041. 前提; 04.空間概念への転用が生み 出した音楽; バッハとウェーベルン 音楽構成特論 大学院2004年後期 中村滋延 音楽が音楽であるための作曲上の原則 • 「音楽とは時間的に組織された音と静 寂である」 – 組織されたということが分かるためには, 音がバラバラの状態(=つまり無秩序な状 態)であってはならない。 – 通常,音楽は秩序ある音の状態を指す。 041. 前提; 音楽が音楽であるための作曲上の原則 -続き1- 041. 前提; 音楽が音楽であるための作曲上の原則 -続き2- • 音の状態がバラバラでないためには, つまり秩序を感じさせるためには, • よく秩序付けられた音の状態とは, • 統一性を聴く者に感じさせなければな らない。 • それだけでは退屈になるので,そこに 変化(=多様性)が持ち込まなければ ならない。 統一性の中に, それを壊さない多様性が持ち込まれた 状態を指す。 – その統一性と多様性を保つために,いくつ かの作曲法上の原理が存在する。 042.狭義の音楽における 作曲上の原理 043.視覚化が作り出した 反復変奏の原理 • 反復変奏の原理 • 反復変奏の原理は耳だけで確認できる ものではない。 • 三部分形式的原理 • 音の方向性の原理(機能和声の原理) – これら3つの境界は実はあいまいで,相互 に関連しあっており,統一性と多様性をさ ぐるためにどの側面を強調するか,と言っ たようなことに過ぎない。 目の力を借りて反復変奏の原理を応用 していることが見て取れる。 – ここで,楽譜(音楽の視覚化)という観点 から,反復変奏の原理を応用して,音楽が 組み立てられている実際を分析する。 1 043.視覚化が作り出した反復変奏の原理 -続き1- 043.視覚化が作り出した反復変奏の原理 -続き2- • 分析素材はバッハのインベンション第 1番。 • モチーフの音高移置 • この曲は最初の1小節の前半に出てくる モチーフの徹底反復で統一が図られて いる。 • 多様性をもたらす変奏は,そのモチー フの音高移置と,そのモチーフの反転 形,拡大形でなされている。 043.視覚化が作り出した反復変奏の原理 -続き3- 043.視覚化が作り出した反復変奏の原理 -続き4- • 反転型 • 逆行型 原形 原形 反転形 逆行形 (音程度数を維持したまま,高低関係を逆する。) (前後関係を逆にする。) 043.視覚化が作り出した反復変奏の原理 -続き5- 043.視覚化が作り出した反復変奏の原理 -続き6- • 拡大型 • 縮小型 原形 拡大形 原形 縮小形 2 043.視覚化が作り出した反復変奏の原理 -続き7- • 音高移置は確かに耳で確かめることが 出来る。 • しかし,反転形・逆行形・拡大形など は,純粋に耳だけの作業ではなく, 音楽が楽譜に書き表されたことによる, 楽譜を通した(視覚化を通した)作業 の結果ではないだろうか。 043.視覚化が作りだした 音楽の典型例 – 視覚化が音楽構成と密接に関わりあってい ることは,西洋芸術音楽の伝統の中にしっ かり根付いているように思われる。 – それは,以降の授業でたびたび行う楽曲分 析によって知ることが出来るだろう。 • 多くの場合,楽曲分析は,楽譜を媒体 として,そこに書かれた音符を中心に, いわば目で秩序を発見・確認する作業 になるからである。 043.視覚化が作りだした音楽の典型例 -続き1- 043.視覚化が作りだした音楽の典型例 -続き2- • そうした視覚化と音楽構成の密接な関 係の典型例を20世紀の音楽からひとつ 提示する。 • Anton Webern アントン・ウェーベルン(Anton Webern, 1883-1945)の《ピアノのために変奏曲 (Variationen für Klavier)》op.27(1936) の第1楽章。 043.視覚化が作りだした音楽の典型例 -続き3- 043.視覚化が作りだした音楽の典型例 -続き4- • ウェーベルンは20世紀後半の前衛音楽 の出発点と目された作曲家である。 • 独自の音楽構成法を模索していたウェー ベルンのとったひとつの方法が,楽譜 上のシンメトリーである。 • 師シェーンベルクの12音技法を,さら にそれ独自の作曲様式に高めた作曲家 として知られている。 • 第二次大戦後の前衛音楽作曲家たちか らその音楽思想について高い評価を受 けた。 – 譜例を見れば,その関係は一目瞭然であろ う。 – この種の方法はアルバン・ベルク(Alban Berg,1885-1935)の《叙情組曲(Lyrische Suite)》(1926)の第3楽章にも見られる。 3 043.視覚化が作りだした音楽の典型例 -続き5- • 視覚上の秩序を音響上の秩序としてと らえる習慣がこの種の構成法をうみだ したのではないだろうか。 4
© Copyright 2024 Paperzz