【報 告】⑵ 古衣料の廃棄と再利用に関する横浜と サンフラシスコに暮らす人々の意識調査 佐野慶一郎 共同研究者:山﨑稔惠 1) 1) 、ゲイル・ボー 2)、木村照夫 3) 家庭から排出される古衣料の総量は、日本で約200万トン/年、米国で約300万トン/年 と試算されている。古衣料のうち分別回収され、再利用される量は、日本で約1割、米国 で約3割と見積もられている。しかし、大半の古衣料は、日本では焼却処分され、米国で は埋め立て処分されている。 日本と米国における古衣料の主な再利用の方法としては、①古着として新興国(アジア や南米諸国)や発展途上国(アフリカ諸国)に輸出、②反毛(開繊綿)・フェルトマット材 (車の防音材や椅子のクッション材)、③ウエス(産業用雑巾)等が挙げられる。しかし、 両国では、以前から古衣料の再生利用率が高まらないため、その対策が求められている。 古衣料の再利用率を高めるためには、さまざまな方策が考えられるが、先ず、都市に暮 らす人々が古衣料の再利用に関し、意識の向上が必要である。例えば、米国の本共同研究 者は、GAP やユニクロ等のファスト・ファッションの流行により、多くの人々が古衣料の 再利用を軽視する傾向にあると分析している。さらに、サンフランシスコの富裕層は、古 衣料を売却して金銭を得るよりも、慈善事業への寄付を望む人々が多いとも分析している。 横浜とサンフランシスコは、ベイエリアとして共通点が多く、且つ環境意識の高い都市 として知られている。本研究では、横浜市民を対象として、古衣料の廃棄と再利用に関す る実態と意識を様々な観点からアンケート調査し、米国の共同研究者から得られるサンフ ランシスコ市民の調査結果と比較分析した。ゲイル・ボー博士は「古着リサイクルに関す る消費者行動」 についてのアンケートを2009年からサンフランシスコ市民に実施し、146名 から回答を得ている。2012年度に同様のアンケートを横浜市民に行い、89名から回答を得 た。 アンケート結果により、横浜市民とサンフランシスコ市民との間に「繊維リサイクル」 に関する実態と意識の相違が明らかとなり、以下の結論に至った。 1)横浜市民の多くは、服の嗜好が流行やファスト・ファッションであるため、古いスタ イルの服を着用しない。サンフランシスコ市民の多くは、流行に影響されない本人の 1)関東学院大学 2)米国サンフランシスコ州立大学 特約教員、製品デザイン短期大学 (サンフランシスコ校) 特約教員、ピープル・ ウェア・サンフランシスコ 代表(古着リサイクル非営利団体) 3) 京都工芸繊維大学 教授、関東学院大学 人間環境研究所 客員研究院 ―59― 2012年度 図1 研究プロジェクト報告抜粋 新しい服の購入による古着の廃棄との関連性 図2 古着を慈善活動に寄付する認識と意思 嗜好を持つため、古いスタイルの服も着用する(図1)。横浜市民には、より環境に配 慮し、サンフランシスコと同じくオリジナル・テイストの服を使い続けるライフ・ス タイルの選択が必要である。 2)横浜市民の多くは、自ら古着を売るために行動する。横浜市民の少数は、古着を慈善 事業に寄付するために行動する。多くのサンフランシスコ市民は、古着を処分する方 法として、慈善事業のために古着を寄付し、古着が慈善団体で再び売られることを望 んでいる (図2) 。横浜で古着リサイクルを促進させるために、地域環境への古着の影 響についての認識(市と市民)や地域コミュニティ・サポートの向上が必要である。 3)現在、横浜市民の多くは古着の有効利用についてあまり関心がない。手持ち服の着用 を認識させるために、広報と政策のプロモーションは、必要である。 4)横浜市民の多くは、他人が着用した古着を嫌う。第二次世界大戦後、ぼろの古着を着 た市民の記憶が継承されている。今後、古着に対する好印象を変えるための施策が必 要である。 ―60―
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