第3編 第1章 第1節 災害基本想定 火災想定 基本的考え方 水島臨海地区において貯蔵取扱量の多いものは原油と重油であるが,そのうち危険性が高く, か つ , 最 大 規 模 の 容 量 を も つ 10万 klの 原 油 タ ン ク の 火 災 を と り あ げ る こ と と す る 。 原油タンクはすべて浮屋根式タンクであり,火災に対して最も安全性が高く,万一発火しても 浮屋根周縁部のリング火災となり,消火も容易な構造となっている。しかしながら,もしタンク 内及び防油堤内が火災になった場合には,その及ぼす影響は非常に大きくなることを予想し,リ ング火災から全面火災までを想定する。 第2節 第1 災害の態様及び発展の経過 シール部分の火災 原油の浮屋根式タンクの場合,タンク内のベーパースペースがないため,火災の発生は少な い。しかし,仮に浮屋根周辺のシール材下部のわずかな空間で静電気又は落雷により着火した としても,火災感知と同時にシール部分に設けられたハロン自動消火設備が作動し,直ちに消 火する。 さらに,固定泡消火設備によりシール部分へ泡を流下する二重の消火設備となっている。 第2 タンク内全面火災 浮屋根式タンクの場合,浮屋根と側板との隙間に生ずる「リング火災」は考えられるが,タ ンクの上面全部が火災となることはほとんど考えられない。しかし,浮屋根が外部腐食や破壊 等 に よ り 穴 が あ い た と き , ま た は 特 殊 な 事 態 に よ り ル ー フ ド レ ン パ イ プ が つ ま り ,か つ ,エ マ ー ジェンシードレンが作動せず浮力が不足したときには,浮屋根が傾いたり,沈下したりするの で,その場合に何らかの着火源が存在して全面火災となることを想定する。 第3 タンクの防油堤内の火災 タンクの側板又は底板が破損し,或いは配管付属機器の故障,亀裂により原油が漏洩し,何 らかの火源により防油堤内で火災が発生した場合を想定する。 第4 タンク内と防油堤内の火災 タンク内の火災消火中にスロップオーバー又はボイルオーバーにより,防油堤内も火災にな った場合,又は防油堤内の火災による輻射熱と対流熱によりタンク内も火災になるという最悪 の場合を想定する。 〔タンクの構造等〕 〔防 油 形状 浮屋根式円筒タンク 寸法 直径 75m 高さ 容量 24m 10万 kl 通気管 6B×6個 堤〕 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 及 び 盛 土 防 油 堤 ( 高 さ 1.6m ) の 総 容 量 は 122,000m 3 で あ る 。 堤 内 に 溜まった水は,ヒューム管を埋設し,堤外に仕切弁を設けて排出する。さらに防油堤内に 各タンクごとに区分する中仕切堤を設けている。 〔防消火設備〕 - 25 - 水幕設備 延長距離 490m 3 高発泡設備 300m / 分 10基 第3種 固定泡消火設備 20基 第5種 粉 末 消 火 器 ( 8 kg) 2個 ハロン自動消火設備 冷却散水設備 〔消防水利〕 貯水槽 シール部分 16基 1式 タンクヤード全体 5,000m 3 1カ所 1,000m 3 1カ所 200m 3 2カ所 屋外給水施設 37基 泡消火栓 15基 消 火 専 用 ポ ン プ 10kg/ ㎝ 2 タンク周囲 750m 3 / h 1 台 500m 3 / h 3 台 第3節 被害予想 被 害 を 予 想 す る 場 合 , 露 出 人 体 に 対 す る 耐 熱 限 界 を , 2,050kcal/ ㎡ h と し , 木 造 建 物 の 耐 熱 限 界 を 4,200kcal/ ㎡ h と す る 。 第1 シール部分の火災 シール部分の場合,火炎の高さは最高約7m程度と考えられ,輻射熱は全面火災時の約1/ 30で あ り , タ ン ク 側 板 か ら 110m 地 点 で 約 80kcal/ ㎡ h , 50m 地 点 で も 約 120kcal/ ㎡ h と な る ので,消火活動には支障なく,住民避難の必要もない。 第2 タンク内全面火災 タ ン ク 内 全 面 火 災 の 場 合 , 輻 射 熱 は タ ン ク 側 板 か ら 約 130m 地 点 に お い て 露 出 人 体 に 対 す る 耐熱限界以上に達するのでこの距離内にある住民を避難させなければならない。なお,木造建 物の延焼危険はない。 第3 防油堤内火災 防 油 堤 内 の タ ン ク 中 仕 切 り 内 が 火 災 と な っ た と き の 輻 射 熱 は 防 油 堤 か ら 約 150m 地 点 に お い て露出人体の耐熱限界に達するので,この距離内にある住民を避難させなければならない。な お , 木 造 建 物 の 延 焼 危 険 は 防 油 堤 か ら 約 90m 以 内 と な る 。 第4 タンク内と防油堤内の火災 こ の 場 合 は , 防 油 堤 か ら 約 40m ま で の 受 熱 面 で は , 前 述 の 防 油 堤 内 の 火 災 で の 輻 射 受 熱 量 と な り , 約 40m を 越 え る 地 点 か ら は タ ン ク 火 災 の 火 炎 の 一 部 が 影 響 を 及 ぼ し 防 油 堤 内 火 災 の 輻 射 熱 に 加 算 さ れ る こ と と な り , タ ン ク 側 板 か ら 約 200m ( 防 油 堤 か ら 約 160m ) 以 内 は 避 難 を 必 要 と し , 木 造 建 物 の 延 焼 危 険 は 約 140m ( 防 油 堤 か ら 約 100m ) 以 内 と な る 。 な お , 水 幕 装 置 を 作 動 さ せ た 場 合 は , 境 界 付 近 で 輻 射 熱 4,000kcal/ ㎡ h 以 下 と な る 。 第4節 鎮圧防御の方法及び資機材等 以 下 各 火 災 と も 60分 間 で 消 火 す る も の と す る 。 第1 シール部分の火災 ハロン自動消火設備が作動しなかった場合,固定泡消火設備により消火する。この場合,泡 - 26 - 水 溶 液 8 l/ ㎡ ・ minの 割 合 で 30分 間 放 射 す る に 足 る 泡 消 火 薬 剤 は 5.6kl必 要 と な る 。 第2 タンク内の火災 浮屋根が落下するなどして全面液面火災になった場合は,化学車等による泡放射が必要とな り , 泡 水 溶 液 6.5 l/ ㎡ ・ minと し て , 60分 間 放 射 す る に 必 要 な 泡 消 火 薬 剤 は 52klと な る 。 その他隣接タンクの冷却が必要であり,火災タンクに面する側板の1/4の部分及び屋根面 の 1 / 2 を 冷 却 す る と し て , そ の 放 水 量 を 1 l/ ㎡ ・ minと す れ ば 218lを 要 す る 。 化 学 車 等 に つ い て は , 3 ,0 00l/ min 放 射 能 力 の も の で 10台 必 要 と な る 。 ま た , 泡 原 液 搬 送 車 は 4 kl積 載 と し て 途 中 1 回 補 充 す る も の と し て , 必 要 車 両 は 7 台 と な る 。 し か し , 薬 剤 補 充 の ための往復等を考慮すると別に他の補助運搬車両も必要となる。その他放射手段として輻射熱 のため接近不可能,或いは高所への放射等を考慮すると高所放水車・放射砲の配置も必要とな る。 第3 防油堤内の火災 防 油 堤 内 の 中 仕 切 1 区 画 内 の 火 災 を 想 定 し , こ の 火 面 に 対 し て は ,泡 水 溶 液 6.5 l/ ㎡ ・ min で 60分 間 放 射 す る こ と と し , 他 の 隣 接 中 仕 切 区 画 内 の 未 燃 部 分 へ は , 泡 厚 60cmの 高 発 泡 で 覆 う と す る と 必 要 泡 消 火 薬 剤 は 154klと な る 。 タンクの冷却については,火災区画内のタンクは屋根面と側面の全部を,未燃区画内のタン ク は 火 災 に 面 す る 屋 根 面 及 び 側 板 の 1 / 4 を 冷 却 す る 。こ の 冷 却 に 必 要 な 水 量 は 755klと な る 。 防 御 の 方 法 は , 火 災 区 画 に つ い て は 輻 射 熱 の 関 係 か ら 最 初 4,000 l/ minの 放 射 砲 6 台 及 び 大 型 化 学 車 1 台 を 配 置 し ,20分 間 放 射 す る 。そ の 後 は ,普 通 化 学 車 が 接 近 で き る こ と と な る の で , 2,000 l/ minの 普 通 化 学 車 28台 を 配 備 す る 。 未 然 区 画 に 対 し て は , 300m 3 / minの 高 発 泡 器 6 台 に よ り 泡 を 放 射 す る 。 第4 タンク内と防油堤内の火災 必 要 泡 消 火 薬 剤 は 前 述 の 第 2 と 第 3 の 両 方 を 合 計 し た も の と な り , 泡 消 火 薬 剤 206klを 必 要 とする。タンクの冷却は,隣接タンク2基の火災側1/4の側板部分及び屋根面の1/2を冷 却 す る こ と と し , そ の 水 量 は 435klと な る 。 防御のための火点接近方法としては,まず放射砲6台及び大型化学車1台を主力として防油 堤内を消火後タンクの消火にあたる。必要消防力は防油堤内の消火後タンクの消火にあたるた め第3と同じとなる。 第5 その他 1.消火用水の確保 タンク内火災及び防油堤内火災とも膨大な水量を必要とするため,消防艇による補水を行 うとともに放水落下点下流の水路を堰止めし,消防車による再使用を考慮する。 2.流出油防止 タンクヤードが海岸に近いため,油や消火に使用した泡等の混入した水が海上へ流出する おそれがある。このため,必要箇所に積土俵を行うとともに水島海上保安部及び災対協の協 力を得て,排水口周辺にはオイルフェンスを展張する。 第5節 第1 消防力集中の方法 タンク内全面火災 必 要 消 防 力 は , 泡 放 射 28,700 l/ minと 冷 却 水 3,633 l/ minで あ る 。 公 設 消 防 は 3 点 セ ッ ト ( 大 型 化 学 消 防 車 ,大 型 高 所 放 水 車 ,泡 原 液 搬 送 車 )1 組 ,モ ニ タ ー 車 2 台 ,大 型 化 学 車 1 台 , - 27 - 化 学 車 2 台 , 5,000 l型 送 水 車 1 台 及 び 普 通 消 防 車 6 台 で 送 水 , 泡 放 射 及 び 冷 却 注 水 に 当 る 。 防災協共同防災隊は2点セット(省力型大型化学高所放水車、泡原液搬送車)4組及び甲種化 学車3台が出動し,消火活動を行う。 泡原液搬送車は現有の6台(県1台,市1台,防災協共同防災隊4台)で対応する。 第2 防油堤内の火災 必 要 消 防 力 は , 泡 放 射 必 要 量 が 低 発 泡 82,000 l/ min, 高 発 泡 330m 3 / min, 冷 却 用 と し て 12,6 00 l/ mi nで あ る 。 公 設 消 防 は 3 点 セ ッ ト 1 組 , 大 型 化 学 車 1 台 , モ ニ タ ー 車 5 台 と 高 発 泡 器 2 台 及 び 化 学 車 4 台 , 5,000 l型 送 水 車 1 台 , 消 防 車 8 台 を 出 動 し , 泡 放 射 及 び 冷 却 注 水 に 当 る 。 防 災 協 は 共 同 防 災 隊 の 2 点 セ ッ ト 4 組 , 甲 種 化 学 車 3 台 , 加 盟 各 社 の 化 学 車 12台 を そ れぞれ出動させる。 その他相当量の水を必要とするので,水島海上保安部へ応援を求めその指揮下にある船艇及 び倉敷市の消防艇からモニター各車への送水にあてる。 以上の消防力を集中しても,なお不足する場合は,岡山市及び玉野市へ応援協定に基づく出 動を要請し,両市からそれぞれ化学車,消防車の応援を得る。 泡原液搬送車は現有の8台(県1台,市1台,防災協共同防災隊4台,加盟各社2台)を動 員 す る と と も に ,防 災 協 関 係 企 業 の タ ン ク ロ ー リ ー( 10,000 l )3 台 の 応 援 を 求 め ,ド ラ ム 缶 , ペール缶の泡消火薬剤搬送用として,公設消防の資機材車5台以上を動員する。その他,相当 数の化学車等を出動させるため,別に燃料補給及び資機材搬送車等を準備する。 第3 タンク内と防油堤内の火災 防御方法が防油堤内を消火後,タンク火災の消火にあたるため第2と同様となる。 - 28 -
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