イノベーションカネジメント研究科
技術経営専攻 修士課程 董佐夫
教授 田中義敏
拝啓、
時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
この度は、特許流通データベースに発明特許を登録しておられる個人発明家の方々のご意見を賜りた
く、ご連絡を差し上げた次第です。
我が国では年間 12,000 件の個人発明家の特許出願がなされています。これらの個人発明家の特許発明
の商業化が進展することにより、新たな製品を市場に提供し、消費者の便益向上に役立つものと確信し
ておりますが、個人であるが故の難しさも多く抱えており、皆様が日々ご苦労されていることもあるか
と考えております。
そこで、これらの商業化を困難にしている原因を究明するために、日本における個人発明家の特許発明
商業化の現状および阻害要因に関する研究調査を実施しております。特許流通データベースを基にして、
日本および他国で特許申請し権利化しておられる個人発明家の方々を対象に、特許発明をどのように利
用・商業化し、その過程でどのような障害があると感じておられるかをお伺いすることで、日本におけ
る個人発明家の特許発明の商業化の現状および阻害要因を明らかにしたいと考えております。また、個
人発明家の皆様が苦労されていることを社会に発信することにより、尐しでも個人発明家の皆様の力に
なれればと考えております。
本調査は、同封の質問表にて実施いたします。書簡式でご記入に 15 分程度必要です。お答えいただい
た内容は、すべて統計的に処理し、ご記入いただいた内容や個人情報の公表は一切行いません。
ご多忙の折大変恐縮でございますが、調査の趣旨をご理解の上でご協力を賜りますよう、何卒お願い
申し上げます。
敬具
平成 22 年 12 月 3 日
1
《アンケートの実施方法》
1. ご記入は、黒・青のボールペンまたは鉛筆でお願いします。
2. ご回答は、該当する項目にマル(○)の記入をお願いします。
3. ご記入いただいた調査票は、同封いたしました返信用封筒に封入していただき、12 月 27 日までにご
投函くださいますようお願いいたします。
4. 尚、アンケートのご回答には 15 分程度かかりますことを、何卒ご了承お願い申し上げます。ご不明
の点等がございましたら、以下に記載されている担当者までお問い合わせください。
アンケート調査結果の統計につきましては、ご協力をいただきました方々には、後日ご報告させてい
ただきますので、何卒ご協力のほど、お願い申し上げます。また、ご回答いただきました内容につきま
しては、すべて統計的に処理いたしますので、個人情報等が公表されることは一切ございません。
当研究室の「企業情報および個人情報」保護の取り組み
・ご企業および個人情報保護の取り組み
東京工業大学イノベーションカネジメント研究科(以下「当研究室」という。)は企業情報お
よび個人情報(以下企業・個人情報という。
)の保護に関する法令およびその他の規範を遵守
し、企業・個人情報を適正に取り扱います。
この調査において、
「企業・個人情報」とは、
「アンケート調査 質問・回答用紙」にご記入さ
れ、ご本人から提供された情報をいうものとします。
・企業・個人情報の取り扱い(利用目的、第三者提供)
当研究室が取得した企業・個人情報は、取得の際に明示した利用目的の範囲内において利用し
ます。
当研究室は、企業・個人情報の正確性および安全性の確保するとともに、企業・個人情報の漏
洩、減失または棄損を防止するため、必要かつ適正な情報セキュリティ対策に努めます。
当研究室は、法令に定める場合を除き、あらかじめ本人の同意を得ることなく、企業・個人情
報を第三者に提供しません。
当研究室は、取得・保有する企業・個人情報につきまして、本研究の調査範囲内で利用させて
いただきます。
・企業・個人情報の開示・訂正等の請求
当研究室は、取得・保有する企業・個人情報について、本人が開示、訂正、追加、利用停止、
削除、第三者提供の停止等を請求される場合は、法令に従って速やかに対応します。
担当者連絡先
東京工業大学大学院イノベーションカネジメント研究科 田中研究室
技術経営専攻 修士課程 董佐夫 [email protected]
電話:080-3101-8504
短期間でのご回答大変申し訳ございませんが、何卒ご協力のほど、宜しくお願い申し上げます。
2
《本アンケート調査の質問に関する補足説明》
本アンケート調査では、発明技術の権利化から商業化までの各プロセスに関して、個人発明家がどの
ように行動したかをお伺いします。ここでは、アンケート内容にあるいくつかの言葉の意味を以下のよ
うに定義させていただきます。お手数ですが、アンケートのご回答の際には、ご参照お願い申し上げま
す。
定義1 本調査の質問対象者となる「個人発明家」について次のように定義させていただきます。
特許情報に明記されている「発明者」と「出願人」の二項目で、同一人物の名義で登録されて
いる場合、つまり発明者自身が当該発明に関する特許の権利者として特許申請した者とさせて
いただきます。
定義2 本調査における「発明特許の商業化」について次のように定義させていただきます。
自ら所有する特許発明を他者にライセンス、あるいは売却・譲渡する行為とさせていただきま
す。
定義3 本調査における「ライセンスの種類」とは、次のことを指します。
ライセンスの種類とは、専用実施権、独占通常実施権、非独占通常実施権の 3 種類を指してお
ります。
3
アンケート調査
質問・回答用紙
基本質問
問1-1 所属について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 従業員 100 人以上の企業大学
2. 従業員 100 人未満の企業
3. 大学
4. 研究機関
5. 経営者
6. 所属なし
問1-2 特許発明の商業化経験について
該当する 1 項目を○で回答してください。
ない ・ 1 回 ・ 2 回 ・ 3 回 ・ 4 回 ・ 5 回 ・ それ以上
問1-3 技術情報の取得において、有料の特許情報検索データベースの利用および必要性について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 利用していて、必要だと思う
2. 利用していないが、必要だと思う
3. 利用しているが、必要ないと思う
4. 利用していないし、必要ないと思う
問1-4 市場情報の取得において、有料の市場調査データベースの利用および必要性について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 利用していて、必要だと思う
2. 利用していないが、必要だと思う
3. 利用しているが、必要ないと思う
4. 利用していないし、必要ないと思う
問1-5 特許発明を実施するための設備について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 試験および生産のための設備はある
2. 試験のための設備はあるが、生産のための設備はない
3. 試験のための設備はないが、生産のための設備はある
4. 試験および生産のための設備は両方ともない
特許が登録するまでのプロセスについて
問2-1 特許出願における出願手続きについて
4
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 特許事務所に出願業務を依頼した
2. 出願業務の知識がある友人に協力してもらった
3. 出願に必要な書類を自ら作成し、出願した
4. その他(
)
問2-2 中間処理における処理手続きについて
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 特許事務所に補正手続きを依頼した
2. 中間処理の知識がある友人に協力してもらった
3. 拒絶理由通知に対して、自ら補正書を作成し、対応した
4. 拒絶理由通知を受けたことがなかった
5. その他(
)
問2-3 特許発明が利用できる製品・用途について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 市場調査し、利用できる製品・用途が明確にわかった
2. 市場調査し、利用できるだろうと考えた
3. インターネットで情報収集し、利用できるだろうと考えた
4. 特に考えなかった
問2-4 特許発明が利用できる市場について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 市場が存在し、拡大傾向にあった
2. 市場が存在しているが、これから拡大しそうになかった
3. 未だ市場が存在せず、これからどうなるかはわからなかった
4. 特に考えなかった
問2-5 特許発明のポイントとなる技術・製品について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 製品全体
2. 部品
3. 製法
4. 製造工程
5. 新用途・機能
6. その他(
)
問2-6 市場における競合技術について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 競合技術はあるが、当特許発明が市場において主流であった
2. 競合技術はあるが、当特許発明と激しい市場争いをしていた
3. 競合技術はあり、競合技術が市場において主流な技術であった
4. 特に考えなかった
5
問2-7 特許発明の技術的難易度について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 特許発明の完成度が高く、真似されにくいと考えた
2. 特許発明の完成度が高くないが、真似されにくいと考えた
3. 特許発明の完成度が高いが、真似されやすいと考えた
4. 特許発明の完成度が高くなく、真似されやすいと考えた
5. 特に考えなかった
問2-8 特許発明をどのように利用するか考慮した。
該当する項目をすべて○で回答してください。
1. 特許発明を自己実施したいと考えた
2. 特許発明を他者にライセンスして実施料収入を得たいと考えた
3. 特許発明を他者に譲渡し、売却収入を得たいと考えた
4. 特に考えなかった
問2-9 問2-8で 2 または 3 と回答したかたへ
特許のライセンス・譲渡の相手について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 特定の企業へのライセンス・譲渡を考えた
2. 複数の特定企業へのライセンス・譲渡を考えた
3. 不特定多数の企業へのライセンス・譲渡を考えた
特許が登録してからのプロセスについて
問3-1 特許の安定性について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 新規性・進歩性を満たしており、無効にされるリスクがないと考えた
2. 新規性・進歩性を満たしているが、無効にされるリスクが低いが、あると考えた
3. 特許が登録したから、権利が安定しているだろうと考える
4. 特に考えなかった
問3-2 代替技術の有無について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 特許発明は独創的で、代替技術はなかった
2. 代替技術はあるが、特許発明の優位性が高かった
3. 代替技術はあり、代替技術の優位性が高かった
4. 特に考えなかった
問3-3 技術の完成度・実現可能性
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 特許発明の完成度が高く、当業者であれば実現可能だと考えた
2. 特許発明の完成度が高いが、当業者であっても実現が難しいと考えた
6
3. 特許発明の完成度が高くないが、当業者であれば実現可能だと考えた
4. 特許発明の完成度が高く、当業者であっても実現が難しいだと考えた
5. 特に考えなかった
問3-4 特許発明が利用できる製品・用途について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 市場調査し、利用できる製品・用途が明確にわかった
2. 市場調査し、利用できるだろうと考えた
3. インターネットで情報収集し、利用できるだろうと考えた
4. 特に考えなかった
問3-5 特許発明が利用できる市場について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 市場が存在し、拡大傾向にあった
2. 市場が存在しているが、これから拡大しそうになかった
3. 未だ市場が存在せず、これからどうなるかはわからなかった
4. 特に考えなかった
問3-6 特許発明のポイントとなる技術・製品について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 製品全体
2. 部品
3. 製法
4. 製造工程
5. 新用途・機能
6. その他(
)
問3-7 市場における競合技術について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 競合技術はあるが、当特許発明が市場において主流であった
2. 競合技術はあるが、当特許発明と激しい市場争いをしていた
3. 競合技術はあり、競合技術が市場において主流な技術であった
4. 特に考えなかった
問3-8 特許発明の難易度について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 特許発明の完成度が高く、真似されにくいと考えた
2. 特許発明の完成度が高くないが、真似されにくいと考えた
3. 特許発明の完成度が高いが、真似されやすいと考えた
4. 特許発明の完成度が高くなく、真似されやすいと考えた
5. 特に考えなかった
特許発明商業化のプロセスについて
7
問4-1 ライセンスの種類・違いについて
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. ライセンスの種類およびそれによる権利実施の違いを知っていた
2. ライセンスの種類は知っていたが、それによる権利実施の違いは詳しく知らなかった
3. ライセンスの種類は名称だけ知っていた
4. まったく知らなかった
問4-2 商業化交渉に対する姿勢について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 相手が権利侵害しているため、強気で交渉した
2. 当特許発明は価値が高いため、強くアピールして交渉した
3. 当特許発明が交渉相手のビジネスにもたらす利益をアピールして交渉した
4. 当特許発明を利用したい相手を特定できず、交渉が来るのを待っていた
問4-3 ライセンスの範囲・対価について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 自分が権利者だから、自分で決めた
2. 相手と交渉したが、自分が権利者だから主導的に交渉を進めた
3. 相手と交渉し、お互いが満足できるように交渉を進めた
4. ライセンスの相手にライセンスの範囲・対価を決められた
問4-4 ライセンスの目的について
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. ライセンス収益への期待
2. 相手企業との協力関係の維持・樹立
3. 紛争の和解
4. 研究開発費の早期回収、新規プロジェクトの資金源の確保
5. 自らの技術を世の中に送り出したい
6. その他(
)
問4-5 商業化における手続きについて
該当する 1 項目を○で回答してください。
1. 特許流通アドバイザーに依頼した
2. 特許発明商業化の知識・経験がある友人に協力してもらった
3. 全て自分で行った
4. 特許発明を商業化した経験がなかった
5. その他(
)
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本アンケートについてコメントがありましたらご記入ください。
アンケートは以上で終わりです。お忙しい中ご協力いただき、誠にありがとうございました。調査研
究の結果を E メールでお知らせいたしますので、よろしければお名前と連絡先をご記入いただきますよ
うお願いいたします。
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電話番号
E メールアドレス
ご協力、誠に感謝申し上げます
貴重な研究資料として利用させていただきます。
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