タンパク質の溶液内酵素 タンパク質の溶液内酵素消化 溶液内酵素消化(質量分析用サンプル調製) 消化(質量分析用サンプル調製) 質量分析計によるタンパク質解析においては、一般的にタンパク質を還元・アルキル化した後にトリプ シン等で酵素消化して得られた消化ペプチドサンプルが用いられます。本資料ではこのサンプル調製に ついて、専用キットを用いて行う方法、各種試薬や酵素を用いて行う方法、また関連情報として、タン パク質の定量法についてご紹介しています。 内容 1 培養細胞の酵素消化(キット使用) 2 組織の酵素消化(キット使用) 3 酵素消化法(各種試薬や酵素を使用) 4 タンパク質定量 5 製品情報 1 培養細胞の酵素消化 培養細胞の酵素消化(キットを用いる方法) の酵素消化(キットを用いる方法) 哺乳類培養細胞については、Pierce Mass Spec Sample Prep Kit for Cultured Cells (84840) により還 元、アルキル化、Lys-C および Trypsin を用いた酵素消化を行うことができます。詳細はキットのイン ストラクションをご覧ください(インストラクションは www.piercenet.com にてご覧いただけます)。 2 組織の酵素消化(キットを用いる方法) 組織の酵素消化(キットを用いる方法) 組織サンプルについては、Pierce Mass Spec Sample Prep Kit for Cultured Cells (84840) を組織サン プル用の改変プロトコルにより用いることで、還元、アルキル化、Lys-C および Trypsin を用いた酵素 消化を行うことができます。 組織サンプル用のプロトコル改変内容(キットのインストラクションに対応)は下記の通りです(イン ストラクションは www.piercenet.com にてご覧いただけます)。 改変の場所: セクション B. Cell Lysis の 1 および 2 改変後の内容: 組織 10mg を 5 倍容量の lysis buffer 中でホモジナイズ処理します。 (この後は B. 3 に進みます) 3 酵素消化 酵素消化法 消化法(各試薬や酵素を用いる方法) キットを使わずに、各試薬や酵素を用いてタンパク質を還元、アルキル化、酵素消化(Lys-C およびト リプシン)を行う方法です。対象サンプルは一般的な方法で調製されたタンパク質溶液になりますが、 溶解しているバッファーの組成によっては適時バッファー交換が必要になります。 ・ サンプルはタンパク質が 50mM ammonium bicarbonate pH 8、または変性バッファー(8M Urea または 0.1% SDS を含む 50mM Tris pH 8)に溶解した溶液を前提にしています。還元剤や -SH 基 に反応する成分が含まれていると還元・アルキル化に影響することがありますので、沈殿・再溶解、 限外ろ過、ゲルろ過、透析などでバッファー交換してください。なお、Urea を含むバッファーでは、 加熱すると Urea が分解しタンパク質のカルバミル化が起こりますので、温度が(37℃以上に)上が らないように注意してください。 ・ トリプシンは、リジン(K)およびアルギニン(R)残基の C 端側のペプチド結合を切断します。た だし、これらアミノ酸の C 端側にプロリン残基がある場合や、複数のリジンやアルギニンが隣接し ている場合、切断がおきないことがあります。Lys-C はリジン残基の C 端側のペプチド結合を切断 します。Lys-C とトリプシンの両方を使うことで消化効率を高めます。 ・ トリプシンは pH 7-9 において活性を示し、pH 4 以下では活性が低くなります。トリプシン消化用 の一般的なバッファーとしては、50mM ammonium bicarbonate pH 8、50mM Tris pH 8、50mM triethylammonium bicarbonate (TEAB) pH 8.5 があります。 ・ トリプシンは、0.1% SDS、1M Urea、10% acetonitrile (ACN) に耐性があり、共存下に使用できま す。高濃度の塩(100mM 以上の NaCl など)はトリプシンの活性に影響する場合があります。 ・ Lys-C は pH 8-9.5 において活性を示し、消化用バッファーとして、一般的なトリプシン消化用のバ ッファーを用いることができます。 ・ Lys-C は、0.1% SDS、8M Urea、10% acetonitrile (ACN) に耐性があり、共存下に使用できます。 ・ アルキル化に用いる IAA (iodoacetamide)はシステイン (Cys) を修飾し質量が 57.02Da 大きくなり ます。データベース検索の際は Cys を Carbamidemethyl , Fix(Static)として考慮してください。 A 使用試薬 ・ DTT (20291, 20290) DTT 7.7mg を純水 100μL に溶解し、500mM DTT 溶液を調製します(用事調製)。 (20291 DTT, No-Weigh Format は DTT が 7.7mg ずつ小分け包装されており便利です) ・ IAA, Iodoacetamide Single-Use (90034) IAA 9.3 mg を純水 100μL に溶解し、0.5M IAA 溶液を調製します(用事調製) 。IAA は光に不安定の ためなるべく光にあてないようにしてください。 (90034 Iodoacetamide, Single-Use は IAA が 9.3mg ずつ小分け包装されており便利です) ・ Lys-C Endoproteinase, MS Grade (90051) Lys-C を純水に溶解し 1 mg/mL ストック溶液を調製します。 使用分ずつ分注して-80℃で保存します。 ・ Trypsin, MS Grade (90057, 90058, 90059) トリプシンを 50 mM 酢酸に溶解し 1 mg/mL ストック溶液を調製します。このストック溶液は-20℃ にて少なくとも1年は安定ですが、使用分ずつ分注して凍結融解の回数を抑え、また-80℃に保存する ことをおすすめします。 B 還元・アルキル化 1) タンパク質を 50mM ammonium bicarbonate pH 8、または変性バッファー(8M Urea または 0.1% SDS を含む 50mM Tris pH 8)に溶解します。 Note: ・ 還元・アルキル化の効率を高めるために変性バッファーの使用をおすすめします。Urea を用いる 場合は酵素消化の前に除去または 1M 以下の濃度に希釈する必要があります。Urea は加熱すると 分解しタンパク質のカルバミル化が進みますので、温度が(37℃以上に)上がらないように注意 してください。 ・ 他のバッファーを用いる場合、バッファーに還元剤や -SH 基に反応する成分が含まれていると還 元・アルキル化に影響することがあります。沈殿・再溶解、限外ろ過、ゲルろ過、透析などでバ ッファー交換してください。 ・ タンパク質溶液は濃度 0.2-1 mg/mL に調製します。 2) DTT 7.7mg を純水 100μL に溶解し、500mM DTT 溶液を調製します(用事調製)。 3) 500mM DTT 溶液をタンパク質サンプル溶液に終濃度 20mM(1:25 希釈)となるように加え混合し ます。 4) 60℃にて 1 時間、または 95℃にて 10 分間インキュベートし還元反応を行います。 5) IAA 9.3 mg を純水 100μL に溶解し、0.5M IAA 溶液を調製します(用事調製)。IAA は光に不安定 のためなるべく光にあてないようにしてください。 6) 0.5M IAA 溶液を還元反応後のタンパク質サンプル溶液に終濃度 40mM(1:12.5 希釈)となるように 加え混合します。 7) 室温にて 30 分間インキュベートしアルキル化反応を行います(遮光下)。 8) 500mM DTT 溶液を終濃度 10mM(1:50 希釈)となるように加え混合し、アルキル化反応を止めま す。 C 酵素消化 酵素消化 1) Lys-C を純水に溶解したストック溶液を、タンパク質サンプル溶液に総タンパク質重量に対して 1:100(1:20 から 1:100)の比率(w/w)で加え混合します。 Note: ・ タンパク質サンプル溶液が Urea を含む場合は 1M 以下の濃度に希釈して使用します。 ・ タンパク質サンプル溶液が SDS を含む場合は 0.1%以下の濃度に希釈して使用します。 ・ 希釈を行うとタンパク質濃度が低くなります。沈殿(アセトン沈殿など) ・再溶解によりタンパク 質濃度を下げずに Urea、SDS を除去することができます。沈殿・再溶解は Urea、SDS 以外の(酵 素消化や LC-MS 測定に影響する可能性のある)夾雑物除去にも効果がありますので、塩や界面 活性剤を含むサンプルの場合は酵素消化の前に行うことをおすすめします。沈殿させたタンパク 質サンプルは再溶解し難いことがありますが、多くの場合は酵素消化により溶解します。 ・ 界面活性剤の除去には Detergent Removal 製品を使用することもできます。タンパク質濃度が 100μg/mL 以上のサンプルには Pierce Detergent Removal Resin(87780)または Spin Column (87776, 87777, 87778, 87779)、タンパク質濃度が 1-100μg/mL のサンプルには HiPPR Detergent Removal Spin Column(88306)または Spin Column Kit(88305)をお使いくださ い。 2) 37℃にて 2-4 時間インキュベートします。 3) トリプシンを 50 mM 酢酸に溶解したストック溶液を、タンパク質サンプル溶液に総タンパク質重量 に対して 1:50(1:20 から 1:100)の比率(w/w)で加え混合します。 4) 37℃にて 4-24 時間インキュベートします。 Note: ・ インキュベート中に溶液が蒸発して漏れる可能性がありますので、フィルム等でシールすること をおすすめします。 5) サンプル溶液は-20℃にて保管します(酵素消化反応を止めます)。 Note: ・ 必要に応じて MS 測定の直前に C18 スピンカラム(89870, 89873)、チップ(87781, 87782, 87783, 87784)によりクリーンアップを行います。 4 タンパク質定量 サンプル溶液のタンパク質定量は、Pierce 660nm Protein Assay Kit (22662) を用いた 660nm 法、ま たは BCA Protein Assay Kit (23225, 23227) を用いた BCA 法などにより行うことができます。 ・ 660nm 法は独自の色素・金属複合体を用いることで、還元剤、界面活性剤、8M Urea などの共存下 で測定が可能で、BCA 法や Bradford 法よりも幅広いバッファー成分に対応した方法です。一方、 イオン性界面活性剤を含むサンプル溶液は影響を受けるため測定が困難ですが、IDCR (Ionic Detergent Compatibility Reagent, 22663) の添加で対応できる場合があります。 ・ BCA 法はタンパク質存在下で生じる銅イオン・キレート錯体の発色を利用した方法で、界面活性剤 や塩の影響を受けにくく、またタンパク質の種類(構成アミノ酸)による呈色強度の差が小さいため 定量精度が高い定量法です。一方、サンプル溶液に還元剤やキレート剤が含まれている場合は影響を 受けるため測定が困難です。還元剤存在下の測定は、BCA Protein Assay Kit - Reducing Agent Compatible (23250) または Microplate BCA Protein Assay Kit - Reducing Agent Compatible (23252) の使用により対応できる場合があります。 ・ 660nm 法と BCA 法の比較 定量法 測定波長 共存可能物質の例 測定阻害物質の例 タンパク質間の強度差 660nm 562 nm 界面活性剤 還元剤、キレート剤 BCA 660 nm 小 † 還元剤、界面活性剤 イオン性界面活性剤 大 † IDCR (Ionic Detergent Compatibility Reagent, 22663) の添加により利用可 ・ 660nm 法と BCA 法の主なバッファーに対する適合性 バッファー 定量法 Cell Lysis Buffer (84840 Pierce Mass Spec Sample Prep Kit for Cultured Cells) 660nm‡, BCA 50mM Ammonium bicarbonate pH 8 660nm, BCA 50mM Triethylammonium bicarbonate 660nm, BCA 8M Urea 660nm 0.1% SDS, 50mM Tris pH 8 660nm‡, BCA ‡ IDCR (Ionic Detergent Compatibility Reagent, 22663) の添加により利用可 ・ 詳細は各キットのインストラクションをご覧ください(インストラクションは www.piercenet.com にてご覧いただけます) 。 ・ 吸光度測定に NanoDrop を用いたタンパク質定量法については、NanoDrop 用タンパク質定量プロ トコルをご覧ください。 5 製品情報 製品コード 説明 包装 Pierce Mass Spec Sample Prep Kit for Cultured Cells 20-rxn kit 酵素消化キット 84840 還元・アルキル化 20291 DTT (Dithiothreitol), No-Weigh Format 48 x 7.7mg 20290 DTT (Dithiothreitol) 5g 90034 Iodoacetamide, Single-Use 24 x 9.3mg 90051 Lys-C Endoproteinase, MS Grade 20µg 90057 Trypsin Protease, MS Grade 5 x 20µg 90058 Trypsin Protease, MS Grade 5 x 100µg 90059 Trypsin Protease, MS Grade 1mg 消化酵素 界面活性剤除去(Detergent 界面活性剤除去(Detergent Removal) Removal) 87780 Detergent Removal Resin 10mL 87776 Detergent Removal Spin Column, 125µL 25 column 87777 Detergent Removal Spin Column, 0.5mL 25 column 87778 Detergent Removal Spin Column, 2mL 5 column 87779 Detergent Removal Spin Column, 4mL 5 column 88306 HiPPR Detergent Removal Spin Column, 0.1mL 24 column 88305 HiPPR Detergent Removal Spin Column Kit 5mL kit 89870 C18 Spin Column 25 column 89873 C18 Spin Column 50 column 87781 C18 Tip, 10µL bed 8 tip 87782 C18 Tip, 10µL bed 96 tip 87783 C18 Tip, 100µL bed 8 tip 87784 C18 Tip, 100µL bed 96 tip 22662 Pierce 660nm Protein Assay Kit 450mL Kit 22663 Ionic Detergent Compatibility Reagent 5x1g 23225 BCA Protein Assay Kit 1L Kit 23227 BCA Protein Assay Kit 500mL Kit 23250 BCA Protein Assay Kit - Reducing Agent Compatible 250mL Kit 23252 Microplate BCA Protein Assay Kit - Reducing Agent Compatible 250mL Kit クリーンアップ タンパク質定量 製品情報、インストラクションは弊社 web (www.piercenet.com) をご参照ください。 201401
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